以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤモデルの作成方法(以下、単に「作成方法」ということがある)は、数値解析用のタイヤモデルを、コンピュータを用いて作成するためのものである。
図1は、本実施形態の作成方法、及び、後述するシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んでいる。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。また、記憶装置には、本実施形態の作成方法、及び、後述するシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
図2は、本実施形態の作成方法によってモデル化されるタイヤの一例を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2は、例えば、重荷重用タイヤとして構成されている。本実施形態のタイヤ2は、例えば、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7とが設けられている。
また、タイヤ2には、ゴム部分11が設けられている。ゴム部分11は、トレッド部2aにおいてベルト層7の外側に配されるトレッドゴム11aと、サイドウォール部2bにおいてカーカス6の外側に配されるサイドウォールゴム11bと、ビード部2cに配されるクリンチゴム11cとを含んでいる。さらに、ゴム部分11は、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム11dと、タイヤ2のタイヤ内腔面10sをなすインナーライナーゴム11eとを含んでいる。トレッドゴム11aには、トレッド接地端2t、2t間のトレッド接地面12が設けられている。
ゴム部分11には、その外面から凹む凹部18が設けられている。本実施形態の凹部18は、トレッドゴム11aのトレッド接地面12から凹む溝13として構成されている。溝13は、タイヤ周方向に連続してのびる主溝13Aと、主溝13Aと交差する向きにのびる複数本の横溝13Bとを含んでいる。
トレッド接地端2tは、正規リムRにリム組みしかつ正規内圧を充填し、正規荷重を負荷してキャンバー角0度で平面に接地させた正規荷重負荷状態において、トレッド接地面12のタイヤ軸方向最外端の位置を意味している。また、後述するリム接触面16も、正規荷重負荷状態において特定されるものとする。
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" とする。
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とする。
「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
本実施形態の主溝13Aは、タイヤ周方向に連続する一対のセンター主溝13Aa、13Aa、及び、各センター主溝13Aa、13Aaとトレッド接地端2tとの間をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝13Ab、13Abが設けられている。これにより、トレッドゴム11aには、一対のセンター主溝13Aa、13Aaで区分されたセンター陸部14a、センター主溝13Aaとショルダー主溝13Abとで区分されたミドル陸部14b、及び、ショルダー主溝13Abとトレッド接地端2tとで区分されたショルダー陸部14cが設けられる。
本実施形態の横溝13Bは、一対のセンター主溝13Aa、13Aa間にのびるセンター横溝13Ba、センター主溝13Aaとショルダー主溝13Abとの間をのびるミドル横溝13Bb、及び、ショルダー主溝13Abとトレッド接地端2tとの間をのびるショルダー横溝13Bcを含んでいる。これにより、トレッドゴム11aには、センター陸部14aがセンター横溝13Baで区分されたセンターブロック15a、ミドル陸部14bがミドル横溝13Bbで区分されたミドルブロック15b、及び、ショルダー陸部14cがショルダー横溝13Bcで区分されたショルダーブロック15cが設けられる。なお、各横溝13Ba、13Bb及び13Bcは、タイヤ軸方向の両端のうち、少なくとも一方を、各陸部14a、14b、14c内で終端させてもよい。これにより、各陸部14a、14b、14cは、タイヤ周方向に連続するリブとして形成される。
クリンチゴム11cは、リムRに接触するリム接触面16を有している。サイドウォールゴム11b及びトレッドゴム11aには、トレッド接地端2tとリム接触面16との間のサイド面17を有している。これらのトレッド接地面12、主溝13A、横溝13B、リム接触面16及びサイド面17により、タイヤ2の外面が形成されている。
カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成されている。カーカスプライ6Aは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aからのびてビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを有している。また、カーカスプライ6Aは、例えば、タイヤ赤道Cに対して80度〜90度の角度で配列されたカーカスコードが、互いに交差する向きに重ねられている。
ベルト層7は、例えば、スチール製のベルトコードをタイヤ周方向に対して、例えば10°〜70゜の角度で配列した4枚のベルトプライ7A〜7Dから構成される。これらのベルトプライ7A〜7Dは、ベルトコードがプライ間で互いに交差する箇所を1箇所以上設けて重置されている。
次に、図2に示したタイヤ2に基づいて、タイヤモデルを作成する本実施形態の作成方法について説明する。
本実施形態のタイヤモデルは、後述するシミュレーションにおいて、タイヤ2の温度に関連する物理量の計算に用いられる。このため、タイヤモデルには、熱伝導率が定義される。なお、本実施形態において、熱伝導率が定義されるタイヤモデルは、2次元モデルである場合が例示される。図3は、本実施形態の作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。図4は、本実施形態のタイヤモデル及び路面モデルの斜視図である。図5は、タイヤモデルの断面図である。
本実施形態の作成方法では、先ず、コンピュータ1に、タイヤ2をモデル化したタイヤモデルが入力される(工程S1)。工程S1では、3次元のタイヤモデル20aが設定される。3次元のタイヤモデル20aは、図2に示したタイヤ2を、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)でモデル化(離散化)することによって設定される。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法を適宜採用することができる。本実施形態では、有限要素法が採用されている。
図5に示されるように、各要素F(i)には、複数個の節点35が設けられる。また、各要素F(i)には、要素番号、節点35の番号、節点35の座標値、及び、各部材の材料特性(例えば、密度、ヤング率、減衰係数、及び/又は、損失正接tanδ等)などの数値データが定義される。
図4に示されるように、本実施形態の3次元のタイヤモデル20aは、主溝13Aを除く凹部18(本実施形態では、横溝13B(図2に示す))が埋められた状態のタイヤ2の形状(例えば、加硫金型の設計データ(例えば、CADデータ)から取得されるタイヤ2の輪郭)に基づいて、要素F(i)でモデル化されている。
一般に、タイヤ2の横溝13Bの形状は、主溝13Aの形状に比べて複雑である。従って、横溝13Bの形状に合わせて細分化(離散化)する場合には、多くの時間を要する。本実施形態の工程S1では、横溝13Bを細分化する必要がないため、3次元のタイヤモデル20aの作成時間を短縮することができる。
図4及び図5に示されるように、工程S1では、図2に示したタイヤ2の構成部材(本実施形態では、ゴム部分11、ビードコア5、カーカスプライ6A、及び、ベルトプライ7A乃至7D)が、要素F(i)でモデル化される。これにより、3次元のタイヤモデル20aの構成部材(本実施形態では、ゴム部分21、ビードコアモデル22、カーカスプライモデル23A、及び、ベルトプライモデル24A乃至24D)が設定される。
ゴム部分21は、トレッドゴム11a(図2に示す)をモデル化したトレッドゴム21a、サイドウォールゴム11b(図2に示す)をモデル化したサイドウォールゴム21b、及び、クリンチゴム11c(図2に示す)をモデル化したクリンチゴム21cを含んでいる。さらに、ゴム部分21は、ビードエーペックスゴム11d(図2に示す)をモデル化したビードエーペックスゴム21d、及び、インナーライナーゴム11e(図2に示す)をモデル化したインナーライナーゴム21eを含んでいる。
