[ダイシングダイボンドフィルム]
本発明のダイシングダイボンドフィルムは、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有するダイシングテープと、上記ダイシングテープにおける上記粘着剤層に剥離可能に密着している接着剤層と、を備える。本発明のダイシングダイボンドフィルムの一実施形態について、以下に説明する。図1は、本発明のダイシングダイボンドフィルムの一実施形態を示す断面模式図である。
図1に示すように、ダイシングダイボンドフィルムXは、ダイシングテープ10と、ダイシングテープ10における粘着剤層12上に積層された接着剤層20とを備え、半導体装置の製造において接着剤層付き半導体チップを得る過程でのエキスパンド工程に使用することのできるものである。また、ダイシングダイボンドフィルムXは、半導体装置の製造過程における加工対象の半導体ウエハに対応するサイズの円盤形状を有する。ダイシングダイボンドフィルムXの直径は、例えば、345~380mmの範囲内(12インチウエハ対応型)、245~280mmの範囲内(8インチウエハ対応型)、195~230mmの範囲内(6インチウエハ対応型)、又は、495~530mmの範囲内(18インチウエハ対応型)にある。ダイシングダイボンドフィルムXにおけるダイシングテープ10は、基材11と粘着剤層12とを含む積層構造を有する。
(基材)
ダイシングテープ10における基材11は、ダイシングテープ10やダイシングダイボンドフィルムXにおいて支持体として機能する要素である。基材11としては、例えば、プラスチック基材(特にプラスチックフィルム)が挙げられる。上記基材11は、単層であってもよいし、同種又は異種の基材の積層体であってもよい。
上記プラスチック基材を構成する樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルイミド;アラミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド;ポリフェニルスルフィド;フッ素樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;セルロース樹脂;シリコーン樹脂等が挙げられる。基材11において良好な熱収縮性を確保して、後述の常温エキスパンド工程においてチップ離間距離をダイシングテープ10又は基材11の部分的熱収縮を利用して維持しやすい観点から、基材11は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を主成分として含むことが好ましい。なお、基材11の主成分とは、構成成分中で最も大きな質量割合を占める成分とする。上記樹脂は、一種のみを使用されていてもよいし、二種以上を使用されていてもよい。粘着剤層12が後述のように放射線硬化型粘着剤層である場合、基材11は放射線透過性を有することが好ましい。
基材11がプラスチックフィルムである場合、上記プラスチックフィルムは、無配向であってもよく、少なくとも一方向(一軸方向、二軸方向等)に配向していてもよい。少なくとも一方向に配向している場合、プラスチックフィルムは当該少なくとも一方向に熱収縮可能となる。熱収縮性を有していると、ダイシングテープ10の、半導体ウエハの外周部分をヒートシュリンクさせることが可能となり、これにより個片化された接着剤層付きの半導体チップ同士の間隔を広げた状態で固定できるため、半導体チップのピックアップを容易に行うことができる。基材11及びダイシングテープ10が等方的な熱収縮性を有するためには、基材11は二軸配向フィルムであることが好ましい。なお、上記少なくとも一方向に配向したプラスチックフィルムは、無延伸のプラスチックフィルムを当該少なくとも一方向に延伸(一軸延伸、二軸延伸等)することにより得ることができる。基材11及びダイシングテープ10は、加熱温度100℃及び加熱時間処理60秒の条件で行われる加熱処理試験における熱収縮率が、1~30%であることが好ましく、より好ましくは2~25%、さらに好ましくは3~20%、特に好ましくは5~20%である。上記熱収縮率は、MD方向及びTD方向の少なくとも一方向の熱収縮率であることが好ましい。
基材11の粘着剤層12側表面は、粘着剤層12との密着性、保持性等を高める目的で、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、サンドマット加工処理、オゾン暴露処理、火炎暴露処理、高圧電撃暴露処理、イオン化放射線処理等の物理的処理;クロム酸処理等の化学的処理;コーティング剤(下塗り剤)による易接着処理等の表面処理が施されていてもよい。また、帯電防止能を付与するため、金属、合金、これらの酸化物等を含む導電性の蒸着層を基材11表面に設けてもよい。密着性を高めるための表面処理は、基材11における粘着剤層12側の表面全体に施されていることが好ましい。
基材11の厚さは、ダイシングテープ10及びダイシングダイボンドフィルムXにおける支持体として基材11が機能するための強度を確保するという観点からは、40μm以上が好ましく、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは55μm以上、特に好ましくは60μm以上である。また、ダイシングテープ10及びダイシングダイボンドフィルムXにおいて適度な可撓性を実現するという観点からは、基材11の厚さは、200μm以下が好ましく、より好ましくは180μm以下、さらに好ましくは150μm以下である。
(粘着剤層)
ダイシングダイボンドフィルムXにおける粘着剤層12は、上述のように、粘着剤層表面の、温度23℃、周波数100Hzの条件におけるナノインデンテーション法による500nm押し込み時の弾性率が0.1~20MPaであり、好ましくは0.5~15MPa、より好ましくは1~10MPaである。上記ナノインデンテーション法による弾性率が0.1MPa以上であることにより、エキスパンド時に生じる応力が接着剤層に伝わりやすくなるため接着剤層を良好に割断でき、且つ、粘着剤層と接着剤層との密着性を適度とすることができ、エキスパンド工程における粘着剤層と接着剤層との間の剥離が生じるのを抑制することができる。また、上記ナノインデンテーション法による弾性率が20MPa以下であることにより、エキスパンド工程における粘着剤層の割れを起こりにくくすることができ、且つ、ピックアップ工程では割断後の接着剤層付き半導体チップが粘着剤層から良好に剥離でき、良好なピックアップを実現することが可能である。
上記ナノインデンテーション法による弾性率は、圧子を粘着剤層表面に押し込んだときの、圧子への負荷荷重と押し込み深さとを、負荷時及び除荷時に渡り連続的に測定し、得られた負荷荷重-押し込み深さ曲線から求められる弾性率をいう。すなわち、上記ナノインデンテーション法による弾性率は、粘着剤層表面の物理的特性を表す指標であり、粘着剤層全体の物理的特性を表す指標である従来の粘弾性測定により得られる引張弾性率等の弾性率とは異なるものである。上記粘着剤層のナノインデンテーション法による弾性率は、荷重:1mN、負荷・除荷速度:0.1mN/s、保持時間:1sの条件下でのナノインデンテーション試験により得られる弾性率である。
ダイシングテープ10の粘着剤層12は、ベースポリマーとしてアクリル系ポリマーを含有することが好ましい。上記アクリル系ポリマーは、ポリマーの構成単位として、アクリル系モノマー(分子中に(メタ)アクリロイル基を有するモノマー成分)に由来する構成単位を含むポリマーである。上記アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含むポリマーであることが好ましい。なお、アクリル系ポリマーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。また、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び/又は「メタクリル」(「アクリル」及び「メタクリル」のうち、いずれか一方又は両方)を表し、他も同様である。
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル等の炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s-ブチルエステル、t-ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2-エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル(ラウリルエステル)、トリデシルエステル、テトラデシルエステル、ヘキサデシルエステル、オクタデシルエステル、エイコシルエステル等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のシクロペンチルエステル、シクロヘキシルエステル等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のフェニルエステル、ベンジルエステルが挙げられる。上記炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、より好ましくは炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートである。すなわち、上記アクリル系ポリマーは、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位を含むことが好ましい。上記炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
上記炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル((メタ)アクリル酸ラウリル)、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル等の炭素数10~25のアルキル基(C10-25アルキル基)を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。中でも、(メタ)アクリル酸ラウリルが好ましい。
炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルによる粘着性等の基本特性を粘着剤層12において適切に発現させるためには、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分における炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステル(特に、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート)の割合は、40質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上である。
上記アクリル系ポリマーは、凝集力、耐熱性等の改質を目的として、炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマー成分に由来する構成単位を含んでいてもよい。上記他のモノマー成分としては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、グリシジル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、アクリルニトリル等の官能基含有モノマー等が挙げられる。上記カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。上記酸無水物モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。上記ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記グリシジル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メチルグリシジル等が挙げられる。上記スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等が挙げられる。上記リン酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等が挙げられる。上記他のモノマー成分としては、中でも、ヒドロキシ基含有モノマーが好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)である。すなわち、上記アクリル系ポリマーは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含むことが好ましい。上記他のモノマー成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルによる粘着性等の基本特性を粘着剤層12において適切に発現させるためには、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分における上記他のモノマー成分(特に、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)の割合は、60質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下である。
