以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のゴム積層体の数値解析用モデルの作成方法(以下、単に「作成方法」ということがある)は、少なくとも2つの未加硫のシート状ゴム部材を互いに積層したゴム積層体の数値解析用のモデルを、コンピュータを用いて作成するための方法である。ここで、未加硫とは、完全な加硫に至っていない全ての態様を含むもので、いわゆる半加硫の状態はこの「未加硫」に含まれる。
図1は、本実施形態の作成方法を実行するコンピュータ1の一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dが含まれる。この本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクなどの記憶装置及びディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられている。なお、記憶装置には、本実施形態の作成方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶されている。
図2は、ゴム積層体2の一例を示す断面図である。本実施形態のゴム積層体2としては、例えば、タイヤの加硫前の状態である生タイヤ2Tである場合が例示される。なお、ゴム積層体2は、少なくとも2つの未加硫のシート状ゴム部材を積層したものであれば、特に限定されない。
本実施形態の生タイヤ2Tを構成するシート状ゴム部材3は、トレッドゴム3a、サイドウォールゴム3b、クリンチゴム3c、ビードエーペックスゴム3d、インナーライナーゴム3e、ビードコア3f、カーカスプライ3g、内側ベルトプライ3h、外側ベルトプライ3i、カバリングゴム3j、及び、クッションゴム3kを含んでいる。
トレッドゴム3aは、トレッド部2aにおいて、外側ベルトプライ3iの外側に配されている。サイドウォールゴム3bは、サイドウォール部2bにおいて、カーカスプライ3gの外側に配されている。クリンチゴム3cは、サイドウォールゴム3bの半径方向内側に固定されている。ビードエーペックスゴム3dは、ビードコア3fからタイヤ半径方向外側にのびている。インナーライナーゴム3eは、カーカスプライ3gの内面に配置されている。クッションゴム3kは、生タイヤ2Tのバットレス部において、カーカスプライ3gの外側に配置されている。
ビードコア3fは、例えば、スチール製のビードワイヤを螺旋巻きして断面略矩形状に形成したものを、未加硫のゴムで被覆することで形成されている。
カーカスプライ3gは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア3fにのびている。カーカスプライ3gは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75〜90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)を、未加硫のトッピングゴム(図示省略)で被覆することで形成されている。
内側ベルトプライ3h及び外側ベルトプライ3iは、タイヤ周方向に対して、例えば10〜40度の角度で傾斜して配列されたベルトコード(図示省略)を、未加硫のトッピングゴム(図示省略)で被覆することで形成されている。
カバリングゴム3jは、内側ベルトプライ3hの両端部、及び、外側ベルトプライ3iの両端部をそれぞれ被覆している。本実施形態のカバリングゴム3jは、断面コ字状に形成されている。
図3(a)は、シート状ゴム部材3の一例を示す斜視図である。図3(b)は、(a)のシート状ゴム部材3を円環状に成形した円環状ゴム部材13を示す部分斜視図である。図3(a)に示されるように、各シート状ゴム部材3a〜3k(図2に示す)は、設計データ(例えば、CADデータ)等に基づいて、横断面形状と長さL1とがそれぞれ定義されている。長さL1は、シート状ゴム部材3の周方向の両端面3t、3tを連結した円環状ゴム部材13(図3(b)に示す)が、円筒状のドラム(図示省略)に積層されたときの半径方向の位置に応じて設定されている。このため、長さL1は、シート状ゴム部材3a〜3k毎に異なる値に設定される。
図4(a)、(b)は、生タイヤ2Tの成形工程の一例を説明する断面図である。図4(a)に示されるように、本実施形態の生タイヤ2Tの成形工程では、従来の成形工程と同様に、先ず、円筒状のドラム(図示省略)に、第1積層体5、及び、第2積層体6が形成される。
