JP6369748B2 - アルミニウム部材の表面被覆方法及び表面被覆アルミニウム部材並びに内燃機関用ピストン - Google Patents

アルミニウム部材の表面被覆方法及び表面被覆アルミニウム部材並びに内燃機関用ピストン Download PDF

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本発明は、アルミニウム部材の表面被覆方法及び表面被覆アルミニウム部材並びに内燃機関用ピストンに関する。
従来より、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる部材(以下、アルミニウム部材という。)には、断熱性が求められている。例えば、内燃機関のエンジンの燃焼室を形成する部品又は内燃機関用ピストンの一部(以下、燃焼室の一部ともいう。)にこのようなアルミニウム部材が用いられる場合には、燃焼室内の熱効率の向上を目的として部材に皮膜を形成して断熱性を向上させることが要求されている。
このような方法として、燃焼室のアルミニウム部材からなるシリンダヘッドの底面に陽極酸化皮膜を遮熱膜として形成することにより点火プラグ近傍に断熱性を付与し、且つ、点火プラグから遠ざかるにつれて遮熱膜の膜厚を漸次薄くすることにより、異常燃焼であるノッキングを抑制することが開示されている(特許文献1)。また、燃焼室のアルミニウム部材からなる壁面の少なくとも一部に陽極酸化皮膜を遮熱膜として形成し、吸気バルブ側の領域における壁面の少なくとも一部の遮熱膜の断熱性能を、排気バルブ側の領域における壁面の遮熱膜よりも高くすることが開示されている(特許文献2)。
特開2012−159059号公報 特開2013−24143号公報
内燃機関のピストンのように、燃焼室の全体に遮熱板を設けると、燃焼室内において全体的に熱が籠り、熱が逃げ難くなる。特に高負荷時において、ノッキングが発生しやすくなる。このようなノッキングを抑制するためには、断熱性と壁面温度を速やかに均一にする均熱性とを両立させる必要がある。
前記課題に照らして、本発明は、高い断熱性と高い均熱性と両立させて備えるアルミニウム部材の表面被覆方法及び表面被覆アルミニウム部材並びに内燃機関用ピストンを提供することを目的とする。
本発明に係る表面被覆アルミニウム部材の一態様は、アルミニウム部材の表面に第一の皮膜と、前記第一の皮膜の表面に前記第一の皮膜より熱伝導率が高い第二の皮膜とを少なくとも備えることを特徴としている。
また、本発明に係るアルミニウム部材の表面被覆方法の一態様は、アルミニウム部材に交直重畳電解を印加することにより、第2の陽極酸化皮膜を形成する工程と、前記アルミニウム部材に直流電解を印加することにより、第1の陽極酸化皮膜を形成する工程と、前記第2の陽極酸化皮膜の表面に、所定の成膜法を用いて、前記第1の陽極酸化皮膜及び前記第2の陽極酸化皮膜よりも熱伝導率が高い皮膜を形成する工程と、
を備えることを特徴としている。
本発明によれば、高い断熱性と高い均熱性とを両立させて備えるアルミニウム部材の表面被覆方法及び表面被覆アルミニウム部材並びに内燃機関用ピストンを得ることができる。
図1は、本発明に係るアルミニウム部材の表面被覆方法及び表面被覆アルミニウム部材について、表面被覆アルミニウム部材を概略的に示す断面図である。 図2は、本発明に係るアルミニウム部材の表面被覆方法及び表面被覆アルミニウム部材並びに内燃機関用ピストンについて、第一の皮膜を形成するために使用される陽極酸化処理装置を概略的に示す構成図である。 図3は、本発明に係るアルミニウム部材の表面被覆方法について、第一の皮膜及び第二の皮膜の形成方法を説明するための概略的なフロー図である。 図4は、アルミニウム部材の表面被覆方法及び表面被覆アルミニウム部材並びに内燃機関用ピストンについて、試験例の試験片の断面写真である。
[表面被覆アルミニウム部材の実施の形態]
本発明に係る表面被覆アルミニウム部材の一実施の形態について、添付図面を参照してさらに詳細に説明する。図1は、本実施の形態の表面被覆アルミニウム部材を示す概略的な断面図である。図1に示すように、表面被覆アルミニウム部材は、アルミニウム部材1と、第一の皮膜2と、第二の皮膜3と、を備えている。なお、アルミニウム部材1が不純物及び/又は添加物としてシリコンを含む場合、シリコン5が第一の皮膜2により内包されている。表面被覆アルミニウム部材は、燃焼室の一部に適用されることが好ましい。この場合、燃焼室に要求される高い断熱性と高い均熱性に加えて、耐食性、耐衝撃性、耐久性、撥水性、撥油性等の複数の性能を付与することができる。
アルミニウム部材1は、その表面が第一の皮膜2及び第二の皮膜3により被覆されている。アルミニウム部材1として、アルミニウムの他、シリコン、銅等の合金成分を含むアルミニウム合金又はそれらを含有するアルミ展伸材、アルミ鋳造材、アルミダイカスト材(ADC)等のアルミニウム合金が挙げられ、それらを部品等に加工した加工品も含んでいる。より具体的には、AC4、AC8、AC8A、AC9等のAC材、ADC10〜ADC14等のADC材、A1000〜A7000等のアルミニウム合金である。なお、本実施の形態において燃焼室の一部に要求される「断熱性」とは、内燃機関の燃焼部から外側且つ/又は外側から燃焼部への熱を断熱する性能及び/又は機能を意味している。
アルミニウム部材1は、不純物及び/又は添加物を含有してもよい。前記不純物及び/又は添加物としては、シリコン(Si)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、錫(Sn)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)等が挙げられる。これら不純物及び/又添加物は、アルミニウム部材に対して8質量%以上30質量%以下であることが好ましい。アルミニウム部材1には、アルミニウム以外の不純物元素が含まれており、前記不純物元素の周囲は陽極酸化皮膜が成長し難いため、陽極酸化皮膜である第一の皮膜2にはミクロな気孔(隙間)が形成されやすい。なお、本実施の形態では、不純物として、アルミニウム部材1の鋳造性や耐摩耗性等を高めるために添加されるシリコン5を例示している。
第一の皮膜2は、アルミニウム部材1の表面上に設けられて、第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとを備えている。第一の皮膜2は、アルミニウム部材1に対して高い断熱性、耐食性、耐衝撃性、耐久性、撥水性、撥油性等の複数の機能を付与している。また、第一の皮膜2は、主に表面被覆アルミニウム部材の断熱膜として機能するように構成されている。
第1の陽極酸化皮膜2aは、直流電解を印加してアルミニウム部材1の表面上に設けられた多孔質の皮膜である。第1の陽極酸化皮膜2aは、直流電解法により規則正しい配向性を有している。このため、第1の陽極酸化皮膜2aは、第2の陽極酸化皮膜2bよりも多くの気孔(第1の気孔)を有して、その空隙率が高くなるよう構成されている。また、前記第1の気孔は、シリコン5等の存在によっても形成されている。
第1の陽極酸化皮膜2aは、及び内部に数多く存在する第1の気孔内の空気の熱伝導率が低いため、第2の陽極酸化皮膜2bよりも高い断熱性を有している。また、第1の陽極酸化皮膜2aは耐食性を有しているため、アルミニウム部材1を腐食させる要因となる物質がアルミニウム部材1まで到達することを防ぐことができる。第1の陽極酸化皮膜2aは、アルミニウム部材1に対して高い断熱性及び耐食性を付与し、且つ、第2の陽極酸化皮膜2bと共働して信頼性の高い断熱性能及び耐食性能を付与している。
