JP2018051748A - 硬質皮膜被覆工具及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
前記切れ刃部における前記窒化チタンアルミニウム皮膜の最も薄い部分が(Tix1Aly1)Nz1(ただし、x1、y1及びz1はそれぞれ原子比であり、0.26≦x1≦0.4、0.1≦y1≦0.24、及びx1+y1+z1=1を満たす数字である。)で表されるTiリッチな組成を有し、
前記切れ刃部における前記窒化チタンアルミニウム皮膜の最も薄い部分からそれぞれ少なくとも1000μm離れた前記すくい面及び前記逃げ面の部分で、前記窒化チタンアルミニウム皮膜が(Tix2Aly2)Nz2(ただし、x2、y2及びz2はそれぞれ原子比であり、0.06≦x2≦0.23、0.25≦y2≦0.45、及びx2+y2+z2=1を満たす数字である。)で表されるAlリッチな組成を有することを特徴とする。
本発明の硬質皮膜被覆工具は、切れ刃部における窒化チタンアルミニウム皮膜の最も薄い部分が(Tix1Aly1)Nz1(ただし、x1、y1及びz1はそれぞれ原子比であり、0.26≦x1≦0.4、0.1≦y1≦0.24、及びx1+y1+z1=1を満たす数字である。)で表されるTiリッチな組成を有し、すくい面及び逃げ面における窒化チタンアルミニウム皮膜が、前記最も薄い部分からそれぞれ少なくとも1000μm離れた部分で(Tix2Aly2)Nz2(ただし、x2、y2及びz2はそれぞれ原子比であり、0.06≦x2≦0.23、0.25≦y2≦0.45、及びx2+y2+z2=1を満たす数字である。)で表されるAlリッチな組成を有することを特徴とする。
工具基体は化学蒸着法を適用できる高耐熱性の材質である必要があり、例えばWC基超硬合金、サーメット、高速度鋼、工具鋼、立方晶窒化ホウ素を主成分とする窒化ホウ素焼結体(cBN)若しくはサイアロンのようなセラミックス等が挙げられる。強度、硬度、耐摩耗性、靱性及び熱安定性の観点から、WC基超硬合金、サーメット及びセラミックスが好ましい。例えばWC基超硬合金の場合、焼結したままの未加工面にも窒化チタンアルミニウム皮膜を形成できるが、工具の寸法精度を高めるために加工面(研磨加工面及び刃先処理加工面)に形成するのが好ましい。
図3は本発明に使用するインサート基体の一例を示す斜視図である。図示の基体21はフライス切削用のインサート(基体SEE42TN-C9)であり、上面(基体すくい面)102’と、側面(基体逃げ面)103’と、それらの間の基体切れ刃部101’とを有する。基体切れ刃部101’は4つの基体コーナー切れ刃部101a’と4つの基体辺切れ刃部101b’とが全周にわたって交互に連結してなる。図示のインサート10は八角形平板状であり、側面103’は、各コーナー切れ刃部101a’に対応するコーナー側面部103a’と、各辺切れ刃部101b’に対応する辺側面部103b’とを有する。
本発明の硬質皮膜被覆工具における窒化チタンアルミニウム皮膜は、Ti、Al及びNを必須成分とする。窒化チタンアルミニウム皮膜は切れ刃部、すくい面及び逃げ面に形成されており、それぞれに形成されている窒化チタンアルミニウム皮膜領域を「切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域」、「すくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域」、及び「逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域」と呼ぶ。
(a) 組成
切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域は、(Tix1Aly1)Nz1(ただし、x1、y1及びz1はそれぞれ原子比で0.26≦x1≦0.4、0.1≦y1≦0.24、及びx1+y1+z1=1を満たす数字である。)の組成を有するTiリッチの窒化チタンアルミニウム皮膜である。Tiリッチであることにより耐欠損性(耐チッピング性)が向上する。前記組成範囲外では耐欠損性の向上効果が不十分である。x1の下限及び上限はそれぞれ0.28及び0.40であるのが好ましく、y1の下限及び上限はそれぞれ0.10及び0.22であるのが好ましい。さらに、高性能化の観点から、x1とx2との差は0.10以上であるのが好ましい。
切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域101Tiの最も薄い部分の膜厚t1は2〜13μmが好ましく、3〜11μmがさらに好ましい。膜厚t1が2μm未満であると、皮膜の被覆効果が十分に得られない。一方、膜厚t1が13μmを超えると、皮膜が厚くなり過ぎて皮膜内部にクラックが発生し、短寿命になるおそれがある。特に好ましい膜厚t1は4〜9μmである。切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域101Tiの膜厚は、成膜時間により適宜制御することができる。
切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域101Tiは柱状結晶組織を主体にするのが好ましい。また、後述のナノビーム回折(NAD)条件下で少なくともfcc構造を主体とする結晶構造とするのが好ましく、fccの単一構造であるのがさらに好ましい。
すくい面102及び逃げ面103のうち、Tiリッチな切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域101Tiに隣接する領域はそれぞれ、Tiリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Ti及びTiリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Tiである。図4(a) において、Tiリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Tiの幅W2及びTiリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Tiの幅W3はいずれも1000μm未満である。幅W2及びW3はいずれも800μm以下であるのが好ましく、600μm以下であるのがより好ましい。
Tiリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Ti、及びTiリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Tiの組成は、切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域101Tiに近いTiリッチな組成を有する。
Tiリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Ti、及びTiリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Tiの結晶組織は、柱状結晶組織を主体とするのが好ましく、実質的に柱状結晶組織のみからなるのがさらに好ましい。
Tiリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Ti、及びTiリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Tiの結晶構造は、後述のナノビーム回折(NAD)条件下で少なくともfcc構造を主体とする結晶構造とするのが好ましく、fccの単一構造であるのがさらに好ましい。
Tiリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Tiの内側、及びTiリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Tiの下方に、それぞれAlリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Al及びAlリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Alがある。Tiリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Tiの幅W2及びTiリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Tiの幅W3はいずれも1000μm未満であるので、切れ刃部101における窒化チタンアルミニウム皮膜23の最も薄い部分からすくい面102側及び逃げ面103側に少なくとも1000μm離れた部分で、Alリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Al及びAlリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Alの組成を測定する。
Alリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Al及びAlリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Alはいずれも、切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域101Tiの最も薄い部分からそれぞれ少なくとも1000μm離れた位置で、(Tix2Aly2)Nz2(ただし、x2、y2及びz2はそれぞれ原子比で0.06≦x2≦0.23、0.25≦y2≦0.45、及びx2+y2+z2=1を満たす数字である。)の組成を有する。Alリッチであることにより、耐熱性(耐酸化性)が向上する。前記組成範囲外では耐熱性が不十分である。x2の下限及び上限は0.08及び0.22であるのが好ましく、y2の下限及び上限は0.26及び0.43であるのが好ましい。さらに、高性能化の観点から、y2とy1との差は0.10以上であるのが好ましい。
すくい面及び逃げ面において優れた耐熱性を有するために、図4(b) において、Alリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Alの位置P2における膜厚t2、及びAlリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Alの位置P3における膜厚t3はそれぞれ5〜15μmであるのが好ましく、6〜12μmであるのがより好ましい。膜厚t2,t3がそれぞれ5μm未満では皮膜の被覆効果が十分に得られない。膜厚t2,t3がそれぞれ15μmを超えると皮膜が厚くなり過ぎて皮膜内部にクラックが発生するおそれがある。膜厚t2は以下の方法により測定する。膜厚t1の測定に使用したのと同じ2試料においてそれぞれ、すくい面102上の位置P2の縦破断面115[図4(b)]におけるSEM写真を撮影する。図6(b) は同一実施例の1個目の試料における膜厚t2の測定位置を示すSEM写真(倍率5,000倍)である。2個目の試料の膜厚t2も前記と同様に測定し、測定値の平均値を膜厚t2とする。膜厚t3も膜厚t2と同様の方法で位置P3において測定する。
切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域101Tiの最も薄い部分の膜厚t1と、Alリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Alの位置P2における膜厚t2及びAlリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Alの位置P3における膜厚t3との膜厚比t1/t2及びt1/t3はいずれも、0.35〜0.85であるのが好ましい。膜厚比t1/t2及びt1/t3がいずれも0.35未満では皮膜の被覆効果が十分得られない。膜厚比t1/t2及びt1/t3がいずれも0.85を超えると皮膜が厚くなりすぎて皮膜内部にクラックが発生し、短寿命になる。
Alリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域102Al、及びAlリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域103Alはいずれも柱状結晶組織を有するのが好ましい。また、後述のナノビーム回折(NAD)条件下で少なくともfcc構造を主体とする結晶構造とするのが好ましく、fccの単一構造であるのがさらに好ましい。
特に限定されないが、長寿命化の観点から、基体21と窒化チタンアルミニウム皮膜23との間に下地層22として、Ti(CN)皮膜、TiN皮膜、及びTiZr(CN)皮膜のうちの少なくとも一種の皮膜を化学蒸着法により設けるのが好ましい。下地層22として、TiN皮膜が特に好ましい。下地層22の膜厚は0.05〜0.1μm程度であるのが好ましい。
限定的でないが、窒化チタンアルミニウム皮膜23の上に、Ti、Al、Cr、B及びZrからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素と、C、N及びOからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とを必須とする単層又は多層の硬質皮膜を化学蒸着法により形成しても良い。上層としては、例えばTiC、CrC、SiC、VC、ZrC、TiN、TiAlN、CrN、Si3N4、VN、ZrN、Ti(CN)、(TiSi)N、(TiB)N、TiZrN、TiAl(CN)、TiSi(CN)、TiCr(CN)、TiZr(CN)、Ti(CNO)、TiAl(CNO)、Ti(CO)及びTiB2等の単層又は積層(例えば2〜50層)の皮膜が挙げられる。
本発明の硬質皮膜被覆工具は、熱化学蒸着装置又はプラズマ支援化学蒸着装置(CVD炉)を用いた化学蒸着法により形成することができる。図8に示すように、化学蒸着装置(CVD炉)1は、チャンバー2と、チャンバー2の壁内に設けられたヒータ3と、複数の棚4,4と、棚4,4を覆う反応容器5と、棚4,4の間に設けられた複数の仕切り板6,6と、棚4,4の中央開口部40を垂直に貫通する第一及び第二のパイプ11,12とを具備し、各パイプ11,12には複数のノズル11a,12aが設けられており、反応容器5には複数の排出孔5aが設けられている。第一のパイプ11と第二のパイプ12は、一体的に回転し得るようにチャンバー2の底部を貫通し、回転自在に外部の配管(図示せず)に接続されている。チャンバー2の底部には、第一及び第二のパイプ11,12から噴出した原料ガスのうちのキャリアガス及び未反応ガスを排出するためのパイプ13を有する。
本発明の硬質皮膜被覆工具を、熱化学蒸着法を用いる場合を例にとって、以下詳細に説明するが、勿論本発明はそれに限定されず、他の化学蒸着法にも適用できる。
下地層としてTiN皮膜を用いる場合、基体をセットしたCVD炉1内にH2ガスと、必要に応じてN2ガス及び/又はArガスを流し、成膜温度まで昇温した後、TiCl4ガス、N2ガス及びH2ガスからなる原料ガスをCVD炉1内に流し、下地層のTiN皮膜を形成する。
(1) 原料ガス
fccの単一構造を有する窒化チタンアルミニウム皮膜を形成する原料ガスは、TiCl4ガス、AlCl3ガス、NH3ガス、N2ガス及びH2ガスの合計を100体積%として、0.1〜0.8体積%のTiCl4ガス、0.4〜1.2体積%のAlCl3ガス、4.0〜23.5体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなるとともに、AlCl3ガスに対するTiCl4ガスの体積比(TiCl4/AlCl3)が0.3〜0.7である混合ガスAと、0.7〜1.9体積%のNH3ガス、3〜16.5体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなる混合ガスBとからなる。原料ガスA、Bにおいて、キャリアガスであるH2ガスの一部をArガスで代替しても良い。混合ガスAの組成は0.2〜0.7体積%のTiCl4ガス、0.5〜1.1体積%のAlCl3ガス、4.3〜23.2体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなるのが好ましく、AlCl3ガスに対するTiCl4ガスの体積比(TiCl4/AlCl3)が0.3〜0.6であるのが好ましい。混合ガスAの組成は0.2〜0.6体積%のTiCl4ガス、0.5〜1.0体積%のAlCl3ガス、5〜22体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなるのがさらに好ましい。混合ガスBの組成は0.7〜1.8体積%のNH3ガス、4〜16体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなるのが好ましい。
TiCl4ガスが0.1体積%未満であると、窒化チタンアルミニウム皮膜のAl含有量が過多となり、耐摩耗性、耐欠損性が低下する。一方、TiCl4ガスが0.8体積%を超えると、窒化チタンアルミニウム皮膜のTi含有量が過多となり、耐酸化性、耐熱性が低下する。TiCl4ガスの含有量は0.2〜0.7体積%が好ましい。
NH3ガスが0.7体積%未満及び1.9体積%超のいずれでも、原料ガスの反応速度が変わり、本発明における切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域、すくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域、及び逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域が得られない。NH3ガスの含有量は0.7〜1.8体積%が好ましい。
