JP6998305B2 - 磁気ディスク基板用アルミニウム合金板及びその製造方法、並びに磁気ディスク - Google Patents
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Description
(1)質量%で、Mg:3.0~8.0%、Cu:0.002~0.150%、Zn:0.05~0.60%、Fe:0.001~0.060%、Si:0.001~0.060%、Be:0.00001~0.00200%、Cr:0.200%以下、Mn:0.500%以下及びCl:0.00300%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、金属組織中で観察される3~10μmの最長径を有するCr酸化物の存在密度が、ディスクの片面当たり1個以下であることを特徴とする磁気ディスク基板用アルミニウム合金板。
(2)Cr:0.010~0.200質量%、Mn:0.010~0.500質量%のうち1種又は2種を含有することを特徴とする上記(1)に記載の磁気ディスク基板用アルミニウム合金板。
(3)Be:0.00001~0.00025質量%を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の磁気ディスク基板用アルミニウム合金板。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の製造方法において、前記アルミニウム合金板の組成になるように溶湯を調整する溶湯調整工程と、前記溶湯を鋳造する鋳造工程と、鋳造した鋳塊を熱間圧延して熱間圧延板とする熱間圧延工程と、前記熱間圧延板を冷間圧延して冷間圧延板とする冷間圧延工程とを含み、前記溶湯調整工程が、Cl:0.00300質量%以下を含有するアルミニウム地金を装入して溶湯を調整することを特徴とする磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の製造方法。
(5)前記溶湯調整工程が、Cr酸化物:0.50質量%以下を含有するCr原料をさらに装入して溶湯を調整することを特徴とする上記(4)に記載の磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の製造方法。
(6)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載される磁気ディスク基板用アルミニウム合金板を用いて作製した円環状のアルミニウム合金基板の表面上に、めっき層と磁性層を有することを特徴とする磁気ディスク。
本発明に従う磁気ディスク基板用アルミニウム合金板は、質量%で、Mg:3.0~8.0%、Cu:0.002~0.150%、Zn:0.05~0.60%、Fe:0.001~0.060%、Si:0.001~0.060%、Be:0.00001~0.00200%、Cr:0.200%以下、Mn:0.500%以下及びCl:0.00300%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、金属組織中で観察される3~10μmの最長径を有するCr酸化物の存在密度が、ディスクの片面当たり1個以下である。
<Mg:3.0~8.0%>
Mgは、主としてアルミニウム合金板の強度を向上させる効果を有する元素である。また、ジンケート処理時のジンケート皮膜を均一に、薄く、かつ、緻密に付着させるので、ジンケート処理工程の次工程である下地処理工程において、Ni-Pからなるめっき表面の平滑性が向上する。しかしながら、Mg含有量が3.0%未満では、強度が不十分であり、更に、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっきの密着性や平滑性が低下するためである。一方、Mg含有量が8.0%を超えると、粗大なAl-Mg系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。従って、Mg含有量は3.0~8.0%とする。なお、Mg含有量は、強度と製造性との兼合いから、3.5~7.0%とするのが好ましい。
Cuは、ジンケート処理時においてAl溶解量を減少させ、また、ジンケート皮膜を均一に、薄く、かつ、緻密に付着させる効果を有する元素である。このような効果により、ジンケート処理工程の次工程である下地処理工程において、Ni-Pからなるめっき表面の平滑性が向上する。しかしながら、Cu含有量が0.002%未満では、上記効果が十分に得られず、一方、0.150%を超えると、粗大なAl-Cu-Mg-Zn系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性を低下させる。更に、Cu含有量が0.150%を超える場合には、材料自体の耐食性を低下させるため、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっきの密着性や平滑性が低下する。従って、Cu含有量は0.002~0.150%とする。なお、Cu含有量は、0.002~0.100%であることが好ましい。
