以下、図面を参照して本発明のインクジェット印刷装置の一実施形態について詳細に説明する。本実施形態のインクジェット印刷装置は、インクジェットヘッドのメンテナンス機構およびその制御に特徴を有するものであるが、まずは、インクジェット印刷装置全体の構成について説明する。図1は、本実施形態のインクジェット印刷装置1の概略構成図である。なお、以下に示す実施形態の説明では、図1に矢印で示す上下左右前後を、インクジェット印刷装置1における上下左右前後方向とする。
本実施形態のインクジェット印刷装置1は、図1に示すように、シャトルベースユニット2と、フラットベッドユニット3と、シャトルユニット4とを備えている。
シャトルベースユニット2は、シャトルユニット4を支持するとともに、前後方向(副走査方向)にシャトルユニット4を移動させるものである。シャトルベースユニット2は、具体的には、架台部11と、副走査駆動モータ12(図9参照)とを備えている。
架台部11は、矩形枠状に形成されたものであり、シャトルユニット4を支持するものである。架台部11の左右の枠上には、前後方向に延びる副走査駆動ガイド13A,13Bがそれぞれ形成されている。副走査駆動ガイド13A,13Bは、シャトルユニット4を前後方向に移動するようにガイドするものである。副走査駆動モータ12は、シャトルユニット4を前後方向に移動させるものである。
フラットベッドユニット3は、建材や化粧パネルなどの印刷媒体15を支持するものである。フラットベッドユニット3は、シャトルベースユニット2の架台部11の内側に形成された直方体形状の凹部内に配置されている。フラットベッドユニット3は、印刷媒体15が載置される水平面である媒体載置面3aを有している。フラットベッドユニット3は、図示省略した油圧駆動機構などからなる昇降機構を有し、これにより媒体載置面3aの高さを調整できるように構成されている。
シャトルユニット4は、印刷媒体15に対して印刷処理を施すものである。図2は、シャトルユニット4の概略構成を示す図である。シャトルユニット4は、図2に示すように、筐体21と、主走査駆動ガイド22と、主走査駆動モータ23(図9参照)と、ヘッド昇降ガイド24と、ヘッド昇降モータ25(図9参照)と、ヘッドユニット26と、キャッピングユニット66と、吸引部28と、吸収部材設置機構29と、メンテナンス部30とを備えている。
筐体21は、ヘッドユニット26などの各部を収納するものである。筐体21は、フラットベッドユニット3を左右方向に跨ぐような門型に形成されている。筐体21は、シャトルベースユニット2の架台部11に支持され、副走査駆動ガイド13A,13Bに沿って移動可能に構成されている。
主走査駆動ガイド22は、ヘッドユニット26を左右方向(主走査方向)に移動するようにガイドするものである。主走査駆動ガイド22は、左右方向に延びる長尺状の部材によって形成されている。ヘッドユニット26は、主走査駆動モータ23によって左右方向に移動する。
ヘッド昇降ガイド24は、ヘッドユニット26を上下方向に移動するようガイドするものである。ヘッド昇降ガイド24は、上下方向に細長い形状の部材から形成されている。ヘッド昇降ガイド24は、ヘッドユニット26とともに主走査駆動ガイド22に沿って左右方向に移動可能に構成されている。ヘッドユニット26は、ヘッド昇降モータ25によって上下方向に昇降する。
ヘッドユニット26は、上述したように主走査駆動ガイド22に沿って左右方向に移動しながら、印刷媒体15にインクを吐出することによって印刷処理を施すものである。ヘッドユニット26は、図2に示すように、4つのインクジェットヘッド31を有している。
図3は、インクジェットヘッド31の外観を示す斜視図であり、図4は、図3に示すインクジェットヘッド31のA-A線断面の一部を示す図である。
インクジェットヘッド31は、図3に示すように、ノズルプレート36と、ノズルガード32とを備えている。ノズルプレート36は、インクを吐出するノズルのインク吐出口37が、前後方向に複数配列されたノズル列を有するものである。
ノズルガード32は、図3および図4に示すように、ノズルプレート36のノズル列に対応する部分に開口46を有し、ノズル列のインク吐出面36aに対して、隙間40を介して設けられるものである。なお、本実施形態においては、インク吐出面36aは、ノズルプレート36の表面と同じ面である。
ノズルガード32は、ノズルプレート36のインク吐出面36aを保護するものである。ノズルガード32は、具体的には、ノズル列の周囲を覆うように形成された底板41と、底板41の周縁に立設された側壁42とを有している。底板41には、上述した開口46が形成されており、底板41とインク吐出面36aとの間に隙間40が形成されている。開口46は、前後方向に細長い矩形状に形成され、全ノズルのインク吐出口37が露出するように形成されている。
4つのインクジェットヘッド31は、左右方向に並列して配置されている。4つのインクジェットヘッド31は、それぞれ異なる色(たとえばシアン、ブラック、マゼンダおよびイエロー)のインクを吐出するものである。
キャッピングユニット66は、インクジェット印刷装置1が印刷を行わない待機中において、ノズルのインク吐出口37の乾燥を防ぐためにノズルガード32の開口46を密閉するものである。本実施形態においては、キャッピングユニット66が、本発明の押し当て機構に相当するものである。
キャッピングユニット66は、図2に示すように筐体21の右端部の内部に設置されている。そして、ヘッドユニット26が、筐体21の右端部の待機位置まで移動した際に、ノズルガード32の開口46を密閉するものである。
キャッピングユニット66は、図5に示すように、キャップ71(本発明のキャップ部材に相当する)と、キャップ土台72とを備えている。キャップ71は、長円形状の底部76と、底部76の周縁に立設された周壁77とを備えている。底部76には、後述する吸収部材50に吸収されたインクを吸引するための吸引孔78が形成されている。吸引孔78には、後述する吸引部28の吸引管68が接続されている。キャップ土台72は、キャップ71が形成される土台である。
