JP7398395B2 - 銅電解精製の改善 - Google Patents

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Description

本発明は、一次資源、つまり新鮮な鉱石から、及び還元可能材料としても知られる二次原料から、又はそれらの組み合わせから、乾式製錬プロセス工程によって銅の製造を行うことに関する。還元可能材料は、たとえば副生成物、廃棄物、及び使用済み材料とすることができる。本発明は、より詳細には、乾式製錬によって得られ、かつ不純物を含有する銅流から成形されたアノードを電解精製することによる、さらなる精製に関する。
乾式製錬による銅の製造においては、ニッケル、アンチモン、ビスマス、スズ及び/又は鉛などの他の金属、また多くの場合、少量の貴金属(PM:precious metal)、具体的には銀(Ag)が、一次原料及び二次原料の両方を含み、対象となる商業用原料の多くに含有されている。
乾式製錬プロセス工程では、その銅生成物流を、今日の市場で通常要求されている99.97重量%以上の高純度まで経済的に浄化することはもはやできなくなっており、たとえば電子用途で非常に細い銅線を引くことができるようにするためには、99.995重量%以上が必要となる。このため、銅地金製造プロセスには通常、精製プロセスの最終工程として、電解精製工程が含まれる。
銅の電解精製では、銅は電圧差を使用して、通常は約99重量%のCuを含有する純度の低い銅アノードから電解液(主としてCu→Cu2+2eによる)へと溶解され(主として電気化学的に誘発された「腐食」によって)、かつカソード(主としてCu2+2e→Cuによる)に再堆積して、より純度の高い銅層を形成する(Cuが99.97重量%以上となり、多くの場合、Cuが99.99重量%まで含有される)。この電解液は通常硫酸系である。これらの2つの化学(半)反応は、0.337ボルトの理想的な状況下での標準電位差によって特徴付けられる。
アノードとカソードとの間の電圧差を厳しい限界値内に維持することにより、カソードへの金属の堆積が、ほぼ銅のみによって行われるように制御することができる。溶液中の他の金属は電気化学的に堆積すべきではない。
理論上は、2つの化学半反応には対向電圧差があるため、電解精製槽を操業するために必要な正味の電圧差はごくわずかである。ただし、回路全体にさまざまな抵抗があるために、電解精製槽が操業可能となるために必要となる電圧差は、実際にはカソードとアノードとの間で0.15ボルト(V)以上、すなわち150 mV以上となる。
銅の電解精製(ER:electrorefining)は、銅の「電解採取」(EW:electrowinning)とは明らかに異なる。電解採取では、第1の工程で、銅鉱石などの固体原料から銅を浸出させることにより(厳密には、化学的「腐食」により)銅を酸性溶液に溶解させる。銅を充填した電解液は、たとえば有機溶媒によるものを含む抽出によって適宜銅濃度を上昇させた後、化学的に不活性なアノードで電解槽を通して送られ、ここでは、銅は電流の働きによってカソード上に堆積することになる。電解採取槽のアノードでは、水が電気化学的に分離し(2HO→4H+4e)、これによって水素イオン(H)が溶液中に残留し、また酸素原子が気泡内に集積して、これが電解液表面まで上昇する。電子はアノードからカソードまで電気回路を通って移動し、そこでER槽と同様に、銅(主としてCu2+2e→Cuによる)を堆積させるために利用できるようになる。このため、EWでは2つの半反応はそれらの逆反応ではなく、標準電位が異なっており、その結果、EW槽では0.892ボルトの理論上最小限の正味電圧差が必要となる。この理論上の最小値を超えると、アノード及びカソードの過電圧を克服するために別の電圧差が必要となり、また電解質の接点及びオーム抵抗に関連した電圧降下が発生することになる。したがって、EW槽での操業電圧差は通常、ER槽よりも有意に大きくなり、アノードとカソードとの間で1.8~2.5ボルト程度となる。
電解精製槽は、主としてカソードのターゲット重量生成率を維持するために、設置されたカソード表面のターゲット電流(A)又は電流密度(A/m)が当該槽を通して維持されるように、通常は制御されている。ただし操業中は、主に電解浴において余分な電気抵抗が発生する。この影響により、特にアノード表面の電気抵抗が増加するため、この現象は多くの場合、「アノード不動態化」と呼ばれている。いくつかの要因が関与している可能性があり、(i)アノードスライムが形成されてアノード表面に蓄積し、アノードからカソードへの銅カチオンの流れが損なわれること、(ii)アノードの腐食により、電極間距離が拡大すること、(iii)電解液に添加剤が添加されることで、電解液を流通するカチオンの流れが損なわれること、及び(iv)さらに別のメカニズムがこれらの要因として挙げられる。電流密度が高くなることも、アノード不動態化を加速させることを付記しておく必要がある。
当該槽を流れる一定の電流密度、つまり一定の槽生産性を維持するための通常の操業目標を考慮して、カソードとアノードとの間の電圧差は通常、当該槽で電気抵抗が増加した場合に、それ補うために(自動的に)上昇する(I=V/R)。
ただし、電圧差が大きくなり、かつ/又は電流密度が高くなると、たとえそれが局所的にのみ作用するとしても、電解精製槽に他の、そしてあまり望ましくない効果をももたらす可能性がある。最適電圧から逸脱すると、あまり望ましくない(電気)化学反応が起こる可能性があり、これにより、他のいくつかの金属もカソード上に堆積し始め、その結果カソードの純度が低下し、このために経済的価値が低くなる可能性がある。
主としてカソードの純度を確保するために、銅電解精製槽の電圧は通常、特定の範囲内、典型的には0.2~0.6Vに保たれ、ほぼ確実に1.6V以下などの特定の最大値未満となる。電解採取槽の電圧差は、電解精製槽の電圧差よりも有意に大きくなるが、これはEWの電圧差が、最初に銅の電気化学反応の標準電極電位0.34Vを克服する必要があり、次に水を電気化学的に分解するために、追加の駆動力をもたらす必要もあるためである。このため、EW槽の電圧差は通常、1.8~2.5Vの範囲内となる。
また、電解精製の電流密度は通常、400A/m以下となるなど、典型的には上限値未満に制限されており、これはカソードの純度確保と同様の理由だけでなく、平坦性、強度、及び硬度などのカソード品質における他の側面や、先に述べたように、アノード不動態化を制限することを理由としている。
銅よりも電位が貴であり、アノード及び/又は電解液にはるかに低い濃度で存在するPbなどの金属だけでなく、Ag、Auなどの貴金属、及びPtやPdなどの白金族金属(PGM:platinum group metal)も含む金属は通常、溶液に有意に溶解することはない。本発明の文脈において、より正の標準電極電位(E°)、すなわち電気化学反応「Me→Men++ne」を有効にするのに必要な最小電圧を特定の金属が有する場合、その金属は標準金属(本文脈では銅である)よりも「電位が貴」と呼ばれ得る。電解精製では、電気的駆動力は通常、アノードに存在し、より電位が貴となる金属を電気化学的経路を介して溶液に押し出すには不十分な高さに保たれる。
ただし本出願人らは、一方で「電気化学的な」溶液、すなわち電気化学的経路を使用して、つまり電力を消費しながら溶液に溶解する場合と、他方で純粋に「化学的な」溶液、すなわち電力を何ら消費せずに溶液に溶解する場合とを区別している。この純粋に化学的な経路を介して溶液に溶解できる金属としては、Sn、As、Sb、及びBiが挙げられる。
電気化学的に「不溶性」の金属を含む他の金属の多くは、純粋に「化学的な」メカニズムによって依然として溶解する可能性がある。たとえば、Pbは溶解することができるが、硫酸アニオンの存在下では、電解液への溶解度が非常に低い塩PbSOが形成されるため、これが溶液から生じて沈降するPb化合物を形成する傾向がある。
これらの比較的「不溶性」の金属の周りにある銅は溶解し、またこうして銅が消失することで、これらの金属が電解液に浮遊する遊離金属粒子として残留し、これらの金属は通常液体よりも密度が高いため、槽底部に向かって移動しやすくなるか、又は海綿状の膜(たとえば、電解液に溶解しない固形物であるPbSOとしてのPb)の形成をもたらし、この海綿状の膜は、アノード表面がより多くの銅の継続的な溶解によって後退するにつれて、このアノード表面に形成される。
電解採取では、アノードで銅が溶解することはない。したがって、アノード表面にアノードスライム及び/又は海綿状の膜が形成されることは、電解採取ではほとんど認識されていない課題である。これらの課題は電解精製では典型的なものであり、実質的にこの電解精製でのみ起こる。
電解精製の既知の技術では、アノードスライムを、電解液に浸透させ、アノードが溶解し続けることによって後退するにつれて、またカソードが成長し続けるにつれて、槽底部にこのスライムが集積することが好ましい。アノードが消費されそうになると、全ての電極が浴から引き上げられ得、アノードスライムの上方にある電解液がポンプで送り出され得、またアノードスライムを除去して回収することにより、槽底部が浄化され得る。アノードスライム粒子がカソード内にカプセル化されて銅カソードの汚染を形成するリスクを最小限に抑えるために、これらのアノードスライム粒子が重力下で、槽底部にできるだけ速く移動することが好ましい。したがって、電解精製の分野では、槽中での電解液の動きがほとんどなく、緩慢であることが典型的であり、かつ好ましい。槽中の乱流は、銅以外の金属の粒子又は塩がカソードに引っ掛かり、最終生成物を汚染するリスクを高める傾向がある。
従来の銅電解精製におけるアノードの典型的な銅含有量は、98重量%以上である。「The Purification of Copper Refinery Electrolyte」、Journal of Metals(JOM)誌、2004年7月、30~33頁で、コンサルタントのJames E.Hoffmannは、自身の論文「アノード銅中の可溶性元素不純物の濃度」の表Iで、ヒ素、アンチモン、ビスマス、鉄及びニッケルを、認識しているさまざまなアノード組成において、ppm単位で示している。個々の元素の数は大きく異なっている可能性があるが、列記されている全ての元素の合計は4545ppm以下、すなわち0.45重量%以下である。この論文はまた、アノード銅にも0.3%以下の酸素が含有されている可能性があると述べている。各組成の残部が銅であると仮定すると、このことは、当該論文でこの著者によって開示された銅アノード組成が、常時99.2455重量%以上の銅を含有するという観察結果につながり、これはすなわち、従来の電解精製のアノード純度に関する上記の記述と一致している。当該論文は、銅の電解精製操業における電解液の制御に関するものである。当該論文では、溶媒抽出やイオン交換などの代替案について簡単に説明されているが、主として循環電解液から引き出される連続ブリード流の処理に焦点を当てている。当該論文は、電解液サイクル自体、及びその操業方法についても関係しておらず、それに関する詳細も何ら示していない。
他の文献では、低めの純度を有するアノードを使用して、銅電解精製を行うことを試みている。
米国特許第2286240号明細書では、実質的に90%の銅、3.5%のスズ、5%の鉛、0.5%の亜鉛、並びにアンチモン、ニッケル、及び鉄などの他の残金属を含有する典型的なアノードから出発して、電解精製を含む金属の回収に取り組んでいる。ここで例示されているのは、86.0%以下の銅を有するアノードである。当該文献に開示されているアノードのいずれにおいても、酸素の存在は報告されていない。当該文献では、特に鉛が存在する場合に、好ましくは相当量の硫酸又は硫酸塩が存在しない状態で、主電解剤としてスルホン酸を有する電解液を使用することを提案している。当該文献では、電解槽からのアノードスライムの除去については言及していない。
旧東ドイツ国経済特許第45843号明細書では、90.00重量%のCuを含有するアノードを使用した、バッチ式銅電解精製操業について開示されている。5リットルの電解液総量の温度は58~59℃であり、当該浴が3時間ごとに入れ替えられるように槽上で循環させている。電解精製は、電解液中の硫酸ニッケル、スズ、及び/又はアンチモンの濃度が上昇して液が混濁するまで続けられる。次に、14.63g/lのNiを含有する濃縮電解液を沸点まで加熱し、酸化剤で処理して、スズ及びアンチモンを白色スラッジ混合物(「白色スラッジ(Weissschlammenge)」)として除去し、銅を除去した後に蒸発させて、水を含有しない硫酸ニッケルとしてニッケルを結晶化させる。旧東ドイツ国経済特許第45843号明細書のアノードは、1.00%ものFeなどの不要な鉄を大量に含有している。旧東ドイツ国経済特許第45843号明細書のプロセスには、バッチ中にアノード不純物が電解液に蓄積する可能性があるため、カソードを汚染するリスクが高まるというさらなる欠点がある。旧東ドイツ国経済特許第45843号明細書は、得られた銅カソードの品質に関する情報を示していない。
米国特許第4351705号明細書には、ニッケル、アンチモン、及び/又はスズで汚染された銅含有材料の精製プロセスが開示されている。第1の製錬所では、50~80重量%の銅を含有する黒色銅が製造される。この黒色銅は、残銅がブリスターグレードになるまで一連の酸化工程にかけられ、副生成物として転炉スラグを形成する。ブリスター銅は、約98~99重量%の銅を含有するアノード銅へとさらに精製され、アノードに鋳造され、次いで電解精製工程10で処理される。転炉スラグで選択された部分は、第2の精錬工程12において、中程度に還元する雰囲気下で約1200~1300℃の温度で製錬され、完全に還元された金属生成物13のスラグ残渣114及びバッチを生成する。例示され、かつアノードへと鋳造される金属生成物のうちで、鋳造前に追加のコバルト及びニッケルが添加された実施の形態3のものを除く完全に還元された金属生成物は、63.9~82.10重量%の銅と、10.50重量%以上のニッケルとを含有していた。実施の形態4では、アノードは2.0重量%の鉄を含有し、また実施の形態5では0.5重量%のFeを含有していた。次の電解工程では、これらのアノードを、工程10などのブリスター銅電解精製セクションから引き出される電解室の電解液、又は同様の銅及びニッケル含有量を有する電解液に浸漬した。平均電流密度の161A/m及び172A/mは、実施の形態の電解槽全体で維持された。アノード不動態化の発生は報告されていない。アノード及び槽底部の両方で、電解中にスライムが形成されていた。電解は最長194時間(実施の形態1、8日間)まで続けられ、その時点でカソードの総不純物濃度は200 ppmまで上昇し、このためにカソードの純度は99.98重量%まで低下した。電解液は経時的に組成が変化することが示され、すなわちその銅含有量は大幅に低減し、ニッケル含有量は上昇した。アノード上及び槽底部上のスライムは、実施の形態1及び実施の形態3では、推定上電解処理の最後に各別に収集された。米国特許第4351705号明細書の電解は、比較的短いバッチ処理で行われたが、スライムの蓄積、電解液中の銅の枯渇及びニッケルの蓄積、並びに生成されるカソードにおける不純物濃度の上昇のために中止しなければならなかった。
電解採取の分野では、槽中及び槽内部にも高い電解液循環を適用するのが標準的であり、これは、この循環によって槽中のバルク銅濃度が回復し、電極上の停滞膜が小さく保たれ、このために、カソード表面で銅カチオンの可用性が高まり、したがって槽生産性が向上するためである。さらに、電解採取槽では、アノード表面で酸素気体が形成されるため、酸素気体の気泡が上昇して槽中の液体の動きをさらに促進する。電解採取では、気体(通常は空気)を当該浴に導入し、この気泡に電解液を流通させることが極めて典型的となっている。これにより、気泡が電解液の乱流を増大させる効果が高まり、さらに電解液の上方にある雰囲気中の酸素が希釈され、電解採取槽の上方にある酸素富化雰囲気に関連し得る課題が軽減されることになる。
カソード汚染のリスクが高まるにもかかわらず、電解精製槽内でも液浴中に気体注入を導入することが、当技術分野で提案されている。米国特許第1260830号明細書では、二酸化硫黄ガスを注入し、これをアノード表面に向かって送ることが提案されている。また、国際公開第2011/085824号パンフレット、及びそこに引用されているいくつかの文献も参照している。しかしながら、国際公開第2011/085824号パンフレットでも、米国特許第4263120号明細書でも、電解精製操業の一部として空気注入を適用する際に起こる、カソード汚染のリスク上昇については考察も開示もされていない。
米国特許第3928152号明細書、並びに、同様にそのファミリーメンバーである米国特許第3875041号明細書、米国特許第4033839号明細書、及び米国特許再発行特許出願第30005号明細書では、カソード表面において635~1517A/mに変換される59~141アンペア毎平方フィート(ASF:ampere per square foot)の範囲内の電流密度での銅の電着(EW:electrodeposition)で空気注入を行うことについて開示されており、この電流密度は、「対面で1インチ未満が最適」とするように、電極距離が比較的狭いために達成可能であると主張されている一方、不溶性アノードに対しては、それらの側部に対流バッフル18と、それらの底部に延長部20とが設けられ、これらはPVC製であり、したがって電気絶縁性であり、これに空気注入によるさらなる攪拌が加わっている。気泡が上昇すると、カソード表面での電解液の対流の増大を促進し、浮遊粒子がカソード表面に付着するのを防止する。アノード底部の延長部20は、底部ラック54に収容されている。これらの構成要素は、対流バッフル20と共にカソードブランクと不溶性アノードとの間隔縮小を維持し、その下端は、気泡管支持部材56に収容することによって定位置に維持されている。米国特許第3928152号明細書及びその他のファミリーメンバーにおける詳細な例は全て、電解採取に関するものである。当該文献では、そのガス攪拌システムが電解精製条件下で広範に試験されていることを提示しており、これによって300 ASFの高さの電流密度であってもアノード不動態化が発生せず、電解液の対流が活発であるために完全に未然に防止されたとされ、また浮遊するアノードスライムによって、カソード堆積物が汚染されることはなかったとされている。これらの記載されていない電解精製操業中に使用される可溶性銅アノードの品質についても、また槽中の電解液の入れ替え率についても、米国特許第3928152号明細書にも、その他のファミリーメンバーにも情報が示されていない。また、電解液中の銅の枯渇やアノードスライムの過度の蓄積を回避するために取るべき措置についても、何ら言及されていない。したがって、アノードは従来どおりの品質であり、典型的には98.5重量%以上の銅を含有しているという結論にならざるを得ず、この結論が、電流密度が高いにもかかわらず、アノード不動態化が観察されなかったことを出願人が容認する裏付けとなっている。
電解液に溶解するアノード不純物の多く、たとえばNi、Fe、Co及びMnなどは、電解液の密度及び粘度を上昇させる傾向があり、このことは電解槽中の物質・熱移動メカニズム、たとえば銅カチオンの動きと、当該浴の底部に向かって移動する重いアノードスライム粒子の沈降速度とに影響を与える。特に鉄(Fe)は、電解液においてその密度及び粘度を上昇させ、これによって銅カチオンがカソードに向かう途中で克服する必要のある抵抗と、アノードスライムが槽底部に向かう途中で克服する必要のある抵抗とを高める元素である。
アノードがより多くの不純物を含有するにつれて、アノード表面上で海綿状の膜が形成されることが「アノード不動態化」を引き起こす増加要因となる可能性があり、すなわち、Cuカチオンがアノード表面からカソードへ表面へと向かうそれらの経路で克服する必要のある、余分な障害物又は抵抗が形成されることになる。槽中で所望の電流密度を維持するために、アノード不動態化がより深刻になるにつれて、当該槽の電圧が上昇する。この海綿状の膜は、さらに金属粒子へと分解し得るものであり、これらの粒子が十分に重い場合には、いわゆるアノードスラッジ又はアノードスライムの一部として、重力によって電解槽の底部に集積する可能性がある。したがって、アノードスライム粒子が重い場合には、槽底部から蓄積するダスト雲を形成する恐れがある。
槽底部へと沈降していく途中でアノードスライム中に集積するはずの粒子は、電極に沿って移動し、カソード中に不純物として含有される可能性がある。これらの粒子はCuの結晶パターンを乱し、カソード表面の不均一な成長と、それに続くデンドライトの成長とを引き起こし、これらは短絡を生じ、その結果生産性を低下させる恐れがある。
