JP6402887B2 - グルコースデヒドロゲナーゼ組成物 - Google Patents
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Description
D−グルコース + 電子伝達体(酸化型) →
D−グルコノ−δ−ラクトン + 電子伝達体(還元型)
すなわち、グルコースを酸化することによって生じる電子の流れを測定することにより、グルコースの定量を可能にしている。これまでに血糖測定に用いられているGDHとしては、反応に要する補酵素の違いから、ニコチンアミド依存型、ピロロキノリンキノン(以下PQQとも記載)依存型、フラビンアデニンジヌクレオチド(以下FADとも記載)依存型の3種類が知られている。ニコチンアミド依存型としてはバチルス属由来のものが市販されているが、補酵素を含んだホロ酵素の状態で精製することができないため、センサを作製するにあたって補酵素となるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下NADとも記載)などを加えなければならない。この煩雑さ及び補酵素となるNAD等が高価であることが問題点として挙げられる。一方、PQQ依存型GDHはホロ酵素での提供が可能であり、また比活性が高くグルコースに対する十分な応答シグナルを得られるという利点がある一方で、基質特異性の厳密さに欠け、マルトース等のグルコース以外の糖類にも反応してしまう点が問題視されている。これらの問題点をクリアしうるものとして、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)依存型GDH(以下FAD−GDHと記載)が浸透しつつある。
項1.
以下の(A)〜(D)を含むグルコース定量用組成物。
(A)ケカビ科糸状菌由来FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼ
(B)電子伝達体
(C)増粘剤
(D)グリシルグシリン、ソルビトールおよびアドニトールからなる群より選ばれる1以上の物質。
項2.
ケカビ科由来糸状菌が、ムコール属に属する糸状菌である、項1に記載の組成物。
項3.
増粘剤がスメクタイトである、項1または2に記載の組成物。
項4.
電子伝達体がフェリシアン化カリウムである、項1〜3のいずれかに記載の組成物。
項5.
項1〜4のいずれかに記載の組成物を反応層に備えるグルコース測定用センサ。
項6.
項4に記載の組成物または項5に記載のセンサを用いてグルコースを定量する方法。
項7.
ケカビ科由来糸状菌由来FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼ、電子伝達体、増粘剤を少なくとも含む組成物に、グリシルグリシン、ソルビトールおよびアドニトールからなる群より選ばれる1以上の物質を添加することを特徴とする、前記組成物の安定性向上方法。
項8.
ケカビ科由来糸状菌がムコール属に属する糸状菌である、項7に記載の方法。
項9.
増粘剤がスメクタイトである、項7または8に記載の方法。
項10.
電子伝達体がフェリシアン化カリウムである、項7〜9のいずれかに記載の方法。
本発明の実施形態の一つは、以下の(A)〜(D)を含むことを特徴とする、グルコース測定用組成物である。
(A)ケカビ科糸状菌由来FAD−GDH
(B)電子伝達体
(C)増粘剤
(D)グリシルグシリン、ソルビトールおよびアドニトールからなる群より選ばれる1以上の物質。
好ましくは、フェリシアン化物塩由来であり、さらに好ましくは、フェリシアン化カリウムである。
本発明の別の実施形態は、以下の(A)〜(D)を含む上記のグルコース測定用組成物がグルコースセンサ上の反応層中に存在する、グルコース測定用センサである。
(A)ケカビ科糸状菌由来FAD−GDH
(B)電子伝達体
(C)増粘剤
(D)グリシルグシリン、ソルビトールおよびアドニトールからなる群より選ばれる1以上の物質。
本発明の別の実施形態は、ケカビ科糸状菌由来FAD−GDH、電子伝達体、増粘剤を少なくとも含んでなる組成物に、グリシルグリシン、ソルビトールおよびアドニトールからなる群より選ばれる1以上の物質を添加することを特徴とする、前記組成物の安定性向上方法である。