第1積層体5は、ドラムの外周面に、インナーライナーゴム3e、カーカスプライ3g、クリンチゴム3c、サイドウォールゴム3b、及び、クッションゴム3kを円筒状に成形して、互いに積層することで形成される。第2積層体6は、ビードコア3f、及び、ビードエーペックスゴム3dを円筒状に成形して、互いに積層することで形成される。これらの第1積層体5及び第2積層体6が積層されることにより、円筒状のケーシング7が形成される。
次に、生タイヤ2Tの成形工程では、例えば、第1積層体5及び第2積層体6を形成するドラムよりも大きな径を有するドラム(図示省略)に、円筒状のトレッドリング8が形成される。トレッドリング8は、ドラムの外周面に、トレッドゴム3a、内側ベルトプライ3h、及び、外側ベルトプライ3iを円筒状に成形して、互いに積層することで形成される。
次に、生タイヤ2Tの成形工程では、ビードコア3fを把持するビード保持部12によって、ビードコア3f、3fの軸方向距離を減じつつ、高圧空気P1を付与することで、ケーシング7がトロイド状に膨出(シェーピング)される。また、ケーシング7の外周面には、その半径方向外側に予め待機させたトレッドリング8の内周面が貼り付けられる。そして、図4(b)に示されるように、トレッドリング8の外周面に、ステッチングローラ(図示省略)が押し付けられることにより、ケーシング7の外周面とトレッドリング8の内周面とが密着される。
次に、生タイヤ2Tの成形工程では、高圧空気P1が付与されたケーシング7において、ビードコア3fよりもタイヤ軸方向外側にはみ出したはみ出し部分7p(サイドウォールゴム3b及びクリンチゴム3cを含む)が、はみ出し部分7pの半径方向内方に配置されたブラダー(図示省略)の膨張によって、ビードコア3f廻りで巻き上げられる。これにより、複数のシート状ゴム部材をそれぞれ円筒状に成形して互いに積層した生タイヤ2T(ゴム積層体2)が形成される。
図5は、本実施形態の作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の作成方法では、先ず、図2及び図4に示した少なくとも2つのシート状ゴム部材3(本実施形態では、複数のシート状ゴム部材3a〜3k)を有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化したシート状ゴム部材モデル16が、コンピュータ1に入力される(工程S1)。図6は、シート状ゴム部材モデル16の断面の一例を示す概念図である。
工程S1では、先ず、図2〜図4に示した各シート状ゴム部材3a〜3kの設計データ(例えば、CADデータ)が、コンピュータ1に入力される。設計データには、例えば、シート状ゴム部材3の横断面形状、及び、長さL1(図3(a)に示す)に関する数値データ等が含まれている。そして、工程S1では、シート状ゴム部材3の設計データに基づいて、有限個の要素F(i)で離散化することで、三次元のシート状ゴム部材モデル16が設定される。
シート状ゴム部材モデル16は、トレッドゴム3a(図4(a)に示す)を離散化したトレッドゴムモデル16a、サイドウォールゴム3b(図4(a)に示す)を離散化したサイドウォールゴムモデル16b、及び、クリンチゴム3c(図4(a)に示す)を離散化したクリンチゴムモデル16cを含んでいる。また、シート状ゴム部材モデル16は、ビードエーペックスゴム3d(図4(a)に示す)を離散化したビードエーペックスゴムモデル16d、インナーライナーゴム3e(図4(a)に示す)を離散化したインナーライナーゴムモデル16e、及び、ビードコア3f(図4(a)に示す)を離散化したビードコアモデル16fを含んでいる。
さらに、シート状ゴム部材モデル16は、カーカスプライ3g(図4(a)に示す)を離散化したカーカスプライモデル16g、内側ベルトプライ3h(図4(a)に示す)を離散化した内側ベルトプライモデル16h、外側ベルトプライ3iを離散化した外側ベルトプライモデル16i、及び、クッションゴム3k(図4(a)に示す)を離散化したクッションゴムモデル16kを含んでいる。内側ベルトプライモデル16hの端部、及び、外側ベルトプライモデル16iの端部には、カバリングゴム3j(図4(a)に示す)を離散化したカバリングゴムモデル16jが設定されている。
本実施形態において、トレッドゴムモデル16a、サイドウォールゴムモデル16b、クリンチゴムモデル16c、ビードエーペックスゴムモデル16d、インナーライナーゴムモデル16e、カーカスプライモデル16g、内側ベルトプライモデル16h、外側ベルトプライモデル16i、カバリングゴムモデル16j、及び、クッションゴムモデル16kの端部は、テーパ状にそれぞれ形成されている。