銅アノード中で他の金属汚染物質の濃度が上昇すると、上記の課題が深刻化する恐れがあることは明らかであり、これはすなわち、アノード不動態化の課題が生じ、これが加速的に増大していく恐れがあるため、当該槽の電圧が急速に上昇し、またカソードの不純物濃度がその最大許容濃度へと急速に到達する可能性があるということである。
ただし、たとえばカソードの純度に制約があるために、当該槽に最大許容電圧が課される場合がある。他の制限要因としては槽内の発熱が挙げられ、これは、槽壁に熱ひずみ及び亀裂さえも引き起こす恐れがあり、かつ/又は電気的絶縁経路の溶融又は故障をも引き起こす恐れがある。
したがって、これらの課題を軽減するプロセスの必要性が残っている。したがって、本発明は、銅アノードにおける高めの不純物濃度、すなわち、低めの純度を有する銅アノードの許容に関し、これは、許容可能で経済性の高い歩留まりで、許容可能な銅カソード品質での製造を維持する一方で、槽生産性をも高く保ちながら、同時に上流のプロセスパラメータ及び原料の許容基準の緩和をもたらすものである。
C.Andersonらによる、「The application of copper metallurgy in the recovery of secondary precious metals」、Proceedings of Copper 99-Cobre 99 International Conference、第III巻-Electrorefining and Electrowinning of Copper、米国鉱物・金属・素材学会、1999年、529~543頁には、75.0重量%未満の銅と、0.8重量%を超える貴金属(Ag、Au、Pd、Pt)を含有するアノードから出発する、1リットルの槽での3つの電解精製試験について記載されている。ここでの目標は、アノードスライム中の全ての貴金属を回収しながら、販売可能な銅カソードの状態まで銅を回収できることを実証することであった。1リットルの槽容積は、いずれの電極も導入される前の空の槽容積に関連していると仮定することができる。全ての試験中、3リットルの総電解液量は、330ml/分、すなわち19.8リットル/時の流速で、1リットルの槽とポンプで駆動される加熱式の保持ジャー上とを循環した。この文献では、いずれかの試験において、アノードスライムの副生成物が収集され、分離され、計量され、かつ分析された時点やその場所が特定されていない。当該槽で1時間当たり1980%の高い電解液入れ替え率(=19.8l/h:1l*100%)となることを考慮すると、アノードスライムが槽自体に沈降した可能性はほとんどない。一部のアノードスライムは試験中に保持ジャーに集積した可能性があるが、各試験の最後に電解液総量が完全に排出かつ/又は収集され、またアノードスライムが沈降できるようになるまで、電解液と共に試験全体を通してずっと継続的に循環していた可能性が高い。したがって、電解精製の操業サイクルの最後にのみ、アノードスライムが回収された可能性が最も高い。当該試験では、173.65A/m以下の電流密度が使用された。この論文に記載されている電解精製操業における第1の課題は、電解液の入れ替え率が高く、したがって当該槽を流通する液の流動性も高まるため、槽中の規定の電極距離を維持し、かつ隣接電極が物理的に接触することによる短絡のリスクを回避することが、非常に困難となることである。記載されている電解精製操業における第2の課題は、電流密度が低いことであり、これは、槽生産性が比較的低いことを示している。この文献では、173.65A/mの高めの電流密度で操業したわずか3日間における最終試験中に、アノード不動態化が観察されなかったと述べられている。アノード中に存在する不純物の濃度が高いにもかかわらず、アノード不動態化が観察されなかったことは、適用された入れ替え率が非常に高く、なおかつ電流密度が低かったことを理由として説明できる可能性が最も高い。
本発明は、上記の課題を回避又は少なくとも軽減すること、及び/又は概して改善をもたらすことを目的とする。
本発明によれば、添付の特許請求の範囲のいずれかに定義しているように、銅電解精製プロセス及び銅アノード供給用組成物を提供する。
一実施形態では、本発明は、電解浴中の銅金属を、硫酸系の電解液を使用して、少なくとも1つの銅アノードから少なくとも1つの銅カソードへと電解精製することを含む、銅製造プロセスを提供するものであり、本銅製造プロセスは、
・電解槽中のアノードとカソードとの間の電圧差が1.6ボルト未満に維持され、
・アノードが98.0重量%以下の銅を含有し、
・アノードが1.00重量%未満の鉄を含有し、
・当該槽中の電流密度が、カソード表面の180A/m以上であり、
・電解精製操業中、1時間当たり30%以上、かつ1900%以下の平均電解液入れ替え率で電解液が電解精製槽から除去され、また電解液の第1の流れに少なくとも1つの槽壁上をオーバーフローさせることにより、少なくとも部分的に電解液が除去され、また、
・当該槽に気体が導入され、アノード及びカソード間において電解液中でバブリングされることを特徴とする。
別の実施形態では、本発明は、本発明に係るプロセスにおいて銅アノード電解精製に適したものにするのに好都合であり、90.10重量%以上、かつ97重量%以下の銅を含有する溶融液体金属組成物を提供するものであり、その残部は不純物としての他の元素であり、その一部として、この溶融液体金属組成物は、
・0.1重量%以上のニッケルと、
・0.0001重量%以上、かつ1.00重量%未満の鉄と、
・250重量ppm以上、かつ3000重量ppm以下の酸素とを含有する。
本発明に係る金属組成物中の不純物は、主として他の金属、酸素、並びに任意選択で硫黄及び/又はリンである。金属とは、本発明の文脈においては、主として炭素、シリコン、セレン、テルル、及びポロニウムなどの元素の左側にあり、またこれらを含む、2007年6月22日付けのIUPAC元素周期表に位置する元素を意味した。本発明に係る金属組成物中に最も頻繁に発生する不純物は、ニッケル、アンチモン、スズ、鉛、ビスマス、ヒ素、亜鉛、鉄、セレン、テルル、銀、金、白金、パラジウム、酸素、硫酸及びリンからなる群より選択されている。
本出願人らによれば、好ましくは本組成物の酸素含有量を本発明の文脈で好ましい濃度まで低減した後、いくつかの追加の措置を行えば、本発明に係る金属組成物が、従来の電解サイクルで操業できる、本発明に係る電解精製プロセス用のアノードの鋳造に適した金属組成物を提供できるという効果をもたらすということが分かっている。本出願人らによれば、たとえば当該アノードが、好ましくはその酸素含有量を規定どおりに低減した後、本発明に係る金属組成物から生成される場合、本発明に係るプロセスの一部として設けられる追加の手段が、アノード材料の純度が低めであることや、その不純物濃度が高めであることに関連した課題を制御するのに十分であることが分かっている。
本出願人らによれば、本発明に係る金属組成物が一連の乾式製錬プロセス工程によって製造される場合、酸素含有量を規定の上限値及び下限値内に収めることへの準拠が特に重要であることが分かっており、またこのプロセスの最終製造工程では、2018年12月11日に出願された我々の同時係属中の特許出願である、国際出願PCT/EP2018/084374に記載しているように、上澄液のスラグ相と平衡状態にある重い溶融液体金属の相で構成された液浴を作製している。本出願人らによれば、酸素濃度が過剰になる、すなわち規定された上限値を超えることが、アノードの鋳造を目的とした溶融液体銅金属の相の銅含有量を増加させるのを補助するが、これによって他の過剰な量の有価金属が最終的にスラグ相を形成することが分かっている。特にニッケルには、銅が大量に存在し、なおかつ酸素濃度が高過ぎると酸化し、最終的にスラグ相を形成する傾向がある。このニッケルは、その後プロセス全体の最終スラグでゼロ値で失われる可能性があり、廃棄の課題を引き起こす可能性さえある。また、スズ、アンチモン、及び/又は鉛の大部分には、これらの条件下でニッケルと同じ道をたどる傾向がある。ニッケルやその他の金属はそのスラグから回収できる可能性があるが、その場合、プロセス全体から別の解決法を見出す必要がある。なぜなら、ニッケルは精錬プロセスにおいて銅とほとんど同様に挙動する傾向が高いので、ニッケルにおいて銅を伴う以外の別の解決法を見出したいという所望は、不可能ではないにしても、厳しい課題であることに変わりはない。本出願人らよれば、酸素濃度を規定どおりに制御することにより、特にニッケルに対し、本発明に係るプロセスにおけるアノードの不純物として、上流の精錬プロセスを離脱させることができると分かっている。
本出願人らによれば、本発明に係る溶融液体金属組成物中の酸素濃度を規定された濃度内に制御すれば、有意な量のニッケルが本溶融液体金属組成物の一部として吸収され得るという利点をもたらすことが分かっており、これにより、当該量のニッケルの大部分を、本発明に係るプロセスの電解工程の下流で回収して、これを経済的価値へと変換することができる。これにより、上流の精錬プロセス工程で原料、すなわち従来の銅製造プロセスでは処理がより困難である原料を含有する有意な量のニッケルを許容でき、また本プロセス工程で、アノード材料として、典型的には98.0重量%を超えるCuを含有する「ブリスター」銅など、高純度の銅を製造できるという利点がもたらされる。
アノード中の酸素濃度が過剰になると、鋳造後及び冷却時にアノード表面が変形するリスクを高めることが分かった。本出願人らはこの理論に拘束されることを望まず、酸素が過剰に存在すると、凝固の後期でアノード表面の下に気泡が局所的に形成される可能性があり、これらの気泡内の圧力が、理想的な平坦表面から逸脱することになる表面の歪みを発生させると考えている。これらの逸脱は、電極間隔距離を小さくして操業したいという所望を考慮すると、望ましいとは言えない。したがって、本出願人らは、本発明に係るプロセスにおける、アノード組成物中の酸素の上限値を尊重することを好む。
アノード中の酸素濃度が過剰になると、より多くの銅がアノード中に酸化銅(I)として存在していることになり、この酸化銅(I)は化学経路に従って電解液に溶解し、その中の銅濃度を上昇させる。この銅の回収は通常、電解液のブリード流に追加の電解採取工程を実行することによって行われ、この工程は複雑で、相当な負担を別途伴うものである。「Effect of As,Sb,Bi and Oxygen in Copper Anodes During Electrorefining」、Proceedings of Copper誌、2010年、1495~1510頁において、C.A.Moellerらによって述べられているように、アノード中の酸素濃度が高くなると、とりわけ電流密度が高い状態ではアノード不動態化をさらに促進することになる。
したがって、本出願人らによれば、とりわけニッケル存在下で、特に組成物中の非銅不純物の濃度と共に、本発明に係る溶融液体金属組成物中の酸素濃度を規定された濃度内に維持することが、いくつかの理由から有利であることが分かっている。そのような正当な理由の1つとしては、溶融液体金属組成物中の酸素が少ない場合、当該金属から鋳造されるアノード内の気孔が少なくなることが挙げられる。その結果、アノード表面は平滑化し、またアノードは平坦化することになり、これらの要素はどちらも槽中のアノードの配列を改善し、電解精製操業中に当該槽中の電極間の距離をより均一なものにする。本出願人らによれば、「ポーリング」などの既知の手段によって、本発明に係るプロセスにとって好ましい濃度までさらに酸素濃度を低下させ、これによって金属酸化物を元素金属へと変換する、具体的には酸化銅を銅地金へと変換することが容易に可能であることが分かっており、後者は電解液に電気化学的に容易に溶解し、本発明に係るプロセスにおいて、カソードへと移行する。
本出願人らによれば、本発明に係る溶融液体金属組成物が、本発明に係る溶融液体金属組成物を製造する上流の乾式製錬プロセス工程において、ニッケルの好ましい出口手段であることが分かっている。ニッケルは電解液中に濃縮され、電解液サイクルからブリード流が引き出され、そのニッケル含有量が選択的に回収されて、ニッケル元素へと品位向上し得るため、本発明に係るプロセスにおいて容易に許容される。
「The Purification of Copper Refinery Electrolyte」、JOM誌、2004年7月、30~33頁で、James E.Hoffmannは、主として電解液サイクルから引き出されるそのようなブリード流を処理することによって、銅電解精製操業において電解液の組成を制御するいくつかの実践例について記載している。ここで述べられている不純物には、従来のカソード成長改変添加剤の加水分解から発生するSb、Bi、As、Ni、Ca、アンモニア、及び有機フラグメントが含まれる。すでに上述したように、この論文における可溶性銅アノード中の不純物濃度は低く、またこの論文におけるアノードの銅純度は、本発明の一部として規定している濃度をはるかに上回っている。
本出願人らによれば、本発明に係る溶融液体金属組成物中、並びに本発明に係るプロセスにおけるアノード組成物中に有意な濃度で存在し得る金属不純物のうちで、電解サイクルにおけるニッケルの挙動が極めて特異なものであることが分かっている。本出願人らによれば、ニッケルが硫酸系の電解液に硫酸ニッケルとして溶解し、かつ興味を引く高さの濃度まで蓄積し得、その後、この塩が操業上の課題及び/又はカソード品質の懸念を引き起こす可能性があることが分かっている。さらに、本出願人らによれば、電解液中のニッケルを当該電解液から、好ましくは電解液サイクルから引き出されるブリード流から極めて容易に回収することができ、またこのニッケルを、経済的価値のあるものへと容易に品位向上させることができると分かっている。本出願人らによれば、ニッケルを回収して品位向上させることができるのと同時に、引き出される電解液中に溶解した銅の大部分も回収して品位向上させることができ、また当該酸を電解精製に再循環できると分かっている。
本出願人らによれば、ニッケルの回収及び品位向上を行う本方法が、本発明に係る溶融液体金属組成物及び/又は本発明に係るプロセスにおけるアノードを生成する上流の乾式製錬プロセスに投入されるニッケルにとって、1つの出口をもたらす好ましい方法を呈していると分かっている。
本発明に係る溶融液体金属組成物及び/又は本発明に係るプロセスのアノードにおいて有意なニッケル濃度が許容されることにより、金属組成物を製造する上流の銅精製プロセスへと原料を投入する際の許容範囲が拡大されることになる。このことは、上流プロセスの操業者がニッケル含有量の高い原料をより有意な量で許容できるという利点と、この理由から、本発明に係るプロセスに関連のない他のプロセスの操業者には当該原料が許容されにくいか、又は限られた量しか許容され得ないという利点をもたらす。したがって、ニッケル含有量が少なめの原料よりも魅力的な条件及び量で、そのような原料を入手できる可能性がある。
本出願人らによれば、本発明に係る溶融液体金属組成物中及び/又は本発明に係るプロセスにおけるアノード中、したがってニッケル回収の電解液サイクルから引き出される電解液中においてもニッケル濃度が高めであることに起因して、電解液中のニッケル濃度が高くなることにより、ニッケル回収及び品位向上の工程の有効性と効率性とが改善されることが分かっており、これはなぜなら、より小規模の装置で、なおかつエネルギー及び/又はプロセス化学物質の消費量をより少なく抑えながら、より多くのニッケルを回収し、かつ品位向上させることができるからである。
さらに、本出願人らによれば、アノードの鉄含有量を規定どおりに制限することに有意な利点があることが分かっている。本出願人らによれば、電解液中に鉄が溶解していることで、当該槽を流通する電流の一部がアノードからカソードへの銅カチオンからの送達に寄与しないという点で、有意なエネルギー非効率性をもたらすことが分かっている。本出願人らはこの理論に拘束されることを望まず、推定ではアノードで起こる半反応Fe2+→Fe3++eによって、電解液中の鉄カチオンが容易に価数を変えることができ、またFe3+カチオンがカソードまで移動した後、このカソードで逆の半反応Fe3++e→Fe2+が起こり、これによってFe2+カチオンがアノードに戻ることができると考えている。このメカニズムにより、電解液に有意な量の鉄が含まれている場合、電流の一部が銅カチオンの送達に寄与せずに、当該槽を通過する可能性があるという観察結果の説明がつく。したがって、当該電流のこの部分は、高価なリソースを非生産的に使用する状態を呈している。
さらに、本出願人らによれば、アノード中、したがって電解液中に鉄が存在するために、同等の銅カソード生産性を維持するのに追加の、ただし寄与しない電流が必要となり、このことが本発明が対処し、かつ解決すべき課題を増大させていることが分かっている。電流が増加すると、当該槽の電圧が上昇し、それも急速に上昇することになり、その結果、本明細書で前述したように、カソード中の汚染物質濃度が上昇し、最大許容濃度へと急速に到達することになる。電流が増加すると、槽中でより多くの熱が発生し、場合によってはホットスポットが発生して、本明細書の他の箇所でも述べている別の課題が生じることになる。またこれにより、同等の銅生産性を確保するために、電流密度がより高く上昇せざるを得ず、以下に詳述しているように、このことがカソード汚染への寄与を高める。
鉄は、アノードから電解液へと溶解すると、当該電解液の密度及び粘度を上昇させ、このことは電解槽中の物質・熱移動メカニズム、たとえばカソードに向かう途中の銅カチオンの動きと、当該浴の底部に向かって移動する重いアノードスライム粒子の沈降速度とに影響を与える。アノード中、したがって電解液中のFe含有量が高い場合、銅カチオンがカソードに向かう途中で克服する必要のある抵抗と、アノードスライムが槽底部に向かう途中で克服する必要のある抵抗とが高まる。
このため、本発明に係るプロセスにおけるアノード、及び本発明に係る溶融液体金属組成物は、規定された上限値未満の濃度で鉄を含有するべきである。
本発明に係る溶融液体金属組成物、及び好ましくは本発明に係るプロセスにおける銅アノードもまた、任意選択で、鉄を0.0001重量%以上、好ましくは0.0005重量%以上、より好ましくは0.0010重量%以上、より一層好ましくは0.0025重量%以上、好ましくは0.0050重量%以上、より好ましくは0.0075重量%以上、より一層好ましくは0.010重量%以上、好ましくは0.015重量%以上、より好ましくは0.020重量%以上、より一層好ましくは0.025重量%以上含有する。本出願人らによれば、本発明に係るアノード組成物及び/又は溶融液体金属組成物中の鉄を1重量ppmの検出限界値未満の濃度まで除去する必要はなく、少量の鉄を残留させることが有利であることが分かっている。このことは、本発明に係るプロセスにおけるアノードの基礎を形成する金属が製造される上流のプロセス工程の制約、厳密性、及び操業負担を緩和するものである。なお、このために、本発明に係る溶融液体金属組成物に対して規定された、かつ本発明に係るプロセスで使用する銅アノードの組成物に対して規定された鉄含有量の下限値は、所望の結果を得るために必要とされる本発明の本質的な特徴ではない。このことと、本発明が基づく技術的効果との間に何ら技術的関連はない。電解精製工程の上流に位置する関連した利点のために、下限値を尊重することが好ましい。
本出願人らは、電解精製アノードに鋳造するのに適した液体溶融銅生成物を製造する乾式製錬プロセスでは、通常は還元剤及び/又はエネルギー源として鉄金属を使用することを提案している。したがって、本発明に係る溶融液体金属組成物中及び/又は規定したような本プロセスにおけるアノード組成物中に測定可能な量の鉄が存在することは、これらの組成物及び/又はアノードが、実験用途及び厳密に制御された試験に特に望ましい組成を有するアノードを得るために、純銅を他の金属と高純度で結合させて、通常実験室規模で行うように合成的に得た結果ではなく、これらが乾式製錬プロセスによって生成されたことを示す有用なマーカーとなっている。
本出願人らによれば、銅含有量が少なく、したがって汚染物質濃度が高く、典型的には他の金属を含有する銅アノードの電解精製を行う場合、そしてこれを規定どおりの高電流密度で行う場合、アノード中の不純物濃度が上昇するにつれてますます解決が困難になることが分かっており、これは、アノード汚染物質と高電流密度とが協調してアノード不動態化の課題を悪化させてしまうためである。本出願人らによれば、本発明の特徴を、とりわけ互いに組み合わせることにより、この課題を解決できることが分かっている。
