JP2015089956A - 磁気ディスク用アルミニウム合金基板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Cu:0.5mass%以上2.0mass%未満(以下、単に%と記す。)、Mg:0.1%以上1.0%未満を含有し、残部Alと不可避的不純物からなり、円相当径0.5μm以上のAl−Cu系析出物の密度が1.0×105個/mm2以下である磁気ディスク用アルミニウム合金基板。さらに、Mn:0.5〜1.6%、Zn:0.05〜1.0%、Cr:0.03〜0.3%、Zr:0.03〜0.3%のうち1種以上を含有しても良い。
【選択図】なし
Description
一般的なアルミニウム合金製磁気ディスクは、まず円環状アルミニウム合金基板を作製し、次いで該合金基板表面に磁性体を付着させることにより製造されている。
例えば前記JIS5086合金によるアルミニウム合金製磁気ディスクは以下の工程により製造される。まず、鋳塊を熱間圧延し、次いで焼鈍を施しながら冷間圧延し圧延材を作製する。次に、該圧延材を円環状に打抜き、円環状にしたアルミニウム合金板を積層し、両面から加圧して平坦化する焼鈍(加圧焼鈍)を行う工程により、円環状アルミニウム合金基板は作製される。
このようにして作製された円環状アルミニウム合金基板に、前処理として切削加工、研削加工、脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)を施し、次いで下地処理として硬質非磁性金属であるNi−Pを無電解メッキし、該メッキ表面にポリッシングを施した後、磁性体をスパッタリングしてアルミニウム合金製磁気ディスクは製造される。
ところで、近年、磁気ディスクには、マルチメディア等のニーズから大容量化および高密度化が求められおり、面記録密度1Tb/in2以上を達成する記録方式として、熱アシスト磁気記録方式が期待されている。熱アシスト磁気記録方式は、高い保磁力を持つ磁性体をレーザ光により加熱し、磁性体の保磁力を低下させ記録を行う方式である。
現在、高い保磁力を持つ磁性体としてFe−Pt系等が検討されているが、Fe−Pt系はこれまでのCo−Cr−Pt系の磁性体よりも高温(600℃程度)でのスパッタリングが必要であることが知られている。現在広く使われているJIS5086アルミニウム合金基板を用い600℃でスパッタリングを行った場合には、溶融が起こってしまうため、アルミニウム合金基板には高温での耐熱性が強く望まれている。
また、磁気ディスクの記録密度の向上には、磁気ディスクに対する磁気ヘッドの浮上量をより少なく、かつより安定させる必要がある。このためには、磁気ディスク用アルミニウム合金基板には高い平滑性、平坦性が求められている。
このような実情から、近年ではアルミニウム合金基板には優れた耐熱性と平滑性、平坦性が強く望まれ、様々な検討がなされている。
先ず、アルミニウム合金基板の製造工程から磁気ディスクの製造工程を図1に示すフローで説明する。
ステップ1:必要に応じたアルミニウム合金組成に配合する。例えば後述する表1に示す成分組成のアルミニウム合金に配合する。
ステップ2:配合したアルミニウム合金を鋳造する。
ステップ3:鋳塊を面削し、均質化処理をする。
ステップ4:熱間圧延し板材とする。
ステップ5:熱間圧延した板を冷間圧延してアルミニウム合金圧延板とする。冷間圧延中もしくは前に中間焼鈍を行う(必須ではない)。
ステップ6:アルミニウム合金圧延板を円環状に打ち抜き、ディスクブランクを作成する。
ステップ7:ディスクブランクを加圧焼鈍により平坦化しアルミニウム合金基板を作成する。
ステップ8:アルミニウム合金基板を切削加工、研削加工する。
ステップ9:磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に下地処理を施す。
ステップ10:下地処理した表面にスパッタリングで磁性体を付着させ磁気ディスクとする。
Cuはスパッタリング後にMgとAl2CuMgを時効析出することにより材料の強度を大幅に向上させる。Cuの含有量が0.5%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Cu含有量が2.0%以上になると、粗大な化合物を形成し、研削加工時にこの化合物が脱落して平滑性低下の原因となる大きなピットが発生する。したがって、Cuの含有量は0.5%以上2.0%未満とする。なお、Cuの含有量の一層好ましい範囲は1.0〜1.5%である。
