以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)は、タイヤの性能を、コンピュータを用いて評価するための方法である。
図1は、本実施形態のシミュレーション方法を実行するコンピュータの斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んでいる。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。また、記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
図2は、評価対象のタイヤ2の断面図である。タイヤ2は、例えば、重荷重用の空気入りタイヤとして構成される。タイヤ2は、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7とが設けられている。
カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成されている。カーカスプライ6Aは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aからのびてビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを有している。また、カーカスプライ6Aは、例えば、タイヤ赤道Cに対して80度〜90度の角度で配列されたカーカスコードが、互いに交差する向きに重ねられている。
ベルト層7は、例えば、スチール製のベルトコードをタイヤ周方向に対して、例えば10°〜70゜の角度で配列した4枚のベルトプライ7A〜7Dから構成される。これらのベルトプライ7A〜7Dは、ベルトコードがプライ間で互いに交差する箇所を1箇所以上設けて重置されている。
タイヤ2を構成するゴム部分8は、トレッドゴム8a、サイドウォールゴム8b、クリンチゴム8c、ビードエーペックスゴム8d及びインナーライナーゴム8eが含まれている。
トレッドゴム8aは、トレッド部2aにおいて、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に配置されている。このトレッドゴム8aには、複数本の溝が凹設され、かつ、路面と接地する。サイドウォールゴム8bは、サイドウォール部2bにおいて、カーカス6のタイヤ軸方向外側に配置されている。
クリンチゴム8cは、ビード部2cにおいて、カーカス6のタイヤ軸方向外側に配置されている。ビードエーペックスゴム8dは、カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間において、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびている。インナーライナーゴム8eは、タイヤ2の内腔面9をなし、カーカス6の内面において、ビード部2c、2c間に架け渡されている。このインナーライナーゴム8eは、例えば、ハロゲン化ブチルを含む耐空気透過性に優れるブチル系ゴムからなり、空気漏れを防止するのに役立つ。
タイヤ2のビード部2cに嵌合されるリム10は、クリンチゴム8cの底面を受けるリムシート10sと、該リムシート10sのタイヤ軸方向の外端10soからタイヤ半径方向外側に突出するリムフランジ10fとを含んでいる。このリムフランジ10fは、クリンチゴム8cのタイヤ軸方向の外面に当接している。
上記のようなタイヤ2は、慣例に従い、未加硫の生タイヤが金型内で加硫成形されることによって製造される。
図3は、金型11及び加硫成形される生タイヤ2Lを示している。金型11は、例えば、サイドウォール成形面12sを有する一対のサイドウォール成形型12と、トレッドゴム成形面13sを有するトレッド成形型13と、生タイヤ2Lのビード部2cを保持しうる一対のビードリング14とを含んで構成されている。これらのサイドウォール成形型12、トレッド成形型13及びビードリング14が嵌め合わせられることにより、タイヤ外面を成形しうるキャビティ11sが形成される。また、金型11には、例えば、電気ヒータ等の加熱手段(図示省略)が配置されている。
金型11のキャビティ11s内には、生タイヤ2Lが配置される。生タイヤ2Lは、高温の高圧流体(図示省略)が供給されるブラダー15の膨張により、キャビティ11sに押し付けられる。そして、生タイヤ2Lは、金型11の加熱手段(図示省略)、及び、ブラダー15に供給される高圧流体によって、約140℃〜180℃の温度で加硫成形される。加硫後のタイヤ2は、金型11から取り出されて、自然又は強制的に冷却される。これにより、図2に示したタイヤ2が製造される。