Znは、Cuと同様に、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、また、ジンケート皮膜を均一に、薄く、かつ、緻密に付着させるので、ジンケート処理工程の次工程である下地処理工程において、Ni-Pからなるめっき表面の平滑性が向上する。しかしながら、Zn含有量が0.05%未満では、上記効果が十分に得られず、一方、0.60%を超えると、粗大なAl-Cu-Mg-Zn系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性を低下させる。更に、Zn含有量が0.60%を超える場合には、材料自体の加工性や耐食性を低下させるため、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっきの密着性や平滑性が低下する。従って、Zn含有量は0.05~0.60%とし、好ましくは0.05~0.50%とする。
Feは、アルミニウム母材中には殆ど固溶せず、Al-Fe系金属間化合物としてアルミニウム地金中に存在する。このAl-Fe系金属間化合物は、研削面において欠陥となるため、アルミニウム合金中にFeが含有されることは好ましくない。しかしながら、Feを0.001%未満まで取り除くのは、アルミニウム地金を高純度に精錬することになりコスト高を招く。一方、Fe含有量が0.060%を超えると、粗大なAl-Fe系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、この粗大なAl-Fe系金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。従って、Feの含有量は0.001~0.060%とし、好ましくは0.001~0.025%とする。
Siは、本発明のアルミニウム合金板の必須元素であるMgと結合し、研削面において欠陥となるMg-Si系金属間化合物を生成するため、アルミニウム合金中にSiが含有されることは好ましくない。しかしながら、Siはアルミニウム地金に不可避的不純物として存在する。アルミニウム合金を製造する際の溶湯調整工程では、純度の高い、例えば純度99.9%以上のアルミニウム地金を用いるが、このような地金にもSiが含有されている。このため、Si含有量が0.001%未満になるようにアルミニウム地金からSi成分を取り除くのは、アルミニウム地金を高純度に精錬することとなりコスト高を招く。一方、Si含有量が0.060%を超えると、粗大なMg-Si系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、この粗大なMg-Si系金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。従って、Si含有量は0.001~0.060%とし、好ましくは0.001~0.025%とする。
Mgを含有するアルミニウム合金は、一般にその鋳造時において、Mgの溶湯酸化を抑制するため微量のBeを添加する。Be含有量が0.00001%未満では、材料自体の耐食性が低下するため、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する。一方、Be含有量が0.00200%を超えると、研削後の加熱時に厚いAl-Mg-Be系酸化物が形成されるため、めっき処理時にピットが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。従って、Be含有量は、0.00001~0.00200%とし、好ましくは0.00010~0.00025%とする。
Clは、本発明の必須元素であるMgと結合しやすい元素であり、一部はMg-Cl系介在物として存在し、めっき処理中にCl系介在物がめっき処理液中に溶解し、Alマトリックスに凹部が形成され、めっき表面にピットが多発し、めっき表面の平滑性が低下することから、Cl含有量は0.00300%以下とする。なお、アルミニウム合金基板中のCl含有量は、グロー放電質量分析法(GDMS)によって測定される。GDMSによる測定は、例えば測定装置としてVG・ELEMENTAL社のVG9000型を使用し、加速電圧8kVの条件によって行うことができる。