上記アクリル系ポリマーは、特に、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位及び2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来の構成単位を少なくとも含むアクリル系ポリマー(「第1アクリル系ポリマー」と称する場合がある)であることが好ましい。すなわち、粘着剤層12は、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位及び2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来の構成単位を少なくとも含む第1アクリル系ポリマーを含有することが好ましい。粘着剤層12が上記第1アクリル系ポリマーを含有すると、ピックアップ工程においてダイシングテープの粘着剤層からの接着剤層付き半導体チップの剥離がより容易となり、より良好なピックアップを実現することができる。
上記第1アクリル系ポリマーにおける、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート由来の構成単位の、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来の構成単位に対するモル比率は、1以上であることが好ましく、より好ましくは3以上、より好ましくは5以上である。また、上記モル比率は、40以下であることが好ましく、より好ましくは35以下、より好ましくは30以下である。上記モル比率が低下するほどダイシングテープにおける粘着剤層とその上の接着剤層との相互作用が強くなる傾向があるところ、上記モル比率が1以上であると、上記相互作用を比較的低く抑えることができ、ピックアップ工程においてダイシングテープの粘着剤層からの接着剤層付き半導体チップの剥離がより容易となり、より良好なピックアップを実現することができる。また、上記モル比率が40以下であると、上記相互作用をある程度維持することができ、ダイシングテープの粘着剤層とその上の接着剤層との間の密着性を確保して、エキスパンド工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層からの部分的な剥離すなわち浮きの発生をより抑制することができる。
第1アクリル系ポリマーを含む上記アクリル系ポリマーは、そのポリマー骨格中に架橋構造を形成するために、アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分と共重合可能な多官能性モノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。上記多官能性モノマーとしては、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート(例えば、ポリグリシジル(メタ)アクリレート)、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の分子内に(メタ)アクリロイル基と他の反応性官能基を有する単量体等が挙げられる。上記多官能性モノマーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルによる粘着性等の基本特性を粘着剤層12において適切に発現させるためには、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分における上記多官能性モノマーの割合は、40質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下である。
アクリル系ポリマーは、アクリル系モノマーを含む一種以上のモノマー成分を重合に付すことにより得られる。重合方法としては、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等が挙げられる。
アクリル系ポリマーの数平均分子量は、10万以上が好ましく、より好ましくは20万~300万である。数平均分子量が10万以上であると、粘着剤層中の低分子量物質が少ない傾向にあり、接着剤層や半導体ウエハ等への汚染をより抑制することができる。
粘着剤層12あるいは粘着剤層12を形成する粘着剤は、架橋剤を含有していてもよい。例えば、ベースポリマーとしてアクリル系ポリマーを用いる場合、アクリル系ポリマーを架橋させ、粘着剤層12中の低分子量物質をより低減させることができる。また、アクリル系ポリマーの数平均分子量を高めることができる。上記架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリオール化合物(ポリフェノール系化合物等)、アジリジン化合物、メラミン化合物等が挙げられる。架橋剤を使用する場合、その使用量は、ベースポリマー100質量部に対して、5質量部程度以下が好ましく、より好ましくは0.1~5質量部である。
粘着剤層12は、放射線照射や加熱等外部からの作用によって意図的に粘着力を低減させることが可能な粘着剤層(粘着力低減型粘着剤層)であってもよいし、外部からの作用によっては粘着力がほとんど又は全く低減しない粘着剤層(粘着力非低減型粘着剤層)であってもよく、ダイシングダイボンドフィルムXを使用して個片化される半導体ウエハの個片化の手法や条件等に応じて適宜に選択することができる。
粘着剤層12が粘着力低減型粘着剤層である場合、ダイシングダイボンドフィルムXの製造過程や使用過程において、粘着剤層12が相対的に高い粘着力を示す状態と相対的に低い粘着力を示す状態とを使い分けることが可能となる。例えば、ダイシングダイボンドフィルムXの製造過程でダイシングテープ10の粘着剤層12に接着剤層20を貼り合わせる時や、ダイシングダイボンドフィルムXがダイシング工程に使用される時には、粘着剤層12が相対的に高い粘着力を示す状態を利用して粘着剤層12から接着剤層20等の被着体の浮きを抑制・防止することが可能となる一方で、その後、ダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ10から接着剤層付き半導体チップをピックアップするためのピックアップ工程では、粘着剤層12の粘着力を低減させることで、ピックアップを容易に行うことができる。
このような粘着力低減型粘着剤層を形成する粘着剤としては、例えば、放射線硬化型粘着剤、加熱発泡型粘着剤等が挙げられる。粘着力低減型粘着剤層を形成する粘着剤としては、一種の粘着剤を用いてもよいし、二種以上の粘着剤を用いてもよい。
上記放射線硬化型粘着剤としては、例えば、電子線、紫外線、α線、β線、γ線、又はX線の照射により硬化するタイプの粘着剤を用いることができ、紫外線照射によって硬化するタイプの粘着剤(紫外線硬化型粘着剤)を特に好ましく用いることができる。
上記放射線硬化型粘着剤としては、例えば、上記アクリル系ポリマー等のベースポリマーと、放射線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基を有する放射線重合性のモノマー成分やオリゴマー成分とを含有する添加型の放射線硬化型粘着剤が挙げられる。
上記放射線重合性のモノマー成分としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等挙げられる。上記放射線重合性のオリゴマー成分としては、例えば、ウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系等の種々のオリゴマーが挙げられ、分子量が100~30000程度のものが好ましい。粘着剤層12を形成する放射線硬化型粘着剤中の上記放射線硬化性のモノマー成分及びオリゴマー成分の含有量は、上記ベースポリマー100質量部に対して、例えば5~500質量部、好ましくは40~150質量部程度である。また、添加型の放射線硬化型粘着剤としては、例えば特開昭60-196956号公報に開示のものを用いてもよい。
上記放射線硬化型粘着剤としては、放射線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基をポリマー側鎖や、ポリマー主鎖中、ポリマー主鎖末端に有するベースポリマーを含有する内在型の放射線硬化型粘着剤も挙げられる。このような内在型の放射線硬化型粘着剤を用いると、形成された粘着剤層12内での低分子量成分の移動に起因する粘着特性の意図しない経時的変化を抑制することができる傾向がある。
上記内在型の放射線硬化型粘着剤に含有されるベースポリマーとしては、アクリル系ポリマー(特に、上記第1アクリル系ポリマー)が好ましい。アクリル系ポリマーへの放射線重合性の炭素-炭素二重結合の導入方法としては、例えば、第1の官能基を有するモノマー成分を含む原料モノマーを重合(共重合)させてアクリル系ポリマーを得た後、上記第1の官能基と反応し得る第2の官能基及び放射線重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を、炭素-炭素二重結合の放射線重合性を維持したままアクリル系ポリマーに対して縮合反応又は付加反応させる方法が挙げられる。
上記第1の官能基と上記第2の官能基の組み合わせとしては、例えば、カルボキシ基とエポキシ基、エポキシ基とカルボキシ基、カルボキシ基とアジリジル基、アジリジル基とカルボキシ基、ヒドロキシ基とイソシアネート基、イソシアネート基とヒドロキシ基等が挙げられる。これらの中でも、反応追跡の容易さの観点から、ヒドロキシ基とイソシアネート基の組み合わせ、イソシアネート基とヒドロキシ基の組み合わせが好ましい。中でも、反応性の高いイソシアネート基を有するポリマーを作製することは技術的難易度が高く、一方でヒドロキシ基を有するアクリル系ポリマーの作製及び入手の容易性の観点から、上記第1の官能基がヒドロキシ基であり、上記第2の官能基がイソシアネート基である組み合わせが好ましい。この場合のイソシアネート基及び放射線重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物、すなわち、放射線重合性の不飽和官能基含有イソシアネート化合物としては、例えば、メタクリロイルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。また、ヒドロキシ基を有するアクリル系ポリマーとしては、上述のヒドロキシ基含有モノマーや、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングルコールモノビニルエーテル等のエーテル系化合物に由来する構成単位を含むものが挙げられる。
第1アクリル系ポリマーが不飽和官能基含有イソシアネート化合物由来の構成単位を有する場合、第1アクリル系ポリマーにおける、不飽和官能基含有イソシアネート化合物由来の構成単位の、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来の構成単位に対するモル比率は、0.1以上が好ましく、より好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上である。また、上記モル比率は、2以下が好ましく、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1以下である。上記モル比率が0.1以上であると、放射線硬化後の粘着剤層の、上記ナノインデンテーション法による弾性率が向上する傾向があり、エキスパンド工程において接着剤層をより良好に割断することができる。上記モル比率が2以下であると、放射線硬化後の粘着剤層の、上記ナノインデンテーション法による弾性率が低下する傾向があり、エキスパンド工程における粘着剤層の割れをより起こりにくくすることができる。
上記放射線硬化型粘着剤は、光重合開始剤を含有することが好ましい。上記光重合開始剤としては、例えば、α-ケトール系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ケタール系化合物、芳香族スルホニルクロリド系化合物、光活性オキシム系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、カンファーキノン、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、アシルホスフォナート等が挙げられる。上記α-ケトール系化合物としては、例えば、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、α-ヒドロキシ-α,α’-ジメチルアセトフェノン、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。上記アセトフェノン系化合物としては、例えば、メトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフエノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-1等が挙げられる。上記ベンゾインエーテル系化合物としては、例えば、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アニソインメチルエーテル等が挙げられる。上記ケタール系化合物としては、例えば、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。上記芳香族スルホニルクロリド系化合物としては、例えば、2-ナフタレンスルホニルクロリド等が挙げられる。上記光活性オキシム系化合物としては、例えば、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシム等が挙げられる。上記ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。上記チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等が挙げられる。放射線硬化型粘着剤中の光重合開始剤の含有量は、ベースポリマー100質量部に対して、例えば0.05~20質量部である。