キャッピングユニット66は、キャップ昇降モータ67(図9参照)によって上下方向に昇降するものである。具体的には、キャッピングユニット66は、キャップ71の周壁77がノズルガード32に当接する当接位置と、その当接位置より下方の退避位置との間で昇降するものである。
さらに、キャッピングユニット66は、上述したノズルガード32の底板41とインク吐出面36aとの間に形成された隙間40に入り込んだインクの除去を行う際には、キャップ71上に吸収部材50(図2参照)が設置された状態で、インクジェットヘッド31側に上昇し、吸収部材50をノズルガード32の開口46に押し当てるものである。
吸収部材50は、ノズルガード32の開口46の範囲を覆う大きさを有するシート状の部材であって、吸水性を有する部材である。図6は、吸収部材50の概略構成を示す斜視図である。具体的には、吸収部材50の長さL3は、図3に示すノズルガード32の開口46の前後方向(ノズルのインク吐出口37の配列方向)の長さL1以上であり、吸収部材50の長さL4は、ノズルガード32の開口46の左右方向(ノズルのインク吐出口37の配列方向に直交する方向)の長さL2以上である。図6に示す吸収部材50の表面50aが、ノズルガード32の開口に押し当てられる。
吸収部材50の材料としては、インクを吸収することができる材料であれば如何なる材料でも良いが、多孔質シートであることが好ましい。多孔質シートとしては、本実施形態のように、吸収部材50に吸収されたインクを吸引部28によって吸引する場合には、連続気泡を有する多孔質シートであることが好ましい。連続気泡を有する多孔質シートを用いることによって、吸引部28によるインクの吸引をスムーズに行うことができる。また、吸収部材50として、多孔質を有する印刷用紙を用いるようにしてもよい。
本実施形態においては、吸収部材50は、各インクジェットヘッド31と各インクジェットヘッド31に対応して設けられた各キャッピングユニット66との間にそれぞれ設置されるものである。
吸収部材設置機構29は、各インクジェットヘッド31と各インクジェットヘッド31に対応して設けられた各キャッピングユニット66との間に、吸収部材50を挿抜する機構である。具体的には、吸収部材設置機構29は、吸収部材50を、インクジェットヘッド31とキャッピングユニット66との間に挿入したクリーニング位置(図2で示す位置)と、インクジェットヘッド31とキャッピングユニット66との間から退避した退避位置との間で移動させるものである。吸収部材設置機構29は、公知なアクチュエータなどを用いて構成されるものである。
吸引部28は、吸収部材50に吸収されたインクを吸引するものである。吸引部28は、図2に示すように、キャッピングユニット66の下方に設けられるものである。吸引部28は、4本の吸引管68と、4つの吸引ポンプ69と、廃液タンク70とを備えている。
4本の吸引管68の一端は、それぞれ4つのキャップ71の底部76に形成された吸引孔78に接続され、4本の吸引管68の他端は、廃液タンク70に接続されている。そして、各吸引管68に対してそれぞれ吸引ポンプ69が設置されている。
4つのキャップ71上に設置された吸収部材50に吸収されたインクは、吸引ポンプ69の吸引によって各キャップ71の吸引孔78に流れ出し、各吸引管68を経由して廃液タンク70に貯留される。
メンテナンス部30は、インクジェットヘッド31のインク吐出面36aとノズルガード32の下面をクリーニングするものである。メンテナンス部30は、筐体21の左端部の内部に配置されている。メンテナンス部30は、図7に示すように、4つのワイパ81と、4つのワイパ固定部82と、ワイパ駆動部83と、4つの洗浄槽84とを備えている。
ワイパ81は、インクジェットヘッド31のインク吐出面36aおよびノズルガード32の下面をワイプする部材である。ワイパ81は、弾性変形可能なゴムなどの材料からなり、板状に形成されている。ワイパ81は、先端側が、中央部分81a、左側部分81b、および右側部分81cの部分に分かれていてもよい。中央部分81aは、ノズルガード32の開口46に挿入されてインクジェットヘッド31のインク吐出面36aをワイプする部分である。中央部分81aの先端は、左側部分81bおよび右側部分81cの先端から突出している。中央部分81aの幅(左右方向の長さ)は、ノズルガード32の開口46の幅よりもやや小さい。左側部分81bおよび右側部分81cは、ノズルガード32の下面をワイプする部分である。
ワイパ固定部82は、ワイパ81を後述するワイパ駆動ベルト86に固定するものである。
ワイパ駆動部83は、インクジェットヘッド31のノズルのインク吐出口37の配列方向にワイパ81を移動させるものである。ワイパ駆動部83は、4本のワイパ駆動ベルト86と、駆動ローラ87と、従動ローラ88,89とを備えている。
ワイパ駆動ベルト86は、駆動ローラ87および従動ローラ88,89に掛け渡された環状のベルトである。各ワイパ駆動ベルト86に対してそれぞれワイパ固定部82を介してワイパ81が取り付けられている。ワイパ駆動ベルト86は、図7において矢印で示す方向(左側から見て反時計回り方向)に回転することによって、ワイパ81を移動させる。これにより、駆動ローラ87と従動ローラ88との間に張られたワイパ駆動ベルト86の水平区間において、ワイパ81が、前側から後側へ向かって移動しながら、インク吐出面36aおよびノズルガード32の下面をワイプする。
駆動ローラ87は、図示省略したモータによって回転駆動し、これによりワイパ駆動ベルト86を回転させるものである。従動ローラ88,89は、駆動ローラ87とともに4本のワイパ駆動ベルト86を支持するものである。従動ローラ88,89は、ワイパ駆動ベルト86を介して駆動ローラ87に従動回転するものである。従動ローラ88は、駆動ローラ87と同じ高さ、かつ駆動ローラ87の後方に配置されている。従動ローラ89は、前後方向における駆動ローラ87と従動ローラとの中間位置の下方に配置されている。
洗浄槽84は、洗浄液が貯留されるものである。洗浄槽84は、ワイパ駆動ベルト86の下方に配置されている。これにより、ワイパ駆動ベルト86の回転によりワイパ81が従動ローラ89付近を通過する際に、ワイパ81が洗浄槽84内の洗浄液内に浸漬し、ワイパ81に洗浄液が付着する。