第2の陽極酸化皮膜2bは、交直重畳電解を印加してアルミニウム部材1の表面上に設けられた多孔質の皮膜である。第2の陽極酸化皮膜2bは、複数の気孔(第2の気孔)を有している。また、前記第2の気孔は、シリコン5等の存在によっても形成されている。第2の陽極酸化皮膜2bは、交直重畳電解法により、ランダム配向に起因した緻密性を有している。すなわち、第2の陽極酸化皮膜2bは、アルミニウム部材1の表面に対してランダムな方向に成長した配向性を持たない陽極酸化皮膜である。
このため、第2の陽極酸化皮膜2bは、第1の陽極酸化皮膜2aよりも耐食性が高く、アルミニウム部材1を腐食させる要因となる物質、例えば水がアルミニウム部材1まで到達することを防ぐことができる。より具体的には、前記第2の気孔がランダムな方向を向いているため、一方向の圧力下にて腐食の原因となる物質水が一度に多くの孔に浸入することも防止できる。なお、「緻密」とは、第2の陽極酸化皮膜2bの空隙率が第1の陽極酸化皮膜2aよりも小さいことを意味している。
第2の陽極酸化皮膜2bは、第1の陽極酸化皮膜2aの第1の気孔を塞ぐことなく、蓋のように覆うことにより、第1の陽極酸化皮膜2aの断熱性を向上させている。すなわち、第2の陽極酸化皮膜2bは、高い耐食性をアルミニウム部材1に付与するとともに、第1の陽極酸化皮膜2aの断熱性を向上させている。また、第2の陽極酸化皮膜2bは、密度及び硬度が高く、且つ、表面粗さが小さい。なお、「表面粗さが小さい」とは、第2の陽極酸化皮膜2bの表面が、第1の陽極酸化皮膜2aよりも良好な平滑性を有することを意味している。第2の陽極酸化皮膜2bの良好な平滑性は、その表面に形成される第二の皮膜3の平滑性に影響を与え、第二の皮膜3の表面の平滑性を向上させることができる。さらに、第2の陽極酸化皮膜2bはナノレベルの第2の気孔を有しているため、第一の皮膜2と第二の皮膜3との密着部分(接続部分)に対して、アンカー効果を付与することができる。これにより、第一の皮膜2及び第二の皮膜3の密着性を向上させることができる。その結果、両皮膜の剥離を防止することができる。
第1の陽極酸化皮膜2a及び第2の陽極酸化皮膜2bの膜厚、空隙率並びに硬さは、
皮膜形成に用いる電解液の種類、温度又は電解条件により変動する。このため、交直重畳電解と直流電解は、目的に応じて異なる電解液または温度で処理することができる。一方、第1の陽極酸化皮膜2a及び第2の陽極酸化皮膜2bは、同一の陽極酸化処理浴にて形成されることが好ましく、略同一の温度条件下で形成されることがより好ましい。この場合、第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとの成分が略同等となるため、第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとの接続部(境界部)を連続的に形成することができる。これにより、第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとの接続部が一体的で強固となる。その結果、第1の陽極酸化皮膜2aの第1の気孔が後述する封孔処理により塞がれることを防いで、断熱性の低下を防ぐことができる。また、陽極酸化皮膜同士の密着性不良又は剥がれ等の発生を防ぐことができる。
第1の陽極酸化皮膜2a及び第2の陽極酸化皮膜2bを形成するための陽極酸化処理液としては、硫酸(HSO)、シュウ酸(H)、リン酸(HPO)、クロム酸(HCrO)等の酸性浴、水酸化ナトリウム(NaOH)、リン酸ナトリウム(NaPO)、フッ化ナトリウム(NaF)等の塩基性浴のいずれを用いてもよい。第一の皮膜2を表面に生成するアルミニウム部材1は、特定の陽極酸化浴を使用した場合には限定されないものの、実用的な観点より、硫酸が好ましい。リン酸系浴であれば、第1の陽極酸化皮膜2aの空隙率を電解条件により容易に大きくすることできる。このため、第1の陽極酸化皮膜2aの断熱性を向上させることができる。
第一の皮膜2の膜厚は、特に限定されない。より具体的には、第一の皮膜2の膜厚は、実用性の観点より3μm以上300μm以下であることが好ましい。用途に応じて必要な膜厚とすることができる。
第一の皮膜2の気孔は、必要に応じて、封孔処理により封孔された気孔とすることができる。封孔処理はとして、沸騰水や沸騰水に金属塩を添加した水溶液を用いる高温水和型封孔処理や、強塩基性の水溶液を用いた低温型封孔処理などが挙げられるが、特定の封孔処理方法に限定しない。第一の皮膜2を備えたアルミニウム部材1に対して封孔処理を行った場合、前記第1の気孔及び第2の気孔が封孔処理液に起因した図示しない生成物により封孔された第1の陽極酸化皮膜及び第2の陽極酸化皮膜を得ることができる。これにより、表面被覆アルミニウム部材の断熱性を維持しつつ、耐食性を向上させることができる。
一方で、第一の皮膜2は、第1の陽極酸化皮膜2a及び第2の陽極酸化皮膜2bを備えているため、前記した封孔処理等の防錆処理を行わなくても、十分に高い耐熱性及び耐食性を有している。このため、第一の皮膜2には、用途又は目的に応じて、前記封孔処理、洗浄処理、修復処理、塗装処理等の処理を行うこともできるが、前記封孔処理を省略することもできる。封孔処理の実施の要否は、要求される機能に応じて、適宜選択することができる。この場合、製造工数の削減が可能となり、製造コストを低減した表面被覆アルミニウム部材を得ることができる。
第二の皮膜3は、第一の皮膜2よりも高い熱伝導率を有して、第一の皮膜2の表面上に形成されている。第二の皮膜3は、表面被覆アルミニウム部材の熱拡散膜として機能するよう構成され、且つ、断熱膜として機能する第一の皮膜2の表面上に設けられている。また、第二の皮膜3は、第一の皮膜2よりも相対的に高い熱伝導率により、第一の皮膜2のみを皮膜した表面被覆アルミニウム部材よりも、熱の放射(輻射)による熱移動を抑制することができる。したがって、第一の皮膜2及び第二の皮膜3を施した表面被覆アルミニウム部材の表面の所定の部位に入熱を受けた場合(以下、入熱を受けた場合ともいう。)、表面被覆アルミニウム部材の表面に位置する第二の皮膜3の温度分布を速やかに均一とすることができる。その結果、良好な均熱性を表面被覆アルミニウム部材に付与することができる。
第二の皮膜3は、高い平滑性を有する第2の陽極酸化皮膜2bの上に形成されているため、小さい表面積を有するように構成されている。これにより、第二の皮膜3も、良好な断熱性に貢献し、アルミニウム部材1に断熱性を付与している。また、表面被覆アルミニウム部材を燃焼室の一部に適用した場合、第二の皮膜3の表面の高い平滑性により、燃料の付着並びに煤等の未燃物の固着及び/又は付着を抑制することができる。さらに、第二の皮膜3は、第一の皮膜2の上層(第2の陽極酸化皮膜2b)が有するナノレベルの気孔により、第一の皮膜2とアンカー効果を付与されて密着している。これにより、第二の皮膜3と第一の皮膜2との密着はより強固となり、両皮膜の剥離を防止することができる。
