以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の金型と生タイヤとの間の伝熱計算方法(以下、単に「伝熱計算方法」ということがある)は、金型と、生タイヤとの間での伝熱計算を、コンピュータを用いて行うための方法である。
図1は、本実施形態の伝熱計算方法を実行するコンピュータ1の一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dが含まれる。本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられている。なお、記憶装置には、本実施形態の伝熱計算方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶されている。
図2は、評価対象のタイヤ2の一例を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2は、例えば、乗用車用の空気入りタイヤとして構成されている。タイヤ2は、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7とが設けられている。
カーカス6は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成されている。このカーカスプライ6Aは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含んでいる。この本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム8が配されている。また、カーカスプライ6Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75〜90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)を有している。
カーカス6の内面には、タイヤ2の内腔面2iを形成するインナーライナゴム9が設けられている。このインナーライナゴム9は、例えば、耐空気透過性に優れるブチル系ゴムからなり、空気漏れを防止している。
本実施形態のベルト層7は、内側ベルトプライ7Aと、内側ベルトプライ7Aのタイヤ半径方向外側に配置された外側ベルトプライ7Bとを含んで構成されている。内側ベルトプライ7A及び外側ベルトプライ7Bは、タイヤ周方向に対して、例えば10〜35度の角度で配列されたベルトコード(図示省略)を有している。内側ベルトプライ7Aのベルトコードと、外側ベルトプライ7Bのベルトコードとは、互いに交差する向きに重ね合わされている。
タイヤ2の外面には、溝10が形成されている。溝10は、トレッド部2aをタイヤ周方向に連続してのびる主溝10Aと、主溝10Aと交わる方向にのびる横溝10Bとを含んでいる。
本実施形態のタイヤ2は、慣例に従い、未加硫の生タイヤが加硫成形されることによって製造される。ここで、未加硫とは、完全な加硫に至っていない全ての態様を含むもので、いわゆる半加硫の状態はこの「未加硫」に含まれる。図3は、加硫工程の一例を説明する部分断面図である。
本実施形態の加硫工程では、タイヤ2の外面を成形する金型11と、金型11にセットされた生タイヤ2Lの内腔内で膨張するブラダー12とが用いられている。
金型11は、例えば、サイドウォール成形面13sを有する一対のサイドウォール成形型13、13と、トレッド成形面14sを有するトレッド成形型14とを含んで構成されている。トレッド成形型14は、タイヤ周方向に分割されている。これらのサイドウォール成形型13及びトレッド成形型14が嵌め合わされることにより、タイヤ2の外面2oを成形しうる成形面11sが形成される。
金型11は、生タイヤ2Lの溝10を形成するための突起18を有している。突起18は、主溝10Aを形成するための第1突起18Aと、横溝10Bを形成するための第2突起18Bとを含んでいる。
さらに、金型11は、セクターシュー15、アクチュエータリング16、下プレート19及び上プレート20を含んで構成されている。セクターシュー15は、トレッド成形型14のタイヤ半径方向外側に嵌合され、かつ、タイヤ半径方向外側に斜面15sを有している。アクチュエータリング16は、図示しない駆動手段によって昇降可能に支持されている。下プレート19及び上プレート20は、サイドウォール成形型13、13のタイヤ軸方向外側に配置されている。また、金型11には、例えば、電気ヒータ等の加熱手段(図示省略)が配置されている。
