以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の空気入りタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)は、コンピュータを用いて、タイヤモデルの経時変化後の形状を計算している。
図1は、本発明のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。また、記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
図2は、空気入りタイヤの一例を示す断面図である。本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)2は、重荷重用タイヤである場合が例示される。なお、タイヤ2は、重荷重用タイヤに限定されるわけではない。本実施形態のタイヤ2は、図2に示されるように、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7とが設けられている。
カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Pで構成されている。カーカスプライ6Pは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含んでいる。
図3(a)は、カーカスプライ6Pの一例を示す部分斜視図である。カーカスプライ6Pは、コード配列体11と、コード配列体11を被覆するカーカストッピングゴム12とを含んでいる。コード配列体11は、タイヤ赤道Cに対して、例えば65〜90度の角度δで配列されたカーカスコード11cによって構成されている。カーカスコード11cとしては、例えば、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、又は、アラミドなどの有機繊維コード等が採用される。
図2に示されるように、ベルト層7は、例えば、4枚のベルトプライ7Pから構成される。図3(b)は、ベルトプライ7Pの一例を示す斜視図である。各ベルトプライ7Pは、コード配列体13と、このコード配列体13を夫々被覆するベルトトッピングゴム14とを含んでいる。コード配列体13、タイヤ周方向に対して、例えば10〜40度の角度φで傾斜するベルトコード13cによって構成されている。各ベルトプライ7Pのベルトコード13cは、互いに交差する向きに重ね合わせて配置される。ベルトコード13cとしては、例えば、アラミド又はレーヨン等の高弾性の有機繊維コードや、スチールコード等が採用される。
図2に示されるように、タイヤ2には、ゴム4が含まれている。本実施形態のゴム4は、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に配されるトレッドゴム4a、カーカス6のタイヤ軸方向外側に配されるサイドウォールゴム4b、カーカス6の内側に配されるインナーライナーゴム4c、本体部6aと折返し部6bとの間でビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム4d、及び、ビード部2cのタイヤ軸方向の外側に配されるクリンチゴム4eを含んでいる。さらに、ゴム4には、図3(a)に示したカーカストッピングゴム12、及び、図3(b)に示したベルトトッピングゴム14、14を含んでいる。
タイヤ2のビード部2cを嵌合するリム15は、リム組み時にビード部2cを落とし込むためのウェル部(図示省略)と、このウェル部のタイヤ軸方向両外側に配置される一対のリム片15A、15Aとを含んでいる。一対のリム片15A、15Aは、ビード底面9に接触するリムシート面16と、ビード側面10に接触するフランジ面17とを有している。
図4は、シミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、タイヤモデルが入力される(入力工程S1)。図5は、タイヤモデルの一例を示す断面図である。図6は、図5の部分拡大図である。
本実施形態のタイヤモデル20は、2次元モデルとして定義されている、なお、タイヤモデル20は、2次元モデルに限定されるわけではなく、3次元モデルとして定義されてもよい。
本実施形態の入力工程S1は、先ず、図2に示したタイヤ2に関する情報(例えば、タイヤ2の輪郭データ等)に基づいて、有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化している。これにより、入力工程S1では、タイヤモデル20が設定される。このようなモデリングには、従来のシミュレーション方法と同様に、メッシュ化ソフトウェア(例えば、Altair社製のHypermesh等)を用いることができる。
要素F(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法を適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用されている。また、要素F(i)としては、例えば、タイヤモデル20が2次元である場合、複雑な形状を表現するのに適した三角形要素や四辺形要素等が用いられる。なお、タイヤモデル20が3次元である場合には、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。各要素F(i)は、複数個の節点21が設けられる。このような各要素F(i)には、要素番号、節点21の番号、節点21の座標値、及び、材料特性(例えば密度等)などの数値データが定義される。