要素F(i)は、数値解析法により取扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法を適宜採用することができる。本実施形態では、有限要素法が採用されている。
要素F(i)としては、三次元のソリッド要素又はビーム要素等として定義されている。また、各要素F(i)には、要素番号、節点17の番号、節点17の座標値、及び、材料特性(例えば、密度、引張剛性、圧縮剛性、せん断剛性、曲げ剛性、又は、捩り剛性など)等の数値データが定義される。
シート状ゴム部材モデル16のうち、未加硫のゴムを構成する部分の材料特性は、例えば、文献(針間浩、「未加硫ゴムの一定伸長速度下での大変形挙動」、日本レオロジー学会誌、社団法人日本レオロジー学会、1976年、Vol.4、p.3−9)や、文献(戸崎近雄、外3名、「グリーンストレングス指標、降伏応力の粘弾性的取扱い」、日本ゴム協会誌、一般社団法人日本ゴム協会、1969年、第42巻、第6号、p.433−438)等に開示されている。本実施形態では、これらの文献に基づいて、未加硫のゴムの材料特性が定義される。
なお、各シート状ゴム部材モデル16a〜16kの長さL2(図7に示す)は、それぞれのシート状ゴム部材3a〜3kの長さL1(図3(a)に示す)に設定されても良いし、図3(b)に示した円環状ゴム部材13(図3(b)に示す)において、円環中心を通る軸に対して円環状ゴム部材13の断面が周方向で対称になる性質を利用して、その円環状ゴム部材13の予め定められた中心角α1に対応する周方向長さL3に設定されてもよい。このような周方向長さL3に基づいて、各シート状ゴム部材モデル16a〜16kの長さL2(図7に示す)が設定されることにより、計算対象の要素F(i)を少なくできるため、計算時間を短縮することができる。
また、各シート状ゴム部材モデル16a〜16kの中心角α1(図7に示す)は、それぞれ同一に設定されている。これにより、後述の各シート状ゴム部材モデル16a〜16kを円環状に変形させた後述の円環状ゴム部材モデル21において、周方向の両端面21tを、他の円環状ゴム部材モデル21の端面21tに揃えることができる。中心角α1については、適宜設定することができる。中心角α1については、適宜設定することができる。中心角α1の一例としては、0.2〜2°である。各シート状ゴム部材モデル16a〜16kは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の作成方法は、コンピュータ1が、少なくとも2つのシート状ゴム部材モデル16(本実施形態では、複数のシート状ゴム部材モデル16a〜16k)を円環状に変形させた少なくとも2つの円環状ゴム部材モデル21を計算しかつ定義する(工程S2)。工程S2では、各シート状ゴム部材モデル16a〜16kを、各々の横断面形状を変化させることなく、シート状ゴム部材3の長さL1(図3(a)に示す)に基づいて円環状に変形させている。
工程S2では、先ず、各シート状ゴム部材3a〜3kの長さL1(図3(a)に示す)に基づいて、各シート状ゴム部材3a〜3kの円環状ゴム部材13の内径R1(図3(b)に示す)がそれぞれ計算される。内径R1は、円環状ゴム部材13の内周面3uの周方向長さに基づいて計算することができる。なお、内周面3uの周方向長さは、シート状ゴム部材3の長さL1(図3(a)に示す)に一致するとみなしうる。上述したように、各シート状ゴム部材3a〜3kは、その長さL1がそれぞれ異なっている。このため、各シート状ゴム部材3a〜3kの内径R1もそれぞれ異なる。
次に、工程S2では、各シート状ゴム部材モデル16a〜16kを、各々の横断面形状を変化させることなく、各円環状ゴム部材13の内径R1に基づいて円環状に変形させている。図7は、シート状ゴム部材モデル16を円環状に変形させた円環状ゴム部材モデル21の一例を示す側面図である。これにより、工程S2では、各シート状ゴム部材3a〜3kの長さL1(本実施形態では、長さL1から計算される円環状ゴム部材13の内径R1)に基づいて円環状に変形させた円環状ゴム部材モデル21を計算し定義することができる。
上述したように、本実施形態において、各シート状ゴム部材モデル16a〜16kの長さL2は、図3(b)に示した円環状ゴム部材13の予め定められた中心角α1に対応する周方向長さL3に対応して設定されている。従って、本実施形態の円環状ゴム部材モデル21は、周方向の両端面21t、21tを連結した完全な円環(即ち、丸くつながったもの)ではない。なお、各シート状ゴム部材モデル16a〜16kの長さL2が、それぞれのシート状ゴム部材3a〜3kの長さL1(図3(a)に示す)に設定されている場合、円環状ゴム部材モデル21は、完全な円環に定義される。
