[ポリエステル樹脂]
本発明の位相差フィルムは、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有するジオール及び(ポリ)アルキレングリコールを含むジオール成分由来の構成単位(又はジオール単位)と、脂環族ジカルボン酸成分を含むジカルボン酸成分由来の構成単位(又はジカルボン酸単位)とを有するポリエステル樹脂で形成されている。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「(ポリ)アルキレングリコール」は、アルキレングリコール及びポリアルキレングリコールの双方を含む意味に用いる。また、「ジオール成分由来の構成単位」又は「ジオール単位」は、「ジオール成分」の2つのヒドロキシル基から、水素原子を除いた単位(又は2価の基)を意味し、「ジオール成分」(ジオール成分として例示される化合物を含む)は、対応する「ジオール単位」と同義に用いる場合がある。また、同様に、「ジカルボン酸成分由来の構成単位」又は「ジカルボン酸単位」は、「ジカルボン酸成分」の2つのカルボキシル基から、OH(ヒドロキシル基)を除いた単位(又は2価の基)を意味し、「ジカルボン酸成分」(ジカルボン酸成分として例示される化合物を含む)は、対応する「ジカルボン酸単位」と同義に用いる場合がある。
(ジオール成分由来の構成単位)
ジオール単位は、位相差の負の波長分散特性を付与できる点から、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有するジオール(フルオレンジオールともいう)成分由来の構成単位を含んでいる。代表的なフルオレンジオール単位としては、下記式(1a)で表される構成単位が例示できる。
(式中、Zは芳香族炭化水素環、R1及びR2はそれぞれ置換基、kは0~4の整数、m及びnはそれぞれ0又は1以上の整数、R3はアルキレン基を示す)。
前記式(1a)において、Zで表される芳香族炭化水素環(アレーン環)としては、例えば、ベンゼン環などの単環式芳香族炭化水素環(単環式アレーン環)、多環式芳香族炭化水素環(多環式アレーン環)などが挙げられ、多環式芳香族炭化水素環には、例えば、縮合多環式芳香族炭化水素環(縮合多環式アレーン環)、環集合芳香族炭化水素環(環集合アレーン環)などが含まれる。
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン環(例えば、ナフタレン環などの縮合二環式C10-16アレーン環)、縮合三環式アレーン環(例えば、アントラセン環、フェナントレン環など)などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。好ましい環Zとしては、ナフタレン環、アントラセン環などの縮合多環式C10-16アレーン環(好ましくは縮合多環式C10-14アレーン環)が挙げられ、特に、ナフタレン環が好ましい。
環集合アレーン環としては、ビアレーン環(例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環(1-フェニルナフタレン環、2-フェニルナフタレン環など)などのビC6-12アレーン環など)、テルアレーン環(例えば、テルフェニレン環などのテルC6-12アレーン環など)などが例示できる。好ましい環集合アレーン環は、ビC6-10アレーン環などが挙げられ、特にビフェニル環が好ましい。
これらのZのうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環が好ましく、特にベンゼン環などのC6-10アレーン環が好ましい。また、2つのZは、互いに同一又は異なっていてもよい。
前記式(1a)において、R1で表される置換基としては、例えば、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基などのC6-10アリール基など)など]、シアノ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)などが挙げられる。これらのR1のうち、アルキル基[例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基(特に、メチル基などのC1-3アルキル基)]、シアノ基、ハロゲン原子が好ましく、特にアルキル基(例えば、メチル基などのC1-2アルキル基など)が好ましい。
R1の置換数kは、0~4の整数であり、例えば、0~3程度の整数、好ましくは0~2程度の整数、さらに好ましくは0又は1、特に0である。なお、フルオレン骨格を形成する2つのベンゼン環において、それぞれの置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよく、それぞれのR1の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。また、kが2以上である場合、同一のベンゼン環に置換する2以上のR1の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。また、R1の置換位置は特に制限されず、例えば、フルオレン環の2-位乃至7-位(2-位、3-位及び7-位など)であってもよい。
前記式(1a)において、R2で表される置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);炭化水素基{例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基など);シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基など);アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(例えば、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基など];アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基など)など};アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルコキシ基など);シクロアルキルオキシ基(例えば、シクロヘキシルオキシ基などのC5-10シクロアルキルオキシ基など);アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基など);アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基など);アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基などのC1-10アルキルチオ基など);シクロアルキルチオ基(例えば、シクロヘキシルチオ基などのC5-10シクロアルキルチオ基など);アリールチオ基(例えば、チオフェノキシ基などのC6-10アリールチオ基など);アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルチオ基など);アシル基(例えば、アセチル基などのC1-6アシル基など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基[例えば、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジC1-4アルキルアミノ基など)、ビス(アルキルカルボニル)アミノ基(例えば、ジアセチルアミノ基などのビス(C1-4アルキル-カルボニル)アミノ基など)など]などが例示できる。