本出願人らによれば、アノード及びカソード間の電解液中に気体を導入し、そして電解液を流通するこの気体をバブリングすることを、本電解精製操業において、好ましくは当該間隙のアノード側で行うと、電解液の攪拌が強化されることが分かっている。この気体導入が、本明細書で以下に詳述しているように適切に実行された場合、その影響が最大になる電極間で局所的にこの効果が得られるが、その一方で、槽中の他の場所、たとえばアノードスライムの有意な部分が集積している槽底部での液流にはほとんど影響しない。第一に、このように液体攪拌が強化されることで、アノードからカソードへの対流によるCu2+カチオンの物理的送達が増進される。このことは、電極間の液中の乱流を増大させ、対流による送達を加速させるだけでなく、アノード表面及び/又はカソード表面において、停滞してそこを通過する送達が拡散によるものとなる拡散境界層を低減することによっても実現する。さらなる利点は、槽全体の温度やあらゆるプロセス化学物質の濃度がより均一に分布することであり、これにより、電流分布の均一性がさらに改善される。この効果は、浴の攪拌がない場合、又はこれが少ない場合と比較して、高い槽生産性を可能にする一方で、槽電圧差を小さめに維持し、またより高い純度のカソードを得ることができるという利点をもたらしている。槽電圧差が小さいほど、同じ製品歩留まりで消費電力が低下するという効果が得られる。
本出願人らはこの理論に拘束されることを望まず、このことが、アノード表面上に継続的に蓄積される海綿状の膜が物理的に還元され、かつ機械的に分解されることや、銅濃度及び/又は汚染金属濃度の点から、また温度の点から、そして添加剤の点から電解液濃度の均一化が促進されることに起因したものであると考えている。これにより、これらのパラメータのいずれかに関連して、当該浴内で局所的な「ホットスポット」が発生するリスクが低下する。
温度並びに/又は銅、不純物金属、及び添加剤の濃度に関して発生するこのようなホットスポットは、有害となる可能性がある。汚染金属は槽上で、又は特定の電極対間若しくは同じ電極上の異なるスポット間という局所であっても、局所的に電圧を発生させ、かつ上昇させる可能性があり、これにより、槽生産性及びカソード品質を低下させる恐れがある。カソード端の銅が不足すると、堆積速度が低下する可能性がある。ニッケルなどの可溶性金属に局所的なホットスポットが存在すると、そのような金属塩の局所的な堆積を招く恐れがある。局所的な温度変化は、槽壁及び/又は異なる槽部若しくは槽要素間に電気的絶縁をもたらす絶縁経路に損傷を与える恐れがある。局所的な温度変化はまた、一部のプロセス化学物質又はプロセス添加剤の劣化を加速する可能性があり、カソードの事前剥離、すなわち、すでに電解精製中にその基板からカソード銅層が早期に剥離することにさえなる恐れがある。この事前剥離は、短絡や生産損失を容易に招くことになる。
本出願人らは、アノード中に鉄が存在する場合に上限値を規定することが、電圧の低下、電力消費の低減、及びホットスポット発生の減少など、ここで述べている利点に寄与すると提案している。電解液中の鉄を制限すると、電流効率が上昇し、また電解液中の物質・熱移動を増進することになる。
本出願人らによれば、電解槽からの電解液除去率が規定された下限値に準拠する必要があることを明示している特徴が、当該浴の攪拌を増大させることにさらに寄与することが分かっている。これにより、電解浴中への気体の導入、及びこれを流通する気体のバブリングに関連して上述した効果がさらに高まる。
本出願人らによれば、当該浴からの電解液の高い除去率、及び/又は当該浴を流通する気体のバブリングによってもたらされる追加の乱流によって、当該浴内で電解液速度が速まることで、驚くほど有意な効果がもたらされることが分かっており、これは、あらゆる海綿状の膜の蓄積、したがってその厚さ、並びに/又はアノード表面及び/又はカソード表面へのスライム粒子堆積のリスクまでもが制限されるためである。本出願人らの観察によれば、この海綿状の膜は極めて脆いため、気体のバブリングもこの海綿状の膜に機械的な影響を与えている可能性があると考えている。本出願人らは、電解液中で液体速度が速まることもまた、アノード上の海綿状の膜を分解すること、またアノードスライムの懸濁粒子を電極から離隔させることに大きく寄与すると考えている。
当該浴からの電解液除去率が高くなることによっても、アノード及びカソード間の空隙に存在する電解液中の固体粒子の蓄積が制限される。除去率が高くなることにより、本発明の一部として、電解液を浄化して電解精製槽に戻す前に、除去する電解液から形成されたアノードスライム粒子の少なくとも一部を除去する機会がもたらされる。本明細書の他の箇所でも述べているように、本発明の特徴は、「アノード不動態化」の影響を有意に制限することが分かった。
電解精製槽から除去される電解液には、アノードスライムの懸濁粒子が含まれる。アノードスライム粒子が重い場合、電解液を流通する気泡の動きとは反対に、これらは電解液中で容易に沈下し得るが、アノードスライム粒子が軽い場合は、それほど容易に沈降せず、当該表面に向かって上昇する傾向があり、ここでこれらの粒子は、電解液オーバーフローによって当該槽に同伴され、なおかつ当該槽から除去される。したがって、電解液除去率が高くなることで、軽量のアノードスライムの少なくとも一部で高い除去率を呈することになる。このことは、当該槽からのアノードスライムの除去率が高くなるという利点をもたらす。このことは、時間の経過とともに槽中に蓄積し得るアノードスライムの総量が、制限されたままになるという利点をももたらす。除去する電解液に同伴させるなどして、アノードスライムを頻繁に又は連続的に除去することにより、汚染金属がカソードに蓄積する可能性が低くなる。電解精製操業持続期間の終了時のみ、したがってアノードを消尽した後にのみ、アノードスライムに接触するよりも、より頻繁に接触できることの別の利点は、アノードスライムへの接触可能性がより広範な期間に広がることにある。このことは、アノードスライムのさらなる処理期間を経時的により均等に分散させることができるという利点をもたらし、その際、装置のサイズを縮小化でき、投資コストを減少させることができるという効果ももたらし、これと共に、当該処理に要する操業や計画立案が、このアノードスライム処理が連続モードで操業されるようになるまで簡易化されることになる。さらなる利点は、PGMを含有するPMが存在することに大きく起因して、これらのアノードスライムが有意な値を示す可能性があるために、アノードスライムへの接触手段を改善することにより、操業設備において、大抵はアノードスライムの継続的残留に費やされ得る運転資本の量が減少することにある。
ただし、本出願人らによれば、電解精製槽を通過する電解液流動性が過度に高い場合、他の課題を生じる可能性があることが分かっている。通常、アノードとカソードとは、槽内で直近の近接槽からそれらの設計距離だけ離隔して、交互に並んだ状態で、厳密に垂直に自重で緩く垂れ下がっている。アノード表面及びカソード表面間の物理的な距離により、カチオンが電解液中を移動しなければならない距離が定まる。この電解液中で発生するカチオンの物質流れが、槽全体の電気抵抗の重要な要素、したがって、全体の電気抵抗を克服し、望ましい電流密度、ひいては槽生産性を確保するのに必要となる電圧差にとって、有意な要因となる。槽中の電極が物理的に移動又は転位することにより、電極距離がもはや均一ではなくなり、その結果、電流密度分布が不均一になり、カソードの成長速度が局所的に上昇し、また添加剤濃度が局所的に不適切なものになり、これによってカソード品質が低下する恐れがある。隣り合う電極も同様に、電気的短絡を呈するため、互いと物理的に接触しないようにする必要がある。電解精製においてアノード及びカソード間の短絡が発生すると、電解の駆動力となる両者間の電位差が除去され、したがって、アノードでの電気化学的溶解及びカソードでの銅の堆積が停止し、またこのことは、多くの電力が局所的な熱放散へと変換される一方で、2つの電極が強く相互結合する原因にさえなり得る。
槽中の液体運動が一方の電極を押圧してその近傍電極へと接近させる可能性があるため、物理的接触のリスクが上昇するなど、上記の課題を引き起こす恐れがある。カソードでの金属成長が不均衡となる可能性があるため、この懸念はより複雑なものになる。デンドライトが形成される可能性があり、これがカソード表面に対して垂直に突出する場合がある。ただし、本明細書の他の箇所でも述べている海綿状の膜のように、アノード表面でも不均衡が形成される可能性がある。したがって、特定の電解槽が設計される際に基づく電極距離は、通常、一方では槽全体で必要となる電位差を低減したいという所望と、他方では隣り合う電極間で発生する物理的接触、つまりは短絡のリスクを、全電解サイクル中一貫して制限したいという所望との間の許容可能な均衡を意味している。電解精製において電解液が移動するために移動しやすくなる電極は、特に電解サイクル開始時のカソード及び/又は電解液入口に最も近接したカソードであり、これはなぜなら、これらのカソードが最も軽量となり、かつ/又は高めの液流圧力に直面する可能性があるからである。同様に、当該サイクル終了時のアノード、つまりは使用済みアノードと呼ばれるものも、重量が低下しているために有意なリスクを呈することになる。
当技術分野において、また上記の一部の文献において、電解槽中で電極を降下させたときにこの電極が嵌合するような、槽壁又は底部に対するガイドなどの物理的手段によって、電解槽中の電極の動きを制限することが提案されている。ただし、カソード上の金属成長がカソードを当該ガイド又はラックに固定する可能性があり、その結果、電解サイクル終了時に、槽中の当該ガイド及び/又はラックからカソードを解除することが困難又は不可能にさえなる場合があることが課題となっている。この課題は、出発時のアノードの純度が低い場合、すなわち、より多くのアノードスライムが形成され、アノード表面に海綿状の膜が形成される可能性がある場合、また汚染粒子が多く存在するようになり、これらがカソード内にカプセル化されるリスクがあるため、電解精製でさらに一層解決が困難なものになる。カソード表面は不均一に成長する可能性があり、またアノードまでの距離が短くなるため、カソードの成長はこれらの突起部上で継続されることが好ましく、これにより、カソード表面の残部からさらに延在する「デンドライト」が形成される。特にアノードがスズとアンチモンとを比較的多く含有している場合、Sn/Sb金属間化合物及び/又は金属間酸化物が形成され得、ブランクの槽壁及び側板上でこれらが大きく成長し、槽壁又は底部に設けられたあらゆる結合部若しくはクランプから完成したカソードを放出する際、これを損なう傾向がある。
槽壁若しくは槽底部に対する電極の動きを制限するためにガイド又はクランプを設けることに関連した別の課題は、重いアノードスライムを当該槽から除去する際に、特にこれを電解サイクル中に実行することを好む場合、除去作業がこの設置によって妨げられることである。これらの電極ガイドは、たとえば槽底部からのスラッジ採取を行う吸引ヘッドの動きに対して、障害物を形成する可能性がある。槽底部に物理的な固定具があると、最初に取り外しておかない限り、当該槽からのスラッジ採取を妨げることになる。また、槽壁に沿って設けられた垂直の電極ガイドは、スラッジ採取用の吸引ヘッドをガイドする水平壁固定具の障害物となる可能性がある。したがって、電極ガイドを設ける実現性は、電解サイクル中に重いアノードスライムを除去するための措置と併せて制限される。
本出願人らによれば、アノードの不純物濃度が高いために、本発明に係る電解精製プロセスが、槽中の電極の動きを制限するガイドを設ける任意選択肢を制限していることが分かっている。このため、本発明に係るプロセスにおいて、当該槽からの電解液除去率に対して上限値を規定する目的は、操業中の電極の動き、つまりは短絡発生のリスクを制限すると同時に、スラッジ採取が損なわれないように、槽壁に沿って、又は槽底部上などに、物理的な電極ガイドを広範囲に設置する必要性を回避することにある。槽中の電解液入れ替え率を制限することによっても、電解液を循環させるのに必要な装置及びエネルギーへの投資と、これらの操業コストとが節約される。
したがって、本出願人らによれば、電解液中に気体が導入され、かつバブリングされ、また電解槽を流通する電解液の流動性が、当該槽中の軽量のアノードスライムの濃度を制御するのに十分高いが、それでも液流の圧力によって引き起こされる電極の動きが低下したままとなり、また電極の動きを制限する物理的ガイドを設ける必要をなくして、当該槽からの重いアノードスライムの採取が損なわれないようにする程度に、この流動性が十分低いままとなる場合、純度の低いアノードから出発しても、電解精製を良好に操業して高品質のカソードを生成できることが分かっている。
したがって本発明は、銅アノード中の不純物濃度が上昇することによってもたらされ得る、カソード品質への悪影響を低減する。その結果本発明は、純度の低い銅アノード、すなわち、不純物濃度が有意に高いアノードの処理を可能にしている。
本出願人らによれば、電解精製によって市販の高純度の銅カソードへとさらに精製することができる、アノードへの鋳造に適し得る銅流の純度要件が、本発明に係るプロセスによって大幅に緩和されることが分かっている。本発明に係るプロセスにより、最新技術の場合と比較して、アノード中での汚染金属濃度がはるかに高くなることが許容されるようになる。これは、アノードが生成される上流プロセスを、厳密性が低い状態、たとえば品質制約がそれほど厳しくない状態で実施できることを意味しており、このことは、生産性が向上する効果をもたらし得る。
本出願人らによれば、本発明に係るプロセスにより、銅を銅カソードとして回収することに関して、有意な妥協を何ら伴わずにこの効果が得られることが分かっている。
また、本出願人らによれば、本発明に係るプロセスにより、他の金属が最終的に銅カソードを形成する量を商業的に許容可能なレベルまで制限しながら、この効果が得られることが分かっている。
さらに、本出願人らによれば、Bi、Sn、Pb、As及びSbだけでなく、Ag、Au、Pd、Ptなどの貴金属を含む、アノード金属中の金属汚染物質の多くを、アノードスライムの副生成物の一部として可能な限り多く回収することにおいて、本発明に係るプロセスがその選択可能性を開くことが分かっている。
さらにまた、本出願人らによれば、電解液からのアノード金属中に存在し得るニッケルを可能な限り多く回収することにおいて、本発明に係るプロセスがその選択可能性を開くことが分かっている。
アノード金属の品質要件が緩和されることの利点としては、(a)銅の回収を行う上流の乾式製錬工程で、はるかに純度の低い原料が許容される可能性があり、かつ/又は電解精製工程に適した精製銅を製造するための機能窓が拡大されることと、(b)原料に対して課されるもので、乾式製錬工程によるこれら上流の銅回収で許容できると考えられる組成制限が緩和されることとが挙げられる。
このため、本発明はさらに、(a)上流の乾式製錬プロセス工程の原料において許容可能な品質要件を拡大し、その結果、列記している金属によってより重度の汚染を受けている可能性があり、したがって経済的により有利な条件でより容易に入手でき得る原料を処理でき、なおかつ(b)Cu含有量が少なめの原料から銅を電解精製するのに適した精製銅の流れを生成する、上流の乾式製錬工程での操業上の課題及び費用を低減できるという利点をもたらす。
本発明は、これらの利点をもたらす一方で、アノードの入れ替えサイクルが長く、生産性が高く、なおかつ電流密度も高い状態で、そしてエネルギー消費も低く抑えながら実施できるというような、電解精製操業の利点をも維持することが分かった。本出願人らによれば、アノードを入れ替えるために中断する必要があるのみとなるように、本発明に係るプロセスを設けることができるが、その場合でも本明細書に詳述しているように、電解液濃度も、また槽中及び電解液中のアノードスライムの蓄積も十分に制御でき、なおかつ電解操業継続中に、カソードでさえ入れ替えることが可能であることが分かっている。
本発明は、アノード不動態化及び電解液中の汚染物質の蓄積の影響を低減することによって、この目的を達成している。CuからNiを、さらにはアノードスライムを介して他の金属を選択的に回収することも可能になるなど、他の利点もさらに得られる。
本発明に係るプロセスの一実施形態におけるコア部分のフロー図を示す。
以下、本発明を特定の実施形態で、また特定の図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。掲載している図面はいずれも概略図であり、非限定的なものである。図面において、一部の要素のサイズは例示を目的として誇張されており、縮尺どおりに描画されていない場合がある。図面中の寸法及び相対寸法は、本発明の実施に対する実際の縮小に必ずしも対応しているわけではない。
また、本明細書及び特許請求の範囲における第1、第2、及び第3などの用語を、類似の要素を区別するために使用しており、必ずしも順序又は時系列を記述するためにこれらを使用しているわけではない。これらの用語は適切な状況下では置換可能であり、本発明の実施形態は、本明細書に記載かつ/又は例示している以外の順序でも機能することができる。
さらに、本明細書及び特許請求の範囲における上部、底部、上、下などの用語を、説明の目的で使用しており、必ずしも相対位置を記述するためにこれらを使用しているわけではない。このように使用している用語は、適切な状況下では置換可能であり、本明細書に記載している本発明の実施形態は、本明細書に記載又は例示している以外の方向でも機能することができる。
特許請求の範囲で使用している「含む(comprising)」という用語を、それに関連して列記している要素に限定されると見なすべきではない。他の要素又は工程がある可能性を排除するものでもない。必要に応じて、これらの特徴、整数、工程、又は成分の存在を示すものと見なす必要があるが、1つ又は複数の他の特徴、整数、工程、成分、又はこれらの群の存在又は追加を排除するものではない。したがって、「手段A及びBを含む事物」の範囲は、物質A及びBのみで構成される対象物に限定されない可能性がある。これは、A及びBが、本発明に関連した主題における唯一の対象要素であることを意味する。これによれば、「含む(comprise)」又は「包埋する(embed)」という用語は、「~から実質的に構成される(consisting essentially of)」や「~から構成される(consist of)」というより限定的な用語をも包含することになる。したがって、「含む(comprise)」又は「有する(include)」を「~から構成される(consist of)」に置き換えることにより、これらの用語は、本発明に関して本明細書の内容の一部としても示している、好ましいが限定された実施形態の基礎を表している。
特に明記しない限り、本明細書で示す全ての値は、与えられたエンドポイント以下を含み、また組成物の構成要素又は構成成分の値を、組成物中の各構成材料の重量パーセント若しくは重量%で表している。
さらに、本明細書で使用している各化合物については、その化学式、化学名、略語などに関して置換可能に述べることができる。
本発明は、銅の電解精製、すなわち、不純物、具体的にはアノードを生成する元となる他の金属を含有する銅流を、より銅純度の高い銅カソードへと精製することに関する。この精製は、銅電解採取とは大きく異なっている。鉱石又は他の原料からの銅の湿式製錬回収では、金属は出発固体から液体浸出液へと浸出され、その際、強酸溶液(硫酸、塩酸など)を使用して金属を溶解している。下流の銅電解採取工程において、銅はカソードと化学的に不活性なアノードとの間の電圧差による駆動力下で、溶液から銅カチオンを選択的に押し出し、カソード上に銅を堆積させることにより、液体浸出液又はそれから抽出される濃縮物から回収され得、この化学的に不活性なアノードは通常鉛製であり、その表面の水は電気化学的に酸素気体(O、当該槽から流出する)とプロトン(H)とに分解され、溶液中に留まる。プロトンが生成されるごとに、1つの電子が放出される。これらの電子は、アノードからカソードまで電気回路を通って移動し、電解精製中にカソードで起こるのと同様に、銅金属(主として、反応Cu2++2e→Cuによる)を堆積させるためにカソードで捕捉される。
電解採取では、水をさらに酸素とプロトンとに分解する必要があるため、本明細書で前述したのは、銅電解採取槽の理論上必要最小限の電圧差が銅電解精製槽の電圧差よりも有意に大きいということである。したがって、銅電解採取槽の実際の電圧差は1.6V以上であり、また実際には、電解採取電解液中の余分な抵抗もさらに克服するために、1.6~2.5ボルトの範囲内の電圧差が実行されることになる。