図6に示されるように、本実施形態の円環状ゴム部材モデル21は、円環状トレッドゴムモデル21a、円環状サイドウォールゴムモデル21b、円環状クリンチゴムモデル21c、円環状ビードエーペックスゴムモデル21d、及び、円環状インナーライナーゴムモデル21eを含んでいる。さらに、本実施形態の円環状ゴム部材モデル21は、円環状ビードコアモデル21f、円環状カーカスプライモデル21g、円環状内側ベルトプライモデル21h、円環状外側ベルトプライモデル21i、円環状カバリングゴムモデル21j、及び、円環状クッションゴムモデル21kを含んでいる。
なお、工程S2では、後述の第1変形工程S5及び第2変形工程S7とは異なり、各要素F(i)の材料特性などを考慮することなく、シート状ゴム部材モデル16a〜16kを変形させるのが望ましい。これにより、工程S2では、シート状ゴム部材モデル16a〜16kの各々の横断面形状を変化させることなく、短時間で円環状に変形させることができる。各円環状ゴム部材モデル21a〜21kは、コンピュータ1に記憶される。
ところで、図3(a)に示されるように、各シート状ゴム部材3a〜3k(図2に示す)は、横断面形状の厚さW1がドラム軸方向(タイヤ軸方向)で一定でない場合、シート状ゴム部材3a〜3kを円環状に成形した円環状ゴム部材13は、厚さW1の大きい部分と厚さW1の小さい部分とで、外周面3sのタイヤ周方向の長さ(周長)が異なる。このため、この外周面3sに積層される円環状ゴム部材13(図示省略)は、その内周面3uの周長が外周面3sの周長よりも小さい部分で引き伸ばされ、厚さW1が小さくなる。従って、積層前の円環状ゴム部材13の横断面形状と、積層後の円環状ゴム部材13の横断面形状とは互いに異なる。
例えば、各円環状ゴム部材モデル21a〜21kを単に積層した場合、各円環状ゴム部材モデル21a〜21kが互いに重なる。このような重なりを防ぐために、例えば、円環状ゴム部材モデル21a〜21kの一部を削除することが考えられるが、実際の円環状ゴム部材13(図3(b)に示す)の体積及び質量とは異なるモデルが作成されるという問題がある。本実施形態の作成方法では、後述の工程S3〜S7において、各円環状ゴム部材モデル21a〜21kを互いの重なりが許容された条件下で配置した後に、各円環状ゴム部材モデル21a〜21kを互いに重ならないように変形させて密着させている。
次に、本実施形態の作成方法は、コンピュータ1が、少なくとも2つの円環状ゴム部材モデル21(本実施形態では、複数の円環状ゴム部材モデル21a〜21k)を、各々の中心22(図7に示す)を揃えて配置する(第1配置工程S3)。第1配置工程S3では、円環状ゴム部材モデル21の互いの重なりが許容された第1境界条件の下で、円環状ゴム部材モデル21a〜21kが配置される。図8は、第1配置工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第1配置工程S3では、先ず、円環状ゴム部材モデル21の互いの重なりを許容する第1境界条件が定義される(工程S31)。第1境界条件は、図6に示した円環状ゴム部材モデル21と他の円環状ゴム部材モデル21とのすり抜けを防ぐ接触を無効にしたものである。これにより、各円環状ゴム部材モデル21a〜21kの互いの重なりが許容される。第1境界条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第1配置工程S3では、各円環状ゴム部材モデル21a〜21kが、各々の中心22(図7に示す)を揃えて配置される(工程S32)。中心22は、円環状ゴム部材モデル21a〜21kの内径R1(図7に示す)から定められる。
図9は、重複部分を有する円環状ゴム部材モデル21の一例を示す概念図である。これらの円環状ゴム部材モデル21a〜21kの配置により、工程S32では、第1積層体5(図3(a)に示す)をモデル化した円環状の第1積層体モデル25、第2積層体6(図3(a)に示す)をモデル化した円環状の第2積層体モデル26、及び、トレッドリング8(図3(a)に示す)をモデル化した円環状のトレッドリングモデル28が設定される。
第1積層体モデル25は、円環状インナーライナーゴムモデル21e、円環状カーカスプライモデル21g、円環状クリンチゴムモデル21c、円環状サイドウォールゴムモデル21b、及び、円環状クッションゴムモデル21kが配置されることで定義される。また、第2積層体モデル26は、円環状ビードコアモデル21f、及び、円環状ビードエーペックスゴムモデル21dが配置されることで定義される。トレッドリングモデル28は、円環状トレッドゴムモデル21a、円環状内側ベルトプライモデル21h、円環状外側ベルトプライモデル21i、及び、円環状カバリングゴムモデル21jが配置されることで定義される。