このようなモデルの設定(モデリング)は、従来の方法と同様に、例えば、メッシュ化ソフトウェアとを用いることにより、容易に実施することができる。これらのゴム部分21、ビードコアモデル22、カーカスプライモデル23A、及び、ベルトプライモデル24A乃至24Dが順次設定されることにより、3次元のタイヤモデル20aが設定される。
3次元のタイヤモデル20aの外面には、図2に示したタイヤ2の外面が再現されている。即ち、3次元のタイヤモデル20aの外面には、トレッド接地面26、溝27、リム接触面28、及び、サイド面29が設定される。トレッド接地面26、溝27、リム接触面28、及び、サイド面29の各領域は、図2に示したタイヤ2の正規状態に基づいて区分される。また、3次元のタイヤモデル20aには、タイヤ2のタイヤ内腔面10s(図2に示す)が再現されたタイヤ内腔面30sが設定されている。
上述したように、本実施形態の3次元のタイヤモデル20aには、横溝(図示省略)が形成されていない。このため、3次元のタイヤモデル20aの溝27としては、図2に示したタイヤ2の主溝13Aをモデル化した主溝27Aのみが設定されている。主溝27Aは、センター主溝27Aaと、ショルダー主溝27Abとを含んでいる。また、トレッド接地面26には、センター陸部32a、ミドル陸部32b及びショルダー陸部32cが設定されている。
本実施形態の工程S1では、3次元のタイヤモデル20aに基づいて、タイヤ回転軸25(図3に示す)を含む子午線断面から形成される2次元のタイヤモデル20bが設定される。図5では、3次元のタイヤモデル20a及び2次元のタイヤモデル20bを共通して表示している。なお、本実施形態の2次元のタイヤモデル20bは、3次元のタイヤモデル20aに基づいて設定されているが、このような態様に限定されるわけではない。2次元のタイヤモデル20bは、例えば、タイヤ2の輪郭に基づいて、直接モデル化されてもよい。
図6は、図5に示したタイヤモデルのトレッドゴム21aの拡大図である。本実施形態の2次元のタイヤモデル(以下、単に、「タイヤモデル」ということがある。)20bには、ゴム部分21のうち、凹部18以外の部分であった非凹部領域36と、凹部18であった凹部領域37とがそれぞれ定義されている。本実施形態の凹部領域37が設定される凹部18として、トレッドゴム11aに設けられる横溝13Bである場合が例示される。凹部領域37は、例えば、加硫金型の設計データ(例えば、CADデータ)から取得されるタイヤ2の横溝13Bの形状に基づいて設定される。図6において、凹部領域37を着色して表示している。
凹部領域37は、タイヤ2のセンター横溝13Ba(図2に示す)の部分であるセンター横溝領域37a、タイヤ2のミドル横溝13Bb(図2に示す)の部分であるミドル横溝領域37b、及び、タイヤ2のショルダー横溝13Bc(図2に示す)の部分であるショルダー横溝領域37cを含んでいる。これらの凹部領域(横溝領域)37a、37b及び37cは、例えば、2次元のタイヤモデル20bの座標値で特定される。3次元のタイヤモデル20a及び2次元のタイヤモデル20bは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1に、タイヤモデル20bの外面及びタイヤ内腔面に、熱伝達率が定義される(熱伝達率定義工程S2)。本実施形態の熱伝達率定義工程S2では、2次元のタイヤモデル20bに熱伝達率が設定される。図7は、熱伝達率定義工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の熱伝達率定義工程S2は、先ず、タイヤモデル20bの外面と外気(図示省略)との間の熱伝達率が定義される(工程S21)。本実施形態では、図5に示されるように、トレッド接地面26と外気との間の熱伝達率、主溝27Aと外気との間の熱伝達率、及び、サイド面29と外気との間の熱伝達率が定義される。これらの熱伝達率は、図2に示したタイヤ2のトレッド接地面12、主溝13A及びサイド面17の外気への放熱を考慮して、例えば、実際のタイヤ2の走行試験の実測値や、タイヤモデルを用いて予め実施されたシミュレーションの計算結果に基づいて定義される。トレッド接地面26、主溝27A及びサイド面29に設定された熱伝達率は、コンピュータ1に記憶される。
次に、熱伝達率定義工程S2では、トレッド接地面26と路面(図示省略)との間の熱伝達率が定義される(工程S22)。また、タイヤ内腔面30sとタイヤ内腔30との間の熱伝達率が定義される(工程S23)。さらに、リム接触面28とリム(図示省略)との間の熱伝達率が定義される(工程S24)。これらの熱伝達率も、図2に示したトレッド接地面12の路面への放熱、タイヤ内腔面10sのタイヤ内腔10への放熱、及び、図2に示したリム接触面16のリムRへの放熱を考慮して、例えば、実際のタイヤ2の走行試験の実測値等に基づいて定義される。これらの熱伝達率も、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1に、タイヤモデル20の各要素F(i)に、熱伝導率がそれぞれ定義される(熱伝導率定義工程S3)。本実施形態の熱伝導率定義工程S3では、2次元のタイヤモデル20bに、熱伝導率が設定される。図8は、本実施形態の熱伝導率定義工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の熱伝導率定義工程S3は、先ず、図5に示されるように、凹部領域37が設定されるゴム部分21(本実施形態では、トレッドゴム21a)を除くタイヤモデル20bの構成部材に、熱伝導率がそれぞれ定義される(工程S31)。
工程S31では、図2に示したタイヤ2の各構成部材(本実施形態では、ゴム部分11、ビードコア5、カーカスプライ6A及びベルトプライ7A乃至7D)の熱伝導率に基づいて、タイヤモデル20bの各構成部材(本実施形態では、ゴム部分21、ビードコアモデル22、カーカスプライモデル23A、及び、ベルトプライモデル24A乃至24D)の熱伝導率がそれぞれ定義される。同様に、タイヤモデル20bのサイドウォールゴム21b、クリンチゴム21c、ビードエーペックスゴム21d、及び、インナーライナーゴム21eにも、それぞれ熱伝導率が定義される。これらの熱伝導率は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の熱伝導率定義工程S3は、図6に示されるように、凹部領域37が設定されるゴム部分21(本実施形態では、トレッドゴム21a)のうち、非凹部領域36の要素F(i)に、第1熱伝導率が定義される(工程S32)。第1熱伝導率は、図2に示したタイヤ2のトレッドゴム21aの熱伝導率に基づいて定義される。第1熱伝導率は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の熱伝導率定義工程S3は、凹部領域37が設定されるゴム部分21(本実施形態では、トレッドゴム21a)のうち、凹部領域37(図6において、着色して表示している)の要素F(i)の少なくとも一部に、第1熱伝導率よりも大きい第2熱伝導率が定義される(第2熱伝導率定義工程S33)。
図2に示したタイヤ2において、ゴム部分11(本実施形態では、トレッドゴム11a)は、凹部18(本実施形態では、横溝13B)が形成される部分で、ゴム部分11と空気との接触面積が大きくなり、ゴム部分11の放熱量が部分的に大きくなる。このため、ゴム部分11のうち、凹部18が形成される部分の温度は、凹部18が形成されない部分の温度に比べて小さくなる。
このような観点に基づいて、図6に示されるように、凹部18(本実施形態では、横溝13B)であった凹部領域37の要素F(i)の少なくとも一部に、第1熱伝導率よりも大きい第2熱伝導率が定義される。これにより、タイヤモデル20bに横溝を有していなくても、後述するシミュレーションにおいて、タイヤ2の横溝13Bの放熱性を考慮した温度計算が可能となる。本実施形態では、センター横溝領域37a、ミドル横溝領域37b及びショルダー横溝領域37cの全てに、第2熱伝導率が設定されている。
第2熱伝導率としては、第1熱伝導率よりも大であれば、適宜設定されうる。第2熱伝導率は、例えば、図2に示したタイヤ2の構造等に基づいて設定されるのが望ましい。第2熱伝導率は、コンピュータ1に記憶される。
上記工程S1〜工程S3を経て作成されたタイヤモデル20bは、コンピュータ1を用いたシミュレーションにおいて、タイヤ2(図2に示す)の温度に関連する物理量の計算に用いることができる。しかも、タイヤモデル20bには、図2に示したタイヤ2の凹部18(本実施形態では、横溝13B)であった凹部領域37の要素F(i)に、第1熱伝導率よりも大きい第2熱伝導率が定義されている。このため、タイヤモデル20bは、凹部(本実施形態では、横溝)を有していなくても、タイヤ2の凹部18(本実施形態では、横溝13B)の放熱性を考慮した温度計算が可能となる。