このような金型11は、周知のように、アクチュエータリング16を上昇させてトレッド成形型14を拡径させるとともに、サイドウォール成形型13及び上プレート20を上方に位置させることにより、生タイヤ2Lが投入される。しかる後、金型11は、サイドウォール成形型13及び上プレート20を、アクチュエータリング16とともに下降させることで、セクターシュー15及びトレッド成形型14をタイヤ半径方向内方に型締めできる。
ブラダー12は、膨張可能なゴム状弾性体で構成されている。ブラダー12の内部空間12sには、例えば、図示しない供給手段から高圧流体(図示省略)が供給される。これにより、ブラダー12は、加硫工程において膨張しうる。高圧流体としては、水蒸気に、例えば、窒素等の不活性気体の少なくとも1つ、又は、複数の不活性気体を混合して構成される。高圧流体の温度としては、例えば、約140〜220℃に設定される。
加硫工程では、金型11とブラダー12との間で生タイヤ2Lが加熱及び加圧され、加硫成形されたタイヤ2(図2に示す)が製造される。生タイヤ2Lの外面2oは、金型11に接触し、金型11に設けられた突起18によって溝10が形成される。
ところで、加硫工程において、生タイヤ2Lの溝10が形成される部分は、金型11の突起18が内部に食い込んでいるため、溝10が形成されない部分に比べて、金型11の熱が伝わりやすく、温度が高くなりやすい。従って、金型11と、生タイヤ2Lとの間での伝熱計算を、コンピュータ1(図1に示す)を用いて行うには、金型11の突起18及び生タイヤ2Lの溝10による熱の伝わりやすさを考慮することが重要である。
次に、本実施形態の伝熱計算方法について説明する。図4は、本実施形態の伝熱計算方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の伝熱計算方法は、先ず、コンピュータ1に、金型11を複数の要素でモデル化した金型モデルが入力される(工程S1)。図5は、本実施形態の伝熱計算方法で利用される金型モデル21、生タイヤモデル32、及び、ブラダーモデル22の一例を示す図である。図5において、生タイヤモデル32は、金型モデル21及びブラダーモデル22と区別しやすいように色を付けされている。図6は、金型モデル21の一例を示す斜視図である。なお、図6の金型モデル21は、図5に示した要素F(i)を省略して示している。
工程S1では、図5に示されるように、金型11(図3に示す)の設計データ(例えば、CADデータ)に基づいて、金型11が、数値解析法により取り扱い可能な複数(有限個)の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化(モデル化)される。これにより、生タイヤモデル32を配置するための内部空間21iを有する金型モデル21が設定される。本実施形態の金型モデル21は、三次元モデルとして設定されている。なお、金型モデル21は、二次元モデルとして設定されてもよい。
数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できる。本実施形態では、有限要素法が採用される。各要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素等を採用できる。なお、二次元モデルである場合は、四辺形要素等を採用できる。
各要素F(i)には、複数個の節点34が設けられる。各要素F(i)には、要素番号、節点番号、節点座標値、及び、金型11(図3に示す)の材料特性(剛性、ヤング率、熱伝導率、密度、比熱、又は、熱膨張係数等)などの数値データが定義される。このような金型モデル21は、例えば、市販のメッシュ化ソフトウエアを用いることにより、容易に設定(モデリング)できる。
図6に示されるように、本実施形態の金型モデル21は、一対のサイドウォール成形型13、13(図3に示す)をモデル化した一対の第1成形型モデル23、23、及び、トレッド成形型14(図3に示す)をモデル化した第2成形型モデル24を含んでいる。第1成形型モデル23、及び、第2成形型モデル24が一体に組み合わされることにより、図5に示した生タイヤモデル32の外面32oを成形するための成形面21sが形成される。
本実施形態の金型モデル21は、セクターシュー15(図3に示す)をモデル化したセクターシューモデル25、アクチュエータリング16(図3に示す)をモデル化したアクチュエータリングモデル26、及び、下プレート19をモデル化した下プレートモデル29、及び、上プレート20をモデル化した上プレートモデル30をさらに含んでいる。
本実施形態の金型モデル21には、突起18(図3に示す)をモデル化した突起部分28が定義されている。突起部分28は、図3に示した生タイヤ2Lの主溝10Aを形成するための第1突起18Aをモデル化したものである。この突起部分28は、第2成形型モデル24の成形面21sに定義されている。
