本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、少なくとも環状ポリオレフィン系樹脂、トルエン、ジクロロメタン、及び添加剤としてマット剤を含有する環状ポリオレフィンフィルムであって、長径が10μm以上の異物含有量が、1~5個/100cm2の範囲内であり、かつヘイズが、0.5%以下であることを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項3までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
前記ドープ中に有機溶媒としてトルエン及びシクロロメタンを加え、当該ドープ中の当該トルエンの含有量をトルエン以外の前記有機溶媒や前記添加剤を加え、0.001~0.1質量%の範囲内に調整することで、ドープ中の樹脂起因の異物の溶解性が増し、異物故障低減の効果が顕著になることが明らかとなった。環状オレフィン系樹脂はトルエンに対して高い溶解性示し、樹脂合成の際に発生した合成不良成分を溶解する為、異物が大幅に減少する。その為、仕上がりフィルムの異物やヘイズを低下することによって、高透明性の環状ポリオレフィンフィルムを製造することができる。また、トルエン含有量を上記範囲内にすることにより、ドープの溶解時間の短縮効果もある。
また、前記ドープ中に添加剤としてさらにセルロースアシレートを加え、当該ドープ中の当該セルロースアシレートの含有量を前記有機溶媒やセルロースアシレート以外の前記添加剤を加え、0.0001~0.1質量%の範囲内に調整することで、ドープの添加剤起因の異物溶解性が増し、異物故障低減の効果が顕著になることが明らかとなった。環状オレフィンに溶解しない添加剤に起因する異物が、極性の高いセルロースアシレート系樹脂に相溶する為、異物が大幅に減少するものと推定される。また、セルロースシレート系樹脂を上記範囲内にすることにより、ドープの溶解時間の短縮効果もある。
さらに、セルロースアシレート系樹脂が入ることで、ハードコート基材との密着性が増し、ハードコートフィルムとしての硬度を上げることができる。
前記環状ポリオレフィン系樹脂を2種類以上用いることで、ドープ中の添加剤起因の異物溶解性が増し、異物故障低減の効果が顕著になることが明らかとなった。一方の環状オレフィンに溶解しない添加剤に起因する異物が、極性の異なる環状オレフィンに相溶する為、異物が大幅に減少する。その為、仕上がりフィルムの異物やヘイズを低下することによって、高透明性の環状ポリオレフィンフィルムを製造することができる。
また、前記マット剤以外の添加剤が、含窒素複素環化合物、有機エステルから選ばれる少なくとも1種であることが、仕上がりフィルムの異物やヘイズを低下することによって、高透明性の環状ポリオレフィンフィルムを製造することができ、好ましい。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、表示デバイスである液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス表示装置用の偏光板保護フィルムや位相差フィルム等の光学フィルムや、タッチパネル用基材フィルムやガスバリアー性基材フィルム等の基材フィルム、及びナノインプリント用基板フィルムやフレキシブル電子回路用基板フィルム等の基板フィルムなどに、好適に具備される。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
≪本発明の環状ポリオレフィンフィルムの概要≫
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、少なくとも環状ポリオレフィン系樹脂、トルエン、ジクロロメタン、及び添加剤としてマット剤を含有する環状ポリオレフィンフィルムであって、長径が10μm以上の異物含有量が、1~5個/100cm2の範囲内であり、かつヘイズが、0.5%以下であることを特徴とする。
本発明でいう「異物」とは、光散乱性異物や着色異物をいい、特に光学フィルムの場合には、異物が透明であっても、透過光を異常屈折するような作用を持つ場合、いわゆる輝点異物として光学的な欠点となるものも含まれる。
例えば、「異物」には、環状ポリオレフィン系樹脂合成の際に発生した合成不良成分や、添加剤起因の異物等が挙げられる。
また、着色異物の中には、添加剤等の不純物や製造工程で混入するゴミ等以外に、マット剤(微粒子)の凝集物なども含まれる。
フィルム中で確認される「異物」には、着色異物のように比較的固いものから、光散乱性異物のように比較的柔らかいゲル状の異物まで多種多様である。
前記ゲル状の異物とは下記のような検出法で検出される異物をいう。
(ドープにおけるゲル状の異物の検出法)
アルミパンに、細かく粉砕した光学フィルムを10mg入れて、TG/DTA6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)を用いてN2フロー下、260℃で60分間加熱した。光学フィルムが入った加熱後のアルミパンごと、10mLのメスフラスコに入れ、これをTHF(テトラヒドロフラン)で10mLとなるまでメスアップする。そして、23℃で24時間保存後に、アルミパン内の光学フィルムの溶解状態を、目視観察し溶け残り(ゲル)として観察されるものである。
上記ゲル状の異物が多数あると光散乱の原因となり、全光線透過率の低下(ヘイズの上昇)や輝点欠陥等を招くため、特に光学補償フィルム等における光学フィルムの使用を想定すると、ゲル状の異物は可能な限り低減する必要がある。
ゲル状の異物の光学フィルム中での個数は、例えば光学フィルムの巻きから100cm2分を切り出し、蛍光灯の光をフィルムに当て、表面の凹凸反射を目視で確認し、確認した部分を光学顕微鏡(100倍)で内容を精査し、ゴミ等の外部異物との分離をして、長径(粒子投影像の端部と端部とを結ぶ最も長い直径の長さ)が10μm以上のものをゲル状の異物の個数としてカウントする。
また、本願では着色異物の場合も長径が10μm以上のものを異物としてカウントする。
前記ゲル状の異物や着色異物は、本発明の高透明性の環状ポリオレフィンフィルムの場合は、1~5個/100cm2以下であることが必要であり、1~3個/100cm2の範囲であることがより好ましい。
本発明者らは、長径が10μm以上の異物が5個/100cm2以下である環状ポリオレフィンフィルムを製造する検討を鋭意進める中で、当該異物の少ない環状ポリオレフィン系樹脂や添加剤等の材料を用いることに加えて、環状ポリオレフィンフィルムの製造方法に溶液流延法を採用することにより、用いる環状ポリオレフィン系樹脂や添加剤の不均一反応による不要成分を溶媒中に溶解することができ、かつ当該環状ポリオレフィン系樹脂や添加剤を粘度の低い溶媒中に分散することで、含有される固形物としての異物が分散されやすくなり、当該異物を濾過フィルターで効果的に捕集できることを見いだした。
さらに、ドープ中にトルエンやセルロースアシレートを微量含有させることで、異物を溶解して除去する効果がさらに高まることを見いだした。
また、用いる環状ポリオレフィン系樹脂として2種類以上の樹脂を併用することも、異物を溶解して除去する効果がより高まることを見いだした。
したがって、流延前の段階で異物の少ないドープを調製することによって、流延製膜時の異物故障を低減し、仕上がりフィルムの異物(輝点異物等)の含有量やヘイズを効果的に低減できることを見いだし、本発明に至ったものである。
≪環状ポリオレフィンフィルムの製造装置及び製造方法≫
最初に本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造に用いることのできる製造装置について説明する。
環状ポリオレフィンフィルムの製造装置は特に限定されるものではなく、一般的な溶液流延法による製膜装置を用いることができる。
図1は、本発明に好ましい環状ポリオレフィンの製造方法に用いられる装置の模式図である。
環状ポリオレフィン系樹脂は、仕込釜41にて適当量の有機溶媒にて溶解され、濾過器44へ送液されて大きな凝集物を除去し、ストックタンク42へ送液する。その後、ストックタンク42より主ドープ溶解釜1へ各種添加液(例えば可塑剤やマット剤や紫外線吸収剤等)を添加して主ドープを調製する。
添加剤として、可塑剤やマット剤や紫外線吸収剤等は、添加剤仕込み釜にて溶媒で撹拌、希釈して添加液とした後、仕込釜41へと適宜添加される。
主ドープは、ダイ30より無端支持体31上へ流延され、剥離位置33で剥離されてウェブと形成し、多数のローラーにて搬送された後、テンター装置34にて延伸される。延伸されたウェブはローラー乾燥装置35にて多数の搬送ローラー36により乾燥されながら搬送され、巻取り装置37で巻き取られる。
不図示だが、工程中にはフィルム幅を調整するためのスリット装置、フィルム端部に凹凸を付与してフィルムの貼り付き故障を改善するためのエンボス装置を適宜設けることが好ましい。
また、特開2000-301555号公報、特開2000-301558号公報、特開平7-032391号公報、特開平3-193316号公報、特開平5-086212号公報、特開昭62-037113号公報、特開平2-276607号公報、特開昭55-014201号公報、特開平2-111511号公報、及び特開平2-208650号公報等の各公報に記載のセルロースアシレートフィルム製膜技術を本発明に応用できる。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法は、少なくとも、
環状ポリオレフィン系樹脂を有機溶媒としてトルエン及びシクロロメタンを用いて溶解し、添加剤を加えてドープを調製した後濾過し、仕上がりフィルムとして長径が10μm以上の異物の含有量を1~5個/100cm2
の範囲内に調整する工程、
当該ドープ中の当該トルエンの含有量はトルエン以外の前記有機溶媒や前記添加剤を加え、0.001~0.1質量%の範囲内に調整され、
前記ドープを無端支持体上に流延する工程、
前記流延したドープを乾燥して無端支持体上から剥離してウェブを形成する工程、
前記剥離したウェブを乾燥及び延伸する工程、及び
前記延伸したウェブをロール状物として巻き取る工程
を有する。
各工程について詳細に説明する。以下、「環状ポリオレフィンフィルム」は、単に「フィルム」という場合がある。
(1)ドープ調製工程(溶解工程)
環状ポリオレフィン系樹脂に対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で当該環状ポリオレフィン系樹脂、場合によって、可塑剤や各種機能発現剤(例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、リターデーション調整剤、剥離促進剤、赤外吸収剤、マット剤など)を撹拌しながら溶解しドープを形成する工程、又は当該環状ポリオレフィン溶液に、前記可塑剤や各種機能発現剤を溶液した溶液を混合して主溶解液であるドープを調製する工程である。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムを溶液流延法で製造する場合、ドープを調製するのに有用な有機溶媒は、環状ポリオレフィン系樹脂及びその他の化合物を同時に溶解するものであれば制限なく用いることができる。
例えば、塩素系有機溶媒としては、ジクロロメタン、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロパノール、1,3-ジフルオロ-2-プロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メチル-2-プロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができ、例えば主たる溶媒として、ジクロロメタン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用することができ、ジクロロメタン又は酢酸エチルであることが特に好ましい。
ドープには、上記有機溶媒の他に、1~40質量%の範囲の炭素原子数1~4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させることが好ましい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属製の無端支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ないときは非塩素系有機溶媒系での環状ポリオレフィン及びその他の化合物の溶解を促進する役割もある。本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製膜においては、得られる環状ポリオレフィンフィルムの平面性を高める点から、アルコール濃度が0.5~15.0質量%の範囲内にあるドープを用いて製膜する方法を適用することができる。
特に、ジクロロメタン、及び炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶媒に、環状ポリオレフィン及びその他の化合物を、計15~45質量%の範囲で溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
炭素原子数1~4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールを挙げることができる。これらの内ドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等からメタノール及びエタノールが好ましい。
本発明では、上記有機溶媒に微量のトルエンを含有させることが好ましく、前記ドープ中のトルエン含有量を、他の有機溶媒や添加剤を加え、0.001~0.1質量%の範囲内に調整することが好ましい。トルエンを含有させることで、ドープ中の樹脂起因の異物の溶解性が増し、異物故障低減の効果が顕著になる。環状オレフィン系樹脂はトルエンに対して高い溶解性示し、樹脂合成の際に発生した合成不良成分を溶解する為、異物が大幅に減少するものと推察される。
前記トルエンは、市販の精製トルエンを用いることができ、純度は99.0%以上のトルエンが好ましい。
環状ポリオレフィン系樹脂や可塑剤や機能発現剤の溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9-95544号公報、特開平9-95557号公報、又は特開平9-95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11-21379号公報に記載されている高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができるが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
また、環状ポリオレフィン系樹脂や添加剤は、特開2011-143360号公報図5に示す混合装置を用いることが好ましい。当該混合装置は、液体及び固形物を混合する混合槽に液体を供給するための液体供給管であって、液体が注入される一つ以上の枝管、及び該枝管に連通され、枝管に注入された液体を混合槽に供給する一つの主管を有し、主管軸方向からの投影図において、枝管内の液体移動方向が、主管における枝管との連通位置からの主管半径方向との間で傾斜角を有するように、枝管が配置されている。このような枝管を有する固形物導入管より導入されることが、異物を低減する観点から好ましい。
具体的には、可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤、酸化防止剤などの添加剤の溶液はそれぞれ独立して、前記公報図5に示す固形物導入管5より添加され、主溶媒に溶解又は分散されてドープを構成する。
環状ポリオレフィン系樹脂の溶解に用いる加圧容器の種類は、特に問うところではなく、所定の圧力に耐えることができ、加圧下で加熱、撹拌ができればよい。加圧容器には、その他、圧力計、温度計などの計器類を適宜配設する。加圧は窒素ガスなどの不活性気体を圧入する方法や、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
溶媒を添加しての加熱温度は、使用する溶媒の沸点以上で、2種類以上の混合溶媒の場合は、沸点が低い方の溶媒の沸点以上の温度に加温しかつ該溶媒が沸騰しない範囲の温度が好ましい。加熱温度が高すぎると、必要とされる圧力が大きくなり、生産性が悪くなる。好ましい加熱温度の範囲は20~120℃であり、30~100℃が、より好ましく、40~80℃の範囲がさらに好ましい。また圧力は、設定温度で、溶媒が沸騰しないように調整される。
本発明に係る環状ポリオレフィン系樹脂ドープの調製装置は、該装置が貯蔵槽、熱交換器及び循環路を有し、該貯蔵槽と該熱交換器が該循環路を介して連結していることが好ましい。循環路を介して連結しているとは、貯蔵槽と熱交換器との間に循環路があり、また熱交換器と貯蔵槽との間に循環路があるということである。循環路は熱交換可能になっていていてもよく、循環路が熱交換器を兼ねる場合もある。ドープは貯蔵槽のドープ排出口から熱交換器を経て貯蔵槽に戻ってもよいし、貯蔵槽のドープ排出口以外の口から熱交換器を経て貯蔵槽に戻ってもよい。又は循環路を備えたドープ調製装置を二つ以上つなげてもよい。この場合、二つ目の貯蔵槽では更に溶媒を追加してもよい。循環路は効率的に溶解時間を短縮する機能を有しており、完全溶解の能力も有している。一般に、循環器を設けた溶解容器では、単に循環しているだけで、溶解状態にするには時間がかかり過ぎる。一方、溶液に熱を短時間加える熱交換器では、ドープにゲルが発生しやすく完全溶解するには時間が短過ぎる。
本発明に用いられる貯蔵槽は、ジャケットを該槽の内部又は外部に装備し、下記のようなせん断力を有する撹拌機を有する耐圧容器であることが、ドープをより均一化するのに好ましい。
環状ポリオレフィン系樹脂と溶媒とを混合し溶解する過程で、9.8~9.8×105Nのせん断力をかけて撹拌することが好ましい。上記せん断力の範囲で撹拌することは、粉体凝集物ができる間もなく、またできたとしても粉体凝集物を粉砕して溶解することができる。9.8N未満のせん断力では撹拌力が弱く分散効率が悪く、また、9.8×105Nを超える分散物が細かくなり過ぎ、後の濾過工程で目詰まりが生じ、濾過効率を著しく低下させてしまう。せん断力は駆動モーターMの回転数で制御することができる。
環状ポリオレフィンの溶解後は、冷却しながら容器から取り出すか、又は容器からポンプ等で抜き出して、熱交換器などで冷却し、得られたポリマーのドープを製膜に供するが、このときの冷却温度は、常温まで冷却してもよい。
ドープ中の環状ポリオレフィンの濃度は、10~40質量%の範囲であることが好ましい。溶解中又は後のドープに化合物を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
(含水率)
また、ドープ調製工程では、製造開始時から定常運転までの立ち上げ時は含水率が2.0~5.0質量%、定常運転時は含水率が0.1~2.0質量%となるように調整することが、ドープの安定性やフィルムの透明性の観点から、好ましい。
前記立ち上げ時の含水率をドープ全量に対して0.6~2.0質量%の範囲内にする方法としては、樹脂中の含水率とアルコール中の含水率の合計から、ドープ中の含水率を算出し、不足分は溶媒に混合したのちドープとして調合する方法がある。
前記立ち上げ時はそのラインスピードが遅いことから、含水率がドープ全量に対して2.0質量%より小さいと、剥離する前にウェブが無端支持体から剥がれやすくなる。フィルムが剥がれてしまうと、再び立ち上げを行わなければならず、生産性が悪化してしまう。また、前記含水率が5.0質量%より大きいと、環状ポリオレフィン系樹脂の溶媒に対する溶解性が悪くなり無端支持体汚れが生じやすくなる。
また、定常運転時においては、含水率がドープ全量に対して0.6質量%より小さいと、立ち上げ時における場合と同様に、ウェブが無端支持体から剥がれやすくなり、生産性が悪化してしまう。また、前記含水率が2.0質量%より多いと、剥離後に無端支持体に汚れが生じてしまう。
前記立ち上げ時から定常運転時においてドープの含水率を0.6~2.0質量%の範囲内に下げる手段としては、前記所定の環状ポリオレフィン系樹脂、その他の添加剤をインライン添加することで調整すること、樹脂中の含水率とアルコール中の含水率の合計から、ドープ中の含水率を算出し、調整した低含水率のドープを、ラインに流していくことで含水率を徐々に下げること等が挙げられる。
また、環状ポリオレフィン系樹脂溶解工程に微粒子を添加する場合の溶解混合は、主溶媒の沸点以上、同沸点+50℃以下の温度で行うのが、好ましい。このように、環状ポリオレフィン系樹脂溶解工程における微粒子の溶解混合の温度を、主溶媒の沸点+50℃以下の温度に規定することにより、異物発生率を、ドープの溶解混合工程において確実に抑えることができる。
また、環状ポリオレフィン系樹脂溶解工程における微粒子の溶解混合を、30~300分の範囲の時間行うのが、好ましい。このように、環状ポリオレフィン系樹脂溶解工程における微粒子の溶解混合の時間を規定することにより、環状ポリオレフィンフィルムにおける微粒子の変動係数(分布)の劣化がなく、また異物故障等生産適性上の観点からも好ましい。
さらに、環状ポリオレフィン系樹脂の溶解工程で添加する微粒子を、環状ポリオレフィン系樹脂の溶解釜への添加中か、又は添加後、環状ポリオレフィン系樹脂が溶解釜で完全溶解される前までに添加するのが、好ましい。このように、環状ポリオレフィン系樹脂の溶解工程での微粒子の添加のタイミングを規定することにより、環状ポリオレフィン系樹脂溶液(ドープ)に含有される微粒子の添加起因による異物発生率を、ドープの溶解混合工程において確実に抑えることができて、その後の濾過工程でのフィルターへの負担を大幅に軽減し、異物の発生がなく、生産性にも優れている。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法においては微粒子の分散液をあらかじめ調製し、この微粒子分散液を、環状ポリオレフィン系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で添加し、添加後、主溶媒の沸点以上の温度で溶解混合することが好ましい。
微粒子を分散するときに使用する溶媒は、環状ポリオレフィン系樹脂の製膜時に用いられる有機溶媒を用いることができる。特にアルコールが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール等の炭素原子数1~8の等が挙げられる。
微粒子を溶媒と混合して分散するときの微粒子の濃度は、5~30質量%が好ましく、8~25質量%がさらに好ましく、10~15質量%が最も好ましい。微粒子分散液中の微粒子濃度は、高い方が、添加量に対する液濁度は低くなる傾向があり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
微粒子を溶媒と少量の樹脂とを混合して分散するときの微粒子の濃度は、0.5~10質量%が好ましく、1~5質量%がさらに好ましく、1~3質量%が最も好ましい。樹脂の濃度は、2~10質量%が好ましく、3~7質量%がさらに好ましく、4~6質量%が最も好ましい。この範囲が微粒子の分散性に優れるため好ましい。なお、微粒子の含有量の少ない方が、低粘度で取り扱いやすく、微粒子の含有量の多い方が、添加量が少なく、主ドープへの添加が容易になるため、上記の範囲が好ましい。
微粒子を分散する分散機は、通常の分散機が使用できる。分散機は、大きく分けてメディア分散機とメディアレス分散機に分けられる。微粒子の分散には、メディアレス分散機がヘイズが低く好ましい。
メディア分散機としては、ボールミル、サンドミル、ダイノミルなどが挙げられる。メディアレス分散機としては、超音波型、遠心型、高圧型などがあるが、本発明においては、高圧分散装置が好ましい。高圧分散装置は、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1~2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が9.8×102N以上であることが好ましい。さらに好ましくは1.96×103N以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが好ましい。
上記のような高圧分散装置には、MicrofluidicsCorporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)又はナノマイザー社製ナノマイザー、又はウルトラタラックスがあり、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザー、三和機械株式会社製、品番UHN-01等が挙げられる。
環状ポリオレフィンフィルムに含まれる微粒子中の、例えばシリカ(Si)分含量は、絶乾した環状ポリオレフィンフィルムをマイクロダイジェスト湿式分解装置(硫硝酸分解)、アルカリ溶融で前処理を行った後、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて分析を行うことによって求めることができる。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法では、環状ポリオレフィン系樹脂の溶解工程で添加する微粒子分散液に、環状ポリオレフィン系樹脂と同じ樹脂が溶解混合されており、微粒子分散液の固形物比率が、溶解工程で溶解する環状ポリオレフィン系樹脂溶液(ドープ)の固形物比率の0.1~0.5倍であることが好ましい。
このように、微粒子分散液に、微粒子の他に環状ポリオレフィンが含まれていることにより、分散液の粘度が調整され、停滞安定性に優れる点で好ましい。
さらに、共流延を行うために、特開2009-072963号公報図2に示すように、ドープ調製を複数種類同時に調製できる装置を用いることも好ましい。当該公報図2においては、原料ドープ11は、送液ポンプP3、P4、P5により、中間層用、支持体面用、エアー面用の三つのドープ流路33、34、35を送液される。そして、中間層用ドープ流路33においては、送液ポンプP6によりストックタンク36に貯留された添加剤液13が添加された後、インラインミキサー39、剪断混合器43により原料ドープ11と添加剤液13とが混合されて中間層用ドープ16が生成される。同様に、支持体面用ドープ流路34においては、原料ドープ11と添加剤液14とがインラインミキサー40、剪断混合器44により混合されて支持体面用ドープ17が生成され、エアー面用ドープ流路35においては、原料ドープ11と添加剤液15とがインラインミキサー41、剪断混合器45により混合されてエアー面用ドープ18が生成される。なお、必要に応じ、支持体面用、エアー面用のドープ流路34、35において、ドープのTAC濃度を調節するための希釈液を添加してもよい。
以上の方法により、上記公報図2で示すように、例えば環状ポリオレフィン濃度が5~40質量%の3種類のドープ16、17、18を製造することができる。そして、生成された3種類のドープ16、17、18は、濾過器を通して流延部へ送られる。
(2)濾過工程
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法において、異物故障を低減する観点から、ドープの濾過は重要な工程である。
本発明において、環状ポリオレフィン系樹脂溶液(ドープ)の濾過は、ドープを、前記主たる溶媒の1気圧における沸点以上の温度で濾過することにより、ドープ中のゲル状異物を取り除くことができるため好ましい。好ましい温度範囲は40~120℃であり、45~70℃が、より好ましく、45~60℃の範囲であることがさらに好ましい。
濾過器では、ドープを、例えば90%捕集粒子径が微粒子の平均粒子径の10~100倍の濾材で、濾過する。
濾過の方法にはいくつかの手段があるが、環状ポリオレフィンのドープの濾過は、フィルタープレスやディスクフィルターが適しており、特に濾過面積を広くとれる点で、フィルタープレス方式の濾過が、生産性の観点から適している。
濾過のフローの一例を図2に示す。ここでは、主濾過装置に附属的に異物除去に効果の高い限外濾過装置を付加した濾過装置について説明する。
環状ポリオレフィン系樹脂を溶解した溶液(ドープ)は、溶解釜(図示略)から静置タンク(ストックタンク)103に一旦貯えられる。主濾過装置100に対しては、配管108により接続された限外濾過装置102が併設されており、静置タンク103から主濾過装置100に至るドープ流送管104の途上には、ポンプ105と開閉バルブ113が介在されるとともに、開閉バルブ113の下流側に希釈用溶媒タンク106からの溶媒注入管107が接続されている。主濾過装置100に対して限外濾過装置102を併設させる配管108には、主濾過装置100の出口側に近い開閉バルブ116と主濾過装置100の入口側に近い開閉バルブ117とが介在されている。限外濾過装置102には、分離した溶媒を排出する溶媒排出管118が接続されている。なお、限外濾過装置102において分離した溶媒は、溶媒排出管118から希釈用溶媒タンク106に接続された溶媒再利用返送管119に送られて再利用されるものである。また、主濾過装置100の出口側のドープ流送管104には、配管108の分岐状接続箇所の下流側に開閉バルブ115が介在されている。
主濾過装置100内にドープを初期充填させる際には、ドープ流送管104途上の開閉バルブ113を開け、主濾過装置100出口側のドープ流送管104途上の開閉バルブ115を閉じておく。静置タンク103からポンプ105の作動により流送管104内を送られてきた例えば10~50Pa・sの粘度を有する環状ポリオレフィン系樹脂のドープに対し、溶媒注入管107の開閉バルブ114を開けて、希釈用溶媒タンク106から溶媒を注入し、所定の流延用高粘度を有するドープを溶媒で希釈して、例えば1~9Pa・sの粘度に低粘度化させ、この低粘度化ドープを主濾過装置100に注入して初期充填することにより、主濾過装置100内の空気及び濾材図示略)内部の気泡を追い出すものである。このように、低粘度化させたドープを主濾過装置100に注入すると、低粘度ドープは濾材に浸透されやすく、濾材の隅々にまで行き渡り、濾材内部の気泡を追い出すことができる。
次いで、主濾過装置100より排出した低粘度ドープを、配管108及び開閉バルブ116を経て限外濾過装置102に導入して、限外濾過装置102内の限外濾過膜図示略)により溶媒を分離除去して、ドープを所定の高粘度にまで濃縮し、限外濾過装置102より排出した所定の高粘度のドープを、配管108及び開閉バルブ117を経て主濾過装置100に循環させる。
主濾過装置100の充填初期においては、溶媒注入管107の開閉バルブ114を開けておき、希釈用溶媒タンク106から溶媒を連続して注入するのが、好ましい。そして、主濾過装置100内の空気及び濾材(図示略)内部の気泡が完全に追い出された時点で、溶媒注入管107の開閉バルブ114を閉じ、主濾過装置100に導入した充填後の低粘度ドープを限外濾過装置102に1~数回循環させて、ドープを所定の高粘度にまで次第に濃縮して行く。最終的に、限外濾過装置102より排出した所定の高粘度のドープを主濾過装置100に循環させる。
その後、主濾過装置100出口側のドープ流送管104途上の開閉バルブ115を開け、限外濾過装置102への配管108の開閉バルブ116を閉じることにより、初期充填が完了して気泡が追い出された濾材を具備する主濾過装置100を使用し、静置タンク103からポンプ105の作動により流送管104内を送られてくる所定の流延用高粘度を有するドープを、該主濾過装置100の通過後、流送管104から流延ダイ110に供給し、該ドープを流送管104から無端支持体111上に流延して、流延製膜を行うものである。
このような方法によれば、主濾過装置100に新しく濾材を装填後の初期段階において、主濾過装置100内をドープで充填させる際に、主濾過装置100内でドープが充分に満たされないデッドスペースを生じるのを、有効に阻止することができ、従来、このようなデッドスペースに溜まった空気溜まりから、ドープ中に泡が生じるのを防止することができるものである。
このような製造装置によれば、環状ポリオレフィンフィルムに生じる泡故障による異物の発生率を、ドープの濾過工程において確実に抑えることができて、泡故障による異物数が大幅に減少して、光学特性に優れた環状ポリオレフィンフィルムを製造することができ、しかも生産性にも優れている。
本発明においては、主濾過装置100の濾材は濾紙であることが好ましい。この濾紙を使用することで、異物の原因となる微粒子などの凝集物だけを除去し、高粘度の主ドープを連続的に濾過できるため、異物故障がなく、原反保存性にも優れ、高速製膜が可能となり、生産性が向上するものである。
上記において、主濾過装置100の濾材の捕集粒子径とは、JIS Z 8901に準拠して測定されるものであって、90%以上捕集可能な粒子のうち最も小さい粒子径をいうものである。
主濾過装置100の濾材の捕集粒子径は、0.5~5μmであり、1~4μmが好ましく、2~3μmが最も好ましい。濾材の捕集粒子径が0.5μm未満では、異物ではない微粒子まで捕捉してしまい、急激に濾圧が上昇するため好ましくなく、捕集粒子径が5μmを越えると、異物の原因となる微粒子の凝集物まで通過してしまうため好ましくない。
また、主濾過装置100の濾材の濾水時間とは、JIS P 3801に準拠して測定されるものであって、ヘルツベルヒ濾過速度試験器を使用し、10cm2の濾過面において、20℃、100mLの蒸留水を0.98kPaの圧力により濾過する時間をいうものである。
本発明において、主濾過装置100の濾材の濾水時間は、10~25sec/100mLであることが好ましく、10~20sec/100mLがより好ましく、12~17sec/100mLが最も好ましい。ここで、濾材の濾水時間が10sec/100ml未満で短いと、濾紙等の濾材の強度が弱いため、圧力によって濾紙が目開きし、異物故障が増大する。また濾材の濾水時間が25sec/100mLを超えて長くなると、初期圧力が高く、濾過抵抗が高くなりすぎ、高流量濾過を連続的に行うことができず、またそのために、フィルターライフが短くなるので、好ましくない。
主濾過装置100の濾紙の捕集粒子径や濾水時間は濾紙の繊維の太さ、材質(綿花リンター、木材パルプ、レーヨン、ポリエステル繊維など)などの繊維材の選定、繊維材を叩解機での叩解度合い、填料の添加など、濾紙の製造方法によって、任意に調整できるものである。
本発明において、主濾過装置100の濾紙は1枚でも効果を発揮するが、濾紙は2~7枚程度重ね合わせて使用すると、濾過効率が高くなるため更に好ましい。同じ濾紙を組み合わせても構わないし、内側に保留粒子径の小さい濾紙を組み合わせても良い。また、外側に大きなゴミを除去するためのガード濾紙を使用することが好ましい。ガード濾紙は捕集粒子径が20μm以上と大きく、柔らかい綿のような濾紙が濾過圧力に影響せず大きなゴミの除去ができ、また主濾過装置100の液漏れ防止もできるため好ましい。また、1回濾過した主ドープをもう1回濾過する2段濾過も凝集物除去効果が大きく好ましい。
主濾過装置100において、泡故障(異物)の少ない環状ポリオレフィンフィルムを得るには、特に、捕集粒子径0.5~5μmでかつ濾水時間が10~25sec/100mLの濾紙を用いて濾過することで達成できるが、この場合、濾過圧力を16kg/cm2以下で濾過して製膜することが好ましい。より好ましくは、濾過圧力を12kg/cm2以下、さらに好ましくは、濾過圧力を10kg/cm2以下で濾過することである。なお、濾過圧力は、濾過流量と濾過面積を適宜選択することで、コントロールできる。
本発明において、限外濾過装置102の限外濾過膜は、細孔径1nm~0.1μmを有する多孔質膜を有するものであるのが、好ましい。例えばテフロン(登録商標)(ミリポア社製など)、及びポリイミド中空糸(日東電工社製)で作製された限外濾過装膜(UF膜)又はナノ粒子膜のような耐有機溶媒性のある膜であれば、マット剤(シリカ粒子)は分離せず、溶媒のみを分離して回収することができるものである。
このような限外濾過膜により、主濾過装置100の初期充填用低粘度化ドープから溶媒を確実に分離除去することができて、ドープを所定の高粘度にまで徐々に濃縮し得、最終的に、限外濾過装置102より排出した所定の高粘度のドープを主濾過装置100に循環させて、その後、初期充填が完了して気泡が追い出された濾材を具備する主濾過装置100を使用して、流延製膜を確実に行うことができるものである。
濾過工程に用いられる濾過フィルターは、そのメディア構造からサーフェイスタイプとデプスタイプの二つに大きく分類することができる。サーフェイスタイプは被濾過物の通過するメディアの距離が短く、表面の目開きで除去できる粒子の大きさが決まるタイプをいう。本発明においてはサーフェイスタイプのフィルターは長時間使用すると表面でゲル状凝集物同士が接触し、さらに大きな凝集物に成長し、圧力上昇によってフィルターを通過してしまうため、凝集物を除去できず増加させてしまう懸念がある。
サーフェイスタイプとしては、例えばアドバンテック東洋(株)製濾紙プリーツカートリッジフィルターTCタイプやふるいに使用されている金属メッシュなどが挙げられる。
他方デプスタイプのフィルターは深層濾過又は体積濾過とも言い、メディアの厚さをある程度持たせたものである。このタイプのフィルターはフィルター部分での凝集物同士が接触する可能性が、サーフェイスタイプに比べて低く、大きなゲル状凝集物を生成しにくく、長時間使用しても圧力上昇も少なく、また、ゲル状凝集物を除去することができるため好ましい。
デプスタイプとしては、例えばアドバンテック東洋(株)製ワインドカートリッジフィルターTCWタイプ、デプスカートリッジフィルターTCPDタイプや日本精線(株)製ファインポアNFシリーズなどが挙げられる。
これらインライン添加される添加液は少なくとも孔径の異なった2種類以上のデプスフィルターで濾過されることがサイズの異なった種々の凝集物に対し有効に濾過を行うとができるので好ましく、また、劣化が少なく好ましい。
これらフィルターは、JIS Z 8901に規定される試験用粉体1の8種の0.5ppm水分散液を濾過したときの5~10μmの粒子捕集率が20~60%のフィルターであることが好ましく、添加液はこれらのフィルターで濾過された後、インライン添加されていることが好ましい。粒子捕集率としては30~50%がさらに好ましい。粒子捕集率が少ない方が凝集を成長させることがない点が好ましく、粒子捕集率が多い方が凝集を除去する点で好ましい。粒子捕集率20~60%としては、例えばアドバンテック東洋(株)製ワインドカートリッジフィルターTCW-1N、同3N、同5N、同10N、同25N、同50N、プリーツカートリッジフィルターTCPE-10、同30などが挙げられる。粒子捕集率30~50%としては、例えばアドバンテック東洋(株)製ワインドカートリッジフィルターTCW-3N、同5N、同10N、同25Nなどが挙げられる。また、粒子捕集率20~60%のフィルターを粒子捕集率の少ないフィルターで濾過した後、粒子捕集率の多いフィルターでさらに濾過することが凝集を成長させることなく、凝集を除去する点で最も好ましい。粒子捕集率は以下のように定義する。
(粒子捕集率)
JIS Z8901に規定される試験用粉体1の8種(使用材料 関東ローム)の0.5ppm水分散液を10リットル/minで濾過し、自動粒子カウンターにて原液及び濾液の粒子数を計測し、5~10μmの粒子捕集率を求めた。この時使用したフィルターはサイズ250mm×φ60のものを1本用い濾過を行った。濾過回数は1回であった。
粒子捕集率(%)=(原液中の個数-濾液中の個数)/(原液中の個数)×100
本発明の環状ポリオレフィンフィルムを得るには、溶液流延法によってこれを製造する工程で、主ドープにインライン添加される添加液を濾過するフィルターとして、上記に定義されるフィルター用い、その後、インライン添加することが好ましい。
このフィルターにおいてもデプスタイプのフィルターが前記の理由により好ましい。
フィルターは濾材構造によってメンブランタイプと糸巻きタイプに分けられる。メンブランタイプは濾材にある一定の大きさと分布を持った穴が多くあいているタイプで、同じ大きさと分布を持った穴があいた濾材を何枚か重ねるとメンブランタイプでサーフェイスタイプのフィルターとなり、外側からコアに向かって濾材の穴の大きさを徐々に小さくした濾材を何枚かある程度の厚さ(10~20mm)になるように重ねて作るとメンブランタイプでデプスタイプのフィルターができる。
メンブランタイプとしては、例えばアドバンテック東洋(株)製メンブランカートリッジフィルターTCFタイプ、プリーツカートリッジフィルターTCPEタイプなどが挙げられる。
糸巻きタイプは濾材に一定の空隙を持ったエンドレスの例えばポリプロピレンの様な長繊維を撚糸せずに使用し、コアに一定の密度で巻きつけたもので、芯となるコアから密度勾配を持たせずに巻きつければ、サーフェイスタイプとなり、濾材の空隙を変化させたり、密度勾配を持たせる等、コア方向に細かくしていけば、デプスタイプのフィルターとなる。糸巻きタイプとしては、例えばアドバンテック東洋(株)製ワインドカートリッジフィルターTCWタイプなどがある(コアとは濾材の糸やメンブランを巻き付ける中空の芯のことである。)。
インライン添加液に含まれる凝集は2次、3次凝集のゲル状であるため、メンブランタイプの濾材では凝集(物)が抜けやすく、糸巻きタイプの方が凝集(物)の捕捉力に優れていて好ましい。
このタイプのフィルターにおいてもデプスタイプのフィルターが前記の理由により好ましい。
また、フィルターの、濾材としてはポリプロピレンであることが、耐溶媒性の観点で好ましい。また、フィルターのコア材料としてはポリプロピレン又はステンレス鋼が好ましく、中でもステンレス鋼がより好ましい。ステンレス鋼は長時間使用しても溶媒でコアが膨潤しにくく、締め付け部から凝集物が抜けることがないため好ましく、これらのフィルターを用いて、添加液を濾過した後、主ドープにインライン添加することが好ましい。これらのフィルターによる濾過はある回数を設けた方が凝集物の除去の効果が向上する。しかしながら、多すぎても工数の割に効果が少なくなるので濾過する回数としては3~10回が好ましい。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法においては、主ドープに添加液をインラインミキサーで混合する直前に(直前の工程において)、絶対濾過精度30~60μmの金属製フィルターで濾過することが好ましい。直前とは、工程的にいえば、直前に濾過工程があることであり、フローからいえば、濾過の直後、連続的に、添加液が停滞することなく、例えばストックタンクや送液ポンプ等を介さないでインラインミキサーに送られ主ドープと混合されるということである。それにより液の停滞や、送液ポンプにより新たに凝集物が発生しないことが好ましい。これらのフィルターはインラインミキサーの直前に配設されており、例えばフィルター交換等に伴い経路から発生する大きな凝集物を送液中の添加液から、一度の濾過で、比較的大きな異物を確実にとるためのフィルターで、前記の絶対濾過精度を有する長期にわたり使用が可能な耐溶剤性を有する金属製のフィルターが好ましい。金属としては耐久性の観点からステンレス鋼が好ましい。また、これらのフィルターは前記のデプスタイプのフィルターと異なり、設置後は余り頻繁に交換しないことが好ましく、したがって目詰まりの観点からε=60~80%の空孔率を有していることが好ましい。
したがって、最も好ましくは、絶対濾過精度30~60μmであって、かつ空孔率ε=60~80%の金属製フィルターで濾過することであり、これにより、長期にわたり、確実に粗大な異物を確実に除くことができ好ましい。絶対濾過精度30~60μmでかつ空孔率ε=60~80%の金属製フィルターとしては、例えば、日本精線(株)製ファインポアNFシリーズのNF-10、同NF-12、同NF-13などが挙げられる。
インライン添加される直前に設けられたフィルターは絶対濾過精度30~60μmの金属フィルターで濾過されることが好ましく、40~50μmがさらに好ましい。絶対濾過精度が小さい方が凝集を取り除く能力に優れるため好ましく、大きい方が長時間使用しても差圧の上昇が少なく、フィルター交換頻度が少なくでき、生産性に優れる点で好ましい。
(絶対濾過精度)
絶対濾過精度は以下のように定義される。JIS Z 8901に規定される試験用粉体2のガラスビーズと純水をビーカーに入れ、スターラーで撹拌しながら、吸引濾過を行う。ここにおいて、Aが測定しようとするフィルター試料、Bが原液をそしてCが濾液を表す。原液はスターラーで撹拌されており、Pの低圧真空ポンプにより大気圧から-3.99kPaの圧力に維持されて濾過が行われる。Vは開閉できるバルブを表す。この時の原液と濾液のガラスビーズの個数を顕微鏡で観察し、以下の式で粒子捕集率を求める。粒子捕集率95%の時の粒子径を絶対濾過精度とした。
粒子捕集率(%)=(原液中の個数-濾液中の個数)/(原液中の個数)×100
(空孔率)
これらのフィルターは空孔率ε=60~80%であることが好ましく、65~75%がさらに好ましい。空孔率の大きい方がと圧力損失が小さくなる点で好ましく、空孔率の小さい方が耐圧性に優れるため好ましい。空孔率を求めるには、まずフィルターを表面張力の低い溶媒中に浸漬し、フィルター中の空気を取り除き、溶媒の増加した量からフィルターの空孔量を求め、フィルターの体積で割れば、算出することができる。
(濾過装置の洗浄)
次に、使用済みの濾過装置を洗浄する方法について説明する。
図3に示すように、濾過装置50には、フィルター70と、モーター71により回転する撹拌棒72とが備えられており、その最上部にはエアー抜き配管76が取り付けられている。この他にも、図の煩雑化を避けるために図示は省略するが、洗浄液用配管や原料ドープ用配管、又は濾過助剤タンクから送られる濾過助剤51の供給用配管が濾過装置50の上部であって、エアー抜き配管76の近傍に設けられている。また、濾過装置50の下部及び側面には、流延ドープ53が排出される第1排出口80とスラリー液52が排出される第2排出口83とが設けられている。各排出口80、83はバルブであって、排出パイプに接続されている。なお、フィルター70は前述の濾材に該当し、不純物を捕捉する他に濾過助剤を堆積させる支持体として作用する。
濾過開始から一定時間が経過すると、又は濾圧が上昇して一定値に到達すると、フィルター70上の残渣が回収される。回収時には、まず第1排出口80が閉じられて、濾過装置50内に洗浄液用配管を通じて適量の洗浄液65が供給される。濾過装置50内が洗浄液65で浸されると、モーター71により撹拌棒72が回される。これにより、フィルター70上に堆積した残渣54が撹拌され、洗浄液65a中に残渣54が分散したスラリー液となる。スラリー液52は第2排出口83から、図示しない回収ユニットへ排出される。このように残渣54を洗浄液65に分散させてスラリー状で回収すれば、フィルター70上に残渣54を残すことなく効率良く回収することができる他、濾過装置50を開閉することなくフィルター70を洗浄することができるので、外部に溶媒が飛散して作業現場が汚染されることもない。
また、濾過装置50において原料ドープ55を濾過する場合、若しくは洗浄液65による洗浄を行う場合には、エアー抜き配管76から適宜エアー抜きを行うことが好ましい。この理由として、例えば、濾過装置50を切り替える際、エアーが濾過装置50内に入り込むためである。なお、スラリー液排出部は、上記のように濾過装置50に設けた排出バルブを有する排出パイプと、残渣54を撹拌する撹拌棒72のような撹拌手段とから構成される。ここで、撹拌手段としては撹拌棒に限定されず、例えば、メッシュフィルターを円形状に形成しておき、このメッシュフィルターをモーターにより回転させて遠心力で残渣を分離撹拌する構成であっても良い。
前述のとおり、図5に示すように、回収されたスラリー液52は、回収タンクを介して分離装置56に送られる。分離装置56では、残渣54を分離する際の濾過体として、図4に示すように、円筒形上の金属製のストレーナー90を使用する。ストレーナー90は、廃液を効率良く分離させる上で、メッシュ数が50以上490以下であるものが好適である。メッシュ数はストレーナー90を構成する金属線の線径等により決定される値であり、1cm2あたりの網目の数をいう。また、ストレーナー90は、円筒の直径をD、円筒の長さをLとしたときに、D<Lであるものが好ましい。このようなストレーナー90を使用すれば、濾過面積を十分に確保することができるので、目詰まりを抑えて高い濾過効率を保持することができる。なお、D≧Lの場合には、濾過面積が十分に確保されないため目詰まりも起こりやすい。本発明の濾過面積とは、ストレーナー90のような濾過体においてスラリー液が通過する面積である。
本発明で好適なストレーナー90は、スラリー液から残渣を効率良く分離させる上で、その金属線の織り方が平畳織り、綾畳織りが好適である。また、金属線を編み上げた金網には、パンチングメタルを補強材として用いる。ここで、補強材による濾過抵抗の発生を抑える上では、その開口率が30%以上であることが望ましい。
図5に示すように、ストレーナー90は、分離装置56の内部において鉛直方向に立てられた状態でタンク91内に設置される。スラリー液52は、分離装置上方から供給され、鉛直下向きに流される。ここで、溶液分はストレーナー90の通液孔を通過し、その一方で、残渣54がストレーナー90の内壁面に捕捉され、堆積する。スラリー液52の流れを略鉛直方向の下向きにすれば、残渣54に含まれている沈降性の高い濾過助剤を効率良く捕捉することができる。なお、分離装置56は、ストレーナー90の外壁面で残渣54が回収できるようにスラリー液52が供給される形態を使用しても良い。
分離装置56は、その上部にエアー抜き配管97が取り付けられている。エアー抜き配管97は、スラリー液52の供給開始から初期段階で分離装置56内に存在するエアー抜きを行う。このように分離装置56内のエアー抜きを行えば、スラリー液52のエアー溜まりが抑えられ、ストレーナー90の壁面に残渣54による均一な厚さの層を形成することができる。ただし、エアー抜き時間を長くすれば、スラリー液52内の濾過助剤が沈降しやすくなり均一な厚さの層が形成できなくなる。このため、エアー抜きに供する時間は5分以下とすることが好ましい。ここで、初期段階とは、スラリー液を供給し始めてから、5分を経過するまでのことをいい、エアー抜き時間をする時間は初期段階に含まれることになる。
ストレーナー90において分離回収された残渣54の平均厚さは5~500mmとすることが好ましい。残渣54の厚さは、実際にストレーナー90を回収した上で測定することもできるし、ストレーナー90の濾過面積、供給するスラリー液52の流量、及び供給時間等から予測することも可能である。残渣54の厚さが500mmを超えるとスラリー液52の流量を確保することが難しくなる他、圧力損失が大きくなるため分離装置56に対する耐圧面が懸念される。一方で、残渣54の厚さが5mm未満であると、濾過面積を大きくする必要があるので装置を大型化しなければならない。
また、分離装置56には内部圧力を測定する圧力計(図示しない)が設置されており、スラリー液52を供給している間、その圧力変化が測定される。ここで、濾過抵抗の変化に応じて、スラリー液52の流量をストレーナー90の総濾過面積当たり10~1500Lとなるよう調節する。これにより分離時間を長引かせることなく作業を行うことができる。なお、スラリー液52の流量が上記範囲を逸脱すれば、その分大型タンクを用意する必要があるので設備コストの増大を招く他、設置スペースの確保が難しくなる。一方で、流量が10L未満であると作業時間がかかりすぎるため不適である。
分離装置56内にスラリー液52を供給してから初期段階で回収される溶液分は、分離装置56の下部に設けられた排出口98から取り出された後、バルブV6を切り替え、ポンプP4により再び分離装置56に供給され、また循環される。分離開始から初期の段階ではストレーナー90による残渣54の捕捉効率が低いため、回収される溶液分は懸濁した状態にある。そして、分離開始から一定時間経過して残渣54による層の厚さが5mm以上になると、懸濁した溶液分の残渣54は効率良く捕捉される。なお、分離が終了した際に得られる濾液は洗浄液タンク65に送られて、濾過装置の洗浄、又はドープ調製用の溶媒として再利用される。
残渣54を捕捉した使用済みのストレーナー90は分離装置56から外されて乾燥装置80内で乾燥させる。本実施形態では、図6に示すような乾燥装置80を使用する。乾燥装置80には、所定の温度範囲に調節された乾燥風83が供給される供給口80aと、使用済みの乾燥風83を排出する排出口80bとが形成されている。ストレーナー90は、その開口を上にして乾燥装置80内に放置される。供給口80aから乾燥装置80内に乾燥風83が送り込まれる。ここで、乾燥時の温度が5℃以上140℃以下となるように乾燥風83の温度を調節する。これにより、ストレーナー90に付着した残渣中の溶媒成分を蒸発させて乾燥を進めることができる。一方で、乾燥時の温度が140℃を超えると、ストレーナー90に対する熱ダメージが懸念される。その一方で、乾燥時の温度が5℃未満であれば、乾燥時間が長引くため作業性が低下する。なお、乾燥手段は特に制限されず、所定の温度範囲に加熱することができるものであれば良い。例えば、被対象であるストレーナー90に対して蒸気を吹き付け、直接的に熱をかける方法も短時間のうちに効率良く乾燥することができる。
乾燥に供された乾燥風83は、溶媒ガスを含んだ状態である。このため、溶媒ガス回収装置81により乾燥風83は一旦回収されて、ここで溶媒が除去される。この後、溶媒が取り除かれた乾燥風83は、温調装置82で所定の温度に加熱された後、再び乾燥風83として乾燥装置80内に供給される。このように密閉された乾燥装置80内でストレーナー90を乾燥させると、大気中に溶媒ガスを放出させることなく溶媒ガスを回収することができるので、作業現場の汚染を防止し、更には環境負荷を軽減することができる。
(3)流延工程
前記ドープを、図1で示すように、送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイ30に送液し、無限に移送する金属製の無端支持体31、例えば、ステンレスベルト、又は回転する金属ドラム等の無端支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。
前記ドープは、流量変動による膜厚偏差の発生を抑制するために、50~2000L/hrでダイに送液することが好ましい。
(流延)
溶液の流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから金属製の無端支持体上に均一に押し出す方法、一旦金属製の無端支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、又は逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガータイプやTダイタイプ等があるがいずれも好ましく用いることができる。また、ここで挙げた方法以外にも従来知られているセルローストリアセテート系樹脂の流延製膜を行う種々の方法で実施でき、用いる溶媒の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することによりそれぞれの公報に記載の内容と同様の効果が得られる。本発明の環状ポリオレフィンフィルムを製造するのに使用されるエンドレスに走行する金属製の無端支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。
金属製の無端支持体は、ドープの流延膜の幅方向両端部と接する前記無端支持体の表面の表面エネルギーが、前記ドープの流延膜の幅方向中央部と接する前記無端支持体の表面の表面エネルギーよりも高くなるように前記無端支持体の表面に活性化処理を施すことが、耳部のばたつきを抑制する観点から好ましい。
前記活性化処理は、大気圧プラズマ照射又はエキシマUV照射によって行うことが好ましく、前記活性化処理を施した後の、前記流延膜の幅方向両端部と接する前記無端支持体の表面の表面エネルギーをγseとし、前記流延膜の幅方向中央部と接する前記無端支持体の表面の表面エネルギーをγscとしたとき、その差Δγ(=γse-γsc)が、0.1~60mN/mの範囲にあることが好ましい。前記ドープの流延膜の幅方向中央部と接する前記無端支持体の表面の表面エネルギーよりも高い表面エネルギーを有する前記無端支持体の表面と接する前記流延膜の幅方向両端部からのそれぞれの幅が、前記流延膜の幅をWrとして、0.05~0.25Wrの範囲であることが好ましい。
無端支持体の表面エネルギーの測定は、水、ニトロメタン及びヨウ化メチレンとの接触角を測定し、これらの値からヤング・フォークズの式を用いて算出することができる。具体的には、協和界面科学株式会社製の接触角計等を用いて測定することができる。
また、前記無端支持体上の前記流延膜形成エリアに、水接触角が90°以上の疎水化層が形成されている前記無端支持体を用い、前記疎水化層上に前記流延膜を形成することが好ましい。前記疎水化層は疎水性物質から構成され、前記無端支持体は冷却ドラムから構成され、前記流延膜は冷却ゲル化により自己支持性を有して剥ぎ取られる。また、前記疎水性物質は、PTFE又はPPであることが好ましい。
また、金属製の無端支持体からのフィルムの離型性(剥離性)を向上し、透明性、平面性に優れた環状ポリオレフィンフィルムを製造するために、金属製の無端支持体表面に、鉄(Fe)及び/又はクロム(Cr)の元素を含有するとともに、金属製の無端支持体表面の成分元素組成比が、下記(i)及び/又は(ii)の関係を満たす金属製の無端支持体を用いることが好ましい。
(i) (Fe2O3+FeO)/Fe=5~50
(ii) (CrO2+CrO3)/Cr=10~50
これは、非常に平滑な表面状態を維持しつつ、通常の金属表面の酸化物状態よりも酸素結合比率を高めた金属酸化物皮膜層をつくることで、フィルムの連続生産の際にも、金属製の無端支持体からのフィルムの離型性(剥離性)が向上し、非常に滑らかな剥離性が得られ、透明性、平面性に優れた光学特性を有する環状ポリオレフィンフィルムを製造することができる。さらに、金属製の無端支持体の表面の腐食を防止することができて、その腐食模様がフィルムに転写して発現するむらなどの品質の故障が無くなるとともに、腐食で表面が荒れてくると、アンカー効果でウェブの離型性(剥離性)が著しく悪化するのを防止する。
(i)の(Fe2O3+FeO)/Fe比が、5未満であれば、耐食性は未処理のものと比較して余り変わらず、また、部分的に処理の差が大きく、これが表面の腐食進行でむらになるので、好ましくない。また、(Fe2O3+FeO)/Fe比が、50を超えると、表面に何かが接触して傷をつくってしまったときに、研磨をして平滑な表面に修復する作業が困難になるので、好ましくない。
また、(ii)の(CrO2+CrO3)/Cr比が、10未満であれば、耐食性は未処理のものと比較して余り変わらず、また、部分的に処理の差が大きく、これが表面の腐食進行でむらになるので、好ましくない。また、(CrO2+CrO3)/Cr比が、50を超えると、表面に何かが接触して傷をつくってしまったときに、研磨をして平滑な表面に修復する作業が困難になるので、好ましくない。
さらに、製膜速度を高速化してもエアー巻き込み現象の発生を防止し、かつ流延膜と無端支持体との間の密着性を好適に調整し、無端支持体からの流延膜の剥離性を向上するために、無端支持体上にドープを流延するとき、ドープに含まれる有機化合物を少なくとも一つ含む液を無端支持体と流延膜との間に供給して、流延膜と無端支持体との間に介在膜を形成することも好ましい。
図7に示すように、流延ダイ130の近傍に介在膜形成装置140を設けて、流延ダイ130からリボン状のドープ160の流れである流延ビード161の無端支持体側となる面に介在膜形成液162を供給する。
介在膜形成装置140は、介在膜形成液162を貯留するタンク(図示しない)と、この液の流路140aと供給口140bとを有している。ドープ160の流延時には、供給口140bから適量の介在膜形成液162を流延ビード161の無端支持体面側の全幅域に沿わせるように供給する。これにより、製膜速度を高速化しても、流延ビード161におけるエアー巻き込み現象の発生をより防止することができる。そして、流延ドラム150の上に流延ビード161と介在膜形成液162が到達すると、流延ドラム150の上には介在膜163を介して流延膜170が形成される。このように、流延ドラム150と流延膜170との間に介在膜163が存在すると、エアー巻き込み現象の発生を防止することができる。
介在膜形成液162は、ドープ160に含まれる有機化合物(溶媒)を少なくとも一つ含む液であり、上記の原料溶媒とドープ160に含まれるポリマーに対して相溶性を示さない貧溶媒とを混合して調製することが好ましい。このような介在膜形成液162により流延ドラム150と流延膜170との間に形成される介在膜163は、時間の経過とともに、流延膜170に向かって拡散する。これにより、流延ドラム150と流延膜170との密着性が高くなりすぎることがないので、小さい剥取応力でも容易に流延膜170を流延ドラムから剥ぎ取ることができる。
また、良溶媒や貧溶媒に係わらず介在膜形成液162に含まれる溶媒の割合をw(%)とし、介在膜163の膜厚をt(μm)とするとき、wとtとが、t<-0.05w+15を満たすようにすることが好ましい。これにより、流延ドラム150から流延膜170を容易に剥ぎ取ることが可能とするように作用する介在膜163を形成することができる。ただし、介在膜163が厚すぎると、流延膜170と介在膜163との拡散が起こりにくく、流延ドラム150上に介在膜163が残存するおそれがある。このように流延ドラム150の上に介在膜163が残存すると、その後の流延にも悪影響を及ぼし、面状が劣るフィルムしか製造することができないので不適である。
なお、介在膜形成装置140の設置箇所は、図7に示す形態に限定されるものではない。
フィルムの生産速度を上昇させるために、同伴エアーの巻き込みによる発泡を無くすとともに、減圧チヤンバ吸引風による流延ダイからの流延液膜の振動による膜厚むらを低減したり、滴下されたスケール溶解液の余剰液分の液滴飛散による転写故障がなく、平面性の優れたフィルムを得るために、金属製の無端支持体上にドープを流延し、無端支持体上に流延膜(ウェブ)を形成する際、ウェブが無端支持体上に密着して形成されるように流延上流側から減圧する手段としての下方に開口した減圧チャンバーを備えるとともに、流延ダイよりドープを流下する時、流延ダイのフィルム幅手方向両端部に対応する左右両端部(流延ダイエッジ)に、ヒゲ状皮膜(スケール)が発生するのを防止するために、スケール溶解液を滴下するスケール溶解液滴下手段を備えることが好ましい。主減圧室を有する減圧チャンバーの左右両側壁と後壁の外側に、これらの壁との間に所定間隔をおいてそれぞれ外側壁を設けて、減圧チャンバーの左右両側部と後部の外側に位置しかつ下方に開口した副減圧室を形成しておき、主減圧室の減圧力よりも副減圧室の減圧力を、-30~-300Paの範囲で大きくすることが好ましい態様である。
また、主減圧室を有する減圧チャンバーの左右両側壁及び後壁と、これらに対向する副減圧室の左右両外側壁及び後部外側壁との間の間隙を、10~300mmとすることが好ましい。
減圧チヤンバの流延ダイに接する面以外の壁面を二重化して、副減圧室を形成し、減圧チヤンバ外側部の副減圧室の減圧力を、同内側部の主減圧室の減圧力よりも大きくして、強く吸引することにより、流延液膜の吐出方向に対して側面部からの流延液膜への吸引風の流れを遮断し、フィルムの生産速度を上昇させても、同伴エアーの巻き込みによる発泡を無くすことができるとともに、高速製膜に伴うドープ吐出速度の上昇による減圧度アップに対しても、流延液膜の安定性を向上させ、高速製膜領域においても、流延液膜の振動に起因するフィルム搬送方向の膜厚むらを低減することができ、平滑性の良いフィルムを生産することができる。
また、製膜中に流延ダイエッジにおいてスケール溶解液滴下手段からウェブの幅手方向両端部に滴下されたスケール溶解液の余剰液分を、副減圧室の方に吸引回収することができ、これによって滴下されたスケール溶解液の余剰液分の飛散液滴による転写故障がなく、平面性の優れたフィルムが得られるとともに、スケール溶解液の余剰液分の飛散液滴による無端支持体汚れの蓄積がなく、生産効率の高い、しかも品質にも優れていて、高速製膜可能な、薄膜かつ広幅のフィルムを製造することができるという効果を奏する。
主減圧室を有する減圧チャンバーの左右両側壁及び後壁と、これらに対向する副減圧室の左右両外側壁及び後部外側壁との間の間隙を、10~300mmとすれば、減圧チヤンバをいわゆる内外二重化し、減圧チヤンバ外側部の所定の間隙を有する副減圧室から、減圧チヤンバ内側部の主減圧室の減圧力よりも大きい減圧力で同伴空気を相対的に強く吸引することにより、流延液膜端部に対する側面部からの吸引風を低減することができて、安定流延を実現し、また流延ダイエッジ(左右両端部)から吹き飛ばされたスケール溶解液の余剰液分を、支持体外部の強い吸引力(減圧力)を有する副減圧室の方に回収することができて、高品質のフィルムを高生産速度で、長期間安定して生産することができるという効果を奏する。
また、前記減圧チャンバーの流延ドープ近傍のガス濃度を80%以下にすることが好ましい。
これは、流延ビード近傍の空気のガス(主に揮発性有機溶媒が気化したもの)濃度が上昇し、ガス成分が所望の濃度に到達すると、液化する場合があり、液化した溶媒が流延ビードに付着して流延膜を不良品とするおそれがある。また、流延ビードの無端支持体接触面(以下、流延ビード背面と称する)側を減圧にしている場合には、流延ビードの形成は安定するが、この場合にはガスの液化が容易に起こりやすくなり、液化溶媒が流延膜に付着したり、減圧チャンバーに付着して減圧の不均一化を招いたりする問題が生じる場合がある。このような場合には製造されるフィルムの面状に不良が生じて光学むらが発生したり、フィルムの幅方向にむら(以下、横段むらと称する)が生じたりする問題があるが、前述のようにガス濃度を80%以下にすることで改善される。
すなわち、ガス濃度を80%以下にすることで、ガス成分の液化を防止でき、前記ガス成分が液化して前記流延ビードに付着する故障を引き起こすことを防止できる。前記方法により得られるフィルムは光学むら及び横段むらの発生が抑制されている。
前記減圧チャンバーの減圧度が大気圧に対して-1500~-200Paの範囲とすることが好ましい。前記ドープの吐出速度が、7~40m/分の範囲であることが好ましい。
また液化を防止する観点から、溶剤ガスを流延ビード付近に吹き付けることも好ましい。溶剤ガス成分中に含まれる蒸気の割合は、5~65体積%の範囲であることが好ましく、当該溶媒はジクロロメタンであることが好ましい。また、溶媒は、ジクロロメタンを最も多く含み、ポリマーを溶解又は分散させる化合物と混合した混合物であり、蒸気中に含まれるジクロロメタンガスの割合が80体積%以上であることが好ましい。
また、減圧チャンバーとして、複数の減圧室を有する減圧チャンバーを用いることも、流延ビードに同伴風があたることが抑制され、フィルムに厚さむらが生じることを抑制できる観点から、好ましい。
例えば、前記流延ビードの無端支持体接触面側を減圧する複数の減圧室を有する減圧チャンバーを用い、前記減圧チャンバーと前記無端支持体との隙間を0.05mm以上3mm以下の範囲とし、個々に独立して減圧度を調整することが可能な前記複数の減圧室のうち前記無端支持体の移動方向における上流側の前記減圧室を下流側の前記減圧室よりも低い減圧度にすることが好ましい。前記減圧チャンバーと前記無端支持体との隙間は、より好ましくは0.05~0.7mmの範囲であり、最も好ましくは0.05~0.5mmの範囲である。
また、前記各減圧室の絶対圧力の最大値をPn(Pa)とした場合に、前記各減圧室の圧力を0.9×Pn(Pa)以上1×Pn(Pa)以下の範囲にすることが好ましく、より好ましくは0.98×Pn(Pa)以上1×Pn(Pa)以下の範囲に調整することが好ましい。前記減圧室の数は、2以上10以下であることが好ましく、前記各減圧室には、排気口が設けられていることが好ましい。
また、流延ダイの上部に溶剤ガスを吹き付けて、流延ダイの表面を沿わせながら溶剤ガスをスリット出口に送ることが好ましい。
送風ユニットの下部には、流延ビードの幅方向に長く形成されたスリット状の送風口を有するノズルが備えられていることが好ましい。
送風ユニットは、流延ダイに対して無端支持体の走行方向の下流であり、かつ無端支持体の上方に設置されている。送風ユニットの下部には、流延ビードの幅方向に長く形成されたスリット状の送風口を有するノズルが備えられており、送風口からスリット出口であり、かつ流延ビードの幅方向全領域に向けてドープの調製に用いた溶媒の蒸気を含む溶剤ガスを送り、スリット出口付近で溶剤ガスを液化させない範囲で高濃度に維持する。本実施形態では、ドープの調製用溶媒としてジクロロメタンを使用したので、ジクロロメタンを気化させた蒸気を含む溶剤ガスをスリット出口付近に送る。
溶剤ガスは、その中に5~65体積%の範囲の割合で蒸気を含むものとする。より好ましくは、20~65体積%の範囲であり、特に好ましくは40~65体積%の範囲である。このように流延ビード付近の溶剤ガス濃度が高く維持された空気中では、流延ビードの乾燥が防止される。このため、スリット出口付近においてドープが固化して異物となり、付着することが抑制されるので、スジ故障等のない面状に優れるフィルムを製造することができる。
溶液流延法では、溶液の流量を精密にコントロールしないと、流下するドープの端部が乱れたり、スリット端部にカワバリ(端部余剰皮膜)が発生する場合があり、製膜速度や膜厚の広い範囲での長期的に安定な状態での適用は、困難であるという問題がある。
本発明では、溶液流延法によりフィルムを製造する方法において金属製の無端支持体上にドープを流延ダイによって流延する際に、流延ダイのスリット両端部に溶剤を流下させ、溶剤を流下させる流延ダイ両側のノズルの先端部の内径を4mm以下0.5mm以上とし、かつ流下する溶剤の溶媒和パラメーター(-△HD-BF3)を15[kJ/mol]以上100[kJ/mol]以下とすることが好ましい。
ここで、溶媒和パラメーターは、P.C.Maria, J.F.Gal、J Phys.Chem.、89,1296(1985)、及びP.C.Maria, J.F.Gal、J.de Franceschi、E.Fargin、J.Am.Chem. Soc.,109,483(1987)に記載されたジクロロメタン溶媒中で気体状のBF3とドナー性分子の1:1錯形成における標準モルエンタルピー[kJ/mol](-△HD-BF3)とする。