第二の皮膜3は、第一の皮膜2よりも高い熱伝導率を有する材料であればよい。より具体的には、第二の皮膜3として、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、銅(Cu)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化珪素(SiC)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)等の皮膜又はこれらの複合体等が挙げられる。前記複合体としては、例えば、ニッケルめっき層の中に窒化アルミニウムの粉体を含有する複合めっき層が挙げられる。また、熱伝達には、「熱伝導」、「対流」、「放射(輻射)」の3つのタイプがあり、この第二の皮膜の中で放射を反射する皮膜については、放射熱が伝わることを防ぐことによる断熱を期待することができる。
第二の皮膜3の熱伝導率は、第一の皮膜2よりも高ければ、表面被覆アルミニウム部材の熱拡散膜として機能することができる。より具体的には、第二の皮膜3の熱伝導率は、50W/(m・K)以上が好ましく、100W/(m・K)以上がより好ましい。前記範囲内であれば、良好な熱移動が得られる。第二の皮膜3の熱伝導率が50W/(m・K)未満であれば、期待するほどの効果が得られない虞がある。
[表面被覆アルミニウム部材の実施の形態]
以上の構成を備える陽極酸化皮膜について、その作動形態を説明することにより、アルミニウム部材の表面被覆方法の一実施の形態について添付図面を参照してさらに詳細に説明する。
図2は、第一の皮膜形成工程、第1の陽極酸化皮膜形成工程及び/又は第2の陽極酸化皮膜形成工程に使用される陽極酸化処理装置10の概要を示す構成図である。図2に示すように、陽極酸化処理装置10は、陽極酸化処理液を収容する電解浴槽11と、陽極酸化処理液に浸漬した陽極12及び一対の陰極13と、導電線14と、電源15とを備えている。一対の陰極13は、陽極12を中心にして、電解浴槽11内で互いに対向するように配置されている。陽極12及び一対の陰極13は、導電線14を介して電源15に連結している。また、陽極酸化処理装置10は、陽極12、一対の陰極13及び導電線14を介して電源15により直流電解及び交直重畳電解を印加するように構成されている。
陽極酸化処理装置10は、陽極酸化処理液を攪拌可能な図示しない攪拌措置を備えていることが好ましい。これにより、発生する泡等による局所的な焼けを防ぐとともに、第一の皮膜2の均一な成長を補助することができる。また、一対の陰極13の各々は、陽極12となるアルミニウム部材1の表面積の20倍以上の表面積を陽極酸化処理液中に浸漬するよう構成されていることが好ましい。均一な膜厚の第一の皮膜2を得ることができる。陽極酸化処理装置10を用いて第一の皮膜2を形成する場合、陽極酸化処理液中にアルミニウム部材1を陽極12として、チタン(Ti)を陰極13としてそれぞれ配置する。陽極酸化処理液を電気分解することにより、アルミニウム部材1の表面近傍に酸化アルミニウムを主成分とした第一の皮膜2、より具体的には、第1の陽極酸化皮膜2a及び第2の陽極酸化皮膜2bを形成する。なお、陰極13の材料は、陰極13として機能する材料であればよく、チタンの他に、カーボン板、アルミニウム板、ステンレス板等を用いることができる。
図3は、アルミニウム部材の表面被覆方法について、第一の皮膜2及び第二の皮膜3の形成方法を説明するための概略的なフロー図である。図3に示すように、本実施の形態では、第一の皮膜形成工程(S)により第一の皮膜2を形成した後、第二の皮膜形成工程(S)により第二の皮膜3を形成する。より具体的には、第一の皮膜工程(S)として、第一の陽極酸化皮膜形成工程(S11)により第2の陽極酸化皮膜2bを形成した後、第二の陽極酸化皮膜形成工程(S12)により第1の陽極酸化皮膜2aを形成する。その後、第二の皮膜形成工程(S)により第二の皮膜3を形成する。
第一の陽極酸化皮膜形成工程(S11)として、アルミニウム部材1に交直重畳電解を印加することにより、第2の陽極酸化皮膜2bを形成する。すなわち、第一の陽極酸化皮膜形成工程は、直流電流に交流電流を重畳させた交直重畳法により実施する(以下、交直重畳電解法ともいう。)。本工程では、第2の陽極酸化皮膜2bを、アルミニウム部材1の表面上を主に含む表面近傍に形成する。第2の陽極酸化皮膜2bは、交直重畳電解を印加してアルミニウム部材の表面近傍に設けられた多孔質の皮膜であり、複数の気孔(第2の気孔)を有している。第2の陽極酸化皮膜2bは、ランダム配向に起因する緻密性を有している。したがって、腐食の要因となる物質をアルミニウム部材まで通過しにくくすることができるため、耐食性が高く、硬さが高く 且つ、表面粗さが小さい(表面が平滑である)。なお、「緻密」とは、第2の陽極酸化皮膜2bの空隙率が第1の陽極酸化皮膜2aよりも小さいことを意味している。
第一の陽極酸化皮膜形成工程(S11)にて形成する第2の陽極酸化皮膜2bは、緻密性を備えた蓋として第1の陽極酸化皮膜2aの第1の気孔を塞ぐことなく覆う。これにより、第一の皮膜2の断熱性を向上し、且つ、その断熱性を維持することができる。また、第2の陽極酸化皮膜2bの緻密性により、腐食させる要因となる物質をアルミニウム部材1まで到達することを防ぐことができる。すなわち、第2の陽極酸化皮膜2bは、高い耐食性をアルミニウム部材1に付与するとともに、第一の皮膜2の断熱性を向上させることができる。
第一の陽極酸化皮膜形成工程(S11)での高周波電流の周波数は、5kHz以上20kHz以下が好ましく、10kHz以上20kHz以下がより好ましい。また、正極の電圧は12V以上70V以下が好ましく、負極の電圧は−10V以上0V以下が好ましい。前記範囲内であれば、皮膜厚さの均一性を向上させて、均熱性、耐食性、撥水性及び撥油性の部位によるバラつきの少ない第2の陽極酸化皮膜2bを得ることができる。なお、通電時間は、特に限定されず、実用的な時間で実施可能である。
続いて、第二の陽極酸化皮膜形成工程(S12)として、第一の陽極酸化皮膜形成工程の後に、第2の陽極酸化皮膜2bを有する前記アルミニウム材料1に直流電解を印加することにより、第1の陽極酸化皮膜2aを形成する(以下、直流電解法ともいう。)。本工程では、第2の陽極酸化皮膜2bを、アルミニウム部材1の表面近傍に形成する。すなわち、第1の陽極酸化皮膜2aは、第2の陽極酸化皮膜2bとアルミニウム部材1の間に形成される。第1の陽極酸化皮膜2aは、配向性を有するため、第2の陽極酸化皮膜2bよりも多くの気孔(第1の気孔)を有している。すなわち、気孔の大きさ、数及び/又は分布の点において、第1の陽極酸化皮膜2aは粗であり、第2の陽極酸化皮膜2bは密である。また、前記第1の気孔は、シリコン5等の存在によっても形成される。
第二の陽極酸化皮膜形成工程(S12)により形成する第1の陽極酸化皮膜2aの表面及び内部には、第1の気孔が多く存在する。第1の気孔内の空気は、熱伝導率が低いため、第1の陽極酸化皮膜2aは、第2の陽極酸化皮膜2bよりも断熱性が高い。また、第1の陽極酸化皮膜2aも、酸化アルミニウムに起因する耐食性を有し、腐食させる要因となる物質をアルミニウム部材1まで到達することを防ぐことができる。第1の陽極酸化皮膜2aは、アルミニウム部材1に対して耐食性を付与するとともに、第2の陽極酸化皮膜2bとの相乗効果により信頼性の高い断熱性を付与することができる。