洗浄液は、インク吐出面36aおよびノズルガード32の表面に付着された固着物(インク成分、印刷媒体表面のケバおよび粉を含む)を溶解させる液体である。洗浄液としては、水及び界面活性剤を含む水性溶媒を用いることが好ましい。界面活性剤としては、たとえば脂肪酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、α-スルホ脂肪酸エステルナトリウム、アルキル燐酸エステルナトリウム等のアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、等のカチオン性界面活性剤;ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、等の両性界面活性剤を用いることができる。また、高分子系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びアセチレングリコール系界面活性剤等も用いることができる。これらのなかでもポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることが好ましく、そのHLB値は11~17、アルキル基の炭素数は8~15、エチレンオキサイドの付加モル数は6~25であることがより好ましい。
また、洗浄液には、さらに増粘剤を含むことが好ましい。増粘剤としては、水溶性高分子系増粘剤、粘土鉱物系増粘剤を用いることができる。水溶性高分子系増粘剤としては、天然高分子、半合成高分子、合成高分子を用いることができる。天然高分子としては、例えば、アラビアガム、カラギーナン、グアガム、ローカストビーンガム、ペクチン、トラガントガム、コーンスターチ、コンニャクマンナン、寒天等の植物系天然高分子;プルラン、キサンタンガム、デキストリン等の微生物系天然高分子;ゼラチン、カゼイン、にかわ等の動物系天然高分子、を用いることができる。半合成高分子としては、例えば、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系半合成高分子;ヒドロキシエチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、シクロデキストリン等のデンプン系半合成高分子;アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール等のアルギン酸系半合成高分子;ヒアルロン酸ナトリウム、を用いることができる。合成高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリN- ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド等のビニル系合成高分子;ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリウレタンを用いることができる。粘土鉱物系の増粘剤としては、例えば、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等のスメクタイト系粘土鉱物を用いることができる。これらのなかでも、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることが好ましい。
さらに、洗浄液には、上記の成分に加え、任意に、水溶性有機溶剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等を適宜含むことができる。ワイプ液の粘度は、23℃において5~200mPa・sであることが好ましく、10~100mPa・sであることがより好ましい。
また、図2に示すように、各インクジェットヘッド31には、インク供給管53の一端が接続されている。そして、図8に示すように、インク供給管53の他端には、インクを貯留するインクタンク51が接続されている。インク供給管53には、供給ポンプ52が配置されており、この供給ポンプ52が動作することによって、インクタンク51に貯留されたインクが、インク供給管53を介してインクジェットヘッド31に供給される。
本実施形態においては、図8に示すように、インクジェットヘッド31のノズルガード32の開口46に吸収部材50が押し当てられた状態で、供給ポンプ52によってインクジェットヘッド31にインクが供給されてパージが行われ、この際、吸引ポンプ69によって吸引が行われることによって、パージと吸収部材50によるインク除去動作とが並行して行われる。なお、パージとインク除去動作については、後で詳述する。
図9は、本実施形態のインクジェット印刷装置1の制御系を示すブロック図である。インクジェット印刷装置1は、装置全体を制御する制御部5を備えている。制御部5は、CPU(Central Processing Unit)、半導体メモリおよびハードディスクなどを備えている。制御部5は、半導体メモリまたはハードディスクなどの記憶媒体に予め記憶されたプログラムを実行し、かつ電気回路を動作させることによって図9に示す各部を制御するものである。
次に、本実施形態のインクジェット印刷装置1の印刷動作について説明する。
インクジェット印刷装置1において、印刷動作の開始前の待機状態では、シャトルユニット4は、待機位置に配置されている。シャトルユニット4の待機位置は、図1において実線で示すシャトルユニット4の位置であり、シャトルベースユニット2の架台部11の後端部である。
印刷ジョブが入力されると、制御部5は、副走査駆動モータ12を制御してシャトルユニット4を待機位置から印刷処理開始位置へ移動させる。シャトルユニット4の印刷処理開始位置は、図1において二点鎖線で示すシャトルユニット4の位置であり、シャトルベースユニット2の架台部11の前端部である。なお、印刷ジョブの入力に先立ち、印刷媒体15がフラットベッドユニット3の媒体載置面3a上に設置されている。
