JP7320010B2 - 二次電池用電極の製造方法および電極ならびに該電極を備える二次電池 - Google Patents

二次電池用電極の製造方法および電極ならびに該電極を備える二次電池 Download PDF

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Description

本発明は、二次電池用電極の製造方法および二次電池の製造方法ならびに二次電池
に関する。
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、車両搭載用の高出力電源、あるいは、パソコンおよび携帯端末の電源として好ましく利用されている。この種の二次電池に備えられる正極および負極(以下、正負極を特に区別しない場合は単に「電極」という。)の典型的な構造として、箔状の電極集電体の片面もしくは両面に電極活物質を主成分とする電極活物質層が形成されているものが挙げられる。
かかる電極活物質層は、電極活物質、結着材(バインダ)、導電材等の固形分を所定の溶媒中に分散して調製したスラリー(ペースト)状の電極材料を集電体の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥させた後、プレス圧をかけて所定の密度、厚さとすることにより形成される。二次電池はさらなる高性能化を求められており、例えば、高容量化を目的として電極を従来よりも厚くすることが行われている。
また、高性能化の他の方針として、電極に所望する形状を付与することが行われてもいる。例えば、特許文献1においては、電極活物質の膨張による応力の緩和等を目的として、負極活物質層に凹凸を形成することが開示されている。かかる凹凸の形成方法として、特許文献1には、負極活物質粒子を含む負極活物質合材ペーストを負極集電体に塗布し、乾燥して負極活物質層を形成した後、溶媒をかかる合材層に供給し、凹凸パターンを有する型を押し当てることによって、凹凸パターンを形成する方法が開示されている。
特開2015-138619号公報
ところで、高容量化のために電極材料(塗膜)を集電体に厚く塗布した場合には、電極の機械的強度が高くなる一方で可撓性が不足し、二次電池の製造工程において割れが発生しやすくなる傾向にある。特に、製造工程の中で搬送経路が屈曲している場合には、可撓性が不足することによって搬送経路に追従することができず、塗膜の割れや集電体からの剥離が生じやすい。また、乾燥後の塗膜(すなわち電極)を用いて捲回電極体を構築する際にも、可撓性の不足により外周と内周の円周差によって割れが生じることがあった。
かかる問題に対して、例えば、可撓性を向上させ得る形状を付与するために特許文献1に記載の技術を用いた場合には、展延性が悪いため所望する形状の凹凸を形成することが困難であることを見出した。また、強度が高い電極活物質層に対して溝を形成しようとすることにより、集電体を損傷する虞もある。これに加えて、従来技術によっては、乾燥後に溝を形成するため、それ以前の工程において塗膜の可撓性を向上させることについては何らの検討もされていなかった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、塗膜に可撓性を付与することで、塗膜の割れを抑制する電極の製造方法を提供することにある。また、他の目的はかかる特性を有する電極と、該電極を備える電池を提供することにある。
上記目的を実現するべく、二次電池用電極の製造方法が提供される。ここに開示される電極の製造方法は、正負極いずれかの電極集電体および電極活物質層を有する電極の製造方法であって、以下の工程:電極活物質とバインダ樹脂と溶媒とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程、ここで、前記湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している;前記湿潤粉体を用いて、前記電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、該塗膜の気相を残した状態で成膜する工程、ここで、前記塗膜の平均膜厚t(μm)は、50μm以上となるように成膜される;前記集電体上の塗膜を搬送し、ロール型を用いて凹凸転写することにより、該塗膜の表面部に搬送方向と直交する方向に延びる溝を複数形成する工程、ここで、前記溝の深さt(μm)は、(9/10×t)>tを満たすように形成される;および、前記集電体上に形成された塗膜を乾燥させて電極活物質層を形成する工程;を包含する。
かかる構成によれば、成膜工程後、乾燥工程前の塗膜の表面部に搬送方向に直交する方向に延びる溝を形成することにより、塗膜の可撓性を向上させることができる。これにより、製造工程における塗膜の割れを抑制することができ、高品質な電極を製造する方法を提供することができる。
ここに開示される電極製造方法の好適な一態様では、前記湿潤粉体を用意する工程において用意される湿潤粉体が、所定の容積(mL)の容器に力を加えずにすり切りに湿潤粉体(g)を入れて計測した嵩比重を緩め嵩比重X(g/mL)とし、気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重を真比重Y(g/mL)としたときに、緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/Xが、1.2以上である。
かかる構成によれば、乾燥工程前の塗膜に搬送方向に直交する方向に延びる溝を、より好適に形成することができる。
上記他の目的を実現するべく、二次電池用電極が提供される。ここに開示される電極は、正負極いずれかの電極であって、長尺シート状の電極集電体と、該電極集電体上に形成された電極活物質層と、を備えており、前記電極活物質層の表面部には、前記集電体の幅方向に延びる溝が複数形成されている。前記溝が形成されている領域において、前記電極活物質層の表面から前記集電体に至る厚み方向に上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、前記溝が形成されている領域の該上層、該中間層および該下層の電極密度(g/cm)をそれぞれd、d、dとしたときに、0.8<(d/d)<1.1の関係を具備している。
かかる構成によれば、可撓性が向上する溝を電極活物質層の表面に有する電極を提供することができる。
上記他の目的を実現するべく、二次電池が提供される。ここに開示される二次電池は、長尺シート状の正極集電体上に正極活物質層を備える正極および長尺シート状の負極集電体上に負極活物質層を備える負極と、セパレータとが捲回軸を中心に捲回された捲回電極体と、非水電解質と、を備える二次電池であって、前記正極および前記負極の少なくとも一方が上記に記載される電極を用いることを特徴とする。
かかる構成によれば、可撓性が向上した電極を用いることにより、電極欠損による容量低下や金属リチウムの析出による短絡の発生が抑制された二次電池を提供することができる。