さらに、本実施形態の金型モデル21には、突起18(図3に示す)の少なくとも一部が取り除かれた第1部分31を含んで定義されている。本実施形態の第1部分31は、図3に示した生タイヤ2Lの横溝10Bを形成するための第2突起18Bが取り除かれたものである。この第1部分31は、第2成形型モデル24の成形面21sに定義されている。図6において、第1部分31を区別しやすいように、色付けして示している。
このように、本実施形態の工程S1では、図3に示した突起18の一部(本実施形態では、第2突起18B)が取り除かれた第1部分31により、金型モデル21を簡略化して定義することができる。従って、本実施形態の伝熱計算方法では、第1部分31を含まない(即ち、図3に示した第1突起18A及び第2突起18Bの双方が設定された)金型モデル(図示省略)を定義する場合に比べて、金型モデル21を短時間で定義することができる。また、横溝10Bを形成するための第2突起18Bは、主溝10Aを形成するための第1突起18Aに比べて、形状が複雑である。本実施形態の第1部分31は、第2突起18Bが取り除かれて設定されるため、例えば、第1突起18Aのみが取り除かれる場合に比べて、金型モデル21を短時間で定義することができる。金型モデル21は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の伝熱計算方法は、コンピュータ1に、生タイヤ2L(図3に示す)を複数の要素でモデル化した生タイヤモデルが入力される(工程S2)。図7は、生タイヤモデル32の一例を示す図である。工程S2は、図7に示されるように、金型11(図3に示す)の設計データ(例えば、CADデータ)に基づいて、生タイヤ2L(図3に示す)が、数値解析法により取り扱い可能な複数(有限個)の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化(モデル化)される。これにより、生タイヤモデル32が設定される。本実施形態の生タイヤモデル32は、三次元モデルとして設定されている。なお、生タイヤモデル32は、金型モデル21(図6に示す)が二次元モデルとして定義される場合、二次元モデルとして設定されてもよい。
要素G(i)としては、図5に示した金型モデル21の要素F(i)と同様のものが採用される。各要素F(i)には、要素番号、節点番号、節点座標値、及び、生タイヤ2L(図2に示す)の材料特性(剛性、ヤング率、熱伝導率、密度、比熱、又は、熱膨張係数等)などの数値データが定義される。
本実施形態の生タイヤモデル32には、生タイヤ2Lの溝10(図3に示す)をモデル化した溝部分35が定義されている。溝部分35は、主溝10A(図3に示す)をモデル化したものである。この溝部分35は、生タイヤモデル32のトレッド部32aに定義される。
さらに、本実施形態の生タイヤモデル32は、金型モデル21の第1部分31(図6に示す)に対応し、かつ、溝10(図3に示す)の部分を埋める第2部分36を含んでいる。図7では、第2部分36を区別しやすいように、色付けして示している。本実施形態の第2部分36は、金型11の第2突起18Bに対応する横溝10B(図3に示す)を埋めたものである。第2部分36は、生タイヤモデル32のトレッド部32aに定義される。
このように、本実施形態の工程S2では、金型モデル21の第1部分31(図6に示す)に対応する第2部分36により、生タイヤモデル32を簡略化して定義することができる。従って、本実施形態の伝熱計算方法では、第2部分36を含まない(即ち、図2に示した主溝10A及び横溝10Bの双方が設定された)生タイヤモデル(図示省略)が定義される場合に比べて、生タイヤモデル32を短時間で定義することができる。また、横溝10Bは、主溝10Aに比べて、形状が複雑である。本実施形態の第2部分36は、横溝10Bを埋めたものであるため、例えば、主溝10Aのみを埋めたもの(図示省略)に比べて、生タイヤモデル32を短時間で定義することができる。
図5に示されるように、本実施形態において、生タイヤモデル32の外面32oの輪郭は、金型モデル21の成形面21sの輪郭に一致している。生タイヤモデル32の外面32oと、金型モデル21の成形面21sとの間において、生タイヤモデル32の要素G(i)と金型モデル21の要素F(i)とは、節点34を共有させていない。これにより、生タイヤモデル32の外面32oと、金型モデル21の成形面21sとの間には、任意の境界条件を設定することができる。生タイヤモデル32は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の伝熱計算方法は、コンピュータ1に、ブラダー12(図3に示す)を複数の要素でモデル化したブラダーモデル22が入力される(工程S3)。工程S3では、図3に示した金型11やブラダー12の設計データ(例えば、CADデータ)等に基づいて、ブラダー12が、数値解析法により取り扱い可能な複数(有限個)の要素H(i)(i=1、2、…)でモデル化(離散化)される。これにより、ブラダーモデル22が設定される。本実施形態のブラダーモデル22は、三次元モデルとして設定される。なお、ブラダーモデル22は、金型モデル21及び生タイヤモデル32が二次元モデルとして定義される場合、二次元モデルとして設定されてもよい。
