JP5718774B2 - ピストン - Google Patents

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Description

本発明は、内燃機関を構成するピストンに関するものである。
ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関は、主にエンジンブロックとシリンダヘッド、およびピストンから構成されており、その燃焼室は、シリンダブロックのボア面と、このボアに組み込まれたピストンの頂面と、シリンダヘッドの底面と、シリンダヘッドに開設された吸気ポートと排気ポートに配設された吸気バルブおよび排気バルブの底面から画成されている。昨今の内燃機関に要求される高出力化にともなってその冷却損失を低減することが重要になってくるが、この冷却損失を低減する方策の一つとして、燃焼室の内壁にセラミックスからなる遮熱膜を形成する方法を挙げることができる。
しかし、上記するセラミックスは一般に低い熱伝導率を有し、かつ高い熱容量を有することから、定常的な表面温度上昇による吸気効率の低下やノッキング(燃焼室内に熱が篭ることに起因する異常燃焼)が発生するために燃焼室の内壁への被膜素材として普及していないのが現状である。
このことから、燃焼室の壁面に形成される遮熱膜は、耐熱性と断熱性は勿論のこと、低熱伝導率と低熱容量の素材から形成されるのが望ましい。さらに、この低熱伝導率および低熱容量であることに加えて、燃焼室内での燃焼時の爆発圧や噴射圧、熱膨張と熱収縮の繰り返し応力に耐え得る素材から遮熱膜が形成されること、およびピストンやシリンダヘッド等の母材への密着性が高い素材から遮熱膜が形成されることが望ましい。
このように低熱伝導率かつ低熱容量の遮熱膜を備えたエンジン燃焼室構造が特許文献1に開示されている。ここで開示される遮熱膜は、低熱伝導率かつ低熱容量に加えて、壁面からの剥離や脱落がなく、耐久性や信頼性に優れたものとするべく、膜厚が20μmより大きくて500μm以下であり、かつ気孔率が20%以上の陽極酸化被膜となっている。
ところで、燃焼室内に送り込まれる燃料ガス(直噴ガソリンエンジン、直噴ディーゼルエンジンの場合には燃焼室内に別途のタイミングで送り込まれる空気と燃料)は、1サイクルにおける燃焼行程(着火)や排気行程(膨張)の際には高温を保ち、吸気・圧縮行程の際には燃焼室壁によって温められることで燃費や出力効率が向上する。中でも、ピストンの頂面の一部には燃料ガスが直接噴射されることから、上記する燃焼室を構成する各種壁面の中でも特にピストンの頂面には壁温がガス温に追従し易くなるように低熱伝導率でかつ低熱容量の遮熱膜が形成されているのが望ましい。
すなわち、ピストンの頂面に低熱伝導率でかつ低熱容量の遮熱膜が形成されていることにより、車両の定常走行時には高燃費かつ高効率なエンジン性能が期待できる。
一方、車両の始動時においては、ピストンの頂面に低熱伝導率かつ低熱容量の遮熱膜が形成されていることによって始動直後の燃料蒸発が促進され難く、混合気を十分に形成し難いとともに、ディーゼルエンジンの場合にはPM(煤煙、粒子状物質)の発生が、ガソリンエンジンの場合にはHC等の発生がそれぞれ生じ易くなってしまう。
すなわち、このことはピストンの頂面が低熱伝導率かつ低熱容量の遮熱膜で被覆されたことの背反事象であり、遮熱膜によって壁温がガス温に追従し易く、したがって温度が上昇し難いために燃料蒸発が促進され難く、これらの物質が発生し易くなっているのである。
これらのことより、車両の定常走行時には高燃費かつ高効率なエンジン性能の発揮に供し、車両のエンジン始動時には温度を上昇し易くしてHCやPMの発生を効果的に解消することのできる陽極酸化被膜を具備したピストンの開発が切望されている。
特開2010−249008号公報