タイヤモデル20には、ゴム4(図2に示す)を有限個の要素F(i)で離散化したゴムモデル24と、カーカスプライ6P(図2に示す)を有限個の要素F(i)で離散化したカーカスプライモデル36と、ベルトプライ7P(図2に示す)を有限個の要素F(i)で離散化したベルトプライモデル37とを含んで構成されている。ゴムモデル24は、トレッドゴムモデル24a、サイドウォールゴムモデル24b、インナーライナーゴムモデル24c、ビードエーペックスゴムモデル24d、クリンチゴムモデル24e、カーカストッピングモデル25(図6に示す)及びベルトトッピングモデル26(図6に示す)を含んでいる。
図6に示されるように、カーカストッピングモデル25は、タイヤ半径方向内側に配置される内側トッピングゴムモデル25iと、外側に配置される外側トッピングゴムモデル25oとを含んでいる。ベルトトッピングモデル26は、内側トッピングゴムモデル26iと、外側トッピングゴムモデル26oとをそれぞれ含んでいる。
本実施形態のゴムモデル24を構成する要素F(i)の少なくとも一部は、弾性特性と応力緩和特性とが定義された第1要素27である。
弾性特性とは、外力によって形状や体積に変化が生じた物体(要素F(i))が、外力を取り除かれると再び元の状態(形状や体積)に回復する性質である。このような弾性特性が定義された第1要素27(図6に示す)は、歪(外力)が与えられることにより、弾性変形した状態が計算される。
弾性特性を特定する弾性係数(弾性率)等のパラメータについては、モデル化されたタイヤ構成部材に応じて適宜設定される。また、弾性特性は、ゴム4の温度条件に応じて変化する傾向がある。このため、弾性特性は、予め定められた温度条件下(例えば、70℃)に基づいて定められるのが望ましい。
図7は、応力緩和曲線の一例を示すグラフである。応力緩和曲線は、応力比と時間との関係を示している。応力比は、応力τと時間0の応力τ0との比(τ/τ0)である。図7の応力緩和曲線に示されるように、応力緩和特性は、荷重に応じて内部に生ずる応力(抵抗力)τが、少なくとも時間tの経過とともに緩和される性質である。このような応力緩和特性が定義された第1要素27(図6に示す)では、歪(外力)が与えられることにより、元の状態(形状や体積)に回復しない塑性変形が計算される。図7に示した応力緩和曲線では、時間tが「1.0」のときに、応力τが30%緩和している(即ち、70%の応力が残っている)。
応力緩和特性は、例えば、一般化Maxwellモデルに基づいて定義することができる。なお、応力緩和特性を特定するための弾性係数(弾性率)及び粘性係数等のパラメータについては、モデル化されるタイヤ構成部材に応じて適宜設定される。また、応力緩和特性は、ゴム4の温度条件に応じて変化する傾向がある。このため、応力緩和特性は、予め定められた温度条件下(例えば、100℃以上)において定められるのが望ましい。図7の応力緩和曲線は、110℃及び30%伸長時の条件下において求められたものである。
弾性特性及び応力緩和特性は、例えば、市販の有限要素解析アプリケーションソフト(Dassault Systems社製のAbaqus、LSTC社製のLS-DYNA、又は、MSC社製のNASTRANなど)を用いて容易に設定することができる。また、本実施形態では、第1要素27(図6に示す)に弾性特性を有効に設定し、かつ、応力緩和特性を無効に設定した状態と、第1要素27に応力緩和特性を有効に設定し、かつ、弾性特性を無効に設定した状態とで切り替えられる。従って、本実施形態のシミュレーション方法では、例えば、弾性特性に基づいて第1要素27を弾性変形させた後に、応力緩和特性に基づいて第1要素27を塑性変形させることができる。弾性特性と応力緩和特性との切り替えは、上記した有限要素解析アプリケーションソフトによって実施することができる。
第1要素27で定義されるゴムモデル24については適宜選択することができる。本実施形態では、全てのゴムモデル24(本実施形態では、トレッドゴムモデル24a、サイドウォールゴムモデル24b、インナーライナーゴムモデル24c、ビードエーペックスゴムモデル24d、クリンチゴムモデル24e、カーカストッピングモデル25、及び、ベルトトッピングモデル26)の要素F(i)に、第1要素27が定義されている。なお、第1要素27は、解析の目的に応じて、一部のゴムモデル24のみに定義されてもよい。その他の要素F(i)については、弾性特性のみが定義された第2要素28が設定される。タイヤモデル20は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、図5に示されるように、コンピュータ1に、図2に示したタイヤ2のビード部2cに嵌合するリム15をモデル化したリムモデル30が入力される(工程S2)。図5に示されるように、リムモデル30は、図2に示した一対のリム片15A、15Aをモデル化した一対のリム片モデル30A、30Aから構成される。各リム片モデル30A、30Aは、タイヤモデル20のビード底面22に接触するリムシート面32と、ビード側面23に接触するフランジ面33とを含んでいる。
各リム片モデル30A、30Aは、実際のリム15(図2に示す)の変形が微小であることに鑑み、例えば、変化しない剛体表面として条件付けられる。リムモデル30とタイヤモデル20との間には、予め定められた摩擦係数(以下、単に「第1摩擦係数」ということがある。)が設定されている。本実施形態の第1摩擦係数は、例えば、図2に示した実際のリム15とタイヤ2との間の摩擦係数に基づいて設定される。リムモデル30は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、タイヤモデルの内圧充填後の経時変化後の形状を計算する(計算工程S3)。図8は、計算工程S3の処理手順の一例を説明するフローチャートである。
