以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺及び縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。図1乃至図8は、本発明の一実施の形態及びその変形例を説明するための図である。このうち、図1は、本発明の一実施の形態によるパウチの一例を示す平面図である。
図1に示すパウチ1は、例えばレトルト食品や冷凍食品を内容物として収容し、当該内容物を電子レンジで温めるための袋である。パウチ1は、重ねられた積層フィルム10をヒートシールすることにより製袋される平パウチ形式を採用している。図1に示すように、パウチ1は、互いに対向して配置された表積層フィルム11aと裏積層フィルム11bとからなる一対の積層フィルム10を含んでおり、一対の積層フィルム10によって囲まれる空間内に、内容物を収容する収容空間2が形成されている。重ね合せられた一対の積層フィルム10の縁部12近傍は、互いにヒートシールされており、これにより、一対の積層フィルム10に囲まれる空間内に位置する収容空間2が密閉されている。図1に示すパウチ1において、重ね合せられた一対の積層フィルム10の縁部12によって、パウチ1の外縁5が規定されている。パウチ1の外縁5すなわち外輪郭は、平面視において、各角を面取りした矩形の形状を有している。なお、本明細書において、「平面視」とは、パウチ1をなす積層フィルム10を全体的かつ大局的に見た場合において当該積層フィルム10の平面方向に対する法線方向から視ることをいう。
(縁部シール部)
図1に示すように、パウチ1は、重ねられた積層フィルム10の縁部12近傍をヒートシールすることにより形成された縁部シール部40を備えている。縁部シール部40は、内容物を収容する収容空間2を密閉する機能を有している。図1に示すように、縁部シール部40の外縁40aは、重ねられた一対の積層フィルム10の縁部12に沿って周状に延びている。一方、縁部シール部40の内縁40bは、外縁40aに対して間隔を空けながら当該外縁40aに沿って周状に延びている。
図1に示すように、本実施の形態の縁部シール部40は、一対の積層フィルム10の上縁13近傍をヒートシールした上部シール領域41と、一対の積層フィルム10の側縁14近傍をヒートシールした側部シール領域42と、一対の積層フィルム10の下縁15近傍をヒートシールした下部シール領域43と、を含んでいる。
(蒸気抜き機構)
また、パウチ1は、加熱時に収容空間2内の蒸気を逃がすための蒸気抜き機構6を備えている。蒸気抜き機構6は、加熱時に内容物が漏れ出すことがないよう、加熱時において内容物から離間した位置に配置される。パウチ1内の収容空間2に内容物を充分に満たした場合、加熱時において内容物から離間した位置に蒸気抜き機構6を配置するためには、パウチ1の大きさの制限等も考慮すると、典型的には、蒸気抜き機構6は、上縁13寄りに配置されることになる。
図1に示す蒸気抜き機構6は、一対の積層フィルム10によって取り囲まれる領域内に位置し、内容物を収容しない通気室7と、通気室7を取り囲んで当該通気室7を収容空間2から隔離させるポイントシール部50と、を含んでいる。
このうち、ポイントシール部50は、重ねられた積層フィルム10をヒートシールすることにより形成されている。ポイントシール部50は、加熱に伴って収容空間2内の圧力が高まると剥がれて、収容空間2と通気室7とを連通させるよう構成されている。ポイントシール部50は、縁部シール部40に囲まれる領域内に位置している。図2に、ポイントシール部50を拡大して示す。図2に示すように、ポイントシール部50の外縁50a及び内縁50bは、互いに対して間隔を空けながら、各角を面取りした矩形の輪郭に沿って周状に延びている。なお、本明細書において、ポイントシール部50の巾とは、内縁50bと外縁50aとの間の間隔をいう。
本実施の形態では、ポイントシール部50は、互いに対向するポイント上部51及びポイント下部53と、ポイント上部51及びポイント下部53の間を延びる一対のポイント側部52と、を含んでいる。一対のポイント側部52は、互いに対して間隔を空けながら互いに対向している。各ポイント側部52は、ポイント上部51の対応する側の端部とポイント下部53の対応する側の端部との間を延びている。本実施の形態では、ポイントシール部50のポイント側部52は、縁部シール部40の側部シール領域42と平行になっている。さらに、ポイントシール部50のポイント上部51は、縁部シール部40の上部シール領域41と平行になっており、ポイントシール部50のポイント下部53は、縁部シール部40の下部シール領域43と平行になっている。ただし、ポイント上部51、ポイント側部52及びポイント下部53は、対応する上部シール領域41、側部シール領域42及び下部シール領域43と非平行であってもよい。