Mgはスパッタリング後にCuとAl2CuMgを時効析出することにより材料の強度を大幅に向上させる。Mgの含有量が0.1%未満ではこの効果が十分に得られない。一方、Mgの含有量が1.0%以上になると、アルミニウム合金基板の固相線温度が低下する。したがって、Mgの含有量は0.1%以上1.0%未満とする。なお、Mgの含有量の一層好ましい範囲は0.3〜0.8%である。
Mn:0.5〜1.6%
MnはAl−Mn系化合物を形成し、分散強化に寄与する。Mnの含有量が0.5%未満では、上記の効果が十分に得られず、一方、1.6%を越えると、粗大な晶出物を形成し、研削加工時にこの晶出物が脱落して平滑性低下の原因となる大きなピットが発生する。したがって、Mnの含有量は0.5〜1.6%とする。なお、Mnの含有量の一層好ましい範囲は0.5〜1.1%である。
Zn:0.05〜1.0%
Znはスパッタリング後に化合物として析出し、強度向上に寄与する。Znの添加量が0.05%未満では上記の効果が十分に得られず、一方、1.0%を超えるとアルミニウム合金基板の固相線温度が低下する。したがって、Znの含有量は0.05〜1.0%とする。なお、Znの含有量の一層好ましい範囲は0.1〜0.8%である。
Cr:0.03〜0.3%
Crはアルミニウム合金中で微細な金属間化合物を生成して、その強度を向上させる。含有量は、0.03%未満では効果が十分に得られず、一方0.3%を越えると粗大な化合物を形成し、研削加工時にこの化合物が脱落して平滑性低下の原因となる大きなピットが発生する。したがって、Crの含有量は各0.03〜0.3%とする。なお、Crの含有量の一層好ましい範囲は0.05〜0.2%である。
Zr:0.03〜0.3%
ZrもCrと同様アルミニウム合金中で微細な金属間化合物を生成して、その強度を向上させる。また、Al−Zr系化合物はスパッタリング時に結晶粒の粗大化を抑え、平坦性の低下を抑制する効果がある。含有量は、0.03%未満では効果が十分に得られず、一方0.3%を越えると粗大な化合物を形成し、研削加工時にこの化合物が脱落して平滑性低下の原因となる大きなピットが発生する。したがって、Zrの含有量は各0.03〜0.3%とする。なお、Zrの含有量の一層好ましい範囲は0.05〜0.2%である。
Si:0.001%以上0.1%未満
Siは通常不可避的不純物としてアルミニウム合金中に混入するものであり、アルミニウム合金中で固溶、析出強化してその強度を向上させる。しかし、多量のCuが共存する場合、単体のSiやAl−Cu−Si系化合物として析出し、Siが0.1%以上になると、これらの析出物が粗大化し、研削加工時にこの析出物が脱落して平滑性低下の原因となる大きなピットを発生する恐れがある。一方、アルミニウム地金からSiを0.001%未満まで取り除くことはアルミニウム地金を高純度に精錬することとなり、コスト高を招き好ましくない。したがって、Siは0.001以上0.1%未満が好ましい。なお、Siの含有量の一層好ましい範囲は0.001%以上0.05%以下である。
Fe:0.001%以上0.1%未満
Feは通常不可避的不純物としてアルミニウム合金中に混入するものであり、アルミニウム中には殆ど固溶せず、Al−Mn−Fe系化合物として晶出、析出して分散強化に寄与する。しかし、含有量が0.1%以上だと粗大なAl−Mn−Fe系化合物が生成して、研削加工時にこの化合物が脱落して平滑性低下の原因となる大きなピットを発生する恐れがある。一方、Feを0.001%未満まで取り除くのはアルミニウム地金を高純度に精錬することになりコスト高を招き好ましくない。Fe含有量は、0.025%未満に抑えることが好ましい。したがって、Feは0.001以上0.1%未満が好ましい。なお、Feの含有量の一層好ましい範囲は0.001%以上0.05%以下である。
それ以外の不純物(例えばTi、V、Ga、B等)は、各々が0.03%未満で、かつ合計で0.15%以下であれば、本発明で得られるアルミニウム合金基板としてその特性を損なうことはない。
