JP6238131B2 - 被膜および切削工具 - Google Patents

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本発明は、被膜、切削工具および被膜の製造方法に関し、特に、硬度と耐酸化性との両特性に優れた被膜、その被膜を含む切削工具およびその被膜の製造方法に関する。
従来より、超硬合金からなる切削工具を用いて、鋼、鋳物などの切削加工が行われている。このような切削工具は、切削加工時において、その刃先が高温、高圧などの過酷な環境に曝されるため、刃先が摩耗したり、欠けたりするといった問題が生じる場合が多く、その切削性能には課題がある。
そこで、切削工具の切削性能の改善を目的として、超硬合金などの基材の表面を被覆する被膜の開発が進められている。なかでも、チタンとアルミニウムとを含む窒化物(以下、「TiAlN」ともいう。)からなる被膜は、高い硬度を有することができるとともに、Alの含有割合を高めることによって耐酸化性を高めることができる。このような被膜によって切削工具を被覆することにより、切削工具の性能の改善が可能であることから、当該被膜のさらなる開発が期待されている。
たとえば、特開平7−205362号公報(特許文献1)には、TiN層およびAlN層を0.4nm〜50nmの周期で組成を連続的に変化させた多層構造の被膜が開示されている。該多層構造の周期中にはTiAlNが存在すると考えられている。しかし、この被膜はPVD(Physical Vapor Deposition)法によって作製されるため、未反応の金属粒子の堆積による欠陥が発生し易い傾向がある。また、PVD法では、TiAlNにおけるAlの含有割合を0.55よりも高く設計することはできないため、この被膜の耐酸化性には限界がある。
これに対し、特表2008−545063号公報(特許文献2)には、CVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いてTiAlNからなる被膜を作製する技術が開示されている。特許文献2には、TiAlNにおけるAlの含有割合xが0.75<x≦0.93であり、かつ面心立方構造(以下、「fcc型結晶構造」ともいう。)を有する被膜が開示されている。
特開平7−205362号公報 特表2008−545063号公報
しかしながら、特許文献2に開示される被膜では、fcc型結晶構造のTiAlNにおけるAlの含有量が高いために、fcc型結晶構造中に六方細密充填構造(以下、「hcp型結晶構造」ともいう。)を有するAlNが析出する場合がある。また、工具使用時に、fcc型結晶構造から熱安定性の高いウルツ型に相転位したりする場合がある。析出したhcp型結晶構造のAlNやウルツ型に相転位した箇所は、被膜中の欠陥として存在することとなり、結果的に、被膜の硬度、耐酸化性などの特性の低下を引き起こす。
すなわち、従来の被膜では、TiAlNが発揮し得る高い硬度と高い耐酸化性との両特性を共に発揮させるには限界があり、それ故、被膜にはまだ改善の余地があり、また、該被膜による切削工具の性能の十分な改善は達成されていない。
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、硬度と耐酸化性との両特性に優れた被膜、その被膜を含む切削工具およびその被膜の製造方法を提供することにある。
本発明の第1の態様は、1または2以上の層により構成され、層のうち少なくとも1層は、Ti1-xAlxNからなる第1単位層と、Ti1-yAlyNからなる第2単位層とが交互に積層された多層構造を含み、第1単位層はfcc型結晶構造を有し、Ti1-xAlxNにおけるxは0<x<0.65を満たし、第2単位層はhcp型結晶構造を有し、Ti1-yAlyNにおけるyは0.65≦y<1を満たす、被膜である。
本発明の第2の態様は、基材と、該基材を被覆する上記被膜と、を含む切削工具である。
本発明の第3の態様は、基材上に形成される、1または2以上の層により構成される被膜の製造方法であって、層のうちの少なくとも1層を、CVD法を用いて形成するCVD工程を含み、CVD工程は、チタンを含む第1ガスと、アルミニウムを含む第2ガスおよび第3ガスと、窒素を含む第4ガスとを、基材の表面に向かって噴出する噴出工程を含み、噴出工程において、第2ガスの噴出速度は第1ガスの噴出速度以下であり、第3ガスの噴出速度は第1ガスの噴出速度を超える、被膜の製造方法である。
本発明によれば、硬度と耐酸化性との両特性に優れた被膜を提供することができる。
本実施形態の製造方法におけるCVD工程に用いられるCVD装置の概略的な断面図である。 CVD装置における導入管の一例を示す概略的な断面図である。 第1ガス〜第4ガスの噴出方向を示す模式図である。 CVD装置における導入管の他の一例を示す概略的な断面図である。 実施例における第1ガス〜第4ガスの噴出方向を示す模式図である。 第1単位層および第2単位層からなる多層構造を含む層におけるHAADF−STEM写真を示す図である。 図6に示す層の厚み方向におけるEDX装置を用いた分析結果を示す図である。
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の概要について説明する。本発明者らは、まず、PVD法では実質的にTiAlNにおけるAlの含有割合を0.55よりも高い値に設計することが困難であることから、CVD法を用いた被膜の作製について検討した。そして、Alの含有割合が大きくなるにつれて、hcp型結晶構造のAlNの析出の頻度やウルツ型への相変態の頻度が高まることが確認された。
本発明者らは、上述の結晶構造の変化に関し、fcc型結晶構造のTiAlNにおけるAlの含有割合が大きくなることによって、結晶構造に大きな歪みが生じることが原因であると推察した。すなわち、fcc型結晶構造のTiAlNにおいて、その結晶構造をより安定な結晶構造とするための相転移がおこり、これによりhcp型結晶構造のAlNの析出やウルツ型への相変態が生じるものと推察した。fcc型結晶構造のTiAlN中に生じたhcp型結晶構造のAlNやウルツ型の結晶は、被膜の硬度を低下させる要因となる。
そこで、本発明者らは、被膜に高い耐酸化性を付与するために、fcc型結晶構造のTiAlNの代わりに、hcp型結晶構造のTiAlNを用いて、Alの含有量を向上させることを着想した。hcp型結晶構造のTiAlNはfcc型結晶構造のTiAlNよりも安定であるため、上述のような変化を抑制することができると考えられる。しかしながら、本発明者らは、hcp型結晶構造のTiAlNはfcc型結晶構造のTiAlNよりも硬度が低い傾向にあるために、被膜に対し、耐酸化性とともに高い硬度を付与させるためにはさらなる工夫が必要であると考えた。
そして、本発明者らは上記着想および上記考察に基づき鋭意検討を重ね、Alの含有量の比較的大きいhcp型結晶構造のTiAlNと、Al含有量の比較的小さいfcc型結晶構造のTiAlNとを交互に積層させた多層構造を有する被膜において、高い硬度と高い耐酸化性とが発揮され得ることを見い出し、さらなる鋭意検討の結果、本発明に係る被膜、これを有する切削工具を完成させた。また、上記被膜は、CVD法において、従来とは全く異なった条件を採用した本発明に係る製造方法を用いることによって、初めて製造することができたものである。
(1)すなわち、本実施形態に係る被膜は、1または2以上の層により構成され、層のうち少なくとも1層は、Ti1-xAlxNからなる第1単位層と、Ti1-yAlyNからなる第2単位層とが交互に積層された多層構造を含み、第1単位層はfcc型結晶構造を有し、Ti1-xAlxNにおけるxは0<x<0.65を満たし、第2単位層はhcp型結晶構造を有し、Ti1-yAlyNにおけるyは0.65≦y<1を満たす、被膜である。