第一の陽極酸化皮膜形成工程(S11)と第二の陽極酸化皮膜形成工程(S12)とは、目的に応じて、異なる陽極酸化処理液又は温度により実施することができるが、同一の陽極酸化処理液にて実施されることが好ましく、さらに同一の温度で実施されることがより好ましい。この場合、第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとの成分が略同等となるため、第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとを連続的に形成することができる。これにより、直流電解による第1の陽極酸化皮膜2aと交直重畳電解による第2の陽極酸化皮膜2bとの接続部が一体的で強固となる。その結果、後述する封孔処理により、直流電解による陽極酸化皮膜の気孔を塞ぐ虞をなくし、断熱性の低下を防ぐことができる。また、陽極酸化皮膜同士の密着性不良又は剥がれ等の発生を防ぐことができる。これにより、高い耐久性を得ることができる。尚、同一の陽極酸化処理液、同一の温度でなくても、工程は増えるが断熱性、耐食性を付与することはできる。
前記陽極酸化処理液としては、硫酸(HSO)、シュウ酸(H)、リン酸(HPO)、クロム酸(HCrO)等の酸性浴、水酸化ナトリウム(NaOH)、リン酸ナトリウム(NaPO)、フッ化ナトリウム(NaF)等の塩基性浴のいずれを用いてもよい。後述する封孔処理の対象となる第一の皮膜2を表面に生成するアルミニウム部材1は、特定の陽極酸化浴を使用した場合には限定されないものの、実用的な観点より、硫酸が好ましい。
前記陽極酸化処理液の温度は、第1の陽極酸化皮膜2a及び第2の陽極酸化皮膜2bが形成可能な温度であればよい。より具体的には、陽極酸化処理液の温度は、5.0℃以上30℃以下が好ましく、5.0℃以上20℃以下がより好ましい。前記範囲内であれば、例えば、硬質皮膜法のような0℃程度までの冷却を行う成膜を不必要としつつ、所定の硬度を有する第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとの両方の形成を陽極酸化処理により可能とすることができる。また、第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとの接続部の連続性を向上させて、一体的で強固な第一の皮膜2を得ることができる。
次に、第二の皮膜形成工程(S)として、第一の皮膜2の上に、所定の成膜法を用いて第一の皮膜2よりも熱伝導率の高い第二の皮膜3(熱拡散層)を形成する。前記成膜法としては、所望の特性を有する成膜法であればよい。前記成膜法としては、例えば、電気めっき、化学めっき等のめっき法、スプレー法、刷毛塗り、スクリーン印刷等の塗布法、CVD(Chemical Vapor Deposition)、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング等のPVD(Physical Vapor Deposition)を用いることができる。第二の皮膜3の膜厚は、所望の特性が得られるように設定すれば良く、特に限定されない。
第二の皮膜形成工程(S)にて形成する第二の皮膜3としては、ニッケル、銀、銅、窒化アルミニウム、炭化珪素、タングステン、モリブデン等の成分又はこれらの複合体からなる皮膜が挙げられる。前記複合体からなる皮膜としては、例えば、ニッケルめっき層の中に窒化アルミニウムの粉体を含有する複合めっき層が挙げられる。
なお、第二の皮膜形成工程(S)と第一の皮膜形成工程(S)との間には、一般的な封孔処理を行うことができる。前記封孔処理として、強塩基性封孔浴、沸騰水封孔、ニッケル塩封孔等が挙げられるが特定の封孔処理に限定されない。本実施の形態では、封孔処理工程として、封孔液を、第一の皮膜2の表面に付着させることにより、第一の皮膜2の気孔を、封孔液に浸透させる。封孔液は、第一の皮膜2の気孔に侵入して気孔中にて化合物を形成する。特に封孔液は、主に第2の陽極酸化皮膜2bの第2の気孔に侵入して化合物を形成する。これにより、第一の皮膜2の断熱性を向上させることができる。封孔処理工程は、第一の皮膜2を有する対象物に処理液を塗布やスプレーし、又は、対象物を処理液に浸漬し、空気中で保持してから水洗及び乾燥して行うことが好ましい。また、第一の皮膜2を有する対象物や処理液に浸漬し、0.5分以上で処理液から取り出し、水洗及び乾燥することが好ましい。塗布やスプレーによる封孔処理方法は、部分的に封孔処理することができる。このため、大型部品を処理する場合、処理の上で、大型部品を浸漬するための大型の槽を不必要とすることができる。
前記封孔処理工程を行う場合、第2の陽極酸化皮膜2bが第1の陽極酸化皮膜2aの蓋となり、第1の気孔を塞ぐことなく覆っている。これにより、封孔処理の際に、多くの第1の気孔が封孔させることを防ぎつつ、第2の気孔を封孔して、第1の陽極酸化皮膜2aの断熱性の低下を防止することができる。また、第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとの接続部が一体的に強固に形成されている。したがって、封孔処理により、耐食性を向上するとともに、第一の皮膜2の断熱性及びその信頼性が低下することを防止することができる。
一方、第一の皮膜形成工程(S)を経た第一の皮膜2は、前記封孔処理等の防錆処理を行わなくても、十分に高い耐熱性及び耐食性を備えている。このため、封孔処理、洗浄処理、修復処理、塗装処理等の後処理のうちの封孔処理を省略することもできる。前記封孔処理の実施の要否は、要求される機能に応じて、適宜選択することができる。封孔処理を実施しない場合は、工数の削減が可能となり、製造コストを低減することができる。
[本実施の形態の解決した課題と作用効果]
本実施の形態によれば、表面被覆アルミニウム部材の皮膜として、アルミニウム部材1の上に断熱膜としての効果を有する第一の皮膜2を採用し、且つ、第一の皮膜2に対して相対的に熱伝導率が高い熱拡散膜としての効果を有する第二の皮膜3を第一の皮膜2の上に設けている。これにより、第一の皮膜2の断熱膜の効果により、表面被覆アルミニウム部材に、単層の陽極酸化皮膜のみの構造よりも高い断熱性を付与することができる。また、第一の皮膜2より第二の皮膜3の熱伝導率が相対的に高いため、第一の皮膜2のみの場合と比べて、対流、伝熱及び放射(輻射)の熱移動の三原則における放射を抑制することができる。これにより、熱拡散膜としての第二の皮膜3の効果により、表面被覆アルミニウム部材に、単層の陽極酸化皮膜のみの構造よりも高い均熱性を付与することができる。その結果、断熱性と均熱性とを両立した表面被覆アルミニウム部材を得ることができる。
また、第一の皮膜2を上層と下層とからなる二層構造とし、その上層に交直重畳電解法による第2の陽極酸化皮膜2bを採用し、その下層に直流電解法による第1の陽極酸化皮膜2aを採用している。アルミニウム部材1にはアルミニウム以外の不純物元素が含まれており、前記不純物元素の周囲は陽極酸化皮膜が成長し難いため、ミクロ的な気孔(隙間)が形成されやすい。前記気孔が開気孔として表面に存在すると断熱性が低下するため、気孔を塞ぐ必要がある。これに対して、空隙率の高い粗な第1の陽極酸化皮膜2aの上に、空隙率の低い緻密な第2の陽極酸化皮膜2bを形成しているため、高い断熱性を備える第1の陽極酸化皮膜2a中のナノレベル及びマイクロレベルの気孔を塞ぐことなく、高い耐食性を備える第2の陽極酸化皮膜2bにより第1の陽極酸化皮膜2aを覆うことができる。その結果、高い断熱性と高い耐食性とが両立した表面被覆アルミニウム部材を得ることができる。