図10は、図9のトレッドリングモデル28の部分拡大図である。工程S32では、シート状ゴム部材モデル16a〜16kの各々の横断面形状を変化させることなく(即ち、円環状ゴム部材13(図3(b)に示す)の積層後の横断面形状を考慮することなく)、互いの重なりが許容された第1境界条件の下で、円環状ゴム部材モデル21a〜21kを配置している。このため、複数の円環状ゴム部材モデル21a〜21kには、少なくとも一部が互いに重なる重複部分23(図9及び図10で破線で示している)が設けられる。なお、本実施形態において、第2積層体モデル26は、円環状ビードコアモデル21fと、円環状ビードエーペックスゴムモデル21dとの間に重なり(重複部分)を有しておらず、互いに密着した状態で定義されている。
次に、本実施形態の作成方法は、第1配置工程S3の後、コンピュータ1が、少なくとも2つの円環状ゴム部材モデル21(本実施形態では、複数の円環状ゴム部材モデル21a〜21k)の互いの重なりの有無を調べる(重複判定工程S4)。重複判定工程S4では、各円環状ゴム部材モデル21a〜21kを構成する要素F(i)の座標値に基づいて、円環状ゴム部材モデル21a〜21kの重なりが調べられる。円環状ゴム部材モデル21a〜21kが互いに重なった重複部分23の座標値は、コンピュータ1に記憶される。なお、重複判断工程S4では、例えば、ディスプレイ装置1dに表示された円環状ゴム部材モデル21に基づいて、オペレータが重なりの有無を判断してもよい。
重複判定工程S4において、複数の円環状ゴム部材モデル21a〜21kが互いに重なっている(即ち、少なくとも一つの重複部分23を有している)と判断された場合に(重複判定工程S4で、「Y」)、次の第1変形工程S5が行われる。他方、重複判定工程S4において、複数の円環状ゴム部材モデル21a〜21kが互いに重なっていない(即ち、重複部分23を全く有さない)と判断された場合(重複判定工程S4で、「N」)、第1変形工程S5を行うことなく第2変形工程S7が行われる。
本実施形態の作成方法は、コンピュータ1が、少なくとも2つの円環状ゴム部材モデル21(本実施形態では、複数の円環状ゴム部材モデル21a〜21k)が互いに重ならないように、円環状ゴム部材モデル21の少なくとも一方を変形させる(第1変形工程S5)。図11は、第1変形工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第1変形工程S5は、先ず、図9に示した少なくとも2つの円環状ゴム部材モデル21(本実施形態では、円環状ゴム部材モデル21a〜21k)に、初期の温度と、温度変化によって膨張及び収縮する性能とが定義される(工程S51)。初期温度としては、適宜設定することができる。本実施形態の初期温度は、実際のゴム積層体2(図2に示す)の製造時の円環状ゴム部材13の温度(例えば、15〜35℃)に設定される。初期の温度は、コンピュータ1に記憶される。
温度変化によって膨張及び収縮する性能としては、適宜設定することができる。本実施形態の膨張及び収縮する性能としては、熱膨張係数が定義される。熱膨張係数は、例えば、特許文献(特開2015−9788号公報)の記載に基づいて設定することができる。これにより、各円環状ゴム部材モデル21a〜21k(図9に示す)は、設定される温度と初期の温度との差に基づいて、膨張及び収縮する状態が計算される。熱膨張係数は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第1変形工程S5では、互いに重なる円環状ゴム部材モデル21のうち、少なくとも一方の円環状ゴム部材モデル21の温度を変えることにより、少なくとも一方の円環状ゴム部材モデル21を変形させる(工程S52)。工程S52では、互いに重なる一対の円環状ゴム部材モデル21(図9に示す)のうち、少なくとも一方の円環状ゴム部材モデル21の温度を、初期温度とは異なる温度に設定することにより、少なくとも一方の円環状ゴム部材モデル21を変形させている。