図2に示すように、本実施の形態では、ポイントシール部50は、縁部シール部40と繋がっている。具体的には、ポイントシール部50の一のポイント側部52が、縁部シール部40の一の側部シール領域42に線状に接するようにして、ポイントシール部50と縁部シール部40とが繋がっている。また、ポイントシール部50の他のポイント側部52が側部シール領域42から最も離間し、ポイントシール部50は縁部シール部40から収容空間2側に向かって張り出した形状になっている。ただし、ポイントシール部50は、縁部シール部40と繋がっていなくてもよく、縁部シール部40から離間していてもよい。
ところで、縁部シール部40及びポイントシール部50は、同一のヒートシール条件下でヒートシールされた場合、縁部シール部40及びポイントシール部50内の任意の一地点における接合力は、縁部シール部40またはポイントシール部50内の他の一地点の接合力と等しくなる。このため、加熱に伴って収容空間2内の圧力が高まったときの縁部シール部40及びポイントシール部50における剥離のし易さは、縁部シール部40及びポイントシール部50の位置や形状等に起因して誘引される応力集中、並びに、縁部シール部40及びポイントシール部50の巾に大きく依存する。
この点、本実施の形態では、図2に示すように、ポイントシール部50の巾W1は、縁部シール部40の巾W2よりも狭くなっている。従って、縁部シール部40及びポイントシール部50内の各地点での接合力が等しい場合、縁部シール部40よりもポイントシール部50において剥離し易くなる。とりわけ、ポイントシール部50は、縁部シール部40から収容空間2側に向かって張り出していることから、縁部シール部40よりもポイントシール部50において一層剥離し易くなる。さらに、ポイントシール部50のうち、収容空間2の中央に近い部分ほど加熱時に高圧の蒸気の負荷を受け易い点を考慮すると、図示する例では、ポイント側部52とポイント下部53との接続位置周辺から剥離し易い。
次に、ポイントシール部50によって取り囲まれて収容空間2から隔離された通気室7について説明する。通気室7は、加熱に伴って収容空間2内の圧力が高まった際に収容空間2と連通して収容空間2内の蒸気を外部へ逃がすためのものである。通気室7は、パウチ1をなす一対の積層フィルム10の、ポイントシール部50に囲まれる部分16によって画定されている。
図示する例では、通気室7は、平面視において、各角を面取りした矩形の形状の輪郭を有している。ただし、このような例に限定されず、通気室7は、平面視において、例えば各角を面取りした多角形、円形、楕円形の形状の輪郭を有してもよい。
さらに、図2に示すように、通気室7を形成する各積層フィルム10のポイントシール部50に囲まれる部分16に、蒸気抜き手段80が設けられている。蒸気抜き手段80が設けられていることにより、電子レンジによる加熱に伴って発生する蒸気によって収容空間2内の圧力が高まった際に、収容空間2内の蒸気を通気室7を介して外部へ逃がすことができる。本実施の形態の蒸気抜き手段80は、通気室7を形成する各積層フィルム10のポイントシール部50に囲まれる部分16に形成された蒸気抜き孔81からなる。本実施の形態では、平面視において、各積層フィルム10に形成された蒸気抜き孔81が互いに重なっている。言い換えると、表積層フィルム11aに形成された蒸気抜き孔81と、裏積層フィルム11bに形成された蒸気抜き孔81とが、互いに重なっている。
(易開封手段)
また、図1に示すように、積層フィルム10の縁部12に易開封手段70が設けられている。易開封手段70は、パウチ1を開封する際の起点として、当該パウチ1を開封することを容易にさせる機能をもつ。図1に示すように、易開封手段70が設けられた位置における縁部シール部40の延長方向d1と直交する方向を開封方向d2とすると、積層フィルム10は、易開封手段70から開封方向d2に引き裂かれることが意図されている。易開封手段70は、引き裂かれた積層フィルム10の縁部から内容物が漏れ出すことがないよう、開封時において内容物から離間した位置に配置される。パウチ1内の収容空間2に内容物を充分に満たした場合、開封時において内容物から離間した位置に易開封手段70を配置するためには、パウチ1の大きさの制限等も考慮すると、易開封手段70は、上縁13寄りに配置されることになる。
本実施の形態の易開封手段70は、積層フィルム10の一対の側縁14のうち、蒸気抜き機構6と離間した側に位置する側縁14に設けられている。また、易開封手段70は、縁部シール部40上、より詳細には縁部シール部40の側部シール領域42上に設けられている。