一実施形態に係る電極製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。 一実施形態に係る電極製造装置の構成を模式的に示すブロック図である。 湿潤粉体を構成する凝集粒子における固相(活物質粒子等の固形分)、液相(溶媒)、気相(空隙)の存在形態を模式的に示す説明図であり、(A)はペンジュラー状態、(B)はファニキュラー状態、(C)は、キャピラリー状態、(D)はスラリー状態を示す。 一実施形態に係る溝形成工程を模式的に示す図である。 一実施形態に係る電極の模式部分断面図である。 一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す説明図である。 一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を模式的に示す説明図である。
以下、二次電池の典型例であるリチウムイオン二次電池に好適に採用される電極を例として、ここで開示される電極の製造方法の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される電極の製造方法は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
また、本明細書において範囲を示す「A~B(ただし、A,Bは任意の値。)」の表記は、A以上B以下を意味するものとする。
本明細書において、「二次電池」とは、繰り返し充電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池(すなわち化学電池)の他、電気二重層キャパシタ(すなわち物理電池)を包含する。また、また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される非水電解液二次電池をいう。本明細書では、正極および負極を特に区別する必要がないときは、単に電極と記載している。
<電極の製造方法>
図1に示すようにここに開示される電極の製造方法は、大まかに言って、以下の5つの工程:(1)湿潤粉体(電極材料)を用意する工程(S1);(2)湿潤粉体からなる塗膜を成膜する工程(S2);(3)塗膜に搬送方向と直交する方向に延びる溝を複数形成する工程(S3);(4)塗膜を乾燥する工程(S4);を包含しており、乾燥工程前の塗膜に搬送方向と直交する方向に延びる溝を形成する点において特徴づけられている。したがって、その他の工程は特に限定されず、従来この種の製造方法と同様の構成でよい。以下、各工程について説明する。
図2は、ここで開示される電極製造方法に係る電極製造装置の概略構成を、模式的に示したブロック図である。図2に示される電極製造装置100は、典型的には、図示しない供給室から搬送されてきたシート状電極集電体12を長手方向に沿って搬送しながら、電極集電体12の表面上に電極材料30からなる塗膜32を成膜する成膜部120と、該塗膜32の表面に搬送方向に直交する方向に延びる溝を形成する塗膜加工部130と、塗膜32を適切に乾燥させて電極活物質層を形成する乾燥部140とを備える。これらは、予め定められた搬送経路に沿って、順に配置されている。
<用意工程>
電極材料30は、電極活物質、溶媒、バインダ樹脂、その他の添加物等の材料を従来公知の混合装置を用いて、混合することによって用意することができる。かかる混合装置としては、例えば、プラネタリーミキサー、ボールミル、ロールミル、ニーダ、ホモジナイザー等が挙げられる。
電極材料30は、ペースト、スラリー、および造粒体の形態をとり得るが、造粒体、特に溶媒を少量含む湿潤状態の造粒体(湿潤粉体)が、ここに開示される電極製造装置100において、電極活物質層を電極集電体12上に成膜するという目的に適している。なお、本明細書において、湿潤粉体の形態的な分類に関しては、Capes C. E.著の「Particle Size Enlargement」(Elsevier Scientific Publishing Company刊、1980年)に記載され、現在は周知となっている4つの分類を、本明細書においても採用しており、ここで開示される湿潤粉体は明瞭に規定されている。具体的には、以下のとおりである。
湿潤粉体を構成する凝集粒子における固形分(固相)、溶媒(液相)および空隙(気相)の存在形態(充填状態)に関しては、「ペンジュラー状態」、「ファニキュラー状態」、「キャピラリー状態」および「スラリー状態」の4つに分類することができる。
ここで「ペンジュラー状態」は、図3の(A)に示すように、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2間を架橋するように溶媒(液相)3が不連続に存在する状態であり、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在し得る。図示されるように溶媒3の含有率は相対的に低く、その結果として凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4の多くは、連続して存在し、外部に通じる連通孔を形成している。そしてペンジュラー状態では、電子顕微鏡観察(例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)観察)において凝集粒子1の外表面の全体にわたって連続した溶媒の層が認められないことが特徴として挙げられる。
また、「ファニキュラー状態」は、図3の(B)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率がペンジュラーよりも相対的に高い状態であり、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2の周囲に溶媒(液相)3が連続して存在する状態となっている。但し、溶媒量は依然少ないため、ペンジュラー状態と同様に、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在する。一方、凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4のうち、外部に通じる連通孔の割合はやや減少し、不連続な孤立空隙の存在割合が増加していく傾向にあるが連通孔の存在は認められる。
ファニキュラー状態は、ペンジュラー状態とキャピラリー状態との間の状態であり、ペンジュラー状態寄りのファニキュラーI状態(即ち、比較的溶媒量が少ない状態のもの)とキャピラリー状態寄りのファニキュラーII状態(即ち、比較的溶媒量が多い状態のもの)とに区分したときのファニキュラーI状態では、依然、電子顕微鏡観察において凝集粒子1の外表面に溶媒の層が認められない状態を包含する。
「キャピラリー状態」は、図3の(C)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率が増大し、凝集粒子1中の溶媒量は飽和状態に近くなり、活物質粒子2の周囲において十分量の溶媒3が連続して存在する結果、活物質粒子2は不連続な状態で存在する。凝集粒子1中に存在する空隙(気相)も、溶媒量の増大により、ほぼ全ての空隙(例えば全空隙体積の80vol%)が孤立空隙として存在し、凝集粒子1に占める空隙の存在割合も小さくなる。
「スラリー状態」は、図3の(D)に示すように、もはや活物質粒子2は、溶媒3中に懸濁した状態であり、凝集粒子とは呼べない状態となっている。気相はほぼ存在しない。
