次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるセンサ素子101の構成の一例を概略的に示した斜視図である。図2は、センサ素子101を備えたガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。なお、図2のうちセンサ素子101の断面は、図1のA−A断面に相当する。図3は、図1のB−B断面図である。なお、センサ素子101は長尺な直方体形状をしており、このセンサ素子101の長手方向(図2の左右方向)を前後方向とし、センサ素子101の厚み方向(図2の上下方向)を上下方向とする。また、センサ素子101の幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向とする。
ガスセンサ100は、例えば車両の排ガス管などの配管に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO2等の特定ガスの濃度を測定するために用いられる。本実施形態では、ガスセンサ100は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。センサ素子101は、素子本体101aと、素子本体101aを被覆する多孔質保護層90(本発明の保護層に相当)と、を備えている。なお、素子本体101aは、センサ素子101のうち多孔質保護層90以外の部分を指す。
図2に示すように、センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
センサ素子101の一先端部(前方向の端部)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位をガス流通部とも称する。
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
大気導入層48は、多孔質セラミックスからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるように可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定用ポンプセル41の動作によりNOx濃度が測定される。
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
測定用ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
第4拡散律速部45は、セラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護膜としても機能する。測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とを組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75とを備えている。
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
また、素子本体101aは、図1〜3に示すように、一部が多孔質保護層90により被覆されている。多孔質保護層90は、素子本体101aの6個の表面のうち5面にそれぞれ形成された多孔質保護層90a〜90eを備えている。多孔質保護層90aは、素子本体101aの上面の一部を被覆している。多孔質保護層90bは、素子本体101aの下面の一部を被覆している。多孔質保護層90cは、素子本体101aの左面の一部を被覆している。多孔質保護層90dは、素子本体101aの右面の一部を被覆している。多孔質保護層90eは、素子本体101aの前端面の全面を被覆している。なお、多孔質保護層90a〜90dの各々は、自身が形成されている素子本体101aの表面のうち、素子本体101aの前端面から後方に向かって距離L(図2参照)までの領域を全て覆っている。また、多孔質保護層90aは、外側ポンプ電極23が形成された部分も被覆している。多孔質保護層90eは、ガス導入口10も覆っているが、多孔質保護層90eが多孔質体であるため、被測定ガスは多孔質保護層90eの内部を流通してガス導入口10に到達可能である。多孔質保護層90は、素子本体101aの一部(素子本体101aの前端面を含む、前端面から距離Lまでの部分)を被覆して、その部分を保護するものである。多孔質保護層90は、例えば被測定ガス中の水分等が付着して素子本体101aにクラックが生じるのを抑制する役割を果たす。なお、距離Lは、ガスセンサ100において素子本体101aが被測定ガスに晒される範囲や、外側ポンプ電極23の位置などに基づいて、(0<距離L<素子本体101aの長手方向の長さ)の範囲で定められている。
多孔質保護層90a〜90eの各々は、2層構造になっている。多孔質保護層90aは、多孔質の外側保護層91aと、多孔質の内側保護層92aと、を備えている。内側保護層92aは、素子本体101aの上面の一部を被覆している。外側保護層91aは、内側保護層92aよりも外側(素子本体101aからみて内側保護層92aよりも遠い側)に位置しており、内側保護層92aの上側に積層されている。同様に、多孔質保護層90bは、外側保護層91bと、内側保護層92bとを備えている。多孔質保護層90cは、外側保護層91cと、内側保護層92cとを備えている。多孔質保護層90dは、外側保護層91dと、内側保護層92dとを備えている。多孔質保護層90eは、外側保護層91eと、内側保護層92eとを備えている。外側保護層91a〜91eは、隣接する層同士が互いに接続されている。外側保護層91a〜91eを外側保護層91と総称する。内側保護層92a〜92eは、隣接する層同士が互いに接続されている。内側保護層92a〜92eを内側保護層92と総称する。
多孔質保護層90(外側保護層91及び内側保護層92)は、多孔質体であり、例えば構成粒子としてセラミックス粒子を含むセラミックスである。セラミックス粒子としては、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、スピネル(MgAl2O4)、ムライト(Al6O13Si2)などの金属酸化物の粒子が挙げられ、多孔質保護層90はこれらの少なくともいずれかを含んでいることが好ましい。本実施形態では、多孔質保護層90はアルミナ多孔質体からなるものとした。