本実施形態に係る被膜によれば、1または2以上の層により構成され、該層のうち少なくとも1層は、fcc型結晶構造のTi1-xAlxN(0<x<0.65)からなる第1単位層と、hcp型結晶構造のTi1-yAlyN(0.65≦y<1)からなる第2単位層とが交互に積層された多層構造を含む。これにより、被膜は、第1単位層に由来する高い硬度と、第2単位層に由来する高い耐酸化性とを有することができ、もって、硬度と耐酸化性との両特性に優れる。
(2)本実施形態に係る被膜において好ましくは、第1単位層を構成する第1結晶のサイズおよび第2単位層を構成する第2結晶のサイズのそれぞれの平均値が20nm以下である。これにより、多層構造を有する層の硬度をさらに向上させることができ、もって被膜の硬度がさらに向上する。
(3)本実施形態に係る被膜において好ましくは、多層構造において、第2単位層を挟んで隣り合う第1単位層間の距離が5nm以上50nm以下である。これにより、多層構造を有する層のヤング率が低くなり、もって、被膜の耐疲労性が向上する。
(4)本実施形態に係る被膜において好ましくは、被膜の膜厚方向における弾性回復率が50%以上である。このような弾性回復率を有する被膜は、高い耐疲労性を有することができる。
(5)本実施形態に係る被膜において好ましくは、第1単位層は、絶対値が2GPa以下である圧縮残留応力を有する。これにより、被膜は高い耐欠損性を有することができる。
(6)本実施形態に係る切削工具は、基材と、基材を被覆する上記被膜と、を含む切削工具である。
本実施形態に係る切削工具によれば、上記の高い硬度と高い耐酸化性との両特性に優れる被膜によって基材が被覆されているため、切削加工時において、高い硬度と高い耐酸化性とを発揮することができ、もって切削性能に優れる。
(7)本実施形態に係る被膜の製造方法は、基材上に形成される、1または2以上の層により構成される被膜の製造方法であって、層のうちの少なくとも1層を、CVD法を用いて形成するCVD工程を含み、CVD工程は、チタンを含む第1ガスと、アルミニウムを含む第2ガスおよび第3ガスと、窒素を含む第4ガスとを、基材の表面に向かって噴出する噴出工程を含み、噴出工程において、第2ガスの噴出速度は第1ガスの噴出速度以下であり、第3ガスの噴出速度は第1ガスの噴出速度を超える。
本実施形態に係る被膜の製造方法によれば、CVD工程における各ガスの噴出速度が上記のように制御されることにより、上記の多層構造を有する層を形成させることができる。したがって、本実施形態に係る被膜の製造方法によれば、上記の高い硬度と高い耐酸化性との両特性に優れた被膜を製造することができる。
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。また、本明細書において、被膜を構成する各層の組成を「TiCN」などの化学式を用いて表わす場合、原子比を特に限定しない場合は従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。たとえば、単に「TiCN」と記す場合、「Ti」と「C」と「N」の原子比は50:25:25の場合のみに限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれるものとする。
また、本明細書において、fcc型結晶構造およびhcp型結晶構造とは、それぞれ面心立方構造および六方細密充填構造の各結晶構造を意味する。以下、fcc型結晶構造のTiAlNをfcc−TiAlN、hcp型結晶構造のTiAlNをhcp−TiAlNともいう。また、hcp型結晶構造のAlNをhcp−AlNともいう。
≪被膜≫
(被膜の全体構造)
本実施形態に係る被膜は、1または2以上の層により構成され、層のうち少なくとも1層は、Ti1-xAlxNからなる第1単位層と、Ti1-yAlyNからなる第2単位層とが交互に積層された多層構造を含み、第1単位層はfcc型結晶構造を有し、Ti1-xAlxNにおけるxは0<x<0.65を満たし、第2単位層はhcp型結晶構造を有し、Ti1-yAlyNにおけるyは0.65≦y<1を満たす。
本実施形態の被膜によれば、多層構造を含む層(以下、「多層構造含有層」ともいう)において、高い硬度と高い耐酸化性とを発揮することができ、もって、被膜全体として高い硬度と高い耐酸化性との両特性に優れたものとなる。この理由として、以下のことが考えられる。
第2単位層は、hcp−Ti1-yAlyNであってそのyは0.65≦y<1を満たすため、高い耐酸化性を有することができる。なお、第2単位層はhcp型結晶構造を有するため、上述のような相変態は起こらない。一方、第1単位層は、fcc−Ti1-xAlxNであってそのxは0<x<0.65を満たすため、Tiの含有割合が相対的に高くなることにより、特に高い硬度を有することができる。また、xが0.65未満であることにより、上述のような相変態が抑制される。さらに、これらの両層が積層されていることにより、さらに、第1単位層における相変態が抑制されるとともに、両層の各特性、すなわち、高い硬度と高い耐酸化性とを損失させることなく十分に発揮することができる。したがって、結果的に、多層構造含有層を有する被膜は、高い硬度と高い耐酸化性との両特性に優れることができる。
本実施形態に係る被膜は、上述の多層構造含有層を少なくとも1層含む限り、これ以外の他の層を含むことができる。他の層としては、たとえば、多層構造含有層と基材との間に設けられる下地層、多層構造含有層上に設けられる表面保護層などを挙げることができる。
上記他の層として、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)からなる群より選ばれる1種以上の元素と、窒素(N)、酸素(O)、炭素(C)、ホウ素(B)からなる群より選ばれる1種以上の元素との化合物からなる層を挙げることができる。このような層は高い硬度を有することができるため、他の層を有することによって被膜全体の硬度をさらに高めることができる。上記化合物として、具体的には、TiN、TiB、TiBN、TiCO、TiBNO、TiCBN、TiCNO、ZrN、ZrCN、ZrN、ZrO2、HfC、HfN、HfCNなどを挙げることができる。なお、上記の化合物に対し、他の元素が微量にドープされたものであってもよい。
また、上記他の層として、α−アルミナ(α−Al23)からなる層またはκ−アルミナ(κ−Al23)からなる層を挙げることができる。このようなアルミナからなる層は高い耐酸化性を有するため、このような層を有することによって被膜の耐酸化性をさらに高めることができる。なかでも、アルミナからなる層を表面保護層として設けることにより、被膜の耐酸化性をさらに向上させることができる。
(被膜の厚さ)
被膜全体の厚さは、好ましくは3μm以上30μm以下である。被膜全体の厚さが3μm以上であることにより、被膜全体の厚さが薄いことに起因する耐摩耗性の低下を防止することができる。また、被膜全体の厚さが30μm以下であることにより、被膜全体の厚さが厚いことに起因する被膜のチッピングを防止することができる。被膜全体の厚さは、より好ましくは5以上20μm以下であり、さらに好ましくは7μm以上15μm以下である。
このような被膜全体の厚さは、たとえば、被膜を任意の基材上に形成し、これを任意の位置で切断して、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)または透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)、またはSEMまたはTEM付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)装置で観察することにより測定することができる。なお、断面観察用のサンプルは、たとえば、集束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam system)、クロスセクションポリッシャー装置(CP:Cross section Polisher)などを用いて作製することができる。なお、後述する多層構造含有層の厚さ、および積層周期の厚さについても同様の測定方法を用いることができる。