切れ刃部と、すくい面及び逃げ面とで組成の異なる窒化チタンアルミニウム皮膜を成膜するために、反応性の高い混合ガスA及び混合ガスBをCVD炉1に非接触の状態で送入しなければならない。そのために、混合ガスAを第一のパイプ11の第一のノズル11aから噴出し、混合ガスBを第二のパイプ12の第二のノズル12aから噴出しても良く、混合ガスAを第二のパイプ12の第二のノズル12aから噴出し、混合ガスBを第一のパイプ11の第二のノズル11aから噴出しても良い。
図9に示すパイプ集合体の一例(第一のパイプ集合体30)は、2本の第一のパイプ11,11及び1本の第二のパイプ12からなり、第一及び第二のパイプ11,11,12の両端部は保持部材(図示省略)により一体的に固定されている。
図10は混合ガスA及び混合ガスBをCVD炉1内に非接触の状態で導入するパイプ集合体の別の例(第二のパイプ集合体33)を示す。このパイプ集合体33は1本の第一のパイプ11及び1本の第二のパイプ12からなり、第一及び第二のパイプ11,12の両端部は保持部材(図示省略)により一体的に固定されている。第一のパイプ11は1列の第一のノズル11aを有し、第二のパイプ12も縦方向1列の第二のノズル12aを有する。
図11は混合ガスA及び混合ガスBをCVD炉1内に非接触の状態で導入するパイプ集合体のさらに別の例(第三のパイプ集合体36)を示す。このパイプ集合体36は4本の第一のパイプ11,11,11,11及び1本の第二のパイプ12からなり、第一及び第二のパイプ11,11,11,11,12の両端部は保持部材(図示省略)により一体的に固定されている。各第一のパイプ11は縦方向1列の第一のノズル11aを有し、第二のパイプ12は直交する直径方向(180°)に配置された縦方向二対の列の第二のノズル12a,12a,12a,12aを有する。全ての第一のパイプ11,11,11,11の第一のノズル11a,11a,11a,11aは外方を向いている。
窒化チタンアルミニウム皮膜の成膜温度は750〜830℃が好ましく、780〜820℃がより好ましい。成膜温度が750℃未満では、窒化チタンアルミニウム皮膜の塩素含有量が多くなり、皮膜硬さが低下する。一方、成膜温度が830℃を超えると、反応が促進されすぎて粒状結晶組織となり、耐酸化性、耐熱性に劣る。成膜温度は、図8に示すCVD炉1における反応容器5の近接位置に熱電対(図示省略)を設け、成膜中の炉体温度を測定することにより求める。
窒化チタンアルミニウム皮膜の成膜圧力は3〜6 kPaが好ましい。成膜圧力が3kPa未満では本発明における切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域、すくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域、及び逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域が得られない。一方、成膜圧力が6kPaを超えると、窒化チタンアルミニウム皮膜が粒状結晶組織となり、耐酸化性、耐熱性に劣る。
図12にCVD炉1内の各基体10周辺の原料ガスを流れやすくする目的で作製した棚4の一例を示す。棚4上に裁置された各基体10の各辺の近傍に2つの貫通孔4aが設けられている。図12中の矢印は第一のパイプ集合体30の回転方向を示す。
特に限定されないが、上記窒化チタンアルミニウム皮膜上に公知の化学蒸着法により上層を形成することができる。成膜温度は700〜830℃で良い。上層を形成するのに用いる原料ガスの例は下記の通りである。
1. TiC皮膜 TiCl4ガス、CH4ガス及びH2ガス。
2. CrC皮膜 CrCl3ガス、CH4ガス及びH2ガス。
3. SiC皮膜 SiCl4ガス、CH4ガス及びH2ガス。
4. VC皮膜 VClガス、CH4ガス及びH2ガス。
5. ZrC皮膜 ZrCl4ガス、CH4ガス及びHガス。
6. TiN皮膜 TiCl4ガス、N2ガス及びH2ガス。
7. AlN皮膜 AlCl3ガス、NH4ガス及びH2ガス。
8. CrN皮膜 CrCl3ガス、NH4ガス及びH2ガス。
9. Si3N4皮膜 SiCl4ガス、NH4ガス及びH2ガス。
10. VN皮膜 VCl3ガス、NH4ガス及びH2ガス。
11. ZrN皮膜 ZrCl4ガス、N2ガス及びH2ガス。
12. Ti(CN)皮膜 TiCl4ガス、CH4ガス、N2ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、CH3CNガス、N2ガス及びH2ガス。
13. (TiSi)N皮膜 TiCl4ガス、SiCl4ガス、N2ガス及びNH3ガス。
14. (TiB)N皮膜 TiCl4ガス、N2ガス及びBCl3ガス。
15. TiZr(CN)皮膜 TiCl4ガス、ZrCl4ガス、N2ガス、CH4ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、ZrCl4ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガス。
16. TiAl(CN)皮膜 TiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス、CH4ガス、NH3ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガス。
17. TiSi(CN)皮膜 TiCl4ガス、SiCl4ガス、N2ガス、CH4ガス、NH3ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、SiCl4ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガス。
18. TiCr(CN)皮膜 TiCl4ガス、CrCl3ガス、N2ガス、CH4ガス、NH3ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、CrCl3ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガス。