多孔質保護層90aは、内側保護層92aと、内側保護層92aよりも外側に位置し且つ平均気孔径が内側保護層92aよりも小さい外側保護層91aを有している。すなわち、外側保護層91aの平均気孔径R1[μm]と内側保護層92aの平均気孔径R2との比R1/R2が値1.0未満となっている。詳細は後述するが、これにより、多孔質保護層90aの表面に付着した水分は、外側保護層91aに保持されやすくなり、内側保護層92a及び素子本体101aには到達しにくくなる。そのため、素子本体101a外側(ここでは素子本体101aのうち第2固体電解質層6など素子本体101aの上側の部分)の冷えが抑制され、水滴付着時の素子本体101a内側と素子本体101a外側との温度勾配がより緩やかになる。したがって、素子本体101aの耐被水性が向上する。同様に、多孔質保護層90b〜90eの各々は、内側保護層92b〜92eの各々と、内側保護層92b〜92eの各々よりも外側に位置し且つ平均気孔径が内側保護層92b〜92eの各々よりも小さい外側保護層91b〜91eの各々を有している。すなわち、多孔質保護層90b〜90eのいずれも、平均気孔径R1[μm]と平均気孔径R2との比R1/R2が値1.0未満となっている。これにより、多孔質保護層90aと同様に、多孔質保護層90b〜90eのいずれについても、表面に付着した水分が素子本体101aに到達しにくくなり、素子本体101a外側(多孔質保護層90b〜90eの各々に対応する素子本体101aの下側,左側,右側,前側)の冷えが抑制され、水滴付着時の素子本体101a内側と素子本体101a外側との温度勾配がより緩やかになる。したがって、素子本体101aの耐被水性が向上する。なお、平均気孔径R1,R2は、いずれもメディアン径(D50)とする。メディアン径(D50)は、気孔径分布測定の容積基準の積算分率における気孔径が小さい側から50%の気孔径を意味する。
多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、比R1/R2が値0.8以下であることが好ましい。こうすれば、外側保護層91が水分をより保持しやすくなるため、素子本体101aの耐被水性がより向上する。多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、比R1/R2は値0.4以下であることがより好ましく、値0.1以下であることがさらに好ましい。また、多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、比R1/R2は値0.01以上であってもよいし、値0.02以上であってもよい。なお、比R1/R2の上述した上限値と下限値とは適宜組み合わせることができる。また、外側保護層91a〜91eのいずれか1以上について、平均気孔径R1は0.5μm以上としてもよいし、平均気孔径R1は40μm以下としてもよい。内側保護層92a〜92eのいずれか1以上について、平均気孔径R2は5μm以上としてもよいし、平均気孔径R2は100μm以下としてもよい。
多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、外側保護層91の90%気孔径(D90)[μm]と、内側保護層92の10%気孔径(D10)[μm]との比D90/D10が値2.0以下であることが好ましい。こうすれば、外側保護層91が水分をより保持しやすく且つ内側保護層92には水分がより到達しにくくなり、素子本体101aの耐被水性がより向上する。なお、比D90/D10の値は、比R1/R2と同様に、多孔質保護層90a〜90eの各々について自身が有する外側保護層と内側保護層とに基づいて導出される値である。例えば、多孔質保護層90aの比D90/D10は、外側保護層91aのD90と、内側保護層92aのD10とに基づいて導出される。また、90%気孔径(D90)は、気孔径分布測定の容積基準の積算分率における気孔径が小さい側から90%の気孔径を意味する。10%気孔径(D10)は、気孔径分布測定の容積基準の積算分率における気孔径が小さい側から10%の気孔径を意味する。多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、比D90/D10は値1.5以下であることがより好ましく、値1.0以下であることがさらに好ましく、値0.5以下であることが特に好ましい。また、多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、比D90/D10は値0.1以上としてもよい。外側保護層91a〜91eのいずれか1以上について、D90は100μm以下としてもよく、60μm以下としてもよく、D90は1μm以上としてもよく、2μm以上としてもよい。内側保護層92a〜92eのいずれか1以上について、D10は1μm以上としてもよく、5μm以上としてもよく、D10は50μm以下としてもよく、40μm以下としてもよい。外側保護層91a〜91eのいずれか1以上について、D90と平均気孔径R1との比D90/R1は、値4以下が好ましく、値2以下がより好ましく、値1.5以下がさらに好ましい。比D90/R1は、値1以上としてもよく、値1.2以上としてもよい。内側保護層92a〜92eのいずれか1以上について、D10と平均気孔径R2との比D10/R2は、値0.1以上が好ましく、値0.2以上がより好ましく、値0.5以上がさらに好ましい。比D10/R2は、値1以下としてもよく、値0.8以下としてもよい。なお、比D90/D10の上述した上限値と下限値とは適宜組み合わせることができる。同様に、D90の上述した上限値と下限値とは適宜組み合わせることができる。D10の上述した上限値と下限値とは適宜組み合わせることができる。比D90/R1の上述した上限値と下限値とは適宜組み合わせることができる。比D10/R2の上述した上限値と下限値とは適宜組み合わせることができる。