さらに、第一の皮膜2の上層として良好な平滑性を有する第2の陽極酸化皮膜2bを採用している。したがって、第2の陽極酸化皮膜2bの平滑な表面に第二の皮膜3を形成することにより、第二の皮膜3の表面も平滑となる。その結果、第二の皮膜3の表面積を低減させて、表面被覆アルミニウム部材の断熱性を向上させることができる。
さらにまた、第一の皮膜2の上層としてナノレベルの気孔を有する第2の陽極酸化皮膜2bを採用している。これにより、第一の皮膜2と第二の皮膜3との密着性に対して、第2の陽極酸化皮膜2bによるアンカー効果を付与することができる。その結果、第一の皮膜2と第二の皮膜3との密着性を向上させて、アルミニウム部材1との接合や接着に対する剥離を防ぐことができる。
さらにまた、第一の皮膜2のうちの第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとの密着性について、第1の陽極酸化皮膜2aを形成する工程と、第2の陽極酸化皮膜2bを形成する工程とを、同一の処理浴で行う方法を採用している。これにより、第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとの成分を略同等とし、第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとを連続的に形成することができる。このため、第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとの接続部を一体的に強固とすることができる。その結果、第一の皮膜2の二つの陽極酸化皮膜間の密着性不良又は剥がれを防止することができる。
さらにまた、第一の皮膜2の形成工程、すなわち、第1及び第2の陽極酸化皮膜の形成工程の間に、異なる工程を経ることがない。これにより、第一の皮膜2の形成工程間の移動中に、形成された内部の気孔が閉塞することを防ぐことができる。その結果、表面被覆アルミニウム部材の製造工程による断熱性の低下を防ぐとともに、工程数及び管理項目の増加を抑制することができる。
ここで、例えば、特許文献1に示された表面被覆アルミニウム部材及び内燃機関用ピストンでは、燃焼室において火炎が点火プラグから同心円状に広がっていく。このため、点火プラグから遠ざかるにつれて壁面の断熱性能を漸次低減しても、その壁面温度を速やかに均一化することは困難である。したがって、点火プラグから遠ざかる途中の位置でのノッキング、特に、ノッキングが発生しやすい吸気バルブ側の領域でのノッキングを十分に抑制することができないという問題があった。また、特許文献1では、遮熱膜として陽極酸化皮膜を採用する場合、筒状治具、凸状の治具、吸引源等からなる排出機構を用いている。これにより、流入速度が調整された酸性電解液の排出と注入とを順次行って酸性電解液を循環させ、点火プラグから同心円状に遮熱膜の膜厚を漸次薄く形成している。このため、特別な治具等の用意が必要であり、工程の管理が複雑になるという問題があった。さらに、特許文献1では、シリンダヘッドの底面の前面に陽極酸化皮膜による遮熱膜を形成した後に、点火プラグから離れた領域の陽極酸化皮膜にのみマスキング処理を施し、点火プラグに対応する領域の陽極酸化皮膜に封孔処理又はコーティング処理を施すことにより、外側に開放された多数の陽極酸化皮膜の気孔を閉塞している。このため、断熱性能を漸次に低減することは困難であった。
また、例えば、特許文献2に示された表面被覆アルミニウム部材及びそれを備えた内燃機関用ピストンでは、ピストンの頂面に低熱伝導率及び低熱容量の遮熱膜を形成すると、遮熱膜によって熱が逃げ易く、温度が上昇し難いため、遮熱膜の一部に体積比熱の高い熱保持材が備えられている。しかしながら、体比熱の高い熱保持材を備えると、スイング特性、すなわち、断熱性能を具備しながら燃焼室内のガス温度に皮膜の温度が追随する特性を得ることができないという問題があった。また、例えば、特許文献2では、燃料がピストン頂面に不均一に付着すると、気化熱により熱を奪われるため、ピストン頂面の温度分布が不均一となるという問題があった。さらに、例えば、特許文献2では、遮熱膜として陽極酸化皮膜を採用した場合、熱保持材として鉄マンガン系合金を用いているため、アルミニウム部材との接合又は接着に対する剥離が生じる虞があった。
これに対して、本実施の形態の表面被覆アルミニウム部材を燃焼室の一部に適用した場合、第一の皮膜2及び第二の皮膜3が施された表面被覆アルミニウム部材の表面(すなわち、第二の皮膜3側の表面)の所定の部位に入熱を受けた際に、第二の皮膜3の温度分布を速やかに均一にすることができる。すなわち、燃焼室が燃焼している間、表面被覆アルミニウム部材の第二の皮膜3の下にある第一の皮膜2は断熱性の効果を奏している。ここで、第一の皮膜2の体積比熱は低いものの、その比熱はゼロではない。したがって、点火による火炎から受熱して熱を帯びると、帯びた熱は第二の皮膜3の存在により温度がより低い位置に移動することとなる。第二の皮膜3の下の第一の皮膜2において熱の偏りがある場合には、この偏りを均熱化する効果を奏することができる。その結果、表面被覆アルミニウム部材が有する断熱性と壁面温度を速やかに均一にする均熱性とにより、断熱性能を維持して壁面温度を速やかに均一化することができる。これにより、燃焼室の耐ノッキング性を改善することができる。
また、点火プラグにより点火した火炎ガスが燃焼室内部の壁面に触れた場合、点火プラグ周辺の熱は熱伝導率の高い表面被覆アルミニウム部材の第二の皮膜3を経て、温度の低い吸気バルブ周辺の壁面まで伝わる。すなわち、点火プラグから遠い部分にも全体的に熱を速やかに伝えることができる。比較的に温度が低かった吸気バルブ周辺の温度を高くすることができるため、燃焼室内部の壁面温度を速やかに均一化することができる。また、燃料がピストン頂面に不均一に付着してその温度分布が不均一となった場合でも、第一の皮膜2の存在により温度分布は均一化されるため、熱の篭りが起こり易い排気バルブ周辺を含む燃焼室内が気化熱により均一的に冷却される。その結果、異常燃焼であるノッキングを抑制することができる。また、表面被覆アルミニウム部材は、高い断熱性とともに燃焼時の壁面温度に対する良好な応答性を有しているため、良好なスイング特性を得ることができる。
さらに、表面被覆アルミニウム部材の第二の皮膜3が良好な均熱性を有している。このため、燃焼室が燃焼している間に入熱される部位が固定されている場合も、第一の皮膜2となる陽極酸化皮膜の膜厚又は表面粗度を変化させる必要がない。例えば、点火プラグから遠ざかるにつれて又は点火プラグから離れた領域にて、陽極酸化皮膜の膜厚を薄くして断熱性を低減したり、陽極酸化皮膜の表面粗度を大きくして熱拡散性(均熱性)を高めたりする必要が無い。したがって、特殊なマスキング、治具等を用いることを不必要として、簡易的な方法により陽極酸化皮膜(第一の皮膜2)を形成することができる。その結果、製造工程数及び管理項目を低減することができる。
さらにまた、表面被覆アルミニウム部材の第二の皮膜3の表面に平滑性を持たせているため、内燃機関の燃焼の際、燃料の付着又は煤等の未燃物の固着若しくは付着を抑制することができる。
さらにまた、表面被覆アルミニウム部材の第一の皮膜2のうちの第1の陽極酸化皮膜2aと第2の陽極酸化皮膜2bとの接続部を一体的で強固とすることができる。このため、内燃機関の燃焼の際、耐衝撃性、耐爆発圧又は熱膨張と熱収縮との繰り返し応力に対して優れた第一の皮膜2を得ることができる。そのため、信頼性及び耐久性の高い表面被覆アルミニウム部材を得ることができる。