本発明の文脈において、電解槽の電解液入れ替え率とは、単位時間当たり、通常は1時間当たりの空の電解槽中の液体容積に対する電解液除去率を、パーセントで表したものである。空の電解槽とは、当該槽がまだ空の状態のときに当該槽に含まれ得る液体の量を意味し、これはすなわち、電極及び/又は吸引口のガイド、並びに/又は流入流体及び/又は流出流体、流入気体及び/又は流出気体、流入液体及び/又は流出液体用のマニホールド及び/又は分配器などの電極又はその他の要素若しくは浸漬用付属機器のいずれかが導入される前の槽である。本発明の文脈で定義している入れ替え率は、同じ電解精製装置に1つ又は複数の槽が属しているにもかかわらず、当該電解槽の入れ替え率を指し、したがって、通常は循環電解液から継続的に引き出されるあらゆるブリード流の容積とは完全に無関係であり、このブリード流の容積も同様に「入れ替え率」を表すとする考え方もあるが、ここでは電解液サイクル全体と比較しており、本発明の文脈で定義している入れ替え率とは全く関係のないものである。
本発明の文脈における入れ替え率の規定は、電解サイクル全体、すなわち後続の2つのアノード入れ替えにかかる操業期間の平均入れ替え率に関する。本明細書ではさらに、電解液の複数の単一流が当該槽から除去される可能性があり、またそのような除去流は必ずしも連続的である必要はなく、不連続的である可能性もあると論じるものである。このため、特定の操業期間中に、当該槽からの電解液除去率が周期的に有意に上昇する可能性がある。したがって、本発明の文脈における平均入れ替え率の規定は、電解液除去率が高めの期間を含む、電解サイクル全体にわたる平均である。平均入れ替え率の期間は操業時間のみに関係するものであり、この操業時間とはすなわち、当該槽が少なくとも部分的に操業モードにあり、電流が当該槽を通過している時間を指す。
本発明の一実施形態では、電解槽中のカソードとアノードとの間の電圧差は、1.5V以下、好ましくは最大で1.4V以下、より好ましくは1.3V以下、より一層好ましくは1.2V以下、好ましくは1.1V以下、より好ましくは1.0V以下、より一層好ましくは0.9V以下、好ましくは0.88V以下、より好ましくは0.85V以下、より一層好ましくは0.83V以下、好ましくは0.80V以下、より好ましくは0.7V以下、より一層好ましくは0.6ボルト以下である。好ましくは、ここで規定される上限電圧値は、アノードを実質的に消尽して、入れ替えのために操業するサイクル終了時を含む、全電解サイクルを通して尊重され、また、通常は当該槽の電圧が最も高い。本出願人らは、この槽電圧を規定の上限値未満となるように維持することを好み、これは、カソードの汚染を低減し、なおかつカソードの品質を向上させると同時に、槽中に過度の抵抗が蓄積して温度上昇を引き起こし、これが熱ストレス、添加剤の分解、及び他の望ましくない影響を及ぼすことになり得るリスクを低減するためである。
本発明の一実施形態では、本アノードは、銅を97.5重量%以下、好ましくは97.0重量%以下、より好ましくは96.5重量%以下、より一層好ましくは96.0重量%以下、好ましくは95.5重量%以下、より好ましくは95.0重量%以下、より一層好ましくは94.5重量%以下、好ましくは94.0重量%以下、より好ましくは93.5重量%以下、より一層好ましくは93.0重量%以下、好ましくは92.5重量%以下、より好ましくは92.0重量%以下、より一層好ましくは91.5重量%以下含有する。本出願人らによれば、本アノードの純度が低い場合、すなわち、銅以外の金属が存在する余地をより多く残している場合、本発明に係るいくつかの効果がさらに有意になることが分かっている。たとえばこれにより、上流の乾式製錬プロセス工程における原料の品質要件の許容範囲、及び本アノード金属を製造する上流の乾式製錬工程の機能窓が拡大されることになる。
本発明の一実施形態では、本発明に係るアノード及び/又は溶融液体金属組成物は、鉄を0.90重量%以下、好ましくは0.80重量%以下、より好ましくは0.70重量%以下、より一層好ましくは0.60重量%以下、好ましくは0.50重量%以下、より好ましくは0.40重量%以下、より一層好ましくは0.30重量%以下、好ましくは0.25重量%以下、より好ましくは0.20重量%以下、より一層好ましくは0.15重量%以下、好ましくは0.10重量%以下、より一層好ましくは0.050重量%以下含有する。このことは、電解液中の鉄含有量も少なくなり、また電解液中に鉄カチオンが存在することに関連した課題を、許容できるレベルまで重大性を低下させた状態に維持しやすくなるか、又は、さらにはその課題のない状態に近似させやすくなるという利点をもたらす。
本発明の一実施形態では、槽中の電流密度は、190A/m以上、好ましくは200A/m以上、より好ましくは210A/m以上、より一層好ましくは220A/m以上、好ましくは230A/m以上、より好ましくは240A/m以上、より一層好ましくは250A/m以上、好ましくは260A/m以上、より好ましくは270A/m以上、より一層好ましくは280A/m以上である。槽中の電流密度が高い場合、典型的には槽生産性が向上するという利点がもたらされ、特に銅カチオンの送達に対する当該電流の寄与が高く維持されている場合、またアノードからカソードへの銅カチオンの送達に寄与しないメカニズムによって使用される当該電流の一部が、たとえば規定の限界値未満の濃度で鉄を含有するアノードを使用するなどして、電解液中の鉄カチオンの量を少なく保つことによって低く保持されている場合に、これは顕著になる。
本発明の一実施形態では、槽中の電流密度は、400 A/m以下、好ましくは390A/m以下、より好ましくは380A/m以下、より一層好ましくは370A/m以下、好ましくは360A/m以下、より好ましくは350A/m以下、より一層好ましくは340A/m以下、好ましくは330A/m以下、より好ましくは320A/m以下、より一層好ましくは310A/m以下、好ましくは300A/m以下、より好ましくは290A/m以下、より一層好ましくは280A/m以下である。本出願人らによれば、槽中の電流密度における規定の上限値を尊重することが、電流密度が高くなることによって増大する課題が管理可能に保たれ、また本発明に係る有利な効果がより容易に得られるという利点をもたらすことが分かっている。これらの課題については本明細書の他にも記載しており、アノード不動態化はそのような課題の代表例である。
本発明の一実施形態では、電解液は、30%/時を超える、好ましくは35%/時以上、より好ましくは40%/時以上、より一層好ましくは45%/時以上、好ましくは50%/時以上、より好ましくは55%/時以上、より一層好ましくは60%/時以上、好ましくは70%/時以上、より好ましくは75%/時以上、より一層好ましくは80%/時以上、好ましくは85%/時以上、より好ましくは90%/時以上、より一層好ましくは95%/時以上、好ましくは100%/時以上、より好ましくは105%/時以上、より一層好ましくは110%/時以上の平均入れ替え率で、当該槽から除去される。入れ替え率とその平均は、上記に規定したとおりである。規定した入れ替え率は、オーバーフローによって当該槽から離脱する電解液の第1の流れの容積のみを対象としている。本明細書の後半で紹介するアノードスライムを含有する電解液の第2の流れなど、当該槽を離脱する電解液の他の流れはいずれも、第1の流れの入れ替え率に付加される。本出願人らによれば、電解液の入れ替え率が高くなることが、槽中のアノードスライム量の制御に大きく寄与することが分かっている。このことは、アノード中の不純物濃度が高い状態であっても、カソードの品質を高く保持する上で有意な貢献要素である。このことはまた、さらなる品位向上のための、有価なアノードスライムへの迅速な接触などの他の利点をもたらしている。入れ替え率が高くなることはさらに、電解槽内の液体浴において攪拌が増大することに寄与する。液流動性が上昇すると、気体の導入及びバブリングの寄与に加えて、少なくとも局所的にそれ自体である程度の液体乱流がもたらされ、その結果、アノード表面及び/又はカソード表面に不可避的に形成される停滞液膜の厚さを減少させる補助がなされ、かつアノードからカソードへの銅カチオンの移動が促進される可能性がある。アノード組成に鉄の上限値を規定したことにより、入れ替え率が高くなろうとも、電解液中の鉄カチオンによって生じるいかなる負荷も有意に増大することはない。
本発明の一実施形態では、電解液は、1700%/時以下、好ましくは1500%/時以下、より好ましくは1200%/時以下、より一層好ましくは1000%/時以下、好ましくは800%/時以下、より好ましくは600%/時以下、より一層好ましくは400%/時以下、好ましくは300%/時以下、より好ましくは290%/時以下、より一層好ましくは250%/時以下、好ましくは200%/時以下、より好ましくは175%/時以下、より一層好ましくは150%/時以下、好ましくは125%/時以下の平均入れ替え率で、当該槽から除去される。本出願人らによれば、電解液の入れ替え率に対して規定された上限値に準拠すれば、電極上の液圧が制限されたままとなり得るという利点がもたらされることが分かっている。このことは、槽中の電極の動きを制限し、かつ隣り合う電極間の距離を所望の(かつ通常は設計上の)値に近似した限界値内に維持するために、当該浴中の全ての電極にガイドを設ける必要がなくなり得るという利点をもたらす。電解液の入れ替え率を規定された上限値未満に制限すると、重いアノードスライムが槽底部に沈降する可能性が高まり、本明細書に詳述しているように、槽底部からこれらのスライムを操業中に除去でき得るという利点がもたらされる。
本発明の一実施形態では、当該槽に導入され、アノード及びカソード間の電解液中でバブリングされる気体の量は、少なくとも有効量、すなわち、電解液の攪拌を強化するのに有効となる量である。有効量の気体により、気体を何ら導入せずに設定された電圧と比較して、所望の電流密度で槽電圧を著しく低下させることができる。この気体は、気体の導入高さよりも上にある槽中の液柱によって表される静水圧を克服するのに少なくとも十分な圧力で、好ましくはより高い圧力で供給される必要がある。本出願人らは、この必要最小圧力を0.1バール以上超えるもので、好ましくは静水圧を0.3バール以上、より好ましくは0.5バール以上超える圧力を、気体が槽中に注入されるときに通過する小孔又はノズルなどの複数の流量制限部と共に適用することを好み、その結果、圧力降下が流量制限部上で確立され、複数の流量制限部にわたって気体流が良好に分散され、このために、結果として生じる気泡も槽全体により均等に分散することになる。
本発明の一実施形態では、本金属組成物は、銅を90.5重量%以上、好ましくは91.0重量%以上、より好ましくは91.5重量%以上、好ましくは92.0重量%以上、より好ましくは92.5重量%以上、より一層好ましくは93.0重量%以上含有する。
好ましくは、本発明に係る溶融液体金属組成物は、可能であれば、本発明に係るプロセスの一部としてアノード組成物に規定された濃度限度にも、好ましくはアノード組成物の好ましい濃度限度にも準拠しているが、この場合、酸素含有量への準拠は除く。本発明に係る溶融液体金属組成物に規定された、これらの濃度特徴に関連して得られる効果は、本発明に係るプロセスの一部としてアノード組成物の文脈で記載したものと同じである。
一実施形態では、本発明に係る溶融液体金属組成物は、ニッケルを0.25重量%以上、好ましくは0.50重量%以上、より好ましくは0.75重量%以上、より一層好ましくは1.00重量%以上、好ましくは1.25重量%以上、より好ましくは1.50重量%以上、より一層好ましくは2.00重量%以上、好ましくは2.10重量%以上、より好ましくは2.25重量%以上、より一層好ましくは2.50重量%以上含有する。金属組成物中のニッケル濃度が高い場合、ニッケルを有意な量含有する原料を、上流プロセスでより多く許容できるようになる。そのような原料は、ほとんどの電解精製操業で取扱いが困難であるため、経済的により好ましい条件でより容易に入手することができる。本金属組成物は任意選択で、ニッケルを10.0重量%以下、好ましくは9.0%重量%以下、より好ましくは8.0重量%以下、より一層好ましくは7.00重量%以下、好ましくは6.00重量%以下、より好ましくは5.50重量%以下、好ましくは5.00重量%以下、より好ましくは4.50重量%以下、好ましくは4.00重量%以下、より好ましくは3.50重量%以下含有する。本アノード組成物中のニッケル濃度が低い状態では、ブリード流が小さく保時される可能性があり、これにより、そのさらなる処理及び関連操業コストが簡素化される。ニッケル濃度が低下すると、電解液に追加の銅カチオンを添加する必要性も低下する。ニッケルが減少すると、アノード不動態化も減少することになり、これにより、アノード不動態化に対処するために取られる対策を、厳密性及び/又は強度を低下させて実施することができる。
本出願人らによれば、本発明に係る溶融液体金属組成物の酸素含有量を、規定された上限値、すなわち、好ましくは3000重量ppm未満、より好ましくは2800重量ppm以下、より一層好ましくは2600重量ppm以下、好ましくは2500重量ppm以下、より好ましくは2400重量ppm以下、より一層好ましくは2300重量ppm以下、より好ましくは2200重量ppm以下、より一層好ましくは2100重量ppm以下、好ましくは2000重量ppm以下、より好ましくは1800重量ppm以下、より一層好ましくは1600重量ppm以下、さらに一層好ましくは1400重量ppm以下となる上限値に準拠させることが重要であると分かっている。その一方で、本出願人らは、この酸素含有量を規定された下限値、すなわち、好ましくは300重量ppm以上、より好ましくは400重量ppm以上、より一層好ましくは500重量ppm以上、さらに一層好ましくは600重量ppm以上、好ましくは700重量ppm以上、より好ましくは800重量ppm以上、より一層好ましくは1000重量ppm以上、好ましくは1250重量ppm以上、より好ましくは1500重量ppm以上、より一層好ましくは1750重量ppm以上、さらに一層好ましくは2000重量ppm以上となる下限値に準拠するように維持することも重要であると提案している。
本発明の一実施形態では、本アノードは、銅を75.0重量%以上、好ましくは77.5重量%以上、より好ましくは80.0重量%以上、より一層好ましくは82.5重量%以上、好ましくは85.0重量%以上、より好ましくは87.5重量%以上、より一層好ましくは90.0重量%以上含有し、また、好ましくは90重量%を超える、より好ましくは91.0重量%以上、より一層好ましくは91.5重量%以上、好ましくは92.0重量%以上、より好ましくは92.5重量%以上、より一層好ましくは93.0重量%以上の銅を含有する。このことは、当該槽の銅生成量が増加し、アノード不純物によってもたらされる課題を軽減するために実施する対策を設けたり、これを制御したりしやすくなるという利点をもたらす。その結果、このことは、除去され、かつ処理されるアノードスライムが減少し、アノード不動態化が減少し、また物理的側面に関する組成及び剥離の軽減に関する組成の両方の点から、カソード品質が向上するという利点をももたらす。
本発明の一実施形態では、槽中のアノードスライムの少なくとも一部が、電解液の第1の流れを使用して当該槽から除去される。本出願人らによれば、槽壁上の電解液オーバーフローによる電解液の第1の流れが、アノードスライムの一部を同伴させるのに非常に適していることが分かっており、このアノードスライムは、いくつかの理由、主として、上述したようにアノード中に不純物が存在することに起因して、電解サイクル中に継続的に発生している。本出願人らによれば、この電解液の第1の流れに容易に同伴されやすいのは、主として密度が低く、したがって軽量のスライム粒子であることが分かっている。
本発明の一実施形態では、この電解液の第1の流れ流は、電解サイクルの間中正に保持される。本出願人らは、全電解サイクルを通して正の液体オーバーフローが継続するように維持することで、電解精製操業中、当該槽が常に液体で充填されているように維持することを好む。これにより、裸の電極間や電極と当該槽の上方にある天井クレーンとの間などで電気アークを引き寄せる可能性があり、またこれによって装置の損傷が発生したり、又はこれが安全上の危険を呈する恐れのある場合に、電解槽中の液面の低下に関連するリスクが軽減され、場合によっては回避される。
本発明の一実施形態では、電解液の第1の流れのオーバーフローを有する槽壁は、電極の最大表面の平面と交差する側壁であり、その際、当該槽が長方形フットプリント(又は水平レイアウト)を有し、またこの側壁で、オーバーフローが電極の方向に対してほぼ垂直に生じていることが好ましい。このような側壁は通常、槽頂壁と比較して最も長く、このことは、オーバーフローにおける槽壁長さの単位当たりの液流動性を低下させることができるという利点をもたらす。この特徴はさらに、オーバーフローによって当該槽を離脱する電解液の流れ方向が電極表面に及ぼす影響が低減され、電解液の流出の結果として電極が移動するリスクが低下するという利点をもたらす。好ましくは、流出電解液の流れ方向は電極表面に対して平行となり、また、電極に対する流出電解液流の横方向圧力は、実質的に発生しない可能性がある。このため、本出願人らは、電解液を実質的に少なくとも1つの槽側壁の全長にわたってオーバーフローさせ、場合によっては当該槽の天井構造物をいずれも支持する構造要素を通過させるために、限定された距離においてこれを断続的に中断させるようにすることを好む さらに、本出願人らによれば、この特徴が、当該槽の一方の頂部端部で電解液を供給し、その反対側の頂部端部でオーバーフローを起こす形態と比較して、槽全体を通して電解液中の添加剤がより均一に分布するという利点をもたらすことが分かっており、これはすなわち、全ての電解液が当該槽の全長を通過し、供給路から出口まで添加剤が消費されるために、添加剤濃度が徐々に低下していく構成である。これらの添加剤の濃度は通常、当該槽における電解液用の入口点で制御されている。電解液が槽中を入口から出口まで移動するにつれて、これらの添加剤はカソード表面で徐々に消費され、かつ/又は分解されるため、電解液オーバーフローをこのように構成することにより、当該浴全体にわたってこれらの添加剤の分布が改善される。
本発明の一実施形態では、電解液の第1の流れに少なくとも1つの沈降装置を通過させ、その際、アノードスライムがこの沈降装置の底部に沈降するのに十分低い液体速度で、十分長い滞留時間で通過するようにしている。本出願人らによれば、この電解液が電解槽に再循環され得る前に、当該槽のオーバーフロー流に同伴されたアノードスライムの大部分を収集し、かつ除去するのに、沈降装置が非常に適していることが分かっている。この電解液オーバーフローからのアノードスライムの除去工程は、特に電解液が浄化されて再循環される場合、電解槽中のアノードスライムの濃度、特に電解サイクル中に形成されている微細かつ/又は軽量であるアノードスライム粒子の濃度を制御する第1の工程となっている。このことは、アノードが含有する不純物濃度が高くなることの大きな要因となる。本出願人らは、複数の沈降装置を設けることを好む。
一実施形態では、電解液が沈降装置に沈降していく途中で、この電解液に凝集剤が添加される。これにより、粒子の凝固と、沈降装置の底部へのアノードスライムの沈降とが促進される。このことは、それほど微細でないアノードスライムが電解槽に再循環され、これにより、槽中に存在するアノードスライムの制御が改善され、つまりは生成されるカソードの品質も向上するというさらなる利点をもたらす。
本プロセスが電解液の第1の流れに沈降装置を含む本発明の一実施形態では、アノードスライムを含有する電解液の第3の流れが、沈降装置の底部から除去される。この電解液の第3の流れを生成することは、電解槽中のアノードスライムの濃度、特に電解サイクル中に形成されている微細かつ/又は軽量であるアノードスライム粒子の濃度を制御する第2の工程となっている。この第2の工程では、沈降装置の連続操業が可能になり、これによってその操業が容易になると同時に、沈降装置の底部に集積するアノードスライムにより頻繁に接触できるようになり、またアノードスライムへの接触がより容易になること関して、本明細書の他の箇所でも述べている関連効果も享受することができる。本出願人らは、アノードスライムを含有するこの電解液の第3の流れを、同じ沈降装置から断続的に生成することを好む。沈降装置の底部にアノードスライムの層が蓄積するための時間をかけることにより、この電解液の第3の流れがアノードスライムを多く含有できるようになるので、その後の処理がより有効になり、簡素になり、効率的になり、かつ有益なものとなる可能性がある。
本発明の一実施形態では、アノードスライムを含有する電解液の第2の流れが、少なくとも1つの電解槽の底部から除去される。本出願人らによれば、アノードスライムの一部が槽底部に向かって沈降し、気体が導入される高さよりも下にある槽中の空間に首尾よく到達することが分かっている。この下部領域では液体の移動がはるかに少なく、この領域に到達したアノードスライム粒子は、アノードスライムを非常に多く含有する電解液の層を、槽底部に容易に形成する。また、本出願人らは、電解槽の底部からアノードスライムを含有する電解液の第2の流れを引き出すことによって、このアノードスライムを除去することを好む。