工程S52では、半径方向で隣接する円環状ゴム部材モデル21、21(図9に示す)が互いに重ならなくなるまで、少なくとも一方の円環状ゴム部材モデル21を変形させている。図12は、変形後の円環状ゴム部材モデル21の一例を示す概念図である。これにより、第1積層体モデル25、第2積層体モデル26及びトレッドリングモデル28において、隣接する円環状ゴム部材モデル21a〜21kを半径方向に離間させて、円環状ゴム部材モデル21a〜21kの重複部分23(図9及び図10に示す)を無くすことができる。なお、工程S52では、互いに重なる一対の円環状ゴム部材モデル21、21の双方を変形させてもよい。
円環状ゴム部材モデル21a〜21kの変形計算は、図6に示した各要素F(i)の形状、熱膨張係数、及び、材料特性などに基づいて、微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとに実施される。このような変形計算は、例えば、JSOL社製のLS-DYNAなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算することができる。
工程S52では、円環状ゴム部材モデル21を、膨張又は収縮のどちらで変形させてもよい。円環状ゴム部材モデル21a〜21k(図3(b)に示した円環状ゴム部材13)において、タイヤ赤道C側の周長は、タイヤ軸方向外端側の周長に比べて大きくなる傾向がある。このため、タイヤ赤道C側の重複部分23(図9及び図10に示す)では、円環状ゴム部材モデル21を収縮させて内径を小さくし、周長を小さくするのが望ましい。他方、タイヤ軸方向外端側の重複部分23では、円環状ゴム部材モデル21を膨張させて内径を大きくし、周長を大きくするのが望ましい。これにより、工程S52では、少ない計算時間で、円環状ゴム部材モデル21の互いの重なりを、効果的に無くすことができる。
次に、本実施形態の作成方法では、第1変形工程S5の後、コンピュータ1が、少なくとも2つの円環状ゴム部材モデル21(本実施形態では、複数の円環状ゴム部材モデル21a〜21k)が互いに密着するように、円環状ゴム部材モデル21の少なくとも一方を変形させる(第2変形工程S7)。第2変形工程S7では、円環状ゴム部材モデル21a〜21kを、互いの接触が許容されかつ重なりが禁止された第2境界条件の下で、円環状ゴム部材モデル21a〜21kを互いに密着させている。図13は、第2変形工程S7の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第2変形工程S7では、先ず、円環状ゴム部材モデル21a〜21k(図12に示す)の互いの接触が許容され、かつ、重なりが禁止された第2境界条件が定義される(工程S71)。第2境界条件は、第1境界条件を無効にして、円環状ゴム部材モデル21と他の円環状ゴム部材モデル21とのすり抜けを防ぐ接触を有効にしたものである。これにより、後述の工程S72〜S76において、各円環状ゴム部材モデル21a〜21kの重なりが禁止され、各円環状ゴム部材モデル21a〜21kを互いに密着させることができる。第2境界条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第2変形工程S7では、少なくとも一方の円環状ゴム部材モデル21の温度を変えることにより、円環状ゴム部材モデル21を変形させる(工程S72)。図14は、密着した円環状ゴム部材モデル21の一例を示す概念図である。
本実施形態の工程S72では、第1変形工程S5で初期温度とは異なる温度に設定された円環状ゴム部材モデル21について、初期の温度に徐々に近づくように温度を変更することにより、図12に示した半径方向で隣接する円環状ゴム部材モデル21a〜21kの少なくとも一部を互いに密着させている。これにより、工程S72では、第1変形工程S5で変形させた円環状ゴム部材モデル21を元の大きさに戻しながら、円環状ゴム部材モデル21a〜21kを互いに密着させることができる。従って、工程S72では、第1積層体モデル25、第2積層体モデル26、及び、トレッドリングモデル28のそれぞれにおいて、半径方向で隣接する円環状ゴム部材モデル21の少なくとも一部分を密着させることができる。
次に、本実施形態の第2変形工程S7では、第1積層体モデル25と、第2積層体モデル26とを密着させたケーシングモデル27を設定し(工程S73)、ケーシングモデル27を半径方向外側に膨出させる変形計算が行われる(工程S74)。図15は、半径方向外側に膨出したケーシングモデル27の一例を示す概念図である。
