JP2011139677A - 改変型フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ - Google Patents
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Abstract
【課題】より実用的な血糖測定センサ用酵素を開発し、より具体的には、センサ用途での広範な利用に耐えうるよう、基質親和性と比活性を向上させた改変型FADGDHの提供。
【解決手段】基質親和性と比活性に優れ、溶存酸素の影響を受けることのないフラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDH)。具体的には、野生型アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来FADGDHの特定のアミノ酸を他のアミノ酸に置換することにより基質親和性および/または比活性を向上させた改変型FADGDHおよび該改変型FADGDHをコードするDNA。
【選択図】図1
【解決手段】基質親和性と比活性に優れ、溶存酸素の影響を受けることのないフラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDH)。具体的には、野生型アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来FADGDHの特定のアミノ酸を他のアミノ酸に置換することにより基質親和性および/または比活性を向上させた改変型FADGDHおよび該改変型FADGDHをコードするDNA。
【選択図】図1
Description
本発明は、フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDH)の特定のアミノ酸を他のアミノ酸に変更することにより基質親和性および/または比活性を向上させた改変型FADGDHの遺伝子ならびに該遺伝子にコードされるアミノ酸配列から成る改変型FADGDHに関する。
特定の基質に対して特異的に反応する酵素を用いたバイオセンサの開発は、産業の分野を問わず盛んに行われてきた。その代表的なものとして、主に医療分野で使用されるグルコースセンサが挙げられる。
グルコースセンサは、酵素と電子伝達物質を含む反応系を構築するためのものであり、このグルコースセンサを利用する場合には、例えばアンペロメトリックな手法を用いてグルコースが定量される。酵素としては、グルコースオキシダーゼ(GOD)およびグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)が利用されてきた。
GODはグルコースに対する基質特異性が高く熱安定性に優れており、酵素の量産化が可能であるために生産コストが他の酵素と比べて安価であるといった利点があるが、その反面、GODを使用した系は測定サンプル中の溶存酸素の影響を受けるため、測定結果が不正確になる問題があった。
一方、GDHを使用した系は、測定サンプル中の溶存酸素の影響を受けない。このため、GDHを使用した系は、酸素分圧が低い環境下で測定を行ったり、酸素量が多く要求される高濃度サンプルを測定する場合であっても、精度よくグルコース濃度を測定することができる。
しかしながら、GDHは溶存酸素の影響を受けない点においてGODに勝るが、例えば補酵素としてNADの添加が必須のNADGDHは安定性に乏しく、ピロロピノリンキノン(PQQ)を補酵素としてもつPQQGDHは基質特異性が低くマルトース等への糖類にも作用するため、グルコースセンサとして利用した場合、測定値の正確性が損なわれるといった問題があった。
特に、マルトースに対する反応性に関しては、インスリン製剤とマルトース療法を併用する糖尿病患者に対し測定血糖値が偽高値となって、インスリン過剰投与の結果、低血糖症を引き起こす危険性が指摘されてきた。
したがって、グルコースセンサとして利用する酵素は溶存酸素の影響を受けず、かつグルコース以外の糖への反応性の低い酵素が望まれる。上記のスペックを満たす酵素としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素としてもつFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDH)が挙げられる。
非特許文献1にはアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)の培養外液および菌体内にFADGDHが存在することが示され、さらに精製された酵素は基質特異性が高く、比活性も高いことが示されている。
しかしながら、アスペルギルス・オリゼの培養液当たりの活性は低く、工業的に生産するには不十分であった。さらに該酵素の遺伝子配列が不明であるため、遺伝子組換えによる工業的な大量生産も不可能であった。また、該酵素の遺伝子を特定して工業的に利用するには、酵素の単離精製、部分アミノ酸配列の解読、該酵素をコードする遺伝子配列の解読といった課題が山積していた。
一方、近年、アスペルギルス・オリゼRIB40株の全ゲノム配列の解読が完了し、一般に公開されて利用することができるようになった。さらに、特許文献1にはアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)由来FADGDHについて報告され、特許文献2では該FADGDHの遺伝子配列およびアミノ酸配列も報告されている。
さらに特許文献3には、アスペルギルス・オリゼT1株から抽出したmRNAより完全長FADGDH遺伝子が報告されており、特許文献4ではPCRを利用したランダム変異導入法と熱安定化酵素のスクリーニングを組み合わせた手法により、熱安定化したFADGDH等が得られたことが報告されている。
また、センサ用途の酵素全般に求められることではあるが、センサの性能を評価する際、測定値の正確さ以外に、測定時間の短さも重要な評価項目となる。上述したように、測定値の正確さはセンサに使用している酵素の基質特異性に依存するが、測定時間の短さは酵素の基質親和性と比活性の両方に依存する。したがって、センサ用途の酵素を開発する際には、基質親和性と比活性の両方にも注目する必要がある。
新たな血糖センサ用酵素としてFADGDHが注目されており、特許文献3には、アスペルギルス・オリゼ由来FADGDHの完全長遺伝子配列が示されている。また、特許文献4では、PCRを利用したランダム変異導入法と熱安定化酵素のスクリーニングを組み合わせた手法により、熱安定化した改変型FADGDHが得られたことが報告されている。さらに、特許文献4では、基質特異性が向上した改変型FADGDHについても報告されている。
センサ部材に酵素を安定して固定する方法、もしくは酵素を固定したセンサを酵素の失活なしに長期保存する方法として、特許文献4に示されているように酵素そのものの耐熱性を向上させる手法がある。
一方で、バイオセンサを作製する際の処方により酵素を安定化させる手法もある。例えば、特許文献5に示されているように、酵素の安定化剤としてラフィノース等を配合することにより酵素の失活を抑制することができる。さらに、特許文献6のように糖アルコールを使用することもできる。
Tchan−gi Bak,Biochim.Biophys.Acta,139,277−293,1967
本発明の目的は、より実用的な血糖測定センサ用酵素を開発し、広く提供することである。より具体的には、センサ用途での広範な利用に耐えうるよう、基質親和性と比活性を向上させた改変型FADGDHを提供することにある。
本発明者らは、酵素の安定化はセンサ作製時の処方で対処できると想定し、酵素の比活性および基質親和性を向上させることがセンサの性能を向上させる為に重要であると考えて種々検討した結果、元のFADGDHに比べ比活性および/または基質親和性を向上させうることを見出し、本発明に達した。
すなわち、本発明の第一の様態は、配列表の配列番号4で示されるアミノ酸配列において、(1)N34D+A67K+H273Y+I280L+N530P+S568A+L570Mのアミノ酸置換がなされ、且つ、(2)G20A+L289Q+I290L、(3)L289Q+I290L+V547I+L548M、(4)L289Q+I290L+V296Iおよび(5)G20A+V547I+L548Mからなる群より選択される少なくともいずれか1のアミノ酸置換が追加されたアミノ酸配列からなる改変型フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDH)を要旨とするものである。
また、本発明の第二の様態は、前記した改変型FADGDHのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換および付加から選ばれる少なくとも1つの改変がなされたアミノ酸配列からなる改変型FADGDHをとするものである。
また、本発明の第三の様態は、前記した改変型FADGDHをコードするDNAを要旨とするものであり、好ましくは該DNAの塩基配列におけるコドンユーゼージを大腸菌に最適化したDNAを要旨とするものである。
また、本発明の第四の様態は、前記したDNAを含む組換え発現プラスミドを要旨とするものである。
また、本発明の第五の様態は、前記した組換え発現プラスミドを宿主に形質転換した形質転換体を要旨とするものであり、好ましくは宿主が大腸菌である形質転換体である。
また、本発明の第六の様態は、前記した形質転換体を培養することを含む改変型FADGDHの製造方法を要旨とするものである。
また、本発明の第七の様態は、前記したいずれか1の改変型FADGDHを含むグルコースアッセイキットを要旨とするものである。
また、本発明の第八の様態は、前記したいずれか1の改変型FADGDHを含むグルコースセンサを要旨とするものである。
また、本発明の第八の様態は、前記したいずれか1の改変型FADGDHを含むグルコース濃度の測定方法を要旨とするものである。
本発明により、酵素の基質親和性の指標であるKm値が低下し、および/または比活性が上昇した改変型FADGDHを提供することが可能となった。
以下、本発明を詳細に説明する。
フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDH)はフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素として持ち、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)活性をもつ酵素である。
以下、本発明の改変型フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、改変型FADGDHともいう)について説明する。本発明の改変型FADGDHは、配列表の配列番号4で示されるアスペルギルス(Aspergillus)属由来のアミノ酸配列において、(1)N34D+A67K+H273Y+I280L+N530P+S568A+L570Mのアミノ酸置換がなされ、且つ、(2)G20A+L289Q+I290L、(3)L289Q+I290L+V547I+L548M、(4)L289Q+I290L+V296Iおよび(5)G20A+V547I+L548Mからなる群より選択される少なくともいずれか1のアミノ酸置換が追加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
本発明の改変型FADGDHは、アミノ酸置換導入前(以下、「改変前」ともいう)の元のFADGDHと比較して、基質親和性および/または比活性が向上したポリペプチドである。
本発明の基質親和性が向上した改変型FADGDHは、改変前の対応するFADGDHと比較して、基質親和性の指標であるKm値が低下したものが好ましく、Km値が30以下、1以上であるものが好ましい。
ここで、Km値とはミカエリス定数ともいい、ミカエリス・メンテン型の酵素反応速度式において最大速度Vmaxとともに含まれる定数で、グルコースデヒドロゲナーゼの場合はグルコースに対する親和性を表す数値である。同じ基質に対してKm値が異なる酵素の場合はKmが小さいほど作用が強い。本発明におけるKm値は、後述の条件で測定し、計算した値を意味する。
さらに、本発明の基質親和性が向上した改変型FADGDHは、Km値が改変前の対応するFADGDHのKm値と比較して90%以下であることが好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下が最も好ましい。
本発明の基質親和性が向上した改変型FADGDHとしては、配列表の配列番号4で示されるアスペルギルス(Aspergillus)属由来のアミノ酸配列において、(1)N34D+A67K+H273Y+I280L+N530P+S568A+L570Mのアミノ酸置換がなされ、且つ、(2)G20A+L289Q+I290L、(3)L289Q+I290L+V296Iおよび(4)G20A+V547I+L548Mからなる群より選択される少なくともいずれか1のアミノ酸置換が追加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが好ましい。
また、本発明の比活性が向上した改変型FADGDHは、改変前の対応するFADGDHと比較して、比活性値が向上したものが好ましく、比活性値が700U/mg−タンパク質以上であるものがより好ましく、1000U/mg−タンパク質以上であるものがさらに好ましい。
本発明の比活性値が向上した改変型FADGDHは配列表の配列番号4で示されるアスペルギルス(Aspergillus)属由来のアミノ酸配列において、(1)N34D+A67K+H273Y+I280L+N530P+S568A+L570Mのアミノ酸置換がなされ、且つ、(2)G20A+L289Q+I290L、(3)L289Q+I290L+V547I+L548M、(4)L289Q+I290L+V296Iおよび(5)G20A+V547I+L548Mからなる群より選択される少なくともいずれか1のアミノ酸置換が追加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが好ましい。
ここで、比活性値とはタンパク質重量当たりの活性値を表す。本明細書における比活性値は、後述の条件で測定し、計算した値を意味する。
さらに、本発明の比活性が向上した改変型FADGDHの比活性値は、改変前の対応するFADGDHの比活性値と比較して120%以上であることが好ましく、150%以上がより好ましく、170%以上が最も好ましい。
配列表を除いた本明細書におけるアミノ配列中の20種類のアミノ酸残基は、一文字略記で表現している。すなわち、グリシン(Gly)はG、アラニン(Ala)はA、バリン(Val)はV、ロイシン(Leu)はL、イソロイシン(Ile)はI、フェニルアラニン(Phe)はF、チロシン(Tyr)はY、トリプトファン(Trp)はW、セリン(Ser)はS、スレオニン(Thr)はT、システイン(Cys)はC、メチオニン(Met)はM、アスパラギン酸(Asp)はD、グルタミン酸(Glu)はE、アスパラギン(Asn)はN、グルタミン(Gln)はQ、リジン(Lys)はK、アルギニン(Arg)はR、ヒスチジン(His)はH、プロリン(Pro)はPである。
本明細書における「N34D」等の表現は、アミノ酸置換の表記法である。例えば「N34D」とは、ある特定のアミノ酸配列におけるN末端側から34番目のアミノ酸Nを、アミノ酸Dに置換することを意味する。
また、例えば「G20A+L289Q+I290L」とは、G20A、L289QおよびI290Lのアミノ酸置換を同時に導入することを意味する。
本発明には、上述した改変型FADGDHのアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸残基が欠失、付加、挿入および置換から選ばれる少なくとも1つの改変がなされたアミノ酸配列からなるポリペプチドも含有される。さらに、GDH活性を有するポリペプチドが好ましい。
また、前記改変型FADGDHのアミノ酸配列において、1個乃至20個のアミノ酸残基が欠失、付加、挿入および置換から選ばれる少なくとも1つの改変がなされたアミノ酸配列からなるポリペプチドが好ましく、1個乃至10個のアミノ酸残基が欠失、付加、挿入および置換から選ばれる少なくとも1つの改変がなされたアミノ酸配列からなるポリペプチドがより好ましい。
さらに、1個乃至6個のアミノ酸残基が欠失、付加、挿入および置換から選ばれる少なくとも1つの改変がなされたアミノ酸配列からなるポリペプチドがさらに好ましく、数個(1から2または3個)のアミノ酸残基が欠失、付加、挿入および置換から選ばれる少なくとも1つの改変がなされたアミノ酸配列からなるポリペプチドが特に好ましい。
さらに好ましくは、1個のアミノ酸残基が欠失、付加、挿入または置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。さらに、GDH活性を有するポリペプチドが好ましい。
さらに、本発明は、上述した改変型FADGDHに相同性を有するポリペプチドを含む。当該ペプチドとしては、例えば、少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上の相同性を有するポリペプチドをあげることができる。さらに、GDH活性を有するポリペプチドが好ましい。
ここで、「相同性」とは、BLAST PACKAGE [sgi32 bit edition,Version 2.0.12;available from the National Center for Biotechnology Information [NCBI]]のbl2seq program(Tatiana A.Tatsusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,Vol.174,247−250,1999)により得られる同一性の値を示す。パラメーターとしては、Gap insertion Cost value:11、Gap extension Cost value:1が例示される。
以下、本発明の改変型FADGDHをコードするDNA、該DNAを含む組換え発現プラスミド、該プラスミドを導入した形質転換体、およびそれらの製造方法、また、該形質転換体を用いた改変型FADGDHの製造方法について説明する。
本発明の改変型FADGDHをコードするDNAとしては、例えば後述の遺伝子の全合成法およびDNAの変異導入法により得ることができるDNAが挙げられる。
本発明の改変型FADGDHをコードするDNAは、該DNAまたはこれを有する細胞に変異処理を行い、これらのDNA若しくは細胞から、例えば配列表の配列番号3で示される配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを選択することによって得られるDNAであって、GDH活性を有するタンパク質をコードするDNAも含む。
ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成されるが、非特異的なハイブリッドは形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、相同性が高い核酸同士、例えば70〜90%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸同士がハイブリダイズしない条件等が挙げられる。
また、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば以下の条件をいう。すなわち0.5%SDS、5×デンハルツ〔Denhartz’s、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400〕および100μg/mlサケ精子DNAを含む6×SSC(1×SSCは、0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)中で、50℃〜65℃で4時間〜一晩保温する条件をいう。