本発明の一実施形態では、この電解液の第2の流れは、電解精製操業中に、アノードスライムを収集するために電極の下に設けられた槽底部から除去される。本出願人らによれば、電解サイクル中、そしてより好ましくは電解精製が操業モードにある間、すなわち電流が当該槽を通過している間に、当該槽から第2の流れを除去することが有利であることが分かっている。本出願人らによれば、当該槽の完全操業中に、当該槽から第2の流れを除去できることが分かっている。このことは、当技術分野で説明されているプロセスの多くと比較して、槽底部に集積するアノードスライム層を除去するために当該槽を使用停止にする必要がなく、また電解サイクルの間中、槽中に存在するアノードスライムを制御するのがより容易になるという利点をもたらす。本出願人らは、槽中で電極の下、より好ましくは、当該槽に気体を導入するために設置するあらゆる装置の下にも、空間を設けることを好む。この底部空間では気泡が発生しないため、液流が遅くなり、また乱流が少なくなる。本出願人らは、供給電解液をこの底部よりも上の高さで当該槽に供給し、これにより、この液体入口点と少なくとも1つの槽壁上の電解液オーバーフローとの間で最短となる液流路が同様に、形成されるアノードスライムの重い部分を収集するために設けられた底部空間を通らず、したがってこの空間をほとんど阻害することのないようにすることを好む。
本発明の一実施形態では、アノードスライムを含有する電解液の第2の及び/又は第3の流れは、好ましくは当該槽及び/又は沈降装置の底部上を移動する吸引ヘッドによって、槽底部及び/又は沈降装置の底部から吸引される。本出願人らは、好ましくは電解サイクル中、及び電解槽が操業モードにある間に一定の間隔で、電極の下に、また当該槽に気体を導入するために設置したあらゆる装置の下に設けられた空間で、ただしアノードスライム粒子を収集するために当該槽の底部に設けられた空間よりも上で、当該槽に吸引口を通している。
アノードスライムを含有する電解液の第2の及び/又は第3の流れを除去するための適切な方法は、当該槽及び/又は沈降装置の底部上を移動する吸引口を使用して、好ましくはアノードスライム層を収集するために設けられた空間よりも上で、この流れを吸引することによって実施される。この特徴に適した方法は、国際公開第00/79025号パンフレットに記載されている。
本出願人らは、当該槽において気体が導入される高さに層の最上部が達する前に、また、好ましくはアノードスライムを多く含有する電解液の第2の流れを、槽底部から吸引するために、当該槽を移動する吸引口の高さにこの層の最上部が達する前に、槽中のアノードスライムの最下層を除去することを好む。
本出願人らはさらに、電解液の第1の流れが通過する沈降装置に同様の設備や予防措置を設けることを好み、その際、アノードスライムは、そのほとんどが沈降装置に沈降することが想定され、これにより、電解槽を離脱する電解液の第1の流れと比較して、アノードスライムの含有率の低い電解液が生成されることになる。
本発明の一実施形態では、電解液の第2の流れは、電解液の第1の流れ及び/又は第3の流れと結合されて、アノードスライムを含有する電解液の複合流となる。これにより、これらの流れを共に処理できるという利点がもたらされ、下流の操業が簡素化されることになる。
本発明の一実施形態では、本プロセスは、電解槽から除去された電解液を当該槽に再循環させることを含む。この再循環の実施は、有意な利点をもたらしている。電解液の再循環は、硫酸などの電解液中のプロセス化学物質が再利用されるという利点をもたらす。さらなる利点は、電解液中で依然として溶解状態にあるが、電解精製操業中に蓄積する傾向のある化合物を、より高い濃度まで濃縮できることにあり、これにより、これらの化合物の下流での回収がより効果的に行われるようになる。
本発明の一実施形態では、本プロセスは、この電解液の再循環から電解液ブリード流を除去することを含む。このようなブリード流は、その除去率を用いて、電解液中に蓄積して当該溶液中に留まる傾向がある、電解液中の化合物の濃度を制御できるという利点をもたらす。そのような化合物の1つとしては硫酸ニッケルが挙げられ、ここではその溶解限度が有意となる。
本発明の一実施形態では、ブリード流は少なくとも1つの電解採取工程を経ることになる。本出願人らによれば、このブリード流から特定の金属を回収することが有利となることが分かっている。このブリード流は有意な濃度の銅を含有しており、その大部分は銅電解採取によって容易かつ選択的に回収することができる。このブリード流のニッケル濃度は、有意なものとなる可能性もある。また、これらをニッケル電解採取によって選択的に回収することができ、本プロセスは銅電解採取と類似しているが、これとは多少異なっており、また20グラム/リットル以下、好ましくは15グラム/リットル以下、より好ましくは10グラム/リットル以下、より一層好ましくは5グラム/リットル以下、さらに一層好ましくは1グラム/リットル以下、好ましくは750ミリグラム/リットル以下、より好ましくは500ミリグラム/リットル以下、より一層好ましくは250ミリグラム/リットル以下、好ましくは100ミリグラム/リットル以下、より好ましくは50ミリグラム/リットル以下、より一層好ましくは10ミリグラム/リットル以下となる濃度まで、電解液の銅含有量がひとたび低減されれば、本プロセスは良好に操業される。
本発明の一実施形態では、大部分の金属がブリード流から除去され、これによって「黒色酸」流、すなわち濃酸流を形成する。この黒色酸流は、典型的かつ有利には、電解液よりも酸に濃縮されている。本出願人らは、好ましくは上述したように銅含有量を低減した後、ブリード流から水を蒸発させることによって金属、とりわけニッケルを除去することを好む。この蒸発により、硫酸ニッケルがその溶解限度を超えて濃縮され、その後結晶化する。次いで、この硫酸ニッケル結晶を、沈降、濾過、遠心分離、又はそれらの組み合わせによって回収することができる。
本発明の一実施形態では、黒色酸流は電解槽に再循環され、好ましくは、黒色酸に追加の銅カチオンが添加された後に、この黒色酸流が再循環される。このことは、ブリード流中の大部分の酸を再利用できるため、電解液中の酸濃度を所望の濃度に維持するために必要な酸補給を少なく済ませられるという利点をもたらす。さらに、本出願人らによれば、本明細書でさらに後述するように、黒色酸が、とりわけその酸濃度が槽中の電解液の酸濃度よりも高い場合、このために、銅を溶解するのに非常に適した状態になることが分かっている。追加の銅カチオンを含む黒色酸の再循環を行うことは、電解液中の酸濃度の維持に寄与するとともに、電解液中の銅カチオン濃度を所望の操業濃度に維持することにも寄与する。
本発明の一実施形態では、アノードスライムは、好ましくは電解液ブリード流を電解液の再循環から除去するプロセスの上流で、好ましくはアノードスライムを含有する電解液の複合流から、電解液の第1の、第2の及び/又は第3の流れの少なくとも1つから分離され、その際、好ましくはアノードスライムが固形物として、より好ましくはフィルタプレス又はチューブプレスを使用して除去される。このことは、電解槽中のアノードスライムの濃度が制御されるという利点をもたらす。本出願人らは、こうした電解液からのアノードスライムの分離を可能な限り清浄化されるように行い、これによってアノードスライムの副生成物中の銅及び/又はニッケルの存在が減少し、また存在したとしても、少なくとも電解液中にこれらの銅及び/又はニッケルが溶解する状態となるようにすることを好む。
アノードスライムが固形物として除去され、またこのアノードスライム固形物が、プロセス全体からアノードスライムの副生成物を回収する前に水洗される、本発明の一実施形態では、この洗浄水が電解精製プロセスに再循環される。この同じ洗浄水は、記載している洗浄工程の後にさらに使用することができ、かつ/又は、使用済みアノード及び/又はカソードを、これらが電解槽から除去された後に洗浄したり、かつ/又は電解サイクルに添加される必要のある添加剤や追加の銅カチオンなどの成分を、これらが電解精製プロセスに再循環される前に溶解させたりするなど、他の有用な機能を利用するために、記載している洗浄工程の前に、この洗浄水を使用しておくことも可能である。
アノードスライム固形物をこのように洗浄することにより、可溶性金属、特に銅及び/又はニッケルのより少量が、それらがあまり価値をもたらさず、大抵は負荷を呈するアノードスライムの副生成物と共に、プロセスを離脱するという利点がもたらされる。この使用済み洗浄水を再循環させることにより、これらの可溶性金属のより多くが本プロセスに保持され、その後、ブリード流の一部としてより好都合に除去され、そこからより容易に回収されることになる。
アノードスライム固形物が水洗される本発明の一実施形態では、このアノードスライムの水洗は、40℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、より一層好ましくは65℃以上の温度で操業され、かつ90℃以下、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下、より一層好ましくは75℃以下の温度で行われる。本出願人らによれば、水洗時の温度が高い場合、アノードスライム固形物から、特に硫酸銅及び/又は硫酸ニッケルなどの硫酸塩を洗い流す助けとなることが分かっている。使用済み洗浄水が電解液サイクルに戻されるので、この洗浄水を所望の電解液温度に近似した温度にすることは有利になり、これは、電解液サイクルにおいて適切な家屋温度を確保するための加熱負担及び/又は冷却負担が軽減されるためである。さらに、本出願人らによれば、規定された上限温度に準拠することで、装置の構造材の損傷リスクが低下することが分かっている。水洗中にアノードスライムを保持するために使用されるフィルタ又はフィルタプレスのフィルタプレートは、たとえばポリプロピレン製であり、本出願人らによれば、規定の上限値に準拠した温度であれば、この材料が摩耗しにくく、かつ分解しにくいことが分かっている。
本発明に係るプロセスの実施形態において、好ましくは水洗後に回収されたアノードスライムは、金属硫酸塩の大部分をNaSOなどの可溶性硫酸塩と、不溶性金属水酸化物とに変換するのに十分な塩基、好ましくはNaOHで処理される。このようにして、アノードスライムの硫黄含有量を低減することができ、その結果、金属が下流で回収される際に、これらが許容されやすくなり、これはなぜなら、とりわけ金属により濃縮されているからである。金属回収プロセスは、典型的には、金属酸化物及び/又は金属水酸化物を処理するために良好に装備されている。多くの場合、金属が回収され得る前に、他の種類の原料を焙焼して酸化物を得ることが好ましい。
好ましくは、水酸化物は加熱されて酸化物を形成し、鉄などの還元剤を使用して炉内で行われる乾式製錬プロセス工程において、多層はんだをアノードスライムから回収することができ、また酸化鉄含有スラグも副生成物として回収できる。より多くのSnをスラグから金属相に抽出し、またはんだ相とスラグ相との物理的な相分離を改善するために、好ましくは金属相のスズ/鉛の重量比が1/3に近似するまで、追加の鉛を添加することができる。
本発明の一実施形態では、追加の銅カチオンが槽内の電解液中に導入される。本出願人らによれば、アノード中のいくつかの汚染金属が電解液に溶解するときに、アノード銅が溶解することによって消費される電流に加えて電流を消費することが分かっている。カソードでは、この余分な電流により、アノードで溶解した場合よりも多くの銅が堆積する。したがって、アノードで溶解する場合よりも多くの銅がカソードに堆積することになる。こうした不均衡は、電解液からの銅の正味消費を表している。この正味消費量を補うために、電解槽内の電解液中に追加の銅カチオンが添加される。本出願人らによれば、アノード中の不純物濃度が上昇するにつれて、銅の不均衡がより顕著になることが分かっている。98~99重量%の銅を含有するアノードから出発する従来の電解精製操業では通常、電解液に追加の銅カチオンを添加せずに操業するが、本出願人らによれば、アノードの銅含有量が少なく、他の金属含有量が多くなる本発明に係るプロセスでは、この添加が非常に有益であることが分かっている。本出願人らによれば、この添加により、長期間にわたって本プロセスを操業することができるようになり、これに伴い、電解液の再循環が強化され、また電解液中の銅カチオンの濃度が高くなっており、このことが、電力消費を低減した状態でのプロセス生産性の高さと、カソード品質の向上とに寄与することから、カソードに特に有益となることが分かっている。実際、本出願人らによれば、追加の銅カチオンを電解液に添加すると、銅カチオンの濃度を所望の濃度内に維持する助けとなることが分かっており、このことは、操業上の別の課題を引き起こさせたり、生じさせたりすることなく、高品質の銅カソードの生成を長期間維持するためには重要である。本出願人らによれば、この懸念が、不純物濃度の高いアノード組成物においてより顕著になることが分かっている。また、本出願人らによれば、当技術分野で開示されているいくつかのプロセスで見られるように、電解液中の銅濃度が所望の最低濃度未満まで枯渇するために、操業を停止する必要性を、この特徴によって回避できるようになることが分かっている。
追加の銅カチオンが電解液に添加される本発明の一実施形態では、この追加の銅カチオンは、当該槽への供給電解液中に、好ましくは電解槽に再循環される電解液中に導入される。本出願人らによれば、本方法が電解液中の銅濃度を所望の濃度に制御するのに非常に好都合な方法であることが分かっている。
追加の銅カチオンが電解液に添加される本発明の一実施形態では、再循環された電解液の少なくとも一部を含有する液流、及び/又は、たとえば再循環された黒色酸の少なくとも一部、又は電解採取による銅除去後のブリード流の少なくとも一部(存在する場合)、あるいは本プロセスへの補給酸の少なくとも一部など、酸により一層濃縮された流れが、より多くの銅を液流に溶解させるために、好ましくは浸出槽中で銅含有固形物と接触してから、追加の銅カチオンを含有する液流が電解槽へと送達される。本出願人らは、これらの流れが、銅含有固形物から銅を溶解するのに極めて適しており、これによって、電解槽内の電解液中の銅濃度を制御するのに有用な追加の銅カチオンが捕捉されると考えている。本出願人らは、使用可能であり、電解液よりも酸に濃縮されている流れを使用することを好む。ここで対象となる流れはたとえば黒色酸の再循環であり、これは、その流れがより酸性であり、したがって固体源からの銅をより容易に溶解するためである。ただし、この黒色酸の再循環量は、本プロセスの電解液総量と比較して比較的少なく、断続的にしか使用できない場合もある。本プロセスでは通常、たとえば硫酸ニッケル及び/又は硫酸鉛の形成で生じる酸の損失を補うために、酸の補給がさらに必要となる。そのような補給酸流もまた、50重量%以上の硫酸、場合によってはさらに96重量%の硫酸などの高濃縮の酸流であってもよく、またその場合、当該槽に再循環される電解液と比較して、固体源からの銅をより容易に溶解することもできる。補給流量も比較的少ないため、継続的に添加されない可能性がある。したがって、本出願人らは、たとえば黒色酸の再循環流及び/又は補給硫酸流などが使用できる場合は、当該槽への電解液再循環よりも濃縮されたこのような酸流を使用することを好むが、使用できない場合は、当該槽に向かう途中で追加の銅カチオン分を捕捉するために、電解液再循環流を使用することを好む。
本発明の一実施形態では、この銅含有固形物は顆粒状であり、好ましくは、この顆粒は中空開放されており、任意選択で、この顆粒は本プロセスの上流の乾式製錬プロセス工程で生成されている。本出願人らによれば、この銅含有固形物が大きな塊と比較して、微細に分割された形態であると好ましいことが分かっており、これはなぜなら、微細に分割された形態であれば、同じ固形物量で比較した場合、抽出液により広範な接触面を付与することになるからである。本出願人らによれば、これらの顆粒の取扱いが粉末よりも容易であることが分かっている。浸出槽中に顆粒を容易に積層させることができ、液体出口ノズルに設けられた簡素なストレーナによって、これを槽中に保持することができる。好ましくは、これらの顆粒は中空であり、同じ固形物重量で比較した場合、より広範な接触面を付与することになる。本出願人らによれば、この銅含有材料の顆粒が、本発明に係るプロセスの上流に位置する乾式製錬プロセス工程で生成されると、非常に好都合であることが分かっている。最も好都合なことに、この上流プロセス工程は、本発明に係るプロセスの電解工程で使用するアノードを鋳造するために使用される、銅の中間生成物を製造するプロセスの一部である。顆粒の材料は、アノードに使用される材料と同一であってもよいし、異なる性質の材料であってもよい。好ましくは、これらの顆粒はアノードよりも純度の高い銅材料である。
本出願人らは、水などの冷たい液体を含む大型槽よりも高い位置にある耐火レンガに溶融銅液を噴射することにより、高表面の小さな銅顆粒を生成することを好む。この溶融銅液流は耐火レンガ上で分散し、冷液内へと広がっていく。このことは、爆発と同様に、局所的に高圧蒸気が発生するという利点をもたらし、またこれによって、酸性液体への溶解に非常に適した高表面の小さな銅顆粒又は銅「ショット」が形成される。
本出願人らは、本プロセスに追加の銅カチオンを添加するために、少なくとも1つの浸出槽又は浸出塔を設けることを好む。そのような槽は垂直円筒形槽であってもよい。この槽の上部は雰囲気に対して開放されていてもよく、これによって銅含有固形物が当該槽に容易に導入され得る。この固形物は、供給液用の導入口の上で、当該槽底部にある支持体上に床を形成してもよい。液導入口は、この床支持体の下に好都合に設けられている。当該液はこの固形物床を通って上向きに流れ、オーバーフローダクトを介して当該槽から離脱する。液体の上向き速度が低下し、また銅含有固形物の比重が、この固形物が浸出槽から液排出口に同伴されるのを回避するのに十分となるように、当該槽が設計されることが好ましい。この銅含有固形物は、ブリスター銅のように、98重量%以上のCuを含有する高純度のものであることが好ましい。この銅が溶解した場合、当該床の高さが低下するため、当該槽の開放上部を介して銅固形物の残量が補充されてもよい。
本発明の一実施形態では、液流を銅含有固形物に接触させる工程に、酸素含有気体が添加される。本出願人らによれば、酸化性雰囲気下では、銅顆粒からの銅が酸性浸出液中でより容易に溶解することが分かっている。好ましくは、本出願人らは、空気又は酸素富化空気、より一層好ましくは商業的に入手可能な酸素気体を、浸出槽の底部、好ましくは固形物が保持される床支持体の下に注入する。本出願人によれば、浸出工程に酸素が存在することにより、浸出液による銅カチオンの捕捉が強力に促進されることが分かっている。
本発明の一実施形態では、本プロセスに追加の硫酸が、存在する場合は再循環された電解液中に導入されることが好ましく、その際、存在する場合は追加の銅カチオンの導入と共にこれを行うか、又はその上流でこれを行うことが好ましい。この特徴は、電解液の硫酸含有量を制御するのに有用な補給酸流をもたらし、このように実施しないと、硫酸鉛及び/又は硫酸ニッケル中の硫酸アニオンの消費が進んで枯渇するリスクがある。上述したように、本出願人らは、この補給に96重量%の硫酸などの濃硫酸源を使用することを好み、また、追加の銅カチオンを捕捉するために銅含有固形物と接触する場所に、この補給酸を導入することを好む。高濃度の補給酸を使用すると、望ましくない元素のプロセスに導入されるリスクが僅少になるという利点がもたらされる。さらなる利点は、低濃度の流れと比較して、必要となる容量がはるかに少なく済み、また取扱いの手間も軽減され、さらに銅が、この高濃度の補給酸流により容易に溶解することにある。