本実施形態の計算工程S3では、先ず、タイヤモデルの内圧充填後(弾性変形後)の形状が計算される(第1工程S31)。本実施形態の第1工程S31では、図5に示したタイヤモデル20に内圧を作用させ、要素27、28に定義された弾性特性に基づいて、タイヤモデル20の弾性変形後の形状が計算される。図9は、第1工程S31の処理手順の一例を説明するフローチャートである。
本実施形態の第1工程S31では、先ず、第1要素27(図6に示す)に、弾性特性が定義される(工程S41)。工程S41では、第1要素27に定義された弾性特性及び応力緩和特性のうち、弾性特性のみが有効に設定され、応力緩和特性が無効に設定される。弾性特性が定義された第1要素27は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第1工程S31では、予め定められた内圧(以下、単に「第1内圧」ということがある。)の下で、タイヤモデル20の弾性変形が計算される(工程S42)。本実施形態の第1内圧としては、例えば、タイヤ2(図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格が定めている空気圧が設定される。
工程S42では、先ず、図5の2点鎖線で示されるように、内圧が零の状態で、タイヤモデル20のビード部20cを、リムモデル30のフランジ面33よりもタイヤ軸方向内側に変形させて、タイヤモデル20がリムモデル30に仮組み装着される。次に、工程S42では、第1内圧に相当する等分布荷重w1がタイヤモデル20の内腔面の全体に設定される。これにより、工程S42では、リムモデル30とタイヤモデル20との間に設定されている第1摩擦係数、及び、内圧(第1内圧)の下で、タイヤモデル20の弾性変形が計算される。
タイヤモデル20の変形計算は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス及び減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、前記各種の条件を当てはめて運動方程式が作成され、これらを微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとにタイヤモデル20の変形計算が行われる。このようなタイヤモデル20の変形計算は、例えば、上記の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間Txについては、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
タイヤモデル20の第1要素27は、弾性特性に基づいて、弾性変形が計算される。さらに、タイヤモデル20の第2要素28も同様に、弾性特性に基づいて、弾性変形が計算される。工程S42では、第1内圧(等分布荷重w1)に基づいて、タイヤモデル20の釣り合い計算が行われ、各節点21の変位が計算される。
工程S42では、タイヤモデル20の弾性変形により、ビード底面22がリムシート面32と接触しながらタイヤ軸方向外側に移動し、ビード側面23がフランジ面33に接触する。これにより、タイヤモデル20のビード部20cは、リム片モデル30Aに拘束される。さらに、工程S42では、ビード部20cがリム片モデル30Aに拘束された後も、内圧(第1内圧)の下で、タイヤモデル20の弾性変形が計算される。これにより、工程S42では、従来のシミュレーション方法と同様に、リムモデル30にリム組みされたタイヤモデル20の内圧充填後の形状を計算することができる。タイヤモデル20の内圧充填後の形状は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の計算工程S3では、第1工程S31の後、タイヤモデル20の経時変化後の形状が計算される(第2工程S32)。本実施形態の第2工程S32では、第1工程S31で設定された第1内圧(タイヤ2の各規格が定めている空気圧)を維持したまま、応力緩和特性及び予め定められた経過時間に基づいて、タイヤモデル20の経時変化後の形状が計算される。図10は、第2工程S32の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第2工程S32では、先ず、第1工程S31で内圧(第1内圧)が充填されたタイヤモデル20の第1要素27(図5及び図6に示す)に、応力緩和特性が定義される(工程S51)。工程S51では、第1要素27に定義された弾性特性及び応力緩和特性のうち、応力緩和特性のみが有効に設定され、弾性特性が無効に設定される。応力緩和特性が定義された第1要素27は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第2工程S32では、応力緩和特性に基づいて、タイヤモデル20の変形が計算される(工程S52)。上述したように、応力緩和特性は、少なくとも時間の経過とともに緩和される性質である。このような緩和特性が設定された第1要素27では、第1内圧(等分布荷重w1)によって生じた内部応力に基づいて、元の状態(形状や体積)に回復しない塑性変形が、単位時間Tx毎に計算される。