流延ダイ両側のノズル内を流下させる溶剤を、例えば酢酸メチルとすることが好ましい。すなわち、本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法によれば、溶媒和パラメーターの大きい溶剤を使用すると、環状ポリオレフィン系樹脂に対する溶解度は小さくなるものの、カワバリの発生は抑えることができる。この要因は明確ではないが、溶媒和パラメーターの値によって環状ポリオレフィン系樹脂の膨潤、溶解状態が異なるため、このような現象が発生するのではないかと推測することができる。
また、本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法において、金属製の無端支持体上に、ドープ又は樹脂溶融液を流延する前に、金属の無端支持体表面を、常圧プラズマ照射又はエキシマ紫外線照射により表面処理することが好ましい。
この場合、常圧プラズマ照射処理又はエキシマ紫外線照射処理の積算時間が、0.1~3000sec、好ましくは0.5~500secであることが好ましい。
ここで、常圧プラズマ照射処理又はエキシマ紫外線照射処理の積算時間が、0.1sec未満であれば、十分な表面の改質が行われず、表面の耐食性が上がらないので、好ましくない。また、常圧プラズマ照射処理又はエキシマ紫外線照射処理の積算時間が、3000secを超えると、表面があれて荒れてくるので、好ましくない。
本発明によれば、常圧プラズマ装置、エキシマ紫外線装置よりなる高エネルギー照射装置(A)により高エネルギー表面処理を施し、大気中で自然に形成される表面酸化皮膜よりも金属の無端支持体表面に、上記の酸素結合比率を高めた金属酸化物皮膜層を形成させることが好ましい。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法に用いられる加圧ダイは、金属の無端支持体の上方に1基又は2基以上の設置でもよい。好ましくは1基又は2基である。2基以上設置する場合には流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合に分けてもよく、複数の精密定量ギヤアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液してもよい。流延に用いられる環状ポリオレフィン溶液の温度は、-10~55℃が好ましくより好ましくは25~50℃である。その場合、工程の全てが同一でもよく、又は工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であればよい。
キャストの幅は1~4mの範囲、好ましくは1.5~3mの範囲、さらに好ましくは2~2.8mの範囲とすることができる。流延工程の金属製の無端支持体の表面温度は-50℃~溶媒が沸騰して発泡しない温度以下、さらに好ましくは-30~100℃の範囲に設定される。温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高すぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。好ましい無端支持体温度としては0~100℃で適宜決定され、5~30℃の範囲が更に好ましい。又は、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。金属製の無端支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風又は冷風を吹きかける方法や、温水を金属製の無端支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属製の無端支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は溶媒の蒸発潜熱によるウェブの温度低下を考慮して、溶媒の沸点以上の温風を使用しつつ、発泡も防ぎながら目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。特に、流延から剥離するまでの間で無端支持体の温度及び乾燥風の温度を変更し、効率的に乾燥を行うことが好ましい。
流延ダイは、ダイの口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、製膜速度を上げるために加圧ダイを金属製の無端支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して積層してもよい。
溶液流延時にカワバリと呼ばれる端部故障が発生することがあるが、この発生原因はダイ先端の微小な欠陥に起因している。このダイ欠陥は、ダイ製作時や保全時についてしまう微小なキズや打痕、砥石による研削時に発生するスクラッチなどである。
そこで、このダイ先端の微小な欠陥に基づくカワバリ発生を防止する手段を開発するべくさらに検討を進めたところ、流延ダイリップのドープが接液する先端部分をWCコーティング加工する方法により、樹脂を溶媒に溶解した溶液ダイのスロットから流延して環状ポリオレフィンフィルムを製造する方法において、前記ダイの先端の硬さHvを400以上にすると、ダイ製作時、保全時、設置時についてしまう微小なキズ、打痕を抑え流延方向のスジ欠陥が、確認が困難となるまで良化することが判明した。このHvで表される硬度(ビッカース硬さ)は、136°の頂角を有するダイヤモンド角錐を圧子として用い、生じた圧痕の対角線の長さを読み取り、荷重を凹みの表面積で割った値である。
また、樹脂を溶媒に溶解した溶液をダイのスロットから流延して環状ポリオレフィンフィルムを製造する方法において、前記ダイの先端の表面張力を380μN/cm以上にすることにより、カワバリの発生を防ぎ、さらにスジ欠陥が良化することが判明した。表面張力はJIS K6768にのっとり、和光純薬工業(株)製、ぬれ指数標準液、No.32からNo.54を用いて測定した値である。
さらに、カワバリの発生を防止するためにはリップ先端部の表面の凹凸及び、スロット面とこのスロット面に交差する先端平端面との角部を断面略円弧形状に形成し湾曲面とし、その湾曲面の曲率半径が小さく、溶媒濡れ性の良いことが必要となることを見いだし、リップ先端部におけるカワバリを防止することができ、スジ欠陥を改良することができた。
前記スロットのリップ先端部であって、スロット面とこのスロット面に交差する先端平端面との角部を断面略円弧形状に形成して湾曲面とし、この湾曲面の曲率半径Rを5~50μmの範囲とすることが好ましい。
前記湾曲面と前記スロット面及び前記先端平端面との境界線と、前記湾曲面の曲率中心を結ぶ線との平行度を、前記スロットの長手方向1m当りで、1.5~15μmの範囲にすることが好ましい。また、前記湾曲面と前記スロット面及び前記先端平端面との境界線と、前記湾曲面の曲率中心を結ぶ線との平行度を、前記スロットの長手方向1mあたりで、前記曲率半径Rの0.3倍以下にすることが好ましい。さらに、前記湾曲面と前記スロット面及び前記先端平端面との境界線と、前記湾曲面の曲率中心を結ぶ線との平行度を、スロットの長手方向1mm当りで、0.5~5μmの範囲にすることが好ましい。さらには、前記湾曲面と前記スロット面及び前記先端平端面との境界線と、前記湾曲面の曲率中心を結ぶ線との平行度を、スロットの長手方向1mm当りで、前記曲率半径Rの0.1倍以下にすることが好ましい。
前記ダイ先端の表面粗さをRaとしたときに、前記スロットの長手方向及びその長手方向に直交する方向における表面粗さRaを、0.01~3μmの範囲にすることが好ましい。
前記ダイから金属製の無端支持体上にドープを流延した後、回転ローラーの表面温度が高いと、流延膜のゲル化促進の効果が十分に得られない。また、剥取部での露点が高いため剥取部で流延膜表面に結露が生じることがあり、この結露した水分が後の工程で乾燥揮発されても、フィルム面上に曇りを生じるという問題がある。
この問題を改善するのに、本発明に用いられる溶液流延法において、金属製の無端支持体の回転ローラーにおいて、表面温度を-30℃以上6℃以下にした第1の回転ローラーから、第2の回転ローラーへ向かう流延膜を乾燥風により乾燥し、この流延膜を第2の回転ローラーから第1の回転ローラー上に搬送してから露点を0℃以下にした剥離位置で剥ぎ取り、第1の回転ローラーと剥離位置の上流に設けた冷却手段とにより第1の回転ローラーに向かうベルト上の流延膜を冷却し、剥離位置までの冷却区画を前記冷却手段の位置で調整することにより、剥ぎ取る流延膜の温度を6℃未満にすることが好ましい、前記冷却手段としての冷却ローラーを、流延膜が形成されているベルト面とは反対側のベルト面に接触させることにより、第2の回転ローラーから第1の回転ローラーへ向かうベルト上の流延膜を冷却することが好ましい。
また、前記第1の回転ローラー及び第2の回転ローラーを収容する流延室の内部の温度を調整して、剥離位置の露点を0℃以下にすることが好ましい。その場合、前記流延膜の剥離位置での乾量基準における溶媒含有量を10~200質量%の範囲とすることが好ましい。すなわち、前記流延膜の剥離位置近傍の露点を0℃以下とするから、結露が防止されて前記流延膜に水分が付着することが抑制される。これにより製造されるフィルムの面上に曇りが生じなくなる。
また、金属製の無端支持体表面の両端に粗面化帯を設けることも、剥離しやすい観点から好ましい。当該粗面化帯がともにダイからのドープの流延幅と5~30mm重なっているようにし、粗面化帯の平均粗さRzが0.5~2μmの範囲であることが好ましい。
一般に全く平滑な面の無端支持体の場合には、ウェブを剥離する際、両端が破れやすく、裂けやすいことなどから破断事故で生産をしばしば中断される。これに対して粗面化帯を設けることによって剥離性がすこぶるよくなり、皮膜の発生もなく、泡の発生もなく、非常に効果的である。幅は多少流延の位置が幅方向にずれてもよいようにドープ膜の内側5~30mmから外側へ無端支持体の両端までの幅となっている。その粗面化帯の平均粗さRzは0.5μmよりRzが小さい場合には粗面化の効果がなく、接着が強すぎ剥離がし難く、また2μmよりも大きいと逆に粗面化によって接着しやすくなり剥離し難くなる。好ましいRzの範囲は0.8~1.5μmである。
近年、製造速度の高速化、フィルムの薄膜化が要求されているが、高速化するためには、無端支持体上の流延膜に送風する熱気の温度を高くせざるを得なくなるため、流延膜の側縁部の温度が上がり、より発泡しやすく、また、薄膜化が進むと無端支持体温度の影響を受けやすくなるため、従来の方法では発泡対策として不十分であるという問題がある。
そのため、無端支持体上の流延膜をその幅方向で中央エリアと側縁エリアとに仕切るように遮風部材を設けるとともに、前記中央エリアに熱気を送風して、流延膜の幅方向の温度分布を均一化することが好ましい。前記側縁エリアに、前記無端支持体上の流延膜の幅方向内側から外側へ向けて冷気を送風し、流延膜の幅方向の温度分布を均一化するようにしてもよい。
また、無端支持体上の流延膜の幅方向内側から外側へ向けて冷気を送風し、流延膜の幅方向の温度分布を均一化することも好ましい。
前記遮風部材は、前記流延膜の側縁から中央部側に20~100mmの範囲、より好ましくは20~80mmの範囲で側縁に平行に設けるとよい。また、前記遮風部材と流延膜との隙間を5~30mmの範囲、より好ましくは5~15mmの範囲にするとよい。
具体的には、前記冷気送風を送風ダクトにより行い、この送風ダクトの送風口を、前記流延膜の側縁から中央部側に20~100mmの範囲で側縁に平行に設け、送風口と流延膜との隙間を5~30mmの範囲にし、前記冷気を流延膜に対して45~90°の範囲、より好ましくは60~80°の範囲の交差角度となるように送風するとよい。また、前記冷気は露点が-2℃以下、温度が15~60℃の範囲であり、前記冷気を風速1~10m/secの範囲で送風することが好ましい。
また、無端支持体上に形成された直後の流延膜の表面に、乾燥装置を用いて乾燥する、いわゆる初期乾燥を行うことも好ましい。このように、初期乾燥を行うと、流延膜からの溶媒の蒸発を効果的に促進することができる。
ただし、初期乾燥において、乾燥温度が無端支持体上の流延膜中に含まれる溶媒の沸点を超えると、流延膜の内部では溶媒による発泡が生じる。特に、流延膜の両側端部近傍では、この流延膜に対して無端支持体から熱が伝達しやすいので発泡が生じやすい。このように流延膜の内部に発泡が生じると、流延膜の表面に凹凸が生じたり、その内部に空隙ができてしまう。また、所定の温度に調整した乾燥風を送り出して乾燥を行うと、この乾燥風により、流延膜の表面には斜めむらや膜厚の不均一(厚さむら)が生じてしまう。したがって、このような斜めむらや厚さむら(総称して凹凸むらとする)や、上記のような発泡が流延膜の表面に生じると、流延膜の平面性が著しく低下してしまう。そのため、このような流延膜からは平面性に劣るフィルムしか製造することができない。
そこで、金属製の無端支持体と対面するように備えられ、前記金属製の無端支持体の幅方向を長手方向とする第1送風口から、温度(℃)が30~160℃の範囲内で略一定とされた乾燥風を、静圧(Pa)が50~200Paの範囲内で略一定となるように調整しながら、形成された直後の流延膜に送り出す第1乾燥工程と、前記第1乾燥工程の後で、前記無端支持体の走行する向きに向くように備えられた第2送風口から、前記流延膜の残留溶媒量に応じて、前記無端支持体の走行する向きに対して略平行の乾燥風を送り出す第2乾燥工程とを含む流延膜乾燥方法を行うことが好ましい。
また、前記第1送風口の内部に仕切り部材を設けて、前記無端支持体の走行方向と平行の向きに対して少なくとも三つのエリアに区画することが好ましい。前記第1送風口の区画のうち、前記流延膜の両側端部近傍の上方に位置する区画に風量制御部材を設けて、送り出す乾燥風の風量を前記無端支持体の幅方向で調整することが好ましい。
前記流延膜の残留溶媒量が250質量%までの間は、前記第1乾燥処理を行うことが好ましく、前記第2送風口から、温度(℃)が30~160℃の範囲内で略一定であって、風速(m/秒)が5~20m/秒の範囲内で略一定となるように調整した乾燥風を、前記無端支持体の走行方向に対して平行になるように送り出すことが好ましい。
流延膜の金属製の無端支持体からの剥離性を向上するのに、剥離時に接触している移動する無端支持体のドープ膜剥離側とは反対の面に特定の温度範囲の冷却体を接触させ、剥離時の残留溶媒量を特定の範囲に制御することで、剥離性が改良し、無端支持体から良好に剥離できる。すなわち、流延膜を剥ぎ取る時の残留溶媒量を100質量%以下に制御し、かつ、前記流延膜を無端支持体から剥ぎ取る領域において、前記無端支持体の流延膜剥離側とは反対の面に表面温度が10℃以下の冷却体を接触させることが好ましい。
前記残留溶媒量を55%以下に制御することが好ましく、前記冷却体の表面温度は-5℃以下であることが好ましい。
前記冷却体は、前記移動する無端支持体を回動させることができるローラーを兼ねていることが好ましい。前記冷却体の表面温度の制御方法としては、例えば、不凍液を用いたブラインチラーで冷却することによりの表面温度を10℃以下(上限値は好ましくは5℃以下、より好ましくは0℃以下、特に好ましくは-5℃以下)とすることができる。前記冷却体の表面温度は、-25~5℃であることが好ましく、-25~0℃であることがより好ましく、-20~0℃であることが特に好ましい。
さらに、金属製の無端支持体全体の温度を-50~10℃に設定することも好ましく、環状ポリオレフィン系樹脂溶液が前記金属製の無端支持体上に流延されてから剥離されるまでの冷却速度を、(温度差/時間)で表した場合、3~5(℃/sec)であることが好ましい。
また、その際ドープ中の貧溶媒比率が2~20質量%の範囲に調整することが剥離性の観点から好ましい。
流延ダイの上端部に、環状ポリオレフィン系樹脂ドープの供給口を複数箇所設けておき、流延ダイに対して、ドープを複数箇所の供給口から流延ダイのマニホールド内に供給することが好ましい。
(積層流延)
共流延等の積層流延を行う際は、流延ダイのリップクリアランスを狭めることで吐出部分のせん断が大きくなり、スティックスリップを引き起こすドープの局所的な高濃度(高粘度)部分が混合され、円形変形発生を抑えることができる。また、多層からなるフィルムを製膜する際には、外層(表面層、エアー面層及び/又は裏面層、無端支持体面層)を形成するドープの粘度を下げることでスティックスリップそのものが弱くなり円形変形が起こらなくなる。さらに、前記リップクリアランスと前記外層形成用ドープ粘度との間に所定の相関がある。
ポリマーと溶媒とを含む複数のドープを流延ダイから共流延し、多層フィルムを製膜する溶液流延法において、前記ドープを流延する際の温度T1(℃)での前記多層フィルムの表面又は裏面を形成するドープ粘度V(Pa・s)と、前記流延ダイのリップクリアランスの平均値C1(mm)との関係が、
V≦-146×C1+219 を満たし、より好ましくは
V≦-135×C1+200 であり、
さらに好ましくは
V≦-118×C1+175 である。
前記ドープを流延する際の温度T1(℃)での前記多層フィルムの表面又は裏面を形成するドープ粘度V(Pa・s)を5~60Pa・sの範囲とすることが好ましく、より好ましくは5~55Pa・sの範囲であり、最も好ましくは7~40Pa・sの範囲とすることである。前記リップクリアランスの平均値C1(mm)が、0.9~1.5mmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.9~1.2mmの範囲とすることであり、最も好ましくは0.9~1.1mmの範囲とすることである。前記ドープを流延する際の前記ドープの温度T1(℃)を20~38℃の範囲とすることが好ましい。
また、基層用ドープ、無端支持体面層用ドープ、エアー面層用ドープ、のうち少なくとも2種類以上は異なる粘度とし、流延膜を構成する基層の厚さt1(μm)と、無端支持体面層の厚さt2(μm)と、エアー面層の厚さt3(μm)との関係を、t2≦t3≦t1とすることが好ましい。さらに、流延膜の厚さに対するt3の割合を、3%以上40%以下とすることが好ましい。
基層用ドープの粘度η1(Pa・s)と、無端支持体面層用ドープの粘度η2(Pa・s)と、エアー面層用ドープの粘度η3(Pa・s)との関係を、η3≦η2≦η1とすることが好ましい。
ポリマーは、重合度が100~1000の範囲の環状ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。また、η3が、5Pa・s≦η3≦30Pa・sを満たすこと好ましい。
エアー面層用ドープの質量Aと、このドープに含まれる有機溶媒の質量Bとは、16≦{(A-B)/A}×100≦21を満たすことが好ましい。
原料ドープは、添加剤を入れた後にインラインミキサーで撹拌混合することが好ましく、インラインミキサーは、原料ドープが流れる配管の直径方向に伸びるように設けられ、添加剤の投入口となるスリット状の添加口を備えることが好ましい。
添加口は、配管の径方向に平行となる長さLが配管の内径の20%以上80%以下であることが好ましい。
スリットの隙間が、0.1mm以上前記配管の内径の1/10mm以下であることが好ましく、添加口からインラインミキサーまでの距離Dを、1mm以上250mm以下とすることが好ましい。さらに、配管内を流れる添加剤の流速V1及び原料ドープの流速V2は、1≦V1/V2≦5を満たすことが好ましい。
(乾燥)
環状ポリオレフィンフィルムの製造に係る無端支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には金属製の無端支持体(例えばドラム又はバンド)の表面側、つまり金属製の無端支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラム又はバンドの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をバンドやドラムのドープ流延面の反対側である裏面から接触させて、伝熱によりドラム又はバンドを加熱し表面温度をコントロールする液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の金属製の無端支持体の表面温度はドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また金属製の無端支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1~10℃低い温度に設定することが好ましい。なお、流延ドープを冷却して乾燥することなく剥ぎ取る場合はこの限りではない。
(剥離)
金属製の無端支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブはフィルムとして次工程に送られる。
金属製の無端支持体上の剥離位置における温度は好ましくは10~40℃の範囲であり、さらに好ましくは10~30℃の範囲である。
なお、剥離する時点での金属製の無端支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、金属製の無端支持体の長さ等により10~130質量%の範囲、好ましくは10~100質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損ね、剥離張力によるツレや縦スジが発生しやすいため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。
ウェブの残留溶媒量は下記式(Z)で定義される。
式(Z)
残留溶媒量(%)=(ウェブの加熱処理前質量-ウェブの加熱処理後質量)/(ウェブの加熱処理後質量)×100
なお、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、115℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
金属製の無端支持体とフィルムとを剥離する際の剥離張力は、通常、50~245N/mの範囲内であるが、剥離の際にシワが入りやすい場合、190N/m以下の張力で剥離することが好ましい。
本発明においては、当該金属製の無端支持体上の剥離位置における温度を-50~40℃の範囲内とするのが好ましく、5~40℃の範囲内がより好ましく、5~30℃の範囲内とするのが最も好ましい。
生乾きのフィルムを金属製の無端支持体から剥離するとき、剥離抵抗(剥離荷重)が大きいと、製膜方向にフィルムが不規則に伸ばされて光学的な異方性むらを生じる。特に剥離荷重が大きいときは、製膜方向に段状に伸ばされたところと伸ばされていないところが交互に生じて、リターデーションに分布を生じる。液晶表示装置に装填すると線状又は帯状にむらが見えるようになる。このような問題を発生させないためには、フィルムの剥離荷重をフィルム剥離幅1cmあたり2.5N以下にすることが好ましい。剥離荷重はより好ましくは2N/cm以下、さらに好ましくは1.8N以下、特に好ましくは1.5N以下である。剥離荷重2.5N/cm以下のときはむらが現れやすい液晶表示装置においても剥離起因のむらは全く認められず、特に好ましい。剥離荷重を小さくする方法としては、前述のように剥離剤を添加する方法と、使用する溶媒組成の選択による方法がある。
剥離荷重の測定は次のようにして行う。製膜装置の金属製の無端支持体と同じ材質・表面粗さの金属板上にドープを滴下し、ドクターブレードを用いて均等な厚さに展延し乾燥する。カッターナイフでフィルムに均等幅の切れ込みを入れ、フィルムの先端を手で剥がしてストレンゲージにつながったクリップで挟み、ストレンゲージを斜め45度方向に引き上げながら、荷重変化を測定する。剥離されたフィルム中の揮発分も測定する。乾燥時間を変えて何回か同じ測定を行い、実際の製膜工程における剥離時残留揮発分と同じ時の剥離荷重を定める。剥離速度が速くなると剥離荷重は大きくなる傾向があり、実際に近い剥離速度で測定することが好ましい。
剥離時の好ましい残留揮発分濃度は5~60質量%である。しかし使用する環状ポリオレフィンにもよるが、残留揮発分濃度30質量%以上ではフィルム強度が乏しく剥離力に負けて切断したり伸びてしまう。また剥離後の自己保持力が乏しく、変形、シワ、クニックを生じやすくなる。またリターデーションに分布を生じる原因になる。一方、高揮発分で剥離すると乾燥速度が稼げて、生産性が向上して好ましいという利点もある。したがって更に好ましい剥離時の残留揮発分濃度は10~55質量%である。剥離剤使用量を少なくしても比較的に剥離抵抗が小さくなる15~50質量%が特に好ましい。
剥取速度は10m/min以上で、かつ2Hz以上での剥取位置の変動量が20mm未満であることが好ましい。前記無端支持体から剥ぎ取った直後の膜を支持する剥取ローラーを用いた場合であって、前記剥離位置と前記剥取ローラーの前記膜の接触位置との距離Lを0.1mm~100mmの範囲とすることが好ましい。前記無端支持体の温度を10~40℃の範囲に調整することが好ましい。
その際、製膜速度は10~150m/minの範囲で行うことが好ましい。剥離時の温度は5~50℃の範囲とすることが好ましい。
また、無端支持体から剥ぎ取り直後のフィルムは、薄い軟膜でありローラー搬送やフィルムの両側の端部(以下、耳端部と称する)を保持搬送するテンター搬送工程では、フィルムを膜厚を薄くするいわゆる薄手化とすると、安定搬送が難しくなる問題が生じる。また、フィルムの耳端部の厚さを厚くし過ぎると、高速製膜ではげ残り等が発生する場合がある。
そのため、フィルムを薄手化しても、搬送安定性を確保するため、フィルム耳端部のみ厚さを厚くすることをリップクリアランス調整以外の方法により行うことが好ましく、ダイ本体の流路とは別に、各耳端部厚さ補正用のドープの流路を設け、そこを通過するドープの流量を、ダイリップ先端のクリアランス調整とは別の調整機構により制御し、厚さ補正用ドープを、ダイ両耳端部に供給し、フィルムの両耳端部のみ厚さを独立して制御する方法が好ましい。
具体的に用いることのできる製造装置としては、ドープ用流路を有するダイ本体からドープを無端支持体上に流延するフィルムの製造装置において、前記ドープ用流路とは別に前記ダイに前記フィルム両端部厚さ補正用流路を備え、前記フィルムの両端部の厚さを独立で制御できる。前記補正用流路を通過する補正用ドープの流量を調整する調整機構を備え、前記フィルムの両端部の厚さを独立で制御できる装置であることが好ましい。前記補正用流路が、エアー抜部を有していることが好ましい。前記補正用流路が、前記ダイ本体とは独立して制御可能な保温機構を有していることが好ましく、前記補正用流路出口が、前記ダイ本体の流延幅となる流路からダイリップ先端までの間に設けられていることが好ましい。
当該フィルムの製造方法によれば、流延膜の両端部が厚くなり、流延膜全体としても膜の強度が増し、無端支持体から薄手の流延膜を剥ぎ取る際に、剥ぎ取り残りなどの異常の発生を抑制できる。なお、このように流延膜の両端部のみを厚くする方法は、ダイの本体に備えられているドープ用流路とは別に、前記ダイに前記フィルム両端部厚さ補正用流路を設け、前記補正用ドープを、前記補正用流路から供給し、前記フィルムの両端部の厚さを独立で制御するから、従来の設備に少しの改良を施すのみで本発明を実施することが可能となり、コストの低減を図ることができる。また、前記補正用流路を通過する補正用ドープの流量を、ダイリップ先端のクリアランス調整とは別の調整機構を備えたものを用いて制御することで、よりフィルムの厚さの制御を精度良く行うことができる。
(流延工程内の雰囲気)
本発明に係る流延工程では、少なくとも流延工程内の酸素濃度を10vol%未満にすることが好ましく、より好ましくは8vol%未満である。また、流延工程に続く乾燥工程が流延工程と同一のケーシング内に配置されている場合は、乾燥工程内においても酸素濃度を10vol%未満にすることになるが、流延工程と乾燥工程との間の通気性がない場合は、流延工程内のみを酸素濃度が10vol%未満となるようにすればよい。
このように酸素濃度を10vol%未満にすることにより、有機溶剤ガスの爆発等を防止することができるものであり、流延工程内の有機溶剤ガスの濃度が大きい場合に特に有効である。すなわち、有機溶剤ガスの濃度が、その爆発下限界の25%以上となるような場合に特に有効である。
流延工程内の酸素濃度を10vol%未満にするには、窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガス又は不活性ガスと空気とを混合したものであって酸素濃度が10vol%未満の混合ガスを供給することにより行うことができる。流延工程内の酸素濃度を酸素濃度計で測定し、この測定値に応じて不活性ガス等の供給量を制御することが好ましい。
(4)乾燥・延伸工程
(4-1.乾燥工程)
乾燥工程は予備乾燥工程、本乾燥工程に分けて行うこともできる。
金属製の無端支持体から剥離して得られたウェブを乾燥させるには、ウェブを上下に配置した多数のローラーにより搬送しながら乾燥させてもよいし、テンター乾燥機のようにウェブの両端部をクリップで固定して搬送しながら乾燥させてもよい。
ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ローラー、マイクロ波等で行うことができるが、簡便さの点で、熱風で行うことが好ましい。
ウェブの乾燥工程における乾燥温度は好ましくはフィルムのガラス転移点以下であって、100℃以上の温度で10~60分の範囲内の熱処理を行うことが効果的である。乾燥温度は100~200℃の範囲内、更に好ましくは110~160℃の範囲内で乾燥が行われる。
(4-2.延伸工程)
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、延伸処理することでフィルム内の分子の配向を制御することができ、平面性を向上したり、強靭性を得たりすることができる。また、所望の値に位相差を調整することができる。
延伸操作は多段階に分割して実施してもよい。また、二軸延伸を行う場合には同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。
すなわち、例えば、次のような延伸ステップも可能である:
・流延方向に延伸→幅手方向に延伸→流延方向に延伸→流延方向に延伸
・幅手方向に延伸→幅手方向に延伸→流延方向に延伸→流延方向に延伸
また、同時二軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を、張力を緩和して収縮する場合も含まれる。
延伸開始時の残留溶媒量は2~10質量%の範囲内であることが好ましい。
当該残留溶媒量は、2質量%以上であれば、膜厚偏差が小さくなり、平面性の観点から好ましく、10質量%以内であれば、表面の凹凸が減り、平面性が向上し好ましい。
ウェブを金属製の無端支持体より剥離した後、ウェブ(フィルム)の乾燥工程においては、一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールをウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら、乾燥する方式が採られており、最終的に、残留溶媒量が0.5質量%以下となるまで乾燥される。
また、ウェブに含まれる残留溶媒量は目的のリターデーション値を得るために、やや高めの量であってもよく、高リターデーション値を付与するには、15~100質量%、好ましくは20~50質量%の範囲で有していてもよい。
本発明による環状ポリオレフィンフィルムの製造方法の一つは、フィルムの搬送方向に直行する方向(TD方向)に延伸する延伸工程を具備し、延伸工程より下流側に熱処理工程を備え、熱処理工程内でフィルム温度を、ガラス転移温度(Tg)-50℃以上、Tg+40℃以下の温度とし、さらに熱処理工程のガイドロールのロールスパンを50~300mmの範囲とし、フィルムの搬送張力を15~100N/mの範囲として加熱処理を行うものである。ここで、ガラス転移温度(Tg)は、完成したフィルムのガラス転移点温度をいう。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法によれば、溶液流延法において、延伸工程より下流側の別の工程で、フィルムの幅手方向の収縮を抑制しつつ、フィルムにガラス転移温度(Tg)以上の温度を加えることによって、従来の溶液製膜法で作製されたセルロースエステル系樹脂では達成し得なかったフィルムのMD方向(フィルムの搬送方向)の収縮が促進され、厚さ方向リターデーション(Rt)の低下だけでなく、リターデーション値の幅手方向の均一性を確保することができて、フィルムのヘイズ値の低減をも実現できるものである。
本発明の製造方法では、フィルム搬送方向への延伸(MD延伸)における延伸倍率は、1~25%であることが好ましく、3~20%であることがより好ましい。
なお、ここでいう「延伸倍率(%)」とは、以下の式により求められるものを意味する。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)-(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
ウェブをフィルム搬送方向に延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、又は縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸が行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。前記縦方向への延伸は、二つのニップロールを有する装置を用い、入口側のニップロールの回転速度よりも、出口側のニップロールの回転速度を速くすることにより、搬送方向(縦方向)に環状ポリオレフィンフィルムを好ましく延伸することが好ましい。このような延伸を行うことによって、リターデーションの発現性も調整することができる。
本発明のいま一つの環状ポリオレフィンフィルムの製造方法は、同様にフィルムの搬送方向に直行する方向(TD方向)に延伸する延伸工程を具備し、延伸工程より上流側に熱処理工程を備え、熱処理工程内でフィルム温度を、ガラス転移温度(Tg)-50℃以上、Tg+20℃以下の温度とし、さらに熱処理工程のガイドロールのロールスパンを50~300mmの範囲とし、フィルムの搬送張力を15~100N/mの範囲として加熱処理を行い、さらにこの熱処理工程より下流側で一旦フィルムをガラス転移温度(Tg)以下の温度まで冷却し、その後、延伸を施すものであることが好ましい。この環状ポリオレフィンフィルムの製造方法によれば、溶液流延製膜法において、延伸工程より上流側のプロセスで、ガラス転移温度(Tg)付近の温度まで昇温させたのち、再度冷却工程を経て、再度、ガラス転移温度(Tg)付近の温度まで昇温しながら延伸することによって、面内リターデーション(Ro)と厚さ方向リターデーション(Rt)の適切な組み合わせを実現することができて、フィルムのヘイズ値の低減をも実現できる。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、例えば、VA型液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いる場合には、面内リターデーション(Ro)が45~65nmの範囲、厚さ方向リターデーション(Rt)が105~140nmの範囲であり、厚さ方向リターデーション(Rt)と面内リターデーション(Ro)との比:Rt/Roが、1.6~2.6であることが好ましい。
このような本発明の環状ポリオレフィンフィルムによれば、厚さ方向リターデーション(Rt)の低下だけでなく、リターデーション値の幅手方向の均一性を確保することができるとともに、面内リターデーション(Ro)と厚さ方向リターデーション(Rt)の適切な組み合わせを実現することができ、フィルムのヘイズ値の低減により、ひいては液晶表示パネルの正面コントラストの向上を果たし得るものである。
位相差フィルムを作製するための延伸工程(テンター工程ともいう)の一例を、図8を用いて説明する。
図8は、本発明の環状ポリオレフィンフィルムを製造するにあたって、好ましく使用されるテンター延伸装置201の一例を模式的に示したものである。同図において、テンター延伸装置201は模式的に記載されているが、通常は、無端チェーンよりなる左右一対の回転駆動装置(輪状のチェーン)201a、201bの1列状態に具備された多数のクリップ202a、202bのうち、フィルム(F)の左右両端部を把持して引っ張るチェーン往路側直線移行部のクリップ202a、202bがフィルム(F)の幅手方向に漸次離れるように、左右のチェーン201a、201bの軌道が設置されており、フィルムFの幅手方向の延伸が行われるようになされている。
図8において、工程Aでは、無端支持体(図示略)から剥離されて搬送されてきたウェブ(フィルム)Fを左右把持手段(クリップ)202a、202bによって把持する工程であり、次の工程Bにおいて、同図に示すような延伸角度でウェブが幅手方向(ウェブの進行方向と直交する方向)に延伸され、工程Cにおいては、延伸が終了し、ウェブを把持したまま搬送する工程で、工程Dは、ウェブを幅手方向に緩和する工程である。
無端支持体からウェブを剥離した後から工程B開始前及び/又は工程Cの直後に、ウェブ幅方向の端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。特に、A工程開始直前にウェブ端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。幅手方向に同一の延伸を行った際、特に工程B開始前にウェブ端部を切除した場合とウェブ端部を切除しない条件とを比較すると、前者がより光学遅相軸の分布(配向角分布ともいう)を改良する効果が得られる。
テンター工程において、配向角分布を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設けることも好ましい。
なお、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することが好ましい。また、二軸延伸を行う場合にも同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。
金属製の無端支持体より剥離したウェブを乾燥させながら搬送し、さらにウェブの両端をピン又はクリップ等で把持するテンター方式で幅方向に延伸を行うことが特に好ましく、これによって所定の位相差を付与することができる。この時、幅方向のみに延伸してもよいし、同時二軸延伸することも好ましい。好ましい延伸倍率は1.05~2倍が好ましく、好ましくは1.15~1.5倍である。同時二軸延伸の際に縦方向に収縮させてもよく、0.8~0.99、好ましくは0.9~0.99となるように収縮させてもよい。好ましくは、横方向延伸及び縦方向の延伸若しくは収縮により面積が1.12~1.6倍となっていることが好ましく、1.15~1.5倍となっていることが好ましい。これは縦方向の延伸倍率×横方向の延伸倍率で求めることができる。
また、本発明における「延伸方向」とは、延伸操作を行う場合の直接的に延伸応力を加える方向という意味で使用する場合が通常であるが、多段階に二軸延伸される場合に、最終的に延伸倍率の大きくなった方(すなわち、通常遅相軸となる方向)の意味で使用されることもある。
工程Aでの予熱時間は、長時間又はより高温であることが好ましい。幅手方向のフィルム温度均一性とリターデーション制御性の点で、130~200℃が好ましく、3~60秒が好ましい。
工程Bでのウェブ昇温速度は、配向角分布を良好にするために、0.5~10℃/秒の範囲が好ましい。
工程Bでの延伸時間は、短時間である方が好ましい。ただし、ウェブの均一性の観点から、最低限必要な延伸時間の範囲が規定される。具体的には1~10秒の範囲であることが好ましく、4~10秒の範囲がより好ましい。
上記テンター工程において、熱伝達係数は一定でもよいし、変化させてもよい。熱伝達係数としては、41.9~419×103J/m2hrの範囲の熱伝達係数を持つことが好ましい。さらに好ましくは、41.9~209.5×103J/m2hrの範囲であり、41.9~126×103J/m2hrの範囲が最も好ましい。
上記工程Bでの幅手方向への延伸速度は、一定で行ってもよいし、変化させてもよい。延伸速度としては、50~2000%/minが好ましく、さらに好ましくは100~1000%/min、150~800%/minが最も好ましい。
上記工程Bにおいて最初の10cmにおける応力を制御することは本発明の効果を得る上で好ましく、100~200N/mmの範囲で制御することが好ましい。
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ないことが、ウェブの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。上記温度分布を少なくすることにより、ウェブの幅手での温度分布も小さくなることが期待できる。
工程Dにおいて、幅方向に緩和することが好ましい。具体的には、前工程の延伸後の最終的なウェブ幅に対して95~99.5%の範囲になるようにウェブ幅を調整することが好ましい。
また、本発明ではポリマーの配向を精度よく行うために、テンターの左右把持手段によってウェブの把持長(把持開始から把持終了までの距離)を左右で独立に制御できるテンターを用いることも好ましい。
テンター延伸装置でウェブの左右両端を把持している部分の長さを左右独立に制御して、ウェブの把持長を左右で異なるものとする手段としては、具体的には、例えば図9に示すようなものがある。
図9は、位相差フィルムを製造するにあたって、好ましく使用されるテンター延伸装置201の一例を模式的に示したものである。
同図において、テンター延伸装置201の左右把持手段(クリップ)202a、202bの把持開始位置のクリップスターター203a、203bの設置位置を左右で同じとし、左右クリップクローザー204a、204bの設置位置を左右で変えることにより、フィルムFの左右把持長(Xa)(Xb)を変化させ、これによってテンター延伸装置201内でフィルムFをねじるような力が発生し、テンター延伸装置201以外の搬送による位置ずれを矯正することができ、剥離からテンターまでの搬送距離を長くしてもウェブの蛇行やツレ、シワの発生を効果的に防止することができる。
また、本発明ではシワ、ツレ、歪み等をさらに精度よく矯正するために、長尺フィルムの蛇行を防止する装置を付加することが好ましく、特開平6-8663号公報に記載のエッジポジションコントローラー(EPCと称することもある)や、センターポジションコントローラー(CPCと称することもある)等の蛇行修正装置が使用されることが好ましい。これらの装置は、フィルム耳端をエアーサーボセンサーや光センサーにて検知して、その情報に基づいてフィルムの搬送方向を制御し、フィルムの耳端や幅方向の中央が一定の搬送位置となるようにするもので、そのアクチュエーターとして、具体的には1~2本のガイドロールや駆動付きフラットエキスパンダーロールをライン方向に対して、左右(又は上下)にふることで蛇行修正したり、フィルムの左右に小型の2本1組のピンチロールを設置(フィルムの表と裏に1本ずつ設置されていて、それがフィルムの両側にある)し、これにてフィルムを挟み引っ張り蛇行修正したりしている(クロスガイダー方式)。これらの装置の蛇行修正の原理は、フィルムが走行中に、例えば左に行こうとする時は前者の方式ではロールをフィルムが右に行くように傾ける方法をとり、後者の方法では右側の1組のピンチロールがニップされて、右に引っ張るというものである。これら蛇行防止装置をフィルム剥離点からテンター延伸装置の間に少なくとも1台設置することが好ましい。
テンター工程で処理した後、さらに後乾燥工程を設けるのが好ましい。
この工程でウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことができるが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
(斜め延伸)
斜め延伸は、製膜された長尺フィルムを幅手方向に対して斜めの方向に延伸する工程である。長尺フィルムの製造方法では、フィルムを連続的に製造することにより、所望の任意の長さにフィルムを製造しうる。なお、長尺延伸フィルムの製造方法は、長尺フィルムを製膜した後に一度巻芯に巻き取り、巻回体(原反ともいう)にしてから斜め延伸工程に供給するようにしてもよいし、製膜後のフィルムを巻き取ることなく、製膜工程から連続して斜め延伸工程に供給してもよい。製膜工程と斜め延伸工程を連続して行うことは、延伸後の膜厚や光学値の結果をフィードバックして製膜条件を変更し、所望の長尺延伸フィルムを得ることができるので好ましい。
斜め延伸での長尺延伸フィルムの製造方法では、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度に遅相軸を有する長尺延伸フィルムを製造する。ここで、フィルムの幅手方向に対する角度とは、フィルム面内における角度である。フィルム面内の遅相軸は、通常延伸方向又は延伸方向に直角な方向に発現するので、フィルムの延長方向に対して0°を超え90°未満の角度で延伸を行うことにより、このような遅相軸を有する長尺延伸フィルムを製造しうる。
長尺延伸フィルムの幅手方向と遅相軸とがなす角度、すなわち配向角は、0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
長尺フィルムに斜め方向の配向を付与するために、斜め延伸装置を用いる。本実施形態で用いられる斜め延伸装置は、把持具走行支持具の経路パターンを多様に変化させることにより、フィルムの配向角を自在に設定でき、さらに、フィルムの配向軸をフィルム幅方向に渡って左右均等に高精度に配向させることができ、かつ、高精度でフィルム厚さやリターデーションを制御できるフィルム延伸装置であることが好ましい。
図11は、本実施形態の長尺延伸フィルムの製造方法に用いられる斜め延伸を説明するための模式図である。ただし、これは一例であって本発明はこれに限定されるものではない。
延伸装置に繰入る際の長尺フィルムの走行方向(延伸前の走行方向)D1は、延伸装置から繰出る際の長尺延伸フィルムの走行方向(延伸後の走行方向)D2と異なっており、繰出角度θiを成している。繰出角度θiは0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
長尺フィルムは斜め延伸装置入口(把持具が長尺フィルムを把持する把持開始点であり、当該把持開始点を結んだ直線を参照符号Aで示す)においてその両端を左右の把持具(一対の把持具対)によって把持され、把持具の走行に伴い走行される。
把持具対は、斜め延伸装置入口で、長尺フィルムの走行方向(延伸前の走行方向)D1に対して略垂直な方向に相対している左右の把持具Ci及び把持具Coからなる。左右の把持具Ci及び把持具Coは、それぞれ左右非対称な経路を走行し、延伸終了時の位置(把持具が把持を解放する把持解放点であり、当該把持解放点を結んだ直線を参照符号Bで示す)で把持した長尺延伸フィルムを解放する。
このとき、斜め延伸装置入口(図中Aの位置)で相対していた左右の把持具Ci及び把持具Coは、それぞれ内側の把持具走行支持具Ri及び外側の把持具走行支持具Roを走行するにつれて、内側の把持具走行支持具Riを走行する把持具Ciは、外側の把持具走行支持具Roを走行する把持具Coに対して進行する位置関係となる。
すなわち、斜め延伸装置入口で長尺フィルムの走行方向D1に対して略垂直な方向に相対していた把持具Ci及び把持具Coが、位置Bにある状態で、該把持具Ci及び把持具Coを結んだ直線が長尺延伸フィルムの走行方向(延伸後の走行方向)D2に対して略垂直な方向に対して角度θLだけ傾斜している。
以上の所作をもって、長尺フィルムがθLの方向に斜め延伸されることとなる。ここで略垂直とは、90±1°の範囲にあることを示す。
斜め延伸可能な延伸装置は、長尺フィルムを、延伸可能な任意の温度に加熱し、斜め延伸する装置である。この延伸装置は、加熱ゾーン(加熱炉)と、長尺フィルムの両側を把持して走行するための両側で一対となる複数の把持具と、前記把持具の走行を支持するための把持具走行支持具とを備えている。
延伸装置の入口部(把持開始点)に順次供給される長尺フィルムの両端を、把持具で把持し、加熱炉内に長尺フィルムを導き、延伸装置の出口部(把持解放点)で把持具から長尺延伸フィルムを解放する。把持具から解放された長尺延伸フィルムは巻芯に巻き取られる。把持具を備える把持具走行支持具は無端状の連続軌道を有し、延伸装置の出口部で長尺延伸フィルムの把持を解放した把持具は、把持具走行支持具によって順次把持開始点に戻されるようになっている。
把持具走行支持具は、例えば、ガイドレールやギアによってそれぞれ経路を規制されている無端状のチェーンが把持具を備える形態であってもよいし、無端状のガイドレールが把持具を備える形態であってもよい。すなわち、本発明では、把持具走行支持具は、例えば無端状のチェーンを備えた有端状のガイドレールであってもよく、無端状のチェーンを備えた無端状のガイドレールであってもよく、チェーンを備えない無端状のガイドレールであってもよい。把持具は、把持具走行支持具がチェーンを備えない場合には、把持具走行支持具そのものの経路を走行し、チェーンを備える場合には、当該チェーンを介して把持具走行支持具の経路を走行する。以下、本発明では、一例として、把持具走行支持具の経路を把持具が走行する場合を説明するが、把持具は、把持具が設けられたチェーンを介して把持具走行支持具の経路を走行してもよい。
それぞれの把持具走行支持具に設けられた把持具の数は特に限定されないが、同数であることが好ましい。
なお、延伸装置の把持具走行支持具は左右で非対称な形状となっており、製造すべき長尺延伸フィルムに与える配向角、延伸倍率等に応じて、把持具走行支持具の経路のパターンは手動で、又は自動で調整できるようになっている。
本実施形態の延伸装置では、各把持具走行支持具の経路を自由に設定し、把持具走行支持具の経路のパターンを任意に変更できることが好ましい。
把持具走行支持具の長さ(全長)としては特に限定されず、通常は10~100m程度である。また、両側の把持具走行支持具の全長は同じであってもよく、異なっていてもよい。
本発明の実施形態において、延伸装置の把持具の走行速度は適宜選択できるが、中でも15~150m/分が好ましい。延伸装置の把持具の走行速度が150m/分より高速になると、屈曲部において、フィルムの端部にかかる局所的な応力が大きくなり、フィルムの端部にシワや寄りが発生し、延伸終了後に得られるフィルムの全幅のうち、良品として得られる有効幅が狭くなる傾向がある。
本発明において、把持具対を構成する二つの把持具の走行速度は、同じであってもよく、異なっていてもよい。延伸工程出口で長尺延伸フィルムの左右に走行速度差があると、延伸工程出口におけるシワ、寄りが発生する可能性があるため、把持具対を構成する左右の把持具の速度差は、実質的に等速であることが好ましい。
本発明において、把持具は、前後の把持具と一定間隔を保って走行することが好ましい。
把持具対を構成する把持具の走行速度を等速とする場合において、それぞれの把持具の走行速度の差は、1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。一般的な延伸装置等では、チェーンを駆動するスプロケット(ギア)の歯の周期、駆動モーターの周波数等に応じ、秒以下のオーダーで発生する速度むらがあり、しばしば数%のむらを生ずるが、これらは本実施形態で述べる速度差には該当しない。
本発明で用いられる斜め延伸装置において、特に長尺フィルムの搬送が斜めになる箇所において、把持具の軌跡を規制する把持具走行支持具には、しばしば大きい屈曲率が求められる。急激な屈曲による把持具同士の干渉、又は局所的な応力集中を避ける目的から、屈曲部では把持具の軌跡が円弧を描くように湾曲していることが望ましい。
長尺フィルムは、斜め延伸装置入口(図11の直線Aの位置)において、その両端を左右の把持具(一対の把持具対)によって順次把持されて、把持具の走行に伴い走行される。斜め延伸装置入口で、長尺フィルムの走行方向D1に対して略垂直な方向に相対している把持具対は、左右非対称な経路を走行し、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱固定ゾーンを有する加熱炉を通過する。
予熱ゾーンとは、加熱炉入口において、両端を把持した把持具の間隔が一定の間隔を保ったまま走行する区間をさす。
延伸ゾーンとは、両端を把持した把持具の間隔が開きだし、所定の間隔になるまでの区間をさす。本実施形態においては、延伸ゾーン内で斜め方向に延伸することができるが、斜め方向の延伸だけに限らず、延伸ゾーン内で横延伸した後に斜め延伸してもよいし、斜め延伸した後にさらに幅手方向に延伸してもよい。
熱固定ゾーンとは、延伸ゾーンより後の把持具の間隔が再び一定となる期間において、両端の把持具が互いに平行を保ったまま走行する区間をさす。熱固定ゾーンを通過した後に、ゾーン内の温度が長尺フィルムを構成する環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度Tg℃以下に設定される区間(冷却ゾーン)を通過してもよい。このとき、冷却による長尺延伸フィルムの縮みを考慮して、あらかじめ対向する把持具間隔を狭めるような経路パターンとしてもよい。
フィルムの機械物性や光学特性を調整する目的で斜め延伸装置に長尺フィルムを導入する前後の工程において必要に応じて横延伸及び縦延伸を実施してもよい。
各ゾーンの温度は、環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンの温度はTg-10~Tg+30℃の範囲、延伸ゾーンの温度はTg-10~Tg+30℃の範囲、冷却ゾーンの温度はTg-30~Tg+10℃の範囲に設定することが好ましい。
なお、幅方向の厚さむらの制御のために延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけてもよい。延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差をつけるように調整する方法や、ヒーターを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。予熱ゾーン、延伸ゾーン及び熱固定ゾーンの長さは適宜選択でき、延伸ゾーンの長さに対して、予熱ゾーンの長さが通常100~150%の範囲、熱固定ゾーンの長さが通常50~100%の範囲である。
延伸工程における延伸倍率R(W/W0)は、好ましくは1.3~3.0の範囲、より好ましくは1.3~2.5の範囲である。延伸倍率がこの範囲にあると幅方向厚さむらが小さくなるので好ましい。また必要に応じて延伸ゾーンにおいて、幅方向で延伸温度に差をつけるように延伸温度を設定すると、幅方向の厚さむらをさらに抑制することが可能になる。なお、W0は延伸前の長尺フィルムの幅、Wは延伸後の長尺延伸フィルムの幅をあらわす。
図12を参照しながら、より具体的に本実施形態の製造方法の斜め延伸工程について説明する。図12は、本実施形態の製造方法において使用する延伸装置の概略図である。
図12に示されるように、斜め延伸装置401は、長尺フィルムFの両側に、長尺フィルムFを把持する把持具(図示せず)が走行する把持具走行支持具402を有する。把持具走行支持具402は、一部が加熱炉403内を通過するように配置されている。
加熱炉403は、上記のとおり、炉内において複数のゾーンに分けられている。図12では予熱ゾーン、延伸ゾーン404、熱固定ゾーンの三つのゾーンに分けられている場合を例示している。また、把持具走行支持具402は、少なくとも延伸ゾーン404に側壁406を有する。
側壁406は、延伸ゾーン404において、両側の把持具走行支持具402に沿って設けられている。側壁406は、走行する長尺フィルムにより発生する空気の対流を遮り、長尺フィルムFから余分空間への熱の移動を妨げることができる。そのため、長尺フィルムFは、延伸ゾーンにおいて、温度むらがなく、充分かつ均一に熱が付与された状態で延伸される。その結果、得られる長尺フィルムの配向角の幅手方向のばらつきが小さく、品質の安定した長尺延伸フィルムが得られる。
側壁406の設置方法としては特に限定されず、把持具走行支持具402の近傍に設置するか、把持具走行支持具402に一体的に設けることができる。把持具走行支持具402の近傍に側壁406を設置する場合は、加熱炉403又は把持具走行支持具402の設置面に固着するなどにより、安定に設置することが好ましい。側壁406は、以下に示すように、把持具走行支持具402の移動に追従して移動させるという観点から、把持具走行支持具402と一体的に設けることが好ましい。
斜め延伸装置401の延伸方向を変更する場合において、側壁406は、把持具走行支持具402の移動に追従して移動することが好ましい。
すなわち、延伸角度を変更する場合において、変更前後の把持具走行支持具402の形状に合わせて側壁406の形状、位置、向き(以下、これらを合わせて形状等という場合がある)が変化することが好ましい。このように、側壁406が把持具走行支持具402の移動に追従して移動することにより、側壁406の形状は、移動後の把持具走行支持具の経路パターンに合わせて調整される。そのため、延伸角度によらず、得られる長尺延伸フィルムの配向角の幅手方向のばらつきを小さくすることができ、安定した品質の長尺延伸フィルムが得られる長尺延伸フィルムを製造することができる。
このように側壁406を把持具走行支持具402の移動に追従させる方法としては特に限定されない。例えば、前記図10に示されるようなクリップを用いてもよい。
このように、側壁406を把持具走行支持具402と一体的に設けて把持具走行支持具402の移動に追従して移動できるように構成することにより、側壁406の形状等は、把持具走行支持具402の形状を変更させると同時に変更される。その結果、長尺フィルムFには、延伸角度によらず、充分かつ均一な熱が付与され続け、その結果、配向角の幅手方向のばらつきが小さい安定した品質の長尺延伸フィルムが得られうる。
側壁406を構成する材料としては特に限定されず、樹脂や金属からなる側壁406を採用することができる。また、側壁406は、単一の部材で形成する必要がなく、複数の部材を蝶番等により接続して作製してもよい。
また、側壁406の表面は、長尺フィルムFから余分空間への熱の移動を妨げるために、断熱性を有する素材で構成されているか、被覆されていることが好ましい。
側壁406の高さとしては、特に限定されず、加熱炉403の内部形状等を考慮して、長尺フィルムFと余分空間との熱の出入りを妨げることができる程度の高さであればよい。特に、側壁406の高さは、延伸角度を変更する場合に把持具走行支持具402の移動に追従して移動できるように、加熱炉403の内部と接触しない程度の高さを有することが好ましい。
側壁406の厚さとしては、特に限定されず、長尺フィルムFと余分空間との熱の出入りを妨げることができる程度の厚さであればよい。特に、側壁406の厚さは、延伸角度を変更する場合に把持具走行支持具402の移動に追従して側壁406が移動する場合において、側壁406の折り曲げや回動を妨げない程度の厚さであることが好ましい。
本実施形態の製造方法では、図12に示されるように、側壁406は少なくとも延伸ゾーン404を通過する把持具走行支持具402に沿って設けられている。そのため、長尺フィルムFの延伸角度を変更した場合であっても、余分空間の容積や位置の変化とは無関係に、延伸される長尺フィルムFには温度むらがなく充分かつ均一に熱が付与される。その結果、得られる長尺延伸フィルムは、延伸角度によらず、長尺フィルムFの配向角の幅手方向のばらつきが抑制される。
なお、図12に示されるように、延伸ゾーン404にのみ側壁406が設けられている場合には、側壁406が設けられていないゾーンにおいて、長尺フィルムFからの熱が余分空間に移動する可能性がある。しかしながら、上記のとおり、長尺フィルムFは、延伸ゾーン前の予熱ゾーンでは予熱されるに過ぎず、延伸ゾーン後の熱固定ゾーンでは収縮しないように熱固定されるに過ぎない。そのため、これらのゾーンにおいて長尺フィルムFに温度むらが生じたとしても、得られる長尺延伸フィルムの配向角の幅手方向のばらつきに与える影響は小さい。その結果、本実施形態の製造方法によれば、少なくとも延伸ゾーンにおいて側壁406を設けているため、得られる長尺延伸フィルムの配向角の幅手方向のばらつきを充分に小さくすることができる。
また、本実施形態の製造方法の別例として、加熱炉403内に設置された把持具走行支持具402の全体に沿って側壁406を設けることができる。このように、加熱炉403内の全てのゾーンにおいて側壁406を設けることにより、より確実に長尺フィルムFと余分空間との熱の出入りを遮って、加熱炉403内を走行する長尺フィルムFの全体に渡って充分かつ均一に熱を付与することができる。また、延伸角度を変更した場合であっても、余分空間の容積や位置の変化とは無関係に、走行する長尺フィルムFには充分かつ均一な熱が加えられる。その結果、得られる長尺延伸フィルムの温度むらをより確実に抑制することができ、延伸角度によらず、長尺延伸フィルムの配向角の幅手方向のばらつきを小さくすることができる。
図12では、把持具走行支持具402のうち、長尺フィルムFを把持している把持具が走行する区間(以下、この区間を往路区間という場合がある)のみを示しており、把持具が長尺フィルムFの把持を解放した後に走行する区間(以下、この区間を復路区間という場合がある)は省略している。復路区間の把持具走行支持具402は、加熱炉403内に配置されていてもよく、加熱炉403の外部に設けられていてもよい。
そして、例えば、復路区間の把持具走行支持具402が、加熱炉403内に設けられており、かつ、往路区間の把持具走行支持具402の近傍に設けられている場合には、側壁406は、往路区間の把持具走行支持具402に設けてもよく、復路区間の把持具走行支持具402に設けてもよく、両区間の把持具走行支持具402に設けてもよい。すなわち、側壁406は、長尺フィルムFから余分空間への熱の移動を遮ることができる位置に配置すればよい。このように、復路区間の把持具走行支持具402が、加熱炉403内に設けられており、かつ、往路区間の把持具走行支持具402の近傍に設けられている場合には、復路区間の把持具走行支持具402に設けることによっても、長尺フィルムFから余分空間への熱の移動を遮るようにすることができる。
(湿式延伸)
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、未延伸フィルムに湿式延伸を行うこともできる。このような湿式延伸によって、高分子鎖を配向させた高分子配向フィルムが得られる。
湿式延伸とは、延伸する直前にフィルムを軟化させる手段として実質的に水を使用した延伸方法の総称であり、この際、水はフィルムの主なポリマー材料にとって実質的な可塑剤の役目をしている。通常樹脂フィルムを可塑化させるためには可塑剤の量によってフィルムが軟化することは良く知られており、本発明に用いられる湿式延伸も基本的にこの考えに基づく。
上述のように本発明のフィルム作製においては、延伸時にフィルムがどの程度水に軟化(可塑化)されているかが重要であり、どの程度フィルム中に水が含まれているか、すなわち含水率を知ることが重要である。
[含水率]
含水率はフィルム中に含まれる水の質量分率(%)であり、実際には水分計の示した水分量(μg)をWとし、秤量したサンプル量をF(mg)とすると、含水率(質量%)=0.1×(W/F)で表される。
実際に本発明のフィルムの材料にのっとって考えると、本発明の環状ポリオレフィンフィルムのポリマー材料においては、室温で含水率が0.01%程度である。通常、このような環状ポリオレフィンフィルム(原反)に対してガラス転移点(Tg)程度に昇温させることで延伸可能な状態とし、延伸を行う。このようなTg程度、例えば130℃にすると含水率は更に低下し、0.001質量%となる。本発明ではこのような環状ポリオレフィンフィルム(原反)を延伸前に含水させることで、環状ポリオレフィンフィルムの含水率を0.001~1質量%の範囲、より好ましくは0.001~0.5質量%の範囲、さらに好ましくは0.005~0.3質量%の範囲とするものである。
延伸時のフィルムの含水率を0.001~1質量%の範囲にすることは、環状ポリオレフィンフィルムのガラス転移温度(Tg)を130℃(含水率0.001質量%)から75℃(含水率0.005質量%)へ低下させることになり、通常の延伸温度(130℃)より低い温度で均一な延伸が可能となる。なお、含水率5.5質量%の環状ポリオレフィンフィルムのTgは、銀製密封パン(70μl)中に水を入れ環状ポリオレフィンフィルムを浸漬させて、温度変調型DSC(TAインスツルメント社製DSC2910)を用いて測定したものである。
延伸時におけるフィルムの含水率を制御するため、延伸前に該フィルムを水中に浸漬してもよいし、又は恒温高湿にて調湿してもよいし、またこれら二つを併用して用いてもよい。水槽へ浸漬する場合、水の温度は50~100℃の範囲が好ましく、60~95℃の範囲が更に好ましく、70~90℃の範囲が特に好ましい。浸漬時間は5秒~10分の範囲が好ましく、10秒~8分の範囲が更に好ましく、20秒~6分の範囲が特に好ましい。恒温高湿で調湿する場合、温度は50~150℃の範囲が好ましく、60~140℃の範囲が更に好ましく、70~120℃の範囲が特に好ましい。相対湿度は60~100%の範囲以下が好ましい。
これらの浸漬、蒸気曝気に用いる水は実質的に水であれば良い。実質的に水とは60質量%以上が水からなるものを指し、水以外に下記の有機溶媒、可塑剤、界面活性剤等を含んでも良い。好ましい有機溶媒として炭素数が1~10の水溶性有機溶媒が挙げられる。ただし、より好ましくは90質量%以上が水であり、更に好ましくは95質量%以上が水であり、最も好ましいのは、純水を用いたものである。以下に記述で用いられる水についても実質的に水であればよい。
延伸時の雰囲気は空気中、水蒸気中、水中のいずれであってもよい。延伸時の雰囲気が空気中とは、温度を制御し湿度は制御していない雰囲気中での延伸を指している。延伸時温度は50~150℃の範囲であることが好ましく、60~130℃の範囲であることがさらに好ましく、65~110℃の範囲であることが特に好ましい。延伸時の雰囲気が水蒸気中とは、恒温高湿であること又は、水蒸気をフィルムにあてることを指している。延伸時温度は50~150℃の範囲が好ましく、60~140℃の範囲が更に好ましく、70~130℃の範囲が特に好ましい。相対湿度は60~100%の範囲が好ましい。このようにすることで本発明のフィルム、特に環状ポリオレフィン樹脂中の含水率は2.0~20.0質量%の範囲に保持される。含水率が2.0質量%より小さくなると延伸時において破断伸度は小さく、切れやすくなり、所望のリターデーションに到達しないことがある。
延伸時の雰囲気が水中とは、フィルムを水槽へ浸漬させながら延伸することを指している。水の温度は50~100℃の範囲が好ましく、60~98℃の範囲が更に好ましく、65~95℃の範囲が特に好ましい。浸漬時間は0.5秒~10分の範囲が好ましく、1秒~8分の範囲が更に好ましく、1秒~7分の範囲が特に好ましい。
延伸時にフィルムを固定する固定部材間の距離をLとし、その固定部材間と垂直な方向をWとし、延伸時のフィルム形状のアスペクト比をL/Wとすると、アスペクト比は0.1~10の範囲が好ましく、0.1~8.0の範囲が更に好ましく、0.1~6.0の範囲が特に好ましい。なお、ここでいう「延伸時」とは、延伸前のフィルムの縦横比を意味する。
延伸直後の含水率を0.001~1質量%の範囲に保つことは、フィルムが均一に延伸なされるためには必須である。延伸直前のゾーンでフィルムの含水率を0.001~1質量%の範囲に制御しているため、含水率が1.0質量%以下だと破断伸度は小さくなり、所望の厚さで正面リターデーションをλ/4領域まで出すことができない。ここで、延伸直後の含水率とは、延伸工程を終えた直後のフィルムの含水率を指している。また、延伸工程を経た後、巻取り部位に至るまでにフィルムに付着している水分を除去してもよい。エアナイフ方式、ブレード方式など公知の方法を用いることができる。
(5)巻取り工程
本発明に用いられる巻取り装置の一例を図13及び図14示す。
図13及び図14に示すように、巻取装置519は、巻取ユニット551を備え、さらに張力制御ユニット552を備えることが好ましい。
巻取ユニット551は、回転軸555と、巻芯ホルダ556と、ターレット557と、モーター558と、シフト機構561と、コントローラ562、563とを有する。
回転軸555は、長手方向がB方向になるように配される。回転軸555は、長手方向の一端がターレット557に回転自在に取り付けられて、支持されている。回転軸555にはモーター558が接続し、このモーター558により回転軸555は周方向に回転する。モーター558には、コントローラ562が接続する。コントローラ562は、回転軸555の目的とする回転速度の信号が入力されると、この入力信号に基づいてモーター558を制御する。これにより、回転軸555は目的とする回転速度で回転する。
回転軸555の外周には、長手方向に延びた一対の凹部が形成されている。フィルム527が巻かれる筒状の巻芯566の内周には、巻芯566の長手方向に延びた一対の凸部が形成されている。巻芯566の凸部が回転軸555の凹部に入ることで係合し、巻芯566は回転軸555にセットされる。これにより、巻芯566は、回転軸555と一体に回転する。
回転軸555の長手方向における両端部には、巻芯566を長手方向での両端から押さえる一対の巻芯ホルダ556が設けられる。巻芯ホルダ556は、回転軸555の長手方向でスライド自在であり、スライドすることで巻芯566をB方向で変位させる。
巻芯ホルダ556には、シフト機構561が接続し、このシフト機構561は巻芯ホルダ556を回転軸555の長手方向に沿って変位させる。この変位によって、巻芯566はB方向に変位する。
シフト機構561には、コントローラ563が接続する。コントローラ563は、回転軸555の長手方向において巻芯ホルダ556を移動すべき向きと、移動の速度と、変位量との各目的値の信号が入力されると、この入力信号に基づいて巻芯ホルダ556を制御する。これにより、巻芯ホルダ556は、回転中の回転軸555上を、目的とするタイミング、速度で、目的とする変位量をもって変位する。
張力制御ユニット552は、ガイドローラー571、572と、ダンサローラー573と、シフト機構576と、コントローラ577とを備えることが好ましい。