上記加熱発泡型粘着剤は、加熱によって発泡や膨張をする成分(発泡剤、熱膨張性微小球等)を含有する粘着剤である。上記発泡剤としては、種々の無機系発泡剤や有機系発泡剤が挙げられる。上記無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、アジド類等が挙げられる。上記有機系発泡剤としては、例えば、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロモノフルオロメタン等の塩フッ化アルカン;アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレート等のアゾ系化合物;パラトルエンスルホニルヒドラジド、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホニルヒドラジド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アリルビス(スルホニルヒドラジド)等のヒドラジン系化合物;p-トルイレンスルホニルセミカルバジド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)等のセミカルバジド系化合物;5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾール等のトリアゾール系化合物;N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロソテレフタルアミド等のN-ニトロソ系化合物等が挙げられる。上記熱膨張性微小球としては、例えば、加熱によって容易にガス化して膨張する物質が殻内に封入された構成の微小球が挙げられる。上記加熱によって容易にガス化して膨張する物質としては、例えば、イソブタン、プロパン、ペンタン等が挙げられる。加熱によって容易にガス化して膨張する物質をコアセルべーション法や界面重合法等によって殻形成物質内に封入することによって、熱膨張性微小球を作製することができる。上記殻形成物質としては、熱溶融性を示す物質や、封入物質の熱膨張の作用によって破裂し得る物質を用いることができる。そのような物質としては、例えば、塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホン等が挙げられる。
上記粘着力非低減型粘着剤層としては、例えば、感圧型粘着剤層が挙げられる。なお、感圧型粘着剤層には、粘着力低減型粘着剤層に関して上述した放射線硬化型粘着剤から形成された粘着剤層を予め放射線照射によって硬化させつつも一定の粘着力を有する形態の粘着剤層が含まれる。粘着力非低減型粘着剤層を形成する粘着剤としては、一種の粘着剤を用いてもよいし、二種以上の粘着剤を用いてもよい。また、粘着剤層12の全体が粘着力非低減型粘着剤層であってもよいし、一部が粘着力非低減型粘着剤層であってもよい。例えば、粘着剤層12が単層構造を有する場合、粘着剤層12の全体が粘着力非低減型粘着剤層であってもよいし、粘着剤層12における所定の部位(例えば、リングフレームの貼着対象領域であって、中央領域の外側にある領域)が粘着力非低減型粘着剤層であり、他の部位(例えば、半導体ウエハの貼着対象領域である中央領域)が粘着力低減型粘着剤層であってもよい。また、粘着剤層12が積層構造を有する場合、積層構造における全ての粘着剤層が粘着力非低減型粘着剤層であってもよいし、積層構造中の一部の粘着剤層が粘着力非低減型粘着剤層であってもよい。
放射線硬化型粘着剤から形成された粘着剤層を予め放射線照射によって硬化させた形態の粘着剤層(放射線照射済放射線硬化型粘着剤層)は、放射線照射によって粘着力が低減されているとしても、含有するポリマー成分に起因する粘着性を示し、ダイシング工程等においてダイシングテープの粘着剤層に最低限必要な粘着力を発揮することが可能である。放射線照射済放射線硬化型粘着剤層を用いる場合、粘着剤層12の面広がり方向において、粘着剤層12の全体が放射線照射済放射線硬化型粘着剤層であってもよく、粘着剤層12の一部が放射線照射済放射線硬化型粘着剤層であり且つ他の部分が放射線未照射の放射線硬化型粘着剤層であってもよい。
上記感圧型粘着剤層を形成する粘着剤としては、公知乃至慣用の感圧型の粘着剤を用いることができ、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤やゴム系粘着剤を好ましく用いることができる。粘着剤層12が感圧型の粘着剤としてアクリル系ポリマーを含有する場合、当該アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多い構成単位として含むポリマーであることが好ましい。上記アクリル系ポリマーとしては、例えば、上述の粘着剤層に含まれ得るアクリル系ポリマーとして説明されたアクリル系ポリマー(例えば、第1アクリル系ポリマー)を採用することができる。
粘着剤層12又は粘着剤層12を形成する粘着剤は、上述の各成分以外に、架橋促進剤、粘着付与剤、老化防止剤、着色剤(顔料、染料等)等の公知乃至慣用の粘着剤層に用いられる添加剤が配合されていてもよい。上記着色剤としては、例えば、放射線照射により着色する化合物が挙げられる。放射線照射により着色する化合物を含有する場合、放射線照射された部分のみを着色することができる。上記放射線照射により着色する化合物は、放射線照射前には無色又は淡色であるが、放射線照射により有色となる化合物であり、例えば、ロイコ染料等が挙げられる。上記放射線照射により着色する化合物の使用量は特に限定されず適宜選択することができる。
粘着剤層12の厚さは、特に限定されないが、粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤から形成された粘着剤層である場合に当該粘着剤層12の放射線硬化の前後における接着剤層20に対する接着力のバランスをとる観点から、1~50μm程度が好ましく、より好ましくは2~30μm、さらに好ましくは5~25μmである。
(接着剤層)
接着剤層20は、ダイボンディング用の熱硬化性を示す接着剤として機能と、半導体ウエハ等のワークとリングフレーム等のフレーム部材とを保持するための粘着機能とを併有する。接着剤層20は、引張応力を加えることによる割断が可能であり、引張応力を加えることにより割断させて使用される。
接着剤層20及び接着剤層20を構成する接着剤は、熱硬化性樹脂と例えばバインダー成分としての熱可塑性樹脂とを含んでいてもよいし、硬化剤と反応して結合を生じ得る熱硬化性官能基を有する熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。接着剤層20を構成する接着剤が、熱硬化性官能基を有する熱可塑性樹脂を含む場合、当該接着剤は熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂等)を含む必要はない。接着剤層20は、単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。上記熱可塑性樹脂としては、イオン性不純物が少なく且つ耐熱性が高いために接着剤層20による接合信頼性を確保しやすいという理由から、アクリル樹脂が好ましい。
リングフレームに対する接着剤層20の、室温及びその近傍の温度における貼着性と剥離時残渣の防止との両立の観点からは、接着剤層20は、熱可塑性樹脂の主成分として、ガラス転移温度が-10~10℃のポリマーを含むことが好ましい。熱可塑性樹脂の主成分とは、熱可塑性樹脂成分中で最も大きな質量割合を占める樹脂成分とする。
ポリマーのガラス転移温度については、下記のFoxの式に基づき求められるガラス転移温度(理論値)を用いることができる。Foxの式は、ポリマーのガラス転移温度Tgと、当該ポリマーにおける構成モノマーごとの単独重合体のガラス転移温度Tgiとの関係式である。下記のFoxの式において、Tgはポリマーのガラス転移温度(℃)を表し、Wiは当該ポリマーを構成するモノマーiの重量分率を表し、Tgiはモノマーiの単独重合体のガラス転移温度(℃)を示す。単独重合体のガラス転移温度については文献値を用いることができ、例えば「新高分子文庫7 塗料用合成樹脂入門」(北岡協三 著,高分子刊行会,1995年)や「アクリルエステルカタログ(1997年度版)」(三菱レイヨン株式会社)には、各種の単独重合体のガラス転移温度が挙げられている。一方、モノマーの単独重合体のガラス転移温度については、特開2007-51271号公報に具体的に記載されている手法によって求めることも可能である。
Foxの式 1/(273+Tg)=Σ[Wi/(273+Tgi)]
上記アクリル系樹脂は、炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多い構成単位として含むことが好ましい。当該炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、上述の粘着剤層に含まれ得るアクリル系ポリマーを形成する炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとして例示された炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
上記アクリル樹脂は、炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマー成分に由来する構成単位を含んでいてもよい。上記他のモノマー成分としては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、グリシジル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、アクリロニトリル等の官能基含有モノマーや、各種の多官能性モノマー等が挙げられ、具体的には、上述の粘着剤層に含まれ得るアクリル系ポリマーを構成する他のモノマー成分として例示されたものを使用することができる。
上記アクリル系樹脂としては、中でも、ニトリル基を有するアクリル系ポリマー(「第2アクリル系ポリマー」と称する場合がある)であることが好ましい。特に、粘着剤層12が第1アクリル系ポリマーを含み且つ接着剤層20が第2アクリル系ポリマーを含むことが好ましい。粘着剤層12が第1アクリル系ポリマーを含み且つ接着剤層20が第2アクリル系ポリマーを含む構成によると、両層間において高いせん断接着力を確保しつつ、両層間の積層方向に働く結合的な相互作用を抑制できるため、エキスパンド工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層からの浮きの発生をより抑制し、且つピックアップ工程においてより良好なピックアップを実現することができる。特に、上述の積層塗工手法を経て粘着剤層と接着剤層とを積層形成する場合には、一般的に当該両層間の積層方向に働く結合的な相互作用は過剰となりやすいため上記構成が好ましい。
ニトリル基を有する第2アクリル系ポリマーは、ニトリル基含有モノマー由来の構造単位を含むことが好ましい。ニトリル基含有モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアノスチレンが挙げられる。
ニトリル基を有する第2アクリル系ポリマーの赤外吸収スペクトルにおいて、カルボニル基由来の1730cm-1付近のピーク(C=O伸縮振動に帰属される吸収のピーク)の高さに対する、ニトリル基由来の2240cm-1付近のピーク(C≡N伸縮振動に帰属される吸収のピーク)の高さの比の値は、0.01以上であることが好ましく、より好ましくは0.015以上、さらに好ましくは0.02以上である。また、上記比の値は、0.1以下であることが好ましく、より好ましくは0.09以下、さらに好ましくは0.08以下である。すなわち、第2アクリル系ポリマーのニトリル基相対含有量は、このような範囲内に上記の比の値が収まる程度に設定されることが好ましい。上記比の値が0.01以上であると、ピックアップ工程においてより良好なピックアップを実現することができる。上記比の値が0.1以下であると、エキスパンド工程において、割断を経た接着剤層付き半導体チップの粘着剤層からの浮きの発生をより抑制することができる。