これらのR2のうち、代表的には、ハロゲン原子、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基)、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。好ましいR2としては、アルキル基(メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基など)、アリール基(フェニル基などのC6-14アリール基など)、アルコキシ基(メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルコキシ基など)などが挙げられ、特に、アルキル基(特に、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基)、アリール基(フェニル基などのC6-10アリール基など)が挙げられる。なお、R2がアリール基であるとき、R2は、Zとともに前記環集合アレーン環を形成してもよい。なお、異なるZにそれぞれ結合するR2の種類は、同一又は異なっていてもよい。
R2の置換数mは、0又は1以上の整数であればよく、Zの種類に応じて適宜選択でき、例えば、0~8程度の整数、好ましくは0~4(例えば、0~3)程度の整数、さらに好ましくは0~2程度の整数(例えば、0又は1)、特に0であってもよい。なお、異なるZにおける置換数mは、互いに同一又は異なっていてもよい。また、置換数mが2以上である場合、同一のZに置換する2以上のR2の種類は、同一又は異なっていてもよい。特に、mが1である場合、Zがベンゼン環、ナフタレン環又はビフェニル環、R2がメチル基であってもよい。また、R2の置換位置は特に制限されず、Zと、エーテル結合(-O-)及びフルオレン環の9-位との結合位置以外の位置に置換していればよい。
前記式(1a)において、R3としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレン基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2-3アルキレン基(特に、エチレン基)などが挙げられる。
オキシアルキレン基(OR3)の繰り返し数(付加モル数)nは、0又は1以上の整数であればよく、例えば、0~15(例えば、1~10)程度の整数、好ましくは0~8(例えば、1~6)程度の整数、さらに好ましくは0~4(例えば、1~2)程度の整数、特に1であってもよい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「繰り返し数(付加モル数)」(例えば、前記n、後述する式(1b)におけるpなど)は、平均値(算術平均値、相加平均値)又は平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、好ましい整数の範囲と同様であってもよい。繰り返し数nが大きすぎると、屈折率が低下するおそれがある。また、2つの繰り返し数nは、それぞれ同一又は異なっていてもよい。nが2以上の場合、2以上のオキシアルキレン基(OR3)は、同一又は異なっていてもよい。また、異なるZにエーテル結合(-O-)を介して結合するオキシアルキレン基(OR3)は互いに同一又は異なっていてもよい。
前記式(1a)において、基[-O-(R3O)n-]の置換位置は、特に限定されず、Zの適当な置換位置にそれぞれ置換していればよい。基[-O-(R3O)n-]の置換位置は、Zがベンゼン環である場合、フルオレン環の9-位に結合するフェニル基の2-位、3-位、4-位(特に、3-位又は4-位)のいずれかの位置に置換している場合が多い。
前記式(1a)で表される構成単位(フルオレンジオール単位又はフルオレンジオール成分)としては、例えば、前記式(1a)において、k=0、n=0である構成単位に対応するジオール成分、すなわち、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類;k=0、nが1以上(例えば、1~10程度など)である構成単位に対応するジオール成分、すなわち、9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類などが挙げられる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、特に断りのない限り、「(ポリ)アルコキシ」とは、アルコキシ基及びポリアルコキシ基の双方を含む意味に用いる。
9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなど];9,9-ビス(ヒドロキシ-アルキルフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシ-(モノ又はジ)C1-4アルキル-フェニル)フルオレンなど]などが挙げられる。
9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン{例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2-4アルコキシフェニル]フルオレンなど};9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ-アルキルフェニル]フルオレン{例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)-3-イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2-4アルコキシ-(モノ又はジ)C1-4アルキル-フェニル]フルオレンなど}などが挙げられる。
これらの前記式(1a)で表される構成単位(フルオレンジオール単位)は、単独で又は2種以上組み合わせて含んでいてもよい。これらのフルオレンジオール単位のうち、好ましくは9,9-ビス[ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2-4アルコキシC6-10アリール]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類、さらに好ましくは9,9-ビス[ヒドロキシ(モノ乃至ペンタ)C2-4アルコキシフェニル]フルオレン、特に、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノ又はジ)C2-3アルコキシフェニル]フルオレンを含むのが好ましい。
ジオール成分由来の構成単位は、前記フルオレンジオール単位に起因する位相差の負の波長分散性を維持(又は保持)しつつ、ガラス転移温度Tgを低減して成形性を向上できる点、重合反応性を高めるとともに、樹脂に柔軟性を付与できる点などから、さらに、(ポリ)アルキレングリコール由来の構成単位[又は(ポリ)アルキレングリコール単位]、すなわち、下記式(1b)で表される構成単位を含んでいる。