ガイドローラー571、572は、フィルム527を第2スリッター518から巻取ユニット551へのフィルムの搬送路をなすものであり、フィルム527を巻取ユニット551へ案内するようにフィルムを支持する。ガイドローラー571、572は駆動手段を有する駆動ローラーであってもよいし、搬送されているフィルム527に接触することで回転するいわゆるフリーローラーであってもよい。
ダンサローラー573は、フィルム527の搬送方向に並ぶガイドローラー571とガイドローラー572との間に配される。フィルム527は、ガイドローラー571及びガイドローラー572に接するフィルム面とは反対側のフィルム面がダンサローラー573に接触するように、ダンサローラー573に巻きかけられる。
シフト機構576はダンサローラー573に接続しており、フィルム面と交差する方向に段差ローラー573を変位させる。この変位により、フィルム527の長手方向における張力が変化する。シフト機構576は、ダンサローラー573の変位量の信号が入力されると、この入力信号に基づき、ダンサローラー573を目的とする変位量だけ変位させる。
コントローラ577はシフト機構576に接続しており、フィルム527の長手方向における張力の目的値に対応する信号が入力されると、この入力信号に基づきダンサローラー573の変位量を求めて、求めた変位量の信号をシフト機構576に出力する。
なお、下流側のガイドローラー572には、フィルム527の長手方向における張力を検出する張力センサ(図示無し)を設けることが好ましい。この場合には、コントローラ577とガイドローラー572の張力センサーとに接続する算出部578を設けることがさらに好ましい。算出部578は、張力センサーの検出信号が入力されると、その検出信号に対応する張力と張力の目的値との差を求め、差が0(ゼロ)でない場合に張力の目的値に対応する信号を出力してコントローラ577に送る。
以上の巻取ユニット551にセットされた巻芯566に、フィルム527の長手方向の先端を巻き付けて、モーター558を駆動する。案内されてきたフィルム527は、モーター558の駆動により、巻き取られる。案内されてくるフィルム527を巻き取る間に、シフト機構561により巻芯ホルダ556をB方向に変位させ、これにより巻芯566をB方向に往復動させる。この往復動により、案内されてくるフィルム527は、溶接部上形成領域527wがB方向にずれたロールを形成しながら巻芯566に巻かれる。なお、フィルム527の溶接部上形成領域527wは、バンド533の溶接部533w上に形成された流延膜539の溶接部上領域に対応する領域である。この溶接部上形成領域527wの詳細については、別の図面を用いて後述する。
シフト機構561は、巻芯ホルダ556をB方向で一定の振幅で変位させ、巻芯566のB方向における往復動も一定の振幅をもつようになる。これにより、フィルム527の溶接部上形成領域527wが巻芯566の長手方向で一定の振幅でずれながら、フィルム527は巻芯566に巻かれる。得られたフィルムロールは、溶接部上形成領域527wがフィルム527の幅方向で一定の振幅をもってずれながら巻かれたものとなり、溶接部上形成領域527wの重なりに起因する黒い筋が無い。
溶接部上形成領域527wについて、図15を参照しながら説明する。流延膜539は、前述のとおり、バンド533の側部533sの一方から他方にわたる範囲に形成されるので、溶接部533w上にも形成されることになる。溶接部533wは、略一定の幅をもつ。溶接部533wの幅は、極めて精度良くバンド533を製造した場合であっても、10mm程度である。ただし、バンド533の精度によっては、溶接部533wの幅が、長手方向で不均一になっていたり、10mmよりも大きい場合もある。この溶接部533wは、バンド533を製造するにあたり原材料とした側部533s用の幅狭シートと中央部533c用の幅広シートとを溶接する際に、溶接ビードとして形成される領域である。この溶接部533wは、溶接後に研磨等の後処理をしても目視で認めることができる。
流延膜539のうち、溶接部533w上に形成される領域を、溶接部上領域539wと称する。溶接部533wは、前述のとおり目視で特定することができるので、溶接部上領域539wは、溶接部533w上にある領域として特定される。
流延膜539は、剥取位置PPで剥ぎ取られてから、搬送され、第1スリッター、第1テンター、第2テンター、第2スリッター等により、各種の処理が施される。これらの処理により、フィルム527にはA方向やB方向へ張力が付与されたり、B方向の側端部の切除が行われる。これにより、剥取位置PPで剥ぎ取られてから巻取装置で巻き取られるまでに、フィルム527は、長手方向に伸びたり、乾燥して幅方向で収縮したり、幅方向で延伸されて拡幅したり、切除により幅が狭くされる。
このため、流延膜とフィルム527との幅は異なる場合が通常である。さらに、流延膜の幅方向における溶接部上領域539wの位置や幅W539とフィルム527の幅方向における溶接部対応領域527wの位置や幅W527とは互いに異なる場合が通常である。
しかし、溶接部対応領域527wをフィルム527の幅方向において振幅をもつように変位させるにしても、巻取時のフィルム527においては溶接部対応領域527wを目視で確認することができない。そこで、巻取時における溶接部対応領域527wは以下の方法で特定するとよい。なお、巻取時におけるフィルム527は、本実施形態においては、巻取位置PWでのフィルム527に対応する。ただし、巻取前の一定時間のフィルム527は、乾燥が十分進んでいることから、寸法の変化が極めて少ない。このため、巻取位置PWよりも上流のフィルムを巻取時のフィルム527としてみなしても構わない。なお、巻取位置PWとは、巻芯566に巻き取られるフィルム527が、既に巻芯566に巻かれたフィルム527の外周面に接触する位置である。
まず、剥取位置PPにおける流延膜の溶接部上領域539wにマーキングをする。以降の説明においては、このマークを流延膜マークと称し、図15において符号M539を付す。マーキングは、溶媒に耐性をもつインク等で行えばよい。流延膜マークM539が、巻取位置PWに至ると、この流延膜マークM539がある領域が溶接部対応領域527wとして特定される。特定された溶接部対応領域527wに付されてあるマークを、以降の説明においてはフィルムマークと称し、図15において符号M527を付す。
図15においては、フィルムマークM527が流延膜マークM539よりも大きくなる場合を示してあるが、剥ぎ取り以降の工程の条件によって、小さくなる場合や、略同等の大きさになる場合もあるし、幅と長手方向の長さとの割合(以降、単に「幅と長さとの比」と称する)が変化している場合がある。しかし、フィルムマークM527と流延膜マークM539とについて、大きさの関係や、幅と長さとの比の関係を考慮する必要はなく、フィルムマークM527の幅を検出すれば足りる。フィルムマークM527の幅が、溶接部対応領域527wの幅W527である。
なお、図15においては、説明の便宜上、溶接部533w、溶接部上領域539w、溶接部上形成領域527wの各幅を、バンド533、流延膜539、フィルム527の幅に対して誇張して大きく描いてある。
以上のように、溶接部対応領域527wを特定し、巻取装置519により溶接部対応領域527wがB方向にずれたロールを形成しながらフィルム527を巻芯566に巻くことにより、溶接部533wに起因するフィルムロールにおける黒い筋の発生が防止される。
さらに、巻芯566のB方向における振幅をもった変位の周期は、走行するバンド533が1周する時間とすることが好ましい。バンド533が1周する時間とは、走行するバンド533の任意の部分が、バンド533の走行路の特定した位置からその特定した位置に戻ってくるまでに要する時間であり、例えば、流延位置PCにあるバンド533の部分が、再び流延位置PCに戻るまでの時間である。この時間は、例えば、バンド533の任意の箇所にマーキングをし、このマークが流延位置PCを通過する時点から次回通過する時点までの時間を測ることで求めることができる。
巻芯566の変位の周期を、走行するバンド533が1周する時間とすることにより、フィルム527の溶接部上形成領域527wの位置が、バンド533の1周する時間で得られる長さを周期として幅方向で振幅する変位量をもったフィルムロールが得られる。これにより、フィルムロールにおける黒い筋の発生が、より確実に防止される。なお、巻芯566の変位の周期は、厳密にバンド533が1周する時間としなくてもよく、1周する時間と略同等にすれば一定の効果が得られる。
巻芯566の変位の周期は、巻芯ホルダ556の変位の周期により制御することができる。そこで、巻芯566の変位の周期を設定する場合には、コントローラ563は、バンド533の1周する時間を入力されると、この入力信号に基づいてシフト機構561を制御するものにするとよい。
溶接部対応領域527wのB方向における変位の振幅は、溶接部対応領域527wの幅W527に応じて変えてもよい。具体的には、溶接部対応領域527wの幅W527が大きいほど、溶接部対応領域527wのB方向における変位の振幅を大きくする。これは、溶接部533wがバンド533の長手方向に伸びた略直線にある場合には、特に有効である。溶接部533wがバンド533の長手方向に伸びた略直線であるとは、B方向における溶接部533wの振幅が約2mm以内である場合をいう。なお、振幅とは、B方向における変位量の半分に当たる。
溶接部対応領域527wの幅W527が約10mmで一定の場合には、溶接部対応領域527wのB方向における変位の振幅は約10mmとすれば効果がある。
また、バンド533の長手方向を周期に対応させ、溶接部533wがサインカーブ(SINE CURVE)を描くように蛇行している場合には、溶接部対応領域527wも長
手方向を周期に対応させるとサインカーブを描くように蛇行する。この場合には、溶接部対応領域527wのサインカーブと同期してこれと同位相になる方向にフィルム527をさせると、溶接部対応領域527wのB方向における変位の振幅をより小さく抑えることができて好ましい。
この巻取装置519における巻取対象のフィルムサイズなどは特に限定されないが、例えば全巻取長が2000~10000mの範囲内であり、幅が500~2500mmの範囲内のサイズのフィルムであることが好ましい。
巻取り工程では除電処理を行うことが好ましい。除電処理について詳細に説明する。
図16は、乾燥工程から巻取り工程にかけての本発明の概略図であり、冷却室607から巻取室610までの間に、除電装置(送風式除電器)620、621、622を設ける。また、パスローラー623、624をアースさせ、これらパスローラー623、624にそれぞれ表面電位計625、626を近接させて設ける。
乾燥室605を出たフィルム601は、冷却室607内で除電装置620により室温まで冷却されながら除電される。除電装置620は、発生させたイオンを、送風機によりフィルム601に直接当てて除電する。この除電装置620を乾燥室605内に設置することにより、フィルムの帯電電位を下げることができる。図17は、送風式除電装置620による冷却室607内で行われるフィルム601の除電処理の概略である。図17に示すように、送風式除電装置620は、送風ヘッド620a内に収められているイオン発生器620bによってイオンを発生させ、送風機620cから通風ダクト620eを通して風を送り、スリット620dからイオン風をフィルム601に向けて放出する。なお、乾燥室605を出た時点でのフィルムの帯電電圧を測定するために、パスローラー623をアースし、このパスローラー623と接触しているフィルム601に対して、表面電位計625を用いて表面電位の測定を行うことが好ましい。この場合には、測定した表面電位に基づき所定の帯電電位まで除電されていない場合にはイオン風の発生量を制御して適正な表面電位、例えば-10~+10Vの範囲内となるようにする。
また、冷却室607を出たフィルム601に対して、除電装置621を用いて除電を行う。さらに、ナーリング付与ローラー609を用いて、フィルム601両端部にエンボス加工でナーリングを付与する。除電装置621は、図17ではナーリング付与ローラーの上流側に設けられている例を図示しているが、その位置に限定されるものではない。
次に、巻取室610において、パスローラー624をアースし、このパスローラー624と接触しているフィルム601に対して表面電位計を設置し、フィルム601の表面電位を測定する。そして、測定した表面電位に基づきイオン風の発生量を制御して適正な表面電位、例えば-5~+5Vの範囲内となるようにして、巻取り直前で除電装置622を用いて除電を行いつつ、巻取りローラー611で巻き取る。
なお、除電装置621~623はイオン風を吹き付けて除電を行っているが、周知の各種除電装置により除電してもよい。また、表面電位計625、626によって測定された表面電位の値から、コントローラ(図示せず)を用いて各除電装置を制御し、より均一な除電を行うようにしているが、これら表面電位計は省略し、単に各種除電装置で除電を行ってもよい。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは巻取りの際に保護フィルムを貼り合わせて積層フィルムとすることも好ましい。
(保護フィルム)
保護フィルムは、環状ポリオレフィンフィルムとの貼り合わせ及び剥離が可能なフィルムである。保護フィルムを環状ポリオレフィンフィルムに貼り合わせることにより、環状ポリオレフィンフィルムの表面が傷付くのを防止したり、ハンドリング性を向上させたりすることができる。
保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムと貼り合わせる面とは反対側の面の算術平均粗さRaは、通常0.2μm以上、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上であり、通常1.4μm以下、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.8μm以下である。通常、保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムに貼り合わせる面は粘着面となっている。このため、通常は、保護フィルムの粘着面ではない面の算術平均粗さRaが、前記の範囲に収まるようにする。
本発明者の検討によれば、保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の算術平均粗さRaは、環状ポリオレフィンフィルムロールのシワ及びゲージバンドの発生に対して、大きく関係していると考えられる。複層フィルムを環状ポリオレフィンフィルムロールとして巻回しする際、複層フィルムが巻き重なることにより、複層フィルムの環状ポリオレフィンフィルム側の面と保護フィルム側の面とが接する。この際、複層フィルムの保護フィルム側の面の表面粗さ(即ち、保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の表面粗さ)は、複層フィルム間の空気の巻き込み量及び排出量に、大きく影響を及ぼす。
具体的には、複層フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の表面が粗くなれば、巻回しの時の複層フィルム間の空気の巻き込み量は多くなり、変形してシワが発生しやすくなる。さらに、複層フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の表面粗さが粗いと、空気の通路が大きくなって、巻き込んだ空気が抜けやすくなる。そうすると、複層フィルム同士の間から空気が抜けることにより空気層の厚さが変化したとき、その厚さの変化に追従して複層フィルムが変形するので、環状ポリオレフィンフィルムロールにシワが発生しやすい。そこで、本実施形態では、保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の算術平均粗さRaを前記範囲の上限値以下にすることにより、シワを防止している。
一方、複層フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の表面が平滑になれば、巻取り時の複層フィルムの間の空気の巻き込み量は少なくなり、ゲージバンドが発生しやすい。そこで、本実施形態では、保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の算術平均粗さRaを前記範囲の下限値以上にすることにより、ゲージバンドを防止している。
保護フィルムの組成及び層構成は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。例えば、保護フィルムは、1層のみを備える単層構造のフィルムであってもよく、2層以上の層を備える複層構造のフィルムであってもよい。また、保護フィルムの膜厚は任意であり、通常10μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上、また、通常80μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは40μm以下としてもよい。
中でも、保護フィルムは、ポリオレフィン系重合体を含むことが好ましい。保護フィルムが単層構造のフィルムであれば、当該層がポリオレフィン系重合体を含むことが好ましい。また、保護フィルムが複層構造のフィルムであれば、少なくとも一層がポリオレフィン系重合体を含むことが好ましい。ポリオレフィン系重合体を用いることにより、共押出しによる成形が可能となり、生産性に優れる。
保護フィルムは、通常は2層以上の層を備える複層構造のフィルムである。保護フィルムの好適な例を挙げると、粘着層及び背面層を備えるフィルム;粘着層、中間層及び背面層をこの順で備えるフィルム;などが挙げられる。この場合、粘着層の表面が、保護フィルムの粘着面を形成する。
以下、保護フィルムの好適な構成要素例について説明する。
(粘着層)
粘着層は保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルム側の表面に位置し、環状ポリオレフィンフィルムに粘着しうる層である。粘着層は粘着剤を含んで形成され、粘着剤による粘着力によって保護フィルムが環状ポリオレフィンフィルムに対して固定されうるようになっている。
粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などを挙げることができる。なお、粘着剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
粘着剤の中でも、一般式A-B-Aも若しくは一般式A-Bで表されるブロック共重合体(ただし、これらの式中、Aはスチレン系重合体ブロックを表し、Bはブタジエン重合体ブロック、イソプレン重合体ブロック、及びこれらを水素添加して得られるオレフィン重合体ブロックからなる群より選ばれる重合体ブロックを表す。)を含有するゴム系粘着剤;アクリル系粘着剤が好ましい。
前記の一般式A-B-A若しくは一般式A-Bで表されるブロック共重合体において、スチレン系重合体ブロックAは、重量平均分子量が12000以上、100000以下、ガラス転移温度が20℃以上のものが好ましい。また、ブタジエン重合体ブロック、イソプレン重合体ブロック、及びこれらを水素添加して得られるオレフィン重合体ブロックからなる群より選ばれる重合体ブロックBは、重量平均分子量が10000以上、300000以下、ガラス転移温度が-20℃以下のものが好ましい。さらに、上記A成分とB成分の質量比(A成分/B成分)が、好ましくは5/95以上、より好ましくは10/90以上であり、好ましくは50/50以下、より好ましくは30/70以下である。
上記一般式A-B-Aで表されるブロック共重合体の例としては、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体、及びそれらの水素添加体を挙げることができ、一般式A-Bで表されるブロック共重合体の例としては、スチレン-エチレン/プロピレン共重合体、スチレン-エチレン/ブチレン共重合体及びそれらの水素添加体を挙げることができる。
アクリル系粘着剤の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ビニルアセテート、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;等の単独重合体若しくは共重合体などを挙げることができる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートのことを意味し、(メタ)アクリルとはアクリル及びメタクリルのことを意味する。
アクリル系粘着剤には、好ましくは官能基を有するアクリル系単量体が共重合されて用いられる。官能基を有するアクリル系単量体の例としては、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和酸類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸などを挙げることができる。なお、官能基を有するアクリル系単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
アクリル系粘着剤には、必要に応じて架橋剤を含ませてもよい。前記の架橋剤は、共重合体に存在する官能基と熱架橋反応し、最終的には三次元網状構造を有する粘着層とするための化合物である。架橋剤を含ませることにより、保護フィルムにおいて粘着層と接する他の層(中間層、背面層等)との密着性、保護フィルムの強靱性、耐溶剤性、耐水性等を向上させることができる。架橋剤としては、例えば、イソシアネート系化合物、メラミン系化合物、尿素系化合物、エポキシ系化合物、アミノ系化合物、アミド系化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物、シランカップリング剤等、また、それらの変性体を適宜使用してもよい。なお、架橋剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
粘着層の架橋性及び強靱性等の観点から、架橋剤としては、イソシアネート系化合物及びその変性体を使用することが好ましい。イソシアネート系化合物とは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物であり、芳香族系と脂肪族系の化合物に大別される。芳香族系のイソシアネート系化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。また、脂肪族系のイソシアネート系化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。さらに、これらのイソシアネート系化合物の変性体としては、例えば、イソシアネート系化合物のビゥレット体、イソシアヌレート体、トリメチロールプロパンアダクト体等が挙げられる。
架橋剤を使用する場合、架橋反応を促進させるために、例えば、ジブチルスズラウレート等の架橋触媒を、粘着剤に含ませるようにしてもよい。
粘着層には、必要に応じて、粘着付与性重合体を含ませてもよい。粘着付与性重合体としては、例えば、芳香族炭化水素重合体、脂肪族炭化水素重合体、テルペン重合体、テルペンフェノール重合体、芳香族炭化水素変性テルペン重合体、クロマン・インデン重合体、スチレン系重合体、ロジン系重合体、フェノール系重合体、キシレン重合体等が挙げられ、中でも低密度ポリエチレン等の脂肪族炭化水素重合体が好ましい。ただし、具体的な粘着付与性重合体の種類は、他の重合体との相溶性、樹脂の融点、及び粘着層の粘着力の点から、適宜選択される。また、粘着付与性重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
粘着付与性重合体の量としては、例えば前記のブロック共重合体100質量部に対しては、好ましくは5質量部以上であり、好ましくは200質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。粘着付与性重合体の量を前記範囲の下限値以上とすることにより環状ポリオレフィンフィルムと貼り合わせた場合に保護フィルムが浮いたり剥がれたりしないようにできる。また、上限値以下とすることにより、保護フィルムの繰り出し張力を抑制して、環状ポリオレフィンフィルムとの貼り合わせの際のシワ及び傷を防止したり、粘着付与性重合体のブリードアウトを防いで粘着層の粘着力を高く維持したりできる。
粘着層には、必要に応じて、例えば軟化剤、老化防止剤、充填剤、着色剤(染料又は顔料など)などの添加剤を含ませてもよい。なお、添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
軟化剤としては、例えば、プロセスオイル、液状ゴム、可塑剤などが挙げられる。
充填剤としては、例えば、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、シリカ、及び酸化チタンなどが挙げられる。
粘着層の粘着力は、保護フィルムにおいて粘着層と接する他の層(中間層、背面層等)に対して、0.4N/cm以上が好ましく、0.6N/cm以上がより好ましく、6N/cm以下が好ましく、4N/cm以下がより好ましい。粘着力を前記範囲の下限値以上にすることにより、環状ポリオレフィンフィルムに保護フィルムを貼り合わせた際に保護フィルムの浮き及び剥がれを防止できる。また、上限値以下にすることにより、保護フィルムの繰り出し張力を抑制して、環状ポリオレフィンフィルムとの貼り合わせの際のシワ及び傷を防止できる。
粘着層の膜厚は、通常1.0μm以上、好ましくは2.0μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは30μm以下である。粘着層の膜厚を前記範囲の下限値以上にすることにより、粘着力を高くして、環状ポリオレフィンフィルムに保護フィルムを貼り合わせた際に保護フィルムの浮き及び剥がれを防止できる。また、上限値以下にすることにより、粘着力が過度に高くなることを防止して、保護フィルムの繰り出し張力を抑制できるので、環状ポリオレフィンフィルムとの貼り合わせの際のシワ及び傷を防止できる。また、保護フィルムのコシが強くなりすぎることを防止できるので、保護フィルムのハンドリング性を良好にできる。
(背面層)
背面層は、粘着層に対して環状ポリオレフィンフィルムとは反対側に位置し、通常は保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の表面に位置する層である。この背面層は、通常、環状ポリオレフィンフィルムとは粘着しない。背面層を備える保護フィルムにおいては、通常、この背面層の露出面の算術平均粗さRaが、保護フィルムの粘着面とは反対側の面の算術平均粗さRaになる。
通常、背面層は樹脂により形成される。背面層を形成する樹脂に含まれる重合体は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。好適な例を挙げると、ポリオレフィン系重合体が挙げられる。
ポリオレフィン系重合体は、鎖状オレフィンの単独重合体若しくは共重合体、又は、鎖状オレフィンと当該鎖状オレフィンに共重合可能な単量体との共重合体である。その例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-n-ブチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。ここで、ポリエチレンとしては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどが挙げられる。また、エチレン-プロピレン共重合体としては、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体などが挙げられる。さらに、α-オレフィンとしては、例えば、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、ペンテン-1、ヘプテン-1等が挙げられる。
上述したポリオレフィン系重合体の中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体からなる群より選ばれる重合体が好ましく、エチレン-プロピレン共重合体及びプロピレン-αオレフィン共重合体(以下、これらをまとめて「プロピレン系共重合体」ということがある。)がより好ましく、エチレン-プロピレン共重合体が特に好ましい。
上述した重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、エチレン-プロピレン共重合体等のプロピレン系共重合体と、低密度ポリエチレンとを組み合わせて用いることが好ましい。この際、プロピレン系共重合体60~90質量%と、低密度ポリエチレン40~10質量%とを組み合わせることが特に好ましい。エチレン含有量が多くなる程、エチレン-プロピレン共重合体の融点を低下させることができる。このため、共押出の容易さ、及び、低温押出を可能にする観点から、コモノマであるエチレン含有量としては3~7モル%の範囲が好ましい。なお、背面層に耐熱性を付加したい場合は、エチレン含有量を少なくし、所望の耐熱性を得られるよう適宜選定してもよい。
プロピレン系共重合体の230℃におけるメルトフローレート(以下、適宜「MFR」ということがある。)は5g/10分~40g/10分の範囲が好ましい。特に、MFRが20g/10分~40g/10分の範囲のものは、低温押出が可能であり、低密度ポリエチレンと組み合わせることで背面層の表面を粗面化しやすいことから、より好ましい。
また、背面層を構成する低密度ポリエチレンは、190℃におけるMFRが0.5g/10分~5g/10分であることが好ましい。
さらに、低密度ポリエチレンは、密度が0.910g/cm3~0.929g/cm3であることが好ましい。低密度ポリエチレンの密度をこの範囲の下限値以上にすることで、背面層の表面の表面粗さを適切な範囲に調整しやすい。また、上限値以下にすることで、搬送に用いるロール(例えば、金属ロール、ゴムロール等)との擦過による保護フィルムからの樹脂の脱離を防止して、白粉発生を抑制できる。
背面層に含まれる重合体(例えば、プロピレン系共重合体及び低密度ポリエチレン)は、粘着層に含まれる重合体と異なるものであってもよいが、同一の重合体を用いることが好ましい。
背面層を形成する樹脂には、本発明の効果を著しく損なわない限り、例えば、タルク、ステアリン酸アミド、ステアリン酸カルシウム等の充填剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、核剤などの添加剤を含ませてもよい。なお、添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
背面層の厚さは、粘着層の厚さとの比(粘着層/背面層)で、通常1/40以上、好ましくは1/20以上であり、通常1/1以下、好ましくは1/2以下である。これにより、背面層の厚さが粘着層に比較して過度に薄くなることを防止できるので、成膜性を改善して、フィッシュアイを防止することができる。また、背面層の厚さが粘着層に比較して過度に厚くなることを防止できるので、保護フィルムの繰り出し張力を抑制でき、環状ポリオレフィンとの貼り合わせの際のシワ及び傷を防止できる。
(中間層)
粘着層と背面層との間には、必要に応じて中間層を設けてもよい。中間層は通常は樹脂により形成されるが、中でも、ポリオレフィン系重合体を含む樹脂によって形成することが好ましい。
中間層に含まれるポリオレフィン系重合体としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体(ランダム共重合体及び/又はブロック共重合体)、α-オレフィン-プロピレン共重合体、エチレン-エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-n-ブチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なお、ポリオレフィン系重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ただし、中間層に含まれるポリオレフィン系重合体は、前記粘着層及び背面層に含まれる重合体とは異なる種類のポリオレフィン系重合体であることが好ましい。
中間層には、必要に応じて、粘着層を形成する材料、及び、背面層を形成する材料を含ませてもよい。通常、共押出成形法で保護フィルムを製造する場合、端部の膜厚が不均一な部分はスリット工程等でスリットされ、除却される。このようにして除去された部分を中間層の原料として用いることで、使用原料の量を低減できる。
中間層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、例えば、タルク、ステアリン酸アミド、ステアリン酸カルシウム等の充填剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、造核剤等の添加剤を含ませてもよい。なお、添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
中間層の膜厚は、通常13~70μmの範囲である。
(保護フィルムの製造方法)
保護フィルムは、例えば、下記の製造方法(i)~(iii)により製造してもよい。
(i)粘着層の材料及び背面層の材料、並びに必要に応じて中間層の材料を共押し出しする方法。
(ii)背面層又は中間層を用意し、用意した層に粘着剤を塗布して粘着層を形成する方法。
(iii)粘着層及び背面層、並びに必要に応じて中間層を別々に用意し、用意した各層
を貼り合わせて一体化する方法。
例示した製造方法のうち、共押出成形法による製造方法(i)は、粘着層と背面層又は中間層とが強固に密着しており、環状ポリオレフィンフィルムへの糊残りが起こり難い点、製造工程が簡素化されるためにコストが安価である点、などの利点を有し、特に好ましい。ここで「糊残り」とは、保護フィルムの剥離後に環状ポリオレフィンフィルムに粘着剤が残留する現象をいう。製造方法(i)により製造される保護フィルムでは、背面層として、分岐状低密度ポリエチレン、ポリプレピレン等のポリオレフィン重合体が用いられることが多い。一方、粘着層には、通常は、例えば酢酸ビニル、直鎖状低密度ポリエチレン、メタロセン直鎖状低密度ポリエチレンなどが使用される。中でも、糊残り及び経時での密着力の増加などを避ける観点からは、酢酸ビニル系よりも直鎖状低密度ポリエチレン系の粘着剤を使用する場合が多い。
また、塗布法による製造方法(ii)により製造される保護フィルムでは、背面層として、通常、ポリエチレンテレフタレート及びポリオレフィン重合体が用いられることが多く、粘着層にはゴム系粘着剤及びアクリル系粘着剤が用いられることが多い。中でも、保護フィルム中の異物を懸念する場合には背面層にポリオレフィン重合体よりもポリエチレンテレフタレートを使用することが好ましい。また、製造方法(ii)では、クリーンルームで製造を行うと異物の無い高品質の保護フィルムが得られる。
保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面が上述した算術平均粗さRaを有するようにするためには、例えば、背面層の表面を変形させることにより、所定の算術平均粗さRaを有する凹凸を形成してもよい。例えば、凹凸を有する賦型ロールを用いて、共押出成形法において得られた押出直後の保護フィルムを押圧して背面層の表面に凹凸を転写するニップ成形法;保護フィルムを、凹凸を有する離型フィルムで挟圧して離型フィルムの凹凸を転写した後、離型フィルムを剥離する方法;保護フィルムの背面層の表面に微粒子を噴射して保護フィルムの背面層の表面を切削する方法;などが挙げられる。また、背面層の表面を変形させる工程は、背面層と粘着層とを貼り合わせる前でもよく、後でもよい。
さらに、背面層の組成を調整することで背面層の表面に凹凸を形成してもよい。例えば、背面層に所定の粒径の微粒子を含有させて背面層に凹凸を形成させる方法;背面層を形成する樹脂等の材料の配合比を調整して背面層に凹凸を形成させる方法、などが挙げられる。
上述した中でも、凹凸の転写むらのない保護フィルムを広幅で得られる事から、凹凸を有する賦型ロールを用いたニップ形成法が好ましく、鏡面ロールと凹凸を有する賦型ロールとを用いて保護フィルムを挟圧する方法が特に好ましい。
それぞれの鏡面ロール及び賦型ロールの表面材質は、例えば、金属、ゴム、樹脂などが挙げられる。これらは保護フィルムの背面層の表面に目的とする凹凸形状が転写できるように選ばれる。ただし、賦型ロールの硬さは、鏡面ロールの硬さ以上であることが好ましい。また、例えば、鏡面ロールと同等の表面性を持ち、賦型ロールより軟らかい樹脂フィルムなどを介して保護フィルムを狭圧させてもよい。
鏡面ロール及び賦型ロールは、それぞれ独立に温度調節ができるものが好ましい。鏡面ロールの温度は、40~160℃の範囲あることが好ましく、かつ、賦型ロールの温度は、60~200℃の範囲であることが好ましい。鏡面ロールの温度は、60~130℃の範囲がさらに好ましく、賦型ロールの温度は、80~180℃の範囲がさらに好ましい。鏡面ロール又は賦型ロールの温度を前記範囲の下限温度以上にすることにより、凹凸の転写むらを防止できる。また、鏡面ロール又は賦型ロールの温度を前記範囲の上限温度以下にすることにより、保護フィルムが鏡面ロール又は賦型ロールに巻きつくことを防止できる。
ニップ形成法において、保護フィルムの環状ポリオレフィンとは反対側の面の上述した算術平均粗さRaは、挟圧時における保護フィルム、鏡面ロール及び賦型ロールの温度、ロール速度、保護フィルムを挟圧する際の圧力、並びに鏡面ロール及び賦型ロールの表面の材質を、保護フィルムを形成する材料の特性に合わせて、適宜選定することで調整することができる。通常、鏡面ロール及び賦型ロール温度は、背面層を形成する樹脂のガラス転移温度(Tg)に対して、(Tg-60)~(Tg+20)℃とするのが好ましい。
保護フィルムの表面には、必要に応じて、表面改質処理を施してもよい。表面改質処理としては、例えば、エネルギー線照射処理及び薬品処理などが挙げられる。
また、保護フィルムの表面には、必要に応じ印刷を行ってもよい。
(貼り合わせ)
環状ポリオレフィンフィルムと保護フィルムとを貼り合わせることにより、複層フィルムを得る。貼り合わせの際には、環状ポリオレフィンフィルム及び保護フィルムのシワ及び弛みをなくすため、環状ポリオレフィンフィルム及び保護フィルムに所定の大きさの張力を与えることが好ましい。また、貼り合わせの際には、例えばニップロール等によって、圧力をかけながら貼り合わせを行うことが好ましい。
こうして製造された複層フィルムは、環状ポリオレフィンフィルム及び保護フィルムを備える。また、複層フィルムは、通常、一方の表面において環状ポリオレフィンフィルムが露出し、他方の表面において保護フィルムが露出している。この際、環状ポリオレフィンフィルムと保護フィルムとの間に更に任意の層を備えていてもよい。任意の層は、1層であってもよく、2層以上であってもよい。また、任意の層が2層以上ある場合、これらの層は同じでもよく、異なっていてもよい。
複層フィルムの幅は、1500mm以上が好ましく、1800mm以上がより好ましい。一般に、幅が広いフィルムを巻回したフィルムロールはシワ又はゲージバンドが生じやすい。しかし、本実施形態にかかる複層フィルムは、このように広い幅を有しながら、巻回したときに良好な巻き姿を実現することができる。また、複層フィルムの幅の上限は、通常2500mm以下である。
(複層フィルムを巻回しする工程)
複層フィルムを得た後で、その複層フィルムをロール状に巻回して、環状ポリオレフィンフィルムロールを得る。通常、複層フィルムを巻回しする工程においては、巻取りロール及び接圧ローラーを備える巻取り装置を用いる。そして、接圧ローラーで押圧して、複層フィルムに面圧を付与しながら、巻取りロールに複層フィルムを巻き取ることにより、環状ポリオレフィンフィルムロールを得る。
接圧ローラーによって面圧を付与しながら複層フィルムを巻回しすることにより、高速での巻回しにおいて、空気の巻き込み量を抑制しやすい。このため、シワの発生を防止して、良好な巻き姿を有する環状ポリオレフィンフィルムロールを製造できる。
この際、保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の算術平均粗さをRa(μm)としたときに、接圧ローラーの圧力P(N/m)は、下記式(4)を満たすことが好ましい。
50×Ra+75≦P≦23×Ra+160 (4)
上述したように、複層フィルムの巻回しに際して、シワ及びゲージバンドを防止する観点では、巻重なる複層フィルムの間への空気の巻き込み量を抑制及び制御することが好ましい。この際、空気の巻き込み量は、保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の表面粗さによって変化する。そのため、接圧ローラーの圧力Pは、保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の表面粗さに応じて設定することが好ましい。
保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の表面粗さが粗ければ粗いほど、巻回し時の空気の巻き込み量は多くなるので、接圧ローラーの圧力Pを強くして、空気の巻き込みを抑制することが好ましい。さらに、保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の表面粗さが粗ければ、巻回し時の空気の巻き込み量が多くなるので、接圧ローラーの圧力Pの変化による空気の巻き込み量の変化も大きくなる。このため、保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の表面粗さが平滑である場合と比較して、保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の表面粗さが粗い場合には、接圧ローラーの圧力Pの好適な範囲は狭くなる。そのため、接圧ローラーの圧力Pは、保護フィルムの環状ポリオレフィンフィルムとは反対側の面の算術平均粗さRaの範囲において、上記式(4)のように、前記Raに応じた範囲であることが好ましい。
複層フィルムの巻回し速度は、通常5m/分以上、好ましくは10m/分以上であり、通常50m/分以下、好ましくは45m/分以下、より好ましくは40m/分以下である。巻回し速度を前記範囲の下限値以上とすることにより製造効率を高めることができ、上限値以下とすることにより空気の巻き込み量を抑制することができる。
環状ポリオレフィンフィルムロールの巻回し数に制限は無いが、通常40回以上、好ましくは60回以上であり、通常27000回以下、好ましくは13000回以下である。
また、環状ポリオレフィンフィルムロールの外径に制限はないが、通常160mm以上、好ましくは190mm以上であり、通常2300mm以下、好ましくは1200mm以下である。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムロール(ロール状フィルム)の包装方法及び包装体の好ましい実施形態について説明する。
図18は、ロール状フィルムと包材を示す斜視図であり、図19は、ロール状フィルムを包材で包装した包装体を示す斜視図である。
図18に示すように、ロール状フィルム712は、円筒状の巻芯716を有し、この巻芯716に長尺状のフィルム714がロール状に巻き付けられている。巻芯716の幅寸法は、フィルム714の幅寸法よりも大きく形成されており、フィルム714は巻芯716の幅方向の略中央位置に巻き付けられている。したがって、ロール状フィルム712は、巻芯716の両端部がフィルム714から突出した状態になっている。
フィルム714は、後述するように、その表面に少なくとも一層の光硬化性樹脂層を備えている。
また、フィルム714は、その幅方向の両端部位置にエンボス又はナーリングとも称される微小な凹凸を有し、フィルムをロール状に巻取る際の端面ズレや巻き緩みの防止を目的として、例えば高さ5~50μmの範囲、又は、フィルム膜厚の0.05~0.3の範囲で形成される。
一方、包材718は、円筒状に形成され、その幅寸法は、フィルム714の幅寸法よりも大きく形成される。包材718の内径はロール状フィルム712の外径よりも大きく形成されており、ロール状フィルム712に包材718を被せることができるようになっている。なお、包材718は、矩形のシート状のものを用いてもよく、この場合には、ロール状フィルム712を包材718で包んで円筒状にした後、包材718の縁を粘着テープ等で貼り付けて固定するとよい。
包材718は、その外面が日射反射率70%以上(JIS-R-3106準拠)のものが使用される。例えば、ポリエチレン(PET)の外面にアルミ蒸着を施した包材718が使用される。なお、包材718は、日射反射率が70%以上のものであればよく、アルミ以外の金属蒸着をしたものや、アルミ箔などの金属箔を用いてもよい。また、包材718の日射反射率は80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。このような包材718を用いて図19の包装体710を形成することによって、包装体710の内部の温度差を25℃以内、好ましくは20℃以内に抑制することができる。
また、包材718は、40℃90%RH環境下の透湿度が5.4g/m2・day以下のものを用いることが好ましい。このような透湿度の包材718を用いることによって、包装体710の内部の湿度変化速度を4%/分以下に抑えることができる。
上記のごとく構成された包材718は、図19に示すように、ロール状フィルム712に被せられ、その両端部にゴムバンド720が外嵌される。このゴムバンド720によって包材718の両端部が巻芯716の外周面に密着した状態で固定される。これにより、包材718でロール状フィルム712を包んだ包装体710が形成される。なお、包材718の固定方法はゴムバンド720に限定されるものではなく、粘着テープ等で巻芯716に貼り付けることによって固定してもよい。
次に上記のごとく構成された包装体710の作用について説明する。図20(A)、図20(B)は、従来の包装体(すなわち、日射反射率が70%未満の包材で包装した包装体)におけるロール状フィルム712の故障を説明する模式図である。
従来の包装体の場合、包装体に太陽光が当たると、包装体の内部では当たった側と当たらない側とで温度差が発生し、さらに温度差に伴う湿度差が発生する。その結果、両者の間でフィルム714の熱膨張差又は湿度膨張差が生じ、ベコ故障と呼ばれるロール状フィルム712の変形が発生する。ベコ故障とは、図20(B)に示すように、フィルム714の幅方向の端部がローレット(エンボス)714Aによって固巻きされているのに対して、中央部では巻きが緩いために変形する現象であり、巻取り時のテンションを上げるほど発生しやすくなる。このため、従来は、前段の加工装置において巻取りテンションを上げることができず、フィルム714の長尺化や搬送速度の増加に対応することができない。
これに対して、本実施の形態の包装体は、日射反射率70%以上の包材718によって包装されている。したがって、太陽光が包装体710に当たった場合にも、太陽光のほとんどが包材718で反射され、包装体710に吸収させないので、包装体710の内部に温度差、湿度差が生じることを防止できる。これにより、フィルム714が変形してベコ故障を発生することを防止でき、巻取りテンションが高いロール状フィルム714の場合にも包装体710での不具合を防止することができる。よって、本実施の形態によれば、包装前の加工ラインにおいて巻取りテンションを増加させることができるので、フィルム714を長尺化したり、搬送速度を高めたりすることが可能となる。
また、巻き芯に環状ポリオレフィンフィルムを巻き取る際には、巻き芯に両面テープ、緩衝材等が貼り付けられる。両面テープは、フィルムの先端部を巻き芯に固定するためのものである。
図21に示すように、両面テープ831は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)製の帯状支持体831aの一方の面(裏面)に巻き芯側の第1粘着層831bが、他方の面(表面)にフィルム側の第2粘着層831cが形成されている。両面テープ831の厚さt02は10~60μmの範囲であり、好ましくは10~30μmの範囲で、より好ましくは10~15μmの範囲である。この両面テープ831として、例えば、日東電工製(型式:5601、5603、5605、5606)が用いられる。なお、図21以降の各断面図において、実際の寸法で表示すると、フィルム815、両面テープ831、緩衝材832などの各部材の判別が困難になるため、各図において、厚さ方向寸法は誇張して表示してある。
両面テープ831の幅W02は25~150mmの範囲であり、好ましくは40~90mmの範囲であり、より好ましくは40~60mmの範囲である。25mm未満であると、貼り付け不良となり、150mmを超えるとテープにシワが発生しやすくなり、共に好ましくない。
両面テープ831の各粘着層831b、831cは、支持体831aの全面に形成されている。これら各粘着層831b、831cは、組成及び厚さが同じであるが、異なる組成や異なる厚さとしてもよい。第2粘着層831cの形成面には、図示は省略したが、剥離テープが貼り付けられている。剥離テープは、第1粘着層831bによって巻き芯823に両面テープ831を貼り付けた後に、フィルム815を巻き取る前に剥がされる。
緩衝材832は、例えばポリエステル、不織布などから構成されており、巻き取るフィルム815の厚さよりも薄く形成されている。そして、両面テープ831よりも弾力性を有するものが用いられる。緩衝材832は、それ自体が粘着層を持っていなくてもよく、この場合には両面テープ831を介して巻き芯823に取り付けられる。
図22に示すように、緩衝材832の幅W03は5~30mmの範囲であり、好ましくは8~18mmの範囲であり、より好ましくは8~12mmの範囲である。5mm未満であると、巻芯への貼合わせ不良が発生し、30mmを超えると切り口写りを改善することができず、共に好ましくない。なお、緩衝材832の幅W03を巻き芯円周長に基づき決定する場合には、巻き芯円周長の2%以下であることが好ましい。
図22に示すように、緩衝材832の厚さt03は使用する緩衝材の数量によって異なる。例えば、図22~図25及び後述する図27に示すように、緩衝材832、833が1個の場合は、フィルム815の厚さの10~90%の範囲で、好ましくは25~75%の範囲、より好ましくは35~65%の範囲である。緩衝材832の厚さがフィルム815の厚さの10%未満、又は90%を超えると、切り口写り改善効果が減少する。緩衝材841~844が複数個の場合は、フィルム先端815aに近い緩衝材841~844から徐々に厚さを薄くしていけばよい。この場合に、各緩衝材841~844の厚さの差分はフィルム815の厚さの5%以上30%以下に抑えるのが望ましい。
なお、図24に示す第2実施形態のように、緩衝材本体833aの少なくとも一方の面に粘着層833bを有する緩衝材833の場合には、両面テープ831を用いることなく、巻き芯823に直接に貼り付けられる。なお、以下の各実施形態において、同一構成部材には同一符号を付して重複した説明を省略している。
図25、図26は、第3実施形態を示すもので、厚さの異なる2種類の緩衝材841、842をフィルム815の巻取り方向に並べて配置したものである。フィルム815の先端815aに近い第1緩衝材841、先端815aから遠い第2緩衝材842は共に、厚さt12、t22がポリマーフィルム15の厚さt01以下であり、かつt12>t22である。また、第1緩衝材841、第2緩衝材842の幅W12、W22は巻き芯の円周長の0.5~6.0%の範囲である。
第3実施形態では、第1緩衝材841と第2緩衝材842との厚さt21、t22を二段階で変えているので、第1実施形態のものに比べて段差跡の曲げ変形を二段階の小さなものにすることができ、第1実施形態の一つの緩衝材832のものに比べて、段差跡の発生長さがより短くなる。
第4実施形態では、図25、図26に示す第3実施形態に代えて、図27に示すように、緩衝材本体843a、844aの少なくとも一方の面に粘着層843b、844bを有する緩衝材843、844を用いている。この場合には、両面テープ831を用いることなく、巻き芯823に直接に緩衝材843、844が貼り付けられる。
なお、各緩衝材841~844の厚さt12、t22を変える代わりに各緩衝材841~844の弾性率(ヤング率)を変えたり、各緩衝材841~844の厚さと一緒に弾性率(ヤング率)を変えたりして、フィルム先端815aから遠ざかる第2緩衝材842、844の圧縮変形量を、第1緩衝材841、843の圧縮変形量よりも大きくしてもよい。この場合には、二つの緩衝材によって、フィルム先端の影響による段差の発生が抑えられ、切り口写りをより一層抑えることができる。
緩衝材832、833、841~844の弾性率と厚さとの関係は、巻き取るフィルム815の弾性率に応じて変えることが好ましい。例えば、フィルム815の弾性率をEpとし、緩衝材の弾性率をEbとしたとき、Ep≦Ebのときは、ポリマーフィルムの厚さをtp、緩衝材の厚さをtbとしたときに、(tp/2)<tb<tpとする。また、Ep>Ebのときは、tp<tb<2・tpとする。
図21、図22に示すように、フィルム先端815aから緩衝材832までの隙間G01は0.1~20mmの範囲であり、好ましくは0.1~10mmの範囲であり、より好ましくは0.1~8mmの範囲である。0.1mm未満ではフィルム815が緩衝材832に重なりやすくなり、20mmを超えると、フィルム先端815aと緩衝材832の間に段差が生じて、切り口写りの原因となり、ともに好ましくない。
図23に示すように、フィルム815が巻き芯823に巻き取られて、フィルム先端815aに次のフィルム815が重なると、緩衝材832が次に巻かれたポリマーフィルム815の段差の影響を緩和する。これにより、フィルム815に極端な曲げが発生することがない。以下、同様にして次のフィルムが巻き取られていくが、いずれも緩衝材832の影響によって極端な曲げ変形が発生することがなく、切り口写りの発生が抑えられる。
両面テープ831の貼り付けや、フィルム先端部の両面テープ831による接着は、人手によってもよく、又はフィルム切断装置を用いてもよい。人手による場合には、巻取り装置813の直前に図示省略のフィルムリザーバを設ける。このフィルムリザーバにより、フィルム815の切断や巻き芯823への固定に要する時間分のフィルム815を一時的に貯留し、この貯留している間にフィルム815の切断及び巻き芯823への巻き付けを行う。また、自動で行う場合には、フィルム切断装置を用いて、ポリマーフィルム815の切断と巻き芯823への固定とを行う。この場合には、巻き芯823上の両面テープ831の位置を自動検出し、この検出タイミングに基づき、フィルム815を切断し、切断したフィルム先端815aが緩衝材832に対して所定の隙間G01となるように、フィルム先端部を第2粘着層831cに接合する。
なお、両面テープ831や緩衝材832、833、841~844は、あらかじめ巻き芯823に取り付けるようにしたが、フィルム切断装置側で、フィルム切断ドラムに両面テープ831、緩衝材832、833、841~844を貼り付けておき、フィルム切断ドラムによるフィルム815の切断時にフィルム815とともに、両面テープ831及び緩衝材832、833、841~844を巻き芯823に取り付けて、フィルム815を巻き取るようにしてもよい。
図25~図27に示すように、二つの緩衝材841~844の弾性率や厚さを変える代わりに、図示は省略したが、一つの緩衝材に対しフィルム先端815aに近い側の第1端縁から遠い側の第2端縁にかけて、厚さを次第に小さくしても良い。この場合にも、緩衝材によって次に巻かれるフィルムに、極端な曲げ変形が発生することがなく、切り口写りの発生が抑えられる。
図28に示すように、フィルム幅方向基準線BL1に対するフィルム先端815aの傾斜角度θ1は、-30°<θ1<30°の範囲が好ましく、より好ましく-20°<θ1<20°の範囲であり、更に好ましくは-10°<θ1<10°の範囲である。傾斜角度θ1が0°に近くなるほど、フィルム先端815aにそれ以降に重なるフィルム面圧の影響による応力を小さくすることができ、これによって切り口写りを抑制することができる。このように、フィルム815の先端815aを所定の傾斜角度θ1で切断する場合には、フィルム先端815aの傾斜角度θ1に合わせて、両面テープ831及び緩衝材832、833、841~844も同じ傾斜角度θ1で巻き芯823に貼り付ける。
なお、フィルム815の幅は特に限定されるものではないが、600mm以上であることが好ましく、1100~2500mmの範囲であることがより好ましい。また、フィルム815の幅が2500mmよりも大きい場合にも効果がある。フィルム815の厚さは、10~200μmの範囲であることが好ましく、10~150μmの範囲であることがより好ましく、15~100μmの範囲であることがさらに好ましい。フィルム815の長さは、2000m以上であることが好ましく、2500~10000mの範囲であることがより好ましい。また、フィルムロールの巻取り半径は、450mm以上であることが好ましく、650~920mmの範囲であることがより好ましい。
図22に示すように、巻き芯823の筒心方向における両面テープ831の長さL2は特に限定されるものではないが、フィルム815の幅W01を基準にしてL2=(W01-0)mm~(W01-10)mmが好ましい。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの巻き取りに用いられる巻取コアは、下記式(1)を満たすことが好ましい。
E > 0.06×Aa3/I (1)
(E:巻取コアの弾性率[MPa]、A:巻取コアとフィルムとの合計質量[kg]、a:樹脂フィルムの幅[mm]、I:巻取コアの断面2次モーメント[mm4])
上記の構成によれば、フィルムを巻取コアにロール状に巻き取る巻取工程において使用する巻取コアが、巻き取るフィルムの幅や巻長に応じて、たわみを抑制できる弾性率を有するものである。このため、長期間放置しても馬の背変形の発生を抑制できるフィルムロールが得られる。したがって、得られたフィルムロールは、馬の背変形によるフィルム同士の貼着が抑制されたフィルムとして使用することができる。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムを用いることによって、膜厚が均一であって、馬の背変形による樹脂フィルム同士の貼着が抑制されたフィルムを繰り出して供給できるフィルムロールが得られる。
本発明者は、巻取コアにフィルムを巻き取ったフィルムロールに馬の背変形が発生するのは、巻き取ったフィルムや巻取コアの荷重により、巻取コアがたわむことによるのではないかと推察した。
そこで、以下、巻取コアのたわみνについて説明する。
巻取コアのたわみνは、巻取コアが巻取コアの両端が支持されて保持されるので、一般的に、下記式(2)で表される。
ν = 5ωa4/384EI (2)
(ν:巻取コアのたわみ[mm]、ω:巻取コアの単位長さあたりの荷重[N/mm]、a:樹脂フィルムの幅[mm]、E:巻取コアの弾性率[MPa]、I:巻取コアの断面2次モーメント[mm4])
上記式(2)中、巻取コアの単位長さあたりの荷重ωは、巻取コアにかかる荷重が分布荷重であるので、一般的に、下記式(3)で表される。
ω = P/a (3)
(ω:巻取コアの単位長さあたりの荷重[N/mm]、P:巻取コアの荷重[N]、a:樹脂フィルムの幅[mm])
したがって、巻取コアのたわみνは、下記式(4)で表される。
ν = 5Pa3/384EI (4)
(ν:巻取コアのたわみ[mm]、P:巻取コアの荷重[N]、a:樹脂フィルムの幅[mm]、E:巻取コアの弾性率[MPa]、I:巻取コアの断面2次モーメント[mm4])
次に、本発明者は、樹脂フィルムの幅や巻長等に基づく荷重の違いにより、巻取コアのたわみが異なることに着目した。
そこで、まず、ここでの巻取コアの荷重Pは、樹脂フィルムを巻き取った状態では、巻取コアと樹脂フィルムとの合計質量Aに相関される値であるので、荷重Pを合計質量Aに置き換えた。そして、馬の背変形の発生を充分に抑制できる条件を鋭意検討した結果、上記式(1)の関係を見いだした。
したがって、上記式(1)の関係を満たすことによって、巻取コアの弾性率が、巻き取る樹脂フィルムの幅や巻長等に応じて、たわみを抑制できる弾性率である。このため、樹脂フィルムをロール状に巻取り、長期間放置しても馬の背変形の発生を抑制できる。
また、本実施形態において、巻取コアの弾性率は、上述したように、巻取コアと樹脂フィルムとの合計質量A、樹脂フィルムの幅a、及び巻取コアの断面2次モーメントIによって規定されるので、巻き取る樹脂フィルムの幅や巻長等に主に依存する。このため、巻取コアの弾性率を、巻き取る樹脂フィルムの幅や巻長等に基づいて、馬の背変形の発生を充分に抑制できるように設定できる。よって、巻取コアの製造コストを必要以上にかけることなく、馬の背変形の発生を充分に抑制できるので、好ましい。なお、巻取コアの断面2次モーメントは、一般的に、下記式(5)で表される値である。断面2次モーメントは、下記式(5)から分かるように、巻取コアの形状に依存する値である。
I = (d24-d14)×π/64 (5)
(d1:巻取コアの内径[mm]、d2:巻取コアの外径[mm])
前記巻取コアは、上記範囲内の弾性率を有するものであればよく、特に材質等に限定されない。例えば、樹脂製であってもよいし、金属製であってもよい。その中でも、樹脂と繊維とを含む繊維強化樹脂(FRP)層を備えてなるものが好ましい。繊維強化樹脂層は、繊維によって強化された樹脂層であるので、含有する繊維の強度や含有率等によって、弾性率を容易に調整することができる。よって、巻取コアの弾性率を上記範囲内に容易に調整することができる。このような繊維強化樹脂層を備えてなる巻取コア11としては、例えば、1層の繊維強化樹脂層のみからなるものであってもよいし、異なる繊維強化樹脂層を2層積層したものであってもよいし、異なる繊維強化樹脂層を3層以上積層したものであってもよい。また、繊維強化樹脂層と、繊維を含まない樹脂層を積層したものであってもよい。
また、前記巻取コアの形状としては、円筒形状であることが好ましい。前記巻取コアの弾性率が上記範囲内であるならば、内部が空洞である円筒形状の方が、軽量化できるので、好ましい。また、前記巻取コアに回転装置に装着しやすい点からも好ましい。前記巻取コアの形状が円筒形状である場合、前記巻取コアの厚さは、巻取コアの弾性率によっても異なるが、例えば、5~15mmの範囲であることが好ましい。
次に、上記のような繊維強化樹脂層を備えてなる巻取コアの製造方法について説明する。前記巻取コアを製造する方法は、特に限定されないが、例えば、フィラメントワインディング法やシートワインディング法等によって製造できる。フィラメントワインディング法とは、液状の樹脂を含浸したフィラメント状の繊維を所定の型に巻き付け、樹脂を乾燥又は硬化させた後、脱型して、円筒形状の繊維強化樹脂層を形成させる方法である。また、シートワインディング法とは、液状の樹脂を含浸させたシート状の繊維(プリプレグ)を所定の型に巻き付け、樹脂を乾燥又は硬化させた後、脱型して、円筒形状の繊維強化樹脂層を形成させる方法である。より具体的には、以下のような方法である。
図29は、フィラメントワインディング法による巻取コアを製造する方法を説明するための概略図である。まず、型となるマンドレル931を、フィラメントワインダ932に取り付け、樹脂槽933に、繊維強化樹脂層の原料である樹脂を投入しておく。ここでの樹脂は、樹脂溶液又は硬化前の液状の樹脂である。繊維強化樹脂層の原料である繊維は、マンドレル931をフィラメントワインダ932によって回転させることによって、前記繊維を巻きつけたローラー934から順次供給される。そして、前記繊維は、ガイド935によって、巻き付ける位置を決め、マンドレル931に巻き付ける。その際、前記繊維は、マンドレル931に巻き付けられる前に、樹脂槽933の中を通過して、前記樹脂を含浸させる。そうすることによって、樹脂を含浸した繊維がマンドレルの表面上に巻き付けられる。その後、樹脂を乾燥又は硬化させることによって、マンドレル上に繊維強化樹脂層を形成させる。そして、繊維強化樹脂層からマンドレルを引き抜くことによって、目的の成形体を得る。
図30は、シートワインディング法による巻取コアを製造する方法を説明するための概略図である。まず、型であるマンドレル941を、支持ローラー944、945上に載置する。支持ローラー944、945を回転駆動させることによって、マンドレル941を回転させる。その際、タッチローラ943は、マンドレル941の表面を押圧し、マンドレル941の回転によって、従動回転する。そして、型であるマンドレル941を回転させることによって、図30に示すように、フィルムロール(プリプレグ)942をタッチローラ943でマンドレル941に押し付けながら、マンドレル941上に巻き付ける。その後、樹脂を乾燥又は硬化させることによって、マンドレル上に繊維強化樹脂層を形成させる。そして、繊維強化樹脂層からマンドレルを引き抜くことによって、目的の成形体を得る。
前記繊維としては、例えば、糸、ロービング、織物、不織布、編物、組物、クロス等のいずれの形態の繊維材料であっても用いることができる。また、その素材としては、繊維強化樹脂に一般的に含有される繊維であれば、特に限定なく使用できる。例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、及びセラミック繊維等が挙げられる。これらの中でも、高弾性率のものが得られる点から、ガラス繊維及びカーボン繊維が好ましく、カーボン繊維がより好ましい。
また、前記樹脂としては、繊維強化樹脂に一般的に含有される樹脂であれば、特に限定なく使用できる。例えば、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びエポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂等の硬化性樹脂が、熱に対して安定した巻取コアが得られる点から好ましい。
また、繊維強化層を2層以上積層する場合、例えば、異なる繊維強化樹脂層を2層積層する場合、使用する繊維及び樹脂は、各層毎に異なるものを用いてもよいし、同じものを用いてもよい。また、樹脂を含浸した繊維を2種以上巻き付けてから同時に乾燥又は硬化させることによって、2層以上の繊維強化層を形成させてもよいし、樹脂を含浸した繊維を巻き付けて乾燥又は硬化させた後に、別途樹脂を含浸した繊維を巻き付けて乾燥又は硬化させることによって、2層以上の繊維強化層を形成させてもよい。
巻取コアの弾性率の調整方法は、特に限定されないが、巻取コアの材質を代えることによって、調整が可能である。また、繊維強化層を備えた巻取コアの場合、使用する繊維として、カーボン繊維やアラミド繊維等の高強度繊維を用いたり、巻き付け量を多くしたり、繊維含有率を高めたりすることによって、弾性率を高めることができる。また、樹脂によっても、弾性率を調整することができる。さらに、繊維強化樹脂層の表面に繊維を含まない樹脂層を積層したものの場合、表層の樹脂層の樹脂によっても、弾性率を調整することができる。したがって、繊維強化樹脂層や表層の樹脂層の組成を適宜調整することによって、巻取コアの弾性率を上記弾性率範囲に調整することが可能である。
(6)スリット工程
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法において、フィルムの片側端部に設置されるスリット装置が、フィルム片側端部当たり1~3基である製造装置を採用することが、好ましい。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムを製造する製造装置において、フィルムスリット装置が、円盤状の回転上刃と、ロール状の回転下刃とから構成されているのが、好ましい。
ここで、スリット装置の円盤状の回転上刃は、直径30~300mmの範囲、及び切断箇所の厚さ0.3~3mmの範囲を有するとともに、同回転上刃の材質が、超鋼、超鋼微粒、SKD(合金工具鋼)、又はSKH(高速度工具鋼)のいずれかである。また、上刃のトーイン角を30~90度の範囲にするのが、好ましい。
ロール状の回転下刃は、ロール径75~200mmの範囲を有するとともに、同回転下刃のロール材質が、超鋼、超鋼微粒、SKD、SKHのいずれかである。
当該製造装置においては、フィルムスリット装置が、円盤状の回転上刃のみによって構成されていても良い。この場合、スリット装置の円盤状の回転上刃が、直径30~300mmの範囲、及び切断箇所の厚さ0.3~3mmの範囲を有するとともに、同回転上刃の材質が、超鋼、超鋼微粒、SKD、又はSKHのいずれかである。
本発明において、スリッター周辺の温度を20~50℃の範囲、湿度を50~70%RHの範囲にするのが、好ましい。
また、本発明において、上刃の周辺がボックス(Box)化され、かつ風速0.8~10m/secの範囲で吸引される吸引装置を設けるのが、好ましい。この場合、端部フィルムの吸引位置が、スリッティングポイントからベース搬送方向下流側とする。
本発明においては、スリットされた端部フィルム(フィルム断片)を、次期断裁工程へ搬送する機構を設けるのが、好ましく、例えば、スリットされた端部フィルムをニップ及び/又は吸引する機構を設けるのが、好ましい。さらに、スリットされた端部フィルムをニップ及び/又は巻取る機構を設けるのが、好ましい。
ここで、ドロー比すなわちニップ及び/又は巻き取るフィルムの速度をスリットされた端部フィルムの速度で割った値を、0.8~1.5の範囲にするのが、好ましい。
また、吸引圧を-1000~-100Paの範囲にするのが、好ましい。そして、ニップ圧を0.1~17MPaの範囲にするのが、好ましい。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造においては、スリットされた端部フィルムの幅を20~150mmの範囲、厚さを30~150μmの範囲にする。
本発明においては、搬送フィルムを、マスキングベースでカバーした後にスリットする方法もある。