従来から湿潤粉体を用いて成膜する湿潤粉体成膜は知られていたが、従来の湿潤粉体成膜において、湿潤粉体は、粉体の全体にわたって液相が連続的に形成された、いわば図3(C)に示す「キャピラリー状態」にあった。
これに対して、ここで開示される湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の凝集粒子1が、(1)上記ペンジュラー状態およびファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)を形成している湿潤粉体である。好ましくは、気相を制御することによって、(2)電子顕微鏡観察において該凝集粒子の外表面の全体にわたって前記溶媒からなる層が認められないことを一つの形態的特徴として有する。
以下、ここで開示される上記(1)および(2)の要件を具備する湿潤粉体を「気相制御湿潤粉体」という。
なお、ここに開示される気相制御湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の凝集粒子が上記(1)および(2)の要件を具備することが好ましい。
気相制御湿潤粉体は、従来のキャピラリー状態の湿潤粉体を製造するプロセスに準じて製造することができる。即ち、従来よりも気相の割合が多くなるように、具体的には凝集粒子の内部に外部に至る連続した空隙(連通孔)が多く形成されるように、溶媒量と固形分(活物質粒子、バインダ樹脂、等)の配合を調整することによって、上記ペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)に包含される電極材料(電極合材)としての湿潤粉体を製造することができる。
また、最小の溶媒で活物質間の液架橋を実現するために、使用する粉体材料の表面と使用する溶媒には、適度な親和性があることが望ましい。
好ましくは、ここで開示される好適な気相制御湿潤粉体として、電子顕微鏡観察で認められる三相の状態がペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)であって、さらに、得られた湿潤粉体を所定の容積の容器に力を加えずにすり切りに入れて計測した実測の嵩比重である、緩め嵩比重X(g/mL)と、気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重である、原料ベースの真比重Y(g/mL)とから算出される「緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/X」が、1.2以上、好ましくは1.4以上(さらには1.6以上)であって、好ましくは2以下であるような湿潤粉体が挙げられる。
電極活物質層を形成する電極材料30は、少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含有している。
固形分の主成分である電極活物質としては、従来の二次電池(ここではリチウムイオン二次電池)の負極活物質あるいは正極活物質として採用される組成の化合物を使用することができる。例えば、負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。また、正極活物質としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のリチウム遷移金属複合酸化物、LiFePO等のリチウム遷移金属リン酸化合物が挙げられる。電極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm~50μm程度が適当であり、1~20μm程度が好ましい。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、一般的なレーザ回折・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。
溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)や、水系溶媒(水または水を主体とする混合溶媒)等を好ましく用いることができる。
バインダ樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。使用する溶媒に応じて適切なバインダ樹脂が採用される。
電極材料30は、固形成分として電極活物質およびバインダ樹脂以外の物質、例えば、導電材や増粘剤等を含有していてもよい。導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやカーボンナノチューブのような炭素材料が好適例として挙げられる。また、増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等を好ましく用いることができる。電極材料30は、上述した以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。
なお、本明細書において、「固形成分」とは、上述した各材料のうち溶媒を除く材料(固形材料)のことをいい、「固形分率」とは、各材料すべてを混合した電極材料のうち、固形成分が占める割合のことをいう。
上述したような各材料を用いて、湿潤造粒を行い、目的の湿潤粉体を製造することができる。具体的に例えば、撹拌造粒機(プラネタリーミキサー等のミキサー)を用いて各材料を混合することによって、湿潤粉体(即ち凝集粒子の集合物)を製造する。この種の撹拌造粒機は、典型的には円筒形である混合容器と、当該混合容器の内部に収容された回転羽根と、回転軸を介して回転羽根(ブレードともいう)に接続されたモータとを備えている。
用意工程S1においては、上記した各材料のうち、先ず、溶媒を除く材料(固形成分)を予め混合して溶媒レスの乾式分散処理を行う。これにより、各固形成分が高度に分散した状態を形成する。その後、当該分散状態の混合物に、溶媒その他の液状成分(例えば液状のバインダ)を添加してさらに混合することが好ましい。これによって、各固形成分が好適に混合された湿潤粉体を製造することができる。
具体的には、撹拌造粒機の混合容器内に固形分である電極活物質と種々の添加物(バインダ樹脂、増粘材、導電材、等)を投入し、モータを駆動させて回転羽根を、例えば、2000rpm~5000rpmの回転速度で1~60秒間(例えば2~30秒)程度、回転させることによって各固形成分の混合体を製造する。そして、固形分が70%以上、より好ましくは80%以上(例えば85~98%)になるように計量された適量の溶媒を混合容器内に添加し、撹拌造粒処理を行う。特に限定するものではないが、回転羽根を例えば100rpm~1000rpmの回転速度で1~60秒間(例えば2~30秒)程度さらに回転させる。これによって、混合容器内の各材料と溶媒が混合されて湿潤状態の造粒体(湿潤粉体)を製造することができる。なお、さらに1000rpm~3000rpm程度の回転速度で1~5秒間程度の短い撹拌を断続的に行うことで、湿潤粉体の凝集を防止することができる。得られる造粒体の粒径は、例えば、50μm以上(例えば100μm~300μm)であり得る。
ここで開示される気相制御湿潤粉体は、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態(好ましくはファニキュラーI状態)を形成しており、電子顕微鏡観察において凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められない程度に溶媒含有率が低く(例えば溶媒分率が2~15%程度、3~8%であり得る)、逆に気相部分は相対的に大きい。