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、車両の定常走行時には高燃費かつ高効率なエンジン性能の発揮に供し、車両のエンジン始動時には温度を上昇し易くしてHCやPMの発生を効果的に解消することのできる陽極酸化被膜を具備したピストンを提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく、本発明によるピストンは、内燃機関を構成するピストンであって、前記ピストンの頂面には、低熱伝導率で低熱容量の陽極酸化被膜が形成されており、前記陽極酸化被膜のうち、燃料噴射領域の表面には該陽極酸化被膜よりも相対的に熱容量の高い金属被膜が配されているものである。
本発明のピストンを具備する内燃機関はガソリンエンジンやディーゼルエンジンのいずれを対象としたものであってもよく、その構成は既述するように、エンジンブロックとシリンダヘッドとピストンから主として構成され、その燃焼室は、シリンダブロックのボア面と、このボアに組み込まれた本発明にかかるピストンの頂面と、シリンダヘッドの底面と、シリンダヘッド内に配設された吸気バルブおよび排気バルブの底面から画成されている。
また、内燃機関の燃焼室を構成する母材は、アルミニウムや、鋼、チタン、ニッケル、銅やそれらの合金を挙げることができ、陽極酸化被膜からなる遮熱膜が燃焼室に臨む壁面の一部もしくは全部に形成されている。たとえばアルミニウムやその合金を母材とする壁面に形成されている陽極酸化被膜はアルマイトとなる。
上記するピストンは、車両の定常走行時において高燃費かつ高効率なエンジン性能に寄与するべく、その頂面の全面に低熱伝導率でかつ低熱容量の陽極酸化被膜が形成されている。
この陽極酸化被膜は多数の気孔をその内部に有しており、また、このように多数の気孔を具備することによって低熱伝導率かつ低熱容量を有し、さらに、スイング特性(断熱性能を具備しながらも、燃焼室内のガス温度に被膜の温度が追随する特性)を有する遮熱膜となる。
ここで、本明細書において「低熱伝導率」とは、λ=0.4(W/mK)以下の熱伝導率のことを意味している。
また、同様に本明細書において「低熱容量」とは、これを体積比熱容量で表した際に、1200(kJ/m3K)程度以下の体積比熱容量のことを意味している。
このように、本発明にかかるピストンはその頂面において低熱伝導率かつ低熱容量を有することにより、車両の定常走行時において高燃費かつ高効率なエンジン性能に寄与するものであることに加えて、ピストンの頂面のうち、シリンダヘッドの底面に臨む吸気バルブに対向する領域の一部、すなわち、混合ガス等が直接噴射される領域である燃料噴射領域において、陽極酸化被膜よりも相対的に熱容量の高い金属被膜が配されている。
ピストンの頂面はある一定の平面積を有しているが、仮にこの燃料噴射領域の全面が熱容量の高い金属被膜でカバーされてしまうと、車両の定常走行時においてピストン頂面から熱引けが阻害され、吸気効率の低下やノッキングの発生といった問題が生じてしまう。
そこで、ピストン頂面の中でも燃料が直接噴射される燃料噴射領域において、陽極酸化被膜よりも相対的に熱容量の高い金属被膜を配するようにしている。
この金属被膜としては、無電解ニッケルめっき被膜や無電解銅めっき被膜、無電解金めっき被膜といった無電解めっき被膜を挙げることができる。そして、ニッケルの体積比熱容量は約4000(kJ/m3K)、銅が約3400(kJ/m3K)、金が約2600(kJ/m3K)と、陽極酸化被膜(アルマイト被膜)に比して2〜4倍程度も熱容量が高い。
また、金属被膜の厚みが20〜200μmの範囲であるのが好ましい。
本発明者等によれば、金属被膜の厚みが20μm以上となることで車両の始動直後の燃料蒸発が促進され易い熱容量が得られ、十分に燃料気化が促進すること、および、200μm以下となることで陽極酸化被膜の有する低熱伝導率でかつ低熱容量という特性が阻害され難いことが特定されている。
また、前記陽極酸化被膜は気孔を有し、該陽極酸化被膜の厚みが100〜500μmの範囲であり、かつ気孔率が15〜40%の範囲であるのが好ましい。
