以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、反応性官能基を末端に有するグラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)、および繊維状充填材(C)を配合してなる。熱可塑性樹脂(A)を配合することにより、強度や耐熱性を向上させることができる。また、ポリロタキサン(B)を配合することにより、靱性を向上させることができる。さらに、繊維状充填材(C)を配合することにより、強度および寸法安定性を大きく向上させることができる。熱可塑性樹脂(A)、ポリロタキサン(B)、および繊維状充填材(C)を配合することにより、強度を維持したまま靱性を向上させることができる。
熱可塑性樹脂(A)は、熱可塑性を示す樹脂であれば特に限定されず、例えば、スチレン系樹脂、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、塩化ビニル、オレフィン系樹脂、ポリアクリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリーレンサルファイド、セルロース誘導体、液晶性樹脂およびこれらの変性樹脂などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
スチレン系樹脂としては、例えば、PS(ポリスチレン)、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、AS(アクリロニトリル/スチレン共重合体)、AES(アクリロニトリル/エチレン・プロピレン・非共役ジエンゴム/スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体)、MBS(メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合体)などが挙げられる。ここで、「/」は共重合体を示し、以下同じである。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、特にABSが好ましい。
ポリアミドの具体的な例としては、例えば、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
ポリアミドの重合度には特に制限がないが、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液として、25℃で測定したときの相対粘度が1.5〜7.0の範囲のものが好ましく、2.2〜4.0の範囲のものがより好ましい。
オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体、プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、メタクリル酸/メタクリル酸メチル/グルタル酸無水物共重合体などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
ポリエステルとしては、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体が好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレートなどの芳香族ポリエステルが特に好ましく、ポリブチレンテレフタレートが最も好ましい。これらを2種以上含有してもよい。これらのポリエステルにおいては、全ジカルボン酸残基に対するテレフタル酸残基の割合が30モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましい。
また、ポリエステルは、ヒドロキシカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体およびラクトンから選択された一種以上の残基を含有していてもよい。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、o−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などが挙げられる。ラクトンとしては、例えば、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどが挙げられる。これらの残基を構造単位とする重合体または共重合体としては、例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸/乳酸、ポリヒドロキシ酪酸/β−ヒドロキシ酪酸/β−ヒドロキシ吉草酸などの脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられる。
ポリエステルの融点は、特に限定されないが、耐熱性の点で、120℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましい。上限は、特に限定されないが、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。なお、ポリエステルの融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリエステルを、溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度と定義する。昇温は、融点+40℃まで行うことが好ましい。
ポリエステルのカルボキシル末端基量は、特に限定されないが、流動性、耐加水分解性および耐熱性の点で、50eq/t以下であることが好ましく、10eq/t以下であることがより好ましい。下限は0eq/tである。なお、ポリエステルのカルボキシル末端基量は、ポリエステル樹脂をo−クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)溶媒に溶解させた後、1%ブロモフェノールブルーを指示薬として、0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウムで滴定し、測定した値である。
ポリエステルの固有粘度は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、成形性の点で、0.5重量%に調製したo−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.36〜1.60dl/gの範囲であることが好ましく、0.50〜1.25dl/gの範囲であることがより好ましく、0.7〜1.0dl/gの範囲であることがさらに好ましい。
ポリエステルの分子量は、特に限定されないが、耐熱性の点で、重量平均分子量(Mw)5万〜50万の範囲であることが好ましく、15万〜25万の範囲であることがより好ましい。なお、本発明において、ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリメチルメタクリレートの分子量に対する相対値である。
ポリエステルの製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などを挙げることができる。バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができる。