ハイブリダイゼーションは、前記のストリンジェントな条件下で行うことができる。例えば、本発明の改変型FADGDHをコードするDNAライブラリーまたはcDNAライブラリーを固定化したナイロン膜を作成し、6×SSC、0.5% SDS、5×デンハルツ、100μg/mlサケ精子DNAを含むプレハイブリダイゼーション溶液中、65℃でナイロン膜をブロッキングする。その後、32Pでラベルした各プローブを加えて、65℃で一晩保温する。このナイロン膜を6×SSC中、室温で10分間、0.1%SDSを含む2×SSC中、室温で10分間、0.1%SDSを含む0.2×SSC中、45℃で30分間洗浄した後、オートラジオグラフィーをとり、プローブと特異的にハイブリダイズするDNAを検出することができる。また、洗いなどの条件を変えることによって様々な相同性を示す遺伝子を得ることができる。
また、本発明の改変型FADGDHをコードするDNAには、該DNAに相同性を有するDNAであって、GDH活性を有するタンパク質をコードするDNAも含まれる。相同性としては、少なくとも80%以上、好ましくは90%以上の相同性を有する遺伝子、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
ここで、DNAの「相同性」とは、BLAST PACKAGE[sgi32 bit edition,Version 2.0.12;available from the National Center for Biotechnology Information(NCBI)]のbl2seq program(Tatiana A. Tatsusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,Vol.174,247−250,1999)により得られる同一性の値を示す。パラメーターとしては、Gap insertion Cost value:11、Gap extension Cost value:1が例示される。
本発明の改変型FADGDHをコードするDNAは、コドンユーゼージ(コドン出現頻度、codon usage)を宿主に最適化したものが好ましく、コドンユーゼージが大腸菌に最適化したDNAがより好ましい。
コドンユーゼージを表す指標として、各コドンの宿主最適コドン使用頻度の総計を採択する。最適コドンとは、同じアミノ酸に対応するコドンのうち出現頻度が最も高いコドンと定義する。コドンユーゼージは、宿主に最適化したものであれば特に限定されないが、例えば、大腸菌のコドンユーゼージの一例として以下のものが挙げられる。
F:フェニルアラニン(ttt)、L:ロイシン(ctg)、I:イソロイシン(att)、M:メチオニン(atg)、V:バリン(gtg)、Y:チロシン(tat)、終止コドン(taa)、H:ヒスチジン(cat)、Q:グルタミン(cag)、N:アスパラギン(aat)、K:リジン(aaa)、D:アスパラギン酸(gat)、E:グルタミン酸(gaa)、S:セリン(agc)、P:プロリン(ccg)、T:スレオニン(acc)、A:アラニン(gcg)、C:システイン(tgc)、W:トリプトファン(tgg)、R:アルギニン(cgc)、G:グリシン(ggc)。
本発明の改変型FADGDHをコードするDNAを、発現ベクターに連結させることにより、組換え発現プラスミド(以下、組換えベクターともいう)が得られる。
ここで発現ベクターとしては、宿主内で自律的に増殖し得るファージまたはプラスミドから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。ファージとしては、例えば後述する大腸菌(エシェリヒア・コリ)を宿主とする場合には、Lambda gt10、Lambda gt11などが例示される。
一方、プラスミドとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、pBR322、pUC18、pUC118、pUC19、pUC119、pTrc99A、pBluescriptおよびコスミドであるSuper Cos Iなどが例示される。シュードモナスを用いる場合には、グラム陰性菌用広宿主域ベクターであるRSF1010、pBBR122およびpCN51などが例示される。
作製された改変型FADGDHのDNAは、発現ベクターと結合した組換えベクターの状態で宿主中に安定に保存される。
宿主としては、組換えベクターが安定であり、かつ自律増殖可能で外来性遺伝子の形質を発現できるのであれば特に制限されない。宿主としては、真核生物でも原核生物でもよいが、微生物が好ましく、より好ましくは大腸菌、さらに好ましくは大腸菌DH5αおよび大腸菌XL−1 Blue MRを用いることができる。
宿主に組換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主が大腸菌の場合には、カルシウム処理によるコンピテントセル法およびエレクトロポーレーション法などを用いることができる。
組換え発現プラスミドDNAの分離・精製は、微生物を溶菌して得られる溶菌物に基づいて行われる。溶菌の方法としては、例えばリゾチームなどの溶菌酵素により処理が施され、必要に応じてプロテアーゼおよび他の酵素並びにラウリル硫酸ナトリウム(SDS)などの界面活性剤が併用される。
さらに、凍結融解およびフレンチプレス処理のような物理的破砕方法を組み合わせてもよい。溶菌物からのDNAの分離・精製は、例えば、フェノール処理およびプロテアーゼ処理による除蛋白処理、リボヌクレアーゼ処理、アルコール沈殿処理並びに市販のキットを適宜組み合わせることにより行うことができる。
DNAの切断は、常法にしたがい、例えば制限酵素処理を用いて行うことができる。制限酵素としては、例えば特定のヌクレオチド配列に作用するII型制限酵素を用いる。ポリヌクレオチドと発現ベクターとの結合は、例えばDNAリガーゼを用いて行う。
次いで、組換えベクターにマーカーを施して、該組換えベクターを宿主に移入して形質転換体を形成する。該形質転換体から、組換えベクターのマーカーと酵素活性の発現を指標としてスクリーニングして、FADGDHをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを保持する遺伝子供与微生物を得る。
FADGDHをコードする遺伝子の塩基配列は、従来公知の方法、例えばジデオキシ法により解読できる。FADGDHのアミノ酸配列は、当該方法により決定された塩基配列より推定できる。
形質転換体の培養形態は、宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、好ましくは液体培養で行う。工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。
培地の栄養源としては、微生物の培養に通常用いられるものが使用され得る。炭素源としては、資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、糖蜜およびピルビン酸などを使用する。
窒素源としては、資化可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物および大豆粕アルカリ抽出物などを使用する。
その他に、例えば、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガンおよび亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸並びに特定のビタミンなどを必要に応じて使用する。
培養温度は、宿主が生育し、宿主がFADGDHを産生する範囲で適宜変更し得るが、好ましくは20〜37℃程度である。培養は、FADGDHが最高収量に達する時期を見計らって適当時期に完了すればよく、通常は培養時間が12〜48時間程度である。
培地のpHは、宿主が発育し、宿主がFADGDHを産生する範囲で適宜変更し得るが、好ましくはpH5.0〜9.0程度の範囲である。
形質転換体を培養し、培養液から遠心分離などの方法により培養上清または菌体を回収し、菌体は超音波およびフレンチプレスといった機械的方法またはリゾチームなどの溶菌酵素により処理を施し、必要に応じてプロテアーゼおよび他の酵素並びにラウリル硫酸ナトリウム(SDS)などの界面活性剤を併用することにより可溶化し、FADGDHを含む水溶性画分を得ることができる。また、適当な発現ベクターと宿主を選択することにより、発現したFADGDHを培養液中に分泌させることができる。
上記のようにして得られたFADGDHを含む水溶性画分から該酵素を精製する方法としては、該水溶性画分から直ちに行うこともできるが、該水溶性画分中のFADGDHを濃縮した後に行うこともできる。
濃縮は、例えば、減圧濃縮、膜濃縮、塩析処理および親水性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノールおよびアセトン)による分別沈殿法により行うことができる。」FADGDHの濃縮には、加熱処理および等電点処理も有効な精製手段である。
濃縮液の精製は、例えば、ゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよびアフィニティクロマトグラフィーを適宜組み合わせることによって行うことができる。これらの方法はすでに公知であり、適当な文献、雑誌および教科書等を参照することで進めることができる。このようにして得られた精製酵素は、例えば、凍結乾燥、真空乾燥およびスプレードライにより粉末化して市場に流通させることができる。
本発明はまた、本発明の改変型FADGDHを含むグルコースアッセイキットを含む。本発明のグルコースアッセイキットは、本発明に従う改変型FADGDHを少なくとも1回のアッセイに十分な量で含む。
本発明のグルコースアッセイキットは、本発明の改変型FADGDHに加えて、アッセイに必要な緩衝液、メディエータ、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、および使用にあたってのプロトコルを含んでもよい。本出願における改変型FADGDHは種々の形態で、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。
本発明はまた、本発明の改変型FADGDHを用いるグルコースセンサを含む。電極としては、例えば、カーボン電極、金電極および白金電極などを用いることができ、該電極上に本発明の酵素を固定化する。