19. TiV(CN)皮膜 TiCl4ガス、VCl3ガス、N2ガス、CH4ガス、NH3ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、VCl3ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガス。
20. TiZr(CN)皮膜 TiCl4ガス、ZrCl3ガス、N2ガス、CH4ガス、NH3ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、ZrCl4ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガス。
21. Ti(CNO)皮膜 TiCl4ガス、N2ガス、CH4ガス、COガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、N2ガス、CH3CNガス、COガス及びH2ガス。
22. TiAl(CNO)皮膜 TiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス、CH4ガス、COガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス、CH3CNガス、COガス及びH2ガス。
23. Ti(CO)皮膜 TiCl4ガス、N2ガス、CH4ガス、COガス、CO2ガス及びH2ガス。
24. TiB2皮膜 TiCl4ガス、BCl3ガス、H2ガス。
基体上に形成した窒化チタンアルミニウム皮膜は、ブラシ、バフ又はブラスト等による処理により平滑化され、耐チッピング性に優れた表面状態になる。特にアルミナ、ジルコニア、シリカ等のセラミックスの粉末を投射材として用い、湿式又は乾式のブラスト法により硬質皮膜の刃先を処理すると、硬質皮膜の表面が平滑化され、耐チッピング性が向上する。
少なくとも切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域の組成がTiリッチとなり、切れ刃部に隣接してTiリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域及びTiリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域が形成され、さらにAlリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域及びAlリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域が形成されるメカニズムは、必ずしも明確ではないが以下のように考えられる。即ち、混合ガスA中のTiCl4ガス及びAlCl3ガスは、混合ガスB中のNH3ガスと非常に反応性が高く、CVD炉内に導入されると急激に反応する。
(1) 下地層の形成
図3に概略的に示すWC基超硬合金(11.5質量%のCo、2.0質量%のTaC、0.7質量%のCrC、残部WC及び不可避的不純物からなる。)製のミーリング用インサート基体(SEE42EN-C9)と、WC基超硬合金(7質量%のCo、0.6質量%のCrC、2.2質量%のZrC、3.3質量%のTaC、0.2質量%のNbC、残部WC及び不可避的不純物からなる。)製の物性評価用インサート基体(SNMN120408)とを、図8に示すCVD炉1内にセットし、H2ガスを流しながらCVD炉1内の温度を900℃に上昇させた後、900℃及び12 kPaで、82.0体積%のH2ガス、18.5体積%のN2ガス、及び1.5体積%のTiCl4ガスからなる原料ガスを45 L/分の流量でCVD炉1に流し、化学蒸着法により厚さ0.3μmの窒化チタン層(下地層)を形成した。
下地層の形成後、CVD炉1内の温度及び圧力を800℃及び4 kPaに保持したまま、2 rpmの速度で回転する図9に示すパイプ集合体30を用いて、CVD炉1に、第一のパイプ11,11の第一のノズル11a,11aから0.33体積%のTiCl4ガス、0.72体積%のAlCl3ガス、43.02体積%のH2ガス、及び15.37体積%のN2ガスからなる混合ガスAを導入し、第二のパイプ12の第二のノズル12a,12aから1.38体積%のNH3ガス、31.50体積%のH2ガス、及び7.68体積%のN2ガスからなる混合ガスBを導入した。混合ガスA及びBの合計流量は65 L/分であった。このようにして、化学蒸着法により窒化チタンアルミニウム皮膜を形成した本発明の硬質皮膜被覆工具(インサート)を作製した。硬質皮膜被覆工具の切れ刃部101の幅Wは90μmであった。形成された窒化チタンアルミニウム皮膜のうち、切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域の位置P1における組成はTi0.32Al0.16N0.52(原子比)であり、すくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域の位置P2における組成はTi0.16Al0.35N0.49(原子比)であり、逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域の位置P3における組成はTi0.17Al0.33N0.50(原子比)であった。窒化チタンアルミニウム皮膜の原料ガス組成を表1(a) に示し、成膜条件を表1(b) に示す。
実施例1のインサート(物性評価用インサート試料)を2つ作製し、各試料について切れ刃部101の縦断面を示す図6(b) のSEM写真(倍率5,000倍)から、切れ刃部101における窒化チタンアルミニウム皮膜23(切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域)の最も薄い部分(位置P1)の膜厚を測定した。2つの試料における位置P1における膜厚の測定値を平均し、膜厚t1とした。
