次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ100の縦断面図である。図2は、ガスセンサ100が備えるセンサ素子101の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。図3は、制御装置90と各セルとの電気的な接続関係を示すブロック図である。なお、センサ素子101は長尺な直方体形状をしており、このセンサ素子101の長手方向(図2の左右方向)を前後方向とし、センサ素子101の厚み方向(図2の上下方向)を上下方向とする。また、センサ素子101の幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向とする。
図1に示すように、ガスセンサ100は、センサ素子101と、センサ素子101の前端側を保護する保護カバー130と、センサ素子101と導通するコネクタ150を含むセンサ組立体140と、制御装置90(図3参照)とを備えている。このガスセンサ100は、図示するように例えば車両の排ガス管などの配管190に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO2等の特定ガスの濃度を測定するために用いられる。本実施形態では、ガスセンサ100は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。
保護カバー130は、センサ素子101の前端を覆う有底筒状の内側保護カバー131と、この内側保護カバー131を覆う有底筒状の外側保護カバー132とを備えている。内側保護カバー131及び外側保護カバー132には、被測定ガスを保護カバー130内に流通させるための複数の孔が形成されている。内側保護カバー131で囲まれた空間としてセンサ素子室133が形成されており、センサ素子101の前端はこのセンサ素子室133内に配置されている。
センサ組立体140は、センサ素子101を封入固定する素子封止体141と、素子封止体141に取り付けられたボルト147,外筒148と、センサ素子101の後端の表面(上下面)に形成された図示しないコネクタ電極(後述するヒータコネクタ電極71のみ図2に図示した)に接触してこれらと電気的に接続されたコネクタ150と、を備えている。
素子封止体141は、筒状の主体金具142と、主体金具142と同軸に溶接固定された筒状の内筒143と、主体金具142及び内筒143の内側の貫通孔内に封入されたセラミックスサポーター144a~144c,圧粉体145a,145b,メタルリング146と、を備えている。センサ素子101は素子封止体141の中心軸上に位置しており、素子封止体141を前後方向に貫通している。内筒143には、圧粉体145bを内筒143の中心軸方向に押圧するための縮径部143aと、メタルリング146を介してセラミックスサポーター144a~144c,圧粉体145a,145bを前方に押圧するための縮径部143bとが形成されている。縮径部143a,143bからの押圧力により、圧粉体145a,145bが主体金具142及び内筒143とセンサ素子101との間で圧縮されることで、圧粉体145a,145bが保護カバー130内のセンサ素子室133と外筒148内の空間149との間を封止すると共に、センサ素子101を固定している。
ボルト147は、主体金具142と同軸に固定されており、外周面に雄ネジ部が形成されている。ボルト147の雄ネジ部は、配管190に溶接され内周面に雌ネジ部が設けられた固定用部材191内に挿入されている。これにより、ガスセンサ100のうちセンサ素子101の前端や保護カバー130の部分が配管190内に突出した状態で、ガスセンサ100が配管190に固定されている。
外筒148は、内筒143,センサ素子101,コネクタ150の周囲を覆っており、コネクタ150に接続された複数のリード線155が後端から外部に引き出されている。このリード線155は、コネクタ150を介してセンサ素子101の各電極(後述)と導通している。外筒148とリード線155との隙間はゴム栓157によって封止されている。外筒148内の空間149は基準ガス(本実施形態では大気)で満たされている。センサ素子101の後端はこの空間149内に配置されている。
図2に示すように、センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された積層体を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
センサ素子101の一端(図2の左側)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。また、第4拡散律速部60は、第2固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第3内部空所61に至る部位を被測定ガス流通部とも称する。
第3基板層3の上面と第1固体電解質層4の下面との間には、大気導入層48が設けられている。大気導入層48は、例えばアルミナなどのセラミックスからなる多孔質体である。大気導入層48は、後端面が入口部48cとなっており、この入口部48cはセンサ素子101の後端面に露出している。入口部48cは、図1の空間149内に露出している(図1参照)。大気導入層48には、この入口部48cから、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスが導入される。基準ガスは、本実施形態では大気(図1の空間149内の雰囲気)とした。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。この大気導入層48は、入口部48cから導入された基準ガスに対して所定の拡散抵抗を付与しつつこれを基準電極42に導入する。
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、大気導入層48が設けられている。なお、基準電極42は、第3基板層3の上面に直に形成されており、第3基板層3の上面に接する部分以外が大気導入層48に覆われている。ただし、基準電極42は少なくとも一部が大気導入層48に覆われていればよい。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内,第2内部空所40内,第3内部空所61内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。基準電極42は、多孔質サーメット電極(例えば、PtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。
被測定ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの圧力変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの圧力変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間(図1のセンサ素子室133)に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが直に形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力(電圧V0)を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、電圧V0が目標値となるように可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