本実施の形態の易開封手段70は、積層フィルム10の側縁14から収容空間2側に向かって延びるノッチ71にて構成されている。ノッチ71は、重ねられた表積層フィルム11a及び裏積層フィルム11bの両方を貫通している。本実施の形態において、ノッチ71は、縁部シール部40の外縁40aから開封方向d2に沿って内縁40bに向かって延び、ノッチ71の先端が当該内縁40bから離間している。
このようなノッチ71は、積層フィルム10の縁部12に形成された切れ目であってもよいし、所定の巾をもつ切欠きであってもよい。なお、図示する例では、易開封手段70が積層フィルム10の縁部12に形成された1つのノッチ71からなる例を示したがノッチ71の数はこのような例に限定されない。例えば、積層フィルム10の縁部12のうち、収容空間2を挟んで前記ノッチ71に対面する位置に、更なるノッチが形成されてもよい。
なお、各部の寸法について一例を示すと、ポイントシール部50の巾W1は、例えば2.5〜5mm程度に設定され、縁部シール部40の巾W2は、例えば4〜12mm程度に設定される。また、蒸気抜き孔81の径は、例えば5〜7mm程度に設定され、一対のポイント側部52の間隔となる通気室7の長さは、例えば10mm〜16mm程度に設定され、ポイント上部51とポイント下部53との間隔となる通気室7の長さは、例えば15mm〜30mm程度に設定される。
(積層フィルム)
図3は、図1に示すパウチ1をなす積層フィルム10の積層方向に沿った断面であって、積層フィルム10の層構成を説明するための図である。上述のように、パウチ1は、一対の積層フィルム10をヒートシールすることによって製袋される。このため、積層フィルム10には、袋内方側となる部分にシール性を有するシーラントフィルム36が設けられている。また、電子レンジ用のパウチ1は、輸送時等に他のパウチの角等から受ける突き刺し、パウチに伝わる衝撃あるいは当該衝撃に伴う屈曲に対して充分な耐性を必要とされる。このため、パウチ1をなす積層フィルム10は、耐突き刺し性、耐衝撃性及び耐屈曲性をもつポリアミド系樹脂層31bを含んだ多層共押フィルム31を備えている。さらに、パウチ1は、電子レンジで温めた後に開封されて内容物を取り出される。この点、パウチ1を構成する積層フィルム10は、開封を容易にすべく、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35を備えている。その上、ここで説明するパウチ1は、食品を内容物として内包することに適したパウチ1である。この点、パウチ1を構成する積層フィルム10は、水蒸気の透過を防止する蒸気バリア性及び酸素ガス等のガスの透過を防止するガスバリア性を確保すべく、バリア層32を備えている。このような層構成を持つ積層フィルム10は、製袋してパウチ1とするときの袋外方となる側から袋内方となる側に向けて、多層共押フィルム31とバリア層32と引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35とシーラントフィルム36とをこの順で含んでいる。以下、各層について詳述していく。
(多層共押フィルム)
上述したように、多層共押フィルム31は、耐突き刺し性、耐衝撃性及び耐屈曲性に優れたポリアミド系樹脂層31bを含んでいる。多層共押フィルム31がポリアミド系樹脂層31bを含むことにより、輸送時等に受ける突き刺し、パウチ1に伝わる衝撃あるいはこれに伴う屈曲を多層共押フィルム31によって吸収することができ、これにより、突き刺し、衝撃あるいは屈曲に起因したパウチ1へのピンホールの発生を効果的に防止することができる。
また、電子レンジ用のパウチ1には、熱に対する耐性も必要とされる。このため、多層共押フィルム31は、耐熱性をもつ第1ポリエステル系樹脂層31aを、ポリアミド系樹脂層31bよりも袋外方となる側に含んでいる。
ところで、ポリアミド系樹脂層31bは、吸湿し易くこれによりカールする場合がある。一方、第1ポリエステル系樹脂層31aは、吸湿を妨げる機能をある程度もつ。したがって、袋外方となる側に配置された第1ポリエステル系樹脂層31aにより、袋外方からポリアミド系樹脂層31bに向かう蒸気を妨げることもできる。
好ましくは、多層共押フィルム31は、ポリアミド系樹脂層31bよりも袋内方となる側に、第2ポリエステル系樹脂層31cをさらに含む。このような形態によれば、袋内方となる側に配置された第2ポリエステル系樹脂層31cにより、袋内方からポリアミド系樹脂層31bに向かう蒸気も妨げることもできる。加えて、多層共押フィルム31がポリアミド系樹脂層31bを基準にして概ね対称となる。そして、ポリアミド系樹脂層31bが第1ポリエステル系樹脂層31aと第2ポリエステル系樹脂層31cとの間でバランスよく保持されることにより、ポリアミド系樹脂層31bのカールを更に効果的に抑制することができる。