図6(b) 及び図6(c) から、すくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域及び逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域はいずれもほぼ均一な柱状結晶粒の多結晶体からなることが分かる。図6(a) より、切れ刃部101の柱状結晶粒の形態は、膜厚t1付近以外はほぼ均一な柱状結晶組織になっているのが分かる。
(a) TEM試料
研磨、Arイオンミリング等により、図4(b) に示すように縦破断面115が露出したTEM(日本電子株式会社製の電界放射型透過電子顕微鏡JEM-2100)観察用の試料を作製した。
上記観察用試料の切れ刃部101(位置P1)、すくい面102(位置P2)、及び逃げ面103(位置P3)について、それぞれ以下の条件でJEM-2100を用いてナノビーム回折(NAD)を行った。その結果、切れ刃窒化チタンアルミニウム皮膜領域、すくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域及び逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域はいずれもfccの単一構造からなることが分かった。
加速電圧:200 kV
カメラ長さ:50 cm
分析領域:直径1 nm
窒化チタンアルミニウム皮膜の組成の分析は、電子プローブマイクロ分析装置(EPMA、日本電子株式会社製JXA-8500F)を用いて、加速電圧10 kV、照射電流0.05 A、及びビーム径0.5μmの条件で行った。図7に、EPMAによる各組成分析位置とともに、切れ刃部101、すくい面102及び逃げ面103の各範囲を示す。
上記観察用試料の縦断面において、図7に示すように、切れ刃部101の最も薄い部分の表面位置P1から、すくい面上20μm間隔の表面位置R20〜R500、及び50μm間隔の表面位置R500〜R800、及び表面位置R1000において組成分析を行った。測定結果を表4に示す。またすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域の表面位置R20〜R1000におけるTi及びAlの原子比の分布を図19に示す。図19の横軸は表面位置P1と測定位置との間隔(μm)を示す。
上記観察用試料の縦断面において、図7に示すように、切れ刃部101の最も薄い部分の表面位置P1から、逃げ面上20μm間隔の表面位置F20〜F500、50μm間隔の表面位置F500〜F800、及び表面位置F1000において組成分析を行った。測定結果を表5に示す。また逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域の表面位置F20〜F1000におけるTi及びAlの原子比の分布を図20に示す。図20の横軸は表面位置P1と測定位置との間隔(μm)を示す。
上記観察用試料の縦断面において、図7に示すように、各表面位置P1、R380、R400、R1000、F360、F380、F400、F1000に対応する下地層22近傍の深部位置S、SR380、SR400、SR1000、SF360、SF380、SF400、SF1000において、それぞれ窒化チタンアルミニウム皮膜23の組成分析を行った。測定結果を表6に示す。なお、表面位置に対応する下地層22近傍の深部位置とは、前記表面位置から延びる垂線が下地層22に交わる点の近傍における窒化チタンアルミニウム皮膜23内の位置を意味する。
上記インサート10を、図16に示す刃先交換式回転工具(A45E-4160R)50の先端部にクサビねじ(図示省略)で装着し、下記条件で工具寿命、及び工具寿命時における欠損(チッピング)の有無を測定した。工具寿命は、逃げ面における窒化チタンアルミニウム皮膜の摩耗幅を光学顕微鏡で観察し、逃げ面の最大摩耗幅が0.25 mmを超えたときの総切削長さ(m)とした。欠損(チッピング)の有無は、10μm以上の微小チッピングが切れ刃部に発生しているかどうかを前記光学顕微鏡観察により判断した。結果を表3に示す。
被削材: 硬さ32 HRCのSCM440
加工方法: ミーリング加工
インサート形状: SEE42EN-C9
切削速度: 200 m/分
回転数: 398 rpm
一刃当たりの送り: 0.15 mm/tooth
送り速度:59.7 mm/分
軸方向の切り込み量: 1.0 mm
径方向の切り込み量: 100 mm
切削方法: 単一刃による湿式切削
実施例2では混合ガスAのTiCl4ガスを0.50体積%に増加させ、H2ガスを42.85体積%に減少させた。実施例3〜5では混合ガスAの体積比(TiCl4/AlCl3)を0.26〜0.64の範囲で変化させた。実施料6では混合ガスAの体積比(TiCl4/AlCl3)を0.45に固定し、混合ガスBのNH3ガスを1.00体積%に減少させた。実施料7では混合ガスAの体積比(TiCl4/AlCl3)を0.46に固定し、混合ガスBのNH3ガスを1.78体積%に増加させた。実施料8では混合ガスAの体積比(TiCl4/AlCl3)を0.46に固定し、混合ガスA及びBのN2ガスの体積%を増加させるとともに、混合ガスAのH2ガスの体積%を減少させた。実施料9では混合ガスAの体積比(TiCl4/AlCl3)を0.46に固定し、混合ガスA及びBのN2ガスの体積%を減少させるとともに、混合ガスAのH2ガスの体積%を増加させた。実施例10及び11では成膜圧力を3 kPa及び6 kPaに変化させた。実施例12及び13では成膜温度を750℃及び850℃に変化させた。このように窒化チタンアルミニウム皮膜の原料ガス組成及び成膜条件を表1に示すように変更した以外、実施例1と同様にして硬質皮膜被覆工具(インサート)を作製し、各位置P1、P2、P3における窒化チタンアルミニウム皮膜の組成、膜厚t1、t2、t3、膜厚比t1/t2、t1/t3、工具寿命、及び欠損の有無を評価した。結果を表2(a)〜表2(c) 及び表3に示す。