タイヤ2を構成するゴム部分8には、加硫成形時から冷却後の温度低下によって熱収縮が生じる。このため、冷却後のタイヤ2のタイヤ子午線断面でのタイヤ外面形状(以下、単に「タイヤ外面形状」ということがある。)2s(図2に示す)は、金型11内でのタイヤ外面形状(即ち、キャビティ11sの断面形状)16と一致しない。
図4は、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、金型11内でのタイヤ外面形状16が入力される(工程S1)。この工程S1では、図3に示した金型11の設計データ(例えば、CADデータ)から、金型11内でのタイヤ外面形状16の数値データが、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1に、金型11内でのタイヤ外面形状16(図3に示す)、及び、タイヤ2のゴム部分8(図2に示す)のゲージに基づいて、内圧充填前のタイヤモデルが入力される(工程S2)。図5は、本実施形態の内圧充填前のタイヤモデルを示す断面図である。
内圧充填前のタイヤモデル21aは、図2に示したタイヤ2を、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)でモデル化(離散化)することで設定される。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法が適宜採用することができる。本実施形態では、有限要素法が採用されている。このような内圧充填前のタイヤモデル21aのモデル化(離散化)は、例えば、メッシュ化ソフトウェアを用いることにより、容易に行うことができる。
各要素F(i)は、節点23の座標値、形状、材料特性(例えば密度、弾性率、損失正接又は減衰係数)等を含む数値データとして定義される。これらの要素F(i)は、コンピュータ1に記憶され、数値解析ソフトウェアを用いて計算及び視覚化される。
本実施形態の工程S2では、先ず、図2に示したトレッドゴム8a、サイドウォールゴム8b、クリンチゴム8c、ビードエーペックスゴム8d及びインナーライナーゴム8eを含むゴム部分8が、要素F(i)でモデル化される。これにより、工程S2では、トレッドゴムモデル22a、サイドウォールゴムモデル22b、クリンチゴムモデル22c、ビードエーペックスゴムモデル22d、及び、インナーライナーゴムモデル22eを含むゴムモデル22が設定される。
各ゴムモデル22の要素F(i)としては、例えば、複雑な形状を表現するのに適した三角形要素や四辺形要素が採用されるのが望ましいが、これに限定されるわけではない。また、クリンチゴムモデル22cには、タイヤ2のクリンチゴム8cがリムシート10s(図2に示す)と接触する領域として定義されたリムシート接触領域24cと、タイヤ2のクリンチゴム8cがリムフランジ10f(図2に示す)と接触する領域として定義されたリムフランジ接触領域24fとが設定されている。これらのリムシート接触領域24c及びリムフランジ接触領域24fは、リム10にリム組みされたタイヤ2(図2に示す)において実際に特定されてもよく、また、タイヤ設計時に予め設定されている領域から特定されてもよい。
また、工程S2では、図2に示したビードコア5、カーカスプライ6A及びベルトプライ7A〜7Dが、要素F(i)でモデル化される。これにより、工程S2では、ビードコアモデル25、カーカスプライモデル26及びベルトプライモデル27a〜27dが設定される。また、カーカスプライモデル26には、図2に示したカーカスプライ6Aの本体部6a及び折返し部6bをそれぞれモデル化した本体部26a及び折返し部26bが設定されている。ビードコアモデル25、カーカスプライモデル26及びベルトプライモデル27a〜27dの要素F(i)としては、例えば、三角形要素、四辺形要素、又は、コード材を表す線要素など採用することができる。
さらに、工程S2では、加硫後(熱収縮後)のタイヤ2のトレッドゴム8a、サイドウォールゴム8b、クリンチゴム8c、ビードエーペックスゴム8d及びインナーライナーゴム8eの各ゲージに基づいて、トレッドゴムモデル22a、サイドウォールゴムモデル22b、クリンチゴムモデル22c、ビードエーペックスゴムモデル22d、及び、インナーライナーゴムモデル22eのゲージが設定される。
さらに、工程S2では、各ゴムモデル22a〜22eのゲージが、タイヤ2のゴム部分8のゲージに設定されることにより、各ゴムモデル22a〜22eの内部に配置されるビードコアモデル25、カーカスプライモデル26及びベルトプライモデル27a〜27dの配置を、実際のタイヤ2での配置に近似させることができる。なお、タイヤ2のゴム部分8のゲージとしては、タイヤ2のゴム部分8が実際に測定された測定値や、タイヤ設計時に予め設定されている設計値を用いることができる。