このような存在形態にするため、上述した用意工程S1において、気相を増大させ得る種々の処理や操作を取り入れることができる。例えば、撹拌造粒中若しくは造粒後、乾燥した室温よりも10~50度程度加温されたガス(空気または不活性ガス)雰囲気中に造粒体を晒すことにより余剰な溶媒を蒸発させてもよい。また、溶媒量が少ない状態でペンジュラー状態またはファニキュラーI状態である凝集粒子の形成を促すため、活物質粒子その他の固形成分同士を付着させるために圧縮作用が比較的強い圧縮造粒を採用してもよい。例えば、粉末原料を鉛直方向から一対のロール間に供給しつつロール間で圧縮力が加えられた状態で造粒する圧縮造粒機を採用してもよい。
<成膜工程>
ここに開示される製造方法においては、電極材料30の気相(空隙)を残した状態で塗膜32を成膜する。電極材料30からなる塗膜32の成膜は、例えば、図2に模式的に示すような成膜部120において行うことができる。図示されるように、成膜部120は、転写ロールが連続的に複数備えられている。この例では、供給ロール121に対向する第1転写ロール122、該第1転写ロールに対向する第2転写ロール123、および、該第2転写ロールに対向し、且つ、バックアップロール125にも対向する第3転写ロール124を備えている。
このような構成とすることにより、各ロール間のギャップG1~G4のサイズを異ならせ、湿潤粉体の連通孔を維持しつつ好適な塗膜を形成することができる。以下、このことを詳述する。
成膜部120において、供給ロール121の外周面と第1転写ロール122の外周面は互いに対向しており、これら一対の供給ロール121と第1転写ロール122は、図2の矢印に示すように逆方向に回転する。また、供給ロール121と第1転写ロール122とは、電極集電体12上に成膜する塗膜32の所望の厚さに応じた所定の幅(厚さ)のギャップG1があり、かかるギャップG1のサイズにより、第1転写ロール122の表面に付着させる電極材料30からなる塗膜32の厚さを制御することができる。また、かかるギャップG1のサイズを調整することにより、供給ロール121と第1転写ロール122との間を通過する電極材料30を圧縮する力を調整することもできる。このため、ギャップサイズを比較的大きくとることによって、電極材料30(具体的には凝集粒子のそれぞれ)の気相を維持した状態で成膜することができる。
第2転写ロール123および第3転写ロール124は、供給ロール121と第1転写ロール122によって圧縮された電極材料30を、該電極材料30の気相の状態を調整しながら成膜する。第2転写ロール123と第3転写ロール124とは、図2の矢印に示すように逆方向に回転する。また、第1転写ロール122と第2転写ロール123との間には第2ギャップG2、第2転写ロール123と第3転写ロール124との間には第3ギャップG3が設けられており、かかるギャップG2、G3を調整することによって、所望する厚さや気相の状態の塗膜32を製造することができ得る。
バックアップロール125は、電極集電体12を第3転写ロール124まで搬送する役割を果たす。第3転写ロール124とバックアップロール125は、図2の矢印に示すように、逆方向に回転する。また、第3転写ロール124とバックアップロール125との間には、所定の幅(厚さ)の第4ギャップG4が設けられており、かかるギャップG4のサイズにより、電極集電体12上に成膜する塗膜32の厚さを制御することができる。
電極集電体12は、この種の二次電池の電極集電体として用いられる金属製の電極集電体を特に制限なく使用することができる。電極集電体12が正極集電体である場合には、電極集電体12は、例えば、良好な導電性を有するアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特にアルミニウム(例えばアルミニウム箔)が好ましい。電極集電体12が負極集電体である場合には、電極集電体12は、例えば、良好な導電性を有する銅や銅を主体とする合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特に銅(例えば銅箔)が好ましい。電極集電体12の厚みは、例えば、概ね5μm~20μmであり、好ましくは8μm~15μmである。
供給ロール121、第1転写ロール122、第2転写ロール123、第3転写ロール124およびバックアップロール125は、それぞれが独立した図示しない駆動装置(モータ)に接続されているため、それぞれ異なる回転速度で回転させることができる。具体的には、供給ロール121の回転速度よりも第1転写ロール122の回転速度が速く、第1転写ロール122の回転速度よりも第2転写ロール123の回転速度は速く、第2転写ロール123の回転速度よりも第3転写ロール124の回転速度は速く、第3転写ロール124の回転速度よりもバックアップロール125の回転速度は速い。
このように各回転ロール間で集電体搬送方向(進行方向)に沿って回転速度を少しずつ上げていくことによって、ロール成膜を行うことができる。
ギャップのサイズは、第1ギャップG1が相対的に最大であり、第2ギャップG2、第3ギャップG3、第4ギャップG4の順に少しずつ小さくなるように設定されている(G1>G2>G3>G4)。ギャップG1~G4が電極集電体12の搬送方向(進行方向)に沿ってギャップが徐々に小さくなるように設定されているため、塗膜32の気相(空隙)の状態を調整しながら成膜することができる。特に限定するものではないが、各ギャップG1~G4のサイズ(幅)は、塗膜32の成膜時の平均膜厚tが10μm以上300μm以下(例えば、20μm以上150μm以下)となるようなギャップサイズに設定すればよい。
供給ロール121および第1転写ロール122の幅方向の両端部には、図示しない隔壁が設けられていてもよい。隔壁は、電極材料30を供給ロール121および第1転写ロール122上に保持すると共に、2つの隔壁の間の距離によって、電極集電体12上に成膜される塗膜32の幅を規定することができる。この2つの隔壁の間に、フィーダー(図示せず)等によって電極材料30が供給される。
供給ロール121、第1転写ロール122、第2転写ロール123、第3転写ロール124およびバックアップロール125のサイズは特に制限はなく、従来の成膜装置と同様でよく、例えば直径がそれぞれ50mm~500mmであり得る。これら供給ロール121、第1~3転写ロール122,123,124およびバックアップロール125の直径は同一の直径であってもよく、異なる直径であってもよい。また、塗膜32を形成する幅についても従来の成膜装置と同様でよく、塗膜32を形成する対象の電極集電体12の幅によって適宜決定することができる。
供給ロール121、第1転写ロール122、第2転写ロール123、第3転写ロール124およびバックアップロール125の外周面の材質は、従来公知の成膜装置における回転ロールの材質と同じでよく、例えば、SUS鋼、SUJ鋼、等が挙げられる。電極材料30と直接する供給ロール121および第1~3転写ロール122、123、124の外周面の材質は、金属異物の発生を防ぐために、例えば、ジルコニア、アルミナ、窒化クロム、窒化アルミ、チタニア、酸化クロムなどのセラミックスであることがより好ましい。