多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、外側保護層91の厚みT1[μm]と内側保護層92の厚みT2[μm]との比T1/T2が値1.0以下であることが好ましい。こうすれば、内側保護層92の厚みT2が比較的大きいことで素子本体101aと外側保護層91との距離が比較的大きくなり、素子本体101a外側の冷えが抑制されて耐被水性が向上する。なお、比T1/T2の値は、比R1/R2と同様に、多孔質保護層90a〜90eの各々について自身が有する外側保護層と内側保護層とに基づいて導出される値である。例えば、多孔質保護層90aの比T1/T2は、外側保護層91aの厚みT1と、内側保護層92aの厚みT2とに基づいて導出される。多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、比T1/T2は値0.6以下であることがより好ましく、値0.2以下であることがさらに好ましい。また、多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、比T1/T2は値0.1以上としてもよい。外側保護層91a〜91eのいずれか1以上について、厚みT1は、30μm以上としてもよく、50μm以上としてもよく、300μm以下としてもよく、200μm以下としてもよく、150μm以下としてもよく、100μm以下としてもよい。内側保護層92a〜92eのいずれか1以上について、厚みT2は、170μm以上としてもよく、200μm以上としてもよく、250μm以上としてもよく、400μm以下としてもよい。多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、厚み(本実施形態ではT1+T2)は270μm以上としてもよいし、700μm以下としてもよい。なお、比T1/T2の上述した上限値と下限値とは適宜組み合わせることができる。同様に、厚みT1の上述した上限値と下限値とは適宜組み合わせることができる。厚みT2の上述した上限値と下限値とは適宜組み合わせることができる。
外側保護層91a〜91eのいずれか1以上について、気孔率P1は10%以上であることが好ましい。気孔率P1が10%以上では、外側保護層91内の気孔容積が水分量に対して不足しにくくなり、外側保護層91が水分を十分保持しやすくなる。外側保護層91a〜91eのいずれか1以上について、気孔率P1は60%以下であることが好ましい。気孔率P1が60%以下では、水分が外側保護層91を通り抜けにくくなり、外側保護層91が水分を十分保持しやすくなる。内側保護層92a〜92eのいずれか1以上について、気孔率P2は20%以上であることが好ましい。気孔率P2が20%以上では、外側保護層91と素子本体101aとの間の内側保護層92による断熱効果が不十分になるのを抑制できる。内側保護層92a〜92eのいずれか1以上について、気孔率P2は70%以下であることが好ましい。気孔率P2が70%以下では、内側保護層92の強度が不十分になるのを抑制できる。
多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、外側保護層91の気孔率P1[%]と内側保護層92の気孔率P2[%]との比P1/P2は値2未満が好ましく、値1未満がより好ましく、値0.5以下がさらに好ましい。多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、比P1/P2は値0.2以上としてもよい。比P1/P2の値が小さいほど、外側保護層91が水分を十分保持しやすく、且つ内側保護層92の断熱効果が不十分になるのを抑制できるから、素子本体101aの耐被水性が向上する。なお、比P1/P2の値は、比R1/R2と同様に、多孔質保護層90a〜90eの各々について自身が有する外側保護層と内側保護層とに基づいて導出される値である。例えば、多孔質保護層90aの比P1/P2は、外側保護層91aの気孔率P1と、内側保護層92aの気孔率P2とに基づいて導出される。なお、比P1/P2の上述した上限値と下限値とは適宜組み合わせることができる。
なお、外側保護層91aの気孔率P1は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)を用いて以下のように導出した値とする。まず、外側保護層91aの断面を観察面とするように外側保護層91aの厚み方向に沿ってセンサ素子101を切断し、切断面の樹脂埋め及び研磨を行って観察用試料とする。続いて、SEMの倍率を1000倍に設定して観察用試料の観察面を撮影することで外側保護層91aのSEM画像を得る。次に、得た画像を画像解析することにより、画像中の画素の輝度データの輝度分布から判別分析法(大津の二値化)で閾値を決定する。その後、決定した閾値に基づいて画像中の各画素を物体部分と気孔部分とに2値化して、物体部分の面積と気孔部分の面積とを算出する。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合を、気孔率P1として導出する。外側保護層91b〜91eの各々の気孔率P1や、内側保護層92a〜92eの各々の気孔率P2も、同様にして導出した値とする。
また、外側保護層91aの平均気孔径R1及びD90は、上記のSEM画像を2値化した画像を用いて、画像解析ソフトにより各気孔の直径の計測及びそれに基づく気孔径分布(ヒストグラム)の導出を行い、導出された気孔径分布に基づいて導出された値とする。外側保護層91b〜91eの各々の平均気孔径R1及びD90や、内側保護層92a〜92eの各々の平均気孔径R2及びD10も、同様にして導出した値とする。なお、SEM画像の取得は、日立ハイテクノロジーズ製SU1510を用いて行うことができる。SEM画像を用いた上記のような画像解析(気孔径分布の導出及びR1,D90,R2,及びD10の導出)は、MediaCybernetics製Image−Pro Plus 7.0を用いて行うことができる。
また、本実施形態では、外側保護層91aの厚みT1及び内側保護層92aの厚みT2は、以下のように導出した値とする。まず、上記と同様に多孔質保護層90aの断面を観察面とするSEM画像を取得し、外側保護層91aと内側保護層92aとの境界を上記のSEM画像を用いて特定する。また、多孔質保護層90aが形成された素子本体101aの表面(ここでは第2固体電解質層6の上面)に垂直な方向を厚み方向として特定する。そして、多孔質保護層90aの表面(ここでは上面)から境界までの厚み方向の距離を厚みT1として導出する。また、素子本体101aの表面から境界までの厚み方向の距離を厚みT2として導出する。多孔質保護層90b〜90eの各々の厚みT1及び厚みT2も、同様にして導出した値とする。
