JP6814405B2 - アルミニウム系部材の表面構造 - Google Patents
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本実施形態に係るアルミニウム系部材の表面構造では、図1〜図3に示すように、アルミ合金基材1の断熱性を向上させるため、該アルミ合金基材1の表面に陽極酸化皮膜(以下、酸化皮膜という。)2を備えている。アルミ合金基材1は、質量%で、少なくともシリコン組成3を8%以上、処理液に溶解する金属成分を合計で2.9%以上含むアルミニウム系部材であり、シリコン組成3は、例えば不溶性シリコン粒子である。
「アルミニウム系部材」は、いわゆるアルミニウムの他、シリコン、銅等の合金成分を含むアルミニウム合金又はそれらを含有するアルミ展伸材、アルミ鋳造材、アルミダイカスト材(ADC)等のアルミニウム合金を意味する。より具体的には、AC4、AC8、AC8A、AC9等のAC材、ADC10〜ADC14等のADC材、A4000等のアルミニウム合金であることが適当である。詳細なアルミニウム合金の組成については後述する。
酸化皮膜2は多孔質に形成されたものである。酸化皮膜2には、電解条件によりその成長過程で生じる規則正しいナノレベルの空孔と、特にアルミ合金ではミクロレベルの空孔が存在する。陽極酸化処理より得られる酸化皮膜2は、アルミ合金基材1自身を酸化させることで成長するため、アルミ合金基材1とは異なる材料を該アルミ合金基材1の表面にコーティングする方法と比較して密着性が高い。それ故に、本実施形態に係る酸化皮膜2を多孔質に形成する方法は、断熱性・遮熱性を有する皮膜の形成に好適である。
まず、酸化皮膜2の空隙率について説明する。なお、本発明における「空隙率」とは、皮膜表面から内部へと皮膜方向へと伸びる空孔2aと、シリコン組成内の空隙3aと、溶解性の金属成分に由来する空隙2bとの合計の空隙率である。
酸化皮膜2の空隙率は70%以上、更に好ましくは75%以上である。これにより、体積比熱容量を低減できる。また、酸化皮膜2の空隙率は、90%、好ましくは85%以下である。これにより、使用に耐えうる皮膜強度を得ることができる。なお、酸化皮膜2の空隙率とは酸化皮膜2のかさ密度と真密度とに基づき算出したものである。酸化皮膜2の空隙率が70%以上であると体積比熱容量を低減でき、さらに90%以下であると使用に耐えうる皮膜強度を得ることができる。
酸化皮膜2の密度は0.6×103kg/m3以上、好ましくは0.7×103kg/m3以上である。これにより、使用に耐えうる皮膜強度を得ることができる。また、酸化皮膜2の密度は1.1×103kg/m3以下、好ましくは1.0×103kg/m3以下、より好ましくは0.9×103kg/m3以下である。このように、酸化皮膜2の密度が0.6×103kg/m3以上であると使用に耐えうる皮膜強度を得ることができ、さらに、1.1×103kg/m3以下であると体積比熱容量と熱伝導率を低減できる。なお、酸化皮膜2の密度ρは、「密度測定用に10mm×10mmに切断した試験片の質量、マイクロメータを用いて各辺の長さを測定し、膜厚は試験片の断面から光学顕微鏡で観察して測定し、これらの測定値から算出したものである。
酸化皮膜2の熱伝導率は0.65W/m・K以下、好ましくは0.60W/m・K以下である。これにより体積比熱容量を低減できる。なお、酸化皮膜2の熱伝導率について、比熱Csを、示差走査熱量計(SHIMADZU製DSC−60Plus)を用い、DSC法により算出した。そして、比熱Csに基づいて、後述する式(1)から算出することができる。
酸化皮膜2の体積比熱容量は1.00×103kJ/m3・K以下、好ましくは0.90×103kJ/m3・K以下、より好ましくは0.80×103kJ/m3・K以下である。これにより、体積比熱容量を低減出来る効果を有する。なお、体積比熱容量とは、物質の密度と比熱を掛けあわせた値である。
酸化皮膜2の厚さは50μm以上が好ましい。また、酸化皮膜2の厚さは150μm以下、好ましくは120μm以下である。すなわち、酸化皮膜2の膜厚は、50μmから120μmが好ましく、より好ましくは、50μmから100μmの範囲がよい。これにより、アルミ合金基材1に適切な遮熱性・断熱性を付与することができる。
λ=α×Cs×ρ (1)
まず、シリコン組成3の酸化皮膜2の厚み方向の長さについて説明する。
シリコン組成3の酸化皮膜2の厚み方向の平均長さは、1μm以上、好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。また、シリコン組成3の酸化皮膜2の厚み方向の平均長さは、40μm以下、好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下である。