次いで、制御部5は、主走査駆動モータ23を制御してヘッドユニット26を主走査方向に移動させながら、入力された印刷ジョブに基づいて、インクジェットヘッド31を制御してノズルのインク吐出口37からインクを吐出させることによって、1パス分の印刷を行う。次いで、制御部5は、副走査駆動モータ12を制御してシャトルユニット4を次のパスの印刷位置まで後方向に移動させる。制御部5は、この1パス分の印刷とシャトルユニット4の移動とを交互に繰り返すことにより、印刷媒体15に画像を形成する。
1枚分の印刷が終了すると、制御部5は、副走査駆動モータ12を制御してシャトルユニット4を待機位置へ配置する。これにより、印刷動作が終了となる。
次に、本実施形態のインクジェット印刷装置1のメンテナンス動作について、図10および図11を参照しながら説明する。本実施形態のメンテナンス動作とは、ノズルガード32とインク吐出面36aとの間の隙間40に入り込んだインクを除去するとともに、各ノズルのインク吐出口37にメニスカスを形成する動作である。
メンテナンス動作は、シャトルユニット4が待機位置に配置されているときに行われ、この際、シャトルユニット4内のヘッドユニット26は、図2に示す待機位置に配置されている。そして、待機位置に配置されたヘッドユニット26の各インクジェットヘッド31には、図10Aに示すように、キャッピングユニット66が当接した状態となっており、すなわち各インクジェットヘッド31のノズルガード32の開口46は、キャッピングユニット66のキャップ71によって密閉されている。
メンテナンス動作が開始されると、まず、制御部5によってキャップ昇降モータ67が制御されてキャッピングユニット66が下降し、退避位置に配置される。そして、制御部5によって吸収部材設置機構29が制御され、図10Bに示すように、キャッピングユニット66のキャップ71上に吸収部材50が配置される。
次に、制御部5によってキャップ昇降モータ67が制御されてキャッピングユニット66が上昇し、図10Cに示すように、吸収部材50がインクジェットヘッド31の開口46に押し当てられた状態となる。
次いで、制御部5によって供給ポンプ52が制御され、図11Aに矢印で示すように、各インクジェットヘッド31にインクが供給されて加圧されることによってパージが行われる。また、このパージと並行して制御部5によって吸引ポンプ69が制御され、吸引ポンプ69による吸引が行われる。このようにパージと吸引とが並行して行わることによって、ノズルガード32とインク吐出面36aとの間の隙間40に入り込んだインクが吸収部材50によって吸収されて除去される。また、この隙間40のインクの除去と並行して、インクジェットヘッド31の各ノズルのインク吐出口37にメニスカスが形成される。
この際、制御部5は、供給ポンプ52の加圧条件および吸引ポンプ69の吸引条件を、隙間40のインクを除去し、かつ各ノズルのインク吐出口37に形成されるメニスカスを維持可能な条件に設定する。具体的には、たとえば供給ポンプ52の加圧条件としては、回転数を100rpmとし、10秒間動作させる。また、吸引ポンプ69の吸引条件としては、たとえば回転数を90rpm~150rpmとし、30秒間動作させる。供給ポンプ52および吸引ポンプ9としては、ウェルコ製のWPX1-P3.2FA4-W6-CPを用いた。
そして、供給ポンプ52の加圧および吸引ポンプ69の吸引による10秒間のパージが終了した後、上述したように20秒間(30秒-10秒)だけ吸引ポンプ69による吸引が継続され(図11B参照)、これにより吸収部材50に吸収されたインクがキャッピングユニット66側に吸い出され、キャップ71の底部76に形成された吸引孔78に流れ出し、吸引管68を経由して廃液タンク70に貯留される。このようにパージが終了した後も継続して吸引ポンプ69による吸引を継続することによって、吸収部材50に吸収されたインクを回収することができるので、吸収部材50を再利用することができる。
そして、所定の時間だけ吸引ポンプ69による吸引が行われた後、図11Cに示すように吸引ポンプ69が停止される。以上が、本実施形態のメンテナンス動作の説明である。
なお、メンテナンス動作の後、印刷処理を行う場合には、キャッピングユニット66が下降し、吸収部材50がキャップ71上から取り除かれて退避位置に移動した後、ヘッド昇降モータ25によってヘッドユニット26が上昇して所定の位置まで移動し、その後、主走査駆動ガイド22に沿って左右方向に移動して印刷処理が行われる。
本実施形態のメンテナンス動作においては、キャッピングユニット66を用いて吸収部材50をノズルガード32の開口46に押し当てるようにしたので、吸収部材50を押し当てる機構を別途設ける必要がなく、装置の小型化を図ることができる。
また、ノズルガード32とインク吐出面36aの間の隙間40のインク除去動作とパージとを並行して行うようにしたので、パージと別にインク除去動作の時間を確保する必要がなく、即座に印刷処理を開始することができる。
また、インクジェットヘッド31を移動させた場合においても、そのインクジェットヘッド31の移動に起因する吐出不良を抑制することができる。
なお、メンテナンス動作の後、印刷処理を行わない場合には、キャッピングユニット66が下降し、吸収部材50がキャップ71上から取り除かれて退避位置に移動した後、キャッピングユニット66が再び上昇し、図10Aに示したように、インクジェットヘッド31にキャッピングユニット66が当接した状態となる。
また、メンテナンス動作については、印刷処理を開始する直前に自動的に行うようにしてもよいし、ユーザの指示入力に応じて行うようにしてもよい。また、予め設定された期間毎または予め設定された印刷枚数毎に行うようにしてもよい。
また、本実施形態においては、メンテナンス動作を行う際、キャッピングユニット66をインクジェットヘッド31側に移動させて、吸収部材50をインクジェットヘッド31の開口46に押し当てるようにしたが、これに限らず、インクジェットヘッド31をキャッピングユニット66側に移動させて、吸収部材50をインクジェットヘッド31の開口46に押し当てるようにしてもよい。もしくは、インクジェットヘッド31およびキャッピングユニット66の両方を互いに近づく方向に移動させることによって、吸収部材50をインクジェットヘッド31の開口46に押し当てるようにしてもよい。