(被膜の弾性回復率)
被膜は、その膜厚方向における弾性回復率が50%以上であることが好ましく、このような被膜は高い耐疲労性を有することができる。50%以上の弾性回復率を有する被膜は、後述する多層構造含有層の積層周期を適切に調整することにより得ることができる。
ここで、本明細書において、「弾性回復率」とは、ナノインデンテーション(Nano Indentation)法により、25mNの荷重を負荷された際の弾性回復率をいう。このような弾性回復率は、次のようにして算出することができる。
すなわち、まず、ナノインデンテーション法が利用可能な超微小押し込み硬さ試験機(たとえば、(株)エリオニクス社製)を用いて、被膜の膜厚方向に対して垂直に25mNの荷重で圧子を押し込み、その後、押し込まれた圧子を引き抜く工程を実施する。超微小押し込み硬さ試験機により、上記工程中における荷重の経時的な変化と押し込み深さの経時的な変化とが測定され、さらに、この測定結果から、被膜に負荷される荷重とその際の押し込み深さとを縦軸および横軸とした曲線が求められる。求められた曲線に基づいて、各荷重負荷時(最大荷重は25mN)の各弾性塑性変形仕事量(Welast)および各塑性変形仕事量(Wplast)が算出される。そして、得られたWelastおよびWplastを下記式(1)に当てはめることにより、被膜の弾性回復率(%)を算出することができる。なお、下記式(1)において、「W」は弾性回復率を示す。
W(%)=Welast/(Welast+Wplast)×100・・・(1)。
(被膜の押し込み硬さ)
被膜は、さらに、その膜厚方向における押し込み硬さに関し、25mNの荷重を負荷された際の押し込み硬さが25GPa以上であることが好ましい。この場合、被膜は十分に高い硬度を維持したまま、上述の弾性変形を可能とすることができるため、硬くて欠けにくいという優れた特性を有することができる。なお、押し込み硬さは、上記ナノインデンテーション法における荷重(本明細書では25mN)を、圧子と被膜との接触面積で除することによって算出される。
<多層構造含有層>
(多層構造含有層の全体構造)
多層構造含有層は、被膜内にすくなくとも1つ以上含まれる。多層構造含有層は、上述のように、Ti1-xAlxNからなる第1単位層と、Ti1-yAlyNからなる第2単位層とが交互に積層された多層構造を含み、第1単位層はfcc型結晶構造を有し、Ti1-xAlxNにおけるxは0<x<0.65を満たし、第2単位層はhcp型結晶構造を有し、Ti1-yAlyNにおけるyは0.65≦y<1を満たす。上記xは0.3<x<0.6であることが好ましく、上記yは0.7<y<0.9であることが好ましい。また、多層構造含有層は、上記多層構造以外の他の構造(たとえば、アモルファス構造)を含んでも良いが、上述の効果を十分に発揮するために、好ましくは多層構造含有層中の50体積%以上が多層構造であり、より好ましくは70体積%以上が多層構造であり、さらに好ましくは、多層構造含有層の実質的に全ての領域が多層構造であることが好適である。なお、多層構造含有層は、酸素(O)、硼素(B)、炭素(C)などの不可避不純物を含んでいてもよい。
ここで、第1単位層を構成するfcc−Ti1-xAlxNにおけるxが0<x<0.65を満たすとは、後述するように、第1単位層の任意の位置におけるAlの含有割合の平均値が0<x<0.65であることを意味する。同様に、第2単位層を構成するhcp−Ti1-yAlyNにおけるyが0.65≦y<1を満たすとは、後述するように、第2単位層の任意の位置におけるAlの含有割合の平均値が0.65≦y<1であることを意味する。
より具体的には、第1単位層および第2単位層に関し、その厚み方向または面内方向において、AlとTiの含有割合は連続的に、または段階的に変化しているのが通常である。これは、多層構造含有層が後述するCVD工程によって製造されるためである。このため、たとえば、第1単位層のうち第2単位層と接する領域に位置するfcc−Ti1-xAlxNにおけるAlの含有割合が0.65以上である場合もあり、一方、第2単位層のうち第1単位層と接する領域に位置するhcp−Ti1-yAlyNにおけるAlの含有割合が0.65未満である場合もある。
第1単位層の一部の領域において、Alの含有割合が0.65以上である場合、その領域において相変態が起こることが考えられるが、本実施の形態に係る被膜において、このような相変態は十分に抑制される。この理由は明確ではないが、本発明者らは、第1単位層と第2単位層とが交互に積層されていることが大きく関係していると考えている。
多層構造含有層の組成、すなわち、第1単位層および第2単位層の積層構造は、SEM、TEM、STEM、SEMまたはTEM付帯のエネルギー分散型X線分析)装置などにより測定することができる。また、多層構造含有層内の結晶構造は、たとえば、X線回折(XRD:X-ray diffraction)パターン、またはTEM装置を用いた電子線回折パターンによって評価することができる。
また、各第1単位層および各第2単位層におけるAlの含有割合の平均値、すなわち、xおよびyの値は、次のようにして算出することができる。まず、上述のいずれかの装置を用いて、層中における第1単位層の領域と第2単位層の領域とを区別する。そして、第1単位層の厚み方向および面内方向に異なる任意の複数領域(たとえば、厚み方向において1nm、面内方向において0.5μm互いに離れた少なくとも5地点)に関し、EDX装置により領域内の組成を分析する。これにより、第1単位層中の複数個所に位置する領域内の組成情報が得られる。そして、各組成情報から得られる複数のAlの含有割合を平均化することにより、fcc−Ti1-xAlxNにおけるAl含有割合の平均値xを算出することができる。第2単位層についても、同様の方法により、hcp−Ti1-yAlyNにおけるAlの含有割合の平均値yを算出することができる。
(多層構造含有層の厚さ)
多層構造含有層全体の厚さは、好ましくは1μm以上20μm以下である。多層構造含有層全体の厚さが1μm以上であることにより、多層構造含有層の特性に由来する被膜の特性が顕著に向上する傾向がある。また、多層構造含有層全体の厚さが20μmを超えた場合には、多層構造含有層の特性に由来する被膜の特性の向上に大きな変化が見られない傾向にあることから、経済的に有利でない。多層構造含有層全体の厚さは、より好ましくは2μm以上15μm以下であり、さらに好ましくは3μm以上10μm以下である。
(積層周期の厚さ)
多層構造含有層において、第2単位層を挟んで隣り合う第1単位層間の距離(「積層周期」ともいう。)は、好ましくは5nm以上50nm以下であり、より好ましくは7nm以上40nm以下であり、より好ましくは10nm以上30nm以下である。ここで、第2単位層を挟んで隣り合う第1単位層間の距離とは、1つの第2単位層を挟んで隣り合う2つの第1単位層間の厚さ方向の距離であって、1つの第1単位層の厚さ方向中間から、他の1つの第1単位層の厚さ方向の中間までの最短距離をいう。
本発明者らは、第1単位層および第2単位層が交互に積層される多層構造において、その積層周期が5nm以上50nm以下であることにより、高い硬度と低いヤング率とを両立できることを知見している。この理由は明らかではないが、少なくとも両層が交互に積層され、かつその積層周期がナノレベルであることが関係していると考えている。このような多層構造含有層を有する被膜は、上述のように、25mNの荷重が負荷された際に、50%以上という高い弾性回復率を有することが可能となる。
(各単位層の厚さ)