図12に示す貫通孔4aを有する棚4の代わりに、貫通孔が設けられていない棚を使用した以外、実施例1と同様にして硬質皮膜被覆工具(インサート)を製作し、各位置P1、P2、P3における窒化チタンアルミニウム皮膜の組成、膜厚t1、t2、t3、膜厚比t1/t2、t1/t3、工具寿命、及び欠損の有無を評価した。結果を表2(a)〜表2(c)、及び表3に示す。
実施例1と同じ基体に、実施例1と同様に厚さ0.3μmの窒化チタン層(下地層)を形成した。下地層の形成後、図9に示すパイプ集合体30を用いて、CVD炉1に、第二のパイプ12の第二のノズル12a,12aから混合ガスAを導入し、第一のパイプ11,11の第一のノズル11a,11aから混合ガスBを導入した以外、実施例1と同様に化学蒸着法により窒化チタンアルミニウム皮膜を形成した本発明の硬質皮膜被覆工具(インサート)を作製し、各位置P1、P2、P3における窒化チタンアルミニウム皮膜の組成、膜厚t1、t2、t3、膜厚比t1/t2、t1/t3、工具寿命、及び欠損の有無を評価した。結果を表2(a)〜表2(c)、及び表3に示す。
混合ガスAの体積比(TiCl4/AlCl3)を1.30にした以外、実施例1と同様にして硬質皮膜被覆工具(インサート)を製作し、各位置P1、P2、P3における窒化チタンアルミニウム皮膜の組成、膜厚t1、t2、t3、膜厚比t1/t2、t1/t3、工具寿命、及び欠損の有無を評価した。結果を表2(a)〜表2(c)、及び表3に示す。
窒化チタンアルミニウム皮膜を形成する際に、図17に示すCVD炉100を使用した。CVD炉100は、パイプ集合体30の代わりに、図18に示すノズル110aを有するパイプ110を備え、かつ棚4’は貫通孔を有しない。かかるCVD炉100を使用し、実施例1と同様にして下地層までを形成後、温度800℃、圧力4 kPaで、ノズル110aから、0.33体積%のTiCl4ガス、0.25体積%のAlCl3ガス、74.99体積%のH2ガス、23.05体積%のN2ガス、及び1.38体積%のNH3ガスからなる混合ガスAのみを、65.08 L/分の流量でCVD炉100内に流した以外、実施例1と同様にして窒化チタンアルミニウム皮膜を被覆した硬質皮膜被覆工具(インサート)を作製し、評価した。結果を表2及び表3に示す。
(2) TiCl4とAlCl3との体積比。
(2) 切れ刃部の中心位置の表面で測定した。
(2) 切れ刃部の中心から1000μm離れたすくい面の表面で測定した。
(2) 切れ刃部の中心から1000μm離れた逃げ面の表面で測定した。
(2) 切れ刃部の中心の膜厚をt1とし、切れ刃部の中心から1000μm離れたすくい面及び逃げ面の膜厚をそれぞれt2、t3とした。
(2) Tiリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域。
(3) Alリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域。
(2) Tiリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域。
(3) Alリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域。
(2) Tiリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域。
(3) Alリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域。
(4) Tiリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域。
(5) Alリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域。
2:チャンバー
3:ヒータ
4:棚
4a,4b,4c:貫通孔
4’:貫通孔が設けられていない棚
5:反応容器
5a:排出孔
6:仕切り板
10:インサート
11:第一のパイプ
11a:第一のパイプのノズル
12:第二のパイプ
12a:第二のパイプのノズル
13:排出パイプ
21:基体
22:下地層
23:窒化チタンアルミニウム皮膜
30:第一のパイプ集合体
33:第二のパイプ集合体
36:第三のパイプ集合体
40:棚の中央開口部
50:刃先交換式回転工具
101:切れ刃部
101a:コーナー切れ刃部
101b:辺切れ刃部
102:すくい面
102Ti:Tiリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域
102Al:Alリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域
103:逃げ面
103Ti:Tiリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域
103Al:Alリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域
103a’:コーナー側面部
103b’:辺側面部
115:縦断面
120:境界部
P1,P2,P3:測定位置
Q1,Q2,R1,R2:窒化チタンアルミニウム皮膜のすくい面及び逃げ面における変曲点
W:切れ刃部の幅
W2:Tiリッチなすくい面窒化チタンアルミニウム皮膜領域の幅
W3:Tiリッチな逃げ面窒化チタンアルミニウム皮膜領域の幅
Claims (13)
- 基体に窒化チタンアルミニウム皮膜を形成してなる硬質皮膜被覆工具であって、切れ刃部、すくい面及び逃げ面を有し、
前記切れ刃部における前記窒化チタンアルミニウム皮膜の最も薄い部分が(Tix1Aly1)Nz1(ただし、x1、y1及びz1はそれぞれ原子比であり、0.26≦x1≦0.4、0.1≦y1≦0.24、及びx1+y1+z1=1を満たす数字である。)で表されるTiリッチな組成を有し、