マスキングベースの素材としては、フィルムを保護することができるものであれば、特に制限はなく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルムなどが挙げられる。
また、スリットされた端部フィルムの帯電量を、0~±10kVの範囲にするのが、好ましい。このため、上刃周辺には、除電装置を設けるのが、好ましく、除電装置としては、例えば除電バー、除電ブロワー、除電糸のいずれかを使用する。
スリットされた端部フィルム(フィルム断片)は、エッジクリーナーで処理するのが、好ましい。
また、スリット後の製品フィルムは、その端部をウェブクリーナーで処理し、切り粉を除去するのが、好ましい。
本発明の製造方法では、形成されたフィルムを加熱部で加熱する加熱工程をとることも好ましい。
この加熱工程では、最初に、インライン膜厚計でフィルムの膜厚を計測する。これにより、例えば、幅手方向両端が内側に比べて厚く形成された膜厚が計測される。なお、このように幅手方向両端の膜厚が厚くなるのは、樹脂をTダイのスリットから押し出す際に、樹脂に幅手中心方向へ引っ張る力が作用することに起因する、いわゆるネックイン現象によるものである。
そして、膜厚の計測されたフィルムをヒートガンで加熱する。このとき、制御部により、膜厚の計測結果に基づいてフィルムの幅手方向両端から全幅の10%の幅の範囲における平均膜厚tが算出され、この範囲内であって平均膜厚t以下の膜厚となるフィルム部分Hの少なくとも一部を加熱するようヒートガンがセットされることが好ましい。同時に、加熱されるフィルム部分Hの少なくとも一部の温度Tが、80≦T≦Tg+50[℃](Tg:樹脂のガラス転移温度[℃])となるようにヒートガンの出力が調整される。
この加熱は、フィルムの両端に生じる応力を熱変形により緩和するためのものである。詳細に説明すると、上述のネックイン現象によって膜厚が厚く形成されたフィルムの両端には、複数のローラーでの搬送時に搬送張力が集中する結果、フィルムを幅手中心方向に引っ張る力(フィルムの幅を狭める力)が作用して応力が生じる。上記の加熱は、この応力を緩和するためのものである。これにより、この応力に起因する長手方向(搬送方向)の縦シワや、目視では確認できない微小な歪の発生を抑制することができる。この効果は、上記の応力発生要因から、未延伸状態のフィルムを長く搬送する工程において、より顕著に作用する。
また、この加熱は、スリット工程以外にも、延伸工程の前に行うことで上記の縦シワや歪の発生を効果的に抑制することができるため好ましい。これは、延伸工程におけるフィルムの長手方向への延伸によって縦シワや歪が強調されるためである。更には、この加熱は、冷却ローラーよる樹脂の冷却固化の直後に行うことが望ましい。
また、この加熱によるフィルムの温度Tは、80℃未満であると、フィルムFの熱変形が少なく、応力を緩和する効果が不十分であり、Tg+50℃よりも高いと、フィルムFの加熱箇所が溶融して、フィルムがローラーに付着したり搬送方向に破断したりする恐れがある。したがって、この温度Tを80≦T≦Tg+50[℃]とすることで、加熱箇所の溶融を防止しつつフィルムを十分に熱変形させることができる。ただし、この温度Tは、80≦T≦Tg+30[℃]であるのがより好ましく、100≦T≦Tg+10[℃]であるのが更に好ましい。
次に、加熱されたフィルム部分Hの少なくとも一部を切断して除去する(切断工程)。
より詳しくは、フィルム部分Hのうちの加熱された部分からフィルムの最端部までを、加熱部のロータリーカッターでフィルムの長手方向に切断することによって除去する。この切断工程でフィルムの両端部を除去することにより、以降の搬送による当該両端部での応力の発生を防止できることから、縦シワや歪の発生をより確実に抑制することができる。なお、この切断工程では、フィルム部分Hのうちの加熱された部分のみを除去してもよいし、フィルム部分H全体を除去してもよい。また、この切断工程を行わなくともよい。
次に、成形され加熱されたフィルムを縦延伸機で長手方向に延伸する(延伸工程)。
この延伸工程では、IRヒーターでフィルムFを加熱しつつ、順番に徐々に周速が早くなるよう駆動された複数のローラーでフィルムを搬送することにより、当該フィルムを長手方向(搬送方向)へ延伸する。このとき、IRヒーターによってフィルムが加熱されるローラー間で最も周速の差が大きくなるように、ローラーが駆動される。
次に、延伸されたフィルムを、巻取り部のワインダーで巻き取る。
以上の製造方法によれば、長手方向へ延伸される前のフィルムに対し、当該フィルムの幅手方向両端から所定の範囲内の少なくとも一部を加熱するので、長手方向の縦シワや歪が延伸によって強調される前に、幅手方向内側よりも強い搬送張力が作用している部分を熱変形させて、縦シワや歪の原因となる応力を効果的に緩和させることができる。
この際、フィルムの幅手方向両端から全幅の10%の幅の範囲内の少なくとも一部だけを加熱するので、フィルム全体が加熱されて搬送張力による不要な延伸や光学特性の変化を生じさせたり、上記範囲外のフィルム内側に縦シワや歪が生じて完成品である環状ポリオレフィンフィルムの有効幅を減らしたりすることがない。
また、上記範囲の平均膜厚t以下の膜厚となるフィルム部分Hの少なくとも一部だけを加熱するので、つまりは、最も厚く形成されて最も強く搬送張力が作用するフィルムFの最端部は加熱しない。これにより、当該最端部が加熱されてフィルムFが部分的に延伸することによる当該フィルムFの破断を防止することができる。
また、上記フィルム部分Hの少なくとも一部を80≦T≦Tg+50[℃](Tg:環状ポリオレフィン系樹脂Rのガラス転移温度[℃])を満たす温度Tに加熱するので、加熱箇所の溶融を防止しつつ十分に熱変形させて、縦シワや歪の原因となる応力を確実に緩和させることができる。
以上により、長手方向の縦シワや歪の発生を抑制することができる。
また、延伸工程においてフィルムを長手方向(搬送方向)のみに延伸することとしたが、縦延伸機の後流にテンターを設け、当該テンターによりフィルムを幅手方向に延伸することとしてもよい。
また、インライン膜厚計は、接触式と非接触式とのいずれの形式であってもよいが、ライン中での計測が容易な点から、レーザーやX線を利用した非接触式のものとするのが好ましい。
また、前記ヒートガンは、フィルムを熱風で加熱するものでなくともよく、ヒートローラ等の接触しながら加熱するものや、IRヒーター等の照射により加熱するものであってもよい。
また、ロータリーカッターは、回転式のものでなくともよく、片刃のカッター等の固定式のものとしてもよい。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法では、スリット工程において、好ましくは、レーザー加工工程(レーザー光を照射してフィルムを加工する工程、以下単にレーザー加工と称する場合もある。)を採用することで、切断部溶融、切断部外観不良などのフィルムへのダメージが少なく、またレーザー強度が多少変動しても、切断部の形状が乱れることがない。また、フィルムの幅方向両端部に凹凸を形成する工程を、従来の凹凸を形成したエンボスローラーで加工する工程の替わりに、レーザー照射により加工する工程とすることもでき、所定の凹凸形状を良好に形成することができる。また、フィルムの膜厚仕様が変わっても、従来のようにフィルム膜厚に対応したエンボスローラーに取り替える必要が無く、過剰なレーザー強度を不要とし凹凸部分の損傷などのフィルムへのダメージが少なく、またレーザー光の強度を調節することにより、容易に適切なエンボス加工を行うことができるので、フィルムの生産性に優れている。また、レーザー光の照射位置を可変として、フィルム幅に応じてエンボス部を所定箇所に形成するのが好ましい。このように、レーザー光の照射位置を可変とすることで、フィルムの幅手方向の端部又は中央部のいずれにも、エンボス部の凹凸を容易に形成することが可能となり、これまでのエンボス加工時に、押圧用のエンボスローラーをバックローラーに接圧させたことにより生じたフィルム表面の微小なシワ・キズ等の故障が皆無となって、フィルムの表面性を飛躍的に向上し得る。
また、レーザー加工工程は、上記のように切断加工やエンボス加工に限定するものではなく、フィルムの製造工程中で行われるレーザー加工であれば良く、例えば、搬送性を上げるためにフィルム端部の表面を粗面化する加工や溝、凹凸を設ける加工などのレーザー加工であっても良い。
また、本発明において、レーザー加工工程におけるレーザー光が遠赤外線領域の光である場合は、フィルムに含有している化合物は、4~25μmの波長領域の光を吸収する化合物である。例えば、レーザー光がCO2レーザーである場合は、レーザー光の波長が9.3~10.6μmであるので、この範囲の波長を吸収する化合物が好ましい。
また、本発明において、レーザー加工工程におけるレーザー光が紫外線領域のUV光である場合は、フィルムに含有、又は、フィルム表面に塗布されている化合物は、0.2~0.4μmの波長領域の光を吸収する化合物である。例えば、UVレーザーとしては、KrFエキシマレーザー(波長0.248μm)、YAG-FHGレーザー(波長0.266μm)、YAG-THGレーザー(波長0.355μm)などがあり、上記化合物は、それぞれの波長を吸収する化合物が好ましい。
また、本発明において、レーザー加工工程の前に、フィルムの表面のレーザー光を照射する部分に、レーザー光の波長を吸収する化合物を含有させるのが好ましい。
含有させる方法としては塗布、噴射などがあるが、それ以外の方法であってもよく、含有させる手段が特に限定されるものではない。
レーザー照射部分に前記化合物を、例えば塗布することにより、化合物の使用量を少なくすることができるとともに、レーザー照射部分以外のフィルムの領域の物性(色変化や透明性など)に、前記化合物による影響を与えることがない。フィルムの表面に化合物を塗布する方法は、特に限定するものではなく、必要な膜厚の化合物を含む層を形成できれば良く、インクジェット方式やローラー塗布方式などを用いることができる。
ところで、レーザー光とは、「誘導放出による光の増幅」(Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)という意味で、発振波長によって、上記CO2レーザー光やUVレーザー光に分類される。
また、本発明では、フィルムの両端部にエンボス又はスリット目加工を施したテープ982を巻き付けて巻き取るようにすることも好ましい。
図31(A)は、フィルムの両端部にエンボス又はスリット目加工を施したテープ982を巻き付けて巻き取ったフィルムロール942を正面から見た図である。また、図31(B)は、図31(A)の丸く囲んだ部分Aの断面を拡大して示した図である。
通常、フィルムが巻取り軸934に巻き取られる際は、基材Boの両端部にエンボス又はスリット目加工を施したテープ982を巻き付けて巻き取っていない。したがって、フィルムに付着した塵埃や巻きズレによりフィルムに傷などのダメージが与えられてしまうという問題があった。
本発明のように、フィルムoの両端部にエンボス又はスリット目加工を施したテープ982を巻き付けて巻き取るようにすることで、塵埃や巻きズレによりフィルムに傷などのダメージが与えられるのを防止することができる。
図32は、テープ982を拡大して示したものであり、図32(A)は、エンボス加工が施されたテープの表面と、フィルムBoとフィルムBoの間にそのテープ982を挟んだときの断面と、を示したものであり、図32(B)は、スリット目加工が施されたテープの表面と、フィルムBoとフィルムBoの間にそのテープ982を挟んだときの断面と、を示したものである。
フィルムBoの両端部に図32のようなエンボス又はスリット目加工を施したテープ982を巻き付けて巻き取ることで、エンボス又はスリット目加工を施したテープ982をエアーが通ることができ、フィルムロール942として巻き取られたフィルムBoの中央部にエアーが入出することができる。したがって、ロールとして巻き取られたフィルムBoの中央部へエアーの出入りができるので、クニック(折れ曲がり、押し跡)やシワが発生するのを防止することができる。
ここで、テープ982の厚さXは50μm以上であることが好ましく、エンボス又はスリット目加工の深さxがテープの厚さの20~50%の範囲であることが好ましい。
なお、テープの厚さXが50μm未満であると、テープ982のエンボス又はスリット目加工が巻圧で潰されてしまう。そして、エンボス又はスリット目加工の深さxがテープの厚さXの20%未満であると、テープのエンボス又はスリット目加工が巻圧で潰されてしまい、フィルムロール942として巻き取られたフィルムBoの中央部にエアーが入出することができなくなる。また、エンボス又はスリット目加工の深さxがテープの厚さXの50%よりも大きいと、エンボス又はスリット目加工された部分の強度が弱く、巻圧によって加工した形状が潰されてしまう。
このように、エンボス又はスリット目加工を施したテープ982を巻き付けて巻き取ることで、塵埃などで膜面やフィルムにダメージが与えられることを防止し、且つ、クニックやシワが発生することを防止することができる。
本発明に用いられるフィルムスリット装置は、円盤状の回転上刃と、ロール状の回転下刃とから構成されているのが、好ましい。
ここで、スリット装置の円盤状の回転上刃は、直径30~300mm、及び切断箇所の厚さ0.3~3mmを有するとともに、同回転上刃の材質が、超鋼、超鋼微粒、SKD(合金工具鋼)、又はSKH(高速度工具鋼)のいずれかであることが好ましい。また、上刃のトーイン角を30~90度にするのが好ましい。
ロール状の回転下刃は、ロール径75~200mmを有するとともに、同回転下刃のロール材質が、超鋼、超鋼微粒、SKD、SKHのいずれかであることが好ましい。
本発明に用いられるフィルムスリット装置は、円盤状の回転上刃のみによって構成されていても良い。この場合、スリット装置の円盤状の回転上刃が、直径30~300mm、及び切断箇所の厚さ0.3~3mmを有するとともに、同回転上刃の材質が、超鋼、超鋼微粒、SKD、又はSKHのいずれかであることが好ましい。
本発明において、スリッター周辺の温度を20~50℃、湿度を50~70%RHにするのが、好ましい。
また、本発明において、上刃の周辺がボックス(Box)化され、かつ風速0.8~10m/secの範囲で吸引される吸引装置を設けるのが、好ましい。この場合、端部フィルムの吸引位置が、スリッティングポイントからベース搬送方向下流側とする。
本発明においては、スリットされた端部フィルム(フィルム断片)を、次期断裁工程へ搬送する機構を設けるのが、好ましく、例えば、スリットされた端部フィルムをニップ及び/又は吸引する機構を設けるのが、好ましい。
さらに、スリットされた端部フィルムをニップ及び/又は巻取る機構を設けるのが、好ましい。
ここで、ドロー比すなわちニップ及び/又は巻き取るフィルムの速度をスリットされた端部フィルムの速度で割った値を、0.8~1.5にするのが、好ましい。
また、吸引圧を-1000~-100Paにするのが、好ましい。そして、ニップ圧を0.1~17MPaにするのが、好ましい。
(7)エンボス加工(ナーリング加工)工程
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、フィルムの幅手方向の両端にエンボス領域を有するものであることが好ましい。エンボスは各エンボス領域において、搬送方向について略平行に凸列を1列以上で有している。凸列とは、凸領域が搬送方向において間欠的又は連続的に形成されたものである。本明細書中、凸領域が搬送方向において間欠的に形成された凸列を間欠的凸列と呼ぶものとし、凸領域が搬送方向において連続的に形成された凸列を連続的凸列と呼ぶものとする。凸列が間欠的凸列である場合、当該凸列を間欠的に構成する個々の凸領域を凸領域ユニットと呼ぶものとする。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムが有する幅手方向両端のエンボス領域はそれぞれ独立して、以下に示す(I)又は(II)の要件を満たすものであることが好ましい。すなわち、両端のエンボス領域は共通して(I)の要件を満たしてもよいし、(II)の要件を満たしてもよいし、又は一端のエンボス領域が(I)の要件を満たし、かつ他端のエンボス領域が(II)の要件を満たしてもよい。両端のエンボス領域が共通して(I)の要件を満たすか、又は(II)の要件を満たす場合、両端のエンボス領域は、幅手方向の中央線について対称性を有してもよいし、又は所定の範囲内において互いに異なっていてもよい。両端のエンボス領域は好ましくは、共通して(I)の要件を満たすか、又は(II)の要件を満たし、かつ幅手方向の中央線について対称性を有する。以下、(I)及び(II)の要件について詳しく説明するが、これらの要件についての説明は一端分のエンボス領域を対象とするものである。本明細書中、フィルム面に対して垂直方向から見たとき、エンボス領域が有する凸領域のパターン形状をエンボスパターンということがある。
(I)エンボス領域が間欠的凸列のみを2列以上で有する場合、巻き込みエアーの抜けを阻害するように、各間欠的凸列の凸領域ユニットの配置を、搬送方向で隣り合う任意の二つの凸領域ユニット間及び幅手方向で隣り合う任意の2列の凸列間について制御する。
要件(I)においてエンボス領域は間欠的凸列を好ましくは2~7列、より好ましくは3~5列で有する。具体的には、例えば図33(A)においてフィルムは、幅手方向一端におけるエンボス領域A10において、搬送方向(MD方向)について平行に間欠的凸列A1を3列で有している。凸列がこのように間欠的凸列である場合、当該間欠的凸列を構成する個々の凸領域を凸領域ユニットと呼ぶものとし、図33(A)中、A2で示すものとする。全ての間欠的凸列A1における全ての凸領域ユニットA2は通常、同じ寸法を有し、かつ一定の間隔で搬送方向に繰り返し形成される。
要件(I)では、まず、凸領域ユニットの配置を、搬送方向で隣り合う任意の二つの凸領域ユニット間において制御する。詳しくは、各間欠的凸列A1において搬送方向で隣り合う任意の二つの凸領域ユニットA2間の搬送方向距離x(mm)(図33(A)参照)を、凸領域ユニットA2の搬送方向長さy(mm)に対して0.4以下、特に0.01~0.4、好ましくは0.01~0.25にする。当該割合が大きすぎると、フィルムロールの巻き込みエアーが経時的に有効に保持されないため、フィルム同士の貼り付き、巻き緩み、シワ及び折れを十分に抑制できず、また巻きズレも十分に抑制できない。
凸領域ユニットA2間の搬送方向距離x(mm)は、上記割合が達成される限り特に制限されず、通常は0.5~3mmの範囲であり、好ましくは1~2mmの範囲である。
凸領域ユニットA2の搬送方向長さy(mm)は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、通常は3~20mmの範囲であり、好ましくは5~10mmの範囲である。
要件(I)では、さらに、凸領域ユニットの配置を、幅手方向で隣り合う任意の2列の凸列間において制御する。詳しくは、幅手方向で隣り合う任意の2列の凸列について、一方の凸列における任意の一つの凸領域ユニットが、幅手方向に対する垂直断面透視図上、他方の凸列において搬送方向で隣り合う二つの凸領域ユニットと重なるように配置する。
具体的には、図33(B)に示すように、任意の一つの凸領域ユニットA2aは、その搬送方向上流側及び下流側で、隣り合う凸列において搬送方向で隣り合う二つの凸領域ユニットA2b、A2cと重なるように配置される。図33(B)は、図33(A)のフィルムにおいて一つの凸領域ユニットA2aに注目したときに、隣り合う間欠的凸列A1において当該凸領域ユニットA2aと最も近い凸領域ユニットA2c及び2番目に近い凸領域ユニットA2bとの関係を示す幅手方向に対する垂直断面透視図である。そのような垂直断面透視図において、任意の一つの凸領域ユニットが、隣り合う間欠的凸列の一つの凸領域ユニットとしか重ならない場合、フィルムロールの巻き込みエアーが経時的に有効に保持されないため、フィルム同士の貼り付き、巻き緩み、シワ及び折れを十分に抑制できず、また巻きズレも十分に抑制できない。
幅手方向に対する垂直断面透視図において、凸領域ユニットA2aにおける搬送方向上流側の凸領域ユニットA2bとの重なり部分の搬送方向長さZ1(mm)及び搬送方向下流側の凸領域ユニットA2cとの重なり部分の搬送方向長さZ2(mm)のうち小さい方の長さは凸領域ユニットの搬送方向長さy(mm)に対して0.3以上、特に0.3~0.5である。当該割合が小さすぎると、フィルムロールの巻き込みエアーが経時的に有効に保持されないため、フィルム同士の貼り付き、巻き緩み、シワ及び折れを十分に抑制できず、また巻きズレも十分に抑制できない。
凸領域ユニットA2aが搬送方向上流側及び下流側でそれぞれ凸領域ユニットA2b、A2cと重なり合う上記関係は、本発明においては任意の凸列における任意の一つの凸領域ユニットと、隣り合う凸列において該凸領域ユニットと最も近い凸領域ユニット及び2番目に近い凸領域ユニットとの間において満たすものである。
間欠的凸列A1を構成する凸領域ユニットA2は、凸領域が形成されていない領域から所定の高さで浮き上がっている。例えば、図33(B)において、凸領域ユニットA2(A2a、A2b、A2c)は、凸領域が形成されていない領域の表面A3から所定の高さhで浮き上がっている。高さhは本発明の目的が達成される限り特に制限されず、通常は平均で1.5~30μmであり、好ましくは2~20μmの範囲である。
エンボス領域A10において、凸領域の面積率は20~80%の範囲である。凸領域の面積率が小さすぎると、フィルムロールの巻き込みエアーが有効に保持されないので、巻き緩みや張り付きを抑止する効果が得られない。凸領域の面積率が大きすぎると、フィルムロールの巻き込みエアーが多くなりすぎるため、巻き緩みが悪化する。
凸領域の面積率は、エンボス領域A10の全体面積に対する凸領域ユニットA2の総面積の割合である。エンボス領域A10とは、フィルムの幅手方向一端における全ての凸領域を含むように、搬送方向に平行な直線で区切られる最小な領域であり、例えば図33(C)において斜線で示される領域である。
エンボス領域A10とフィルムの端面との距離a(図33(C)参照)、エンボス領域A10の幅手方向長さb(図33(C)参照)、及び幅手方向で隣り合う凸列の間の距離c(図33(C)参照)は、本発明の目的が達成される限り特に制限されない。
距離aは通常、10mm以下であり、5mm以下が好ましい。
長さbは通常、5~30mmの範囲であり、10~20mmの範囲が好ましい。
凸列間距離cは、上記凸領域の面積率が達成される限り特に制限されず、通常、0.1~5mmの範囲であり、0.5~2mmの範囲が好ましい。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムにおいて、幅手方向の長さ、搬送方向の長さ、及び幅手方向について中央の非エンボス領域A5における膜厚は特に制限されない。
幅手方向の長さは通常は500~4000mmの範囲であり、好ましくは1000~3000mmの範囲であり、より好ましくは1300~3000mmの範囲である。従来では、当該長さが長いほど、巻き込まれたエアーが抜け難い一方で、時間の経過とともにエアーは抜けるため、巻き緩み、シワ及び折れ等の問題が発生しやすいが、本発明においてはそのような長さであっても、それらの問題を有効に抑制できるためである。
搬送方向の長さは通常は500~10000mの範囲であり、好ましくは2000~9000mの範囲であり、より好ましくは3000~8000mの範囲である。従来では、当該長さが長いほど、巻き込まれるエアー量が増大する一方で、時間の経過とともにエアーは抜けるため、巻き緩み、シワ及び折れ等の問題が発生しやすいが、本発明においてはそのような長さであっても、それらの問題を有効に抑制できるためである。
非エンボス領域A5における膜厚は通常は10~200μmの範囲であり、好ましくは20~80μmの範囲である。当該厚さが薄いほど、環状ポリオレフィンフィルムが変形しやすいため、巻き緩み、シワ及び折れ等の問題が発生しやすいが、本発明においてはそのような厚さであっても、それらの問題を有効に抑制できるためである。
図34(A)に示すエンボスパターンおいて凸領域ユニットA2は、長方形形状を有しているが、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、例えば、菱形形状、W字(M字)形状、六角形状、十字形状等を有していてもよい。
凸領域ユニットA2が菱形形状を有する場合のエンボスパターンの具体例を図34(A)~図34(C)に示す。
図34(A)~図34(C)はそれぞれ、凸領域ユニットA2が菱形形状を有すること以外、図33(A)~図33(C)と同様であるため、それらの説明を省略する。図34(A)~図34(C)における図33(A)~図33(C)と同じ符号は、凸領域ユニットA2の形状が異なること以外、図33(A)~図33(C)と同じ意味内容を示すものとする。
図34(C)において斜線で示される領域がエンボス領域A10である。
(II)エンボス領域が連続的凸列を1列以上で有する場合、エンボス領域はさらに間欠的凸列を有しても、又は有さなくてもよい。すなわち、エンボス領域が有する全ての凸列は1列以上、好ましくは2~7列の連続的凸例のみからなっていてもよいし、又は1列以上、好ましくは1~7列の連続的凸列と、1列以上、好ましくは1~7列の間欠的凸列とからなっていてもよい。前者の場合の具体例として、例えば、図35(A)~図35(C)に示すエンボスパターンが例示できる。後者の場合の実施形態として、例えば、図35(A)~図35(C)に示すエンボスパターンが例示できる。
図35(A)~図35(C)はそれぞれ、全ての凸列が連続的凸列であること以外、図33(A)~図33(C)と同様であるため、それらの説明を省略する。図35(A)~図35(C)における図33(A)~図33(C)と同じ符号は、凸列が連続的であること以外、図33(A)~図33(C)と同じ意味内容を示すものとする。
図36(A)~図36(C)はそれぞれ、エンボス領域が1列の連続的凸列と1列の間欠的凸列とを有すること以外、図34(A)~図34(C)と同様であるため、それらの説明を省略する。図36(A)~図36(C)における図34(A)~図34(C)と同じ符号は、凸列の数が異なること、及び一つの凸列が連続的凸列であること以外、図34(A)~図34(C)と同じ意味内容を示すものとする。
特に要件(II)においては、要件(I)においてと同様に、エンボス領域A10における凸領域の面積率は20~80%の範囲であり、好ましくは30~60%の範囲である。凸領域の面積率が小さすぎると、フィルムロールの巻き込みエアーが有効に保持されないので、巻き緩みや張り付を抑止する効果が得られない。凸領域の面積率が大きすぎると、フィルムロールの巻き込みエアーが多くなりすぎるため、巻き緩みが悪化する。
凸領域の面積率は、エンボス領域A10の全体面積に対する凸領域ユニットA2の総面積の割合である。エンボス領域A10は、フィルムの幅手方向一端における全ての凸領域を含むように、搬送方向に平行な直線で区切られる最小な領域であり、例えば図34(C)及び図36(C)において斜線で示される領域である。
要件(II)において、エンボス領域が有し得る間欠的凸列は、特に制限されず、例えば、要件(I)においてと同様の間欠的凸列であってもよいし、又は当該間欠的凸列以外の間欠的凸列であってもよい。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、上記した(I)及び(II)の要件において、搬送方向に略平行に形成された間欠的凸列及び/又は連続的凸列以外に、他のエンボスパターンで形成された凸領域やランダム(不規則)に形成された凸領域をエンボス領域に有することを妨げるものではない。
本発明では、エンボス部を形成するナーリング加工は、ナーリング加工の処理温度をT(℃)、ベースフィルムのガラス転移温度をTg(℃)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間をs(秒)としたときに、下記の関係式を満たす条件でナーリング加工を行い、ロール状のフィルムを製造することが好ましい。
0.75≦(T-Tg)×s≦1.00
なお、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間s(秒)は、フィルムの搬送速度と、ニップ幅、換言すれば押し圧を変えることで、変更することが可能である。なお、ニップ幅や押し圧を変えるには、ゴムロールよりなるバックロール表面のゴムの硬度を調整したり、エンボスリング及びエンボスバックロールの直径を変えることで、行うことができる。
上記において、(T-Tg)×sの値が、0.75未満であれば、エンボス高さが十分得られず、巻き取った状態での実効ナールが低くなるため、フィルム同士の貼り付き故障が発生したり、凸状の局所的な変形が発生し、フィルムとしての平面性を満たさなくなるので、好ましくない。
また、(T-Tg)×sの値が、1.00を超えると、エンボス高さが出すぎて、結果として巻き取った状態での実効ナールも高くなるため、巻きの中央が馬の背中のような形状に凹み、フィルムとしての平面性が保て無くなるので、好ましくない。またTの値であるナーリング加工時の温度を高くすると(T-Tg)×sの値も大きくなるが、この場合(T-Tg)×sの値が1.00を超える程度までTの温度を高くすると、ヒゲ状故障が発生するため好ましくない。
また、本発明において、ナーリング加工の際に、エンボス刻印ローラーのフィルム排出側に10~20℃の冷風を当てるのが、好ましい。ここで、ナーリング加工の際に、エンボス刻印ローラーのフィルム排出側に10~20℃の冷風を当てるのは、エンボス加工直後にフィルムとリング部を冷却することにより熱で溶けた樹脂部分が冷却固化するため、糸状の異物(ヒゲ状異物)の発生を抑えられ、充分に高いエンボス高さを得ることができるという理由による。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、ロール状フィルムの下記式で定義される実効ナールが0.5~7.0μmであるのが、好ましい。
実効ナール=(エンボス部ロール断面積-コア断面積)/巻き長さ-平均膜厚
上記において、実効ナールが0.5μm以上であれば、フィルム同士の貼り付き故障が発生せず、凸状の局所的な変形の発生を抑制し、フィルムとしての平面性が向上する。また、実効ナールが7.0μm以下であると、巻きの中央が馬の背中のような形状に凹むこともなく、フィルムとしての平面性が向上する。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、ロール状のフィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数が、0~50個/cm2であることが好ましく、0~20個/cm2であることがより好ましく、0~10個/cm2であることがさらに好ましい。
上記において、フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数は、少ないほど好ましく、ヒゲ状異物の個数が50個/cm2を超えると、偏光板として加工する際のクリーニング装置でも除去しきれなくなり、偏光子とフィルムの間に異物として入り込み液晶表示装置に組み込んだ場合画像欠陥となるので、好ましくない。表面に反射防止処理や防眩処理などの塗布加工を施す場合も同様である。
ここで、エンボス部の高さh(μm)は、フィルム膜厚Hの0.05~0.3倍の範囲、幅Wは、フィルム幅Lの0.005~0.02倍の範囲に設定する。エンボス部は、フィルムの両面に形成してもよい。この場合、エンボス部の高さh1+h2(μm)は、フィルム膜厚Hの0.05~0.3倍の範囲、幅Wはフィルム幅Lの0.005~0.02倍の範囲に設定する。例えばフィルム膜厚40μmであるとき、エンボス部の高さh1+h2(μm)は2~12μmの範囲に設定することが好ましく、エンボス部幅は5~30mmの範囲に設定することが好ましい。
エンボス部高さの下限については、フィルム間の部分的な密着むらを防ぐために必要な高さから、一方、上限は、これ以上にするとエンボス部が高すぎるため、ロール状巻き製品の形態が馬の背状に多角形状に変形し、故障を誘発するからである。
エンボス部の幅については、エンボス部は最終的にロス部分となるため少なくしたいが、例えば50μm以内の薄膜フィルムで、50m/分以上の高速製膜時において、フィルムのすべりを抑えるための最低限必要なエンボス部幅である。
ただし、前述のエンボス部の高さともリンクしており、凸状、ピラミッド状、馬の背、多角形状、巻きずれ故障を全てクリアーするエンボス部高さ×エンボス部幅を設定する必要がある。
エンボス加工を施した後のフィルムは以下の巻取方法で巻取ることが好ましい。
巻取方法は、フィルムの側縁が揃うように前記フィルムを巻芯に巻き取るストレート巻き工程と、前記ストレート巻き工程の後に、前記側縁が前記フィルムの幅方向に対して一定範囲で周期的にずれるように、前記フィルムの幅方向に前記フィルム又は前記巻芯を周期的に振動させて前記フィルムを前記巻芯に巻き取るオシレート巻き工程とを有することが好ましい。
特に、前記フィルムの巻長が、前記フィルムの全巻長に対して10~30%の範囲内であらかじめ定められる切替時巻長に達したときに、前記ストレート巻き工程から前記オシレート巻き工程に切り替えることが好ましい。
フィルムの巻取装置は、巻芯を回転させて前記巻芯にフィルムを巻き取るフィルム巻取部と、前記フィルムが前記巻芯上で前記フィルムの幅方向に一定範囲内で周期的にずれるオシレート巻きになるように、前記フィルムの巻取りに連動させて前記フィルム又は前記巻芯を前記フィルムの幅方向に振動させるオシレート部と、前記フィルムの巻長があらかじめ定められる切替時巻長に達したときに、前記フィルムの巻取りを前記ストレート巻きから前記オシレート巻きに切り替える切替部とを備えることが好ましい。
以下オシレート巻きについて説明する。
図37に示すように、フィルム製造ラインB10は、フィルム製造装置B11と、巻取装置B12とを備えている。フィルム製造装置B11は、溶液製膜方法によりフィルムB13を製造する。溶液製膜方法では、まず、原料を用いてドープを調製する。そして、調製したドープを無端支持体上に流延して流延膜を形成する。流延膜が自己支持性を有するようになったときに、無端支持体から流延膜を剥離する。剥離された流延膜を熱風等で乾燥することによって、フィルムB13が形成される。形成されたフィルムB13は、ナーリング付与ローラーB15を介して、巻取装置B12に送られる。ナーリング付与ローラーB15は、エンボス加工等により、フィルムB13の幅方向の両側縁部(耳部)に対して微小な凹凸を形成する。なお、ナーリング付与ローラーにより形成される凹凸の高さは0.5~20μmの範囲であることが好ましい。
図37及び図38に示すように、巻取装置B12は、巻取軸B19、巻芯ホルダB20、巻芯B21、ターレットB22、ガイドローラーB23、B24、ダンサローラーB25、エンコーダB27、オシレート部B29、巻取モーターB30、コントローラB31、及びダンサ部B32を備えている。この巻取装置B12における巻取対象のフィルムサイズなどは特に限定されないが、例えば全巻取長が2000~10000mの範囲であり、幅が500~2500mmの範囲のサイズのフィルムであることが好ましい。
図38に示すように、巻取軸B19はターレットB22に片持ち支持機構で取り付けられている。片持ち支持機構とは、巻取軸B19の一端のみを支持する機構である。巻取軸B19には、巻芯B21が取り付けられている。巻芯B21は、巻取軸B19の巻芯ホルダB20により両端部が挟持される。巻芯ホルダB20は巻取軸B19の軸方向(Y方向)でスライド自在にかつ巻取軸B19に回転不能に取り付けられている。巻取軸B19の一端には巻取モーターB30が連結されており、巻取軸B19を回転するように構成されている。この回転により、巻芯B21も回転し、フィルムB13を巻芯B21に巻き取ることができる。このフィルムB13の巻取りにより、フィルムB13がロール状に巻き付けられたフィルムロールB38が得られる。
ターレットB22には、巻取軸B19の取付端部にシフト機構B28が取り付けられている。このシフト機構B28は巻芯ホルダB20を巻取軸B19上で軸方向に往復運動させる。このシフト機構B28、巻取軸B19、巻芯ホルダB20により、オシレート部B29が構成されている。このオシレート部B29を作動させて、シフト機構B28により巻芯ホルダB20を巻取軸B19上でY方向に往復運動させることにより、フィルムB13が積層するごとに側縁B13aの位置が振幅Woの範囲内でずれながら、フィルムB13が巻き取られるオシレート巻きを可能にする。オシレート部B29を作動させない場合には、フィルムB13の両側縁が揃った状態になるストレート巻きが可能になる。このストレート巻き及びオシレート巻きの切り替えはコントローラB31により行われる。
ここで、オシレート巻きにおいて、その振り幅であるオシレート幅Woは任意に設定することができ、振幅Woは10~30mmの範囲内であることが好ましく、前記範囲内であれば、振幅Woは一定値で固定する他、徐々に増加させたり、減少させたり、増加後に減少させたりしてもよい。
ガイドローラーB23、B24及びダンサローラーB25は、フィルム製造装置B11からのフィルムB13を搬送方向(X方向)に案内する。また、ダンサローラーB25はシフト機構B26によりフィルムB13を上下方向(Z方向)に移動させることにより、フィルムB13の巻取張力を調整する。このシフト機構B26及びダンサローラーB25によりダンサ部B32が構成される。エンコーダB27は、ガイドローラーB24が一定の回転角度で回転するごとに、エンコーダパルス信号をコントローラB31に送信する。なお、ガイドローラーB24にはフィルムB13の巻取張力を測定する張力センサを設けてもよい。
コントローラB31は、オシレート部B29、巻取モーターB30、及びダンサ部B32の駆動を制御する。コントローラB31は、巻取情報入力部B39、LUTメモリB40、切替時巻長特定部B41、巻長測定部B42、及び切り替え判定部B43を備えている。巻取情報入力部B39には、フィルムB13の全巻取長、厚さ、幅、巻芯B21の外径、巻取張力などの巻取情報が入力される。
LUTメモリB40には、巻取情報ごとに、ストレート巻きからオシレート巻きに切り替えるときのフィルムB13の巻長(切替時巻長)が記憶されている。切替時巻長は、好ましくはフィルムB13の全巻長に対して10~30%の範囲であらかじめ設定されており、より好ましくはフィルムB13の全長に対して15~25%の範囲であらかじめ設定されている。
切替時巻長が上記範囲に設定されているのは以下の理由からである。図39に示すように、グラフB50は巻芯B21の円周方向でフィルムB13に発生する応力と巻長との関係を表したものである。フィルムB13の円周方向の応力は、巻芯B21の回転トルクとダンサ部B32による張力とに基づいて求められる。巻芯B21の回転トルクがダンサ部B32による張力よりも大きくなったときにフィルムB13の円周方向の応力は正となり、巻芯B21の回転トルクがダンサ部B32による張力よりも小さくなったときに負となる。なお、図40に示すように、フィルムB13が巻芯B21に巻き取られているフィルムロールB38において、点P1から周方向の外側に向かって力がかかるときに、フィルムB13の点P1における円周方向の応力が正であるという。また、点P2に向かって周方向で力がかかるときに、フィルムB13の点P2における円周方向の応力が負であるという。
図39のグラフB50は、フィルムB13の巻取り始めの張力と巻取り終わりの張力などに基づいて、周知の応力計算式からあらかじめ求められる。フィルムB13の円周方向の応力の分布パターンは、各フィルムの厚さ、幅、巻取り長さ、巻芯の外径などのパラメーターや巻取り張力パターンの変化状況に応じて、各種値や負の領域などが変化するが、これまでのフィルム巻取結果からおおむね図39と略同じ分布パターンであることが分かっている。
グラフB50が示すように、フィルムB13の円周方向の応力は、フィルムロールB38において巻芯B21側の巻長が小さい部分では正(+)となっている。図39では、巻長が0であるところから応力が減少して負(-)に変わる巻長に、符号L1を付す。このように巻取り始めでは、巻長が長くなるにつれて、円周方向の応力は急激に減少する。そして、円周方向の応力は、さらに減少して負(-)の領域に入る。なお、図39では、巻取完了に対応する巻長には、符号LEを付す。そして、負(-)の領域で、円周方向の応力は、最小値Sminを示す。図39では、円周方向の応力が最小値Sminを示した巻長に、符号Lminを付す。巻長がLminを超える部分では、円周方向の応力は、巻長が長くなるに従い次第に増加し、正(+)の領域に入る。円周方向の応力が最小値Sminを示した後に増加して正に変わる巻長に、符号L2を付す。ここで、フィルムB13の円周方向の応力が負の領域にある場合には、巻芯B21の回転トルクがダンサ部B32による張力よりも大きくなってフィルムB13が巻き緩んでしまうため、フィルムB13の表面の圧力(面圧)は低下してしまう。図41のグラフB51は、ストレート巻きで巻取りを行ったときのフィルムB13の両側端部における面圧の変化を示しており、図42のグラフB52は、オシレート巻きで巻取りを行ったときのフィルムB13の左側端部における面圧の変化を示しており、グラフB53は右側端部における面圧の変化を示している。これらグラフB51~B53が示すように、フィルムB13の巻取り始めでは、ストレート巻きで巻き取ったときの面圧の低下は、オシレート巻きで巻き取ったときの面圧の低下よりも比較的小さい。なお、フィルムB13の左側端部とは、X方向に向かって左側の端部であり、右側端部とはX方向に向かって右側の端部である。
フィルムB13の巻取り始めにおける面圧の低下は巻取り後のフィルムロールB38に巻き緩みや巻きズレなどを生じさせる原因となる。そこで、上記のようにフィルムB13の巻取り始めにおいて面圧が低下する間、即ち、フィルムB13の円周方向の応力が負の領域にある間はストレート巻きを行い、その後、巻長が全巻長に対して10~30%の範囲になったときに、オシレート巻きに切り替える。これにより、フィルムB13の巻取り始めにおいて、ストレート巻きで巻き取ることによって面圧の低下が抑えられるとともに、フィルムB13の円周方向の応力が負の領域を抜け出したときにオシレート巻きで巻き取ることによって、面圧をフィルムB13の幅方向に対して左右方向に分散し、耳伸びの発生を軽減することができる。ストレート巻きからオシレート巻きに切り替えるタイミングとしてあらかじめ求める切替時巻長は、本実施形態のように、グラフB50のような円周方向の応力と巻長との関係に基づき求めておくとよい。このようにして求めた切替時巻長にフィルムB13の巻長が達したときに、コントローラB31は、ストレート巻きからオシレート巻きに切り替える。ストレート巻きからオシレート巻きに切り替えるタイミングは、巻長が全巻長に対して15~25%の範囲になったときがより好ましい。
なお、巻長が全巻長に対して10%以上のときにストレート巻きからオシレート巻きに切り替えたときには、10%未満のときに切り替える場合と比べてフィルムB13の巻取り始めにおいて面圧が急激に低下することをより確実に防止する。このため、フィルムロールB38に巻き緩みや巻きズレが発生してしまうことを、より確実に防ぐことができる。また、巻長が全巻長に対して30%を超えてから切り替えたときには、フィルムB13の円周方向の応力が負の領域を抜け出した後もストレート巻きで巻き取ることになるため、30%以下のときに切り替える場合と比べてフィルムロールB38に耳伸びが発生しやすい。そこで、巻長が全巻長に対して30%以下のときにストレート巻きからオシレート巻きに切り替えることにより、30%を超えてから切り替える場合よりも、耳伸びの発生をより確実に防止することができる。
切替時巻長特定部B41は、LUTメモリB40に記憶された巻取情報と、巻取情報入力部B39に入力された巻取情報とを照合して、入力された巻取情報に対応する切替時巻長を特定する。巻長測定部B42は、エンコーダB27からのエンコーダパルス信号に基づき、巻芯B21に巻き取ったフィルムB13の巻長を測定する。
切り替え判定部B43は、巻長測定部B42で測定した巻長が、切替時巻長特定部B41で特定された切替時巻長を超えたか否かを判定する。巻長が切替時巻長を超えたと判定した場合には、オシレート部B29にオシレート巻き開始信号が送信される。オシレート部B29は、オシレート巻き開始信号を受信すると、フィルムの側縁B13aが揃うようにフィルムB13を巻き取っていくストレート巻きから、側縁B13aの位置を振幅Woの範囲内でずらしながらフィルムB13を巻き取っていくオシレート巻きにフィルムB13の巻取りを変更する。
次に、巻取装置の作用について、図43に示すフローチャートを参照しながら説明する。まず、巻取対象となるフィルムB13の巻取情報を巻取情報入力部B39に入力する。切替時巻長特定部B41は、巻取情報入力部B39に入力された巻取情報とLUTメモリB40に記憶された巻取情報とを照合することにより、入力された巻取情報に対応する切替時巻長を特定する。
そして、フィルムB13の巻取りがストレート巻きで開始される。巻取りの際には、ガイドローラーB24が一定の回転角度で回転するごとに、エンコーダB27からエンコーダパルス信号が一定時間毎にコントローラB31に送信される。このエンコーダパルス信号に基づいて、巻長測定部B42でフィルムB13の巻長が測定される。
巻長測定部B42で測定された巻長が切替時巻長を超えたか否かが、切り替え判定部B43により順次判定される。巻長が切替時巻長を超えたと判定されたときには、コントローラB31からオシレート部B29にオシレート巻き開始信号が送信される。オシレート巻き開始信号を受信したオシレート部B29は、巻芯B21を軸方向(Y方向)に沿って一定の振幅Woで振動させる。これにより、フィルムB13の巻取りが、ストレート巻きからオシレート巻きに変更される。
フィルムB13の巻取りが完了すると、フィルムロールB38が巻取軸B19から取り外される。フィルムロールB38はトラックなどの輸送手段により各種工場に搬送される。その際、フィルムロールB38の巻芯内側はストレート巻きになっているため、巻き緩みが無く、搬送時の振動等があってもフィルムロールB38に巻ズレが生じることはない。また、加えて、フィルムロールB38の巻芯外側がオシレート巻きとなっていることから、耳伸びの発生が抑えられている。
なお、上記実施形態では、巻芯B21をフィルムB13の幅方向に振動させることによりフィルムB13を巻き取っている。しかし、オシレート巻きの方法はこの方法に限定されず、周知の方法を用いればよい。例えば、巻芯B21は動かさずに、フィルムB13自体をその幅方向に振動させてもよい。
(8)返材回収(トリミング工程)
返材回収とは、前記(6)のスリット工程でフィルムを搬送しながらフィルムの幅手方向の端部を切断した箇所を回収する工程である。例えば、延伸工程でテンターにより把持されたためにその痕跡が残った端部を除去する。端部の切断・回収は通常、フィルム幅手方向の両端部において行われる。回収された返材は、溶解工程に適量持ち込まれ、溶媒に溶解されて、ドープ調製に供される。
トリミング工程は、フィルム幅手方向の端部を切断する端部切断段階及び切断された端部を回収する端部回収段階を有する。
端部切断段階では、フィルムを搬送方向Tに搬送しながら、固定されたカッター等の切断手段により、フィルム端部を切断し、フィルム本体を巻取り工程等の次工程に提供する。
切断される端部の幅手方向長さ(幅)xは特に制限されず、そのようなxは具体的には、例えば、30~300mmの範囲、特に50~130mmの範囲であることが好ましい。
端部回収段階では、切断されたフィルム端部を吸い込み口より回収する。吸い込み口は通常、筒形状、特に円筒形状を有しており、吸引装置により吸い込み方向に吸引を行っている。吸引速度は本発明の目的が達成される限り特に制限されない。
本段階では、切断されたフィルム端部を吸い込み口より回収するに際し、フィルム搬送方向の上流側と下流側とから吸い込み口の開口部に向けて、搬送風を供給し、フィルム端部bの搬送・回収を補助する。上流側からの搬送風の供給速度V1及び下流側からの搬送風の供給速度V2は、それぞれ独立して、フィルム搬送速度に対して100~6000%の範囲、好ましくは500~5500%の範囲であり、それらの比率V1/V2は1未満、特に0.1~0.9の範囲、好ましくは0.3~0.9の範囲である。これによって、切断された端部のバタツキや蛇行を抑制し、端部の切断・回収を十分に円滑に行うことができる。
上流側からの搬送風の温度T1及び下流側からの搬送風の温度T2は特に制限されるものではなく、通常はそれぞれ独立して、雰囲気温度より0~50℃の範囲だけ高い温度である。温度T1及びT2をそれぞれ独立して雰囲気温度より0~50℃の範囲、特に0~45℃の範囲だけ高く設定することにより、フィルム端部80bにおける支持体面側と反支持体面側との収縮差を低減できる。その結果、端部の蛇行をより一層有効に抑制できるため、吸い込み口及び当該吸い込み口に連結された配管内での端部詰まりをより一層十分に抑制できる。雰囲気温度とは、本工程を行う周囲雰囲気の温度であり、前記端部切断段階におけるフィルムの支持体面における幅手方向で中央部の温度を用いるものとし、非接触温度計によって測定できる。
搬送風の温度T1は通常、30~170℃の範囲であり、特に30~150℃の範囲が好ましい。
搬送風の温度T2は通常、30~170℃の範囲であり、特に30~150℃の範囲が好ましい。
雰囲気温度は通常、30~120℃の範囲であり、特に30~100℃の範囲が好ましい。
上流側からの搬送風は上流側供給装置から供給され、下流側からの搬送風は下流側供給装置から供給される。搬送風が加熱される場合は、加熱手段の具体例として、例えば、温風ヒーター、温調ロール、IR(赤外線)ヒーター等によって行われる。
上流側供給装置の供給口と吸い込み口の開口部との距離L1及び下流側供給装置の供給口と吸い込み口の開口部との距離L2は、切断された端部のバタツキや蛇行をより一層十分に抑制する観点から、それぞれ独立して20~200mmの範囲、特に30~180mmの範囲であることが好ましい。
上流側からの搬送風の供給方向と吸い込み方向(吸い込み口内におけるフィルム端部の搬送方向)とのなす角度θ1及び下流側からの搬送風の供給方向と吸い込み方向とのなす角度は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、切断された端部のバタツキや蛇行をより一層十分に抑制する観点から、それぞれ独立して10~90°の範囲、特に30~85°の範囲であることが好ましい。
上流側供給装置及び下流側供給装置は通常、供給口が円形状を有するものが使用される。
本工程、特に端部切断段階に供されるフィルムの残留溶媒量は、0~50質量%の範囲、特に0~20質量%の範囲であることが好ましい。これによって、フィルム端部の切断を容易に達成しながらも、フィルム端部における支持体面側と反支持体面側との収縮差をより有効に低減できるためである。
≪環状ポリオレフィンフィルムを構成する材料≫
以下、本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法に用いられる材料について詳細に説明する。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法は、環状ポリオレフィン系樹脂を有機溶媒を用いて溶解し、添加剤を加えてドープすることを特徴とする。本発明に用いることのできる材料は、以下に限定されるものではなく、公知の材料をその構成要素として適宜用いることができる。
(1)環状ポリオレフィン系樹脂
本発明に係る環状ポリオレフィン系樹脂としては、次のような(共)重合体が挙げられる。
〔式中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、又は極性基(すなわち、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、又はシリル基)で置換された炭化水素基である。ただし、R
1~R
4は、二つ以上が互いに結合して、不飽和結合、単環又は多環を形成していてもよく、この単環又は多環は、二重結合を有していても、芳香環を形成してもよい。R
1とR
2とで、又はR
3とR
4とで、アルキリデン基を形成していてもよい。nとmは、n+m=1、n=0.2~1、m=0~0.8の関係にある。〕
[1]上記一般式(I)で表される特定単量体の開環重合体。
[2]上記一般式(I)で表される特定単量体と共重合性単量体との開環共重合体。
[3]上記[1]又は[2]の開環(共)重合体の水素添加(共)重合体。
[4]上記[1]又は[2]の開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化したのち、水素添加した(共)重合体。
[5]上記一般式(I)で表される特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体。
[6]上記一般式(I)で表される特定単量体、ビニル系環状炭化水素系単量体及びシクロペンタジエン系単量体から選ばれる1種以上の単量体の付加型(共)重合体及びその水素添加(共)重合体。
[7]上記一般式(I)で表される特定単量体とアクリレートとの交互共重合体。
(特定単量体)
上記特定単量体の具体例としては、次のような化合物が挙げられるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
トリシクロ[4.3.0.12,5]-8-デセン、
トリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン、
5-メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5-エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5-メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5-メチル-5-メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5-シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-n-プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-n-ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-メチル-8-エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-メチル-8-n-プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-メチル-8-イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-メチル-8-n-ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
5-エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
5-フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
8-フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
5-フルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5-フルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5-トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5-ペンタフルオロエチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,5-ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,6-ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,5-ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,6-ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5-メチル-5-トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,5,6-トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,5,6-トリス(フルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,5,6,6-テトラフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,5,6,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,5-ジフルオロ-6,6-ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,6-ジフルオロ-5,6-ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,5,6-トリフルオロ-5-トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5-フルオロ-5-ペンタフルオロエチル-6,6-ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,6-ジフルオロ-5-ヘプタフルオロ-iso-プロピル-6-トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5-クロロ-5,6,6-トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,6-ジクロロ-5,6-ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,5,6-トリフルオロ-6-トリフルオロメトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
5,5,6-トリフルオロ-6-ヘプタフルオロプロポキシビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
8-フルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-フルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-ジフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-ペンタフルオロエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,8-ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,9-ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,8-ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,9-ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-メチル-8-トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,8,9-トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,8,9-トリス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,8,9,9-テトラフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,8,9,9-テトラキス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,8-ジフルオロ-9,9-ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,9-ジフルオロ-8,9-ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,8,9-トリフルオロ-9-トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,8,9-トリフルオロ-9-トリフルオロメトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,8,9-トリフルオロ-9-ペンタフルオロプロポキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-フルオロ-8-ペンタフルオロエチル-9,9-ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,9-ジフルオロ-8-ヘプタフルオロiso-プロピル-9-トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-クロロ-8,9,9-トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8,9-ジクロロ-8,9-ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-(2,2,2-トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、
8-メチル-8-(2,2,2-トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン
などを挙げることができる。
これらは、1種単独で、又は2種以上を併用することができる。
特定単量体のうち好ましいのは、上記一般式(I)中、R1及びR3が水素原子又は炭素数1~10、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1~2の炭化水素基であり、R2及びR4が水素原子又は一価の有機基であって、R2及びR4の少なくとも一つは水素原子及び炭化水素基以外の極性を有する極性基を示し、mは0~3の整数、pは0~3の整数であり、より好ましくはm+p=0~4、さらに好ましくは0~2、特に好ましくはm=1、p=0であるものである。m=1、p=0である特定単量体は、得られる環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度が高くかつ機械的強度も優れたものとなる点で好ましい。
上記特定単量体の極性基としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基などが挙げられ、これら極性基はメチレン基などの連結基を介して結合していてもよい。また、カルボニル基、エーテル基、シリルエーテル基、チオエーテル基、イミノ基など極性を有する2価の有機基が連結基となって結合している炭化水素基なども極性基として挙げられる。これらの中では、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基又はアリロキシカルボニル基が好ましく、特にアルコキシカルボニル基又はアリロキシカルボニル基が好ましい。
さらに、R2及びR4の少なくとも一つが式-(CH2)nCOORで表される極性基である単量体は、得られる環状ポリオレフィン系樹脂が高いガラス転移温度と低い吸湿性、各種材料との優れた密着性を有するものとなる点で好ましい。上記の特定の極性基にかかる式において、Rは炭素原子数1~12、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1~2の炭化水素基、好ましくはアルキル基である。また、nは、通常、0~5であるが、nの値が小さいものほど、得られる環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度が高くなるので好ましく、さらにnが0である特定単量体はその合成が容易である点で好ましい。
また、上記一般式(I)において、R1又はR3がアルキル基であることが好ましく、炭素数1~4のアルキル基、さらに好ましくは1~2のアルキル基、特にメチル基であることが好ましく、特に、このアルキル基が上記の式-(CH2)nCOORで表される特定の極性基が結合した炭素原子と同一の炭素原子に結合されていることが、得られる環状ポリオレフィン系樹脂の吸湿性を低くできる点で好ましい。
(共重合性単量体)
共重合性単量体の具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、ジシクロペンタジエンなどのシクロオレフィンを挙げることができる。
シクロオレフィンの炭素数としては、4~20が好ましく、さらに好ましいのは5~12である。これらは、1種単独で、又は2種以上を併用することができる。
特定単量体/共重合性単量体の好ましい使用範囲は、質量比で100/0~50/50の範囲であり、さらに好ましくは100/0~60/40の範囲である。
(開環重合触媒)
本発明において、(i)特定単量体の開環重合体、及び(ii)特定単量体と共重合性単量体との開環共重合体を得るための開環重合反応は、メタセシス触媒の存在下に行われる。
このメタセシス触媒は、(a)W、Mo及びReの化合物から選ばれた少なくとも1種と、(b)デミングの周期律表IA族元素(例えばLi、Na、Kなど)、IIA族元素(例えば、Mg、Caなど)、IIB族元素(例えば、Zn、Cd、Hgなど)、IIIA族元素(例えば、B、Alなど)、IVA族元素(例えば、Si、Sn、Pbなど)、又はIVB族元素(例えば、Ti、Zrなど)の化合物であって、少なくとも一つの該元素-炭素結合又は該元素-水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種との組合せからなる触媒である。また、この場合に触媒の活性を高めるために、後述の(c)添加剤が添加されたものであってもよい。
(a)成分として適当なW、Mo又はReの化合物の代表例としては、WCl6、MoCl6、ReOCl3などの特開平1-132626号公報第8頁左下欄第6行~第8頁右上欄第17行に記載の化合物を挙げることができる。
(b)成分の具体例としては、n-C4H9Li、(C2H5)3Al、(C2H5)2AlCl、(C2H5)1.5AlCl1.5、(C2H5)AlCl2、メチルアルモキサン、LiHなど特開平1-132626号公報第8頁右上欄第18行~第8頁右下欄第3行に記載の化合物を挙げることができる。
添加剤である(c)成分の代表例としては、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類などが好適に用いることができるが、さらに特開平1-132626号公報第8頁右下欄第16行~第9頁左上欄第17行に示される化合物を使用することができる。
メタセシス触媒の使用量としては、上記(a)成分と特定単量体とのモル比で「(a)成分:特定単量体」が、通常、1:500~1:50000となる範囲、好ましくは1:1000~1:10000となる範囲とされる。
(a)成分と(b)成分との割合は、金属原子比で(a):(b)が1:1~1:50、好ましくは1:2~1:30の範囲とされる。
(a)成分と(c)成分との割合は、モル比で(c):(a)が0.005:1~15:1、好ましくは0.05:1~7:1の範囲とされる。
(重合反応用溶媒)
開環重合反応において用いられる溶媒(分子量調節剤溶液を構成する溶媒、特定単量体及び/又はメタセシス触媒の溶媒)としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどのシクロアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素、クロロブタン、ブロモヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどの、ハロゲン化アルカン、ハロゲン化アリールなどの化合物、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸iso-ブチル、プロピオン酸メチル、ジメトキシエタンなどの飽和カルボン酸エステル類、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類などを挙げることができ、これらは単独で又は混合して用いることができる。これらのうち、芳香族炭化水素が好ましい。
溶媒の使用量としては、「溶媒:特定単量体(質量比)」が、通常、1:1~10:1となる量とされ、好ましくは1:1~5:1となる量とされる。
(分子量調節剤)
得られる開環(共)重合体の分子量の調節は、重合温度、触媒の種類、溶媒の種類によっても行うことができるが、本発明においては、分子量調節剤を反応系に共存させることにより調節する。
ここに、好適な分子量調節剤としては、例えばエチレン、プロペン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどのα-オレフィン類及びスチレンを挙げることができ、これらのうち、1-ブテン、1-ヘキセンが特に好ましい。
これらの分子量調節剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
分子量調節剤の使用量としては、開環重合反応に供される特定単量体1モルに対して0.005~0.6モル、好ましくは0.02~0.5モルとされる。
(ii)開環共重合体を得るには、開環重合工程において、特定単量体と共重合性単量体とを開環共重合させてもよいが、さらに、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの共役ジエン化合物、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-非共役ジエン共重合体、ポリノルボルネンなどの主鎖に炭素-炭素間二重結合を二つ以上含む不飽和炭化水素系ポリマーなどの存在下に特定単量体を開環重合させてもよい。