固定化方法としては、例えば、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマーおよび酸化還元ポリマーなどが挙げられる。また、フェロセンまたはその誘導体に代表される電子メディエータとともにポリマー中に固定または電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。
例えば、グルタルアルデヒドを用いて本出願における改変型FADGDHをカーボン電極上に固定化し、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングすることができる。
グルコース濃度の測定は、次のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する。メディエータとしては、例えば、フェリシアン化カリウムおよびフェナジンメトサルフェート等を使用できる。
作用電極として本出願における改変型FADGDHを固定化した電極を用い、対極および参照電極を用いることができる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
本発明において、GDH活性の測定は以下の条件で行う。
(試薬)
100mM リン酸バッファーpH6.5
4mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)
4mM PMS
1M D−グルコース
10% TritionX−100
上記リン酸バッファーを12.3mL、DCIP溶液を0.5mL、PMS溶液を1.0mL、グルコース溶液を6mL、TritonX−100溶液0.2mLを混合して酵素反応測定試薬とする。
(試薬)
100mM リン酸バッファーpH6.5
4mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)
4mM PMS
1M D−グルコース
10% TritionX−100
上記リン酸バッファーを12.3mL、DCIP溶液を0.5mL、PMS溶液を1.0mL、グルコース溶液を6mL、TritonX−100溶液0.2mLを混合して酵素反応測定試薬とする。
(測定条件)
酵素反応測定試薬0.9mLを分光光度計用セルに入れ、37℃で3分間以上プレインキュベートする。GDH溶液0.005mLを添加してよく混合し、37℃で予めインキュベートされた分光光度計で、600nmの吸光度変化を90秒間記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔOD)を測定する。ブランクは、GDH溶液の代わりにGDHの溶媒を酵素反応測定試薬に混合して上記のように1分間あたりの吸光度変化(ΔODblank)を測定する。これらの値から、下記の計算式にしたがって活性値を求める。
酵素反応測定試薬0.9mLを分光光度計用セルに入れ、37℃で3分間以上プレインキュベートする。GDH溶液0.005mLを添加してよく混合し、37℃で予めインキュベートされた分光光度計で、600nmの吸光度変化を90秒間記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔOD)を測定する。ブランクは、GDH溶液の代わりにGDHの溶媒を酵素反応測定試薬に混合して上記のように1分間あたりの吸光度変化(ΔODblank)を測定する。これらの値から、下記の計算式にしたがって活性値を求める。
ここでGDH活性における1単位(U)とは、濃度300mMのグルコース存在下において、1分間に1マイクロモルのDCIPを還元する酵素量として定義される。
活性(U/mL)={−(ΔOD−ΔODblank)×905×希釈倍率}/(18.5×5×1.0)
なお、上記計算式の905は酵素反応測定試薬と酵素溶液の液量、18.5は本測定条件におけるDCIPの分子吸光係数(cm2/マイクロモル)、5は酵素溶液の液量、1.0は酵素活性測定に使用するセルの光路長(cm)を示す。
なお、上記計算式の905は酵素反応測定試薬と酵素溶液の液量、18.5は本測定条件におけるDCIPの分子吸光係数(cm2/マイクロモル)、5は酵素溶液の液量、1.0は酵素活性測定に使用するセルの光路長(cm)を示す。
本発明において、FADGDHの比活性の測定は以下の条件で行う。
(試薬)
酵素希釈液:20mM 酢酸アンモニウムバッファー pH5.2、0.1% BSA、0.1% TritonX−100
酵素反応測定試薬:上記のGDH活性の測定に使用した試薬と同じ組成のもの
ブラッドフォード試薬:例えば市販品(BioRad社製)を使用する。
(試薬)
酵素希釈液:20mM 酢酸アンモニウムバッファー pH5.2、0.1% BSA、0.1% TritonX−100
酵素反応測定試薬:上記のGDH活性の測定に使用した試薬と同じ組成のもの
ブラッドフォード試薬:例えば市販品(BioRad社製)を使用する。
(測定条件)
必要であれば酵素原液を酵素希釈液で希釈し、上記活性測定法により活性を求める。酵素原液のタンパク質濃度を、ブラッドフォード試薬により定法に従って測定する。検量線はBSAでとり、ブランクは酵素希釈液でとる。
必要であれば酵素原液を酵素希釈液で希釈し、上記活性測定法により活性を求める。酵素原液のタンパク質濃度を、ブラッドフォード試薬により定法に従って測定する。検量線はBSAでとり、ブランクは酵素希釈液でとる。
上記計算式により、酵素原液の活性(U/mL)を求め、同時にBSAを対照として求めた酵素原液のタンパク質濃度を求める。これらの値から、以下の計算式にしたがって、比活性を求める。
比活性(U/mg)=(活性)/(タンパク質濃度)
本発明において、FADGDHのKmの測定は以下の条件で行う。
(試薬)
100mM リン酸バッファーpH6.5
4mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)
4mM PMS
D−グルコース
10% TritionX−100
D−グルコースは、1M、0.5M、0.25M、0.125M、0.094M、0.063M、0.031Mの計7種類の溶液を準備する。
(試薬)
100mM リン酸バッファーpH6.5
4mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)
4mM PMS
D−グルコース
10% TritionX−100
D−グルコースは、1M、0.5M、0.25M、0.125M、0.094M、0.063M、0.031Mの計7種類の溶液を準備する。
上記リン酸バッファーを12.3mL、DCIP溶液を0.5mL、PMS溶液を1.0mL、グルコース溶液を6mL、TritonX−100溶液を0.2mLを混合して計7種類のグルコース濃度の異なるKm測定用試薬を調製する。Km測定用試薬のグルコース終濃度は、300mM、150mM、75mM、37.5mM、28mM、18.8mM、9.4mMとなる。
(測定条件)
必要であれば酵素原液を酵素希釈液で希釈する。酵素反応測定試薬0.9mLを37℃で3分間以上プレインキュベートする。GDH溶液0.005mLを添加してよく混合し、37℃で予めインキュベートされた分光光度計で、600nmの吸光度変化を90秒間記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔOD)を測定する。ブランクは、GDH溶液の代わりにGDHの溶媒を酵素反応測定試薬に混合して上記のように1分間あたりの吸光度変化(ΔODblank)を測定する。これらの値から、下記の計算式にしたがって反応速度を求める。
必要であれば酵素原液を酵素希釈液で希釈する。酵素反応測定試薬0.9mLを37℃で3分間以上プレインキュベートする。GDH溶液0.005mLを添加してよく混合し、37℃で予めインキュベートされた分光光度計で、600nmの吸光度変化を90秒間記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔOD)を測定する。ブランクは、GDH溶液の代わりにGDHの溶媒を酵素反応測定試薬に混合して上記のように1分間あたりの吸光度変化(ΔODblank)を測定する。これらの値から、下記の計算式にしたがって反応速度を求める。
ここで反応速度とは、計7通りのグルコース濃度において、1分間の吸光度変化として定義される。
反応速度(ΔA)=−(ΔOD−ΔODblank)
横軸にグルコース濃度、縦軸にΔAをプロットすると、ミカエリス・メンテンプロットが描ける。Km値は、公知のコンピュータープログラムを利用してラインフィッティング法により引いた曲線から算出させる。
横軸にグルコース濃度、縦軸にΔAをプロットすると、ミカエリス・メンテンプロットが描ける。Km値は、公知のコンピュータープログラムを利用してラインフィッティング法により引いた曲線から算出させる。
以下、本発明の一態様を詳細に説明する。
国際公開2007/116710号には、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)T1株から抽出したmRNAより完全長FADGDH遺伝子が報告されており、コードされているFADGDHの全長アミノ酸配列も推定されている。本発明に関しては該アミノ酸配列を利用した。
上記アミノ酸配列をコードするDNAを有していない場合は、遺伝子の全合成法により該DNAを増幅することが可能である。ここでの遺伝子の全合成法としては、簡便に利用できる以下のような方法が挙げられるが限定はされない。
PCRを使用した遺伝子の全合成法には、材料として好ましくは100mer程度の合成オリゴヌクレオチドを使用する。合成オリゴヌクレオチドは、所望の遺伝子配列に基づいて設計することもできるし、所望の遺伝子を異種発現させる際には宿主のコドンユーゼージを使用して設計することもできる。
例えば、真菌の遺伝子を大腸菌で発現させる際は、合成する遺伝子配列のコドンユーゼージを大腸菌に最適化するようにオリゴヌクレオチドを合成する。所望の遺伝子が200bpを超える長鎖である場合には、数本から数十本に分割した合成オリゴヌクレオチドを互いにアニーリング部位をもつように設計する。これらの合成オリゴヌクレオチドを鋳型にPCRを行うことにより、所望の遺伝子を増幅させ、利用することができる。