次に、本実施形態の作成方法によって作成されたタイヤモデルを用いたタイヤ温度のシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)について説明する。本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1を用いて、タイヤモデルの温度に関連する物理量が計算される。図9は、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、タイヤ2(図2に示す)が転動する路面(図示省略)を、有限個の要素でモデル化した路面モデルが入力される(工程S4)。
図4に示されるように、路面モデル38は、例えば、単一の平面を構成する剛表面の要素Hでモデル化される。これにより、路面モデル38は、外力が作用しても変形不能に定義される。そして、路面モデル38を構成する要素Hの数値データが、コンピュータ1に記憶される。
なお、路面モデル38は、例えば、ドラム試験機のように円筒状表面に形成されても良い。また、路面モデル38には、必要に応じて、段差、窪み、うねり又は轍などが設けられても良い。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1に、タイヤモデルに境界条件が定義される(境界条件設定工程S5)。境界条件設定工程S5では、3次元のタイヤモデル20aを路面モデル38に転動させるための境界条件、及び、2次元のタイヤモデル20bの伝熱計算に使用するための境界条件が定義される。図10は、境界条件設定工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。
境界条件設定工程S5では、先ず、図4に示した3次元のタイヤモデル20aを路面モデル38に接触させるための条件が設定される(工程S51)。工程S51では、従来のシミュレーション方法と同様に、例えば、3次元のタイヤモデル20aの内圧条件、リム条件、負荷荷重条件、キャンバー角、又は、静摩擦係数等が適宜設定される。このような条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、境界条件設定工程S5では、3次元のタイヤモデル20aの転動計算を実施するための条件が設定される(工程S52)。この工程S52も、従来のシミュレーション方法と同様に、例えば、図4に示した3次元のタイヤモデル20aのスリップ角、走行速度Vs、又は、3次元のタイヤモデル20aと路面モデル38との間の動摩擦係数等が適宜設定される。このような条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、境界条件設定工程S5では、2次元のタイヤモデル20bに、予め定められた外気の温度、及び、タイヤ内腔30(図5に示す)の温度が設定される(工程S53)。外気の温度、及び、タイヤ内腔30の温度については、タイヤ2の走行条件等に基づいて、適宜設定することができる。これらの条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、予め定められた条件及び熱伝導率に基づいて、タイヤモデルの温度に関連する物理量を計算する(計算工程S6)。本実施形態の計算工程S6では、タイヤモデルの温度に関連する物理量として、走行時のタイヤモデルの温度が計算される。図11は、本実施形態の計算工程S6の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の計算工程S6では、先ず、3次元のタイヤモデル20aの内圧充填後の形状が計算される(工程S61)。工程S61では、先ず、図5に示されるように、3次元のタイヤモデル20aのリム接触面28、28が変形不能に拘束される。次に、3次元のタイヤモデル20aのビード部31の幅W1と、リムR(図2に示す)のリム幅とが等しくなるように、ビード部31が強制変位される。次に、3次元のタイヤモデル20aのタイヤ回転軸25(図4に示す)とビード部31の底面とのタイヤ半径方向の距離Rs及びリム径が等しくなるように、ビード部31が強制変位される。さらに、3次元のタイヤモデル20aには、内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて変形計算される。これにより、工程S61では、内圧充填後の3次元のタイヤモデル20aが計算される。このような内圧充填後の3次元のタイヤモデル20aは、コンピュータ1に記憶される。
3次元のタイヤモデル20aの変形計算は、各要素の形状及び材料特性などに基づいて、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス及び減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1が、前記各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらを単位時間T(x)(x=0、1、…)ごと(例えば、1μ秒毎)に3次元のタイヤモデル20aの変形計算を行う。このような変形計算は、例えば、LSTC社製のLS-DYNAなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。
次に、本実施形態の計算工程S6では、内圧充填後の3次元のタイヤモデル20aに、荷重が定義される(工程S62)。この工程S62では、先ず、図4に示されるように、内圧充填後の3次元のタイヤモデル20aと、路面モデル38との接触が計算される。次に、工程S62では、予め定められた荷重T(境界条件として設定された荷重条件)に基づいて、3次元のタイヤモデル20aの変形が計算される。これにより、工程S62では、路面モデル38に接地した3次元のタイヤモデル20aが計算される。このような路面モデル38に接地した3次元のタイヤモデル20aは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の計算工程S6では、予め定められた走行速度Vsに基づいて、3次元のタイヤモデル20aが路面モデル38上を転動する状態が計算される(工程S63)。この工程S63では、先ず、図4に示されるように、3次元のタイヤモデル20aに、走行速度Vsに対応する角速度Vaが定義される。次に、路面モデル38に、走行速度Vsに対応する並進速度Vtが定義される。並進速度Vtは、3次元のタイヤモデル20aと路面モデル38とのトレッド接地面26での速度である。これらの条件に基づいて、路面モデル38上を転動する3次元のタイヤモデル20aが計算される。
次に、本実施形態の計算工程S6では、3次元のタイヤモデル20aの走行時の発熱量が計算される(工程S64)。本実施形態の工程S64では、路面モデル38を転動する3次元のタイヤモデル20aに基づいて、走行時の発熱量が計算される。工程S64では、従来の方法と同様に、図5に示した各ゴム部分21において、工程S63で計算された各要素F(i)の歪と、各要素F(i)の損失正接tanδとを用いて、単位時間T(x)毎に、各要素F(i)の発熱量が計算される。tanδの初期値には、走行速度Vsに基づいて適宜設定することができる。このような発熱量の計算は、上記アプリケーションを用いることにより、容易に計算することができる。各要素F(i)の発熱量は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の計算工程S6では、タイヤモデルの走行時の放熱量が計算される(工程S65)。この工程S65では、2次元のタイヤモデル20bが用いられる。
工程S65では、先ず、従来の方法と同様に、2次元のタイヤモデル20bの外面及びタイヤ内腔面30sにそれぞれ設定された熱伝達率、外気の温度、及び、各要素F(i)の熱伝導率に基づいて、単位時間T(x)毎に、各要素F(i)の放熱量が計算される。本実施形態の放熱量の計算は、空気(流体)をモデル化した流体シミュレーションを実施することなく、上記アプリケーションを用いて容易に計算することができる。各要素F(i)の放熱量は、コンピュータ1に記憶される。
上述したように、本実施形態の2次元のタイヤモデル20bには、図6に示されるように、非凹部領域36の要素F(i)に第1熱伝導率が定義されており、かつ、凹部領域37の要素F(i)に第1熱伝導率よりも大きい第2熱伝導率を定義されている。これにより、工程S65では、タイヤモデル20bのトレッドゴム21aに凹部(本実施形態では、横溝)が設定されなくても、タイヤ2の凹部18(本実施形態では、横溝13B)の放熱性を考慮して、タイヤモデル20bの放熱量を計算することができる。
次に、本実施形態の計算工程S6では、発熱量、及び、放熱量に基づいて、タイヤモデル20bの走行時の温度が計算される(工程S66)。この工程S66では、先ず、単位時間T(x)毎に計算された3次元のタイヤモデル20aの各要素F(i)の発熱量のうち、2次元のタイヤモデル20bに対応する断面に配置された各要素F(i)の発熱量が特定される。そして、特定された発熱量と、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の放熱量との熱収支が計算されることにより、タイヤモデル20bの走行時での各要素F(i)の温度が、単位時間毎に計算される。タイヤモデル20bの走行時の温度は、コンピュータ1に記憶される。