第2内部空所40は、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4の上面には、底部電極部51bが直に形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力(電圧V1)に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その電圧V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。第4拡散律速部60は、第3内部空所61に流入するNOxの量を制限する役割を担う。
第3内部空所61は、あらかじめ第2内部空所40において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガスに対して、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、第3内部空所61において、測定用ポンプセル41の動作により行われる。
測定用ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に直に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極44は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、内側ポンプ電極22よりも高めた材料にて構成された多孔質サーメット電極(例えば、PtとZrO2とのサーメット電極)である。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力(電圧V2)に基づいて可変電源46が制御される。
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部60を通じて第3内部空所61内の測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力(電圧Vref)によりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的な検出用ポンプセル85が構成されている。この検出用ポンプセル85は、外側ポンプ電極23と基準電極42との間に接続された可変電源86が印加するポンプ電圧Vp3によりポンプ電流Ip3が流れることで、酸素のポンピングを行う。これにより、検出用ポンプセル85は、基準電極42の周囲の空間(大気導入層48)から外側ポンプ電極23の周囲の空間(図1のセンサ素子室133)に酸素の汲み入れを行う。検出用ポンプセル85は、例えば被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれる場合のクラック検出に使用される、高酸素用のポンプセルである。被測定ガスの酸素濃度が高濃度領域よりも低い所定の低濃度領域に含まれる場合のクラック検出には、上述した主ポンプセル21,補助ポンプセル50,測定用ポンプセル41が、低酸素用の検出用ポンプセル87として使用される。検出用ポンプセル87として使用される場合、主ポンプセル21,補助ポンプセル50,測定用ポンプセル41は、ともに作動するのではなく個別に作動するように制御される。検出用ポンプセル87としての主ポンプセル21は、内側ポンプ電極22の周囲の空間(第1内部空所20)から外側ポンプ電極23の周囲の空間(センサ素子室133)に酸素の汲み入れを行う。検出用ポンプセル87としての補助ポンプセル50は、補助ポンプ電極51の周囲の空間(第2内部空所40)から外側ポンプ電極23の周囲の空間(センサ素子室133)に酸素の汲み入れを行う。検出用ポンプセル87としての測定用ポンプセル41は、測定電極44の周囲の空間(第3内部空所61)から外側ポンプ電極23の周囲の空間(センサ素子室133)に酸素の汲み入れを行う。
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75とを備えている。
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第3内部空所61の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成された多孔質の絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
圧力放散孔75は、第3基板層3及び大気導入層48を貫通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。圧力放散孔75は、大気導入層48のうち基準ガスの入口(ここでは入口部48c)よりも内側の部分と、ヒータ部70と、の間をガスの流通が可能な状態で連結している。
なお、図2に示した可変電源24,46,52,86などは、実際にはセンサ素子101内に形成された図示しないリード線や図1のコネクタ150及びリード線155を介して、各電極と接続されている。
制御装置90は、上述した可変電源24,46,52,86と、制御部91と、を備えている。制御部91は、CPU92及び記憶部94などを備えたマイクロプロセッサである。記憶部94は、各種プログラムや各種データを記憶する装置である。制御部91は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80にて検出される電圧V0、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される電圧V1、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される電圧V2、センサセル83にて検出される電圧Vref、主ポンプセル21にて検出されるポンプ電流Ip0、補助ポンプセル50にて検出されるポンプ電流Ip1及び測定用ポンプセル41にて検出されるポンプ電流Ip2、検出用ポンプセル85にて検出されるポンプ電流Ip3を入力する。また、制御部91は可変電源24,46,52,86へ制御信号を出力することで可変電源24,46,52,86が出力する電圧Vp0,Vp1,Vp2,Vp3を制御し、これにより、主ポンプセル21,測定用ポンプセル41,補助ポンプセル50及び検出用ポンプセル85を制御する。記憶部94には、後述する目標値V0*,V1*,V2*なども記憶されている。制御部91のCPU92は、これらの目標値V0*,V1*,V2*を参照して、各セル21,41,50の制御を行い、後述するNOx濃度検出処理を行う。また、記憶部94には、後述する設定値Vsp0,Vsp1,Vsp2,Vsp3なども記憶されている。制御部91のCPU92は、これらの設定値Vsp0,Vsp1,Vsp2,Vsp3を参照して、各セル21,41,50,85の制御を行い、後述するクラック検出処理を行う。
