以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド(A)、水酸基を末端に有するグラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)、およびアミノ基との反応性がある官能基を少なくとも一つ有するシランカップリング剤(C)を配合してなる。ポリアミド(A)を配合することにより、剛性や耐熱性を向上させることができる。また、ポリロタキサン(B)を配合することにより、靱性を向上させることができる。さらに、シランカップリング剤(C)を配合することにより、アミノ基との反応性がある官能基がポリアミド(A)末端のアミノ基と反応し、アルコキシシリル基がポリロタキサン(B)の環状分子を修飾するグラフト鎖末端の水酸基と反応することで、ポリアミド(A)およびポリロタキサン(B)の共重合体を形成し、剛性を維持したまま靱性を向上させることができる。さらに、低温条件下においてもポリアミド(A)と結合したポリロタキサン(B)により、ポリアミド(A)への応力集中を解消し、靱性を向上させることができる。このようにポリアミド(A)の末端とポリロタキサン(B)が有するグラフト鎖末端の水酸基とがシランカップリング剤(C)を介して結合された反応物は、高分子同士の複雑な反応により生成されたものであることから、その構造を特定することが実際的でない事情が存在するため、本発明は配合する成分の量で発明を特定するものである。
本発明の樹脂組成物におけるポリアミド(A)は、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸の残基を主たる構成成分とする。その原料の代表例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを2種以上配合してもよい。
ポリアミド(A)の具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリキシリレンセバカミド(ナイロンXD10)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド/ポリデカメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン5T/10T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。ここで、「/」は共重合体を示し、以下同じである。
本発明の樹脂組成物において、ポリアミド(A)の融点は150℃以上300℃未満が好ましい。融点が150℃以上であれば、耐熱性を向上させることができる。一方、融点が300℃未満であれば、樹脂組成物製造時の加工温度を適度に抑え、ポリロタキサン(B)の熱分解を抑制することができる。
ここで、本発明におけるポリアミドの融点は、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリアミドを、溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度と定義する。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とする。
150℃以上300℃未満に融点を有するポリアミドの具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド(A)と、水酸基を末端に有するグラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)、およびアミノ基との反応性がある官能基を少なくとも一つ有するシランカップリング剤(C)とを配合してなり、シランカップリング剤(C)の、アミノ基との反応性がある官能基がポリアミド(A)のアミン末端と、アルコキシシリル基がポリロタキサン(B)のグラフト鎖末端の水酸基とそれぞれ反応することにより、ポリロタキサンの有する靱性向上効果を樹脂組成物全体に波及させることができる。ポリアミド(A)のアミン末端とシランカップリング剤(C)の反応を効率よく進行させるため、ポリアミド(A)の末端アミノ基濃度は、1.0×10-5~12.0×10-5mol/gの範囲であることが好ましい。2.5×10-5mol/g以上がより好ましい。
ポリアミド(A)の重合度には特に制限がないが、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度が1.5~5.0の範囲であることが好ましい。相対粘度が1.5以上であれば、得られる成形品の靱性、剛性、耐摩耗性、耐疲労特性、耐クリープ性をより向上させることができる。2.0以上がより好ましい。一方、相対粘度が5.0以下であれば、流動性に優れることから成形加工性に優れる。
