JP6814405B2 - アルミニウム系部材の表面構造 - Google Patents

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Description

本発明は、アルミニウム系部材の表面構造に関し、詳しくは、アルミニウム系部材の表面に多孔質の酸化皮膜を備えたアルミニウム系部材の表面構造に関する。
従来より、車両等で使用されるアルミニウム系部材の断熱性や遮熱性を高めるために、該アルミニウム系部材の表面に、内部に空孔を有する陽極酸化皮膜を形成することが行われている。
例えば、特許文献1には、内燃機関の燃焼室に臨む壁面の一部もしくは全部に、低熱伝導かつ低体積比熱容量の陽極酸化皮膜を具備する構成が記載されている。この特許文献1によれば、この陽極酸化皮膜は、その膜厚は30μm〜170μmの範囲にあり、陽極酸化皮膜の表面から内部に向かって厚み方向もしくは略厚み方向に延びる、直径がミクロサイズの第1のミクロ孔及び直径がナノサイズのナノ孔と、陽極酸化皮膜の内部にあって直径がミクロサイズの第2のミクロ孔とを有する。また、第1のミクロ孔およびナノ孔の少なくとも一部は封止物で封止されているが、第2のミクロ孔の少なくとも一部は封止されていない構造となっている。
また、特許文献1によれば、アルミニウム系壁面を形成するアルミニウム系材料が、合金成分として、Si、Cu、Mg、Ni、Feの少なくとも一種を含むこととしている。合金成分を含ませることにより、特にアルミニウム系材料が合金成分として、Si、Cu、Mg、Ni、Feの少なくとも一種を含んでいることにより、ミクロ孔の直径や断面寸法がさらに大きくなる傾向にあり、ミクロ孔の口径拡大が促進され、気孔率の向上を図ることができることが記載されている。
特開2015−31226号公報
しかしながら、更なる断熱性や遮熱性をアルミニウム系部材に付与するためには陽極酸化皮膜内部の空孔を多くする必要があるが、上述した特許文献1に記載の技術では、空孔を増やした場合、第1のミクロ孔と第2のミクロ孔がつながる場合が生じる。また、封止剤の表面張力の働きもあり、第2のミクロ孔のみを封止しないように封孔処理を行うことは困難である。また、第2のミクロ孔は陽極酸化皮膜の下部に多く存在しているため、陽極酸化皮膜の表面側に熱が籠もってしまうおそれがある。
また、従来の陽極酸化処理では、電圧、電流の電解条件は種々あるが、一般的に直流電解により行われる。この直流電解では、電圧をコントロールすることにより孔径をコントロールすることが可能である。これまで断熱性の効果を得る方法としては、直流電解により成長する酸化アルミの柱状組織内のナノレベルの空孔が利用され、その皮膜中の体積割合は硫酸浴で20%程度と低かった。そのため、陽極酸化処理時の電解浴成分、電解条件、温度等を変えたり、陽極酸化処理後、薬液に浸漬することによる孔径拡大処理が従来から行われている。
このような孔径拡大処理においては、柱状組織内の空孔率を上げるため、硫酸よりもシュウ酸やリン酸が使用されていた。しかしながら、シュウ酸やリン酸を使用することは、硫酸よりも印加電圧を高めることはできるが、処理時の発熱が大きくなるため、電流密度をあまり高くすることはできず成膜速度が低下するという課題があり、厚膜化には向かなかった。しかも、孔径拡大処理は、柱状組織の酸化アルミを化学的に溶かす方法であるため皮膜表面が荒れ、また、そのための薬液処理工程と工程管理が増え、製造が煩雑となっていた。
これ故、従来より、成膜速度の速い硫酸浴による高い空隙率(ここでは、ナノサイズとミクロサイズの空孔をあわせて空隙と呼ぶ)の陽極酸化皮膜の作製が要望されていた。こうした要望に応えるために、特許文献1に記載の技術では、合金成分として、Si、Cu、Mg、Ni、Feの少なくとも一種を含めることでミクロ孔を拡大させて高い気孔率を確保するようにしている。この場合、特にこれら合金成分の中でアルミ部品の強度を上げる目的でSiが含有されることが多い。しかしながら、熱の伝導率が高いこの不溶性シリコン粒子は、鋳造後の形状を維持しつつ、熱を速やかに皮膜に伝えてしまう欠点があった。
また、合金成分として、単にSi、Cu、Mg、Ni、Feの少なくとも一種を含めることでミクロ孔を拡大させただけでは、十分な断熱性及び遮熱性を付与するほどの高い空隙率を確保することが困難であった。
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、酸化皮膜の表面側に熱が籠ることを低減し、アルミニウム系部材の更なる断熱性や遮熱性を高めることができるアルミニウム系部材の表面構造を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造では、質量%で、Siが8.0%以上、かつ、Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeの合計が2.9%以上であり、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム系部材において、前記アルミニウム系部材の表面には多孔質の酸化皮膜を備え、前記酸化皮膜は表面から内部に向かって前記酸化皮膜の厚み方向に伸びる空孔と、前記酸化皮膜の厚み方向に略直交する方向に伸びるシリコン組成の内部に存在する空隙とを少なくとも有する構成としている。なお、前記Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeは、前記酸化皮膜を生成する際に、処理液に溶け出す組成である。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記空孔の平均直径よりも前記空隙の前記酸化皮膜の厚み方向の平均長さの方が長い構成としている。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記アルミニウム系部材に含まれる前記シリコン組成の前記酸化皮膜の厚み方向の長さは1μm以上40μm以下である構成としている。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記アルミニウム系部材の前記シリコン組成が30質量%以下である構成としている。