また、好ましくは、多層共押フィルム31は、二軸延伸処理される。これにより、多層共押フィルム31に含まれるポリエステル系樹脂及びポリアミド系樹脂をなす分子が、延伸処理によって延伸方向に並び、多層共押フィルム31が優れた寸法安定性を発揮するようになる。多層共押フィルム31が優れた寸法安定性を発揮することにより、吸湿によるポリアミド系樹脂層31bの寸法変化が生じ難くなる。本実施の形態では、一方の延伸方向が引き裂きが意図された開封方向d2と平行になっており、他方の延伸方向が開封方向d2と直交する方向と平行になっている。延伸方向が開封方向d2と平行なことにより、多層共押フィルム31を開封方向d2に沿って引き裂き易くすることができる。
なお、本実施の形態では、多層共押フィルム31は、積層フィルム10のうち、製袋してパウチ1とするときの最も袋外方となる層としても機能する。
以下、多層共押フィルム31の各層の構成について詳述する。なお、以下の説明では、第1ポリエステル系樹脂層31a及び第2ポリエステル系樹脂層31cを単にポリエステル系樹脂層31a、31cと略記することがある。
(1)ポリエステル系樹脂層
ポリエステル系樹脂層31a、31cは、多層共押フィルム31に寸法安定性、耐熱性等の機能を付与するものである。特に寸法安定性が付与されることで、湿潤時のガスバリア性の低下を抑制することができる。
ポリエステル系樹脂層31a、31cは、いずれも結晶性ポリエステルを主成分として含有するのが好ましい。結晶性ポリエステルは、多層共押フィルム31に寸法安定性、耐熱性等の機能を付与することに大きく寄与する。結晶性ポリエステルとして、例えば、ジカルボン酸とジオールとを重縮合させることにより得られる樹脂等が挙げられる。
ジカルボン酸としては、例えば、o−フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、オクチルコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、デカメチレンカルボン酸、これらの無水物及び低級アルキルエステルや、5−スルホイソフタル酸、2−スルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、3−スルホフタル酸、5−スルホイソフタル酸ジアルキル、2−スルホイソフタル酸ジアルキル、4−スルホイソフタル酸ジアルキル、3−スルホイソフタル酸ジアルキル及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩等のスルホン基含有ジカルボン酸等が挙げられる。
ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール)、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2、4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール類;2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロへキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロへキシル)プロパン等のアルキレンオキサイド付加物、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール類、1,3−ジヒドロキシブタンスルホン酸、1,4−ジヒドロキシブタンスルホン酸等のスルホン基含有ジオール等が挙げられる。
この中でも特に、ジカルボン酸に由来する成分がテレフタル酸、ジオールに由来する成分がエチレングリコールであるポリエチレンテレフタレート(PET);ジカルボン酸に由来する成分がテレフタル酸(99〜80モル%)及びイソフタル酸(1〜20モル%)、ジオールに由来する成分がエチレングリコールであるイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート;ジカルボン酸に由来する成分がテレフタル酸、ジオールに由来する成分が1,4−ブタンジオールであるポリブチレンテレフタレート(PBT);ジカルボン酸に由来する成分がテレフタル酸(99.5〜90モル%)及び5−ナトリウムスルホイソフタル酸(0.5〜10モル%)、ジオールに由来する成分がエチレングリコールであるスルホイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート等が寸法安定性、耐熱性等の点から好適であり、より好ましくはテレフタル酸とエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレート(PET)である。
このような結晶性ポリエステルは商業的に入手可能であり、例えば、ベルペット−EFG6C、ベルペットPIFG5(いずれも(株)ベルポリエステルプロダクツ製)等をポリエステル系樹脂層31a、31cを構成する結晶性ポリエステルとして用いることができる。