このように、工程S2では、例えば、全てのゴムモデル22a〜22eについて、実際のタイヤ2の熱収縮による寸法変化を計算しなくても、金型11内でのタイヤ外面形状16(図3に示す)に基づいて設定された内圧充填前のタイヤモデル21aを、加硫後のタイヤ2(図2に示す)に近似させることができるため、計算コストを抑えることができる。この内圧充填前のタイヤモデル21aは、コンピュータ1に記憶される。
ところで、従来のシミュレーション方法では、予め定められたリム条件及び内圧条件に基づいて、例えば、内圧充填前のタイヤモデル21aの変形計算が実施されることにより、内圧充填後のタイヤモデルが設定される。また、内圧充填後のタイヤモデルを三次元に展開させた三次元のタイヤモデル(図示省略)を用いて、例えば、接地面の形状等を計算するシミュレーションが実施される。しかしながら、従来のシミュレーション方法では、タイヤモデルの接地面の形状を、実際のタイヤの接地面の形状に十分近似させることができず、シミュレーション精度を高めることが難しいという問題があった。
図6は、従来の内圧充填後のタイヤモデル30のビード部を拡大して示す断面図である。図6では、実際の内圧充填後のタイヤのカーカスプライ6Aが、2点鎖線で示されている。発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、内圧充填後のタイヤモデル30において、タイヤモデル30のリムフランジ接触領域24fと、カーカスプライモデル26の折返し部26bとの間の外側ビード厚さW1が、内圧充填後のタイヤ2での外側ビード厚さW2よりも大となり、シミュレーション精度を低下させていることを知見した。
内圧充填後のタイヤモデル30の外側ビード厚さW1が、タイヤ2の外側ビード厚さW2よりも大きく計算される理由の一つとしては、変形計算による要素潰れを予防するために、リムフランジ接触領域24fと折返し部26bとの間のゴムモデル22の要素F(i)を、大きなメッシュサイズで設定していることが考えられる。ゴムモデル22の要素F(i)のメッシュサイズを大きく設定すると、その剛性が通常よりも大きく計算されるため、実際のタイヤの圧縮変形に十分に近似させることができないためである。
また、もう一つの理由としては、汎用の有限要素解析アプリケーションソフトウェアに用意されている要素F(i)を構成する材料モデルが、今回の内圧充填時に生じる圧縮を含む3次元の大変形に対して、十分な精度を発揮できていないことが考えられる。これらの要素F(i)は、例えば、一軸引張に対して高い精度を発揮できるように設計されている。
また、発明者らは、さらに鋭意研究を重ねた結果、カーカスプライモデル26のビードコアモデル25、25(図5に示す)間を跨るカーカスパス長さ(以下、単に「カーカスパス長さ」ということがある。)L1が、内圧充填後のタイヤ2でのカーカスパス長さL2よりも大となり、シミュレーション精度をさらに低下させていることを知見した。なお、カーカスプライモデル26のカーカスパス長さL1が、内圧充填後のタイヤ2でのカーカスパス長さL2よりも大きく計算される理由としては、タイヤモデル21aが、金型11内でのタイヤ外面形状16(図3に示す)に基づいて設定されているため、加硫後の冷却によるタイヤの熱収縮が考慮されていないことによるものと考えられる。
本実施形態のシミュレーション方法では、後述する内圧充填後のタイヤモデル21c(図11に示す)を計算するのに先立ち、内圧充填前のタイヤモデル21aを修正した修正後のタイヤモデル21bが設定される(修正工程S3)。図7は、本実施形態の修正工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この修正工程S3では、先ず、内圧充填前のタイヤモデル21a(図5に示す)において、ゴムモデル22の外側ビード厚さW1(図6に示す)が小さく修正される(工程S31)。図8(a)は、ゴムモデル22の外側ビード厚さW1を小さく修正する前の断面図である。図8(b)は、ゴムモデル22の外側ビード厚さW1を小さく修正した後の断面図である。
本実施形態の工程S31では、リムフランジ接触領域24fと、カーカスプライモデル26の折返し部26bとの間において、ゴムモデル22(クリンチゴムモデル22c)の要素F(i)の節点23、23間の長さL3を小さくして、外側ビード厚さW1を小さく修正している。これにより、後述する内圧充填後のタイヤモデル21c(図11に示す)において、外側ビード厚さW1を、実際のタイヤ2の外側ビード厚さW2に近似させることができる。