ポリカーボネートは、二官能フェノール系化合物に苛性アルカリおよび溶剤の存在下でホスゲンを吹き込むホスゲン法、二官能フェノール系化合物と炭酸ジエチルとを触媒の存在下でエステル交換させるエステル交換法などにより得ることができる。ポリカーボネートとしては、芳香族ホモポリカーボネート、芳香族コポリカーボネート等が挙げられる。これらの芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量は、1万〜10万の範囲が好適である。
二官能フェノール系化合物としては、例えば、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニル)ブタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジプロピルフェニル)プロパン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−フェニル−1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
ポリアリーレンサルファイドとしては、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
ポリアリーレンサルファイドは、特公昭45−3368号公報に記載される、比較的分子量の小さな重合体を得る方法、特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される、比較的分子量の大きな重合体を得る方法などの通常公知の方法によって製造することができる。得られたポリアリーレンサルファイドを、加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化などの種々の処理を施した上で使用することも、もちろん可能である。
ポリアリーレンサルファイドを加熱により架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。加熱処理温度は200〜270℃の範囲が好ましく、加熱処理時間は2〜50時間の範囲が好ましい。効率良くより均一に加熱処理する観点から、回転式あるいは撹拌翼付の加熱容器中で加熱することが好ましい。ポリアリーレンサルファイドを窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下(好ましくは7,000Nm−2以下)で、加熱処理温度200〜270℃、加熱処理時間2〜50時間の条件で加熱処理する方法を例示することができる。効率良くより均一に加熱処理する観点から、回転式あるいは撹拌翼付の加熱容器中で加熱することがより好ましい。ポリアリーレンサルファイドを有機溶媒で洗浄する場合、有機溶媒としては、N−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどが好ましく使用される。有機溶媒による洗浄の方法としては、例えば、有機溶媒中にポリアリーレンサルファイド樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。洗浄温度は常温〜150℃が好ましい。有機溶媒洗浄を施されたポリアリーレンサルファイドは、残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。ポリアリーレンサルファイドを熱水で処理する場合、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のポリアリーレンサルファイドを投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。ポリアリーレンサルファイド樹脂と水との割合は、好ましくは水1リットルに対し、ポリアリーレンサルファイド200g以下の浴比で使用される。ポリアリーレンサルファイドを酸処理する場合の具体的方法としては、例えば、酸または酸の水溶液にポリアリーレンサルファイド樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。酸としては、酢酸、塩酸が好ましく用いられる。酸処理を施されたポリアリーレンサルファイドは、残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
ポリアリーレンサルファイドの溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/秒の条件下で80Pa・s以下であることが好ましく、20Pa・s以下であることがより好ましい。溶融粘度の下限については特に制限はないが、5Pa・s以上であることが好ましい。また、溶融粘度の異なる2種以上のポリアリーレンサルファイドを併用してもよい。なお、溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機(株)社製)装置を用い、ダイス長10mm、ダイス孔直径0.5〜1.0mmの条件により測定することができる。
セルロース誘導体としては、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、エチルセルロースなどを挙げることができる。これらを2種以上含有してもよい。
これらの熱可塑性樹脂のうち、ポリアミド、スチレン系樹脂、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリアリーレンサルファイドなどから選ばれた樹脂が、繊維状充填材(C)との親和性に優れることから、成形加工性に優れ、成形品の機械特性および表面外観をより向上させることができるので好ましい。これらの中でも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン9T、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィドなどがより好ましく使用できる。
熱可塑性樹脂(A)の融点は150℃以上300℃未満が好ましい。融点が150℃以上であれば、樹脂組成物の耐熱性を向上させることができる。一方、融点が300℃未満であれば、樹脂組成物製造時の加工温度を適度に抑え、ポリロタキサン(B)の熱分解を抑制することができる。
ここで、熱可塑性樹脂(A)の融点は、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、熱可塑性樹脂(A)を、溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度と定義する。昇温は、融点+40℃まで行うことが好ましい。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とする。
本発明の樹脂組成物は、反応性官能基を末端に有するグラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)を配合してなる。ロタキサンとは、例えばHarada, A., Li, J. & Kamachi, M., Nature 356, 325-327に記載の通り、一般的に、両末端に嵩高いブロック基を有する直鎖分子に環状の分子が貫通された形状の分子のことを言う。複数の環状分子が一つの直鎖分子に貫通されたものをポリロタキサンと呼ぶ。