本実施形態の計算工程S6では、工程S65において、横溝13B(図2に示す)の放熱性を考慮したタイヤモデル20bの放熱量が計算されるため、タイヤモデル20bの走行時の温度を精度良く求めることができる。また、計算工程S6では、トレッドゴム21aに横溝(図示省略)が設けられてない3次元のタイヤモデル20aの発熱量が計算されるため、例えば、トレッドゴム21aに横溝(図示省略)が設けられているタイヤモデル(図示省略)が用いられる場合に比べて、計算を簡素化することができる。従って、本実施形態のシミュレーション方法は、計算時間を短縮することができる。
次に、本実施形態の計算工程S6では、予め定められた転動終了時間が経過したか否かが判断される(工程S67)。この工程S67では、転動終了時間が経過したと判断された場合(工程S67で、「Y」)、計算工程S6の一連の処理が終了し、次の工程S7が実施される。他方、転動終了時間が経過していないと判断された場合(工程S67で、「N」)は、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度が更新される(工程S68)。さらに、単位時間T(x)を一つ進められ(工程S69)、工程S63〜工程S67が再度実施される。
このように、計算工程S6では、転動開始から転動終了までのタイヤモデル20bの走行時の温度を、単位時間T(x)毎に記憶することができる。なお、転動終了時間は、実行するシミュレーションに応じて、適宜設定することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデルの温度に関連する物理量が、許容範囲内であるか否かが判断される(工程S7)。本実施形態では、タイヤモデルの走行時の温度が、許容範囲内であるか否かが判断される。なお、許容範囲については、タイヤ2に求められる性能に応じて、適宜設定されうる。
工程S7において、タイヤモデル20bの走行時の温度が許容範囲内である場合(工程S7で、「Y」)、3次元のタイヤモデル20a又は2次元のタイヤモデル20bに基づいて、タイヤ2が製造される(工程S8)。他方、タイヤモデル20bの走行時の温度が許容範囲内でない場合は(工程S7において、「N」)、タイヤ2が再設計された後に(工程S9)、図3に示した作成方法(工程S1〜工程S3)が実施され、シミュレーション方法(工程S4〜工程S8)が再度行われる。このように、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル20bの走行時の温度が許容範囲内になるまで、タイヤ2が設計変更されるため、耐久性能の優れたタイヤ2を、効率良く設計することができる。
図6に示されるように、本実施形態では、センター横溝領域37a、ミドル横溝領域37b及びショルダー横溝領域37cの全てに、第2熱伝導率が設定される態様が例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、センター横溝領域37a、ミドル横溝領域37b及びショルダー横溝領域37cのうち、いずれかの凹部領域37に限定して、第2熱伝導率が設定されてもよい。
図2に示されるように、タイヤ2のセンター横溝13Ba及びミドル横溝13Bbは、主として、トレッド接地面12側の外気と熱交換する。他方、ショルダー横溝13Bcは、トレッド接地面12側の外気、及び、サイド面17側の外気の双方で熱交換する。このため、ショルダー横溝13Bcでの放熱量は、センター横溝13Ba及びミドル横溝13Bbでの放熱量に比べて大きくなる。また、ショルダー横溝13Bcのタイヤ半径方向の内方には、ベルトプライ7A〜7Cのタイヤ軸方向の外端が配置されている。このようなベルトプライ7A〜7Cの外端では、タイヤ走行時に大きな歪みが生じやすいため、ショルダー陸部14cの温度が、センター陸部14aの温度、及び、ミドル陸部14bの温度に比べて大きくなりやすい。このようなショルダー陸部14cの温度は、タイヤ2の耐久性を評価するのに重要であるため、センター陸部14aの温度、及び、ミドル陸部14bの温度よりも正確に求める必要がある。
このような観点に基づいて、第2熱伝導率は、ショルダー横溝領域37cのみに設定されてもよい。この場合、センター横溝領域37a及びミドル横溝領域37bには、他のトレッドゴム21aと同一の第1熱伝導率が定義される。これにより、タイヤモデル20bの放熱量を計算する工程S65において、第2熱伝導率に基づいて計算される領域が、ショルダー横溝領域37cに限定されるため、計算時間を短縮することができる。しかも、タイヤ2の耐久性を評価するのに重要なショルダー陸部14cの温度を正確に計算することができるため、タイヤ温度の計算精度を維持することができる。
ところで、図8に示した第2熱伝導率定義工程S33において、凹部領域37に設定される第2熱伝導率が、例えば、オペレータの経験則に従って定義されると、計算工程S6で計算されたタイヤモデル20b(図5に示す)の走行時の温度と、実際のタイヤ2(図2に示す)の温度とを十分近似できないおそれがある。さらに、実際のタイヤ2の温度に十分に近似できていないタイヤモデル20b(又は、タイヤモデル20a)を使用して、複数の条件下(例えば、走行速度Vs、又は、凹部領域37の深さ等)で計算されたタイヤモデル20bの温度と、それらの条件下で測定された実際のタイヤ2(図2に示す)の温度との誤差が、バラツキやすくなる。このため、実際に走行したタイヤ2の構成部材のうち、最も評価したい部分(例えば、損傷発生起点となりうる部分)の温度に、タイヤモデルの温度を近似させることが難しい。
このため、第2熱伝導率定義工程S33では、実際に走行したタイヤ2の構成部材のうち、最も評価したい部分(以下、「評価対象部分」ということがある。)の温度に基づいて、第2熱伝導率が定義されるのが望ましい。図12は、本発明の他の実施形態の第2熱伝導率定義工程S33の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、前実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。なお、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33で用いられる3次元のタイヤモデル20a及び2次元のタイヤモデル20bは、前実施形態のシミュレーション方法で用いられるタイヤモデル20a、20bとは独立して用意される。
この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33では、センター横溝領域37a、ミドル横溝領域37b及びショルダー横溝領域37cのうち、ショルダー横溝領域37cに設定される第2熱伝導率を定義する態様を例示して説明する。なお、センター横溝領域37a、ミドル横溝領域37b及びショルダー横溝領域37cの第2熱伝導率がそれぞれ定義されてもよい。
この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33では、先ず、予め定められた走行条件でタイヤ2を走行させて、評価対象部分の温度が測定される(工程S331)。この実施形態の工程S331では、先ず、図2に示したタイヤ2を正規リムRにリム組みし、正規内圧を充填する。次に、予め定められた速度(例えば、80km/h)に基づいて、内圧が充填されたタイヤ2をドラム試験機(例えば、直径1.7m)で走行させる。次に、評価対象部分の温度が変化しなくなるまで測定される。そして、一定となった評価対象部分の温度が、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33では、図5及び図6に示したタイヤモデル20bの凹部領域37の要素F(i)の少なくとも一部に、第2熱伝導率の初期値(以下、単に「初期値」ということがある。)が定義される(工程S332)。この工程S332では、図5に示されるように、熱伝達率定義工程S2(図3に示す)、熱伝導率定義工程S3の工程S31及び工程S32(図7に示す)において、熱伝達率、トレッドゴム21aを除くタイヤモデル20bの構成部材の熱伝導率、及び、第1熱伝導率が定義された2次元のタイヤモデル20bが用いられる。そして、図6に示されるように、第2熱伝導率の設定が予定されている凹部領域37(本実施形態では、ショルダー横溝領域37c)のみに、初期値が設定される。
初期値は、第1熱伝導率よりも大であれば、適宜設定されうる。この実施形態の初期値は、例えば、第1熱伝導率の1.1倍〜2.0倍程度が望ましい。このような初期値は、コンピュータ1に記憶される。なお、この実施形態において、初期値が設定されないセンター横溝領域37a及びミドル横溝領域37bには、非凹部領域36と同一の第1熱伝導率が定義されている。