第1単位層および第2単位層の各厚さは、好ましくは3nm以上30nm以下である。各層の厚さが30nm以下であることにより、各層が積層された多層構造は、各層が周期的に多数繰り返して積層された超多層構造を有することができる。これにより、多層構造含有層における硬度および耐酸化性のより顕著な向上が可能となる傾向にある。また、各層の厚さが3nm以上であることにより、多層構造に由来する多層構造含有層の特性の顕著な向上が可能となる傾向にある。第1単位層、第2単位層の各厚さは、より好ましくは5nm以上25nm以下であり、さらに好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。
各層の厚さは、上記の被膜全体の厚さと同様に、SEM、TEMなどにより測定することができる。また、各単位層は、同じ厚さであってもよく異なっていていもよい。すなわち、たとえば、複数の第1単位層は、それぞれ同じ厚さであっても異なる厚さであってもよく、第1単位層と第2単位層とが同じ厚さであっても異なる厚さであってもよい。
(各層を構成する各結晶のサイズ)
第1単位層を構成する第1結晶のサイズ、および第2単位層を構成する第2結晶のサイズのそれぞれの平均値が20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。平均値が20nm以下の場合、多層構造含有層は十分に小さい結晶によって構成されることになるため、さらに高い硬度を有することができる。第1結晶および第2結晶の各サイズは、たとえば、X線回折パターンから算出することができ、また、TEMでの高分解能像で観察される結晶の粒径を測定することにより評価することができる。なお、結晶のサイズは、結晶子の最大長さを意味するが、結晶がアスペクト比5以上の所謂柱状晶結晶の場合には、その短辺の長さを結晶のサイズとする。
(第1単位層の圧縮残留応力)
第1単位層の圧縮残留応力の絶対値は2GPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.2以上2GPa以下であり、さらに好ましくは0.4GPa以上1.5GPa以下である。第1単位層の圧縮残留応力の絶対値が2GPa以下であることにより、多層構造含有層内に適切な大きさの歪が維持され、これにより、被膜の耐欠損性が向上する。
ここで、「圧縮残留応力」とは、被膜に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「−」(マイナス)の数値(単位:本発明では「GPa」を使う)で表される応力をいう。このため、圧縮残留応力が大きいという概念は、上記数値の絶対値が大きくなることを示し、また、圧縮残留応力が小さいという概念は、上記数値の絶対値が小さくなることを示す。すなわち、圧縮残留応力の絶対値が2GPa以下であるとは、第1単位層に関する好ましい圧縮残留応力が−2GPa以上0GPa未満であることを意味する。
通常、TiAlNからなる単層が存在する場合に、Alの含有割合が低いと引張残留応力を有し易い傾向にあるが、本実施の形態において、第1単位層はAlの含有割合が第2単位層と比して低いにも関わらず、圧縮残留応力を有することができる。この理由は明確ではないが、本発明者らは、第1単位層が第2単位層によって挟み込まれていることが大きく関係していると考えている。
第1単位層の圧縮残留応力は、X線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定することができる。このようなX線を用いたsin2ψ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く用いられているものであり、たとえば、「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54〜67頁に詳細に説明されている方法を用いれば良い。
sin2ψ法によれば、第1単位層に含まれる任意の点の応力の平均値を測定することができ、この任意の点は、1点、好ましくは2点、より好ましくは3〜5点、さらに好ましくは10点またはこれ以上である。また、複数点で測定する場合の各点は第1単位層の応力を代表できるように互いに面内方向において0.1mm以上の距離を離して選択することが好ましい。また、多層構造含有層の厚み方向に多数存在する第1単位層に関し、1層ではなく、2層の各圧縮残留応力を測定して平均値を算出することが好ましく、3〜5層の各圧縮残留応力を測定することがより好ましく、10層またはこれ以上の各層の圧縮残留応力を測定することがさらに好ましい。
また、上記圧縮残留応力は、ラマン分光法を用いた方法を利用することにより測定することも可能である。このようなラマン分光法は、狭い範囲、たとえばスポット径1μmといった局所的な測定ができるというメリットを有している。このようなラマン分光法を用いた残留応力の測定は、一般的なものであるが、たとえば、「薄膜の力学的特性評価技術」(サイぺック(現在リアライズ理工センターに社名変更)、1992年発行)の264〜271頁に記載の方法を採用することができる。
≪切削工具≫
本実施形態に係る切削工具は、基材と、該基材を被覆する上記被膜と、を含む切削工具である。本実施形態に係る切削工具は、高い硬度と高い耐酸化性との両特性に優れた上記被膜を有するため、その硬度および耐酸化性が飛躍的に向上したものであり、もって優れた切削性能を有することができる。
上記被膜による特性を効果的に発揮できる切削工具としては、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどを挙げることができる。
切削工具の基材としては、このような切削工具の基材として従来公知のものを用いることができる。具体的には、炭化タングステン(WC)基超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化ホウ素焼結体、ダイヤモンド焼結体などを挙げることができる。なかでも、硬度および靱性のバランスの観点から、基材は、WC基超硬合金またはサーメットであることが好ましい。
切削工具の被膜は、基材の表面の全てを被覆するのが好ましいが、必ずしも基材の表面の全てを被覆する必要はなく、表面の少なくとも一部、たとえばすくい面および逃げ面の少なくとも一部に形成されていればよい。これらの面の一部に形成されることにより、切削工具を用いて被加工物を加工する際に、その高い硬度および高い耐酸化性による有益な効果を発揮することができる。なお、本実施形態に係る切削工具が有する被膜の詳細は上述と同様なので、その説明は繰り返さない。
≪被膜の製造方法≫
上記被膜は、本実施形態に係る製造方法によって製造することができる。すなわち、本実施形態に係る製造方法によって製造される被膜は、高い硬度と高い耐酸化性との両特性を有することができる。また、当該被膜を切削工具用の基材に設けることにより、上記切削工具を製造することができる。
ここで、上述の被膜が、多層構造含有層以外の他の層を有する場合、これらの他の層は、従来公知のCVD法を好適に用いることができる。一方、多層構造含有層は、従来公知のCVD法では製造することができず、以下の特異的なCVD工程によって初めて製造することができる層である。
すなわち、本実施形態に係る製造方法は、基材上に形成される、1または2以上の層により構成される被膜の製造方法であって、該層のうちの少なくとも1層を、CVD法を用いて形成するCVD工程を含み、該CVD工程は、チタンを含む第1ガスと、アルミニウムを含む第2ガスおよび第3ガスと、窒素を含む第4ガスとを、上記基材の表面に向かって噴出する噴出工程を含み、該噴出工程において、第2ガスの噴出速度は第1ガスの噴出速度以下であり、第3ガスの噴出速度は第1ガスの噴出速度を超える、被膜の製造方法である。なお、ガスの噴出速度とは、1秒間にガスが進む距離(m)を意味し、貫通孔を通過するガスの体積と貫通孔の投影面積の比から算出することができる。以下、多層構造含有層を製造するための上記CVD工程について詳述する。
<CVD工程>
上記CVD工程は、上述の被膜を構成する層のうちの少なくとも1層である多層構造含有層を形成する工程である。本工程において、図1に示すCVD装置を用いることができる。