接着剤層20が、熱硬化性樹脂を熱可塑性樹脂とともに含む場合、当該熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。ダイボンディング対象の半導体チップの腐食原因となり得るイオン性不純物等の含有量の少ない傾向にあるという理由から、上記熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂が好ましい。また、エポキシ樹脂の硬化剤としてはフェノール樹脂が好ましい。
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型、グリシジルアミン型のエポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み且つ耐熱性に優れることから、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂の硬化剤として作用し得るフェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。上記フェノール樹脂は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。中でも、ダイボンディング用接着剤としてのエポキシ樹脂の硬化剤として用いられる場合に当該接着剤の接続信頼性を向上させる傾向にある観点から、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂が好ましい。
接着剤層20において、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、フェノール樹脂は、エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たり、当該フェノール樹脂中の水酸基が好ましくは0.5~2.0当量、より好ましくは0.7~1.5当量となる量で含まれる。
接着剤層20が熱硬化性樹脂を含む場合、上記熱硬化性樹脂の含有割合は、接着剤層20において熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させるという観点から、接着剤層20の総質量に対して、5~60質量%が好ましく、より好ましくは10~50質量%である。
接着剤層20が熱硬化性官能基を有する熱可塑性樹脂(例えば、第2アクリル系ポリマー)を含む場合、当該熱可塑性樹脂としては、例えば、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂を用いることができる。この熱硬化性官能基含有アクリル樹脂におけるアクリル樹脂は、好ましくは、炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多い構成単位として含む。当該炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、上述の粘着剤層に含まれ得るアクリル系ポリマーを形成する炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとして例示された炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。一方、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基としては、例えば、グリシジル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。中でも、グリシジル基、カルボキシ基が好ましい。すなわち、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂としては、グリシジル基含有アクリル樹脂、カルボキシ基含有アクリル樹脂が特に好ましい。また、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂とともに硬化剤を含むことが好ましく、当該硬化剤としては、例えば、上述の粘着剤層12形成用の放射線硬化型粘着剤に含まれ得る架橋剤として例示されたものが挙げられる。熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基がグリシジル基である場合には、硬化剤としてポリフェノール系化合物を用いることが好ましく、例えば上述の各種フェノール樹脂を用いることができる。
接着剤層20中に含まれ得る第2アクリル系ポリマーのエポキシ価は、0.05eq/kg以上が好ましく、より好ましくは0.1eq/kg以上、さらに好ましくは0.2eq/kg以上である。また、当該第2アクリル系ポリマーのエポキシ価は、1eq/kg以下が好ましく、より好ましくは0.9eq/kg以下である。このようなエポキシ価の第2アクリル系ポリマーの接着剤層20における含有割合は、5~95質量%が好ましく、より好ましくは40~80質量%である。
接着剤層20に含まれ得る第2アクリル系ポリマーのカルボン酸価は、1mgKOH/g以上が好ましく、より好ましくは3mgKOH/g以上、さらに好ましくは5mgKOH/g以上である。また、当該第2アクリル系ポリマーのカルボン酸価は、20mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは18mgKOH/g以下である。このようなカルボン酸価の第2アクリル系ポリマーの接着剤層20における含有割合は、5~95質量%が好ましく、より好ましくは40~80質量%である。
ダイボンディングのために硬化される前の接着剤層20について、ある程度の架橋度を実現するためには、例えば、接着剤層20に含まれ得る上述の樹脂の分子鎖末端の官能基等と反応して結合し得る多官能性化合物を架橋成分として接着剤層形成用樹脂組成物に配合しておくのが好ましい。このような構成は、接着剤層20について、高温下での接着特性を向上させる観点で、また、耐熱性の改善を図る観点で好ましい。上記架橋成分としては、例えばポリイソシアネート化合物が挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、多価アルコールとジイソシアネートの付加物等が挙げられる。接着剤層形成用樹脂組成物における架橋成分の含有量は、当該架橋成分と反応して結合し得る上記官能基を有する樹脂100質量部に対し、形成される接着剤層20の凝集力向上の観点からは0.05質量部以上が好ましく、形成される接着剤層20の接着力向上の観点からは7質量部以下が好ましい。また、上記架橋成分としては、エポキシ樹脂等の他の多官能性化合物をポリイソシアネート化合物と併用してもよい。
接着剤層20における高分子量成分の含有割合は、50~100質量%が好ましく、より好ましくは50~80質量%である。高分子量成分とは、重量平均分子量10000以上の成分とする。上記高分子量成分の含有割合が上記範囲内であると、リングフレームに対する接着剤層20の、室温及びその近傍の温度における貼着性と剥離時残渣の防止との両立を図る観点で好ましい。また、接着剤層20は、23℃で液状である液状樹脂を含んでもよい。接着剤層20が上記液状樹脂を含む場合、接着剤層20における当該液状樹脂の含有割合は、1~10質量%が好ましく、より好ましくは1~5質量%である。上記液状樹脂の含有割合が上記範囲内であると、後述のリングフレームに対する接着剤層20の、室温及びその近傍の温度における貼着性と剥離時残渣の防止との両立を図る観点で好ましい。
接着剤層20は、フィラーを含有することが好ましい。接着剤層20へのフィラーの配合により、接着剤層20の導電性や、熱伝導性、弾性率等の物性を調整することができる。フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラーが挙げられ、特に無機フィラーが好ましい。無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素、結晶質シリカ、非晶質シリカの他、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル等の金属単体や、合金、アモルファスカーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。フィラーは、球状、針状、フレーク状等の各種形状を有していてもよい。上記フィラーとしては、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。後述のクールエキスパンド工程においてリングフレームに対する接着剤層20の貼着性を確保する観点では、接着剤層20におけるフィラー含有割合は、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下である。
上記フィラーの平均粒径は、0.005~10μmが好ましく、より好ましくは0.005~1μmである。上記平均粒径が0.005μm以上であると、半導体ウエハ等の被着体への濡れ性、接着性がより向上する。上記平均粒径が10μm以下であると、上記各特性の付与のために加えたフィラーの効果を十分なものとすることができると共に、耐熱性を確保することができる。なお、フィラーの平均粒径は、例えば、光度式の粒度分布計(例えば、商品名「LA-910」、株式会社堀場製作所製)を用いて求めることができる。
接着剤層20は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、例えば、硬化触媒、難燃剤、シランカップリング剤、イオントラップ剤、染料等が挙げられる。上記難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。上記シランカップリング剤としては、例えば、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。上記イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、含水酸化アンチモン(例えば東亜合成株式会社製の「IXE?300」)、特定構造のリン酸ジルコニウム(例えば東亜合成株式会社製の「IXE?100」)、ケイ酸マグネシウム(例えば協和化学工業株式会社製の「キョーワード600」)、ケイ酸アルミニウム(例えば協和化学工業株式会社製の「キョーワード700」)等が挙げられる。金属イオンとの間で錯体を形成し得る化合物もイオントラップ剤として使用することができる。そのような化合物としては、例えば、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物、ビピリジル系化合物が挙げられる。これらのうち、金属イオンとの間で形成される錯体の安定性の観点からはトリアゾール系化合物が好ましい。そのようなトリアゾール系化合物としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-{N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル}ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、6-(2-ベンゾトリアゾリル)-4-t-オクチル-6’-t-ブチル-4’-メチル-2,2’-メチレンビスフェノール、1-(2’,3’-ヒドロキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1-(1,2-ジカルボキシジエチル)ベンゾトリアゾール、1-(2-エチルヘキシルアミノメチル)ベンゾトリアゾール、2,4-ジ-t-ペンチル-6-{(H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル}フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、C7-C9-アルキル-3-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオンエーテル、オクチル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-エチルヘキシル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-ブチルフェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロ-ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ジ(1,1-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、メチル-3?[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート等が挙げられる。また、キノール化合物や、ヒドロキシアントラキノン化合物、ポリフェノール化合物等の所定の水酸基含有化合物も、イオントラップ剤として使用することができる。そのような水酸基含有化合物としては、具体的には、1,2-ベンゼンジオール、アリザリン、アントラルフィン、タンニン、没食子酸、没食子酸メチル、ピロガロール等が挙げられる。上記他の添加剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