要素H(i)としては、金型モデル21の要素F(i)や、生タイヤモデル32の要素G(i)と同様のものが採用される。各要素H(i)には、要素番号、節点番号、節点座標値、及び、ブラダー12(図3に示す)の材料特性(剛性、ヤング率、熱伝導率、密度、比熱、又は、熱膨張係数等)などの数値データが定義される。ブラダーモデル22は、コンピュータ1に記憶される。
本実施形態において、ブラダーモデル22の外面22oの輪郭は、生タイヤモデル32の内腔面32iの輪郭に一致している。また、ブラダーモデル22の外面22oと、生タイヤモデル32の内腔面32iとの間において、ブラダーモデル22の要素H(i)と、生タイヤモデル32の要素G(i)とは、節点34を共有させていない。これにより、ブラダーモデル22の外面22oと、生タイヤモデル32の内腔面32iとの間に、任意の境界条件を設定することができる。ブラダーモデル22は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の伝熱計算方法は、金型モデル21の内部空間21iに、生タイヤモデル32、及び、ブラダーモデル22が配置される(配置工程S4)。図8は、本実施形態の配置工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の配置工程S4では、先ず、図5に示されるように、生タイヤモデル32が、金型モデル21の内部空間21iに配置される(工程S41)。工程S41では、生タイヤモデル32の外面32oを、金型モデル21の成形面21sに接触させている。さらに、工程S41では、金型モデル21の突起部分28を、生タイヤモデル32の溝部分35に対応させるとともに、金型モデル21の第1部分31(図6に示す)を、生タイヤモデル32の第2部分36(図7に示す)に対応させて配置している。これにより、工程S41では、生タイヤモデル32の外面32oと、金型モデル21の成形面21sとの間に、隙間が形成されることなく、生タイヤモデル32及び金型モデル21が配置される。また、生タイヤモデル32の外面32oと金型モデル21の成形面21sとの間には、位置ずれを防ぐための拘束条件が定義されてもよい。
次に、本実施形態の配置工程S4では、ブラダーモデル22が、生タイヤモデル32の内腔32s内に配置される(工程S42)。工程S42では、ブラダーモデル22の外面22oを、生タイヤモデル32の内腔面32iに接触させている。工程S41では、ブラダーモデル22の外面22oと、生タイヤモデル32の内腔面32iとの間に、隙間が形成されることなく、ブラダーモデル22及び生タイヤモデル32が配置される。なお、ブラダーモデル22の外面22oと生タイヤモデル32の内腔面32iとの間には、位置ずれ防ぐための拘束条件が定義されてもよい。
次に、本実施形態の伝熱計算方法では、コンピュータ1に、生タイヤモデル32と金型モデル21との接触面40での伝熱を計算するための境界条件が定義される(境界条件定義工程S5)。図9は、本実施形態の境界条件定義工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の境界条件定義工程S5は、先ず、図5に示した金型モデル21、生タイヤモデル32、及び、ブラダーモデル22の初期温度が定義される(工程S51)。初期温度としては、適宜設定されうる。本実施形態の初期温度としては、例えば、金型モデル21が140〜200℃、生タイヤモデル32が10〜50℃、及び、ブラダーモデル22が100〜180℃に設定される。これらの初期温度は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の境界条件定義工程S5は、金型モデル21に、加硫工程時に金型11(図3に示す)に設定される温度条件が定義される(工程S52)。工程S52では、金型モデル21のうち、金型11の加熱手段(図示省略)に対応する位置に、実際の加硫工程時に設定される温度条件が設定される。これにより、後述の伝熱計算を行う工程S6において、実際の加硫工程の金型11と同様に、金型モデル21の温度を上昇させることができる。金型モデル21の温度条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の境界条件定義工程S5は、ブラダーモデル22に、実際の加硫工程時の高圧流体(図示省略)の温度条件が定義される(工程S53)。工程S53では、ブラダーモデル22の内面22iに、実際の高圧流体(図示省略)の温度が定義される。これにより、後述の伝熱計算を行う工程S6において、実際の加硫工程のブラダー12(図3に示す)と同様に、ブラダーモデル22の温度を上昇させることができる。ブラダーモデル22の温度条件は、コンピュータ1に記憶される