第2要素28では、塑性変形する第1要素27に追従するように、弾性特性及び内圧(第1内圧)に基づいて、単位時間Tx毎に弾性変形が計算される。第1要素27及び第2要素28の変形によって変化したタイヤモデル20の形状は、単位時間Tx毎にコンピュータ1に記憶される。図11は、タイヤモデル20の経時変化後の形状の一例を示す概念図である。なお、図11において、ベルトプライモデル37の輪郭を除いた他のモデルを省略して示している。また、図11において、タイヤモデル20の経時変化前の形状を2点鎖線で示している。
次に、本実施形態の第2工程S32では、応力緩和特性に基づくタイヤモデル20の変形が計算されてから、予め定められた経過時間(時間)を過ぎたか否かが判断される(工程S53)。経過時間については、例えば、計算すべきタイヤモデル20の経時変化後の形状に基づいて、適宜設定することができる。
工程S53において、経過時間が過ぎたと判断された場合(工程S53で、「Y」)、次の工程S4(図4に示す)が実施される。他方、工程S53において、経過時間が過ぎていないと判断された場合(工程S53で、「N」)、単位時間Txを一つ進めて(工程S54)、工程S52及び工程S53が再度実施される。これにより、第2工程S32では、予め定められた経過時間が過ぎるまで、応力緩和特性に基づいて変形させたタイヤモデル20の経時変化後の形状を計算することができる。
上述したように、本実施形態の第1要素27は、図6に示したベルトトッピングモデル26の要素F(i)に定義されている。これにより、本実施形態の第2工程S32では、図11に示されるように、各ベルトプライモデル37の塑性変形が計算され、タイヤ2(図2に示す)の使用に伴う経時変化によってタイヤ半径方向外側にせり上がったベルトプライ7P(トレッド部2a)を再現(計算)することができる。このようなベルトプライ7Pのせり上がりを効果的に計算するために、ベルトプライモデル37の塑性変形とともに、ベルトコード13c(図3(b)に示す)を要素F(i)でモデル化したベルトコードモデル(図示省略)の膨張が計算されてもよい。
このように、本実施形態のシミュレーション方法では、応力緩和特性に基づく第1要素27(図6に示す)の塑性変形が計算されることにより、複雑な変形計算を行うことなく、経時変化後のタイヤモデル20の形状を容易に計算することができる。タイヤモデル20の経時変化後の形状は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル20の経時変化後の形状(図11に示す)が、良好か否かが判断される(工程S4)。タイヤモデル20の経時変化後の形状が良好か否かの判断は、評価されるタイヤ2の構造等に応じて適宜設定される。工程S4では、例えば、図11に示したタイヤモデル20の経時変化後の形状と、図11に2点鎖線で示したタイヤモデル20の経時変化前の形状(元の形状)の差が、予め定められた許容範囲内であるか否かが判断される。
工程S4において、タイヤモデル20の経時変化後の形状(図11に示す)が良好であると判断された場合(工程S4において、「Y」)、図5に示したタイヤモデル20の構造に基づいて、タイヤ2(図2に示す)が製造される(工程S5)。他方、工程S4において、タイヤモデル20の経時変化後の形状が良好でないと判断された場合(工程S4において、「N」)、タイヤ2の設計因子を変更して(工程S6)、工程S1〜工程S4が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、経時変化後の形状が良好なタイヤ2を、確実に設計及び製造することができる。
本実施形態の第1要素27は、ベルトトッピングモデル26の要素F(i)に定義されたが、このような態様に限定されない。第1要素27は、例えば、カーカストッピングモデル25等の他のゴムモデル24の要素F(i)に定義されてもよいし、複数のゴムモデル24の要素F(i)に第1要素27が定義されてもよい。
図8に示されるように、本実施形態の計算工程S3では、タイヤモデル20の内圧充填後の形状を計算する第1工程S31と、タイヤモデル20の経時変化後の形状を計算する第2工程S32とが実施されたが、このような態様に限定されない。図12は、本発明の他の実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。図13は、本発明の他の実施形態の計算工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、前実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
図13に示されるように、この実施形態の計算工程S3では、第2工程S32の後、タイヤモデル20(図11に示す)に作用させた内圧を小さくして、タイヤモデル20の塑性変形後の形状が計算される(第3工程S33)。図14は、タイヤモデル20の塑性変形後の形状の一例を示す図である。図14では、図12に示したタイヤモデル20の経時変化後の形状が2点鎖線で示されている。
本実施形態の第3工程S33では、先ず、内圧(第1内圧)よりも低い内圧(以下、単に「第2内圧」ということがある。)に相当する等分布荷重w2が、タイヤモデル20の内腔面の全体に設定される。そして、第3工程S33では、第2内圧に基づいて、タイヤモデル20の釣り合い計算が行われ、各節点21(図5に示す)の変位が計算される。
第2内圧については、第1内圧(タイヤ2の各規格が定めている空気圧)よりも小さければ、適宜設定することができる。この実施形態の第2内圧は、第1内圧の0%〜10%に設定されている。これにより、第3工程S33では、図5に示した第1要素27及び第2要素28に生じる内部応力を小さくすることができる。