以上のようにして得られる開環(共)重合体は、そのままでも用いられるが、これをさらに水素添加して得られた(iii)水素添加(共)重合体は、耐衝撃性の大きい樹脂の原料として有用である。
(水素添加触媒)
水素添加反応は、通常の方法、すなわち開環重合体の溶液に水素添加触媒を添加し、これに常圧~300気圧、好ましくは3~200気圧の水素ガスを0~200℃、好ましくは20~180℃で作用させることによって行われる。
水素添加触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられるものを使用することができる。この水素添加触媒としては、不均一系触媒及び均一系触媒が挙げられる。
不均一系触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウムなどの貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニアなどの担体に担持させた固体触媒を挙げることができる。また、均一系触媒としては、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n-ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムなどを挙げることができる。触媒の形態は、粉末でも粒状でもよい。
これらの水素添加触媒は、開環(共)重合体:水素添加触媒(質量比)が、1:1×10-6~1:2となる割合で使用される。
このように、水素添加することにより得られる水素添加(共)重合体は、優れた熱安定性を有するものとなり、成形加工時や製品としての使用時の加熱によっても、その特性が劣化することはない。ここに、水素添加率は、通常、50%以上、好ましく70%以上、さらに好ましくは90%以上である。
また、水素添加(共)重合体の水素添加率は、500MHz、1H-NMRで測定した値が50%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。水素添加率が高いほど、熱や光に対する安定性が優れたものとなり、本発明の環状ポリオレフィンフィルムを波長板として使用した場合に長期にわたって安定した特性を得ることができる。
なお、本発明に係る環状ポリオレフィン系樹脂として使用される水素添加(共)重合体は、該水素添加(共)重合体中に含まれるゲル含有量が5質量%以下であることが好ましく、さらに1質量%以下であることが特に好ましい。
また、本発明に係る環状ポリオレフィン系樹脂として、(iv)上記(i)又は(ii)の開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化したのち、水素添加した(共)重合体も使用できる。
(フリーデルクラフト反応による環化)
(i)又は(ii)の開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化する方法は特に限定されるものではないが、特開昭50-154399号公報に記載の酸性化合物を用いた公知の方法が採用できる。酸性化合物としては、具体的には、AlCl3、BF3、FeCl3、Al2O3、HCl、CH3ClCOOH、ゼオライト、活性白土などのルイス酸、ブレンステッド酸が用いられる。
環化された開環(共)重合体は、(i)又は(ii)の開環(共)重合体と同様に水素添加できる。
さらに、本発明の環状ポリオレフィン系樹脂として、(v)上記特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体も使用できる。
<不飽和二重結合含有化合物>
不飽和二重結合含有化合物としては、例えばエチレン、プロピレン、ブテンなど、好ましくは炭素数2~12、さらに好ましくは炭素数2~8のオレフィン系化合物を挙げることができる。
特定単量体/不飽和二重結合含有化合物の好ましい使用範囲は、質量比で90/10~40/60であり、さらに好ましくは85/15~50/50である。
本発明において、(v)特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体を得るには、通常の付加重合法を使用できる。
(付加重合触媒)
上記(v)飽和共重合体を合成するための触媒としては、チタン化合物、ジルコニウム化合物及びバナジウム化合物から選ばれた少なくとも1種と、助触媒としての有機アルミニウム化合物とが用いられる。
ここで、チタン化合物としては、四塩化チタン、三塩化チタンなどを、またジルコニウム化合物としてはビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドなどを挙げることができる。
さらに、バナジウム化合物としては、
一般式 VO(OR)aXb、又はV(OR)cXd
〔ただし、Rは炭化水素基、Xはハロゲン原子であって、0≦a≦3、0≦b≦3、2≦(a+b)≦3、0≦c≦4、0≦d≦4、3≦(c+d)≦4である。〕
で表されるバナジウム化合物、又はこれらの電子供与付加物が用いられる。
上記電子供与体としては、アルコール、フェノール類、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、有機酸又は無機酸のエステル、エーテル、酸アミド、酸無水物、アルコキシシランなどの含酸素電子供与体、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアナートなどの含窒素電子供与体などが挙げられる。
さらに、助触媒としての有機アルミニウム化合物としては、少なくとも一つのアルミニウム-炭素結合又はアルミニウム-水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種が用いられる。
上記において、例えばバナジウム化合物を用いる場合におけるバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物の比率は、バナジウム原子に対するアルミニウム原子の比(Al/V)が2以上であり、好ましくは2~50、特に好ましくは3~20の範囲である。
付加重合に使用される重合反応用溶媒は、開環重合反応に用いられる溶媒と同じものを使用することができる。また、得られる(v)飽和共重合体の分子量の調節は、通常、水素を用いて行われる。
さらに、本発明の環状ポリオレフィン系樹脂として、(vi)上記特定単量体、及びビニル系環状炭化水素系単量体又はシクロペンタジエン系単量体から選ばれる1種以上の単量体の付加型共重合体及びその水素添加共重合体も使用できる。
(ビニル系環状炭化水素系単量体)
ビニル系環状炭化水素系単量体としては、例えば、4-ビニルシクロペンテン、2-メチル-4-イソプロペニルシクロペンテンなどのビニルシクロペンテン系単量体、4-ビニルシクロペンタン、4-イソプロペニルシクロペンタンなどのビニルシクロペンタン系単量体などのビニル化5員環炭化水素系単量体、4-ビニルシクロヘキセン、4-イソプロペニルシクロヘキセン、1-メチル-4-イソプロペニルシクロヘキセン、2-メチル-4-ビニルシクロヘキセン、2-メチル-4-イソプロペニルシクロヘキセンなどのビニルシクロヘキセン系単量体、4-ビニルシクロヘキサン、2-メチル-4-イソプロペニルシクロヘキサンなどのビニルシクロヘキサン系単量体、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、4-フェニルスチレン、p-メトキシスチレンなどのスチレン系単量体、d-テルペン、1-テルペン、ジテルペン、d-リモネン、1-リモネン、ジペンテンなどのテルペン系単量体、4-ビニルシクロヘプテン、4-イソプロペニルシクロヘプテンなどのビニルシクロヘプテン系単量体、4-ビニルシクロヘプタン、4-イソプロペニルシクロヘプタンなどのビニルシクロヘプタン系単量体などが挙げられる。好ましくは、スチレン、α-メチルスチレンである。これらは、1種単独で、又は2種以上を併用することができる。
(シクロペンタジエン系単量体)
本発明に用いられる(vi)付加型共重合体の単量体に使用されるシクロペンタジエン系単量体としては、例えばシクロペンタジエン、1-メチルシクロペンタジエン、2-メチルシクロペンタジエン、2-エチルシクロペンタジエン、5-メチルシクロペンタジエン、5,5-メチルシクロペンタジエンなどが挙げられる。好ましくはシクロペンタジエンである。これらは、1種単独で、又は2種以上を併用することができる。
上記特定単量体、ビニル系環状炭化水素系単量体及びシクロペンタジエン系単量体から選ばれる1種以上の単量体の付加型(共)重合体は、上記(v)特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体と同様の付加重合法で得ることができる。
また、上記付加型(共)重合体の水素添加(共)重合体は、上記(iii)開環(共)重合体の水素添加(共)重合体と同様の水添法で得ることができる。
さらに、本発明の環状ポリオレフィン系樹脂として、(vii)上記特定単量体とアクリレートとの交互共重合体も使用できる。
(アクリレート)
本発明に用いられる(vii)上記特定単量体とアクリレートとの交互共重合体の製造に用いられるアクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートなどの炭素原子数1~20の直鎖状、分岐状又は環状アルキルアクリレート、グリシジルアクリレート、2-テトラヒドロフルフリルアクリレートなどの炭素原子数2~20の複素環基含有アクリレート、ベンジルアクリレートなどの炭素原子数6~20の芳香族環基含有アクリレート、イソボロニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレートなどの炭素数7~30の多環構造を有するアクリレートが挙げられる。
本発明において、(vii)上記特定単量体とアクリレートとの交互共重合体を得るためには、ルイス酸存在下、上記特定単量体とアクリレートとの合計を100モルとしたとき、通常、上記特定単量体が30~70モル、アクリレートが70~30モルの割合で、好ましくは上記特定単量体が40~60モル、アクリレートが60~40モル割合で、特に好ましくは上記特定単量体が45~55モル、アクリレートが55~45モルの割合でラジカル重合する。
(vii)上記特定単量体とアクリレートとの交互共重合体を得るために使用するルイス酸の量は、アクリレート100モルに対して0.001~1モルとなる量とされる。また、公知のフリーラジカルを発生する有機過酸化物又はアゾビス系のラジカル重合開始剤を用いることができ、重合反応温度は、通常、-20~80℃、好ましくは5~60℃である。また、重合反応用溶媒には、開環重合反応に用いられる溶媒と同じものを使用することができる。
なお、本発明でいう「交互共重合体」とは、上記特定単量体に由来する構造単位が隣接しない、すなわち、上記特定単量体に由来する構造単位の隣は必ずアクリレートに由来する構造単位である構造を有する共重合体のことを意味しており、アクリレート由来の構造単位どうしが隣接して存在する構造を否定するものではない。
本発明に係る環状ポリオレフィン系樹脂の好ましい分子量は、固有粘度〔η〕inhで0.2~5dl/g、さらに好ましくは0.3~3dl/g、特に好ましくは0.4~1.5dl/gであり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は8000~100000、さらに好ましくは10000~80000、特に好ましくは12000~50000であり、重量平均分子量(Mw)は20000~300000、さらに好ましくは30000~250000、特に好ましくは40000~200000の範囲のものが好適である。
固有粘度〔η〕inh、数平均分子量及び重量平均分子量が上記範囲にあることによって、環状ポリオレフィン系樹脂の耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械的特性と、本発明の環状ポリオレフィンフィルムとしての成形加工性が良好となる。
本発明に係る環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、通常、110℃以上、好ましくは110~350℃、さらに好ましくは120~250℃、特に好ましくは120~220℃である。Tgが110℃未満の場合は、高温条件下での使用、又はコーティング、印刷などの二次加工により変形するので好ましくない。一方、Tgが350℃を超えると、成形加工が困難になり、また成形加工時の熱によって樹脂が劣化する可能性が高くなる。
環状ポリオレフィン系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば特開平9-221577号公報、特開平10-287732号公報に記載されている、特定の炭化水素系樹脂、又は公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム質重合体、有機微粒子、無機微粒子などを配合しても良い。
本発明に係る環状ポリオレフィン系樹脂は、粒径0.5μm以上の異物粒子が3×104個/g以下、好ましくは1×104個/g以下、より好ましくは0.5×104個/g以下であることが好ましい。環状ポリオレフィン系樹脂中の粒径0.5μm以上の異物粒子を低減したものが、例えば、特開平3-57615号公報に開示されているが、重合体中の粒径0.5μm以上の異物粒子数は少なくとも6×104個/g程度であり、超音波洗浄等での異物粒子の発生を無くすには不十分である。
環状ポリオレフィン系樹脂中の異物の含有量は、光散乱式微粒子検出器を用いて測定できる。異物の形状は、通常、粒状であるが、それに限定されない。異物の内容も、外部から混入した不純物のほか、触媒残渣、ゲル化物、副反応物など、環状ポリオレフィン系樹脂に相溶化しないものの全てを含む。そして、光散乱式微粒子検出器を用いて測定される粒径0.5μm以上のものを異物とする。粒径0.5μm以上の異物の含有量が少ない環状ポリオレフィン系樹脂の製造方法は、格別な制限はないが、例えば、環状ポリオレフィン系樹脂を溶解させた溶液を、(1)口径が0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下の機械的フィルターで少なくとも2回濾過する方法、(2)電荷的捕捉機能を有する濾過フィルターで濾過する方法などを挙げることができる。これらの方法の中でも、(2)の電荷的捕捉機能を有する濾過フィルターを用いる方法が、微細異物の除去能が高く、目開きによる機械的フィルターによる濾過では通過する微細異物が取り除けられ、濾過後の再凝集による異物の再生成などが防止されるので好適である。
環状ポリオレフィン系樹脂を溶解した溶液としては、通常、環状オレフィン系モノマー又は環状オレフィン系モノマーと共重合可能なビニル化合物とを(共)重合した後の重合体含有溶液、又は、水素添加反応した後の反応溶液がそのまま用いられる。濾過の際の重合体含有溶液の濃度は、通常1~40質量%の範囲、好ましくは5~35質量%の範囲、より好ましくは10~30質量%の範囲である。重合体含有溶液の濃度が過度に低いと大量の溶媒を処理する必要があり、逆に、過度に溶液濃度が高いと濾過性が低下する。重合反応後又は水素添加反応後の溶液濃度は、通常、10~25質量%程度であるので、濃縮や希釈をすることなく濾過すればよい。
電荷的捕捉機能を有するフィルターは、電気的に荷電異物を捕捉除去するもので、通常は、濾材に電荷を付与したものが用いられる。一般的にはゼータ電位を制御したゼータ電位濾過フィルターが用いられる。ゼータ電位濾過フィルターとしては、一般的には、例えば、特表平4-504379号公報などに記載されているセルロース繊維/シリカ/陽電荷変性剤(ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂、脂肪族ポリアミンなど)のような、濾材に陽電荷変性剤を付与したフィルターなどが用いられる。
その他の濾材としては、例えば、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、PTFE製などの繊維製又はメンブランフィルター、セルロース製の繊維製フィルター、ガラス繊維製フィルター、珪藻土などの無機物製フィルター、金属繊維製フィルターなどが挙げられる。その他の陽電荷変性剤としては、例えば、メラミンホルムアルデヒド陽イオンコロイド、無機陽イオンコロイドシリカ、などが挙げられる。市場では、陽電荷変性濾過フィルターが、キュノ社によって商標「ゼータプラス」で販売されている。電荷的捕捉機能を有する濾過フィルターでの濾過は、処理能力が必ずしも高くないので、通常は、機械的濾過フィルターと組み合わせて行われる。組み合わせる順番は、格別制限はないが、通常、機械的濾過フィルター、次いで電荷的捕捉機能フィルターの順で使用される。
機械的濾過フィルターとしては、溶媒によって悪影響を受けないものであれば特に限定はされず、例えば、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、PTFE製などの繊維製又はメンブランフィルター、セルロース製の繊維製フィルター、ガラス繊維製フィルター、珪藻土などの無機物製フィルター、金属繊維製フィルターなどが挙げられる。機械的濾過フィルターの口径は、格別制限はないが、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。これらの機械的濾過フィルターは、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
電荷的捕捉機能を有するフィルターを用いない場合には、機械的濾過フィルターの口径が0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下のものを用いて2回以上濾過操作を繰り返すことで達成される。濾過後の濾液は、外部環境から異物が混入しないように密閉系で、減圧下に加熱して揮発成分の除去を行い、例えば、クリーンルーム内等のクリーン度の高い環境下、クリーン度をクラス1000以下、好ましくはクラス100以下に厳重に管理した環境で冷却・ペレット化することができる。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、異なる環状ポリオレフィン系樹脂を2種類以上用いることが、添加剤起因の異物溶解性が増し、異物故障低減の効果が顕著になることから好ましい。一方の環状オレフィンに溶解しない添加剤に起因する異物が、極性の異なる環状オレフィンに相溶する為、異物が大幅に減少するものと推定される。
2種類用いる場合は、主たる環状ポリオレフィン系樹脂(A)に対し、従たる環状ポリオレフィン系樹脂(B)の混合比率は、質量比率で95:5~50:50の範囲内であることが好ましい。3種類以上を混合する場合は、その混合比率は効果によって適宜選択することができる。
以上説明した環状ポリオレフィン系樹脂は、市販品を好ましく用いることができ、市販品の例としては、JSR(株)からアートン(Arton)G、アートンF、アートンR、及びアートンRXという商品名で発売されており、また日本ゼオン(株)からゼオノア(Zeonor)ZF14、ZF16、ゼオネックス(Zeonex)250又はゼオネックス280という商品名で市販されており、これらを使用することができる。
(2)セルロースアシレート
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、ドープ中にセルロースアシレート系樹脂を微量添加することによって、添加剤起因の異物溶解性が増し、異物故障低減の効果が顕著になる。環状ポリオレフィン系樹脂に溶解しない添加剤に起因する異物が、極性の高いセルロースアシレート系樹脂に相溶する為、異物が大幅に減少するものと推定される。
また、フィルムの表面に機能層を塗布する際の塗布性が向上し、ハジキや塗布むらを低減する観点から、少量のセルロースアシレートを併用することが好ましい。さらに、セルロースアシレート樹脂が入ることで、ハードコート基材との密着性が増し、ハードコートフィルムとしての硬度を上げることができる。
特に好適なセルロースアシレートとしては、アシル基の置換度が2.50~2.98の範囲のものが挙げられ、アシル基がアセチル基、プロピオニル基及びブチリル基から選ばれる少なくとも一つのものである。具体的にはセルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレート等を挙げることができ、本発明においては、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートが好ましい。アセチル基の置換度が1.40以上であることが好ましい。セルロースアシレートの原料となるセルロースは特に限定はなく、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを用いることができる。これらを混合して使用してもよい。綿花リンターから合成されたセルロースアシレートの比率が60質量%以上であることが好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。セルロースアシレートの合成方法は、特に限定はないが、例えば、特開平10-45804号公報に記載の方法で合成することができる。アシル基の置換度の測定方法は、ASTM-D817-96により測定することができる。セルロースアシレートの数平均分子量は、偏光板用保護フィルムとして好ましい機械的強度を得るためには、70000~300000の範囲内が好ましく、更に80000~200000の範囲内が好ましい。
(3)有機増粘剤
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法では、特開2005-314636号公報記載の下記有機増粘剤を、流延性を向上し横段やむらの発生を改良する観点から、添加することが好ましい。
本発明のように有機溶媒を用いた流延法は生産性の観点からは非常に有利である反面、流延直後の溶媒乾燥を一定に保つことが容易でなく、面状むらが生じやすい。ここで言う面状むらとは、流延後のレベリング不良に起因するスジや、溶媒乾燥速度差に起因する乾燥むら、乾燥風で引き起こされる厚さむらである風むらのことである。
均一な膜を形成しつつ、むらを防止するための一手段として、塗布液の粘度を高めて流動防止する方法が考えられる。ドープの粘度を上昇させるためにはポリマー等の増粘剤を添加することが知られているが、単にドープの粘度を高めることは、レベリング性を悪化させ、流延時にスジが発生することにつながる。乾燥時のむら発生も、流延時のスジ発生も防止する手段として、チキソトロピーをもつ添加剤(以下チキソ剤)を加えることにより、ドープにチキソトロピーを付与する方法が好ましい。
そのため、
[1]下記条件(a)を満たす、下記一般式(1)で表される化合物からなる有機溶剤系増粘剤を用いることが、好ましい、
一般式(1)
(R)t-Z-(B)s
式中、Rは、炭素数4以上の少なくとも8個のフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、Zは(t+s)価の連結基を表し、Bは置換若しくは無置換のアルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表す。tは1~6までの整数であり、sは1~6までの整数である。
式中、Rは、炭素数4以上の少なくとも8個のフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、Rは少なくとも8個のフッ素原子で置換されていればよく、直鎖状、分岐状及び環状のいずれの構造であってもよい。また、フッ素原子以外の置換基でさらに置換されていてもよいし、フッ素原子のみで置換されていてもよい。Rのフッ素原子以外の置換基としては、アルケニル基、アリール基、アルコキシル基、フッ素以外のハロゲン原子、ヒドロキシ基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、カルバモイル基等が挙げられる。
Zは(t+s)価の連結基を表し、RとBを結びつけるものであれば特に制限はない。tは1から6までの整数であり、sは1から6までの整数であるが、好ましくは、tは2から4までの整数であり、より好ましくは、tは2又は3であり、最も好ましくは、tは2である。また、好ましくは、sは1から4までの整数であり、より好ましくは、sは1から3までの整数である。
Zとしては、アミノ酸誘導体が好ましく用いられる。アミノ酸誘導体におけるアミノ酸の不斉炭素は光学活性であってもラセミ体であってもかまわない。光学活性体が好ましく用いられる。
Bは置換若しくは無置換のアルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表す。
《条件(a)》
0.01~5000s-1の範囲内のいずれかのせん断速度において、溶媒の粘度η0に対する、該溶媒に一般式(1)で表される化合物を5質量%以下の濃度で含有させた液の粘度η1の相対粘度η1/η0が2以上である領域を有する。ここで用いることができる溶媒としては、所望の効果が得られれば特に限定されないが、好ましくは、トルエン、ヘキサン、イソプロパノール、エタノール、メタノール、クロロホルム、メチルエチルケトン、2-メチルペンタノン、及びシクロヘキサノンである。より好ましくは、トルエン、メチルエチルケトン、2-メチルペンタノン、シクロヘキサノンであり、最も好ましくはメチルエチルケトン、2-メチルペンタノン、シクロヘキサノンである。
[2]下記条件(b)を満たす、前記一般式(1)で表される化合物からなる有機溶媒系チキソトロピー付与剤であることが、好ましい。
《条件(b)》
溶媒に一般式(1)で表される化合物を5質量%以下の濃度で含有させた液において、0.01~5000s-1の範囲内のいずれかのせん断速度x1における粘度η(x1)の、x2/x1≧10であるせん断速度x2における粘度η(x2)に対する値η(x1)/η(x2)が1.5以上である。
[3]前記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(2)で表されることを特徴とする[1]又は[2]項記載の有機溶媒系増粘剤又はチキソトロピー付与剤であることが好ましい。
式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表すが、R1及びR2の少なくとも一つは少なくとも8個以上のフッ素原子で置換されたアルキル基を表す。R3、R4及びR5はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、T1、T2及びL1はそれぞれ独立に2価の連結基又は単結合を表し、kは0又は1である。Bは置換若しくは無置換のアルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表す。
[4]前記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(3)で表されることを特徴とする[1]~[3]のいずれか一項に記載の有機溶媒系増粘剤又はチキソトロピー付与剤であることが、好ましい。
式中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数4以上の少なくとも8個のフッ素原子で置換されたアルキル基を表す。Bは置換若しくは無置換のアルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表す。T3及びT4はそれぞれ独立に-O-、-S-又は-NR23-を表す。R23は水素原子又は置換基を表し、L1は2価の連結基又は単結合を表し、kは0又は1である。
[5]前記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(4)で表されることを特徴とする[1]~[4]のいずれか一項に記載の有機溶媒系増粘剤又はチキソトロピー付与剤であることが好ましい。
式中、A1及びA2はそれぞれ独立にフッ素原子又は水素原子を表す。n11及びn21はそれぞれ独立に0~6の整数を、n12及びn22はそれぞれ独立に3~12の整数を表す。T3及びT4はそれぞれ独立に-O-、-S-又は-NR23-を表す。R23は水素原子又は置換基を表し、L1は2価の連結基又は単結合を表す。Bは置換若しくは無置換のアルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表し、kは0又は1である。
一般式(1)~(4)で表される化合物の具体例は、特開2005-314636号公報段落〔0083〕~〔0089〕に記載の化合物の中から選択することが好ましく、ドープ中の上記含フッ素化合物の含有量には特に制限はないが、通常ドープ中に0.01~10質量%(ドープ全体の質量に対する質量%)、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.01~2.5質量%含有させることができる。また、上記含フッ素化合物は1種類のみ含有させても、複数種類含有させても良い。
(4)マット剤
(微粒子)
本発明に用いられる微粒子は、通常、フィルムの添加物として用いられるもので、フィルム面のすべり性の悪さを改良するためには、フィルム表面に凹凸を付与することが有効であり、有機、無機物質の微粒子を含有させて、フィルム表面の粗さを増加させ、いわゆるマット化することで、接着性を減少させるために用いられるものである。
しかしながら、粗い表面にするほどヘイズアップを生じ、透明性は低下するためにその平均粒径や含有量は限定される。本発明に使用する微粒子は、平均粒径1~1000nmの範囲であり、好ましくは1~100nmの範囲、より好ましくは3~50nmの範囲である。
また、上記微粒子を各種フィルムに添加して用いる場合のフィルムにおける含有量は、フィルム100質量%に対して、球形、不定形微粒子を問わず、0.03~1質量%の範囲であり、好ましくは0.03~0.60質量%の範囲であり、より好ましくは0.03~0.5質量%の範囲である。
本発明における微粒子を含有した環状ポリオレフィンフィルムの好ましいヘイズの範囲は2.0%以下であり、1.2%以下が更に好ましく、0.5%以下が特に好ましい。微粒子を添加した環状ポリオレフィンフィルムの好ましい静摩擦係数は1.5以下であり、1.0以下が特に好ましい。静摩擦係数が1.5以下であれば、環状ポリオレフィンフィルムは製膜及び加工における巻取り時に、ツレや巻きシワを生じず、従ってツレや巻きシワにより巻き姿が損なわれたり、ツレやシワによって不均一な張力が環状ポリオレフィンフィルムにかかったりすることがなく、フィルム面に意図しない不均一な光学特性が発現するといった問題が生じない。
静摩擦係数は同一素材同士で測定されるものであり、具体的には実施例に記載の方法に従って測定される。
使用される微粒子としては通常フィルムに用いられるものであれば特に制限はなく、またこれらの微粒子は2種以上混ぜて用いることもできる。上記微粒子としては、無機化合物や高分子化合物が挙げられる。無機化合物としては、例えば、硫酸バリウム、マンガンコロイド、二酸化チタン、硫酸ストロンチウムバリウム、二酸化ケイ素、などの無機物の微粉末があるが、さらに例えば湿式法やケイ酸のゲル化より得られる合成シリカ等の二酸化ケイ素やチタンスラッグと硫酸により生成する二酸化チタン(ルチル型やアナタース型)等が挙げられる。また、粒径の比較的大きい、例えば20μm以上の無機物から粉砕した後、分級(振動濾過、風力分級など)することによっても得られる。無機微粒子はケイ素を含むものが、濁度が低くなる点、フィルムのヘイズを低下できる点で好ましい。二酸化ケイ素のような微粒子は有機物により表面処理されているものがおおいが、このようなものはフィルムの表面ヘイズを低下できるため好ましい。表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどを挙げることができる。
また、高分子化合物としてはポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレンカーボネート、デンプン等があり、またそれらの粉砕分級物もあげられる。又は又懸濁重合法で合成した高分子化合物、スプレードライ法又は分散法等により球型にした高分子化合物、又は無機化合物を用いることができる。
また以下に述べるような単量体化合物の1種又は2種以上の重合体である高分子化合物を種々の手段によって粒子としたものであってもよい。高分子化合物の単量体化合物について具体的に示すと、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、イタコン酸ジエステル、クロトン酸エステル、マレイン酸ジエステル、フタル酸ジエステル類が挙げられエステル残基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、2-クロロエチル、シアノエチル、2-アセトキシエチル、ジメチルアミノエチル、ベンジル、シクロヘキシル、フルフリル、フェニル、2-ヒドロキシエチル、2-エトキシエチル、グリシジル、ω-メトキシポリエチレングリコール(付加モル数9)などが挙げられる。
ビニルエステル類の例としては、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルフェニルアセテート、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニルなどが挙げられる。またオレフィン類の例としては、ジシクロペンタジエン、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等を挙げることができる。
スチレン類としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルメチルスチレン、メトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、トリフルオロメチルスチレン、ビニル安息香酸メチルエステルなどが挙げられる。
アクリルアミド類としては、アクリルアミド、メチルアクリルアミド、エチルアクリルアミド、プロピルアクリルアミド、ブチルアクリルアミド、tert-ブチルアクリルアミド、フェニルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミドなど;メタクリルアミド類、例えば、メタクリルアミド、メチルメタクリルアミド、エチルメタクリルアミド、プロピルメタクリルアミド、tert-ブチルメタクリルアミド、など;アリル化合物、例えば、酢酸アリル、カプロン酸アリル、ラウリン酸アリル、安息香酸アリルなど;ビニルエーテル類、例えば、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテルなど;ビニルケトン類、例えば、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メトキシエチルビニルケトンなど;ビニル異節環化合物、例えば、ビニルピリジン、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾリドン、N-ビニルトリアゾール、N-ビニルピロリドンなど;不飽和ニトリル類、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなど;多官能性モノマー、例えば、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレートなど。
更に、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、イタコン酸モノアルキル(例えば、イタコン酸モノエチル、など);マレイン酸モノアルキル(例えば、マレイン酸モノメチルなど;スチレンスルホン酸、ビニルベンジルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリロイルオキシアルキルスルホン酸(例えば、アクリロイルオキシメチルスルホン酸など);メタクリロイルオキシアルキルスルホン酸(例えば、メタクリロイルオキシエチルスルホン酸など);アクリルアミドアルキルスルホン酸(例えば、2-アクリルアミド-2-メチルエタンスルホン酸など);メタクリルアミドアルキルスルホン酸(例えば、2-メタクリルアミド-2-メチルエタンスルホン酸など);アクリロイルオキシアルキルホスフェート(例えば、アクリロイルオキシエチルホスフェートなど);が挙げられる。これらの酸はアルカリ金属(例えば、Na、Kなど)又はアンモニウムイオンの塩であってもよい。さらにその他のモノマー化合物としては、米国特許第3459790号、同第3438708号、同第3554987号、同第4215195号、同第4247673号、特開昭57-205735号公報明細書等に記載されている架橋性モノマーを用いることができ好ましい。このような架橋性モノマーの例としては、具体的にはN-(2-アセトアセトキシエチル)アクリルアミド、N-(2-(2-アセトアセトキシエトキシ)エチル)アクリルアミド等を挙げることができる。
これらの単量体化合物は単独で重合した重合体の粒子にして用いてもよいし、複数の単量体を組み合わせて重合した共重合体の粒子にして用いてもよい。これらのモノマー化合物のうち、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、ビニルエステル類、スチレン類、オレフィン類が好ましく用いられる。また、本発明には特開昭62-14647号公報、同62-17744号公報、同62-17743号公報に記載されているようなフッ素原子又はシリコン原子を有する粒子を用いてもよい。
これらの中で好ましく用いられる粒子組成としてポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリ(メチルメタクリレート/メタクリル酸=95/5(モル比)、ポリ(スチレン/スチレンスルホン酸=95/5(モル比)、ポリアクリロニトリル、ポリ(メチルメタクリレート/エチルアクリレート/メタクリル酸=50/40/10)、シリカなどを挙げることができる。
また、本発明に用いられる微粒子としては特開昭64-77052号公報、ヨーロッパ特許307855号に記載の反応性(特にゼラチン)基を有する粒子を使用することもできる。さらには、アルカリ性、又は酸性で溶解するような基を多量含有させることもできる。微粒子は、無機化合物若しくは高分子化合物を含有してなり、その平均一次粒径が10-3~10μmの範囲であるのが好ましい。平均一次粒径は10-3~10μmの範囲であるのがより好ましく、0.005~5μmの範囲であるのがさらに好ましく、0.01~3μmの範囲であるのが特に好ましい。また、前記微粒子は、二酸化ケイ素微粒子であるのが好ましい。
(微粒子分散液に使用する有機溶媒)
微粒子分散液の調製において用いられる有機溶媒は、微粒子が分散し、分散液を調製できる範囲において、使用できる有機溶媒は特に限定されない。本発明で用いられる有機溶媒は、例えばジクロロメタン、クロロホルムの如き塩素系溶媒、炭素原子数が3~12の鎖状炭化水素、環状炭化水素、芳香族炭化水素、エステル、ケトン、エーテルから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトン及び、エーテルは、環状構造を有していてもよい。炭素原子数が3~12の鎖状炭化水素類の例としては、ヘキサン、オクタン、イソオクタン、デカンなどが挙げられる。炭素原子数が3~12の環状炭化水素類としてはシクロペンタン、シクロヘキサン、デカリン及びその誘導体が挙げられる。炭素原子数が3~12の芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。炭素原子数が3~12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート及びペンチルアセテートが挙げられる。炭素原子数が3~12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3~12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトールが挙げられる。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2-エトキシエチルアセテート、2-メトキシエタノール及び2-ブトキシエタノールが挙げられる。本発明の微粒子分散液の調製方法において用いられる有機溶媒は、1種類の有機溶媒を単独で用いてもよく、2種類以上の有機溶媒を任意の割合で混合して用いてもよい。
上記微粒子を分散する際に、上記の有機溶媒の量が少ないと十分な分散ができず、凝集体を発生し、異物故障の原因となる。逆に、有機溶媒の量が多い時には、微粒子の分散性には優れるものの、大量の分散液を調液することとなり、製造におけるハンドリングの面で好ましくない。したがって上記有機溶媒の使用量は、上記微粒子100質量部に対して1000~100000質量部の範囲とするのが好ましく、1500~40000質量部の範囲とするのが更に好ましく、2000~20000質量部の範囲とするのが特に好ましい。
(分散剤)
次に本発明に用いる分散剤について記述する。微粒子分散液とドープをインラインで混合させる場合、粘度の低い分散液を使用すると、粘度の高いドープに粘度の違いから力負けして添加しにくく、混合が上手くいかない。この問題は、分散剤を分散液に溶解させ、粘度を僅かにあげることで解決される。このため分散剤としては通常樹脂が用いられる。混合だけを考えれば、ドープと分散液の粘度は等しいことが好ましいが、微粒子分散液としての分散能や取扱の簡便性を考慮すると、微粒子分散液の粘度は0.7mPa・s以上であることが好ましく、1mPa・s以上であることがさらに好ましい。また、粘度を上げるため分散剤の重量平均分子量を大きくしすぎると、分散剤の溶解性不良や濾過性の悪化を引き起こす。このためドープに力負けしない、溶解性と濾過性に優れた分散液を調製するためには、分散剤の重量平均分子量は10000~500000の範囲が好ましく、10000~300000の範囲がより好ましく、30000~200000の範囲が更に好ましい。
分散剤として環状ポリオレフィン系樹脂を用い、さらに該分散剤の存在下で微粒子を分散させることが好ましい。これはドープを調製する際に、微粒子分散液とドープとの相溶性が向上し、流延ドープとした際の分散微粒子の安定性も向上し、凝集物のないドープを形成できる観点からも好ましい。
(5)含窒素複素環化合物
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、位相差性等の光学性能を制御するのに、以下の含窒素複素環化合物を含有することが好ましい。含窒素複素環化合物は、分子量が100~800の範囲内である含窒素複素環化合物であり、中でも下記一般式(A1)で表される構造の化合物であることが好ましい。下記一般式(A1)で表される構造を有する化合物は環状ポリオレフィン系樹脂とともに用いることにより、例えば、偏光板を液晶表示装置に用いたとき、環境の湿度変動による位相差の変動の発生を抑え、コントラスト低下や色むらの発生を抑制することができる。さらに、位相差上昇剤としても機能することができる。
分子量は250~450の範囲内であることが、湿度変動による位相差の変動抑制効果と、飛散物発生の観点から好ましい範囲である。
上記一般式(A1)において、A1、A2及びBは、それぞれ独立に、アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、n-オクチル基、2-エチヘキシル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4-n-ドデシルシクロヘキシル基等)、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。この中で、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が好ましく、特に、5員若しくは6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環であることが好ましい。
5員若しくは6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の構造に制限はないが、例えば、ベンゼン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、1,2,3-トリアゾール環、1,2,4-トリアゾール環、テトラゾール環、フラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、オキサジアゾール環、イソオキサジアゾール環、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、イソチアジアゾール環等が挙げられる。
A1、A2及びBで表される5員若しくは6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環は、置換基を有していてもよく、当該置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4-n-ドデシルシクロヘキシル基等)、アルケニル基(ビニル基、アリル基等)、シクロアルケニル基(2-シクロペンテン-1-イル、2-シクロヘキセン-1-イル基等)、アルキニル基(エチニル基、プロパルギル基等)、芳香族炭化水素環基(フェニル基、p-トリル基、ナフチル基等)、芳香族複素環基(2-ピロール基、2-フリル基、2-チエニル基、ピロール基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、2-ベンゾチアゾリル基、ピラゾリノン基、ピリジル基、ピリジノン基、2-ピリミジニル基、トリアジン基、ピラゾール基、1,2,3-トリアゾール基、1,2,4-トリアゾール基、オキサゾール基、イソオキサゾール基、1,2,4-オキサジアゾール基、1,3,4-オキサジアゾール基、チアゾール基、イソチアゾール基、1,2,4-チオジアゾール基、1,3,4-チアジアゾール基等)、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert-ブトキシ基、n-オクチルオキシ基、2-メトキシエトキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、4-tert-ブチルフェノキシ基、3-ニトロフェノキシ基、2-テトラデカノイルアミノフェノキシ基等)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p-メトキシフェニルカルボニルオキシ基等)、アミノ基(アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N-メチル-アニリノ基、ジフェニルアミノ基等)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基(メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5-トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p-メチルフェニルスルホニルアミノ基等)、メルカプト基、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n-ヘキサデシルチオ基等)、アリールチオ基(フェニルチオ基、p-クロロフェニルチオ基、m-メトキシフェニルチオ基等)、スルファモイル基(N-エチルスルファモイル基、N-(3-ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N-ジメチルスルファモイル基、N-アセチルスルファモイル基、N-ベンゾイルスルファモイル基、N-(N′-フェニルカルバモイル)スルファモイル基等)、スルホ基、アシル基(アセチル基、ピバロイルベンゾイル基等)、カルバモイル基(カルバモイル基、N-メチルカルバモイル基、N,N-ジメチルカルバモイル基、N,N-ジ-n-オクチルカルバモイル基、N-(メチルスルホニル)カルバモイル基等)等の各基が挙げられる。
前記一般式(A1)において、A1、A2及びBは、ベンゼン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、1,2,3-トリアゾール環又は1,2,4-トリアゾール環を表すことが、光学特性の変動効果に優れ、かつ耐久性に優れた環状ポリオレフィンフィルムが得られるために好ましい。
前記一般式(A1)において、T1及びT2は、それぞれ独立に、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、1,2,3-トリアゾール環又は1,2,4-トリアゾール環を表すことが好ましい。これらの中で、ピラゾール環、トリアゾール環又はイミダゾール環であることが、湿度変動に対する位相差の変動抑制効果に特に優れ、かつ耐久性に優れた樹脂組成物が得られるために好ましく、ピラゾール環であることが特に好ましい。T1及びT2で表されるピラゾール環、1,2,3-トリアゾール環又は1,2,4-トリアゾール環、イミダゾール環は、互変異性体であってもよい。ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、1,2,3-トリアゾール環又は1,2,4-トリアゾール環の具体的な構造を下記に示す。
式中、※は一般式(A1)におけるL1、L2、L3又はL4との結合位置を表す。R5は水素原子又は非芳香族置換基を表す。R5で表される非芳香族置換基としては、前記一般式(A1)におけるA1が有してもよい置換基のうちの非芳香族置換基と同様の基を挙げることができる。R5で表される置換基が芳香族基を有する置換基の場合、A1とT1又はBとT1がねじれやすくなり、A1、B及びT1が環状ポリオレフィンとの相互作用を形成できなくなるため、光学的特性の変動を抑制することが難しい。光学的特性の変動抑制効果を高めるためには、R5は水素原子、炭素数1~5のアルキル基又は炭素数1~5のアシル基であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
前記一般式(A1)において、T1及びT2は置換基を有してもよく、当該置換基としては、前記一般式(A1)におけるA1及びA2が有してもよい置換基と同様の基を挙げることができる。
前記一般式(A1)において、L1、L2、L3及びL4は、それぞれ独立に、単結合又は、2価の連結基を表し、2個以下の原子を介して、5員若しくは6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が連結されている。2個以下の原子を介してとは、連結基を構成する原子のうち連結される置換基間に存在する最小の原子数を表す。連結原子数2個以下の2価の連結基としては、特に制限はないが、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、O、(C=O)、NR、S、(O=S=O)からなる群より選ばれる2価の連結基であるか、それらを2個組み合わせた連結基を表す。Rは、水素原子又は置換基を表す。Rで表される置換基の例には、アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4-n-ドデシルシクロヘキシル基等)、芳香族炭化水素環基(フェニル基、p-トリル基、ナフチル基等)、芳香族複素環基(2-フリル基、2-チエニル基、2-ピリミジニル基、2-ベンゾチアゾリル基、2-ピリジル基等)、シアノ基等が含まれる。L1、L2、L3及びL4で表される2価の連結基は置換基を有してもよく、置換基としては特に制限はないが、例えば、前記一般式(A1)におけるA1及びA2が有してもよい置換基と同様の基を挙げることができる。
前記一般式(A1)において、L1、L2、L3及びL4は、前記一般式(A1)で表される構造を有する化合物の平面性が高くなることで、水を吸着する樹脂との相互作用が強くなり、光学的特性の変動が抑制されるため、単結合又は、O、(C=O)-O、O-(C=O)、(C=O)-NR又はNR-(C=O)であることが好ましく、単結合であることがより好ましい。
前記一般式(A1)において、nは0~5の整数を表す。nが2以上の整数を表すとき、前記一般式(A1)における複数のA2、T2、L3、L4は同じであってもよく、異なっていてもよい。nが大きい程、前記一般式(A1)で表される構造を有する化合物と水を吸着する樹脂との相互作用が強くなることで光学的特性の変動抑制効果が優れ、nが小さいほど、水を吸着する樹脂との相溶性が優れる。このため、nは1~3の整数であることが好ましく、1~2の整数であることがより好ましい。
〈一般式(A2)で表される構造を有する化合物〉
一般式(A1)で表される構造を有する化合物は、一般式(A2)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
(式中、A1、A2、T1、T2、L1、L2、L3及びL4は、それぞれ前記一般式(A1)におけるA1、A2、T1、T2、L1、L2、L3及びL4と同義である。A3及びT3は、それぞれ一般式(A1)におけるA1及びT1と同様の基を表す。L5及びL6は、前記一般式(A1)におけるL1と同様の基を表す。mは0~4の整数を表す。)
mが小さい方がセルロースアシレートとの相溶性に優れるため、mは0~2の整数であることが好ましく、0~1の整数であることがより好ましい。
<一般式(A1.1)で表される構造を有する化合物>
一般式(A1)で表される構造を有する化合物は、下記一般式(A1.1)で表される構造を有するトリアゾール化合物であることが好ましい。
(式中、A1、B、L1及びL2は、上記一般式(A1)におけるA1、B、L1及びL2と同様の基を表す。kは、1~4の整数を表す。T1は、1,2,4-トリアゾール環を表す。)
さらに、上記一般式(A1.1)で表される構造を有するトリアゾール化合物は、下記一般式(A1.2)で表される構造を有するトリアゾール化合物であることが好ましい。
(式中、Zは、下記一般式(A1.2a)の構造を表す。qは、2~3の整数を表す。少なくとも二つのZは、ベンゼン環に置換された少なくとも一つのZに対してオルト位又はメタ位に結合する。)。
(式中、R10は水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を表す。pは1~5の整数を表す。*はベンゼン環との結合位置を表す。T1は1,2,4-トリアゾール環を表す。)
前記一般式(A1)、(A2)、(A1.1)又は(A1.2)で表される構造を有する化合物は、水和物、溶媒和物若しくは塩を形成してもよい。なお、本発明において、水和物は有機溶媒を含んでいてもよく、また溶媒和物は水を含んでいてもよい。即ち、「水和物」及び「溶媒和物」には、水と有機溶媒のいずれも含む混合溶媒和物が含まれる。塩としては、無機又は有機酸で形成された酸付加塩が含まれる。無機酸の例として、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸など)、硫酸、リン酸などが含まれ、またこれらに限定されない。また、有機酸の例には、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、クエン酸、安息香酸、アルキルスルホン酸(メタンスルホン酸など)、アリルスルホン酸(ベンゼンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸など)などが挙げられ、またこれらに限定されない。これらのうち好ましくは、塩酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩である。
塩の例としては、親化合物に存在する酸性部分が、金属イオン(例えばアルカリ金属塩、例えばナトリウム又はカリウム塩、アルカリ土類金属塩、例えばカルシウム又はマグネシウム塩、アンモニウム塩アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、又はアルミニウムイオンなど)により置換されるか、又は有機塩基(エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペリジン、など)と調整されたときに形成される塩が挙げられ、またこれらに限定されない。これらのうち好ましくはナトリウム塩、カリウム塩である。
溶媒和物が含む溶媒の例には、一般的な有機溶媒のいずれも含まれる。具体的には、アルコール(例、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、t-ブタノール)、エステル(例、酢酸エチル)、炭化水素(例、トルエン、ヘキサン、ヘプタン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン)、ニトリル(例、アセトニトリル)、ケトン(アセトン)などが挙げられる。好ましくは、アルコール(例、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、t-ブタノール)の溶媒和物である。これらの溶媒は、前記化合物の合成時に用いられる反応溶媒であっても、合成後の晶析精製の際に用いられる溶媒であってもよく、又はこれらの混合であってもよい。
また、2種類以上の溶媒を同時に含んでもよいし、水と溶媒を含む形(例えば、水とアルコール(例えば、メタノール、エタノール、t-ブタノールなど)など)であってもよい。
なお、前記一般式(A1)、(A2)、(A1.1)又は(A1.2)で表される構造を有する化合物を、水や溶媒、塩を含まない形態で添加しても、本発明における樹脂組成物又は環状ポリオレフィンフィルム中において、水和物、溶媒和物又は塩を形成してもよい。
前記一般式(A1)、(A2)、(A1.1)又は(A1.2)で表される構造を有する化合物の分子量は特に制限はないが、小さいほど樹脂との相溶性に優れ、大きいほど環境湿度の変化に対する光学値の変動抑制効果が高いため、150~2000であることが好ましく、200~1500であることがより好ましく、300~1000であることがより好ましい。
また、本発明に係る含窒素複素環化合物は、下記一般式(A3)で表される構造を有する化合物であることがより好ましい。
(式中Aはピラゾール環を表し、Ar1及びAr2はそれぞれ芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表し、置換基を有してもよい。R1は水素原子、アルキル基、アシル基、スルホニル基、アルキルオキシカルボニル基、又はアリールオキシカルボニル基を表し、qは1~2の整数を表し、n及びmは1~3の整数を表す。)
Ar1及びAr2で表される芳香族炭化水素環又は芳香族複素環は、それぞれ一般式(A1)で挙げた5員若しくは6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環であることが好ましい。また、Ar1及びAr2の置換基としては、前記一般式(A1)で表される構造を有する化合物で示したのと同様な置換基が挙げられる。
R1の具体例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等)、アシル基(アセチル基、ピバロイルベンゾイル基等)、スルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等)、アルキルオキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基等)等が挙げられる。
qは1~2の整数を表し、n及びmは1~3の整数を表す。
以下に、本発明に用いられる5員若しくは6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を有する化合物の具体例を例示する。中でも前記一般式(A1)、(A2)、(A1.1)、(A1.2)で表される構造を有する化合物、又は一般式(A3)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。本発明で用いることができる前記5員若しくは6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を有する化合物は、以下の具体例によって何ら限定されることはない。なお、前述のように、以下の具体例は互変異性体であってもよく、水和物、溶媒和物又は塩を形成していてもよい。
次に、前記一般式(A1)で表される構造を有する化合物の合成方法について説明する。
前記一般式(A1)で表される構造を有する化合物は、公知の方法で合成することができる。前記一般式(A1)で表される構造を有する化合物において、1,2,4-トリアゾール環を有する化合物は、いかなる原料を用いても構わないが、ニトリル誘導体又はイミノエーテル誘導体と、ヒドラジド誘導体を反応させる方法が好ましい。反応に用いる溶媒としては、原料と反応しないと溶媒であれば、いかなる溶媒でも構わないが、エステル系(例えば、酢酸エチル、酢酸メチル等)、アミド系(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、エーテル系(エチレングリコールジメチルエーテル等)、アルコール系(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等)、芳香族炭化水素系(例えば、トルエン、キシレン等)、水を挙げられることができる。使用する溶媒として、好ましくは、アルコール系溶媒である。また、これらの溶媒は、混合して用いても良い。
溶媒の使用量は、特に制限はないが、使用するヒドラジド誘導体の質量に対して、0.5~30倍量の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは、1.0~25倍量であり、特に好ましくは、3.0~20倍量の範囲内である。
ニトリル誘導体とヒドラジド誘導体を反応させる場合、触媒を使用しなくても構わないが、反応を加速させるために触媒を使用する方が好ましい。使用する触媒としては、酸を用いても良く、塩基を用いても良い。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸等が挙げられ、好ましくは塩酸である。酸は、水に希釈して添加しても良く、ガスを系中に吹き込む方法で添加しても良い。塩基としては、無機塩基(炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)及び有機塩基(ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラート、ナトリウムブチラート、カリウムブチラート、ジイソプロピルエチルアミン、N,N′-ジメチルアミノピリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N-メチルモルホリン、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、ピリジン等)のいずれを用いて良く、無機塩基としては、炭酸カリウムが好ましく、有機塩基としては、ナトリウムエチラート、ナトリウムエチラート、ナトリウムブチラートが好ましい。無機塩基は、粉体のまま添加しても良く、溶媒に分散させた状態で添加しても良い。また、有機塩基は、溶媒に溶解した状態(例えば、ナトリウムメチラートの28%メタノール溶液等)で添加しても良い。
触媒の使用量は、反応が進行する量であれば特に制限はないが、形成されるトリアゾール環に対して1.0~5.0倍モルの範囲内が好ましく、更に1.05~3.0倍モルの範囲内が好ましい。
イミノエーテル誘導体とヒドラジド誘導体を反応させる場合は、触媒を用いる必要がなく、溶媒中で加熱することにより目的物を得ることができる。
反応に用いる原料、溶媒及び触媒の添加方法は、特に制限がなく、触媒を最後に添加しても良く、溶媒を最後に添加しても良い。また、ニトリル誘導体を溶媒に分散若しくは溶解させ、触媒を添加した後、ヒドラジド誘導体を添加する方法も好ましい。
反応中の溶液温度は、反応が進行する温度であればいかなる温度でも構わないが、好ましくは、0~150℃の範囲内であり、更に好ましくは、20~140℃の範囲内である。また、生成する水を除去しながら、反応を行っても良い。
反応溶液の処理方法は、いかなる手段を用いても良いが、塩基を触媒として用いた場合は、反応溶液に酸を加えて中和する方法が好ましい。中和に用いる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸又は酢酸等が挙げられるが、特に好ましくは酢酸である。中和に使用する酸の量は、反応溶液のpHが4~9になる範囲であれば特に制限はないが、使用する塩基に対して、0.1~3倍モルが好ましく、特に好ましくは、0.2~1.5倍モルの範囲内である。
反応溶液の処理方法として、適当な有機溶媒を用いて抽出する場合、抽出後に有機溶媒を水で洗浄した後、濃縮する方法が好ましい。ここでいう適当な有機溶媒とは、酢酸エチル、トルエン、ジクロロメタン、エーテル等非水溶性の溶媒、又は、前記非水溶性の溶媒とテトラヒドロフラン又はアルコール系溶媒との混合溶媒のことであり、好ましくは酢酸エチルである。
一般式(A1)で表される構造を有する化合物を晶析させる場合、特に制限はないが、中和した反応溶液に水を追加して晶析させる方法、若しくは、一般式(A1)で表される構造を有する化合物が溶解した水溶液を中和して晶析させる方法が好ましい。
例えば、例示化合物1は以下のスキームによって合成することができる。
n-ブタノール350mLにベンゾニトリル77.3g(75.0mmol)、ベンゾイルヒドラジン34.0g(25.0mmol)、炭酸カリウム107.0g(77.4mmol)を加え、窒素雰囲気下、120℃で24時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、析出物を濾過後、濾液を減圧下で濃縮した。濃縮物にイソプロパノール20mLを加え、析出物を濾取した。濾取した析出物をメタノール80mLに溶解し、純水300mLを加え、溶液のpHが7になるまで酢酸を滴下した。析出した結晶を濾取後、純水で洗浄し、50℃で送風乾燥することにより、例示化合物1を38.6g得た。収率は、ベンゾイルヒドラジン基準で70%であった。
得られた例示化合物1の1H-NMRスペクトルは以下のとおりである。
1H-NMR(400MHz、溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):7.56~7.48(6H、m)、7.62~7.61(4H、m)
(例示化合物6の合成)
例示化合物6は以下のスキームによって合成することができる。
n-ブタノール40mLに1,3-ジシアノベンゼン2.5g(19.5mmol)、ベンゾイルヒドラジン7.9g(58.5mmol)、炭酸カリウム9.0g(68.3mmol)を加え、窒素雰囲気下、120℃で24時間撹拌した。反応液を冷却後、純水40mLを加え、室温で3時間撹拌した後、析出した固体を濾別し、純水で洗浄した。得られた固体に水及び酢酸エチルを加えて分液し、有機層を純水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた粗結晶をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)で精製し、例示化合物6を5.5g得た。収率は、1,3-ジシアノベンゼン基準で77%であった。
得られた例示化合物6の1H-NMRスペクトルは以下のとおりである。
1H-NMR(400MHz、溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):8.83(1H、s)、8.16~8.11(6H、m)、7.67~7.54(7H、m)
(例示化合物176の合成)
例示化合物176は以下のスキームによって合成することができる。
脱水テトラヒドロフラン520mLにアセトフェノン80g(0.67mol)、イソフタル酸ジメチル52g(0.27mol)を加え、窒素雰囲気下、氷水冷で撹拌しながら、ナトリウムアミド52.3g(1.34mol)を少しずつ滴下した。氷水冷下で3時間撹拌した後、水冷下で12時間撹拌した。反応液に濃硫酸を加えて中和した後、純水及び酢酸エチルを加えて分液し、有機層を純水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた粗結晶にメタノールを加えて懸濁洗浄することにより、中間体Aを55.2g得た。
テトラヒドロフラン300mL、エタノール200mLに中間体A55g(0.15mol)を加え、室温で撹拌しながら、ヒドラジン1水和物18.6g(0.37mol)を少しずつ滴下した。滴下終了後、12時間加熱還流した。反応液に純水及び酢酸エチルを加えて分液し、有機層を純水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた粗結晶をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)で精製することによって、例示化合物176を27g得た。
得られた例示化合物176の1H-NMRスペクトルは以下のとおりである。なお、互変異性体の存在により、ケミカルシフトが複雑化するのを避けるために、測定溶媒にトリフルオロ酢酸を数滴加えて測定を行った。
1H-NMR(400MHz、溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):8.34(1H、s)、7.87~7.81(6H、m)、7.55~7.51(1H、m)、7.48~7.44(4H、m)、7.36~7.33(2H、m)、7.29(1H、s)
その他の化合物についても同様の方法によって合成が可能である。
〈一般式(A1)で表される構造を有する化合物の使用方法について〉
本発明に用いられる前記一般式(A1)で表される構造を有する化合物は、適宜量を調整して環状ポリオレフィンフィルムに含有することができるが、添加量としては環状ポリオレフィンフィルム中に、0.1~10質量%含むことが好ましく、特に、0.5~5質量%含むことが好ましい。この範囲内であれば、本発明の環状ポリオレフィンフィルムの機械強度を損なうことなく、環境湿度の変化に依存した位相差の変動を低減することができる。