[他の実施の形態]
なお、前述した実施の形態では、第1の陽極酸化皮膜2a及び第2の陽極酸化皮膜2bとからなる二層構造を有する第一の皮膜2を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、三層構造を有する陽極酸化皮膜である場合も、第一の皮膜の最上層にランダム配向した密な第2の陽極酸化皮膜を交直重畳電解により形成し、その下層のうちの少なくとも1つ以上の層に配向性を有する疎な第1の陽極酸化皮膜を直流電解により形成し、更にその上に熱拡散層として本実施の形態の第二の皮膜を形成すればよい。より方法的には、最上層の陽極皮膜層を本実施の形態における第2の陽極酸化皮膜に相当する第Nの陽極酸化皮膜層とし(Nは、3以上の自然数)、アルミニウム部材に対して最初に皮膜を形成する。その後、機能及び用途において、異なる皮膜を形成した後、第Nの陽極皮膜層の下層側に、本実施の形態における第1の陽極酸化皮膜に相当する陽極酸化皮膜を形成した後、最後の皮膜形成工程として第二の皮膜を形成すればよい。この場合は、前述した実施の形態よりも、強度、断熱性及び耐食性を向上させた陽極酸化皮膜を得ることができる。
また、前述した実施の形態では、アルミニウム部材を燃焼室の一部に使用することを例示したが、本発明はこれに限定されない。アルミニウム部材としては、船外機用オイルパン、ギヤケース、プロペラ等の船外機用部品が挙げられる。船外機は、装着式の船舶の推進システムであり、海水や潮風と接触することから、船外機を構成する部品には、高い耐食性が要求されている。例えば、オイルパンは、エンジンオイルを貯蔵するとともに、走行風によりエンジンオイルを冷却する機能も有しており、海水や潮風と直接接触する必要がある。このため、高い耐食性が要求されている。本発明のアルミニウム部材に形成する陽極酸化皮膜は、十分な耐食性を有することから、船外機用部品としても用いることができる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明することにより、本発明の効果を明らかにする。本発明に係るアルミニウム部材の表面被覆方法及び表面被覆アルミニウム部材は、以下の実施例によって制限されない。
[試験例1]
アルミニウム部材として、アルミニウム合金(AC8A)を試験片として用いた。
AC8Aに対して、直流電解法により陽極酸化を行い、11〜21μmの陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理は20℃、濃度200g/Lの硫酸浴中で、電流密度を1.5A/dmとし、20分間処理を行なった。得られた直流電解法による第1の陽極酸化皮膜のみを有する試験片を試験例1の試験片とした。
[試験例2]
アルミニウム部材としてAC8Aを使用した。AC8Aに対して、交直重畳電解法により陽極酸化を行い、16〜18μmの陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理は20℃、濃度200g/Lの硫酸浴中で、高周波電流の周波数を10kHzとし、正極25V、負極2V、10分間処理を行なった。得られた交直重畳電解法による第2の陽極酸化皮膜のみを有する試験片を、試験例2の試験片とした。
[試験例3]
アルミニウム部材としてAC8Aを使用した。AC8Aに対して、交直重畳電解法により陽極酸化処理し皮膜を形成した。陽極酸化処理は20℃、濃度200g/Lの硫酸浴中で、高周波電流の周波数を10kHzとし、正極25V、負極2V、7分間処理を行なった。その後、直流電解法により陽極酸化処理し皮膜を形成した。陽極酸化処理は20℃、濃度200g/Lの硫酸浴中で、電流密度を1.5A/dmとし、10分間処理を行なった。膜厚は17〜22μmであった。前記方法により得られた直流電解法による第1の陽極酸化皮膜と交直重畳電解法による第2の陽極酸化皮膜とからなる第一の皮膜のみを有する試験片を、試験例3の試験片とした。
[試験例4]
アルミニウム部材としてAC8Aを使用した。AC8Aに対して、交直重畳電解法により陽極酸化処理し皮膜を形成した。前記陽極酸化処理は20℃、濃度200g/Lの硫酸浴中で、高周波電流の周波数を10kHzとし、正極25V、負極2V、2分間で処理を行なった。その後、直流電解法により陽極酸化処理し皮膜を形成した。陽極酸化処理は、20℃、濃度200g/Lの硫酸浴中で、電流密度を2A/dmとして、35分間処理を行なった。膜厚は60〜80μmであった。前記方法により、直流電解法による第1の陽極酸化皮膜と交直重畳電解法による第2の陽極酸化皮膜とからなる第一の皮膜を有する試験片を得た。
続いて、第一の皮膜に熱拡散膜となる第二の皮膜を形成するためにNiめっきを施した。アルミニウム合金を陰極に設置し、pH4.0、温度65℃のめっき浴条件下で、20A/dmの電流密度で2分間通電することにより、電解めっき処理を行った。めっき浴には、硫酸ニッケル500g/L、ホウ酸45g/L、サッカリンソーダ3.2g/L、50%亜リン酸1.5g/Lを混合した溶液を用いた。陽極には不溶性電極であるSUS304を用いた。電解めっき処理によって、アルミニウム合金の表面にニッケル−リン(Ni−P)めっきの皮膜を形成した。得られた第一の皮膜と第二の皮膜を有する試験片を試験例4の試験片とした。
[試験例5]
アルミニウム部材としてAC8Aを使用した。AC8Aに対して、交直重畳電解法により陽極酸化処理して第2の陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理は20℃、濃度200g/Lの硫酸浴中で、高周波電流の周波数を10kHzとし、正極25V、負極2V、2分間処理を行なった。その後、直流電解法により陽極酸化処理して第1の陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理は20℃、濃度200g/Lの硫酸浴中で、電流密度を2A/dmとし、35分間処理を行なった。前記方法により、直流電解法による第1の陽極酸化皮膜と交直重畳電解法による第2の陽極酸化皮膜とからなる第一の皮膜を有する試験片を得た。
続いて、第一の皮膜の上に熱拡散膜となる第二の皮膜を形成するため、前記試験片に対してスパッタリングを施した。スパッタリングの処理は、DCマグネトロンスパッタリングを用いて、放電ガスAr(5〜10sccm)を導入して、ガス圧力を0.5〜20Pa、電力50WのDC放電の条件で行うことにより、第二の皮膜としてモリブデン皮膜を形成した。得られた試験片を試験例5の試験片とした。
[試験例6]
アルミニウム部材としてAC8Aを使用した。AC8Aに対して、交直重畳電解法により陽極酸化処理して第2の陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理は20℃、濃度200g/Lの硫酸浴中で、高周波電流の周波数を10kHzとし、正極25V、負極2V、2分間処理を行なった。その後、直流電解法により陽極酸化処理して第1の陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理は20℃、濃度200g/Lの硫酸浴中で、電流密度を2A/dmとし、35分間処理を行なった。前記方法により、直流電解法による第1の陽極酸化皮膜と交直重畳電解法による第2の陽極酸化皮膜とからなる第一の皮膜を有する試験片を得た。