第3工程S33において、弾性特性が設定された第2要素28(図5に示す)では、内部応力の低下により、元の状態(形状や体積)に向かって回復する。他方、塑性変形した第1要素27では、第2内圧によって内部応力が低下しても、第1工程S31時の元の状態(図5に示す)には回復せず、残留ひずみが生じる。これにより、第3工程S33では、タイヤモデル20の塑性変形後の形状が計算される。このようなタイヤモデル20の塑性変形後の形状は、後述のタイヤ特性計算工程S7において、塑性変形後のタイヤモデル20の特性の計算に用いられる。タイヤモデル20の塑性変形後の形状は、コンピュータ1に記憶される。
図12に示されるように、この実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、塑性変形後のタイヤモデル20の特性を計算する(タイヤ特性計算工程S7)。この実施形態のタイヤ特性計算工程S7では、塑性変形後のタイヤモデル20をリムモデル30にリム組みし、さらに、荷重を負荷させた状態を計算して、タイヤモデル20の接地面の形状等が計算される。図15は、タイヤ特性計算工程S7の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図16(a)は、塑性変形後のタイヤモデル20のビード部20cの一例を示す部分拡大図である。図16(a)に示されるように、塑性変形後のタイヤモデル20は、タイヤモデル20の変形を計算する第1工程S31〜第3工程S33(図13に示す)により、例えば、クリンチゴムモデル24e及びカーカストッピングモデル25を構成する要素F(i)が大きく変形(いびつに変形)している。このような塑性変形後のタイヤモデル20をリムモデル30(図5に示す)にリム組みし、荷重を負荷させた状態を計算すると、要素つぶれ等が生じるおそれがある。
上記のような要素つぶれが生じるのを防ぐために、この実施形態のタイヤ特性計算工程S7では、先ず、塑性変形後のタイヤモデル20の少なくとも一部が、要素F(i)で再離散化(リメッシュ)される(工程S71)。この実施形態の工程S71では、図16(a)に示されるように、要素F(i)が大きく変形しているクリンチゴムモデル24e及びカーカストッピングモデル25が再離散化される。図16(b)は、図16(a)の要素F(i)が再離散化されたビード部20cの一例を示す拡大図である。
再離散化(リメッシュ)は、タイヤモデル20の構成部材の形状、節点21の個数、及び、要素F(i)の個数を維持したまま、節点21の座標だけを移動させるのが望ましい。これにより、工程S71では、タイヤモデル20を容易に再離散化することができる。このような再離散化は、上記メッシュ化ソフトウェアを用いて容易に行うことができる。再離散化されたタイヤモデル20は、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態のタイヤ特性計算工程S7では、再離散化されたタイヤモデル20の第1要素27(図6に示す)に、弾性特性が定義される(工程S72)。工程S72では、第1要素27に定義された弾性特性及び応力緩和特性のうち、弾性特性のみが有効に設定され、応力緩和特性が無効に設定される。これにより、第1要素27は、歪(外力)が与えられることによって、弾性変形が計算される。また、第1要素27は、歪みが取り除かれると、再び塑性変形後の形状に回復することができる。弾性特性が定義された第1要素27は、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態のタイヤ特性計算工程S7では、予め定められた内圧(第1内圧)の下で、タイヤモデル20を弾性変形させる(工程S73)。タイヤモデル20の弾性変形は、図5に示されるように、第1工程S31でタイヤモデル20の弾性変形を計算する工程S42と同様の処理手順で計算される。これにより、リムモデル30にリム組みされたタイヤモデル(塑性変形後のタイヤモデル)20の内圧充填後の形状を計算することができる。タイヤモデル20の内圧充填後の形状は、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態のタイヤ特性計算工程S7では、荷重を負荷させたタイヤモデル20が計算される(工程S74)。図17は、荷重を負荷させたタイヤモデル20の一例を示す斜視図である。図17では、図5に示したタイヤモデル20の要素F(i)を省略して示されている。工程S74では、内圧充填後のタイヤモデル20を、予め定められた角度ピッチでタイヤ周方向に複写された3次元のタイヤモデル20Aが用いられる。
本実施形態の工程S74では、先ず、内圧充填後のタイヤモデル20と、路面をモデル化した路面モデル40との接触が計算される。路面モデル40は、例えば、路面(本実施形態では、平坦路)に関する情報に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化することで設定される。
次に、工程S74では、タイヤモデル20の回転軸20sに、荷重条件(荷重T)が設定される。荷重条件は、例えば、タイヤ2(図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ2毎に定める荷重が設定される。これにより、タイヤモデル20の第1要素27及び第2要素28(図6に示す)の弾性変形が計算される。工程S74では、荷重条件に基づいて、タイヤモデル20の釣り合い計算が行われ、各節点21の変位が計算される。荷重を負荷させたタイヤモデル20の形状は、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態のタイヤ特性計算工程S7では、荷重を負荷させたタイヤモデル(塑性変形後のタイヤモデル)20の特性が計算される(工程S75)。工程S75では、例えば、塑性変形後のタイヤモデル20の接地面での圧力分布や、接地面の形状等が計算される。計算されたタイヤモデル20の特性は、コンピュータ1に記憶される。