また、前記一般式(A1)で表される構造を有する化合物の添加方法としては、環状ポリオレフィンフィルムを形成する樹脂に粉体で添加しても良く、溶媒に溶解した後、環状ポリオレフィンフィルムを形成する樹脂に添加しても良い。
(6)有機エステル
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、可塑剤として以下の有機エステルを用いることが、成型性や寸法安定性の観点から好ましい。
有機エステルは、融点が-60~120℃の範囲内である化合物であることが好ましく、かつ示差熱・熱重量測定による1%質量減少温度Td1が100~350℃の範囲内である有機エステルであることが好ましい。有機エステルとしては、特に限定されるものではないが、当該有機エステルが、糖エステル、重縮合エステル、及び多価アルコールエステルから選択される少なくとも1種であることが好ましく、前記重縮合エステルは、構造中に窒素原子を含まないエステルであることが好ましい。
(有機エステルの融点の測定)
融点の測定は、セイコーインスツル製示差熱・熱重量同時測定装置、EXSTAR6220TG/DTAを用いて測定した。アルミパンに試料化合物を10mg入れて、10℃/minで30~350℃、350~30℃に温度を変化させたときの吸熱・発熱ピークから融点を求めた。融点が0℃以下の化合物を測定するときは5℃/minで-50~30℃、30~-50℃までの温度の吸熱・発熱ピークから融点を求めた。
本発明に用いられる有機エステルは、本発明の効果を呈するのに、融点が-60~120℃の範囲内であることが必要であり、好ましくは、-45~90℃の範囲内である。
有機エステルの融点が-60~120℃の範囲内であると、製造ライン中で飛散し、かつ冷却された後液状化しやすいため、本発明の効果発現の観点からこの範囲内であることが好ましい。
(有機エステルの1%質量減少温度の測定)
有機エステルの1%質量減少温度Td1の測定は、例えば、セイコーインスツル製示差熱・熱重量同時測定装置、EXSTAR6200TG/DTAによって、アルミパンに試料化合物を10mg入れて、50℃/minで100℃まで昇温した後、40分間そのまま加熱し、その後、10℃/minで400℃まで昇温しながら質量変動をモニターし、質量が1質量%減少したときの温度を、1%質量減少温度とする。なお、測定は乾燥空気(露点-30℃)下で測定する。
本発明に用いられる有機エステルは、本発明の効果を呈するのに、1%質量減少温度が、100~300℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは200~270℃の範囲内である。
有機エステルの1%質量減少温度が100℃以上であると、飛散、冷却後液状化したときの粘度が適度であり、含窒素複素環化合物の飛散物の嵩高さを小さくすることができ、1%質量減少温度が350℃以下であると、当該含窒素複素環化合物の飛散物の嵩高さを小さくするのに必要な量が飛散して、十分な効果を得ることができる。
以下、本発明に好ましく用いられる有機エステルとして、糖エステル、重縮合エステル、及び多価アルコールエステルについて説明する。
本発明では以下の好ましい有機エステルの中から、上記融点及び1%質量減少温度Td1が本発明の範囲内である化合物を、適宜選択して用いることができる。
(6-1)糖エステル
本発明に用いられる糖エステルとしては、ピラノース環又はフラノース環の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基の全て若しくは一部をエステル化した糖エステルであることが好ましい。
本発明に用いられる糖エステルとは、フラノース環又はピラノース環の少なくともいずれかを含む化合物であり、単糖であっても、糖構造が2~12個連結した多糖であってもよい。そして、糖エステルは、糖構造が有するOH基の少なくとも一つがエステル化された化合物が好ましい。本発明に係る糖エステルにおいては、平均エステル置換度が、4.0~8.0の範囲内であることが好ましく、5.0~7.5の範囲内であることがより好ましい。
本発明に用いられる糖エステルとしては、特に制限はないが、下記一般式(B)で表される糖エステルを挙げることができる。
一般式(B)
(HO)m-G-(O-C(=O)-R2)n
上記一般式(B)において、Gは、単糖類又は二糖類の残基を表し、R2は、脂肪族基又は芳香族基を表し、mは、単糖類又は二糖類の残基に直接結合しているヒドロキシ基の数の合計であり、nは、単糖類又は二糖類の残基に直接結合している-(O-C(=O)-R2)基の数の合計であり、3≦m+n≦8であり、n≠0である。
一般式(B)で表される構造を有する糖エステルは、ヒドロキシ基の数(m)、-(O-C(=O)-R2)基の数(n)が固定された単一種の化合物として単離することは困難であり、式中のm、nの異なる成分が数種類混合された化合物となることが知られている。したがって、ヒドロキシ基の数(m)、-(O-C(=O)-R2)基の数(n)が各々変化した混合物としての性能が重要であり、本発明の環状ポリオレフィンフィルムの場合、平均エステル置換度が、5.0~7.5の範囲内である糖エステルが好ましい。
上記一般式(B)において、Gは単糖類又は二糖類の残基を表す。単糖類の具体例としては、例えばアロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソースなどが挙げられる。
以下に、一般式(B)で表される糖エステルの単糖類残基を有する化合物の具体例を示すが、本発明はこれら例示する化合物に限定されるものではない。
また、二糖類残基の具体例としては、例えば、トレハロース、スクロース、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、イソトレハロース等が挙げられる。
以下に、一般式(B)で表される糖エステルの二糖類残基を有する化合物の具体例を示すが、本発明はこれら例示する化合物に限定されるものではない。
一般式(B)において、R2は、脂肪族基又は芳香族基を表す。ここで、脂肪族基及び芳香族基は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい。
また、一般式(B)において、mは、単糖類又は二糖類の残基に直接結合しているヒドロキシ基の数の合計であり、nは、単糖類又は二糖類の残基に直接結合している-(O-C(=O)-R2)基の数の合計である。そして、3≦m+n≦8であることが必要であり、4≦m+n≦8であることが好ましい。また、n≠0である。なお、nが2以上である場合、-(O-C(=O)-R2)基は互いに同じでもよいし異なっていてもよい。
R2の定義における脂肪族基は、直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよく、炭素数1~25のものが好ましく、1~20のものがより好ましく、2~15のものが特に好ましい。脂肪族基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、シクロプロピル、n-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、アミル、iso-アミル、tert-アミル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、ビシクロオクチル、アダマンチル、n-デシル、tert-オクチル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ジデシル等の各基が挙げられる。
また、R2の定義における芳香族基は、芳香族炭化水素基でもよいし、芳香族複素環基でもよく、より好ましくは芳香族炭化水素基である。芳香族炭化水素基としては、炭素数が6~24のものが好ましく、6~12のものがさらに好ましい。芳香族炭化水素基の具体例としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、ターフェニル等の各環が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環が特に好ましい。芳香族複素環基としては、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子のうち少なくとも一つを含む環が好ましい。複素環の具体例としては、例えば、フラン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデン等の各環が挙げられる。芳香族複素環基としては、ピリジン環、トリアジン環、キノリン環が特に好ましい。
次に、一般式(B)で表される糖エステルの好ましい例を下記に示すが、本発明はこれらの例示する化合物に限定されるものではない。下記例示化合物はいずれも融点及び1%質量減少温度Td1が、本発明の範囲内である。
糖エステルは一つの分子中に二つ以上の異なった置換基を含有していても良く、芳香族置換基と脂肪族置換基を1分子内に含有、異なる二つ以上の芳香族置換基を1分子内に含有、異なる二つ以上の脂肪族置換基を1分子内に含有することができる。
また、2種類以上の糖エステルを混合して含有することも好ましい。芳香族置換基を含有する糖エステルと、脂肪族置換基を含有する糖エステルを同時に含有することも好ましい。
〈合成例:一般式(B)で表される糖エステルの合成例〉
以下に、本発明に好適に用いることのできる糖エステルの合成の一例を示す。
撹拌装置、還流冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖を34.2g(0.1モル)、無水安息香酸を180.8g(0.8モル)、ピリジンを379.7g(4.8モル)、それぞれ仕込み、撹拌下で窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。次に、コルベン内を4×102Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。そして、次にトルエンを1L、0.5質量%の炭酸ナトリウム水溶液を300g添加し、50℃で30分間撹拌した後、静置して、トルエン層を分取した。最後に、分取したトルエン層に水を100g添加し、常温で30分間水洗した後、トルエン層を分取し、減圧下(4×102Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A-1、A-2、A-3、A-4及びA-5の混合物を得た。得られた混合物をHPLC及びLC-MASSで解析したところ、A-1が7質量%、A-2が58質量%、A-3が23質量%、A-4が9質量%、A-5が3質量%で、糖エステルの平均エステル置換度が、6.57であった。なお、得られた混合物の一部をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、それぞれ純度100%のA-1、A-2、A-3、A-4及びA-5を得た。
当該糖エステルの添加量は、環状ポリオレフィン系樹脂に対して0.1~20質量%の範囲で添加することが好ましく、1~15質量%の範囲で添加することがより好ましい。
(6-2)重縮合エステル
本発明の環状ポリオレフィンフィルムにおいては、有機エステルとして、下記一般式(C)で表される構造を有する重縮合エステルを用いることが、温湿度変化に対する寸法安定性の観点から好ましい。
当該重縮合エステルはその可塑的な効果から、本発明の環状ポリオレフィンフィルムにおいては、1~30質量%の範囲で含有することが好ましく、5~20質量%の範囲で含有することがより好ましい。
一般式(C)
B3-(G2-A)n-G2-B4
上記一般式(C)において、B3及びB4は、それぞれ独立に脂肪族又は芳香族モノカルボン酸残基、若しくはヒドロキシ基を表す。G2は、炭素数2~12のアルキレングリコール残基、炭素数6~12のアリールグリコール残基又は炭素数が4~12のオキシアルキレングリコール残基を表す。Aは、炭素数4~12のアルキレンジカルボン酸残基又は炭素数6~12のアリールジカルボン酸残基を表す。nは1以上の整数を表す。
本発明において、重縮合エステルは、ジカルボン酸とジオールを反応させて得られる繰り返し単位を含む重縮合エステルであり、Aは重縮合エステル中のカルボン酸残基を表し、G2はアルコール残基を表す。
重縮合エステルを構成するジカルボン酸は、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又は脂環式ジカルボン酸であり、好ましくは芳香族ジカルボン酸である。ジカルボン酸は、1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。特に芳香族、脂肪族を混合させることが好ましい。
重縮合エステルを構成するジオールは、芳香族ジオール、脂肪族ジオール又は脂環式ジオールであり、好ましくは脂肪族ジオールであり、より好ましくは炭素数1~4のジオールである。ジオールは、1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
中でも、少なくとも芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と、炭素数1~8のジオールとを反応させて得られる繰り返し単位を含むことが好ましく、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを含むジカルボン酸と、炭素数1~8のジオールとを反応させて得られる繰り返し単位を含むことがより好ましい。
重縮合エステルの分子の両末端は、封止されていても、封止されていなくてもよい。
一般式(C)のAを構成するアルキレンジカルボン酸の具体例としては、1,2-エタンジカルボン酸(コハク酸)、1,3-プロパンジカルボン酸(グルタル酸)、1,4-ブタンジカルボン酸(アジピン酸)、1,5-ペンタンジカルボン酸(ピメリン酸)、1,8-オクタンジカルボン酸(セバシン酸)などから誘導される2価の基が含まれる。Aを構成するアルケニレンジカルボン酸の具体例としては、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。Aを構成するアリールジカルボン酸の具体例としては、1,2-ベンゼンジカルボン酸(フタル酸)、1,3-ベンゼンジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。
Aは、1種類であっても、2種類以上が組み合わされてもよい。中でも、Aは、炭素原子数4~12のアルキレンジカルボン酸と炭素原子数8~12のアリールジカルボン酸との組み合わせが好ましい。
一般式(C)中のG2は、炭素原子数2~12のアルキレングリコールから誘導される2価の基、炭素原子数6~12のアリールグリコールから誘導される2価の基、又は炭素原子数4~12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基を表す。
G2における炭素原子数2~12のアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールペンタン)、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、及び1,12-オクタデカンジオール等から誘導される2価の基が含まれる。
G2における炭素原子数6~12のアリールグリコールから誘導される2価の基の例には、1,2-ジヒドロキシベンゼン(カテコール)、1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン(ヒドロキノン)などから誘導される2価の基が含まれる。Gにおける炭素原子数が4~12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、ジエチレングルコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどから誘導される2価の基が含まれる。
G2は、1種類であっても、2種類以上が組み合わされてもよい。中でも、G2は、炭素原子数2~12のアルキレングリコールから誘導される2価の基が好ましく、2~5がさらに好ましく、2~4が最も好ましい。
一般式(C)におけるB3及びB4は、各々芳香環含有モノカルボン酸又は脂肪族モノカルボン酸から誘導される1価の基、若しくはヒドロキシ基である。
芳香環含有モノカルボン酸から誘導される1価の基における芳香環含有モノカルボン酸は、分子内に芳香環を含有するカルボン酸であり、芳香環がカルボキシ基と直接結合したものだけでなく、芳香環がアルキレン基などを介してカルボキシ基と結合したものも含む。芳香環含有モノカルボン酸から誘導される1価の基の例には、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸、フェニル酢酸、3-フェニルプロピオン酸などから誘導される1価の基が含まれる。中でも安息香酸、パラトルイル酸が好ましい。
脂肪族モノカルボン酸から誘導される1価の基の例には、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸などから誘導される1価の基が含まれる。中でも、アルキル部分の炭素原子数が1~3であるアルキルモノカルボン酸から誘導される1価の基が好ましく、アセチル基(酢酸から誘導される1価の基)がより好ましい。
本発明に用いられる重縮合エステルの重量平均分子量は、500~3000の範囲であることが好ましく、600~2000の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量は前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
以下、一般式(C)で表される構造を有する重縮合エステルの具体例を示すが、これに限定されるものではない。下記例示化合物はいずれも融点及び1%質量減少温度Td1が、本発明の範囲内である。
以下、上記説明した重縮合エステルの具体的な合成例について記載する。
〈重縮合エステルP1〉
エチレングリコール180g、無水フタル酸278g、アジピン酸91g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応のエチレングリコールを減圧留去することにより、重縮合エステルP1を得た。酸価0.20、数平均分子量450であった。
〈重縮合エステルP2〉
1,2-プロピレングリコール251g、無水フタル酸103g、アジピン酸244g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応の1,2-プロピレングリコールを減圧留去することにより、下記重縮合エステルP2を得た。酸価0.10、数平均分子量450であった。
〈重縮合エステルP3〉
1,4-ブタンジオール330g、無水フタル酸244g、アジピン酸103g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応の1,4-ブタンジオールを減圧留去することにより、重縮合エステルP3を得た。酸価0.50、数平均分子量2000であった。
〈重縮合エステルP4〉
1,2-プロピレングリコール251g、テレフタル酸354g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応の1,2-プロピレングリコールを減圧留去することにより、重縮合エステルP4を得た。酸価0.10、数平均分子量400であった。
〈重縮合エステルP5〉
1,2-プロピレングリコール251g、テレフタル酸354g、p-トロイル酸680g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応の1,2-プロピレングリコールを減圧留去することにより、下記重縮合エステルP5を得た。酸価0.30、数平均分子量400であった。
〈重縮合エステルP6〉
180gの1,2-プロピレングリコール、292gのアジピン酸、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中200℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応の1,2-プロピレングリコールを減圧留去することにより、重縮合エステルP6を得た。酸価0.10、数平均分子量400であった。
〈重縮合エステルP7〉
180gの1,2-プロピレングリコール、無水フタル酸244g、アジピン酸103g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中200℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応の1,2-プロピレングリコールを減圧留去することにより、重縮合エステルP7を得た。酸価0.10、数平均分子量320であった。
〈重縮合エステルP8〉
エチレングリコール251g、無水フタル酸244g、コハク酸120g、酢酸150g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中200℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応のエチレングリコールを減圧留去することにより、重縮合エステルP8を得た。酸価0.50、数平均分子量1200であった。
〈重縮合エステルP9〉
上記重縮合エステルP2と同様の製造方法で、反応条件を変化させて、酸価0.10、数平均分子量315の重縮合エステルP9を得た。
(6-3)多価アルコールエステル
本発明の環状ポリオレフィンフィルムにおいては、多価アルコールエステルを含有することも好ましい。
多価アルコールエステルは2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる化合物であり、分子内に芳香環又はシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2~20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
本発明に好ましく用いられる多価アルコールは次の一般式(D)で表される。
一般式(D)
R11-(OH)n
ただし、R11はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/又はフェノール性ヒドロキシ基を表す。
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4-ブタントリオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。
特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1~32の直鎖又は側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1~20であることが更に好ましく、1~10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースアセテートとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2-エチル-ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基又はエトキシ基などのアルコキシ基を1~3個を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300~1500の範囲であることが好ましく、350~750の範囲であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースアシレートとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を例示する。下記例示化合物はいずれも融点及び1%質量減少温度Td1が、本発明の範囲内である。
本発明に用いられる多価アルコールエステルは、環状ポリオレフィンフィルムに対して0.5~5質量%の範囲で含有することが好ましく、1~3質量%の範囲で含有することがより好ましく、1~2質量%の範囲で含有することが特に好ましい。
本発明に用いられる多価アルコールエステルは、従来公知の一般的な合成方法に従って合成することができる。
(7)その他の可塑剤
(7-1)アクリル樹脂
下記一般式(E)で表され、平均分子量(Mw)が1000~30000の範囲内であるアクリル樹脂化合物は、本発明に係る環状ポリオレフィン系樹脂との相溶性が高く、耐熱性を向上する観点から、用いることが好ましい。
一般式(E)
-[CH2-C(-R1)(-CO2R2)]m-[CH2-C(-R3)(-CO2R4-OH)-]n
(式中、R1、R3、はH又はCH3、R2、R4はCH2又はC2H4又はC3H6、m、nは繰り返し単位を表す)
本発明に用いられる一般式(E)で表される化合物は重量平均分子量が1000~30000の範囲内であるから、オリゴマーから低分子量ポリマーの間にあると考えられるものである。
一般式(E)で表される化合物は、下記エチレン性不飽和モノマーXaの一種、及び下記エチレン性不飽和モノマーXbの一種とを共重合して得られたポリマーであることが好ましい。
-(Xa)m-(Xb)n- (m、nは繰り返し単位を表す)
一般式(E)で表される化合物を構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるがこれに限定されない。
エチレン性不飽和モノマーXaは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i-、n-)、アクリル酸ブチル(n-、i-、s-、t-)、アクリル酸ペンチル(n-、i-、s-)、アクリル酸ヘキシル(n-、i-)、アクリル酸ヘプチル(n-、i-)、アクリル酸オクチル(n-、i-)、アクリル酸ノニル(n-、i-)、アクリル酸ミリスチル(n-、i-)、アクリル酸(2-エチルヘキシル)、アクリル酸(ε-カプロラクトン)、アクリル酸(2-エトキシエチル)等、又は上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル(i-、n-)であることが好ましい。
エチレン性不飽和モノマーXbは、アクリル酸又はメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2-ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2-ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3-ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4-ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2-ヒドロキシブチル)、又はこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることができ、好ましくは、アクリル酸(2-ヒドロキシエチル)及びメタクリル酸(2-ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2-ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3-ヒドロキシプロピル)である。
Xa、Xbのモル組成比m:nは99:1~65:35の範囲が好ましく、更に好ましくは95:5~75:25の範囲である。
Xaのモル組成比が多いと環状ポリオレフィン系樹脂との相溶性が良化するが、フィルムの耐熱性が低下する。Xbのモル組成比が多いと上記相溶性が悪くなる。また、Xbのモル組成比が上記範囲を超えると製膜時にヘイズが出る傾向があり、これらの最適化を図りXa、Xbのモル組成比を決めることが好ましい。
一般式(E)で表される化合物の重量平均分子量は1000~30000範囲内であり、より好ましくは8000~25000である。
重量平均分子量を1000以上30000以下とすることにより、蒸発や揮発することなく樹脂との相溶性がより向上し好ましい。
重量平均分子量の測定方法は下記方法によることができる。
(重量平均分子量測定方法)
重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した。測定条件は以下のとおりである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000((株)日立製作所製)
流量: 1.0mL/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)
製)Mw=500~1000000迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
一般式(E)で表される化合物を合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量を余り大きくしない方法でできるだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt-ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、更に特開2000-128911号公報又は同2000-344823号公報にあるような一つのチオール基と2級のヒドロキシ基とを有する化合物、又は、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることができ、いずれも本発明において好ましく用いられるが、特に、分子中にチオール基と2級のヒドロキシ基とを有する化合物を連鎖移動剤として使用する重合方法が好ましい。
この場合、一般式(E)で表される化合物の末端には、重合触媒及び連鎖移動剤に起因するヒドロキシ基、チオエーテルを有することとなる。この末端残基により、一般式(E)で表される化合物と脂環式構造を有する重合体樹脂との相溶性を調整することができる。
また、重合温度は通常室温から130℃、好ましくは50~100℃で行われるが、この温度又は重合反応時間を調整することで分子量のコントロールが可能である。
また、一般式(E)で表される化合物のヒドロキシ基価は30~150[mgKOH/g]であることが好ましい。
(ヒドロキシ基価の測定方法)
この測定は、JIS K 0070(1992)に準ずる。このヒドロキシ基価は、試料1gをアセチル化させたとき、ヒドロキシ基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数と定義される。具体的には試料Xg(約1g)をフラスコに精秤し、これにアセチル化試薬(無水酢酸20mLにピリジンを加えて400mLにしたもの)20mLを正確に加える。フラスコの口に空気冷却管を装着し、95~100℃のグリセリン浴にて加熱する。
1時間30分後、冷却し、空気冷却管から精製水1mLを加え、無水酢酸を酢酸に分解する。次に電位差滴定装置を用いて0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。更に空試験として、試料を入れないで滴定し、滴定曲線の変曲点を求める。
ヒドロキシ基価は、次の式によって算出する。
ヒドロキシ基価={(B-C)×f×28.05/X}+D
(式中、Bは空試験に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、Cは滴定に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、fは0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、Dは酸価、また、28.05は水酸化カリウムの1mol量56.11の1/2を表す)
一般式(E)で表される化合物は、環状ポリオレフィン系樹脂中に0.1~30質量%含有させることが必要であり、好ましくは1~25質量%、より好ましくは3~20質量%、特に好ましくは5~15質量%である。
(7-2)リン酸エステル
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、リン酸エステルを用いることができる。リン酸エステルとしては、トリアリールリン酸エステル、ジアリールリン酸エステル、モノアリールリン酸エステル、アリールホスホン酸化合物、アリールホスフィンオキシド化合物、縮合アリールリン酸エステル、ハロゲン化アルキルリン酸エステル、含ハロゲン縮合リン酸エステル、含ハロゲン縮合ホスホン酸エステル、含ハロゲン亜リン酸エステル等が挙げることができる。
具体的なリン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキシド、フェニルホスホン酸、トリス(β-クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等が挙げられる。
(7-3)グリコール酸のエステル類
また、本発明においては、多価アルコールエステル類の1種として、グリコール酸のエステル類(グリコレート化合物)を用いることができる。
本発明に適用可能なグリコレート化合物としては、特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。
アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えば、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられ、好ましくはエチルフタリルエチルグリコレートである。
(8)紫外線吸収剤
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、紫外線吸収剤を含有することが耐光性を向上する観点から好ましい。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐光性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が、2~30%の範囲であることが好ましく、より好ましくは4~20%の範囲、更に好ましくは5~10%の範囲である。
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、含窒素複素環化合物であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及びベンゾフェノン系紫外線吸収剤である。
例えば、5-クロロ-2-(3,5-ジ-sec-ブチル-2-ヒドロキシルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(2-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(直鎖及び側鎖ドデシル)-4-メチルフェノール、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4-ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328、チヌビン928等のチヌビン類があり、これらはいずれもBASFジャパン(株)製の市販品であり好ましく使用できる。この中ではハロゲンフリーのものが好ましい。
このほか、1,3,5-トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、紫外線吸収剤を2種以上含有することが好ましい。
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6-148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。また、紫外線吸収剤は、ハロゲン基を有していないことが好ましい。
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒又はこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。
無機粉体のように有機溶媒に溶解しないものは、有機溶媒とセルロースアシレート中にディゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、環状ポリオレフィンフィルムの乾燥膜厚が15~50μmの場合は、環状ポリオレフィンフィルムに対して0.5~10質量%の範囲が好ましく、0.6~4質量%の範囲が更に好ましい。
(9)酸化防止剤
酸化防止剤は劣化防止剤ともいわれる。高湿高温の状態に電子デバイスなどが置かれた場合には、環状ポリオレフィンフィルムの劣化が起こる場合がある。
酸化防止剤は、例えば、環状ポリオレフィンフィルム中の残留溶媒量のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等により環状ポリオレフィンフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、本発明の環状ポリオレフィンフィルム中に含有させるのが好ましい。
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサンジオール-ビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、2,2-チオ-ジエチレンビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレート等を挙げることができる。
特に、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N′-ビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
これらの化合物の添加量は、環状ポリオレフィンフィルムに対して質量割合で1ppm~1.0%の範囲が好ましく、10~1000ppmの範囲が更に好ましい。
(10)位相差制御剤
液晶表示装置等の画像表示装置の表示品質の向上のため、環状ポリオレフィンフィルム中に位相差制御剤を添加するか、配向膜を形成して液晶層を設け、偏光板保護フィルムと液晶層由来の位相差を複合化することにより、環状ポリオレフィンフィルムに光学補償能を付与することができる。
位相差制御剤としては、欧州特許911656A2号明細書に記載されているような、2以上の芳香族環を有する芳香族化合物、特開2006-2025号公報に記載の棒状化合物等が挙げられる。また、2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。この芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む芳香族性ヘテロ環であることが好ましい。芳香族性ヘテロ環は、一般に不飽和ヘテロ環である。なかでも、特開2006-2026号公報に記載の1,3,5-トリアジン環が好ましい。
なお、一般式(A1)で表される構造を有する化合物は、位相差制御剤としても機能する。このため、一般式(A1)で表される構造を有する化合物は、一つの化合物で位相差制御と湿度変動に対する光学値変動抑制の両方の機能を付与することができる。
これらの位相差制御剤の添加量は、環状ポリオレフィン系樹脂100質量%に対して、0.5~20質量%の範囲内であることが好ましく、1~10質量%の範囲内であることがより好ましい。
(11)剥離促進剤
環状ポリオレフィンフィルムの剥離抵抗を小さくする添加剤としては界面活性剤に効果の顕著なものが多く、好ましい剥離剤としてはリン酸エステル系の界面活性剤、カルボン酸又はカルボン酸塩系の界面活性剤、スルホン酸又はスルホン酸塩系の界面活性剤、硫酸エステル系の界面活性剤が効果的である。また上記界面活性剤の炭化水素鎖に結合している水素原子の一部をフッ素原子に置換したフッ素系界面活性剤も有効である。以下に剥離剤を例示する。
RZ-1 C8H17O-P(=O)-(OH)2
RZ-2 C12H25O-P(=O)-(OK)2
RZ-3 C12H25OCH2CH2O-P(=O)-(OK)2
RZ-4 C15H31(OCH2CH2)5O-P(=O)-(OK)2
RZ-5 {C12H25O(CH2CH2O)5}2-P(=O)-OH
RZ-6 {C18H35(OCH2CH2)8O}2-P(=O)-ONH4
RZ-7 (t-C4H9)3-C6H2-OCH2CH2O-P(=O)-(OK)2RZ-8 (iso-C9H19-C6H4-O-(CH2CH2O)5-P(=O)-(OK)(OH)
RZ-9 C12H25SO3Na
RZ-10 C12H25OSO3Na
RZ-11 C17H33COOH
RZ-12 C17H33COOH・N(CH2CH2OH)3
RZ-13 iso-C8H17-C6H4-O-(CH2CH2O)3-(CH2)2SO3Na
RZ-14 (iso-C9H19)2-C6H3-O-(CH2CH2O)3-(CH2)4SO3Na
RZ-15 トリイソプロピルナフタレンスルフォン酸ナトリウム
RZ-16 トリ-t-ブチルナフタレンスルフォン酸ナトリウム
RZ-17 C17H33CON(CH3)CH2CH2SO3Na
RZ-18 C12H25-C6H4SO3・NH4
剥離促進剤の添加量は環状ポリオレフィン系樹脂に対して0.05~5質量%が好ましく、0.1~2質量%が更に好ましく、0.1~0.5質量%が最も好ましい。
(12)ゴム粒子
環状ポリオレフィンフィルムの柔軟性を向上させてハンドリング性を高めるため、環状ポリオレフィン系樹脂にはゴム弾性体粒子を配合することが好ましい。ゴム弾性体粒子は、ゴム弾性体を含有する粒子であり、ゴム弾性体のみからなる粒子であってもよいし、ゴム弾性体の層を有する多層構造の粒子であってもよい。ゴム弾性体としては、例えば、オレフィン系弾性重合体、ジエン系弾性重合体、スチレン-ジエン系弾性共重合体、アクリル系弾性重合体が挙げられる。中でも、環状ポリオレフィンフィルムの表面硬度や耐光性、透明性の点からは、アクリル系弾性重合体が好ましい。
アクリル系弾性重合体は、アクリル酸アルキルを主体とする重合体であるのが好ましく、アクリル酸アルキルの単独重合体であってもよいし、アクリル酸アルキル50質量%以上とアクリル酸アルキル以外の単量体50質量%以下との共重合体であってもよい。アクリル酸アルキルとしては、通常、そのアルキル基の炭素数が4~8のものが用いられる。また、アクリル酸アルキル以外の単量体の例としては、メタクリル酸メチルやメタクリル酸エチルのようなメタクリル酸アルキル、スチレンやアルキルスチレンのようなスチレン系単量体、アクリロニトリルやメタクリロニトリルのような不飽和ニトリル等の単官能単量体や、(メタ)アクリル酸アリルや(メタ)アクリル酸メタリルのような不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、マレイン酸ジアリルのような二塩基酸のジアルケニルエステル、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートのようなグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル等の多官能単量体が挙げられる。
アクリル系弾性重合体を含有するゴム弾性体粒子は、アクリル系弾性重合体の層を有する多層構造の粒子であることが好ましく、アクリル系弾性重合体の外側にメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の層を有する2層構造のものであってもよいし、更にアクリル系弾性重合体の内側にメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の層を有する3層構造のものであってもよい。なお、アクリル系弾性重合体の外側又は内側に形成される層を構成するメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の単量体組成の例は、先にアクリル樹脂の例として挙げたメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の単量体組成の例と同様である。このような多層構造のアクリル系ゴム弾性体粒子は、例えば特公昭55-27576号公報に記載の方法により、製造することができる。
ゴム弾性体粒子としては、その中に含まれるゴム弾性体の数平均粒径が10~300nmのものを使用することができる。これにより、接着剤を用いて環状ポリオレフィンフィルムを偏光フィルムに積層したときに、環状ポリオレフィンフィルムを接着剤層から剥がれ難くすることができる。このゴム弾性体の数平均粒径は、好ましくは50nm以上、250nm以下である。
環状ポリオレフィンフィルムは、環状ポリオレフィン系樹脂の柔軟性の観点から、曲げ弾性率(JIS K7171)が1500MPa以下であるのが好ましい。この曲げ弾性率は、より好ましくは1300MPa以下であり、更に好ましくは1200MPa以下である。この曲げ弾性率は、環状ポリオレフィンフィルム中のゴム弾性体粒子の種類や量などによって変動し、例えば、ゴム弾性体粒子の含有量が多いほど、一般に曲げ弾性率は小さくなる。
また、ゴム弾性体粒子として、上記3層構造のアクリル系弾性重合体粒子を用いるよりも、上記2層構造のアクリル系弾性重合体粒子を用いる方が、一般に曲げ弾性率は小さくなり、更に単層構造のアクリル系弾性重合体粒子を用いる方が、一般に曲げ弾性率は小さくなる。また、ゴム弾性体粒子中、ゴム弾性体の平均粒径が小さいほど、又はゴム弾性体の量が多いほど、一般に曲げ弾性率は小さくなる。そこで、アクリル樹脂やゴム弾性体粒子の種類や量を上記所定の範囲で調整して、曲げ弾性率が1500MPa以下になるようにすることが好ましい。
また、環状ポリオレフィンフィルムを多層構成とする場合、ゴム弾性体粒子や上記配合剤の各層の含有量を互いに異ならせてもよい。例えば、紫外線吸収剤及び/又は赤外線吸収剤を含有する層と、この層を挟んで紫外線吸収剤及び/又は赤外線吸収剤を含有しない層とが積層されていてもよい。また、環状ポリオレフィン系樹脂組成物の層の紫外線吸収剤の含有量が、ゴム弾性体粒子を含有しない環状ポリオレフィン系樹脂又はその組成物の層の紫外線吸収剤の含有量よりも、高くなるようにしてもよく、具体的には、前者を好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~5質量%とし、後者を好ましくは0~1質量%、より好ましくは0~0.5質量%としてもよく、これにより、偏光板の色調を悪化させることなく、紫外線を効率的に遮断することができ、長期使用時の偏光度の低下を防ぐことができる。
≪環状ポリオレフィンフィルムの物性≫
(1)環状ポリオレフィンフィルムの厚さ
本発明の出来上がり(乾燥後)の環状ポリオレフィンフィルムの厚さは、使用目的によって異なるが、通常5~500μmの範囲であり、10~150μmの範囲が好ましく、液晶表示装置用には20~110μmであることが好ましく、最近の薄型化を考慮すると20~60μmの範囲であることが、特に好ましい。
フィルム厚さの調製は、所望の厚さ及び本発明に厚さ分布になるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。以上のようにして得られた環状ポリオレフィンフィルムの幅は0.5~4mの範囲が好ましく、より好ましくは0.6~3mの範囲、さらに好ましくは0.8~2.5mである。長さは1ロールあたり100~10000mの範囲で巻き取るのが好ましく、より好ましくは500~9000mの範囲であり、さらに好ましくは1000~8000mの範囲である。
(2)環状ポリオレフィンフィルムの光学特性
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの好ましい光学特性は、フィルムの用途により異なる。偏光板保護フィルム用途の場合は、面内リターデーション(Ro)は10nm以下が好ましく、5nm以下が更に好ましい。厚さ方向リターデーション(Rt)も50nm以下が好ましく、35nm以下が更に好ましく、10nm以下が特に好ましい。
環状ポリオレフィンフィルムを光学補償フィルム(位相差フィルム)として使用する場合は、位相差フィルムの種類によってRoやRtの範囲は異なり、多様なニーズがあるが、0nm≦Ro≦100nm、40nm≦Rt≦400nmであることが好ましい。TNモードなら0nm≦Ro≦20nm、40nm≦Rt≦80nm、VAモードなら20nm≦Ro≦80nm、80nm≦Rt≦400nmがより好ましく、特にVAモードで好ましい範囲は、30nm≦Ro≦75nm、120nm≦Rt≦250nmであり、一枚の位相差膜で補償する場合は、50nm≦Ro≦75nm、180nm≦Rt≦250nm、2枚の位相差膜で補償する場合は、30nm≦Ro≦60nm、80nm≦Rt≦140nmであることがVAモードの補償膜の場合、黒表示時のカラーシフト、コントラストの視野角依存性の点でよりし好ましい態様である。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは使用するポリマー構造、添加剤の種類及び添加量、延伸倍率、剥離時の残留揮発分などの工程条件を適宜調節することで所望の光学特性を実現することができる。例えば剥離時の残留溶媒量を40~85質量%内で調節することにより厚さ方向のリターデーションRtを180~300nmに幅広く制御することも可能である。一般に剥離時の残留溶媒量が多いほど、Rtは小さくなり、剥離時の残留溶媒量が少ないほどRtは大きくなる。例えば金属製の無端支持体上での乾燥時間を短くし、剥離時残留溶媒量を多くすることで、面配向を緩和させてRtを低くすることが自在にでき、工程条件を調節することにより様々な用途に応じた様々なリターデーションを発現することが可能である。
(リターデーション、Ro、Rt)
本明細書において、Ro、Rtは各々、波長λにおける面内のリターデーション及び厚さ方向のリターデーションを表す。RoはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rtは前記Ro、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したリターデーション値、及び面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して-40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したリターデーション値の計三つの方向で測定したリターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出し下記式(i)及び(ii)に基づいてリターデーションを計算する。
式(i):Ro=(nx-ny)×d(nm)
式(ii):Rt={(nx+ny)/2-nz}×d(nm)
(式中、Roはフィルム内の面内リターデーション値を表し、Rtはフィルム内の厚さ方向のリターデーション値を表す。また、dは光学フィルムの厚さ(nm)を表し、nxはフィルムの面内の最大の屈折率を表し、遅相軸方向の屈折率ともいう。nyはフィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率を表し、nzは厚さ方向におけるフィルムの屈折率を表す。いずれも波長590nmにおける測定値である。)
(3)全光線透過率及びヘイズ
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、高透明性であることが特徴であるが、23℃・55%RHの環境下で調湿後測定される全光線透過率が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。全光線透過率は、JIS7573「プラスチック-全光線透過率及び全光線反射率の求め方」に従って測定することができる。
また、本発明の環状ポリオレフィンフィルムのヘイズは1%未満であることが好ましく、0.5%未満であることがより好ましい。ヘイズを1%未満とすることにより、フィルムの透明性がより高くなり、光学用途のフィルムとしてより用いやすくなるという利点がある。測定は、試料フィルムを23℃・55%RHの環境で5時間以上調湿した後、ヘイズ計(1001DP型、日本電色工業(株)製)で行う。
(4)平衡含水率
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、25℃、相対湿度60%における平衡含水率が3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。平衡含水率を3%以下とすることにより、湿度変化に対応しやすく、光学特性や寸法がより変化しにくく好ましい。
平衡含水率は、試料フィルムを23℃、相対湿度20%に調湿された部屋に4時間以上放置した後、23℃80%RHに調湿された部屋に24時間放置し、サンプルを微量水分計(例えば三菱化学(株)製、CA-20型)を用いて、温度150℃で水分を乾燥・気化させた後、カールフィッシャー法により定量する。
≪環状ポリオレフィンフィルムの用途≫
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、表示デバイスである液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス表示装置用の偏光板保護フィルムや位相差フィルム等の光学フィルム、タッチパネル用基材フィルムやガスバリアー性基材フィルム等の基材フィルム、及びナノインプリント用基板フィルムやフレキシブル電子回路用基板フィルム等の基板フィルムなどに好適に用いることができる。
以下、代表的な用途である、偏光板保護フィルム、偏光板、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、及びガスバリアー性フィルムについて説明する。
(1)偏光板保護フィルム及び偏光板
偏光板は、本発明の環状ポリオレフィンフィルムを偏光板保護フィルムとして、適宜表面処理を行い、水糊又は活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて、少なくとも偏光子の一方の面に貼合されていることが好ましい。前記偏光子の前記環状ポリオレフィンが貼合されている面とは反対側の面に、同様に本発明の環状ポリオレフィンフィルムを貼合することができる。
また、反対側の面に液晶セルの光学補償機能有するセルロースアシレートフィルムが、水糊又は活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて偏光子と貼合されていることも好ましい。本発明の環状ポリオレフィンフィルムによって当該セルロースアシレートフィルムの温湿度に対する位相差の変動をより小さくでき、環境変動に安定な、視認性に優れた偏光板を提供する観点から、好ましい。
偏光板が視認側の偏光板として用いられる場合は、偏光板の視認側のフィルムは、ハードコート層、防眩層、反射防止層、帯電防止層、又は防汚層等を設けることが好ましい。
〔偏光子〕
偏光板の主たる構成要素である偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムである。ポリビニルアルコール系偏光フィルムには、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものとがある。
偏光子としては、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行った偏光子が用いられ得る。偏光子の膜厚は2~30μmが好ましく、特に2~15μmであることが好ましい。
また、特開2003-248123号公報、特開2003-342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1~4モル%、重合度2000~4000、ケン化度99.0~99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。中でも、熱水切断温度が66~73℃であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。このエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は、偏光性能及び耐久性能に優れている上に、色むらが少なく、大型液晶表示装置に特に好ましく用いられる。
〈積層フィルム型の偏光子〉
また、偏光板は薄膜とすることが好ましく、偏光子の厚さは2~15μmの範囲内であることが、偏光板の強度と薄膜化を両立する観点から特に好ましい。
このような薄膜の偏光子としては、特開2011-100161号公報、特許第4691205号公報、特許4751481号公報、特許第4804589号公報に記載の方法で、積層フィルム型の偏光子を作製することが好ましい。
一例として、以下の工程によって製造される薄膜の積層フィルム型の偏光子(偏光性積層フィルム)を用いることが、偏光板の全体の厚さを薄くして軽量化できる観点から好ましい。
(偏光性積層フィルムの製造方法)
本発明に用いられる偏光性積層フィルムの製造方法は下記工程を含む。
(a)熱可塑性樹脂にゴム成分が分散されてなる基材フィルムの一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る積層工程、
(b)積層フィルムを一軸延伸して延伸フィルムを得る延伸工程、
(c)延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して、染色フィルムを得る染色工程、
(d)染色フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を、架橋剤を含む溶液に浸漬して偏光子層を形成し、架橋フィルムを得る架橋工程、及び
(e)架橋フィルムを乾燥する乾燥工程
以下、各工程を説明すると、
(a)積層工程
本工程では、熱可塑性樹脂にゴム成分が分散(ブレンド分散)されてなるフィルムを基材フィルムとして、その一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得ることが好ましい。
(基材フィルム)
基材フィルムのベースとなる熱可塑性樹脂は、透明性、機械的強度、熱安定性、延伸性などに優れる熱可塑性樹脂であることが好ましい。このような熱可塑性樹脂の具体例を挙げれば、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂;環状ポリオレフィン系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;ポリエステル系樹脂;セルロースアシレート系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリビニルアルコール系樹脂;酢酸ビニル系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;及びこれらの混合物又は共重合物などが挙げられる。
熱可塑性樹脂に分散されるゴム成分はゴム弾性を有する樹脂成分であり、通常、ゴム粒子として熱可塑性樹脂中に均一に分散される。ゴム成分を混合分散させることにより、基材フィルム、ひいては延伸フィルムの引裂き強さを向上させることができる。ゴム成分は、ゴム弾性を有する樹脂である限り特に制限されないが、熱可塑性樹脂との相溶性の観点から、用いる熱可塑性樹脂と同種又は類似の樹脂から構成されることが好ましい。
例えば、熱可塑性樹脂が鎖状ポリオレフィン系樹脂である場合、ゴム成分は、エチレン及びα-オレフィンから選択される2種以上のモノマーの共重合体であることができる。この場合において、当該共重合体を構成する各モノマーの含有量(重合比率)は、90質量%未満であることが好ましく、80質量%未満であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル系樹脂である場合、相溶性の観点から、ゴム成分としてゴム弾性を有するアクリル系重合体を含有することが好ましい。アクリル系重合体は、アクリル酸アルキルを主体とする重合体であるのがよく、アクリル酸アルキルの単独重合体であってもよいし、アクリル酸アルキル50質量%以上と他のモノマー50質量%以下との共重合体であってもよい。
ゴム成分の配合量は、好ましくは熱可塑性樹脂の5~50質量%であり、より好ましくは10~45質量%である。ゴム成分の配合量が少なすぎると、十分な引裂き強さ向上効果が得られにくい傾向にあり、ゴム成分の配合量が多すぎると、基材フィルムの取扱い性が低下する傾向にある。
ゴム成分の熱可塑性樹脂への分散方法は特に限定されず、例えば別々に作製した熱可塑性樹脂とゴム成分(ゴム粒子)をプラストミル等で混練して分散させる方法や、熱可塑性樹脂調製時に同じ反応容器内でゴム成分も調製してゴム成分が分散された熱可塑性樹脂を得るリアクターブレンド法などを挙げることができる。リアクターブレンド法は、ゴム成分の分散程度を向上させる上で有利である。
(ポリビニルアルコール系樹脂層)
ポリビニルアルコール系樹脂層を形成するポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂及びその誘導体が挙げられる。ポリビニルアルコール樹脂の誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタールなどの他、ポリビニルアルコール樹脂をエチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のアルキルエステル、アクリルアミドなどで変性したものが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール樹脂を用いるのが好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂は、完全ケン化品であることが好ましい。ケン化度の範囲は、好ましくは80.0~100.0モル%の範囲であり、より好ましくは90.0~99.5モル%の範囲であり、さらに好ましくは94.0~99.0モル%の範囲である。
上述のポリビニルアルコール系樹脂には、必要に応じて、可塑剤、界面活性剤等の添加剤が添加されてもよい。可塑剤としては、ポリオール及びその縮合物などを用いることができ、例えばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが例示される。添加剤の配合量は特に制限されないが、ポリビニルアルコール系樹脂の20質量%以下とするのが好適である。
ポリビニルアルコール系樹脂溶液を基材フィルムに塗工する方法としては、ワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法などの公知の方法から適宜選択できる。乾燥温度は、例えば50~200℃の範囲であり、好ましくは60~150℃の範囲である。乾燥時間は、例えば2~20分の範囲である。
積層フィルムにおけるポリビニルアルコール系樹脂層の厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上45μm以下がより好ましい。3μm以下であると延伸後に薄くなりすぎて染色性が著しく悪化してしまい、50μmを超えると、得られる偏光性積層フィルムが厚くなる。
本発明に用いる偏光子としてのポリビニルアルコール系樹脂層の厚さは、薄膜化と偏光子としての強度、柔軟性の観点から、下記延伸処理後の膜厚として2~15μmの範囲内であることが好ましい。
(b)延伸工程
本工程は、基材フィルム及びポリビニルアルコール系樹脂層を備える積層フィルムを一軸延伸して延伸フィルムを得る工程である。積層フィルムの延伸倍率は、所望する偏光特性に応じて適宜選択することができるが、好ましくは積層フィルムの元長に対して5~17倍の範囲内であり、より好ましくは5~8倍の範囲内である。
延伸は、積層フィルムの長手方向(フィルム搬送方向)に延伸を行う縦延伸であることが好ましい。縦延伸方式としては、ローラー間延伸方法、圧縮延伸方法、テンターを用いた延伸方法などが挙げられる。なお、一軸延伸は、縦延伸処理に限定されることはなく、斜め延伸等であってもよい。
(c)染色工程
本工程は、延伸フィルムのポリビニルアルコール樹脂層を、二色性色素で染色して染色フィルムを得る工程である。二色性色素としては、例えば、ヨウ素や有機染料などが挙げられる。有機染料としては、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンイエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、イエロー3G、イエローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラックなどが使用できる。これらの二色性物質は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
二色性色素としてヨウ素を使用する場合、染色効率をより一層向上できることから、さらにヨウ化物を、ヨウ素を含有する染色溶液に添加することが好ましい。このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化スズ、ヨウ化チタンなどが挙げられる。
(d)架橋工程
本工程は、二色性色素で染色させて得られた染色フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層に対して架橋処理を行い、ポリビニルアルコール系樹脂層を偏光子層とする架橋フィルムを得る工程である。架橋工程は、例えば架橋剤を含む溶液(架橋溶液)中に染色フィルムを浸漬することにより行うことができる。架橋剤としては、従来公知の物質を使用することができる。例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。これらは1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(e)乾燥工程
得られた架橋フィルムは、通常、洗浄を行った後、乾燥される。これにより偏光性積層フィルムが得られる。洗浄は、イオン交換水、蒸留水などの純水に架橋フィルムを浸漬することにより行うことができる。水洗浄温度は、通常3~50℃の範囲、好ましくは4~20℃の範囲である。浸漬時間は、通常2~300秒間の範囲、好ましくは5~240秒間である。洗浄は、ヨウ化物溶液による洗浄処理と水洗浄処理とを組み合わせてもよく、適宜にメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、プロパノール等の液体アルコールを配合した溶液を用いることもできる。
乾燥方法としては、任意の適切な方法(例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥)を採用しうる。例えば、加熱乾燥の場合の乾燥温度は、通常20~95℃の範囲であり、乾燥時間は、通常1~15分間程度である。
偏光性積層フィルムは、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光子層を備えるものであり、これ自体偏光板として用いることができる。本発明の好ましい実施態様としては、上記工程によって偏光性積層フィルムを形成した後、当該偏光性積層フィルムの前記ポリビニルアルコール層を基材フィルムから剥離することによって、当該ポリビニルアルコール層を偏光子として用いることである。この方法によれば、偏光子層の厚さを15μm以下にすることが可能であるため、薄型の偏光子を得ることができる。また、本発明に用いられる偏光子は、偏光性能及び耐久性にも優れる。
〔偏光板の作製〕
偏光板は一般的な方法で作製することができる。本発明の環状ポリオレフィンフィルムの偏光子側を表面処理し、下記活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子と貼合することが好ましい。また、環状ポリオレフィンフィルムを貼合した面とは反対側の面に、セルロースアシレートフィルムを用いる場合は、当該セルロースアシレートフィルムをアルカリケン化処理し、偏光子の少なくとも一方の面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液(水糊)を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面には他の偏光板保護フィルムを貼合することができる。
例えば、市販のセルロースアシレートフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC6UY、KC6UA、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY-HA、KC8UX-RHA、KC8UXW-RHA-C、KC8UXW-RHA-NC、KC4UXW-RHA-NC、以上コニカミノルタ(株)製)が好ましく用いられる。
[活性エネルギー線硬化性接着剤]
また、偏光板においては、本発明の環状ポリオレフィンフィルムと偏光子とが、活性エネルギー線硬化性接着剤により貼合されていることが好ましい。
活性エネルギー線硬化性接着剤は、下記紫外線硬化型接着剤を用いることが好ましい。
本発明においては、環状ポリオレフィンフィルムと偏光子との貼合に紫外線硬化型接着剤を適用することにより、薄膜でも強度が高く、平面性に優れた偏光板を得ることができる。
〈紫外線硬化型接着剤の組成〉
偏光板用の紫外線硬化型接着剤組成物としては、光ラジカル重合を利用した光ラジカル重合型組成物、光カチオン重合を利用した光カチオン重合型組成物、並びに光ラジカル重合及び光カチオン重合を併用したハイブリッド型組成物が知られている。
光ラジカル重合型組成物としては、特開2008-009329号公報に記載のヒドロキシ基やカルボキシ基等の極性基を含有するラジカル重合性化合物及び極性基を含有しないラジカル重合性化合物を特定割合で含む組成物)等が知られている。特に、ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であることが好ましい。ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物の好ましい例には、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が含まれる。(メタ)アクリロイル基を有する化合物の例には、N置換(メタ)アクリルアミド系化合物、(メタ)アクリレート系化合物などが含まれる。(メタ)アクリルアミドは、アクリアミド又はメタクリアミドを意味する。