工程S74では、先ず、ケーシングモデル27の内面に等分布荷重w1が定義される。この等分布荷重w1は、図4(a)に示したケーシング7を膨出させる高圧空気P1の圧力に相当するものである。次に、工程S74では、ケーシングモデル27のビード部27c、27cのタイヤ軸方向の距離を減じるように、ビード部27c、27cをタイヤ軸方向内側に移動させる。ビード部27c、27c間のタイヤ軸方向の距離は、図4(a)に示した膨出したケーシング7のビード部7c、7c間のタイヤ軸方向の距離に基づいて設定される。これにより、工程S74では、ケーシングモデル27を半径方向外側に膨出させる変形計算を実施することができる。このケーシングモデル27の膨出により、ケーシングモデル27の外面と、トレッドリングモデル28の内面とを接触させることができる。また、工程S74では、円環状インナーライナーゴムモデル21e、円環状カーカスプライモデル21g、円環状クリンチゴムモデル21c、円環状サイドウォールゴムモデル21b、及び、円環状クッションゴムモデル21kが隙間なく密着するように、第1積層体モデル25を変形させている。
次に、本実施形態の第2変形工程S7では、ケーシングモデル27の外面と、トレッドリングモデル28の内面とが接触した後に、トレッドリングモデル28をケーシングモデル27側に変形させる(工程S75)。図16は、変形したトレッドリングモデル28の一例を示す概念図である。
工程S75では、トレッドリングモデル28の外面に、等分布荷重w2がさらに定義される。この等分布荷重w2は、図4(a)に示したトレッドリング8の外周面を押し付けるステッチングローラ(図示省略)の圧力に基づいて設定される。これにより、工程S75では、トレッドリングモデル28の内面が、ケーシングモデル27の外面に沿うように、トレッドリングモデル28の変形計算を実施することができる。また、工程S75では、円環状トレッドゴムモデル21a、円環状内側ベルトプライモデル21h、円環状外側ベルトプライモデル21i、及び、円環状カバリングゴムモデル21jが隙間なく密着するように、トレッドリングモデル28を変形させている。
次に、本実施形態の第2変形工程S7では、円環状ビードコアモデル21fよりもタイヤ軸方向外側にはみ出したケーシングモデル27のはみ出し部分27pを、円環状ビードコアモデル21fの廻りで巻き上げる(工程S76)。工程S76では、ケーシングモデル27のはみ出し部分27pの内面に、等分布荷重w3が定義される。この等分布荷重w3は、図3(b)に示したはみ出し部分27pの内面を押し付けるブラダー(図示省略)の圧力に基づいて設定される。これにより、工程S76では、はみ出し部分27pを巻き上げて、はみ出し部分27pの外面が円環状カーカスプライモデル21gの外面又は円環状トレッドゴムモデル21aの外面に密着するように、はみ出し部分27p及び円環状ビードエーペックスゴムモデル21dの変形計算を実施することができる。これにより、第2変形工程S7では、各円環状ゴム部材モデル21a〜21kを隙間なく互いに密着させることができる。図17は、ゴム積層体の数値解析用モデル30の一例を示す概念図である。
次に、本実施形態の作成方法では、第2変形工程S7の後、少なくとも2つの円環状ゴム部材モデル21(本実施形態では、複数の円環状ゴム部材モデル21a〜21k)が互いに離間しないように密着状態が保持される(保持工程S8)。保持工程S8では、互いに密着した円環状ゴム部材モデル21、21間の接触面に、相対移動を防ぐ境界条件が設定される。
次に、本実施形態の作成方法では、保持工程S8の後、少なくとも2つの円環状ゴム部材モデル21(複数の円環状ゴム部材モデル21a〜21k)の温度が初期の温度に戻される(工程S9)。工程S9では、円環状ゴム部材モデル21の密着状態が保持された状態で、第1変形工程S5で初期温度とは異なる温度に設定された円環状ゴム部材モデル21の温度を、初期の温度に設定している。これにより、各円環状ゴム部材モデル21a〜21kは、隣接する他の円環状ゴム部材モデル21a〜21kとの間に隙間が形成されることなく、各シート状ゴム部材モデル16a〜16kと同一の体積及び質量に戻される。これにより、本実施形態の作成方法では、実際の円環状ゴム部材13(図3(b)に示す)の体積及び質量が反映された生タイヤ2Tの数値解析用モデル30(生タイヤモデル30T)を作成することができる。数値解析用モデル30は、コンピュータ1に記憶される。
このように、本実施形態の作成方法によれば、実際のゴム積層体2の製造方法と同様に、シート状ゴム部材モデル16a〜16k(図6及び図7に示す)を円環状に変形させた円環状ゴム部材モデル21a〜21kを積層して、互いに密着させることができる。従って。本実施形態の作成方法は、上記特許文献1の作成方法に比べて、実際のゴム積層体2(本実施形態では、生タイヤ2T)の形状を精度よく再現した数値解析用モデル30を作成することができる。
