以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の生タイヤの加硫シミュレーション方法(以下、単に「加硫シミュレーション方法」ということがある。)は、金型で生タイヤを加硫成形する様子を、コンピュータを用いて模擬するためのものである。
図1は、生タイヤの加硫シミュレーション方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c、及び、ディスプレイ装置1dが含まれる。この本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられている。なお、記憶装置には、本実施形態の加硫シミュレーション方法を実行するための処理手順(プログラム)が、予め記憶されている。
図2は、生タイヤの一例を示す断面図である。生タイヤ2は、互いに接合された複数の部材3を含んでいる。部材3は、トレッドゴム3a、サイドウォールゴム3b、クリンチゴム3c、ビードエーペックスゴム3d、インナーライナーゴム3e、ビードコア3f、カーカスプライ3g、内側ベルトプライ3h、外側ベルトプライ3i、カバリングゴム3j、及び、クッションゴム3kを含んでいる。これらの部材3は、未加硫の状態である。ここで、未加硫とは、完全な加硫に至っていない全ての態様を含むもので、いわゆる半加硫の状態はこの「未加硫」に含まれる。
トレッドゴム3aは、生タイヤ2のトレッド部2aにおいて、外側ベルトプライ3iの外側に配されている。サイドウォールゴム3bは、生タイヤ2のサイドウォール部2bにおいて、カーカスプライ3gの外側に配されている。クリンチゴム3cは、サイドウォールゴム3bのタイヤ半径方向内側に固定されている。ビードエーペックスゴム3dは、ビードコア3fからタイヤ半径方向外側にのびている。インナーライナーゴム3eは、カーカスプライ3gの内面に配置されている。クッションゴム3kは、生タイヤ2のバットレス部において、カーカスプライ3gの外側に配置されている。
ビードコア3fは、例えば、スチール製のビードワイヤを螺旋巻きして断面略矩形状に形成したものを、未加硫のゴムで被覆することで形成されている。
カーカスプライ3gは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア3fにのびている。カーカスプライ3gは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75〜90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)を、未加硫のトッピングゴム(図示省略)で被覆することで形成されている。
内側ベルトプライ3h及び外側ベルトプライ3iは、タイヤ周方向に対して、例えば10〜40度の角度で傾斜して配列されたベルトコード(図示省略)を、未加硫のトッピングゴム(図示省略)で被覆することで形成されている。
カバリングゴム3jは、内側ベルトプライ3hの両端部、及び、外側ベルトプライ3iの両端部をそれぞれ被覆している。本実施形態のカバリングゴム3jは、断面コ字状に形成されている。
これらの部材3は、従来の生タイヤ2の成形工程と同様に、成形ドラム(図示省略)等で円環状に形成され、かつ、それらが積層されることによって、生タイヤ2が成形される。
図3は、生タイヤ2を加硫する様子を説明する断面図である。生タイヤ2の加硫には、金型6が用いられる。金型6は、少なくとも第1金型片7と、一対の第2金型片8とを含んでいる。さらに、本実施形態の生タイヤ2の加硫には、弾性体からなるブラダー10が用いられている。なお、ブラダー10の代わりに、生タイヤ2の成形面を外表面に有する環状の剛性中子等(図示省略)が用いられても良い。
第1金型片7は、タイヤのトレッド部を成形しうるトレッド成形面11aを有している。一方、第2金型片8は、タイヤのサイドウォール部及びビード部を成形しうるサイド成形面11bを有している。
本実施形態の金型6は、第1金型片7をタイヤ半径方向の内外に移動させることができる。また、金型6は、第2金型片8をタイヤ軸方向の内外に移動させることができる。これにより、第1金型片7及び第2金型片8は、開閉可能に配されている。金型6は、第1金型片7及び第2金型片8を閉じることで、第1金型片7と第2金型片8とに跨る成形面11で区画されたキャビティが形成される。
生タイヤ2を加硫する工程では、先ず、第1金型片7及び第2金型片8が開かれた金型6の中に、生タイヤ2が投入される。次に、第1金型片7及び第2金型片8が閉じられる。そして、生タイヤ2の内腔内でのブラダー10の膨張により、生タイヤ2が金型6側へ押圧されて加熱される。これにより、生タイヤ2が加硫成形され、タイヤ(図示省略)が製造される。
ところで、金型6が閉じられる際に、第1金型片7と第2金型片8との間の部分9に、生タイヤ2の外面の一部が挟まれる、いわゆるゴム噛みが発生する場合がある。挟まれたゴムは、焼けゴムとして金型6に残り、次に加硫成形されるタイヤに付着して、成形不良を招く。このようなゴム噛みが発生した場合、金型6の設計変更等が必要となり、多くの時間やコストを要するという問題がある。