本発明の一実施形態では、当該槽に導入される気体は空気である。本出願人らは、電解槽中のバブリングを行うに際し、米国特許第1260830号明細書において、またE.N.Petkovaによる「Mechanisms of floating slime formation and its removal with the help of sulphur dioxide during the electrorefining of anode copper」、Hydrometallurgy誌、第46巻、第3号、1997年10月、277~286頁において、その代替元素の候補として提案されている、窒素、二酸化炭素、さらには二酸化硫黄(SO)ではなく、空気を使用することを好む。本出願人らは、その利便性と改善された安全性及び産業衛生面から、空気を好む。窒素及び/又は二酸化炭素の使用は、操業員が酸素が欠乏した大量の雰囲気に偶発的にさらされ得るリスクをもたらすことになる。二酸化硫黄は、強い刺激臭を有する有毒ガスであるという別の特徴を呈し、したがって、より一層厳しい安全対策と産業衛生対策とが必要になる。空気は酸化剤であるという別の利点をもたらし、このことは、As3+をAs5+、かつ/又はSb3+をSb5+に酸化できるため、非常好都合であり、これにより、これらの金属は化合物(通常はヒ酸塩などの塩)、又は酸化物を形成することができ、また、それらは当該槽及び/又は沈降装置の底部により容易に沈降して、アノードスライム層に集積することになる。これらの現象については、「Effect of As,Sb,Bi and Oxygen in Copper Anodes During Electrorefining」、Proceedings of Copper誌、2010年、1495~1510頁において、C.A.Moellerらによって詳述されている。上述した理由から、空気は本出願人らにとって、二酸化硫黄よりもはるかに好都合な酸化剤である。
本発明の一実施形態では、当該槽に導入される気体の温度は、電解液温度のプラスマイナス30℃の範囲内である。これにより、気体の導入によって槽中に局所的にもたらされ得る温度影響が、いずれも低減する。好ましくは、この気体温度と槽中の電解液温度との差は25℃以下、より好ましくは20℃以下、より一層好ましくは15℃以下となる。局所的な温度低下は、気体分配器の孔周辺などに、一部の塩が局所的に結晶化し、それらの孔を流通する気体の流れを損なう可能性があるため、望ましくない。また、一部のプロセス添加剤をより急速に劣化させる可能性があるため、局所的な温度上昇も同様に望ましくない。本出願人は、約45℃の温度で気体を当該槽に導入することを好む。本出願人らは、槽中の電解液を65~70℃の範囲内、好ましくは約68℃の温度に維持することを好む。
本発明の一実施形態では、当該槽に導入される気体は、当該気体の導入温度で、少なくとも水中で飽和状態になる。これにより、気体が電解液に進入する開口部内及びその周辺で結晶化するリスクが低下する。
本発明の一実施形態では、水は当該槽に導入される前に、好ましくはエアロゾルとして気体に注入される。本出願人らは、ナトリウム含有量が低く、好ましくは検出限界値未満である水を注入することを好み、その際、この注入水は逆浸透によって得られることが好ましい。本出願人らによれば、この特徴により、電解液への気体の注入点、及び気体散気管の周辺に設けられ得るあらゆる微孔性ポリマースリーブ上での塩の形成が減少することが分かっている。
本発明の一実施形態では、電解液を流通する気泡は、1~3mmの範囲内の平均直径を有する。本出願人らによれば、新鮮な電解液がカソードと接触できるようにするために、カソード表面に隣接する劣化電解液を除去する際、直径が3mm以下の気泡がより効果的となることが分かっている。さらに、このような小気泡は、電解槽の上での酸性霧の発生を最小限に抑える傾向がある。小規模の気泡はまた、いわゆる「溶解空気浮上」(DAF:Dissolved Air Flotation)式に類似した形式のものを当該槽に導入し、これによってアノードスライムの小粒子が液柱の表面に容易に引き上げられ、オーバーフローを介して当該槽を容易に離脱するため、好適である。気泡のサイズは、たとえば「The sizing of oxygen bubbles in copper electrowinning」、Hydrometallurgy誌、第109巻(2011)、168~174頁で、Reza AI ShakarjIらによって述べられているように決定されてもよい。
本発明の一実施形態では、電極の下に、ただしアノードスライム層を収集するために槽底部に設けられた空間の上に設置される気体拡散装置を介して、気体が槽内に導入され、この気体拡散装置は、好ましくは気体供給管に接続され、選択的に穿孔された散気管を含む。この気体拡散装置の位置により、電解液容積の垂直方向高さが2つの部分に分割され、これらはすなわち、気泡が上昇する際流通して乱流を活発化させる上部と、気泡のない下部であり、この下部はより停滞しており、また、ほぼ気体拡散装置の高さに供給電解液が供給される場合は、とりわけそれが顕著になる。この上部に発生する追加の乱流は、上記で詳細に述べた利点をもたらす。この下部では流体の動きが低下するため、槽底部にアノードスライム粒子が沈降しやすくなる。本出願人らは、国際公開第2005/019502号パンフレットに記載されている拡散法を使用することを好み、その際、使用中に注入気体が自身を通過して、槽内の電解液中に非常に多数の微細気泡を形成できるようにする微孔性材料から作製された、かつ/又はこの材料を含有する複数のホースを使用している。
本出願人らによれば、拡散装置が、好ましくは電解液容積の上部全体に均一に気泡を分布させることが分かっている。気泡が不均一に存在することで、電極の静水圧差が生じる可能性があり、このことは、電極が横方向に傾斜して、隣接する対電極との接触、ひいては電気的短絡を引き起こし得るリスクをもたらすことになる。
本出願人らは、気体導入密度に勾配を付与することを好み、その際、オーバーフローを有する槽壁に近接して導入される気体量を少なくし、また反対側の槽壁に近接して導入される気体量を多くしている。このことは、気体の勾配がオーバーフローの方向に液流を導く追加の駆動力を生み出すという利点をもたらす。
本発明の一実施形態では、この気体は、槽中の液面の高さにある供給ラインで、0.5バールゲージ(バーグ)以上、好ましくは0.6バーグ以上、より好ましくは0.7バーグ以上の範囲内の圧力を使用して当該槽に導入される。この過剰圧力は、好ましくは電極の下で、槽中に気体が導入される時点の静水圧を克服するために必要となる。本出願人らは、静水圧のみよりも高い過剰圧力をかけることを好み、これによって当該液へのガスの注入や、小規模の気泡の形成が増進される。供給ラインの指定点での圧力は、好ましくは3.5バーグ以下、好ましくは3.0バーグ以下、より好ましくは2.5バーグ以下、より一層好ましくは2.0バーグ以下、好ましくは1.75バーグ以下、より好ましくは1.50バーグ以下、より一層好ましくは1.25バーグ以下である。この上限値に準拠させることで、当該槽から電解液が噴出したり、ニッケルエアロゾルが形成されたりするリスクが低下する。電解液の噴出は装置の損傷を引き起こす恐れがあり、またニッケルエアロゾルの形成は産業衛生上の懸念を生じることになる。
主として産業衛生上の理由から、本出願人らは、金属粒子を含有している可能性のある酸滴が操業場所に侵入するのを防止するために、当該槽の上に排液吸引部及び液滴キャッチャを備えたキャップを設けることを好む。
本発明の一実施形態では、槽中の電解液は、20℃~75℃の範囲内の温度に維持される。好ましくは、槽中の電解液温度は、25℃以上、より好ましくは30℃以上、より一層好ましくは35℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、より一層好ましくは50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、より一層好ましくは65℃以上であり、好ましくは65℃を超える。温度が上昇した状態では、銅の拡散速度が向上するが、このことは、アノード表面及び/又はカソード表面上に通常存在する停滞膜又は層流膜を介した銅カチオンの拡散に特に有益である。また、温度が上昇することにより、電解液中の硫酸塩の溶解度が上昇し、これにより、特に感受性の高い場所での結晶化のリスクが低下する。本出願人らは、電解液を75℃未満、好ましくは72℃以下、より好ましくは70℃以下の温度に維持することを好む。このことは、ゼラチン及び/又は多くの凝集剤などの温度感受性のある添加剤がより安定化し、なおかつ劣化しにくくなるという利点をもたらす。また、温度が低下すると、カソードが事前剥離し得るリスク、すなわち、カソードが依然として電解槽中にある間に、ステンレス鋼ブランクから堆積した銅層が放出され得るリスクが低下することになる。さらに、温度が低下すると、通常は周囲温度よりも高くなるため、入熱が必要となる、電解液温度を維持するために必要なエネルギーも減少することになる。
本発明の一実施形態では、本発明に係るアノード組成物及び/又は溶融液体金属組成物は、ニッケルを0.25重量%以上、好ましくは0.50重量%以上、より好ましくは0.75重量%以上、より一層好ましくは1.00重量%以上、好ましくは1.25重量%以上、より好ましくは1.50重量%以上、より一層好ましくは2.00重量%以上、好ましくは2.10重量%以上、より好ましくは2.25重量%以上、より一層好ましくは2.50重量%以上、好ましくは2.75重量%以上、より好ましくは3.00重量%以上含有する。アノード中のニッケル濃度が高くなると、ニッケルを有意な量含有する原料を、上流プロセスでより多く許容できるようになる。そのような原料は、ほとんどの電解精製操業で取扱いが困難であるため、経済的により好ましい条件でより容易に入手することができる。アノード組成物は任意選択で、ニッケルを10.0重量%以下、好ましくは9.0重量%以下、より好ましくは8.0重量%以下、より一層好ましくは7.00重量%以下、好ましくは6.00重量%以下、より好ましくは5.50重量%以下、好ましくは5.00重量%以下、より好ましくは4.50重量%以下、好ましくは4.00重量%以下、より好ましくは3.50重量%以下含有する。本アノード組成物中のニッケル濃度が低い状態では、ブリード流が小さく保時される可能性があり、これにより、そのさらなる処理及び関連操業コストが簡素化される。ニッケル濃度が低下すると、電解液に追加の銅カチオンを添加する必要性も低下する。ニッケルが減少すると、アノード不動態化も減少することになり、これにより、アノード不動態化に対処するために取られる対策を、厳密性及び/又は強度を低下させて実施することができる。また、ニッケルが減少すると、ニッケルエアロゾルに関連した産業衛生上の懸念も軽減されることになる。
本発明の一実施形態では、本発明に係るアノード組成物及び/又は溶融液体金属組成物は、鉛を0.25重量%以上、好ましくは0.50重量%以上、より好ましくは0.75重量%以上、より一層好ましくは1.00重量%以上、好ましくは1.25重量%以上、より好ましくは1.50重量%以上含有する。アノード中の鉛濃度を高くできることで、鉛と銅との分離に関して上流プロセスで厳密性を低下させて操業できるようになり、また、鉛を有意な量含有する原料を、より多く許容できるようになる。そのような原料は、多くの銅の製造操業で取扱いが困難であるため、経済的により好ましい条件でより容易に入手することができる。アノード組成物は任意選択で、鉛を6.00重量%以下、好ましくは5.00重量%以下、より好ましくは4.00重量%以下、より一層好ましくは3.00重量%以下、さらに一層好ましくは2.50重量%以下、好ましくは2.00重量%以下、より好ましくは1.80重量%以下、より一層好ましくは1.60重量%以下、さらに一層好ましくは1.50重量%以下含有する。アノード組成物中の鉛濃度が低い状態では、槽中で形成される硫酸鉛が減少する。このため、硫酸鉛に対する酸の消費が減少する。電解液中の硫酸塩の溶解度は非常に低いため、槽中で容易に結晶化する。こうした結晶は、カソードに含有されるリスクを呈する。したがって、アノード中の鉛濃度が低下すれば、鉛がカソードの不純物として回収されるリスクが低下することになる。鉛析出物は、好ましくは電解液の第1の流れ及び/又は電解液の第2の流れにおけるアノードスライムの一部として、当該槽から除去される。鉛が存在しても、本プロセスによって生成されるアノードスライムの価値に有意に寄与することはないが、アノードスライムを処理する際の操業上の負担には寄与するため、アノード中の鉛の存在を低減することは、本プロセスからのアノードスライムの副生成物の価値を減じることなくアノードスライムの容積や、ひいてはその操業上の負担をも低減するので、有益である。アノード組成物中の鉛濃度が低下すると、人の介入中に鉛が操業場所に放出される懸念、たとえば産業衛生上の懸念に関連した、アノードスライムがフィルタプレスから放出される場合の懸念がさらに軽減される。
本発明の一実施形態では、本発明に係るアノード組成物及び/又は溶融液体金属組成物は、スズを0.25重量%以上、好ましくは0.50重量%以上、より好ましくは0.75重量%以上、より一層好ましくは1.00重量%以上、好ましくは1.25重量%以上、より好ましくは1.50重量%以上含有する。アノード中のスズ濃度を高くできることで、スズと銅との分離に関して上流プロセスで厳密性を低下させて操業できるようになり、また、スズを有意な量含有する原料を、より多く許容できるようになる。そのような原料は、多くの銅の製造操業で取扱いが困難であるため、経済的により好ましい条件でより容易に入手することができる。さらに、アノードスライム中のスズは、そこから極めて容易に回収可能であり、本発明に係るプロセスからのアノードスライムの副生成物より得られる商業的価値の有意な部分を呈する。アノード組成物は任意選択で、スズを6.00重量%以下、好ましくは5.00重量%以下、より好ましくは4.00重量%以下、より一層好ましくは3.00重量%以下、さらに一層好ましくは2.50重量%以下、好ましくは2.00重量%以下、より好ましくは1.80重量%以下、より一層好ましくは1.60重量%以下含有する。アノード組成物中のスズ濃度が低い状態では、アノードスライムの容積は減少するが、これは、スズが主としてスズの酸化物又はスズとアンチモンの酸化物として本プロセスを離脱し、両方とも最終的にアノードスライムを形成することが予想されるからである。したがって、アノード中のスズが減少すると、アノードスライムを処理する負担が軽減されることになる。アノード中のスズ濃度が低下すれば、スズがカソードの不純物として回収されるリスクが低下することになる。スズが減少すると、電解サイクルの接液面、特に電解槽中及びその周辺で、SnSb系固体化合物が成長するリスクも低下する。
本発明の一実施形態では、本発明に係るアノード組成物及び/又は溶融液体金属組成物は、アンチモンを0.10重量%以上、好ましくは0.15重量%以上、より好ましくは0.20重量%以上、より一層好ましくは0.25重量%以上、好ましくは0.30重量%以上、より好ましくは0.35重量%以上、好ましくは0.40重量%以上、より好ましくは0.50重量%以上含有する。アノード中のアンチモン濃度を高くできることで、アンチモンと銅との分離に関して上流プロセスで厳密性を低下させて操業できるようになり、また、アンチモンを有意な量含有する原料を、より多く許容できるようになる。そのような原料は、多くの銅の製造操業で取扱いが困難であるため、経済的により好ましい条件でより容易に入手することができる。アノード組成物は任意選択で、アンチモンを3.00重量%以下、好ましくは2.50重量%以下、より好ましくは2.00重量%以下、より一層好ましくは1.50重量%以下、さらに一層好ましくは1.25重量%以下、好ましくは1.00重量%以下、より好ましくは0.90重量%以下、より一層好ましくは0.80重量%以下含有する。アノード組成物中のアンチモン濃度が低い状態では、SnSb系酸化化合物が形成されるリスクが低下し、このSnSb系酸化化合物は、溶液から生じて固体堆積物を形成し、電解サイクルの接液面、特に電解槽中及びその周辺で、固体堆積物を形成し、かつ成長する可能性がある。アノード中のアンチモン濃度が低下すると、アンチモンがカソードの不純物として回収されるリスクが低下する。このアンチモンは、通常はたとえばスズとアンチモンとの金属間酸化物の形態で、電解液の第1の流れ及び/又は電解液の第2の流れにおけるアノードスライムの一部として、好ましくは当該槽から除去される。アンチモンが存在しても、本プロセスによって生成されるアノードスライムの価値に寄与することはほとんどないが、アノードスライムを処理する際の操業上の負担には寄与するため、アノード中のアンチモンの存在を低減することは、本プロセスから得られるアノードスライムの副生成物の価値を減じることなくアノードスライムの容積や、ひいてはその操業上の負担をも低減するので、有益である。
本発明の一実施形態では、本発明に係るアノード組成物及び/又は溶融液体金属組成物は、ビスマスを0.010重量%以上、好ましくは0.015重量%以上、より好ましくは0.020重量%以上、より一層好ましくは0.025重量%以上、好ましくは0.030重量%以上、より好ましくは0.035重量%以上含有する。アノード中のビスマス濃度を高くできることで、ビスマスと銅との分離に関して上流プロセスで厳密性を低下させて操業できるようになり、また、ビスマスを有意な量含有する原料を、より多く許容できるようになる。
そのような原料は、多くの銅の製造操業で取扱いが困難であるため、経済的により好ましい条件でより容易に入手することができる。アノード組成物は任意選択で、ビスマスを0.50重量%以下、好ましくは0.25重量%以下、より好ましくは0.200重量%以下、より一層好ましくは0.150重量%以下、さらに一層好ましくは0.100重量%以下、好ましくは最大0.090重量%以下、より好ましくは0.080重量%以下、より一層好ましくは0.070重量%以下含有する。アノード中のビスマス濃度が低下すると、ビスマスがカソードの不純物として回収されるリスクが低下する。このビスマスは、推定上は金属ビスマスとして、かつ/又は、十分なヒ素が存在する場合は、たとえばBiAsOなどのヒ素として、電解液の第1の流れ及び/又は電解液の第2の流れにおけるアノードスライムの一部として、好ましくは当該槽から除去される。ビスマスが存在しても、本プロセスによって生成されるアノードスライムの価値に寄与することはほとんどないが、アノードスライムを処理する際の操業上の負担には寄与するため、アノード中のビスマスの存在を低減することは、本プロセスから得られるアノードスライムの副生成物の価値を減じることなくアノードスライムの容積や、ひいてはその操業上の負担をも低減するので、有益である。
本発明の一実施形態では、本発明に係るアノード組成物及び/又は溶融液体金属組成物は、亜鉛を0.0010重量%以上、好ましくは0.0050重量%以上、より好ましくは0.0075重量%以上、より一層好ましくは0.010重量%以上、好ましくは0.015重量%以上、より好ましくは0.020重量%以上含有する。亜鉛濃度を高くできることで、アノード組成物をもたらす、銅含有流からの亜鉛の除去に関して、上流プロセスで厳密性を低下させて操業できるようになり、また、亜鉛を有意な量含有する原料を、より多く許容できるようになる。そのような原料は、多くの銅の製造操業で取扱いが困難であるため、経済的により好ましい条件でより容易に入手することができる。アノード組成物は任意選択で、亜鉛を0.50重量%以下、好ましくは0.25重量%以下、より好ましくは0.200重量%以下、より一層好ましくは0.150重量%以下、さらに一層好ましくは0.100重量%以下、好ましくは0.090重量%以下、より好ましくは0.080重量%以下、より一層好ましくは0.070重量%以下、好ましくは0.050重量%以下、より好ましくは0.025重量%以下含有する。アノード中の亜鉛濃度が低下すると、亜鉛がカソードの不純物として回収されるリスクが低下する。この亜鉛は、好ましくは電解液サイクルからのブリードの一部として、かつ/又は電解液の第1の流れ及び/又は電解液の第2の流れにおけるアノードスライムの一部として、本プロセスから除去される。亜鉛が存在しても、本プロセスによって生成されるアノードスライム及び/又はブリード流の価値に寄与することはほとんどないが、アノードスライム及び/又はブリード流を処理する際の操業上の負担には寄与するため、アノード中の亜鉛の存在を低減することは、本プロセスから得られるアノードスライムの副生成物の価値を減じることなくアノードスライムの容積や、ひいてはその操業上の負担をも低減するので、有益である。
ブリード流の価値とその処理負担についても、同じことが言える。