次に、図12に示されるように、この実施形態のシミュレーション方法では、塑性変形後のタイヤモデル20の特性が、良好か否かが判断される(工程S8)。塑性変形後のタイヤモデル20の特性が良好か否かの判断は、評価されるタイヤ2(図2に示す)に応じて適宜設定することができる。
工程S8において、塑性変形後のタイヤモデル20の特性が良好であると判断された場合(工程S8において、「Y」)、タイヤモデル20の構造に基づいて、タイヤ2が製造される(工程S5)。他方、工程S8において、塑性変形後のタイヤモデル20の特性が良好でないと判断された場合(工程S8において、「N」)、タイヤ2の設計因子を変更して(工程S6)、工程S1〜工程S8が再度実施される。これにより、塑性変形後においても良好な性能を発揮しうるタイヤ2を確実に設計及び製造することができる。
この実施形態のタイヤ特性計算工程S7では、荷重を負荷させたタイヤモデル20の特性(接地面での圧力分布、接地面の形状)が計算されたが、このような態様に限定されない。例えば、荷重を負荷させたタイヤモデル20を路面モデル40に転動させて、タイヤモデル20のトラクション性能や、コーナリング性能等が計算されてもよい。
これまでの実施形態の第1工程S31では、図5に示されるように、リムモデル30とタイヤモデル20との間の摩擦係数(第1摩擦係数)を一定に維持したまま、タイヤモデル20の弾性変形が計算される態様が例示されたが、このような態様に限定されない。
これまでの実施形態のように、第1摩擦係数を一定に維持したままタイヤモデル20の弾性変形が計算されると、タイヤモデル20のビード底面22と、リム片モデル30Aのリムシート面32との間の摩擦によって、タイヤモデル20のビードトウ38が実際のタイヤ2のビードトウ18(図2に示す)よりも過度に浮き上がる(タイヤ半径方向外側に位置する)場合がある。
このようなビードトウ38の過度の浮き上がりを防ぐために、この実施形態のシミュレーション方法では、リムモデル30とタイヤモデル20との間の摩擦係数を変更しながら、タイヤモデルの弾性変形が計算される。図18は、本発明の他の実施形態の第1工程S31の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の第1工程S31では、タイヤモデル20をリムモデル30に仮組み装着して、予め定められた摩擦係数及び内圧の下で、タイヤモデル20を弾性変形が計算される(第1充填工程S43)。図19(a)は、第1充填工程S43で弾性変形が計算されたタイヤモデル20の一例を説明する図である。図19(a)の2点鎖線で示されるように、この実施形態の第1充填工程S43では、先ず、内圧が零の状態で、タイヤモデル20のビード部20cを、リムモデル30のフランジ面33よりもタイヤ軸方向内側に変形させて、タイヤモデル20がリムモデル30に仮組み装着される。
次に、第1充填工程S43では、タイヤモデル20のビード部20cと、リム片モデル30Aのリムシート面32との間の摩擦係数(以下、単に「第2摩擦係数」ということがある。)が、第1摩擦係数(実際のタイヤ2のビード部20cとリム15との間の摩擦係数)よりも小さく設定される。さらに、この実施形態の第1充填工程S43では、第1内圧(即ち、タイヤ2の規格が定めている空気圧)よりも小さい内圧(以下、単に「第3内圧」ということがある。)が設定される。
次に、第1充填工程S43では、第3内圧に相当する等分布荷重w3がタイヤモデル20の内腔面の全体に設定される。これにより、第1充填工程S43では、第2摩擦係数、及び、内圧(第3内圧)の下で、タイヤモデル20の弾性変形が計算される。
タイヤモデル20の弾性変形により、タイヤモデル20のビード部20cは、ビード底面22がリムシート面32と接触しながらタイヤ軸方向外側に移動する。本実施形態の第1充填工程S43では、第1摩擦係数よりも小さい第2摩擦係数が設定されているため、タイヤモデル20のビード底面22と、リム片モデル30Aのリムシート面32との間の摩擦が大きくなるのを防ぐことができる。従って、第1充填工程S43では、ビードトウ38の過度の浮き上がりを防ぐことができる。
さらに、この実施形態の第1充填工程S43では、第1内圧よりも小さい第3内圧が設定されるため、タイヤモデル20の弾性変形の速度を小さくすることができる。これにより、第1充填工程S43では、タイヤモデル20のビード底面22と、リム片モデル30Aのリムシート面32との間の摩擦が大きくなるのを防ぐことができる。従って、この実施形態の第1充填工程S43では、ビードトウ38の過度の浮き上がりを効果的に防ぐことができる。
第2摩擦係数については、適宜設定することができる。なお、第2摩擦係数が大きいと、タイヤモデル20のビードトウ38の過度の浮き上がりを十分に防げないおそれがある。逆に、第2摩擦係数が小さいと、タイヤモデル20のビードトウ38が、実際のビードトウ18(図2に示す)のように浮き上がらないおそれがある。このような観点より、第2摩擦係数は、第1摩擦係数の10%〜15%が望ましい。同様に、第3内圧は、第1内圧の3%〜8%が望ましい。