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記酸化皮膜の密度は0.6×10kg/m以上1.1×10kg/m以下である構成としている。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記酸化皮膜の空隙率は70%以上90%以下である構成としている。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記酸化皮膜の熱伝導率は0.65W/m・K以下である構成としている。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記空孔は封孔生成物で封孔されている構成としている。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記アルミニウム系部材により内燃機関を構成する部材を形成している。なお、本発明に係るアルミニウム系部材は、部品の一部でも全部でもよく、また、部品は、アルミニウム合金部品でも、その他の鉄系やチタン系の部材を含む部品でもよい。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造では、質量%で、Siが8.0%以上、かつ、Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeの合計が2.9%以上であり、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム系部材の表面の酸化皮膜は、表面から内部に向かって前記酸化皮膜の厚み方向に伸びる空孔と、前記酸化皮膜の厚み方向に略直交する方向に伸びるシリコン組成の内部に存在する空隙とを少なくとも有することによって、前記酸化皮膜の内部に多くの前記空隙を存在させることができる。これにより、前記酸化皮膜の断熱性や遮熱性を更に向上でき、前記空隙は前記シリコン組成の内部に存在するため封孔処理過程で隙間が埋まり難くすることができる。金属酸化物である酸化アルミの封止剤に対する濡れ性は、金属であるシリコンよりも高く封止剤が回り込み易いためである。さらに、前記シリコン組成は前記アルミニウム系部材に均一に存在しているため、前記空隙を前記酸化皮膜に均一に設けることができ、前記酸化皮膜の熱ごもりを皮膜内部に渡り均一的に抑えることができる。また、質量%で、アルミニウム系部材にシリコン組成が8%以上であるので、シリコン組成を粗大化することができるとともに、前記シリコン組成の内部の空隙を多く形成することができ、且つアルミニウム系部材にCu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeの金属組成が合計で2.9%含まれることによって、これら金属組成が前記酸化皮膜を生成する際に処理液に溶け出すことから、その部分が空隙となり、断熱性及び遮熱性に有効な空隙を多く作ることができる。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記空孔の平均直径よりも前記空隙の前記酸化皮膜の厚み方向の平均長さの方が長い構成としているので、前記酸化皮膜の表面から伝わる熱を効果的に前記シリコン組成の内部の前記空隙で遮ることができる。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記アルミニウム系部材に含まれる前記シリコン組成の前記酸化皮膜の厚み方向の長さは1μm以上40μm以下である構成としているので、前記酸化皮膜の厚み方向の長さが40μm以下とすることにより、前記シリコン組成の周囲の引張応力に対する単位面積辺りの応力を大きくすることができる。また、前記アルミニウム系部材に含まれる前記シリコン組成の厚み方向の平均長さを1μm以上とすることにより、前記酸化皮膜を形成する際に、前記シリコン組成の内部に前記空隙が生じ易くすることができる。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記アルミニウム系部材の前記シリコン組成が30質量%以下である構成としているので、切削加工性等が良く、実用的である。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記酸化皮膜の密度は0.6×10kg/m以上1.1×10kg/m以下である構成としているので、前記酸化皮膜の密度が0.6×10kg/m以上であると使用に耐えうる皮膜強度を得ることができる。また、前記酸化皮膜の密度が1.1×10kg/m以下であると体積比熱容量と熱伝導率を低減させることができる。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記酸化皮膜の空隙率は70%以上90%以下である構成としているので、前記酸化皮膜の空隙率が70%以上であると体積比熱容量を低減させることができる。また、前記酸化皮膜の空隙率が90%以下であると使用に耐えうる皮膜強度を得ることができる。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記酸化皮膜の熱伝導率は0.65W/m・K以下である構成としているので、前記酸化皮膜の断熱性・遮熱性を向上させることができる。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記空孔は封孔生成物で封孔されている構成としているので、前記アルミニウム系部材の表面から前記酸化皮膜内部に熱が伝わり難く、前記酸化皮膜の断熱性・遮熱性を向上させることができる。また、前記アルミニウム系部材の表面に腐食性物質が付着しても、前記空孔を通じて前記酸化皮膜の内部に腐食性物質が伝わりにくいので、前記酸化皮膜の耐久性を向上させることができる。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一態様では、前記したように低熱伝導性及び低体積比熱容量を達成できた前記アルミニウム系部材により内燃機関を構成する部材を形成したことにより、前記内燃機関の熱効率を向上させることができる。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一実施形態を示すもので、とくに、アルミニウム系部材の表面に酸化皮膜を形成する前と後の様子を示す断面図である。 