本発明に述べる組成物は、40℃ないし50℃という高温状態における安定性に優れている。本明細書において、組成物の安定性は、組成物を50℃に1時間置いた後に維持される、前記組成物をグルコースと反応させて得られるシグナル強度の割合で評価する。ここでシグナル強度とはGDHがグルコースを酸化させることにより発生する電子の量に比例して発生する計測可能な発色・退色もしくは電流の数値である。すなわち組成物の安定性の向上とは、加温処理後に維持されるシグナル強度の割合が増大することを意味する。
本明細書において、FAD−GDH活性測定は特に断りのない限り、以下の方法に従って行われる。
反応液(0.1mol/L HEPES、200mmol/L D−グルコース、0.55mmol/L DCPIP、pH6.5)2.9mLを石英セルにいれ、37℃で5分間予備加温する。そしてGDH溶液0.1mLを加えて混和し、37℃で5分反応させ、この間700nm吸光度を測定する。吸光度変化の直線部分から1分間あたりの吸光度の上昇度(ΔODTEST)を算出する。盲検は、GDH溶液の代わりに緩衝液を加えて混和し、同様に37℃5分インキュベートして700nm吸光度を記録し、1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を算出する。これらの値を以下の式に当てはめて活性値(U/mL)を算出する。なおここでは、基質存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量を1Uと定義する。
GDH活性(U/mL)=[(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.0×希釈倍率 ]/(4.5×1.0×0.1)
なお、ここで
3.0 :GDH溶液混和後の容量(mL)
4.5 :DCPIPのミリモル分子吸光係数(cm2/マイクロモル)
1.0 :光路長(cm)
0.1 :添加するGDH溶液の液量(mL)
である。
本発明に述べるタンパク質量は280nmの吸光度を測定することにより測定したものである。すなわち、280nmにおける吸光度が0.1〜1.0の範囲となるように酵素溶液を蒸留水で希釈し、蒸留水を用いてゼロ点補正を行った吸光度計を用いて280nmの吸光度(Abs)を測定する。本発明に述べるタンパク質濃度は、1Abs≒1mg/mlと近似し、吸光度の測定と測定した溶液の希釈倍率とを乗じた値で示したものである。また、本発明に述べる比活性とは、本測定方法によるタンパク質量として1mgあたりのGDHの活性(U/mg)であり、この際のGDH活性は、上記活性測定例に従って測定することにより得られる値である。
ケカビ科糸状菌由来FAD−GDHの調製
ムコール・プライニー由来FAD−GDHとして、特許文献4に記載のアミノ酸配列を参考に配列番号2に記載の配列からなる合成DNAを作製した。また、ムコール・ヒエマリス由来FAD−GDHとして、特許文献6に記載のアミノ酸配列を参考に配列番号4に記載の配列からなる合成DNAを作製した。これら合成DNAは、既に公開となっている特許文献(WO2013/080881)に記載される宿主(クリプトコッカス・エスピー・S−2.U−5株)に、概特許に記載のとおりのフローで形質転換を行った。なお、形質転換の際にベクターとしてpCsUXを使用し、配列番号2および4の遺伝子はそれぞれ5‘末端側をクリプトコッカス・エスピー・S−2株由来キシラナーゼの分泌シグナルと融合し、かつ3’末端側に終止コドン(TAA)を付加した状態で概ベクターのMluI/SpeIサイトに挿入した。ベクターpCsUXの概要及びキシラナーゼ分泌シグナルの配列も、上記特許文献に記載されている。このようにして作製した形質転換体は、200mL容のバッフル付きフラスコ中のYM培地60mLに植菌し、温度25℃、回転速度180rpmで2日間培養し、培養液全量を6Lの生産培地(5%酵母エキス、2%キシロース、0.02%アデカノール)に加え、30℃で通気攪拌培養した。培養液を高速冷却遠心機(日立ハイテク製CR22型)にセットした連続遠心用ローター(型番:R10C)に通液し、5000rpmで回転させることにより菌体を沈降させ、培養液上清を得た。この溶液を分子量50000カット限外ろ過膜を用いて加水濃縮することにより1000倍以上になるよう加水し、最終的に液量2Lまで濃縮した。この溶液に0.4飽和となるよう硫酸アンモニウムを溶解し、0.4飽和硫酸アンモニウムを含む50mMリン酸カリウムバッファー(pH6.0)で緩衝化したPhenyl−sepharose 6FF HS(GEヘルスケア社製)に吸着させ、硫酸アンモニウム濃度が0となるまでグラジエント溶出を行い、GDH活性を有する画分を集めた。この溶液を分子量50000カット限外ろ過膜を用いて10mLまで濃縮し、0.3M塩化ナトリウムを含む50mMリン酸カリウムバッファーで緩衝化したSuperdex200に通液し、ゲルろ過を行った。得られた精製酵素の比活性は、ムコール・プライニー由来が186U/mg、ムコール・ヒエマリス由来が150U/mgであった。
