JP6911066B2 - フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法、およびそれを用いたグルコース測定方法 - Google Patents
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Description
なお、出願人は、特許文献6において、チゴサッカロマイセス属の酵母で発現させたケカビ由来FAD−GDHが優れた基質特異性及び耐熱性を有していることを別途見出している。すなわち、N末端領域を欠失させないケカビ由来FAD−GDH遺伝子を酵母で発現させた場合等においては、N末端領域を欠失させたケカビ由来FAD−GDH遺伝子を大腸菌で発現させた場合と比較すれば、発現されるケカビ由来FAD−GDHは耐熱性が優れていることがわかっている。しかしながら、センサーチップの作製時には加熱処理を施す場合が想定され、そのような用途を含む過酷な熱条件に供する可能性を想定すると、酵母で発現させたケカビ由来FAD−GDHに関しても、さらなる耐熱性を付与する試みが継続的に求められている。
[1]配列番号8で示されるアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一なアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、以下:
配列番号8記載のアミノ酸配列における213位のバリン又はこれに相当するアミノ酸残基、
配列番号8記載のアミノ酸配列における368位のスレオニン又はこれに相当するアミノ酸残基、
配列番号8記載のアミノ酸配列における526位のイソロイシン又はこれに相当するアミノ酸残基、
よりなる群から選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を有することを特徴とする、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ。
[2]以下:
配列番号1記載のアミノ酸配列における232位のバリン、
配列番号1記載のアミノ酸配列における387位のスレオニン、
配列番号1記載のアミノ酸配列における545位のイソロイシン、
よりなる群から選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を有することを特徴とする、[1]に記載のフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ。
[3]配列番号8で示されるアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上同一なアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、以下:
配列番号8記載のアミノ酸配列における213位に相当する位置のアミノ酸残基が、アラニン、メチオニン、システイン、グルタミン又はグルタミン酸のいずれかであり、
配列番号8記載のアミノ酸配列における368位に相当する位置のアミノ酸残基がアラニン、バリン、グリシン、セリン又はシステインのいずれかであり、
配列番号8記載のアミノ酸配列における526位に相当する位置のアミノ酸残基が、バリン、スレオニン、セリン、プロリン、アラニン、チロシン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン又はグルタミン酸のいずれかである
よりなる群から選択されるアミノ酸に対応する位置で1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を有することを特徴とする、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ。
[4]以下:
配列番号1記載のアミノ酸配列における232位に相当する位置のアミノ酸残基が、アラニン、メチオニン、システイン、グルタミン又はグルタミン酸のいずれかであり、
配列番号1記載のアミノ酸配列における387位に相当する位置のアミノ酸残基がアラニン、バリン、グリシン、セリン又はシステインのいずれかであり、
配列番号1記載のアミノ酸配列における545位に相当する位置のアミノ酸残基が、バリン、スレオニン、セリン、プロリン、アラニン、チロシン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン又はグルタミン酸のいずれかである
よりなる群から選択されるアミノ酸に対応する位置で1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を有することを特徴とする、[3]に記載のフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ。
[5]ケカビ亜門、好ましくはケカビ綱、より好ましくはケカビ目、さらに好ましくはケカビ科、最も好ましくはムコール(Mucor)属由来に分類される微生物に由来する野生型フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在するシグナルペプチド領域に相当するアミノ酸領域部分を欠失させたアミノ酸配列、または前記アミノ酸配列と90%以上同一なアミノ酸配列、または前記アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、大腸菌において組換え生産を行った際に以下:
作用:電子受容体存在下でグルコース脱水素酵素活性を示す、
分子量:タンパク質のポリペプチド鎖部分の分子量が約70kDaである、及び
基質特異性:D−グルコースに対する反応性に対して、マルトース、D−ガラクトース及びD−キシロースに対する反応性が低い、