次に、ガスセンサ100を用いて被測定ガス中のNOx濃度を検出するNOx濃度検出処理の一例について説明する。NOx濃度検出処理が開始されると、制御装置90の制御部91は、電圧V0が目標値(目標値V0*と称する)となるように(つまり第1内部空所20の酸素濃度が目標濃度となるように)可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御する。ポンプ電流Ip0は被測定ガスの酸素濃度ひいては被測定ガスの空燃費(A/F)に応じて変化する。
また、制御部91は、電圧V1が一定値(目標値V1*と称する)となるように(つまり第2内部空所40の酸素濃度がNOxの測定に実質的に影響がない所定の低酸素濃度となるように)可変電源52の電圧Vp1をフィードバック制御する。これとともに、制御部91は、電圧Vp1によって流れるポンプ電流Ip1が一定値(目標値Ip1*と称する)となるように、ポンプ電流Ip1に基づいて電圧V0の目標値V0*を設定(フィードバック制御)する。これにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となる。また、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧が、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御される。目標値V0*は、第1内部空所20の酸素濃度が0%よりは高く且つ低酸素濃度となるような値に設定される。
さらに、制御部91は、電圧V2が一定値(目標値V2*と称する)となるように(つまり第3内部空所61内の酸素濃度が所定の低濃度になるように)可変電源46の電圧Vp2をフィードバック制御する。これにより、被測定ガス中のNOxが第3内部空所61で還元されることにより発生した酸素が実質的にゼロとなるように、第3内部空所61内から酸素が汲み出される。そして、制御部91は、特定ガス(ここではNOx)に由来して第3内部空所61で発生する酸素に応じた検出値としてポンプ電流Ip2を取得し、このポンプ電流Ip2に基づいて被測定ガス中のNOx濃度を算出する。このように、センサ素子101内に導入された被測定ガス中の特定ガスに由来する酸素の汲み出しを行い、汲み出す酸素量に基づいて(本実施形態ではポンプ電流Ip2に基づいて)特定ガス濃度を検出する方式を、限界電流方式と称する。
記憶部94には、ポンプ電流Ip2とNOx濃度との対応関係として、関係式(例えば一次関数の式)やマップなどが記憶されている。このような関係式又はマップは、予め実験により求めておくことができる。制御部91のCPU92は、取得したポンプ電流Ip2と記憶部94に記憶された対応関係とに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を検出する。
次に、ガスセンサ100におけるクラック検出処理の一例について、図4を用いて説明する。図4は、クラック検出処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、例えば一定時間毎などの所定のクラック検出タイミングで実行される。ここでは、上述したNOx濃度検出処理に引き続いてクラック検出処理を行う場合について説明する。
クラック検出処理が開始されると、制御部91は、まず、被測定ガスの酸素濃度情報を取得し(S100)、被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれるか否かを判定する(S110)。ここでは、制御部91は、酸素濃度情報として上述のNOx濃度検出処理で検出されたポンプ電流Ip0を入力し、ポンプ電流Ip0が所定の閾値以上である場合に被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれると判定する。所定の閾値は、被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれるようなポンプ電流Ip0の下限値であり、ポンプ電流Ip0と被測定ガスの酸素濃度との対応関係から予め導出され、記憶部94に記憶されている。
そして、制御部91は、S110で被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれていたならば、ポンプ電圧Vp0,Vp1,Vp2の印加を中止して(S120)、NOx濃度検出処理を一旦中断する。続いて、制御部91は、設定値Vsp3に設定されたポンプ電圧Vp3を印加するように検出用ポンプセル85の可変電源86を制御する(S130)。これにより、基準電極42の周囲から外側ポンプ電極23の周囲の空間(図1のセンサ素子室133)に酸素の汲み入れが行われ、ポンプ電流Ip3が流れる。そして、制御部91は、このときのポンプ電流Ip3を入力し(S140)、ポンプ電圧Vp3の印加を中止する(S150)。続いて、制御部91は、ポンプ電流Ip3が記憶部94に記憶された所定の検出用閾値Tp3以上か否かを判定する(S160)。制御部91は、ポンプ電流Ip3が所定の検出用閾値Tp3以上であれば、センサ素子101にクラックがあると判定して、クラック検出信号を外部に出力し(S170)、本ルーチンを終了する。一方、制御部91は、S160でポンプ電流Ip3が検出用閾値Tp3未満であれば、そのまま本ルーチンを終了し、必要に応じてNOx濃度検出処理を再開する。
一方、制御部91は、S110で被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれていないならば、つまり、被測定ガスの酸素濃度が高濃度領域よりも低い所定の低濃度領域に含まれているならば、ポンプ電圧Vp0,Vp1,Vp2の印加を中止して(S180)、NOx濃度検出処理を一旦中断する。次に、制御部91は、設定値Vsp0に設定されたポンプ電圧Vp0を印加するように主ポンプセル21の可変電源24を制御する(S190)。これにより、内側ポンプ電極22の周囲の空間(第1内部空所20)から外側ポンプ電極23の周囲の空間(センサ素子室133)に酸素の汲み入れが行われ、ポンプ電流Ip0が流れる。そして、制御部91は、このときのポンプ電流Ip0を入力し(S200)、ポンプ電圧Vp0の印加を中止する(S210)。続いて、制御部91は、ポンプ電流Ip0が記憶部94に記憶された所定の検出用閾値Tp0以上か否かを判定する(S220)。制御部91は、ポンプ電流Ip0が所定の検出用閾値Tp0以上であれば、センサ素子101にクラックがあると判定して、クラック検出信号を外部に出力し(S170)、本ルーチンを終了する。一方、制御部91は、S220でポンプ電流Ip0が検出用閾値Tp0未満であれば、設定値Vsp1に設定されたポンプ電圧Vp1を印加するように補助ポンプセル50の可変電源52を制御する(S230)。これにより、補助ポンプ電極51の周囲の空間(第2内部空所40)から外側ポンプ電極23の周囲の空間(センサ素子室133)に酸素の汲み入れが行われ、ポンプ電流Ip1が流れる。そして、制御部91は、このときのポンプ電流Ip1を入力し(S240)、ポンプ電圧Vp1の印加を中止する(S250)。続いて、制御部91は、ポンプ電流Ip1が記憶部94に記憶された所定の検出用閾値Tp1以上か否かを判定する(S260)。