接着剤層20は、温度23℃、剥離速度300mm/分、角度180°の条件での、SUSに対する粘着力が、0.1~20N/10mmであることが好ましく、より好ましくは0.5~15N/10mm、さらに好ましくは1~12N/10mmである。上記粘着力が0.1N/10mm以上であると、エキスパンド工程においてリングフレームを接着剤層20に貼付する場合、接着剤層20とリングフレームの密着性を向上させ、エキスパンド工程ではリングフレームによりダイシングダイボンドフィルムXを良好に保持することができる。上記粘着力が20N/10mm以下であると、エキスパンド工程においてリングフレームを接着剤層20に貼付する場合、リングフレームからのダイシングダイボンドフィルムXの剥離が容易となる。上記SUSに対する粘着力は、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-J」,株式会社島津製作所製)を使用して測定することができる。その試験に供される試料片は、幅50mm×長さ120mmのサイズの試験片であることが好ましい。
接着剤層20は、23℃における貯蔵弾性率が100~4000MPaであることが好ましく、より好ましくは300~3000MPa、さらに好ましくは500~2000MPaである。上記貯蔵弾性率が100MPa以上であると、エキスパンド工程においてリングフレームを接着剤層20に貼付する場合、リングフレームからのダイシングダイボンドフィルムXの剥離が容易となる。上記貯蔵弾性率が4000MPa以下であると、エキスパンド工程においてリングフレームを接着剤層20に貼付する場合、接着剤層20とリングフレームの密着性を向上させ、エキスパンド工程ではリングフレームによりダイシングダイボンドフィルムXを良好に保持することができる。上記貯蔵弾性率は、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-J」,株式会社島津製作所製)を使用して測定することができる。その試験に供される試料片は、幅50mm×長さ120mmのサイズの試験片であることが好ましい。
接着剤層20の厚さ(積層体の場合は、総厚み)は、特に限定されないが、例えば1~200μmである。上限は、100μmが好ましく、より好ましくは80μmである。下限は、3μmが好ましく、より好ましくは5μmである。
本実施形態では、ダイシングダイボンドフィルムXの面内方向Dにおいて、ダイシングテープ10における基材11の外周端11e及び粘着剤層12の外周端12eから、接着剤層20の外周端20eが、1000μm以内、好ましくは500μm以内の、距離にある。すなわち、接着剤層20の外周端20eは、全周にわたり、フィルム面内方向Dにおいて、基材11の外周端11eに対して内側1000μmから外側1000μmまでの間、好ましくは内側500μmから外側500μmまでの間にあり、且つ、粘着剤層12の外周端12eに対して内側1000μmから外側1000μmまでの間、好ましくは内側500μmから外側500μmまでの間にある。ダイシングテープ10あるいはその粘着剤層12とその上の接着剤層20とが面内方向Dにおいて実質的に同一の寸法を有する当該構成では、接着剤層20は、ワーク貼着用の領域に加えてフレーム貼着用の領域を含むこととなる。
ダイシングダイボンドフィルムXにおいて、ダイシングテープ10の粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤層である場合、温度23℃、剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化後の粘着剤層12と接着剤層20との間の剥離力は、0.06~0.25N/20mmであることが好ましく、より好ましくは0.1~0.2N/20mmである。上記剥離力が0.06N/20mm以上であると、ダイシングテープの粘着剤層とその上の接着剤層との間の密着性を確保して、エキスパンド工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層からの浮きの発生をより抑制することができる。上記剥離力が0.25N/20mm以下であると、ピックアップ工程においてより良好なピックアップを実現することができる。なお、本明細書において、「放射線硬化型粘着剤層」とは、上記放射線硬化型粘着剤から形成された粘着剤層をいい、放射線硬化性を有する粘着剤層及び当該粘着剤層が放射線照射により硬化した後の粘着剤層(放射線照射済放射線硬化型粘着剤層)の両方を含む。
ダイシングダイボンドフィルムXにおいて、温度23℃、剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化前の粘着剤層12と接着剤層20との間の剥離力は、2N/20mm以上であることが好ましく、より好ましくは3N/20mm以上である。上記剥離力が2N/20mm以上であると、放射線硬化を行わない状態でエキスパンド工程を実施する場合に、ダイシングテープの粘着剤層とその上の接着剤層との間の密着性を確保して、エキスパンド工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層からの浮きの発生をより抑制しつつ、接着剤層をより良好に割断することができる。また、上記剥離力は、例えば20N/20mm以下、好ましくは10N/20mm以下である。なお、上記「放射線硬化前」とは、放射線照射により粘着剤層が硬化していない状態をいい、粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤層でない場合も含む。
上記T型剥離試験については、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-J」,株式会社島津製作所製)を使用して行われる。その試験に供される試料片は、次のようにして作製することができる。まず、粘着剤層が放射線硬化前であって放射線硬化後の粘着剤層12を得る場合は、ダイシングダイボンドフィルムXにおいて基材11の側から粘着剤層12に対して350mJ/cm2の紫外線を照射して粘着剤層12を硬化させる。次に、ダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20側に裏打ちテープ(商品名「BT-315」,日東電工株式会社製)を貼り合わせた後、幅50mm×長さ120mmのサイズの試験片を切り出す。
ダイシングダイボンドフィルムXにおいて、粘着剤層12と接着剤層20の接触面における、粘着剤層12の表面粗さRaと接着剤層20の表面粗さRaとの差、すなわち[(接着剤層20との接触面における粘着剤層12の表面粗さRa)-(粘着剤層12との接触面における接着剤層20の表面粗さRa)]の絶対値は、100nm以下であることが好ましい。上記表面粗さRaの差が100nm以下であると、ダイシングテープの粘着剤層とその上の接着剤層との間の密着性をより向上させることができ、エキスパンド工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層からの部分的な剥離すなわち浮きの発生をより抑制することができる。なお、上記粘着剤層12と接着剤層20の接触面における粘着剤層12の表面粗さRa及び接着剤層20の表面粗さRaは、例えば、ダイシングダイボンドフィルムXにおける粘着剤層12と接着剤層20の界面で剥離し、粘着剤層12の接着剤層20が積層していた側の表面及び接着剤層20の粘着剤層12が積層していた側の表面についてそれぞれ表面粗さRaを測定して得ることができる。
ダイシングダイボンドフィルムXは、図2に示すようにセパレータSを有していてもよい。具体的には、ダイシングダイボンドフィルムXごとに、セパレータSを有するシート状の形態であってもよいし、セパレータSが長尺状であってその上に複数のダイシングダイボンドフィルムXが配され且つ当該セパレータSが巻き回されてロールの形態とされていてもよい。セパレータSは、ダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20の表面を被覆して保護するための要素であり、ダイシングダイボンドフィルムXを使用する際には当該フィルムから剥がされる。セパレータSとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、フッ素系剥離剤や長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙類等が挙げられる。セパレータSの厚さは、例えば5~200μmである。
本発明のダイシングダイボンドフィルムの一実施形態であるダイシングダイボンドフィルムXは、例えば、次の通りにして製造される。
まず、図3(a)に示すように、セパレータS上に接着剤フィルム20’を作製する。接着剤フィルム20’は、上述の接着剤層20へと加工形成されることとなる長尺状のフィルムである。接着剤フィルム20’の作製においては、まず、樹脂、フィラー、硬化触媒、溶媒等を含む、接着剤層20を形成する組成物(接着剤組成物)を作製する。次に、接着剤組成物をセパレータ上に塗工して接着剤組成物層を形成する。接着剤組成物の塗工手法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等が挙げられる。次に、この接着剤組成物層において、必要に応じて脱溶媒や硬化等により固化させる。脱溶媒は、例えば、温度70~160℃、時間1~5分間の範囲内で行われる。以上のようにして、セパレータS上に接着剤フィルム20’を作製することができる。
次に、図3(b)に示すように、接着剤フィルム20’上に粘着剤層12’を積層形成する。粘着剤層12’は、上述の粘着剤層12へと加工形成されることとなるものである。粘着剤層12’の形成においては、まず、粘着剤層12を形成する粘着剤及び溶媒等を含む、粘着剤層を形成する組成物(粘着剤組成物)を接着剤フィルム20’上に塗工して粘着剤組成物層を形成する。粘着剤組成物の塗工手法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等が挙げられる。次に、この粘着剤組成物層において、必要に応じて脱溶媒や硬化等により固化させる。脱溶媒は、例えば、温度80~150℃、時間0.5~5分間の範囲内で行われる。接着剤層20へと加工形成される接着剤フィルム20’と、粘着剤層12へと加工形成される粘着剤層12’とは、このような積層塗工手法によって形成することができる。
次に、図3(c)に示すように、粘着剤層12’上に基材11’を圧着して貼り合わせる。基材11’は、上述の基材11へと加工形成されるものである。樹脂製の基材11’は、カレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、共押出し法、ドライラミネート法等の製膜手法により作製することができる。製膜後のフィルム及び基材11’には、必要に応じて表面処理を施す。本工程において、貼り合わせ温度は、例えば30~50℃であり、好ましくは35~45℃である。貼り合わせ圧力(線圧)は、例えば0.1~20kgf/cmであり、好ましくは1~10kgf/cmである。これにより、セパレータSと、接着剤フィルム20’と、粘着剤層12’と、基材11’との積層構造を有する長尺状の積層シート体が得られる。また、粘着剤層12が上述のような放射線硬化型粘着剤層である場合に接着剤フィルム20’の貼り合わせより後に粘着剤層12’に紫外線等の放射線を照射する時には、例えば基材11’の側から、粘着剤層12’に対して紫外線等の放射線の照射を行う。その照射量は、例えば50~500mJ/cm2であり、好ましくは100~300mJ/cm2である。その照射領域は、例えば、接着剤層20と密着することとなる粘着剤層12へと形成される領域の全体である。
次に、図3(d)に示すように、上記の積層シート体に対し、基材11’の側からセパレータSに至るまで加工刃を突入させる加工を施す(図3(d)では切断箇所を模式的に太線で表す)。例えば、積層シート体を一方向Fに一定速度で流しつつ、その方向Fに直交する軸心まわりに回転可能に配され且つ打抜き加工用の加工刃をロール表面に伴う加工刃付き回転ロール(図示略)の加工刃付き表面を、積層シート体の基材11’側に所定の押圧力を伴って当接させる。これにより、ダイシングテープ10(基材11、粘着剤層12)と接着剤層20とが一括的に加工形成され、ダイシングダイボンドフィルムXがセパレータS上に形成される。この後、図3(e)に示すように、ダイシングダイボンドフィルムXの周囲の材料積層部をセパレータS上から取り除く。
以上のようにして、ダイシングダイボンドフィルムXを製造することができる。
[半導体装置の製造方法]
本発明のダイシングダイボンドフィルムを用いて、半導体装置を製造することができる。具体的には、本発明のダイシングダイボンドフィルムにおける上記接着剤層側に、複数の半導体チップを含む半導体ウエハの分割体、又は複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハを貼り付ける工程(「工程A」と称する場合がある)と、相対的に低温の条件下で、本発明のダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープをエキスパンドして、少なくとも上記接着剤層を割断して接着剤層付き半導体チップを得る工程(「工程B」と称する場合がある)と、相対的に高温の条件下で、上記ダイシングテープをエキスパンドして、上記接着剤層付き半導体チップ同士の間隔を広げる工程(「工程C」と称する場合がある)と、上記接着剤層付き半導体チップをピックアップする工程(「工程D」と称する場合がある)とを含む製造方法により、半導体装置を製造することができる。図4~9に、本発明のダイシングダイボンドフィルムを用いた半導体装置製造方法の一実施形態を示す。