タイヤモデル20のビード底面22と、リム片モデル30Aのリムシート面32との間の摩擦は、リムシート面32の傾斜によって、タイヤ軸方向外側に向かって大きくなる傾向がある。このため、この実施形態の第1工程S31では、タイヤモデル20のビード側面23がフランジ面33に接触する前に、次の第2充填工程S44を実施することで、ビードトウ38が過度に浮き上がるのを防いでいる。
次に、この実施形態の第1工程S31では、第1充填工程S43の後のタイヤモデル20に、零の摩擦係数及び内圧の下で、膨張変形したタイヤモデル20をリムモデル30に嵌合させる(第2充填工程S44)。図19(b)は、第2充填工程S44で弾性変形が計算されたタイヤモデル20の一例を説明する図である。図20は、第2充填工程S44の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この実施形態の第2充填工程S44では、先ず、図19(a)に示されるように、タイヤモデル20のビード底面22と、リム片モデル30Aのリムシート面32との間の摩擦係数が零に設定される(工程S441)。次に、この実施形態の第2充填工程S44では、タイヤモデル20の内腔面の全体、及び、リムシート面32に接触していないビード底面22の非接触域39に、第3内圧よりも内圧を上昇させた等分布荷重w1(図19(b)に示す)が設定される(工程S442)。本実施形態の工程S442では、第1内圧(即ち、タイヤ2の規格が定めている空気圧)から第3内圧を減じた値の例えば10%に相当する圧力が設定される。これにより、第2充填工程S44では、零の摩擦係数及び内圧の下で、徐々に膨張変形するタイヤモデル20を計算することができる。タイヤモデル20の弾性変形により、タイヤモデル20のビード部20cは、ビード底面22がリムシート面32と接触しながらタイヤ軸方向外側に移動する。第2充填工程S44では、タイヤモデル20のビード底面22と、リム片モデル30Aのリムシート面32との間の摩擦係数が零に設定されているため、第1内圧の下でタイヤモデル20が膨張変形させても、ビードトウ38の過度の浮き上がりを確実に防ぐことができる。しかも、工程S442では、ビード底面22の非接触域39にも等分布荷重w1が定義されるため、タイヤモデル20の形状を、実際にリム15嵌合するタイヤ2(図2に示す)の形状に近似させることができる。
次に、この実施形態の第2充填工程S44では、ビード底面22とリムシート面32との接触状態が計算され(工程S443)、ビード底面22とリムシート面32との接触状態に変更があるか否かが判断される(工程S444)。工程S444では、今回計算された接触状態が、前回計算された接触状態から変更があったか否かが判断される。
工程S444において、接触状態に変更がないと判断された場合(工程S444で、「N」)、次の工程S445が実施される。他方、工程S444において、接触状態に変更があると判断された場合(工程S444で、「Y」)、タイヤモデル20のビード底面22とリムシート面32との相対関係が変化している。このため、変化後のビード底面22の非接触域39に、内圧(等分布荷重w1)を作用させる条件が設定され(工程S446)、リムシート面32に接触しているビード底面22の接触域に、内圧を作用させない条件が設定される(工程S447)。
工程S445では、現在の内圧が、第1内圧(即ち、タイヤ2の規格が定めている空気圧)まで上昇しているか否かが判断される。工程S445において、第1内圧まで上昇していると判断された場合(工程S445で、「Y」)、第2充填工程S44の一連の処理が終了する。他方、工程S445において、第1内圧まで上昇していないと判断された場合(工程S445で、「N」)、内圧を上昇させて(工程S448)、工程S443〜工程S447が再度実施される。
第2充填工程S44の一連の処理により、ビード側面23がフランジ面33に接触することで、タイヤモデル20のビード部20cがリム片モデル30Aに拘束される。さらに、第2充填工程S44では、ビード部20cがリム片モデル30Aに拘束された後も、内圧(第1内圧)の下で、タイヤモデル20の弾性変形が計算される。これにより、第2充填工程S44では、膨張変形したタイヤモデル20をリムモデル30に嵌合させることができる。
この実施形態の第1工程S31では、第2充填工程S44の後、リム片モデル30Aのリムシート面32との間の摩擦係数が、第1摩擦係数(図2に示した実際のリム15とタイヤ2との間の摩擦係数)に設定される。膨張変形したタイヤモデル20は、コンピュータ1に記憶される。
このように、この実施形態の第1工程S31では、ビードトウ38の過度の浮き上がりを防いで、リムモデル30に嵌合したタイヤモデル20の形状を、実際にリム15嵌合するタイヤ2(図2に示す)の形状に近似させることができる。従って、この実施形態のシミュレーション方法では、第1工程S31後の第2工程S32で計算されるタイヤモデル20の経時変化後の形状、第3工程S33で計算されるタイヤモデル20の塑性変形後の形状、及び、タイヤ特性計算工程S7で計算されるタイヤモデル20の特性を、精度よく求めることができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
[実施例A]
図4に示した処理手順に従って、図2に示した基本構造を有するタイヤモデルが入力され、タイヤモデルの内圧充填後の経時変化後の形状を計算する計算工程が実施された(実施例1、比較例1)。
実施例1のタイヤモデルでは、ベルトトッピングモデルの要素に、弾性特性と、図7に示した応力緩和特性とが定義された。その他の要素には、弾性特性が定義された。実施例1の計算工程では、タイヤモデルに内圧を作用させ、弾性特性に基づいて、タイヤモデルの内圧充填後の形状を計算する第1工程と、第1工程の後、応力緩和特性及び予め定められた経過時間に基づいて、タイヤモデルの経時変化後の形状を計算する第2工程が実施された。そして、実施例1のセンター陸部及びショルダー陸部において、第2工程後の外径と、第2工程前の外径との差(外径変化量)が計算された。