Crは、鋳造時に微細な金属間化合物を生成するが、一部はマトリックスに固溶して強度向上に寄与する元素である。また、切削性と研削性を高め、更に再結晶組織を微細にしてめっき層の密着性を向上させ、めっきピットの発生を顕著に抑制する効果を有する。かかる効果を発揮させるには、Cr含有量を0.010%以上にすることが必要である。しかしながら、Cr含有量が0.200%を超えると、鋳造時に過剰分が晶出すると同時に粗大なAl-Cr系金属間化合物が生成しやすくなって、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、この金属間化合物が脱落してめっきピットの原因となる大きな窪みを発生する傾向があるからである。また、Cr含有量が多くなると、Crの原料から混入するCr酸化物の影響が無視できなくなる。Cr酸化物が材料中に多量に存在すると、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、Cr酸化物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性を低下させる。従って、Cr含有量は、0.010~0.200%とし、好ましくは0.010~0.100%とする。
Mnは、鋳造時に微細な金属間化合物を生成するが、一部はマトリックスに固溶して強度向上に寄与する元素である。また、切削性と研削性を高め、更に再結晶組織を微細にしてめっき層の密着性を向上させめっきピットの発生をより一層抑制する効果を有する。かかる効果を発揮させるには、Cr含有量を0.010%以上にすることが必要である。しかしながら、Mnの含有量が0.500%を超えると、鋳造時に過剰分が晶出すると同時に粗大なAl-Mn系金属間化合物が生成しやすくなって、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、この金属間化合物が脱落してめっきピットの原因となる大きな窪みを発生する傾向があるからである。従って、Mn含有量は、0.010~0.500%とし、好ましくは0.010~0.100%とする。
上記各元素の他は、Al及び不可避的不純物である。ここでいう「不可避的不純物」とは、例えばGa等が挙げられる。これらの不可避的不純物は、各々の元素の含有量が0.05%以下で、かつ、合計含有量が0.15%以下であれば、本発明に係るアルミニウム合金板としてその特性を損なうことはない。
本発明においては、金属組織中で観察される3~10μmの最長径を有するCr酸化物の存在密度を、ディスクの片面当たり1個以下とする。ここで、本発明で規定するCr酸化物とは、電子線マイクロアナライザ(EPMA)のWDS分析によりクロム(Cr)と酸素(O)を含有することが確認できる介在物をいう。また、本発明において最長径とは、電子線マイクロアナライザ(EPMA)の波長分散型X線分光器(WDS)による分析により得られるCr酸化物の平面画像において、まず、輪郭線上における一点と輪郭線上の他の点との距離の最大値を計測し、次に、この最大値を輪郭線上における全ての点について計測し、最後に、これら全最大値のうちから選択される最も大きなものをいう。さらに、ディスクの片面の面積は、例えば2.5インチディスクの場合には3000mm2程度、3.5インチディスクの場合には6500mm2程度である。
次に、本発明の磁気ディスク基板用アルミニウム合金板および磁気ディスクの製造方法の好適な実施形態を以下で説明する。
先ず、アルミニウム合金板の製造工程から磁気ディスクの製造工程までの一連の工程を、図1に示す代表的な製造フローに従って説明する。ここで、ステップ1~5が、アルミニウム合金板を製造するまでの一連の工程であり、そして、ステップ6~11が、製造されたアルミニウム合金板を用いて磁気ディスクを製造するまでの一連の工程である。
(1)ステップ1:溶解炉で所望組成のアルミニウム合金に配合した(例えば、後述の表1に示す組成に配合した)溶湯を調整し、保持炉に転湯する。更に、保持炉において、溶湯を所定温度で所定時間保持する。
(2)ステップ2:配合したアルミニウム合金溶湯を鋳造する。
(3)ステップ3:鋳造した鋳塊を面削し、均質化処理を施す(均質化処理は、本発明では必須ではなく、適宜施される処理である。)。
(4)ステップ4:面削した、又は、均質化処理した鋳塊を熱間圧延して熱間圧延板とする。
(5)ステップ5:熱間圧延板を冷間圧延して冷間圧延板として、アルミニウム合金板を製造する。なお、冷間圧延の前又は途中において焼鈍を施す(焼鈍は、本発明では必須ではなく、適宜施される処理である。)。
(6)ステップ6:アルミニウム合金板を円環状に打ち抜き、ディスクブランクを作製する。
(7)ステップ7:ディスクブランクを加圧焼鈍により平坦化する。
(8)ステップ8:平坦化したディスクブランクに切削加工、研削加工、加熱処理を施して磁気ディスク用アルミニウム合金基板とする。
(9)ステップ9:磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)を施す。
(10)ステップ10:ジンケート処理したアルミニウム合金基板の表面を下地処理して、この表面上にめっき層(例えばNi-Pめっき層)を形成する。