本発明の一実施形態では、アノード組成物は、ヒ素を0.005重量%以上、好ましくは0.010重量%以上、より好ましくは0.020重量%以上、より一層好ましくは0.025重量%以上、好ましくは0.050重量%以上、より好ましくは0.060重量%以上、より一層好ましくは0.070重量%以上、さらに一層好ましくは0.075重量%以上含有する。アノード中のヒ素濃度を高くできることで、アノード組成物をもたらす、銅含有流からのヒ素の除去に関して、上流プロセスで厳密性を低下させて操業できるようになり、また、ヒ素を有意な量含有する原料を、より多く許容できるようになる。そのような原料は、多くの銅の製造操業で取扱いが困難であるため、経済的により好ましい条件でより容易に入手することができる。さらに、ヒ素はアノード不動態化を減少させるとされており、また、SbAsOやBiAsOなどのヒ素などの金属間化合物を形成することができ、これらは溶液から容易に生じて、他の金属不純物をアノードスライムにもたらすことになる。したがって、ヒ素化合物を多く形成することで、アノード不動態化が減少し、また他の不純物金属をアノードスライムの一部にすることにより、それらをより容易に除去できるという利点がさらにもたらされ得る。アノード組成物は任意選択で、ヒ素を0.40重量%以下、好ましくは0.30重量%以下、より好ましくは0.250重量%以下、より一層好ましくは0.200重量%以下、さらに一層好ましくは0.175重量%以下、好ましくは0.150重量%以下、より好ましくは0.125重量%以下、より一層好ましくは0.100重量%以下含有する。アノード中のヒ素濃度が低下すると、ヒ素がカソードの不純物として回収されるリスクが低下する。このヒ素は、たとえばアンチモンやビスマスなどの別の金属不純物のヒ酸塩として、又は2As.3Sbなどの混合酸化物として、電解液の第1の流れ及び/又は電解液の第2の流れにおけるアノードスライムの一部として、当該槽から除去されるか、又はスズの酸化物及び/又はスズとアンチモンとの酸化物に結合かつ/又は捕捉されることが好ましい。ヒ素が存在しても、本プロセスによって生成されるアノードスライムの価値に寄与することはほとんどないが、アノードスライムを処理する際の操業上の負担には寄与するため、アノード中のヒ素の存在を低減することは、本プロセスから得られるアノードスライムの副生成物の価値を減じることなくアノードスライムの容積や、ひいてはその操業上の負担をも低減するので、有益である。
本発明の一実施形態では、本発明に係るアノード組成物及び/又は溶融液体金属組成物は、銀を0.0001重量%以上、好ましくは0.0010重量%以上、より好ましくは0.0050重量%以上、より一層好ましくは0.0100重量%以上、好ましくは0.0150重量%以上、より好ましくは0.0200重量%以上、より一層好ましくは0.0250重量%以上、好ましくは0.0300重量%以上、より好ましくは0.0350重量%以上、より一層好ましくは0.0400重量%以上含有する。銀は、最も典型的にはアノードスライムの一部として、本発明のプロセスを容易に離脱し、また銀は、本発明に係るプロセスにおけるアノードスライムの副生成物の価値に大きく寄与する。したがって、銀含有量が増加すると、アノードスライムの処理や、そこに含有される金属の回収が、経済的により有益なものとなるので、好適である。本発明に係るアノード組成物及び/又は溶融液体金属組成物は、任意選択で、銀を0.50重量%以下、好ましくは0.25重量%以下、より好ましくは0.200重量%以下、より一層好ましくは0.150重量%以下、さらに一層好ましくは0.100重量%以下、好ましくは0.075重量%以下、より好ましくは0.060重量%以下、より一層好ましくは0.050重量%以下含有する。銀が多く存在すると、銀がカソードに取り込まれるリスクが高まる。銅アノード中の銀はさらなる経済的価値を何らもたらさないため、アノードスライム中の銀と比較して品位低下する。銀は、銅の主な最終用途、すなわち銅線の引張に技術的な課題をもたらすため、カソード銅中の不要汚染物質である。
本発明の一実施形態では、アノード組成物は、酸素を0.0500重量%又は500重量ppm以下、好ましくは0.0400重量%以下、より好ましくは0.0300重量%以下、より一層好ましくは0.0200重量%以下、さらに一層好ましくは0.0180重量%以下、好ましくは0.0150重量%以下、より好ましくは0.0125重量%以下、より一層好ましくは0.0100重量%又は100重量ppm以下含有する。本明細書の他の箇所でも述べているように、酸素が過剰に存在すると、鋳造及び冷却中のアノードが変形するリスクを高めるため、本出願人らは酸素含有量を規定の限界値未満とすることを好む。そのため、本出願人らは、アノード組成物中の酸素含有量を規定の上限値未満とすることを好む。
アノード組成物は任意選択で、酸素を0.0005重量%又は5重量ppm以上、好ましくは0.0010重量%以上、より好ましくは0.0015重量%以上、より一層好ましくは0.0020重量%以上、好ましくは0.0025重量%以上、より好ましくは0.0030重量%以上、より一層好ましくは0.0040重量%以上、好ましくは0.0050重量%以上、より好ましくは0.0075重量%以上、より一層好ましくは0.0100重量%又は100重量ppm以上含有する。本出願人らによれば、アノード組成物中の酸素含有量を極めて低い濃度まで低減しないことが好ましいと分かっている。アノード組成物中で極めて低い酸素濃度を達成する上での負担及び努力は、同等の経済的効果によって補償されない。その一方で、酸素含有量を規定の下限値よりもさらに低減するために通常余分に行われる努力は、大抵は面倒かつ複雑であり、またその際、アノード組成物から一部の有価金属を除去し、ひいてはその容積を低減し、かつ低価電子濃度側の流れを形成する傾向がある。そのため、本出願人らは、アノード組成物中の酸素濃度を規定の下限値に準拠させることを好む。
本発明の一実施形態では、本アノード組成物は、酸素含有量がさらに引き下げられた、好ましくは本発明に係るプロセスのアノード組成物に対して規定した、たとえば5重量ppm~500重量ppmの濃度範囲内に到達するようにされた、本発明に係る溶融液体金属組成物である。
本発明の一実施形態では、本電解液組成物は、以下の条件のうちの少なくとも1つ、好ましくは全てに準拠しており、それらの条件はすなわち、
・銅が20~55グラム/リットルの範囲内となること、
・ニッケルが25~90グラム/リットルの範囲内となること、
・硫酸が130~200グラム/リットルの範囲内で、好ましくは190グラム/リットル以下、より好ましくは180グラム/リットル以下、より一層好ましくは170グラム/リットル以下、さらに一層好ましくは160グラム/リットル以下、そして任意選択で140グラム/リットル以上となること、
・スズが0.4~1.4グラム/リットルの範囲内で、好ましくは1.2グラム/リットル以下、より好ましくは1.0グラム/リットル以下、より一層好ましくは0.90グラム/リットル以下、さらに一層好ましくは0.80グラム/リットル以下となること、及び
・ヒ素が10~200ミリグラム/リットルの範囲内で、好ましくは15ミリグラム/リットル以上、より好ましくは20ミリグラム/リットル以上、そして任意選択で175ミリグラム/リットル以下、好ましくは150ミリグラム/リットル以下、より好ましくは100ミリグラム/リットル以下、より一層好ましくは75ミリグラム/リットル以下、さらに一層好ましくは50ミリグラム/リットル以下となることである。
本出願人らによれば、電解液の溶解銅含有量を規定の限界値内に維持すると有利であることが分かっており、これはなぜなら、その範囲が、高濃度であることが、カソード表面の停滞膜を介した拡散を助けるという、カソードでのその正の機能と、高濃度であることが、アノード表面の停滞膜を介した拡散の駆動力を低減するという、アノードで想定されるその負の機能との間に、優れた均衡をもたらすからである。
本出願人らは、電解液中のニッケル含有量を規定の限界値内に維持することを好み、好ましくは30グラム/リットル以上、より好ましくは35グラム/リットル以上、より一層好ましくは40グラム/リットル以上、好ましくは45グラム/リットル以上、より好ましくは50グラム/リットル以上、より一層好ましくは55グラム/リットル以上、好ましくは60グラム/リットル以上、より好ましくは65グラム/リットル以上としている。ニッケル含有量が増加すると、そのさらなる処理によってニッケルが回収され得るブリード流の価値が高まることになり、これはなぜなら、存在するニッケルの量が増加するだけでなく、その回収がより効率的になるからである。その一方で、電解液中のニッケル含有量が増加することにより、局所的に、たとえばコールドスポットや、電解液中に浸漬していないが、高温である可能性のある装置の部分に飛散した電解液の液滴において、硫酸ニッケルが溶液から生じて固形物を形成し、この固形物が装置の適切な動作を損なうか、さらには妨げ得るリスクがさらに高まることになる。これらの理由から、本出願人らは、電解液中のニッケル含有量を85グラム/リットル以下、好ましくは80グラム/リットル以下、より好ましくは75グラム/リットル以下、より一層好ましくは70グラム/リットル以下の濃度に維持することを好む。
本出願人らによれば、電解液の硫酸含有量を規定の限界値内に維持すると有利であることが分かっており、これはなぜなら、その範囲が、一方ではアノードから金属を溶解し、かつ電解液に導電性をもたらすという、その正の機能と、他方では電解液の密度及び粘度を上昇させ、これによって物質・熱移動とアノードスライムの沈降速度とが損なわれ、なおかつ電解液に接触する可能性のある操業装置を損傷するリスクを高めることによる、想定されるその負の機能との間に、優れた均衡をもたらすからである。
硫酸濃度が上昇すると、より特殊な、つまりは高価な構造材を選択することが課される可能性があり、これはすなわち、規定の上限値に準拠することで回避できる余分な投資コストが課されるということである。
本出願人らによれば、電解液中に溶解したスズが、いわゆる「浮遊スライム」、すなわち電解槽底部に沈降せず、また滞留時間が有意に長くなり得、なおかつ液体速度が当該槽内よりも有意に低下し得る沈降装置の底部にも沈降しない、アノードスライム粒子を形成する傾向があると分かっている。このため、そのような浮遊スライムは、アノードスライムの除去について記載したような、本プロセスのさまざまな手段によっても電解液から除去されない。
本出願人らは、電解液中のヒ素濃度を規定の上限値未満のままとすることを望む。規定の下限値を超えてヒ素が存在する場合、アノードの不動態化メカニズムを減少させ、なおかつ固形物であり、アノードスライムの一部となる金属間化合物により多くの他の金属汚染物質をもたらすことができるため、有益となり得る。しかしながら、電解液中に規定の上限値を超えてヒ素が存在する場合は、その金属含有量の大部分を回収するために、さらなる処理を必要とするヒ素がブリード流中に増加し、なおかつアノードスライムの副生成物中により多くのヒ素がもたらされるため、不利となり得る。ヒ素が増加すると、電解サイクルから除去されるアノードスライム及び/又はブリード流をさらに処理するために、余分な負担がかかる可能性があり、それも、それぞれのさらなる処理において、追加の工程を要し得るところまで負担がかかる可能性さえある。ヒ素が増加しても、当該副生成物流にさらなる価値を何らもたらさないため、これを規定の上限値未満に保つことが好ましい。その一方で、本出願人らによれば、ヒ素含有量がさらに低減する際の要件によって課せられる余分な負担又は制限が、ヒ素の存在が減少することで生じる付加的な効果によって完全には補償されないため、規定の下限値に準拠したヒ素濃度の低さであっても許容できることが分かっている。
本発明の一実施形態では、以下のプロセス化学物質の少なくとも1つ、好ましくは全てが、規定どおりに電解液に添加され、それらはすなわち、
・ 生成されるカソード銅中、25~900グラム/トンの範囲内で、好ましくは50グラム/トン以上、より好ましくは100グラム/トン以上、より一層好ましくは150グラム/トン以上、好ましくは200グラム/トン以上、より好ましくは250グラム/トン以上、好ましくは300グラム/トン以上、より好ましくは350グラム/トン以上、より一層好ましくは400グラム/トン以上、さらに一層好ましくは450グラム/トン以上、好ましくは500グラム/トン以上、より好ましくは600グラム/トン以上、そして任意選択で800グラム/トン以下、好ましくは700グラム/トン以下、より好ましくは600グラム/トン以下、より一層好ましくは500グラム/トン以下、より一層好ましくは400グラム/トン以下、好ましくは、生成されるカソード銅中350グラム/トン以下の界面活性成分(たとえば、ゼラチン)、
・ 生成されるカソード銅1トン当たり、25~250グラムの塩酸(HCl:hydrochloric acid)の範囲内のHCl、
・ 生成されるカソード銅1トン当たり、25~400グラムの臭化水素酸(HBr:hydrobromic acid)の範囲内のHBr、
・ 生成されるカソード銅1トン当たり800~3000ミリグラムの範囲内で、好ましくは1000ミリグラム/トン以上、任意選択で2500ミリグラム/トン以下、好ましくは2000ミリグラム/トン以下、より好ましくは、生成されるカソード銅中、1500ミリグラム/トン以下の少なくとも1つの凝集剤、及び
・ 生成されるカソード銅1トン当たり、15~150グラムの範囲内のチオ尿素である。
本出願人らは、電解液に少なくとも1つの界面活性成分を添加することを好む。本出願人らによれば、界面活性成分がカソード上でのデンドライトの成長を低減又は回避するため、短絡形成のリスクが低下することが分かっている。本出願人らによれば、ゼラチンが非常に適した界面活性成分であることが分かっている。本出願人らによれば、規定の添加範囲、及び典型的には、生成されるカソード銅1トン当たり約650グラムのゼラチンが、別の課題又は不当な操業コストを生じることなく、十分に有効となることが分かっている。
本出願人らは、電解液に塩酸(HCl)を添加することを好む。この塩酸は、添加され得るゼラチンの重合が損なわれ、そのポリマー鎖がより小さな断片へと切断され、その結果、ゼラチンがその活性を保持するという利点をもたらす。さらに一層重要になるのは、塩酸からの塩素を銀(Ag)に不溶型で結合させる(AgCl)ことができる点であり、これは最終的に、アノードスライムの一部を容易に形成し、また本プロセスから好都合に除去され得るため、銀の大部分を経済的に回収することができる。本出願人らは、塩酸を生成されるカソード銅1トン当たり30グラム以上、好ましくは50グラム以上、より好ましくは75グラム以上、より一層好ましくは、生成されるカソード銅1トン当たり100グラム以上、そして任意選択で225グラム以下、好ましくは200グラム以下、より好ましくは175グラム以下、好ましくは、生成されるカソード銅1トン当たり150グラム以下添加することを好む。本出願人らは、塩酸を30重量%の溶液として導入することが最も好都合であると考え、また、生成されるカソード銅1トン当たり約430ミリリットルを添加することを好むが、都合がよければ他の濃度を使用してもよい。
本出願人らは、規定の投与範囲で、電解液に臭化水素酸(HBr)をさらに添加することを好む。本出願人らは、臭化水素酸を生成されるカソード銅1トン当たり30グラム以上、好ましくは50グラム以上、より好ましくは75グラム以上、より一層好ましくは、生成されるカソード銅1トン当たり100グラム以上、そして任意選択で350グラム以下、好ましくは300グラム以下、より好ましくは250グラム以下、好ましくは、生成されるカソード銅1トン当たり200グラム以下添加することを好む。本出願人らは、典型的には、生成されるカソード銅1トン当たり約125グラムのHBrを添加することを好む。臭化水素酸は塩酸と同じ利点をもたらす。臭化水素酸を添加すると、その銀塩(AgBr)が塩化物よりもさらに溶解しにくくなるというさらなる効果がもたらされる。したがって、臭化水素酸は、電解液からより多くの銀を除去して、アノードスライム中にこれらを取り込むことができるという利点をもたらす。本出願人らは、48重量%の溶液としてHBrを使用することを好むが、都合がよければ他の濃度を使用してもよい。本出願人らは、規定どおりにHCl及びHBrの両方を使用することを好む。
本出願人らは、好ましくは電解液が沈降装置に進入する場合において、電解液に少なくとも1つの凝集剤を規定の投与範囲で、典型的には生成されるカソード銅1トン当たり約1035ミリグラム添加することを好む。たとえば商品名ZETAG(登録商標)、7565型として入手可能な、アジピン酸を基にした、カチオン性ポリアクリルアミドを使用することを好む。
本出願人らは、好ましくは電解液が沈降装置に進入する場合において、電解液にチオ尿素を、生成されるカソード銅1トン当たり15~150グラムの投与速度で、好ましくは18グラム以上、より好ましくは20グラム以上、より一層好ましくは25グラム以上、さらに一層好ましくは30グラム以上、そして任意選択で125グラム以下、好ましくは100グラム以下、より好ましくは75グラム以下、より一層好ましくは50グラム以下、さらに一層好ましくは49グラム以下、そして典型的には、生成されるカソード銅1トン当たり約32グラムさらに添加することを好む。このチオ尿素は、(前述のプロセス化学物質と共に)堆積物形態(粗さ及び/又は小塊形成)、結晶形状(円形かつ/又は尖鋭状)並びに粒子型(長尺状かつ/又は電界配向型)に影響を与えるために添加され、これらはカソード中の小塊、気孔、及びデンドライトの形成回避へと大きくつながっていく。電解精製におけるチオ尿素及びその他の添加剤の機能に関するより詳細な情報については、「Investigation of the Behaviour of Thiourea and alternative Additives in Copper Electrorefining」、Proceedings EMC誌、第1巻(2015)、151~160頁において、Baumback J、Bomback H及びStelter Mらによって述べられている。本出願人らは、規定の上限値を超えないことで、カソード中の硫黄の量を少なく保つようにすることを好む。
本発明の一実施形態では、カソードブランクはステンレス鋼製、好ましくはSS316L又は「二相」鋼製である。本出願人らによれば、堆積銅層がステンレス鋼ブランクから容易に剥離する可能性があり、またその残りのブランクが、電解槽内の新たなカソードを作動させるために、最小限の再処理を施すことで容易に再利用され得ることが分かっている。
本発明の一実施形態では、カソード間隔は、95mm以上、好ましくは100mm以上、より好ましくは105mm以上、より一層好ましくは110mm以上、好ましくは115mm以上、より好ましくは120mm以上である。カソード間隔を縮小することは、当該槽を通る電気抵抗、ひいては電解精製操業に必要となるエネルギーの面で有益であるが、本出願人らによれば、アノード組成物中の不純物濃度が高いと、デンドライトの形成及び成長においてさらなるリスクをもたらすことが分かっており、これは、カソードと隣接アノードとの間で短絡が発生する原因となる。そのような短絡発生を解決するために必要となる操業者の介入を低減するために、本出願人らは、規定されたようにカソード間隔を維持することを好む。さらに、本出願人らによれば、カソード間隔が拡大すると、アノード純度は低下するにもかかわらず、カソード純度が上昇するという効果がもたらされることが分かっている。
本発明の文脈におけるカソード間隔とは、1つのカソードブランクの中間点から隣接するカソードブランクにおいて対応する中間点までの間隔を意味し、これは、カソード表面と、このカソード表面に対向している隣接アノードとの間の距離の2倍に加えて、1つのカソード厚さと1つのアノード厚さとを含む。
本発明の一実施形態では、少なくとも1つのカソードは、アノードの入れ替え頻度よりも高い頻度で入れ替えられる。本出願人らは、同じ槽内の使用済みアノードを新たに鋳造されたアノードと入れ替えるよりも高い割合で、槽内のカソードを新たなブランクと入れ替えることを好む。このことは、堆積銅層の厚さが減少しているので、カソードがより容易に剥離するという利点をもたらす。さらなる利点は、カソード上の銅層が薄くなると、剥離中にブランクが損傷するリスクが低下することにある。さらに別の利点としては、カソードの入れ替え頻度が高まることにより、電解精製操業中に、槽内で短絡が発生するリスクが低下することが挙げられる。このような短絡の発生により、多大な労力を要するような、操業者の介入の必要性が生じることになる。
本出願人らによれば、たとえば一度にカソードの3分の1のみを入れ替えるなど、特定の電解槽から部分的にカソードを入れ替えることが可能であり、また有利であることが分かっている。このことは、カソードの入れ替え中に電解槽を稼働させ続けることができる、それも最大生産率で可能となるという利点をもたらす。本出願人らは、カソード番号1、4、7、10などをブランクに置き換え、これが完了すると、カソード番号2、5、8、11などをブランクに置き換え、そしてこれらが一度還元されると、残りのカソード番号3、6、9、12などをブランクに置き換えることが有利であると考えている。本出願人らによれば、このようにカソードの入れ替えが行われる間、電解槽を稼働させ続けることが可能であることが分かっている。本出願人らによれば、当該槽をフル稼働させ続けることができ、また、槽中に存在するカソードの3分の2が、カソードの3分の1を新たなブランクと入れ替えるたびに必要となる短時間の間に、最大電流密度を処理できることが分かっている。