次に、本実施形態の境界条件定義工程S5では、図7に示されるように、生タイヤモデル32の第2部分36を少なくとも含んだ領域の要素G(i)の熱伝導率が、生タイヤ2L(図3に示す)の対応する領域の熱伝導率よりも大きく定義される(工程S54)。本実施形態の工程S54では、第2部分36の領域に配置される要素G(i)に、生タイヤ2Lの対応する領域(本実施形態では、図3に示した溝10の溝壁のゴム部分、又は、溝底のゴム部分)よりも大きい熱伝導率が定義される。これにより、後述の伝熱計算を行う工程S6において、第2部分36は、生タイヤモデル32の他の部分に比べて、金型モデル21の熱が大きく伝えられた状態を計算することができる。
第2部分36の領域の要素G(i)の熱伝導率については、適宜設定することができる。本実施形態の第2部分36の要素G(i)の熱伝導率は、生タイヤ2Lの対応する領域(本実施形態では、図3に示した溝10の溝壁のゴム部分、又は、溝底のゴム部分)の熱伝導率の1.5〜3.5倍に定義されている。第2部分36の領域の要素G(i)の熱伝導率は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の伝熱計算方法は、コンピュータ1が、生タイヤモデル32と金型モデル21との接触面40での伝熱を計算する(工程S6)。工程S6では、金型モデル21の初期温度と、金型の温度条件とに基づいて、温度が上昇した金型モデル21が計算される。これにより、工程S6では、生タイヤモデル32と金型モデル21との接触面40での伝熱が計算される。
さらに、工程S6では、ブラダーモデル22の初期温度と、ブラダーの温度条件とに基づいて、温度が上昇したブラダーモデル22が計算される。これにより、工程S6では、生タイヤモデル32とブラダーモデル22との接触面42での伝熱が計算される。
このように、工程S6では、金型モデル21の温度及びブラダーモデル22の温度に基づいて、温度が上昇した生タイヤモデル32を計算することができる。
本実施形態の工程S6では、シミュレーションの単位ステップ毎に、熱解析(伝熱計算)が行われる。本実施形態の熱解析は、下記式(1)で示される熱伝導解析基礎方程式を、完全陰解法で解いている。このため、本実施形態の熱解析は、陽解法に基づく熱解析とは異なり、金型モデル21、ブラダーモデル22及び生タイヤモデル32等の熱膨張を計算していない。また、完全陰解法によれば、クーラン条件から逸脱した単位ステップの時間刻みで、非定常計算できる。従って、本実施形態の熱解析は、陽解法に基づいて行う熱解析に比べて、計算時間を短縮できる。
上記のような熱解析は、例えば、Dassault Systems社製のAbaqus、LSTC社製のLS-DYNA、又は、MSC社製のNASTRANなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。また、本実施形態の単位ステップの時間刻みは、陽解法での単位ステップの時間刻み(例えば、1秒)の2倍〜8倍に設定されるのが望ましい。
本実施形態の工程S6では、図6に示した第1部分31を含む金型モデル21、及び、図7に示した第2部分36を含む生タイヤモデル32が用いられているため、例えば、第1部分31を含まない(即ち、図3に示した第1突起18A及び第2突起18Bの双方が設定された)金型モデル、及び、第2部分36を含まない(即ち、図2に示した主溝10A及び横溝10Bの双方が設定された)生タイヤモデルが用いられる場合に比べて、金型モデル21と生タイヤモデル32との接触面40での伝熱計算を簡素化できる。従って、工程S6では、計算時間を短縮することができる。
さらに、本実施形態において、生タイヤモデル32の第2部分36(図7に示す)を少なくとも含んだ領域の要素G(i)の熱伝導率が、図3に示した生タイヤ2Lの対応する領域の熱伝導率よりも大きく定義されている。このため、第2部分36では、生タイヤモデル32の他の部分よりも金型モデル21の熱が伝わりやすい状態で、伝熱計算されうる。従って、工程S6では、第1部分31(図6に示す)を含む金型モデル21、及び、第2部分を含む生タイヤモデル32が用いられていても、図3に示した金型11の突起18(取り除かれた第2突起18B)、及び、生タイヤ2Lの溝10(埋められた横溝10B)による熱の伝わりやすさを考慮した伝熱計算が可能となるため、計算精度を維持しうる。