(式中、R4はアルキレン基、pは1以上の整数を示す)。
前記式(1b)において、R4は、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基(1,4-ブタンジイル基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-12アルキレン基が挙げられる。好ましいR4は、直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレン基(例えば、エチレン基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレン基など)などが挙げられ、さらに好ましくは(例えば、エチレン基、プロピレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-3アルキレン基)、特にエチレン基であってもよい。
アルキレンオキシ基(-R4O-)の繰り返し数pは、例えば、1~10程度の整数の範囲から選択でき、例えば、1~6程度の整数、好ましくは1~4程度の整数、さらに好ましくは1~3(例えば、1~2)程度の整数、特に、1であってもよい。また、p≧2の場合、R4は、エチレン基、プロピレン基、1,4-ブタンジイル基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレン基であることが多く、pは、2~10程度の整数、好ましくは2~5程度の整数、さらに好ましくは2~4(例えば、2~3)程度の整数であってもよい。なお、繰り返し数pは、平均値(算術平均値又は相加平均値)であってもよく、好ましい態様は前記整数の範囲と同様であってもよい。
前記式(1b)で表される構成単位として、具体的には、例えば、アルキレングリコール(又はアルカンジオール)[例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、テトラメチレングリコール(1,4-ブタンジオール)、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-12アルカンジオールなど];ポリアルキレングリコール(又はポリアルカンジオール)[例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリC2-6アルカンジオール、好ましくはジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのジ乃至テトラC2-4アルカンジオールなど]などの(ポリ)アルキレングリコール[又は(ポリ)アルカンジオール]に対応するジオール単位などが挙げられる。
これらの前記式(1b)で表される構成単位は、単独で又は2種以上組み合わせて利用することもできる。これらの前記式(1b)で表される構成単位のうち、アルキレングリコール単位が好ましく、なかでも、直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルカンジオール)、特に、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-3アルカンジオールに対応するジオール単位を含むのが好ましい。
また、本発明の効果を害しない限り、ジオール成分由来の構成単位は、他のジオール成分由来の構成単位(又は他のジオール単位)を含んでいてもよい。他のジオール単位としては、例えば、脂環族ジオール[例えば、シクロアルカンジオール(例えば、シクロヘキサンジオールなど);ビス(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン(例えば、シクロヘキサンジメタノールなど);後述する芳香族ジオールの水添物(例えば、ビスフェノールAの水添物など)など];芳香族ジオール[例えば、ジヒドロキシアレーン(例えば、ヒドロキノン、レゾルシノールなど);芳香脂肪族ジオール(例えば、ベンゼンジメタノールなど);ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールG、ビスフェノールSなど);ビフェノール類(例えば、p,p’-ビフェノールなど)など];及びこれらのジオール成分のC2-4アルキレンオキシド(又はアルキレンカーボネート、ハロアルカノール)付加体[例えば、ビスフェノールA 1モルに対して、2~10モル程度のエチレンオキシドが付加した付加体など]などの他のジオール成分に対応するジオール単位などが挙げられる。これらの他のジオール単位は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
前記式(1a)及び(1b)で表される構成単位の割合は、ジオール単位全体に対して、例えば、50モル%以上(例えば、50~100モル%)程度の範囲から選択でき、例えば、60モル%以上(例えば、70~99モル%)、好ましくは80モル%以上(例えば、90~98モル%)、さらに好ましくは95モル%以上(例えば、97~100モル%)程度であってもよく、特に、95~100モル%(例えば、100モル%)、すなわち、ジオール単位が、実質的に前記式(1a)及び(1b)で表される構成単位のみで構成されていてもよい。
前記式(1a)で表される構成単位と、前記式(1b)で表される構成単位との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/99~40/60(例えば、5/95~38/62)程度の範囲から選択でき、例えば、8/92~36/64(例えば、10/90~35/65)、好ましくは12/88~33/67(例えば、15/85~32/68)、さらに好ましくは18/82~31/69(例えば、20/80~30/70)、特に、22/78~30/70程度であってもよく、通常、5/95~40/60(例えば、5/95~39/61)程度の範囲から選択でき、例えば、25/75~40/60(例えば、30/70~40/60)、好ましくは35/65~39/61程度であってもよい。特に、前記式(1a)及び(1b)で表される単位の割合が、例えば、前者/後者(モル比)=35/65~40/60(例えば、35/65~39/61)、好ましくは(例えば、37/63~39/61)、さらに好ましくは37.5/62.5~38.5/61.5(特に38/62)程度であると、延伸条件がポリエステル樹脂の波長分散特性に与える影響が変化するようである。
なお、必要に応じて、3以上のヒドロキシル基を有するポリオール成分[例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのアルカンポリオールなど]に対応するポリオール単位を少量[例えば、ジオール単位及びポリオール単位の総量に対して、10モル%以下(例えば、0.1~8モル%、好ましくは0.2~5モル%)程度]導入してもよい。ポリオール単位の割合が多すぎると、成形性が低下するおそれがある。
(ジカルボン酸成分由来の構成単位)