円相当径0.5μm以上のAl−Cu系析出物(たとえば、Al−CuやAl−Cu−Fe又はAl−Cu−Mn等)は、比較的そのサイズが大きいため、スパッタリング時に固溶せず、消失し難い。そのため、スパッタリング後にもAl−Cu系析出物が残存し、これによりスパッタリング後のCu固溶量が低下する。スパッタリング後のCuの固溶量が低いと、Al2CuMgの時効析出による強度上昇の効果が十分に得られない。したがって、本発明における円相当径0.5μm以上のAl−Cu系析出物の密度は1.0×105個/mm2以下である。なお、円相当径0.5μm以上のAl−Cu系析出物の好ましい密度は1×104個/mm2以下である。なお、円相当径0.5μm以上のAl−Cu系析出物の分散密度の下限は特に規定されるものではないが、アルミニウム合金の組成と製造工程によって自ずとこの下限は決まり、本発明で採用する合金組成と製造工程によれば、1.0×103個/μm3程度が分散密度の下限となる。
円相当径0.5μm以上のAl−Cu系析出物の密度は、アルミニウム合金基板の断面をSEMにより観察し、SEM像を画像解析することにより求めた。
前記ステップ1で本発明の合金組成範囲に調整されたアルミニウム合金地金を、半連続鋳造(DC鋳造)法などの常法に従って鋳造(ステップ2)し、得られた鋳塊に均質化処理(ステップ3)、熱間圧延(ステップ4)、冷間圧延(ステップ5)を施しアルミニウム合金圧延板を製造する。いずれの工程もAl−Cu系析出物の分布状態に関係するが、本発明者らは特にステップ3からステップ5の直前、すなわち均質化処理終了から冷間圧延前までの特定範囲の温度における保持(滞在)時間が大きく影響することを発見し本発明に至った。
均質化処理の保持温度を450℃以上とすると、円相当径0.5μm以上のAl-Cu系の析出物が母相に固溶し、析出物の密度が減少する。一方、450℃未満の温度で保持を行うと、円相当径0.5μm以上のAl−Cu系の析出物の密度が増加し、それに伴いスパッタリング後のCuの固溶量が下がり、Al2CuMgの時効析出による強度上昇の効果が十分に得られない。このため、均質化処理は450℃以上の温度で行う。均質化処理温度の上限は特に設けないが、560℃以下が好ましい。またAl-Cu系析出物の固溶を確実にするために均質化処理の保持時間は0.5時間以上。好ましくは3時間以上とする。
均質化処理終了から冷間圧延前までの、380℃〜430℃の温度域では、材料中に固溶しているCuが粗大なAl−Cu系の化合物として析出する。そのため、この温度域で15分を越えて保持すると、円相当径0.5μm以上のAl−Cu系析出物の密度が1.0×105個/mm2を越える。このため、均質化処理終了から冷間圧延前までの380℃〜430℃の温度域での保持時間は15分以下とする。なお、430℃超え450℃未満の温度域でも粗大なAl−Cu系化合物は析出するが、析出物の生成数が少ないためその影響は無視することができる。
アルミニウム合金圧延板を磁気ディスク用として加工するには、該基板を円環状に打ち抜き(ステップ6)、加圧焼鈍(ステップ7)を行う。加圧焼鈍は、380℃以上で加熱すると粗大なAl−Cu系の化合物が析出するため、380℃未満で行う。250〜330℃の温度で行うことがより好ましい。
平坦化したディスクブランクを切削加工、研削加工、(ステップ8)して、下地処理(ステップ9)、スパッタリング(ステップ10)を行い磁気ディスクとする。
ステップ1:表1に示す成分組成のアルミニウム合金溶湯を溶製した。なお、表1の合金組成において、「−」は無添加 であることを示す。
ステップ3:表2に示す条件で均質化処理を施した。
ステップ5:実施例No.3の合金以外の熱延板は中間焼鈍を行なわずに冷間圧延(圧延率66.7%)により最終板厚の1.0mmまで圧延し、圧延板とした。
実施例No.3は、まず第1の冷間圧延(圧延率33.3%)を施した後、バッチ式焼鈍炉を用いて、320℃で2時間の条件で中間焼鈍を行なった。次いで、第2の冷間圧延(圧延率50.0%)により最終板厚の1.0mmまで圧延し、圧延板とした。
ステップ7:ディスクブランクを325℃で4時間加圧焼鈍を施した。
ステップ8:端面加工後、研削加工を施した。
耐熱性は、加圧焼鈍後のアルミニウム合金基板の固相線温度を熱分析により求めることで、評価を行った。固相線温度が600℃を超える場合を優良(◎印)とし、600℃以下の場合を不良(×印)とした。
冷延後のアルミニウム合金板を325℃、4時間の条件で加熱した後、赤外線加熱装置を用い600℃/分で昇温し、600℃、10secの条件で加熱し、1週間室温で保持した後、圧延方向に切り出したJIS5号試験片の耐力を測定した。測定条件は、標点距離50mm、クロスヘッド速度10mm/分とした。耐力100MPa以上のものを優良(◎印)とし、耐力100MPa未満のものを不良(×印)とした。