ポリロタキサンは、直鎖分子および複数の環状分子からなり、複数の環状分子の開口部に直鎖分子が貫通した構造を有し、かつ、直鎖分子の両末端には、環状分子が直鎖分子から脱離しないように嵩高いブロック基を有する。ポリロタキサンにおいて、環状分子は直鎖分子上を自由に移動することが可能であるが、ブロック基により直鎖分子から抜け出せない構造を有する。すなわち、直鎖分子および環状分子は、化学的な結合でなく、機械的な結合により形態を維持する構造を有する。このようなポリロタキサンは、環状分子の運動性が高いために、外部からの応力や内部に残留した応力を緩和する効果がある。さらに、特定の官能基を末端に有するグラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサンを熱可塑性樹脂(A)に配合することにより、熱可塑性樹脂(A)に同様の効果を波及させることが可能となる。
前記直鎖分子は、環状分子の開口部を貫通し、前記ブロック基と反応し得る官能基を有する分子であれば、特に限定されない。好ましく用いられる直鎖分子としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類;ポリブタジエンジオール、ポリイソプレンジオール、ポリイソブチレンジオール、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)ジオール、水素化ポリブタジエンジオール、ポリエチレンジオール、ポリプロピレンジオールなどの末端水酸基ポリオレフィン類;ポリカプロラクトンジオール、ポリ乳酸、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル類;末端シラノール型ポリジメチルシロキサンなどの末端官能性ポリシロキサン類;末端アミノ基ポリエチレングリコール、末端アミノ基ポリプロピレングリコール、末端アミノ基ポリブタジエンなどの末端アミノ基鎖状ポリマー類;前記ブロック基と反応し得る官能基を一分子中に3つ以上有する多官能性鎖状ポリマー類などが挙げられる。中でも、ポリロタキサンの合成が容易である点から、ポリエチレングリコールおよび/または末端アミノ基ポリエチレングリコールが好ましく用いられる。
直鎖分子の数平均分子量は、2,000以上が好ましく、強度を向上させることができる。数平均分子量は、10,000以上がより好ましい。一方、数平均分子量は、100,000以下が好ましく、熱可塑性樹脂(A)との相溶性を向上させることができ、相分離構造を微細化することができるため、靱性をより向上させることができる。数平均分子量は、50,000以下がより好ましい。ここで、直鎖分子の数平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、Shodex HFIP−806M(2本)+HFIP−LGをカラムとして用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、ポリメチルメタクリレート換算の値を指す。
前記ブロック基は、直鎖分子の末端官能基と結合し得るものであり、環状分子が直鎖分子から脱離しないために十分に嵩高い基であれば、特に限定されない。好ましく用いられるブロック基としては、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンチル基、トリチル基、フルオレセイニル基、ピレニル基、アントラセニル基、数平均分子量1,000〜1,000,000の高分子の主鎖または側鎖等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
前記環状分子は、開口部に直鎖分子が貫通し得るものであれば、特に限定されない。好ましく用いられる環状分子としては、シクロデキストリン類、クラウンエーテル類、クリプタンド類、大環状アミン類、カリックスアレーン類、シクロファン類などが挙げられる。シクロデキストリン類は、複数のグルコースがα−1,4−結合で環状に連なった化合物である。α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンから選ばれる化合物がより好ましく用いられる。
ポリロタキサン(B)は、前記環状分子が、反応性官能基を末端に有するグラフト鎖により修飾されている。環状分子が反応性官能基を有するグラフト鎖により修飾されることにより、ポリロタキサン(B)と熱可塑性樹脂(A)との相溶性や、繊維状充填材(C)界面との親和性が良好になる。その結果、熱可塑性樹脂(A)の強度を維持したまま靱性を向上させることができ、強度と靱性をバランス良く向上させることができる。
一般に、熱可塑性樹脂(A)に繊維状充填材(C)を配合することにより、高い強度を有する樹脂組成物を得ることができる。しかし、このような樹脂組成物は、強度が高い半面、靱性が低下するという問題があった。一方、熱可塑性樹脂(A)にエラストマーを配合することにより、高い靭性を有する樹脂組成物を得ることができる。しかし、このような樹脂組成物は、靭性が高く、破壊が延性的である半面、強度が低いという問題があった。すなわち、従来の技術では高い強度を保ちながら高靱性の繊維強化プラスチック材料を得ることはできなかった。本発明の樹脂組成物によれば、高い強度を有するにもかかわらず、高い靭性を有する繊維強化プラスチック材料を得ることができる。
グラフト鎖末端の反応性官能基としては、特に制限されないが、例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基、グリシジル基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、チオール基、オキサゾリン基、スルホン酸基等から選ばれる少なくとも1種以上の基が挙げられる。
前記グラフト鎖は、ポリエステルにより構成されることが好ましい。熱可塑性樹脂(A)との相溶性および有機溶剤への溶解性の点から、脂肪族ポリエステルがより好ましい。脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ3−ヒドロキシブチレート、ポリ4−ヒドロキシブチレート、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)などが挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂(A)との相溶性の観点から、ポリ(ε−カプロラクトン)がより好ましい。
本発明の樹脂組成物におけるポリロタキサン(B)の配合量は、熱可塑性樹脂(A)およびポリロタキサン(B)の合計100重量部に対して、0.1重量部以上20重量部以下であることが好ましい。ポリロタキサン(B)の配合量が0.1重量部以上であると、ポリロタキサン(B)の応力緩和効果が十分に発揮され、成形品の靱性が向上する。ポリロタキサン(B)の配合量は0.5重量部以上が好ましい。一方、ポリロタキサン(B)の配合量が20重量部以下であると、得られる成形品の強度および耐熱性を維持することができる。ポリロタキサン(B)の配合量は15重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましい。
ポリロタキサン(B)において、グラフト鎖末端の官能基濃度は、2×10−5mol/g以上5×10−4mol/g以下が好ましい。官能基濃度を2×10−5mol/g以上とすることにより、熱可塑性樹脂(A)との相溶性を向上させることができる。その結果、熱可塑性樹脂(A)の強度を維持したまま、靱性をより向上させることができ、強度と靱性をよりバランス良く向上させることができる。官能基濃度は、3×10−5mol/g以上がより好ましい。一方、官能基濃度を5×10−4mol/g以下とすることにより、ポリロタキサン(B)の官能基同士の会合による凝集や、熱可塑性樹脂(A)との過剰な化学架橋を抑制することができ、凝集物やゲルの発生を抑制して靱性をより向上させることができる。官能基濃度は、1×10−4mol/g以下がより好ましい。
