JP7145394B2 - リチウムイオン二次電池用正極活物質複合材料の製造方法 - Google Patents
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Description
また、リチウムリン酸塩は、電池反応におけるリチウムイオンの供給源として機能し得る。そのため、リチウムリン酸塩が被覆物として形成された正極活物質材料においては、リチウムイオンの挿入/脱離効率を良好な状態で維持すること、即ち、正極活物質の界面抵抗の増大を妨げることができることが知られている。
特許文献1には、いわゆる化学蒸着法が記載されている。化学蒸着法では、例えば、被覆物を構成する物質の元素源の蒸気を段階的に活物質に供給して、目的の物質(即ち、被覆物)を活物質表面に形成させる。そのため、被覆物の形成効率が低く、さらに、活物質表面において、被覆物の分散ムラが生じやすい。
一方、特許文献2には、正極活物質に目的の物質(リチウムリン酸塩)を直接供給し、いわゆるメカノケミカル処理によって該正極活物質の表面に被覆物を形成させる技術が開示されている。リチウムリン酸塩は結晶性が高く、硬いため、正極活物質に直接供給することによって、メカノケミカル処理中に、正極活物質に破損が発生し得る。また、リチウムリン酸塩の結晶からはリチウムイオンが放出されにくい。したがって、正極活物質の表面に、結晶性のリチウムリン酸塩からなる被覆物が形成されると、これに起因して、正極活物質材料におけるリチウムイオンの挿入/脱離効率が低下し、界面抵抗が増大してしまうおそれがある。これは、電池性能が低下する要因にもなり得るため、好ましくない。
そこで本発明は、正極活物質の表面にリチウムリン酸塩からなる被覆物を効率的に形成し、かつ、リチウムイオンの挿入/脱離効率を向上させたリチウムイオン電池用正極活物質複合材料を製造する方法を提供することを目的とする。
正極活物質複合材料を構成する正極活物質と、無機リン化合物とを含む混合物を用意する工程、ここで該混合物の全体を100質量%としたときの、該混合物の固形分率が90質量%以上である;および、
上記混合物を所定の撹拌速度以上で撹拌し、上記正極活物質の表面に存在するリチウム化合物の少なくとも一部と、上記無機リン化合物とによりリチウムリン酸塩からなる被覆物を該正極活物質の表面に形成する工程;
を包含する。ここで、上記正極活物質複合材料とは、上記正極活物質と、該正極活物質の表面に形成された上記被覆物とからなる複合材料のことをいう。
また、混合物の固形分率が90質量%以上にあることにより、正極活物質複合材料におけるリチウムイオンの挿入/脱離効率を一層向上させることができる。
ここで、該リチウム化合物は、上記正極活物質の表面に存在するものである。当該リチウム化合物を利用することにより、被覆物の形成効率を向上させることができる。
これにより、上記被覆物形成工程において、正極活物質の表面を破損させることなく目的の被覆物を形成させることができる。
撹拌速度が上記範囲にあることにより、正極活物質の表面において、被覆物の分散ムラが生じるのを好適に抑制することができる。
かかる構成によると、リチウムイオンの挿入/脱離効率が高い状態で維持された正極活物質複合材料を製造することができる。
また、本明細書において「正極活物質」とは、リチウムイオン二次電池において電荷担体となる化学種(すなわちリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出(典型的には挿入および脱離)可能な物質(正極活物質)をいう。
また、リン酸マンガンリチウム(例えばLiMnPO4)、リン酸鉄リチウム(例えばLiFePO4)等の、リチウムと、遷移金属元素とを構成金属元素として含むリン酸塩などを使用してもよい。
混合物調製工程S10において適当な溶媒を添加することで、後述する混合物中の固形分率を適当範囲に調整することができる。また、あらかじめ、上記無機リン化合物の溶液あるいは懸濁液を調製しておくこともできる。これによって、混合物中における固形成分の分散性を向上させることができる。例えば、無機リン化合物として所定濃度のオルトリン酸(H3PO4)溶液等を使用する場合、水等の溶媒が混合物の調製に含まれることとなる。