を備えるフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼであって、大腸菌において組換え生産を行った際に、35℃、10分間の熱処理後に3%以上の残存活性を有する、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載のフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼをコードするフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子。
[7]以下:
配列番号8で示されるアミノ酸配列をコードするDNA;
配列番号9で示される塩基配列からなるDNA;
配列番号10で示されるアミノ酸配列をコードするDNA;又は
配列番号9で示される塩基配列と90%以上相同な塩基配列を有し、かつ、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ酵素活性をもつタンパク質をコードするDNA;
からなるフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子。
[8][6]又は[7]に記載のフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子を含む、ベクター。
[9][8]記載のベクターを含む、宿主細胞。
[10]以下の工程:
[9]に記載の宿主細胞を培養する工程、
前記宿主細胞中に含まれるフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子を発現させる工程、及び
前記培養物からフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼを回収する工程
を含む、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼを製造する方法。
[11][1]〜[5]に記載のフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼを用いることを特徴とする、グルコース測定方法。
[12][1]〜[5]に記載のフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼを含むことを特徴とする、グルコースアッセイキット。
[13][1]〜[5]に記載のフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼを含むことを特徴とする、グルコースセンサー。
本発明のFAD−GDHは、公知の野生型または変異型FAD−GDH同様、電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する。
本発明のFAD−GDHの活性は、この作用原理を利用し、例えば、電子受容体としてフェナジンメトサルフェート(PMS)および2,6−ジクロロインドフェノール(DCIP)を用いた以下の測定系を用いて測定することができる。
(反応1) D−グルコ−ス + PMS(酸化型)
→ D−グルコノ−δ−ラクトン + PMS(還元型)
(反応2) PMS(還元型) + DCIP(酸化型)
→ PMS(酸化型) + DCIP(還元型)
具体的には、フラビン結合型GDHの活性は、以下の手順に従って測定することができる。50mM リン酸緩衝液(pH6.5) 2.05mL、1M D−グルコース溶液 0.6mLおよび2mM DCIP溶液 0.15mLを混合し、37℃で5分間保温する。次いで、15mM PMS溶液 0.1mLおよび酵素サンプル溶液0.1mLを添加し、反応を開始する。反応開始時、および、経時的な吸光度を測定し、酵素反応の進行に伴う600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量(ΔA600)を求め、次式に従いフラビン結合型GDH活性を算出する。この際、フラビン結合型GDH活性は、37℃において濃度200mMのD−グルコース存在下で1分間に1μmolのDCIPを還元する酵素量を1Uと定義する。
本発明のFAD−GDHは、配列番号8で示されるアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と同一性の高い、例えば、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上同一なアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号8記載のアミノ酸配列における213位に相当する位置、368位に相当する位置、および526位に相当する位置から選択されるアミノ酸に対応する位置で1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を有することを特徴とする。
好ましくは、本発明のFAD−GDHにおける、上述の213位に相当する位置でのアミノ酸置換とは、上述の213位に相当する位置でのアミノ酸がアラニン、メチオニン、システイン、グルタミン、グルタミン酸のいずれかに置換される置換であり、368位に相当する位置でのアミノ酸置換とは、上述の368位に相当する位置でのアミノ酸がアラニン、バリン、グリシン、セリン、システインのいずれかに置換される置換であり、526位に相当する位置でのアミノ酸置換とは、上述の526位に相当する位置でのアミノ酸がバリン、スレオニン、セリン、プロリン、アラニン、チロシン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、グルタミン酸のいずれかに置換されている置換である。なお、配列番号8においては、本発明の置換を有さない213位のアミノ酸はバリンであり、368位のアミノ酸はスレオニンであり、526位のアミノ酸はイソロイシンである。
本発明のFAD−GDHは、公知のタンパク質を出発物質として、それを改変することにより取得することもできる。特に、本発明のFAD−GDHに望まれる酵素科学的性質と類似点が多い出発物質を利用することは、所望のFAD−GDHを取得する上で有利である。