ジカルボン酸成分由来の構成単位(又はジカルボン酸単位)は、透明性や機械的特性に優れ、フルオレンジオール単位に起因する位相差の負の波長分散特性を維持しやすい点から、下記式(2)で表される脂環族ジカルボン酸成分由来の構成単位を少なくとも含んでいる。
(式中、Aは脂環族炭化水素環、R5は置換基、qは0又は1以上の整数を示す)。
前記式(2)において、環Aは、例えば、シクロアルカン環[例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環などのC4-12シクロアルカン環など];架橋環式シクロアルカン環[例えば、デカリン環、ノルボルナン環、アダマンタン環、トリシクロデカン環などの(ジ又はトリ)シクロC7-10アルカン環など];シクロアルケン環[例えば、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロオクテン環などのC5-10シクロアルケン環など];架橋環式シクロアルケン環[例えば、ノルボルネン環などの(ジ又はトリ)シクロC7-10アルケン環など]などが挙げられる。
これらの脂環族炭化水素環Aは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの環Aのうち、シクロアルカン環、架橋環式シクロアルカン環が好ましく、なかでも、C5-10シクロアルカン環、(ジ又はトリ)シクロC7-10アルカン環、特に、シクロヘキサン環などのC5-8シクロアルカン環を含むのが好ましい。
2つのカルボニル基[-C(=O)-]が環Aに結合する位置は、特に制限はなく、例えば、環Aがシクロヘキサン環である場合、2つのカルボニル基は、シクロヘキサン環に対して、1,2-位、1,3-位、1,4-位のいずれの位置関係で結合していてもよく、特に1,4-位であるのが好ましい。
R5は、例えば、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基、さらに好ましくはメチル基などのC1-2アルキル基などが挙げられる。
qは、例えば、環Aの種類に応じて、0~6程度の整数、好ましくは0~3程度の整数、さらに好ましくは0~2(例えば、0又は1)程度の整数、特に0であってもよい。
前記式(2)で表される構成単位として、具体的には、前記式(2)において、q=0である化合物、例えば、シクロアルカンジカルボン酸(例えば、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸(1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸など)、シクロヘプタンジカルボン酸、シクロオクタンジカルボン酸などのC4-12シクロアルカン-ジカルボン酸など);架橋環式シクロアルカンジカルボン酸[例えば、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸などの(ジ又はトリ)シクロC7-10アルカン-ジカルボン酸など];シクロアルケンジカルボン酸[例えば、シクロペンテンジカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸(テトラヒドロフタル酸など)、シクロオクテンジカルボン酸などのC5-10シクロアルケン-ジカルボン酸];架橋環式シクロアルケンジカルボン酸[例えば、ノルボルネンジカルボン酸などの(ジ又はトリ)シクロC7-10アルケン-ジカルボン酸など]などの脂環族ジカルボン酸成分に対応するジカルボン酸単位などが挙げられる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「ジカルボン酸成分」とは、ジカルボン酸の他、そのエステル形成性誘導体[例えば、ジカルボン酸低級アルキルエステル(メチルエステルなどのC1-2アルキルエステルなど)、ジカルボン酸ハライド、ジカルボン酸無水物など]を含む意味に用いる。
前記式(2)で表される構成単位は、単独で又は2種以上組み合わせて利用することもできる。前記式(2)で表される構成単位のうち、特に、シクロヘキサンジカルボン酸成分などのC5-8シクロアルカン-ジカルボン酸成分(特に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分)に対応するジカルボン酸単位を含むのが好ましい。
また、本発明の効果を害しない限り、ジカルボン酸成分由来の構成単位は、他のジカルボン酸成分由来の構成単位(又は他のジカルボン酸単位)を含んでいてもよい。他のジカルボン酸単位としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸[アルカンジカルボン酸(例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC1-20アルカン-ジカルボン酸、好ましくはC2-8アルカン-ジカルボン酸など);不飽和脂肪族ジカルボン酸(例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸などのC2-10アルケン-ジカルボン酸など)など];芳香族ジカルボン酸{例えば、アレーンジカルボン酸成分[例えば、ベンゼンジカルボン酸(例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸);ナフタレンジカルボン酸(例えば、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸など)など];アルキルアレーンジカルボン酸[例えば、アルキルイソフタル酸(例えば、4-メチルイソフタル酸など)など];アリールアレーンジカルボン酸(例えば、4,4’-ビフェニルジカルボン酸など);フルオレン骨格を有するジカルボン酸[2,7-ジカルボキシフルオレンなどのジカルボキシフルオレン;9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)フルオレン;9-(1,2-ジカルボキシエチル)フルオレン、9-(2,3-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9-(ジカルボキシC2-6アルキル)フルオレンなど]など}などの他のジカルボン酸成分に対応する構成単位などが挙げられる。これらの他のジカルボン酸単位は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
前記式(2)で表される構成単位の割合は、ジカルボン酸単位全体に対して、例えば、50モル%以上(例えば、50~100モル%)程度の範囲から選択でき、例えば、60モル%以上(例えば、70~99モル%)、好ましくは80モル%以上(例えば、90~98モル%)、さらに好ましくは95モル%以上(例えば、97~100モル%)程度であってもよく、特に、95~100モル%(例えば、100モル%)、すなわち、ジカルボン酸単位が、実質的に前記式(2)で表される構成単位のみで構成されていてもよい。前記式(2)で表される構成単位の割合が少なすぎると、位相差が負の波長分散特性を有するフィルムが得られないおそれがある。