図1において、CVD装置10内には、基材11を保持するための基材セット治具12を複数設置することができ、これらは耐熱合金鋼製の反応容器13でカバーされる。また、反応容器13の周囲には調温装置14が配置されており、この調温装置14により、反応容器13内の温度を制御することができる。反応容器13内には、導入口15を有する導入管16が配置されている。導入管16は、基材セット治具12が配置される領域を図中の上下方向に貫通するように配置されており、基材セット治具12近傍に位置する領域には、その外周に沿うように複数の貫通孔17が形成されている。
図2は、図1のCVD装置における導入管の一例を示す概略的な断面図であり、導入管16の長軸方向に垂直な断面であって貫通孔17が位置する部分を示している。図2に示すように、導入管16の内部には、その長軸方向に沿って4つの管路16a〜16dが設けられており、各管路16a〜16dのそれぞれと貫通孔17とが連通する。これにより、導入口15側から導入される各ガスは、管路16a〜16d内を流れて図1中の上方に向かうとともに、各貫通孔17を通過して反応容器13内に噴出される。また、導入管16は、図1中の回転矢印で示すように、その軸を中心軸として回転することができる。
図1に戻り、CVD装置10には、反応容器13内のガスを外部に排出させるための排気管18が配置されており、反応容器13内のガスは、排気管18内部を通過して排気口19から反応容器13の外へ排出させることができる。なお、反応容器13内の治具類等は、通常黒鉛により構成される。
以下、図1および図2に示すCVD装置10を用いた噴出工程の一例について説明する。
<噴出工程>
本工程を実施するに先だって、CVD装置10の反応容器13内の基材セット治具12には、被膜形成部位が反応容器13内に露出するように、基材11が配置される。また、反応容器13内は、高温減圧環境に維持される。なお、反応容器13内の温度は、好ましくは700℃以上900℃以下であり、反応容器13内の圧力は、好ましくは0.1kPa以上13kPa以下に維持される。これにより、多層構造含有層の効率的な形成が可能となる。
そして、本工程において、チタンを含む第1ガスと、アルミニウムを含む第2ガスおよび第3ガスと、窒素を含む第4ガスとが基材の表面に向かって噴出される。なお、ここでのチタンおよびアルミニウムは、化合物に含まれる状態の元素を意味し、金属とは異なる。本実施形態においては、第1ガスが管路16a内に導入され、第2ガスが管路16b内に導入され、第3ガスが管路16c内に導入され、第4ガスが管路16d内に導入され、かつ導入管16が不図示の駆動部によって回転することにより、各ガスが反応容器13内に同時に噴出されることになる。
このときの各ガスの噴出方向は図3に示すような位置関係となる。図3は、第1ガス〜第4ガスの各ガスの噴出方向を示す模式図であり、中心点Wは、反応容器13内を上方から見下ろした場合の導入管16の中心点を示しており、かつ図中に示される円の中心点である。また、矢印P1は第1ガスの噴出方向を、矢印P2は第2ガスの噴出方向を、矢印P3は第3ガスの噴出方向を、矢印P4は第4ガスの噴出方向を示している。図3に示されるように、本実施形態では、第1ガスおよび第2ガス、第2ガスおよび第4ガス、第4ガスおよび第3ガス、第3ガスおよび第1ガスのそれぞれは、中心点Wに関し、互いに90°の位相を有した状態で反応容器13内に噴出される。
特に、本工程において、第2ガスの噴出速度は第1ガスの噴出速度以下であり、第3ガスの噴出速度は第1ガスの噴出速度を超えるように、基材の表面に向かって噴出される。そして、噴出された各ガスは、反応容器13内で混合されながら基材11の表面に到達し、これにより、基材表面に各ガスに由来する元素を組成成分とした成長層が形成される。この成長層は、各ガスの噴出速度を上述のように制御することにより、多層構造含有層となる。本工程を経て、上述の多層構造含有層が形成される理由は明確ではないが、本発明者らは以下ように考察している。
すなわち、チタンを含むガスとして、1つの噴出速度のガス(第1ガス)を噴出するのに対し、Alを含むガスとして2つの噴出速度のガス(第2ガスおよび第3ガス)を導入し、さらに、各ガスの噴出速度の関係を「第2ガス(Al)の噴出速度≦第1ガス(Ti)の噴出速度<第3ガス(Al)の噴出速度」とすることによって、基材11の表面に到達するAlとTiの含有割合が経時的かつ連続的に変化する(揺らぐ)。そして、基材の表面に到達するTi、Al、Nの原子比において、Alの含有割合が多い場合には、安定的なhcp型結晶構造のTiAlNが成長し、Alの含有割合が低い場合には、fcc型結晶構造のTiAlNが成長する。
チタンを含む第1ガスとしては、TiCl4ガスを挙げることができる。Alを含む第2ガスおよび第3ガスとしては、AlCl3ガスを挙げることができる。窒素を含む第4ガスとしては、NH3ガス、N2ガスを挙げることができる。また、第1ガス〜第4ガスのそれぞれとともに、H2ガス、Arガスなどのキャリアガスを導入してもよい。
各ガスの噴出速度は、各管路16a〜16d内に導入する各ガスの導入速度(L/min)、各管路16a〜16dに通じる導入孔17の数、大きさ等を制御することにより容易に制御できる。たとえば、本実施形態において、図4に示すような導入管16を用いることもできる。
図4は、CVD装置における導入管の他の一例を示す概略的な断面図であり、導入管16の長軸方向に垂直な断面を示している。図4において、導入管16の内部には、3つの管路16e〜16gが設けられており、管路16eに1つの貫通孔17が連通し、管路16fに2つの貫通孔17が連通し、管路16gに1つの貫通孔が連通している。また、管路16eと連通する2つの貫通孔17の大きさは異なっている。この構成においては、管路16eにTi含有ガスが導入され、管路16fにAl含有ガスが導入され、管路16gにN含有ガスが導入される。
管路16f内に導入されたAl含有ガスは2つの貫通孔17から噴出されることになるが、各貫通孔17の大きさが異なることにより、各噴出速度が相違することになる。具体的には、大きい貫通孔17から噴出されるAl含有ガスの噴出速度は、小さい貫通孔17から噴出されるAl含有ガスの噴出速度よりも低くなる。したがって、図4に示す導入管16を用いた場合には、各貫通孔17の大きさおよび導入する各ガスの導入量(L/min)を適切に調製することによって、各ガスの噴出速度(m/sec)を制御することができる。
また、本実施形態では、第1ガス〜第4ガスのそれぞれが、中心点(導入管16の中心点)に関し、互いに90°の位相を有した状態で反応容器13内に噴出される場合を例示したが、好ましくは40°以上55°以下である。この理由は明確ではないが、反応容器内において、噴出位置が隣り合う各ガスの噴出方向において40°以上55°以下の位相が存在することにより、TiとAlの含有割合が適切な揺らぎをもった状態で各基材11上に到達するものと考えられる。なお、各ガスの噴出方向が上述の40°以上55°以下の位相を有する場合に、導入管16の回転速度は、2rpm以上10rpm以下であることが好ましい。
さらに、第1ガスの噴出速度は、好ましくは1m/sec以上4.5m/sec以下であり、より好ましくは3m/sec以下である。また、第2ガスの噴出速度は、好ましくは2m/sec未満であり、より好ましくは0.5m/sec以上1.5m/sec以下である。また、第3ガスの噴出速度は、好ましくは2m/sec以上5m/sec以下であり、より好ましくは2.5m/sec以上4.5m/sec以下である。本発明者らは、種々の実験を重ねることにより、このような噴出速度に制御した場合に、多層構造含有層の積層周期をより均質にできることを確認している。