上述のような出発物質の例としては、公知のFAD−GDHを挙げることができる。公知のFAD−GDHの由来微生物の好適な例としては、ケカビ亜門、好ましくはケカビ綱、より好ましくはケカビ目、さらに好ましくはケカビ科に分類される微生物を挙げることができる。具体的には、ムコール(Mucor)属、アブシジア(Absidia)属、アクチノムコール(Actinomucor)属由来のFAD−GDHは、本発明のFAD−GDHを取得するための出発物質の一例として好適である。
Mucor属に分類される微生物であって、具体的な好ましい微生物の例としては、ムコール・プライニ(Mucor prainii)、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)、ムコール・ダイモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)もしくはムコール・シルシネロイデス・f・シルシネロイデス(Mucor circinelloides f. circinelloides)が挙げられる。より具体的には、Mucor prainii NISL0103、Mucor javanicus NISL0111もしくはMucor circinelloides f. circinelloides NISL0117が挙げられる。Absidia属に分類される微生物であって、具体的な好ましい微生物の例としては、アブシジア・シリンドロスポラ(Absidia cylindrospora)、アブシジア・ヒアロスポラ(Absidia hyalospora)を挙げることができる。より具体的には、Absidia cylindrospora NISL0211、Absidia hyalospora NISL0218を挙げることができる。Actinomucor属に分類される微生物であって、具体的な好ましい微生物の例としては、アクチノムコール・エレガンス(Actinomucor elegans)を挙げることができる。より具体的には、Actinomucor elegans NISL9082を挙げることができる。なお、上記の菌株はNISL(公益財団法人 野田産業科学研究所)の保管菌株であり、所定の手続きを経ることにより、分譲を受けることができる。
本発明のFAD−GDHは、高い基質特異性を有することを特徴とする。具体的には、本発明のFAD−GDHは、本発明者らが先に見出した特許第4648993号公報に記載のケカビ由来FAD−GDHと同様に、マルトース、D−ガラクトース、D−キシロースに対する反応性が極めて低いことを特徴とする。具体的には、D−グルコースに対する反応性を100%とした場合に、マルトース、D−ガラクトースおよびD−キシロースに対する反応性がいずれも2%以下であることを特徴とする。本発明に用いるFAD−GDHは、このような高い基質特異性を有するため、マルトースを含む輸液の投与を受けている患者や、ガラクトース負荷試験およびキシロース吸収試験を実施中の患者の試料についても、測定試料に含まれるマルトース、D−ガラクトース、D−キシロース等の糖化合物の影響を受けることなく、正確にD−グルコース量を測定することが可能となる。
各種の酵素化学的性質は、酵素の諸性質を特定するための公知の手法、例えば、以下の実施例に記載の方法を用いて調べることができる。酵素の諸性質は、本発明に用いるフラビン結合型GDHを生産する微生物の培養液や、精製工程の途中段階において、ある程度調べることもでき、より詳細には、精製酵素を用いて調べることができる。
上述のケカビ由来FAD−GDHを改変して、本発明のFAD−GDHを得る場合、特に、本発明のFAD−GDHを大腸菌等の宿主において生産させる際には、出発物質であるケカビ由来FAD−GDHのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在する一定領域のアミノ酸領域、具体的には、シグナルペプチド領域に相当するアミノ酸領域部分を欠失させることにより、大腸菌において発現させた場合の発現量が向上するという効果が得られる。そして、このN末端の削除領域を検討するにあたり、シグナルペプチドの予測が有効な手段となり得る。シグナルペプチドの予測は、適当なツールを用いてある程度予測することが可能で、実際には、それらの情報を元に検証することにより、好適な削除領域を決定することができる。このようなシグナルペプチド予測用のツールとしては、例えば、WEB上のシグナルペプチド予想プログラム(SignalP、「www.cbs.dtu.dk/services/SignalP−2.0/」)等が知られている。
一定のN末端領域を切断する際に、新たにできるN末端をメチオニンに置換するか、あるいは置換せずにメチオニンを付加するかによって、得られるFAD−GDHのアミノ酸配列は1残基違ってくるが、これはシグナルペプチドの削除によって新たにできるN末端がメチオニンでなくなった場合に開始コドンを付与して遺伝子からのタンパク質発現を正常に行わせるために行う操作であって、本発明の必須要件ではない。
本発明の変異型FAD−GDHは、大腸菌において発現させたときに、本明細書中に記載の活性測定方法及び熱安定性測定方法に記載した反応条件下で、35℃、10分間熱処理後の残存活性が3%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上であることを特徴とする。このような高い耐熱性は、本発明のFAD−GDHで規定される所定の耐熱性向上に寄与する所定の位置における特定のアミノ酸残基を有さないFAD−GDH遺伝子を大腸菌において発現させて得られるFAD−GDH(本発明において、以降、「野生型FAD−GDH」)が有し得ないものであり、これにより、耐熱性が向上したFAD−GDHを大腸菌等の宿主において生産することが可能となる。このような本発明のFAD−GDHをコードする遺伝子を含むプラスミドの例として、pET−22b−MpNS1−M1、pET−22b−MpNS1−M2、pET−22b−MpNS1−M3、pET−22b−MpNS1−M4、pET−22b−MpNS1−M5、pET−22b−MpNS1−M6、pET−22b−MpNS1−M7、pET−22b−MpNS1−M8、pET−22b−MpNS1−M9、pET−22b−MpNS1−M10、pET−22b−MpNS1−M11、pET−22b−MpNS1−M12、pET−22b−MpNS1−M13、pET−22b−MpNS1−M14、pET−22b−MpNS1−M15、pET−22b−MpNS1−M16、pET−22b−MpNS1−M17、pET−22b−MpNS1−M18、pET−22b−MpNS1−M19、pET−22b−MpNS1−M20、pET−22b−MpNS1−M21、pET−22b−MpNS1−M22、pET−22b−MpNS1−M23等が挙げられる。また、このような本発明のFAD−GDHを生産する宿主微生物として、大腸菌BL21(DE3)/pET−22b−MpNS1株を挙げることができる。