次に、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33では、コンピュータ1に、タイヤモデルに境界条件が定義される(工程S333)。工程S333では、図10に示した境界条件設定工程S5と同様の処理手順が実施される。従って、図4に示した3次元のタイヤモデル20aには、内圧条件、リム条件、負荷荷重条件、キャンバー角、静摩擦係数、スリップ角、走行速度Vs、外気の温度、又は、タイヤ内腔30の温度等を含む境界条件がそれぞれ設定される。なお、走行速度Vsは、タイヤ2の走行時の走行速度(例えば、80km/h)が設定される。また、工程S333では、タイヤモデル20bの要素F(i)の温度の初期値が設定されている。
次に、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33は、予め定められた走行速度Vsに基づいて、3次元のタイヤモデル20aが路面モデル38上を転動する状態が計算される(工程S334)。工程S334では、先ず、図11に示した計算工程S6の工程S61、S62と同様の処理手順に従って、図4に示されるように、3次元のタイヤモデル20aの内圧充填後の形状、及び、路面モデル38に接地した後の形状が計算される。そして、計算工程S6の工程S63と同様の処理手順に従って、路面モデル38上を転動する3次元のタイヤモデル20aが計算される。
次に、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33は、3次元のタイヤモデル20aの走行時の発熱量が計算される(工程S335)。工程S335は、図11に示した計算工程S6の工程S64と同様の処理手順で実施される。これにより、工程S335は、図4に示されるように、タイヤ2の走行時の走行速度(例えば、80km/h)で転動する3次元のタイヤモデル20aの各要素F(i)の発熱量が、単位時間T(x)毎に計算される。各要素F(i)の発熱量は、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33は、タイヤモデル20bの走行時の放熱量が計算される(工程S336)。工程S336では、第2熱伝導率の初期値が設定された2次元のタイヤモデル20b(図5に示す)が用いられる。工程S336は、図11に示した計算工程S6の工程S65と同様の処理手順で実施される。これにより、工程S336は、初期値によって考慮される横溝13Bの放熱性に基づいて、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の放熱量が、単位時間T(x)毎に計算される。各要素F(i)の発熱量は、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33は、発熱量、及び、放熱量に基づいて、タイヤモデル20bの走行時の温度が計算される(工程S337)。この工程S337では、図11に示した計算工程S6の工程S66と同様の処理手順に基づいて、2次元のタイヤモデル20bの走行時での各要素F(i)の温度が、単位時間毎に計算される。2次元のタイヤモデル20bの走行時での各要素F(i)の温度は、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33では、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度が収束したか否かが判断される(工程S338)。工程S338では、全ての要素F(i)について、工程S337で計算された2次元のタイヤモデル20bの要素F(i)の温度と、計算前の2次元のタイヤモデル20bの要素F(i)の温度(即ち、工程S333で設定された要素F(i)の温度)とが、予め定められた温度差以下に収束したか否かが判断される。
工程S338において、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度が収束したと判断された場合(工程S338で、「Y」)、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度を、タイヤ走行時(即ち、予め設定された走行速度Vsで走行したとき)の温度として扱うことができる。この場合、次の工程S339が実施される。
他方、工程S338において、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度が収束していないと判断された場合(工程S338で、「N」)、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度を、タイヤ走行時(即ち、予め設定された走行速度Vsで走行したとき)の温度として扱うことができない。この場合、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度(即ち、工程S333で設定された要素F(i)の温度)を、工程S337で計算された2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度に更新される(工程S340)。さらに、単位時間T(x)が一つ進められ(工程S341)、更新された2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度に基づいて、工程S334〜工程S338が再度実施される。
このように、この実施形態のシミュレーション方法では、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度を収束させることができるため、走行速度(例えば、80km/h)で転動するタイヤ2の温度を、精度良く計算することができる。なお、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度が収束したか否かの判断は、前記温度差が、例えば、1.0℃未満である否かで判断されるのが望ましい。
次に、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33は、タイヤ2の走行時の評価対象部分の温度と、2次元のタイヤモデル20bの評価対象部分に対応する部分(以下、単に「評価対象部分」ということがある。)の温度との差が許容範囲内あるか否かが判断される(工程S339)。許容範囲については、求められる計算精度に応じて、適宜設定される。
工程S339において、タイヤ2の評価対象部分の温度と、2次元のタイヤモデル20bの評価対象部分の温度との差が許容範囲内であると判断された場合(工程S339で、「Y」)、第2熱伝導率の初期値に基づいて計算されたタイヤモデル20bの評価対象部分が、実際のタイヤ2(図2に示す)の評価対象部分の温度に近似している。この場合、第2熱伝導率の初期値(後述する工程S343で更新された値を含む)を、2次元のタイヤモデル20bに設定される第2熱伝導率として決定される(工程S342)。
このような第2熱伝導率は、実際に走行したタイヤ2の評価対象部分の温度に基づいて定義されるため、計算工程S6で計算されたタイヤモデル20b(図5に示す)の評価対象部分の温度と、実際のタイヤ2(図2に示す)の評価対象部分の温度とを確実に近似させることができる。従って、このような第2熱伝達率が設定されたタイヤモデル20bを用いて、複数の条件下(例えば、走行速度Vs、又は、凹部領域37の深さ等)で計算された場合でも、タイヤモデル20bの評価対象部分の温度と、それらの条件下で測定された実際のタイヤ2の評価対象部分の温度との誤差のバラツキを小さくすることができる。従って、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33は、シミュレーション精度を向上させるのに役立つ。
他方、2次元のタイヤモデル20bの評価対象部分の温度と、タイヤ2の評価対象部分の温度との差が許容範囲内でないと判断された場合(工程S339で、「N」)、第2熱伝導率の初期値に基づいて計算されたタイヤモデル20bの評価対象部分の温度と、実際のタイヤ2(図2に示す)の評価対象部分の温度とが十分に近似していない。従って、第2熱伝導率の初期値を更新して(工程S343)、工程S333〜工程S339が再度実施される。
工程S343での第2熱伝導率の初期値の更新は、2次元のタイヤモデル20bの評価対象部分の温度が、タイヤ2の評価対象部分の温度よりも大である場合、第2熱伝導率の初期値を小さくする。逆に、2次元のタイヤモデル20bの評価対象部分の温度が、タイヤ2の評価対象部分の温度よりも小である場合、第2熱伝導率の初期値を大きくする。これにより、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33では、タイヤモデル20bの評価対象部分の温度を、タイヤ2の評価対象部分の温度に近似させうる第2熱伝導率を確実に定義することができる。