なお、図2では一例として、供給ロール121、第1転写ロール122、第2転写ロール123、第3転写ロール124およびバックアップロール125の配置を示しているが、それぞれのロールの配置は、これに限られるものではない。
<溝形成工程>
塗膜32に対する搬送方向と直交する方向に沿って延びる溝22の形成は、例えば、図2および図4に示すような凹凸転写ロール132とバックアップロール134とを用いて行うことができる。図示されるように、凹凸転写ロール132は、外周面に沿って回転軸に平行に伸長する凸部を有している。
ここに開示される電極の製造方法においては、空隙(気相)を残した状態で成膜された塗膜32に対して溝形成工程S3を実施する。かかる塗膜32の平均空隙率(気相率)は、少なくとも1%以上であることが好ましく、例えば1%以上55%以下、典型的には5%以上55%以下であってよい。気相を残した状態で溝を形成することにより、展延性が向上しているため、従来よりも小さい荷重で塗膜32に対して所望する溝22を付与することができる。また、溝22を形成するために荷重がかけられたとしても、塗膜32の表面部において局所的な密度の上昇(緻密化)することなく溝22を形成することができる。
なお、本明細書において、「塗膜の平均空隙率(気相率)」は、例えば、電子顕微鏡(SEM)による電極活物質層の断面観察により算出することができる。該断面画像をオープンソースであり、パブリックドメインの画像処理ソフトウェアとして著名な画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、固相または液相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行う。これにより、固相または液相が存在する部分(白色部分)の面積をS1、空隙部分(黒色部分)の面積をS2として、「S2/(S1+S2)×100」を算出することができる。これを、乾燥前の塗膜の空隙率とする。断面SEM像を複数取得し(例えば5枚以上)、かかる空隙率の平均値をここでの乾燥前の「塗膜の平均空隙率(気相率)」)とする。なお、「塗膜の平均空隙率(気相率)」には、溝形成の過程において形成された溝(すなわちマクロな空隙)は、含まない。
凹凸転写ロール132は、塗膜32の表面に溝22を形成するため、回転軸に平行に伸長する凸部を有している。バックアップロール134は、搬送されてきた電極集電体12を支持しつつ図中の矢印で示す搬送方向に送り出すためのロールである。凹凸転写ロール132とバックアップロール134とは対向する位置に配置されている。凹凸転写ロール132とバックアップロール134との間隙に、電極集電体12上の塗膜32を通すことにより、凹凸転写ロール132の凸部が塗膜32の表面に転写されることによって、塗膜32の表面に所望する溝22を形成することができる。凹凸転写ロール132の線圧は、所望する形状の溝深さ等により異なり得るため特に限定されないが、概ね15N/cm~75N/cm、例えば25N/cm~65N/cm程度に設定することができる。
溝22は、一定の間隔(ピッチ)で形成されていてもよく、異なる間隔(ピッチ)で形成されていてもよい。特に限定されるものではないが、一定のピッチで溝22が形成されるときには、250μm以上5mm以下であることが好ましく、750μm以上4mm以下であることがより好ましく、1mm以上3mm以下であることがさらに好ましい。かかる範囲のピッチで溝22が形成されることにより、塗膜32の可撓性が向上し、製造工程におけるハンドリング性が向上する。
なお、本明細書において、「溝」とは、連続したくぼみ(典型的には細長いくぼみ)のことをいい、不連続なくぼみは含まないものとする。
溝22の深さが浅すぎる場合には、塗膜32の可撓性を向上させる効果が低くなる。また、深すぎる場合には、塗膜32が破断する原因となり得るため好ましくない。かかる観点からすると、溝22の溝の深さは、塗膜32の成膜時の平均膜厚をt(μm)、溝22の深さをt(μm)としたときに、(9/10×t)>tの関係を満たす深さであればよい。溝22の深さは、例えば、(9/10×t)>t>(1/10×t)であることが好ましく、(8/10×t)≧t≧(3/10×t)であることがより好ましい。複数の溝22は、同じ深さであってもよく、異なる深さであってもよい。また、溝幅は、特に限定されるものではないが、例えば、10μm以上(例えば、10μm以上500μm以下)となるように形成されることが好ましい。
溝形成工程S3は、塗膜32の表面積を増大させるように実施することができる。特に、気相制御湿潤粉体を用いて成膜された塗膜32では、塗膜におけるLcm×Bcm(L,Bは3以上の整数)で示される基準エリアにおける表面積を、相互に異なるn(nは5以上の整数)点で計測したときの平均表面積が、1.05×L×Bcm以上(好ましくは1.1×L×Bcm以上)を実現することができる。
また、塗膜加工部130においては、プレスロール136とバックアップロール138とを用いて、塗膜32の膜厚や気相の状態を調整する機構をさらに包含していてもよい。プレスロール136は塗膜32を膜厚方向に押圧して圧縮するためのロールであり、バックアップロール138は搬送されてきた電極集電体12を支持しつつ搬送方向に送り出すためのロールである。プレスロール136とバックアップロール138とは対向する位置に配置されている。搬送されてきた電極集電体12上に形成(成膜)された塗膜32を、例えば、孤立空隙を生じさせない程度にプレスして圧縮することができる。これにより、凹凸形成がより好適に実施されるように、塗膜32の気相の状態を調整することができる。かかるプレスロール136とバックアップロール138の好適なプレス圧は、目的とする塗膜(電極活物質層)の膜厚や密度により異なり得るため特に限定されないが、例えば、0.01MPa~100MPa、例えば0.1MPa~70MPa程度に設定することができる。
塗膜32は、気相を残した状態であることにより、乾燥工程S4前に溝を形成しても、所望する溝を形成し、該溝の形状を維持することができる。また、より好適には、塗膜32は、気相制御湿潤粉体から構成されていることが好ましい。気相制御湿潤粉体は、上述したように、連通孔を維持した状態で成膜されているため、所望する溝の形成および該溝形状の維持をさらに好適に実施することができる。
<乾燥工程>
図2に示すように、ここに開示される電極の製造方法に係る電極製造装置100の塗膜加工部130よりも搬送方向の下流側には、乾燥部140として図示しない加熱器(ヒータ)を備えた乾燥室が配置されている。かかる乾燥部140は、電極集電体12上に形成された塗膜32を乾燥させて、電極活物質層を形成する。乾燥の方法については、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥、赤外線乾燥等の手法が挙げられる。
乾燥工程S4における乾燥温度(乾燥炉内の温度)は、使用する溶媒の種類や、塗膜32の固形分率等によって変動するため、特に限定されるものではないが、例えば、80℃以上、典型的には100℃以上、さらには120℃以上に設定することが好ましい。乾燥温度の上限は、特に限定されるものではないが、電極集電体12の酸化を防止する観点から、例えば、200℃以下、典型的には190℃以下、さらには180℃以下に設定することが好ましい。