ここで、ポリロタキサン(B)のグラフト鎖末端の官能基濃度は、滴定により求めることができる。例えば、グラフト鎖末端の官能基がカルボキシル基の場合、カルボキシル基濃度は、以下の方法により求めることができる。80℃真空乾燥機を用いて、ポリロタキサン(B)を10時間以上乾燥させた絶乾試料を作製する。絶乾試料0.2gを25mlのベンジルアルコールに溶解した溶液について、濃度0.02mol/Lの水酸化カリウムのエタノール溶液を用いて滴定することにより、カルボキシル基濃度を求めることができる。その他の官能基についても、既知の方法により官能基濃度を算出することが可能である。
グラフト鎖末端の官能基は、例えば、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサンと、所望の官能基を有し、グラフト鎖末端と反応し得る導入化合物とを反応させることにより付与することができる。この場合、グラフト鎖末端の官能基濃度は、例えば、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサンと導入化合物の仕込み比率を調整することにより、所望の範囲に調整することができる。
ポリロタキサン(B)の重量平均分子量は、10万以上が好ましく、強度および靱性をより向上させることができる。一方、ポリロタキサン(B)の重量平均分子量は、100万以下が好ましく、熱可塑性樹脂(A)との相溶性が向上し、靱性をより向上させることができる。ここで、ポリロタキサン(B)の重量平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、Shodex HFIP−806M(2本)+HFIP−LGをカラムとして用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、ポリメチルメタクリレート換算の値を指す。
本発明の樹脂組成物は、繊維状充填材(C)を含有する。繊維状充填材(C)を含有することにより、強度、剛性などの機械特性に加え、寸法安定性に優れた成形品を得ることができる。
繊維状充填材(C)としては、繊維状の形状を有するいずれの充填材も使用することができる。具体的には、ガラス繊維;ポリアクリロニトリル(PAN)系やピッチ系の炭素繊維;ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維;ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維;石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、ワラステナイト、アルミナシリケートなどの繊維状またはウィスカー状充填材;ニッケル、銅、コバルト、銀、アルミニウム、鉄およびこれらの合金からなる群より選ばれる1種以上の金属で被覆されたガラス繊維などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
前記繊維状充填材の中でも、成形品の強度、剛性および表面外観をより向上させる観点から、ガラス繊維、炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維および芳香族ポリアミド繊維から選ばれる繊維状充填材が好ましく用いられる。さらに剛性、強度等の成形品の機械特性と樹脂組成物の流動性のバランスに優れる樹脂組成物を得られる点で、ガラス繊維および炭素繊維から選ばれる少なくとも一種の繊維状充填材が特に好ましく用いられる。
繊維状充填材(C)の表面に、カップリング剤や集束剤等を付着させたものを用いてもよい。カップリング剤や集束剤を付着させることにより、熱可塑性樹脂(A)の濡れ性や繊維状充填材(C)の取り扱い性を向上させることができる。カップリング剤としては、例えば、アミノ系、エポキシ系、クロル系、メルカプト系、およびカチオン系のシランカップリング剤等が挙げられる。アミノ系シラン系カップリング剤が特に好適に使用可能である。集束剤としては、例えば、カルボン酸系化合物、無水マレイン酸系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、フェノール系化合物およびこれらの誘導体から選ばれる化合物を含有する集束剤が挙げられる。
本発明の樹脂組成物における繊維状充填材(C)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)および、ポリロタキサン(B)の合計100重量部に対し、1〜200重量部である。繊維状充填材(C)の含有量が1重量部未満の場合は、成形品の機械特性および寸法安定性を向上させる効果を得ることができない。繊維状充填材(C)の含有量は、10重量部以上がより好ましく、20重量部以上がさらに好ましい。一方、繊維状充填材(C)の含有量が200重量部を超えると、成形品表面への繊維状充填材(C)の浮きが発生し、表面外観に優れる成形品を得ることができない。繊維状充填材(C)の含有量は、175重量部以下がより好ましく、150重量部以下がさらに好ましい。
本発明の樹脂組成物は、ポリロタキサン(B)を熱可塑性樹脂(A)と繊維状充填材(C)との界面に局在化させることで、熱可塑性樹脂(A)と繊維状充填材(C)との界面強度を損なうこと無く、ポリロタキサン(B)の応力緩和効果を十分に発揮することができ、強度および靱性をバランス良く向上させることができる。
ポリロタキサン(B)を熱可塑性樹脂(A)と繊維状充填材(C)との界面に局在化させる方法としては、例えばポリロタキサン(B)と親和性の高い化合物が表面に付着した繊維状充填材(C)を使用する方法や、繊維状充填材(C)表面をポリロタキサン(B)で直接処理する方法などが挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂(A)と繊維状充填材(C)との界面における熱可塑性樹脂(A)由来のイオン強度をa、前記ポリロタキサン(B)由来のイオン強度をbとした際、イオン強度比b/aは1.1以上が好ましい。イオン強度比b/aが1.1以上となることで、界面におけるポリロタキサン(B)濃度が高く強度および靱性をより向上させることができる。イオン強度比b/aは、1.10以上がより好ましく、1.2以上がさらに好ましく、1.3以上がいっそう好ましい。また、イオン強度比b/aは、10以下であることが好ましい。ここで、イオン強度比b/aはTOF−SIMS(飛行時間型2次イオン質量分析法)により得られる。
TOF−SIMS(飛行時間型2次イオン質量分析法)とは試料表面にパルス化されたイオン(1次イオン)を照射し、試料表面から放出された2次イオンより得られる質量スペクトルから試料表面に存在する有機物や無機物を同定する分析法であり、縦軸を繊維状充填材(C)由来成分に対する各成分由来の相対イオン強度、横軸を深さ方向の指標であるサイクル数とした際の正2次イオンプロファイルにおいて、各イオン種のプロファイル形状から割り出した界面における熱可塑性樹脂(A)由来のイオン強度をa、ポリロタキサン(B)由来のイオン強度をbとし、イオン強度比b/aを算出する。