本発明の樹脂組成物におけるポリアミド(A)の配合量は、ポリアミド(A)、ポリロタキサン(B)、およびシランカップリング剤(C)の合計100重量部に対して、85重量部以上99.9重量部以下である。ポリアミド(A)の配合量が85重量部未満であると、得られる成形品の剛性、耐熱性が低下する。ポリアミド(A)の配合量は90重量部以上が好ましく、95重量部以上がより好ましく、98重量部以上がさらに好ましい。一方、ポリアミド(A)の配合量が99.9重量部を超えると、ポリロタキサン(B)の配合量が相対的に少なくなるため、成形品の靱性が低下する。
本発明の樹脂組成物は、水酸基を末端に有するグラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)を配合してなる。ロタキサンとは、例えばHarada, A., Li, J. & Kamachi, M., Nature 356, 325-327に記載の通り、一般的に、ダンベル型の軸分子(両末端に嵩高いブロック基を有する直鎖分子。以下、「直鎖分子」と記載する)に環状の分子が貫通された形状の分子のことを言い、複数の環状分子が一つの直鎖分子に貫通されたものをポリロタキサンと呼ぶ。
ポリロタキサンは、直鎖分子および複数の環状分子からなり、複数の環状分子の開口部に直鎖分子が貫通した構造を有し、かつ、直鎖分子の両末端には、環状分子が直鎖分子から脱離しないように嵩高いブロック基を有する。ポリロタキサンにおいて、環状分子は直鎖分子上を自由に移動することが可能であるが、ブロック基により直鎖分子から抜け出せない構造を有する。すなわち、直鎖分子および環状分子は、化学的な結合でなく、機械的な結合により形態を維持する構造を有する。このようなポリロタキサンは、環状分子の運動性が高いために、外部からの応力や内部に残留した応力を緩和する効果がある。さらに、水酸基を末端に有するグラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサンをポリアミドに配合することにより、ポリアミドに同様の効果を波及させることが可能となる。
前記直鎖分子は、環状分子の開口部に貫通し、前記ブロック基と反応し得る官能基を有する分子であれば、特に限定されない。好ましく用いられる直鎖分子としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類;ポリブタジエンジオール、ポリイソプレンジオール、ポリイソブチレンジオール、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)ジオール、水素化ポリブタジエンジオール、ポリエチレンジオール、ポリプロピレンジオールなどの末端水酸基ポリオレフィン類;ポリカプロラクトンジオール、ポリ乳酸、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル類;末端シラノール型ポリジメチルシロキサンなどの末端官能性ポリシロキサン類;末端アミノ基ポリエチレングリコール、末端アミノ基ポリプロピレングリコール、末端アミノ基ポリブタジエンなどの末端アミノ基鎖状ポリマー類;上記官能基を一分子中に3つ以上有する3官能性以上の多官能性鎖状ポリマー類などが挙げられる。中でも、ポリロタキサンの合成が容易である点から、ポリエチレングリコールおよび/または末端アミノ基ポリエチレングリコールが好ましく用いられる。
直鎖分子の数平均分子量は、2,000以上が好ましく、剛性をより向上させることができる。10,000以上がより好ましい。一方、100,000以下が好ましく、ポリアミド(A)との相溶性を向上させることができ、相分離構造を微細化することができるため、靱性をより向上させることができる。50,000以下がより好ましい。ここで、直鎖分子の数平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、Shodex HFIP-806M(2本)+HFIP-LGをカラムとして用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、ポリメチルメタクリレート換算の値を指す。
前記ブロック基は、直鎖分子の末端官能基と結合し得るものであり、環状分子が直鎖分子から脱離しないために十分に嵩高い基であれば、特に限定されない。好ましく用いられるブロック基としては、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンチル基、トリチル基、フルオレセイニル基、ピレニル基、アントラセニル基、数平均分子量1,000~1,000,000の高分子の主鎖または側鎖等が挙げられる。これらを2種以上有してもよい。
前記環状分子は、開口部に直鎖分子が貫通し得るものであれば、特に限定されない。好ましく用いられる環状分子としては、シクロデキストリン類、クラウンエーテル類、クリプタンド類、大環状アミン類、カリックスアレーン類、シクロファン類などが挙げられる。シクロデキストリン類は、複数のグルコースがα-1,4-結合で環状に連なった化合物である。α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンがより好ましく用いられる。