本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一実施形態を示すもので、とくに、シリコン組成に空隙が形成される前と後の様子を示す断面図である。 本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一実施形態を概念的に示す断面図である。 本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一実施形態の皮膜断面写真を示すものである。 本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一実施形態の皮膜断面写真を示すものである。 本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一実施形態を適用した内燃機関における熱効率を示すグラフである。 本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一実施形態の成分分析した結果の一例を示すグラフである。 本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一実施形態を内燃機関のシリンダブロックに適用した場合の例を示す断面図である。
以下、本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るアルミニウム系部材の表面構造では、図1〜図3に示すように、アルミ合金基材1の断熱性を向上させるため、該アルミ合金基材1の表面に陽極酸化皮膜(以下、酸化皮膜という。)2を備えている。アルミ合金基材1は、質量%で、少なくともシリコン組成3を8%以上、処理液に溶解する金属成分を合計で2.9%以上含むアルミニウム系部材であり、シリコン組成3は、例えば不溶性シリコン粒子である。
さらに、酸化皮膜2は、その表面から内部に向かって該酸化皮膜2の厚み方向に伸びる空孔2a(図3を参照)と、酸化皮膜2の厚み方向に略直交する方向に伸びるシリコン組成3の内部に存在する空隙3a(図3を参照)と、酸化皮膜2中に直接存在する空隙2b(図3を参照)とを少なくとも有している。尚、この空隙の形状は簡略的に示しており、形状は組成によって異なり一様ではない。
ここで、シリコン組成3の内部に空隙3aが形成される仕組みについて簡単に説明する。アルミ合金基材1が陽極酸化されると、図1に示すように酸化皮膜2の体積が膨張する。図1において、tは、アルミ合金基材1が体積膨張することによって増した厚さ分を示している。このとき、陽極酸化されない酸化皮膜2内に含まれるシリコン組成3は、ほとんど体積膨張しないので、該シリコン組成3は酸化皮膜2の成長に引っ張られる。これにより、シリコン組成3に酸化皮膜2の成長方向(厚み方向)に略直交する方向に割れが生じる。この割れにより、酸化皮膜2の厚み方向に略直交する方向に伸びる複数の空隙3aがシリコン組成3の内部に形成される。なお、シリコン組成3の割れ易い形状としては、通常の球状よりも楕円や針状のようにより比表面積が大きい場合程割れ易い。
本実施形態では、上記のように酸化皮膜2のシリコン組成3の内部に熱が伝わる方向と垂直方向に亀裂を入れたことにより、酸化皮膜2の密度に影響する空隙3aが増加する。このため、空隙3aによりシリコン組成3において熱伝導が遮られるので、結果的に、酸化皮膜2の表面からアルミ合金基材1に伝わる熱を効果的に遮られる。これにより、アルミ合金基材1は高い断熱性・遮熱性を有することになり、熱の伝導率が高いシリコン組成3において熱が速やかに内部に伝えられる従来の欠点を解消することができる。図2(a)は、亀裂が入る前のシリコン組成3を示し、図2(b)は、亀裂3aが入った後のシリコン組成3を示している。
また、本実施形態では、空孔2aの直径よりも空隙3aの酸化皮膜2の厚み方向の平均長さの方が長くなっている。これにより、酸化皮膜2の表面から底面に伝わる熱を効果的にシリコン組成3の内部の空隙3aで遮ることができる。さらに、アルミ合金基材1中のシリコン組成3は該アルミ合金基材1中に均一に存在しているため、シリコン組成3と共に存在する空隙3aも酸化皮膜2中に均一に存在している。これにより、酸化皮膜2の表面から基材表面まで伝わる熱を通しにくくなり、該酸化皮膜2に熱が籠もってしまう可能性を低減することができる。
ここで、本実施形態で採用するアルミ合金基材1であるアルミニウム系部材について説明する。
「アルミニウム系部材」は、いわゆるアルミニウムの他、シリコン、銅等の合金成分を含むアルミニウム合金又はそれらを含有するアルミ展伸材、アルミ鋳造材、アルミダイカスト材(ADC)等のアルミニウム合金を意味する。より具体的には、AC4、AC8、AC8A、AC9等のAC材、ADC10〜ADC14等のADC材、A4000等のアルミニウム合金であることが適当である。詳細なアルミニウム合金の組成については後述する。
次に、本実施形態における酸化皮膜2について詳しく説明する。
酸化皮膜2は多孔質に形成されたものである。酸化皮膜2には、電解条件によりその成長過程で生じる規則正しいナノレベルの空孔と、特にアルミ合金ではミクロレベルの空孔が存在する。陽極酸化処理より得られる酸化皮膜2は、アルミ合金基材1自身を酸化させることで成長するため、アルミ合金基材1とは異なる材料を該アルミ合金基材1の表面にコーティングする方法と比較して密着性が高い。それ故に、本実施形態に係る酸化皮膜2を多孔質に形成する方法は、断熱性・遮熱性を有する皮膜の形成に好適である。
なお、本実施形態では、後述するように、アルミ合金基材1に酸化皮膜2を形成する際に処理液に溶け出す溶解性金属(Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、Fe)が含まれているので、硫酸浴を用いて直流電解するのが良い。その理由は、硫酸浴は比較的成膜速度が速く、シリコン粒子(図5の写真に破線の円で囲む部分)内の空隙率を上げる上で好ましいからである。この場合、硫酸に替えてシュウ酸やリン酸を使用しても良く、あるいは、硫酸にシュウ酸やリン酸、フッ酸、過酸化水素等の薬液を添加してもよい。溶解性が高まる、あるいは電解時の電圧が高まることにより、シリコンの割れる頻度を高くすることができる。シリコン組成3の周辺の上記した溶解性金属を、処理液及び電解の作用により溶解させることにより、その部分がナノ、ミクロ両サイズの空隙2bとなり、さらに高い空隙率を有する、即ち低密度な酸化皮膜2を形成することができる。直流電解のその他の条件として、より低密度の酸化皮膜を得ることができることから、電流密度は4.8[A/dm]以下にすることが好ましい。