本発明の樹脂組成物は、前記樹脂組成物を用いて、ISO527−1:2012に準拠した試験片を成形し、ISO527−1:2012に準拠した方法で該試験片の引張特性を測定した場合において、応力歪み曲線の破断までの面積で示される吸収エネルギーが24J以上であることが好ましい。吸収エネルギーが24J以上となることで、強度と靱性のバランスに優れ成形品の耐衝撃性を向上できるため好ましい。吸収エネルギーは25J以上がより好ましく、30J以上がさらに好ましい。吸収エネルギーは、解析ソフト:TRAPEZIUM Xを使用して算出したエネルギー(試験開始から破断までの応力歪み曲線から算出される面積)とする。 本発明の樹脂組成物は、前記樹脂組成物を用いて、ISO178:2010に準拠した試験片を成形し、ISO178:2010に準拠した方法で該試験片の曲げ特性を測定した場合において、弾性率が3.5GPa以上であることが好ましい。弾性率は、より好ましくは5GPa以上であり、6GPa以上がさらに好ましい。また、弾性率は、100GPa以下であることが好ましい。曲げ弾性率が3.5GPa未満の場合は、大型成形品を成形した場合に撓みや変形を引き起こす可能性があり好ましくない。
本発明の樹脂組成物は、ISO527−1:2012に準拠した試験片を成形し、ポリロタキサン(B)の融解開始温度から+15℃の温度で該試験片の引張特性を測定した場合の吸収エネルギーが、23℃で引張特性を測定した場合の吸収エネルギーの1.2倍以上となることが好ましい。吸収エネルギーが1.2倍以上となることで、高温における強度と靱性のバランスに優れ、成形品の耐衝撃性を向上できるため好ましい。吸収エネルギーは、より好ましくは1.25倍以上であり、1.3倍以上がさらに好ましい。
なお、ポリロタキサン(B)の融解開始温度は、示差走査熱量計を用いて、(B)ポリロタキサンを不活性ガス雰囲気下、20℃/分の昇温速度で23℃から120℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの開始温度とした。
本発明の樹脂組成物は、高剛性でありながら強度と靱性のバランスに優れる。一般的に剛性、強度が高いほど硬く脆くなるため靱性が低下する。また靱性が高いほど軟らかく強度が低くなり、従来公知の技術では両者をバランス良く向上させることが困難であった。
本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲でエラストマーを含むことができる。エラストマーとしては、例えば、天然ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、熱可塑性エラストマー、コアシェルゴム、アイオノマー等が挙げられる。この中でも、熱可塑性樹脂(A)との相溶性の観点から、熱可塑性エラストマーおよびコアシェルゴムから選ばれるエラストマーが好ましく、熱可塑性エラストマーがさらに好ましく用いられる。なお、エラストマーとして熱可塑性エラストマーを用いる場合、樹脂組成物中の各成分の含有比率の計算において、熱可塑性エラストマーも熱可塑性樹脂(A)として計算する。
熱可塑性エラストマーとは、一般的にガラス転移温度が室温より低く、分子間の一部がイオン結合、ファンデルワールス力、分子鎖の絡み合い等により、互いに拘束されている重合体のことを指す。例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、該重合体の水素添加物、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、該重合体の水素添加物、スチレン−イソプレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、該重合体の水素添加物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ブタジエン−イソプレン共重合体などのジエン系ゴム、エチレン−プロピレンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン−ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレンとα−オレフィンとの共重合体、エチレン−アクリル酸エステル、エチレン−メタクリル酸エステルなどのエチレン−不飽和カルボン酸エステル共重合体、アクリル酸エステル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体などのアクリル系弾性重合体、エチレン−酢酸ビニルなどのエチレンと脂肪酸ビニルとの共重合体、エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン−プロピレン−ヘキサジエン共重合体などのエチレン−プロピレン非共役ジエン3元共重合体、ブチレン−イソプレン共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマーなどが挙げられる。
コアシェルゴムとは、ゴムからなる少なくとも1つの層と、それとは異種の重合体から構成された1つ以上の層からなる多層構造体のことを指す。多層構造体を構成する層の数は、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよいが、内部に1層以上のゴム弾性を有するコア層を有することが好ましい。多層構造体のコア層を構成するゴムの種類は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分、エチレン成分、プロピレン成分、イソブテン成分などから選ばれる成分を重合して得られたゴムが挙げられる。多層構造体のゴム層以外の層を構成する異種の重合体の種類は、熱可塑性を有する重合体であれば特に限定されるものではないが、ゴム層よりもガラス転移温度が高い重合体が好ましい。熱可塑性を有する重合体としては、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位、不飽和酸無水物単位、脂肪族ビニル単位、芳香族ビニル単位、シアン化ビニル単位、マレイミド単位、不飽和ジカルボン酸単位およびその他のビニル単位などから選ばれる単位を含有する重合体が挙げられる。
エラストマーは反応性官能基により変性されていても良い。反応性官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、グリシジル基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、メルカプト基、オキサゾリン基、スルホン酸基等から選ばれる少なくとも1種の基が挙げられる。この中でも官能基導入の簡便性および反応性の観点から、アミノ基、カルボキシル基、グリシジル基、酸無水物基およびイソシアネート基から選ばれる基が好ましく用いられ、グリシジル基、酸無水物基およびイソシアネート基から選ばれる基がさらに好ましく用いられる。官能基をエラストマーに導入する場合、その方法としては、特に制限はないが、例えば、酸無水物基を熱可塑性エラストマーに導入する場合、酸無水物基を有する単量体と熱可塑性エラストマーの原料である単量体とを共重合する方法、酸無水物を熱可塑性エラストマーにグラフトさせる方法などを用いることができる。
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに非繊維状充填材、各種添加剤などを含むことができる。