次に、本実施形態のインクジェット印刷装置1におけるワイプクリーニング動作について説明する。本実施形態のワイプクリーニング動作とは、インク吐出面36aおよびノズルガード32の下面に付着したインクやゴミなどを除去する動作である。
ワイプクリーニング動作を行う際には、まず、制御部5は、ワイパ駆動部83によりワイパ81を移動させて洗浄槽84を通過させることによって、ワイパ81を洗浄するとともに、洗浄液をワイパ81に付着させる。
次に、制御部5は、キャッピングユニット66によるノズルガード32の開口46に対するキャップを解除させた後、主走査駆動モータ23を制御してヘッドユニット26をホームポジションからメンテナンス部30の上方に移動させる。この後、制御部5は、ヘッド昇降モータ25を制御してヘッドユニット26をクリーニング位置まで下降させる。ヘッドユニット26のクリーニング位置は、ワイパ81によりインク吐出面36aをワイプするためのヘッドユニット26の位置である。
ヘッドユニット26のクリーニング位置への移動が完了した時点において、ワイパ81は、ノズルガード32の前端よりも前側に配置される。また、ワイパ81の中央部分81aの先端(上端)は、インク吐出面36aよりも高い位置にあり、ワイパ81の左側部分81bおよび右側部分81cは、ノズルガード32の下面よりも高い位置にある。
次いで、制御部5は、ワイパ駆動部83によりワイパ81の移動を開始させる。ワイパ81が後方に移動し、ノズルガード32に接触すると、ワイパ81はノズルガード32に押圧されて弾性変形する。そして、後方への移動とともに、ワイパ81の中央部分81a、左側部分81bおよび右側部分81cの上端部が、ノズルガード32の下面を摺動してワイプする。これにより、ノズルガード32の下面に付着したインクやゴミなどがワイパ81によって払拭される。
ワイパ81がノズルガード32の開口46の前端に到達すると、ワイパ81の中央部分81aが開口46内に挿入される。この後、ワイパ81の中央部分81aの先端部はインク吐出面36aをワイプする。これにより、インク吐出面36a上に付着したインクやゴミなどが払拭される。
ワイパ81が、ノズルガード32の開口46の後端に到達すると、ワイパ81の中央部分81aが開口46から抜ける。この後、ワイパ81の中央部分81a、左側部分81bおよび右側部分81cの上端部がノズルガード32の下面をワイプする。ワイパ81がノズルガード32の後端より後側へ到達すると、制御部5は、ワイパ81の移動を終了させる。これにより、クリーニング動作が終了となる。
クリーニング動作が終了すると、制御部5は、ヘッドユニット26をクリーニング位置からホームポジションに戻し、キャッピングユニット66によりノズルガード32の開口46にキャップする。
なお、クリーニング動作については、印刷処理を開始する直前に自動的に行うようにしてもよいし、ユーザの指示入力に応じて行うようにしてもよい。また、予め設定された期間毎または予め設定された印刷枚数毎に行うようにしてもよい。
また、上記実施形態のインクジェット印刷装置1においては、キャッピングユニット66のキャップ71上に吸収部材50を設置するようにしたが、図12に示すように、キャッピングユニット66のキャップ71と吸収部材50との間にシート状の弾性部材54を設置して、上述したメンテナンス動作を行うようにしてもよい。弾性部材54については、メンテナンス動作を行う際に、図示省略した所定の設置機構を用いてキャッピングユニット66のキャップ71上に設置するようにすればよい。
弾性部材54としては、たとえばスポンジクロス、シリコンシートおよびゴムシートなどを用いることができる。なお、弾性部材54としてシリコンシートやゴムシートなどといった空気を通さない部材を使用する場合には、弾性部材54に複数の貫通孔を形成するようにすれば、上述した吸引動作も適切に行うことができる。
弾性部材54をキャップ71と吸収部材50との間に設置することによって、吸収部材50がインクジェットヘッド31のノズルガード32の開口46に押し当てられた際に、吸収部材50のノズルガード32に対する密着性を向上することができ、インク吐出面36aとノズルガード32との隙間40から滲み出したインクを均一に除去することができる。
また、上記実施形態のインクジェット印刷装置1においては、キャッピングユニット66を用いて吸収部材50をノズルガード32の開口46に対して押し当てるようにしたが、キャッピングユニット66とは別にシャトルユニット4内に設けられた押し当て機構を用いて、吸収部材50をノズルガード32の開口46に押し当てるようにしてもよい。
図13は、キャッピングユニット66とは別の押し当て部材90の一例を示す図である。押し当て部材90は、キャッピングユニット66のキャップ71と同様に、吸収部材50が設置されるものである。そして、押し当て部材90は、メンテナンス動作の際には、図示省略した所定の昇降機構によってインクジェットヘッド31側に移動し、吸収部材50をノズルガード32の開口46に押し当てるものである。
図14は、図13に示す押し当て部材90のB-B線断面図である。図13および図14に示すように、押し当て部材90は、基台91と、設置台92と、複数のバネ部材93とを備えている。基台91は、直方体の樹脂からなる部材の内側に、直方体形状の凹部91aが形成されたものである。設置台92は、直方体の樹脂からなる部材であり、基台91の凹部91a内に設置される。
バネ部材93は、基台91の凹部91a内に設置台92とともに設置されるものであり、その一端が凹部91aの底面91bに接続され、他端が設置台92の下面に接続される。そして、バネ部材93は、設置台92を上方に付勢するものである。バネ部材93の弾性力によって設置台92は、図14に示す矢印方向(上下方向)に移動する。図14においては、2つのバネ部材93しか示していないが、バネ部材93は、たとえば設置台92の下面の4隅か、もしくは設置台92の下面に対して均一に分散させて配置することが好ましい。