(11)ステップ11:下地処理によって形成しためっき層の表面上に、スパッタリングによって磁性体(磁性層)を付着形成させて磁気ディスクを製造する。
本発明の磁気ディスク基板用アルミニウム合金板は、上述したステップ1~5によって製造される。すなわち、溶湯調整工程(ステップ1)において、本発明のアルミニウム合金板の組成になるように調整されたアルミニウム合金溶湯を、鋳造されるまでに冷えて固まらないように保持炉で加熱・保持する。その後、鋳造工程(ステップ2)において、半連続鋳造(DC鋳造)法などの常法に従って鋳造し、得られた鋳塊に、必要に応じて均質化処理(ステップ3)を施した後に、熱間圧延工程(ステップ4)において、鋳造した鋳塊を熱間圧延して熱間圧延板とし、次いで、冷間圧延工程(ステップ5)において、熱間圧延板を冷間圧延して冷間圧延板としてアルミニウム合金板を製造する。以下、各工程に分けて詳細に説明する。
溶湯調整工程(ステップ1)では、製造すべきアルミニウム合金板の組成になるように調整されたアルミニウム合金溶湯を、鋳造されるまでに冷えて固まらないように保持炉で加熱・保持する。保持炉で溶湯を保持した後、鋳造を行う前に脱ガス処理及び濾過処理を常法に従いインラインで行うことが好ましい。インライン脱ガス処理装置としては、SNIFやALPURなどの商標で市販されているものを使用すれば良い。これらの装置は、アルゴンガス等を溶湯に吹き込みながら、羽根付き回転体を高速で回転させてガスを微細な気泡として溶湯中に供給する。これにより、脱水素ガス及び介在物の除去がインラインで短時間に行える。インライン濾過処理としては、セラミックチューブフィルターやセラミックフォームフィルター、アルミナボールフィルター等が用いられ、ケーク濾過機構や濾材濾過機構により介在物をある程度除去することができる。
配合したアルミニウム合金溶湯を保持炉で保持を行った後は鋳造を行う。
次に、鋳造した鋳塊を面削し、その後、必要に応じて均質化処理を行う。均質化処理を実施する場合には、好ましくは480~560℃で1時間以上、より好ましくは500~550℃で2時間以上の条件で行うのが好ましい。処理温度が480℃未満の場合や、処理時間が1時間未満の場合には、十分な均質化効果が得られない場合があるからである。また、560℃を超える処理温度では、材料が溶解する虞があるからである。
次に、面削した、又は、均質化処理した鋳塊を熱間圧延して熱間圧延板とする。ここで熱間圧延板の板厚としては、例えば3.0mm程度とすればよい。熱間圧延するに当たっては、特にその条件は限定されるものではないが、熱間圧延開始温度を300~500℃とするのが好ましく、320~480℃とするのがより好ましい。また、熱間圧延終了温度は260~400℃とするのが好ましく、280~380℃とするのがより好ましい。熱間圧延開始温度が300℃未満では熱間圧延加工性が確保できず、500℃を超えると結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。熱間圧延終了温度が260℃未満では熱間圧延加工性が確保できず、400℃を超えると結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。なお、熱間圧延では、通常、鋳塊を熱間圧延開始温度で0.5~10.0時間加熱保持した後に熱間圧延を行う。均質化処理を行う場合には、前記加熱保持を均質化処理で代替してもよい。
次に、熱間圧延板を冷間圧延して冷間圧延板として、アルミニウム合金板を製造する。なお、冷間圧延の前又は途中において焼鈍を施す。アルミニウム合金板(冷間圧延板)の板厚としては、好ましくは0.4~2.0mm、より好ましくは0.6~2.0mmとする。すなわち、熱間圧延終了後は、冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げられる。冷間圧延の条件は特に限定されるものではなく、必要な製品板強度や板厚に応じて定めればよく、圧延率を20~90%とするのが好ましく、20~80%とするのがより好ましい。この圧延率が20%未満では加圧平坦化焼鈍で結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合があり、この圧延率が90%を超えると製造時間が長くなり生産性の低下を招く場合がある。
本発明の磁気ディスクは、上述したステップ1~5によってアルミニウム合金板を製造した後、このアルミニウム合板を用い、上述したステップ6~11によって製造される。すなわち、このアルミニウム合金板を円環状に打ち抜いて、ディスクブランクを作製し(ステップ6)、ディスクブランクを加圧焼鈍により平坦化し(ステップ7)、平坦化したディスクブランクに切削加工、研削加工、加熱処理を施して磁気ディスク用アルミニウム合金基板とし(ステップ8)、アルミニウム合金基板の表面に脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)を施し(ステップ9)、ジンケート処理したアルミニウム合金基板の表面を下地処理して、この表面上にめっき層(例えばNi-Pめっき層)を形成し(ステップ10)、そして、下地処理によって形成しためっき層の表面上に、スパッタリングによって磁性体(磁性層)を付着形成(ステップ11)させることによって、磁気ディスクを製造する。以下、各工程に分けて詳細に説明する。