制御部91は、ポンプ電流Ip1が検出用閾値Tp1以上であれば、センサ素子101にクラックがあると判定して、クラック検出信号を外部に出力し(S170)、本ルーチンを終了する。一方、制御部91は、S260でポンプ電流Ip1が検出用閾値Tp1未満であれば、設定値Vsp2に設定されたポンプ電圧Vp2を印加するように測定用ポンプセル41の可変電源46を制御する(S270)。これにより、測定電極44の周囲の空間(第3内部空所61)から外側ポンプ電極23の周囲の空間(センサ素子室133)に酸素の汲み入れが行われ、ポンプ電流Ip2が流れる。そして、制御部91は、このときのポンプ電流Ip2を入力し(S280)、ポンプ電圧Vp2の印加を中止する(S290)。続いて、制御部91は、ポンプ電流Ip2が記憶部94に記憶された所定の検出用閾値Tp2以上か否かを判定する(S300)。制御部91は、ポンプ電流Ip2が検出用閾値Tp2以上であれば、センサ素子101にクラックがあると判定して、クラック検出信号を外部に出力し(S170)、本ルーチンを終了する。一方、制御部91は、S300でポンプ電流Ip2が検出用閾値Tp2未満であれば、そのまま本ルーチンを終了し、必要に応じてNOx濃度検出処理を再開する。
ポンプ電圧Vpn(n=0,1,2,3、以下同じ)の設定値Vspn及びポンプ電流Ipnの検出用閾値Tpnは、予め実験を行ってポンプ電圧Vpnとポンプ電流Ipnとの関係を示すV-I曲線を取得し、得られたV-I曲線に基づいて設定することができる。ここではまず、V-I曲線を取得する実験の一例として、ポンプ電圧Vp3とポンプ電流Ip3との関係を示すV-I曲線を取得する実験について説明する。まず、クラック有りのセンサ素子101とクラック無しのセンサ素子101を準備する。クラック有りのセンサ素子101は、例えば素子を急昇温することによりセンサ素子101の内部にクラックを形成してもよい。次に、各センサ素子101について、センサ素子101のガス導入口10側が所定の被測定ガス(ここではモデルガス)中に配置され、大気導入層48の入口部48c側が大気中に配置されるようにガスセンサ100を配置し、ヒータ72に通電してセンサ素子101を所定の駆動温度(ここでは850℃)まで加熱する。可変電源24,52,46,86はいずれも電圧を印加しない状態とする。センサ素子101の温度が安定した後、基準電極42の周囲から外側ポンプ電極23の周囲への酸素の汲み入れが行われるように、可変電源86によって基準電極42と外側ポンプ電極23との間にポンプ電圧Vp3を印加する。ポンプ電圧Vp3は、徐々に(例えば2mV/sec)増加させながら印加する。そして、このときに流れるポンプ電流Ip3を測定し、ポンプ電圧Vp3とポンプ電流Ip3との関係を示すV-I曲線を得る。ポンプ電圧Vp0とポンプ電流Ip0との関係を示すV-I曲線や、ポンプ電圧Vp1とポンプ電流Ip1との関係を示すV-I曲線、ポンプ電圧Vp2とポンプ電流Ip2との関係を示すV-I曲線についても、ポンプ電圧を印加しポンプ電流を測定する電極を変更する以外は、ポンプ電圧Vp3とポンプ電流Ip3との関係を示すV-I曲線と同様に取得すればよい。
図5に、ポンプ電圧Vp3とポンプ電流Ip3との関係を示すV-I曲線の一例を示す。また、図6にポンプ電圧Vp0とポンプ電流Ip0との関係を示すV-I曲線の一例を示し、図7にポンプ電圧Vp1とポンプ電流Ip1との関係を示すV-I曲線の一例を示し、図8にポンプ電圧Vp2とポンプ電流Ip2との関係を示すV-I曲線の一例を示す。なお、クラック有りのセンサ素子101は、後述する図9,10に示すように、第1内部空所20とヒータ部70との間にクラックが形成されているものとした(以下同じ)。図5のV-I曲線は、被測定ガスとして大気を用いた場合のV-I曲線である。図5では、クラック有り,クラック無し、各6つのセンサ素子101についてそれぞれV-I曲線を求め、その結果を示した。図6A,図7A,図8AのV-I曲線は、被測定ガスとしてN2ガスを用いた場合のV-I曲線であり、図6B,図7B,図8BのV-I曲線は、被測定ガスとしてN2ガスをベースガスとしO2濃度を1000ppmとしたモデルガスを用いた場合のV-I曲線である。なお、図6,7,8では、縦軸の最小値及び最大値を統一し、横軸の最小値及び最大値も統一した。
図5に示すように、ポンプ電圧Vp3が低いうちはポンプ電圧Vp3の増加に伴いポンプ電流Ip3が増加するが、ポンプ電圧Vp3が高くなるとポンプ電圧Vp3が増加してもポンプ電流Ip3が増加せずに飽和するようになる。このようにポンプ電圧が増加してもポンプ電流が増加せずに飽和する飽和値を限界電流値という。図5に示すように、クラック有りのセンサ素子101では、クラック無しのセンサ素子101よりもポンプ電流Ip3の限界電流値が高くなる。この理由は以下のように推察される。
ガスセンサ100において、クラック検出処理が開始され、ポンプ電圧Vp3が印加されると、図9に示すように、基準電極42の周囲の空間から外側ポンプ電極23の周囲の空間に酸素の汲み入れが行われる。ここで、センサ素子101にクラックが有ると、センサ素子室133(図1参照)から被測定ガス流通部に導入された酸素がクラックを介してヒータ絶縁層74に到達し、ヒータ絶縁層74、圧力放散孔75及び大気導入層48を通って基準電極42の周囲に到達するため、基準電極42の周囲の酸素量が増加する。このため、センサ素子101にクラックが有る場合には、クラックが無い場合よりも、ポンプ電流Ip3の限界電流値が大きくなる。このため、ガスセンサ100では、ポンプ電流Ip3に基づいてクラックを検出できる。
ポンプ電圧Vp3の設定値Vsp3は、ポンプ電流Ip3が限界電流となるようなポンプ電圧Vp3の電圧範囲(例えば図5の限界電流範囲)から選択すればよい。また、ポンプ電流Ip3の検出用閾値Tp3は、設定値Vsp3に設定されたポンプ電圧Vp3を印加したときに、クラック無しの場合のポンプ電流Ip3よりも高くクラック有りの場合のポンプ電流Ip3よりも低い電流範囲から選択すればよく、クラック無しの場合のポンプ電流Ip3とクラック有りの場合のポンプ電流Ip3とを区別できるように定めればよい。例えば図5を用いて検出用閾値Tp3を定める場合、クラック無しの場合のポンプ電流Ip3(Vp3=Vsp3のとき)の最大値をNp3とし、クラック有りの場合のポンプ電流Ip3(Vp3=Vsp3のとき)の最小値をCp3として、Np3とCp3との間の電流範囲から選択してもよい。なお、図5に示した設定値Vsp3は、500mVとした。
図6に示すように、ポンプ電流Ip0も、ポンプ電流Ip3と同様にクラックがある場合にはクラックが無い場合よりも限界電流値が大きくなる。この理由は、以下のように推察される。ガスセンサ100において、クラック検出処理が開始され、ポンプ電圧Vp0が印加されると、図10に示すように内側ポンプ電極22の周囲の空間から外側ポンプ電極23の周囲の空間に酸素の汲み入れが行われる。ここで、センサ素子101にクラックがあると、空間149(図1参照)から大気導入層48に導入された大気中の酸素が、圧力放散孔75及びヒータ絶縁層74を通ってクラックに到達し、クラックを介して内側ポンプ電極22の周囲に到達するため、内側ポンプ電極22の周囲の酸素量が増加する。このため、センサ素子101にクラックがある場合には、クラックがない場合よりも、ポンプ電流Ip0の限界電流値が大きくなる。したがって、ガスセンサ100では、ポンプ電流Ip0に基づいてクラックを検出できる。図7,8に示すように、ポンプ電流Ip1,Ip2も、Ip0と同様に、クラックがある場合にはクラックが無い場合よりも限界電流値が大きくなる。したがって、ガスセンサ100では、ポンプ電流Ip1やポンプ電流Ip2に基づいてクラックを検出できる。ポンプ電圧Vp0~Vp2の設定値Vsp0~Vsp2及びポンプ電流Ip0~Ip2の検出用閾値Tp0~Tp2は、ポンプ電圧を印加しポンプ電流を測定する電極を変更する以外は、設定値Vsp3及び検出用閾値Tp3と同様に設定すればよい。なお、図6~8に示した設定値Vsp0,Vsp1,Vsp2は全て400mVとした。設定値Vsp0,Vsp1,Vsp2は全て同じ値としてもよいし、Vsp0,Vsp1,Vsp2のうちの1以上を異なる値としてもよい。