また、撹拌処理の時間は、特に限定されるものではないが、本発明の上記目的を実現できる限り、種々の範囲で設定することができる。例えば、5秒以上5分以下(3分以下、1分以下、30秒以下)の処理時間が好ましい。撹拌処理の時間が短すぎる(5秒より短い)と、被覆物が十分に形成されないおそれがある。一方、撹拌処理の時間が長すぎる(5分より長い)と、形成された被覆物が正極活物質表面から剥離するおそれがある。
なお、被覆物形成工程S20の後には、正極活物質複合材料の焼成処理を行う必要はない。焼成処理を省略することによって、より簡便かつ低廉に正極活物質複合材料を製造することができる。
本発明においては、正極活物質10の表面に存在するリチウム化合物20を利用するため、リチウムリン酸塩を直接正極活物質10に供給しない。これによって、撹拌処理中に正極活物質10に破損が生じることを抑制できる。また、リチウムリン酸塩からなる被覆物40の形成効率を向上させるとともに、形成された被覆物40の分散ムラが生じることを抑制できる。さらに、固形分率90%以上の条件で混合物を調製することによって、リチウムリン酸塩の結晶化を防ぎ、被覆物40がアモルファス状態で形成される。このことにより、正極活物質複合材料60のリチウムイオンの挿入/脱離効率が高い状態で維持される。
以下に説明するプロセスにより、実施例1、比較例1、比較例2に係る正極活物質複合材料を製造した。
<実施例>
リチウムイオン二次電池に一般的に用いられるいわゆる三元系リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として使用し、以下の処理を施して実施例の正極活物質複合材料を製造した。
即ち、200gの正極活物質を市販の撹拌装置(以下、単に「撹拌装置」という。)を用いて撹拌速度800rpmで5秒間程度撹拌し、分散させた。次いで、該正極活物質に、5MのH3PO4水溶液を5g添加しながら撹拌速度800rpmで10~15秒間撹拌し、混合物を調製した。該混合物をスパチュラで混ぜた後、撹拌速度800rpmで10~15秒間撹拌した。
さらに、上記混合物に、5MのH3PO4水溶液を5g添加しながら撹拌速度800rpmで10~15秒間撹拌した。その後、混合物をスパチュラで混ぜて、さらに撹拌速度800rpmで10~15秒間撹拌した。混合物の固形分率は約95%であった。
そして、この混合物を100℃で3時間の真空乾燥を行い、実施例1の正極活物質複合材料を得た。
5MのH3PO4水溶液を添加する際に、さらに蒸留水を添加し、混合物の固形分率を60%としたこと以外は、実施例1の正極活物質複合材料の製造プロセスと同じプロセスにより、比較例1の正極活物質を製造した。
<比較例2>
5MのH3PO4水溶液を添加する際に、さらに蒸留水を添加し、混合物の固形分率を20%としたこと以外は、実施例1の正極活物質複合材料の製造プロセスと同じプロセスにより、比較例1の正極活物質を製造した。
上記製造した実施例1の正極活物質複合材料について、走査型電子顕微鏡(SEM)と、EDS分析法に基づく分析機器を用いて正極活物質の表面に存在するリン元素を検出することによって、正極活物質表面における被覆物形成の有無を評価した。代表的な結果として、図3(A)に実施例1のSEM像を示し、図3(B)に正極活物質の表面に存在するリン元素のEDS像を示した。
図3(A)、(B)から明らかなように、実施例1の正極活物質表面には、リン元素を含む被覆物が良好な分散状態で形成されたことが認められた。
正極活物質としての上記製造した各々の正極活物質複合材料と、導電材としてのカーボンブラックと、バインダとしてのポリフッ化ビニリデンとを、質量比90:9:1となるように秤量し、これらをNMPに分散させて正極ペーストを調製した。
該正極ペーストを正極集電体上に塗布し、真空乾燥させた後にプレス機で圧延処理を施し、実施例1、比較例1、比較例2の正極活物質複合材料に対応した計3種類の正極シートを作製した。
次いで、各正極シートを2cm2の円形に打ち抜いて作製した正極ならびに金属リチウムからなる対極を、セパレータを介して対向させてサンプル電池を構築した。当該電池の電解液としては、エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを体積比3:4:3で混合して調製した非水溶媒に1MのLiPF6を溶解した非水電解液を使用した。なお、被覆物を形成させていない正極活物質を用いた電池を、コントロール電池として用意した。
[活性化処理(初期充電)]