なお、本実施形態では、平均気孔径R1,D90,厚みT1,気孔率P1の各々の値は、外側保護層91a〜91eのいずれも同じ値とした。同様に、平均気孔径R2,D10,厚みT2,気孔率P2の各々の値は、内側保護層92a〜92eのいずれも同じ値とした。
次に、こうしたガスセンサ100の製造方法について説明する。ガスセンサ100の製造方法では、まず素子本体101aを製造し、次に素子本体101aに多孔質保護層90を形成してセンサ素子101を製造する。
最初に、素子本体101aを製造する方法について説明する。まず、6枚の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。そして、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6のそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに電極や絶縁層、抵抗発熱体等のパターンを印刷する。このように各種のパターンを形成したあと、グリーンシートを乾燥する。その後、それらを積層して積層体とする。こうして得られた積層体は、複数個の素子本体101aを包含したものである。その積層体を切断して素子本体101aの大きさに切り分け、所定の焼成温度で焼成して、素子本体101aを得る。
次に、素子本体101aに多孔質保護層90を形成する方法について説明する。本実施形態では、焼成後に外側保護層91及び内側保護層92となる外側保護層用スラリー及び内側保護層用スラリーを用いてディッピング法により多孔質保護層90を形成するものとした。外側保護層用スラリーは、例えば、外側保護層91の原料粉末(例えば上述したセラミックス粒子であり、本実施形態ではアルミナ)と造孔材とを溶媒に分散させたものである。造孔材としては、焼結時に消失する材料を用いることができ、例えばテオブロミン,アクリル樹脂などが挙げられる。溶媒は、有機溶媒(例えばアセトンなど)としてもよいし、無機溶媒(例えば水など)としてもよい。内側保護層用スラリーも、原料粉末として内側保護層92用のものを用いる点以外は同様である。外側保護層用スラリーと内側保護層用スラリーとの少なくとも一方には、焼結助剤(バインダー)を添加してもよい。外側保護層用スラリー中の原料粉末の配合割合、造孔材の配合割合,造孔材の平均粒径及び造孔材の90%粒子径(D90)は、例えば目的とする外側保護層91の平均気孔径R1,D90及び気孔率P1に応じて適宜調整する。なお、造孔材の90%粒子径は、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定の体積基準の積算分率における粒径が小さい側からの90%径の値を意味する。同様に、内側保護層用スラリー中の原料粉末の配合割合、造孔材の配合割合,造孔材の平均粒径及び造孔材の10%粒子径(D10)は、例えば目的とする内側保護層92の平均気孔径R2,D10及び気孔率P2に応じて適宜調整する。なお、造孔材の10%粒子径は、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定の体積基準の積算分率における粒径が小さい側からの10%径の値を意味する。また、外側保護層用スラリー及び内側保護層用スラリーの粘度は、それぞれ外側保護層91の厚みT1及び内側保護層92の厚みT2に応じて適宜調整する。なお、厚みT1と厚みT2との少なくとも一方を、後述するディッピング(ディッピング及びその後の乾燥)の回数を増やすことで調整してもよい。
上記の外側保護層用スラリー及び内側保護層用スラリーを用意すると、まず、内側保護層用スラリーを用いて、素子本体101aの固体電解質層(層1〜6)の表面の少なくとも一部をディッピングにより被覆して被膜を形成する。ディッピングは、例えば、以下のように行う。まず、素子本体101aの前端面を下方に向けて、内側保護層用スラリーの表面に対して垂直に素子本体101aを浸漬する。このとき、素子本体101aの前端から距離Lまでの領域を内側保護層用スラリーに浸漬する。そして、素子本体101aを後方に動かして内側保護層用スラリーからゆっくりと引き上げる。これにより、素子本体101aの前端から後方に距離Lまでの領域が、内側保護層用スラリーからなる被膜で被覆される。なお、ディッピング前に、素子本体101aのうち被膜で被覆しない領域をテーピング等で覆っておき、スラリーの付着を防いでもよい。また、ディッピングの方法(素子本体101aを動かす向きなど)はこれに限らず、例えば上述した特許文献1などに記載された公知の方法を用いることができる。素子本体101aを引き上げると、被膜を乾燥させる。乾燥中は素子本体101aの上面又は下面(素子本体101aの表面のうち、被膜の被覆面積が最も大きい面)を鉛直下方向に向けておくことが好ましい。乾燥後に、同様にして外側保護層用スラリーを用いてディッピングによる被膜の形成及び乾燥を行う。
以上のように外側保護層用スラリー及び内側保護層用スラリーの被膜を形成して乾燥させたあと、被膜を所定の焼成温度で焼成する。これにより、被膜が焼結して外側保護層91及び内側保護層92を備えた多孔質保護層90となり、センサ素子101を得る。
その後、センサ素子101を組み込んだガスセンサ100を製造する。例えば、センサ素子101に素子封止体を取り付けて封止固定し、センサ素子101の後端側にコネクタ及びリード線を取り付ける。また、素子封止体のうちセンサ素子101の先端側に保護カバーを取り付ける。また。素子封止体のうちセンサ素子101の後端側に外筒を取り付けると共に、外筒からリード線を外部に引き出す。なお、このようなセンサ素子101を組み込んでガスセンサ100を組み立てる工程は公知であり、例えば特開2015−178988号公報に記載されている。
