JP6709244B2 - 自動車用内燃機関の潤滑装置 - Google Patents

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本願発明は、自動車用内燃機関の潤滑装置に関するものである。
内燃機関では、運転の停止時にはオイルはオイルパンに戻って溜まるが、外気温度が零度以下であると、オイルに含まれていた水分が凍結し、始動時にトラブルを引き起こすことがある。
そこで、特許文献1には、排気ガス通路に、オイルパンの内部に入り込むバイパス通路を設けて、オイルパン内に氷塊が発生していると判断した場合は、排気ガスをバイパス通路に流して氷塊を溶かすことが開示されている。
また、特許文献2には、オイルを吸い込むストレーナを、第1パイプと第2パイプとを有する二股に形成して、第1パイプに、吸い込み負圧が所定値以下では閉じるようにバルブを設けることにより、氷塊が発生した場合はこれを第2パイプに吸い込むようにした構成が開示されている。すなわち、特許文献2では、第2パイプには氷塊の通過を阻止するフィルターを設けており、取り込まれた氷塊が第2パイプに溜まると、第2パイプの流れ抵抗が高くなることにより、第1パイプの負圧が高くなってバルブが開くようになっており、結果として、第1パイプには氷塊を含まないオイルが流入することになる。
特開2016−169625号公報 特開2016−156359号公報
特許文献2では、オイルパンには下向きに凹んだ凹所が形成されており、ストレーナの吸い込み口を凹所の内部に入り込ませている。このように、ストレーナの吸い込み口を凹所内に入り込ませると、自動車が旋回してオイルがオイルパン内を移動しても凹所はオイルで満たされているため、ストレーナの吸い込み口は常に油中にある。従って、ストレーナの吸い込み口が油面の上になってしまってオイルポンプが空気を吸ってしまう現象を防止できる。
しかし、本願発明者が研究したところ、オイルパンに吸い込み用の凹所が形成されていると、凹所の開口面に広がるように氷の膜が生成する現象が起きており、このため、凹所が氷の膜で蓋をされた状態になって、オイルポンプが駆動されても空回りするだけの「空吸い」の状態になってしまうことがあった。
この点について、特許文献1,2は、オイルの内部に浮遊している氷塊の対策には成り得るが、凹所の開口面に膜状に生成する氷の対策にはなっていないといえる。また、特許文献1,2は、いずれも構造が非常に複雑でコストも嵩むのみならず、特別の部材を要して重量が増大するため燃費の低下招来することは否めず、現実性に劣っていると解される。
更に、オイル中の水分が凍結することによる弊害は始動時に現れるが、特許文献1の場合は、機関を始動してある程度の時間を経過してから排気ガスと氷塊との熱交換が始まるため、氷の影響を受けることなく機関を始動させるという要請に応えているとは言い難い。
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、オイル中の水分の凍結(氷結)による問題を簡単な構造で抑止しようとするものである。
本願発明の潤滑装置は、
「オイルに漬かる上向き開口の凹所を設けたオイルパンと、前記凹所の箇所からオイルを吸い上げる上下長手のストレーナとを有しており、前記ストレーナの下端に、当該ストレーナの軸心方向に開口した吸い込み口が、その全体がオイルに浸漬しつつ一部前記凹所の開口面よりも上に位置するようにして形成されている
という構成において、
「前記ストレーナの吸い込み口には、前記ストレーナの軸心と前記凹所の開口面とに対して傾斜した2つの傾斜部が、それぞれ一部が前記凹所の開口面の上に位置するようにして形成されている」
という特徴を備えている。