なお、ポリエステル系樹脂層31a、31cに用いられる結晶性ポリエステルは1種のみでも良いし、必要に応じ2種以上をブレンドして用いてもよい。
また、ポリエステル系樹脂層31a、31cは、必要に応じ結晶性ポリエステルと相溶性のある樹脂を含有していても良いが、ポリエステル系樹脂層31a、31cを構成する成分の総重量に対する結晶性ポリエステルの含有量は、50重量%以上、好ましくは70重量%以上である。
結晶性ポリエステルと相溶性のある樹脂としては非晶性ポリエステル等が例示できる。非晶性ポリエステルとはJIS−K7121に基づく示差走査熱量測定において融解熱量が観察されないポリエステルである。このような特性を有するポリエステルであれば特に限定されないが、具体例として、ジカルボン酸に由来する成分がテレフタル酸、ジオールに由来する成分がエチレングリコール(20〜80モル%)及びシクロヘキサンジメタノール(80〜20モル%)であるポリエステル;ジカルボン酸に由来する成分がテレフタル酸(20〜80モル%)及びイソフタル酸(80〜20モル%)、ジオールに由来する成分がエチレングリコールであるポリエステルが好適である。このような非晶性ポリエステルは商業的に入手可能であり、例えば、Eastar Copolyester 6763(イーストマンケミカル製)等を非晶性ポリエステルとして用いることができる。
また、後述するバリア層32の効果を損なわない範囲で必要に応じて、ポリエステル系樹脂層31a、31cに公知の無機又は有機添加剤等を適宜配合することができる。無機又は有機添加剤としては、アンチブロッキング剤、核剤、撥水剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、顔料、染料等を適宜配合することができる。
(2)ポリアミド系樹脂層
ポリアミド系樹脂層31bは、多層共押フィルム31に耐屈曲性、耐衝撃性等の機能を付与するものである。特に耐屈曲性が付与されることで、屈曲後のガスバリア性の低下を抑制することができる。
ポリアミド系樹脂層31bは、脂肪族ポリアミドを70〜99重量%、芳香族ポリアミドを1〜30重量%含有する。
(2−1)脂肪族ポリアミド
脂肪族ポリアミドとしては、脂肪族ナイロン及びその共重合体が挙げられる。具体的には、ポリカプラミド(ナイロン−6)、ポリ−ω−アミノヘプタン酸(ナイロン−7)、ポリ−ω−アミノノナン酸(ナイロン−9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン−11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン−12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン−2,6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン−4,6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン−6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン−6,10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン−6,12)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン−8,6)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン−10,8)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン−6/12)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン−6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン−6/6,6)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン−12/6,6)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン−2,6/6,6)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン−6/6,6/6,10)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン−6/6,6/6,10)等を例示でき、これらのうち、2種以上の脂肪族ポリアミドを混合しても良い。