図14に示すように設置台92上に吸収部材50が設置され、押し当て部材90がインクジェットヘッド31側に移動し、インクジェットヘッド31のノズルガード32に押し当てられた際には、バネ部材93により設置台92の上面が柔軟に動く。これにより吸収部材50のノズルガード32に対する密着性を向上することができ、インク吐出面36aとノズルガード32との隙間40から滲み出したインクを均一に除去することができる。
なお、押し当て部材90には、キャッピングユニット66と同様に、吸引管68に接続される吸引孔94が形成されている。
また、図13および図14に示す押し当て部材90では、バネ部材93を用いるようにしたが、その他のゴム状の部材などの弾性部材を用いるようにしてもよい。
また、図12で示したように、押し当て部材90の設置台92と吸収部材50との間に、スポンジクロスのようなシート状の弾性部材を配置するようにしてもよい。
また、キャッピングユニット66によって吸収部材50をノズルガード32に押し当てる場合において、上述した押し当て部材90と同様に、キャップ71が上下方向に移動可能となるようにバネ部材を設けるようにしてもよい。
また、吸収部材50には、乾燥したインクに対して溶解性を有する液体を含めることが好ましい。このような液体を吸収部材50に含めることによって、インク吐出面36aとノズルガード32の隙間40から滲み出して乾燥してしまったインクも適切に除去することができる。乾燥したインクに対して溶解性を有する液体としては、上述した洗浄液と同様のものを用いることが好ましい。また、上記液体を予め含めた吸収部材50を用いるようにしてもよいし、上記液体を貯留するタンクを設け、そのタンクに吸収部材50を浸漬させた後、キャッピングユニット66のキャップ71または上述した押し当て部材90の設置台92上に配置する機械的な機構をシャトルユニット4内に設けるようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、吸収部材50がインクジェットヘッド31の開口46に押し当てられた状態で、パージを行うとともに、吸引ポンプ69による吸引を行うことによって、ノズルガード32とインク吐出面36aとの間の隙間40に入り込んだインクを吸収部材50によってするとともに、各ノズルのインク吐出口37にメニスカスが形成するようにしたが、メンテナンス動作の方法としては、これに限らず、その他の方法を採用するようにしてもよい。以下、メンテナンス動作のその他の実施形態について、図15および図16を参照しながら説明する。
まず、先に説明した実施形態においては、キャッピングユニット66によって吸収部材50をインクジェットヘッド31に押し当てるようにしたが、その他の実施形態においては、キャッピングユニット66の他に、押し当て台100をシャトルユニット4内に設ける。
そして、吸収部材50が載置された押し当て台100をインクジェットヘッド31に向かって移動させることによって、吸収部材50をインクジェットヘッド31に対して所定の圧力で押し当てる。押し当て台100は、インクジェットヘッド31毎に設けられ、たとえば押し当て動作によって変形することのない、ある程度の剛性を有する樹脂などの材料から形成される。ただし、ノズルガード32に対する吸収部材50の密着性を向上させるため、押し当て台100上に、スポンジクロス、シリコンシートまたはゴムシートからなる弾性シートを設け、その弾性シート上に吸収部材50を設けるようにしてもよい。
その他の実施形態のメンテナンス動作は、まず、図15Aに示すように、キャッピングユニット66の上方にインクジェットヘッド31が配置された状態において、制御部5によって供給ポンプ52が制御され、パージが行われる。このパージの際、インクジェットヘッド31のノズルガード32の開口46は、キャッピングユニット66のキャップ71によって密閉してもよいし、図15Aに示すように、開放していてもよい。また、このパージによってインクジェットヘッド31から吐出されたインクは、キャッピングユニット66が受け、制御部5によって吸引ポンプ69が制御されることによってキャッピングユニット66から吸引されて回収される。そして、このパージによって、インクジェットヘッド31のインク吐出口37には、図15Aに示すようにインク滴Dが付着した状態となる。
次に、図15Bに示すように、インクジェットヘッド31が移動し、押し当て台100上に配置される。そして、制御部5によって吸収部材設置機構が制御され、押し当て台100上に吸収部材50が配置される。なお、上記吸収部材設置機構は、押し当て台100上の吸収部材50を配置するものであり、その具体的な構成は、図2および図9に示した吸収部材設置機構29と同様である。
次いで、制御部5によって所定の駆動モータ(図示省略)が制御されて押し当て台100が上昇し、図15Cに示すように、吸収部材50がインクジェットヘッド31の開口46に押し当てられた状態となる。
そして、吸収部材50がインクジェットヘッド31の開口46に対して所定の圧力で所定の時間だけ押し当てられた後、制御部5によって上記駆動モータが制御されて、図16Dに示すように、押し当て台100が下降し、退避位置まで移動する。
その後、インクジェットヘッド31が移動し、図16Eに示すように、キャッピングユニット66上に配置される。そして、キャッピングユニット66が上昇し、インクジェットヘッド31に当接し、インクジェットヘッド31のノズルガード32の開口46が密閉された状態となる。以上が、メンテナンス動作のその他の実施形態の説明である。
ここで、上述したその他の実施形態のメンテナンス動作は、先に説明した実施形態のメンテナンス動作と同様に、ノズルガード32とインク吐出面36aとの間の隙間40に入り込んだインクを除去するとともに、各ノズルのインク吐出口37にメニスカスを形成する動作である。
そして、その他の実施形態のメンテナンス動作において、上述したように隙間40のインクを適切に除去するとともに、各ノズルに形成されたメニスカスを維持するためには、吸収部材50の吸収性および表面粗さ、並びに押し当て台100によって吸収部材50をインクジェットヘッド31に押し当てる際の押し当て圧力および押し当て時間を適切に設定することが望ましい。