ここで、本実施形態における酸化皮膜2の物性について簡単にまとめて説明する。
まず、酸化皮膜2の空隙率について説明する。なお、本発明における「空隙率」とは、皮膜表面から内部へと皮膜方向へと伸びる空孔2aと、シリコン組成内の空隙3aと、溶解性の金属成分に由来する空隙2bとの合計の空隙率である。
酸化皮膜2の空隙率は70%以上、更に好ましくは75%以上である。これにより、体積比熱容量を低減できる。また、酸化皮膜2の空隙率は、90%、好ましくは85%以下である。これにより、使用に耐えうる皮膜強度を得ることができる。なお、酸化皮膜2の空隙率とは酸化皮膜2のかさ密度と真密度とに基づき算出したものである。酸化皮膜2の空隙率が70%以上であると体積比熱容量を低減でき、さらに90%以下であると使用に耐えうる皮膜強度を得ることができる。
次に、酸化皮膜2の密度について説明する。
酸化皮膜2の密度は0.6×10kg/m以上、好ましくは0.7×10kg/m以上である。これにより、使用に耐えうる皮膜強度を得ることができる。また、酸化皮膜2の密度は1.1×10kg/m以下、好ましくは1.0×10kg/m以下、より好ましくは0.9×10kg/m以下である。このように、酸化皮膜2の密度が0.6×10kg/m以上であると使用に耐えうる皮膜強度を得ることができ、さらに、1.1×10kg/m以下であると体積比熱容量と熱伝導率を低減できる。なお、酸化皮膜2の密度ρは、「密度測定用に10mm×10mmに切断した試験片の質量、マイクロメータを用いて各辺の長さを測定し、膜厚は試験片の断面から光学顕微鏡で観察して測定し、これらの測定値から算出したものである。
次に、酸化皮膜2の熱伝導率について説明する。
酸化皮膜2の熱伝導率は0.65W/m・K以下、好ましくは0.60W/m・K以下である。これにより体積比熱容量を低減できる。なお、酸化皮膜2の熱伝導率について、比熱Csを、示差走査熱量計(SHIMADZU製DSC−60Plus)を用い、DSC法により算出した。そして、比熱Csに基づいて、後述する式(1)から算出することができる。
次に、酸化皮膜2の体積比熱容量について説明する。
酸化皮膜2の体積比熱容量は1.00×10kJ/m・K以下、好ましくは0.90×10kJ/m・K以下、より好ましくは0.80×10kJ/m・K以下である。これにより、体積比熱容量を低減出来る効果を有する。なお、体積比熱容量とは、物質の密度と比熱を掛けあわせた値である。
次に、酸化皮膜2の厚さについて説明する。
酸化皮膜2の厚さは50μm以上が好ましい。また、酸化皮膜2の厚さは150μm以下、好ましくは120μm以下である。すなわち、酸化皮膜2の膜厚は、50μmから120μmが好ましく、より好ましくは、50μmから100μmの範囲がよい。これにより、アルミ合金基材1に適切な遮熱性・断熱性を付与することができる。
なお、酸化皮膜2が厚くなると、その分該酸化皮膜2を成長させる時間がかかるため、より低熱伝導率、低体積比熱容量の酸化皮膜2であれば、酸化皮膜2は薄い方が効果的である。被処理物である部品は、陽極酸化処理の前に陽極酸化処理面を水洗浄、脱脂、電解エッチング等の前処理を行い、処理後に処理液から取り出し、水洗、乾燥することが好ましい。実際の酸化皮膜2の膜厚は、主として時間もしくは電流密度によってコントロールされ、所定の性能を満たす膜厚とするのが好ましい。
また、酸化皮膜2のより高い断熱性及び遮熱性を得るためには、低熱伝導率、低体積比熱容量が必要である。熱伝導率λは、下記の式(1)に従って、密度ρ、比熱Cs、熱拡散率αから計算される。また、体積比熱容量は密度と比熱を掛けたものである。比熱は物質固有の値であるため、熱伝導率と体積比熱容量を低くするためには、どちらにも掛かる密度を低くすることが必要となる。
λ=α×Cs×ρ (1)
純アルミを陽極酸化すると、熱伝導率2.6[W/m・K]、体積比熱容量2.5[×10kJ/m・K]と、どちらも非常に大きくなる。そこで、電解処理条件を変化させてナノレベルの空孔を大きくすることで、熱伝導率1.2[W/m・K]、体積比熱容量2.0[×10kJ/m・K]のどちらもある程度低下させることはできる。しかし、酸化皮膜2に熱が篭り易くなる大きい要因の体積比熱容量を低下させることは非常に重要である。
ここで、本実施形態に係るシリコン組成3についても簡単に説明する。
まず、シリコン組成3の酸化皮膜2の厚み方向の長さについて説明する。
シリコン組成3の酸化皮膜2の厚み方向の平均長さは、1μm以上、好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。また、シリコン組成3の酸化皮膜2の厚み方向の平均長さは、40μm以下、好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下である。
このように、アルミニウム系部材に含まれるシリコン組成3の厚み方向の平均長さが1μm以上であると、周囲の引張応力に対する単位面積辺りの応力が大きくなり、酸化皮膜2を形成した際に、シリコン組成3の内部に空隙3aができ易くなる。また、シリコン組成3の厚み方向の平均長さが40μm以下であると、周囲の引張応力に対する単位面積辺りの応力が大きくなり、酸化皮膜2を形成した際に、シリコン組成3の内部に亀裂が発生し空隙ができ易くなる。
次に、シリコン組成の量について説明する。
シリコン組成3の量は、8質量%以上であり、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは11質量%以上である。これにより、シリコン組成3が粗大化するので、酸化皮膜2を形成した際に、シリコン組成3の内部に空隙3aができ易くなる。また、シリコン組成3の量は、30質量%以下、好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下であるのが好ましい。シリコン組成3の量が30質量%以下であると、切削加工性等の良い加工しやすいアルミ合金基材1となるため、実用的である。