得られたDNAを発現ベクターに結合させて大腸菌を形質転換し、培養してFADGDHを発現させ、後述する各種の精製方法によって精製し、Kmおよび比活性を測定したものの、グルコースセンサとしての利用するうえで十分な性能を有しているとは言い難かった。
本発明者らは鋭意研究の結果、(1)コンセンサス法および(2)系統学的手法に基づいた祖先型アミノ酸導入法、並びに(3)進化工学的な手法といった確率論的な手法を駆使することにより、Km値が低下および/または比活性値が上昇した改変型FADGDHの取得に至った。
(1)コンセンサス法
マルチプルアライメント図に基づくコンセンサス法とは、本来は抗体の機能改変を目的として利用され始め、酵素の熱安定性の向上を目的として利用された実績もあるDNA配列あるいはアミノ酸配列における部位特異的変異導入法(配列上のどの位置にどの変異を導入するか部位特異的に決定する方法)であり、本発明のように酵素の活性がない原因となっている部位の改変に利用された実績もある(詳細については、B.Steipe,et al.,J.Mol.Biol.,240,188−192,1994を参照)。しかし、必ずしも成功するとは限らない。
マルチプルアライメント図に基づくコンセンサス法とは、本来は抗体の機能改変を目的として利用され始め、酵素の熱安定性の向上を目的として利用された実績もあるDNA配列あるいはアミノ酸配列における部位特異的変異導入法(配列上のどの位置にどの変異を導入するか部位特異的に決定する方法)であり、本発明のように酵素の活性がない原因となっている部位の改変に利用された実績もある(詳細については、B.Steipe,et al.,J.Mol.Biol.,240,188−192,1994を参照)。しかし、必ずしも成功するとは限らない。
マルチプルアライメント図に基づくコンセンサス法の材料としては、既知のアミノ酸配列を公知のデータベースに対して相同性検索することで得られる複数のアミノ酸配列を、公知のアライメントプログラムなどを利用してマルチプルアライメントさせた図を使用する。マルチプルアライメント図のすべての座位は、コンピュータープログラムにより挿入、欠失および置換等が最小となるように並べられる。したがって、アミノ酸配列の欠失等により候補タンパク質に活性がない場合には、候補タンパク質のアミノ酸配列の特定の座位が欠失し、候補遺伝子以外のアミノ酸配列には何らかのアミノ酸が配置されている状況が観察されることがある。その座位において候補タンパク質以外のアミノ酸残基に例えばメチオニン(M)が多く配列していれば、該欠失部位にMを挿入する。同様にセリン(S)が多く配置していれば、該欠失部位にSを挿入する。このような多数決的な決定による変異導入法をコンセンサス法と呼ぶ。
(2)系統学的手法に基づいた祖先型アミノ酸導入法
系統学的手法に基づいた祖先型アミノ酸導入法は、ある特定の酵素についての複数の生物種における共通祖先のアミノ酸配列を推定し、該アミノ酸配列をもとの酵素に変異として導入することにより共通祖先の酵素の機能を推察する目的で開発された手法である。一般的に共通祖先型の酵素はもとの酵素に対して耐熱化することが示されており、全生物の共通祖先が超好熱菌であるとの仮説を支持するものであるが、本発明における利用のように酵素活性が発現しない原因となっている部位の改変にも使用した実績もある(詳細については、「Hisako,I.,et al.,FEMS Microbiology Letters,243,393−398,2005」、「Keiko,W.,et al.,FEBS Letters,580,3867−3871,2006」、「JPA2002−247991」を参照)。しかし、必ずしも成功するとは限らない。
系統学的手法に基づいた祖先型アミノ酸導入法は、ある特定の酵素についての複数の生物種における共通祖先のアミノ酸配列を推定し、該アミノ酸配列をもとの酵素に変異として導入することにより共通祖先の酵素の機能を推察する目的で開発された手法である。一般的に共通祖先型の酵素はもとの酵素に対して耐熱化することが示されており、全生物の共通祖先が超好熱菌であるとの仮説を支持するものであるが、本発明における利用のように酵素活性が発現しない原因となっている部位の改変にも使用した実績もある(詳細については、「Hisako,I.,et al.,FEMS Microbiology Letters,243,393−398,2005」、「Keiko,W.,et al.,FEBS Letters,580,3867−3871,2006」、「JPA2002−247991」を参照)。しかし、必ずしも成功するとは限らない。
材料としては、候補遺伝子のアミノ酸配列をデータベースに対して相同性検索することで得られた複数の相同アミノ酸配列、それらを基に作成した分子系統樹(以下、系統樹とも表記する)および系統樹作成のためのアルゴリズム、並びにマルチプルアライメント図を利用する。
系統樹作成のための様々なアルゴリズム、例えば、最大節約原理に基づくアルゴリズム等が知られており、それを実現するコンピュータープログラムも利用または入手することができる。例えば、CLUSTAL W、PUZZLE、MOLPHYおよびPHYLIP等の種々の系統樹推定プログラムが利用できる。
また、最尤原理に基づくアルゴリズム等も知られており、それを実現するコンピュータープログラムも利用または入手することができる。例えば、ModelTest、PHYMLおよびPHYLIP、TreeFinder等の種々の系統樹推定プログラムが利用できる。それらを用いて系統樹を作製することができるが、より簡便には、既に公表されている系統樹を利用することもできる。
このような系統樹においては、分子進化的に近い位置の生物種は、系統樹中で近い位置に現れる。また、系統樹中で根元に近い位置にある生物種はより祖先に近いと考えられる。
候補遺伝子のアミノ酸配列をデータベースに対して相同性検索することで得られた複数の相同アミノ酸配列のデータを基に適当なプログラムを使用してマルチプルアラインメントの結果が得られたならば、特定の系統樹における祖先型タンパク質のアミノ酸配列を推定することができる。
本発明においては、特に最大節約法または最尤法(「Young,Z.,Kumar,S.,Nei.M,Genetics 141,1641−16510,1995」、「Stewart,C.−B.Active ancestral molecules,Nature 374,12−13,1995」、「根井正利『分子進化遺伝学』培風館、「根井正利、S. クマー『分子進化と分子系統学』培風館」)を用いた。
本発明に使用し得る最大節約法とは、祖先型を仮定したときにその後生じると予想される変異の事象の数が最も少ない祖先型の過程を真の祖先型と推定する方法である。また、最大節約法に基づいてアミノ酸配列から直接に祖先型推定を行なうためのプログラムPROTPARSも利用可能である。この方法では原理的には系統樹の推定と祖先型アミノ酸の推定が同時に行われるため、必ずしも系統樹を作成することは必要ではないが、特に手動計算で祖先型アミノ酸を推定する場合には系統樹を作成することが好ましい。
本発明に使用し得る最尤法とは、予め決定した系統樹の樹形とアミノ酸置換モデルに基づいて、樹形の特定の位置に(主に系統樹の根にあたる部分)おけるあらゆる祖先型アミノ酸配列を推定し、最も尤度の高い配列を最も有望な祖先型アミノ配列として選択する方法である。また、最尤法に基づいて、系統樹およびアミノ酸配列のマルチプルアライメントから祖先型推定を行うためのプログラムPAML等も利用可能である。
いずれかの方法で得られた系統樹を利用してマルチプルアラインメントしたアミノ酸残基のそれぞれの部位に関して祖先型アミノ酸を決定することができる。このようにして、マルチプルアラインメントした配列の各々の残基に関して祖先型アミノ酸残基を推定し、その結果、対応する領域の祖先型アミノ酸配列を推定することができる。
この場合、祖先型アミノ酸配列を推定するために用いる生物種を変えると、系統樹の樹形が変化し、それと関連して異なる祖先型アミノ残基が得られる場合もあり、その位置と種類は比較に用いるタンパク質にも依存する。
従って、そのような変動が比較的少ない位置のアミノ酸残基を改変の対象とすることが考えられる。そのようなアミノ酸残基は、系統樹の作成に用いる生物種を変える、または、生物種は変えずに系統樹作成に使用するアミノ酸配列情報の一部のみを用いるなど、系統樹の作成に使用するアミノ酸配列情報を変化させた場合の樹形変化の程度を見積り、樹形への影響の少ない残基を選択することによって決定することが考えられる。
上述のようにして祖先型アミノ酸残基が決定されたならば、解析対象としたタンパク質について非祖先型であるアミノ酸残基の少なくとも1つを祖先型アミノ酸残基に置換してそのタンパク質を改変することができる。
(3)進化工学的手法
例えば進化工学的手法を利用した酵素の機能改変は、まず目的のタンパク質の遺伝子配列にランダム変異を導入するところから始める。ランダム変異導入とは、主としてPCRを利用した手法であり、PCRの正確性をわざと低く設定することで遺伝子上の様々な部位に様々な変異を導入する手法であり、例えばDiversity PCR Random Mutagenesis Kit(Clontech製)およびGeneMorph II RandomMutagenesis Kit(Stratagene製)等のキットを使用して簡便に実施することができる。そのようにして変異を導入した遺伝子の変異体を後述するような方法により適当な発現プラスミドに連結して適当な宿主に形質転換し、プレート培地上に撒いてコロニーを形成させることにより、変異体ライブラリを作成することができる。
例えば進化工学的手法を利用した酵素の機能改変は、まず目的のタンパク質の遺伝子配列にランダム変異を導入するところから始める。ランダム変異導入とは、主としてPCRを利用した手法であり、PCRの正確性をわざと低く設定することで遺伝子上の様々な部位に様々な変異を導入する手法であり、例えばDiversity PCR Random Mutagenesis Kit(Clontech製)およびGeneMorph II RandomMutagenesis Kit(Stratagene製)等のキットを使用して簡便に実施することができる。そのようにして変異を導入した遺伝子の変異体を後述するような方法により適当な発現プラスミドに連結して適当な宿主に形質転換し、プレート培地上に撒いてコロニーを形成させることにより、変異体ライブラリを作成することができる。