なお、必要に応じて、3以上のカルボキシル基(又は低級アルキルエステル、酸ハライド、酸無水物などのエステル形成性誘導基)を有するポリカルボン酸成分[例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などのトリ又はテトラカルボン酸成分など]に対応するポリカルボン酸単位を少量[例えば、ジカルボン酸単位及びポリカルボン酸単位の総量に対して、10モル%以下(例えば、0.1~8モル%、好ましくは0.2~5モル%)程度]導入してもよい。ポリカルボン酸単位の割合が多すぎると、成形性が低下するおそれがある。
(ポリエステル樹脂の製造方法及びその特性)
前記ポリエステル樹脂の製造方法は、ジオール成分とジカルボン酸成分とを反応させればよく、慣用の方法、例えば、エステル交換法、直接重合法などの溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などで調製でき、溶融重合法が好ましい。なお、反応は、重合方法に応じて、溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。
ジオール成分とジカルボン酸成分との使用割合は、通常、前者/後者(モル比)=例えば、1/1.2~1/0.8、好ましくは1/1.1~1/0.9)程度であってもよい。なお、反応において、各ジオール成分及びジカルボン酸成分の使用量(使用割合)は、必要に応じて、各成分などを過剰に用いて反応させてもよい。例えば、反応系から留出可能なエチレングリコールなどの(ポリ)アルキレングリコール成分は、ポリエステル樹脂中に導入される(ポリ)アルキレングリコール単位の割合よりも過剰に使用してもよい。
反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、慣用のエステル化触媒、例えば、金属触媒などが利用できる。金属触媒としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウムなど);アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウムなど)、遷移金属(マンガン、亜鉛、カドミウム、鉛、コバルト、チタンなど);周期表第13族金属(アルミニウムなど);周期表第14族金属(ゲルマニウムなど);周期表第15族金属(アンチモンなど)などを含む金属化合物が用いられる。金属化合物としては、例えば、アルコキシド、有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩など)、無機酸塩(ホウ酸塩、炭酸塩など)、金属酸化物などであってもよく、代表的には、例えば、ゲルマニウム化合物(例えば、二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウム-n-ブトキシドなど);アンチモン化合物(例えば、三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモンエチレンリコレートなど);チタン化合物(例えば、テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、シュウ酸チタン、シュウ酸チタンカリウムなど)などが例示できる。
これらの触媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらの触媒のうち、二酸化ゲルマニウムが好ましい。触媒の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分1モルに対して、0.01×10-4~100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4~40×10-4モル程度であってもよい。
また、反応は、必要に応じて、熱安定剤(例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、亜リン酸、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなどのリン化合物など)や酸化防止剤などの安定剤の存在下で行ってもよい。
反応は、通常、不活性ガス(窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気中で行ってもよい。また、反応は、減圧下(例えば、1×102~1×104Pa程度)で行うこともできる。反応温度は、重合方法に応じて選択でき、例えば、溶融重合法における反応温度は、150~300℃、好ましくは180~290℃、さらに好ましくは200~280℃程度であってもよい。
このようにして得られるポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは、例えば、40~100℃(例えば、45~95℃)程度の範囲から選択でき、例えば、50~90℃、好ましくは55~88℃、さらに好ましくは60~85℃程度であってもよい。Tgが高すぎると、成形性が低下するおそれがあり、低すぎると耐熱性が低下するおそれがある。本発明のポリエステル樹脂は、剛直なカルド構造(9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する構成単位)を含んでいても、Tgが比較的低いため、成形性が高い。
前記ポリエステル樹脂は、分子量(重量平均分子量Mgなど)が大きいという特色がある。前記ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などにより測定でき、ポリスチレン換算で、例えば、65000~200000程度の範囲から選択でき、例えば、67000~150000、好ましくは68000~100000、さらに好ましくは70000~90000(例えば、72000~88000)程度であってもよい。前記ポリエステル樹脂は、分子量及び重合度が大きく(分子鎖が長く)、機械的特性(破断伸び、柔軟性など)に優れている。そのため、延伸してもフィルムの破断を有効に防止でき、均一に延伸できる。
なお、ガラス転移温度Tg、重量平均分子量Mwは、後述する実施例に記載の方法などにより測定できる。
(添加剤)
ポリエステル樹脂は、本発明の効果を妨げない限り、種々の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤(エステル類、フタル酸系化合物、エポキシ化合物、スルホンアミド類など)、難燃剤(無機系難燃剤、有機系難燃剤、コロイド難燃物質など)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、帯電防止剤、充填剤(酸化物系無機充填剤、非酸化物系無機充填剤、金属粉末など)、発泡剤、消泡剤、滑剤、離型剤(天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸又はその金属塩、酸アミド類など)、易滑性付与剤(例えば、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、カオリンなどの無機微粒子;(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂(架橋ポリスチレン樹脂など)などの有機微粒子)などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの添加剤は、慣用の方法、例えば、一軸又は二軸押出装置(分散性の点から好ましくは二軸押出装置)を用いて、ポリエステル樹脂と溶融混練する方法などにより添加してもよい。添加剤は、樹脂の製膜前に予め添加してもよいが、例えば、樹脂を溶融製膜する際に、樹脂を製膜装置に供給するための押出装置を用いて溶融混練する方が、経済的に有利であるため好ましい。