上記ステップ1~5によって製造したアルミニウム合金板を円環状に打ち抜き、ディスクブランクを作製する。
次に、打ち抜いた円環状アルミニウム合金板の複数枚を積層した状態にして、上下から加圧しつつ、大気中にて250~430℃で30分以上の条件下で焼鈍を施して平坦化する加圧焼鈍を行う。処理温度が250℃未満の場合や、処理時間が30分未満では、平坦化の効果が得られない場合がある。処理温度が430℃を超える場合には、結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。なお、加圧は、1.0~3.0MPaの圧力下で行うのが好ましい。
平坦化したディスクブランクに切削加工、研削加工及び加熱処理を施して磁気ディスク用アルミニウム合金基板とする。なお、研削加工を施した後に、ディスクブランクの歪取りのための加熱処理を行ってもよい。加熱処理を実施する場合には、200~400℃で5~15分の条件で行うのが好ましく、200~300℃で5~10分の条件で行うのがより好ましい。加熱温度が200℃未満の場合や、加熱温度が5分未満の場合には、十分な歪取り効果が得られないことがある。また、加熱温度が400℃を超える場合や、加熱時間が15分を超える場合には、アルミニウム合金基板の表層におけるAl-Mg-Be系酸化物が厚くなるため、めっき前処理でAl-Mg-Be系酸化物が完全に除去されずに残存し、ピットが多発する傾向があるからである。
アルミニウム合金基板の表面に、脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)を順次施す。
脱脂は、例えば市販のAD-68F(上村工業製)脱脂液等を用い、温度40~70℃、処理時間3~10分、濃度200~800mL/Lの条件で脱脂を行うことが好ましく、温度45~65℃、処理時間4~8分、濃度300~700mL/Lの条件で行うのがより好ましい。温度が40℃未満の場合や、処理時間が3分未満の場合、或いは、濃度が200mL/L未満の場合には、十分な脱脂効果が得られないことがある。また、温度が70℃を超える場合や、処理時間が10分を超える場合、或いは、濃度が800mL/Lを超える場合は、基板表面の平滑性が低下し、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下することがある。
次に、ジンケート処理したアルミニウム合金基板の表面を下地処理して、この表面上に、下地処理として無電解めっきを施してめっき層(例えばNi-P合金めっき層)を形成する。更に、めっき層の表面の研磨が行われる。無電解Ni-P合金めっき処理は、例えば市販のニムデンHDX(上村工業製)めっき液等を用い、温度80~95℃、処理時間30~180分、Ni濃度3~10g/Lの条件でめっき処理を行うことが好ましく、温度85~95℃、処理時間60~120分、Ni濃度4~9g/Lの条件で行うのがより好ましい。温度が80℃未満の場合や、Ni濃度が3g/L未満の場合にはめっきの成長速度が遅く、生産性の低下を招く場合がある。処理時間が30分未満の場合には、めっき表面に欠陥が多数発生し、めっき表面の平滑性が低下することがある。温度が95℃を超える場合や、Ni濃度が10g/Lを超える場合には、めっきが不均一に成長するため、めっきの平滑性が低下する場合がある。処理時間が180分を超える場合には、生産性の低下を招くことがある。これらのめっき前処理、ならびに、Ni-P合金めっき処理によって、本発明の下地処理したアルミニウム合金基板が得られる。
最後に、下地処理したアルミニウム合金基板のめっき層の表面上に、スパッタリングによって磁性体(磁性層)を付着形成させて磁気ディスクを製造する。