続いて、第一の皮膜の上に熱拡散膜となる第二の皮膜を形成するため、前記試験片に対して銀ペーストを施した。刷毛で試験片に塗り、丸棒で塗布した面を押し当てた後、200〜220℃で焼成することにより、第二の皮膜として銀皮膜を形成した。得られた試験片を試験例6の試験片とした。
[試験例7]
アルミニウム部材としてAC8Aを使用した。AC8Aに対して、交直重畳電解法により陽極酸化処理して第2の陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理は20℃、濃度200g/Lの硫酸浴中で、高周波電流の周波数を10kHzとし、正極25V、負極2V、2分間処理を行なった。その後、直流電解法により陽極酸化処理して第1の陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理は20℃、濃度200g/Lの硫酸浴中で、電流密度を2A/dmとし、10分間処理を行なった。その後さらに上記交直重畳電解法と直流電解法を2回繰返し、計6回の陽極酸化処理を行った。前記方法により、直流電解法による第1の陽極酸化皮膜と交直重畳電解法による第2の陽極酸化皮膜が交互に積層された6層の皮膜からなる第一の皮膜を有する試験片を得た。
続いて、第一の皮膜の上に熱拡散膜となる第二の皮膜を形成するため、前記試験片に対して銀ペーストを施した。刷毛で試験片に塗り、丸棒で塗布した面を押し当てた後、200〜220℃で焼成することにより、第二の皮膜として銀皮膜を形成した。得られた試験片を試験例7の試験片とした。
<密度、硬度、表面粗さの評価>
試験例1〜7の試験片各々に対して、密度(g/cm)、硬度(Hv)及び表面粗さ(Ra)を測定及び算出し、その値を検討した。空隙率に関する密度(g/cm)の測定は、アルミニウム合金の密度を予め重さと体積により測定した後、皮膜を形成した試験片重量とアルミニウム合金の厚さ分の重量との差から陽極酸化皮膜の重量を算出し、陽極酸化皮膜の厚さと面積から密度を計算した。なお、密度が高いとは空隙率が低いことを示す。硬度(Hv)はビッカース硬度計により測定した。また、表面粗さ(Ra)は表面粗さ計により測定した。試験例1〜7の試験片の密度、硬度、表面粗さの値を表1に示す。なお、試験例3〜7の試験片は、硬さの異なる2つの陽極酸化皮膜を備えているため、硬度は測定しなかった。
表1より、試験例1と試験例2とを比較すると、試験例2のほうが、試験例1よりも表面粗さは低く、密度は高かった。この結果より、交直重畳電解により形成した陽極酸化皮膜のほうが、直流電解により形成した陽極酸化皮膜よりも高い撥水性、撥油性、耐衝撃性を有し、且つ、断熱性の向上に寄与することがわかった。また、直流電解により形成した陽極酸化皮膜のほうが、交直重畳電解により形成した陽極酸化皮膜よりも高い断熱性を有することがわかった。
試験例1と試験例3とを比較すると、試験例3の試験片のほうが、試験例1よりも表面粗さは低く、密度は高かった。この結果より、交直重畳電解陽極酸化層を上層として直流電解陽極酸化層を下層とする二層構造の陽極酸化皮膜のほうが、一層構造の直流電解陽極酸化層の陽極酸化皮膜よりも高い撥水性、撥油性、耐衝撃性を有していることがわかった。また、二層構造の陽極酸化皮膜は、高い断熱性と耐衝撃性とを両立させていることがわかった。これらの機能は、二層構造の陽極酸化皮膜を内燃機関に適用した場合に、実使用に耐え得る高い耐衝撃性を示し、燃焼前後の付着物の低減効果及び耐食性の向上に効果を発揮することがわかった。
試験例1と試験例4とを比較すると、試験例4の試験片のほうが、試験例1よりも表面粗さは低く、密度は高かった。この結果より、第一の皮膜と第二の皮膜としてニッケル−リンめっき皮膜とを備える試験例4のほうが、直流電解陽極酸化層の陽極酸化皮膜のみを備える試験例1よりも高い撥水性、撥油性、耐衝撃性を有していることがわかった。また、第一の皮膜と第二の皮膜としてニッケル−リンめっき皮膜とを備える試験例4は、高い断熱性と高い耐衝撃性とを両立させていることがわかった。これらの機能は、第一の皮膜と第二の皮膜としてニッケル−リンめっき皮膜とを備える表面被覆アルミニウム部材を燃焼室の一部に適用した場合に、実使用に耐え得る高い耐衝撃性を示し、燃焼前後の付着物の低減効果及び耐食性の向上に効果を発揮することがわかった。
試験例1と試験例5とを比較すると、試験例5の試験片のほうが、試験例1よりも表面粗さは低く、密度は高かった。この結果より、第一の皮膜と第二の皮膜としてモリブデン皮膜とを備える試験例5のほうが、直流電解陽極酸化層の陽極酸化皮膜のみを備える試験例1よりも高い撥水性、撥油性、耐衝撃性を有していることがわかった。また、第一の皮膜と第二の皮膜としてモリブデン皮膜とを備える試験例5は、高い断熱性と高い耐衝撃性とを両立させていることがわかった。これらの機能は、第一の皮膜と第二の皮膜としてモリブデン皮膜とを備える表面被覆アルミニウム部材を燃焼室の一部に適用した場合に、実使用に耐え得る高い耐衝撃性を示し、燃焼前後の付着物の低減効果及び耐食性の向上に効果を発揮することがわかった。
試験例1と試験例6とを比較すると、試験例6の試験片のほうが、試験例1よりも表面粗さは低く、密度は高かった。この結果より、第一の皮膜と第二の皮膜として銀皮膜とを備える試験例6のほうが、直流電解陽極酸化層の陽極酸化皮膜のみを備える試験例1よりも高い撥水性、撥油性、耐衝撃性を有していることがわかった。また、第一の皮膜と第二の皮膜として銀皮膜とを備える試験例6は、高い断熱性と高い耐衝撃性とを両立させていることがわかった。これらの機能は、第一の皮膜と第二の皮膜として銀皮膜とを備える表面被覆アルミニウム部材を燃焼室の一部に適用した場合に、実使用に耐え得る高い耐衝撃性を示し、燃焼前後の付着物の低減効果及び耐食性の向上に効果を発揮することがわかった。
試験例1と試験例7とを比較すると、試験例7の試験片のほうが、試験例1よりも表面粗さは低く、密度は高かった。この結果より、第一の皮膜と第二の皮膜として銀皮膜とを備える試験例7のほうが、直流電解陽極酸化層の陽極酸化皮膜のみを備える試験例1よりも高い撥水性、撥油性、耐衝撃性を有していることがわかった。また、第一の皮膜と第二の皮膜として銀皮膜とを備える試験例7は、高い断熱性と高い耐衝撃性とを両立させていることがわかった。これらの機能は、第一の皮膜と第二の皮膜として銀皮膜とを備える表面被覆アルミニウム部材を燃焼室の一部に適用した場合に、実使用に耐え得る高い耐衝撃性を示し、燃焼前後の付着物の低減効果及び耐食性の向上に効果を発揮することがわかった。また、試験例6と試験例7とを比較すると、試験例7の試験片の方が密度は高かった。この結果より、第一の皮膜を3層以上の構造とすることで、空孔率は2層構造よりも若干低下するものの耐衝撃性がさらに向上し、さらに、第一の皮膜の構造がより複雑になることから耐食性がより向上することがわかった。
試験例3〜7で成膜した試験片に対して光学顕微鏡を用いて皮膜断面の組織を確認した。代表として、図4に試験例6の皮膜断面を撮影した断面写真を示す。図4では、第一の皮膜中の破線より紙面上の層が交直重畳電解により形成した第2の陽極酸化皮膜を示し、第一の皮膜中の破線より紙面下の層が直流電解により形成した第1の陽極酸化皮膜を示し、矢印を用いて第一の皮膜中の主な気孔部分を示している。