本実施形態の加硫シミュレーション方法では、コンピュータ1を用いて、ゴム噛みの有無が判断される。図4は、生タイヤの加硫シミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の加硫シミュレーション方法では、コンピュータ1に、金型モデル16が入力される(工程S1)。金型モデル16は、第1金型片7及び第2金型片8を有限個の要素でそれぞれ離散化した第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18を含んでいる。図5は、金型モデル16及びブラダーモデル20の一例を示す概念図である。
工程S1では、金型6(図3に示す)に関する情報(設計データ等)に基づいて、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化している。これにより、三次元の第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18を含む金型モデル16が設定される。金型6の設計データには、例えば、金型6の横断面形状などの数値データ等が含まれている。
数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用される。要素F(i)は、三次元のソリッド要素として定義されている。各要素F(i)は、複数個の節点22を有している。各要素F(i)には、要素番号、節点22の番号、節点22の座標値、及び、金型6の材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。
本実施形態の第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18は、タイヤ周方向に厚さを有する薄板状に形成されている。第1金型片モデル17には、図3に示した第1金型片7と同様に、トレッド成形面21aを有している。一方、第2金型片モデル18には、第2金型片8と同様に、サイド成形面21bを有している。
第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18は、図3に示した第1金型片7及び第2金型片8と同様に、開閉可能(分解可能)に設定されている。金型モデル16は、第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18を閉じることで、第1金型片モデル17と第2金型片モデル18とに跨る成形面21で区画されたキャビティが形成される。第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18は、金型モデル16を閉じたときに互いに接触する合わせ面31、32をそれぞれ有している。金型モデル16は、コンピュータ1に記憶される。
本実施形態の加硫シミュレーション方法では、コンピュータ1に、ブラダー10(図3に示す)を有限個の要素でそれぞれ離散化したブラダーモデル20が入力される(工程S2)。工程S2では、ブラダー10に関する情報(設計データ等)に基づいて、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化している。これにより、三次元のブラダーモデル20が設定される。ブラダー10の設計データには、例えば、ブラダー10の横断面形状などの数値データ等が含まれている。
数値解析法としては、要素G(i)と同一のものが採用される。要素G(i)は、三次元のソリッド要素として定義されている。要素G(i)には、要素番号、節点33の番号、節点33の座標値、及び、ブラダー10の材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。ブラダーモデル20は、第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18と同様に、タイヤ周方向に厚さを有している。ブラダーモデル20は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の加硫シミュレーション方法では、コンピュータ1に、生タイヤ2を有限個の要素で離散化した生タイヤモデルが入力される(生タイヤモデル入力工程S3)。図6は、生タイヤモデル入力工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の生タイヤモデル入力工程S3では、先ず、図2に示した各部材3を有限個の要素H(i)(i=1、2、…)で離散化した部材モデル13が定義される(工程S31)。図7は、部材モデル13の一例を示す概念図である。
工程S31では、図2に示した生タイヤ2が形成される前の各部材3a〜3kの設計データ(例えば、CADデータ)が、コンピュータ1に入力される。設計データには、例えば、部材3の横断面形状などの数値データ等が含まれている。そして、工程S31では、部材3の設計データに基づいて、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素H(i)で離散化することで、三次元の部材モデル13が設定される。