具体的には、吸収部材50の吸収性が低い場合には、ノズルガード32の隙間40のインクを適切に除去することができない。また、吸収部材50の表面の繊維が毛羽立っている場合には、インクジェットヘッド31に押し当てられた際、その繊維がインク吐出口37に入ってしまい、メニスカスを破壊する場合がある。
また、押し当て圧力が大きいほどノズルガード32の隙間40内のインクを隙間40の外側に押し出すことができ、吸収部材50によって吸収し易くすることができるが、押し当て圧力が大きすぎると吸収部材50がインク吐出口37に強く押し付けられすぎて、インク吐出口37に形成されたメニスカスを破壊し、インク吐出不良を招く場合がある。また、吸収部材50の押し当てによってノズルガード32の隙間40から滲み出したインクが、吸収部材50に吸収される前にインク吐出口37に到達してしまい、インク吐出口37を塞いでしまい、これにより吐出不良を招く場合もある。図17は、吸収部材32の押し当てによってノズルガード32の隙間40から滲み出したインクInの状態の一例を示す図である。
また、押し当て時間が短すぎる場合には、隙間40から滲み出したインクを十分に吸収することができず、押し当て時間が長すぎる場合には、インク吐出口37に形成されたメニスカスを破壊する場合がある。
これらのことを考慮すると、吸収性が10mm/5min以上80mm/5min以下であって、表面粗さRzが410μm以下の吸収部材50を用いることが好ましく、かつ10kPa以上80kPa以下の押し当て圧力によって7s以上60s以下の時間だけ吸収部材50をインクジェットヘッド31に押し当てることが好ましい。これにより、ノズルガード32の隙間40のインクを適切に除去するとともに、各ノズルに形成されたメニスカスを適切に維持することができる。
なお、上述した吸収部材50の吸収性および表面粗さRz並びに吸収部材50の押し当て圧力および押し当て時間の数値の根拠については、後述する実施例および比較例によって示す。
また、上述したように吸収部材50の繊維が、インク吐出口37に形成されたメニスカスを破壊しないようにするためには、吸収部材50が、ノズルの径よりも太い繊維から形成されたものであることが好ましい。これにより、インク吐出口37に吸収部材50の繊維が入り込むことによるメニスカスの破壊を防止することができる。
吸収部材50の繊維の太さは、NIKON社製 光学顕微鏡「AZ-100M」で吸収部材50の上面を観察し、測定ツールにて2点間の距離を測定する。具体的には、圧縮されて平らになった吸収部材50の上面から突出した繊維を測定対象とし、その径が最大となる2点を指定してその距離を測定する。そして、10本の繊維の測定結果の平均値を、ここでいう吸収部材50の繊維の太さとする。
また、吸収部材50の表面の繊維の長さは、ノズルのインク吐出面36aからノズルガードの表面32a(インク吐出面36aに対向する面、図4参照)までの距離よりも短いことが好ましい。これにより、吸収部材50の繊維が、インク吐出口37に入るのを防止することができ、インク吐出口37に形成されたメニスカスの破壊を防止することができる。
吸収部材50の表面の繊維の長さは、NIKON社製 光学顕微鏡「AZ-100M」で吸収部材50の側端面を観察し、測定ツールにて2点間の距離を測定する。具体的には、圧縮されて平らになった吸収部材50の上面から突出した繊維を測定対象とし、その繊維の突出した部分の両端を指定してその距離を測定する。そして、10本の繊維の測定結果の平均値を、ここでいう吸収部材50の表面の繊維の長さとする。
また、吸収部材50の表面の繊維の間隔は、ノズルの配列ピッチ(隣接するノズルの間隔)よりも広いことが好ましい。これにより、吸収部材50の繊維が、インク吐出口37に入るのを抑制することができ、インク吐出口37に形成されたメニスカスの破壊を抑制することができる。
吸収部材50の表面の繊維の間隔は、NIKON社製 光学顕微鏡「AZ-100M」で吸収部材50の上面を観察し、測定ツールにて2点間の距離を測定する。具体的には、圧縮されて平らになった吸収部材50の上面から突出した繊維を測定対象とし、隣接する2本の繊維を指定してその距離を測定する。そして、10組の繊維の測定結果の平均値を、ここでいう吸収部材50の表面の繊維の間隔とする。
以下、上述した吸収部材50の吸収性および表面粗さRz並びに吸収部材50の押し当て圧力および押し当て時間について、実施例および比較例を説明する。
まずは、吸収部材50の吸水性、表面粗さRz、押し当て圧力および押し当て時間の測定方法について説明する。
吸水性については、測定対象を水ではなくインクとし、JIS L 1907のバイレック法に基づく吸水性試験に準拠した方法で測定した。試験片は、幅1cm×長さ20cmとし、初期浸漬長さは3cm、浸漬時間は5分とした。
表面粗さRzについては、ISO25178表面性状(表面粗さの測定)の最大高さ粗さの測定値である。測定器は、KEYENCE社製カラー3Dレーザ顕微鏡「VK-8700」を用いた。
押し当て圧力については、プッシュプルゲージ(日本電産シンポ株式会社製 FGX-50R)をインクジェットヘッドの取り付け位置と同じ高さに固定し、押し当て台に吸収
部材を載置して、インクジェットヘッドに押し当てることによって測定した。押し当て時間は、押し当て圧力が、下表1~下表4に示す値に到達した時点から押し当てを解除した時点までの時間とした。
次に、各条件の評価方法について説明する。評価については、ノズルガード32の隙間40のインクが除去されているか否か(隙間インクの除去)と、各ノズルから正常にインクか吐出されているか否か(ノズルチェック)とを評価した。
まず、評価の前に、インクジェット印刷装置を一定期間使用後、パージを行い、上述したワイプクリーニング動作を行い、印刷媒体15上に予め設定されたノズルチェックパターンを印刷した。そして、その印刷結果を目視することによって全てのノズルからインクが正常に吐出されていることを確認した。
次いで、評価手順としては、まず、パージを行った後、押し当て台100上に、下表1~下表4に示す各種の吸収部材50を載置し、下表1~下表4に示す押し当て圧力および押し当て時間で、上述した図15Cに示す押し当て動作を行った。