本出願人らによれば、本発明に係る金属組成物の酸素含有量を、本発明に係るプロセスの一部として、本アノード組成物に好適な濃度まで容易に低減できることが分かっている。本発明に係るプロセスの一部として、本アノード組成物に規定した限界値内に本発明に係る金属組成物の酸素含有量を抑えることによる効果については、本明細書の他の箇所でも述べている。
本出願人らは、「ポーリング」として知られるプロセス工程によって、本発明に係る金属組成物の酸素含有量を低減することを好む。ポーリング工程では、本溶融液体金属組成物が炭素源と接触する。この炭素は本金属組成物中の酸素と反応し、炭素酸化物(CO+CO)ガスを形成し、このガスは本溶融液体金属組成物から流出して、液体金属浴の上に還元性雰囲気を形成する。この炭素源は、天然ガス又は炭化水素液、カーボンブラック、木炭、石炭などの任意の炭化水素や、木材を含む任意の有機材料など、任意の好都合な炭素含有材料であってもよい。本出願人らは、その利便性から天然ガスを使用することを好む。本組成物が溶融しており、かつ液体であるという操業条件により、集中的な接触状態を容易に作り出すことができ、また炭素源中の炭素が本組成物中の酸素と容易に反応して炭素酸化物(CO又は二酸化炭素)を形成し、この炭素酸化物は、気体として本溶融液体金属組成物から流出し、その際、酸素に結合した当該金属は元素形態のままとなる。溶融液浴が高度に流動性になるように、このポーリングは1150℃以上の温度で行われることが好ましく、またいかなるスラグも、液体金属浴から最初に除去されていることが好ましい。ポーリング工程からのオフガスは、廃棄前に一酸化炭素を二酸化炭素へと変換するために、後燃焼工程にかけられる。本出願人らによれば、本発明に係るプロセスの一部として、酸素含有量を本アノード組成物にとって望ましい範囲内に抑えるために、この炭素源を正しく投与すると、非常に好都合であることが分かっている。
本発明に係る溶融液体金属組成物は、不純物の一部として、各元素に対して規定されたそれぞれの限界値に準拠する濃度で、以下の元素の少なくとも1つ、より好ましくは全てをさらに含有するのが好ましく、それらの元素はすなわち、
・0.10重量%以上かつ/又は3.00重量%以下のアンチモン、
・0.010重量%以上かつ/又は0.5重量%以下のビスマス、
・6.00重量%以下のスズ、
・6.00重量%以下の鉛、
・0.0001重量%以上、かつ0.50重量%以下の銀、
・0.005重量%以上、かつ0.40重量%以下のヒ素、
・0.001重量%以上、かつ0.100重量%以下の硫黄、及び
・0.50重量%以下の亜鉛である。
一実施形態では、本発明に係る溶融液体金属組成物は、硫黄を規定された範囲内で、好ましくは0.005重量%以上、より好ましくは0.010重量%以上、そして任意選択で0.080重量%以下、好ましくは0.070重量%以下、より好ましくは0.060重量%以下含有する。
本出願人らによれば、限られた量の硫黄が本溶融液体金属組成物に許容されてもよく、またこのことが、上流プロセスでの原料の許容範囲を拡大するという利点をもたらし、したがって、その原料でより多くの硫黄を許容できることが分かっている。さらに、本出願人らによれば、本溶融液体金属組成物中の硫黄を上限値に準拠させて維持すると、有利であることが分かっており、これはなぜなら、硫黄が増加すると、最終的にカソード不純物を硫黄が形成するリスクが高まり、またアノードスライム中に硫黄が増加するからである。アノードスライム中の硫黄が酸化硫黄ガス(SO及び/又はSO)の発生をもたらす可能性があるため、乾式製錬工程を含むプロセスによってアノードスライムをさらに処理する場合、ここでの後者は望ましくない可能性がある。
(実施の形態1)
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示している。本発明に係るプロセスの実施形態におけるコア部分のフロー図を示す図によって、本実施例をさらに例示している。本プロセス部分では、アノード組成物1から出発して、カソード生成物6、アノードスライム生成物4、ブリードオフ生成物5、及び使用済みアノード生成物7が回収される。
図において、これらの番号は以下のクレームの特徴部分を表している。
1.アノード
2.銅ショット
3.黒色酸
4.アノードスライム
5.ブリードオフ
6.カソード
7.使用済みアノード
2018年12月11日に出願された我々の同時係属中の特許出願である、国際出願PCT/EP2018/084384に記載しているプロセスに従って、ニッケル、スズ、鉛、及びその他の微量金属をさらに含有する不純な溶融液体銅系金属組成物を調製した。この組成を表Iに詳述する。
Figure 0007398395000001
本組成には、約5重量ppmの金(Au)がさらに含有されていた。
不純な溶融液体銅系金属組成物を炉に導入し、天然ガスを炉内で燃焼させることによって、約1200℃の温度にした。溶融金属上に浮遊している残りのスラグは、全て流出させた。当該液体金属の酸素含有量が20~170重量ppmの範囲内に減少するまで、当該液体金属に天然ガスを注入した。
次に、酸素含有量を減少させた液体溶融金属を、その後の電解精製操業のために、アノード1を構成する薄い平板に鋳造し、これを周囲温度まで冷却させた。
電解液として機能する酸性硫酸銅溶液を68℃で含有する100個の電解槽のそれぞれに、平均重量444kgの合計52個のアノードと51個のステンレス鋼板の出発板(ブランク)とを浸漬した(200)。全電解サイクルの間中の電解液の平均組成を表IIに示し、ここでは主成分をグラム/リットルで表し、微量成分を重量ppmで表している。
Figure 0007398395000002
必要なときに必要に応じて、以下に詳述している浸出槽に濃硫酸(96%)を導入することにより、硫酸濃度を平均濃度160グラム/リットルに維持した。 以下に示すプロセス添加剤の添加速度については、これらを沈降装置への電解液導入口に導入することにより、電解サイクル全体を通して平均速度に維持し(300)、これらの添加剤はすなわち、
・生成されるカソード銅1トン当たり、約650グラムのゼラチン、
・生成されるカソード銅1トン当たり約430ミリリットル/トンになる、30重量%溶液のHCl、
・生成されるカソード銅1トン当たり約176ミリリットル/トンになる、48重量%溶液のHBr、
・生成されるカソード銅1トン当たり約1035ミリグラムになる、凝集剤ZETAG(登録商標)、7565型の、カチオン性ポリアクリルアミド、及び
・生成されるカソード銅1トン当たり、約32グラムのチオ尿素である。
アノード(流れ1)の平均組成を表IIIに示す。
Figure 0007398395000003
当該アノードには、約5重量ppmの金(Au)がさらに含有されていた。
電解槽自体は直列に接続させていたが、アノード(流れ1)とステンレス鋼ブランクとは電気的に並列な構成で交互配置させた(間隔120mm)。290A/mの平均電流密度を適用し、アノード(正極)及びカソード(負極)間の平均電位が0.46Vとなった。
電流が流れると銅が酸化し、また電気化学的経路を介して溶解する。ただし一部の銅は、純粋な化学的経路によっても溶解する。アノード中に存在し、なおかつ銅よりも電位が卑である所定のプロセス条件下にある全ての元素(金属)も、アノードである程度溶解することになる。電気化学的かつ化学的に溶解した銅以外の金属は、電解液のブリード流5によって連続的に除去された。このブリード流を、これらの金属が選択的に除去され、また精製電解液が残されるさらなる精製工程(図示せず)にかけた。これにより、電解精製中に不純物が電解液中に蓄積するのが防止され、また不純物のカソード上への共堆積も防止される。黒色酸とも呼ばれる精製ブリードオフを、流れ3として電解液回路内に再循環させた。リードオフの平均組成と、黒色酸の平均組成とを表IVに示す。
Figure 0007398395000004
アノードから溶解した銅は、電解液を通ってカソードに向かって流れ、そこでこの銅をステンレス鋼の出発板上にめっきして、銅カソードを生成した。当該槽の一方の頂部端部に電解液を供給した。オーバーフローを有する槽壁は、電極の方向に対して垂直となる側壁であった。この電解液の流れを、電解サイクルの間中正に保持した。アノード不動態化を防止するために、各槽で1時間当たり約55%となる槽容積の平均入れ替え率を、電極の下に注入する加熱空気と併せて使用した。この流入空気を、気体拡散装置を介して散布する前に、電解液の温度に近い温度で水蒸気で飽和し、0.75バーグの平均圧力で各槽に導入した。電解精製中、天井クレーンに取り付けられたガウスメータを使用して全ての槽を定期的に検査することにより、短絡したアノード対又はカソード対を特定した。短絡については、原因となっているアノードとカソードとを再配置するか、又は短絡したアノード対若しくはカソード対間で成長した可能性のある電着銅の小塊を除去することによって修復した。これら全てのパラメータを適切に制御することで、高品質のカソードが得られた。カソードの平均組成(流れ6)を表Vに示す。有機添加剤であるゼラチン及びチオ尿素(流れ8)をポンプシステムのすぐ上流の電解液に連続的に添加して、良好な混合を確保することにより、電解精製中に得られたカソード堆積物を増白し、かつ平滑化した。
Figure 0007398395000005
表II及び表Vに示すように、金と白金族金属とは硫酸塩電解液に溶解しなかったため、電解液に進入せず、またカソードにめっきされなかった。銀はアノードからある程度溶解したが、電解液に少量のHClとHBrとを添加することにより、AgCl及びAgBrとして電解液から沈降させた(流れ8)。カソード中に銀が出現したのは、主として少量のアノード残渣の閉塞によるものと考えられる。
鉛とスズとは電解液中に不溶性の化合物を形成していたため、これらの金属が電解液に進入することはほとんどなかった。アノードからの不溶性不純物の大部分は、電解槽底部に不溶解のスライムとして集積した。電極の下に設けられた当該槽の底部上を移動する吸引ヘッドによって、電解精製操業中に、これらのスライムを当該槽から定期的に除去した(00)。いくつかの不溶性不純物は軽量であり、当該槽のオーバーフローを介し、沈降装置に向かって当該槽を離脱していた(300)。また、これらの軽量のスライムを、沈降装置に向かう途中で電解液に凝集剤を添加した後、これらが沈降するのに十分な時間があれば、沈降装置の底部から定期的に除去した(400)。このようにして、全てのアノードスライムは、アノードスライムを含有する電解液の複合流内に集積し、アノードスライム(流れ4)を分離して清澄な電解液とするフィルタプレスによって、さらにこれらを処理した(500)。この清澄な電解液の一部を循環槽に再循環させた(100)。 この清澄な電解液の別の部分を、通常なら電解液中に集積し得る銅やニッケルなどの不純物を除去するために、電解採取によってブリード流(流れ5)として除去した。アノードスライムを70℃の加熱水で洗浄して、電解液中に溶解して存在する銅やニッケルの量を低減した。この洗浄水を電解精製プロセスに再循環させた。アノードスライムの平均組成(流れ4)を表VIに示す。当該組成の残部は酸素と一部の炭素であることが想定され、それも有機プロセス添加剤由来のものである可能性が高い。
これらのアノードスライムには、約60重量ppmの金と約5重量ppmの白金とがさらに含有されていることが分かった。
通常なら電解液中の銅の枯渇を引き起こし得る、アノードで電気化学的に溶解する不純物を補償するために、上流のプロセス工程から得られる、中空開放された小塊を含有する銅(流れ2)を、補給に使用される濃硫酸、ブリード流処理から戻った黒色酸流、及び電解液の一部にこの小塊を含有する銅を接触させることによって浸出槽内で浸出させた(600)。浸出槽からの液体生成物を、電解精製プロセス中に電解液回路内に再循環させた。使用した小塊の平均組成(流れ2)を表VIIに示す。浸出槽の底部に酸素気体を導入することによって、銅塊の溶解を支援した。
Figure 0007398395000007
銅塊中の金及び白金の含有量は1重量ppm未満であった。
アノードサイクル終了時、各アノードは約75%溶解していた。アノードの不溶解残渣(アノードスクラップ)を、電解槽から使用済みアノードとして除去し(流れ7)、洗浄、計量、及び積層の後、これらを溶融して新鮮なアノードとして再鋳造した。使用済みアノードの平均組成は、表IIIに示すアノードの平均組成と明らかに同じであった。
上記のプロセスにより、槽当たり24日の標準的な電解サイクルで操業すること、すなわち、新たなアノードのセットを導入するまでの24日間にわたる連続操業が可能になった。約8日ごとにカソードを引き出し、その時点で3分の1が入れ替えられ、その一方で電解を、それも最大電流密度で継続した。これらのアノードスライムを必要に応じて、3日に1回から10日に1回まで変動する頻度で当該槽底部から除去し、またこれを、電解が最大電流密度で継続されている間も同様に行った。
本発明についてここまで完全に記載したので、本発明を、特許請求の範囲によって定義されるように、本発明の範囲から逸脱することなく、特許請求の範囲内の広範なパラメータ内で実施できることが、当業者によって理解されるであろう。
米国特許第3928152号明細書 米国特許第3875041号明細書 米国特許第4033839号明細書 米国特許再発行特許出願第30005号明細書

Claims (15)

  1. 電解槽中の銅金属を、硫酸系の電解液を使用して、少なくとも1つの銅アノードから少なくとも1つの銅カソードへと電解精製することを含む、銅製造プロセスであって、
    ・前記電解槽中の前記アノードと前記カソードとの間の電圧差が1.6ボルト未満に維持され、
    ・前記アノードの組成が98.0重量%以下の銅を含有し、
    ・前記アノードの組成が1.00重量%未満の鉄を含有し、
    ・前記槽中の電流密度が、カソード表面の180A/m以上であり、
    ・前記電解精製操業中、1時間当たり30%以上、かつ1900%以下の平均電解液入れ替え率で電解液が前記電解精製槽から除去され、即ち、前記電解液入れ替え率が、前記電解槽から除去される電解液の総量を考慮に入れ、また、少なくとも1つの電解槽壁上を流れる電解液の第1の流れより、少なくとも部分的に前記電解液が除去され、それにより、前記第1の流れが前記電解槽を離脱し、また、
    ・前記電解槽に気体が導入され、前記アノード及び前記カソード間において前記電解液中でバブリングされ
    前記電解槽中のアノードスライムの少なくとも一部が、前記電解槽を離脱する前記電解液の前記第1の流れを使用して前記電解槽から除去されることを特徴とする、銅製造プロセス。
  2. 前記電解液の第1の流れは、少なくとも1つの沈降装置を通って流れ、それにより、前記少なくとも1つの沈降装置が、アノードスライムが該少なくとも1つの沈降装置の底部に沈降するのに十分低い液体速度で、十分長い滞留時間を提供する、請求項に記載のプロセス。
  3. アノードスライムを含有する電解液の第3の流れが、前記少なくとも1つの沈降装置の底部から除去される、請求項に記載のプロセス。
  4. アノードスライムを含有する電解液の第2の流れが、前記少なくとも1つの電解槽の底部から除去される、請求項1からのいずれか一項に記載のプロセス。
  5. 前記電解槽から除去された電解液を前記電解槽に再循環させることを含む、請求項1からのいずれか一項に記載のプロセス。
  6. 前記電解液の再循環から電解液ブリード流を除去することを含む、請求項に記載のプロセス。
  7. 追加の銅カチオンが前記電解槽内の前記電解液中に導入される、または、請求項5または6に従属する場合に、請求項5に記載のプロセスに従った前記電解槽への電解液の再循環中に導入される、請求項1からのいずれか一項に記載のプロセス。
  8. 前記電解槽に導入される気体は空気である、請求項1からのいずれか一項に記載のプロセス。
  9. 前記アノードおよび前記カソードは、併せて電極と称され、アノードスライム層を収集するために前記電解槽の底部に空間が提供され、前記電極の下に、ただし前記アノードスライム層を収集するために前記電解底部に設けられた前記空間の上に設置される気体拡散装置を介して、前記気体が前記槽内に導入される、請求項1からのいずれか一項に記載のプロセス。
  10. 前記アノード組成、以下の条件のうちの少なくとも1つに準拠しており、該条件はすなわち、
    ・0.25重量%~10.0重量%の範囲内のニッケルを含有すること、
    ・0.25重量%~6.00重量%の範囲内の鉛を含有すること、
    ・0.25重量%~6.00重量%の範囲内のスズを含有すること、
    ・0.10重量%~3.00重量%の範囲内のアンチモンを含有すること、
    ・0.010重量%~0.50重量%の範囲内のビスマスを含有すること、
    ・0.0001重量%以上の鉄を含有すること、
    ・0.0010重量%~0.50重量%の範囲内の亜鉛を含有すること、
    ・0.005重量%~0.40重量%の範囲内のヒ素を含有すること、
    ・0.0001重量%~0.50重量%の範囲内の銀を含有すること、及び
    ・5重量ppm~500重量ppmの範囲内の酸素を含有することである、請求項1からのいずれか一項に記載のプロセス。
  11. 前記アノードが溶融液体金属組成物から作製され、前記溶融液体金属組成物は、90.10重量%以上、かつ97重量%以下の銅を含有し、前記溶融液体金属組成物は、不純物としての他の元素を備え、即ち、不純物の一部として、前記溶融液体金属組成物は、0.1重量%以上のニッケルと、0.0001重量%以上、かつ1.00重量%未満の鉄と、250重量ppm以上、かつ3000重量ppm以下の酸素と、を含有する、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロセス。
  12. 前記溶融液体金属組成物は、不純物の一部として、以下の範囲に特定された以下の元素の少なくとも1つを含有し、該元素は即ち、、
    ・0.10重量%以上、かつ3.00重量%以下のアンチモン、
    ・0.010重量%以上、かつ0.50重量%以下のビスマス、
    ・6.00重量%以下のスズ、
    ・6.00重量%以下の鉛、
    ・0.0001重量%以上、かつ0.50重量%以下の銀、
    ・0.005重量%以上、かつ0.40重量%以下のヒ素、
    ・0.001重量%以上、かつ0.100重量%以下の硫黄、及び
    ・0.50重量%以下の亜鉛である、請求項11に記載のプロセス。
  13. 前記電解液組成、以下の条件のうちの少なくとも1つ、好ましくは全てに準拠しており、該条件はすなわち、
    ・銅が20~55グラム/リットルの範囲内となること、
    ・ニッケルが25~90グラム/リットルの範囲内となること、
    ・硫酸が130~200グラム/リットルの範囲内となること、
    ・スズが0.4~1.4グラム/リットルの範囲内となること、及び
    ・ヒ素が10~200ミリグラム/リットルの範囲内となることである、請求項1から12のいずれか一項に記載のプロセス。
  14. 銅アノード電解精製用のアノードの鋳造に使用される溶融液体金属組成物であって、前記アノードが、請求項1から13のいずれか一項に記載の前記プロセスにおいて使用されるものであり、また、前記溶融液体金属組成物が90.10重量%以上、かつ97重量%以下の銅を含有し、前記溶融液体金属組成物が不純物としての他の元素を備え、即ち、前記不純物の一部として、前記溶融液体金属組成物は、
    ・0.1重量%以上のニッケルと、
    ・0.0001重量%以上、かつ1.00重量%未満の鉄と、
    ・250重量ppm以上、かつ3000重量ppm以下の酸素と、を含有する、溶融液体金属組成物。
  15. 不純物の一部として、以下の範囲に特定された以下の元素の少なくとも1つを含有し、該元素はすなわち、
    ・0.10重量%以上、かつ3.00重量%以下のアンチモン、
    ・0.010重量%以上、かつ0.50重量%以下のビスマス、
    ・6.00重量%以下のスズ、
    ・6.00重量%以下の鉛、
    ・0.0001重量%以上、かつ0.50重量%以下の銀、
    ・0.005重量%以上、かつ0.40重量%以下のヒ素、
    ・0.001重量%以上、かつ0.100重量%以下の硫黄、及び
    ・0.50重量%以下の亜鉛である、請求項14に記載の溶融液体金属組成物。
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