本発明におけるポリロタキサン(B)は、前記環状分子が、水酸基を末端に有するグラフト鎖により修飾されていることを特徴とする。シランカップリング剤(C)を介してポリアミド(A)のアミン末端およびポリロタキサン(B)のグラフト鎖末端の水酸基が結合することで、ポリアミド(A)とポリロタキサン(B)の共重合体を形成する。その結果、ポリアミド(A)の剛性を維持したまま靱性を向上させることができ、剛性と靱性をバランスよく向上させることができる。
前記グラフト鎖は、ポリエステルにより構成されることが好ましい。ポリアミド(A)との相溶性および有機溶剤への溶解性の点から、脂肪族ポリエステルがより好ましい。脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ3-ヒドロキシブチレート、ポリ4-ヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート/3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(ε-カプロラクトン)などが挙げられる。中でも、ポリアミド(A)との相溶性の観点から、ポリ(ε-カプロラクトン)がより好ましい。前記水酸基を末端に有するグラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)は、次の方法で得ることができる。例えば、シクロデキストリン類にポリ(ε-カプロラクトン)をグラフトさせることで、グラフト鎖の末端が水酸基で修飾されたポリロタキサンを得ることができる。
ポリロタキサン(B)のグラフト鎖末端の水酸基濃度は、2×10-5mol/g以上3×10-3mol/g以下が好ましい。水酸基濃度を2×10-5mol/g以上とすることにより、シランカップリング剤(C)との反応性を向上させることができる。その結果、ポリアミド(A)の剛性を維持したまま靱性をより向上させることができ、剛性と靱性をよりバランスよく向上させることができる。5×10-5mol/g以上がより好ましく、1×10-4mol/g以上がさらに好ましい。一方、水酸基濃度を3×10-3mol/g以下とすることにより、ポリロタキサン(B)の水酸基同士の会合による凝集や、ポリアミド(A)との過剰な化学架橋を抑制することができ、凝集物やゲルの発生を抑制して靱性をより向上させることができる。2×10-3mol/g以下がより好ましい。
ここで、ポリロタキサン(B)のグラフト鎖末端の水酸基濃度は、滴定により求めることができる。80℃真空乾燥機を用いて、ポリロタキサン(B)を10時間以上乾燥させた絶乾試料を作製する。絶乾試料1.0gを50mlのトルエンに溶解した溶液に、大過剰の無水コハク酸を加え、窒素フロー下90℃で6時間加熱する。エポレーターでポリマー濃度が50%程度になるまで濃縮した後、ポリマー溶液を大過剰のメタノール溶液に加え、沈殿物を回収する。得られた沈殿物を真空乾燥機中で80℃8時間乾燥させて、ポリマーを得る。得られたポリマー0.2gを25mlのベンジルアルコールに溶解した溶液について、濃度0.02mol/Lの水酸化カリウムのエタノール溶液を用いて滴定することにより、水酸基濃度を求めることができる。
本発明の樹脂組成物におけるポリロタキサン(B)の重量平均分子量は、10万以上が好ましく、剛性および靱性をより向上させることができる。一方、100万以下が好ましく、ポリアミド(A)との相溶性が向上し、靱性をより向上させることができる。ここで、ポリロタキサン(B)の重量平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、Shodex HFIP-806M(2本)+HFIP-LGをカラムとして用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、ポリメチルメタクリレート換算の値を指す。
本発明の樹脂組成物におけるポリロタキサン(B)の配合量は、ポリアミド(A)、ポリロタキサン(B)、およびシランカップリング剤(C)の合計100重量部に対して、0.05重量部以上10重量部以下である。ポリロタキサン(B)の配合量が0.05重量部未満であると、ポリロタキサン(B)の配合量が少なくなるため、ポリロタキサンの有する応力緩和効果をポリアミド(A)全体に波及することができず、靭性が低下する。一方、ポリロタキサン(B)の配合量が10重量部を超えると、ポリアミド(A)の配合量が相対的に少なくなるため、成形品の剛性が低下する。ポリロタキサン(B)の配合量は5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、1重量部以下がさらに好ましい。
本発明における樹脂組成物は、アミノ基との反応性がある官能基を少なくとも1つ有するシランカップリング剤(C)を配合してなる。シランカップリング剤(C)は1分子中にアミノ基との反応性がある官能基を少なくとも1つ、およびアルコキシシリル基を少なくとも1つ有する。好ましくはアルコキシシリル基を1つ有する。1分子中にアミノ基との反応性がある官能基を1~3つ有するシランカップリング剤を用いることが好ましく、係るシランカップリング剤(C)を用いることで、過度に架橋した反応物の生成を抑制することができる。過度に架橋した反応物は破壊時の亀裂の起点となりやすく、樹脂組成物の機械特性に悪影響を及ぼす。シランカップリング剤(C)は、1分子中にアミノ基と反応性がある官能基およびアルコキシシリル基をそれぞれ1つずつ有することがより好ましい。