また、「配列番号8記載のアミノ酸配列の368位のスレオニンに相当する位置」とは、確定したFAD−GDHのアミノ酸配列を、配列番号8に示されるケカビ由来のFAD−GDHのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号8のFAD−GDHの368位のスレオニンと同一の位置のアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させて特定することができる。
さらに、「配列番号8記載のアミノ酸配列の526位のイソロイシンに相当する位置」とは、確定したFAD−GDHのアミノ酸配列を、配列番号8に示されるケカビ由来のFAD−GDHのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号8のFAD−GDHの526位のイソロイシンと同一の位置のアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させて特定することができる。
例えば、ケカビ由来FAD−GDHの全長のアミノ酸配列の例示である配列番号1において、「配列番号8記載のアミノ酸配列の213位のバリンに相当する位置」とは、配列番号1記載のアミノ酸配列の232位のバリンである。また、配列番号1において、「配列番号8記載のアミノ酸配列の368位のスレオニンに相当する位置」とは、配列番号1記載のアミノ酸配列の387位のスレオニンである。さらに、配列番号1において、「配列番号8記載のアミノ酸配列の526位のイソロイシンに相当する位置」とは、配列番号1記載のアミノ酸配列の545位のイソロイシンである。このように、配列番号8記載のアミノ酸配列を基準とし、「アラインメントにおける同一の位置」を特定する方法でアミノ酸配列を整列させて、配列番号8とは異なるアミノ酸配列における「相当する位置」を特定することができるので、配列番号8とは異なるアミノ酸配列における「相当する位置」が、実際には、当該異なるアミノ酸配列における何番目のアミノ酸に該当するかは容易に確認できる。このような、配列番号8もしくは配列番号9との同一性を有する配列において、相当する位置の変異を有する変異体についても、本発明の範囲に含まれる。
本発明のFAD−GDHを効率よく取得するためには、遺伝子工学的手法を利用するのが好ましい。本発明のFAD−GDHをコードする遺伝子(以下、FAD−GDH遺伝子)を取得するには、通常一般的に用いられている遺伝子のクローニング方法を用いればよい。例えば、公知のFAD−GDHを出発物質とし、それを改変することにより本発明のFAD−GDHを取得するには、FAD−GDH生産能を有する公知の微生物菌体や種々の細胞から、常法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology (WILEY Interscience,1989)記載の方法により、染色体DNA又はmRNAを抽出することができる。さらにmRNAを鋳型としてcDNAを合成することができる。このようにして得られた染色体DNA又はcDNAを用いて、染色体DNA又はcDNAのライブラリーを作製することができる。
出発物質であるFAD−GDH遺伝子の変異処理は、企図する変異形態に応じた、公知の任意の方法で行うことができる。すなわち、FAD−GDH遺伝子あるいは当該遺伝子の組み込まれた組換え体DNAと変異原となる薬剤とを接触・作用させる方法;紫外線照射法;遺伝子工学的手法;又は蛋白質工学的手法を駆使する方法等を広く用いることができる。
上記変異処理に用いられる変異原となる薬剤としては、例えば、ヒドロキシルアミン、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、亜硝酸、亜硫酸、ヒドラジン、蟻酸、若しくは5−ブロモウラシル等を挙げることができる。
この接触・作用の諸条件は、用いる薬剤の種類等に応じた条件を採ることが可能であり、現実に所望の変異をケカビ由来FAD−GDH遺伝子において惹起することができる限り特に限定されない。通常、好ましくは0.5〜12Mの上記薬剤濃度において、20〜80℃の反応温度下で10分間以上、好ましくは10〜180分間接触・作用させることで、所望の変異を惹起可能である。紫外線照射を行う場合においても、上記の通り常法に従い行うことができる(現代化学、p24〜30、1989年6月号)。
なお、上記遺伝子改変法の他に、有機合成法又は酵素合成法により、直接所望の熱安定性に優れ、且つ基質特異性の高い改変FAD−GDH遺伝子を合成することもできる。
上述のように得られた本発明のFAD−GDH遺伝子を、常法により、バクテリオファージ、コスミド、又は原核細胞若しくは真核細胞の形質転換に用いられるプラスミド等のベクターに組み込み、各々のベクターに対応する宿主細胞を常法により、形質転換又は形質導入をすることができる。