非繊維状充填材としては、例えば、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、珪酸カルシウムなどの非膨潤性珪酸塩;Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母の膨潤性雲母などの膨潤性層状珪酸塩;酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、珪藻土、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化アンチモンなどの金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドロマイト、ハイドロタルサイトなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの金属水酸化物;モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物;ガラスビーズ、ガラスフレーク、セラミックビーズ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、燐酸カルシウム、カーボンブラック、黒鉛などが挙げられる。前記の膨潤性層状珪酸塩は、層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換されていてもよい。有機オニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが挙げられる。
各種添加剤の具体例としては、熱安定剤;イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤;ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤;有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤;モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸;エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤;次亜リン酸塩などの着色防止剤;カルボン酸アミド系ワックスなどの滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などを挙げることができる。これらの添加剤を含有する場合、その含有量は、熱可塑性樹脂(A)の特徴を十分に活かすため、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して10重量部以下が好ましく、1重量部以下がより好ましい。
熱安定剤としては、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどのフェノール系化合物、リン系化合物、メルカプトベンゾイミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、有機チオ酸系化合物などの硫黄系化合物、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンなどのアミン系化合物などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
カップリング剤としては1分子に2つ以上のイソシアネート基またはブロック化イソシアネート基を有するイソシアネート化合物が好ましく用いられ、イソシアネート化合物としては、低分子イソシアネート化合物と高分子イソシアネート化合物があり、低分子イソシアネート化合物としては、例えば脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートなどが挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンダイマーなどが挙げられる。脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、ビシクロヘプタントリイソシアネート、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。反応性の観点から、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。また、高分子イソシアネート化合物は、低分子イソシアネート化合物により高分子鎖の末端をイソシアネート基に変性した化合物である。主鎖に用いる高分子は末端がイソシアネートと反応する官能基を有するものであれば、特に限定されない。好ましく用いられる高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルメチルエーテルポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合体などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体などのアクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体が挙げられる。ポリアミド(A)との相溶性の観点から、ナイロンなどのポリアミド類またはポリエステル樹脂がより好ましく、特に脂肪族ポリアミド類、脂肪族ポリエステル樹脂がより好ましい。上記イソシアネート化合物は、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
ブロック化イソシアネート基とは、イソシアネート基がブロック剤との反応によって保護され、一時的に不活性化された官能基である。ブロック化イソシアネート基を複数有する化合物がブロック化イソシアネート化合物である。ブロック剤は、所定温度に加熱すると解離させることが可能である。このようなブロック化イソシアネート化合物としては、イソシアネート化合物とブロック剤との付加反応生成物が用いられる。ブロック剤と反応し得るイソシアネート化合物としては、前記イソシアネート化合物として例示した化合物が挙げられる。ブロック化イソシアネート化合物としては、イソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体などが挙げられる。ブロック化イソシアネート化合物は、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
ブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、クロロフェノール、エチルフェノールなどのフェノール系ブロック剤;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤;アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系ブロック剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルエーテル、グリコール酸メチル、グリコール酸ブチル、ジアセトンアルコール、乳酸メチル、乳酸エチルなどのアルコール系ブロック剤;ホルムアルデヒドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系ブロック剤;ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン系ブロック剤;アセトアミド、ベンズアミドなどの酸アミド系ブロック剤;コハク酸イミド、マレイン酸イミドなどのイミド系ブロック剤;キシリジン、アニリン、ブチルアミン、ジブチルアミンなどのアミン系ブロック剤;イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール系ブロック剤;メチレンイミン、プロピレンイミンなどのイミン系ブロック剤などが挙げられる。ブロック剤は、単独で用いても、2種以上併用しても構わない。