乾燥工程S4における搬送速度は、生産性向上の観点から、例えば、1m/分以上に設定されることが好ましく、3m/分以上に設定されることがより好ましい。搬送速度が速すぎる場合には、塗膜32に割れが生じやすくなるため、かかる観点からは、15m/分以下に設定されていればよく、10m/分以下に設定されていればよく、8m/分以下に設定されていればよい。
ここに開示される電極の製造方法においては、図示されるように、電極集電体12上の塗膜32を複数回屈曲させながら搬送する乾燥炉(以下、折り返し乾燥炉142ともいう。)を用いることができる。折り返し乾燥炉142は、複数の搬送ローラー144を用いて、塗膜32を厚み方向に複数回屈曲させながら搬送する乾燥炉である。搬送ローラー144は、塗膜32の表面側および集電体12側に交互に接触する。かかる折り返し乾燥炉142は、従来の乾燥炉よりも狭いスペースで乾燥工程S4を実施することができるため、製造設備を小さなものとすることができる点で有効である。
ところで、従来のペースト状の電極材料からなる塗膜は、乾燥が完了するまで塗膜が付着する可能性が高いため、折り返し乾燥炉142による乾燥工程の実施をすることができなかった。また、従来の湿潤粉体を用いた電極材料からなる塗膜であっても、搬送ローラー等への付着は抑制されるものの、可撓性が低いために、乾燥工程S4において塗膜が割れることがあった。特に、50μm以上の厚膜化された塗膜を乾燥させた場合には、可撓性が顕著に低くなるため、塗膜の割れがより生じやすい傾向にあった。
これに対して、ここに開示される電極の製造方法においては、乾燥工程S4より前の工程において、塗膜32に可撓性を付与し得る溝22を形成している。これにより、乾燥工程S4において溶媒が蒸発(揮発)しても、可撓性が失われ難い塗膜32(電極)を実現することができる。したがって、乾燥工程S4の設備の縮小も可能である。
また、一般的に、従来のスラリー状の電極材料からなる塗膜を比較的高温(例えば100℃以上)や、比較的速い搬送速度(例えば8m/分以上)で乾燥させた場合には、比重が小さいバインダが表面側に偏析する現象である、マイグレーションが発生する。かかるマイグレーションが発生すると、電極集電体12と電極活物質層との密着性が低下し、製造工程中や充放電を繰り返すうちに該活物質層が該集電体12から剥離しやすくなる。これに対して、ここに開示される電極の製造方法において、特に気相制御湿潤粉体を用いて製造された電極活物質層は、該活物質層の表面から電極集電体に至る厚み方向に上層および下層の2つの層に均等に区分し、該上層および下層のバインダ樹脂の濃度(mg/L)を、それぞれ、C1およびC2としたとき、0.8≦(C1/C2)≦1.2の関係を具備する。すなわち、電極活物質層は、上層と下層との間でバインダの偏析(マイグレーション)が生じ難い電極活物質層であり得る。
気相制御湿潤粉体を電極材料30として用いることにより、スラリー状の電極材料からなる塗膜よりも固形分率を大きく上げることができる。これにより、乾燥工程S4の時間を短縮するようにしても(例えば、乾燥炉内の温度を高く設定することや、乾燥工程S4における搬送速度を速く設定すること等)、マイグレーションの発生を抑制することができる。したがって、ここに開示される電極の製造方法によれば、生産性を損なうことなく、耐久性が向上した(高品質な)二次電池用電極を製造することができる。
乾燥工程S4の後に、目付量や塗膜32の厚さを調整するために必要に応じてロール圧延機によるロールプレスを行ってもよい。乾燥工程S4の後にプレスを実施する場合には、溝形成工程S3において形成された溝22を残すように実施されることが好ましい。プレス圧は、形成される塗膜32の膜厚や、溝深さによって異なるため、特に限定されるものではないが、例えば、線圧1ton/cm~5ton/cm程度に設定されていることが好ましい。
これにより、二次電池用の長尺なシート状電極が製造される。こうして製造された長尺シート状電極は、ここに開示される非水電解質二次電池の構築に用いることができる。
図4および図5に示されるように、電極10は、長尺シート状の電極集電体12と、該集電体12上に形成された電極活物質層14とを備えている。ここに開示される電極10は、長尺シート状の電極集電体12の幅方向に溝22が複数形成されている。溝22は、電極集電体12の幅方向の一方の端部から他方の端部まで連続した溝であることがより好ましい。かかる連続した溝を付与することにより、電極活物質層14の可撓性がより効果的に向上し、該活物質層の割れを好適に抑制することができる。
溝22の溝深さt(μm)は、平均膜厚t(μm)よりも浅く、(9/10×t)>tの関係を満たす深さの溝であればよい。これよりも溝深さtが深い場合には、電極10の機械的強度を低下させ得るため好ましくない。溝22は、電極10の可撓性向上の観点からすると、後述する捲回電極体80を構築する際にも溝22が残るような溝深さtであることが好ましい。より好適には、後述する捲回電極体80としてリチウムイオン二次電池200に収容された際に、電極10の厚さ方向の両側から所定の拘束荷重が加えられたときであっても、溝22が残るような溝深さtであることが好ましい。かかる構成によれば、リチウムイオン二次電池200として構築された際にも電極10の可撓性が維持される。
なお、電極活物質層の平均膜厚tとは、ここでは、電極活物質層において溝が形成されていない部分の平均膜厚のことをいう。
溝22のピッチは、一定の間隔(ピッチ)で形成されていてもよく、異なる間隔(ピッチ)で形成されていてもよい。一定のピッチで溝22が形成されるときは、特に限定されるものではないが、250μm以上5mm以下であることが好ましく、750μm以上4mm以下であることがより好ましく、1mm以上3mm以下であることがさらに好ましい。
溝22の開口部の幅をw(μm)、底部の幅をw(μm)としたときに、開口部の溝幅wと底部の溝幅wとが、同じ長さであってもよく、異なる長さであってもよい。開口部の幅wおよび底部の幅wは、特に限定されるものではないが、10μm以上500μm以下であることが好ましく、30μm以上400μm以下であることがより好ましく、50μm以上300μm以下であることが特に好ましい。
ここで、図5を参照しながら、本明細書における上層、中間層および下層について説明する。溝22が形成されている領域において、電極活物質層14を均等に上層、中間層および下層の3つの層に区分する。電極活物質層14と電極集電体12との界面から厚さ方向(Z方向)に沿って、下層、中間層、上層の順に位置している。例えば、下層とは、電極活物質層14と電極集電体12との界面から厚さ方向(Z方向)に沿って、電極活物質層14の厚さの概ね33%内部の位置までをいう。中間層および上層も同様にして電極活物質層14の厚さを3等分したそれぞれの位置である。また、溝22が形成されている領域における上層、中間層および下層の電極密度(g/cm)をそれぞれd、d、dとする。なお、本明細書において、「溝が形成されている領域」とは、図示されるように、開口部の幅wと底部の幅wとが同じ長さである場合には、開口部の幅wおよび底部の幅wの両端から電極活物質層14の厚さ方向(Z方向)に仮想的に垂直な線を引いた領域のことをいう。開口部の幅wと底部の幅wとが異なる長さである場合には、開口部の幅wおよび底部の幅wのうち長いほうの両端から電極活物質層14の厚さ方向(Z方向)に仮想的に垂直な線を引いた領域のことをいう。