好ましい脂肪族ポリアミドとしては、ナイロン−6、ナイロン-6,6、ナイロン−6/6,6(ナイロン6とナイロン6,6との共重合体)が挙げられ、より好ましくはナイロン−6、ナイロン−6/6,6であり、更に好ましくはナイロン−6である。2種以上の脂肪族ポリアミドとしてはナイロン−6とナイロン−6/6,6の組み合わせ(重量比で50:50〜95:5程度)が好ましい。
(2−2)芳香族ポリアミド
芳香族ポリアミドとしては、例えば、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン等の芳香族ジアミンと、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸又はその誘導体との重縮合反応で得られる結晶性芳香族ポリアミドが挙げられる。好ましくは、ポリメタキシレンアジパミド(MXD−ナイロン)等の結晶性芳香族ポリアミドである。具体例としては、S−6007、S−6011(いずれも三菱ガス化学(株)製)が例示される。
或いは、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンとテレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸又はその誘導体との重縮合反応で得られる非晶性芳香族ポリアミド(アモルファスナイロン)が挙げられる。好ましくはヘキサメチレンジアミン−テレフタル酸−ヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸の共重合体等である。具体例としては、シーラーPA(三井・デュポンポリケミカル(株)製)等が例示される。
ポリアミド系樹脂層31bとして、脂肪族ポリアミドと芳香族ポリアミドの好ましい組み合わせは、ナイロン−6とMXD−ナイロンの組み合わせ、ナイロン−6と非晶性芳香族ポリアミド(アモルファスナイロン)の組み合わせが挙げられる。
(2−3)含有量
多層共押フィルム31におけるポリアミド系樹脂層31bでは、脂肪族ポリアミド及び芳香族ポリアミドの含有量は、脂肪族ポリアミドが70〜99重量%、好ましくは85〜97重量%、芳香族ポリアミドが1〜30重量%、好ましくは3〜15重量%の割合で含有されるように調整する。脂肪族ポリアミドが99重量%より多い場合、芳香族ポリアミドが1重量%より少ない場合には、二軸延伸性が低下し、フィルムの成形が困難となる。一方、脂肪族ポリアミドが70重量%より少ない場合、芳香族ポリアミドが30重量%より多い場合には、耐屈曲性が低下する。
ポリアミド系樹脂層31bは、上記ポリアミド系樹脂からなるものであってもよいが、バリア層32の効果を損なわない範囲で必要に応じて、公知の耐屈曲性改良剤、無機又は有機添加剤等を配合することができる。耐屈曲性改良剤としては、ポリオレフィン類、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー等が挙げられ、0.5〜10重量%程度の範囲で適宜配合することができる。無機又は有機添加剤としては、アンチブロッキング剤、核剤、撥水剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。例えば、アンチブロッキング剤であれば、シリカ、タルク、カオリン等を100〜5000ppm程度の範囲で適宜配合することができる。なお、第2ポリエステル系樹脂層31cを1層のみではなく、2層以上設けることも可能である。
(3)接着層
上記のポリエステル系樹脂層31a、31cとポリアミド系樹脂層31bとの層間強度を向上させる目的で、接着層が形成されていてもよい。接着層を介在させることにより、両者の接着後の層間強度を飛躍的に向上させることができる。接着層としては特に限定されず、例えば不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性された酸変性樹脂を用いることができる。
不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性された酸変性樹脂としては、例えば、変性ポリオレフィン、変性スチレン系エラストマー等が挙げられる。
変性ポリオレフィンは、公知の製法で得られ、例えば、不飽和カルボン酸又はその誘導体とポリオレフィンとをラジカル発生剤の存在下で加熱混合して得られる。
不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えば、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸、その酸無水物、そのエステル又はその金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩)等が例示できる。