部材モデル13には、トレッドゴム3a(図2に示す)を離散化したトレッドゴムモデル13a、サイドウォールゴム3b(図2に示す)を離散化したサイドウォールゴムモデル13b、及び、クリンチゴム3c(図2に示す)を離散化したクリンチゴムモデル13cを含んでいる。また、部材モデル13は、ビードエーペックスゴム3d(図2に示す)を離散化したビードエーペックスゴムモデル13d、インナーライナーゴム3e(図2に示す)を離散化したインナーライナーゴムモデル13e、及び、ビードコア3f(図2に示す)を離散化したビードコアモデル13fを含んでいる。
さらに、部材モデル13は、カーカスプライ3g(図2に示す)を離散化したカーカスプライモデル13g、内側ベルトプライ3h(図2に示す)を離散化した内側ベルトプライモデル13h、外側ベルトプライ3iを離散化した外側ベルトプライモデル13i、及び、クッションゴム3k(図2に示す)を離散化したクッションゴムモデル13kを含んでいる。内側ベルトプライモデル13hの端部、及び、外側ベルトプライモデル13iの端部には、カバリングゴム3j(図2に示す)を離散化したカバリングゴムモデル13jが設定されている。
本実施形態において、トレッドゴムモデル13a、サイドウォールゴムモデル13b、クリンチゴムモデル13c、ビードエーペックスゴムモデル13d、インナーライナーゴムモデル13e、カーカスプライモデル13g、内側ベルトプライモデル13h、外側ベルトプライモデル13i、カバリングゴムモデル13j、及び、クッションゴムモデル13kの端部は、テーパ状にそれぞれ形成されている。
数値解析法としては、要素F(i)と同一のものが採用される。要素H(i)は、三次元のソリッド要素又はビーム要素等として定義されている。要素H(i)には、要素番号、節点34の番号、節点34の座標値、及び、部材3の特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。部材モデル13は、図5に示した第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18と同様に、タイヤ周方向に厚さを有している。部材モデル13は、コンピュータ1に記憶される。
部材モデル13のうち、未加硫のゴムを構成する部分の材料特性は、例えば、文献(針間浩、「未加硫ゴムの一定伸長速度下での大変形挙動」、日本レオロジー学会誌、社団法人日本レオロジー学会、1976年、Vol.4、p.3−9)や、文献(戸崎近雄、外3名、「グリーンストレングス指標、降伏応力の粘弾性的取扱い」、日本ゴム協会誌、一般社団法人日本ゴム協会、1969年、第42巻、第6号、p.433−438)等に開示されている。本実施形態では、これらの文献に基づいて、未加硫のゴムの材料特性が定義される。各部材モデル13は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の生タイヤモデル入力工程S3では、部材モデル13を互いに接合させる(接合工程S32)。図8は、接合工程S32の処理手順の一例を説明するフローチャートである。
本実施形態の接合工程S32では、先ず、図7に示した各部材モデル13a〜13kが、互いの重なりが許容される境界条件下で配置される(工程S41)。図9は、重複部分を有する部材モデル13の一例を示す概念図である。
工程S41では、各部材モデル13a〜13kを、部材3を円環状に形成するための成形ドラム(図示省略)の軸心からの距離(半径方向の距離)を揃えて配置している。これにより、第1積層体モデル25、第2積層体モデル26、及び、トレッドリングモデル28が設定される。
第1積層体モデル25は、インナーライナーゴムモデル13e、カーカスプライモデル13g、クリンチゴムモデル13c、サイドウォールゴムモデル13b、及び、クッションゴムモデル13kの配置によって定義される。第2積層体モデル26は、ビードコアモデル13f、及び、ビードエーペックスゴムモデル13dの配置によって定義される。トレッドリングモデル28は、トレッドゴムモデル13a、内側ベルトプライモデル13h、外側ベルトプライモデル13i、及び、カバリングゴムモデル13jの配置によって定義される。
工程S41では、部材モデル13a〜13kの各々の横断面形状を変化させることなく(即ち、部材3の積層後の横断面形状を考慮することなく)、互いの重なりが許容された境界条件の下で、部材モデル13a〜13kを配置している。このため、複数の部材モデル13a〜13kには、少なくとも一部が互いに重なる重複部分23(図9で破線で示している)が設けられる。
次に、本実施形態の接合工程S32では、重複部分23がなくなるように、各部材モデル13a〜13kを変形させる(工程S42)。工程S42では、各部材モデル13a〜13kを半径方向の内側、又は、半径方向の外側に変形させることで、重複部分23をなくしている。図10は、変形後の部材モデル13の一例を示す概念図である。