シランカップリング剤(C)のアミノ基との反応性がある官能基としては、例えばイソシアネート基、エポキシ基、グリシジル基、カルボキシル基、カルボン酸無水物、ハロゲン化アシル基、アルデヒド基、ケトン基などが挙げられる。反応性の観点から、イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸無水物、およびハロゲン化アシル基から選択される少なくとも一種であることが好ましく、イソシアネート基、エポキシ基、またはカルボン酸無水物であることがより好ましい。
イソシアネート基としては、例えば脂肪族イソシアネート基、芳香族イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基などが挙げられ、これらのいずれを用いてもよい。
ブロック化イソシアネート基とは、イソシアネート基がブロック剤との反応によって保護され、一時的に不活性化された官能基である。ブロック化イソシアネート基を複数有する化合物がブロック化イソシアネート化合物である。ブロック剤は、所定温度に加熱すると解離させることが可能である。このようなブロック化イソシアネート化合物としては、イソシアネート化合物とブロック剤との付加反応生成物が用いられる。ブロック剤と反応し得るイソシアネート化合物としては、前記イソシアネート化合物として例示した化合物が挙げられる。ブロック化イソシアネート化合物としては、イソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体などが挙げられる。ブロック化イソシアネート化合物は、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
ブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、クロロフェノール、エチルフェノールなどのフェノール系ブロック剤;ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、β-プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤;アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系ブロック剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルエーテル、グリコール酸メチル、グリコール酸ブチル、ジアセトンアルコール、乳酸メチル、乳酸エチルなどのアルコール系ブロック剤;ホルムアルデヒドキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系ブロック剤;ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン系ブロック剤;アセトアミド、ベンズアミドなどの酸アミド系ブロック剤;コハク酸イミド、マレイン酸イミドなどのイミド系ブロック剤;キシリジン、アニリン、ブチルアミン、ジブチルアミンなどのアミン系ブロック剤;イミダゾール、2-エチルイミダゾールなどのイミダゾール系ブロック剤;メチレンイミン、プロピレンイミンなどのイミン系ブロック剤などが挙げられる。ブロック剤は、単独で用いても、2種以上併用しても構わない。
シランカップリング剤(C)のアルコキシシリル基のアルコキシ基としては、メトキシ基やエトキシ基、プロピオキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。反応性の観点からメトキシ基またはエトキシ基が好ましい。また、アルコキシシリル基は、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基のいずれでもよい。
ポリアミド(A)、ポリロタキサン(B)およびシランカップリング剤(C)の合計100重量部に対して、シランカップリング剤(C)の配合量は0.05重量部以上5重量部以下である。シランカップリング剤(C)の配合量が0.05重量部未満であると、ポリアミド(A)とポリロタキサン(B)の共重合体が十分に形成されないため、ポリロタキサンの応力緩和効果がポリアミド(A)全体に十分に波及されず、成形品の靱性が向上しない。また、5重量部を超えると、ポリアミド(A)とポリロタキサン(B)が過度に架橋した反応物が生成する。過度に架橋した反応物は、破壊時の起点となりやすく、樹脂組成物の機械特性に悪影響を及ぼし得るため好ましくない。2重量部以下が好ましく、1重量部以下がより好ましい。