しかも、本実施形態の作成方法では、円環状ゴム部材モデル21の温度を変えることによって、円環状ゴム部材モデル21の互いの重なりを防ぎつつ、さらに、円環状ゴム部材モデル21を互いに密着させることができる。これにより、本実施形態の作成方法では、例えば、円環状ゴム部材モデル21の一部を削除して重なりを防ぐ作成方法に比べて、実際のゴム積層体2の形状を精度よく再現しうる数値解析用モデル30を作成することができる。
さらに、本実施形態の作成方法では、複数の円環状ゴム部材モデル21a〜21kの温度が初期の温度に戻されるため、数値解析用モデル30に、実際の円環状ゴム部材13(図3(b)に示す)の体積及び質量を反映させることができる。従って、本実施形態の作成方法では、各シート状ゴム部材3a〜3kを積層させた実際のゴム積層体2(本実施形態では、生タイヤ2T)の数値解析用モデル30を、精度良く作成することができる。
本実施形態の作成方法で作成された数値解析用モデル30(生タイヤモデル30T)は、例えば、ゴム積層体2(生タイヤ2T)を実際に製造するのに先立ち、シート状ゴム部材3(図3及び図4に示す)の設計データから形成されるゴム積層体2(生タイヤ2T)の形状の検証に用いることができる。これにより、ゴム積層体2の製造工程で生じる不具合の発生を、未然に防ぐことができる。さらに、数値解析用モデル30(生タイヤモデル30T)は、例えば、加硫金型をモデル化した金型モデル(図示省略)を使用した変形計算に用いられることで、加硫工程の検証や、図示されない加硫済みゴム積層体(タイヤモデル)の作成に用いることができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
横断面形状と長さとが定義された複数の未加硫のシート状ゴム部材をそれぞれ円筒状に成形して互いに積層したゴム積層体(生タイヤ)の数値解析用のモデルが、コンピュータを用いて作成された(実施例、比較例)。
実施例では、図5に示した処理手順に従って、コンピュータが、複数の円環状ゴム部材モデルを、互いの重なりが許容された第1境界条件の下で各々の中心を揃えて配置する第1配置工程と、円環状ゴム部材モデルが互いに重ならないように、円環状ゴム部材モデルの少なくとも一方を変形させる第1変形工程が実施された。さらに、実施例では、円環状ゴム部材モデルを、互いの接触が許容されかつ重なりが禁止された第2境界条件の下で、円環状ゴム部材モデルが互いに密着するように、円環状ゴム部材モデルの少なくとも一方を変形させる第2変形工程が実施された。
実施例の円環状ゴム部材モデルには、初期の温度と、温度変化によって膨張及び収縮する性能とが定義された。そして、実施例の第1変形工程及び第2変形工程では、円環状ゴム部材モデルの温度を変えることにより、円環状ゴム部材モデルを変形させた。さらに、実施例では、第2変形工程の後、円環状ゴム部材モデルが互いに離間しないように密着状態を保持する保持工程と、2つの円環状ゴム部材モデルの温度を初期の温度に戻す工程とが実施された。図17は、実施例の作成方法で作成されたゴム積層体の数値解析用モデルを示す概念図である。
比較例では、複数の円環状ゴム部材モデルを、互いの重なりが禁止された境界条件の下で各々の中心を揃えて配置する工程が行われた。この工程では、円環状ゴム部材モデルが重ならないように、円環状ゴム部材モデルの一部が削除された。そして、円環状ゴム部材モデルが互いに密着するように、円環状ゴム部材モデルの少なくとも一方を変形させる工程が実施された。なお、比較例では、実施例のように、円環状ゴム部材モデルの温度を変えることによって、円環状ゴム部材モデルを変形させておらず、ケーシングモデルの内面等に定義される等分布荷重のみによって変形させている。図18は、比較例の作成方法で作成されたゴム積層体の数値解析用モデルを示す概念図である。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:315/70R22.5
有限要素解析アプリケーションソフト:JSOL社製のLS-DYNA
テストの結果、実施例のゴム積層体の数値解析用モデルは、比較例のゴム積層体の数値解析用モデルに比べて、図2に示した生タイヤの形状に近似させることができた。とりわけ、比較例は、実施例に比べて、生タイヤのベルトプライの外端に配置されるカバリングゴムの形状を再現することができなかった。また、比較例では、実施例とは異なり、隣接する円環状ゴム部材モデル間に隙間が形成された。従って、実施例の作成方法は、比較例の作成方法に比べて、実際のゴム積層体の形状を精度良く再現することができた。