各部材モデル13a〜13kの変形方法については、適宜採用することができる。本実施形態の工程S42では、部材モデル13a〜13kの熱膨張係数と、部材モデル13a〜13kに設定される温度とに基づいて、部材モデル13a〜13kを変形(膨張又は収縮)させている。温度には、部材モデル13a〜13kに設定された初期温度(例えば、生タイヤ2の製造時の温度)とは異なる値が設定される。これにより、工程S42では、部材モデル13a〜13kを、初期温度との温度差によって膨張又は収縮させることができ、各部材モデル13a〜13kの重複を無くすことができる。
部材モデル13a〜13kの変形計算は、図7に示した各要素H(i)の形状、熱膨張係数、及び、材料特性などに基づいて、微小時間(シミュレーションの単位時間Tx(x=0、1、…))ごとに実施される。このような変形計算は、例えば、JSOL社製のLS-DYNAなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算することができる。
次に、本実施形態の接合工程S32では、各部材モデル13a〜13kを密着させる(工程S43)。工程S43では、各部材モデル13a〜13kが、互いの接触が許容され、かつ、互いの重なりが禁止される境界条件下で密着させている。図11は、密着した部材モデル13の一例を示す概念図である。
工程S43では、初期温度とは異なる温度に設定された部材モデル13について、初期の温度に徐々に近づくように温度を変更している。これにより、工程S43では、半径方向で隣接する部材モデル13a〜13kの少なくとも一部を互いに密着させた第1積層体モデル25、第2積層体モデル26、及び、トレッドリングモデル28を設定することができる。
次に、本実施形態の接合工程S32では、第1積層体モデル25と、第2積層体モデル26とを密着させたケーシングモデルを設定し(工程S44)、ケーシングモデルを半径方向外側に膨出させる変形計算が行なわれる(工程S45)。図12は、半径方向外側に膨出したケーシングモデル27の一例を示す概念図である。
工程S45では、ケーシングモデル27のビード部27c、27cのタイヤ軸方向の距離を減じるように、ビード部27c、27cをタイヤ軸方向内側に移動させ、かつ、ケーシングモデル27を半径方向外側に膨出させる変形計算が行なわれる。ケーシングモデル27の膨出は、ケーシングモデル27の内面に定義される等分布荷重w1に基づいて計算される。等分布荷重w1は、図2に示した生タイヤ2のケーシング(図示省略)を膨出させる高圧空気の圧力に基づいて設定される。このケーシングモデル27の膨出により、ケーシングモデル27の外面と、トレッドリングモデル28の内面とを接触させることができる。
次に、本実施形態の接合工程S32では、トレッドリングモデル28をケーシングモデル27側に変形させる(工程S46)。図13は、変形したトレッドリングモデル28の一例を示す概念図である。トレッドリングモデル28の変形は、トレッドリングモデル28の外面に定義される等分布荷重w2に基づいて計算される。等分布荷重w2は、図2に示した生タイヤ2のトレッドリング(図示省略)の外周面を押し付けるステッチングローラ(図示省略)の圧力に基づいて設定される。これにより、工程S46では、トレッドリングモデル28の内面が、ケーシングモデル27の外面に沿うように、トレッドリングモデル28の変形計算を実施することができる。
次に、本実施形態の接合工程S32では、ビードコアモデル13fよりもタイヤ軸方向外側にはみ出したケーシングモデル27のはみ出し部分27pを、ビードコアモデル13fの廻りで巻き上げる(工程S47)。工程S47では、ケーシングモデル27のはみ出し部分27pの内面に定義される等分布荷重w3に基づいて、はみ出し部分27pが巻き上げられる。等分布荷重w3は、図2に示した生タイヤ2のはみ出し部分(図示省略)の内面を押し付けるブラダー(図示省略)の圧力に基づいて設定される。
工程S47では、はみ出し部分27pの外面がカーカスプライモデル13gの外面又はトレッドゴムモデル13aの外面に密着するように、巻き上げられたはみ出し部分27p、及び、ビードエーペックスゴムモデル13dの変形計算が実施される。これにより、接合工程S32では、各部材モデル13a〜13kを隙間なく互いに密着させることができる。図14は、生タイヤモデル12の一例を示す概念図である。
次に、本実施形態の接合工程S32では、部材モデル13a〜13kが互いに離間しないように密着状態が保持される(工程S48)。工程S48では、互いに密着した部材モデル13、13間の接触面に、相対移動を防ぐ境界条件が設定される。これにより、生タイヤモデル12が定義される。
このように、本実施形態の生タイヤモデル入力工程S3では、実際の生タイヤ2の製造方法と同様に、部材モデル13a〜13kを積層して、互いに密着させることができる。したがって、本実施形態の生タイヤモデル入力工程S3では、実際の生タイヤ2(図2に示す)の形状を精度よく再現した生タイヤモデル12を作成することができる。生タイヤモデル12は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の加硫シミュレーション方法は、コンピュータ1が、第1金型片モデル17と第2金型片モデル18とが開いた状態の金型モデル16のキャビティ24に生タイヤモデル12を配置する(工程S4)。図15は、金型モデル16のキャビティ24に配置された生タイヤモデル12の一例を示す概念図である。図15では、金型モデル16及びブラダーモデル20を色付けして示している。