上記サンプル電池およびコントロール電池の活性化処理(初期充電)を行った。
具体的には、-30℃の温度条件下において、1Cの電流で電池電圧が4.1Vになるまで定電流(CC)充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧(CV)充電を行い、満充電状態とした。その後、1Cの電流で電池電圧が3.0VになるまでCC放電を行った。
上記活性化後の各電池について、-30℃の温度条件下で1CのCC充電を行って、27%SOC(state of charge)の充電状態に調整した。その後、10Cで10秒間のCC放電を行い、この時の電流(I)-電圧(V)プロット値の一次近似曲線の傾きから初期電池抵抗(IV抵抗)を求めた。
そして、上記コントロール電池のIV抵抗を、反応抵抗100%としたときの実施例1、比較例1、比較例2に係るサンプル電池のIV抵抗を、正極活物質複合材料の反応抵抗として算出した。結果を表1と図4に示す。
表1、図4から明らかなように、実施例1、比較例1、および比較例2の正極活物質複合材料を各々用いて構築したサンプル電池では、正極活物質複合材料の製造時における混合物の固形分率が小さくなるほど、反応抵抗が低下することが確認された。そして、該固形分率が90%以上である実施例1に係るサンプル電池の反応抵抗は、比較例1または比較例2に係るサンプル電池の反応抵抗と比べて顕著に低かった。このことは、正極活物質複合材料からのリチウムイオンの挿入/脱離が、アモルファス状態で形成された被覆物の存在により良好に行われることを示している。
一方、上記混合物を固形分率90%より低い状態で製造した場合、正極活物質表面に形成された被覆物は結晶化してしまう。このことにより、リチウムイオンの挿入/脱離が効率的に行われないため、反応抵抗が増大してしまった。
以上の結果から、正極活物質複合材料の製造において、上記混合物を固形分率90%以上に調整することが好ましいと考えられる。
そして、ここに開示されるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合材料の製造方法によって、リチウムイオン挿入/脱離効率が優れた正極活物質複合材料を製造することができ、該正極活物質複合材料は、特に高いハイレート入出力特性が要求される電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源としてのリチウムイオン二次電池の正極活物質材料として好適である。
20 リチウム化合物
30 無機リン化合物
40 リチウムリン酸塩
60 正極活物質複合材料
Claims (5)
- リチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極活物質複合材料を製造する方法であって、
前記正極活物質複合材料を構成する正極活物質と、無機リン化合物と、溶媒と、を含む混合物を用意する工程、ここで該混合物の全体を100質量%としたときの、該混合物の固形分率が90質量%以上である;および、
前記混合物を撹拌し、前記正極活物質の表面に存在するリチウム化合物の少なくとも一部と、前記無機リン化合物とによりリチウムリン酸塩からなる被覆物を該正極活物質の表面に形成する工程;
を包含し、
ここで、前記被覆物形成工程では、前記撹拌の速度が400rpm以上に設定される、前記正極活物質と該正極活物質の表面に形成された前記被覆物とからなる正極活物質複合材料の製造方法。 - 前記リチウム化合物として、少なくともLi2OまたはLiOHを含む、請求項1に記載の製造方法。
- 前記無機リン化合物として、H3PO4、ピロリン酸およびP2O5のうちの少なくともいずれか一種を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
- 前記混合物は、溶媒として少なくとも水またはN-メチル-2-ピロリドンのいずれかを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
- 前記リチウムリン酸塩が、Li3PO4、Li2HPO4およびLiH2PO4のうちの少なくともいずれか一種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
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