ところで、図11に示すように、ポンプ電流Ip3の限界電流値は、被測定ガスの酸素濃度に応じて変化することがある。図11は、被測定ガスの酸素濃度とポンプ電流Ip3の限界電流値との関係の一例を示すグラフである。図11には、N2ガスをベースガスとし、O2濃度を0%,5%,10%,20.5%に調整したモデルガスを被測定ガスとして用い、設定値Vsp3=500mVに設定されたポンプ電圧Vp3を印加したときのポンプ電流Ip3の限界電流値を示した。図11では、クラック有りのセンサ素子101を4つと、クラック無しのセンサ素子101を3つについて、被測定ガスの酸素濃度とポンプ電流Ip3の限界電流値との関係を示した。図11に示すように、ポンプ電流Ip3の限界電流値は、センサ素子101にクラックが有る場合には、被測定ガスの酸素濃度が高いほど大きくなる一方、センサ素子101にクラックが無い場合には、被測定ガスの酸素濃度が高くなっても略一定となる。これは、被測定ガスの酸素濃度が高いほど、ガス導入口10から導入されてクラックを介して基準電極42の周囲に到達する酸素量が増加し、クラックがある場合とクラックがない場合とのポンプ電流Ip3の限界電流値の差が大きくなるためと推察される。このため、被測定ガスの酸素濃度が高いほどポンプ電流Ip3に基づいてクラックを精度よく検出できる。したがって、ガスセンサ100では、被測定ガスの酸素濃度が高い場合に、ポンプ電流Ip3に基づいてクラックを検出する処理を行うことで、素子本体のクラックを精度よく検出できる。そこで、被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれるか否かを判定するS110においては、求められるクラック検出精度に応じて、所定の高濃度領域を設定してもよい。例えば、図11の結果から、上述したCp3とNp3とに明確な差が現れる領域として、酸素濃度が3%以上の領域や、5%以上の領域、10%以上の領域などを所定の高濃度領域としてもよい。なお、このガスセンサ100では、基準電極42の周囲から外側ポンプ電極23の周囲に酸素の汲み入れを行うため、被測定ガス自体に酸素が含まれていなくても、図1のセンサ素子室133には酸素が存在する。このため、理論的には、被測定ガス自体に酸素が含まれていない場合でもポンプ電流Ip3に基づいて素子本体のクラックを検出できる。図11では、クラック有りのセンサ素子101とクラック無しのセンサ素子101とは別の素子であり、個体差による限界電流のバラツキを含んでいるため、酸素濃度の低い領域では、クラックの有無によるポンプ電流Ip3の変化がわかりにくくなっている。しかし、同一のセンサ素子101でクラック無しからクラック有りに変わった場合には、ポンプ電圧Vp3の印加によって外側ポンプ電極23の周囲に汲み入れた酸素が基準電極42に戻ってくることによってポンプ電流Ip3が明確に増加するため、検出用閾値Tp3を用いてクラックを検出できると考えられる。
また、上述の通り、ポンプ電流Ip3の限界電流値は、センサ素子101にクラックが有る場合には被測定ガスの酸素濃度が高いほど大きくなる一方、センサ素子101にクラックが無い場合には被測定ガスの酸素濃度が高くなっても略一定となる。そこで、検出用閾値Tp3は、被測定ガスの酸素濃度が高いほど高くなる傾向で変化させてもよい。その場合、検出用閾値Tp3は、例えば図11に一点鎖線で示すように被測定ガスの酸素濃度との関係が一次関数となるよう直線的に変化させてもよいし、段階的に変化させてもよい。検出用閾値Tp3は、図11に一点鎖線で示すように、各酸素濃度においてCp3からTp3を引いた差とTp3からNp3を引いた差との比率が略一定となるように変化させてもよい。検出用閾値Tp3を被測定ガスの酸素濃度と対応付けて変化させるにあたり、記憶部94には、検出用閾値Tp3と被測定ガスの酸素濃度との対応関係を示す式又はマップを記憶させてもよい。その場合、制御部91は、S100で取得した被測定ガスの酸素濃度と、記憶部94に記憶された式又はマップとを用いて検出用閾値Tp3を導出すればよい。検出用閾値Tp3は、図11に二点鎖線で示すように、被測定ガスの酸素濃度にかかわらず一定の値としてもよい。
図6Aと図6Bとの比較からわかるように、ポンプ電流Ip0の限界電流値は、被測定ガスの酸素濃度が低いほど、クラック無しの場合のポンプ電流Ip0の限界電流値に対する、クラック有りの場合のポンプ電流Ip0の限界電流値の変化率が大きくなる。具体的には、被測定ガスの酸素濃度にかかわらず、クラックがある場合のポンプ電流Ip0の限界電流値(Cp0とも称する)とクラックがない場合のポンプ電流Ip0の限界電流値(Np0とも称する)との差(ΔIp0とも称する)は略一定となる。一方で、被測定ガスの酸素濃度が低いほど、クラックがない場合のポンプ電流Ip0の限界電流値Np0に対する、上述した差ΔIp0の割合、つまりΔIp0/Np0の値が大きくなる。このため、被測定ガスの酸素濃度が低いほどポンプ電流Ip0に基づいてクラックを精度よく検出できる。したがって、ガスセンサ100では、被測定ガスの酸素濃度が低い場合に、ポンプ電流Ip0に基づいてクラックを検出する処理を行うことで、素子本体のクラックを精度良く検出できる。ポンプ電流Ip1,Ip2も、図7,8に示すように、被測定ガスの酸素濃度が低いほど、クラック無しの場合のポンプ電流Ip1,Ip2の限界電流値に対する、クラック有りの場合のポンプ電流Ip1,Ip2の限界電流値の変化率が大きくなる。したがって、ガスセンサ100では、被測定ガスの酸素濃度が低いほどポンプ電流Ip1やポンプ電流Ip2に基づいてクラックを精度よく検出できる。
また、図6Aと図6Bとの比較からわかるように、ポンプ電流Ip0の限界電流値は、センサ素子101にクラックが有るか無いかにかかわらず、被測定ガスの酸素濃度が高いほど大きくなる。このため、検出用閾値Tp0は、被測定ガスの酸素濃度が高いほど高くなる傾向で変化させることが好ましい。その場合、検出用閾値Tp0は、例えば被測定ガスの酸素濃度との関係が一次関数となるように直線的に変化させてもよいし、段階的に変化させてもよい。検出用閾値Tp0は、図11に一点鎖線で示したTp3と同様に、各酸素濃度においてCp0からTp0を引いた差とTp0からNp0を引いた差との比率が略一定となるように変化させてもよい。検出用閾値Tp0を被測定ガスの酸素濃度と対応付けて変化させる場合、記憶部94には、検出用閾値Tp0と被測定ガスの酸素濃度との対応関係を示す式又はマップを記憶させてもよい。その場合、制御部91は、S100で取得した被測定ガスの酸素濃度と、記憶部94に記憶された式又はマップとを用いて検出用閾値Tp0を導出する。検出用閾値Tp1,Tp2についても同様である。