なお、本実施形態において、節点23、23間の長さL3が小さく設定されるゴムモデル22の要素F(i)は、リムフランジ接触領域24f、折返し部26b、並びに、リムフランジ接触領域24fのタイヤ半径方向の外端24fo及び内端24fiにおいてリムフランジ接触領域24fに直交する一対の直交線28a、28bで囲まれる収縮領域29に、少なくとも一部が重複して配置されている要素F(i)である。
修正後の外側ビード厚さW1bについては、評価対象のタイヤ2のサイズ及び構造に応じて、適宜設定することができる。本実施形態の重荷重用空気入りタイヤの場合には、修正後の外側ビード厚さW1bが、修正前の外側ビード厚さW1aの85%〜95%に設定されるのが望ましい。なお、修正後の外側ビード厚さW1bが、修正前の外側ビード厚さW1aの95%を超えると、後述する内圧充填後のタイヤモデル21c(図11に示す)において、実際のタイヤ2の外側ビード厚さW2(図6に示す)に十分に近似させることができないおそれがある。逆に、修正後の外側ビード厚さW1bが、修正前の外側ビード厚さW1aの85%未満であると、実際のタイヤ2の外側ビード厚さW2(図6に示す)よりも過度に小さく計算されるおそれがある。
要素F(i)の節点23、23間の長さL3を小さくする方法は、適宜採用することができる。本実施形態では、予め定められた熱収縮条件に基づいて、リムフランジ接触領域24fと、カーカスプライモデル26の折返し部26bとの間のゴムモデル22(クリンチゴムモデル22c)を変形(熱収縮)させている。熱収縮条件としては、例えば、収縮領域29内の各要素F(i)に定義される熱収縮率、及び、温度低下率を含んでいる。
熱収縮率は、各要素F(i)の節点23、23間の長さL3を、リムフランジ接触領域24fと折返し部26bとで挟まれる方向にのみに収縮させる異方性の熱収縮率である。また、温度低下率は、例えば、各要素F(i)に定義される熱収縮率に基づいて、修正後の外側ビード厚さW1bを、上記範囲内に設定しうる温度低下率である。これらの熱収縮率及び温度低下率から、ゴムモデル22の要素F(i)の熱収縮力が求められる。
工程S31では、ゴムモデル22(クリンチゴムモデル22c)の各要素F(i)において、剛性と熱収縮力とが釣り合うように、各要素F(i)の節点23の変位量が計算される。これにより、工程S31では、リムフランジ接触領域24fと折返し部26bとの間において、要素F(i)の節点23、23間の長さL3を小さくすることができ、外側ビード厚さW1を容易に小さくすることができる。このようなゴムモデル22の変形計算は、各種のソフトウェアを利用して行うことができる。本実施形態では、解析アプリケーションソフトウェア( LSTC社製のLS-Dyna等)を用いて行われる。
異方性の熱収縮率は、各要素F(i)において、リムフランジ接触領域24fと直交する方向に沿って設定されるのが望ましい。これにより、リムフランジ接触領域24fと、折返し部26bとの間のゴムモデル22(クリンチゴムモデル22c)は、図2に示した硬質なリムフランジ10fに沿って変形するタイヤ2のゴム部分8(クリンチゴム8c)の変形を再現することができる。
本実施形態では、熱収縮条件による変形に基づいて、各要素F(i)の節点23、23間の長さL3を小さくするものが例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、オペレータの操作によって、各要素F(i)の節点23、23間の長さL3を小さくしてもよい。
次に、本実施形態の修正工程S3では、カーカスプライモデル26のカーカスパス長さL1(図6に示す)が小さく修正される(工程S32)。図9(a)は、カーカスパス長さL1を小さく修正する前の断面図である。図9(b)は、カーカスパス長さL1を小さく修正した後の断面図である。
本実施形態の工程S32では、予め特定したカーカスプライモデル26の節点23s、23sを基準として、カーカスプライモデル26のビードコアモデル25、25間を跨るカーカスパス方向(カーカスプライモデル26の長手方向)に沿って、カーカスプライモデル26を構成する全ての要素F(i)の節点23、23間の長さL3を小さくしている。これにより、工程S32では、カーカスプライモデル26のカーカスパス長さL1を小さく修正することができる。従って、後述する内圧充填後のタイヤモデル21c(図11に示す)において、カーカスパス長さL1を、実際のタイヤ2のカーカスパス長さL2(図6に示す)に近似させることができる。