また、本工程において、実施時間を調整することにより、上記成長層の厚みを制御することができる。たとえば、噴出工程の実施時間を短くすることによって成長層の厚みを小さくすることができ、長くすることによって成長層の厚みを大きくすることができる。また、第1単位層および第2単位層の各厚さは、導入管16の回転速度を調整することによって制御することができる。たとえば、回転速度を低くすることによって、各層の厚さを大きくすることができ、回転速度を高くすることによって、各層の厚さを小さくすることができる。また、第1単位層を構成する第1結晶、および第2単位層を構成する第2結晶のサイズは、炉内温度を調整することによって制御することができる。たとえば、炉内温度を高くすることによって、各結晶のサイズを大きくすることができ、炉内温度を低くすることによって、各結晶のサイズを小さくすることができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。以下の説明において、各層の厚さは、被膜の断面をSTEMを用いたSTEM高角度散乱暗視野法(HAADF−STEM:High-Angle Annular Dark-field Scanning Transmission Electron Microscopy)で観察することにより測定したものである。また、各層におけるAlおよびTiの含有割合は、EDX装置を用いた分析結果より算出した。また、各層の結晶構造は、TEM装置を用いた電子線回折パターンによって評価した。また、各層を構成する結晶のサイズは、X線回折パターンから算出した。
≪被膜を有する工具の作製≫
<基材の準備>
まず、被膜を形成させる対象となる基材として、以下の表1に示す基材Lおよび基材Mを準備した。具体的には、まず、表1に記載の配合組成から成る原料粉末を均一に混合した。表1中の「残り」とは、WCが配合組成(質量%)の残部を占めることを示している。次に、この混合粉末を所定の形状に加圧成形した後、1300〜1500℃で1〜2時間焼結することにより、超硬合金からなる基材を得た。
<被膜の作製:No.1〜26(実施例)>
上記基材の表面に、表2に示す構造の被膜(No.1〜16)および表3に示す構造の被膜(No.17〜26)を形成した。これにより、基材上に被膜が形成された切削工具(No.1〜26)を得た。
表2および表3において、下地層は被膜の最内層であって基材の表面と直接接する層であり、中間層は下地層上に形成された層であって多層構造含有層であり、表面層は中間層上に形成された層であって、外部に露出する層である。なお、1つの欄内に2層(たとえば、「TiN−TiCN」)が記載されている場合、左側(「TiN」)の層が下層(すなわち、基材表面のより近くに位置する層)であることを意味し、「−」のみで示される欄は、該当する層を有さないことを意味する。
たとえば、表2のNo.1の切削工具は、基材Lの表面上に0.5μmの厚みのTiN層および2.5μmの厚みのTiCN層からなる下地層が形成され、その上に後述する形成条件aで形成された5.0μmの厚みの中間層が形成され、さらにその上に0.5μmの厚みのTiBN層および3.0μmの厚みのAl23層からなる表面層が形成された構成であり、各層からなる被膜全体の厚みが11.5μmであることを示す。
上記表2および表3に示す下地層および表面層は、従来公知のCVD法によって形成された層であり、その形成条件は下記表4に示す通りである。たとえば、表4の「TiN(下地層)」の行には、下地層としてのTiN層の形成条件が示されている。表4を参照し、TiN層(下地層)は、CVD装置の反応容器内(容器内の環境は6.7kPa、915℃)に基材を配置し、該反応容器内に2体積%のTiCl4ガス、39.7体積%のN2ガスおよび残り58.3体積%のH2ガスからなる混合ガスを63.8L/minの流量で噴出することにより形成された。なお、各形成条件によって形成される層の厚さは、CVD工程を実施する時間、すなわち、各ガスを噴出する時間によって制御した。
また、上記表2および表3に示す中間層は、多層構造含有層であり、下記表5および表6に示す形成条件a〜gのいずれかによって形成された。たとえば、形成条件aによれば、多層構造含有層である中間層は次のようにして形成された。すなわち、まず、基材または下地層が形成された基材を、図1に示すCVD装置の反応容器内に配置し、その後、反応容器内が830℃、2kPaとなるように制御し、CVD装置の導入管を5rpmで回転させた。そして、反応容器内に導入される全ガス流量が60L/minとなるように、導入管内に設けられた3つの管路内に、Ti含有混合ガス(第1ガス)、Al含有混合ガス(第2ガスおよび第3ガス)、N含有混合ガス(第4ガス)の各ガスを導入した。なお、各形成条件によって形成される層の厚さは、CVD工程を実施する時間、すなわち、各ガスを噴出する時間によって制御した。
上記Ti含有混合ガス、Al含有混合ガス、N含有混合ガスは、表6に示される混合割合の混合ガスが用いられた。具体的には、形成条件aにおいて、Ti含有混合ガスは、TiCl4ガス、H2ガス、Arガスの混合ガスであり、Al含有混合ガスは、AlCl3ガス、H2ガス、Arガスの混合ガスであり、N含有混合ガスは、N2ガス、H2ガス、Arガスの混合ガスである。なお、表6に示される値は、反応容器内(導入管内)に導入される全ガスの体積における各ガスの体積の割合を示している。
図5は、実施例における第1ガス〜第4ガスの噴出方向を示す模式図であり、中心点Wは、反応容器13内を上方から見下ろした場合の導入管16の中心点を示しており、かつ図中に示される円の中心点である。また、各矢印はその近傍に記載される各ガスの噴出方向を示している。また、図5に示されるように、噴出位置が隣り合う各ガスの噴出方向には、それぞれ45°の位相が存在する。
具体的には、Ti含有混合ガス(第1ガス)が導入された管路は、導入管の軸方向に関する垂直断面を観察した場合に、導入管の中心を中心点とした90°の角度(中心角)を成す位置に形成された2つの貫通孔に連通するように設計されており、かつこれらの貫通孔の大きさは同じとした。すなわち、Ti含有混合ガスは、導入管の軸方向の各位置(各高さ)において、90°の角度(中心角)を成す2つの方向に噴出され、かつ噴出される噴出速度は同じとなった。これにより、形成条件aにおいて、導入管の中心から、90°の角度を成す2方向のそれぞれに、2.6m/secの噴出速度の第1ガスが噴出された(表5参照)。
また、Al含有混合ガス(第2ガスおよび第3ガス)が導入された管路は、導入管の軸方向に関する垂直断面を観察した場合に、導入管の中心を中心点とした90°の角度(中心角)を成す位置に形成された2つの貫通孔に通じるように設計されており、かつこれらの貫通孔の大きさは異なるように設計した。すなわち、Al混合含有ガスは、導入管の軸方向の各位置(各高さ)において、90°の角度(中心角)を成す2つの方向に噴出され、かつ噴出される噴出速度は異なっていた。すなわち、形成条件aにおいて、導入管の中心から、90°の角度を成す2方向のそれぞれに、Al混合含有ガスが噴出され、かつ、1方向(貫通孔の大きい方)に0.6m/secの噴出速度の第2ガスが、他の1方向(貫通孔の小さい方)に3.6m/secの噴出速度で第3ガスが噴出された(表5参照)。
また、N含有混合ガス(第4ガス)が導入された管路は、導入管の軸方向に関する垂直断面を観察した場合に、隣り合う貫通孔が、導入管の中心を中心点とした90°の角度(中心角)を成す位置に形成された4つの貫通孔に通じるように設計されており、かつこれらの貫通孔の大きさは全て同じとした。すなわち、N混合含有ガスは、導入管の軸方向の各位置(各高さ)において、90°の角度(中心角)を成す4つの方向に噴出され、かつ噴出される噴出速度は同じとなった。これにより、形成条件aにおいて、導入管の中心から、90°の角度(中心角)を成す4方向に、1.5m/secの噴出速度で第4ガスが噴出された(表5参照)。