前実施形態では、実際に走行したタイヤ2の評価対象部分の温度に基づいて、第2熱伝導率が決定されたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、第2熱伝導率と、凹部18の放熱に関する因子(以下、単に「放熱因子」ということがある。)との関係式を予め求めておき、この関係式と、凹部18(本実施形態では、横溝13B)の放熱因子とに基づいて、第2熱伝導率が決定されてもよい。凹部18の放熱因子としては、凹部18の放熱性能に影響するものであれば、適宜設定されうる。本実施形態の凹部18の放熱因子としては、横溝13Bのタイヤ周方向の溝幅(mm)、及び、横溝13Bのタイヤ周方向のピッチ数(個)である場合が例示される。
図13は、本発明のさらに他の実施形態の第2熱伝導率定義工程S33の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、前実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。なお、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33で用いられる3次元のタイヤモデル20a及び2次元のタイヤモデル20bは、前実施形態のシミュレーション方法で用いられるタイヤモデル20a、20bとは独立して用意される。
また、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33では、センター横溝領域37a、ミドル横溝領域37b及びショルダー横溝領域37cのうち、ショルダー横溝領域37cに設定される第2熱伝導率を定義する態様を例示して説明する。なお、センター横溝領域37a、ミドル横溝領域37b及びショルダー横溝領域37cの第2熱伝導率がそれぞれ定義されてもよい。
この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33では、先ず、凹部18(本実施形態では、横溝13B)の体積率及び表面積比、並びに、タイヤ2の評価対象部分の温度の関係を示す第1関係式が定義される(第1関係式定義工程S36)。横溝13Bの体積率及び表面積比は、横溝13Bの放熱因子(本実施形態では、横溝13Bの溝幅、及び、ピッチ数)から決定される。図14は、第1関係式定義工程S36の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この実施形態の第1関係式定義工程S36では、先ず、凹部18の放熱因子(本実施形態では、横溝13Bの溝幅、及び、ピッチ数)が異なる複数のタイヤ2を準備する(工程S361)。横溝13Bの溝幅、及び、ピッチ数を異ならせる範囲については、タイヤのカテゴリーに応じて、適宜設定されうる。横溝13Bの溝幅は、製品として設定可能な横溝13Bの範囲内で異ならせることが望ましい。同様に、横溝13Bのピッチ数は、製品として設定可能な横溝13Bのピッチ数の範囲内で異ならせるのが望ましい。また、精度の高い第1関係式を求めるために、タイヤ2のサンプル数については、多いほど好ましい。
次に、この実施形態の第1関係式定義工程S36では、凹部18の放熱因子(本実施形態では、横溝13Bの溝幅、及び、ピッチ数)が異なる複数のタイヤ2について、予め定められた走行条件で走行させたときの評価対象部分(即ち、実際に走行したタイヤ2の構成部材のうち、最も評価したい部分)の温度が測定される(工程S362)。この実施形態の工程S362では、先ず、図2に示した各タイヤ2を正規リムRにリム組みし、正規内圧を充填する。次に、工程S362では、走行速度(この実施形態では、70km/h、80km/h、90km/h)から選択された一つの走行速度に基づいて、内圧が充填されたタイヤ2をドラム試験機(例えば、直径1.7m)で走行させる。次に、工程S362では、評価対象部分の温度が変化しなくなるまで測定され、一定となった評価対象部分の温度が記憶される。
さらに、本実施形態の工程S362では、横溝13Bの放熱因子が異なる各タイヤ2について、他の走行速度(この実施形態では、70km/h、80km/h、90km/h)での評価対象部分の温度が、同様に測定される。これにより、横溝13Bの放熱因子(この実施形態では、横溝13Bの溝幅、及び、ピッチ数)、及び、走行速度が異なる各タイヤ2の評価対象部分の温度が測定され、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第1関係式定義工程S36では、凹部18(本実施形態では、横溝13B)の体積率及び表面積比、並びに、タイヤ2の評価対象部分の温度の関係を示す第1関係式が求められる(工程S363)。上述したように、横溝13Bの体積率及び表面積比は、横溝13Bの放熱因子(本実施形態では、横溝13Bの溝幅、及び、ピッチ数)から決定される。工程S363では、横溝13Bの体積率及び表面積と、タイヤ2の評価対象部分の温度とが重回帰分析されることにより、凹部18(本実施形態では、横溝13B)の体積率x1及び表面積比x2、並びに、タイヤ2の評価対象部分の温度の関係を示す第1関係式(本実施形態では、回帰式)が求められる。第1関係式を、下記式(1)に示す。このような第1関係式は、凹部18(本実施形態では、横溝13B)の体積率及び表面積比が代入されることにより、タイヤ2の評価対象部分の温度を一意に計算することができる。第1関係式は、コンピュータ1に記憶される。
Ta=f(x1、x2) …(1)
ここで、
Ta:タイヤの評価対象部分の温度
x1:凹部の体積率
x2:凹部の表面積比
次に、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33では、タイヤモデル20bの凹部領域37に設定される第2熱伝導率と、2次元のタイヤモデル20bの走行時の評価対象部分の温度との第2関係式が定義される(第2関係式定義工程S37)。第2関係式は、タイヤモデル20bの凹部領域37に異なる第2熱伝導率が設定されたときの、タイヤモデル20bの走行時の評価対象部分の温度を求めるためのものである。図15は、第2関係式定義工程S37の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この実施形態の第2関係式定義工程S37では、先ず、図5及び図6に示した2次元のタイヤモデル20bの凹部領域37の要素F(i)の少なくとも一部に設定するための複数の異なる第2熱伝導率が決定される(工程S371)。第2熱伝導率としては、第1熱伝導率よりも大であれば、適宜設定されうる。また、第2熱伝導率は、上記範囲の中から複数個決定される。第2熱伝導率の個数については、適宜設定することができるが、例えば、3〜10個程度の第2熱伝導率が設定されるのが望ましい。これらの第2熱伝導率は、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第2関係式定義工程S37では、複数の第2熱伝導率の中から選択された一つの第2熱伝導率が、図5及び図6に示した2次元のタイヤモデル20bの凹部領域37の要素F(i)の少なくとも一部に定義される(工程S372)。工程S372では、図5に示されるように、熱伝達率定義工程S2(図3に示す)、並びに、熱伝導率定義工程S3の工程S31及び工程S32(図7に示す)において、熱伝達率、トレッドゴム21aを除くタイヤモデル20bの構成部材の熱伝導率、及び、第1熱伝導率が定義された2次元のタイヤモデル20bが用いられる。そして、図6に示されるように、第2熱伝導率の設定が予定されている凹部領域37(本実施形態では、ショルダー横溝領域37c)のみに、第2熱伝導率が設定される。なお、この実施形態において、第2熱伝導率が設定されないセンター横溝領域37a及びミドル横溝領域37bには、非凹部領域36と同一の第1熱伝導率が定義されている。
次に、この実施形態の第2関係式定義工程S37では、コンピュータ1に、タイヤモデルに境界条件が定義される(工程S373)。予め定められた走行速度Vsに基づいて、3次元のタイヤモデル20aが路面モデル38上を転動する状態が計算される(工程S374)。これらの工程S373及び工程S374は、図12に示した第2熱伝導率定義工程S33の工程S333及び工程S334と同様の処理手順に基づいて実施される。なお、走行速度Vsは、タイヤ2の走行時の走行速度(例えば、80km/h)が設定される。
次に、この実施形態の第2関係式定義工程S37は、3次元のタイヤモデル20aの走行時の発熱量、2次元のタイヤモデル20bの走行時の放熱量、及び、2次元のタイヤモデル20bの走行時の温度が計算される(工程S375)。工程S375は、図12に示した第2熱伝導率定義工程S33の工程S335、工程S336及び工程S337と同様の処理手順に基づいて実施される。
次に、この実施形態の第2関係式定義工程S37は、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度が収束したか否かが判断される(工程S376)。この工程S376は、図12に示した第2熱伝導率定義工程S33の工程S338と同様の処理手順に基づいて実施される。