工程S4では、先ず、第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18を分解して、第1金型片モデル17を半径方向外側に移動させ、かつ、第2金型片モデル18を軸方向外側に移動させる。これにより、第1金型片モデル17と第2金型片モデル18とが開いた状態の金型モデル16を定義することができる。
第1金型片モデル17は、生タイヤモデル12よりもタイヤ半径方向外側に位置している。一方、第2金型片モデル18は、生タイヤモデル12よりもタイヤ軸方向外側に位置している。これにより、生タイヤモデル12は、第1金型片モデル17と第2金型片モデル18とが開いた状態の金型モデル16に配置される。
次に、本実施形態の加硫シミュレーション方法では、コンピュータ1が、生タイヤモデル12の内腔に、ブラダーモデル20を配置する(工程S5)。本実施形態の工程S5では、生タイヤモデル12及び金型モデル16に接触しないように、ブラダーモデル20が、生タイヤモデル12の内腔内に配置されている。
次に、本実施形態の加硫シミュレーション方法では、コンピュータ1が、第1金型片モデル17と第2金型片モデル18とが徐々に接近するように、金型モデル16を閉じていく(金型閉工程S6)。図16は、金型閉工程S6の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の金型閉工程S6では、先ず、図15に示した生タイヤモデル12、第1金型片モデル17、第2金型片モデル18、及び、ブラダーモデル20に、互いの接触が許容され、かつ、互いの重なりが禁止される境界条件が定義される(工程S61)。境界条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の金型閉工程S6では、ブラダーモデル20を膨張変形させる(工程S62)。工程S62では、ブラダーモデル20の内面20iに、等分布荷重w4が定義される。等分布荷重w4は、図3に示したブラダー10を膨出させる高圧空気の圧力に相当するものである。これにより、工程S62では、ブラダーモデル20を半径方向外側に膨出させる変形計算を実施することができる。ブラダーモデル20の膨出変形によって、第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18側に、生タイヤモデル12を押圧することができる。
次に、本実施形態の金型閉工程S6では、第1金型片モデル17と第2金型片モデル18とを徐々に接近させる(工程S63)。工程S63では、予め定められた速度で、第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18を、シミュレーションの単位時間毎に接近させている。これにより、金型閉工程S6では、第1金型片モデル17と第2金型片モデル18とが徐々に接近するように金型モデル16を閉じていく状態を計算することができる。図17は、第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18を閉じた状態を説明する概念図である。図17では、金型モデル16及びブラダーモデル20を色付けして示している。図18は、第1金型片モデル17と第2金型片モデル18との間に、生タイヤモデル12の一部が挟まれた状態を説明する概念図である。
次に、本実施形態の金型閉工程S6では、コンピュータ1が、金型モデル16を閉じていく過程において、第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18の間に、生タイヤモデル12の一部が挟まれたか否かを判断する(工程S64)。工程S64では、図18に示した生タイヤモデル12の要素H(i)が、第1金型片モデル17の合わせ面31、又は、第2金型片モデル18の合わせ面32に当接(例えば、面接触)しているか否かを調べることによって行なわれる。
工程S64において、第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18の間に、生タイヤモデル12の一部が挟まれた(即ち、生タイヤモデル12の要素H(i)が、合わせ面31又は32に当接した)と判断された場合(工程S64で、「Y」)、金型モデル16に基づいて製造された金型6(図3に示す)では、ゴム噛みが発生すると予測することができる。この場合、ゴム噛みが発生しないように、金型6を設計変更し(工程S65)、金型6が製造される(工程S66)。これにより、本実施形態の加硫シミュレーション方法では、ゴム噛みが発生しない金型6を設計及び製造することができる。なお、設計変更した金型6に基づいて、本実施形態の加硫シミュレーション方法が再度実施されてもよい。本実施形態では、工程S64において、生タイヤモデル12の要素H(i)が、合わせ面31又は32に当接したと判断された場合、第1金型片モデル17と第2金型片モデル18との接近が中断される。