また、本明細書において、上層、中間層および下層の電極密度(g/cm)は、例えば、電極の真密度に該当範囲(すなわち上層、中間層および下層のいずれか)の充填率を乗ずることによって求めることができる。電極の真密度は、例えば、構成成分の密度と含有割合に基づいて算出される値である。該当範囲の充填率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による電極活物質層の断面観察において二値化処理を行うことによって算出することができる。具体的には、該断面画像をオープンソースであり、パブリックドメインの画像処理ソフトウェアとして著名な画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、該当範囲に存在する固相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行う。これにより、固相が存在する部分(白色部分)の面積をS1、空隙部分(黒色部分)の面積をS2として、「S1/(S1+S2)×100」から算出することができる。
ここに開示される電極10は、溝22が形成されている領域の上層と下層との電極密度が、0.8<(d/d)<1.1の関係を具備している。より好ましくは、溝22が形成されている領域の上層と下層との電極密度は、0.9<(d/d)<1.08の関係を具備しており、さらに好ましくは、0.95<(d/d)<1.08の関係を具備している。上層と下層において電極密度の差がない場合には、(d/d)の値は1となる。すなわち、ここに開示される電極10においては、溝22が形成されているにもかかわらず、溝22の上層と下層において電極密度の差が少ない(すなわち(d/d)が1に近くなる)ことを特徴としている。かかる電極10は、上述した気相制御湿潤粉体を用いることによって実現することができる。特に限定されるものではないが、適度な溶媒(液相)と気相とを有する塗膜状態で溝形成を行うことにより、気相がわずかに減少した部分に活物質(固相)が移動することができ、緻密化(局所的な密度の上昇)を抑制することができ得る。
溝22の断面形状は、開口部の溝幅wと底部の溝幅wとが略同じ(例えば長方形状)であってもよく、開口部の溝幅wと底部の溝幅wとが異なる(例えば台形状)であってもよく、底部の溝幅wが0μmとなる(例えば逆三角形状)でもよい。また、溝22の断面形状は直線でのみで構成されている必要はなく、例えば、丸みを帯びた断面形状(例えば半円状)であってもよい。このような形状の溝22が、電極10に存在することによって、電極10の可撓性を向上させることができる。電極10の可撓性が向上することにより、例えば、捲回電極体80を構築したときに、湾曲部における内周と外周の差がかかる溝22によって調節され、不規則なクラックの発生や、割れによる異物の発生を抑制することができる。また、特に負極において電極の欠損が発生した場合には、金属リチウムが発生し短絡が生じる虞があるため好ましくない。電極10の可撓性を向上させることにより、高容量かつ安全性の高い捲回電極体80が作成され、かかる捲回電極体80を備えた高品質なリチウムイオン二次電池200を提供することができる。
ここに開示される電極10を用いて構築され得るリチウムイオン二次電池200の一例を図6に示している。図6に示すリチウムイオン二次電池200は、密閉可能な箱型電池ケース50に、扁平形状の捲回電極体80と、非水電解質(図示せず)とが、収容されて構築される。電池ケース50には、外部接続用の正極端子52および負極端子54と、電池ケース50の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁56とが設けられている。また、電池ケース50には、非水電解質を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子52と正極集電板52aは、電気的に接続されている。負極端子54と負極集電板54aは、電気的に接続されている。電池ケース50の材質は、高強度であり軽量で熱伝導性が良い金属製材料が好ましく、このような金属材料として、例えば、アルミニウムやスチール等が挙げられる。
捲回電極体80は、長尺シート状の正極(以下、正極シート60という。)と、長尺シート状の負極(以下、負極シート70という。)と、長尺シート状のセパレータ90と、から構成される。ここに開示される捲回電極体80においては、正極シート60および負極シート70のうち、少なくともいずれか一方は、上述した製造方法によって得られたシート状電極10が用いられている。かかる構成によれば、電極10の表面部に上述した溝形成工程S3において形成された溝22が存在することにより可撓性が向上している。電極10が可撓性を有することにより、捲回電極体80において電極活物質層14の割れや、異物発生を抑制することができる。
図6および図7に示されるように、正極シート60は、正極集電体62の片面もしくは両面に長手方向に沿って正極活物質層64が形成された構成を有する。負極シート70は、負極集電体72の片面もしくは両面に長手方向に沿って負極活物質層74が形成された構成を有する。正極集電体62の幅方向の一方の縁部には、該縁部に沿って正極活物質層64が形成されずに正極集電体62が露出した部分(即ち、正極集電体露出部66)が設けられている。負極集電体72の幅方向の他方の縁部には、該縁部に沿って負極活物質層74が形成されずに負極集電体72が露出した部分(即ち、負極集電体露出部76)が設けられている。正極集電体露出部66と負極集電体露出部76には、それぞれ正極集電板52aおよび負極集電板54aが接合されている。
セパレータ90としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔質シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ90は、耐熱層(HRL)を設けられていてもよい。
非水電解質は従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に制限することなく用いることができる。具体的には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等の非水溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、特に限定するものではないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下程度が好ましい。
なお、上記非水電解質は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池200は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池200は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