次に、本実施形態の伝熱計算方法では、伝熱計算が行われる予め定められた時間(以下、単に、「伝熱計算時間」ということがある。)が経過したか否かが判断される(工程S7)。伝熱計算時間については、適宜設定することができる。伝熱計算時間としては、例えば、図3に示した生タイヤ2Lが、金型11及びブラダー12が加熱されてから、加硫工程が終了するまでの時間を考慮して、5〜30分が設定されるのが望ましい。
工程S7において、伝熱計算時間が経過したと判断された場合(工程S7において、「Y」)、次の工程S8が実施される。他方、工程S7において、伝熱計算時間が経過していないと判断された場合(工程S7において、「N」)、単位ステップを一つ進めて(工程S9)、工程S6及び工程S7が再度実施される。これにより、伝熱計算方法は、実際の加硫工程と同様に、図3に示した金型11の温度及びブラダー12の温度で上昇した生タイヤ2Lの温度を計算することができる。
次に、本実施形態の伝熱計算方法では、コンピュータ1が、生タイヤモデル32(図5に示す)の温度に基づいて、加硫条件(即ち、金型11(図3に示す)の温度、又は、高圧流体(図示省略)の温度等の境界条件)が良好か否かを判断する(工程S8)。工程S8では、生タイヤモデル32の温度から予測される加硫後のタイヤ2(図2に示す)の品質や、生産性に基づいて、良好な加硫条件か否かが判断される。
工程S8では、予測された生タイヤ2L(図3に示す)の温度により、下記式(2)に基づいて、生タイヤの加硫量を予測することが望ましい。これにより、良好な加硫条件を確実に判断することができる。なお、活性化エネルギーEは、例えば、83.72kJ/molに設定される。気体エネルギーRは、例えば8.318J/mol・degに設定される。基準温度は、414.86Kに設定される。
工程S8において、加硫条件が良好であると判断された場合(工程S8で、「Y」)、本実施形態の伝熱計算方法で設定された加硫条件に基づいて、図3に示した生タイヤ2Lが加硫され、タイヤ2(図2に示す)が製造される(工程S10)。他方、加硫条件が良好でないと判断された場合(工程S8で、「N」)、加硫条件を変更して(工程S11)、工程S6〜工程S9が再度実施される。これにより、本実施形態の伝熱計算方法は、生タイヤモデル32の温度に基づいて、良好な加硫条件を得ることができる。本実施形態の伝熱計算方法では、生タイヤ2Lの温度を精度よく予測できるため、良好な加硫条件を確実に得ることができる。
これまでの実施形態では、金型11の第2突起18B(図3に示す)が取り除かれた第1部分31を含む金型モデル21(図6に示す)、及び、横溝10B(図2に示す)が埋められた第2部分36を含む生タイヤモデル32(図7に示す)が定義されたが、このような態様に限定されない。例えば、図3に示した金型11の第1突起18A及び第2突起18Bの双方が取り除かれた第1部分31を含む金型モデル21(図示省略)、及び、図2に示した主溝10A及び横溝10Bの双方が埋められた第2部分36を含む生タイヤモデル32(図示省略)が定義されてもよい。
これにより、この実施形態では、金型モデル21(図6に示す)及び生タイヤモデル32(図7に示す)をより簡略化できるため、金型モデル21及び生タイヤモデル32を短時間で定義することができる。さらに、この実施形態では、金型モデル21と生タイヤモデル32との接触面40(図5に示す)での伝熱計算を、より簡素化することができるため、計算時間を短縮することができる。
これまでの実施形態では、生タイヤモデル32の第2部分36のみに配置される要素G(i)に、上記範囲内の熱伝導率が定義されたが、このような態様に限定されない。図10は、本発明の他の実施形態の生タイヤモデル32を部分的に示す図である。なお、この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態では、例えば、第2部分36を含み、かつ、第2部分36をタイヤ周方向に連続させた領域43に配置される要素G(i)の熱伝導率が、生タイヤ2L(図3に示す)の対応する領域(本実施形態では、生タイヤ2Lのトレッドゴム2G)の熱伝導率よりも大きく定義してもよい。これにより、金型モデル21と生タイヤモデル32との接触面40(図5に示す)での伝熱計算を、より簡素化することができるため、計算時間を短縮することができる。この場合、領域43に配置される要素G(i)の熱伝導率は、生タイヤ2Lのトレッドゴム2Gの熱伝導率の1.3〜3.0倍に定義されるのが望ましい。