本願発明において、オイルが下限以上入っている限り、ストレーナの吸い込み口は、常にオイルで浸漬されている。特に、運転を停止するとオイルはオイルパンに流下するため、始動時の油面のレベルは運転時よりも高くなっている。また、自動車の旋回等に際してオイルがオイルパン内を移動し、油面が傾斜することがあるが、凹所にはオイルが充満しているため、自動車が旋回しても空吸いの現象が生じることはない。
そして、水はオイルよりも比重が大きいため、機関の運転を停止すると、オイルパン内において、オイル中に含まれていた水分は徐々に降下して凹所に溜まっていくが、外気温か零度以下であると、凹所に溜まった水が凍結していき、凹所の開口面全体を覆う膜に成長していく現象が見られる(池に氷が張るように、氷の膜は凹所の開口縁から中央部に向けて成長していき、やがて開口面全体を覆うに至るものと推測される。)。
しかし、本願発明では、ストレーナの吸い込み口の一部が凹所の開口面よりも高い位置にあるため、凹所の開口面を覆うように氷の膜が生成されていても、始動時には、氷の膜の上に溜まっているオイルを吸い込むことができる。
従って、凹所が氷の膜で塞がれていても、始動時に空吸いの現象が発生することを防止して、各潤滑部等にオイルを供給することができる。しかも、特別の部材は不要で構造はごく簡単であるため、コストの抑制に大きく貢献できると共に、燃費の悪化も生じない。むしろ、ストレーナの吸い込み口の一部が従来よりも高くなるため、ストレーナの重量は従来よりも軽くなり、結果として、燃費の向上に貢献できるといえる。
また、吸い込み口に傾斜部を形成してその一部ずつを凹所の内部に入り込ませると、自動車の旋回や発進・停止等によって凹所の内部でオイルが移動しても、そのオイルの移動を吸い込み口の箇所の壁面によって抑止できるため、オイルの吸い込みを確実化できる利点もある。
なお、機関を始動してからある程度の時間が経過すると、凹所に形成されていた氷の膜は、昇温したオイルの熱やオイルの流れによって割れたり溶けたりしていき、やがて消滅する。
実施形態を示す図で、ストレーナを仮想線で表示した平面図である。 オイルパン外槽の平面図である。 (A)は図2のIIIA-IIIA視側面図、(B)は図2のIIIA-IIIA視背面図である。 オイルパン内槽の平面図である。 図1のV-V視断面図である。 図1のVI-VI視断面図である。 (A)はストレーナを図1の矢印VIIAの方向から見た一部破断図、(B)はストレーナの底面図である。
(1).概要
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、クランク軸線方向を前後方向としている。念のため、図1等に方向を明示している。
図5,6に示すように、本実施形態では、オイルパンは、金属製のオイルパン外槽1と合成樹脂製のオイルパン内槽2との2槽式になっている。このように2槽式に構成しているのは、オイルパン内槽2を熱伝導率が低い合成樹脂製とすることにより、オイルからの放熱を抑制してオイルの早期昇温等を図るためである。図1,2,4に示す平行斜線は、オイルパン外槽1又はオイルパン内槽2の上面を明示するためのものであり、断面を示すものではない。
両槽1,2とも、前半部が深くて後半部が浅くなっており、オイルは、前半部の深い部分に溜まるようになっている。すなわち、両槽1,2とも、前半部はオイルが溜まる深底部1a,2aになって、後半部はオイルOが流れるだけの浅底部1b,2bになっている。
オイルパン外槽1の上面には外側に張り出したフランジ3が形成されており、左右のフランジ3と後部のフランジ3とはシリンダブロック(図示せず)に固定されて、前部のフランジ3は、フロントカバー4(図5,6参照)の下面に固定されている。
オイルパン内槽2の上端にも、外側に僅かに張り出したフランジ5が形成されている。図5,6に示すように、オイルパン内槽2の上端はオイルパン外槽1の上端よりも少し下に位置しており、オイルパン内槽2のフランジ5により、オイルパン外槽1の内側面との間の間隔を保持している(オイルパン内槽2には、フランジ5が存在しない箇所も部分的に存在している。)。また、オイルパン内槽2の底部は、複数箇所においてオイルパン外槽1にビスで固定されている。図1,2,4で、両槽1,2の固定部を、符号6で表示している。