こうして構成されたガスセンサ100の使用時には、被測定ガスがガスセンサ100の保護カバー内に流入してセンサ素子101に到達し、多孔質保護層90を通過してガス導入口10内に流入する。そして、センサ素子101は、ガス導入口10内に流入した被測定ガス中のNOx濃度を検出する。このとき、被測定ガスに含まれる水分も保護カバー内に侵入して、多孔質保護層90の表面に付着する場合がある。素子本体101aは、上述したようにヒータ72により固体電解質が活性化する温度(例えば800℃など)に調整されている。そのため、一般的に、センサ素子101に水分が付着すると素子本体101a外側の温度が急激に低下して、素子本体101a内側と素子本体101a外側との温度勾配が急峻になり、素子本体101aにクラックが生じる場合がある。ここで、本実施形態の多孔質保護層90は、上述したように外側保護層91と内側保護層92との平均気孔径の比R1/R2が値1.0未満となっている。すなわち、外側保護層91が内側保護層92よりも平均気孔径が小さいことで、外側保護層91の気孔の毛細管力が内側保護層92の気孔よりも大きくなっている。これにより、例えば図3の外側保護層91a及び内側保護層92aの拡大部分に示すように、多孔質保護層90の表面に付着した水分は、外側保護層91の内部に広がって外側保護層91に保持されやすくなる。一方、外側保護層91から内側保護層92には水分が到達しにくくなる。そのため、素子本体101aには水が到達しにくくなり、素子本体101a外側の冷えが抑制され、水滴付着時の素子本体101a内側と素子本体101a外側との温度勾配がより緩やかになる。以上により、本実施形態のセンサ素子101は、素子本体101aの耐被水性が向上している。
以上詳述した本実施形態のセンサ素子101によれば、外側保護層91及び内側保護層92の平均気孔径の比R1/R2が値1.0未満であることで、素子本体101aの耐被水性が向上する。また、比R1/R2が値0.8以下であることで、外側保護層91が水分をより保持しやすくなるため、素子本体101aの耐被水性がより向上する。また、比R1/R2が値0.4以下であることで、素子本体101aの耐被水性がさらに向上する。
また、外側保護層91及び内側保護層92の比D90/D10が値2.0以下となっている。これにより、外側保護層91の気孔はD90が比較的小さくなっており、外側保護層91は平均気孔径が小さいだけでなく大きい径の気孔が少ない傾向の気孔径分布を有することになる。また、内側保護層92の気孔はD10が比較的大きくなっており、内側保護層92は平均気孔径が大きいだけでなく小さい径の気孔が少ない傾向の気孔径分布を有することになる。そのため、外側保護層91が水分をより保持しやすく且つ内側保護層92には水分がより到達しにくくなり、素子本体101aの耐被水性がより向上する。また、比D90/D10が値1.5以下であることで、素子本体101aの耐被水性がさらに向上する。
さらに、外側保護層91及び内側保護層92の比T1/T2が値1.0以下であることで、内側保護層92の厚みT2が比較的大きくなり、素子本体101aと外側保護層91との距離を比較的大きくすることができる。これにより、例えば外側保護層91内の水が素子本体101aに到達しにくくなったり、外側保護層91と素子本体101aとが内側保護層92によって断熱されたりする。したがって、素子本体101a外側の冷えが抑制されて、センサ素子101の素子本体101aの耐被水性がより向上する。また、比T1/T2が値0.6以下であることで、素子本体101aの耐被水性がさらに向上する。
さらにまた、外側保護層91の気孔率P1が10%以上では、外側保護層91内の気孔容積が水分量に対して不足しにくくなり、外側保護層91が水分を十分保持しやすくなる。気孔率P1が60%以下では、水分が外側保護層91を通り抜けにくくなり、外側保護層91が水分を十分保持しやすくなる。内側保護層92の気孔率P2が20%以上では、外側保護層91と素子本体101aとの間の断熱効果が不十分になるのを抑制できる。気孔率P2が70%以下では、内側保護層92の強度が不十分になるのを抑制できる。また、比P1/P2の値が小さいほど、外側保護層91が水分を十分保持しやすく、且つ内側保護層92の断熱効果が不十分になるのを抑制できるから、素子本体101aの耐被水性がより向上する。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
例えば、上述した実施形態では、多孔質保護層90a〜90eのいずれについても比R1/R2が値1.0未満となっているが、多孔質保護層90a〜90eのうち1以上について比R1/R2が値1.0未満であればよい。多孔質保護層90a〜90eのうち1つでも比R1/R2が値1.0未満になっていれば、少なくともその多孔質保護層については上述した効果が得られる。ただし、多孔質保護層90a〜90eのうち比R1/R2が値1.0未満となっている多孔質保護層は多い方が好ましく、多孔質保護層90a〜90eのいずれも(すなわち多孔質保護層90全体)が比R1/R2が値1.0未満となっていることがより好ましい。
上述した実施形態では、例えば多孔質保護層90aのいずれの箇所で比R1/R2などの各パラメータを導出するかについて言及しなかったが、これについて説明する。多孔質保護層90aのうちいずれか1箇所でも、多孔質保護層90aの厚み方向に沿った断面において測定した比R1/R2が値1.0未満になっていれば、比R1/R2が値1.0未満になっている箇所が全くない場合と比べて、上述した効果が得られる。ただし、多孔質保護層90aの厚み方向に垂直な表面方向にある程度離れた複数箇所(例えば3箇所)で、比R1/R2が値1.0未満になっていることが好ましい。これは、多孔質保護層90b〜90eについても同様である。また、比R1/R2以外の上述したパラメータ(例えば比D90/D10など)についても同様である。
上述した実施形態では、多孔質保護層90は多孔質保護層90a〜90eを有するものとしたが、これに限られない。多孔質保護層90は素子本体101aの少なくとも一部を被覆していればよい。例えば、多孔質保護層90が多孔質保護層90a〜90eのうち1以上を備えなくてもよい。