[位相差フィルムの製造方法及びその特性]
本発明の位相差フィルムの製膜方法(又は製膜工程)は、特に制限されず、例えば、キャスティング法(溶液流延法)、エキストルージョン法(インフレーション法、Tダイ法などの溶融押出法)、カレンダー法などにより調製でき、成形性の観点から、Tダイ法である場合が多い。
また、位相差フィルムは、無延伸フィルムであってもよいが、通常、延伸することにより、所望の位相差に調整し易いとともに、薄膜化し易い点から、延伸フィルムである場合が多い。
延伸処理(又は延伸工程)は、通常、一軸延伸で行われる。一軸延伸は、フィルムの長手方向に対して延伸する縦延伸と、幅方向に延伸する横延伸のいずれであってもよい。また、斜め方向に延伸してもよい。特にフィルムの長手方向に対し45°の角度で延伸したものは、本発明の位相差フィルムを1/4波長板とし、偏光板に貼り合せて円偏光板を製造する場合、ロール・トゥ・ロール方式で連続的に貼り合せることができ、生産性が高く、経済的にも有利である。延伸方法は特に限定されず、ロール間延伸方法、加熱ロール延伸方法、圧縮延伸方法、テンター延伸方法などの慣用の方法が利用できる。
一軸延伸における延伸方式は、空気中で延伸する乾式延伸法、水中で延伸する湿式延伸法のいずれであってもよく、双方を併用してもよい。
延伸温度は、乾式延伸である場合、ポリエステル樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、例えば、(Tg-5)~(Tg+40)℃、好ましくはTg~(Tg+30)℃、さらに好ましくは(Tg+5)~(Tg+20)℃程度であってもよく、例えば、(Tg-5)~(Tg+10)℃[例えば、Tg~(Tg+5)℃]程度であってもよい。具体的には、例えば、60~100℃、好ましくは65~95℃(例えば、80~90℃)、さらに好ましくは70~90℃(例えば、83~88℃、特に85~87℃)程度であってもよい。
湿式延伸である場合、例えば、(Tg-30)~(Tg+15)℃[例えば、(Tg-30)~(Tg+10)℃]程度の範囲から選択でき、例えば、(Tg-25)~(Tg+5)℃[例えば、(Tg-20)~(Tg+3)℃]、好ましくは(Tg-20)~(Tg+5)℃[例えば、(Tg-20)~(Tg+1)℃]程度であってもよい。特に、本発明では、Tg以下の温度でも容易かつ均一に延伸できるとともに、所望の位相差を発現し易い点から、例えば、(Tg-18)~Tg℃[例えば、(Tg-12)~(Tg-2)℃]、好ましくは(Tg-16)~(Tg-3)℃[例えば、(Tg-10)~(Tg-4)℃]、さらに好ましくは(Tg-15)~(Tg-5)℃[例えば、(Tg-15)~(Tg-10)℃]程度であってもよい。具体的には、例えば、40~90℃程度の範囲から選択でき、例えば、40~85℃(例えば、43~80℃)、好ましくは43~75℃(例えば、43~70℃)、さらに好ましくは46~65℃(例えば、46~60℃)程度であってもよい。
いずれの延伸方式においても、延伸温度が、前述の範囲に対して高すぎる又は低すぎると、所望の位相差を発現し難くなるだけでなく、フィルムが均一に延伸できなかったり、破断するおそれもある。これらの延伸方式のうち、フィルムを均一に加熱でき、より一層延伸むらを低減できる観点から、湿式延伸法であるのが好ましく、良好な波長分散特性(例えば、0.74≦Re(450)/Re(550)≦0.9など)を得るには乾式延伸法であるのが好ましい。なお、延伸温度を水温で制御する湿式延伸では、上限温度が水の沸点付近と低いため、前記フルオレンジオール単位の割合が多くTgが高い傾向にあるポリエステル樹脂では、通常、延伸自体ができない場合が多い。しかし、本発明の位相差フィルムは、前記ポリエステル樹脂のTgが低く成形性に優れるため、湿式延伸が可能である。
延伸倍率は、延伸方式に制限されず、例えば、1.5~15倍(例えば、2~10倍)、好ましくは3~8倍(例えば、3.5~7.5倍)、さらに好ましくは4~7倍(例えば、4.5~6.5倍)程度であってもよく、例えば、3~5倍(例えば、3.5~4.5倍)程度であってもよい。延伸倍率が低すぎると、所望の位相差が得られないおそれがあり、延伸倍率が高すぎると、フィルムが破断したり、位相差が高くなりすぎたり、位相差の波長分散特性が正になるおそれがある。しかし、本発明の位相差フィルムは、剛直で靱性が低い9,9-ビスアリールフルオレン骨格を含む構成単位を有するにもかかわらず、意外なことに、高倍率で延伸してもフィルムが破断し難いため、薄膜化し易い。このことは、ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mw(又は重合度)が大きく、機械的特性(破断伸び、柔軟性など)に優れることによるものと考えられる。
延伸速度は、延伸方式に制限されず、例えば、10~1000%/分(例えば、50~1000%/分)、好ましくは100~800%/分(例えば、200~600%/分)、さらに好ましくは300~500%/分(例えば、350~450%/分)、特に380~420%/分程度であってもよい。延伸速度が遅すぎると十分な正面位相差が得られないおそれがあり、速すぎるとフィルムが破断するおそれがある。
なお、位相差フィルムは、本発明の効果を害しない限り、必要に応じて、他のフィルム(又はコーティング層)を積層してもよい。例えば、位相差フィルム表面に、界面活性剤や離型剤、微粒子を含有したポリマー層をコーティングして、易滑層を形成してもよい。
(特性)
本発明の位相差フィルムは、成形性、機械的特性に優れ、高倍率で延伸してもフィルムが破断しないためか、薄膜化しやすい。そのため、位相差フィルムの厚み(又は平均厚み)は、例えば、1~200μm(例えば、3~100μm)程度の範囲から選択でき、例えば、5~90μm(例えば、5~80μm)、好ましくは7~65μm(例えば、10~50μm)、さらに好ましくは12~40μm(例えば、15~30μm)程度であってもよく、例えば、20~60μm(例えば、25~55μm)程度であってもよい。
位相差フィルムの正面位相差Reは、下記式により算出できる。
Re=(nx-ny)×d
(式中、nxはフィルムの遅相軸方向の屈折率、nyはフィルムの進相軸方向の屈折率、dはフィルムの厚みを示す)。