工程Aで用いる上記複数の半導体チップを含む半導体ウエハの分割体、又は複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハは、以下のようにして得ることができる。まず、図4(a)及び図4(b)に示すように、半導体ウエハWに分割溝30aを形成する(分割溝形成工程)。半導体ウエハWは、第1面Wa及び第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。そして、粘着面T1aを有するウエハ加工用テープT1を半導体ウエハWの第2面Wb側に貼り合わせた後、ウエハ加工用テープT1に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWの第1面Wa側に所定深さの分割溝30aをダイシング装置等の回転ブレードを使用して形成する。分割溝30aは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための空隙である(図4~6では分割溝30aを模式的に太線で表す)。
次に、図4(c)に示すように、粘着面T2aを有するウエハ加工用テープT2の、半導体ウエハWの第1面Wa側への貼り合わせと、半導体ウエハWからのウエハ加工用テープT1の剥離とを行う。
次に、図4(d)に示すように、ウエハ加工用テープT2に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化する(ウエハ薄化工程)。研削加工は、研削砥石を備える研削加工装置を使用して行うことができる。このウエハ薄化工程によって、本実施形態では、複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Aが形成される。半導体ウエハ30Aは、具体的には、当該ウエハにおいて複数の半導体チップ31へと個片化されることとなる部位を第2面Wb側で連結する部位(連結部)を有する。半導体ウエハ30Aにおける連結部の厚さ、すなわち、半導体ウエハ30Aの第2面Wbと分割溝30aの第2面Wb側先端との間の距離は、例えば1~30μmであり、好ましくは3~20μmである。
(工程A)
工程Aでは、ダイシングダイボンドフィルムXにおける接着剤層20側に、複数の半導体チップを含む半導体ウエハの分割体、又は複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハを貼り付ける。
工程Aにおける一実施形態では、図5(a)に示すように、ウエハ加工用テープT2に保持された半導体ウエハ30AをダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20に対して貼り合わせる。この後、図5(b)に示すように、半導体ウエハ30Aからウエハ加工用テープT2を剥がす。ダイシングダイボンドフィルムXにおける粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤層である場合には、ダイシングダイボンドフィルムXの製造過程での上述の放射線照射に代えて、半導体ウエハ30Aの接着剤層20への貼り合わせの後に、基材11の側から粘着剤層12に対して紫外線等の放射線を照射してもよい。照射量は、例えば50~500mJ/cm2であり、好ましくは100~300mJ/cm2である。ダイシングダイボンドフィルムXにおいて粘着剤層12の粘着力低減措置としての照射が行われる領域(図1に示す照射領域R)は、例えば、粘着剤層12における接着剤層20貼り合わせ領域内のその周縁部を除く領域である。
(工程B)
工程Bでは、相対的に低温の条件下で、ダイシングダイボンドフィルムXにおけるダイシングテープ10をエキスパンドして、少なくとも接着剤層20を割断して接着剤層付き半導体チップを得る。
工程Bにおける一実施形態では、まず、ダイシングダイボンドフィルムXにおけるダイシングテープ10の粘着剤層12上にリングフレーム41を貼り付けた後、図6(a)に示すように、半導体ウエハ30Aを伴う当該ダイシングダイボンドフィルムXをエキスパンド装置の保持具42に固定する。
次に、相対的に低温の条件下での第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を、図6(b)に示すように行い、半導体ウエハ30Aを複数の半導体チップ31へと個片化するとともに、ダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20を小片の接着剤層21に割断して、接着剤層付き半導体チップ31を得る。クールエキスパンド工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43を、ダイシングダイボンドフィルムXの図中下側においてダイシングテープ10に当接させて上昇させ、半導体ウエハ30Aの貼り合わせられたダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ10を、半導体ウエハ30Aの径方向及び周方向を含む二次元方向に引き伸ばすようにエキスパンドする。このエキスパンドは、ダイシングテープ10において15~32MPa、好ましくは20~32MPaの範囲内の引張応力が生じる条件で行う。クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43を上昇させる速度)は、好ましくは0.1~100mm/秒である。また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、好ましくは3~16mmである。
工程Bでは、複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハ30Aを用いた場合、半導体ウエハ30Aにおいて薄肉で割れやすい部位に割断が生じて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、工程Bでは、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着剤層20において各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝の図中垂直方向に位置する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生じる引張応力が作用する。その結果、接着剤層20において半導体チップ31間の分割溝の垂直方向に位置する箇所が割断されることとなる。エキスパンドによる割断の後、図6(c)に示すように、突き上げ部材43を下降させて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態を解除する。
(工程C)
工程Cでは、相対的に高温の条件下で、上記ダイシングテープ10をエキスパンドして、上記接着剤層付き半導体チップ同士の間隔を広げる。
工程Cにおける一実施形態では、まず、相対的に高温の条件下での第2エキスパンド工程(常温エキスパンド工程)を、図7(a)に示すように行い、接着剤層付き半導体チップ31間の距離(離間距離)を広げる。工程Cでは、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43を再び上昇させ、ダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ10をエキスパンドする。第2エキスパンド工程における温度条件は、例えば10℃以上であり、好ましくは15~30℃である。第2エキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43を上昇させる速度)は、例えば0.1~10mm/秒であり、好ましくは0.3~1mm/秒である。また、第2エキスパンド工程におけるエキスパンド量は、例えば3~16mmである。後述のピックアップ工程にてダイシングテープ10から接着剤層付き半導体チップ31を適切にピックアップ可能な程度に、工程Cでは接着剤層付き半導体チップ31の離間距離を広げる。エキスパンドにより離間距離を広げた後、図7(b)に示すように、突き上げ部材43を下降させて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態を解除する。エキスパンド状態解除後にダイシングテープ10上の接着剤層付き半導体チップ31の離間距離が狭まることを抑制する観点では、エキスパンド状態を解除するより前に、ダイシングテープ10における半導体チップ31保持領域より外側の部分を加熱して収縮させることが好ましい。
工程Cの後、接着剤層付き半導体チップ31を伴うダイシングテープ10における半導体チップ31側を水等の洗浄液を使用して洗浄するクリーニング工程を必要に応じて有していてもよい。
(工程D)
工程D(ピックアップ工程)では、個片化された接着剤層付き半導体チップをピックアップする。工程Dにおける一実施形態では、必要に応じて上記クリーニング工程を経た後、図8に示すように、接着剤層付き半導体チップ31をダイシングテープ10からピックアップする。例えば、ピックアップ対象の接着剤層付き半導体チップ31について、ダイシングテープ10の図中下側においてピックアップ機構のピン部材44を上昇させてダイシングテープ10を介して突き上げた後、吸着治具45によって吸着保持する。ピックアップ工程において、ピン部材44の突き上げ速度は例えば1~100mm/秒であり、ピン部材44の突き上げ量は例えば50~3000μmである。
上記半導体装置の製造方法は、工程A~D以外の他の工程を含んでいてもよい。例えば、一実施形態においては、図9(a)に示すように、ピックアップした接着剤層付き半導体チップ31を、被着体51に対して接着剤層21を介して仮固着する(仮固着工程)。被着体51としては、例えば、リードフレーム、TAB(Tape Automated Bonding)フィルム、配線基板、別途作製した半導体チップ等が挙げられる。接着剤層21の仮固着時における25℃での剪断接着力は、被着体51に対して0.2MPa以上が好ましく、より好ましくは0.2~10MPaである。接着剤層21の上記剪断接着力が0.2MPa以上であるという構成は、後述のワイヤーボンディング工程において、超音波振動や加熱によって接着剤層21と半導体チップ31又は被着体51との接着面でずり変形が生じるのを抑制して適切にワイヤーボンディングを行うことができる。また、接着剤層21の仮固着時における175℃での剪断接着力は、被着体51に対して0.01MPa以上が好ましく、より好ましくは0.01~5MPaである。
次に、図9(b)に示すように、半導体チップ31の電極パッド(図示略)と被着体51の有する端子部(図示略)とをボンディングワイヤー52を介して電気的に接続する(ワイヤーボンディング工程)。半導体チップ31の電極パッドや被着体51の端子部とボンディングワイヤー52との結線は、加熱を伴う超音波溶接によって実現でき、接着剤層21を熱硬化させないように行われる。ボンディングワイヤー52としては、例えば金線、アルミニウム線、銅線等を用いることができる。ワイヤーボンディングにおけるワイヤー加熱温度は、例えば80~250℃であり、好ましくは80~220℃である。また、その加熱時間は数秒~数分間である。
次に、図9(c)に示すように、被着体51上の半導体チップ31やボンディングワイヤー52を保護するための封止樹脂53によって半導体チップ31を封止する(封止工程)。封止工程では、接着剤層21の熱硬化が進行する。封止工程では、例えば、金型を使用して行うトランスファーモールド技術によって封止樹脂53を形成する。封止樹脂53の構成材料としては、例えばエポキシ系樹脂を用いることができる。封止工程において、封止樹脂53を形成するための加熱温度は例えば165~185℃であり、加熱時間は例えば60秒~数分間である。封止工程で封止樹脂53の硬化が十分に進行しない場合には、封止工程の後に封止樹脂53を完全に硬化させるための後硬化工程を行う。封止工程において接着剤層21が完全に熱硬化しない場合であっても、後硬化工程において封止樹脂53と共に接着剤層21の完全な熱硬化が可能となる。後硬化工程において、加熱温度は例えば165~185℃であり、加熱時間は例えば0.5~8時間である。
上記の実施形態では、上述のように、接着剤層付き半導体チップ31を被着体51に仮固着させた後、接着剤層21を完全に熱硬化させることなくワイヤーボンディング工程が行われる。このような構成に代えて、上記半導体装置の製造方法では、接着剤層付き半導体チップ31を被着体51に仮固着させた後、接着剤層21を熱硬化させてからワイヤーボンディング工程を行ってもよい。