表7に、各形成要件a〜iによって形成された中間層の詳しい構成を示す。表7を参照し、たとえば、形成条件aによって形成された多層構造含有層において、fcc型結晶構造を示すTiAlN層(第1単位層)におけるAlの含有割合(原子比)の平均値が0.50であり、hcp型結晶構造を示すTiAlN層(第2単位層)におけるAlの含有割合(原子比)の平均値が0.75であった。また、第1単位層を構成する結晶サイズの平均値が8nmであり、第2単位層を構成する結晶サイズの平均値が9nmであった。また、第1単位層および第2単位層の積層構造からなる積層周期は20nmであり、第1単層および第2単位層の各厚さの平均値は、それぞれ10nmであった。
<被膜の作製:No.31〜40(比較例)>
上記基材の表面に、表8に示す構造の被膜(No.31〜40)を形成した。これにより、基材上に被膜が形成された切削工具(No.31〜40)を得た。
表8において、下地層は被膜の最内層であって基材の表面と直接接する層であり、中間層は下地層上に形成された層であり、表面層は中間層上に形成された層であって、外部に露出する層である。なお、1つの欄内に2層(たとえば、「TiN−TiCN」)が記載されている場合、左側(「TiN」)の層が下層(すなわち、基材表面のより近くに位置する層)であることを意味し、「−」のみで示される欄は、該当する層を有さないことを意味する。
たとえば、表8のN0.31の切削工具は、基材Lの表面上に0.5μmの厚みのTiN層および2.5μmの厚みのTiCN層からなる下地層が形成され、その上に後述する形成条件yで形成された5.0μmの厚みの中間層が形成された構成であり、各層からなる被膜全体の厚みが8.0μmであることを示す。なお、表8に示す下地層および表面の形成条件は、表4に示す通りである。
また、表8に示す中間層の形成条件xに関し、特許文献2に開示される従来のCVD法を用いた。具体的には、まず、噴出工程として、基材が配置されたCVD装置の反応容器内(圧力:1.0kPa、温度:800℃)に、AlCl3ガス、TiCl4ガスからなる混合ガスと、NH3ガスとを異なる管路に各々導入させた。このとき、混合ガスにおけるAlCl3ガスおよびTiCl4ガスの各流量は0.0009mol/minおよび0.00015mol/minとなるように調整され、NH3ガスの流量は0.09mol/minとなるように調整された。なお、混合ガスとともに、キャリアガスとしてH2ガス(流量:2.9mol/min)およびN2ガス(流量:1.0mol/min)が導入され、NH3ガスとともに、キャリアガスとしてN2ガス(流量:0.9mol/min)が導入された。なお、導入管はその軸を中心に2rpmで回転していた。この条件でのCVD処理の時間を変更することにより、No.36〜40に示す厚さの中間層を形成させた。
また、表8に示す中間層の形成条件yに関し、特許文献1に開示されるPVD法を用いた。具体的には、まず、PVD法に用いられる蒸着装置の炉内の一方にTiターゲットを設置し、その向かい側にAlターゲットを設置し、各ターゲット間の中央のターンテーブル上に基材を配置した。そして、該ターンテーブルを50rpm/分で回転させながら、炉内にN2ガスを3000cc/minで導入し、真空アーク放電によりTiターゲットおよびAlターゲットを蒸発、イオン化させた。なお、このときの炉内の圧力および温度は、それぞれ1×10-2Torrおよび500℃となるように維持させた。この条件でのPVD処理の時間を変更することにより、No.31〜35に示す厚さの中間層を形成させた。
形成条件xによって形成された中間層は、Ti0.1Al0.9Nの組成を主とする単層からなる層(Ti0.1Al0.9N層)であり、層は主にfcc型結晶構造を有していた。また、fcc型結晶構造を有する結晶サイズの平均値は50nmであった。一方、形成条件yによって形成された中間層は、4nmの厚みのTiN層と4nmの厚みのAlN層とが交互に積層された積層構造からなる層(AlN/TiN層)であり、TiN層とAlN層のそれぞれはfcc型結晶構造を有していた。
≪試料A〜I、XおよびYの作製≫
後述する弾性回復率および耐酸化性を確認するための試料として、形成条件a〜iによって基材L上に多層構造含有層が形成された試料A〜Iを作製し、形成条件xによって基材L上にTi0.1Al0.9N層からなる上記単層が形成された試料Xを作製し、形成条件yによって基材L上にTiN層とAlN層とが交互に積層された積層構造からなる上記層(AlN/TiN層)が形成された試料Yを作製した。また、各試料A〜I、XおよびYは、下地層としてTiN層(厚さ1μm)を備えるように構成させた。なお、各形成条件a〜i、xおよびyにおけるCVD処理時間およびPVD処理時間を制御して、基材上の中間層の厚さを5μmに調製した。
≪評価≫
<多層構造含有層の観察>
No.18(形成条件d)の被膜を用いて、中間層である多層構造含有層の観察を行った。図6に、第1単位層および第2単位層からなる多層構造含有層におけるHAADF−STEM写真を示し、図7に、図6に示す層の厚み方向におけるEDX装置を用いた分析結果を示す。
図6を参照し、淡色を呈する層状の領域と濃色を呈する層状の領域とが交互に繰り返された構造が観察された。淡色を呈する領域がAl含有量の比較的低いTiAlN、すなわち第1単位層に相当し、濃色を呈する領域がAl含有量の比較的高いTiAlN、すなわち第2単位層に相当する。
また、図7を参照し、第1単位層および第2単位層によって構成される積層構造において、AlおよびTiの各含有量は、それぞれEDXパターンにおいて波形を示し、また、各含有割合は相対的に変化していることが確認された。なお、図7において、縦軸は各元素の含有割合を、横軸は測定開始地点(出発地点)からの距離を示している。また、TEM装置を用いた電子線回折パターンによって、第1単位層および第2単位層を構成する結晶構造が、それぞれfcc型結晶構造およびhcp型結晶構造であることも確認した。
<弾性回復率>
試料A〜I、XおよびYが有する被膜について、超微小押し込み硬さ試験機(製品名:「ENT−1100a」、(株)エリオニクス社製)を用い、前述の測定方法および算出方法に従って、各層の押し込み硬さ、押し込み弾性率および弾性回復率を分析した。その結果を表9に示す。
表9を参照し、上述の特異的なCVD法によって作製された多層構造含有層を有する試料A〜Iは、従来のCVD法である形成条件xによって作製された単層を有する試料Xの被膜よりも高い弾性回復率を有することが確認された。また、試料A〜Hの被膜は、50%以上という特に高い弾性回復率を示した。表7および表9を参照するに、第1単位層および第2単位層を構成する結晶サイズが20nm以下であること、積層周期が50nm以下であることの少なくともいずれか一方が、弾性回復率に寄与していると考えられた。本発明者らは、結晶サイズと弾性回復率との間の統計解析、および積層周期と弾性回復率との間の統計解析を行い、特に積層周期と弾性回復率との間に高い負の相関関係が見られたことから、主に積層周期が弾性回復率に寄与していると考えている。
<耐酸化性>
試料A〜I、XおよびYの試料を加熱炉内(大気雰囲気下)に載置させ、加熱炉内が900℃となるように加熱した。そして、試料A〜I、XおよびYの試料における各被膜が完全に酸化されるまでの時間を測定した。なお、被膜が完全に酸化されたかどうかは、X線解析により評価した。その結果を表9の「酸化時間(min)」に示す。
に示す。
表9を参照し、上述の特異的なCVD法によって作製された多層構造含有層を有する試料A〜Iの被膜は、試料Xの被膜および試料Yの被膜よりも完全酸化に要する時間が長かった。このことから、多層構造含有層からなる被膜が従来の被膜よりも高い耐酸化性を有することが確認された。
<切削性能>
No.1〜26、31〜40の各切削工具を用いて、以下の切削試験1〜5の切削試験を行い、各切削工具の切削性能を評価した。
<切削試験1:丸棒外周切削試験>
以下の表10に示すNo.の切削工具について、以下の切削条件により逃げ面摩耗量(Vb)が0.20mmとなるまでの切削時間を測定するとともに刃先の最終損傷形態を観察した。その結果を表10に示す。切削時間が長いもの程、耐摩耗性に優れていることを示す。また、最終損傷形態が正常摩耗に近いもの程、耐溶着性に優れていることを示す。なお、表10の最終損傷形態において、「正常摩耗」とはチッピング、欠けなどを生じず、摩耗のみで構成される損傷形態(平滑な摩耗面を有する)を意味し、「チッピング」とは仕上げ面を生成する切れ刃部に生じた微小な欠けを意味する。