原核宿主細胞の一例としては、エッシェリシア属に属する微生物、例えば大腸菌K−12株、エシェリヒア・コリーBL21(DE3)、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5α、エシェリヒア・コリーW3110、エシェリヒア・コリーC600等(いずれもタカラバイオ社製)が利用でき、それらを形質転換し、または、それらに形質導入して、DNAが導入された宿主細胞(形質転換体)を得る。宿主細胞に組み換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主細胞がエシェリヒア・コリーに属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下で組み換えDNAの移入を行う方法などを採用することができる、更にエレクトロポレーション法を用いても良い。更には市販のコンピテントセル(例えばECOS Competent エシェリヒア・コリーBL21(DE3);ニッポンジーン製)を用いても良い。
また、例えば、真核宿主細胞の一例としては、酵母が挙げられる。酵母に分類される微生物としては、例えば、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、カンジダ(Candida)属などに属する酵母が挙げられる。挿入遺伝子には、形質転換された細胞を選択することを可能にするためのマーカー遺伝子が含まれていてもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、URA3、TRP1のような、宿主の栄養要求性を相補する遺伝子等が挙げられる。また、挿入遺伝子は、宿主細胞中で本発明の遺伝子を発現することのできるプロモーター又はその他の制御配列(例えば、分泌シグナル配列、エンハンサー配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列等)を含むことが望ましい。プロモーターとしては、具体的には、例えば、GAL1プロモーター、ADH1プロモーター等が挙げられる。酵母への形質転換方法としては、公知の方法、例えば、酢酸リチウムを用いる方法(MethodsMol. Cell. Biol., 5, 255−269(1995))やエレクトロポレーション(J Microbiol Methods 55 (2003)481−484)等を好適に用いることができるが、これに限定されず、スフェロプラスト法やガラスビーズ法等を含む各種任意の手法を用いて形質転換を行えば良い。
また、例えば、真核宿主細胞の他の例としては、アスペルギルス(Aspergillus)属やトリコデルマ(Tricoderma)属のようなカビ細胞が挙げられる。挿入遺伝子は、宿主細胞中で本発明の遺伝子を発現することのできるプロモーター(例えばtef1プロモーター)及びその他の制御配列(例えば、分泌シグナル配列、エンハンサー配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列等)を含むことが望ましい。また、挿入遺伝子には、形質転換された細胞を選択することを可能にするためのマーカー遺伝子、例えばniaD、pyrGが含まれていても良い。さらに、挿入遺伝子には、任意の染色体部位へ挿入するための相同組換え領域が含まれていても良い。糸状菌への形質転換方法としては、公知の方法、例えば、プロトプラスト化した後ポリエチレングリコール及び塩化カルシウムを用いる方法(Mol. Gen. Genet., 218, 99-104(1989))を好適に用いることができる。
本発明のFAD−GDHの生産株を効率よく選抜するためには、例えば、次のような方法を用いてもよい。まず、得られた宿主細胞(形質転換体)がコロニーを形成したLB寒天培地から、滅菌したビロード生地等で新しい寒天培地にレプリカを数枚とり、培養する。レプリカをとった寒天培地のコロニーが十分な大きさになったら、リゾチーム等の溶菌剤に浸した膜を培地に重ねて、室温で1時間ほど静置し、溶菌させる。このとき、溶菌した粗酵素液が膜に吸着する。
本発明のFAD−GDHは、上述のように取得した本発明のFAD−GDHを生産する宿主細胞を培養し、前記宿主細胞中に含まれるフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子を発現させ、次いで、前記培養物からフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼを単離することにより、製造すればよい。
上記宿主細胞を培養する培地としては、例えば、酵母エキス、トリプトン、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカーあるいは大豆若しくは小麦ふすまの浸出液等の1種以上の窒素源に、塩化ナトリウム、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化第2鉄、硫酸第2鉄あるいは硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、さらに必要により糖質原料、ビタミン等を適宜添加したものが用いられる。
培地の初発pHは、限定されないが、例えば、pH6〜9に調整することができる。
培養は、10〜42℃の培養温度、好ましくは25℃前後の培養温度で4〜24時間、さらに好ましくは25℃前後の培養温度で4〜8時間、通気攪拌深部培養、振盪培養、静置培養等により実施すればよい。
本発明はまた、本発明のFAD−GDHを含むグルコースアッセイキットを開示し、例えば、このようなグルコースアッセイキットを用いることにより、本発明のFAD−GDHを用いて血中のグルコース(血糖値)を測定することができる。
本発明のグルコースアッセイキットは、本発明に従う改変型FAD−GDHを少なくとも1回のアッセイに十分な量で含む。典型的には、本発明のグルコースアッセイキットは、本発明の改変型FAD−GDHに加えて、アッセイに必要な緩衝液、メディエーター、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明に従う改変型FAD−GDHは種々の形態で、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。