次に、シリコン組成3の大きさ、形状について説明する。
シリコン組成3は酸化皮膜2中に均一に存在していることが好ましい。シリコン組成3の形状は球状、楕円形状、長方形状、針状等で良い。この中でもシリコン組成3の比表面積が大きくなれば、酸化皮膜2を形成する際に割れやすく、空隙3aができる箇所が多くなる。このため、シリコン組成3の形状は楕円形状や針状が好ましい。但し、酸化皮膜の膜厚方向と略直交方向に亀裂は入るが、垂直方向に延びる大きな粒子は、単位面積当たりの応力が小さく、亀裂の進展方向が一方向からずれる場合があるが、亀裂の発生、即ち、空隙による熱伝導の抑制効果は発揮される。
シリコン組成3の亀裂の発生は、亀裂が発生する単位面積当たりの応力がある一定以上である場合に起こると考えられるが、シリコン組成3の大きさ・形状は、シリコンの含有量、アルミ合金基材1の熱処理条件、成分によって異なり一様ではない。亀裂の発生し易さの観点からは、シリコン粒子のアスペクト比が高い方が亀裂の単位面積当たりの応力が高くなるため有利であるが、このアスペクト比が高まれば熱の伝わる経路が長くなり、亀裂を発生させる意味が低減される。
よって、シリコン組成3の好ましい大きさは、次のとおりである。
シリコン組成3の亀裂はサブミクロン以上の間隔で発生することが分かっており、シリコン組成3の垂直方向の厚さが1μm未満では、亀裂が発生し難くなるため、この垂直方向の厚さは1μm以上が好ましい。また、この垂直方向の厚さが40μmを超えると、周囲からの引っ張り応力に対する亀裂発生面積が大きくなり(単位面積当たりの応力が減少し)、亀裂が発生し難くなる。そのため、この垂直方向の厚さは40μm以下が好ましい。
次に、シリコンの含有量について説明する。
アルミ合金基材1は、主にはシリコンの含有量により共晶Siと初晶Siの結晶粒が点在しており、その効果として高い耐摩耗性・摺動性・高温強度という特徴を有している。これ故に、このようなアルミ合金基材1は、ピストン、シリンダヘッドといったエンジン部品や、オイルポンプなど、高温下で摺動する機構部品の材料として利用される。アルミ合金基材1のシリコンの含有量は、その特徴が生かされるように実用的な8.0質量%以上である。なぜなら、シリコンの含有量が8.0質量%未満では、実用的に高い耐摩耗性・摺動性・高温強度を発揮することはできないばかりか、シリコンの含有量が少ないと微細な共晶シリコンとなりシリコン粒子内の亀裂が起こり難くなり、熱を遮る効果は期待できなくなるからである。
シリコンを多くすると亀裂の数は多くなるが、酸化皮膜2全体に対する熱伝導性の高いシリコンの割合が多くなり、該酸化皮膜2全体としてみると熱伝導率が上がってしまう。また、シリコンに亀裂を発生させる駆動力は酸化皮膜2の体積膨張によることから、シリコンが多くなると、逆に酸化皮膜2の体積膨張度合は下がり、亀裂が起き難くなる。このため、シリコンの含有量は25質量%以下が好ましい。シリコンは切削加工性を下げるため、実用面からも考えるとこの程度が好ましい。より好ましくは、一般的な利用を考えると、シリコン含有率は20質量%程度までとする。以上まとめると、特にSi含有量は8質量%以上、25質量%以下が好ましく、より好ましくは、8質量%以上、20質量%以下である。また、Siの大きさは、垂直方向の厚さが1μm以上、40μm以下が好ましい。
上記皮膜構造とすることで、酸化皮膜2の熱伝導率を0.65[W/m・K]以下、体積比熱容量を1.00[×10kJ/m・K]以下、密度を1.10[×10kg/m]以下とすることが可能になる。これにより、高い断熱性および遮熱性が求められる金属部品に高い断熱性/遮熱性を付与することができる。また、酸化皮膜2の熱伝導率を0.60[W/m・K]以下、体積比熱容量が0.90[×10kJ/m・K]以下、陽極酸化皮膜の密度を1.00[×10kg/m]以下とした酸化皮膜2とすることで、酸化皮膜2の断熱性および遮熱性がより高められ、高い断熱・遮熱効果を発揮させることができる。更に、酸化皮膜2の熱伝導率が0.60[W/m・K]以下、体積比熱容量が0.80[×10kJ/m・K]以下、陽極酸化皮膜の密度が0.90[×10kg/m]以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態では、酸化皮膜2の空隙率を向上させるために、アルミニウム系部材1には、シリコン組成3以外の組成を含有させる。シリコン以外の組成としては、酸化皮膜2を形成する際に溶け出す組成、例えばCu、Ni、Mg、Mn、Zn、Feであり、これらを1または複数種含ませる。これらの組成が合計で2.9質量%以上含まれていると酸化皮膜2を形成する際に溶け出して、これらの組成が存在していた場所が酸化皮膜中で空隙2bとなるため空隙率が向上する。Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeの合計の質量%は、3.0%以上がより好ましく、4.0%以上がさらに好ましい。なお、これら組成の合計の上限は特に限定されないが、20%以下がより好ましく、11%以下がさらに好ましい。なお、これらの組成以外にも不可避的不純物として、酸化皮膜を形成する際に溶解しない不可溶不純物であるTiやZr、Sn、Cr、Pb等の組成を含んでいても良い。残部はAlである。
本実施形態では、一次元エンジン性能計算により、熱伝導率と体積比熱容量に対する図示熱効率を解析した(図6に示すグラフ参照)。
解析の結果、特に、熱伝導率が0.65[W/m・K]以下、体積比熱容量が1.00[×10kJ/m・K]以下とすると変化率が0.1%pt超となり、効果が表れ易くなることが分かる。変化率0.1%pt以下では、実機ベースで、他の要因で向上代が掻き消され易く、数値として表面に現れ難いため0.1%pt超を基準とした。熱伝導率0.70[W/m・K]では、体積比熱容量が1.00[×10kJ/m・K]と1.10[×10kJ/m・K]共に変化率0.1%ptで、体積比熱容量の低減効果が表れなかった。特に、図6の結果からわかるように、体積比熱容量が0.80[×10kJ/m・K]以下となれば、全て熱伝導率は0.65[W/m・K]以下となることが推測でき、熱効率はより実機ベースで掻き消され難い変化率0.12pt程度が得られる。