上記の変異体ライブラリは単コロニーずつ、96ウェルプレート等において液体培養し、変異体酵素を発現させることが可能である。発現させた変異体酵素は96ウェルフォーマット等で後の実験に使用することができる。酵素の機能改変ターゲットが基質親和性であれば、上記96ウェルフォーマットの変異体酵素のライブラリを、同じく96ウェルフォーマットで調製した通常よりも基質濃度の低い活性測定試薬へ入れて酵素反応をモニターし、他の変異体に比べ酵素反応の反応速度が速い変異体をピックアップすることにより、基質親和性の高い変異体酵素をスクリーニングすることが可能である。変異体遺伝子のどの部位にどのような変異が導入されたかは、後述するようにシーケンスによりDNA配列を読むことにより確認できる。
本発明者らは、上述の方法を用いて鋭意検討した結果、基質親和性および/または比活性を向上させた改変型FADGDHの取得に至り、本発明に至った。
次に、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
<実施例1>
アスペルギルス・オリゼ由来フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、FADGDHとも表記する)遺伝子の最適化設計と合成
本発明の研究を開始した当初、アスペルギルス属におけるFADGDH遺伝子は国際公開第2006/101239号および国際公開第2007/116710号において公開されていた。特に国際公開第2007/116710号において、アスペルギルス・オリゼ由来FADGDHの遺伝子配列が明らかにされていた。
アスペルギルス・オリゼ由来フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、FADGDHとも表記する)遺伝子の最適化設計と合成
本発明の研究を開始した当初、アスペルギルス属におけるFADGDH遺伝子は国際公開第2006/101239号および国際公開第2007/116710号において公開されていた。特に国際公開第2007/116710号において、アスペルギルス・オリゼ由来FADGDHの遺伝子配列が明らかにされていた。
本発明者らは、これらの遺伝子配列情報をもとに、FADGDHの機能改変を試み、もとのFADGDHに比べて性能が向上した変異体酵素の取得を目指した。アスペルギルス・オリゼ由来FADGDHの遺伝子配列は国際公開第2007/116710号において、配列表の配列番号1の配列が公開された。この遺伝子の全配列を大腸菌に最適化すべく、コドンを変更した。また、後述するように、大腸菌での発現に最適化すべくN末端シグナル配列を除去するような遺伝子を設計した。
変更後のコドンは以下のように設定した。一文字目のアルファベットから、アミノ酸の一文字表記、アミノ酸の名称(設計に使用したコドン)の順に表記する。
F:フェニルアラニン(ttt)、L:ロイシン(ctg)、I:イソロイシン(att)、M:メチオニン(atg)、V:バリン(gtg)、Y:チロシン(tat)、終止コドン(taa)、H:ヒスチジン(cat)、Q:グルタミン(cag)、N:アスパラギン(aat)、K:リジン(aaa)、D:アスパラギン酸(gat)、E:グルタミン酸(gaa)、S:セリン(agc)、P:プロリン(ccg)、T:スレオニン(acc)、A:アラニン(gcg)、C:システイン(tgc)、W:トリプトファン(tgg)、R:アルギニン(cgc)、G:グリシン(ggc)。
配列表の配列番号1のDNA配列は配列番号2のアミノ酸配列をコードすることが、国際公開第2007/116710号において公開されている。このアミノ酸配列のN末端側には真菌のシグナル配列が含まれており、大腸菌で該遺伝子を発現させるには、このN末端側シグナル配列を除去する必要がある。そこで、公知の推定プログラムを用いて該アミノ酸配列中のN末端シグナル配列を推定したところ、配列番号2のアミノ酸配列の16番目のAと17番目のSの間で切断されることが推定された。
そこで、配列表の配列番号1に示したDNA配列の1番目のコドン「atg」から順に、上記コドンに変更し、さらに上述したように、推定されたN末端配列を除去して開始コドンのメチオニンを付加するようにし、配列表の配列番号3に示したDNA配列を設計した。
上記の配列表の配列番号3のDNA配列がコードするアミノ酸配列は配列表の配列番号4に記載したとおりであり、配列表の配列番号2のN末端側シグナル配列の16番目までを除去してメチオニン(M)を付加した配列である。
上記の配列表の配列番号3の全長DNA配列を人工合成するために、配列表の配列番号5から配列番号26に記載のロングプライマーを合成し、以下の実験に供した。
PCR反応液1(1×KOD〜plus〜緩衝液(東洋紡製)、0.2mM dNTPs、1mM MgSO4、0.2μM ロングプライマー、1U KODポリメラーゼ(東洋紡製))を50μL調製し、以下のサイクル様式でPCRを行った。
初期変性 94℃、1分間
12サイクル 94℃、30秒間
55℃、1分間
68℃、2分間
最終伸長 68℃、5分間
初期変性 94℃、1分間
12サイクル 94℃、30秒間
55℃、1分間
68℃、2分間
最終伸長 68℃、5分間
PCR完了後、PCR反応溶液2(1×KOD〜plus〜緩衝液(東洋紡製)、0.2mM dNTPs、1mM MgSO4、0.3μM 特異的プライマー、1μL PCR1反応溶液、1U KODポリメラーゼ(東洋紡製))を50μL調製し、以下のサイクル様式でPCRを行った。特異的プライマーは配列表の配列番号27と配列番号28のように合成されたものを使用した。
初期変性 94℃、1分間
12サイクル 94℃、30秒間
55℃、30分間
68℃、2分間
最終伸長 68℃、5分間
初期変性 94℃、1分間
12サイクル 94℃、30秒間
55℃、30分間
68℃、2分間
最終伸長 68℃、5分間
PCR反応溶液の一部をとって定法によりアガロースゲル電気泳動したところ、約1700bpの単一なバンドが観察された。
<実施例2>
FADGDH遺伝子の大腸菌における発現
上記遺伝子を発現させるプラスミドにはpBluescriptを使用した。該プラスミドはlacプロモーターによりLacZ遺伝子を発現するが、lacZ開始コドン近傍配列「ctatg」をPCRによる部位特異的変異導入法により「catatg」とすることにより、制限酵素NdeIの認識配列とすることができ、制限酵素NdeIで切断した遺伝子をクローニングし、lacプロモーターにより遺伝子を比較的ゆるやかに発現させることができる。以下、NdeI認識配列をlacZ開始コドンに挿入したpBluescriptをpBSNと表記する。
FADGDH遺伝子の大腸菌における発現
上記遺伝子を発現させるプラスミドにはpBluescriptを使用した。該プラスミドはlacプロモーターによりLacZ遺伝子を発現するが、lacZ開始コドン近傍配列「ctatg」をPCRによる部位特異的変異導入法により「catatg」とすることにより、制限酵素NdeIの認識配列とすることができ、制限酵素NdeIで切断した遺伝子をクローニングし、lacプロモーターにより遺伝子を比較的ゆるやかに発現させることができる。以下、NdeI認識配列をlacZ開始コドンに挿入したpBluescriptをpBSNと表記する。
FADGDH候補遺伝子を大腸菌で発現させるために、実施例1に記載の全長遺伝子とpBSNを制限酵素NdeIおよびBamHIで切断してそれぞれを精製し、リガーゼで両遺伝子断片どうしを結合して発現プラスミドを作製した。
作製した発現プラスミドにより大腸菌DH5を形質転換し、寒天プレート培地上で培養してコロニーを形成させ、各発現プラスミドで形質転換した形質転換体を得た。
得られた形質転換体を2mLのLB培地で培養し、定法に従いプラスミドを精製した。合成した遺伝子に特異的なプライマーを使用してシーケンスを行い、所望する配列表の配列番号3で示される塩基配列のDNAが組み込まれた発現プラスミドであることを確認した。以下、配列表の配列番号3で示される塩基配列で表されるFADGDH遺伝子が組み込まれたpBSNを、pBSNGDHと表記する。
pBSNGDHで形質転換された形質転換体の単コロニーを2mLのLB培地に植菌して37℃で16時間培養し、100μg/mLのアンピシリンを含むTerrific培養液20mLに植菌して27℃で48時間培養した。培養終了後、菌体を破砕して活性の有無を確認したところ、GDH活性が観察された。
<実施例3>
FADGDHの大量発現、精製、性能評価
実施例2で得られたpBSNGDHを形質転換した大腸菌を使用して、FADGDHの発現と精製を具体的には以下のように実施した。
FADGDHの大量発現、精製、性能評価
実施例2で得られたpBSNGDHを形質転換した大腸菌を使用して、FADGDHの発現と精製を具体的には以下のように実施した。
(3−1)大量発現
pBSNGDHを大腸菌DH5に形質転換し、寒天プレート培地上で培養してコロニーを形成させた。単一のコロニーをLB液体培地2mLに植菌し、37℃で18時間、振とう培養した。LB液体培地を20mL調整して500mLフラスコに入れ、120℃で20分オートクレーブ滅菌して上記培養液を植菌し、37℃、6時間、振とう培養した。オートクレーブした100μg/mLのアンピシリンを含むTerrific培養液1Lに上記培養液20mLを植菌し、5Lフラスコにおいて、27℃で48時間、振とう培養した。培養完了後、培養液を遠心分離(8000rpm、10分)して菌体を回収し、精製に使用するまで−80℃で保存した。
pBSNGDHを大腸菌DH5に形質転換し、寒天プレート培地上で培養してコロニーを形成させた。単一のコロニーをLB液体培地2mLに植菌し、37℃で18時間、振とう培養した。LB液体培地を20mL調整して500mLフラスコに入れ、120℃で20分オートクレーブ滅菌して上記培養液を植菌し、37℃、6時間、振とう培養した。オートクレーブした100μg/mLのアンピシリンを含むTerrific培養液1Lに上記培養液20mLを植菌し、5Lフラスコにおいて、27℃で48時間、振とう培養した。培養完了後、培養液を遠心分離(8000rpm、10分)して菌体を回収し、精製に使用するまで−80℃で保存した。