工程S376において、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度が収束したと判断された場合(工程S376で、「Y」)、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度を、タイヤ走行時(即ち、予め設定された走行速度Vsで走行したとき)の温度として扱うことができる。これにより、第2関係式定義工程S37は、タイヤモデル20bの凹部領域37に設定された第2熱伝導率に基づく2次元のタイヤモデル20bの温度を、計算することができる。そして、次の工程S377が実施される。
他方、工程S376において、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度が収束していないと判断された場合(工程S376で、「N」)、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度を、タイヤ走行時(即ち、予め設定された走行速度Vsで走行したとき)の温度として扱うことができない。この場合、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度(即ち、工程S373で設定された要素F(i)の温度)を、工程S375で計算された2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度に更新される(工程S378)。さらに、単位時間T(x)が一つ進められ(工程S379)、更新された2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度に基づいて、工程S374〜工程S376が再度実施される。
次に、この実施形態の第2関係式定義工程S37は、工程S371で設定された全ての第2熱伝導率が、2次元のタイヤモデル20bの凹部領域37の要素F(i)に定義されたか否かが判断される(工程S377)。工程S377において、工程S371で設定された全ての第2熱伝導率が定義されたと判断された場合(工程S377で、「Y」)、次の工程S380が実施される。他方、工程S371で設定された全ての第2熱伝導率が定義されていないと判断された場合(工程S377で、「N」)、他の第2熱伝導率が、2次元のタイヤモデル20bの凹部領域37に定義され(工程S381)、工程S373〜工程S377が再度実施される。これにより、第2関係式定義工程S37では、工程S371で設定された全ての第2熱伝導率において、2次元のタイヤモデル20bの走行時の温度が計算される。
次に、第2関係式定義工程S37は、2次元のタイヤモデル20bの凹部領域37に定義された第2熱伝導率と、2次元のタイヤモデル20bの走行時の評価対象部分の温度との関係を示す第2関係式が求められる(工程S380)。この実施形態の工程S380では、先ず、図6に示した2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)の温度のうち、評価対象部分の温度が取得される。
そして、工程S380では、複数の第2熱伝導率毎に計算された2次元のタイヤモデル20bの走行時の評価対象部分の温度に基づいて、最小二乗法によって近似曲線が求められる。この近似曲線が、2次元のタイヤモデル20bの凹部領域37に設定される第2熱伝導率と、2次元のタイヤモデル20bの走行時の評価対象部分の温度との第2関係式である。第2関係式を、下記式(2)に示す。このような第2関係式は、第2熱伝導率λが代入されることにより、2次元のタイヤモデル20bの走行時の評価対象部分の温度を一意に求めることができる。このような第2関係式は、コンピュータ1に入力される。
Tb=g(λ)…(2)
ここで、
Tb:タイヤモデルの走行時の評価対象部分の温度
λ:第2熱伝導率
次に、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33では、上記式(1)で示される第1関係式、及び、上記式(2)で示される第2関係式に基づいて、第2熱伝導率、並びに、凹部18(本実施形態では、横溝13B)の体積率及び表面積比の関係式(以下、単に「第3関係式」ということがある。)が定義される(第3関係式定義工程S38)。第3関係式定義工程S38では、第1関係式のタイヤの評価対象部分の温度Taと、第2関係式のタイヤモデルの走行時の評価対象部分の温度Tbとが同一となると仮定して(即ち、f(x1、x2、…)=g(λ))、第3関係式が求められる。第3関係式を、下記式(3)に示す。このような第3関係式は、凹部18(本実施形態では、横溝13B)の体積率x1及び表面積比x2が代入されることにより、第2熱伝導率λを一意に求めることができる。このような第3関係式は、コンピュータ1に入力される。
λ=h(x1、x2) …(3)
ここで、
λ:第2熱伝導率
x1:凹部の体積率
x2:凹部の表面積比
次に、この実施形態の第2熱伝導率定義工程S33では、上記式(3)で示される第3関係式に基づいて、第2熱伝導率が決定される(工程S39)。上述したように、第3関係式は、第2熱伝導率と、凹部18(本実施形態では、横溝13B)の体積率及び表面積比との関係を示すものである。この第3関係式に、横溝13Bの体積率及び表面積比が代入されることにより、第2熱伝導率が一意に求められる。これにより、凹部18の体積率及び表面積比(横溝13Bの放熱因子(本実施形態では、溝幅及びピッチ数))がタイヤモデルに具体的に定義(例えば、横溝をモデル化)されていなくても、第3関係式によって求められる第2熱伝導率に基づいて、様々な放熱因子を有するタイヤモデル20bの放熱量を容易に計算することができる。従って、このような第2熱伝導率が、凹部領域37に設定されることにより、様々な放熱因子を有するタイヤモデル20bの評価対象部分を精度よく予測することができる。
これまでの実施形態では、2次元のタイヤモデル20bの各要素F(i)に、熱伝導率が定義されたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、図4に示した3次元のタイヤモデル20aの各要素F(i)に、上述した熱伝導率が定義されてもよい。図16は、本発明の他の実施形態の3次元のタイヤモデル20aのトレッドゴム21aの部位分斜視図である。なお、図16では、図6に示した要素F(i)を省略して表示している。また、この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
第2熱伝導率定義工程S33では、タイヤモデル20aのゴム部分21(本実施形態では、トレッドゴム21a)のうち、凹部領域37のタイヤ軸方向の長さを含むタイヤ周方向に連続する領域41に、第2熱伝導率が定義されてもよい。この場合、非凹部領域36を含むタイヤ周方向に連続する領域42には、第1熱伝導率が定義される。このような3次元のタイヤモデル20aは、横溝を有しなくても、図2に示したタイヤ2の横溝13Bの放熱性を考慮した温度計算が可能となる。しかも、このようなタイヤモデル20aを用いたシミュレーション方法では、2次元のタイヤモデル20bを設定しなくても、タイヤモデル20aの温度に関連する物理量を計算することができるため、タイヤモデルの作成時間を短縮することができる。
この実施形態では、3次元のタイヤモデル20aの領域41に、第2熱伝導率が定義される場合が例示されたが、このような態様に限定されるわけではない。図17は、本発明のさらに他の実施形態の3次元のタイヤモデル20aのトレッドゴム21aの部分斜視図である。なお、図17では、図6に示した要素F(i)を省略して表示している。また、この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態では、3次元のタイヤモデル20aにおいて、タイヤ2の横溝13Bが形成される横溝形成領域45に、第2熱伝導率が定義されてもよい。横溝形成領域45は、3次元のタイヤモデル20aのトレッドゴム21aを構成する要素F(i)のうち、加硫金型の設計データ(例えば、CADデータ)から取得される横溝と重複する要素F(i)に定義される。このような3次元のタイヤモデル20aは、タイヤ2の横溝の形状に合わせて分割することなく、横溝13Bの形状に合わせて、横溝13Bの放熱性を考慮した温度計算が可能となる。従って、この実施形態の3次元のタイヤモデル20aは、タイヤ2の温度計算を、より精度よく実施することができる。
これまでの実施形態では、タイヤモデル20bのセンター陸部32a、ミドル陸部32b及びショルダー陸部32cに、第2熱伝導率が定義される凹部領域37(図16に示す)又は横溝形成領域45(図17に示す)を設定して、タイヤの温度に関する物理量が計算される態様が例示されたが、このような態様に限定されない。例えば、主溝13Aが設けられていないトレッドゴム11aに、横溝14(例えば、ラグ溝)のみが設けられたタイヤ(図示省略)をモデル化したタイヤモデル(図示省略)においても、凹部領域37(図6に示す)を設定して、タイヤの温度に関する物理量を計算することができる。この場合、タイヤモデルのトレッドゴムのうち、ラグ溝の部分であった領域を凹部領域37として設定することにより、ラグ溝の放熱を考慮した温度計算が可能となる。