また、光カチオン重合型組成物としては、特開2011-028234号公報に開示されているような、(α)カチオン重合性化合物、(β)光カチオン重合開始剤、(γ)380nmより長い波長の光に極大吸収を示す光増感剤、及び(δ)ナフタレン系光増感助剤の各成分を含有する紫外線硬化型接着剤組成物が挙げられる。ただし、これ以外の紫外線硬化型接着剤が用いられてもよい。
(i)前処理工程
前処理工程は、環状ポリオレフィンフィルムの偏光子との接着面に易接着処理を行う工程である。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
(紫外線硬化型接着剤の塗布工程)
紫外線硬化型接着剤の塗布工程としては、偏光子と環状ポリオレフィンフィルムとの接着面のうち少なくとも一方に、上記紫外線硬化型接着剤を塗布する。偏光子又は環状ポリオレフィンフィルムの表面に直接、紫外線硬化型接着剤を塗布する場合、その塗布方法に特段の限定はない。例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーター等、種々の湿式塗布方式が利用できる。また、偏光子と環状ポリオレフィンフィルムの間に、紫外線硬化型接着剤を流延させたのち、ローラー等で加圧して均一に押し広げる方法も利用できる。
(ii)貼合工程
上記の方法により紫外線硬化型接着剤を塗布した後は、貼合工程で処理される。この貼合工程では、例えば、先の塗布工程で偏光子の表面に紫外線硬化型接着剤を塗布した場合、そこに環状ポリオレフィンフィルムが重ね合わされる。また、はじめに環状ポリオレフィンフィルムの表面に紫外線硬化型接着剤を塗布する方式の場合には、そこに偏光子が重ね合わされる。また、偏光子と環状ポリオレフィンフィルムの間に紫外線硬化型接着剤を流延させた場合は、その状態で偏光子と環状ポリオレフィンフィルムとが重ね合わされる。そして、通常は、この状態で両面の環状ポリオレフィンフィルム側から加圧ローラー等で挟んで加圧することになる。加圧ローラーの材質は、金属やゴム等を用いることが可能である。両面に配置される加圧ローラーは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
(iii)硬化工程
硬化工程では、未硬化の紫外線硬化型接着剤に紫外線を照射して、カチオン重合性化合物(例えば、エポキシ化合物やオキセタン化合物)やラジカル重合性化合物(例えば、アクリレート系化合物、アクリルアミド系化合物等)を含む紫外線硬化型接着剤層を硬化させ、紫外線硬化型接着剤を介して重ね合わせた偏光子と環状ポリオレフィンフィルムを接着させる。偏光子の片面に環状ポリオレフィンフィルムを貼合する場合、活性エネルギー線は、偏光子側又は環状ポリオレフィンフィルム側のいずれから照射してもよい。また、偏光子の両面に環状ポリオレフィンフィルムを貼合する場合、偏光子の両面にそれぞれ紫外線硬化型接着剤を介して環状ポリオレフィンフィルムを重ね合わせた状態で、紫外線を照射し、両面の紫外線硬化型接着剤を同時に硬化させるのが有利である。
紫外線の照射条件は、本発明に適用する紫外線硬化型接着剤を硬化しうる条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。紫外線の照射量は積算光量で50~1500mJ/cm2の範囲であることが好ましく、100~500mJ/cm2の範囲であるのがさらに好ましい。
偏光板の製造工程を連続ラインで行う場合、ライン速度は、接着剤の硬化時間によるが、好ましくは1~500m/minの範囲、より好ましくは5~300m/minの範囲、さらに好ましくは10~100m/minの範囲である。ライン速度が1m/min以上であれば、生産性を確保することができ、又は環状ポリオレフィンフィルムへのダメージを抑制することができ、耐久性に優れた偏光板を作製することができる。また、ライン速度が500m/min以下であれば、紫外線硬化型接着剤の硬化が十分となり、目的とする硬度を備え、接着性に優れた紫外線硬化型接着剤層を形成することができる。
〔機能性層〕
本発明の環状ポリオレフィンフィルムには、機能性層として、反射防止層、光散乱層、ハードコート層、及び帯電防止層等を設けることができる。
〈反射防止層〉
偏光板の、液晶セルと反対側に配置される透明保護膜には反射防止層などの機能性膜を設けることが好ましい。環状ポリオレフィンフィルム上に少なくとも光散乱層と低屈折率層がこの順で積層した反射防止層、又は環状ポリオレフィンフィルム上に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層がこの順で積層した反射防止層が好適に用いられる。
(光散乱層と低屈折率層を設けた反射防止層)
光散乱層にはマット粒子が分散しているのが好ましく、光散乱層のマット粒子以外の部分の素材の屈折率は1.50~2.00の範囲にあることが好ましく、低屈折率層の屈折率は1.35~1.49の範囲にあることが好ましい。光散乱層は、防眩性とハードコート性を兼ね備えていてもよく、1層でもよいし、複数層、例えば2層~4層で構成されていてもよい。
反射防止層は、その表面凹凸形状として、中心線平均粗さRaが0.08~0.40μm、10点平均粗さRzがRaの10倍以下、平均山谷距離Smが1~100μm、凹凸最深部からの凸部高さの標準偏差が0.5μm以下、中心線を基準とした平均山谷距離Smの標準偏差が20μm以下、傾斜角0~5度の面が10%以上となるように設計することで、十分な防眩性と目視での均一なマット感が達成され、好ましい。
また、C光源下での反射光の色味がa*値-2~2、b*値-3~3、380~780nmの範囲内での反射率の最小値と最大値の比0.5~0.99であることで、反射光の色味がニュートラルとなり、好ましい。またC光源下での透過光のb*値が0~3とすることで、表示装置に適用した際の白表示の黄色味が低減され、好ましい。
また、面光源上と反射防止フィルムの間に120×40μmの格子を挿入してフィルム上で輝度分布を測定した際の輝度分布の標準偏差が20以下であると、高精細パネルに本発明の環状ポリオレフィンフィルムを適用したときのギラツキが低減され、好ましい。
反射防止層は、その光学特性として、鏡面反射率2.5%以下、透過率90%以上、60度光沢度70%以下とすることで、外光の反射を抑制でき、視認性が向上するため好ましい。特に鏡面反射率は1%以下がより好ましく、0.5%以下であることが最も好ましい。ヘイズ20~50%、内部ヘイズ/全ヘイズ値(比)が0.3~1、光散乱層までのヘイズ値から低屈折率層を形成後のヘイズ値の低下が15%以内、くし幅0.5mmにおける透過像鮮明度20~50%、垂直透過光/垂直から2度傾斜方向の透過率比が1.5~5.0とすることで、高精細LCDパネル上でのギラツキ防止、文字等のボケの低減が達成され、好ましい。
(低屈折率層)
反射防止フィルムの低屈折率層の屈折率は、1.20~1.49の範囲が好ましく、より好ましくは1.30~1.44の範囲にある。さらに、低屈折率層は下記数式を満たすことが低反射率化の点で好ましい。
(m/4)×0.7<n1d1<(m/4)×1.3
式中、mは正の奇数であり、n1は低屈折率層の屈折率であり、そして、d1は低屈折率層の膜厚(nm)である。また、λは波長であり、500~550nmの範囲の値である。
低屈折率層を形成する素材について以下に説明する。
低屈折率層には、低屈折率バインダーとして、含フッ素ポリマーを含むことが好ましい。フッ素ポリマーとしては動摩擦係数0.03~0.20、水に対する接触角90~120°、純水の滑落角が70°以下の熱又は電離放射線により架橋する含フッ素ポリマーが好ましい。反射防止フィルムを画像表示装置に装着した時、市販の接着テープとの剥離力が低いほどシールやメモを貼り付けた後に剥がれやすくなり好ましく、500gf以下が好ましく、300gf以下がより好ましく、100gf以下が最も好ましい。
また、微小硬度計で測定した表面硬度が高いほど、傷がつき難く、0.3GPa以上が好ましく、0.5GPa以上がより好ましい。
低屈折率層に用いられる含フッ素ポリマーとしてはパーフルオロアルキル基含有シラン化合物(例えば(ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン)の加水分解、脱水縮合物の他、含フッ素モノマー単位と架橋反応性付与のための構成単位を構成成分とする含フッ素共重合体が挙げられる。
含フッ素モノマーの具体例としては、例えばフルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、パーフルオロオクチルエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール等)、(メタ)アクリル酸の部分又は完全フッ素化アルキルエステル誘導体類(例えばビスコート6FM(大阪有機化学製)やM-2020(ダイキン製)等)、完全又は部分フッ素化ビニルエーテル類等が挙げられるが、好ましくはパーフルオロオレフィン類であり、屈折率、溶解性、透明性、入手性等の観点から特に好ましくはヘキサフルオロプロピレンである。
架橋反応性付与のための構成単位としてはグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテルのように分子内にあらかじめ自己架橋性官能基を有するモノマーの重合によって得られる構成単位、カルボキシ基やヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基等を有するモノマー(例えば(メタ)アクリル酸、メチロール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、マレイン酸、クロトン酸等)の重合によって得られる構成単位、これらの構成単位に高分子反応によって(メタ)アクリルロイル基等の架橋反応性基を導入した構成単位(例えばヒドロキシ基に対してアクリル酸クロリドを作用させる等の手法で導入できる)が挙げられる。
また上記含フッ素モノマー単位、架橋反応性付与のための構成単位以外に溶剤への溶解性、皮膜の透明性等の観点から適宜フッ素原子を含有しないモノマーを共重合することもできる。併用可能なモノマー単位には特に限定はなく、例えばオレフィン類(エチレン、プロピレン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2-エチルヘキシル)、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、エチレングリコールジメタクリレート等)、スチレン誘導体(スチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等)、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ケイ皮酸ビニル等)、アクリルアミド類(N-tert-ブチルアクリルアミド、N-シクロヘキシルアクリルアミド等)、メタクリルアミド類、アクリロニトリル誘導体等を挙げることができる。上記のポリマーに対しては特開平10-25388号及び特開平10-147739号各公報に記載のごとく適宜硬化剤を併用しても良い。
(光散乱層)
光散乱層は、一般に表面散乱及び/又は内部散乱による光拡散性と、フィルムの耐擦傷性を向上するためのハードコート性をフィルムに寄与する目的で形成される。したがって、一般にハードコート性を付与するためのバインダー、光拡散性を付与するためのマット粒子、及び必要に応じて高屈折率化、架橋収縮防止、高強度化のための無機フィラーを含んで形成される。光散乱層の膜厚は、ハードコート性を付与する観点並びにカールの発生及び脆性の悪化の抑制の観点から、1~10μmの範囲が好ましく、1.2~6μmの範囲がより好ましい。
散乱層のバインダーとしては、飽和炭化水素鎖又はポリエーテル鎖を主鎖として有するポリマーであることが好ましく、飽和炭化水素鎖を主鎖として有するポリマーであることがさらに好ましい。また、バインダーポリマーは架橋構造を有することが好ましい。飽和炭化水素鎖を主鎖として有するバインダーポリマーとしては、エチレン性不飽和モノマーの重合体が好ましい。飽和炭化水素鎖を主鎖として有し、かつ架橋構造を有するバインダーポリマーとしては、二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの(共)重合体が好ましい。バインダーポリマーを高屈折率にするには、このモノマーの構造中に芳香族環や、フッ素以外のハロゲン原子、硫黄原子、リン原子、及び窒素原子から選ばれた少なくとも1種の原子を含むものを選択することもできる。
二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3-シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、上記のエチレンオキシド変性体、ビニルベンゼン及びその誘導体(例、1,4-ジビニルベンゼン、4-ビニル安息香酸-2-アクリロイルエチルエステル、1,4-ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)及びメタクリルアミドが挙げられる。上記モノマーは2種以上併用してもよい。
高屈折率モノマーの具体例としては、ビス(4-メタクリロイルチオフェニル)スルフィド、ビニルナフタレン、ビニルフェニルスルフィド、4-メタクリロキシフェニル-4′-メトキシフェニルチオエーテル等が挙げられる。これらのモノマーも2種以上併用してもよい。
これらのエチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤又は熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。
したがって、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤又は熱ラジカル開始剤、マット粒子及び無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線又は熱による重合反応により硬化して反射防止膜を形成することができる。これらの光ラジカル開始剤等は公知のものを使用することができる。
ポリエーテルを主鎖として有するポリマーは、多官能エポシキシ化合物の開環重合体が好ましい。多官能エポシキ化合物の開環重合は、光酸発生剤又は熱酸発生剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。
したがって、多官能エポシキシ化合物、光酸発生剤又は熱酸発生剤、マット粒子及び無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線又は熱による重合反応により硬化して反射防止膜を形成することができる。
2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの代わりに又はそれに加えて、架橋性官能基を有するモノマーを用いてポリマー中に架橋性官能基を導入し、この架橋性官能基の反応により、架橋構造をバインダーポリマーに導入してもよい。
架橋性官能基の例には、イソシアナート基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基、アルデヒド基、カルボニル基、ヒドラジン基、カルボキシ基、メチロール基及び活性メチレン基が含まれる。ビニルスルホン酸、酸無水物、シアノアクリレート誘導体、メラミン、エーテル化メチロール、エステル及びウレタン、テトラメトキシシランのような金属アルコキシドも、架橋構造を導入するためのモノマーとして利用できる。ブロックイソシアナート基のように、分解反応の結果として架橋性を示す官能基を用いてもよい。すなわち、本発明において架橋性官能基は、すぐには反応を示すものではなくとも、分解した結果反応性を示すものであってもよい。
これら架橋性官能基を有するバインダーポリマーは塗布後、加熱することによって架橋構造を形成することができる。
光散乱層には、防眩性付与の目的で、フィラー粒子より大きく、平均粒径が1~10μmの範囲、好ましくは1.5~7.0μmの範囲のマット粒子、例えば無機化合物の粒子又は樹脂粒子が含有されることが好ましい。
上記マット粒子の具体例としては、例えばシリカ粒子、TiO2粒子等の無機化合物の粒子;アクリル粒子、架橋アクリル粒子、ポリスチレン粒子、架橋スチレン粒子、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子等の樹脂粒子が好ましく挙げられる。なかでも架橋スチレン粒子、架橋アクリル粒子、架橋アクリルスチレン粒子、シリカ粒子が好ましい。マット粒子の形状は、球状又は不定形のいずれも使用できる。
また、粒子径の異なる2種以上のマット粒子を併用して用いてもよい。より大きな粒子径のマット粒子で防眩性を付与し、より小さな粒子径のマット粒子で別の光学特性を付与することが可能である。
さらに、上記マット粒子の粒子径分布としては単分散であることが最も好ましく、各粒子の粒子径は、それぞれ同一に近ければ近いほど良い。例えば平均粒子径よりも20%以上粒子径が大きな粒子を粗大粒子と規定した場合には、この粗大粒子の割合は全粒子数の1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以下であり、さらに好ましくは0.01%以下である。このような粒子径分布を持つマット粒子は通常の合成反応後に、分級によって得られ、分級の回数を上げることやその程度を強くすることにより、より好ましい分布の微粒子を得ることができる。
上記マット粒子は、形成された光散乱層のマット粒子量が好ましくは10~1000mg/m2の範囲、より好ましくは100~700mg/m2の範囲となるように光散乱層に含有される。マット粒子の粒度分布はコールターカウンター法により測定し、測定された分布を粒子数分布に換算する。
光散乱層には、層の屈折率を高めるために、上記のマット粒子に加えて、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、インジウム、亜鉛、スズ、アンチモンのうちより選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、平均粒径が0.2μm以下、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.06μm以下である無機フィラーが含有されることが好ましい。
また逆に、マット粒子との屈折率差を大きくするために、高屈折率マット粒子を用いた光散乱層では層の屈折率を低目に保つためにケイ素の酸化物を用いることも好ましい。好ましい粒径は前述の無機フィラーと同じである。
光散乱層に用いられる無機フィラーの具体例としては、TiO2、ZrO2、Al2O3、In2O3、ZnO、SnO2、Sb2O3、ITOとSiO2等が挙げられる。TiO2及びZrO2が高屈折率化の点で特に好ましい。該無機フィラーは表面をシランカップリング処理又はチタンカップリング処理されることも好ましく、フィラー表面にバインダー種と反応できる官能基を有する表面処理剤が好ましく用いられる。これらの無機フィラーの添加量は、光散乱層の全質量の10~90%の範囲であることが好ましく、より好ましくは20~80%の範囲であり、特に好ましくは30~75%の範囲である。なお、このようなフィラーは、粒径が光の波長よりも十分小さいために散乱が生じず、バインダーポリマーに該フィラーが分散した分散体は光学的に均一な物質として振舞う。
光散乱層のバインダー及び無機フィラーの混合物のバルクの屈折率は、1.48~2.00の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.50~1.80の範囲である。屈折率を上記範囲とするには、バインダー及び無機フィラーの種類及び量割合を適宜選択すればよい。どのように選択するかは、あらかじめ実験的に容易に知ることができる。
光散乱層は、特に塗布むら、乾燥むら、点欠陥等の面状均一性を確保するために、フッ素系、シリコーン系のいずれかの界面活性剤、又はその両者を防眩層形成用の塗布組成物中に含有することが好ましい。特にフッ素系の界面活性剤は、より少ない添加量において、反射防止フィルムの塗布むら、乾燥むら、点欠陥等の面状故障を改良する効果が現れるため、好ましく用いられる。面状均一性を高めつつ、高速塗布適性を持たせることにより生産性を高めることが目的である。
〈中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層がこの順で積層した反射防止層〉
フィルム上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の層構成から成る反射防止膜は、以下の関係を満足する屈折率を有する様に設計されることが好ましい。高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率。また、透明支持体と中屈折率層の間に、ハードコート層を設けてもよい。更には、中屈折率ハードコート層、高屈折率層及び低屈折率層からなってもよい(例えば、特開平8-122504号公報、同8-110401号公報、同10-300902号公報、特開2002-243906号公報、特開2000-111706号公報等参照)。また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例、特開平10-206603号公報、特開2002-243906号公報等)等が挙げられる。
反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。また膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
(高屈折率層及び中屈折率層)
反射防止膜の高い屈折率を有する層は、平均粒径100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子及びマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜から成ることが好ましい。
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物等が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
このような超微粒子とするには、粒子表面が表面処理剤で処理されること(例えば、シランカップリング剤等:特開平11-295503号公報、同11-153703号公報、特開2000-9908、アニオン性化合物或は有機金属カップリング剤:特開2001-310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とすること(:特開2001-166104、同2001-310432号公報等)、特定の分散剤併用(例、特開平11-153703号公報、米国特許第6210858号明細書等)等を挙げることができる。
マトリックスを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
更に、ラジカル重合性及び/又はカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個有する多官能性化合物含有組成物と、加水分解性基を有する有機金属化合物及びその部分縮合体を含有する組成物とから選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000-47004号公報、同2001-315242号公報、同2001-31871号公報、同2001-296401号公報等に記載の組成物が挙げられる。
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001-293818号公報等に記載されている。
高屈折率層の屈折率は、-般に1.70~2.20の範囲である。高屈折率層の厚さは、5nm~10μmの範囲であることが好ましく、10nm~1μmの範囲であることがさらに好ましい。中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50~1.70の範囲であることが好ましい。また、厚さは5nm~10μmの範囲であることが好ましく、10nm~1μmの範囲であることがさらに好ましい。
(低屈折率層)
前記構成においては、低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層して成る。低屈折率層の屈折率は1.20~1.55の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.30~1.50の範囲である。
耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーンの導入、フッ素の導入等から成る薄膜層の手段を適用できる。
含フッ素化合物の屈折率は1.35~1.50の範囲であることが好ましい。より好ましくは1.36~1.47の範囲である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35~80質量%の範囲で含む架橋性若しくは重合性の官能基を含む化合物が好ましい。例えば、特開平9-222503号公報明細書段落番号[0018]~[0026]、同11-38202号公報明細書段落番号[0019]~[0030]、特開2001-40284号公報明細書段落番号[0027]~[0028]、特開2000-284102号公報等に記載の化合物が挙げられる。
シリコーン化合物としてはポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基又は重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11-258403号公報等)等が挙げられる。
架橋又は重合性基を有する含フッ素及び/又はシロキサンのポリマーの架橋又は重合反応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗布組成物を塗布と同時又は塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
また、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾルゲル硬化膜も好ましい。
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物又はその部分加水分解縮合物(特開昭58-142958号公報、同58-147483号公報、同58-147484号公報、特開平9-157582号公報、同11-106704号公報記載等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ「パーフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化合物(特開2000-117902号公報、同2001-48590号公報、同2002-53804号公報記載の化合物等)等が挙げられる。
低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1~150nmの低屈折率無機化合物、特開平11-3820号公報の段落番号[0020]~[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されても良い。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。低屈折率層の膜厚は、30~200nmの範囲であることが好ましく、50~150nmの範囲であることがさらに好ましく、60~120nmの範囲であることが最も好ましい。
〈反射防止層の他の層〉
さらに、ハードコート層、前方散乱層、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止層を設けた透明保護膜に物理強度を付与するために、通常透明支持体の表面に設ける。特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。ハードコート層は、光及び/又は熱の硬化性化合物の架橋反応、又は、重合反応により形成されることが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したと同様のものが挙げられる。ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002-144913号公報、同2000-9908号公報、国際公開第00/46617号等記載のものが挙げられる。
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
ハードコート層は、平均粒径0.2~10μmの範囲の粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2~10μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5~7μmの範囲である。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。また、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
(帯電防止層)
帯電防止層を設ける場合には体積抵抗率が10-8Ω・cm-3以下の導電性を付与することが好ましい。吸湿性物質や水溶性無機塩、ある種の界面活性剤、カチオンポリマー、アニオンポリマー、コロイダルシリカ等の使用により10-8Ω・cm-3の体積抵抗率の付与は可能であるが、温湿度依存性が大きく、低湿では十分な導電性を確保できない問題がある。そのため、導電性層素材としては金属酸化物が好ましい。金属酸化物のうち着色していないものを導電性層素材として用いるとフィルム全体の着色が抑えられ好ましい。着色のない金属酸化物を形成する金属としてZn、Ti、Al、In、Si、Mg、Ba、Mo、W、又はVをあげることができ、これを主成分とした金属酸化物を用いることが好ましい。具体的な例としては、ZnO、TiO2、SnO2、Al2O3、In2O3、SiO2、MgO、BaO、MoO3、V2O5等、又はこれらの複合酸化物がよく、特にZnO、TiO2、及びSnO2が好ましい。異種原子を含む例としては、例えばZnOに対してはAl、In等の添加物、SnO2に対してはSb、Nb、ハロゲン元素等の添加、またTiO2に対してはNb、TA等の添加が効果的である。更にまた、特公昭59-6235号公報に記載のごとく、他の結晶性金属粒子又は繊維状物(例えば酸化チタン)に上記の金属酸化物を付着させた素材を使用しても良い。なお、体積抵抗値と表面抵抗値は別の物性値であり単純に比較することはできないが、体積抵抗値で10-8Ω・cm-3以下の導電性を確保するためには、該導電層がおおむね10-10Ω/□以下の表面抵抗値を有していればよく更に好ましくは10-8Ω/□である。
(2)液晶表示装置
上記本発明の環状ポリオレフィンフィルムを貼合した偏光板を液晶表示装置に用いることによって、種々の視認性に優れた液晶表示装置を作製することができる。
前記偏光板は、STN、TN、OCB、HAN、VA(MVA、PVA)、IPS、OCBなどの各種駆動方式の液晶表示装置に用いることができる。好ましくはVA(MVA、PVA)型液晶表示装置である。
液晶表示装置には、通常視認側の偏光板とバックライト側の偏光板の2枚の偏光板が用いられるが、本発明の環状ポリオレフィンフィルムを具備した偏光板を両方の偏光板として用いることも好ましく、片側の偏光板として用いることも好ましい。特に本発明の環状ポリオレフィンフィルムを具備した偏光板は外部環境に直接触れる視認側の偏光板として用いることが好ましく、その際は、セルロースアシレートフィルム等の位相差フィルムを液晶セル側に配置することが好ましい。
また、バックライト側の偏光板は本発明の環状ポリオレフィンフィルムを具備しない偏光板を用いることもでき、その場合は偏光子の両面を、例えば市販のセルロースアシレートフィルム(例えば、コニカミノルタタックKC8UX、KC5UX、KC4UX、KC8UCR3、KC4SR、KC4BR、KC4CR、KC4DR、KC4FR、KC4KR、KC8UY、KC6UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY-HA、KC2UA、KC4UA、KC6UA、KC2UAH、KC4UAH、KC6UAH、以上コニカミノルタ(株)製、フジタックT40UZ、フジタックT60UZ、フジタックT80UZ、フジタックTD80UL、フジタックTD60UL、フジタックTD40UL、フジタックR02、フジタックR06、以上富士フイルム(株)製等)を貼合した偏光板が好ましく用いられる。
また、バックライト側の偏光板として、偏光子の液晶セル側に本発明の環状ポリオレフィンフィルムを用い、反対側の面に上記市販のセルロースアシレートフィルム、ポリエステルフィルム、アクリルフィルム、又はポリカーボネートフィルムを貼合した偏光板も好ましく用いることができる。
前記偏光板を用いることで、特に画面が30型以上の大画面の液晶表示装置であっても、表示むら、正面コントラストなど視認性に優れた液晶表示装置を得ることができる。
(3)有機エレクトロルミネッセンス表示装置及び素子
本発明の環状ポリオレフィンフィルムを具備した偏光板は、液晶表示装置以外にも有機エレクトロルミネッセンス表示装置にも好ましく用いることができる。例えば、本発明の環状ポリオレフィンフィルムを前述した搬送方向に対して斜方45°方向に延伸して、搬送方向に吸収軸を有する偏光子と、ロールtoロールで貼合することによって円偏光板を作製し、当該円偏光板を有機エレクトロルミネッセンス表示装置に用いると、視認性の高い表示装置を得ることができる。
また、本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、有機エレクトロルミネッセンス素子のフレキシブル基板として用いることも好ましく、その場合は後述するガスバリアー性フィルムとして適用することが好ましい。
有機EL素子の具体的な層構成、部材及び製造方法等については、特開2011-238355号公報、特開2013-077585号公報、特開2013-187090号公報、特開2013-229202号公報、特開2013-232320号公報、特開2014-026853号公報のそれぞれに詳述されており参照できる。
(4)ガスバリアー性フィルム
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの表面に、無機物、有機物の被膜又はその両者のハイブリッド被膜を形成して、ガスバリアー性フィルムとして用いることが好ましい。
ガスバリアー性は、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が0.01g/(m2・24h)以下のガスバリアー層を有するフィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10-3mL/(m2・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、1×10-5g/(m2・24h)以下の高ガスバリアー性を有するフィルムであることが好ましい。
本発明に適用可能なガスバリアー層の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、スパッタリング法(例えば、マグネトロンカソードスパッタリング、平板マグネトロンスパッタリング、2極AC平板マグネトロンスパッタリング、2極AC回転マグネトロンスパッタリングなど)、蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着、プラズマ支援蒸着など)、熱CVD法、触媒化学気相成長法(Cat-CVD)、容量結合プラズマCVD法(CCP-CVD)、光CVD法、プラズマCVD法(PE-CVD)、エピタキシャル成長法、原子層成長法、反応性スパッタ法等の化学蒸着法等が挙げられる。
また、無機ガスバリアー層は、有機ポリマーを含む有機層を含んでいてもよい。すなわち、無機ガスバリアー層は、無機材料を含む無機層と有機層との積層体であってもよい。
有機層は、例えば、有機モノマー又は有機オリゴマーを樹脂基板に塗布し、層を形成し、続いて、例えば、電子ビーム装置、UV光源、放電装置、又はその他の好適な装置を使用して重合及び必要に応じて架橋することにより形成することができる。また、例えば、フラッシュ蒸発及び放射線架橋可能な有機モノマー又は有機オリゴマーを蒸着した後、有機モノマー又は有機オリゴマーからポリマーを形成することによっても形成することができる。コーティング効率は、樹脂基板を冷却することにより改善され得る。
有機モノマー又は有機オリゴマーの塗布方法としては、例えば、ロールコーティング(例えば、グラビアロールコーティング)、スプレーコーティング(例えば、静電スプレーコーティング)等が挙げられる。また、無機層と有機層との積層体の例としては、例えば、国際公開第2012/003198号、国際公開第2011/013341号に記載の積層体などが挙げられる。
無機層と有機層との積層体である場合、各層の厚さは同じでもよいし、異なっていてもよい。無機層の層厚は、好ましくは3~1000nmの範囲内、より好ましくは10~300nmの範囲内である。有機層の層厚は、好ましくは100nm~100μmの範囲内、より好ましくは1~50μmの範囲内である。
さらに、ポリシラザン、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)などの無機前駆体を含む塗布液を支持体上にウェットコーティングした後、真空紫外光の照射などにより改質処理を行い、無機ガスバリアー層を形成する方法や、樹脂基板への金属めっき、金属箔と樹脂基板とを接着させる等のフィルム金属化技術などによっても、無機ガスバリアー層は形成される。
無機層と有機層との積層体である場合、各層の厚さは同じでもよいし、異なっていてもよい。無機層の層厚は、好ましくは3~1000nmの範囲内、より好ましくは10~300nmの範囲内である。有機層の層厚は、好ましくは100nm~100μmの範囲内、より好ましくは1~50μmの範囲内である。
さらに、ポリシラザン、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)などの無機前駆体を含む塗布液を支持体上にウェットコーティングした後、真空紫外光の照射などにより改質処理を行い、無機ガスバリアー層を形成する方法や、樹脂基板への金属めっき、金属箔と樹脂基板とを接着させる等のフィルム金属化技術などによっても、無機ガスバリアー層は形成される。
以下、プラズマCVD法を用いて形成される無機ガスバリアー層について、その一例を説明する。
無機ガスバリアー層は、生産性の観点から、ロールtoロール方式で本発明の環状ポリオレフィンフィルムの表面上に形成することが好ましい。また、このようなプラズマCVD法により無機ガスバリアー層を製造する際に用いることが可能な装置としては、特に制限されないが、少なくとも一対の成膜ローラーと、プラズマ電源とを備え、かつ一対の成膜ローラー間において放電することが可能な構成となっている装置であることが好ましく、例えば、図44に示す製造装置を用いた場合には、プラズマCVD法を利用しながらロールtoロール方式で製造することも可能となる。
以下、図44を参照しながら、プラズマCVD法による無機ガスバリアー層の形成方法について、より詳細に説明する。なお、図44は、無機ガスバリアー層を製造するために好適に利用することが可能な製造装置の一例を示す模式図である。
図44に示す製造装置C31は、送出しローラーC32と、搬送ローラーC33、C34、C35及びC36と、成膜ローラーC39及びC40と、ガス供給管C41と、プラズマ発生用電源C42と、成膜ローラーC39及びC40の内部に設置された磁場発生装置C43及びC44と、巻取りローラーC45とを備えている。
また、このような製造装置C31においては、少なくとも成膜ローラーC39及びC40と、ガス供給管C41と、プラズマ発生用電源C42と、磁場発生装置C43及びC44とが図示を省略した真空チャンバー内に配置されている。
さらに、このような製造装置C31において、真空チャンバーは図示を省略した真空ポンプに接続されており、かかる真空ポンプにより真空チャンバー内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
このような製造装置C31においては、一対の成膜ローラー(成膜ローラーC39及びC40)を一対の対向電極として機能させることが可能となるように、各成膜ローラーがそれぞれプラズマ発生用電源C42に接続されている。そのため、このような製造装置C31においては、プラズマ発生用電源C42により電力を供給することにより、成膜ローラーC39と成膜ローラーC40との間の空間に放電することが可能であり、これにより成膜ローラーC39と成膜ローラーC40との間の空間にプラズマを発生させることができる。
なお、このように、成膜ローラーC39と成膜ローラーC40とを電極としても利用する場合には、電極としても利用可能なようにその材質や設計を適宜変更すればよい。
また、このような製造装置C31においては、一対の成膜ローラー(成膜ローラーC39及びC40)は、その中心軸が同一平面上において略平行となるようにして配置することが好ましい。このようにして、一対の成膜ローラー(成膜ローラーC39及びC40)を配置することにより、成膜レートを倍にできる。
そして、このような製造装置C31によれば、CVD法により樹脂基板C2の表面上に無機ガスバリアー層C4(乾式ガスバリアー層)を形成することが可能であり、成膜ローラーC39上において樹脂基板C2の表面上に無機ガスバリアー層成分を堆積させつつ、更に成膜ローラーC40上においても樹脂基板C2の表面上に無機ガスバリアー層成分を堆積させることもできるため、樹脂基板C2の表面上に無機ガスバリアー層C4を効率よく形成することができる。
成膜ローラーC39及びC40の内部には、成膜ローラーが回転しても回転しないようにして固定された磁場発生装置C43及びC44がそれぞれ設けられている。
成膜ローラーC39及びC40にそれぞれ設けられた磁場発生装置C43及びC44は、一方の成膜ローラーC39に設けられた磁場発生装置C43と他方の成膜ローラーC40に設けられた磁場発生装置C44との間で磁力線がまたがらず、それぞれの磁場発生装置C43及びC44がほぼ閉じた磁気回路を形成するように磁極を配置することが好ましい。このような磁場発生装置C43及びC44を設けることにより、各成膜ローラーC39及びC40の対向側表面付近に磁力線が膨らんだ磁場の形成を促進することができ、その膨出部にプラズマが収束されやすくなるため、成膜効率を向上させることができる点で優れている。
また、成膜ローラーC39及びC40にそれぞれ設けられた磁場発生装置C43及びC44は、それぞれローラー軸方向に長いレーストラック状の磁極を備え、一方の磁場発生装置C43と他方の磁場発生装置C44とは向かい合う磁極が同一極性となるように磁極を配置することが好ましい。このような磁場発生装置C43及びC44を設けることにより、それぞれの磁場発生装置C43及びC44について、磁力線が対向するローラー側の磁場発生装置にまたがることなく、ローラー軸の長さ方向に沿って対向空間(放電領域)に面したローラー表面付近にレーストラック状の磁場を容易に形成することができ、その磁場にプラズマを収束させることができため、ローラー幅方向に沿って巻き掛けられた幅広の樹脂基板C2を用いて効率的に蒸着膜である無機ガスバリアー層C4を形成することができる点で優れている。
成膜ローラーC39及びC40としては適宜公知のローラーを用いることができる。このような成膜ローラーC39及びC40としては、より効率よく薄膜を形成することができるという観点から、直径が同一のものを使うことが好ましい。
また、このような成膜ローラーC39及びC40の直径としては、放電条件、チャンバーのスペース等の観点から、直径が300~1000mmφの範囲内、特に300~700mmφの範囲内であることが好ましい。成膜ローラーの直径が300mmφ以上であれば、プラズマ放電空間が小さくなることがないため生産性の劣化もなく、短時間でプラズマ放電の全熱量が樹脂基板C2にかかることを回避できることから、樹脂基板C2へのダメージを軽減でき好ましい。一方、成膜ローラーの直径が1000mmφ以下であれば、プラズマ放電空間の均一性等も含めて装置設計上、実用性を保持することができるため好ましい。
このような製造装置C31においては、樹脂基板C2の表面がそれぞれ対向するように、一対の成膜ローラー(成膜ローラーC39及びC40)上に、樹脂基板C2が配置されている。このようにして樹脂基板C2を配置することにより、成膜ローラーC39と成膜ローラーC40との間の対向空間に放電を行ってプラズマを発生させる際に、一対の成膜ローラー間に存在する樹脂基板C2のそれぞれの表面を同時に成膜することが可能となる。
すなわち、このような製造装置C31によれば、プラズマCVD法により、成膜ローラーC39上にて樹脂基板C2の表面上に無機ガスバリアー層成分を堆積させ、更に成膜ローラーC40上にて無機ガスバリアー層成分を堆積させることができるため、樹脂基板C2の表面上に無機ガスバリアー層C4を効率よく形成することが可能となる。
このような製造装置C31に用いる送出しローラーC32及び搬送ローラーC33~C36としては、適宜公知のローラーを用いることができる。また、巻取りローラーC45としても、樹脂基板C2上に無機ガスバリアー層C4を形成した封止基板C1を巻き取ることが可能なものであればよく、特に制限されず、適宜公知のローラーを用いることができる。
また、ガス供給管C41及び真空ポンプ(図示略)としては、原料ガス等を所定の速度で供給又は排出することが可能なものを適宜用いることができる。
また、ガス供給手段であるガス供給管C41は、成膜ローラーC39と成膜ローラーC40との間の対向空間(放電領域;成膜ゾーン)の一方に設けることが好ましく、真空排気手段である真空ポンプは、対向空間の他方に設けることが好ましい。このようにガス供給手段であるガス供給管C41と、真空排気手段である真空ポンプを配置することにより、成膜ローラーC39と成膜ローラーC40との間の対向空間に効率よく成膜ガスを供給することができ、成膜効率を向上させることができる点で優れている。
さらに、プラズマ発生用電源C42としては、適宜公知のプラズマ発生装置の電源を用いることができる。このようなプラズマ発生用電源C42は、これに接続された成膜ローラーC39と成膜ローラーC40とに電力を供給して、これらを放電のための対向電極として利用することを可能とする。このようなプラズマ発生用電源C42としては、より効率よくプラズマCVDを実施することが可能となることから、一対の成膜ローラーの極性を交互に反転させることが可能なもの(交流電源など)を利用することが好ましい。
また、このようなプラズマ発生用電源C42としては、より効率よくプラズマCVDを実施することが可能となることから、印加電力を100W~10kWの範囲内とすることができ、かつ交流の周波数を50Hz~500kHzとすることが可能なものであることがより好ましい。
また、磁場発生装置C43及びC44としては適宜公知の磁場発生装置を用いることができる。さらに、樹脂基板C2としては、本発明で用いられる樹脂基板の他に、無機ガスバリアー層C4をあらかじめ形成させたものを用いることができる。このように、樹脂基板C2として無機ガスバリアー層C4をあらかじめ形成させたものを用いることにより、無機ガスバリアー層C4の層厚を厚くすることも可能である。
このような図44に示す製造装置C31を用いて、例えば、原料ガスの種類、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力、真空チャンバー内の圧力、成膜ローラーC39及びC40の直径、及び樹脂基板C2の搬送速度を適宜調整することにより、無機ガスバリアー層C4を製造することができる。
すなわち、図44に示す製造装置C31を用いて、成膜ガス(原料ガス等)を真空チャンバー内に供給しつつ、一対の成膜ローラーC39及びC40間に放電を発生させることにより、成膜ガス(原料ガス等)がプラズマによって分解され、成膜ローラーC39上の樹脂基板C2の表面上及び成膜ローラーC40上の樹脂基板C2の表面上に、無機ガスバリアー層C4がプラズマCVD法により形成される。この際、成膜ローラーC39及びC40のローラー軸の長さ方向に沿って対向空間(放電領域)に面したローラー表面付近にレーストラック状の磁場が形成され、磁場にプラズマを収束させる。なお、このような成膜に際しては、樹脂基板C2が送出しローラーC32や成膜ローラーC39等により搬送されることにより、ロールtoロール方式の連続的な成膜プロセスを可能とし、樹脂基板C2の表面上に無機ガスバリアー層C4が形成される。
ガス供給管C41から対向空間に供給される成膜ガス(原料ガス等)としては、原料ガス、反応ガス、キャリアガス、放電ガスを単独又は2種以上混合して用いることができる。無機ガスバリアー層C4の形成に用いる成膜ガス中の原料ガスとしては、形成する無機ガスバリアー層C4の材質に応じて適宜選択して使用することができる。
このような原料ガスとしては、例えば、ケイ素を含有する有機ケイ素化合物や炭素を含有する有機化合物ガスを用いることができる。このような有機ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ヘキサメチルジシラン(HMDS)、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサンが挙げられる。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性及び得られる無機ガスバリアー層C4のガスバリアー性等の特性の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンが好ましい。これらの有機ケイ素化合物は、単独でも又は2種以上を組み合わせても使用することができる。また、炭素を含有する有機化合物ガスとしては、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレンを例示することができる。これら有機ケイ素化合物ガスや有機化合物ガスは、無機ガスバリアー層C4の種類に応じて適切な原料ガスが選択される。
また、成膜ガスとしては、原料ガスの他に反応ガスを用いてもよい。このような反応ガスとしては、原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物となるガスを適宜選択して使用することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、単独でも又は2種以上を組み合わせても使用することができ、例えば、酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組み合わせて使用することができる。
成膜ガスとしては、原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、成膜ガスとしては、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガスや水素を用いることができる。
このような成膜ガスが原料ガスと反応ガスとを含有する場合には、原料ガスと反応ガスとの比率としては、原料ガスと反応ガスとを完全に反応させるために理論上必要となる反応ガスの量の比率よりも、反応ガスの比率を過剰にしすぎないことが好ましい。反応ガスの比率を過剰にしすぎないことで、形成される無機ガスバリアー層C4によって、優れたガスバリアー性や耐屈曲性を得ることができる点で優れている。また、成膜ガスが有機ケイ素化合物と酸素とを含有するものである場合には、成膜ガス中の有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量以下であることが好ましい。
以下、上記図44の装置を用いた無機ガスバリアー層C4の製造において、成膜ガスとして、原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(有機ケイ素化合物、HMDSO、(CH3)6Si2O)と、反応ガスとしての酸素(O2)を含有するものとを用い、ケイ素-酸素系の薄膜を製造する場合を例に挙げて、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスとの好適な比率等について、より詳細に説明する。
原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO、(CH3)6Si2O)と、反応ガスとしての酸素(O2)と、を含有する成膜ガスをプラズマCVDにより反応させてケイ素-酸素系の薄膜を作製する場合、その成膜ガスにより下記反応式(1)で表されるような反応が起こり、二酸化ケイ素が生成する。
反応式(1)
(CH3)6Si2O+12O2→6CO2+9H2O+2SiO2
このような反応においては、ヘキサメチルジシロキサン1モルを完全酸化するのに必要な酸素量は12モルである。そのため、成膜ガス中に、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して酸素を12モル以上含有させて完全に反応させた場合には、均一な二酸化ケイ素膜が形成されてしまう。
そのため、本発明において、無機ガスバリアー層を形成する際には、上記反応式(1)の反応が完全に進行してしまわないように、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して酸素量を化学量論比の12モルより少なくすることが好ましい。
なお、実際のプラズマCVDチャンバー内の反応では、原料のヘキサメチルジシロキサンと反応ガスの酸素とは、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、反応ガスの酸素のモル量(流量)が原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には完全に反応を進行させることはできず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる(例えば、CVDにより完全酸化させて酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)を原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の20倍以上程度とする場合もある。)。
そのため、原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下(より好ましくは、10倍以下)の量であることが好ましい。このような比でヘキサメチルジシロキサン及び酸素を含有させることにより、完全に酸化されなかったヘキサメチルジシロキサン中の炭素原子や水素原子が無機ガスバリアー層中に取り込まれ、得られる封止基板において優れたガスバリアー性及び耐屈曲性を発揮させることが可能となる。
なお、有機EL素子や太陽電池などのような透明性を必要とするデバイス用のフレキシブル基板への利用の観点から、成膜ガス中のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)の下限は、ヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の0.1倍より多い量とすることが好ましく、0.5倍より多い量とすることがより好ましい。
また、真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、0.5~50Paの範囲内とすることが好ましい。
また、このようなプラズマCVD法において、成膜ローラーC39と成膜ローラーC40との間に放電するために、プラズマ発生用電源C42に接続された電極ドラム(成膜ローラーC39及びC40に設置されている。)に印加する電力は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるものであり一概にいえるものでないが、0.1~10kWの範囲内とすることが好ましい。このような印加電力が0.1kW以上であれば、パーティクルの発生を十分に抑制することができ、他方、10kW以下であれば、成膜時に発生する熱量を抑えることができ、成膜時の樹脂基板表面の温度が上昇するのを抑制できる。そのため、樹脂基板が熱負けすることなく、成膜時にシワが発生することを防止できる点で優れている。
樹脂基板C2の搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.25~100m/minの範囲内とすることが好ましく、0.5~20m/minの範囲内とすることがより好ましい。ライン速度が0.25m/min以上であれば、樹脂基板に熱に起因するシワの発生を効果的に抑制することができる。他方、100m/min以下であれば、生産性を損なうことなく、無機ガスバリアー層として十分な層厚を確保することができる点で優れている。
上記したように、本実施形態のより好ましい態様としては、本発明に用いられる無機ガスバリアー層を、図44に示す対向ローラー電極を有するプラズマCVD装置(ロールtoロール方式)を用いたプラズマCVD法によって成膜することである。これは、対向ローラー電極を有するプラズマCVD装置(ロールtoロール方式)を用いて量産する場合に、可撓性(屈曲性)に優れ、機械的強度、特にロールtoロールでの搬送時の耐久性と、ガスバリアー性能とが両立する無機ガスバリアー層を効率よく製造することができるためである。このような製造装置は、太陽電池や電子部品などに使用される温度変化に対する耐久性が求められる封止基板を、安価でかつ容易に量産することができる点でも優れている。
次に、ポリシラザンを含む層を改質処理して形成される無機ガスバリアー層について、詳細に説明する。
本発明に用いられる無機ガスバリアー層の形成に用いられるポリシラザンとは、ケイ素-窒素結合を有するポリマーであり、Si-N、Si-H、N-H等の結合を有するSiO2、Si3N4、及び両方の中間固溶体SiOxNy等のセラミック前駆体無機ポリマーであり、好ましくは下記一般式(P)で表される構造を有している。
一般式(P)
-〔-Si(R1)(R2)-N(R3)-〕n-
一般式(P)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表す。R1、R2及びR3は、互いに同じであっても異なるものであってもよい。
また、上記一般式(P)において、nは、整数であり、一般式(P)で表される構造を有するポリシラザンが150~150000g/モルの数平均分子量を有するように定められることが好ましい。
本発明では、得られる無機ガスバリアー層の膜としての緻密性の観点からは、R1、R2及びR3の全てが水素原子であるパーヒドロポリシラザン(PHPS)が特に好ましい。
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6及び8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されている。その分子量は、数平均分子量(Mn)で約600~2000程度(ポリスチレン換算)であり、液体又は固体の物質であり、分子量により異なる。
ポリシラザンは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン層形成用塗布液として使用することができる。ポリシラザン溶液の市販品としては、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のNN120-10、NN120-20、NAX120-20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL120-20、NL150A、NP110、NP140、SP140等が挙げられる。
ポリシラザンを含有する塗布液(以下、単にポリシラザン含有塗布液とも称する。)を調製するための溶媒としては、ポリシラザンを溶解できるものであれば特に制限されないが、ポリシラザンと容易に反応してしまう水及び反応性基(例えば、ヒドロキシ基、又はアミン基等)を含まず、ポリシラザンに対して不活性の有機溶媒が好ましく、非プロトン性の有機溶媒がより好ましい。
具体的には、ポリシラザン含有塗布液を調製するための溶媒としては、非プロトン性溶媒、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、モノ-及びポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(ジグライム類))などを挙げることができる。上記溶媒は、ポリシラザンの溶解度や溶媒の蒸発速度等の目的にあわせて選択され、単独で使用されても又は2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
ポリシラザン含有塗布液におけるポリシラザンの濃度は、特に制限されず、目的とする無機ガスバリアー層の層厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、好ましくは0.1~30質量%の範囲内、より好ましくは0.5~20質量%の範囲内、更に好ましくは1~15質量%の範囲内である。
ポリシラザン含有塗布液は、酸化窒化ケイ素への変性を促進するために、ポリシラザンとともに触媒を含有することが好ましい。本発明に適用可能な触媒としては、塩基性触媒が好ましく、特に、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、3-モルホリノプロピルアミン、N,N,N′,N′-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N,N′,N′-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン等のアミン触媒、Ptアセチルアセトナート等のPt化合物、プロピオン酸Pd等のPd化合物、Rhアセチルアセトナート等のRh化合物等の金属触媒、N-複素環式化合物が挙げられる。これらのうち、アミン触媒を用いることが好ましい。この際添加する触媒の濃度としては、ポリシラザンを基準としたとき、好ましくは0.1~10質量%の範囲内、より好ましくは0.2~5質量%に範囲内、更に好ましくは0.5~2質量%の範囲内である。触媒添加量をこの範囲内とすることで、反応の急激な進行よる過剰なシラノール形成、及び膜密度の低下、膜欠陥の増大などを避けることができる。
ポリシラザン含有塗布液には、必要に応じて、下記に挙げる添加剤を用いることができる。例えば、セルロースエーテル類、セルロースエステル類(例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセトブチレート等)、天然樹脂(例えば、ゴム、ロジン樹脂等)、合成樹脂(例えば、重合樹脂等)、縮合樹脂(例えば、アミノプラスト、特に尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル若しくは変性ポリエステル、エポキシド、ポリイソシアネート若しくはブロック化ポリイソシアネート、ポリシロキサン等)である。
ポリシラザン含有塗布液を塗布する方法としては、従来公知の適切な湿式塗布方法が採用される。具体例としては、スピンコート法、ダイコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
塗布厚さは、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、塗布厚さは、乾燥後の厚さが10nm~10μm程度であることが好ましく、15nm~1μmの範囲内であることがより好ましく、20~500nmの範囲内であることが更に好ましい。ポリシラザン層の層厚が10nm以上であれば十分なガスバリアー性を得ることができ、10μm以下であれば、ポリシラザン層形成時に安定した塗布性を得ることができ、かつ高い光線透過性を実現できる。
改質処理とは、ポリシラザン化合物の一部又は全部が、酸化ケイ素又は酸化窒化ケイ素へ転化する反応をいう。
これによって、無機ガスバリアー層が全体としてガスバリアー性(水蒸気透過度が1×10-3g/(m2・day)以下)を発現するに貢献できるレベルの無機薄膜を形成することができる。
具体的には、加熱処理、プラズマ処理、活性エネルギー線照射処理等が挙げられる。中でも、低温で改質可能であり基材種の選択の自由度が高いという観点から、活性エネルギー線照射による処理が好ましい。
(加熱処理)
加熱処理の方法としては、例えば、ヒートブロック等の発熱体に基板を接触させ熱伝導により塗膜を加熱する方法、抵抗線等による外部ヒーターにより塗膜が載置される環境を加熱する方法、IRヒーターといった赤外領域の光を用いた方法等が挙げられるが、これらに限定されない。加熱処理を行う場合、塗膜の平滑性を維持できる方法を適宜選択すればよい。
塗膜を加熱する温度としては、40~250℃の範囲内が好ましく、60~150℃の範囲内がより好ましい。加熱時間としては、10秒~100時間の範囲内が好ましく、30秒~5分の範囲内が好ましい。
(プラズマ処理)
本発明において、改質処理として用いることのできるプラズマ処理は、公知の方法を用いることができるが、好ましくは大気圧プラズマ処理等を挙げることができる。大気圧近傍でのプラズマCVD処理を行う大気圧プラズマCVD法は、真空下のプラズマCVD法に比べ、減圧する必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために成膜速度が速く、更には通常のCVD法の条件に比較して、大気圧下という高圧力条件では、ガスの平均自由工程が非常に短いため、極めて均質の膜が得られる。
大気圧プラズマ処理の場合は、放電ガスとしては窒素ガス又は長周期型周期表の第18族原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、特に窒素がコストも安く好ましい。
(活性エネルギー線照射処理)
活性エネルギー線としては、例えば、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等が使用可能であるが、電子線又は紫外線が好ましく、紫外線がより好ましい。紫外線(紫外光と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性とを有するガスバリアー層を形成することが可能である。
紫外線照射処理においては、通常使用されているいずれの紫外線発生装置を使用することも可能である。
本発明に用いられる無機ガスバリアー層の製造方法において、水分が取り除かれたポリシラザン化合物を含む塗膜は、紫外光照射による処理で改質される。紫外線によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性を有する酸化ケイ素膜又は酸化窒化ケイ素膜を形成することが可能である。
この紫外光照射により、セラミックス化に寄与するO2とH2Oや、紫外線吸収剤、ポリシラザン自身が励起、活性化される。そして、励起したポリシラザンのセラミックス化が促進され、得られるセラミックス膜が緻密になる。紫外光照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
本発明での真空紫外光照射処理には、常用されているいずれの紫外線発生装置を使用することが可能である。なお、本発明でいう紫外光とは、一般には、真空紫外光とよばれる10~200nmの波長を有する電磁波を含む紫外光をいう。
真空紫外光の照射は、照射される改質前のポリシラザン化合物を含む層を担持している樹脂基板がダメージを受けない範囲内で、照射強度や照射時間を設定することが好ましい。
例えば、2kW(80W/cm×25cm)のランプを用い、基材表面の強度が20~300mW/cm2の範囲内、好ましくは50~200mW/cm2の範囲内になるように基材-紫外線照射ランプ間の距離を設定し、0.1秒~10分間の照射を行うことができる。
一般に、紫外線照射処理時の支持体の温度が150℃以上になると、樹脂フィルム等の場合には、支持体が変形したりその強度が劣化したりするなど、支持体の特性が損なわれることになる。しかしながら、環状ポリオレフィン等の耐熱性の高いフィルムなどの場合には、より高温での改質処理が可能である。したがって、この紫外線照射時の支持体の温度としては、一般的な上限はなく、樹脂基板の種類によって当業者が適宜設定することができる。また、紫外線照射雰囲気に特に制限はなく、空気中で実施すればよい。
このような紫外線の発生手段としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ、UV光レーザー等が挙げられるが、特に限定されない。また、発生させた紫外線を改質前のポリシラザン層に照射する際には、効率向上と均一な照射を達成する観点から、発生源からの紫外線を反射板で反射させてから改質前のポリシラザン層に照射することが望ましい。
紫外線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、使用する樹脂基板の形状によって適宜選定することができる。ポリシラザン化合物を含む塗布層を有する樹脂基板が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外線を照射することによりセラミックス化することができる。紫外線照射に要する時間は、使用する樹脂基板やポリシラザン化合物を含む塗布層の組成、濃度にもよるが、一般に0.1秒~10分間であり、好ましくは0.5秒~3分間である。
(真空紫外線照射処理:エキシマ照射処理)
本発明において、最も好ましい改質処理方法は、真空紫外線照射による処理(エキシマ照射処理)である。
真空紫外光(VUV)照射時に、これら酸素以外のガスとしては乾燥不活性ガスを用いることが好ましく、特にコストの観点から乾燥窒素ガスを用いることが好ましい。酸素濃度の調整は照射庫内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