(3−2)精製
−80℃保存した菌体ペレットに30mLの20mM 酢酸アンモニウムバッファー(pH5.2)に懸濁して超音波破砕した。菌体破砕液を遠心分離(8000rpm、40分、4℃)して上清を回収した。得られた上清を、20mM 酢酸アンモニウムバッファー(pH5.2)で平衡化した20mLのDEAE−Sepharoseカラムに素通りさせた。続けて、同じく20mM 酢酸アンモニウムバッファー(pH5.2)で平衡化した20mLのCM−Sepharoseカラムに吸着させて、0Mから0.5MのNaClグラジエントで溶出し、GDH活性を有する画分を得た。得られたGDH画分に、氷冷下で30%飽和硫安となるように硫酸アンモニウムを添加して硫安沈殿し、遠心分離(10000rpm、20分、4℃)によりGDH画分を有する上清を得た。
−80℃保存した菌体ペレットに30mLの20mM 酢酸アンモニウムバッファー(pH5.2)に懸濁して超音波破砕した。菌体破砕液を遠心分離(8000rpm、40分、4℃)して上清を回収した。得られた上清を、20mM 酢酸アンモニウムバッファー(pH5.2)で平衡化した20mLのDEAE−Sepharoseカラムに素通りさせた。続けて、同じく20mM 酢酸アンモニウムバッファー(pH5.2)で平衡化した20mLのCM−Sepharoseカラムに吸着させて、0Mから0.5MのNaClグラジエントで溶出し、GDH活性を有する画分を得た。得られたGDH画分に、氷冷下で30%飽和硫安となるように硫酸アンモニウムを添加して硫安沈殿し、遠心分離(10000rpm、20分、4℃)によりGDH画分を有する上清を得た。
FPLC装置(GEヘルスケア製)に6mLのRESOURCE PHEカラム(GEヘルスケア製)をセットし、30% 飽和硫安+20mM 酢酸アンモニウムバッファー(pH5.2)で装置全体を平衡化した。硫安沈殿の上清をアプライしてGDH画分をカラムに吸着させ、30%から0%の硫酸アンモニウムのグラジエントで溶出し、GDH画分を得た。得られたGDH画分を0.1% TritonX−100+20mM 酢酸アンモニウムバッファー(pH5.2)で透析した。
上記GDH溶液をSDS−PAGEにより電気泳動して精製度を確認したところ、単一バンドになるまで精製されていた(図1)。観察された分子量は約60kDaであり、アミノ酸配列から計算された分子量62.1kDaに比べてほとんど違いがなかった。
(3−3)FADGDHのKmと比活性の測定
精製されたFADGDHのKmならびに比活性を測定したところ、Km値が35mM、比活性が632U/mgであった。
精製されたFADGDHのKmならびに比活性を測定したところ、Km値が35mM、比活性が632U/mgであった。
上記のように、大腸菌で発現させたFADGDHは、本出願に記載の測定方法において比較的低いKm値、および比較的高い比活性を示していることが明らかになったが、グルコースセンサ用途としてはまだ満足のいくものではなく、この酵素をもとに、Km値の低下、比活性値の上昇を目標に、実施例4以下に示す一連の変異導入実験を行った。
<実施例4>
FADGDHアミノ酸配列への変異導入部位の決定
実施例3より、大腸菌により発現させたFADGDHのスペックはセンサ用途としてはまだ不十分であることが示された。この酵素のKmの減少と比活性の上昇を目的として、以下に示す推定祖先型アミノ酸配列に基づく変異導入およびコンセンサス概念に基づく変異導入実験を行った。
FADGDHアミノ酸配列への変異導入部位の決定
実施例3より、大腸菌により発現させたFADGDHのスペックはセンサ用途としてはまだ不十分であることが示された。この酵素のKmの減少と比活性の上昇を目的として、以下に示す推定祖先型アミノ酸配列に基づく変異導入およびコンセンサス概念に基づく変異導入実験を行った。
(4−1)FADGDH相同タンパク質情報の取得
配列表の配列番号4で示されるFADGDHのアミノ酸配列とアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)由来FADGDH(以下にATGDHとも示す)のアミノ酸配列を使用して、Blastp(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)により相同性検索を行い、FADGDHと相同な様々な生物種由来のアミノ酸配列情報をランダムに得た。
配列表の配列番号4で示されるFADGDHのアミノ酸配列とアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)由来FADGDH(以下にATGDHとも示す)のアミノ酸配列を使用して、Blastp(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)により相同性検索を行い、FADGDHと相同な様々な生物種由来のアミノ酸配列情報をランダムに得た。
具体的には、ATGDH(Seq01)、Glucose oxidase(Seq02、CAC12802、Aspergillus niger)、choline dehydrogenase(Seq03、YP_363880、Xanthomonas campestris)、putative choline dehydrogenase(Seq04、CAK12001、Rhizobium leguminosarum)、GMC oxidoreductase(Seq05、ZP_00629293、Paracoccus denitrificans)、Choline dehydrogenase and related flavoproteins(Seq06、ZP_00105746、Nostoc punctiforme)、glucose−methanol−choline oxidoreductase(Seq07、Anabaena variabilis)、Choline dehydrogenase and related flavoproteins(Seq08、ZP_00110538、Nostoc punctiforme)、choline dehydrogenase(Seq09、ZP_01162836、Photobacterium sp)、choline dehydrogenase(Seq10、NP_414845、Escherichia coli)、hypothetical alcohol dehydrogenase(Seq11、ZP_01109784、Alteromonas macleodii)、alcohol dehydrogenase(Seq12、YP_694430、Alcanivorax borkumensis)、Choline dehydrogenase and related flavoproteins(Seq13、ZP_00891692、Burkholderia pseudomallei)、FAD−oxidoreductase protein(Seq14、YP_471839、Rhizobium etli)のアミノ酸配列情報を得た。
さらにこれらの配列情報に、配列表の配列番号4で示されるアミノ酸配列(Seq15)も付け加えた。ここで、Seq〜とは図2〜図4に示した配列番号を指し、間の数値はデータベースに登録されているそれぞれのアミノ酸配列のアクセッションナンバーを指す。さらにその後に生物種の名称を示した。
(4−2)FADGDHを含むマルチプルアライメント図の作成
上記のデータベースに登録されたアミノ酸配列データを、定法にしたがって公知のマルチプルアライメントソフトによりアライメントし、アライメント図を得た(図2〜図4)。得られたアライメント図は、以降の祖先型アミノ酸配列の推定と、コンセンサス法による部位特異的変異導入に使用した。
上記のデータベースに登録されたアミノ酸配列データを、定法にしたがって公知のマルチプルアライメントソフトによりアライメントし、アライメント図を得た(図2〜図4)。得られたアライメント図は、以降の祖先型アミノ酸配列の推定と、コンセンサス法による部位特異的変異導入に使用した。
(4−3)分子系統樹の作成と祖先型アミノ酸配列の推定
上記アミノ酸配列のアライメント図に基づき、公知のコンピュータープログラムを使用して最尤法による系統樹を作成した(図5)。得られた系統樹に基づいて、15種の生物由来の共通祖先(系統樹の根の位置)のアミノ酸配列を、公知のコンピュータープログラムを使用して最尤法により推定した。配列表の配列番号29で示される共通祖先のアミノ酸配列(祖先型アミノ酸配列)を、該アミノ酸配列のすべての座位がFADGDHの座位と対応するように、図2〜図4のアライメント図と同時に並べた。
上記アミノ酸配列のアライメント図に基づき、公知のコンピュータープログラムを使用して最尤法による系統樹を作成した(図5)。得られた系統樹に基づいて、15種の生物由来の共通祖先(系統樹の根の位置)のアミノ酸配列を、公知のコンピュータープログラムを使用して最尤法により推定した。配列表の配列番号29で示される共通祖先のアミノ酸配列(祖先型アミノ酸配列)を、該アミノ酸配列のすべての座位がFADGDHの座位と対応するように、図2〜図4のアライメント図と同時に並べた。
(4−4)FADGDHに対するアミノ酸置換
FADGDHに対し、どの部位に祖先型アミノ酸を導入するか決定した。同時に、該アライメント図においてコンセンサス法により、どの部位にどのアミノ酸配列を導入するか決定した。
FADGDHに対し、どの部位に祖先型アミノ酸を導入するか決定した。同時に、該アライメント図においてコンセンサス法により、どの部位にどのアミノ酸配列を導入するか決定した。
すなわち、配列表の配列番号4で示されるFADGDHアミノ酸配列において、以下の変異1〜5のアミノ酸置換が各々なされたアミノ酸配列からなる変異体1〜5を作成することを決定した。
変異1.N34D+A67K+H273Y+I280L+N530P+S568A+L570M
変異2.変異1+G20A+L289Q+I290L
変異3.変異1+L289Q+I290L+V547I+L548M
変異4.変異1+L289Q+I290L+V296I
変異5.変異1+G20A+V547I+L548M