上述した実施形態では、多孔質保護層90a〜90eの各々は2層構造になっていたが、これに限られない。例えば、多孔質保護層90は、外側保護層91よりもさらに外側に他の層を有していてもよいし、外側保護層91と内側保護層92との間に他の層を有していてもよいし、内側保護層92よりもさらに素子本体101a側に他の層を有していてもよい。なお、多孔質保護層90が3層以上の構造を有する場合、層同士の平均気孔径の差が最大となり且つ多孔質保護層90の外表面に近い側の層が他方の層よりも平均気孔径が小さくなるような2つの層を特定して、外表面に近い側を外側保護層91、素子本体101aに近い側を内側保護層92とする。多孔質保護層90が3層以上の場合でも、外側保護層91と内側保護層92との比R1/R2が値1.0未満であれば、上述した効果が得られる。なお、多孔質保護層90が3層以上の構造を有する場合、各層の境界を上述したSEM画像により特定して、厚みT1,T2などを導出すればよい。
上述した実施形態では、多孔質保護層90は、外側保護層91と内側保護層92との2層構造になっており、外側保護層91から内側保護層92に向かってステップ関数的に平均気孔径が大きくなる傾向を有していたが、これに限られない。例えば、多孔質保護層90は、外側保護層91から内側保護層92に向かって平均気孔径が大きくなる傾向を有するように配置された合計3層以上(外側保護層91及び内側保護層92を含めて3層以上)の層を有していてもよい。例えば、多孔質保護層90は、外側保護層91と内側保護層92との間に、平均気孔径がR1超過R2未満である中間保護層を1層有していてもよい。あるいは、多孔質保護層90は、外側保護層91と内側保護層92との間に、平均気孔径がR1超過R2未満であり且つ外側保護層91側から内側保護層92側に向かって平均気孔径が大きくなる傾向を有するように配置された2層以上の中間保護層を有していてもよい。また、多孔質保護層90が外側保護層91から内側保護層92に向かって平均気孔径が大きくなる傾向を有するように配置された合計3層以上の層を有している場合において、多孔質保護層90は外側保護層91から内側保護層92に向かってステップ関数的に平均気孔径が大きくなる傾向を有していてもよいし、連続的に平均気孔径が大きくなる傾向を有していてもよい。連続的な平均気孔径の変化の例としては、例えば直線状,曲線状,折れ線状,又はこれらのうち2以上の組み合わせなどが挙げられる。これらの種々の態様の場合でも、外側保護層91と内側保護層92との比R1/R2が値1.0未満であれば、上述した効果が得られる。なお、外側保護層91と内側保護層92との間に他の層がある場合、各層の境界を上述したSEM画像により特定して、厚みT1,T2などを導出すればよい。なお、多孔質保護層90が外側保護層91から内側保護層92に向かって平均気孔径が大きくなる傾向を有している場合において、各層の境界が特定できない場合は、以下の手法により外側保護層91と内側保護層92とを特定する。まず、多孔質保護層90の厚み方向に沿った断面のSEM画像に基づいて、厚み方向に沿った平均気孔径の分布を導出する。そして、この平均気孔径の分布に基づいて、2点間の平均気孔径の差が最大となり且つ多孔質保護層90の外表面に近い側の点が他方の点よりも平均気孔径が小さくなるような2点を特定する。そして、この2点のうち多孔質保護層90の外表面に近い側の点Aの平均気孔径を、外側保護層91の平均気孔径R1とし、他方の点Bの平均気孔径を内側保護層92の平均気孔径R2とする。そして、平均気孔径の分布において、点Aの周辺の厚み方向に沿った領域のうち平均気孔径が(平均気孔径R1×1.1)以下の領域を特定し、この領域を外側保護層91とする。同様に、平均気孔径の分布において、点Bの周辺の厚み方向に沿った領域のうち平均気孔径が(平均気孔径R2×0.9)以上の領域を特定し、この領域を内側保護層92とする。そして、特定した外側保護層91に基づいてD90,厚みT1,及び気孔率P1を導出し、特定した内側保護層92に基づいてD10,厚みT2,及び気孔率P2を導出する。なお、多孔質保護層90が外側保護層91から内側保護層92に向かって平均気孔径が大きくなる傾向を有している場合に限らず、外側保護層91とそれ以外の層との境界や内側保護層92とそれ以外の層との境界が特定できない場合には、上記の手法を用いるものとする。
上述した実施形態において、例えば図4,5に示すように、多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、比T1/T2が値1.0より大きくてもよい。また、多孔質保護層90a〜90eのいずれか1以上について、比T1/T2が値30.0以下であってもよい。多孔質保護層90a〜90eのいずれも(すなわち多孔質保護層90全体)が比R1/R2が値1.0より大きくてもよい。多孔質保護層90a〜90eのいずれも(すなわち多孔質保護層90全体)が比R1/R2が値30.0以下であってもよい。
上述した実施形態において、気孔率P1は5%以上としてもよい。気孔率P1は10%未満としてもよい。気孔率P2は10%以上としてもよい。気孔率P2は20%未満としてもよい。
上述した実施形態では、外側保護層91及び内側保護層92はいずれも同じ材質(アルミナ)のセラミックスとしたが、これに限らず両者の材質が異なっていてもよい。
上述した実施形態では、ディッピング法により多孔質保護層90を形成したが、これに限られない。例えば、スクリーン印刷、ゲルキャスト法、又はプラズマ溶射などにより多孔質保護層90を形成してもよい。
以下には、センサ素子を具体的に作製した例を実施例として説明する。実験例1〜24,27,28〜42が本発明の実施例に相当し、実験例25,26が比較例に相当する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
実験例1として、上述した実施形態のセンサ素子101の製造方法により、センサ素子を作製した。まず、前後方向の長さが67.5mm、左右方向の幅が4.25mm、上下方向の厚さが1.45mmの図2に示した素子本体101aを作製した。なお、素子本体101aを作製するにあたり、セラミックスグリーンシートは、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合し、テープ成形により成形した。