一方、工程S64において、第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18の間に、生タイヤモデル12の一部が挟まれていないと判断された場合(工程S64で、「N」)、コンピュータ1が、金型モデル16が閉じたか否かが判断される(工程S67)。金型モデル16が閉じたか否かの判断は、第1金型片モデル17の合わせ面31と、第2金型片モデル18の合わせ面32とが当接したか否かで判断される。
工程S67において、金型モデル16が閉じたと判断された場合(工程S67で、「Y」)、ゴム噛みが発生することなく、金型モデル16を閉じることができた。この場合、金型モデル16に基づいて製造された金型6(図3に示す)において、ゴム噛みが発生しないと予測することができる。したがって、金型モデル16に基づいて、金型6が製造される(工程S66)。
一方、工程S67において、金型モデル16が閉じられていないと判断された場合(工程S67で、「Y」)、単位時間を一つ進めて(工程S68)、工程S63及び工程S64が再度実施される。これにより、金型閉工程S6では、金型モデル16が閉じられるまでの間、第1金型片モデル17と第2金型片モデル18との間に、生タイヤモデル12の一部が挟まれたか否かを判断することができる。
このように、本実施形態の加硫シミュレーション方法は、実際に金型6を製造する前に、第1金型片7と第2金型片8との間に、生タイヤ2の一部が挟まれる、いわゆるゴム噛みの有無を、コンピュータ1を用いて判断することができる。したがって、本実施形態の加硫シミュレーション方法は、多くの時間やコストを必要とすることなく、ゴム噛みを防ぐことができる金型6を設計及び製造するのに役立つ。
また、本実施形態の工程S64では、生タイヤモデル12の要素H(i)が、第1金型片モデル17の合わせ面31、又は、第2金型片モデル18の合わせ面32に当接したと判断された場合、第1金型片モデル17と第2金型片モデル18との接近が中断される。これにより、本実施形態の加硫シミュレーション方法では、生タイヤモデル12の要素H(i)が、第1金型片モデル17の合わせ面31、又は、第2金型片モデル18の合わせ面32に当接した後も、第1金型片モデル17及び第2金型片モデル18が接近して、要素潰れが生じるのを防ぐことができる。したがって、本実施形態の加硫シミュレーション方法は、要素潰れに起因する計算落ちを防ぐことができるため、ゴム噛みの有無を安定して判断することができる。
さらに、本実施形態の加硫シミュレーション方法では、部材モデル13を互いに接合させた精度の高い生タイヤモデル12が用いられているため、ゴム噛みの有無を精度良く判断することができる。したがって、本実施形態の加硫シミュレーション方法は、ゴム噛みをより確実に防ぐことができる金型6を、設計及び製造するのに役立つ。
本実施形態の加硫シミュレーション方法では、部材モデルを互いに接合させた生タイヤモデル12が定義されたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、金型6の断面形状に基づいて、有限個の要素H(i)で離散化させた生タイヤモデル(図示省略)が定義されてもよい。このような生タイヤモデル12は、計算時間の短縮に役立つ。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図4に示した処理手順に基づいて、開閉可能に配された少なくとも第1金型片と第2金型片とを含み、かつ、閉じることで第1金型片と第2金型片とに跨る成形面で区画されたキャビティを形成する金型(図3に示す)で、生タイヤ(サイズ:295/75R22.5)を加硫成形する様子が、コンピュータを用いて模擬された(実施例)。
実施例では、第1金型片モデルと第2金型片モデルとが開いた状態の金型モデルのキャビティに生タイヤモデルを配置し、図16に示した処理手順に基づいて、第1金型片モデルと第2金型片モデルとが徐々に接近するように金型モデルを閉じていく過程において、第1金型片モデルと第2金型片モデルとの間に、生タイヤモデルの一部が挟まれたか否かを判断された。
実施例では、図18に示されるように、第1金型片モデルと第2金型片モデルとの間に、生タイヤモデルの一部が挟まれる、いわゆるゴム噛みを判断することができた。
ゴム噛みの結果に基づいて、実施例では、金型の設計変更が行なわれた。そして、設計変更した金型に基づいて、第1金型片モデルと第2金型片モデルとの間に、生タイヤモデルの一部が挟まれたか否かを判断された。図19は、設計変更した金型モデルが閉じていく過程を示す概念図である。
設計変更した金型では、第1金型片モデルと第2金型片モデルとの間に、生タイヤモデルの一部が挟まれなかった。そして、設計変更した金型が実際に製造されたが、生タイヤのゴム噛みは発生しなかった。したがって、実施例では、ゴム噛みを防ぐことができる金型6を設計及び製造することができた。