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の第1基板層1,第2基板層2,第3基板層3,第1固体電解質層4,スペーサ層5及び第2固体電解質層6が本発明の素子本体に相当し、ガス導入口10,第1拡散律速部11,緩衝空間12,第2拡散律速部13,第1内部空所20,第3拡散律速部30,第2内部空所40,第4拡散律速部60及び第3内部空所61が被測定ガス流通部に相当し、外側ポンプ電極23が外側電極としての被測定ガス側電極に相当し、基準電極42が基準電極に相当し、大気導入層48が基準ガス導入部に相当し、入口部48cが基準ガス入口に相当し、ガスセンサ100がガスセンサに相当する。また、設定値Vsp3に設定されたポンプ電圧Vp3が検出用電圧(高酸素用検出用電圧とも称する)に相当し、検出用電圧を印加したときのポンプ電流Ip3が検出用電流(高酸素用検出用電流とも称する)に相当し、制御部91がクラック検出手段に相当する。また、検出用閾値Tp3が検出用閾値(高酸素用検出用閾値とも称する)に相当する。また、ヒータ72がヒータに相当し、ヒータ絶縁層74がヒータ絶縁層に相当し、ヒータ部70がヒータ部に相当し、圧力放散孔75が連結部に相当する。また、内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44のそれぞれが内側電極に相当し、設定値Vsp0に設定されたポンプ電圧Vp0,設定値Vsp1に設定されたポンプ電圧Vp1,設定値Vsp2に設定されたポンプ電圧Vp2のそれぞれが低酸素用検出用電圧に相当し、各低酸素用検出用電圧を印加したときのポンプ電流Ip0,Ip1,Ip2のそれぞれが低酸素用検出用電流に相当し、検出用閾値Tp0,Tp1,Tp2のそれぞれが低酸素用検出用閾値に相当する。また、センサ素子101がセンサ素子に相当する。また、上述した実施形態では、ガスセンサ100の動作を説明することにより、本発明のクラック検出方法の一例も明らかにしている。
以上詳述した本実施形態のガスセンサ100では、上述したとおり、設定値Vsp3に設定されたポンプ電圧Vp3を印加したときのポンプ電流Ip3に基づいて素子本体のクラックを検出できる。
また、ガスセンサ100では、ヒータ絶縁層74及び圧力放散孔75を備えているため、被測定ガス流通部とヒータ部70との間のクラックを検出できる。
さらに、ガスセンサ100では、制御部91は、被測定ガスの酸素濃度情報を取得し、被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれる場合に、ポンプ電流Ip3に基づいてクラックを検出する処理を行うため、クラックを精度良く検出できる。
さらにまた、ガスセンサ100では、被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれる場合にはポンプ電流Ip3に基づいてクラックを検出し、被測定ガスの酸素濃度が所定の低濃度領域(高濃度領域よりも酸素濃度が低い領域)に含まれる場合にはポンプ電流Ip0,Ip1,Ip2に基づいてクラックを検出することで、被測定ガスの酸素濃度にかかわらずクラックを精度よく検出できる。
そして、ガスセンサ100において、制御部91は、被測定ガスの酸素濃度が高いほど検出用閾値Tp0,Tp1,Tp2が高くなる傾向で、検出用閾値Tp0,Tp1,Tp2を変化させれば、クラックをより精度よく検出できる。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
例えば、上述した実施形態では、外側ポンプ電極23を被測定ガス側電極として用いたが、被測定ガス側電極は、内側ポンプ電極22としてもよいし、補助ポンプ電極51としてもよいし、測定電極44としてもよい。つまり、内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44のうちのいずれかと基準電極42との間に設定値Vsp3に設定されたポンプ電圧Vp3を印加して、そのときのポンプ電流Ip3に基づいてクラックを検出してもよい。
上述した実施形態では、内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44を内側電極として用いたが、これらのうちの1以上を内側電極として用いなくてもよい。つまり、制御部91は、内側ポンプ電極22を含む主ポンプセル21を検出用ポンプセル87として用いたS190~S220の処理,補助ポンプ電極51を含む補助ポンプセル50を検出用ポンプセル87として用いたS230~S260の処理,測定電極44を含む測定用ポンプセル41を検出用ポンプセル87として用いたS270~S300の処理のうちの1以上を行わなくてもよい。制御部91は、S190~S300の全ての処理を行わない場合には、S180の処理も行わなくてよい。また、制御部91は、上述した、S190~S220の処理、S230~S260の処理、S270~S300の処理を、順序を入れ替えて行ってもよい。
また、上述した実施形態において、制御部91は、ポンプ電流Ip0が検出用閾値Tp0以上か否かを判定する処理(S220),ポンプ電流Ip1が検出用閾値Tp1以上か否かを判定する処理(S260),ポンプ電流Ip2が検出用閾値Tp2以上か否かを判定する処理(S300)を省略し、これらをまとめて行ってもよい。つまり、制御部91は、図12に示すように、S180~S300のうちS220,S260,S300を省略し、S290に引き続いて、ポンプ電流Ip0が検出用閾値Tp0以上であるか、ポンプ電流Ip1が検出用閾値Tp1以上であるか、ポンプ電流Ip2が検出用閾値Tp2以上であるか、の1以上を満たすか否かを判定してもよい(S310)。制御部91は、S310において、上述した1以上を満たすならば、センサ素子101にクラックがあると判定して、そのままクラック検出信号を外部に出力してもよいが、図12に示すように、以下のような処理を行ってもよい。すなわち、内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44のうち、クラックに近い電極の周囲では酸素量が特に増加してポンプ電流の限界電流値が大きくなりやすいことを利用してクラックの位置を推定し(S320)、クラック検出信号とクラック位置を外部に出力してもよい(S330)。S330では、内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44のうち、入力したポンプ電流Ip0,Ip1,Ip2から各々の検出用閾値を引いた差が最も大きい電極の周囲にクラックが形成されていると推定してもよい。また例えば、入力したポンプ電流Ip0,Ip1,Ip2のうち各々の検出用閾値以上のものが1つしかない場合には、入力したポンプ電流が検出用閾値以上となる電極の周囲にクラックが形成されていると推定してもよい。