比較例1のタイヤモデルの各要素には、従来のシミュレーション方法と同様に、弾性特性が定義された。比較例1の計算工程では、タイヤモデルに内圧を作用させ、弾性特性に基づいて、弾性特性に基づいて、タイヤモデルの内圧充填後の形状を計算する工程と、弾性特性及び予め定められた経過時間に基づいて、タイヤモデルの経時変化後の形状を計算する工程が実施された。そして、比較例1のセンター陸部及びショルダー陸部において、経時変化後の外径と、経時変化前の外径との差(外径変化量)が計算された。
図2に示した基本構造を有するタイヤが製造された(実験例1)。実験例1では、タイヤを下記リムにリム組みし、下記内圧を充填して、速度100km/hで、直径1.7mのドラム上で5000km走行させた。そして、実験例1のセンター陸部及びショルダー陸部において、走行後の外径と、走行前の外径との差(外径変化量)が計算された。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:12R22.5
リムサイズ:22.5×8.25
内圧:850kPa
応力緩和特性:図7に示す
経過時間:図7の応力緩和曲線において、応力が30%緩和する時間
テスト結果を表1に示す。
テストの結果、実施例1の外径変化量は、実験例1の外径変化量に近似させることができ、経時変化後のタイヤモデルの形状を容易に計算することができた。他方、比較例1は、内圧充填後の形状が計算されてから変化しないため、経時変化後のタイヤモデルの形状を計算することができなかった。
[実施例B]
図4に示した処理手順に従って、図2に示した基本構造を有するタイヤモデルが入力され、タイヤモデルの内圧充填後の経時変化後の形状を計算する計算工程が実施された(実施例2、実施例3)。
実施例2及び実施例3のタイヤモデルでは、全てのゴムモデルの要素に、弾性特性と、図7に示した応力緩和特性とが定義された。その他の要素には、弾性特性が定義された。
実施例2及び実施例3では、図13及び図15に示した処理手順に従って、実施例Aの第2工程の後、実施例1のタイヤモデルに作用させた内圧を小さくして、タイヤモデルの塑性変形後の形状を計算する第3工程が実施された(実施例2、実施例3)。
実施例2では、図16(b)に示されるように、塑性変形後のクリンチゴムモデル及びカーカストッピングモデルが、要素F(i)を用いて再離散化(リメッシュ)された。そして、実施例2では、第1要素に弾性特性が設定された後に、内圧の下で、タイヤモデルを弾性変形させ、荷重を負荷させたタイヤモデルが計算された。実施例3では、塑性変形後のクリンチゴムモデル及びカーカストッピングモデルが再離散化されることなく、実施例2のように、荷重を負荷させたタイヤモデルが計算された共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:295/80R22.5
リムサイズ:8.25×22.5
内圧:850kPa
第3工程での内圧:50kPa
荷重:29.42kN
応力緩和特性:図7に示す
経過時間:図7の応力緩和曲線において、応力が90%緩和する時間
テストの結果、実施例2及び実施例3は、タイヤモデルの塑性変形後の形状を計算することができた。さらに、実施例2は、塑性変形後のクリンチゴムモデル及びカーカストッピングモデルが、要素F(i)を用いて再離散化されたため、タイヤモデルに荷重を負荷させる工程において、要素つぶれによる異常終了を防ぐことができた。他方、実施例3は、塑性変形後のクリンチゴムモデル及びカーカストッピングモデルが、要素F(i)を用いて再離散化されなかったため、タイヤモデルに荷重を負荷させる工程において、要素つぶれによる異常終了が発生した。従って、実施例2は、塑性変形後のタイヤモデル20の特性を短時間で計算することができた。
[実施例C]
上記した実施例Aの第1工程において、図18及び図20に示した処理手順に従って、タイヤモデルをリムモデルに仮組み装着して、表2に示す摩擦係数及び内圧(50kPa)の下で、タイヤモデルを弾性変形させる第1充填工程と、タイヤモデルに、表2に示す摩擦係数及び内圧(850kPa)の下で、膨張変形したタイヤモデルをリムモデルに嵌合させる第2充填工程とが実施され、タイヤモデルのトウ浮き量Hが計算された(実施例4〜実施例6)。
図2に示した基本構造を有するタイヤを、上記リムにリム組みし、かつ、内圧(850kPa)を充填して、CTスキャンによって、ビードトウとリムシート面との間の距離(トウ浮き量)が測定された(実験例2)。共通仕様は、実施例Aと同一である。テスト結果を表2に示す
図21(a)は、実施例4のタイヤモデルのビード部の拡大図である。テストの結果、摩擦係数(0.3)の下で、タイヤモデルを弾性変形させる第1充填工程と、零の摩擦係数の下でタイヤモデルをリムモデルに嵌合させる第2充填工程とが実施された実施例4では、実験例2のトウ浮き量(4.7mm)に近似させることができた。
図21(b)は、実施例5のタイヤモデルのビード部の拡大図である。第1充填工程及び第2充填工程の双方において、零の摩擦係数が設定された実施例5では、実験例2のようにトウ浮きが十分に発生しなかった。図21(c)は、実施例6のタイヤモデルのビード部の拡大図である。第1充填工程及び第2充填工程の双方において、摩擦係数(0.3)が設定された実施例6では、実験例2に比べて、トウ浮きが大きくなった。