具体的に、本発明における改質前のポリシラザン化合物を含む層の改質処理方法は、真空紫外光照射による処理である。真空紫外光照射による処理は、ポリシラザン化合物内の原子間結合力より大きい100~200nmの光エネルギーを用い、好ましくは100~180nmの波長の光のエネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみの作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温で酸化ケイ素膜の形成を行う方法である。これに必要な真空紫外光源としては、希ガスエキシマランプが好ましく用いられる。
なお、Xe、Kr、Ar、Ne等の希ガスの原子は化学的に結合して分子を作らないため、不活性ガスと呼ばれる。しかし、放電等によりエネルギーを得た希ガスの原子(励起原子)は他の原子と結合して分子を作ることができる。希ガスがキセノンの場合には、
e+Xe→e+Xe*
Xe*+Xe+Xe→Xe2
*+Xe
Xe2
*→Xe+Xe+hν(172nm)
となり、励起されたエキシマ分子であるXe2
*が基底状態に遷移するときに172nmのエキシマ光(真空紫外光)を発光する。
エキシマランプの特徴としては、放射が一つの波長に集中し、必要な光以外がほとんど放射されないので効率が高いことが挙げられる。また、余分な光が放射されないので、対象物の温度を低く保つことができる。さらには、始動・再始動に時間を要さないので、瞬時の点灯点滅が可能である。
真空紫外線照射工程において、ポリシラザン化合物を含む塗膜が受ける塗膜面での真空紫外線の照度は1mW/cm2~10W/cm2の範囲内であること好ましく、30~200mW/cm2の範囲内であることがより好ましく、50~160mW/cm2の範囲であること更に好ましい。1mW/cm2以上であれば、十分な改質効率が得られうる。また、10W/cm2以下であれば、塗膜のアブレーションが生じにくく、樹脂基板にダメージを与えにくい。
ポリシラザン化合物を含む層における真空紫外線の照射エネルギー量は、10~10000mJ/cm2の範囲内が好ましく、100~8000mJ/cm2の範囲内であることがより好ましく、200~6000mJ/cm2であることが更に好ましく、500~5000mJ/cm2の範囲内であることが特に好ましい。10mJ/cm2以上であれば十分な改質効率が得られ、10000mJ/cm2以下であればクラックや樹脂基板の熱変形が生じにくい。
また、真空紫外光(VUV)を照射する際の、酸素濃度は300~10000体積ppm(1体積%)の範囲内とすることが好ましく、更に好ましくは、500~5000体積ppmである。このような酸素濃度の範囲内に調整することにより、酸素過多の無機ガスバリアー層の生成を防止してガスバリアー性の劣化を防止することができる。
エキシマ発光を得るには、誘電体バリア放電を用いる方法が知られている。誘電体バリア放電とは、両電極間に誘電体(エキシマランプの場合は透明石英)を介してガス空間を配し、電極に数10kHzの高周波高電圧を印加することによりガス空間に生じる雷に似た非常に細いmicro dischargeと呼ばれる放電である。
また、効率よくエキシマ発光を得る方法としては、誘電体バリア放電以外には無電極電界放電も知られている。無電極電界放電とは、容量性結合による放電であり、別名RF放電とも呼ばれる。ランプと電極及びその配置は、基本的には誘電体バリア放電と同じでよいが、両極間に印加される高周波は数MHzで点灯される。無電極電界放電はこのように空間的に、また時間的に一様な放電が得られる。
そして、Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。また、有機物の結合を解離させる波長の短い172nmの光のエネルギーは能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン化合物を含む塗布層の改質を実現できる。したがって、波長185nm、254nmの発する低圧水銀ランプやプラズマ洗浄と比べて高スループットに伴うプロセス時間の短縮や設備面積の縮小、熱によるダメージを受けやすい有機材料やプラスチック基板、樹脂フィルム等への照射を可能としている。
また、エキシマランプは光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光による温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外線領域で単一波長のエネルギーを照射するため、照射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を有する。このため、熱の影響を受けやすいとされるポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムを基材とする封止基板への照射に適している。
上記の塗布によって形成される層は、ポリシラザン化合物を含む塗膜に真空紫外線を照射する工程において、ポリシラザンの少なくとも一部が改質されることで、層全体としてSiOxNyCzの組成で示される酸化窒化ケイ素を含むケイ素含有膜が形成される。
なお、膜組成は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)表面分析装置を用いて、原子組成比を測定することで測定できる。また、シリコン含有膜を切断して切断面をXPS表面分析装置で原子組成比を測定することでも測定することができる。
また、膜密度は、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、シリコン含有膜の膜密度は、1.5~2.6g/cm3の範囲内にあることが好ましい。この範囲内であれば、膜の緻密さが向上しガスバリアー性の劣化や、高温高湿条件下での膜の劣化を防止することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
実施例1
<環状ポリオレフィンフィルム101の作製>
特許4585947公報の記載を参照して、以下の環状ポリオレフィンフィルムを作製した。
〈環状ポリオレフィン重合体P-1の合成〉
精製トルエン100質量部とノルボルネンカルボン酸メチルエステル100質量部を反応釜に投入した。次いでトルエン中に溶解したエチルヘキサノエート-Ni25mmol%(対モノマー質量)、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボロン0.225mol%(対モノマー質量)及びトルエンに溶解したトリエチルアルミニウム0.25mol%(対モノマー質量)を反応釜に投入した。室温で撹拌しながら18時間反応させた。反応終了後過剰のエタノール中に反応混合物を投入し、重合物沈殿を生成させた。沈殿を精製し得られた重合体(P-1)を真空乾燥で65℃24時間乾燥した。
〈ドープD-1の作製〉
下記組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して各成分を溶解した後、平均孔径34μmのろ紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターで濾過してドープを調製した。
環状ポリオレフィン重合体P-1 150質量部
ジクロロメタン 380質量部
メタノール 70質量部
次に上記方法で作製した環状ポリオレフィン溶液(ドープ)を含む下記組成物を分散機に投入し、微粒子分散液(M-1)を調製した。
微粒子(アエロジルR812:日本アエロジル社製、
一次平均粒子径:7nm、見掛け比重50g/L) 4質量部
ジクロロメタン 76質量部
メタノール 10質量部
環状ポリオレフィン溶液(ドープD-1) 10質量部
上記環状ポリオレフィン溶液(ドープD-1)を100質量部、微粒子分散液(M-1)を0.75質量部を混合し、製膜用ドープを調製した。ドープを製膜ラインで流延し、ドープが自己支持性を持つまで金属支持体上で乾燥した後にウェブとしてはぎ取って、テンターに導入した。
テンターへの導入時のウェブの残留溶媒は5~15質量%であった。テンターで延伸率は0%、テンター内温度は140℃として幅方向にフィルムを延伸させずに搬送させた。テンター離脱直後から100N/mのテンションでロール搬送を行い、さらに140℃で乾燥してフィルムを、巻き取り長4000mで巻き取り、環状ポリオレフィンフィルム101を作製した。この時のフィルムの乾燥厚さは40μmであった。
<環状ポリオレフィンフィルム102の作製>
〈微粒子添加液1〉
微粒子(アエロジルR812:日本アエロジル社製、
一次平均粒子径:7nm、見掛け比重50g/L) 4質量部
ジクロロメタン 48質量部
エタノール 48質量部
以上をディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
さらに、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液1を調製した。
次いで、下記組成の主ドープ1を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドを400kg/minの流量とエタノールを20kg/minの流量で添加した。溶媒の添加開始から3分後に、前記加圧溶解タンクに、JSR(株)製ARTON G7810を200kg/min撹拌しながら投入した。さらに、溶媒投入開始後15分後に、微粒子添加液1を投入して、これを80℃に加熱し、撹拌しながら、完全に溶解した。加熱温度は室温から5℃/minの昇温し、30分間で溶解した後、3℃/minで降温した。
ドープ粘度は10000CPであり、含水率は0.50%であった。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244(濾過精度0.005mm)を使用して濾過流量300L/m2・h、濾圧1.0×106Paにて濾過し、主ドープ1を調製した。
〈主ドープ1の組成〉
JSR(株)製ARTON G7810 100質量部
ジクロロメタン 200質量部
エタノール 10質量部
微粒子添加液1 3質量部
精製トルエン 0.004質量部
以上を密閉されている主溶解釜1に投入し、撹拌しながら溶解してドープを調製した。
調製したドープを、ステンレス製無端支持体(ベルト)上で、流量1000L/hrで流延(キャスト)した。その際、流延端部のジクロロメタンを滴下しながら流延を行った。
乾燥温度40℃にて、流延したウェブ中の残留溶媒量が30質量%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力130N/mで、ステンレス製無端支持体上から剥離した。剥離したウェブを乾燥しながら残留溶媒量を5質量%に調整し、160℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に20%延伸した。延伸速度は200%/minで行った。
次いで、乾燥ゾーンを多数のローラーで、温度140℃で20分間搬送させながら乾燥を終了させた。搬送張力は100N/mとした。
乾燥したフィルムの両端部を100mmずつ回転歯を有するスリット装置でスリットし、下記条件でエンボス加工を行い、得られたフィルムをタッチロール用いて25℃・60%RHの環境下でコアに巻取った。巻き取り張力は、初期張力10kg/m、最終巻張力8kg/mとした。
(エンボス加工条件)
加工温度:250℃
加工圧力:0.5MPa
加工幅 :10mm(フィルム両端部)
加工高さ:5μm
エンボス対向ロール:金属製
以上のようにして、フィルム幅1.5m、乾燥膜厚40μm、巻き取り長4000mの環状ポリオレフィンフィルム102を得た。
<環状ポリオレフィンフィルム103の作製>
環状ポリオレフィンフィルム102の作製において、主ドープ1にトルエンを0.1質量部添加してドープを調製した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム103を作製した。
<環状ポリオレフィンフィルム104の作製>
環状ポリオレフィンフィルム102の作製において、主ドープ1にトルエンを0.3質量部添加してドープを調製した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム104を作製した。
<環状ポリオレフィンフィルム105の作製>
環状ポリオレフィンフィルム102の作製において、主ドープ1にトルエンを0.003質量部添加してドープを調製した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム105を作製した。
<環状ポリオレフィンフィルム106の作製>
環状ポリオレフィンフィルム102の作製において、主ドープ1にトルエンを0.35質量部添加してドープを調製した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム106を作製した。
<環状ポリオレフィンフィルム107の作製>
環状ポリオレフィンフィルム102の作製において、主ドープ1にトリアセチルセルロース(TAC:アセチル基置換度2.85、重量平均分子量25万)を0.0004質量部、及びTi928(BASFジャパン(株)製)2質量部を添加してドープを調製した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム107を作製した。
<環状ポリオレフィンフィルム108の作製>
環状ポリオレフィンフィルム102の作製において、主ドープ1にトリアセチルセルロース(TAC:アセチル基置換度2.85、重量平均分子量25万)を0.04質量部、及びTi928(BASFジャパン(株)製)2質量部を添加してドープを調製した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム108を作製した。
<環状ポリオレフィンフィルム109の作製>
環状ポリオレフィンフィルム102の作製において、主ドープ1にトリアセチルセルロース(TAC:アセチル基置換度2.85、重量平均分子量25万)を0.3質量部、及びTi928(BASFジャパン(株)製)2質量部を添加してドープを調製した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム109を作製した。
<環状ポリオレフィンフィルム110の作製>
環状ポリオレフィンフィルム102の作製において、主ドープ1にトリアセチルセルロース(TAC:アセチル基置換度2.85、重量平均分子量25万)を0.35質量部、及びTi928(BASFジャパン(株)製)2質量部を添加してドープを調製した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム110を作製した。
<環状ポリオレフィンフィルム111の作製>
環状ポリオレフィンフィルム102の作製において、主ドープ1にトリアセチルセルロース(TAC:アセチル基置換度2.85、重量平均分子量25万)を0.0003質量部、及びTi928(BASFジャパン(株)製)2質量部を添加してドープを調製した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム111を作製した。
<環状ポリオレフィンフィルム112の作製>
環状ポリオレフィンフィルム102の作製において、主ドープ1のJSR(株)製ARTON G7810 100質量部の代わりに、JSR(株)製ARTON G7810とJSR(株)製ARTON R5000をそれぞれ50質量部ずつ使用し、さらにTi928(BASFジャパン(株)製)2質量部を加えてドープを調製した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム112を作製した。
<環状ポリオレフィンフィルム113の作製>
環状ポリオレフィンフィルム102の作製において、主ドープ1のJSR(株)製ARTON G7810 100質量部の代わりに、JSR(株)製ARTON G7810 40質量部、JSR(株)製ARTON R5000 30質量部、JSR(株)製ARTON RX4500 30質量部づづ使用し、さらにTi928(BASFジャパン(株)製)2質量部を加えてドープを調製した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム113を作製した。
<環状ポリオレフィンフィルム114の作製>
環状ポリオレフィンフィルム112の作製において、重縮合エステルP7を5質量部加えてドープを調製し、膜厚を30μmに調整した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム114を作製した。
<環状ポリオレフィンフィルム115の作製>
環状ポリオレフィンフィルム113の作製において、JSR(株)製ARTON G7810 40質量部、同社製ARTON R5000 30質量部、同社製ARTON RX4500 30質量部の代わりに、同社製ARTON G7810 50質量部と、同社製ARTON RX4500 50質量部を使用し、さらに糖エステル;BzSc(ベンジルサッカロース:化92に記載の化合物a1~a4の混合物)平均エステル置換度=5.5 7質量部を加えてドープを調製し、膜厚を20μmに調整した以外は同様にして、環状ポリオレフィンフィルム115を作製した。
<ハードコートフィルムの作製>
上記作製した環状ポリオレフィンフィルム107~111の表面に下記手順によってハードコート層を塗設した。
上記作製した環状ポリオレフィンフィルム107のA面(流延ベルトに接していない面)上に、下記のハードコート層組成物1を孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過したものを、押し出しコーターを用いて塗布し、恒率乾燥区間温度50℃、減率乾燥区間温度50℃で乾燥の後、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら、紫外線ランプを用い照射部の照度が100mW/cm2で、照射量を0.2J/cm2として塗布層を硬化させ、ドライ膜厚2.5μmのハードコート層を形成した。同様にして、環状ポリオレフィンフィルム108~111にもハードコート層を形成した。
(ハードコート層組成物1)
ペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート
(NKエステルA-TMM-3L、新中村化学工業(株)製) 70質量部
トリメチロールプロパントリアクリレート
(A-TMPT、新中村化学工業(株)製) 30質量部
(光重合開始剤)
イルガキュア184(BASFジャパン(株)製) 6質量部
(添加剤)
オプツールDAC(フッ素系化合物、ダイキン工業株式会社製) 2質量部
(溶媒)
プロピレングリコールモノメチルエーテル 20質量部
酢酸メチル 30質量部
メチルエチルケトン 70質量部
<偏光板の作製>
〔偏光子1の作製〕
厚さ70μmのポリビニルアルコールフィルムを、35℃の水で膨潤させた。得られたフィルムを、ヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g及び水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、さらにヨウ化カリウム3g、ホウ酸7.5g及び水100gからなる45℃の水溶液に浸漬した。得られたフィルムを、延伸温度55℃、延伸倍率5倍の条件で一軸延伸した。この一軸延伸フィルムを、水洗した後、乾燥させて、厚さ15μmの偏光子1を得た。
〔紫外線硬化型接着剤液1の調製〕
下記の各成分を混合した後、脱泡して、紫外線硬化型接着剤液1を調製した。なお、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートは、50%プロピレンカーボネート溶液として配合し、下記にはトリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートの固形分量を表示した。
3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート 45質量部
エポリードGT-301(ダイセル化学社製の脂環式エポキシ樹脂) 40質量部
1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル 15質量部
トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェート 2.3質量部
9,10-ジブトキシアントラセン 0.1質量部
1,4-ジエトキシナフタレン 2.0質量部
〔位相差フィルム1の作製〕
(微粒子分散希釈液の調製)
10質量部のアエロジルR812(日本アエロジル社製、一次平均粒子径:7nm、見掛け比重50g/L)と、90質量部のエタノールとをディゾルバーで30分間撹拌混合した後、高圧分散機であるマントンゴーリンを用いて分散させて、微粒子分散液を調製した。
得られた微粒子分散液に、88質量部のジクロロメタンを撹拌しながら投入し、ディゾルバーで30分間撹拌混合して、希釈した。得られた溶液をアドバンテック東洋社製ポリプロピレンワインドカートリッジフィルターTCW-PPS-1Nで濾過して、微粒子分散希釈液を得た。
(インライン添加液の調製)
100質量部のジクロロメタンに、36質量部の前記作製した微粒子分散希釈液を撹拌しながら加えて30分間さらに撹拌した後、6質量部のジアセチルセルロース(アセチル基置換度2.35、Mn=90000、Mw=152000、Mw/Mn=1.7)を撹拌しながら加えて60分間さらに撹拌した。得られた溶液を、日本精線(株)製ファインメットNFで濾過して、インライン添加液を得た。濾材は、公称濾過精度20μmのものを用いた。
(主ドープの調製)
下記成分を密閉容器に投入し、加熱及び撹拌しながら完全に溶解させた。得られた溶液を安積濾紙(株)製の安積濾紙No.24で濾過して、主ドープを得た。
〈主ドープの組成〉
ジアセチルセルロース(アセチル基置換度:2.35、Mn=90000、Mw=152000、Mw/Mn=1.7) 81質量部
多価アルコールエステル(一般式(D)で表される化合物):例示化合物2-10
2質量部
糖エステル;BzSc(ベンジルサッカロース:化92に記載の化合物a1~a4の混合物)、平均エステル置換度=5.5 7質量部
重縮合エステル:一般式(C)で表される重縮合エステル:P8 5質量部
リターデーション調整剤:一般式(A1)で表される化合物 化12に記載の例示化合物6 3質量部
ジクロロメタン 430質量部
メタノール 11質量部
100質量部の主ドープと、2.5質量部のインライン添加液とを、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi-Mixer、SWJ)で十分に混合して、ドープを得た。
(製膜工程)
得られたドープを、ベルト流延装置を用いてステンレスバンド支持体上に、ドープの液温度35℃、幅1.5mの条件で、最終膜厚が40μmとなる条件で均一に流延させた。ステンレスバンド支持体上で、得られたドープ膜中の有機溶媒を、残留溶媒量が100質量%になるまで蒸発させてウェブを形成した後、ステンレスバンド支持体からウェブを剥離した。得られたウェブを、110℃でさらに10分予備乾燥させた後、ウェブをテンターで、160℃の条件でTD方向の元幅に対して1.2倍に延伸した。延伸開始時のウェブの残留溶媒量は2.0質量%であった。テンターで延伸後、130℃で5分間緩和を行った後、多数の搬送ローラーを通して、130℃の温度、及び20m/分の搬送速度でウェブを搬送させた。
得られたフィルムを、1.5m幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm高さ5μmのナーリング加工を施し、初期張力220N/m、終張力110N/mで内径15.24cmコアに巻き取り、長さ4000m、膜厚40μmの長尺のジアセチルセルロースを含有する位相差フィルム1を得た。
<偏光板101の作製>
下記の方法に従って、偏光板101を作製した。
まず、位相差フィルムとして上記作製した位相差フィルム1使用し、その表面にコロナ放電処理を施した。なお、コロナ放電処理の条件は、コロナ出力強度2.0kW、ライン速度18m/分とした。次いで、フィルム位相差フィルム1のコロナ放電処理面に、上記調製した紫外線硬化型接着剤液1を、硬化後の膜厚が約3μmとなるようにバーコーターで塗工して紫外線硬化型接着剤層を形成した。得られた紫外線硬化型接着剤層に、上記作製した偏光子(厚さ15μm)側を貼合した。
次いで、上記作製した環状ポリオレフィンフィルム101を用い、コロナ放電処理を施した。コロナ放電処理の条件は、コロナ出力強度2.0kW、速度18m/分とした。
次いで、環状ポリオレフィンフィルム101のコロナ放電処理面に、上記調製した紫外線硬化型接着剤液1を、硬化後の膜厚が約3μmとなるようにバーコーターで塗工して紫外線硬化型接着剤層を形成した。
この紫外線硬化型接着剤層に、位相差フィルム1の片面に貼合された偏光子を貼合して、環状ポリオレフィンフィルム101/紫外線硬化型接着剤層/偏光子/紫外線硬化型接着剤層/位相差フィルム1が積層された積層体を得た。その際に、環状ポリオレフィンフィルム101及び位相差フィルム1の遅相軸と偏光子の吸収軸が互いに直交になるように貼合した。
この積層体の両面側から、ベルトコンベヤー付き紫外線照射装置(ランプは、フュージョンUVシステムズ社製のDバルブを使用)を用いて、積算光量が750mJ/cm2となるように紫外線を照射し、それぞれの紫外線硬化型接着剤層を硬化させ、総膜厚が95μmの偏光板101を作製した。
<偏光板102~115の作製>
偏光板101の作製と同様にして、環状ポリオレフィンフィルム102~115を用いて、偏光板102~115を作製した。
<液晶表示装置の作製>
市販のVA型液晶表示装置(SONY製40型ディスプレイKLV-40J3000)を用い、液晶セルの視認側に貼合されていた偏光板を剥離し、上記作製した偏光板101~115を、液晶セル側の面に位相差フィルム1が配置されるように貼合して液晶表示装置101~115を作製した。その際作製した偏光板の吸収軸が、あらかじめ貼合されていた偏光板の吸収軸と同一方向となるように貼り合わせて液晶表示装置を作製した。
≪評価≫
(1)環状ポリオレフィンフィルムの評価
(輝点異物)
下記方法にて環状ポリオレフィンフィルムの輝点異物の個数を測定した。
(フィルムの輝点異物の測定法)
二枚の偏光板を直交状態(クロスニコル)に配置して透過光を遮断し、二枚の偏光板の間に作製したフィルム試料を置く。偏光板はガラス製保護板のものを使用した。片側から光を照射し、反対側から光学顕微鏡(50倍)で100cm2当たりの長径10μm以上の輝点異物の数をカウントした。輝点異物の数は少ないほど良好な特性である。
(ヘイズ)
作製した環状ポリオレフィンフィルムのヘイズを、試料フィルムを23℃・55%RHの環境で5時間以上調湿した後、ヘイズ計(1001DP型、日本電色工業(株)製)で測定した。ヘイズは0.5~1.0%未満であることが好ましく、0.5%未満であることがより好ましい。
(摩擦係数)
前記フィルム製膜過程の延伸処理工程前において、残留溶媒が5~30質量%の時にフィルム試料を採取し、JIS K7125(1999):(プラスチック-フィルム及びシート摩擦係数試験方法)によって、フィルム表面の静止摩擦係数を測定した。
(2)ハードコート層の評価
ハードコート層の表面について、鉛筆硬度を測定した。
詳しくはJIS-S6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS-K5400が規定する鉛筆硬度評価法に従い、500gのおもりを用いて各硬度の鉛筆で所定の表面を5回繰り返し引っ掻き、傷が1本できるまでの硬度を測定した。鉛筆硬度は、2H以上であることが好ましく、3H以上であることがより好ましい。
(3)偏光板及び液晶表示装置の評価
(点状欠陥の評価)
上記作製した偏光板を液晶表示装置に組み込み、黒表示にしたときの点状又は面状で現れる明暗を目視で観察し、下記基準でランク付けした。
◎ :光の抜けはなく全体に均一な暗視野
○ :部分的にごく僅かに明暗が認められる
△ :全体的に僅かに明暗が認められるが、実用上問題のないレベルである
× :全体に明暗が認められる
なお、△以上であれば、実用に供することができる。
得られた評価結果を表1に示す。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法によって製造された環状ポリオレフィンフィルム102~104は、比較例の環状ポリオレフィンフィルム101、105に対して、異物個数、ヘイズ、液晶表示装置の点状欠陥に優れていることが分かった。
トルエン0.35質量部である106は、溶媒揮発がやや遅く、乾燥工程がやや長時間にわたった。
また、セルローストリアセテート(TAC)を0.0004~0.3質量部添加した環状ポリオレフィンフィルム107~109は、比較例の環状ポリオレフィンフィルム110、111に比較して、異物個数、ヘイズ、液晶表示装置の点状欠陥に優れているのに加えて、ハードコート塗布後の硬度にも優れていた。
環状ポリオレフィン系樹脂を2種以上使用した環状ポリオレフィンフィルム112~115は異物の抑制効果が高く、ヘイズ、点状欠陥にも優れていた。
実施例2
実施例1で作製した本発明の環状ポリオレフィンフィルム(参考例を含む)102~104、106~109、112及び113を、ガスバリアー性フィルムの基材フィルム(支持体)として用いた。
<ガスバリアー性フィルム201の作製>
(支持体)
樹脂フィルム支持体として、実施例1で作製した環状ポリオレフィンフィルム102を用いた。
ガスバリアー性フィルムの作製は、上記支持体を20m/分の速度で搬送しながら、以下の形成方法により、片面にブリードアウト防止層、反対面に平滑層を形成した後、粘着性保護フィルムを貼合した、ロール状のガスバリアー性フィルムを得た。
(ブリードアウト防止層の形成)
上記支持体の片面に、JSR株式会社製 UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコ
ート材 OPSTAR Z7535を塗布、乾燥後の膜厚が4μmになるようにワイヤーバーで塗布した後、80℃、3分で乾燥後、空気雰囲気下、高圧水銀ランプを使用して500mJ/cm2で硬化し、ブリードアウト防止層を形成した。
(平滑層の形成)
続けて上記支持体の反対面に、JSR株式会社製 UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR Z7501を塗布、乾燥後の膜厚が4μmになるようにワイヤーバーで塗布した後、80℃、3分で乾燥後、空気雰囲気下、高圧水銀ランプを使用して500mJ/cm2で硬化し、平滑層を形成した。
この時の最大断面高さRt(p)は18nmであった。最大断面高さRt(p)は、AFM(原子間力顕微鏡)で、極小の先端半径の触針を持つ検出器で連続測定した凹凸の断面曲線から算出され、極小の先端半径の触針により測定方向が30μmの区間内を多数回測定し、微細な凹凸の振幅に関する平均の粗さである。
(ガスバリアー層の作製)
次に、上記平滑層及びブリードアウト防止層を設けたフィルムの平滑層の上に、下記ポリシラザン塗布液調製し、次いで、脱水ジブチルエーテルによる希釈することにより濃度調整して、23℃50%RH環境下で塗布した後、80℃、1分(工程中の雰囲気を露点温度10℃に調製)乾燥し、乾燥後の膜厚が150nmのポリシラザン層を作製した。
(ポリシラザン塗布液)
アクアミカ NN120-20(パーヒドロポリシラザン、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製、20質量%ジブチルエーテル溶液)
(改質処理A)
前記塗布試料を下記の条件で改質処理を行い、ガスバリアー層1層目を形成した。改質処理時の露点温度は-8℃で実施した。
(改質処理装置)
株式会社 エム・ディ・コム製エキシマ照射装置MODEL:MECL-M-1-200、波長172nm、ランプ封入ガス Xe稼動ステージ上に固定した試料を以下の条件で改質処理を行った。
(改質処理条件)
エキシマ光強度 120mW/cm2(172nm)
試料と光源の距離 3mm
ステージ加熱温度 25℃
照射装置内の酸素濃度 1000ppm(0.1%)
実エキシマ照射時間 5秒
さらにその上に前記ポリシラザン化合物塗布液を脱水ジブチルエーテルによる希釈することにより濃度調整して、23℃50%RH環境下で塗布した後、80℃、1分(工程中の雰囲気を露点温度10℃に調製)乾燥し、乾燥後の膜厚が90nmになるようにポリシラザン層を作製した。
(改質処理B)
前記塗布2層目を塗布した試料を500mJ/cm2の積算光量とステージ加熱温度(VUV照射時の基板温度)25℃で改質処理を行い、ガスバリアー層2層目を形成した。改質処理時の露点温度は-8℃で実施しガスバリアー性フィルム201を得た。
(改質処理装置)
改質処理Aと同一。
(改質処理条件)
エキシマ光強度 120mW/cm2(172nm)
試料と光源の距離 3mm
照射装置内の酸素濃度 1000ppm(0.1%)
ステージ移動速度 10mm/秒の早さで試料を往復搬送
<ガスバリアー性フィルム202~209の作製》
ガスバリアー性フィルム201の作製において、支持体を環状ポリオレフィンフィルム103、104、106~109、112及び113に変えた以外は同様にして、それぞれガスバリアー性フィルム202~209を作製した。
≪ガスバリアー性フィルムの評価≫
(水蒸気透過率の測定)
〈水蒸気透過率の測定装置〉
蒸着装置:日本電子(株)製真空蒸着装置JEE-400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
(原材料)
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(φ3~5mm、粒状)
(水蒸気バリアー性評価用セルの作製)
真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置 JEE-400)を用い、透明導電膜を付ける前のガスバリアー性フィルム201~209の各々蒸着させたい部分(12mm×12mmを9か所)以外をマスクし、金属カルシウムを蒸着させた。
その後、真空状態のままマスクを取り去り、シート片側全面にアルミニウムをもう一つの金属蒸着源から蒸着させた。アルミニウム封止後、真空状態を解除し、速やかに乾燥窒素ガス雰囲気下で、厚さ0.2mmの石英ガラスに封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス製)を介してアルミニウム封止側と対面させ、紫外線を照射することで、評価用セルを作製した。
得られた両面を封止した試料を60℃、90%RHの高温高湿下で保存し、特開2005-283561号公報記載の方法に基づき、金属カルシウムの腐食量からセル内に透過した水分量を計算した。
(ランク評価)
5:1×10-4g/m2/day未満
4:1×10-4g/m2/day以上、1×10-3g/m2/day未満
3:1×10-3g/m2/day以上、1×10-2g/m2/day未満
2:1×10-2g/m2/day以上、1×10-1g/m2/day未満
1:1×10-1g/m2/day以上
ランク評価において、実用的な範囲は、ランク3以上である。
(ガスバリアー性フィルムの耐熱性試験)
作製直後のガスバリアー性フィルム201~209をそれぞれ、85℃環境で7日間保存後に上記と同様にして水蒸気透過率を測定して、熱による劣化(耐久性)を評価した。
(ガスバリアー性フィルムの耐久性試験)
作製直後のガスバリアー性フィルム201~209をそれぞれ、半径10mmの曲率になるように、180度の角度で100回屈曲を繰り返した後の、ガスバリアー性の劣化(耐久性)を、上記と同様に水蒸気透過率で評価した。
以上の評価を行ったところ、本発明の環状ポリオレフィンフィルム(参考例を含む)は、全ての評価項目についてランク3以上を示し、優れたガスバリアー性フィルムの支持体であることを確認した。
実施例3
実施例1で作製した本発明の環状ポリオレフィンフィルム(参考例を含む)102~104、106~109、112及び113をタッチパネル用の基材フィルム(支持体)として用いた。
(透明基板の準備)
上記環状ポリオレフィンフィルム102~104、106~109、112及び113の両面に、下記ハードコート層塗布液をダイコーターにより塗布し、ハードコート層となる塗膜を形成した。その塗膜を70℃で乾燥後、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら、紫外線ランプを用い、照射部の照度が300mW/cm2、照射量を0.3J/cm2として塗膜を硬化させ、さらに加熱処理ゾーンにおいて、130℃で5分間加熱処理し、透明基板301~309を作製した。なお、硬化後のハードコート層の膜厚は各々5μmであった。
(ハードコート層塗布液の調製)
下記の各構成材料を混合、撹拌、溶解して、ハードコート層塗布液を調製した。
・ハードコート層塗布液
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 30質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 60質量部
ジペンタエリスリトールペンタアクリレート 50質量部
イルガキュア184(BASFジャパン(株)製) 5質量部
イルガキュア907(BASFジャパン(株)製) 5質量部
ZX-212(フッ素-シロキサングラフトポリマー、ティーアンドケイ東華社製)
5質量部
シーホスターKEP-50(粉体のシリカ粒子、平均粒径0.47~0.61μm、日本触媒株式会社製) 24.3質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 20質量部
酢酸メチル 40質量部
メチルエチルケトン 60質量部
(導電性フィルム301の作製)
透明基板301の片面上に、下記化合物1を用いて中間層(膜厚25nm)を蒸着法によって形成し、これに続けて銀(Ag)からなる電極層(膜厚8nm)を蒸着法によって形成した。さらに続けて、酸化チタン(TiO2)からなる表面保護層(膜厚30nm)を蒸着法によって形成した。これにより、中間層と透明導電層、表面保護層との3層構造の透明電極を有する導電性フィルム301を作製した。
この際、まず透明基板301を市販の真空蒸着装置の基材ホルダーに固定した。また、上記化合物1をタンタル製抵抗加熱ボートに入れた。これらの基板ホルダーと加熱ボートとを真空蒸着装置の第1真空槽に取り付けた。また、タングステン製の抵抗加熱ボートに銀(Ag)を入れ、第2真空槽内に取り付けた。さらに、タンタル製抵抗加熱ボートに酸化チタン(TiO2)を入れ、第3真空槽内に取り付けた。
次に、第1真空槽を4×10-4Paまで減圧した後、各化合物の入った加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1~0.2nm/秒で透明基板301上に膜厚25nmの中間層13を設けた。
次に、中間層まで成膜した透明基板301を真空のまま第2真空槽に移し、第2真空槽を4×10-4Paまで減圧した後、銀の入った加熱ボートを通電して加熱した。これにより、蒸着速度0.1~0.2nm/秒で膜厚8nmの銀からなる透明導電層を形成した。
次に中間層、電極層を製膜した透明基板301を真空のまま第3真空槽に移し、第3真空槽を4×10-4Paまで減圧した後、酸化チタン(TiO2)の入った加熱ボートを通電して加熱した。これにより、蒸着速度0.1~0.2nm/秒で膜厚30nmの酸化チタン(TiO2)からなる表面保護層を形成した。
以上の工程により、中間層とこの上部の透明導電層、及び、表面保護層との積層構造からなる導電性フィルム301を得た。
なお蒸着膜厚は、J.A.Woollam Co.Inc.製のVB-250型VASEエリプソメータで測定した。
(導電性フィルム302~309の作製)
導電性フィルム301と同様にして、環状ポリオレフィンフィルム103、104、106~109、112及び113をそれぞれ用いて、導電性フィルム302~309を作製した。
≪各試料の評価≫
作製した導電性フィルム301~309について、耐屈曲性、干渉むら、湿熱耐久後の表比抵抗劣化を測定した。
(耐屈曲性)
作製した導電性フィルムを、JIS K 5400に規定の方法に準じて耐屈曲性を評価した。耐屈曲性評価にあたり、導電性フィルム試料の巻き付けには直径10mmのステンレス棒を用いた。
電極層の状態について、下記のようにランク評価を行った。
◎ : 何らの変化もなかった
○ : 僅かに変形したが、実用上問題ない
△ : 電極層に微細なクラックが発生した
× : 電極層に割れが発生した
(色むら)
iPad(登録商標)(Apple社製 9.7インチIPS液晶のタブレット型コンピューター)のタッチパネルを外し、作製した導電性フィルムを25μmの両面接着テープ(リンテック社製 基材レステープ MO-3005C)を介し、導電層がディスプレイ面に向くように貼り合わせた。ディスプレイに白色を表示し、斜め45°より偏光サングラスを通してディスプレイ表面を観察した。
試験の結果、下記のようにランク評価を行った。
◎ : 色むらは全く観察されなかった
○ : 僅かに色むらが見られたが、実用上問題ない
△ : 色むらが見られた
× : 非常に濃い虹状の色むらが観察された
(湿熱耐久による表面抵抗劣化)
表面抵抗率を測定したサンプルを、温度60℃、相対湿度90%RHの環境下で300時間放置した後、任意の10点の表面比抵抗値を測定し、平均値をサンプルの湿熱耐久後の表面抵抗率とした。
試験の結果、下記のようにランク評価を行った。
[表面抵抗劣化]=[(湿熱耐久後の表面抵抗率)-(湿熱耐久前の表面抵抗率)]/[湿熱耐久前の表面抵抗率]としたとき、
◎ : 表面抵抗劣化が、±10%未満である
○ : 表面抵抗劣化が、±10%以上、±20%未満である
△ : 表面抵抗劣化が、±20%以上、±30%未満である
× : 表面抵抗劣化が、±30%である
以上の評価を行ったところ、本発明の環状ポリオレフィンフィルム(参考例を含む)を用いたものは、いずれの評価も○以上であり、タッチパネル用の優れた導電性フィルムの支持体であることを確認した。中でも、セルロースアシレートを微量含有した環状ポリオレフィンフィルム107~109を用いた導電性フィルムは、表面観察の結果、種々な試験後でも傷が付きにくいタッチパネル用のフィルムであることが分かった。
実施例4
実施例1で作製した本発明の環状ポリオレフィンフィルム(参考例を含む)102~104、106~109、112及び113を、それぞれフレキシブル有機エレクトロルミネッセンス素子用の基板フィルム(支持体)として用いた。
上記フィルムに、クリアハードコート層(両面)、防湿膜(両面)、透明導電膜(片面)の順にそれぞれの薄膜を形成した透明導電性フィルム401~409を作製した。
〈クリアハードコート層の作製〉
環状ポリオレフィンフィルム102上に下記ハードコート層塗布組成物が3μmの膜厚となるように押出しコーターでコーティングし、次いで80℃に設定された乾燥部で1分間乾燥した後、120mW/cm2で紫外線照射することにより形成した。
(クリアハードコート層塗布組成物)
ジペンタエリスリトールヘキサアタリレート単量体 60質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアタリレート2量体 20質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアタリレート3量体以上の成分 20質量部
ジメトキシベンゾフエノン 4質量部
酢酸エチル 50質量部
メチノレエチルケトン 50質量部
イソプロピルアルコール 50質量部
〈防湿膜の作製〉
プラズマ放電装置としては、電極が平行平板型のものを用い、この電極間に上記基板フィルムを載置し、かつ、混合ガスを導入して薄膜形成を行った。
なお、電極は、以下の物を用いた。200mm×200mm×2mmのステンレス板に高密度、高密着性のアルミナ溶射膜を被覆し、その後、テトラメトキシシランを酢酸エチルで希釈した溶液を塗布乾燥後、紫外線照射により硬化させ封孔処理を行い、更にこのようにして被覆した誘電体表面を研磨し、平滑にして、表面粗さRaが5μmとなるように加工した。このように電極を作製し、アース(接地)した。一方、印加電極としては、中空の角型の純チタンパイプに対し、上記同様の誘電体を同条件にて被覆したものを複数作製し、対向する電極群とした。
また、プラズマ発生に用いる使用電源は日本電子(株)製高周波電源JRF-10000にて周波数13.56MHzの電圧で、かつ5W/cm2の電力を供給し、電極間に以下の組成の混合ガスを流した。
不活性ガス :アルゴン 99.3体積%
反応性ガス1:水素 0.5体積%
反応性ガス2:テトラエトキシシラン 0.3体積%
クリアハードコート層が設けられた環状ポリオレフィンフィルム101のクリアハードコート層上に、上記反応ガス、反応条件により大気圧プラズマ処理を行い、防湿膜としてそれぞれ18nmの膜厚の酸化ケイ素膜を作製した。
〈透明導電膜の作製〉
供給電力を12W/cm2に変更した以外は、防湿膜の形成と同様の大気圧ブラズマ条件で、混合ガスは下記の組成に変更したものを流し透明導電膜を作製した。
不活性ガス :ヘリウム 98.69体積%
反応性ガス1:水素 0.05体積%
反応性ガス2:インジウムアセチルアセトナート 1.2体積%
反応性ガス3:ジブチルスズジアセテート 0.05体積%
反応性ガス4:テトラエトキシシラン 0.01体積%
クリアハードコート層、酸化ケイ素層が設けられた環状ポリオレフィンフィルム101の酸化ケイ素層上に、上記反応ガス、反応条件により大気圧プラズマ処理を行い、透明導電膜としてスズドープ酸化インジウム膜(ITO膜)を作製し(厚さ110nm)、透明導電性フィルム401とした。
<透明導電性フィルム402~409>
透明導電性フィルム401と同様にして、環状ポリオレフィンフィルムフィルム103、104、106~109、112及び113を用いて透明導電性フィルム402~409を作製した。
このようにして得られた透明導電性フィルム401~409に対し、下記の評価を行った。
≪評価≫
(透過率)
東京電色製TURBIDITY METER T2600DAで測定した。
(透湿度評価)
透湿度はJIS Z-0208に記載の条件(40℃、90%RH)で測定した。
また、1時間180℃で加熱後、1時間室温で放冷するという一連の冷熟サイクルを10回行った後での測定も行った。
(比抵抗)
JIS R-1637に従い、四端子法により求めた。なお、測定には三菱化学製ロレスター環状ポリオレフィンフィルムGP、MCP-T600を用いた。
以上の評価を行ったところ、本発明の環状ポリオレフィンフィルムは優れた導電性フィルムの支持体であることを確認した。
〈有機EL素子の作製方法〉
透明導電性フィルム1として前記透明導電性フィルムを用い、この上に透明導電膜(陽電極)をパターニングした。その後、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、次いで煮沸エタノール中から引き上げ乾燥した。次いで、透明導電膜表面を超音波洗浄した後、真空蒸着装置でN,N-ジフェニル-m-トリル-4,4′-ジアミン-1,1′-ビフェニル(TPD)を蒸着速度0.2nm/secで55nmの厚さに蒸着し、正孔注入輸送層とした。
さらに、Alq3:トリス(8-キノリノラト)アルミニウムを蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着して、電子注入輸送発光層とした。次いで、スパッタ装置でDCスパッタ法にて Al・Su合金(Su:10at%)をターゲットとして陰電極を200nmの厚さに製膜した。この時のスパッタガスにはArを用い、ガス圧3.5Pa、ターゲットと基板間距離(Ts)9.0cmとした。また、投入電力は1.2W/cm2とした。
最後に、SiO2を200nmの厚さにスパッタして保護層として、有機EL発光素子を得た。この有機EL発光素子は、それぞれ2本ずつの平行ストライプ状陰電極と、8本の平行ストライプ状用電極を互いに直交させ、2×2mm縦横の素子単体(画素)を互いに2mmの間隔で配置し、16画素の素子としたものである。
このようにして得られた有機EL素子を9Vで駆動させたところ、本発明の環状ポリオレフィンフィルム(参考例を含む)を用いた透明導電性フィルム401~409は、350cd/m2以上の輝度が得られた。
本発明によれば、ガラス転移温度が高く、また線膨張率の低い有機ELディスプレイ用、又はタッチパネル用等、優れたディスプレイ基板用透明フィルムを提供することができる。
実施例5
実施例1で作製した本発明の環状ポリオレフィンフィルム(参考例を含む)102~104、106~109、112及び113を、ナノインプリント用の基材フィルム(支持体)として用いた。
(レーザー干渉露光によるモールドの作製)
石英ガラス基板(厚さ1.2mm、70mm角)にレジストをスピンコートで塗布する。レジスト材料としては、露光部分のレジストを除去するポジ型レジストを用いる。
液浸露光光学系を用いて、レジストに微細なパターンを描画する。液浸露光光学系は、紫外線レーザー(波長266nm)を使用して、石英ガラス基板の法線方向に対する傾き15度で二つの光束を照射してレジストに第1の干渉縞を形成し、第1の露光を行う。レーザー光源としては「コヒーレント社製MBD266」が用いられる。次に、石英ガラス基板を90度回転させ、第1の干渉縞に直交する第2の干渉縞を形成して、第2の露光を行う。第1の露光と第2の露光で、干渉縞の明るい部分が交差した部分のみが残るように現像を行う。以上のプロセスで、石英ガラス基板上に、ピッチ300nm、深さ150nmのホールが規則正しく並んだレジストが形成された。ドライエッチングで石英ガラスに描画サイズ50mm角の微細なホール構造(ピッチ300nm、深さ150nm)を形成した。
(石英ガラス基板の離型処理)
塩素系フッ素樹脂含有シランカップリング剤であるトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルトリクロロシラン[CF3-(CF2)5-CH2-CH2SiCl3]で石英ガラス製のモールドを表面処理し、微細な形状表面へフッ素樹脂の化学吸着膜を生成した。
(液状組成物の準備)
樹脂として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を準備し、トルエンに溶解して液状組成物を作製した。樹脂と溶媒の質量比率を1/20(5%)とした。
(液状組成物の塗布)
液晶組成物をワイヤーバーにより、80μmのウェット膜厚で石英ガラス基板上に塗布した。
(フィルムの貼合)
液状組成物を塗布後5秒以内に、環状ポリオレフィンフィルム102~104、106~109、112及び113を、塗布した液状組成物にそれぞれ密着させて貼合した。
(乾燥)
液状組成物が塗布された石英ガラス基板と環状ポリオレフィンフィルムとが貼合された状態で室温で55秒乾燥させた。
(離型)
乾燥後、フィルムを離型したところ、フィルム上にピッチ300nm、高さ150nmのピラー形状が転写された。表面を走査型顕微鏡で観察したところ、該ピッチ、高さとも優れた均一性を有していた。
以上から、実施例1で作製した本発明の環状ポリオレフィンフィルム(参考例を含む)102~104、106~109、112及び113は、ナノインプリント用の基材フィルム(支持体)として用いることに優れている。
実施例6
実施例1で作製した本発明の環状ポリオレフィンフィルム(参考例を含む)102~104、106~109、112及び113を、フレキシブル電子回路用の基材フィルム(支持体)として用いた。
(アンカー層付基板1の作製)
〈エチレン性の不飽和基を有する重合性化合物1の合成〉
下記の手順に従って、重合性基としてエチレン性の不飽和基を有する重合性化合物1を合成した。
500mLの三つ口フラスコに、エチレングリコールジアセテートを20mL、ヒドロキシエチルアクリレートを7.43g、シアノエチルアクリレートを32.08g添加し、80℃に昇温した後、その中に、油溶性アゾ重合開始剤としてV-601(ジメチル-2,2′-アゾビス(2-メチルイソプロピオネート))の0.737g及びエチレングリコールジアセテートの20mLの混合液を4時間かけて滴下し、滴下終了後、更に3時間反応させた。
上記反応溶液に、ジ-tert-ブチルハイドロキノンを0.32g、ネオスタンU-600(オクチル酸ビスマス、日東化成製)を1.04g、光硬化性樹脂添加剤としてカレンズAOI(アクロキシエチルイソシアネート、昭和電工(株)製)を21.87g、及びエチレングリコールジアセテートを22g添加し、55℃で6時間反応を行った。その後、反応液にメタノールを4.1g加え、さらに1.5時間反応を行った。反応終了後、水で再沈を行い、固形物を取り出し、相互作用性基としてニトリル基を有する重合性化合物1を得た。
重合性化合物1は、重合性基(エチレン性の不飽和基)を含有する繰り返し単位:ニトリル基を含有する繰り返し単位=22:78(モル比)であった。また、分子量はポリスチレン換算で、Mw=8.2万(Mw/Mn=3.4)であった。
〈アンカー層塗布液1の調製〉
上記調製した重合性化合物1を10質量部と、アセトニトリルを90質量部混合して撹拌し、固形分が10質量%のアンカー層塗布液1を調製した。
〈アンカー層1の形成〉
基板として実施例1で作製した環状ポリオレフィンフィルム102を用い、その表面を酸素プラズマ処理した後、アンカー層塗布液1を、乾燥後の膜厚が1.0μmとなるように、スピンコート塗布方式で塗布し、80℃で30分間乾燥した。
〈アンカー層1の硬化処理〉
次いで、三永電機製のUV照射ランプ(型番:UVF-502S、ランプ:UXM-501MD)を用い、1.5mW/cm2の照射パワー(ウシオ電機製紫外線積算光量計UIT150-受光センサーUVD-S254で照射パワーを測定)、積算光量が500mJ/cm2の条件で紫外線照射を行って、アンカー層1を硬化させた。この硬化条件を、条件Aと称す。
上記条件Aで硬化したアンカー層1を単離し、アセトン液中で、25℃で12時間の抽出処理を行った後、処理前のアンカー層の質量をW1(g)、アセトン抽出後のアンカー層の質量をW2(g)としたとき、下式によりゲル分率を求めた。測定の結果、アンカー層1のゲル分率は93%であった。
ゲル分率(%)=(W2/W1)×100
《金属パターンの作製》
〔金属パターン1の作製〕
上記作製したアンカー層付基板1を用いて、下記の金属パターンの形成工程に従って、金属パターン1を作製した。
(金属パターンの形成工程)
1:触媒インクの付与工程
2:乾燥工程
3:表面処理工程
4:活性化工程
5:無電解めっき工程
6:電気めっき工程
(1:触媒インクの付与工程)
〈触媒インク1の調製〉
下記の各添加剤を混合して、触媒インク1を調製した。
無電解めっきの触媒前駆体:酢酸パラジウム 0.05質量%
2酢酸エチレン 79.95質量%
t-ブチルアルコール 20質量%
〈触媒インク1の付与〉
上記調製した触媒インク1を、インクジェット記録ヘッドを用いて、前記形成したアンカー層付基板1のアンカー層上に、75μm、100μm、150μm、200μmの各ライン&スペースのパターン描画を行って、試料1を作製した。
使用したインクジェット記録ヘッドは、ピエゾ方式で4plサイズのインク液滴を吐出することが可能なコニカミノルタ社製の512Sヘッドを用いた。
(2:乾燥工程)
上記触媒インク1を付与した後、50℃の温風を、触媒インク付与面へ10分間吹き付けて、乾燥した。
(3:表面処理工程)
乾燥を行った上記試料1に対し、下記の方法に従って、表面処理方法を施した。
〈表面処理方法〉
ノニオン性界面活性剤含有のメッキコンディショナー(商品名:PC-321、メルタック社製)の10質量%溶液に、上記試料1を60℃で、5分間浸漬させて、表面処理を施した。
上記表面処理を施した試料1と、未処理の試料の水に対する接触角を測定した結果、表面処理により接触角が20%以上低下していることを確認した。
(4:活性化工程)
次いで、表面処理を施した試料1に対し、下記の活性化液に35℃で10分間浸漬して、活性化処理を施した。
〈活性化液〉
反射光又は反対側の面から出射する透過光のいずれかを撮影して測定する。
アルカップMRD2-A(上村工業社製) 18mL
アルカップMRD2-C(上村工業社製) 60mL
純水で1000mLに仕上げた。
(5:無電解めっき工程)
下記の無電解銅めっき溶液を、水酸化ナトリウムで、pHを13.0に調整した後、50℃の温度で、5:活性化処理を施した試料1に無電解めっき処理を行い、約0.2μmの膜厚の銅メッキ層を形成した。
〈無電解銅めっき溶液〉
メルプレートCU-5100A(メルテックス社製) 60mL
メルプレートCU-5100B(メルテックス社製) 55mL
メルプレートCU-5100C(メルテックス社製) 20mL
メルプレートCU-5100M(メルテックス社製) 40mL
純水で1000mLに仕上げた。
上記無電解銅めっき溶液は、銅濃度として2.5質量%、ホルマリン濃度が1質量%、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)濃度が2.5質量%である。
(6:電気めっき工程)
上記無電解めっき処理を施した試料1を電気めっき浴に浸漬し、陽極として銅板を用い、電流密度1.5A/dm2で電気めっきを行い、約15μmの銅膜を形成して、金属パターン1を作製した。
〈電気めっき浴の調製〉
硫酸銅五水塩 60g
硫酸 190g
塩素イオン 50mg
カッパーグリームPCM(メルテックス社製) 5mL
純水で1000mLに仕上げた。
以上の工程と同様にして、環状ポリオレフィンフィルム103、104、106~109、112及び113を、フレキシブル電子回路用の基材フィルム(支持体)として用いた。
《金属パターンの評価》
上記作製した各金属パターンについて、下記の各評価を行った。
〔めっき品質の評価〕
各金属パターンの無電解めっき工程まで処理を行った試料の描画した75μm、100μm、150μm、200μmのライン&スペースパターンについて目視観察し、下記の基準に従って画像品質の評価を行った。
○:無電解めっき終了後のライン&スペースパターンでは、印字部外への異常析出が無く、めっきの光沢低下やクラック等も見られず良好な品質である
△:無電解めっき終了後のライン&スペースパターンでは、印字部外への異常析出が僅かに発生するが、めっきの光沢低下やクラック等は認められない
×:無電解めっき終了後のライン&スペースパターンでは、印字部外への異常析出、めっきの光沢低下、クラックの発生のいずれか一つが発生している
実用上△以上が許容内である。
〔高温・高湿環境下での耐久性(密着耐性)の評価〕
上記作製した各金属パターンを、80℃、90%RHの高温・高湿環境下で7日間保存した後、直ちに、240℃、260℃のホットプレート上で加熱処理を行い、基板と銅めっきパターン間の密着性(ブリスターの発生の有無)を目視観察し、下記の基準に従って、耐久性(密着耐性)の評価を行った。
○:ホットプレート上で260℃に加熱しても、基板と銅めっきパターン間でのブリスターの発生は認められない
△:ホットプレート上で240℃に加熱しても、基板と銅めっきパターン間でのブリスターの発生は認められないが、260℃の加熱では、ややブリスターの発生が認められる
×:ホットプレート上で240℃に加熱すると、明らかに基板と銅めっきパターン間でのブリスターの発生は認められる
上記評価を行ったところ、本発明の環状ポリオレフィンフィルム(参考例を含む)102~104、106~109、112及び113を用いて金属パターンを作製した試料は、いずれも△~○の評価であり、優れたフレキシブル電子回路用の基材フィルム(支持体)であることが分かった。
実施例7
実施例1で作製した本発明の環状ポリオレフィンフィルム(参考例を含む)102~104、106~109、112及び113を偽造防止用媒体の基材フィルム(支持体)として用いた。
(配向層用塗布液AL-1の調製)
下記の組成物を調製し、孔径30μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して、配向層用塗布液AL-1として用いた。
〈配向層用塗布液組成〉
ポリビニルアルコール(PVA205、クラレ(株)製) 3.21質量%
ポリビニルピロリドン(Luvitec K30、BASFジャパン(株)製)
1.48質量%
蒸留水 52.10質量%
メタノール 43.21質量%
(配向層用塗布液AL-2の調製)
下記の組成物を調製し、孔径30μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して、配向層用塗布液AL-2として用いた。
〈配向層用塗布液AL-2組成〉
液晶配向剤(AL-1-1) 1.0質量%
テトラヒドロフラン 99.0質量%
(光学異方性層用塗布液LC-1の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して、光学異方性層用塗布液LC-1として用いた。
LC-1-1は二つの反応性基を有する液晶化合物であり、二つの反応性基の片方はラジカル性の反応性基であるアクリル基、他方はカチオン性の反応性基であるオキセタン基である。
〈光学異方性層用塗布液組成〉
重合性液晶化合物(LC-1-1) 32.88質量%
水平配向剤(LC-1-2) 0.05質量%
カチオン系光重合開始剤
(CPI100-P、サンアプロ株式会社製) 0.66質量%
重合制御剤
(IRGANOX1076、BASFジャパン(株)製)
0.07質量%
メチルエチルケトン 46.34質量%
シクロヘキサノン 20.00質量%
(光学異方性層用塗布液LC-2の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して、光学異方性層用塗布液LC-1として用いた。
〈光学異方性層用塗布液LC-1組成〉
ジアクリレート液晶化合物
(Paliocolor LC242(商品名、BASFジャパン(株)製))
31.53質量%
光重合開始剤
(IRGACURE907(商品名、BASFジャパン(株)製))
0.99質量%
アルキルチオキサントン
(カヤキュアDETX-S(商品名、日本化薬(株)製)) 0.33質量%
フッ素系界面活性剤
(メガファックF-176PF(商品名、DIC(株)製))
0.15質量%
メチルエチルケトン 67.00質量%
(添加剤層OC-1の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して、転写接着層用塗布液OC-1として用いた。ラジカル光重合開始剤RPI-1としては2-トリクロロメチル-5-(p-スチリルスチリル)1,3,4-オキサジアゾールを用いた。下記組成はその溶液としての使用量である。
〈添加剤層用塗布液組成〉
バインダー(MH-101-5、藤倉化成(株)製) 7.63質量%
ラジカル光重合開始剤(RPI-1) 0.49質量%
界面活性剤 0.03質量%
(メガファックF-176PF、DIC(株)製)
メチルエチルケトン 91.85質量%
(複屈折パターン作製材料P-1の作製)
環状ポリオレフィンフィルム102の上にアルミニウムを60nm蒸着し、反射層付き支持体を作製した。そのアルミニウムを蒸着した面上にワイヤーバーを用いて配向層用塗布液AL-1を塗布、乾燥した。乾燥膜厚は0.5μmであった。配向層をラビング処理した後、ワイヤーバーを用いて光学異方性層用塗布液LC-1を塗布、膜面温度90℃で2分間乾燥して液晶相状態とした後、空気下にて160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて紫外線を照射してその配向状態を固定化して厚さ4.5μmの光学異方性層を形成した。この際用いた紫外線の照度はUV-A領域(波長320~400nmの積算)において500mW/cm2、照射量はUV-A領域において500mJ/cm2であった。光学異方性層のリターデーションは400nmであり、20℃で固体のポリマーであった。最後に、光学異方性層の上に添加剤層用塗布液OC-1を塗布、乾燥して0.8μmの添加剤層を形成し、実施例1の複屈折パターン作製材料P-1を作製した。
(偽造防止媒体A:リターデーションのパターニングされた複屈折パターン)
P-1をレーザー走査露光によるデジタル露光機(INPREX IP-3600H、富士フイルム(株)製)にて図45に示すように、0mJ/cm2、8mJ/cm2、25mJ/cm2の露光量を用いてロールtoロールでパターン露光した。図中、無地で示した領域の露光量が0mJ/cm2、横線で示した領域の露光量が8mJ/cm2、縦線で示した領域の露光量が25mJ/cm2となるように露光した。その後、遠赤外線ヒーター連続炉を用い、ロールtoロールにて、膜面温度が210℃となるように20分間加熱して、複屈折パターンを有する物品P-2を作製した。物品P-2の上に偏光板(HLC-5618、サンリッツ(株)製)をかざしたところ、所定の方向でかざしたときに、物品P-2に施した複屈折パターンを確認することができた。物品P-2の上に偏光板を介して観察されるパターンの拡大図を図46に示す。図中、地のアルミ箔が銀色を呈するのに対し、格子部は紺色ないし水色、斜線部は黄色ないし橙色を呈する二色のパターンが観察される。
(偽造防止媒体B::光軸のパターニングされた複屈折パターン)
環状ポリオレフィンフィルム102の上にアルミニウムを60nm蒸着した。次いで、アルミニウムの上に、ワイヤーバーを用いて配向層用塗布液AL-2を塗布、乾燥した。乾燥膜厚は0.1μmであった。
得られた有機膜の上に図47に示すフォトマスクAを配置し、紫外線照射器(HOYACANDEO OPTRONICS社製、商品名:EXECURE3000)より出射さ
れる紫外光より出射される光を、直線偏光板を介して、支持体に対して垂直の方向から100mW/cm2(365nm)の強度で1秒間照射した。このとき、直線偏光板の吸収軸の方位角がフォトマスクの長辺に対して0°となるように偏光板を配置した。
続いて、フォトマスクを図47に示すB、C、Dと順に変更し、直線偏光板の吸収軸がそれぞれフォトマスクの長辺に対して45°、90°、135°となるように偏光板を配置した上で、同様に紫外線を照射した。
次いで、ワイヤーバーを用いて、光学異方性層用塗布液LC-2を塗布、膜面温度105℃で2分間乾燥して液晶相状態とした後、空気下にて160mW/cm2の空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて照度400mW/cm2、照射量400mJ/cm2の紫外線を照射してその配向状態を固定化して厚さ0.9μmの光学異方性層を形成することで、図48の平面図に示すパターンの、偽造防止媒体Bを作製した。
図48に示すように、偽造防止媒体Bの文字A12、文字B13、文字C14、背景15の遅相軸はそれぞれ、長辺に対して0°、45°、90°、135°であった。また、これらの領域のリターデーションはいずれも135nm(λ/4)であった。
(製造例1)
偽造防止媒体Aを、表面改質装置MEIR-5-600(MDエキシマー社製)にて処理した。その後、UV161墨、紅、藍、黄(T&K社製)を用いて文字、及び、図柄を凸版印刷した。その後、サンカットPLシン7LK(リンテック(株)製、正面リターデーション=5nm、膜厚50μm)を用い、ドライラミネーションを行い、製造例1の偽造防止媒体を作製した。
(製造例2)
偽造防止媒体Aを偽造防止媒体Bとする以外は、製造例1と同様に、製造例2の偽造防止媒体を作製した。
(製造例3)
ラミネートフィルムとして、表面をサンドブラスト処理したサンカットPLシン7LK(リンテック(株)製、正面リターデーション=5nm、膜厚50μm)を用いる以外は、製造例1と同様に、製造例3の偽造防止媒体を作製した。
(製造例4)
製造例1の偽造防止媒体の上に、LUXEL JET UV250GT(富士フイルム(株)製)を用い、KIインクにより、バリアブル情報を印字した。このようにして、製造例4の偽造防止媒体を作製した。
(製造例5)
偽造防止媒体Aを、表面改質装置MEIR-5-600(MDエキシマー社製)にて処理した。その後、LUXEL JET UV250GT(富士フイルム(株)製)を用い、KIインクにより印刷を行った。その後、サンカットPLシン7LK(リンテック(株)製、正面リターデーション=5nm、膜厚50μm)を用い、ドライラミネーションを行い、製造例5の偽造防止媒体を作製した。
(製造例6)
偽造防止媒体Aを、表面改質装置MEIR-5-600(MDエキシマー社製)にて処理した。その後、UVフレキソ500墨、紅、藍、黄(T&K社製)を用いて文字、及び、図柄を凸版印刷した。その後、サンカットPLシン7LK(リンテック(株)製、正面リターデーション=5nm、膜厚50μm)を用い、ドライラミネーションを行い、製造例6の偽造防止媒体を作製した。
(製造例7)
偽造防止媒体Aを、表面改質装置MEIR-5-600(MDエキシマー社製)にて処理した。その後、文字、及び、図柄をスクリーン印刷した。その後、サンカットPLシン7LK(リンテック(株)製、正面リターデーション=5nm、膜厚50μm)を用い、ドライラミネーションを行い、製造例6の偽造防止媒体を作製した。
(製造例8)
ラミネートフィルムとして、KES25Nマット PLシン 7LK(リンテック(株)製、正面リターデーション=33nm、膜厚25μm)を用いる以外は、製造例1と同様に、製造例8の偽造防止媒体を作製した。
(製造例9)
ラミネートフィルムとして、トリアセチルセルロース(商品名:TDP、富士フイルム(株)製、正面リターデーション=1nm、膜厚60μm)に、粘着剤(商品名:Z2-25、パナック(株)製)を張り合わせたものを用いる以外は、製造例1と同様に、製造例9の偽造防止媒体を作製した。
同様にして、環状ポリオレフィンフィルム103、104、106~109、112及び113を偽造防止用媒体の基材フィルム(支持体)として用いた。
製造例1~9の偽造防止媒体は、いずれも、潜像視認性に優れ、かつ、テープ密着試験や耐擦過性試験によって印刷が剥がれず、耐久性に優れていた。したがって、本発明の環状ポリオレフィンフィルム(参考例を含む)は、偽造防止用媒体の基材フィルム(支持体)として好ましく用いることができることが分かった。