前記切れ刃部における前記窒化チタンアルミニウム皮膜の最も薄い部分からそれぞれ少なくとも1000μm離れた前記すくい面及び前記逃げ面の部分で、前記窒化チタンアルミニウム皮膜が(Tix2Aly2)Nz2(ただし、x2、y2及びz2はそれぞれ原子比であり、0.06≦x2≦0.23、0.25≦y2≦0.45、及びx2+y2+z2=1を満たす数字である。)で表されるAlリッチな組成を有することを特徴とする硬質皮膜被覆工具。 - 請求項1に記載の硬質皮膜被覆工具において、x1及びy1はそれぞれ原子比で0.28≦x1≦0.40、及び0.10≦y1≦0.22を満たし、x2及びy2はそれぞれ原子比で0.08≦x2≦0.22、及び0.26≦y2≦0.43を満たし、x1とx2との差が0.10以上であり、y2とy1との差が0.10以上であることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
- 請求項1又は2に記載の硬質皮膜被覆工具において、前記すくい面及び前記逃げ面における前記窒化チタンアルミニウム皮膜のうち前記切れ刃部に隣接する領域が、Tiリッチな組成を有することを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具において、前記窒化チタンアルミニウム皮膜が柱状結晶組織を主体とすることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具において、前記切れ刃部における前記窒化チタンアルミニウム皮膜の最も薄い部分の厚さt1が2〜13μmであり、前記厚さt1と前記すくい面における前記窒化チタンアルミニウム皮膜の厚さt2及び前記逃げ面における前記窒化チタンアルミニウム皮膜の厚さt3との比t1/t2及び比t1/t3がそれぞれ0.35〜0.85であることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具において、z1が原子比で0.64〜0.36を満たし、z2が原子比で0.69〜0.32を満たすことを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具において、
前記基体と前記窒化チタンアルミニウム皮膜との間に下地層を有し、
前記下地層が炭窒化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンジルコニウムの少なくとも一種からなる単層皮膜又は積層皮膜であり、かつfcc構造を有することを特徴とする硬質皮膜被覆工具。 - 請求項1〜7のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具を化学蒸着法により製造する方法であって、
TiCl4ガス、AlCl3ガス、NH3ガス、N2ガス及びH2ガスの合計を100体積%として、0.1〜0.8体積%のTiCl4ガス、0.4〜1.2体積%のAlCl3ガス、4.0〜23.5体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなるとともに、AlCl3ガスに対するTiCl4ガスの体積比(TiCl4/AlCl3)が0.3〜0.7である混合ガスAと、0.7〜1.9体積%のNH3ガス、3〜16.5体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなる混合ガスBとからなる原料ガスを供給することにより、前記窒化チタンアルミニウム皮膜を形成することを特徴とする方法。 - 請求項8に記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、
回転軸Oを中心として回転する第一及び第二のパイプを具備する化学蒸着装置を使用し、
前記第一のパイプは第一のノズルを有し、
前記第二のパイプは第二のノズルを有し、
前記第一のノズルの噴出口と前記回転軸Oとの距離H1を前記第二のノズルの噴出口と前記回転軸Oとの距離H2より長くし、
前記第一のノズルから前記混合ガスAを噴出するとともに、前記第二のノズルから前記混合ガスBを噴出することを特徴とする方法。 - 請求項8に記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、
回転軸Oを中心として回転する第一及び第二のパイプを具備する化学蒸着装置を使用し、
前記第一のパイプは第一のノズルを有し、
前記第二のパイプは第二のノズルを有し、
前記第一のノズルの噴出口と前記回転軸Oとの距離H1を前記第二のノズルの噴出口と前記回転軸Oとの距離H2より長くし、
前記第二のノズルから前記混合ガスAを噴出するとともに、前記第一のノズルから前記混合ガスBを噴出することを特徴とする方法。 - 請求項9又は10に記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、
前記化学蒸着装置は、前記第一及び第二のパイプの周囲に、前記基体を載置するための複数の棚と、隣接する棚の間にそれぞれ設けられ、前記原料ガスの流れを遮断するための仕切り板とを有し、
前記第一及び第二のノズルは、各棚とその上部に位置する仕切り板との間及び最上段の棚の上部にそれぞれ設けられており、
前記棚における前記基体の周囲に少なくとも1つの貫通孔が設けられており、もって前記第一及び第二のノズルから噴出した前記原料ガスは前記貫通孔を通過することを特徴とする方法。 - 請求項8〜11のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、前記距離H1と前記距離H2との比(H1/H2)を1.5〜3の範囲内にすることを特徴とする方法。
- 請求項8〜12のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、3〜6 kPaの成膜圧力及び750〜830℃の成膜温度を使用することを特徴とする方法。
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