以下、ここで開示される電極の製造方法に関する試験例を説明するが、ここで開示される技術をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
<試験例1~3>
負極材料として好適に使用し得る気相制御湿潤粉体を作製し、次いで、該作製された湿潤粉体(負極材料)を用いて銅箔上に負極活物質層を形成した。
本試験例では、負極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒子径(D50)が10μmである黒鉛粉、バインダ樹脂としてスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、溶媒として水を用いた。
まず、98質量部の上記負極活物質、1質量部のSBRおよび1質量部のCMCからなる固形分を、撹拌造粒機(プラネタリーミキサーまたはハイスピードミキサー)に投入し、混合撹拌処理を行った。
具体的には、混合羽根を有する撹拌造粒機内で混合羽根の回転速度を4500rpmに設定し、15秒間の撹拌分散処理を行い、上記固形分からなる粉末材料の混合物を得た。得られた混合物に、固形分率が90重量%となるように溶媒である水を添加し、300rpmの回転速度で30秒間の撹拌造粒複合化を行い、次いで4500rpmの回転速度で2秒間撹拌し微細化を行った。これにより本試験例に係る湿潤粉体(負極材料)を作製した。
次いで、上記得られた気相制御湿潤粉体(負極材料)を、上記電極製造装置の成膜部に供給し、別途用意した銅箔からなる負極集電体の表面に平均膜厚が40μmとなるように塗膜を成膜した。かかる塗膜を、上記折り返し乾燥炉を用いて、乾燥温度(乾燥炉内の温度)120℃、搬送速度8m/分の条件で乾燥させた。このとき、ロール径がそれぞれ10mm、30mm、60mmのロールを搬送ローラーとして用いて搬送を行った。
<試験例4~6>
上述したように気相制御湿潤粉体を作製し、次いで、該作製された湿潤粉体(負極材料)上記電極製造装置の成膜部に供給し、別途用意した銅箔からなる負極集電体の表面に平均膜厚が130μmとなるように塗膜を成膜した。かかる塗膜を、塗膜加工部に搬送し、凹凸転写ロールで凹凸転写を行って、搬送方向と直交する方向に延びる溝が溝深さ80μmとなるようにピッチ1200μmで形成した。かかる塗膜を、上記折り返し乾燥炉を用いて、乾燥温度(乾燥炉内温度)120℃、搬送速度8m/分の条件で乾燥させた。このとき、ロール径がそれぞれ10mm、30mm、60mmのロールを搬送ローラーとして用いて搬送を行った。
<試験例7~9>
上述したように気相制御湿潤粉体を作製し、次いで、該作製された湿潤粉体(負極材料)上記電極製造装置の成膜部に供給し、別途用意した銅箔からなる負極集電体の表面に平均膜厚が130μmとなるように塗膜を成膜した。かかる塗膜を、上述した折り返し乾燥炉を用いて、乾燥温度(乾燥炉内の温度)120℃、搬送速度8m/分の条件で乾燥させた。このとき、ロール径がそれぞれ10mm、30mm、60mmのロールを搬送ローラーとして用いて搬送を行った。
各試験例1~9の塗膜の表面状態を観察し、評価した。なお、塗膜表面状態が良好なもの(すなわち、塗膜表面に割れが発生しておらず、集電体から剥離していないもの)には「○」、塗膜表面の端部に割れが発生しているものには「△」、塗膜表面の割れやロールからの剥離が発生しているものには「×」として、表1に示した。
Figure 0007320010000001
表1に示すように、試験例1~3(平均膜厚が40μm)の塗膜であれば、ロール径が10mmのロールを用いて搬送しても、塗膜表面に割れが発生することなく、集電体から剥離することもないことがわかる。試験例4~9(平均膜厚が130μm)の塗膜では、ロール径が10mmまたは30mmのロールを用いて搬送すると、溝を有しない試験例7および試験例8において塗膜表面に割れが発生し、一部集電体から剥離することがわかる。一方、平均膜厚が130μmの塗膜であっても、溝を有する試験例4および試験例5においては、ロール径が10mmまたは30mmのロールを用いて搬送しても、塗膜の表面状態が良好で、集電体から剥離することもないことがわかる。
すなわち、平均膜厚tが50μm以上の塗膜であっても、該塗膜の表面部に搬送方向と直交する方向に沿って延びる溝を該溝の溝深さt(μm)が、(9/10×t)>tを満たすように形成してから乾燥させることにより、電極集電体に対する塗膜の可撓性が向上して、塗膜の割れや集電体からの剥離を抑制することができる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
1 凝集粒子
2 活物質粒子(固相)
3 溶媒(液相)
4 空隙(気相)
10 電極
12 電極集電体
14 電極活物質層
22 溝
30 電極材料
32 塗膜
50 電池ケース
56 安全弁
52 正極端子
52a 正極集電板
54 負極端子
54a 負極集電板
60 正極シート
62 正極集電体
64 正極活物質層
66 正極集電体露出部
70 負極シート
72 負極集電体
74 負極活物質層
76 負極集電体露出部
80 捲回電極体
90 セパレータ
100 電極製造装置
120 成膜部
130 塗膜加工部
132 凹凸転写ロール
134 バックアップロール
140 乾燥部
200 リチウムイオン二次電池

Claims (2)

  1. 正負極いずれかの電極集電体および電極活物質層を有する電極の製造方法であって、以下の工程:
    電極活物質とバインダ樹脂と溶媒とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程、
    ここで、前記湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している;
    前記湿潤粉体を用いて、前記電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、該塗膜の気相を残した状態で成膜する工程、
    ここで、前記塗膜の平均膜厚t(μm)は、50μm以上となるように成膜される;
    前記集電体上の塗膜を搬送し、ロール型を用いて凹凸転写することにより、該塗膜の表面部に搬送方向と直交する方向に延びる溝を複数形成する工程、
    ここで、前記溝の深さt(μm)は、
    (9/10×t)>t >(1/10×t
    を満たすように形成される;および、
    前記集電体上に形成された塗膜を乾燥させて電極活物質層を形成する工程;
    を包含する、二次電池用電極の製造方法。
  2. 前記湿潤粉体を用意する工程において用意される湿潤粉体が、所定の容積(mL)の容器に力を加えずにすり切りに湿潤粉体(g)を入れて計測した嵩比重を緩め嵩比重X(g/mL)とし、
    気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重を真比重Y(g/mL)としたときに、
    緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/Xが、1.2以上である、
    請求項1に記載の二次電池用電極の製造方法。
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