本発明はまた、本発明のFAD−GDHを用いるグルコースセンサーを開示する。電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上に本発明の酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明の改変型FAD−GDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
ケカビ由来FAD−GDHを出発物質とし、これを改変して本発明のFAD−GDHを取得することを目的とし、大腸菌による組換え発現に適したFAD−GDH遺伝子を設計した。具体的には、配列番号1のケカビ由来FAD−GDHの遺伝子配列を元に、そのコドン使用頻度を大腸菌に適合させた遺伝子配列を設計し、該遺伝子を全合成した。この全合成したDNAの配列を配列番号2に示す。
次いで、この合成DNAを鋳型とし、N末領域のプライマー(配列番号3)およびC末領域のプライマー(配列番号4)を作製し、In−Fusion法(Clontech社製)により、pET−22b(+)ベクター(Novagen社製)のNdeI−BamHIサイトに挿入し、組換えプラスミド(pET−22b−MpFull)を構築した。
そして、このpET−22b−MpFullを、公知のヒートショック法により大腸菌BL21(DE3)コンピテントセル(ニッポンジーン社製)に導入した。常法に従い、プラスミドを抽出し、挿入されたMucor属由来GDH遺伝子の塩基配列の確認を行った結果、配列番号2と一致し、cDNA配列から推定されるアミノ酸残基は641アミノ酸(配列番号1)であった。
また、同様に、NS2に関し、配列番号6のオリゴヌクレオチドをN末端側プライマーとして、配列番号4のプライマーとの組み合わせによるIn−Fusion法(Clontech社製)を行い、NS2をコードするDNA配列をもつ組換えプラスミド(pET−22b−MpNS2)を構築し、大腸菌形質転換体を取得した。
なお、それぞれの改変FAD−GDHのDNA配列を持つプラスミドは、DNAシーケンシングにて配列に誤りがないことを確認した。配列番号7は、上記で決定したシグナルペプチド欠失変異体NS1をコードするDNA配列を示す。配列番号8はその対応するアミノ酸配列を示す。配列番号9は、上記で決定したシグナルペプチド欠失変異体NS2をコードするDNA配列を示す。配列番号10はその対応するアミノ酸配列を示す。
上記の通り、ケカビ由来FAD−GDHの配列情報に基づき、大腸菌において生産を行うのに好適な複数のFAD−GDHを取得することができた。これを本発明のFAD−GDHを得るための出発物質として利用した。
FAD−GDHの活性は、以下の手順に従って測定した。
具体的には、まず、(反応1)において、D−グルコースの酸化に伴い、PMS(還元型)が生成する。そして、続いて進行する(反応2)により、PMS(還元型)が酸化されるのに伴ってDCIPが還元される。この「DCIP(酸化型)」の消失度合を波長600nmにおける吸光度の変化量として検知し、この変化量に基づいて酵素活性を求めることができる。
具体的には、フラビン結合型GDHの活性は、以下の手順に従って測定することができる。50mM リン酸緩衝液(pH6.5) 2.05mL、1M D−グルコース溶液 0.6mLおよび2mM DCIP溶液 0.15mLを混合し、37℃で5分間保温する。次いで、15mM PMS溶液 0.1mLおよび酵素サンプル溶液0.1mLを添加し、反応を開始する。反応開始時、および、経時的な吸光度を測定し、酵素反応の進行に伴う600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量(ΔA600)を求め、次式に従いフラビン結合型GDH活性を算出する。この際、フラビン結合型GDH活性は、37℃において濃度200mMのD−グルコース存在下で1分間に1μmolのDCIPを還元する酵素量を1Uと定義する。
FAD−GDHの熱安定性評価は、上述のFAD−GDHの活性測定方法に供する前に、所定の条件下で熱処理を行った後の残存活性を元に行った。具体的には、まず、評価対象のFAD−GDHを約0.5U/mlになるように酵素希釈液(10mM 酢酸緩衝液(pH5.0))にて希釈した。この酵素溶液(0.2ml)を2本用意し、そのうち1本は4℃で保存し、もう1本には、35℃、10分間の加温処理を施した。
加温処理後、各サンプルのFAD−GDH活性を測定し、4℃で保存したものの酵素活性を100としたときの、35℃、10分間処理後の活性値を「残存活性(%)」として算出した。この残存活性を、各種FAD−GDHの耐熱性評価の指標とした。
ケカビ由来FAD−GDH(配列番号7)遺伝子の組換え体プラスミドを有する大腸菌BL21(DE3)/pET−22b−MpNS1株を、LB−amp培地[1%(W/V) バクトトリプトン、0.5%(W/V) ペプトン、0.5%(W/V) NaCl、50μg/ml Ampicilin]100mlに接種して、37℃で20時間振とう培養し、培養物を得た。
この培養物を9,000rpmで、5分間遠心分離することにより集菌して菌体を得た。この菌体よりQIAGEN tip−100(キアゲン社製)を用いて組換え体プラスミドpET−22b−MpNS1を抽出して精製し、100μgの組換え体プラスミドpET−22b−MpNS1 DNAを得た。
全コロニーからプラスミドDNAを回収するためにQIAGEN sol I(キアゲン社製)を寒天培地上に加え、スプレッダーでQIAGEN sol Iとともにコロニーを掻き集め、ピペットマンで溶液を回収し、以降は通常のプラスミド回収の方法で、改変操作を加えた組換え体プラスミドpET−22b−MpNS1 DNAを100μg得た。前記の被改変組換え体プラスミドpET−22b−MpNS1 DNA20μgを用いてD.M.Morrisonの方法(Method in Enzymology,68,326〜331,1979)に従って大腸菌BL21(DE3)コンピテントセル(ニッポンジーン社製)を形質転換し、約1,000株の改変を受けたプラスミドを保有する形質転換体を得た。