上述した実施形態では、制御部91は、酸素濃度情報を取得するにあたり、NOx濃度検出処理で検出されたポンプ電流Ip0を入力したが、これに限定されない。例えば、制御部91は、酸素濃度情報を取得するにあたり、NOx濃度検出処理とは別に酸素濃度を検出する処理のみを行ってもよい。その場合、制御部91は、電圧V0が目標値V0*となるように可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御し、そのときのポンプ電流Ip0を入力してもよい。また、制御部91は、酸素濃度情報を取得するにあたり、他のガスセンサで測定した酸素濃度情報を取得してもよい。他のガスセンサで測定した酸素濃度情報を取得する場合、他のガスセンサは、自らと同種のガスセンサ(ここではNOxセンサ)でもよいし、異種のガスセンサでもよい。他のガスセンサは、例えば、限界電流検出型の酸素センサとしてもよいし、電位検出型の酸素センサ(ラムダセンサ)としてもよい。NOx濃度検出処理以外の方法で酸素濃度情報を取得する場合には、NOx濃度検出処理に引き続いてクラック検出処理を行う必要はない。
上述した実施形態では、第1内部空所20とヒータ部70との間のクラックの検出について説明したが、その他のクラックを検出することもできる。例えば、第1内部空所20以外の被測定ガス流通部(例えば緩衝空間12,第2内部空所40、第3内部空所61)とヒータ部70との間のクラックも検出できるし、被測定ガス流通部と大気導入層48との間のクラックも検出できる。このようなクラックがある場合でも、センサ素子室133(図1参照)から被測定ガス流通部に導入された被測定ガスに起因する酸素(例えば被測定ガス自体に含まれる酸素や被測定ガスに含まれる酸化物が測定電極44などの内側電極で還元されて発生した酸素)及び検出用電流によって被測定ガス側電極の周囲に汲み入れられた酸素のうちの少なくとも一方がクラックを介して基準電極42の周囲に到達する。これにより、基準電極42の周囲の酸素量が増加するため、ガスセンサ100では、ポンプ電流Ip3に基づいてクラックを検出できる。また、このようなクラックがある場合でも、空間149(図1参照)からセンサ素子101に導入された大気中の酸素がクラックに到達し、クラックを介して内側電極(内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44)の周囲に到達し、内側電極の周囲の酸素量が増加するため、Ip0,Ip1,Ip2に基づいてクラックを検出できる。また、被測定ガスに酸素が含まれる場合には、素子本体の外側のうち被測定ガスと接触する部分(センサ素子室133に配置される部分)とヒータ部70や大気導入層48との間のクラックも検出できる。このようなクラックがある場合でも、被測定ガスに含まれる酸素がセンサ素子室133からクラックを介して基準電極42の周囲に到達し、基準電極42の周囲の酸素量が増加するため、ポンプ電流Ip3に基づいてクラックを検出できる。また、被測定ガスにNOxなどの酸化物や酸素が含まれる場合には、素子本体の外側のうち被測定ガスと接触する部分と被測定ガス流通部との間(例えば固体電解質層6)のクラックも検出できる。このようなクラックがある場合でも、被測定ガスにNOxなどの酸化物や酸素が含まれていれば、それらがクラックを介して内側電極の周囲に到達し、NOxなどの酸化物は内側電極(例えばNOxに対する還元能力を高めた材料で構成された測定電極44)で還元されて酸素を発生する。これにより、内側電極の周囲の酸素量が増加するため、ポンプ電流Ip0,Ip1,Ip2に基づいてクラックを検出できる。
上述した実施形態において、設定値Vsp3は、被測定ガスの酸素濃度に関わらず一定としてもよいし、被測定ガスの酸素濃度に応じて変化させてもよい。設定値Vsp3は、被測定ガスの酸素濃度が高いほど高くなる傾向で変化させてもよく、例えば、被測定ガスの酸素濃度との関係が一次関数となるように直線的に変化させてもよいし、段階的に変化させてもよい。設定値Vsp3を被測定ガスの酸素濃度と対応付けて変化させるにあたり、記憶部94には、設定値Vsp3と被測定ガスの酸素濃度との対応関係を示す式又はマップを記憶させてもよい。その場合、制御部91は、S100で取得した被測定ガスの酸素濃度と、記憶部94に記憶された式又はマップとを用いて設定値Vsp3を導出すればよい。設定値Vsp0,Vsp1,Vsp2についても同様である。
上述した実施形態では、制御部91は、S100で被測定ガスの酸素濃度情報を取得し、S110で酸素濃度が高濃度領域に含まれるか否かを判定したが、S110を省略して、酸素濃度に関わらずS120~S170の処理を行ってもよい。また、制御部91は、被測定ガスの酸素濃度が既知である場合や、被測定ガスの酸素濃度に関わらず各検出用閾値Tp0,Tp1,Tp2,Tp3や各設定値Vsp0,Vsp1,Vsp2,Vsp3を一定の値とする場合などには、S100を省略してもよい。
上述した実施形態では、制御部91は、S110で被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれていない場合にはS180以降の処理を行うものとしたが、S180の前に被測定ガスの酸素濃度が所定の低濃度領域に含まれるか否かを判定する処理を行ってもよい。この処理で、被測定ガスの酸素濃度が低濃度領域に含まれる場合にはS180以降の処理を行う一方、低濃度領域に含まれない場合にはそのまま本ルーチンを終了し、必要に応じてNOx濃度検出処理を再開してもよい。所定の低濃度領域は、例えば、上述したポンプ電流Ip0の限界電流値の変化率が十分大きい領域や、上述したポンプ電流Ip1の限界電流値の変化率が十分大きい領域や、上述したポンプ電流Ip2の限界電流値の変化率が十分大きい領域としてもよい。所定の低濃度領域は、例えば、酸素濃度が5%以下の領域、3%以下の領域、1%以下の領域などとしてもよい。
上述した実施形態では、制御部91は、S150でポンプ電圧Vp3の印加を中止してからS160でポンプ電流Ip3が検出用閾値Tp3以上か否かを判定したが、S150とS160の順序を入れ替えてもよい。S210とS220,S250とS260,S290とS300についても同様に順序を入れ替えてもよい。
上述した実施形態では、大気導入層48は基準電極42からセンサ素子101の長手方向の後端面までに亘って配設されていたが、これに限られない。図13は、この場合の変形例のセンサ素子201の断面模式図である。図13に示すように、センサ素子201は、大気導入層248の上方に基準ガス導入空間43を有している。基準ガス導入空間43は、第3基板層3の上面とスペーサ層5の下面との間であって側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に配設された空間である。基準ガス導入空間43の後端は、センサ素子201の後端面に開口している。基準ガス導入空間43は、前後方向で圧力放散孔75よりも前方まで配設されており、圧力放散孔75は基準ガス導入空間43に開口している。大気導入層248は、大気導入層48とは異なり、センサ素子201の後端までは配設されていない。そのため、大気導入層248はセンサ素子201の後端面には露出していない。代わりに、大気導入層248の上面の一部が基準ガス導入空間43に露出している。この露出部分が大気導入層248の入口部48cとなっている。大気導入層248には、この基準ガス導入空間43を介して入口部48cから基準ガスが導入される。なお、センサ素子201において、大気導入層248の後端がセンサ素子201の後端まで配設されていてもよい。図13の態様では、大気導入層248と基準ガス導入空間43とが、基準ガス導入部に相当し、基準ガス導入空間43の後端側の開口が基準ガス入口に相当する。なお、図13の態様において、圧力放散孔75は基準ガス導入空間43に開口するのではなく、第1固体電解質層4に突き当たる位置に設けられていてもよい。こうすれば、クラック及びヒータ絶縁層74を介して圧力放散孔75に到達した酸素が、大気中に放出されにくく、基準電極42の周囲に到達しやすいため、ポンプ電流Ip3に基づいてクラックを精度よく検出できる。