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、特に制限はないが、原料を溶融状態で混練する方法や、溶液状態で混合する方法等が挙げられる。反応性向上の点から、溶融状態で混練する方法が好ましい。溶融状態で混練する溶融混練装置としては、例えば、単軸押出機;二軸押出機、四軸押出機などの多軸押出機;二軸単軸複合押出機などの押出機や、ニーダーなどが挙げられる。生産性の点から、連続的に製造可能な押出機が好ましく、混練性、反応性および生産性の向上の点から、二軸押出機がより好ましい。
以下、二軸押出機を用いて本発明の樹脂組成物を製造する場合を例に説明する。ポリロタキサン(B)の熱劣化を抑制し、靱性をより向上させる観点から、溶融混練工程における最高樹脂温度は、300℃以下が好ましい。一方、最高樹脂温度は、熱可塑性樹脂(A)の融点以上が好ましい。ここで、最高樹脂温度とは、押出機の複数ヶ所に均等に設置された樹脂温度計により測定された温度の中で最も高い温度を指す。
また、溶融混練工程における樹脂組成物の押出量とスクリュー回転数の比率は、熱可塑性樹脂(A)およびポリロタキサン(B)の熱劣化をより抑制する観点から、スクリュー回転数1rpm当たりの押出量0.01kg/h以上が好ましく、0.05kg/h以上がより好ましい。一方、熱可塑性樹脂(A)とポリロタキサン(B)の反応をより促進する観点から、押出量は、スクリュー回転数1rpm当たり1kg/h以下が好ましい。ここで、押出量とは、押出機から1時間あたりに吐出される樹脂組成物の重量(kg)を指す。また、スクリュー回転数1rpm当たりの押出量とは、押出量をスクリュー回転数で割った値のことである。
このようにして得られた樹脂組成物は、公知の方法で成形することができ、シート、フィルムなどの各種成形品を得ることができる。成形方法としては、例えば、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、プレス成形などが挙げられる。
本発明の樹脂組成物およびその成形品は、その優れた特性を活かし、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。とりわけ、靱性および強度が要求される自動車外装部品や、自動車電装部品、自動車アンダーフード部品、自動車ギア部品;筐体やコネクタ、リフレクタなどの電気電子部品用途に特に好ましく用いられる。具体的には、エンジンカバー、エアインテークパイプ、タイミングベルトカバー、インテークマニホールド、フィラーキャップ、スロットルボディ、クーリングファンなどの自動車エンジン周辺部品;クーリングファン、ラジエータータンクのトップおよびベース、シリンダーヘッドカバー、オイルパン、ブレーキ配管、燃料配管用チューブ、廃ガス系統部品などの自動車アンダーフード部品;ギア、アクチュエーター、ベアリングリテーナー、ベアリングケージ、チェーンガイド、チェーンテンショナなどの自動車ギア部品;シフトレバーブラケット、ステアリングロックブラケット、キーシリンダー、ドアインナーハンドル、ドアハンドルカウル、室内ミラーブラケット、エアコンスイッチ、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、グローブボックス、ステアリングホイール、トリムなどの自動車内装部品;フロントフェンダー、リアフェンダー、フューエルリッド、ドアパネル、シリンダーヘッドカバー、ドアミラーステイ、テールゲートパネル、ライセンスガーニッシュ、ルーフレール、エンジンマウントブラケット、リアガーニッシュ、リアスポイラー、トランクリッド、ロッカーモール、モール、ランプハウジング、フロントグリル、マッドガード、サイドバンパーなどの自動車外装部品;エアインテークマニホールド、インタークーラーインレット、エキゾーストパイプカバー、インナーブッシュ、ベアリングリテーナー、エンジンマウント、エンジンヘッドカバー、リゾネーター、およびスロットルボディなどの吸排気系部品;チェーンカバー、サーモスタットハウジング、アウトレットパイプ、ラジエータータンク、オルタネーター、およびデリバリーパイプなどのエンジン冷却水系部品;コネクタやワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、ランプソケット、センサー車載スイッチ、コンビネーションスイッチなどの自動車電装部品;SMT対応のコネクタ、ソケット、カードコネクタ、ジャック、電源部品、スイッチ、センサー、コンデンサー座板、リレー、抵抗器、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICやLED対応ハウジング、リフレクタなどの電気電子部品を好適に挙げることができる。さらに、本発明の樹脂組成物およびその成形品は高衝撃特性および非破壊となる優れた特性を活かし、スポーツ用途としても好適に用いることができ、ゴルフクラブやシャフト、グリップ、ゴルフボール等のゴルフ関連用品;テニスラケットやバトミントンラケットおよびそのガット等のスポーツラケット関連用品;アメリカンフットボールや野球、ソフトボール等のマスク、ヘルメット、胸当て、肘当て、膝当て等のスポーツ用身体保護用品、スポーツウェア等のウェア関連用品;スポーツシューズの底材等のシューズ関連用品;釣り竿、釣り糸等の釣り具関連用品;サーフィン等のサマースポーツ関連用品;スキー・スノーボード等のウィンタースポーツ関連用品;その他インドアおよびアウトドアスポーツ関連用品等に好適に使用される。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。各実施例の樹脂組成物を得るため、下記原料を用いた。
<熱可塑性樹脂>
(A−1):ナイロン6樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標))、ηr=2.70、融点225℃、アミド基濃度10.5mmol/g。
ここで、相対粘度ηrは、98%濃硫酸の0.01g/ml溶液、25℃において測定した。また、融点は、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリアミドを溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で265℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度とした。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とした。また、アミド基濃度は、構造単位の構造式から次式(1)により算出した。
アミド基濃度(mol/g)=(構造単位のアミド基数/構造単位の分子量) (1)。
(A−2):ポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ(株)製“トレコン”(登録商標))、η=0.85dl/g(o−クロロフェノール溶液を25℃で測定)、融点223℃。
ここで、固有粘度ηは0.5重量%に調製したo−クロロフェノール溶液、25℃において測定した。融点は、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリブチレンテレフタレートを溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で263℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度とした。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とした。