上述のようにして得られた各種の形質転換体を、1mM IPTGを含むLB−amp培地[1%(W/V) バクトトリプトン、0.5%(W/V) ペプトン、0.5%(W/V) NaCl、50μg/ml Ampicilin]に接種し、20℃で一晩振とう培養した。その培養液の一部を遠心分離(9,000rpmで、5分間)して得られた菌体を10mM 酢酸緩衝液(pH5.0)中に回収し、定法により超音波破砕後、15,000rpmで10分間遠心分離し、上清(粗酵素液)を調製した。この粗酵素液を用いて、上記の熱安定性評価方法に従い、残存活性(%)(処理後の活性/未処理の活性)を算出した。
その結果、変異処理に供さない、pET−22b−MpNS1を含む形質転換体由来のFAD−GDH(以下、野生型)と比較して、残存活性が向上した本発明のFAD−GDHを3種取得した。これら3種のFAD−GDHをコードするプラスミドをpET−22b−MpNS1−M1、pET−22b−MpNS1−M2、pET−22b−MpNS1−M3と命名し、各プラスミド中のFAD−FADをコードするDNAの塩基配列を、マルチキャピラリーDNA解析システムCEQ2000(ベックマン・コールター社製)を用いて決定した。その結果、pET−22b−MpNS1−M1中には、配列番号8記載のアミノ酸配列の213番目のバリンがアラニンに、pET−22b−MpNS1−M2には、配列番号8記載のアミノ酸配列の368番目のスレオニンがアラニンに、pET−22b−MpNS1−M3には、配列番号8記載のアミノ酸配列の526番目のイソロイシンンがバリンにそれぞれ置換する変異が導入されていることが明らかとなった。結果を表1に示す。
次に、前述の知見に基づいて、上記3箇所におけるアミノ酸残基の置換を、それぞれ別のアミノ酸に置き換える試みを行った。具体的には、pET−22b−MpNS1のプラスミドを鋳型として、213番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号11、12の合成オリゴヌクレオチド、368番目のスレオニンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号13、14の合成オリゴヌクレオチド、526番目のイソロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号15、16の合成オリゴヌクレオチドを基に、QuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って、変異操作を行い、各種の改変型FAD−GDH変異プラスミドを作製し、上述の方法に準じてプラスミドを調整した。得られたプラスミドで市販の大腸菌BL21(DE3)コンピテントセル(ニッポンジーン社製)を形質転換した後、上述の方法に準じて粗酵素液を調製し、熱安定性を評価した。
追加で見出された変異体を含めた20種類の変異体のアミノ酸置換部位と熱安定性に関するデータを表2に示す。
表2に示すとおり、配列番号1の213位のバリンをアラニンに、213位のバリンをメチオニンに、213位のバリンをシステインに、213位のバリンをグルタミンに、213位のバリンをグルタミン酸に、368位のスレオニンをアラニンに、368位のスレオニンをバリンに、368位のスレオニンをグリシンに、368位のスレオニンをセリンに、368位のスレオニンをシステインに、526位のイソロイシンをバリンに、526位のイソロイシンをスレオニンに、526位のイソロイシンをセリンに、526位のイソロイシンをプロリンに、526位のイソロイシンをアラニンに、526位のイソロイシンをチロシンに、526位のイソロイシンをリジンに、526位のイソロイシンをヒスチジンに、526位のイソロイシンをフェニルアラニンに、526位のイソロイシンをグルタミン酸に置換することにより、熱安定性が向上することがわかった。
I526Tの変異が導入されたpET−22b−MpNS1−M8のプラスミドを鋳型として、368番目のスレオニンをアラニンに置換するよう設計した配列番号17、18の合成オリゴヌクレオチドを基に、以下の条件でKOD−Plus−(東洋紡績社製)を用いてPCR反応を行った。
すなわち、10×KOD−Plus−緩衝液を5μl、dNTPが各2mMになるよう調製されたdNTPs混合溶液を5μl、25mMのMgSO4溶液を2μl、鋳型となるpET−22b−MpNS1−M8 DNAを50ng、上記合成オリゴヌクレオチドをそれぞれ15pmol、KOD−Plus−を1Unit加えて、滅菌水を加えて全量を50μlとし、「反応液」を調製した。この「反応液」をサーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて、94℃で2分間インキュベートし、続いて、「94℃、15秒」−「50℃、30秒」−「68℃、7分30秒」のサイクルを30回繰り返した。
(1)ケカビ由来FAD−GDHを発現する酵母形質転換体Sc−Mp株の作製
特許文献5に記載の方法に準じ、配列番号1記載のアミノ酸配列をコードする配列番号23のFAD−GDH遺伝子(特許文献5ではMpGDH遺伝子と記載)を含む組換え体プラスミド(puc−MGD)を取得した。これを鋳型として、配列番号24、25の合成ヌクレオチド、Prime STAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa社製)を用い、添付のプロトコールに従ってPCR反応を行った。PCR反応液を1.0%アガロースゲルで電気泳動し、RECOCHIP(TakaRa社製)を用いて、約2kbの「インサート用DNA断片」を精製した。
また、Saccharomyces cerevisiaeの発現用プラスミドpYES2/CT(Invitrogen社製)を制限酵素KpnI(New England Biolabs社製)で処理し、制限酵素処理後の反応液を1.0%アガロースゲルで電気泳動し、RECOCHIP(TakaRa社製)を用いて、約6kbの「ベクター用DNA断片」を精製した。