まず、表1に示すCl含有量のアルミニウム地金と、Cr酸化物量のCr原料(実施例の合金No.4及び5は除く。)を用い、表1に示す成分組成のアルミニウム合金溶湯を溶製し、その後、アルミニウム合金溶湯をDC鋳造法により厚さ500mmの鋳塊とし、両面15mmの面削を行った。次に510℃で6時間の均質化処理を施した(実施例の合金No.6は除く。)。その後、圧延開始温度460℃、圧延終了温度340℃で熱間圧延を行なって板厚3.0mmの熱間圧延板とし、その後、実施例の合金No.7以外の熱間圧延板は、中間焼鈍を行なわずに冷間圧延(圧延率66.7%)により最終板厚の1.0mmまで圧延し、冷間圧延板(アルミニウム合金板)とした。実施例の合金No.7の熱間圧延板については、まず第1の冷間圧延(圧延率33.3%)を施した後、バッチ式焼鈍炉を用いて、300℃で2時間の条件で中間焼鈍を行ない、次いで、第2の冷間圧延(圧延率50.0%)により最終板厚の1.0mmまで圧延し、冷間圧延板(アルミニウム合金板)とした。次に、アルミニウム合金板から外径96mm、内径24mmの円環状に打抜き、ディスクブランクを作製した後、このディスクブランクを340℃で4時間加圧焼鈍を施した。その後、端面加工を行い外径95mm、内径25mmとし、グラインディング加工(表面10μm研削)を行い、300℃で10分の加熱処理を行った。次に、AD-68F(上村工業製)により60℃で5分の脱脂を行った後、AD-107F(上村工業製)により65℃で1分のエッチングを行い、更に30%HNO3水溶液(室温)で20秒間のデスマット処理を施した。その後、表面調整したディスクブランクの表面に、AD-301F-3X(上村工業製)を用いてダブルジンケート処理を施した。さらに、ジンケート処理した表面に無電解Ni-P合金めっき処理液(ニムデンHDX(上村工業製))を用いてNi-P合金めっき層を19μm厚さで形成した後、羽布(バフ)により仕上げ研磨(研磨量5μm)を行い、磁気ディスクを得た。なお、表1の成分組成において、「-」の記号は、検出限界以下であることを示している。
3~10μmの最長径を有するCr酸化物の存在密度(ディスク片面当たりの個数)は、研削加工・加熱工程後のアルミニウム合金板(S1)の表面を目視で検査し、EPMAの観察像とWDS分析(波長分散型X線分析)により3~10μmの最長径を有するCr酸化物を同定しつつ、各々のディスクの片面当たりの個数を数えて存在密度に換算して求めた。Cr酸化物が基板表面に存在すると研削加工時にこの介在物を起点に広範囲に研削傷が発生するため、介在物の分散状態は目視で確認することができる。上記存在密度を表2に示す。
Ni-P合金めっき層の形成工程後のアルミニウム合金板(S2)の表面をOSA(Optical Surface Analyzer)等の機器を用いて観察し、ディスク片面当たりに存在する最長径0.5μm以上の大きさのピットの個数を計測し、単位面積当たりの個数(個数密度:ディスクの片面当たりの個数)を求めた。評価の基準は、ディスクの片面当たりのピットの個数が、10個以下の場合を優良であるとして「◎」印で示し、10個超え30個以下の場合を良好であるとして「○」印で示し、そして、30個を超える場合を不良であるとして「×」印で示す。評価結果を表2に示す。
Claims (4)
- 質量%で、Mg:3.0~8.0%、Cu:0.002~0.150%、Zn:0.05~0.60%、Fe:0.001~0.060%、Si:0.001~0.060%、Be:0.00001~0.00200%、及びCl:0.00300%以下を含有し、かつCr:0.010~0.200質量%、Mn:0.010~0.500質量%のうち1種又は2種を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、金属組織中で観察される3~10μmの最長径を有するCr酸化物の存在密度がディスクの片面当たり1個以下であり、かつ金属組織中で観察される10μmを超える最長径を有するCr酸化物の存在密度がディスクの片面当たり0個であり、ディスクの片面の面積は2.5インチディスクの場合には3000mm 2 、3.5インチディスクの場合には6500mm 2 であることを特徴とする磁気ディスク基板用アルミニウム合金板。
- Be:0.00001~0.00025質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク基板用アルミニウム合金板。
- 請求項1または2に記載の磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の製造方法において、
前記アルミニウム合金板の組成になるように溶湯を調整する溶湯調整工程と、
前記溶湯を鋳造する鋳造工程と、
鋳造した鋳塊を熱間圧延して熱間圧延板とする熱間圧延工程と、
前記熱間圧延板を冷間圧延して冷間圧延板とする冷間圧延工程と
を含み、
前記溶湯調整工程が、Cl:0.00300質量%以下を含有するアルミニウム地金およびCr酸化物:0.50質量%以下を含有するCr原料を装入して溶湯を調整することを特徴とする磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の製造方法。 - 請求項1または2に記載される磁気ディスク基板用アルミニウム合金板を用いて作製した円環状のアルミニウム合金基板の表面上に、めっき層と磁性層を有することを特徴とする磁気ディスク。
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