修正後のカーカスパス長さL1bは、修正前のカーカスパス長さL1aの99.0%〜99.8%が望ましい。なお、修正後のカーカスパス長さL1bが、修正前のカーカスパス長さL1aの99.8%を超えると、後述する内圧充填後のタイヤモデル21cにおいて、実際のタイヤ2のカーカスパス長さL2(図6に示す)に十分近似させることができないおそれがある。逆に、修正後のカーカスパス長さL1bが、修正前のカーカスパス長さL1aの99.0%未満であると、実際のタイヤ2のカーカスパス長さL2(図6に示す)よりも過度に小さく計算されるおそれがある。
要素F(i)の節点23、23間の長さL3を小さくする方法については、適宜採用することができる。本実施形態では、図8(a)、(b)に示した外側ビード厚さW1を小さく修正する工程S31と同様に、予め定められた熱収縮条件に基づいて、カーカスプライモデル26を変形(熱収縮)させている。
熱収縮条件は、カーカスプライモデル26の各要素F(i)に定義される熱収縮率と、各要素F(i)に定義される温度低下率とを含んでいる。本実施形態の熱収縮率は、要素F(i)の節点23、23間の長さL3を、カーカスパス方向(カーカスプライモデル26の長手方向)にのみに収縮させる異方性の熱収縮率である。温度低下率は、例えば、各要素F(i)に定義される熱収縮率に基づいて、修正後のカーカスパス長さL1bを、上記範囲内に設定しうる温度低下率である。これらの熱収縮率及び温度低下率から、カーカスプライモデル26の要素F(i)の熱収縮力が求められる。
工程S32では、カーカスプライモデル26の各要素F(i)において、剛性と熱収縮力とが釣り合うように、各要素F(i)の節点23の変位量が計算される。これにより、工程S32では、カーカスパス方向(カーカスプライモデル26の長手方向)において、カーカスプライモデル26の要素F(i)の節点23、23間の長さL3を小さくすることができる。従って、工程S32では、カーカスプライモデル26のカーカスパス長さL1を容易に小さくすることができる。
修正工程S3では、工程S31及び工程S32が順次実施されることにより、図10に示されるように、外側ビード厚さW1及びカーカスパス長さL1を修正した内圧充填前のタイヤモデル(以下、単に「修正後のタイヤモデル」ということがある。)21bが設定される。このような修正後のタイヤモデル21bは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、内圧充填後のタイヤモデルを設定する(工程S4)。この工程S4では、従来のシミュレーション方法と同様に、予め定められたリム条件及び内圧条件に基づいて、修正後のタイヤモデル(内圧充填前のタイヤモデル)21bの変形が計算される。図11は、内圧充填後のタイヤモデル21cを示す断面図である。
リム条件としては、公知の方法と同様に、タイヤ2に嵌合されるリム10(図2に示す)をモデル化したリムモデル32が設定される。また、内圧条件として、修正後のタイヤモデル21bの内腔面の全域に、例えば規格で定められた最大の空気圧に相当する等分布荷重wが設定される。
そして、これらの条件の下で、修正後のタイヤモデル21bの釣り合い計算が行われることにより、修正後のタイヤモデル21bがリムモデル32に組み込まれ、さらに、空気圧が充填されたときの各節点23の変位が計算される。これにより、内圧充填後のタイヤモデル21cが計算される。内圧充填後のタイヤモデル21cは、コンピュータ1に記憶される。
上述した理由により、工程S4での変形計算だけでは、リムフランジ接触領域24fと折返し部26bとの間のゴムモデル22(クリンチゴムモデル22c)を柔軟に変形させることができない。しかしながら、本実施形態の工程S4では、修正工程S3において、外側ビード厚さW1(図8(a)、(b)に示す)が予め小さく修正されているため、内圧充填後のタイヤモデル21cの外側ビード厚さW1を、実際のタイヤ2の外側ビード厚さW2(図6に示す)に効果的に近似させることができる。
また、工程S4での変形計算だけでは、カーカスプライモデル26のカーカスパス長さL1を十分に小さくすることができない。しかしながら、工程S4では、修正工程S3において、カーカスパス長さL1(図9(a)、(b)に示す)が予め小さく修正されているため、内圧充填後のタイヤモデル21cのカーカスパス長さL1を、実際のタイヤ2のカーカスパス長さL2(図6に示す)に効果的に近似させることができる。
従って、本実施形態の工程S4では、内圧充填後のタイヤモデル21cを、実際のタイヤ2(図2に示す)に効果的に近似させることができる。従って、本実施形態のシミュレーション方法では、後述するシミュレーション工程S6において、シミュレーション精度を高めることができる。