本発明者等によれば、断熱性能を有する陽極酸化被膜の厚みが100μmを下回ると燃焼サイクル中の被膜表面の温度上昇が不十分で断熱性能が不十分となり、後述する燃費改善を達成できない。この燃費改善性能を保証するための最低限の厚みを100μmに規定したものである。一方、陽極酸化被膜の厚みが500μmを超えてしまうと、今度はその熱容量が大きくなってしまい、陽極酸化被膜自体が熱を溜め易くなってしまうことで、スイング特性(断熱性能を具備しながらも、燃焼室内のガス温度に陽極酸化被膜の温度が追随する特性)が阻害されることもまた本発明者等によって特定されている。尤も、500μmより厚いアルマイト等を成膜すること自体極めて困難であることから、製造効率性、製造容易性の観点からも陽極酸化被膜の厚みの上限は500μmとなる。
また、本発明者等によれば、陽極酸化被膜の厚みが100〜500μmの範囲であることに加えて、気孔率15〜40%を有していることで、たとえば乗用車用の小型過給直接噴射ディーゼルエンジンであって、機関回転数が2100rpm、図示平均有効圧力が1.6MPa相当の燃費最良点において、最大5%の燃費向上が得られることが見積もられている(ピストン頂面のみならず、内燃機関を構成する全壁面の陽極酸化被膜がこの数値範囲に調整されている内燃機関で検証)。ここで、5%の燃費向上というのは、実験の際に、計測誤差として埋もれることなく、明らかに有意な差として燃費向上が証明できる値である。また、燃費向上と同時に、遮熱によって排気ガス温度が約15℃上昇することが見積もられているが、この排気ガス温度の上昇は、実機においてはスタート直後におけるNO低減触媒の暖気時間を短縮することに有効であり、NO浄化率が向上してNO低減が確認できる値である。
一方、陽極酸化被膜の熱特性を評価する際におこなわれる冷却試験(急冷試験)では、片面のみに陽極酸化被膜を施したテストピースを用い、背面(陽極酸化被膜を施していない面)を所定の高温噴流で加熱し続けながら、テストピースの正面(陽極酸化被膜を施している面)から所定温度の冷却エアーを噴射してテストピースの正面温度を低下させてその温度を測定し、被膜表面温度と時間からなる冷却曲線を作成して、温度降下速度を評価するものである。この温度降下速度は、たとえば被膜表面温度が40℃低下するのに要した時間をグラフから読み取り、40℃降下時間として評価するものである。テストピースの気孔率を種々変化させて急冷試験を実施してそれぞれのテストピースにおける40℃降下時間を測定し、たとえば気孔率と40℃降下時間で規定される複数のプロットに関して近似曲線を作成する。そして、上記する5%の燃費向上率に対応する40℃降下時間の値(たとえば45msec)とこの近似曲線の交点からその気孔率を読取ると、これが15%になることが本発明者等によって特定されている。なお、40℃降下時間が短いほど、被膜の熱伝導率および熱容量が低く、燃費向上効果が高い。
一方、気孔率を種々変化させて陽極酸化被膜のテストピースを作成し、それぞれのマイクロビッカース硬さを測定して気孔率とマイクロビッカース硬さで規定される複数のプロットに関して近似曲線を作成する。燃焼室の母材がアルミニウムからなる場合に、成膜されるアルマイトの硬さは母材であるアルミニウムよりも硬いのが望ましいことより、アルミニウムのマイクロビッカース硬さを閾値として上記近似曲線とこの閾値から決定される気孔率を読取ると、これが40%になることが本発明者等によって特定されている。
このように、冷却試験、マイクロビッカース硬さ試験、および5%の燃費向上率から、陽極酸化被膜の気孔率の範囲を15〜40%の範囲に規定したものである。
また、上記する金属被膜を形成するに当たり、多数の気孔を具備する陽極酸化被膜は封孔処理され、気孔が陽極酸化被膜の表面に臨んでいない構造を形成するのが好ましい。
陽極酸化被膜が具備する気孔は、ナノサイズの微小孔であり、マイクロサイズの亀裂等の空隙は封孔処理によって封止され難い。すなわち、ここでいう封孔処理の対象となる気孔はナノサイズの微小孔のことであり、この微小孔が多数存在することによって良好なスイング特性を保証することができる。