SEMにより、加圧焼鈍後のアルミニウム合金基板の断面の組成(COMP)像を倍率1000倍にて撮影(視野:0.2mm2)し、円相当径0.5μm以上のAl−Cu系析出物の密度を求めた。Al−Cu系析出物はCOMP像ではマトリックスに比べて白く写るため、白く写る粒子をAl−Cu系析出物としてカウントした。
加圧焼鈍後のブランクを赤外線加熱装置により600℃/分で昇温し、600℃、10secの条件で加熱し、30枚の平坦度を平坦度測定器により測定し、平坦性の評価を行った。平坦度の最大値が5μm未満のものを優良(◎印)とし、平坦度の最大値が5μm以上のものを不良(×印)とした。なお、この平坦度はZyGO非接触フラットネス測定機で測定した値である。
加圧焼鈍後のブランクを赤外線加熱装置により600℃/分で昇温し、600℃、10secの条件で加熱し、研削加工を行った後、アルミニウム合金基板表面の粗さ(算術平均粗さ、Ra)を10枚測定し、その平均値で平滑性の評価を行った。測定は、測定長さ=8.00mmとし圧延直角方向に走査することで行った。表面粗さRaが0.020μm未満の場合を優良(◎印)とし、Raが0.020μm以上0.025μm未満のものを良好(○印)とし、Raが0.025μm以上の場合を不良(×印)とした。以上の評価結果を表3に示す。
比較例No.17はCuの含有量が多いために粗大な化合物が形成され、研削加工時にこの化合物が脱落して平滑性が低下した。
比較例No.18はMgの含有量が少ないために耐力が低くなった。
比較例No.19、20はMgの含有量が多いために固相線温度が低下し、耐熱性が悪くなった。また、耐熱性が悪いことで平滑性及び平坦性が低下した。
比較例No.21はMnの含有量が多いために粗大な晶出物が形成され、研削加工時にこの晶出物が脱落して平滑性が低下した。比較例No.22はZnの含有量が多いために固相線温度が低下し、耐熱性が悪くなった。また、耐熱性が悪いことで平滑性及び平坦性が低下した。
比較例No.23はCrの含有量が多いために粗大な化合物が形成され、研削加工時にこの化合物が脱落して平滑性が低下した。
比較例No.24はZrの含有量が多いために粗大な化合物が形成され、研削加工時にこの化合物が脱落して平滑性が低下した。
比較例No.25はMgの含有量が多いために固相線温度が低下し、耐熱性が悪くなった。また、耐熱性が悪いことで平滑性及び平坦性が低下した。
比較例No.26は均質化の保持温度が低いために円相当径0.5μm以上のAl−Cu系析出物が多く形成され、耐力が低くなった。
比較例No.27は均質化処理終了から冷間圧延前までに380℃〜430℃であった時間が長すぎたために円相当径0.5μm以上のAl−Cu系析出物が多く形成され、耐力が低くなった。
上述したように、本発明のアルミニウム合金基板は高温で加熱するにあたり、成分が制御されているため溶融が抑えられ、優れた耐熱性と平滑性、平坦性を有する。また、高温加熱後の室温時効により、磁気ディスク用アルミニウム合金基板として必要な強度を得ることが出来る優れた効果を有するものである。
Claims (3)
- Cu:0.5mass%以上2.0mass%未満(以下、単に%と記す。)、Mg:0.1%以上1.0%未満を含有し、残部Alと不可避的不純物からなり、円相当径0.5μm以上のAl−Cu系析出物の密度が1.0×105個/mm2以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
- Cu:0.5%以上2.0%未満、Mg:0.1%以上1.0%未満を含有し、さらにMn:0.5〜1.6%、Zn:0.05〜1.0%、Cr:0.03〜0.3%、Zr:0.03〜0.3%のうち1種以上を含有し、残部Alと不可避的不純物からなり、円相当径0.5μm以上のAl−Cu系析出物の密度が1.0×105個/mm2以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
- 請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、鋳塊に均質化処理を施し、熱間圧延、冷間圧延を行うにあたり、前記均質化処理は450℃以上で行ない、さらに均質化処理終了から冷間圧延前までに該アルミニウム合金の温度が380℃〜430℃である時間を15分以下に規定することを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
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