(A−3):ナイロン66樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標))、ηr=2.78、融点260℃、アミド基濃度8.84mmol/g。
<ポリロタキサン>
(B−1):ポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製“セルム”(登録商標)スーパーポリマーSH3400P)を用いた。このポリロタキサンの環状分子を修飾するグラフト鎖の末端基は水酸基であり、JIS K0070に準ずる水酸基価は6.24×10−4mol/g、直鎖分子であるポリエチレングリコールの数平均分子量は3.5万、全体の重量平均分子量は70万である。ここで、ポリロタキサンの重量平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、Shodex HFIP−806M(2本)+HFIP−LGをカラムとして用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した、ポリメチルメタクリレート換算の値である。ポリロタキサン(B−1)の融解開始温度は、35℃であった。ここで、ポリロタキサンの融解開始温度は、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、20℃/分の昇温速度で23℃から120℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの開始温度である。
<繊維状充填材>
(C−1):ガラス繊維(日本電気硝子製 T−251H)を用いた。
(C−2):ガラス繊維(日本電気硝子製 T−249)を用いた。
(参考例)
“セルム”スーパーポリマーSH3400P6重量部と“ネオペレックス”G−25(花王(株)製:アニオン系界面活性剤;ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム)3重量部、“KBE−903”(信越化学工業(株)製γ−アミノプロピルエトキシシラン)0.6重量部を水100重量部に分散させた分散液に、Eガラス組成で平均直径10μmのガラス繊維を浸した。その後、ガラス繊維を分散液より抜き出し、130℃で6時間乾燥し、表面処理ガラス繊維を得た。表面処理ガラス繊維中の “セルム”スーパーポリマーSH3400P(B−1)の含有量は0.5重量%であった。この表面処理後のガラス繊維を3mmの長さに切断して、(C−3)表面処理ガラス繊維を得た。
<評価方法>
各実施例および比較例における評価方法を説明する。評価n数は、特に断らない限り、n=5とし平均値を求めた。
(1)イオン強度比
各実施例および比較例により得られたペレットを80℃で12時間減圧乾燥した後、射出成形機(住友重機社製SE75DUZ−C250)を用いて、表1および2に示す成形条件で射出成形することにより、ISO527−1:2012に準拠した1A型多目的試験片を作製した。この多目的試験片について、ION−TOF社製TOF.SIMS 5を用い、一次イオンをBi3 ++、エッチングイオンをArクラスターイオン(Ar−GCIB)、二次イオン極性を正とし、前述の方法で得られた多目的試験片から繊維状充填材(C)の繊維方向に沿った劈開面を出し、劈開面表面の繊維状充填材(C)についてGCIB−TOF−SIMSによるデプスプロファイル測定を行った。縦軸を繊維状充填材(C)由来成分に対する各成分由来の相対イオン強度、横軸を深さ方向の指標であるサイクル数とした際の正2次イオンプロファイルにおいて、各イオン種のプロファイル形状から割り出した界面における熱可塑性樹脂(A)由来のイオン強度をa、ポリロタキサン(B)由来のイオン強度をbとし、イオン強度比b/aを算出した。ここで、熱可塑性樹脂(A−1)由来のイオン種をC6H12NO+、熱可塑性樹脂(A−2)由来のイオン種をC12H13O4 +、熱可塑性樹脂(A−3)由来のイオン種をC12H23N2O2 +、ポリロタキサン(B−1)由来のイオン種をC3H5O2 +、繊維状充填材(C−1)、(C−2)、(C−3)由来のイオン種を(27Al+)とした。なお、ポリロタキサン(B)由来のイオン強度bが1.0×10−3より小さい場合は、この値は極めて小さい値でありポリロタキサン(B)に由来するイオン強度を正確に検出したものではないため、ポリロタキサン(B)由来のイオン強度b、イオン強度比b/aとも参考値とする。
(2)強度(引張強度)
各実施例および比較例により得られたペレットを80℃で12時間減圧乾燥した後、射出成形機(住友重機社製SE75DUZ−C250)を用いて、表1および2に示す成形条件で射出成形することにより、ISO527−1:2012に準拠した1A型多目的試験片を作製した。この多目的試験片から得られた引張試験片について、ISO527−1:2012に従い、精密万能試験機AG−20kNX(島津製作所製)を用い、引張速度5mm/min、標線間距離75mmで引張試験を行い、引張強度を求めた。
(3)靱性(引張破断伸度)
前述の引張試験において引張破断伸度を求めた。
(4)吸収エネルギー
前述の引張試験において、試験開始から破断までの応力歪み曲線から算出される面積を解析ソフト:TRAPEZIUM X(島津製作所製)を使用して算出した。
(5)剛性(曲げ弾性率)
各実施例および比較例により得られたペレットを80℃で12時間減圧乾燥した後、射出成形機(住友重機社製SE75DUZ−C250)を用いて、表1、2に示す条件で射出成形することにより、ISO178:2010に準拠した多目的試験片を作製した。この多目的試験片から得られた曲げ試験片について、ISO178:2010に従い、精密万能試験機(AG−20kNX(島津製作所製)を用い、クロスヘッド速度2mm/minで曲げ試験を行い、曲げ弾性率を求めた。
(6)強度(ポリロタキサン(B−1)の融解開始温度+15℃での引張強度)
測定温度を50℃とする以外は前述(2)の引張試験と同様に試験を実施し、引張強度を求めた。
(7)靱性(ポリロタキサン(B−1)の融解開始温度+15℃での引張破断伸度)
測定温度を50℃とする以外は前述(2)の引張試験と同様に試験を実施し、引張破断伸度を求めた。
(8)吸収エネルギー(ポリロタキサン(B−1)の融解開始温度+15℃での吸収エネルギー)
測定温度を50℃とする以外は前述(2)の引張試験と同様に試験を実施し、試験開始から破断までの応力歪み曲線から算出される面積を解析ソフト:TRAPEZIUM X(島津製作所製)を使用して算出した。
(実施例1〜7、比較例1〜8)
熱可塑性樹脂(A)、およびポリロタキサン(B)、を表1および2に示す組成となるように配合して、プリブレンドし、表1および2に示す押出条件に設定した二軸押出機(日本製鋼所製TEX30α)を用い、熱可塑性樹脂(A)およびポリロタキサン(B)、を主フィーダーより供給し、繊維状充填材(C)をサイドフィーダーより供給し、押出されたガットをペレタイズした。得られたペレットを用いて前記方法により評価した結果を表1および2に示す。なお、比較例2および4〜8において検出されたポリロタキサンのイオン強度bは、1.0×10−3より小さく、ポリロタキサンに由来するイオン強度を検出したものではないため、参考値とする。