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド(A)を主成分とする海相、ポリロタキサン(B)を主成分とする島相を有する、海島構造を有することが好ましい。ここで、「主成分」とは、当該相において、80重量%以上を占める成分を指す。樹脂組成物の特性は、相分離構造やその相サイズにも影響を受けることが知られている。2種以上の成分からなり、相分離構造を有する樹脂組成物は、それぞれの成分の長所を引き出し、短所を補い合うことにより、各成分単独の場合に比べて優れた特性を発現する。本発明の樹脂組成物の海島構造において、島相の平均直径は0.01μm以上が好ましい。島相の平均直径が0.01μm以上であると、相分離構造に由来する特性がより効果的に発揮され、靱性をより向上させることができる。また、島相の平均直径は、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.3μm以下がさらにより好ましい。島相の平均直径が1μm以下であると、ポリロタキサンが有する応力緩和効果を効率よくポリアミド(A)全体に波及することができ、また、柔軟なポリロタキサンの相を小さくすることにより、剛性の低下を抑制することができる。
本発明の樹脂組成物における海島構造の島相の平均直径は、電子顕微鏡観察により、以下の方法により求めることができる。一般的な成形条件において、樹脂組成物の相分離構造および各相の大きさは変化しないことから、本発明においては、樹脂組成物を成形して得られる試験片を用いて相分離構造を観察する。まず、射出成形により得られるJIS-1号短冊型試験片(長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm)の断面方向中心部を1~2mm角に切削し、リンタングステン酸/オスミウムでポリアミド(A)を染色した後、0.1μm以下(約80nm)の超薄切片をウルトラミクロトームにより-196℃で切削し、透過型電子顕微鏡用サンプルを得る。海島構造の島相の平均直径を求める場合、前述の透過型電子顕微鏡用サンプルについて、正方形の電子顕微鏡観察写真に島相が50個以上100個未満存在するように、倍率を調整する。かかる倍率において、観察像に存在する島相から無作為に50個の島相を選択し、それぞれの島相について長径と短径を測定する。その長径と短径の平均値を各島相の直径とし、測定した全ての島相の直径の平均値を島相の直径とする。なお、島相の長径および短径とは、それぞれ島相の最も長い直径および最も短い直径を示す。
島相の平均直径が前述の好ましい範囲にある海島構造は、例えば、ポリアミド(A)、ポリロタキサン(B)、およびシランカップリング剤(C)の配合量を前述の好ましい範囲にすることにより得ることができる。ポリロタキサン(B)の配合量が少ないほど島相の平均直径は小さくなる傾向にあり、ポリロタキサン(B)の配合量が多いほど島相の平均直径は大きくなる傾向にある。
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに充填材、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂、各種添加剤などを配合することができる。
充填材を配合することにより、得られる成形品の強度、剛性をより向上させることができる。充填材としては、有機充填材、無機充填材のいずれでもよいし、繊維状充填材、非繊維状充填材のいずれでもよい。これらを2種以上配合してもよい。
繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維などが挙げられる。これらは、エチレン/酢酸ビニルなどの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂により、被覆または集束されていてもよい。繊維状充填材の断面形状としては、円形、扁平状、まゆ形、長円形、楕円形、矩形などが挙げられる。
非繊維状充填材としては、例えば、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、珪酸カルシウムなどの非膨潤性珪酸塩、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母の膨潤性雲母などの膨潤性層状珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、珪藻土、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化アンチモンなどの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドロマイト、ハイドロタルサイトなどの金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの金属水酸化物、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、セラミックビーズ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、燐酸カルシウム、カーボンブラック、黒鉛などが挙げられる。上記の膨潤性層状珪酸塩は、層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換されていてもよい。有機オニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが挙げられる。