これまでの実施形態のシミュレーション方法では、3次元のタイヤモデル20aを路面モデル38に転動させて、発熱量を計算する動的解析が例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、路面モデル38に3次元のタイヤモデル20aを転動させることなく、タイヤモデル20aの走行時の発熱量を計算する静的解析でもよい。この場合、タイヤモデル20aの走行時の発熱量は、タイヤモデル20aのタイヤ周方向の歪変動量に基づいて計算されるのが望ましい。このような静的解析では、動的解析に比べて、計算時間を短縮しうる。なお、このような発熱量の計算は、例えば、解析アプリケーションソフトウェア( Dassault Systems 社製の ABAQUS等)を用いることによって、容易に行うことができる。
これまでの実施形態のシミュレーション方法では、凹部領域37が設定される凹部18として、トレッドゴム11aに設けられた横溝14である場合が例示されたが、このような態様に限定されるわけではない。凹部18としては、例えば、トレッドゴム11aからサイドウォールゴム11bまでのびる横溝(図示省略)や、サイドウォールゴム11bから凹むディンプル(図示省略)でもよいし、また、主溝13Aでもよい。これにより、これらの凹部18がタイヤモデル20a、20bのゴム部分に設定されなくても、凹部18での放熱を考慮して、タイヤモデル20a、20bの温度に関連する物理量を計算することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
[実施例A]
図2に示すタイヤが製造され、下記の走行条件(走行速度、タイヤ内圧、荷重)において、評価対象部分(例えば、ショルダー陸部)の温度が実測された(実験例)。評価対象部分の温度の測定には、FLIR SYSTEMS社製の赤外線サーモグラフィが用いられた。測定の結果、評価対象部分の温度は、108℃であった。
図3及び図7に示した処理手順に従って、図2に示したタイヤをモデル化したタイヤモデルが、コンピュータに設定された(実施例1〜6及び比較例)。実施例1〜6及び比較例では、凹部(横溝)が埋められた状態のタイヤをモデル化したタイヤモデルが入力された。実施例1〜6では、図8に示した処理手順に従って、タイヤモデルのトレッドゴムのうち、非凹部領域の要素に、タイヤのトレッドゴムの熱伝導率に基づく第1熱伝導率が設定された。さらに、実施例1〜6では、凹部(横溝)であった凹部領域の要素に、表1に示す第2熱伝導率が設定された。他方、比較例では、非凹部領域及び凹部領域の要素に、第1熱伝導率が設定された。
実施例1〜6において、タイヤモデルが作成されるまでの時間が測定された。さらに、図9に示した処理手順に従って、実施例1〜6及び比較例のタイヤモデルの温度に関する物理量(評価対象部分の温度)が計算され、タイヤの評価対象部分の温度との差が計算された。温度差の絶対値が小さいほど、凹部(横溝)の放熱性を考慮して、タイヤモデルの温度に関する物理量を、精度よく計算することができることを示している。共通仕様は、次のとおりである。テスト結果を、表1に示す。
タイヤサイズ:11R22.5
リムサイズ:7.5×22.5
タイヤ内圧:700kPa
荷重:31.81kN
走行速度:80km/h
テストの結果、実施例1〜6のタイヤモデルの作成時間は、横溝を細分化する従来の作成時間の40%であった。従って、実施例1〜6の作成方法は、従来の作成方法に比べて、タイヤモデルの作成時間を短縮することができた。さらに、実施例1〜6で作成されたタイヤモデルは、比較例で作成されたタイヤモデルに比べて、実験例1のタイヤの評価対象部分の温度に近似させることができた。従って、実施例1〜6で作成されたタイヤモデルは、タイヤモデルに横溝を有していなくても、横溝の放熱性を考慮して、タイヤモデルの温度に関する物理量を、精度よく計算することができた。
[実施例B]
図2に示す基本構造を有し、横溝の基準深さ24mmに対する割合(50%、75%及び100%)の深さの横溝を有するタイヤが製造された(実験例2)。そして、上記走行条件(タイヤ内圧、荷重)において、評価対象部分の温度が、走行速度(70km/h、80km/h及び90km/h)毎に実測された。評価対象部分の温度の測定方法は、実施例Aと同一の方法が用いられる。
図3、図7及び図8に示した処理手順に従って、図2に示したタイヤをモデル化したタイヤモデルが、コンピュータに設定された(実施例7)。実施例7の第2熱伝導率定義工程では、図12に示した処理手順、及び、上記走行条件(走行速度、タイヤ内圧、荷重)に従い、実際に走行したタイヤの評価対象部分の温度に基づいて、第2熱伝導率が決定された。この処理で定義された第2熱伝導率の第1熱伝導率に対する割合(第2熱伝導率/第1熱伝導率)は、2.5であった。
上記処理手順で求められた第2熱伝導率、及び、図9に示した処理手順に従って、実施例7のタイヤモデルの温度に関する物理量(評価対象部分の温度)が、走行速度(70km/h、80km/h及び90km/h)毎に計算された。そして、走行速度毎に、実施例7のタイヤモデルの走行時の評価対象部分の温度と、タイヤの走行時の評価対象部分の温度との関係が求められた。
図18は、実験例2のタイヤの走行時(70km/h)の評価対象部分の温度と、実施例7のタイヤモデルの走行時(70km/h)の評価対象部分の温度との関係を示すグラフである。図19は、実験例2のタイヤの走行時(80km/h)の評価対象部分の温度と、実施例7のタイヤモデルの走行時(80km/h)の評価対象部分の温度との関係を示すグラフである。図20は、実験例2のタイヤの走行時(90km/h)の評価対象部分の温度と、実施例7のタイヤモデルの走行時(90km/h)の評価対象部分の温度との関係を示すグラフである。
テストの結果、実施例7では、走行速度及び横溝の深さが異なる条件下において、タイヤモデルの走行時の評価対象部分の温度を、実験例2のタイヤの走行時の評価対象部分の温度の±5℃内に収めることができた。従って、第2熱伝導率が決定された実施例7の作成方法は、異なる条件下においても、横溝の放熱性を考慮して、タイヤモデルの温度に関する物理量を、精度よく計算することができた。
[実施例C]
図2に示す基本構造を有し、横溝13Bの放熱因子(本例では、横溝の溝幅、及び、ピッチ数)が異なる5本のタイヤが製造された(実験例3)。そして、上記走行条件(タイヤ内圧、荷重)において、評価対象部分の温度が、走行速度(70km/h、80km/h及び90km/h)毎に実測された。評価対象部分の温度の測定方法は、実施例Aと同一の方法が用いられた。
図13に示した処理手順に従って、第2熱伝導率と、横溝の体積率及び表面積比との第3関係式が求められた(実施例8)。実施例8では、図14に示した処理手順に従って、実験例3のタイヤとは異なる放熱因子を有する10本のタイヤが製造され、横溝の体積率及び表面積比と、タイヤの評価対象部分の温度との関係を示す第1関係式が定義された。また、実施例8では、図15に示した処理手順に従って、タイヤモデルの凹部領域に設定される第2熱伝導率と、2次元のタイヤモデルの走行時の評価対象部分の温度との第2関係式が定義された。さらに、実施例8では、第1関係式と第2関係式とに基づいて、第3関係式が求められた。
実施例8では、第3関係式に、実験例3の各タイヤの体積率及び表面積比が代入され、5つの第2熱伝達率が決定された。そして、これらの第2熱伝導率、及び、図9に示した処理手順に従って、実施例8のタイヤモデルの温度に関する物理量(評価対象部分の温度)が、走行速度(70km/h、80km/h及び90km/h)毎に計算された。そして、走行速度毎に、実験例3のタイヤの走行時の評価対象部分の温度と、実施例8のタイヤモデルの走行時の評価対象部分の温度との関係が求められた。
図21は、実験例3のタイヤの走行時(70km/h)の評価対象部分の温度と、実施例8のタイヤモデルの走行時(70km/h)の評価対象部分の温度との関係を示すグラフである。図22は、実験例3のタイヤの走行時(80km/h)の評価対象部分の温度と、実施例8のタイヤモデルの走行時(80km/h)の評価対象部分の温度との関係を示すグラフである。図23は、実験例3のタイヤの走行時(90km/h)の評価対象部分の温度と、実施例8のタイヤモデルの走行時(90km/h)の評価対象部分の温度との関係を示すグラフである。
テストの結果、実施例8では、横溝の放熱因子(本例では、横溝の溝幅及びピッチ数)、及び走行速度が異なる条件下において、タイヤモデルの走行時の評価対象部分の温度を、実験例のタイヤの走行時の評価対象部分の温度の±5℃内に収めることができた。従って、実施例8の作成方法は、横溝の放熱因子が異なる条件下においても、横溝の放熱性を考慮して、タイヤモデルの温度に関する物理量を、精度よく計算することができた。