この封孔処理としては、たとえば、加圧水蒸気内に陽極酸化被膜を載置する方法や、沸騰水中に陽極酸化被膜を浸漬する方法、無機物もしくは有機物を含有する溶媒中に陽極酸化被膜を浸漬する方法などを挙げることができる。いずれの方法であっても、当初のナノ孔の周囲が熱膨張してナノ孔の内部に膨張でできた被膜が形成され、ナノ孔を構成するナノサイズの気孔をこの膨張被膜で画成し、陽極酸化被膜の内部に多数のナノサイズの気孔を確保することができる。
以上の説明から理解できるように、本発明のピストンによれば、その頂面の全面に低熱伝導率でかつ低熱容量の陽極酸化被膜が形成されており、さらに、ピストンの頂面のうちでシリンダヘッドの底面に臨む吸気バルブに対向する領域である燃料噴射領域に陽極酸化被膜よりも相対的に熱容量の高い金属被膜が配されていることにより、車両の定常走行時においては高燃費で高効率なエンジン性能に寄与するピストンとなり、車両の始動時においてはピストン頂面や燃焼室内の速やかな温度上昇に寄与してHCやPM等の発生を抑止することのできるピストンとなる。
本発明の内燃機関の一実施の形態の縦断面図である。 図1のII矢視図であって、ピストンの頂面に形成された陽極酸化被膜および金属被膜の一実施の形態を示す平面図である。 陽極酸化被膜と金属被膜の縦断面を拡大した図である。 (a)は冷却試験の概要を説明する模式図であり、(b)は冷却試験結果に基づく冷却曲線とこれから割り出される40℃降下時間を示す図である。 燃費向上率と冷却試験における40℃降下時間の相関グラフを示す図である。 40℃降下時間と気孔率の相関グラフを示す図である。 マイクロビッカース硬さと気孔率の相関グラフを示す図である。 ピストン頂面の熱容量と燃料蒸発までに要するサイクル数を検証した実験結果を示すグラフである。
以下、図面を参照して本発明のピストンの実施の形態とこのピストンを具備する内燃機関を説明する。
(内燃機関およびピストンの実施の形態)
図1は内燃機関の一実施の形態の縦断面図を示すものであり、図2は図1のII矢視図であって、ピストンの頂面に形成された陽極酸化被膜および金属被膜の一実施の形態を示す平面図である。
図示する内燃機関10は筒内直接噴射式ガソリンエンジンをその対象としたものであり、その内部に不図示の冷却水ジャケットが形成されたシリンダブロック2と、シリンダブロック2上に配設されたシリンダヘッド1と、シリンダヘッド1内に画成された吸気ポート1bおよび排気ポート1cとそれらが燃焼室NSに臨む開口に昇降自在に装着された吸気バルブ1dおよび排気バルブ1eと、シリンダヘッド1の底面1aの中央位置もしくは略中央位置で燃焼室NSに臨む点火プラグ4と、シリンダヘッド1の底面1aの側方位置で燃焼室NSに臨むインジェクター7と、シリンダブロック2の下方開口から昇降自在に形成されたピストン3から大略構成されている。なお、本発明の内燃機関がディーゼルエンジンを対象としたものであってもよいことは勿論のことである。
この内燃機関10を構成する各構成部材はともにアルミニウムもしくはその合金から形成されている。なお、構成部材がアルミニウムもしくはその合金以外の素材で形成され、かつ、構成部材の表面がアルミニウムもしくはその合金にてアルミ化されている形態であってもよい。
内燃機関10を構成する、シリンダブロック2のボア面2aと、シリンダヘッド1の底面1aと、ピストン3の頂面3aから燃焼室NSが画成される。
同図で示す内燃機関10においては、ピストン3の頂面3aの全面と、シリンダヘッド1の底面1a、吸気バルブ1dおよび排気バルブ1eの底面1aのそれぞれに遮熱膜であるアルマイト被膜5が形成されている。
このアルマイト被膜5は、図3で示すように、その内部に多数のナノサイズの気孔5aを有し、かつ、その表面付近が封孔処理されて封孔部5bを有している。アルマイト被膜5がこのように多数のナノサイズの気孔5aを具備することで、低熱伝導率かつ低熱容量を有し、さらに、スイング特性(断熱性能を具備しながらも、燃焼室内のガス温度に被膜の温度が追随する特性)を有する遮熱膜となる。