フロントカバー4は、タイミングチェーン(図示せず)を覆うものであるが、下部にはクランク軸貫通穴7が開口しており、クランク軸のうちフロントカバー4から突出した前端部に、補機を駆動するクランクプーリ(図示せず)が固定される。
既述のとおり、両槽1,2の略前半部は深底部1a,2aになっているが、両深底部1a,2aの間にはある程度の間隔(オイル溜まり空間)が空いている。そして、オイルパン内槽2の深底部2aに、下向きに凹んだ裁頭円錐形(台錘形)の凹所8が形成されている。図1,4のとおり、凹所8は、平面視で、両槽1,2の長手中心線9を挟んで片側(排気側)に寄せて形成されている。また、凹所8の底部8aは、開口面9bに対して長手中心線9の側に少しずれている。また、底部8aのうち長手中心線9から遠い部位に、水抜き穴10が上下に貫通するように空けられている。
本実施形態では、ストレーナ11はフロントカバー4に取付けている。このため、フロントカバー4の内面に、ストレーナ取付けボス部12を張り出すように形成しており、ストレーナ取付けボス部12の下端に、三角形状のフランジ12aを形成している。なお、オイルポンプは、フロントカバー4と一体的に構成することが可能である(すなわち、フロントカバー4をオイルポンプのハウジングの一部として利用し、クランク軸にロータを設けることが可能である。)。
(2).ストレーナ
ストレーナ11は、上端にフランジ13aを設けた上筒13と、上筒13に下方から嵌め込んだ下筒14とを備えており、上筒13のフランジ13aが、ストレーナ取付けボス部12のフランジ12aにボルトで固定されている。下筒14の下端には、吸い込み口15が開口している。従って、吸い込み口15はストレーナ11の軸心方向に開口しており、オイルは、吸い込み口15からストレーナ11の軸心方向に吸い上げられる。
図1に示すように、ストレーナ11は、平面視では、両槽1,2のコーナー部から略対角方向に向いた姿勢になっている。このため、図5,6に示すように、ストレーナ11の軸心は、正面視と側面視との両方において鉛直線に対して傾斜している。この場合、図5の側面視で、上筒13の軸心と下筒14の軸心とは、側面視で少し交差している(正確には、鉛直線に対する傾斜角度は、上筒13よりも下筒14が小さくなっている。従って、ストレーナ11は屈曲した形態になっている。ストレーナ11は、屈曲しているため上筒13と下筒14とで構成しているが、真っ直ぐな形態である場合は1本で構成したらよい。
図7に明示するように、吸い込み口15は、全体として下筒14の軸線に対して斜めカットされた姿勢になっており、かつ、第1傾斜部16と、それから段落ちした第2傾斜部17とを有している。最も下に位置した部位18と、最も上に位置した部位19とは、両傾斜部16,17の境界部になっている。
そして、凹所8の開口面8bは水平になっているが、第1傾斜部16のうちの下側の一部と、第2傾斜部17のうちの下側の一部とが凹所8の開口面8bの下方に位置して、第1傾斜部16のうちの上側の一部と、第2傾斜部17のうちの上側の一部とが開口面8bの上方に位置するように配置されている。従って、両傾斜部16,17は、ストレーナ11の下筒部14(及び上筒部13)の軸心に対して傾斜していると共に、凹所8の開口面8bに対して傾斜している。
吸い込み口15は、全体としては、半分程度の面積が開口面8bの下方に入り込んで(すなわち、凹所8の内部に入り込んで)、半分程度の面積は開口面8bの上方に位置している。図7(B)で、開口面8bの下方に位置した侵入部を符号20で示して、そのエリアを点線の平行斜線で明示している。開口面8bの上に位置した非侵入部には、符号21を付している。
図1に示すように、ストレーナ11の吸い込み口15は、凹所8の中心から長手中心線9の側に少し寄っている。これは、凹所8の位置が長手中心線9から少し横にずれていることに関連して、自動車が旋回したときにオイルの油面が最も低くなる位置に吸い込み口15を開口させているものである。
(3).まとめ
機関の運転中の油面の下限高さは、例えば図7(A)のH1の位置にあり、機関停止後の油面の下限高さは、例えば図7(A)のH2の位置になっている。いずれにしても、吸い込み口15は、その全体がオイルOに浸漬している。自動車が旋回すると、慣性力でオイルOが移動することにより、油面は図7の線22,23のように傾斜するが、この場合でも、吸い込み口15はその全体がオイルOに浸かるように設定されている。従って、自動車の走行中にオイルポンプが空気を吸い込む現象は発生しない。
他方、機関が停止すると、機関を巡っていたオイルはオイルパンに戻るが、クランク室や動弁室などで水分がオイルに付着するため、オイルパンのオイルには水分が含まれており、オイルに含まれている水分は、オイルよりも比重が大きいため徐々に降下して凹所8に落ちていく。
そして、凹所8に落ちてきた水分は水抜き穴10から下方に流下していくが、水抜き穴10がゴミ等で詰まっていたり、外気温度が非常に低くて水抜き穴10から落ちる前に凍結が始まったりすると、水が凹所8に溜まって、凹所8の開口面8bを覆うように氷の膜24が生成されることがある。
従って、ストレーナ11の吸い込み口15の全体が凹所8の内部に侵入していると、次の始動時にオイルの吸い上げがない空吸いの現象が発生することになるが、本実施形態では、吸い込み口15の上半分程度は氷の膜24の上に位置しているため、機関を始動すると、氷の膜24の上のオイルOが吸い込み口15の非侵入部21から吸い上げられる。
従って、何らかの理由で水抜き穴10が塞がって凹所8に氷の膜24が生成しても、運転停止中に凹所8の開口面が氷の膜24で覆われてしまっても、始動時にオイルポンプの空吸いの現象は発生せずに、潤滑部等の各部位にオイルOを確実に供給できる。従って、本実施形態におけるストレーナ11の配置態様は、水抜き穴10の機能を補完しているといえる。始動してから若干の時間が経過すると、氷の膜24はオイルの流れ等によって割れたり溶けたりするため、侵入部20からもオイルOが吸い上げられる。
実施形態のように、吸い込み口15に高さが相違する傾斜部16,17を形成してその一部ずつを凹所8の内部に入り込ませると、自動車の旋回や発進・停止等によって凹所8の内部でオイルOが移動しても、そのオイルOの移動を下筒14の壁面によって抑止できるため、オイルの吸い込みを確実化できる利点がある。
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。
更に、本願発明は、オイルパンが単槽式になっている潤滑装置にも適用できる。
本願発明は、内燃機関の潤滑装置に具体化できる。従って、産業上利用できる。
1 オイルパン外槽
2 オイルパン内槽
4 フロントカバー
8 凹所
8a 底部
8b 開口面
11 ストレーナ
13 上筒
14 下筒
15 吸い込み口
16,17 傾斜面
24 氷の膜
O オイル

Claims (1)

  1. オイルに漬かる上向き開口の凹所を設けたオイルパンと、前記凹所の箇所からオイルを吸い上げる上下長手のストレーナとを有しており、前記ストレーナの下端に、当該ストレーナの軸心方向に開口した吸い込み口が、その全体がオイルに浸漬しつつ一部前記凹所の開口面よりも上に位置するようにして形成されている構成であって、
    前記ストレーナの吸い込み口には、前記ストレーナの軸心と前記凹所の開口面とに対して傾斜した2つの傾斜部が、それぞれ一部が前記凹所の開口面の上に位置するようにして形成されている、
    自動車用内燃機関の潤滑装置。
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