<切削条件>
被削材:SUS316丸棒外周切削
周速:150m/min
送り速度:0.15mm/rev
切込み量:1.0mm
切削液:あり。
表10を参照し、No.1〜6の各切削工具はNo.35の切削工具に比して耐摩耗性に優れていることが分かった。なかでも、No.1〜5の各切削工具は、耐摩耗性に優れるとともに耐溶着性にも優れることが分かった。これは、多層構造含有層を含む被膜が、他の被膜(従来のCVD法による被膜)と比して高い硬度と高い耐酸化性とを有するためと考えられる。
<切削試験2:丸棒外周切削試験>
以下の表11に示すNo.の切削工具について、以下の切削条件により逃げ面摩耗量(Vb)が0.20mmとなるまでの切削時間を測定するとともに刃先の最終損傷形態を観察した。その結果を表11に示す。切削時間が長いもの程、耐摩耗性に優れていることを示す。また、最終損傷形態が正常摩耗に近いもの程、耐溶着性に優れていることを示す。なお、表11の最終損傷形態において、「正常摩耗」とはチッピング、欠けなどを生じず、摩耗のみで構成される損傷形態(平滑な摩耗面を有する)を意味する。
<切削条件>
被削材:S35C丸棒外周切削
周速:200m/min
送り速度:0.15mm/rev
切込み量:1.0mm
切削液:あり。
表11を参照し、No.7〜11の各切削工具は、No.32およびNo.37の切削工具に比して耐摩耗性に優れていることが分かった。これは、多層構造含有層を含む被膜が、他の被膜と比して高い硬度と高い耐酸化性とを有するためと考えられる。
<切削試験3:溝材耐チッピング性試験>
以下の表12に示すNo.の切削工具について、以下の切削条件により工具刃先部において欠損またはチッピングが発生するまでの切削時間(分)を測定した。その結果を表12に示す。切削時間が長いものほど、耐疲労靭性に優れていることを示している。
<切削条件>
被削材:SCM435溝材
周速:250m/min
送り速度:0.10mm/s
切込み量:1.0mm
切削液:あり。
表12を参照し、No.12〜16の切削工具は、No.33およびNo.36の切削工具と同等あるいはそれ以上の耐疲労靱性を有することがわかった。特に、No.12〜15の切削工具が高い耐疲労靱性を有するのは、これらの切削工具が有する多層構造含有層が高い弾性回復率を有するためと考えられる。
<切削試験4:ブロック材耐チッピング性試験>
以下の表13に示すNo.の切削工具について、以下の切削条件により欠損または逃げ面摩耗量(Vb)が0.20mmになるまでのパス回数および切削距離を測定するとともに刃先の最終損傷形態を観察した。その結果を表13に示す。パス回数が多いもの程(すなわち切削距離が長いもの程)、耐摩耗性に優れていることを示す。また、最終損傷形態が正常摩耗に近いもの程、耐衝撃性に優れていることを示す。なお、表13の最終損傷形態において、「正常摩耗」とはチッピング、欠けなどを生じず、摩耗のみで構成される損傷形態(平滑な摩耗面を有する)を意味し、「欠損」とは切れ刃部に生じた大きな欠けを意味する。
パス回数とは、下記被削材(形状:300mm×100mm×80mmのブロック状)の一側面(300mm×80mmの面)の一方端から他方端までを、切削工具(刃先交換型切削チップ)を1枚取付けたカッタにより転削する操作を繰り返し、その繰り返し回数をパス回数とした(パス回数に少数点以下の数値を伴うものは、一方端から他方端までの途中で上記の条件に達したことを示す)。切削距離とは、上記の条件に達するまでに切削加工された被削材の合計距離を意味し、パス回数と上記側面の長さ(300mm)との積に相当する。
<切削条件>
被削材:SUS304ブロック材
周速:200m/min
送り速度:0.2mm/s
切込み量:2.0mm
切削液:なし
カッタ:WEX3032E(住友電工ハードメタル社製)
チップ:AXMT170508PEER−G1枚刃(住友電工ハードメタル社製)。
表13を参照し、No.17〜21の各切削工具は、No.34、39の切削工具に比し、耐摩耗性に優れており、さらにNo.39の切削工具に比し、耐衝撃性に優れていた。これは、多層構造含有層を含む被膜が、他の被膜と比して高い硬度と高い耐酸化性とを有するためと考えられる。
<切削試験5:ブロック材耐チッピング性試験>
以下の表14に示すNo.の切削工具について、以下の切削条件により欠損または逃げ面摩耗量(Vb)が0.20mmになるまでのパス回数および切削距離を測定するとともに刃先の最終損傷形態を観察した。その結果を表14に示す。パス回数が多いもの程(すなわち切削距離が長いもの程)、耐摩耗性に優れていることを示す。また、最終損傷形態が正常摩耗に近いもの程、耐衝撃性に優れていることを示す。なお、表14の最終損傷形態において、「正常摩耗」とはチッピング、欠けなどを生じず、摩耗のみで構成される損傷形態(平滑な摩耗面を有する)を意味し、「チッピング」とは仕上げ面を生成する切れ刃部に生じた微小な欠けを意味する。
<切削条件>
被削材:FCD600ブロック材
周速:150m/min
送り速度:0.2mm/s
切込み量:2.0mm
切削液:なし
カッタ:WEX3032E(住友電工ハードメタル社製)
チップ:AXMT170508PEER−G1枚刃(住友電工ハードメタル社製)。
表14を参照し、No.22〜26の各切削工具は、No.35、40の切削工具に比し、耐摩耗性に優れていた。これは、多層構造含有層を含む被膜が、他の被膜と比して高い硬度と高い耐酸化性とを有するためと考えられる。さらに、No.22〜25の各切削工具は、特に耐衝撃性に優れていた。これは、No.22〜25の各切削工具が有する多層構造含有層が高い弾性回復率を有するためと考えられる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
10 CVD装置
11 基材
12 基材セット治具
13 反応容器
14 調温装置
15 導入口
16 導入管
16a〜16f 管路
17 貫通孔
18 排気管
19 排気口

Claims (5)

  1. 1または2以上の層により構成され、
    前記層のうち少なくとも1層は、Ti1-xAlxNからなる第1単位層と、Ti1-yAlyNからなる第2単位層とが交互に積層された多層構造を含む被膜であって、
    前記第1単位層はfcc型結晶構造を有し、前記Ti1-xAlxNにおけるxは0<x<0.65を満たし、
    前記第2単位層はhcp型結晶構造を有し、前記Ti1-yAlyNにおけるyは0.65≦y<1を満たし、
    前記被膜の膜厚方向における弾性回復率が50%以上である、被膜。
  2. 前記第1単位層を構成する第1結晶のサイズおよび前記第2単位層を構成する第2結晶のサイズのそれぞれの平均値が20nm以下である、請求項1に記載の被膜。
  3. 前記多層構造において、前記第2単位層を挟んで隣り合う前記第1単位層間の距離が5nm以上50nm以下であり、
    前記距離は、1つの前記第2単位層を挟んで隣り合う2つの前記第1単位層間の厚さ方向の距離であって、1つの前記第1単位層の厚さ方向中間から、他の1つの前記第1単位層の厚さ方向の中間までの最短距離である、請求項1または請求項2に記載の被膜。
  4. 前記第1単位層は、絶対値が2GPa以下である圧縮残留応力を有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の被膜。
  5. 基材と、前記基材を被覆する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の被膜と、を含む切削工具。
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