変異1.N34D+A67K+H273Y+I280L+N530P+S568A+L570M
変異2.変異1+G20A+L289Q+I290L
変異3.変異1+L289Q+I290L+V547I+L548M
変異4.変異1+L289Q+I290L+V296I
変異5.変異1+G20A+V547I+L548M
ここで、「N34D」等の表現は、アミノ酸置換の表記法である。例えば「N34D」とは、ある特定のアミノ酸配列におけるN末端側から34番目のアミノ酸Nを、アミノ酸Dに置換することを意味する。さらに、例えば「G20A+L289Q+I290L」とは、G20AとL289QとI290Lのアミノ酸置換を同時に導入することを意味する。
<実施例5>
FADGDHへの部位特異的変異導入と発現解析、精製、および性能評価
FADGDHに対する上記部位特異的へに導入は以下のように行った。上記変異1から変異5の変異導入を実施するため、PCRによる部位特異的変異導入に使用するオリゴヌクレオチドを設計した。
FADGDHへの部位特異的変異導入と発現解析、精製、および性能評価
FADGDHに対する上記部位特異的へに導入は以下のように行った。上記変異1から変異5の変異導入を実施するため、PCRによる部位特異的変異導入に使用するオリゴヌクレオチドを設計した。
変異1については、配列表の配列番号30および配列番号31、配列番号32および配列番号33、配列番号34および配列番号35、配列番号36および配列番号37、配列番号38および配列番号39、並びに配列番号40および配列番号41で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異2については、配列表の配列番号30および配列番号31、配列番号32および配列番号33、配列番号34および配列番号35、配列番号36および配列番号37、配列番号38および配列番号39、配列番号40および配列番号41、配列番号42および配列番号43、並びに配列番号44および配列番号45で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異3については、配列表の配列番号30および配列番号31、配列番号32および配列番号33、配列番号34および配列番号35、配列番号36および配列番号37、配列番号38および配列番号39、配列番号40および配列番号41、配列番号44および配列番号45、並びに配列番号46および配列番号47で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異4については、配列表の配列番号30および配列番号31、配列番号32および配列番号33、配列番号34および配列番号35、配列番号36および配列番号37、配列番号38および配列番号39、配列番号40および配列番号41、配列番号44および配列番号45、並びに配列番号48と配列番号49で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異5については、配列表の配列番号30および配列番号31、配列番号32および配列番号33、配列番号34および配列番号35、配列番号36および配列番号37、配列番号38および配列番号39、配列番号40および配列番号41、配列番号42および配列番号43、配列番号46および配列番号47で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
上記の相補的なオリゴヌクレオチドを利用して、QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit(Stratagene製)を使用し、pBSNGDHを鋳型としてPCRによる部位特異的変異導入を行った。変異導入したそれぞれのプラスミドDNAにより、大腸菌DH5αを形質転換してクローニングし、所望の変異が導入できたかどうか、シーケンスにより確認した。
得られた変異導入プラスミドDNAを、変異1から変異5の順にそれぞれpBSNGDH1、pBSNGDH2、pBSNGDH3、pBSNGDH4、pBSNGDH5と命名し、以下の発現解析に使用した。
pBSNGDH1〜pBSNGDH5で形質転換した大腸菌DH5αを使用して、実施例3で示した方法により変異体酵素を発現、精製した。得られた精製酵素を用いて、実施例3と同様に、変異体1から変異体5の変異体酵素のKmと比活性を測定した。測定結果を表1に示す。
表1に示すように、Km値に関しては、変異を導入していないFADGDHに比べて数値上Km値が低下したのは変異体2、変異体4、および変異体5であった。また、比活性値に関しては、変異を導入していないFADGDHに比べて数値上比活性値が向上したのは変異体2、変異体3、変異体4、および変異体5であった。
<実施例6>
グルコースセンサ
実施例5で使用した変異体3の改変型FADGDHを使用した酵素固定化グルコースセンサを試作し、公知の方法(S.Tsujimura,et al.,Biosci.Biotechnol.Biochem.,70,654−659,2006)を参考にD−グルコースの測定を行った。
グルコースセンサ
実施例5で使用した変異体3の改変型FADGDHを使用した酵素固定化グルコースセンサを試作し、公知の方法(S.Tsujimura,et al.,Biosci.Biotechnol.Biochem.,70,654−659,2006)を参考にD−グルコースの測定を行った。
変異体3の改変型FADGDHを3U固定化させたグラッシーカーボン電極を使用し、D−グルコースに対する応答電流を測定した。電解セル中に0.1Mのリン酸カリウムバッファー(pH6.5)と、1Mのフェリシアンカリウム溶液を充填し、空気飽和条件化で既知の濃度のD−グルコースの測定を行った。
既知のグルコース濃度に対して電流値をプロットすることにより、グルコース濃度の上限が1000mg/dLまでの検量線を描くことができた。これにより本発明の改変型FADGDHを使用した酵素固定化グルコースセンサによりグルコースの定量が可能であることが示された。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更および修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本発明のアミノ酸置換導入前の元のFADGDHと比較して基質親和性および/または比活性の向上した改変型FADGDHをグルコースセンサ等に利用することにより、測定時間のさらなる短縮および測定データの正確さの向上といったスペック上のメリットが得られ、医療関連分野等の産業に幅広く貢献することが可能である。
Claims (13)
- 配列表の配列番号4で示されるアミノ酸配列において、以下の(1)のアミノ酸置換がなされ、且つ、(2)〜(5)からなる群より選択される少なくともいずれか1のアミノ酸置換が追加されたアミノ酸配列からなる改変型フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDH)。
(1)N34D+A67K+H273Y+I280L+N530P+S568A+L570M
(2)G20A+L289Q+I290L
(3)L289Q+I290L+V547I+L548M
(4)L289Q+I290L+V296I
(5)G20A+V547I+L548M - 配列表の配列番号4で示されるアミノ酸配列において、以下の(1)のアミノ酸置換がなされ、且つ、(2)〜(4)からなる群より選択される少なくともいずれか1のアミノ酸置換が追加されたアミノ酸配列からなる改変型FADGDHであって、アミノ酸置換導入前の元のFADGDHと比較して、Km値が低下することを特徴とする改変型FADGDH。
(1)N34D+A67K+H273Y+I280L+N530P+S568A+L570M
(2)G20A+L289Q+I290L
(3)L289Q+I290L+V296I
(4)G20A+V547I+L548M - 配列表の配列番号4で示されるアミノ酸配列において、以下の(1)のアミノ酸置換がなされ、且つ、(2)〜(5)からなる群より選択される少なくともいずれか1のアミノ酸置換が追加されたアミノ酸配列からなる改変型FADGDHであって、アミノ酸置換導入前の元のFADGDHと比較して、比活性値が上昇することを特徴とする改変型FADGDH。
(1)N34D+A67K+H273Y+I280L+N530P+S568A+L570M
(2)G20A+L289Q+I290L
(3)L289Q+I290L+V547I+L548M
(4)L289Q+I290L+V296I
(5)G20A+V547I+L548M - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の改変型FADGDHのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換および付加から選ばれる少なくとも1つの改変がなされたアミノ酸配列からなる改変型FADGDHであって、GDH活性を有するポリペプチド。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の改変型FADGDHをコードするDNA。
- DNAの塩基配列において、コドンユーゼージを大腸菌に最適化した請求項5に記載のDNA。
- 請求項5または6に記載のDNAを含む組換え発現プラスミド。
- 請求項7に記載の組換え発現プラスミドで形質転換された宿主を含む形質転換体。
- 宿主が大腸菌である請求項8に記載の形質転換体。
- 請求項8または9に記載の形質転換体を培養することを含む改変型FADGDHの製造方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の改変型FADGDHを含むグルコースアッセイキット。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の改変型FADGDHを含むグルコースセンサ。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の改変型FADGDHを含むグルコース濃度の測定方法。
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