上記半導体装置の製造方法においては、他の実施形態として、図4(d)を参照して上述したウエハ薄化工程に代えて、図10に示すウエハ薄化工程を行ってもよい。図4(c)を参照して上述した過程を経た後、図10に示すウエハ薄化工程では、ウエハ加工用テープT2に半導体ウエハWが保持された状態で、当該ウエハが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化させて、複数の半導体チップ31を含んでウエハ加工用テープT2に保持された半導体ウエハ分割体30Bを形成する。上記ウエハ薄化工程では、分割溝30aが第2面Wb側に露出するまでウエハを研削する手法(第1の手法)を採用してもよいし、第2面Wb側から分割溝30aに至るより前までウエハを研削し、その後、回転砥石からウエハへの押圧力の作用により分割溝30aと第2面Wbとの間にクラックを生じさせて半導体ウエハ分割体30Bを形成する手法(第2の手法)を採用してもよい。採用される手法に応じて、図4(a)及び図4(b)を参照して上述したように形成する分割溝30aの、第1面Waからの深さは、適宜に決定される。図10では、第1の手法を経た分割溝30a、又は、第2の手法を経た分割溝30a及びこれに連なるクラックについて、模式的に太線で表す。上記半導体装置の製造方法では、工程Aにおいて、半導体ウエハ分割体としてこのようにして作製される半導体ウエハ分割体30Bを半導体ウエハ30Aの代わりに用い、図5から図9を参照して上述した各工程を行ってもよい。
図11(a)及び図11(b)は、当該実施形態における工程B、すなわち半導体ウエハ分割体30BをダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わせた後に行う第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を表す。当該実施形態における工程Bでは、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43を、ダイシングダイボンドフィルムXの図中下側においてダイシングテープ10に当接させて上昇させ、半導体ウエハ分割体30Bの貼り合わせられたダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ10を、半導体ウエハ分割体30Bの径方向及び周方向を含む二次元方向に引き伸ばすようにエキスパンドする。このエキスパンドは、ダイシングテープ10において、例えば5~28MPa、好ましくは8~25MPaの範囲内の引張応力が生じる条件で行う。クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43を上昇させる速度)は、好ましくは1~400mm/秒である。また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、好ましくは50~200mmである。このようなクールエキスパンド工程により、ダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20を小片の接着剤層21に割断して接着剤層付き半導体チップ31が得られる。具体的に、クールエキスパンド工程では、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着剤層20において、半導体ウエハ分割体30Bの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝30aの図中垂直方向に位置する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生じる引張応力が作用する。その結果、接着剤層20において半導体チップ31間の分割溝30aの図中垂直方向に位置する箇所が割断されることとなる。
上記半導体装置の製造方法おいては、さらなる他の実施形態として、工程Aにおいて用いる半導体ウエハ30A又は半導体ウエハ分割体30Bに代えて、以下のようにして作製される半導体ウエハ30Cを用いてもよい。
当該実施形態では、図12(a)及び図12(b)に示すように、まず、半導体ウエハWに改質領域30bを形成する。半導体ウエハWは、第1面Wa及び第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。そして、粘着面T3aを有するウエハ加工用テープT3を半導体ウエハWの第1面Wa側に貼り合わせた後、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、ウエハ内部に集光点の合わせられたレーザー光をウエハ加工用テープT3とは反対の側から半導体ウエハWに対して分割予定ラインに沿って照射して、多光子吸収によるアブレーションに因って半導体ウエハW内に改質領域30bを形成する。改質領域30bは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための脆弱化領域である。半導体ウエハにおいてレーザー光照射によって分割予定ライン上に改質領域30bを形成する方法については、例えば特開2002-192370号公報に詳述されているが、当該実施形態におけるレーザー光照射条件は、例えば以下の条件の範囲内で適宜に調整される。
<レーザー光照射条件>
(A)レーザー光
レーザー光源 半導体レーザー励起Nd:YAGレーザー
波長 1064nm
レーザー光スポット断面積 3.14×10-8cm2
発振形態 Qスイッチパルス
繰り返し周波数 100kHz以下
パルス幅 1μs以下
出力 1mJ以下
レーザー光品質 TEM00
偏光特性 直線偏光
(B)集光用レンズ
倍率 100倍以下
NA 0.55
レーザー光波長に対する透過率 100%以下
(C)半導体基板が載置される裁置台の移動速度 280mm/秒以下
次に、図12(c)に示すように、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化させ、これによって複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Cを形成する(ウエハ薄化工程)。上記半導体装置の製造方法では、工程Aにおいて、個片化可能は半導体ウエハとしてこのようにして作製される半導体ウエハ30Cを半導体ウエハ30Aの代わりに用い、図5から図9を参照して上述した各工程を行ってもよい。
図13(a)及び図13(b)は、当該実施形態における工程B、すなわち半導体ウエハ30CをダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わせた後に行う第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を表す。クールエキスパンド工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43を、ダイシングダイボンドフィルムXの図中下側においてダイシングテープ10に当接させて上昇させ、半導体ウエハ30Cの貼り合わせられたダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ10を、半導体ウエハ30Cの径方向及び周方向を含む二次元方向に引き伸ばすようにエキスパンドする。このエキスパンドは、ダイシングテープ10において、例えば5~28MPa、好ましくは8~25MPaの範囲内の引張応力が生じる条件で行う。クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43を上昇させる速度)は、好ましくは1~400mm/秒である。また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、好ましくは50~200mmである。このようなクールエキスパンド工程により、ダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20を小片の接着剤層21に割断して接着剤層付き半導体チップ31が得られる。具体的に、クールエキスパンド工程では、半導体ウエハ30Cにおいて脆弱な改質領域30bにクラックを形成されて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、クールエキスパンド工程では、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着剤層20において、半導体ウエハ30Cの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、ウエハのクラック形成箇所の図中垂直方向に位置する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生じる引張応力が作用する。その結果、接着剤層20において半導体チップ31間のクラック形成箇所の図中垂直方向に位置する箇所が割断されることとなる。
また、上記半導体装置の製造方法において、ダイシングダイボンドフィルムXは、上述のように接着剤層付き半導体チップを得る用途に使用することができるが、複数の半導体チップを積層して3次元実装をする場合における接着剤層付き半導体チップを得るための用途にも使用することができる。そのような3次元実装における半導体チップ31間には、接着剤層21と共にスペーサが介在していてもよいし、スペーサが介在していなくてもよい。
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。ここで実施例5は参考例1と読み替えるものとする。
実施例1
(接着剤層)
アクリル系ポリマーA1(アクリル酸エチルとアクリル酸ブチルとアクリロニトリルとグリシジルメタクリレートとの共重合体であって上述の第2アクリル系ポリマー,重量平均分子量は120万,ガラス転移温度は0℃,エポキシ価は0.4eq/kg)54質量部と、固形フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」,23℃で固形,明和化成株式会社製)3質量部と、液状フェノール樹脂(商品名「MEH-8000H」,23℃で液状,明和化成株式会社製)3質量部と、シリカフィラー(商品名「SO-C2」,平均粒径は0.5μm,株式会社アドマテックス製)40質量部とを、メチルエチルケトンに加えて混合し、室温での粘度が700mPa・sになるように濃度を調整し、接着剤組成物を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ38μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物を塗布して塗膜を形成し、この塗膜について130℃で2分間の脱溶媒を行った。以上のようにして、実施例1における厚さ10μmの接着剤層をPETセパレータ上に作製した。実施例1における接着剤層の組成を表1に示す(表1において、組成物の組成を表す各数値の単位は、後述のMOIに関する数値を除き、当該組成物内での相対的な“質量部”である)。
(粘着剤層)
冷却管と、窒素導入管と、温度計と、撹拌装置とを備える反応容器内で、ラウリルアクリレート(LA)100モル部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)20モル部と、これらモノマー成分100質量部に対して0.2質量部の重合開始剤としての過酸化ベンゾイルと、重合溶媒としてのトルエンとを含む混合物を、60℃で10時間、窒素雰囲気下で撹拌した(重合反応)。これにより、アクリル系ポリマーP1を含有するポリマー溶液を得た。当該ポリマー溶液中のアクリル系ポリマーP1について、重量平均分子量(Mw)は46万であり、ガラス転移温度は9.5℃であり、2HEA由来の構成単位に対するLA由来の構成単位のモル比率は5である。次に、このアクリル系ポリマーP1を含有するポリマー溶液と、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)と、付加反応触媒としてのジブチル錫ジラウリレートとを含む混合物を、室温で48時間、空気雰囲気下で撹拌した(付加反応)。当該反応溶液において、MOIの配合量は、上記ラウリルアクリレート100モル部に対して16モル部であり、アクリル系ポリマーP1における2HEA由来の構成単位あるいはその水酸基の総量に対する当該MOI配合量のモル比率は0.8である。また、当該反応溶液において、ジブチル錫ジラウリレートの配合量は、アクリル系ポリマーP1100質量部に対して0.01質量部である。この付加反応により、側鎖にメタクリレート基を有するアクリル系ポリマーP2(不飽和官能基含有イソシアネート化合物由来の構成単位を含む上述の第1アクリル系ポリマー)を含有するポリマー溶液を得た。次に、当該ポリマー溶液に、アクリル系ポリマーP2100質量部に対して1質量部のポリイソシアネート化合物(商品名「コロネートL」,東ソー株式会社製)と、2質量部の光重合開始剤(商品名「イルガキュア127」,BASF社製)とを加えて混合し、且つ、当該混合物の室温での粘度が500mPa・sになるように当該混合物についてトルエンを加えて希釈し、粘着剤組成物を得た。次に、PETセパレータ上に形成された上述の接着剤層の上にアプリケーターを使用して粘着剤組成物を塗布して塗膜を形成し、この塗膜について130℃で2分間の脱溶媒を行い、接着剤層上に厚さ10μmの粘着剤層を形成した。次に、ラミネーターを使用して、この粘着剤層の露出面にエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)製の基材(商品名「RB-0104」,厚さ130μm,倉敷紡績株式会社製)を室温で貼り合わせた。次に、EVA基材の側からセパレータに至るまで加工刃を突入させる打抜き加工を行った。これにより、EVA基材/粘着剤層/接着剤層の積層構造を有する直径370mmの円盤形状のダイシングダイボンドフィルムをセパレータ上に形成した。次に、ダイシングテープにおける粘着剤層に対してEVA基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を350mJ/cm2とした。以上のようにして、ダイシングテープ(EVA基材/粘着剤層)と接着剤層とを含む積層構造を有する実施例1のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