ここで、アルマイト被膜5の厚みt1としては、たとえば100〜500μmの範囲であるのが好ましい。断熱性能を有する陽極酸化被膜の厚みを100μm以上とすることで燃焼サイクル中の被膜表面の温度上昇が十分となって断熱性能も良好となり、十分な燃費改善効果を期待できるし、陽極酸化被膜の厚みを500μm以下とすることで熱容量が大きくなるのを抑制でき、陽極酸化被膜自体が熱を溜め易くなることを防止して良好なスイング特性を保証することができる。
このように、図示するピストン3は、その頂面3aにおいて低熱伝導率かつ低熱容量を有するアルマイト被膜5を具備することにより、車両の定常走行時において高燃費かつ高効率なエンジン性能に寄与するものとなる。
さらに図示するピストン3においては、その頂面3aの全面にアルマイト被膜5が形成されていることに加えて、燃料噴射領域Ainにおいて、図2でその平面形状を示すように略円形の金属被膜6が形成されている。
ここで、「燃料噴射領域Ain」とは、インジェクター7から燃焼が送り込まれた際に、ピストン3の頂面3aにおいてこの送り込まれた燃料が直接噴射される領域やさらにその周辺の一定領域までをも含んだ領域のことである。
ピストン3の頂面3aのうち、シリンダヘッド1の底面1aに臨む吸気バルブ1dに対向する領域、すなわち、混合ガス等が直接噴射される領域である燃料噴射領域Ainにおいて、アルマイト被膜5よりも相対的に熱容量の高い金属被膜6が配されている。
同図からも明らかなように、ピストン3の頂面3aにおいて燃料噴射領域Ainはある一定の平面積を有しているが、仮にこの燃料噴射領域Ainの全面が金属被膜で完全にカバーされてしまうと、車両の定常走行時においてこの燃料噴射領域Ainにおける熱引けが阻害され、吸気効率の低下やノッキングの発生といった問題が懸念される。
このことから、アルマイト被膜5よりも相対的に熱容量の高い金属被膜6を燃料噴射領域Ainの全面ではなくて、その燃料噴射領域のみに配するようにしている。
ここで、金属被膜6としては、無電解ニッケルめっき被膜や無電解銅めっき被膜、無電解金めっき被膜といった無電解めっき被膜を挙げることができる。なお、ニッケルの体積比熱容量は約4000(kJ/m3K)、銅が約3400(kJ/m3K)、金が約2600(kJ/m3K)と、陽極酸化被膜(アルマイト被膜)に比して2〜4倍程度も熱容量が高い。
また、図3で示す金属被膜の厚みt2は20〜200μmの範囲であるのが好ましい。
以下で示す本発明者等の検証によれば、金属被膜の厚みが20μm以上となることで車両の始動直後の燃料蒸発が促進され易い熱容量が得られ、燃料気化が十分となること、および、200μm以下となることで陽極酸化被膜の有する低熱伝導率でかつ低熱容量という特性が阻害され難いことが特定されている。
燃料噴射領域Ainのアルマイト被膜5の表面の一部にこれよりも相対的に熱容量の高い金属被膜6が配されていることにより、車両の始動時においては、この金属被膜6によってピストン3の頂面3aや燃焼室NS内の速やかな温度上昇を図ることができ、HCやPM(ディーゼルエンジンの場合)の発生を効果的に抑止することができる。
すなわち、図示するピストン3によれば、その頂面3aの全面に低熱伝導率でかつ低熱容量のアルマイト被膜5が形成され、さらに、その頂面3aのうちでシリンダヘッド1の底面1aに臨む吸気バルブ1dに対向する領域である燃料噴射領域Ainにアルマイト被膜5よりも相対的に熱容量の高い金属被膜6が配されていることにより、車両の定常走行時においては高燃費で高効率なエンジン性能に寄与するピストン3となり、車両の始動時においてはピストン3の頂面3aや燃焼室NS内の速やかな温度上昇に寄与してHCやPM等の発生を抑止することができるものとなる。
[気孔率範囲を特定する実験とその結果]
本発明者等は、冷却試験とマイクロビッカース硬さ試験、および燃費向上率から陽極酸化被膜における最適な気孔率範囲を特定する実験をおこなった。まず、冷却試験の実施に当たり、表1で示す成分組成のアルミニウム合金を使用して鋳造体を製作し、これを厚み1mmで切り出してテストピースを製作した。このテストピースの片面に陽極酸化被膜を成膜したものを使用して冷却試験を実施した。
Figure 0005718774