酵母形質転換株Sc−Mp株を、5mLの前培養用液体培地[0.67%(w/v)アミノ酸不含有イーストニトロゲンベース(BD)、0.192%(w/v)ウラシル不含有酵母合成ドロップアウト培地用添加物(sigma社製)、2.0%(w/v)ラフィノース]中で、30℃にて24時間培養した。その後、前培養液1mLを4mLの本培養用液体培地[0.67%(w/v)アミノ酸不含有イーストニトロゲンベース、0.192%(w/v)ウラシル不含有酵母合成ドロップアウト培地用添加物、2.5%(w/v)D−ガラクトース、0.75%(w/v)ラフィノース]に加えて、30℃で16時間培養した。この培養液を遠心分離(10,000×g、4℃、3分間)により菌体と培養上清に分離し、前述の酵素活性測定法により、GDH活性を測定したところ、培養上清中にGDH活性が確認された。
上述のようにして見出した耐熱性向上型変異を、配列番号1の相当する部位に導入し、酵母発現系における耐熱性向上効果を検証することにした。なお、上述の耐熱性向上型変異部位V213、T368、I526の配列番号1に相当する部分は、それぞれV232、T387、I545である。
組換え体プラスミドpYE2C−Mpを鋳型として、配列番号26、27の合成ヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、以下の条件でPCR反応を行った。
すなわち、10×KOD−Plus−緩衝液を5μl、dNTPが各2mMになるよう調製されたdNTPs混合溶液を5μl、25mMのMgSO4溶液を2μl、鋳型となるpYE2C−Mpを50ng、上記合成オリゴヌクレオチドをそれぞれ15pmol、KOD−Plus−を1Unit加えて、滅菌水により全量を50μlとした。調製した反応液をサーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて、94℃で2分間インキュベートし、続いて、「94℃、15秒」−「55℃、30秒」−「68℃、8分」のサイクルを30回繰り返した。
(1)基質特異性評価方法
まず、それぞれのケカビ由来FAD−GDH発現酵母株における培養上清画分を前述の8.の項目と同様にして取得し、GDH活性を測定する。次に、3.の活性測定法の基質をD−グルコースに代えて同モル濃度のD−キシロースとした系において活性を測定する。これらの測定値を基に、「D−グルコースへの反応性に対するD−キシロースへの反応性の割合(Xyl/Glc(%))」を計算し、基質特異性の評価に用いる。このとき、Xyl/Glc(%)が低いほど基質特異性が良いと判断できる。
これまでに発明者らが見出した基質特異性向上型変異をpYE2C−Mp−V232E/T387A/I545Tへ導入した。すなわち、配列番号1においてV232E/T387A/I545Tの変異が導入されたpYE2C−Mp−V232E/T387A/I545Tに対して、基質特異性向上型変異であるL121M、W569Y、S612C、S612Tを導入した。
組換え体プラスミドpYE2C−Mp−V232E/T387A/I545Tを鋳型として、配列番号41、42の合成ヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、以下の条件でPCR反応を行った。
すなわち、10×KOD−Plus−緩衝液を5μl、dNTPが各2mMになるよう調製されたdNTPs混合溶液を5μl、25mMのMgSO4溶液を2μl、鋳型となるpYE2C−Mp−V232E/T387A/I545Tを50ng、上記合成オリゴヌクレオチドをそれぞれ15pmol、KOD−Plus−を1Unit加えて、滅菌水により全量を50μlとした。調製した反応液をサーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて、94℃で2分間インキュベートし、続いて、「94℃、15秒」−「55℃、30秒」−「68℃、8分」のサイクルを30回繰り返した。
続いて、GDH活性が確認された各種変異体の培養上清を用いて、上記の熱安定性評価法に基づき、55℃、15分間及び60℃15分間の加熱処理後の残存活性を測定した。さらに、(1)基質特異性評価方法に基づいて、Xyl/Glc(%)を測定した。結果を表5に示す。
特許文献5の記載のようにして、配列番号1のアミノ酸配列にV232E/T387A/I545T/W569Yの変異を導入したFAD−GDHを発現するAspergillus sojae株を取得、培養し、粗酵素液のGDH活性を確認した。この粗酵素液を用いて、上記の熱安定性評価法に基づき、55℃15分間の加熱処理後の活性を測定したところ、変異導入前のFAD−GDHの残存活性は0%であったのに対し、V232E/T387A/I545T/W569Yの変異を導入したFAD−GDHの残存活性は87.2%であり、熱安定性が向上していた。また、同粗酵素液を用いて、10.の項目記載の方法に基づきXyl/Glc(%)を測定したところ、変異導入前のFAD−GDHでは1.41%であったのに対し、V232E/T387A/I545T/W569Yの変異を導入したFAD−GDHでは0.64%であり、基質特異性も向上していた。
Claims (1)
- ムコール(Mucor)属に分類される微生物に由来し、酵母を宿主として産生されたとき、50℃、15分間熱処理の後に4.3%以上の残存活性を有し、かつグルコースに対するキシロースの反応性が2%以下である、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を用いて形質転換された酵母又は糸状菌(ただし、Aspergillus sojae KK1−2株を除く。)を培養し培養物を得ること、及び
該培養物からフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼを回収すること
を含む、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼの熱安定性を向上させる方法。
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