波長λnmにおける正面位相差をRe(λ)とすると、温度20℃、波長550nmにおける正面位相差Re(550)は、厚み50μmにおいて、例えば、10nm以上(例えば、10~500nm程度)、好ましくは20nm以上(例えば、40~300nm程度)、さらに好ましくは60nm以上(例えば、80~200nm程度)、特に100nm以上(例えば、130~150nm程度)であってもよく、位相差フィルムをより一層薄膜化する場合(例えば、50μm程度以下、好ましくは30μm程度以下など)には、前記Re(550)は、例えば、140nm以上(例えば、170~300nm)、好ましくは200nm以上(例えば、220~260nm)程度であってもよい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、厚み50μmにおける正面位相差は、厚み50μmのフィルムの正面位相差であってもよく、厚みdのフィルムの正面位相差を厚み50μmに換算した値であってもよい。
本発明の位相差フィルムは、負の波長分散特性を有している。そのため、波長450、550及び650nmにおけるそれぞれの正面位相差Re(450)、Re(550)及びRe(650)は、温度20℃において、下記式(i)及び(ii)を満たしている場合が多い。
(i)0.66≦Re(450)/Re(550)<1
(ii)1<Re(650)/Re(550)≦1.36。
前記式(i)において、Re(450)/Re(550)の範囲は、例えば、0.7~0.99、好ましくは0.75~0.97(例えば、0.77~0.96など)、さらに好ましくは0.8~0.94(例えば、0.82~0.93など)程度であってもよい。
また、前記正面位相差Re(450)及びRe(550)は、さらに下記式(iii)を満たしていてもよい。
(iii)0.74≦Re(450)/Re(550)≦0.9。
そのため、Re(450)/Re(550)の範囲は、例えば、0.76~0.9(例えば、0.78~0.89)、好ましくは0.79~0.88(例えば、0.8~0.87)、さらに好ましくは0.81~0.86程度であってもよい。
前記式(ii)において、Re(650)/Re(550)の範囲は、例えば、1.01~1.3、好ましくは1.02~1.25(例えば、1.03~1.2など)、さらに好ましくは1.04~1.18(例えば、1.05~1.1など)程度であってもよい。
なお、理想的な広帯域1/4波長板は、下記式を満たしている。
Re(450)/Re(550)=0.818
Re(650)/Re(550)=1.182
Re(λ)=λ/4
(式中、λは波長を示す)。
上記式を満たす理想的な広帯域1/4波長板に近づけるために、種々の検討がなされているが、位相差(又は正面位相差)及びその波長分散特性は、樹脂種(モノマー種、共重合比など)や延伸条件などの影響を受け易く、かつ互いに連動して変動する関係(例えば、位相差を上げると、波長分散特性が負から正に変動するなど)にあるため、制御が極めて困難である。さらに、位相差フィルムは薄膜化を要求されるため、厚みの制約も考慮する必要があり、理想的な広帯域1/4波長板は実現されていないのが実情である。しかし、本発明の位相差フィルム(例えば、湿式延伸法で成形した位相差フィルム)は、乾式延伸法とは位相差とその波長分散特性の変動の挙動が異なるためか、位相差の上昇及び位相差の負の波長分散特性を両立し易い傾向がある。そのため、本発明の位相差フィルムは、理想的な広帯域1/4波長板に近づけ易い。従って、本発明の位相差フィルムは、偏光板と積層した円偏光板や前記円偏光板を備えた画像表示装置などに好適に利用できる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に評価項目を示す。
<分子量>
ゲル浸透クロマトグラフィ-(東ソー(株)製「HLC-8120GPC」)を用い、試料をクロロホルムに溶解させ、ポリスチレン換算で、分子量(重量平均分子量Mw)を測定した。
<ガラス転移温度>
示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製「DSC 6220」)を用いて、JIS K 7121に準拠して、ガラス転移温度Tgを測定した。
<平均厚み>
測厚計((株)ミツトヨ製「マイクロメーター」)により測定した。なお、平均厚みは、フィルムの長手方向に対して、チャック間を等間隔に3点測定し、その平均値を算出した。
<位相差測定>
位相差測定器(王子計測機器(株)製「KOBRA-WR」)を用い、平行ニコル回転法により、温度20℃、波長450nm、550nm、650nmにおけるそれぞれのレタデーション値(正面位相差)Re(450)、Re(550)、Re(650)を測定し、Re(450)/Re(550)及びRe(650)/Re(550)を算出した。なお、各正面位相差Re(450)、Re(550)及びRe(650)は、フィルム厚み50μmにおける値に換算した。
(合成例1)
反応器に1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)71重量部、エチレングリコール(EG)70重量部、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)45重量部を加え、撹拌しながら徐々に加熱溶融し、エステル化反応を行った。さらに、酸化ゲルマニウム0.04重量部を加え、270℃、1Torr以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらEGを除去した。内容物を反応器から取り出し、フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂(樹脂1)のペレットを得た。ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の25モル%がBPEF由来であった。このポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwは85000、ガラス転移温度Tgは65℃であった。
(合成例2)
反応器にCHDA66重量部、EG65重量部、BPEF51重量部を加え撹拌しながら徐々に加熱溶融し、エステル化反応を行った。さらに、酸化ゲルマニウム0.04重量部を加え、270℃、1Torr以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらEGを除去した。内容物を反応器から取り出し、フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂(樹脂2)のペレットを得た。ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の30モル%がBPEF由来であった。このポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwは72600、ガラス転移温度Tgは75℃であった。
(合成例3)
反応器にCHDA61重量部、EG57重量部、BPEF59重量部を加え撹拌しながら徐々に加熱溶融し、エステル化反応を行った。さらに、酸化ゲルマニウム0.04重量部を加え、270℃、1Torr以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらEGを除去した。内容物を反応器から取り出し、フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂(樹脂3)のペレットを得た。ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の38モル%がBPEF由来であった。このポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwは68000、ガラス転移温度Tgは83℃であった。