上述した実施形態では、ガスセンサ100のセンサ素子101は第1内部空所20,第2内部空所40,第3内部空所61を備えるものとしたが、これに限られない。例えば、上述した図13のセンサ素子201のように、第3内部空所61を備えないものとしてもよい。図13に示した変形例のセンサ素子201では、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。また、測定電極44は、第2内部空所40内の第1固体電解質層4の上面に配設されている。測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。第4拡散律速部45は、アルミナ(Al2O3)などのセラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、上述した実施形態の第4拡散律速部60と同様に、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担う。また、第4拡散律速部45は、測定電極44の保護膜としても機能する。補助ポンプ電極51の天井電極部51aは、測定電極44の直上まで形成されている。このような構成のセンサ素子201であっても、上述した実施形態と同様に、測定用ポンプセル41によりNOx濃度を検出できる。図13のセンサ素子201では、測定電極44の周囲が第3内部空所61と同様の役割を果たすことになる。
上述した実施形態において、外側ポンプ電極23を含むセンサ素子101の前側(センサ素子室133に露出する部分)の表面が、アルミナなどのセラミックスからなる多孔質保護層で被覆されていてもよい。
上述した実施形態では、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御され、このときのポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されるものとしたが、基準電極42と測定電極44との間の電圧に基づいて被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するものであれば、これに限られない。例えば、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とを組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準電極42の周囲の酸素の量との差に応じた電圧を電圧V2として検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることができる。
上述した実施形態では、基準ガスは大気としたが、被測定ガス中の特定ガスの濃度の検出の基準となるガスであれば、これに限られない。例えば、予め所定の酸素濃度(>被測定ガスの酸素濃度)に調整したガスが基準ガスとして空間149に満たされていてもよい。
上述した実施形態では、センサ素子101は被測定ガス中のNOx濃度を検出するものとしたが、被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するものであれば、これに限られない。例えば、NOxに限らず他の酸化物濃度を特定ガス濃度としてもよい。特定ガスが酸化物の場合には、上述した実施形態と同様に特定ガスそのものを第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、測定用ポンプセル41はこの酸素に応じた検出値(例えばポンプ電流Ip2)を取得して特定ガス濃度を検出できる。また、特定ガスがアンモニアなどの非酸化物であってもよい。特定ガスが非酸化物の場合には、特定ガスを酸化物に変換(例えばアンモニアであればNOに変換)することで、変換後のガスが第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、測定用ポンプセル41はこの酸素に応じた検出値(例えばポンプ電流Ip2)を取得して特定ガス濃度を検出できる。例えば、第1内部空所20の内側ポンプ電極22が触媒として機能することにより、第1内部空所20においてアンモニアをNOに変換できる。
上述した実施形態では、センサ素子101の素子本体は複数の固体電解質層(層1~6)を有する積層体としたが、これに限られない。センサ素子101の素子本体は、酸素イオン伝導性の固体電解質層を少なくとも1つ含んでいればよい。例えば、図2において第2固体電解質層6以外の層1~5は固体電解質層以外の材質からなる層(例えばアルミナからなる層)としてもよい。この場合、センサ素子101が有する各電極は第2固体電解質層6に配設されるようにすればよい。例えば、図2の測定電極44は第2固体電解質層6の下面に配設すればよい。また、大気導入層48を第1固体電解質層4と第3基板層3との間に設ける代わりに第2固体電解質層6とスペーサ層5との間に設け、基準電極42を第3内部空所61よりも後方且つ第2固体電解質層6の下面に設ければよい。
上述した実施形態では、内側ポンプ電極22は、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極としたが、これに限られない。内側ポンプ電極22は、触媒活性を有する貴金属(例えばPt,Rh,Ir,Ru,Pdの少なくともいずれか)と、触媒活性を有する貴金属の特定ガスに対する触媒活性を抑制させる触媒活性抑制能を有する貴金属(例えばAu)と、を含んでいればよい。補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、触媒活性を有する貴金属と、触媒活性抑制能を有する貴金属と、を含んでいればよい。外側ポンプ電極23,基準電極42,測定電極44は、それぞれ、上述した触媒活性を有する貴金属を含んでいればよい。各電極22,23,42,44,51は、それぞれ、貴金属と酸素イオン導電性を有する酸化物(例えばZrO2)とを含むサーメット であることが好ましいが、これらの電極の1以上がサーメットでなくてもよい。各電極22,23,42,44,51は、それぞれ、多孔質体であることが好ましいが、これらの電極の1以上が多孔質体でなくてもよい。
上述した実施形態では、ポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の電圧V0の制御に用いられたが、これに限られない。例えば、ポンプ電流Ip1が目標値Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいてポンプ電圧Vp0をフィードバック制御してもよい。すなわち、ポンプ電流Ip1に基づく電圧V0の制御を省略して、ポンプ電流Ip1に基づいて直接的にポンプ電圧Vp0を制御(ひいてはポンプ電流Ip0を制御)してもよい。