そして、隙間インク除去については、押し当て動作後のノズルガード32の底面41(図3および図4参照)を綿棒で押し、隙間40からインクが滲み出すか否かを目視によって確認することによって評価した。下表1から下表4では、インクの滲み出しが無かった場合を「A」とし、わずかにインクの滲み出しがあった場合を「B」とし、インクの滲み出しがある程度有った場合を「NG」として示している。隙間インク除去は、「B」までは特に問題のないレベルである。
また、ノズルチェックについては、上記押し当て動作の後にノズルチェックパターンを印刷し、インクが正常に吐出されていないノズル(吐出抜け)があるか否かを目視によって確認した。なお、インクが正常の吐出されていないノズルとは、メニスカスが破壊されて吐出不良を生じたノズルである。1つのインクジェットヘッド31辺りの吐出抜けのノズルの本数をカウントし、下表1から下表4では、0本以上3本以下である場合には「A」とし、4本以上9本以下である場合には「B」とし、10本以上である場合には「NG」として示している。なお、1つのインクジェットヘッド31のノズルの本数は508本である。吐出抜けは、「B」までは特に問題のないレベルである。
次に、具体的な実施例および比較例について説明する。表1に示す実施例1~実施例8および比較例1~比較例3は、吸水性および表面粗さRzが異なる種々の吸収部材50を用いて、それぞれ表1に示す押し当て圧力および押し当て時間によって上記押し当て動作を行い、隙間インク除去および吐出抜けを評価した結果である。ここでは、押し当て圧力は全て30kPaとし、押し当て時間は全て10sとした。
表1に示す評価結果から、吸収部材50の吸水性については、10mm/5min以上80mm/5min以下が好ましい範囲であることが分かった。また、吸収部材50の表面粗さRzについては、410μm以下が好ましい範囲であることが分かった。
次に、吸水性が下限値である実施例3の吸収部材50(印刷用紙アラベール(登録商標))を用いて、押し当て圧力を変化させて評価した結果を下表2に示す。押し当て時間は、全て10sとした。
表2に示す評価結果から、押し当て圧力については、10kPa以上80kPa以下であることが好ましいことが分かった。なお、比較例4は、押し当て圧力が低すぎるため、隙間インク除去が「NG」となり、比較例5は、押し当て圧力が高すぎるため、メニスカスが破壊されてノズルチェックが「NG」になったと考えられる。
次に、吸水性が上限値である実施例6の吸収部材50(アコースティック・ミュートボード(AMB))を用いて、押し当て時間を変化させて評価した結果を下表3に示す。押し当て圧力は、全て30kPaとした。
表3に示す評価結果から、押し当て時間については、7s以上60s以下であることが好ましいことが分かった。なお、比較例6は、押し当て時間が短すぎるため、ノズルガード32の隙間40から滲み出したインクが吸収部材50によって吸収される前に、ノズルのインク吐出口37まで到達し、インク吐出不良を起こしてノズルチェックが「NG」になったと考えられる。また、比較例7は、押し当て時間が長すぎるため、メニスカスが破壊されてノズルチェックが「NG」になったと考えられる。
次に、表1から表3までの評価結果を踏まえて、吸水性が下限値である実施例3の吸収部材50(印刷用紙アラベール(登録商標))を用いて、押し当て圧力を10kPaと80kPaとし、押し当て時間を7sと60sとして評価した結果を下表4に示す(実施例19~実施例22)。また、吸水性が上限値である実施例6の吸収部材50(AMB)を用いて、押し当て圧力を10kPaと80kPaとし、押し当て時間を7sと60sとして評価した結果を下表4に示す(実施例23~実施例26)。
表4の結果から、吸収部材50の吸水性を10mm/5min以上80mm/5min以下とし、押し当て圧力を10kPa以上80kPa以下とし、押し当て時間を7s以上60s以下とすることが好ましいことが分かった。
本発明のインクジェット印刷装置に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記)
本発明のインクジェット印刷装置において、押し当て機構は、印刷を行わない待機中において、ノズルガードの開口を密閉するキャップ部材を有することができ、キャップ部材に吸収部材が設置された状態で、キャップ部材およびインクジェットヘッドのうちの少なくとも一方を移動させることによって、吸収部材をインクジェットヘッドの開口に押し当てることができる。
本発明のインクジェット印刷装置においては、インクジェットヘッドに対してインクを加圧して供給する供給ポンプと、吸収部材に吸収されたインクを吸引する吸引ポンプと、供給ポンプおよび吸引ポンプを制御する制御部とを有することができ、制御部は、ノズルガードの開口に吸収部材が押し当てられた状態において供給ポンプを制御することによってインクジェットヘッドからインクを吐出させ、そのインクの吐出を行いながら吸引ポンプを制御することによって吸引を行うことができる。
本発明のインクジェット印刷装置においては、吸収部材として、連続気泡を有する多孔質シートを用いることができる。
本発明のインクジェット印刷装置において、吸収部材の吸水性は、10mm/5min以上80mm/5min以下であって、吸収部材の表面粗さRzは、410μm以下であって、押し当て機構は、10kPa以上80kPa以下の圧力によって7s以上60s以下の時間だけ吸収部材をノズルガードの開口に押し当てることが好ましい。
本発明のインクジェット印刷装置において、吸収部材は、ノズルの径よりも太い繊維から形成されることが好ましい。
本発明のインクジェット印刷装置において、吸収部材の表面の繊維の長さは、ノズルのインク吐出面からノズルガードの表面までの距離よりも短いことが好ましい。
本発明のインクジェット印刷装置において、吸収部材の表面の繊維の間隔が、ノズルの配列ピッチよりも広いことが好ましい。
本発明のインクジェット印刷装置において、吸収部材は、乾燥したインクに対して溶解性を有する液体を含むことができる。
本発明のインクジェット印刷装置においては、ノズル列が延びる方向に対して直交する方向にインクジェットヘッドを搬送する搬送機構を備えることができる。