ポリアミド以外の樹脂の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
各種添加剤の具体例としては、銅化合物以外の熱安定剤、(C)成分には該当しない有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などを挙げることができる。これら添加剤を配合する場合、その配合量は、ポリアミドの特徴を十分に活かすため、ポリアミド(A)100重量部に対して10重量部以下が好ましく、1重量部以下がより好ましい。
銅化合物以外の熱安定剤としては、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどのフェノール系化合物、リン系化合物、メルカプトベンゾイミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、有機チオ酸系化合物などの硫黄系化合物、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンなどのアミン系化合物などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、特に制限はないが、溶融状態で混練する方法や、溶液状態で混合する方法等が挙げられる。反応性向上の点から、溶融状態で混練する方法が好ましい。溶融状態で混練する溶融混練装置としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機などの多軸押出機、二軸単軸複合押出機などの押出機や、ニーダーなどが挙げられる。生産性の点から、連続的に製造可能な押出機が好ましく、混練性、反応性、生産性の向上の点から、二軸押出機がより好ましい。
以下、二軸押出機を用いて本発明の樹脂組成物を製造する場合を例に説明する。ポリロタキサン(B)の熱劣化を抑制し、靱性をより向上させる観点から、最高樹脂温度は、300℃以下が好ましい。一方、最高樹脂温度は、ポリアミド(A)の融点以上が好ましい。ここで、最高樹脂温度とは、押出機の複数ヶ所に均等に設置された樹脂温度計により測定した中で最も高い温度を指す。
また、樹脂組成物の押出量は、ポリアミド(A)およびポリロタキサン(B)の熱劣化をより抑制する観点から、スクリュー回転1rpm当たり0.01kg/h以上が好ましく、0.05kg/h以上がより好ましい。一方、ポリアミド(A)とポリロタキサン(B)樹脂の反応をより促進し、前述の海島構造をより容易に形成する観点から、スクリュー回転1rpm当たり1kg/h以下が好ましい。ここで、押出量とは、押出機から1時間あたりに吐出される樹脂組成物の重量(kg)を指す。
このようにして樹脂組成物は、通常公知の方法で成形することができ、シート、フィルムなどの各種成形品を得ることができる。成形方法としては、例えば、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、プレス成形などが挙げられる。
本発明の樹脂組成物およびその成形品は、その優れた特性を活かし、自動車部品、ガスタンクライナー、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。とりわけ、靱性および剛性が要求される自動車外装部品や、自動車電装部品、自動車アンダーフード部品、自動車ギア部品、筐体やコネクタ、リフレクタなどの電気、電子部品用途に特に好ましく用いられる。具体的には、エンジンカバー、エアインテークパイプ、タイミングベルトカバー、インテークマニホールド、フィラーキャップ、スロットルボディ、クーリングファンなどの自動車エンジン周辺部品、クーリングファン、ラジエータータンクのトップおよびベース、シリンダーヘッドカバー、オイルパン、ブレーキ配管、燃料配管用チューブ、高圧ガスタンクライナー、廃ガス系統部品などの自動車アンダーフード部品、ギア、アクチュエーター、ベアリングリテーナー、ベアリングケージ、チェーンガイド、チェーンテンショナなどの自動車ギア部品、シフトレバーブラケット、ステアリングロックブラケット、キーシリンダー、ドアインナーハンドル、ドアハンドルカウル、室内ミラーブラケット、エアコンスイッチ、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、グローブボックス、ステアリングホイール、トリムなどの自動車内装部品、フロントフェンダー、リアフェンダー、フューエルリッド、ドアパネル、シリンダーヘッドカバー、ドアミラーステイ、テールゲートパネル、ライセンスガーニッシュ、ルーフレール、エンジンマウントブラケット、リアガーニッシュ、リアスポイラー、トランクリッド、ロッカーモール、モール、ランプハウジング、フロントグリル、マッドガード、サイドバンパーなどの自動車外装部品、エアインテークマニホールド、インタークーラーインレット、エキゾーストパイプカバー、インナーブッシュ、ベアリングリテーナー、エンジンマウント、エンジンヘッドカバー、リゾネーター、及びスロットルボディなどの吸排気系部品、チェーンカバー、サーモスタットハウジング、アウトレットパイプ、ラジエータータンク、オイルネーター、及びデリバリーパイプなどのエンジン冷却水系部品、コネクタやワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、ランプソケット、センサー車載スイッチ、コンビネーションスイッチなどの自動車電装部品、SMT対応のコネクタ、ソケット、カードコネクタ、ジャック、電源部品、スイッチ、センサー、コンデンサー座板、リレー、抵抗器、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICやLED対応ハウジング、リフレクタなどの電気、電子部品を好適に挙げることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。各実施例の樹脂組成物を得るため下記原料を用いた。
<ポリアミド>
(A-1):ナイロン6樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標))、ηr=2.70、融点225℃。
ここで、上記相対粘度ηrは、98%濃硫酸の0.01g/ml溶液、25℃において測定した。また、融点は、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリアミドを溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度とした。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とした。
<ポリロタキサン>
(B-1):ポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製“セルム”(登録商標)スーパーポリマーSH1300P)、直鎖分子であるポリエチレングリコールの数平均分子量は1万、全体の重量平均分子量は18万である。グラフト鎖末端は水酸基であり、以下の手法で求めた水酸基濃度は1.55×10-3mol/gである。
80℃真空乾燥機を用いて、ポリロタキサンを10時間以上乾燥させた絶乾試料を作製した。絶乾試料1.0gを50mlのトルエンに溶解した溶液に、大過剰の無水コハク酸を加え、窒素フロー下90℃で6時間加熱した。エポレーターでポリマー濃度が50%程度になるまで濃縮した後、ポリマー溶液を大過剰のメタノール溶液に加え、沈殿物を回収した。得られた沈殿物を真空乾燥機中で80℃8時間乾燥させて、ポリマーを得た。得られたポリマー0.2gを25mlのベンジルアルコールに溶解した溶液について、濃度0.02mol/Lの水酸化カリウムのエタノール溶液を用いて滴定し、水酸基濃度を算出した。
(B-2):ポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製“セルム”(登録商標)スーパーポリマーSH3400P)、直鎖分子であるポリエチレングリコールの数平均分子量は3.5万、全体の重量平均分子量は70万である。グラフト鎖末端は水酸基であり、(B-1)と同様の手法で求めた水酸基濃度は1.39×10-3mol/gであった。
(B-1)~(B-2)において原料として用いた“セルム(登録商標)”スーパーポリマーはいずれも、環状分子がポリ(ε-カプロラクトン)からなるグラフト鎖により修飾されたα-シクロデキストリン、直鎖分子がポリエチレングリコール、ブロック基がアダマンタン基であるポリロタキサンである。
ここで、ポリロタキサンの重量平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、Shodex HFIP-806M(2本)+HFIP-LGをカラムとして用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した、ポリメチルメタクリレート換算の値である。
<シランカップリング剤>
(C-1):3‐イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製シランカップリング剤KBE-9007N)、分子量は247.4g/molである。
(C-2):2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製シランカップリング剤KBM-303)、分子量は246.4g/molである。
(C-3):3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物(信越化学工業株式会社製シランカップリング剤X-12―967C)、分子量は262.4g/molである。
<イソシアネート化合物>
(D-1):トリレンジイソシアネート(TDI)、分子量は174.2g/molである。
<評価方法>
各実施例および比較例における評価方法を説明する。評価n数は、特に断らない限り、n=5とし平均値を求めた。