以上の結果より、熱伝導率が0.65[W/m・K]以下、体積比熱容量が1.00[×10kJ/m・K]以下が好ましく、より好ましくは、体積比熱容量の低減効果がより表れる熱伝導率が0.60[W/m・K]程度以下、体積比熱容量が0.90[×10kJ/m・K]以下であり、更に好ましくは体積比熱容量が0.80[×10kJ/m・K]以下であり、この場合に前述したような効果が良好に発揮される。
酸化皮膜2の比熱は、合金種により若干変動するが、概ね0.83[×10kJ/kg・K]程度であることが分かった。そのため、体積比熱容量を1.00[×10kJ/m・K]以下とするには、酸化皮膜2の密度を1.1[×10kg/m]以下とする必要がある。より好ましくは、体積比熱容量を0.90[×10kJ/m・K]以下とするために、酸化皮膜2の密度を1.00[×10kg/m]以下とする必要がある。更に好ましくは、体積比熱容量を0.80[×10kJ/m・K]以下とするために、酸化皮膜2の密度を0.90[×10kg/m]以下とする必要がある。合金成分を含む酸化アルミの密度は5[×10kg/m]近傍となることがあり、その場合、空隙率は82%となる。
なお、一般に硫酸浴で作製される酸化皮膜2の空孔率は20%程度である。合金成分が含まれる場合は変動するが、酸化皮膜2をこれだけの低い密度とするためには、新たな技術開発が期待される。酸化皮膜2の密度を低下させることにより、上式(1)から明らかなように、同様に熱伝導率を低減させることができるが、本案ではシリコン粒子3内に亀裂3aを発生させるとともに、酸化皮膜内に直接存在する溶解性金属由来の空隙2bを形成することにより、熱拡散率の低減を図り、かつ、密度も低減するものである。
アルミ合金部品は、一般的に、アルミとその中に含まれる不純物及びまたは添加物から構成されている。アルミ合金には、例えば、アルミダイカスト材、アルミ鋳物材、アルミ展伸材等がある。アルミ合金部品中に不純物または添加物が多く存在するが、酸化皮膜2の密度を1.10[×10kg/m]以下とするためには、アルミ以外の金属成分の濃度を調整する必要があり、本実施形態のような方法を経て陽極酸化する。
[試験例]
次に、硫酸浴の電解処理に使用したアルミ合金中の金属成分を計測した試験例について説明する。
下の表1は、硫酸浴の電解処理に使用したアルミ合金中のアルミ以外の金属成分を示すものである。直流電解法により電流密度一定で陽極酸化処理を行い、酸化皮膜2を35×15×2mmの試験片に形成した。陽極酸化処理は15℃、硫酸濃度300g/L、4.8A/dm、40分間処理した。皮膜の膜厚は合金成分によって異なり、68.7〜92.4μmであった。
密度測定用に10×10mmに切断した試験片の質量、マイクロメータを用いて各辺の長さを測定し、膜厚は試験片の断面から光学顕微鏡で観察して測定した。これらの測定値から皮膜の密度ρを算出した。
比熱Csは示差走査熱量計を用い、DSC法により算出した。熱伝導率λの算出は、前記式(1)を用い、熱拡散率αは、レーザフラッシュ法により測定した。また、皮膜の表面から基材内部に対する成分分析をグロー放電発光分光分析装置GDSで行った。その結果の一例を図7のグラフに示す。Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、Feは溶解する金属成分で、Si及びその他の金属は溶解しない金属成分である。実施例1〜4での合金成分、特にSiの含有量が8質量%以上、溶解性の金属成分が2.9%以上のアルミ合金表面に作製された皮膜の密度は、1.10[×10kg/m]以下であった。溶解する金属を使用した場合、その部分が空隙となり、また、溶解しない金属Si粒子内では亀裂が発生し、その周辺で皮膜の成長阻害、体積膨張による空隙が発生するためである。
特に、溶解しないSi粒子が、垂直方向の厚さが1μm以上、40μm以下とすると酸化皮膜2の熱伝導率を低くする金属が水平に割れた構造(表面から皮膜内部への熱伝導方向とは垂直な方向)となり、該酸化皮膜2の熱伝導率が低減される。
図4と図5は、表1中の実施例4で作製した酸化皮膜2の断面を写真で示すものである。ここで、図4は光学顕微鏡写真、図5はSEM写真である。これらの断面写真は、試験片を樹脂で埋め込み、その表面を研摩することにより皮膜断面を観察したものである。断面写真から金属の溶解による空隙2b、及び酸化皮膜2の成長を阻害する金属Si粒子内の空隙3aが多数形成されていることが分かる。但し、全ての空隙に印を付けているわけではない。
また、図5に示すように溶解しないシリコン組成3の内部が水平方向に破断され、その間に空隙3aが存在することが確認できる。但し、全ての空隙に印を付けているわけではない。この微構造によりシリコン組成3内の熱伝導を阻害し、その結果、熱伝導率は低減する。なお、下の表2に示した比較例1及び2では、Siの含有量が少なく且つ溶解性金属の合計の含有量も少ないため、密度を1.10[×10kg/m]以下とすることはできなかった。
更に、実施例1では、硫酸濃度300g/L、電流密度4.8A/dmの条件で陽極酸化処理をした、同様の金属成分で構成される試験片を用いて、電流密度と硫酸濃度を変えて陽極酸化処理した結果を表3に示す。表3に示すように、電流密度4.8[A/dm]の場合には、皮膜密度は1.10[×10kg/m]以下となったが、それ以上の電流密度では、硫酸濃度を変えても、皮膜密度は1.10[×10kg/m]以下とすることはできなかった。
次に、本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造の他の実施形態について説明する。
本発明の所望の低熱伝導率かつ低体積比熱容量の陽極酸化皮膜について、他の実施形態について説明する。この目的をアルミニウム合金基材1で果たすことが難しい場合、その成分とは異なるアルミニウム合金基材を使用して、陽極酸化皮膜2を形成することができる。使用するアルミニウム合金の形成方法としては、めっき、溶射、蒸着、嵌合、鋳込みなどの方法がある。その場合、陽極酸化皮膜2の形成に使用されるアルミニウム合金基材の成分とは異なるアルミニウム合金基材1の他に、基材として鉄製、チタン製金属の材料が使用される。