(合成例4)
反応器にCHDA41重量部、EG33重量部、BPEF84重量部を加え撹拌しながら徐々に加熱溶融し、エステル化反応を行った。さらに、酸化ゲルマニウム0.04重量部を加え、270℃、1Torr以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらEGを除去した。内容物を反応器から取り出し、フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂(樹脂4)のペレットを得た。ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の80モル%がBPEF由来であった。このポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwは45000、ガラス転移温度Tgは121℃であった。
(合成例5)
反応器にテレフタル酸ジメチル(DMT)51重量部、EG38重量部、BPEF81重量部を加え撹拌しながら徐々に加熱溶融し、エステル交換反応を行った。さらに、酸化ゲルマニウム0.04重量部を加え、270℃、1Torr以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらEGを除去した。内容物を反応器から取り出し、フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂(樹脂5)のペレットを得た。ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の70モル%がBPEF由来であった。このポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwは42000、ガラス転移温度Tgは142℃であった。
(合成例6)
反応器にCHDA21重量部、DMT23重量部、EG33重量部、BPEF85重量部を加え撹拌しながら徐々に加熱溶融し、エステル化及びエステル交換反応を行った。さらに、酸化ゲルマニウム0.04重量部を加え、270℃、1Torr以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらEGを除去した。内容物を反応器から取り出し、フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂(樹脂6)のペレットを得た。ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の80モル%がBPEF由来であり、導入されたジカルボン酸成分の50モル%がCHDA由来であった。このポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwは43000、ガラス転移温度Tgは134℃であった。
合成例1~6で得られた樹脂の組成比、ガラス転移温度Tg及び重量平均分子量Mwを表1に示す。
(実施例1~15)
合成例1で得られたポリエステル樹脂ペレット(樹脂1)を用いて、押出機を有するTダイ押出成形機にて押出成形し、厚み約100μmのフィルムを得た。さらに、表2に記載の延伸条件により、得られたフィルムを一軸延伸した。なお、乾式延伸の場合には、テンター延伸装置を、湿式延伸の場合は、湿式延伸装置を用いて延伸した。延伸後のフィルムの厚み、位相差及びその波長分散特性の結果を表2に示す。
(実施例16~24)
合成例2で得られたポリエステル樹脂ペレット(樹脂2)を用い、実施例1~15と同様の装置を使用して、押出成形により厚み約100μmのフィルムを調製し、さらに一軸延伸を行った。各延伸条件、並びに延伸後のフィルムの厚み、位相差及びその波長分散特性の結果を表2に示す。
(実施例25~32)
合成例3で得られたポリエステル樹脂ペレット(樹脂3)を用い、実施例1~15と同様の装置を使用して、押出成形により厚み約100μmのフィルムを調製し、さらに一軸延伸を行った。各延伸条件、並びに延伸後のフィルムの厚み、位相差及びその波長分散特性の結果を表2に示す。
(比較例1)
合成例4で得られたポリエステル樹脂ペレット(樹脂4)を用い、実施例1~15と同様の装置を使用して、押出成形により厚み約100μmのフィルムを調製し、さらに一軸延伸を行った。延伸条件、並びに延伸後のフィルムの厚み、位相差及びその波長分散特性の結果を表2に示す。
(比較例2)
合成例5で得られたポリエステル樹脂ペレット(樹脂5)を用い、実施例1~15と同様の装置を使用して、押出成形により厚み約100μmのフィルムを調製し、さらに一軸延伸を行った。延伸条件、並びに延伸後のフィルムの厚み、位相差及びその波長分散特性の結果を表2に示す。
(比較例3)
合成例6で得られたポリエステル樹脂ペレット(樹脂6)を用い、実施例1~15と同様の装置を使用して、押出成形により厚み約100μmのフィルムを調製し、さらに一軸延伸を行った。延伸条件、並びに延伸後のフィルムの厚み、位相差及びその波長分散特性の結果を表2に示す。
(比較例4~6)
延伸倍率をそれぞれ6倍に変更する以外、比較例1~3それぞれと同様にして押出成形及び一軸延伸(乾式)したが、延伸倍率が高すぎたためか、いずれのフィルムも延伸途中で破断した。
(比較例7~9)
合成例4~6で得られたポリエステル樹脂ペレットを用い、実施例1~15と同様の装置を使用して、押出成形及び一軸延伸(湿式)を行った。製膜したフィルムを、沸騰した熱水を用い、延伸倍率3倍で湿式延伸したところ、各樹脂のTgに対して水温が低すぎたためか、いずれのフィルムも延伸途中で破断した。
表1及び2から明らかなように、比較例に比べ、実施例ではガラス転移温度Tgが低く、成形性が良好であった。また、BPEF含有割合が低いにもかかわらず、位相差は負の波長分散特性を有していた。さらに、重量平均分子量Mwが高いためか、高い延伸倍率で延伸しても、フィルムが破断することなく、より薄膜化可能であった。なお、実施例及び比較例で調製したフィルムのうち、乾式延伸により得られたフィルムは、フィルムに対して熱が均一に伝わり難いためか、延伸度合にむらがあるのに対して、湿式延伸により得られたフィルムは、フィルムの幅が安定する傾向にあり、均一に延伸されていた。
また、樹脂3を用いた実施例では、樹脂1又は樹脂2を用いる実施例とは、延伸条件が波長分散特性に与える影響が異なっていた。詳しくは、延伸方式:乾式、延伸温度:(Tg+5)℃、延伸倍率:4倍、延伸速度:50%/分である実施例7(樹脂1)及び実施例17(樹脂2)に対して、延伸速度を400%/分とする以外は同様に延伸した実施例9(樹脂1)及び実施例19(樹脂2)では、Re(450)/Re(550)の値が上昇している。これに対して、樹脂3を用いた実施例26及び実施例30では、同一延伸条件であるにもかかわらず、Re(450)/Re(550)の値が減少し、樹脂1及び樹脂2とは異なる挙動を示すことが分かる。