(1)相分離構造の形態および島相の平均直径
各実施例および比較例により得られたペレットを80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形機(住友重機社製SG75H-MIV)を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:80℃の条件で射出成形することにより、ISO527-1:2012に準拠した1A型多目的試験片を作製した。本ダンベル試験片から一部を切り出し、ライカ製ウルトラミクロトーム(EM UC7)を用い、ダイヤモンドナイフにより約2mm×約1mmの断面観察用サンプルを作製した。作製したサンプルを、モルホロジーに十分なコントラストが付くよう、リンタングステン酸/オスミウムを用いて染色後、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製H-7100)により、加速電圧100kVとして、観察用サンプルの断面の相構造を観察し、相分離構造の形態を確認した。片方の成分を主成分とする海相の中に、もう片方の成分を主成分とする相が粒子状に形成した島相とが存在する、海島構造が観察されたか否かを確認した。
前記海島構造を形成しているサンプルにつき、それぞれ島構造の平均直径を以下の方法で求めた。正方形の電子顕微鏡観察写真に島構造が50個以上100個未満存在するよう、適切な倍率に調整した。かかる倍率において、観察像に存在する島構造から無作為に50個の島構造を選択し、それぞれの島構造について長径と短径を測定した。長径と短径の平均値を各島構造の直径とし、測定した全ての島構造の直径の平均値を島構造の直径とした。
(2)靱性(引張破断伸度)
各実施例および比較例により得られたペレットを80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形機(住友重機社製SG75H-MIV)を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:80℃の条件で射出成形することにより、ISO527-1:2012に準拠した1A型多目的試験片を作製した。この多目的試験片から得られた引張試験片について、ISO527-1:2012に従い、精密万能試験機AG-20kNX(島津製作所製)を用い、室温条件下引張速度10mm/min、50mm/minで引張試験を行い、引張破断伸度を測定した。
(3)剛性(曲げ弾性率)
各実施例および比較例により得られたペレットを80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形機(住友重機社製SG75H-MIV)を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:80℃の条件で射出成形することにより、ISO178に準拠した多目的試験片を作製した。この多目的試験片から得られた曲げ試験片について、ISO178に従い、精密万能試験機AG-20kNX(島津製作所製)を用い、室温条件下クロスヘッド速度2mm/minで曲げ試験を行い、曲げ弾性率を求めた。
(4)低温特性(-80℃引張試験)
各実施例および比較例により得られたペレットを80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形機(住友重機社製SG75H-MIV)を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:80℃の条件で射出成形することにより、ISO527-1:2012に準拠した1A型多目的試験片を作製した。当該試験片に恒温槽内で-80℃2時間以上均熱処理を施した。均熱処理後の試験片について、ISO527-1:2012に従い、精密万能試験機AG-50kNX(島津製作所製)を用い、-80℃にて引張速度50mm/minで引張試験を実施し、引張破断伸度を測定した。。
(実施例1~10、比較例1~7)
ポリアミド樹脂、ポリロタキサン、およびシランカップリング剤またはジイソシアネート化合物を、表1に示す組成となるように配合して、プリブレンドし、シリンダー温度:240℃、スクリュー回転数:200rpmに設定した二軸押出機(日本製鋼所製TEX30α)へ供給し溶融混練した。溶融混練後、押出されたガットをペレタイズしペレットを得た。得られたペレットを用いて前記方法により評価した結果を表1に示す。
実施例1~5、7~10と比較例3~6の比較から、ポリアミドにグラフト鎖末端が水酸基で修飾されたポリロタキサンおよびシランカップリング剤を特定量配合することにより、シランカップリング剤を配合しない場合と比較して剛性を保ちながら、靱性に優れていることがわかる。一方、実施例1~4と比較例1、2との比較から、ポリロタキサンとシランカップリング剤の共存により、優れた靭性が発現していることがわかる。また、実施例3と比較例7との比較から、添加剤がジイソシアネート化合物であるよりも、イソシアネート基を有するシランカップリング剤であることで優れた靭性を発現することがわかる。