冷却試験の概要は、図4aで示すように、片面のみに陽極酸化被膜を施した試験体TPを用い、背面(陽極酸化被膜を施していない面)を750℃の高温噴射で加熱して(図中のHeat)テストピースTPの全体を250℃程度に安定させ、予め所定の流速で室温噴流を流しておいたノズルをリニアモーターでテストピースTPの正面(陽極酸化被膜を施している面)に移動させて冷却を開始する(25℃の冷却エアー(図中のAir)を提供するものであり、この際に背面の高温噴射は継続する)。テストピースTPの陽極酸化被膜表面の温度をその外部にある放射温度計で測定し、その冷却時の温度低下を測定して、図4bで示す冷却曲線を作成する。この冷却試験は燃焼室内壁の吸気行程を模擬した試験方法であり、加熱された断熱被膜表面の冷却速度を評価するものである。なお、低熱伝導率で低熱容量の断熱被膜の場合には急冷速度が速くなる傾向を示す。
作成された冷却曲線から40℃低下するのに要する時間を読み取り、40℃降下時間として被膜の熱特性を評価する。
本実験では、図4bで示すように250℃程度で安定した100msから正面冷却を開始し、40℃降下時間として45msが測定されている。
一方、本発明者等によれば、実験の際に、計測誤差として埋もれることなく燃費向上率を明確に証明でき、かつ、排気ガス温度の上昇によってNO低減触媒の暖気時間を短縮し、NO低減を実現できる値として燃費向上率5%を本発明の内燃機関の燃焼室を構成する陽極酸化被膜の性能によって達成する一つの目標値とし、これを達成するための気孔率の範囲を特定する。ここで、図5には、本発明者等によって特定されている燃費向上率と冷却試験における40℃降下時間の相関グラフを示している。
燃費向上率8%、5%、2.5%、1.3%に対応する40℃降下時間を求めた結果に基づいて図5で示すごとく近似曲線(2次曲線)が作成される。なお、燃費向上率5%に対応する40℃降下時間は図4bで特定された45msに一致している。
ここで、冷却試験と気孔率の関係、マイクロビッカース硬さと気孔率の関係を示す各相関グラフの作成に当たり、以下の表2で示す比較例1〜5、実施例1〜4の9種類の気孔率の相違する陽極酸化被膜のテストピースを作成した。各テストピースの陽極酸化被膜厚、気孔率、マイクロビッカース硬さ、および40℃降下時間に関する測定結果を表2に示す。なお、マイクロビッカース硬さ試験では、陽極酸化被膜の断面中央部のマイクロビッカース硬さを測定するものとし、測定荷重を0.025kgで各テストピースともに5点の測定点の平均値をマイクロビッカース硬さとしている。
Figure 0005718774
冷却試験と気孔率の関係を特定するに当たり、比較例1〜5および実施例1〜4の各テストピースに対して図4aで示す方法で実験をおこない、その結果を図6のようにプロットしてその近似曲線を求めた。近似曲線と燃費向上率1%、2%、5%に相当する40℃降下時間(1%は110msec、2%は80msec、5%は45msec)、およびアルミ母材の40℃降下時間閾値(440msec)をともに図6に示している。
図6および表2より、燃費向上率5%に相当する40℃降下時間閾値となる45msecと各テストピースの近似曲線との交点の気孔率は15%であり、これを陽極酸化被膜の気孔率の数値限定範囲の下限値に規定する。なお、表2より、比較例1〜3の各テストピースはともに40℃降下時間が45msecを超えており、これらの陽極酸化被膜では燃費向上率5%を達成するのが困難であることが実証されている。
また、図7には、各テストピースのマイクロビッカース硬さおよび気孔率をプロットし、これらの近似曲線を示すとともに、アルミ母材の硬さの閾値範囲であるHV0.025:110〜150の範囲をグレーで示している。
図7および表2より、近似曲線と母材であるアルミニウムのマイクロビッカース硬さ110の交点の気孔率は40%であり、これを陽極酸化被膜の気孔率の数値限定範囲の上限値に規定する。
以上の結果から、内燃機関の燃焼室の壁面に形成されるアルマイト(陽極酸化被膜)の気孔率の最適範囲を15〜40%の範囲に規定することができる。