続いて、内側保護層用スラリーを作製した。まず、原料粉末として平均粒径が0.3μmのアルミナ粉末を準備し、この原料粉末を100℃,2時間乾燥した。また、焼結助剤である二酸化珪素を溶媒であるアセトン及び酢酸n−ブチルを溶解してバインダー液とした。このバインダー液に、乾燥後の原料粉末とアクリル製の造孔材とをポットミル混合機で回転数200rpm〜250rpmで混合することで、内側保護層用スラリーを作成した。なお、造孔材は、表1に示す平均粒径及び10%粒子径(D10)のものを用いた。また、原料粉末と造孔材との配合割合(体積%)は、表1に示す値とした。なお、スラリーの粘度は10〜15[Pa・s]であった。なお、造孔材の平均粒径及び10%粒子径(D10)は、堀場製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置(LA−920)を用いて測定した。
次に、上述した実施形態と同様に、内側保護層用スラリーを用いたディッピングにより素子本体101aの表面に被膜を形成した。なお、距離Lは10mmとした。また、センサ素子101をスラリーから引き抜くときの引き上げ速度は5mm/sとした。そして、連続乾燥炉を用いて80℃〜90℃で15分×2回の乾燥を行い、センサ素子101の被膜を乾燥させた。なお、乾燥時には、図3におけるセンサ素子101の下面を鉛直下向きにしておいた。所定の厚みが得られるまで、この処理を繰り返した。
その後、同様に外側保護層用スラリーを作製し、ディッピングにより被膜を形成した。外側保護層用スラリーは、原料粒子と造孔材との配合割合と、造孔材の平均粒径及び90%粒子径(D90)を表1に示す値とした点以外は、内側保護層用スラリーと同様に作製した。
最後に被膜を焼成した。具体的には、100℃/hの昇温速度で1100℃まで昇温し、1100℃で3時間経過した後、常温まで自然冷却した。冷却速度は、1100℃〜1000℃までが131.4℃/hであり、1000℃〜常温までが250℃/hであった。これにより、被膜が焼結して図2,3に示した2層構造の多孔質保護層90が形成され、実験例1のセンサ素子101を得た。
[実験例2〜8]
比P1/P2及び比T1/T2をそれぞれ一定となるようにしつつ、比R1/R2及び比D90/D10を表1に示すように種々変更したセンサ素子101を作製して、実験例2〜8とした。
[実験例9〜14]
比P1/P2、比R1/R2、及び比T1/T2をそれぞれ一定となるようにしつつ、比D90/D10を表1に示すように種々変更したセンサ素子101を作製して、実験例9〜14とした。
[実験例15〜17]
比P1/P2、比R1/R2、及び比D90/D10をそれぞれ一定となるようにしつつ、比T1/T2を表1に示すように種々変更したセンサ素子101を作製して、実験例15〜17とした。
[実験例18〜21]
比R1/R2、比D90/D10、及び比T1/T2をそれぞれ一定となるようにしつつ、比P1/P2を表1に示すように種々変更したセンサ素子101を作製して、実験例18〜21とした。
[実験例22〜24]
比P1/P2、比R1/R2、比D90/D10、及び比T1/T2、をそれぞれ一定となるようにしつつ、外側保護層用スラリー及び内側保護層用スラリーの原料粒子をジルコニア粉末に変更したセンサ素子101を作製して、実験例22とした。同様に、外側保護層用スラリー及び内側保護層用スラリーの原料粒子をスピネル粉末に変更したセンサ素子101を実験例23とし、ムライト粉末に変更したセンサ素子101を実験例24とした。なお、実験例22〜24は、原料粒子の材質以外は実験例3と同じ条件でセンサ素子101を作製した。
[実験例25,26]
比R1/R2が値1.0を超えるように変更したセンサ素子101を作製して、実験例25,26とした。
[実験例27]
外側保護層91から内側保護層92に向かって平均気孔径が大きくなる傾向になるように、多孔質保護層90を4層構造としたセンサ素子101を作製して、実験例27とした。実験例27では、原料粒子としてアルミナ粉末を用いた表2に示す第1〜第4スラリーを用意し、第4,第3,第2,第1スラリーの順にディッピングを行って、4層構造の多孔質保護層90を有するセンサ素子101を作製した。なお、第1スラリーは外側保護層用スラリーであり、実験例3の外側保護層用スラリーと同じものを用いた。第4スラリーは内側保護層用スラリーであり、実験例3の内側保護層用スラリーと同じものを用いた。
[外側保護層及び内側保護層のパラメータの導出]
実験例1〜27の各々について、上述した方法により外側保護層91の気孔率P1,平均気孔径R1,90%気孔径(D90),及び厚みT1と、内側保護層92の気孔率P2,平均気孔径R2,10%気孔径(D10),及び厚みT2と、を導出した。なお、SEM画像の取得及び画像解析は、日立ハイテクノロジーズ製SU1510、及びMediaCybernetics製Image−Pro Plus 7.0を用いて行った。また、実験例1〜27のいずれも、平均気孔径R1,D90,厚みT1,気孔率P1の各々の値は、外側保護層91a〜91eのいずれも同じ値であった。同様に、平均気孔径R2,D10,厚みT2,気孔率P2の各々の値は、内側保護層92a〜92eのいずれも同じ値であった。
[耐被水性の評価]
実験例1〜27のセンサ素子について、多孔質保護層90の性能(素子本体101aの耐被水性)を評価した。具体的には、まず、ヒータ72に通電して温度を800℃とし、素子本体101aを加熱した。この状態で、大気雰囲気中で主ポンプセル21,補助ポンプセル50,主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80,補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81等を作動させて、第1内部空所内20内の酸素濃度を所定の一定値に保つように制御した。そして、ポンプ電流Ip0が安定するのを待った後、多孔質保護層90に水滴をたらし、ポンプ電流Ip0が所定の閾値を超えた値に変化したか否かに基づいて、素子本体101aのクラックの有無を判定した。なお、水滴による熱衝撃で素子本体101aにクラックが生じると、クラック部分を通過して第1内部空所内20内に酸素が流入しやすくなるため、ポンプ電流Ip0の値が大きくなる。そのため、ポンプ電流Ip0が実験で定められる所定の閾値を超えている場合に、水滴で素子本体101aにクラックが生じたと判定した。また、水滴の量を徐々に増やして複数回の試験を行い、初めてクラックが生じたときの水滴の量を耐被水量[μL]とした。なお、実験例1〜27のセンサ素子の各々について、耐被水量[μL]は3回試験を行った平均値として導出した。耐被水量が大きいほど、素子本体101aの耐被水性が高いことを意味する。