実施例2及び3
粘着剤層の形成においてMOIの配合量を16モル部に代えて12モル部(実施例2)又は8モル部(実施例3)としたこと以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、実施例2及び3の各ダイシングダイボンドフィルムを作製した。
実施例4
(粘着剤層)
冷却管と、窒素導入管と、温度計と、撹拌装置とを備える反応容器内で、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)100モル部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)20モル部と、これらモノマー成分100質量部に対して0.2質量部の重合開始剤としての過酸化ベンゾイルと、重合溶媒としてのトルエンとを含む混合物を、60℃で10時間、窒素雰囲気下で撹拌した(重合反応)。これにより、アクリル系ポリマーP3を含有するポリマー溶液を得た。当該ポリマー溶液中のアクリル系ポリマーP3について、重量平均分子量(Mw)は40万であり、ガラス転移温度は9.5℃であり、2HEA由来の構成単位に対する2EHA由来の構成単位のモル比率は5である。次に、このアクリル系ポリマーP3を含有するポリマー溶液と、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)と、付加反応触媒としてのジブチル錫ジラウリレートとを含む混合物を、室温で48時間、空気雰囲気下で撹拌した(付加反応)。当該反応溶液において、MOIの配合量は、上記2-エチルヘキシルアクリレート100モル部に対して16モル部であり、アクリル系ポリマーP3における2HEA由来の構成単位あるいはその水酸基の総量に対する当該MOI配合量のモル比率は0.8である。また、当該反応溶液において、ジブチル錫ジラウリレートの配合量は、アクリル系ポリマーP3100質量部に対して0.01質量部である。この付加反応により、側鎖にメタクリレート基を有するアクリル系ポリマーP4(不飽和官能基含有イソシアネート化合物由来の構成単位を含むアクリル系ポリマー)を含有するポリマー溶液を得た。次に、当該ポリマー溶液に、アクリル系ポリマーP4100質量部に対して1質量部のポリイソシアネート化合物(商品名「コロネートL」,東ソー株式会社製)と、2質量部の光重合開始剤(商品名「イルガキュア127」,BASF社製)とを加えて混合し、且つ、当該混合物の室温での粘度が500mPa・sになるように当該混合物についてトルエンを加えて希釈し、粘着剤組成物を得た。そして、粘着剤組成物として当該粘着剤組成物を使用したこと以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、実施例4のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
実施例5
(粘着剤層)
シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ38μm)のシリコーン離型処理面上に、アプリケーターを使用して、実施例4で作製した粘着剤組成物を塗布して塗膜を形成し、この塗膜について130℃で2分間の脱溶媒を行い、PETセパレータ上に厚さ10μmの粘着剤層を形成した。次に、ラミネーターを使用して、この粘着剤層の露出面にエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)製の基材(商品名「RB-0104」,厚さ130μm,倉敷紡績株式会社製)を室温で貼り合わせた。以上のようにして、EVA基材/粘着剤層の積層構造を有するダイシングテープを作製した。
(接着剤層)
上記ダイシングテープからPETセパレータを剥離し、露出した粘着剤層に、実施例1で作製した接着剤層付きPETセパレータの接着剤層を貼り合わせた。貼り合わせにおいては、ダイシングテープの中心と接着剤層の中心とを位置合わせした。また、貼り合わせには、ハンドローラーを使用した。次に、EVA基材の側からセパレータに至るまで加工刃を突入させる打抜き加工を行った。これにより、EVA基材/粘着剤層/接着剤層の積層構造を有する直径370mmの円盤形状のダイシングダイボンドフィルムをセパレータ上に形成した。次に、ダイシングテープにおける粘着剤層に対してEVA基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を350mJ/cm2とした。以上のようにして、ダイシングテープ(EVA基材/粘着剤層)と接着剤層とを含む積層構造を有する実施例5のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
比較例1
粘着剤層の形成においてMOIの配合量を16モル部に代えて20モル部としたこと以外は実施例4のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、比較例1のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
<評価>
実施例及び比較例で得られたダイシングダイボンドフィルムについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
(ナノインデンテーション法による弾性率)
実施例及び比較例でそれぞれ得られた各ダイシングダイボンドフィルムについて、粘着剤層上から接着剤層を剥離し、粘着剤層の剥離面について、ナノインデンター(商品名「TriboIndenter」、HYSITRON Inc.社製)を用い、以下の条件で、粘着剤層表面のナノインデンテーション測定を行った。そして、得られた弾性率を表1に示す。
使用圧子:Berkovich(三角錐型)
測定方法:単一押し込み測定
測定温度:23℃
周波数:100Hz
押し込み深さ設定:500nm
荷重:1mN、
負荷速度:0.1mN/s
除荷速度:0.1mN/s
保持時間:1s
(表面粗さ)
実施例及び比較例でそれぞれ得られた各ダイシングダイボンドフィルムについて、粘着剤層上から接着剤層を剥離し、粘着剤層及び接着剤層の剥離面についてそれぞれの表面粗さRaを測定した。なお、表面粗さの測定はコンフォーカルレーザー顕微鏡(商品名「OPTELICS H300」,レーザーテック株式会社製)を用いて行った。そして、得られたそれぞれの表面粗さRa及びその差を表1に示す。
(紫外線硬化後のT型剥離試験)
実施例及び比較例でそれぞれ得られた各ダイシングダイボンドフィルムについて、次のようにして粘着剤層と接着剤層との間の剥離力を調べた。まず、各ダイシングダイボンドフィルムから試験片を作製した。具体的には、ダイシングダイボンドフィルムの接着剤層側に裏打ちテープ(商品名「BT-315」,日東電工株式会社製)を貼り合わせ、当該裏打ちテープを有するダイシングダイボンドフィルムから、幅50mm×長さ120mmのサイズの試験片を切り出した。そして、試験片について、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-J」,株式会社島津製作所製)を使用してT型剥離試験を行い、剥離力(N/20mm)を測定した。本測定においては、温度条件を23℃とし、剥離速度を300mm/分とした。測定結果を表1に示す。
(エキスパンド工程とピックアップ工程の実施)
実施例及び比較例でそれぞれ得られた各ダイシングダイボンドフィルムを使用して、以下のような貼り合わせ工程、割断のための第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)、離間のための第2エキスパンド工程(常温エキスパンド工程)、及びピックアップ工程を行った。
貼り合わせ工程では、ウエハ加工用テープ(商品名「UB-3083D」,日東電工株式会社製)に保持された半導体ウエハ分割体をダイシングダイボンドフィルムの接着剤層に対して貼り合わせ、その後、半導体ウエハ分割体からウエハ加工用テープを剥離した。貼り合わせにおいては、ラミネーターを使用し、貼り合わせ速度を10mm/秒とし、温度条件を60℃とし、圧力条件を0.15MPaとした。また、半導体ウエハ分割体は、次のようにして形成して用意したものである。まず、ウエハ加工用テープ(商品名「V12S-R2-P」,日東電工株式会社製)にリングフレームと共に保持された状態にあるベアウエハ(直径12インチ,厚さ780μm,東京化工株式会社製)について、その一方の面の側から、ダイシング装置(商品名「DFD6260」,株式会社ディスコ製)を使用してその回転ブレードによって個片化用の分割溝(幅25μm,深さ50μm,一区画6mm×12mmの格子状)を形成した。次に、分割溝形成面にウエハ加工用テープ(商品名「UB-3083D」,日東電工株式会社製)を貼り合わせた後、上記のウエハ加工用テープ(商品名「V12S-R2-P」)をウエハから剥離した。この後、バックグラインド装置(商品名「DGP8760」,株式会社ディスコ製)を使用して、ウエハの他方の面(分割溝の形成されていない面)の側からの研削によって当該ウエハを厚さ20μmに至るまで薄化し、続いて、同装置を使用して行うドライポリッシュによって当該研削面に対して鏡面仕上げを施した。以上のようにして、半導体ウエハ分割体(ウエハ加工用テープに保持された状態にある)を形成した。この半導体ウエハ分割体には、複数の半導体チップ(6mm×12mm)が含まれている。
クールエキスパンド工程は、ダイセパレート装置(商品名「ダイセパレータ DDS3200」,株式会社ディスコ製)を使用して、そのクールエキスパンドユニットにて行った。具体的には、まず、半導体ウエハ分割体を伴う上述のダイシングダイボンドフィルムにおける接着剤層のフレーム貼着用領域(ワーク貼着用領域の周囲)に、直径12インチのSUS製リングフレーム(株式会社ディスコ製)を室温で貼り付けた。次に、当該ダイシングダイボンドフィルムを装置内にセットし、同装置のクールエキスパンドユニットにて、半導体ウエハ分割体を伴うダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープをエキスパンドした。このクールエキスパンド工程において、温度は-15℃であり、エキスパンド速度は100mm/秒であり、エキスパンド量は7mmである。
常温エキスパンド工程は、ダイセパレート装置(商品名「ダイセパレータ DDS3200」,株式会社ディスコ製)を使用して、その常温エキスパンドユニットにて行った。具体的には、上述のクールエキスパンド工程を経た半導体ウエハ分割体を伴うダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープを、同装置の常温エキスパンドユニットにてエキスパンドした。この常温エキスパンド工程において、温度は23℃であり、エキスパンド速度は1mm/秒であり、エキスパンド量は10mmである。この後、常温エキスパンドを経たダイシングダイボンドフィルムについて加熱収縮処理を施した。その処理温度は200℃であり、処理時間は20秒である。
ピックアップ工程では、ピックアップ機構を有する装置(商品名「ダイボンダー SPA-300」,株式会社新川製)を使用して、ダイシングテープ上にて個片化された接着剤層付き半導体チップのピックアップを試みた。このピックアップにつき、ピン部材による突き上げ速度は1mm/秒であり、突き上げ量は2000μmであり、ピックアップ評価数は5である。
実施例及び比較例で得られた各ダイシングダイボンドフィルムを使用して行った以上のような過程において、クールエキスパンド工程に関しては、ダイシングテープからの接着剤層付き半導体チップの浮きの面積が5%以下である場合に割断時の浮きについて良(○)であると評価し、浮きの面積が5%を超え40%以下である場合に割断時の浮きについて可(△)であると評価した。ピックアップ工程に関しては、5つの接着剤層付き半導体チップすべてをダイシングテープからピックアップできた場合をピックアップ性が良(○)であると評価し、1~4個がピックアップできた場合にピックアップ性が可(△)であると評価し、1個もピックアップできなかった場合にピックアップ性が不良(×)と評価した。これらの評価結果を表1に示す。
実施例1~4のダイシングダイボンドフィルムによると、クールエキスパンド工程において、ダイシングテープからの接着剤層付き半導体チップの浮きを生じることなく接着剤層の割断を良好に行うことができた上に、ピックアップ工程において、接着剤層付き半導体チップを適切にピックアップすることができた。