[ピストン頂面の熱容量と燃料蒸発までに要するサイクル数を検証した実験と結果]
本発明者等は、内燃機関を構成するピストン頂面のアルマイト被膜の厚みやさらにその燃料噴射領域における金属被膜の厚みを種々変化させ、ピストン頂面の熱容量と燃料蒸発までに要するサイクル数を検証した。
まず、アルマイト被膜を形成する陽極酸化処理としては、0℃で20%硫酸を電解液として使用し、電流密度が90(mA/cm2)、処理時間1時間で膜厚が100〜500μmのアルマイト被膜を形成する。なお、以下の表3で示す比較例12は、処理時間を1時間超として被膜成長を促進させた。
ピストン頂面にアルマイト被膜が形成されたら、封孔処理としてイオン交換水を95℃以上に加熱したものの中に陽極酸化処理されたピストンを30分浸漬した。
アルマイト被膜の封孔処理をおこなった後、燃料噴射領域以外をマスキングし、脱脂し、Pd触媒(Pd−Sn錯体)を塗布し、活性化処理(アクセレーター)して無電解ニッケルめっき処理をおこなった。このめっき処理においても、処理時間を調整することにより、実施例の20〜200μm、比較例の10μm、300μmの膜厚の金属被膜を形成した。以下、表3に実施例5〜8、比較例6〜12の特性値、表4に高強度アルミの成分組成をそれぞれ示す。また、図8にピストン頂面の熱容量と燃料蒸発までに要するサイクル数を検証した実験結果を示す。
Figure 0005718774
Figure 0005718774
実験の結果、比較例6は金属被膜がないことから、燃料蒸発に必要な熱容量が得られず、燃料気化が不十分となっている。
比較例7は、金属被膜の厚みが10μmと薄過ぎるため、比較例6と同様に燃料蒸発に必要な熱容量が得られず、燃料気化が不十分となっている。
比較例8は、金属被膜の厚みが300μmと厚過ぎるため、陽極酸化被膜の有する低熱伝導率でかつ低熱容量といった特性による効果が発揮できず、燃費改善を図ることができない。
比較例9、10はともに、陽極酸化被膜を具備していないことから燃費改善を図ることができない。
比較例11は、陽極酸化被膜の厚みが50μmと薄過ぎるため、陽極酸化被膜の有する特性による効果が発揮できず、燃費改善を図ることができない。
比較例12は、陽極酸化被膜の厚みが550μmと厚過ぎるため、陽極酸化被膜自体が熱を溜め易く、スイング特性が阻害されている。
これら比較例6〜12に対し、実施例5〜8は図8の領域Aに包含され(領域A中の比較例12はノッキングが発生している)、比較的少ないサイクル数で燃料蒸発に必要な熱容量を有するピストンとなっている。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
1…シリンダヘッド、1a…底面、1b…吸気ポート、1c…排気ポート、1d…吸気バルブ、1e…排気バルブ、2…シリンダブロック、2a…ボア面、3…ピストン、3a…ピストンの頂面、4…点火プラグ、5…陽極酸化被膜(アルマイト被膜)、5a…気孔、5b…封孔部、6…金属被膜、7…インジェクター、Ain…燃料噴射領域、NS…燃焼室

Claims (5)

  1. 内燃機関を構成するピストンであって、
    前記ピストンの頂面には、低熱伝導率で低熱容量の陽極酸化被膜が形成されており、
    前記陽極酸化被膜のうち、燃料噴射領域の表面には該陽極酸化被膜よりも相対的に熱容量の高い金属被膜が配されているピストン。
  2. 前記金属被膜の厚みが20〜200μmの範囲である請求項1に記載のピストン。
  3. 前記金属被膜が無電解ニッケルめっき被膜、無電解銅めっき被膜、無電解金めっき被膜のいずれか一種からなる請求項1または2に記載のピストン。
  4. 前記陽極酸化被膜は気孔を有し、該陽極酸化被膜の厚みが100〜500μmの範囲であり、かつ気孔率が15〜40%の範囲である請求項1〜3のいずれかに記載のピストン。
  5. 前記陽極酸化被膜は封孔処理によって前記気孔が該陽極酸化被膜の表面に臨んでいない請求項1〜4のいずれかに記載のピストン。
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