実験例1〜26の各々における、外側保護層用スラリー及び内側保護層用スラリーの原料粒子及び造孔材の情報と、外側保護層91及び内側保護層92に関する各種パラメータと、耐被水量と、を表1にまとめて示す。同様に、実験例27の各種情報を表2にまとめて示す。
表1からわかるように、平均気孔径の比R1/R2が値1.0未満である実験例1〜24はいずれも耐被水量が10μLを超えており、比R1/R2が値1を超えている実験例23,24と比較して耐被水量が多くなっていた。すなわち、比R1/R2が値1.0未満であることで、実験例1〜24は素子本体101aの耐被水性が向上していた。また、実験例1〜8の結果から、比R1/R2が小さいほど耐被水性が向上する傾向が見られた。実験例1〜8の結果から、比R1/R2は値0.8以下が好ましく、値0.4以下がより好ましく、値0.1以下がさらに好ましいと考えられる。また、実験例3と実験例7とは、互いに外側保護層91のD90の値が異なり、互いに内側保護層92のD10の値が異なっているが、比D90/D10の値は同じである。そして、実験例3,7は耐被水量は同程度であった。このことから、D90,D10の個々の値の大小よりも比D90/D10の値の大小が耐被水量により影響すると考えられる。
実験例9〜14の結果から、比D90/D10が小さいほど耐被水性が向上する傾向が見られた。実験例9〜14の結果から、比D90/D10は値2.0以下が好ましく、値1.5以下がより好ましく、値1.0以下がさらに好ましく、値0.5以下が特に好ましいと考えられる。
実験例15〜17の結果から、厚みの比T1/T2が小さいほど耐被水性が向上する傾向が見られた。実験例15〜17の結果から、比T1/T2は値1.0以下が好ましく、値0.6以下がより好ましく、値0.2以下がさらに好ましいと考えられる。
実験例18〜21の結果から、気孔率の比P1/P2が小さいほど耐被水性が向上する傾向が見られた。実験例18〜21の結果から、比P1/P2は値2未満が好ましく、値1未満がより好ましく、値0.5以下がさらに好ましいと考えられる。
実験例22〜24の耐被水量は、原料粒子の材質のみが異なる実験例3の耐被水量と同程度であった。この結果から、外側保護層91及び内側保護層92の原料粒子を変更しても、例えば比R1/R2が値1.0未満であることで同様の効果が得られると考えられる。
表2の実験例27の耐被水量は、外側保護層91及び内側保護層92の各種パラメータが同じえある実験例3の耐被水量と同じ値であった。この結果から、外側保護層91と内側保護層92との間に他の層が存在していても、例えば比R1/R2が値1.0未満であることで同様の効果が得られると考えられる。なお、実験例27の多孔質保護層90全体の厚みは400μmであった。
[実験例28〜34]
比P1/P2、比R1/R2、及び比D90/D10をそれぞれ一定となるようにしつつ、比T1/T2を表3に示すように種々変更し、それ以外については実験例1と同様のセンサ素子101を作製して、実験例28〜34とした。
[実験例35〜42]
素子本体101aは実験例1と同様に作製し、多孔質保護層90はプラズマ溶射を用いて形成してセンサ素子101作製し、実験例35〜42とした。実験例35〜42における多孔質保護層90の形成は、以下のように行った。溶射ガンはエリコンメテコ社製のSinplexPro−90を使用した。内側保護層92を形成するにあたり、溶射原料は平均粒径が20μmのアルミナとし、溶射出力,溶射距離及びガン角度は表4に示す値とし、プラズマ発生用の一次ガスであるArガスの流量は45L/minとし、プラズマ発生用の二次ガスであるN2ガスの流量は5L/minとし、溶射原料のキャリアガスであるArガスの流量は5L/minとした。この条件の下で、溶射ガンをストローク400mm、速度200mm/secで素子本体101aの前を走査させ、素子本体101aを100rpmで回転させながら、溶射ガンによる溶射を行って、表4に示す厚みT2となるように多孔質溶射膜を形成して内側保護層92とした。次に、外側保護層91を形成した。外側保護層91を形成するにあたり、溶射原料は内側保護層92と同じとし、溶射出力,溶射距離及びガン角度は表4に示す値とした。その他の条件は内側保護層92と同様の条件で表4に示す厚みT1となるように多孔質溶射膜形成して外側保護層91とした。
[外側保護層及び内側保護層のパラメータの導出]
実験例28〜42の各々について、実験例1〜27と同様に種々のパラメータを導出した。結果を表3,4に示す。実験例28〜42のいずれにおいても、平均気孔径R1,D90,厚みT1,気孔率P1の各々の値は、外側保護層91a〜91eのいずれも同じ値であった。同様に、実験例28〜42のいずれにおいても、平均気孔径R2,D10,厚みT2,気孔率P2の各々の値は、内側保護層92a〜92eのいずれも同じ値であった。
[耐被水性の評価]
実験例28〜42のセンサ素子について、実験例1〜27と同様の方法で耐被水量を導出した。結果を表3,4に示す。
表3,4からわかるように、平均気孔径の比R1/R2が値1.0未満である実験例28〜42はいずれも耐被水量が10μLを超えており、比R1/R2が値1を超えている実験例23,24と比較して耐被水量が多くなっていた。すなわち、実験例28〜42は素子本体101aの耐被水性が向上していた。実験例28〜34,39〜42の結果から、厚み比T1/T2が1.0超過30.0以下であっても、比R1/R2を値1.0未満とすることで素子本体101aの耐被水性が向上することが確認できた。実験例35〜42の結果から、プラズマ溶射により多孔質保護層90を形成した場合も、比R1/R2を値1.0未満とすることで素子本体101aの耐被水性が向上することが確認できた。また、実験例35,38,39,42の結果から、気孔率P1は5%以上10%未満であってもよいことが確認できた。また、実験例35,36,39,40の結果から、気孔率P2は10%以上20%未満であってもよいことが確認できた。