なお、本実施形態のシミュレーション方法では、内圧充填後のタイヤモデル21cの計算(工程S4)に先立ち、内圧充填前のタイヤモデル21aの外側ビード厚さW1(図6に示す)及びカーカスパス長さL1(図6に示す)が修正される(修正工程S3が実施される)態様が例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、内圧充填後のタイヤモデル21cが計算(工程S4が実施)された後に、内圧充填後のタイヤモデル21cの外側ビード厚さW1及びカーカスパス長さL1が修正(修正工程S3が実施)されてもよい。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、内圧充填後のタイヤモデル21cを三次元に展開させた三次元のタイヤモデル21dを設定する(工程S5)。図12は、三次元のタイヤモデルの部分断面図である。図12は、三次元のタイヤモデル及び路面モデルの斜視図である。
この工程S5では、先ず、内圧充填後のタイヤモデル21cの各節点23が、所定の角度ピッチでタイヤ周方向に連続複写される。次に、タイヤ周方向で隣り合う節点23、23間が相互に連結され、二次元の要素F(i)を三次元に再要素化(リメッシュ化)される。これにより、工程S5では、三次元のタイヤモデル21dを設定することができる。
このように、本実施形態の工程S5では、工程S1〜工程S4を経て設定された2次元の内圧充填後のタイヤモデル21cに基づいて、タイヤ周方向に単純に展開して三次元のタイヤモデル21dが設定される。このため、本実施形態のシミュレーション方法では、三次元のタイヤモデル21dを、実際のタイヤ2に近似させることができる。
ゴムモデル22を構成する要素F(i)は、三次元のソリッド要素にリメッシュ化される。一方、カーカスプライモデル26及びベルトプライモデル27a〜27dのコード材を構成する要素F(i)については、コードの長手方向に沿った強度異方性が定義されたシェル要素などが用いられる。また、内圧充填後のタイヤモデル21cを連続複写する角度ピッチについては、適宜設定することができるが、例えば、0.1度〜2.0度に設定されるのが望ましい。
また、リムモデル32は、線要素から面要素に再要素化される。これにより、工程S5では、3次元のリムモデル32を設定することができる。
次に、コンピュータ1が、三次元のタイヤモデル21dの物理量を計算する(シミュレーション工程S6)。本実施形態のシミュレーション工程S6では、三次元のタイヤモデル21dに荷重を負荷して、三次元のタイヤモデル21dの物理量(例えば、接地形状及び接地圧)が計算される。図13は、本実施形態のシミュレーション工程S6の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態のシミュレーション工程S6では、先ず、路面をモデル化した路面モデルが設定される(工程S61)。図14は、三次元のタイヤモデル21d及び路面モデル41の斜視図である。路面モデル41は、路面(図示省略)を、前記数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)でモデル化(離散化)することで設定される。
要素G(i)は、変形不能に設定された剛平面要素からなる。この要素G(i)には、複数の節点42が設けられる。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点42の座標値等の数値データが定義される。また、路面モデル41には、三次元のタイヤモデル21dとの摩擦係数が設定される。摩擦係数としては、路面モデル41が変位しないものとして、所定の値が設定される。
本実施形態では、路面モデル41として、平滑な表面を有するものが例示されたが、必要に応じて、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は轍等の実走行路面に近似した凹凸などが設けられても良い。このような路面モデル41は、コンピュータ1に記憶される。
次に、三次元のタイヤモデル21dに負荷する荷重条件が設定される(工程S62)。荷重条件としては、三次元のタイヤモデル21dの回転軸CLを垂直下方に押し下げる荷重Hが設定される。この荷重Hについては、適宜設定することができるが、例えば、三次元のタイヤモデル21dの基礎となったタイヤ2(図2に示す)の規格最大荷重が設定されるのが望ましい。
次に、荷重条件に基づいて、三次元のタイヤモデル21dの変形計算が実施される(工程S63)。この工程S63では、三次元のタイヤモデル21dを路面モデル41に静的に接地させて、その接地形状(節点の変位及び物理量)が計算される。この接地形状の計算は、例えば汎用の有限要素解析アプリケーションソフトウェア(例えば、 LSTC 社製の LS-DYNA など)を用いて行われる。図15は、工程S63において計算された三次元のタイヤモデル21dの接地形状、及び、接地圧を示したコンター図を示している。