これまでの実施形態の伝熱計算方法では、図7に示した第2部分36の領域に配置される要素G(i)の熱伝導率が、上記の範囲内で定義されたが、このような態様に限定されない。例えば、生タイヤモデル32を使用したシミュレーションによって、第2部分36の領域に配置される要素G(i)の熱伝導率が求められてもよい。図11は、第2部分36を含む領域の要素G(i)の熱伝導率を定義する工程(以下、単に、「第2部分熱伝導率定義工程」ということがある。)S54の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の第2部分熱伝導率定義工程S54では、先ず、図7に示した生タイヤモデル32の第2部分36を少なくとも含んだ領域(本実施形態では、第2部分36)の要素G(i)の熱伝導率の初期値が定義される(工程S71)。熱伝導率の初期値については、生タイヤ2Lの対応する領域の熱伝導率よりも大きい熱伝導率であれば適宜設定することができる。熱伝導率の初期値は、上記した熱伝導率の範囲内で設定されるのが望ましい。熱伝導率の初期値は、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第2部分熱伝導率定義工程S54では、生タイヤモデル32の伝熱計算によって求められる加硫度が、予め定められた第1加硫度になるまでの第1時間が求められる(工程S72)。加硫度は、未加硫の状態から加硫が進んだ割合を示すためのものである。加硫度は、例えば、Kamal's modelの下記式(3)に基づいて求めることができる。
ここで、
A
a、A
b、B
a、B
b、M
a、M
b:ゴムの配合から決定される定数
i:現在の時間
t:時間
Temp:生タイヤのゴム温度
第1加硫度については、適宜設定することができる。本実施形態の第1加硫度は、5%〜15%(本実施形態では、10%)に設定される。このような第1加硫度のゴムは、まだ流動性を有していることが知られている。従って、第1加硫度は、ゴムの加硫の進行具合を把握する上で重要なパラメータである。
工程S72では、生タイヤモデル32と金型モデル21との接触面40での伝熱を計算する工程S6と同様に、図5に示されるように、生タイヤモデル32と金型モデル21との接触面40での伝熱計算が行われる。そして、生タイヤモデル32を構成する要素G(i)のうち、加硫度の進行が最も遅い要素G(i)が第1加硫度になる時間を第1時間として求めている。第1時間は、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第2部分熱伝導率定義工程S54では、図6に示した第1部分31を含まない(即ち、図3に示した第1突起18A及び第2突起18Bの双方が設定された)第2金型モデル(図示省略)が定義される(工程S73)。第2金型モデル37の突起部分28は、図3に示した生タイヤ2Lの主溝10Aを形成するための第1突起18A、及び、横溝10Bを形成するための第2突起18Bをモデル化したものである。これにより、第2金型モデルは、金型11の突起18が忠実に再現される。第2金型モデルは、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第2部分熱伝導率定義工程S54では、図3に示した生タイヤ2Lの熱伝導率が定義され、かつ、図7に示した第2部分36を含まない(即ち、図2に示した主溝10A及び横溝10Bの双方が設定された)第2生タイヤモデル(図示省略)が定義される(工程S74)。第2生タイヤモデルの溝部分35は、図3に示した生タイヤ2Lの主溝10A及び横溝10Bをモデル化したものである。これにより、第2生タイヤモデルは、生タイヤ2Lの溝10が忠実に再現される。また、第2生タイヤモデルの各要素G(i)には、第2部分36の領域の要素G(i)に大きな熱伝導率が定義される生タイヤモデル32(図5に示す)とは異なり、生タイヤ2Lの熱伝導率が定義される。第2生タイヤモデルは、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第2部分熱伝導率定義工程S54では、第2生タイヤモデル(図示省略)の伝熱計算よって求められる加硫度が、第1加硫度になるまでの第2時間が求められる(工程S75)。工程S75では、先ず、図5に示した生タイヤモデル32と同様に、第2生タイヤモデルが、第2金型モデル(図示省略)の内部空間に配置されるともに、ブラダーモデル22が、第2生タイヤモデルの内腔内に配置される。そして、工程S75では、第2生タイヤモデルと第2金型モデルとの接触面での伝熱が計算される。