上記した両実施形態を適用したアルミニウム系部材は、内燃機関の燃焼室を構成する部材として使用することができる。内燃機関の燃焼室とは、例えば、ピストン10、シリンダ11及びシリンダヘッド12で囲まれた部分である(図8参照)。より具体的には、ピストン10の上面と、シリンダ11と、シリンダヘッド12の底面とに囲まれる部分である。これらのうち、アルミニウム系部材を用いる部品であるピストン10及びシリンダヘッド11に本実施の形態のアルミニウム系部材を用いて形成すれば、それらの部品の耐久性及び断熱性を向上することができる。このようなシリンダ11は、シリンダブロック13に鋳鉄製のシリンダスリーブ14を鋳込むことにより形成できる。
その他、例えば、シリンダスリーブ14を使用しないスリーブレスの内燃機関の場合、シリンダブロック13のボア内面がシリンダ11となる。したがって、ボア内面に本実施の形態のアルミニウム系部材を使用すれば、耐久性、断熱性、摺動性等を向上することができる。ボア内面にアルミニウム系部材を使用する場合は、合わせてめっき皮膜や溶射皮膜を形成してもよい。
その他、本発明を適用するに適した燃焼室壁面をもつ部品として、アルミ合金製ピストン、マグネ合金製ピストン、鉄系ピストン、アルミ合金製シリンダ、鉄系シリンダ、鉄製スリーブ、アルミ製スリーブ、鉄系バルブ、チタン系バルブなどがある。めっき、溶射、蒸着を用いれば、部品の表面形状に沿って、酸化皮膜2を形成することができる。
また、アルミ合金基材1の形状は、シリンダ内に適用する場合はリング状に形成して該シリンダ内に嵌合するようにし、燃焼室以外の吸気・排気ガス通路に適用する場合は、通路形状に沿って部品に鋳込むようにすれば良い。図8は燃焼上部にリング状アルミ合金を鋳込む、あるいは圧入した場合の断面を示している。
また、シリンダブロック13の燃焼室内側に本発明を適用する場合、アルミ合金製シリンダブロック自身を陽極酸化して酸化皮膜2を形成する方法と、シリンダブロック13とは金属成分が異なる場合に、シリンダブロック13とは別部品として形成し、これをシリンダ11に鋳込む、あるいは圧入するようにしても良い。
さらに、燃焼ガスに触れる面に本発明を適用する場合は、シリンダブロック13のピストンリング15と触れる面を含む全面、あるいは触れない燃焼上部のみ(例えば、シリンダヘッドの燃焼室に臨む面)に本発明を適用すればよい。さらにアルミ合金製シリンダブロック13にアルミ合金(アルミ−シリコン系)を溶射した後、陽極酸化することも可能である。これにより、アルミ合金基材1に求められる機械的な機能とは別の熱的特性に特化した酸化皮膜2を形成することができる。
このように、本実施形態に係るアルミニウム系部材を用いて内燃機関を構成する部材を形成した場合には、本実施形態に係るアルミニウム系部材が低熱伝導性及び低体積比熱容量を達成したものであることから、内燃機関の熱効率を向上させることができる。
さらに、本実施形態に係るアルミニウム系部材の表面構造では、封孔処理工程として、一般的な封孔処理を適用して、酸化皮膜2の表面側の孔を塞ぐようにしても良い。このような封孔処理としては、強塩基性封孔浴、沸騰水封孔、ニッケル塩封孔等が挙げられる。本発明に係る実施形態では、封孔処理工程として、封孔液を、アルミニウム系部材の酸化皮膜の表面に付着させることにより、酸化皮膜の空孔を、封孔液に浸透させる。封孔液は、酸化皮膜の空孔に侵入して空孔中にて化合物を形成する。特に封孔液は、主に酸化皮膜のナノサイズの空孔に侵入して化合物を形成する。
これにより、空孔は封孔生成物で封孔されているので、アルミニウム系部材の表面から酸化皮膜2の内部に熱が伝わり難くなり、断熱性・遮熱性を向上させることができる。さらにまた、アルミニウム系部材の表面に腐食性物質が付着しても、空孔を通じて酸化皮膜2の内部に腐食性物質が伝わりにくいので耐久性を向上させることができる。
強塩基性封孔浴を用いる封孔処理工程では、酸化皮膜2を有するアルミニウム系部材に処理液を塗布やスプレーし、又は、アルミニウム系部材を処理液に浸漬し、空気中で保持してから水洗及び乾燥して行うことが好ましい。また、酸化皮膜2を有するアルミニウム系部材を処理液に浸漬し、0.5分以上で処理液から取り出し、水洗及び乾燥することが好ましい。塗布やスプレーによる封孔処理方法は、部分的に封孔処理することができる。このため、大型部品を処理する場合のように、処理の上で、大型部品を浸漬するための大型の槽は不要とすることができる。
本発明に係るアルミニウム系部材の表面構造によれば、空隙3aはシリコン組成3の内部にできるため、封孔処理の影響を受けにくい。通常封孔処理は酸化皮膜に存在する酸化アルミニウムを水和物に変化させて、酸化アルミニウムの体積膨張によって空孔を埋める。ここで、空隙3aはシリコン組成3の内部にあり、その周囲には酸化アルミニウムが存在しない(少ない)ので、封孔処理等を行なっても空隙3aが埋まりにくい。
その他、酸化皮膜2の表面の孔を塞ぐ方法としては、上記方法の他に封孔処理やシリカコートを行うようにしても良い。例えば、このような方法により封孔処理を行う場合、シリコン組成3の周囲にできる空隙は塞がってしまうが、シリコン組成3の亀裂によって生じる空隙3aは大きく濡れ性も異なるため、塞がることはない。このため、酸化皮膜2に、低密度皮膜を維持したまま、断熱性、遮熱性、耐食性を付与することができる。
さらに、本実施形態では、上記方法により作製された酸化皮膜2の上に、交直重畳により電解処理された緻密な酸化皮膜2をさらに形成するようにしてもよく、もしくは、封孔処理を行う、ポリシラザンなどのシリカ皮膜を作製することで封止するようにしても良い。これにより、酸化皮膜2の強度の補強や、表面のナノ孔やミクロ孔が塞がれ、かつ、平滑な皮膜表面とすることができるため、燃料の付着、未燃物の固着を防止し、高い断熱性/遮熱性及び燃焼ガスの流れを妨げにくくすることができる。さらに、交直重畳層と直流層により多層とすることにより、強度低下を補足することができる。封孔処理、ポリシラザンによっては、垂直方向への封孔が優先的に行われ、かつ、封孔処理したくない水平方向に発生するシリコンの亀裂は埋めないことにより、より効率な皮膜を形成できる。
なお、上記実施形態では、シリコン組成3の内部に存在する空隙3aを、酸化皮膜2の厚み方向に略直交する方向に伸びるものとしたが、本発明はこの「略直交」に限らず、酸化皮膜2の厚み方向に直交にする方向に対して斜め方向に伸びるものでも勿論良く、要は、空隙3aの伸びる方向が酸化皮膜2の厚み方向とは異なる方向であれば良いと理解されれば良い。