このコンター図は、要素F(i)の節点23で計算された接地圧、及び、該節点23の接地圧から補間計算された接地圧に基づいて、同一範囲の接地圧毎に、異なる色情報が設定される。なお、色情報としては、グレースケール(輝度)が採用されているが、カラースケール(色)でもよいのは言うまでもない。また、コンター図は、例えば、汎用のポストプロセッサ( LSTC 社製の LS-PrePost など)を用いて求めることができる。
本実施形態のシミュレーション方法では、三次元のタイヤモデル21dを、実際のタイヤ2に近似させることができるため、三次元のタイヤモデル21dを用いて計算された物理量を、実際のタイヤ2の物理量に近似させることができる。従って、本実施形態のシミュレーション方法では、シミュレーション精度を向上させることができる。
次に、三次元のタイヤモデル21dの物理量(接地形状等)が、許容範囲内か(開発の目標に達成し得たか)否かが判断される(工程S7)。この判断は、コンピュータ1又はオペレータ(人間)によって行われる。工程S7では、三次元のタイヤモデル21dの物理量(接地形状等)が、許容範囲内であると判断された場合(工程S7で「Y」)、例えば金型・構造設計で得られた各部の寸法、材料特性、トレッドパターンなどを用いて、製品タイヤの設計が行われる(工程S8)。
一方、三次元のタイヤモデル21dの物理量(接地形状)が、許容範囲内にないと判断された場合(工程S7で「N」)には、例えば、図2に示したタイヤ2のカーカス6のプロファイル形状や、ベルト層7の幅寸法等の少なくとも1以上のタイヤ2の設計因子が変更され(工程S9)、工程S1〜工程S8が再度実行される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、開発の目標を達成しうる製品タイヤを、確実に設計することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図4、図7及び図13に示した処理手順に従って、外側ビード厚さ及びカーカスパス長さを小さく修正する修正工程を経て、内圧充填後のタイヤモデルが設定された。そして、内圧充填後のタイヤモデルから三次元のタイヤモデルが設定され、図15に示すタイヤモデルの接地面、及び、接地圧のコンター図が求められた(実施例)。このコンター図において、センター陸部45の周方向(最大)長さL5が測定された。さらに、タイヤ赤道からタイヤ軸方向外側に、トレッド半幅の70%の距離L8を隔てた位置での周方向長さL6が測定された。そして、周方向長さL5、L6の比(L5/L6)が計算された。
また、比較のために、全てのタイヤ部材の熱収縮による寸法変化を考慮して計算された内圧充填後のタイヤモデルから3次元のタイヤモデルが設定され、図16に示すタイヤモデルの接地面及び接地圧のコンター図が求められた(比較例1)。そして、比較例1において、周方向長さL5、L6の比(L5/L6)が計算された。
さらに、前記修正工程を経ることなく設定された内圧充填後のタイヤモデルに基づいて、三次元のタイヤモデルの接地面及び接地圧のコンター図(図示省略)が求められた(比較例2)。そして、比較例2において、周方向長さL5、L6の比(L5/L6)が計算された。
また、図2に示すタイヤを、下記リムにリム組みし、下記内圧を充填して、下記荷重を負荷させたときの接地面(図示省略)が測定された(実験例)。実験例において、周方向長さL5、L6の比(L5/L6)が計算された。なお、共通仕様は、以下のとおりである。
タイヤサイズ:12R22.5
リムサイズ:22.5×8.25
内圧:850kPa
荷重:32kN
実施例:
修正後の外側ビード厚さW1bと修正前の外側ビード厚さW1aとの比(W1b/W1a):90%
修正後のカーカスパス長さL1bと修正前のカーカスパス長さL1aとの比(L1b/L1a):99.5%
実施例、比較例1、比較例2及び実験例の比(L5/L6)は、次のとおりであった。 実験例:1.15
実施例:1.15
比較例1:1.14
比較例2:1.08
テストの結果、実施例のシミュレーション方法では、比較例1及び比較例2に比べて、実験例のタイヤの接地面に近似させることができ、シミュレーション精度を向上しうることを確認できた。また、実施例のシミュレーション方法では、全てのタイヤ部材の熱収縮による寸法変化を考慮する必要がないため、実施例の計算コストが、比較例1の計算コストの98%であった。従って、実施例のシミュレーション方法では、計算コストを抑えることができることを確認できた。