電気化学式センサにおけるシグナル強度の残存率向上(1)
まず、グルコース測定用試薬として、以下の組成からなる溶液(pH=7.5)を作製した(対照組成)。
5mM ACES
5mM コハク酸ナトリウム
25mM フェリシアン化カリウム
500U/ml ケカビ科糸状菌由来FAD−GDH(実施例1で作製したもの)
0.25% 合成スメクタイト(商標名:ルーセンタイトSWN(コープケミカル株式会社製))
さらに上記組成に0.5%のグリシルグリシン、ソルビトール、もしくはアドニトールのいずれか1つを加えた溶液を作製した。
上記溶液5μLを、3電極を具備するディスポーサブルチップ(DEP−CHIP、バイオデバイステクノロジーズ社製)の作用極・対極・参照極上に滴下し、室温(25℃)で十分乾燥させてセンサチップとした。このセンサチップを専用ソケットを介してポテンショ/ガルバノスタットに接続し、電極上の組成物に10mMの標準グルコース溶液5μLを添加して+0.3Vの電圧を印加して電流値をモニタリングした。また、これらセンサチップを50℃で1時間加温した後に同様に反応し電流値をモニタリングして、加温前の電流値との比率(シグナル残存率)を求めた。結果を表1に示す。
まず、グルコース測定用試薬として、以下の組成からなる溶液(pH=7.5)を作製した(対照組成)。
5mM ACES
5mM コハク酸ナトリウム
25mM フェリシアン化カリウム
500U/ml ケカビ科糸状菌由来FAD−GDH(実施例1で作製したもの)
0.25% 合成スメクタイト(商標名:ルーセンタイトSWN(コープケミカル株式会社製))
さらに上記組成にソルビトール、もしくはアドニトールを0.05%、0.5%、2%含む溶液を作製した。
上記溶液5μLを、3電極を具備するディスポーサブルチップ(DEP−CHIP、バイオデバイステクノロジーズ社製)の作用極・対極・参照極上に滴下し、室温(25℃)で十分乾燥させてセンサチップとした。このセンサチップを専用ソケットを介してポテンショ/ガルバノスタットに接続し、電極上の組成物に10mMの標準グルコース溶液5μLを添加して+0.3Vの電圧を印加して電流値をモニタリングした。また、これらセンサチップを50℃で1時間加温した後に同様に反応し電流値をモニタリングして、加温前の電流値との比率(シグナル残存率)を求めた。結果を表2に示す。
Claims (8)
- 以下の(A)〜(D)を含むグルコース定量用組成物。
(A)ケカビ科糸状菌由来FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼ
(B)電子伝達体
(C)スメクタイト
(D)グリシルグリシン、ソルビトールおよびアドニトールからなる群より選ばれる1以上の物質。 - ケカビ科由来糸状菌が、ムコール属に属する糸状菌である、請求項1に記載のグルコース定量用組成物。
- 電子伝達体がフェリシアン化カリウムである、請求項1または2に記載のグルコース定量用組成物。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のグルコース定量用組成物を反応層に備えるグルコース測定用センサ。
- 請求項3に記載のグルコース定量用組成物または請求項4に記載のグルコース測定用センサを用いてグルコースを定量する方法。
- ケカビ科由来糸状菌由来FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼ、電子伝達体、スメクタイトを少なくとも含むグルコース定量用組成物に、グリシルグリシン、ソルビトールおよびアドニトールからなる群より選ばれる1以上の物質を添加することを特徴とする、グルコース定量用組成物の安定性向上方法。
- ケカビ科由来糸状菌がムコール属に属する糸状菌である、請求項6に記載のグルコース定量用組成物の安定性向上方法。
- 電子伝達体がフェリシアン化カリウムである、請求項6または7に記載のグルコース定量用組成物の安定性向上方法。
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