図4に示すように、作製した試験片は、第一の皮膜が形成され、その上層に交直重畳電解処理された陽極酸化層、その下層に直流電解処理された陽極酸化層が形成されている。第一の皮膜の下層の直流電解処理された陽極酸化層においては、シリコンの存在により、皮膜が形成され難くなり、形成されない箇所が気孔となっていた。第一の皮膜の下層の直流電解処理された皮膜においては、マイクロレベルの気孔が存在しており、第一の皮膜の上層の交直重畳電解処理された皮膜には気孔が存在しなかった。また、皮膜中のシリコンの周辺にはマイクロレベルの気孔は見られず、皮膜はしっかりとシリコンの周辺を覆っていることが確認された。
試験例4〜7で作製した各試験片では、第一の皮膜の上に第二の皮膜が形成されていることが確認された。試験例4で作製した試験片では、交直重畳電解処理後に直流電解処理されて形成された第一の皮膜の上に、電解めっき処理によるニッケル−リンめっき皮膜が形成されていることが確認された。また、試験例5で作製した試験片では、交直重畳電解処理後に直流電解処理されて形成された第一の皮膜の上に、スパッタリング処理によるモリブデン皮膜が形成されていることが確認された。さらに、試験例6で作製した試験片では、交直重畳電解処理後に直流電解処理されて形成された第一の皮膜の上に、塗布した銀皮膜が形成されていることが図4に示すように確認された。また、試験例7で作製した試験片においても試験例6と同様に第二の皮膜が確認された。
<熱伝導率の評価>
試験例1及び4〜7の各試験片に対して、薄膜熱物性測定装置を用いて熱伝導率(W/(m・K))を評価した。なお、第一の皮膜である陽極酸化皮膜の熱伝導率は、最も値が低い試験例1の熱伝導率を用い、この値と、電解めっき、スパッタリング処理、塗布により形成した第二の皮膜の熱伝導率とを比較した。測定結果を表2に示す。
表2に示すように、試験例1の陽極酸化皮膜の熱伝導率は、0.42W/(m・K)であった。試験例4の第二の皮膜の熱伝導率の熱伝導率は76W/(m・K)であり、試験例5の第二の皮膜の熱伝導率の熱伝導率は128W/(m・K)であり、試験例6の第二の皮膜の熱伝導率の熱伝導率は155W/(m・K)であり、試験例5の第二の皮膜の熱伝導率の熱伝導率は157W/(m・K)であった。
この結果より、試験例4では、陽極酸化皮膜よりもニッケル−リンめっき皮膜の方が高い熱伝導率を示し、ニッケル−リンめっきからなる第二の皮膜は、熱拡散層として燃焼室内の温度分布を均一化する効果を発揮することがわかった。また、試験例5でも、陽極酸化皮膜よりもモリブデン皮膜の方が高い熱伝導率を示し、モリブデン皮膜からなる第二の皮膜は、熱拡散層として燃焼室内の温度分布を均一化する効果を発揮することがわかった。さらに、試験例6、試験例7において、陽極酸化皮膜よりも銀皮膜の方が高い熱伝導率を示し、銀皮膜からなる第二の皮膜は、熱拡散層として燃焼室内の温度分布を均一化する効果を発揮することがわかった。
本発明に係る高い断熱性と高い均熱性とを両立させて備えるアルミニウム部材の表面被覆方法及び表面被覆アルミニウム部材並びに内燃機関用ピストンによれば、高い断熱性及び高い均熱性を有し、且つ、それらを両立させることができる。
1 アルミニウム部材
2 第一の皮膜(陽極酸化皮膜)
2a 第1の陽極酸化皮膜(直流電解陽極酸化層)
2b 第2の陽極酸化皮膜(交直重畳電解陽極酸化層)
3 第二の皮膜
5 シリコン
10 陽極酸化処理装置
11 電解浴槽
12 陽極
13 一対の陰極
14 導電線
15 電源
第一の皮膜形成工程
11 第一の陽極酸化皮膜形成工程
12 第二の陽極酸化皮膜形成工程
第二の皮膜形成工程

Claims (10)

  1. アルミニウム部材の表面に第一の皮膜と、
    前記第一の皮膜の表面に前記第一の皮膜よりも熱伝導率が高い第二の皮膜と、
    を少なくとも備え、
    前記第一の皮膜が、その表面にナノレベルの気孔を少なくとも有し、かつ、その内部にナノレベルの気孔及びアルミニウム以外の不純物元素に由来するミクロレベルの気孔を少なくとも有し、
    前記第二の皮膜が、前記第一の皮膜の上に形成されており、さらに前記第二の皮膜の表面が平滑であり、
    前記第一の皮膜と前記第二の皮膜との密着部分に前記ナノレベルの気孔によりアンカー効果が付与されており、
    前記第一の皮膜が陽極酸化皮膜であることを特徴する表面被覆アルミニウム部材。
  2. 前記第一の皮膜が、少なくとも空隙率の異なる二種類の陽極酸化皮膜からなることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆アルミニウム部材。
  3. 前記第一の皮膜が、前記アルミニウム部材側の空隙率が高い第1の陽極酸化皮膜と前記第二の皮膜側の空隙率が低い第2の陽極酸化皮膜とからなる二種類の陽極酸化皮膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面被覆アルミニウム部材。
  4. 前記第1の陽極酸化皮膜が直流電解を印加して得られる陽極酸化皮膜であり、前記第2の陽極酸化皮膜が交直重畳電解を印加して得られる陽極酸化皮膜であることを特徴とする請求項に記載の表面被覆アルミニウム部材。
  5. 請求項1〜のいずれか一項に記載の表面被覆アルミニウム部材を備え、
    前記表面被覆アルミニウム部材を内燃機関のエンジンの燃焼室を形成する部品又は内燃機関用ピストンの一部に適用していることを特徴とする内燃機関用ピストン。
  6. その表面にナノレベルの気孔を少なくとも有し、かつ、その内部にナノレベルの気孔及びアルミニウム以外の不純物元素に由来するミクロレベルの気孔を少なくとも有する陽極酸化皮膜である第一の皮膜をアルミニウム部材に形成する工程と、
    前記第一の皮膜の表面に、所定の成膜法を用いて、前記第一の皮膜よりも熱伝導率が高く、平滑な表面の第二の皮膜を形成する工程と、
    を備えることを特徴とするアルミニウム部材の表面被覆方法。
  7. アルミニウム部材に交直重畳電解を印加することにより、前記第一の皮膜の第2の陽極酸化皮膜を形成する工程と、
    前記アルミニウム部材に直流電解を印加することにより、前記第一の皮膜の第1の陽極酸化皮膜を形成する工程と、
    前記第2の陽極酸化皮膜の表面に、所定の成膜法を用いて、前記第1の陽極酸化皮膜及び前記第2の陽極酸化皮膜よりも熱伝導率が高い第二の皮膜を形成する工程と、
    を更に備えることを特徴とする請求項に記載のアルミニウム部材の表面被覆方法。
  8. 前記アルミニウム部材の表面に前記第1の陽極酸化皮膜を形成し、前記第1の陽極酸化皮膜の表面に前記第2の陽極酸化皮膜を形成することを特徴とする請求項に記載のアルミニウム部材の表面被覆方法。
  9. 前記第1の陽極酸化皮膜を形成する工程と前記第2の陽極酸化皮膜を形成する工程とを、同一の処理浴を用いて行うことを特徴とする請求項又はに記載のアルミニウム部材の表面被覆方法。
  10. 前記第1の陽極酸化皮膜を形成する工程と前記第2の陽極酸化皮膜を形成する工程の後に、前記第1の陽極酸化皮膜を形成する工程及び第2の陽極酸化皮膜を形成する工程を繰り返す工程を更に備え、
    前記繰り返す工程の後に、前記熱伝導率が高い第二の被膜を形成する工程を行うことを特徴とする請求項の何れか一項に記載のアルミニウム部材の表面被覆方法。
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