第2生タイヤモデル(図示省略)は、図3に示した生タイヤ2Lの主溝10A及び横溝10Bをモデル化した溝部分を有している。また、第2金型モデル(図示省略)は、図3に示した金型11の第1突起18A及び第2突起18Bをモデル化した突起部分を有している。このため、工程S75では、金型11の突起18及び生タイヤ2Lの溝10による熱の伝わりやすさを考慮した伝熱計算が可能となる。
工程S75では、第2生タイヤモデル(図示省略)を構成する要素G(i)のうち、加硫度の進行が最も遅い要素G(i)が第1加硫度になる時間を第2時間として求めている。第2時間は、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第2部分熱伝導率定義工程S54は、第1時間と第2時間との差が予め定められた範囲内にあるか否かが判断される(工程S76)。第1時間と第2時間との差の範囲については、適宜設定することができる。第1時間と第2時間との差の範囲は、±15秒以下(本実施形態では、0秒)に設定される。
工程S76において、第1時間と第2時間との差が予め定められた範囲内にあると判断された場合(工程S76において、「Y」)、工程S71で定義された熱伝導率が、第2部分36(図7に示す)を含む領域の要素G(i)の熱伝導率として決定される(工程S77)。他方、工程S76において、第1時間と第2時間との差が予め定められた範囲内にないと判断された場合(工程S76において、「N」)、第1時間と前記第2時間との差が上記範囲内となるように、第2部分36を含む領域の要素G(i)の熱伝導率を変更して(工程S78)、工程S75、及び、工程S76が再度実施される。
このように、この実施形態の伝熱計算方法では、第1時間と第2時間との差が上記範囲内になる上記熱伝導率が求められることにより、図5に示した第1部分31を含む金型モデル21及び第2部分36を含む生タイヤモデル32が用いられていても、図3に示した金型11の突起18及び生タイヤ2Lの溝10による熱の伝わりやすさを正確に計算しうる熱伝導率を確実に求めることができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図5〜図7に示した金型モデル、生タイヤモデル及びブラダーモデルがそれぞれ作成された(実施例、比較例1、比較例2)。
実施例及び比較例1の金型モデルは、横溝を形成するための第2突起が取り除かれた第1部分を含んで定義された。実施例及び比較例1の生タイヤモデルは、金型モデルの第1部分に対応する横溝を埋める第2部分を含んで定義された。
実施例では、生タイヤモデルの第2部分の要素の熱伝導率が、生タイヤの対応する領域の熱伝導率の2.5倍に定義された。また、実施例では、第2部分以外の要素の熱伝導率として、生タイヤの対応する領域の熱伝導率がそのまま設定された。他方、比較例1では、生タイヤモデルの第2部分を含む全ての要素について、生タイヤの対応する領域の熱伝導率に定義された。
比較例2の金型モデルは、主溝を形成するための第1突起、及び、横溝を形成するための第2突起がモデル化された。比較例2の生タイヤモデルは、主溝及び横溝がモデル化された。そして、比較例2では、生タイヤモデルの全ての要素について、生タイヤの対応する領域の熱伝導率に定義された。
実施例、比較例1及び比較例2の金型モデル、生タイヤモデル及びブラダーモデルを用いて、金型モデルに設定される複数の温度条件毎に、生タイヤモデルと金型モデルとの接触面での伝熱を計算する工程が実施された。そして、実施例、比較例1及び比較例2の生タイヤモデルについて、第1加硫度になるまでの時間と、加硫工程終了時に最も加硫が進行した部分のオーバー加硫量との関係が、金型モデルの温度条件毎に求められた。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:265/65R15
初期温度:25℃
第1加硫度:10%
金型モデルの温度条件:17種類
テストの結果、実施例と比較例2との相関(相関係数=0.993)は、比較例1と比較例2との相関(相関係数=0.918)よりも高いことが確認できた。従って、実施例は、金型モデルの第2突起、及び、生タイヤモデルの横溝が省略されても、精度の高い伝熱計算が行うことができた。
また、実施例の金型モデル及び生タイヤモデルを定義するのに要した時間は、比較例2の金型モデル及び生タイヤモデルを定義するのに要した時間の15%であった。さらに、実施例の伝熱の計算に要した時間は、比較例2の伝熱の計算に要した時間の4%であった。従って、実施例は、比較例2に比べて、金型モデル及び生タイヤモデルを短時間で定義しつつ、伝熱計算での計算時間を短縮しうることが確認できた。