シリコン組成3の量は、8質量%以上であり、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは11質量%以上である。これにより、シリコン組成3が粗大化するので、酸化皮膜2を形成した際に、シリコン組成3の内部に空隙3aができ易くなる。また、シリコン組成3の量は、30質量%以下、好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下であるのが好ましい。シリコン組成3の量が30質量%以下であると、切削加工性等の良い加工しやすいアルミ合金基材1となるため、実用的である。
シリコン組成3は酸化皮膜2中に均一に存在していることが好ましい。シリコン組成3の形状は球状、楕円形状、長方形状、針状等で良い。この中でもシリコン組成3の比表面積が大きくなれば、酸化皮膜2を形成する際に割れやすく、空隙3aができる箇所が多くなる。このため、シリコン組成3の形状は楕円形状や針状が好ましい。但し、酸化皮膜の膜厚方向と略直交方向に亀裂は入るが、垂直方向に延びる大きな粒子は、単位面積当たりの応力が小さく、亀裂の進展方向が一方向からずれる場合があるが、亀裂の発生、即ち、空隙による熱伝導の抑制効果は発揮される。
シリコン組成3の亀裂はサブミクロン以上の間隔で発生することが分かっており、シリコン組成3の垂直方向の厚さが1μm未満では、亀裂が発生し難くなるため、この垂直方向の厚さは1μm以上が好ましい。また、この垂直方向の厚さが40μmを超えると、周囲からの引っ張り応力に対する亀裂発生面積が大きくなり(単位面積当たりの応力が減少し)、亀裂が発生し難くなる。そのため、この垂直方向の厚さは40μm以下が好ましい。
アルミ合金基材1は、主にはシリコンの含有量により共晶Siと初晶Siの結晶粒が点在しており、その効果として高い耐摩耗性・摺動性・高温強度という特徴を有している。これ故に、このようなアルミ合金基材1は、ピストン、シリンダヘッドといったエンジン部品や、オイルポンプなど、高温下で摺動する機構部品の材料として利用される。アルミ合金基材1のシリコンの含有量は、その特徴が生かされるように実用的な8.0質量%以上である。なぜなら、シリコンの含有量が8.0質量%未満では、実用的に高い耐摩耗性・摺動性・高温強度を発揮することはできないばかりか、シリコンの含有量が少ないと微細な共晶シリコンとなりシリコン粒子内の亀裂が起こり難くなり、熱を遮る効果は期待できなくなるからである。
解析の結果、特に、熱伝導率が0.65[W/m・K]以下、体積比熱容量が1.00[×103kJ/m3・K]以下とすると変化率が0.1%pt超となり、効果が表れ易くなることが分かる。変化率0.1%pt以下では、実機ベースで、他の要因で向上代が掻き消され易く、数値として表面に現れ難いため0.1%pt超を基準とした。熱伝導率0.70[W/m・K]では、体積比熱容量が1.00[×103kJ/m3・K]と1.10[×103kJ/m3・K]共に変化率0.1%ptで、体積比熱容量の低減効果が表れなかった。特に、図6の結果からわかるように、体積比熱容量が0.80[×103kJ/m3・K]以下となれば、全て熱伝導率は0.65[W/m・K]以下となることが推測でき、熱効率はより実機ベースで掻き消され難い変化率0.12pt程度が得られる。
次に、硫酸浴の電解処理に使用したアルミ合金中の金属成分を計測した試験例について説明する。
下の表1は、硫酸浴の電解処理に使用したアルミ合金中のアルミ以外の金属成分を示すものである。直流電解法により電流密度一定で陽極酸化処理を行い、酸化皮膜2を35×15×2mmの試験片に形成した。陽極酸化処理は15℃、硫酸濃度300g/L、4.8A/dm2、40分間処理した。皮膜の膜厚は合金成分によって異なり、68.7〜92.4μmであった。
本発明の所望の低熱伝導率かつ低体積比熱容量の陽極酸化皮膜について、他の実施形態について説明する。この目的をアルミニウム合金基材1で果たすことが難しい場合、その成分とは異なるアルミニウム合金基材を使用して、陽極酸化皮膜2を形成することができる。使用するアルミニウム合金の形成方法としては、めっき、溶射、蒸着、嵌合、鋳込みなどの方法がある。その場合、陽極酸化皮膜2の形成に使用されるアルミニウム合金基材の成分とは異なるアルミニウム合金基材1の他に、基材として鉄製、チタン製金属の材料が使用される。
本願の出願当初の特許請求の範囲に記載されていた各請求項は、以下の通りであった。
請求項1:
質量%で、Siが8.0%以上、かつ、Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeの合計が2.9%以上であり、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム系部材において、前記アルミニウム系部材の表面には多孔質の酸化皮膜を備え、前記酸化皮膜は表面から内部に向かって前記酸化皮膜の厚み方向に伸びる空孔と、前記酸化皮膜の厚み方向に略直交する方向に伸びるシリコン組成の内部に存在する空隙とを少なくとも有するアルミニウム系部材の表面構造。
請求項2:
前記空孔の平均直径よりも前記空隙の前記酸化皮膜の厚み方向の平均長さの方が長いことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項3:
前記アルミニウム系部材に含まれる前記シリコン組成の前記酸化皮膜の厚み方向の長さは1μm以上40μm以下であることを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項4:
前記アルミニウム系部材の前記シリコン組成が30質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項5:
前記酸化皮膜の密度は1.1×10 3 kg/m 3 以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項6:
前記酸化皮膜の空隙率は70%以上90%以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項7:
前記酸化皮膜の熱伝導率は0.65W/m・K以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項8:
前記空孔は封孔生成物で封孔されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項9:
前記アルミニウム系部材により内燃機関を構成する部材を形成したことを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項10:
質量%で、Siが8.0%以上、かつ、Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeの合計が2.9%以上であり、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム合金基材を、4.8[A/dm 2 ]以下の電流密度で陽極酸化することで、前記アルミニウム合金基材の表面に多孔質の酸化皮膜を形成する酸化皮膜の形成方法。
2 陽極酸化皮膜
2a 空孔
3 シリコン組成
3a、2b 空隙
10 ピストン
11 シリンダ
12 シリンダヘッド
13 シリンダブロック
14 シリンダスリーブ
15 ピストンリング
Claims (9)
- 質量%で、Siが8.0%以上、かつ、Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeの合計が2.9%以上であり、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム系部材において、前記アルミニウム系部材の表面には多孔質の酸化皮膜を備え、前記酸化皮膜は表面から内部に向かって前記酸化皮膜の厚み方向に伸びる空孔と、前記酸化皮膜の厚み方向に略直交する方向に伸びる共晶シリコンと初晶シリコンの結晶粒の内部に存在する空隙とを少なくとも有し、前記アルミニウム系部材に含まれる前記共晶シリコンと初晶シリコンの結晶粒の前記酸化皮膜の厚み方向の長さは1μm以上40μm以下であるアルミニウム系部材の表面構造。
- 前記空孔の平均直径よりも前記空隙の前記酸化皮膜の厚み方向の平均長さの方が長いことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
- 前記アルミニウム系部材の前記共晶シリコンと初晶シリコンの結晶粒が30質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
- 前記酸化皮膜の密度は1.1×103kg/m3以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
- 前記酸化皮膜の空隙率は70%以上90%以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
- 前記酸化皮膜の熱伝導率は0.65W/m・K以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
- 前記空孔は封孔生成物で封孔されていることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
- 前記アルミニウム系部材により内燃機関を構成する部材を形成したことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
- 質量%で、Siが8.0%以上、かつ、Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeの合計が2.9%以上であり、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム合金基材を、4.8[A/dm2]以下の電流密度で陽極酸化し、前記アルミニウム系合金基材に含まれる共晶シリコンと初晶シリコンの結晶粒の前記酸化皮膜の厚み方向の長さを1μm以上40μm以下とする前記アルミニウム合金基材の表面に多孔質の酸化皮膜を形成する酸化皮膜の形成方法。
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