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
本願の出願当初の特許請求の範囲に記載されていた各請求項は、以下の通りであった。
請求項1:
質量%で、Siが8.0%以上、かつ、Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeの合計が2.9%以上であり、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム系部材において、前記アルミニウム系部材の表面には多孔質の酸化皮膜を備え、前記酸化皮膜は表面から内部に向かって前記酸化皮膜の厚み方向に伸びる空孔と、前記酸化皮膜の厚み方向に略直交する方向に伸びるシリコン組成の内部に存在する空隙とを少なくとも有するアルミニウム系部材の表面構造。
請求項2:
前記空孔の平均直径よりも前記空隙の前記酸化皮膜の厚み方向の平均長さの方が長いことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項3:
前記アルミニウム系部材に含まれる前記シリコン組成の前記酸化皮膜の厚み方向の長さは1μm以上40μm以下であることを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項4:
前記アルミニウム系部材の前記シリコン組成が30質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項5:
前記酸化皮膜の密度は1.1×10 kg/m 以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項6:
前記酸化皮膜の空隙率は70%以上90%以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項7:
前記酸化皮膜の熱伝導率は0.65W/m・K以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項8:
前記空孔は封孔生成物で封孔されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項9:
前記アルミニウム系部材により内燃機関を構成する部材を形成したことを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
請求項10:
質量%で、Siが8.0%以上、かつ、Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeの合計が2.9%以上であり、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム合金基材を、4.8[A/dm ]以下の電流密度で陽極酸化することで、前記アルミニウム合金基材の表面に多孔質の酸化皮膜を形成する酸化皮膜の形成方法。
1 アルミ合金基材(アルミニウム系部材)
2 陽極酸化皮膜
2a 空孔
3 シリコン組成
3a、2b 空隙
10 ピストン
11 シリンダ
12 シリンダヘッド
13 シリンダブロック
14 シリンダスリーブ
15 ピストンリング

Claims (9)

  1. 質量%で、Siが8.0%以上、かつ、Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeの合計が2.9%以上であり、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム系部材において、前記アルミニウム系部材の表面には多孔質の酸化皮膜を備え、前記酸化皮膜は表面から内部に向かって前記酸化皮膜の厚み方向に伸びる空孔と、前記酸化皮膜の厚み方向に略直交する方向に伸びる共晶シリコンと初晶シリコンの結晶粒の内部に存在する空隙とを少なくとも有し、前記アルミニウム系部材に含まれる前記共晶シリコンと初晶シリコンの結晶粒の前記酸化皮膜の厚み方向の長さは1μm以上40μm以下であるアルミニウム系部材の表面構造。
  2. 前記空孔の平均直径よりも前記空隙の前記酸化皮膜の厚み方向の平均長さの方が長いことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
  3. 前記アルミニウム系部材の前記共晶シリコンと初晶シリコンの結晶粒が30質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
  4. 前記酸化皮膜の密度は1.1×10kg/m以下であることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
  5. 前記酸化皮膜の空隙率は70%以上90%以下であることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
  6. 前記酸化皮膜の熱伝導率は0.65W/m・K以下であることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
  7. 前記空孔は封孔生成物で封孔されていることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
  8. 前記アルミニウム系部材により内燃機関を構成する部材を形成したことを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のアルミニウム系部材の表面構造。
  9. 質量%で、Siが8.0%以上、かつ、Cu、Ni、Mg、Mn、Zn、及びFeの合計が2.9%以上であり、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるアルミニウム合金基材を、4.8[A/dm]以下の電流密度で陽極酸化し、前記アルミニウム系合金基材に含まれる共晶シリコンと初晶シリコンの結晶粒の前記酸化皮膜の厚み方向の長さを1μm以上40μm以下とする前記アルミニウム合金基材の表面に多孔質の酸化皮膜を形成する酸化皮膜の形成方法。
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