ポリオレフィンとしては、オレフィン類の単独重合体、相互共重合体、他の共重合可能なモノマー(例えば、他のビニル系モノマー)との共重合体を例示できる。具体的には、例えば、ポリエチレン(例えば低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレン)等)、ポリプロピレン、ポリブテン、これらの相互共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等を例示できる。
変性ポリオレフィンとして、好ましくは無水マレイン酸変性ポリオレフィンである。具体的には、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(例えば、三井化学(株)製のアドマーSF731、SE800等や、三菱化学(株)製のモディック等)が例示される。
変性スチレン系エラストマーは、公知の製法で得られ、例えば、不飽和カルボン酸又はその誘導体とスチレン系エラストマーとをラジカル重合剤の存在下で加熱混合して得られる。
スチレン系エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物やスチレン−イソプレン共重合体の水素添加物等を例示できる。
不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えば、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸、その酸無水物、そのエステル又はその金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩)等が例示できる。
変性スチレン系エラストマーとして、好ましくは無水マレイン酸で変性したスチレン−ブタジエン共重合体水素添加物である。具体的には、無水マレイン酸で変性したスチレン−ブタジエン共重合体水素添加物(例えば、クレイトンポリマー製のクレイトンFG1901や旭化成ケミカルズ(株)製のタフテックM1913等)が例示できる。
(5)層構成
本実施の形態による多層共押フィルム31は、第1ポリエステル系樹脂層31a、ポリアミド系樹脂層31b及び第2ポリエステル系樹脂層31cの3層をこの順に有する多層積層体を二軸延伸することにより得られる二軸延伸多層フィルムである。ここで、ポリエステル系樹脂層31a、31cは、2層のみではなく、3層以上設けることも可能である。また、ポリアミド系樹脂層31bは、1層のみではなく、2層以上設けることも可能である。なお、複数あるポリエステル系樹脂層31a、31cは、使用する樹脂や厚みは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。また、ポリアミド系樹脂層31bが複数ある場合も同様に、使用する樹脂や厚みは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。また、その他にも、接着層やガスバリアフィルム、シール層等を必要に応じて設けることもできる。
ポリエステル系樹脂層31a、31cをA層、ポリアミド系樹脂層31bをB層、接着層をD層、と表記すると、具体的な層構成として、(A)層/(B)層/(A)層、(A)層/(A)層/(B)層/(A)層、(A)層/(A)層/(B)層/(A)層/(A)層、(A)層/(B)層/(A)層/(A)層、(A)層/(A)層/(B)層/(B)層/(A)層/(A)層、(A)層/(D)層/(B)層/(D)層/(A)層、(A)層/(B)層/(B)層/(A)層、(A)層/(B)層/(A)層等が挙げられる。
以上のような層構成を有する多層共押フィルム31の総膜厚は、用途にあわせて適宜設定することができ、特に限定されないが、通常10〜50μm程度、好ましくは12〜25μm程度である。
また、各層の膜厚は、通常、ポリエステル系樹脂層31a、31cは1〜20μm程度、好ましくは1〜15μm程度である。ポリエステル系樹脂層31a、31cの厚みが1μm以上であることによって、寸法安定性、耐熱性等の優れた機能が多層共押フィルム31に付与され得る。また、20μm以下であることにより、耐屈曲性の優れたフィルムを得ることができる。なお、ポリエステル系樹脂層31a、31cが複数の層からなる場合には、ポリエステル系樹脂層31a、31cの厚みは、複数のポリエステル系樹脂層31a、31cの総厚みである。
ポリアミド系樹脂層31bの厚みは5〜49μm程度、好ましくは8〜23μm程度である。ポリアミド系樹脂層31bの厚みが5μm以上であることによって、耐屈曲性、耐衝撃性等の優れた機能が付与され、49μm以下であれば充分な衝撃強度を付与しつつ、製品コストを抑えることができる。なお、ポリアミド系樹脂層31bを複数形成する場合には、ポリアミド系樹脂層31bの厚みは、複数のポリアミド系樹脂層31bの総厚みである。
とりわけ、多層共押フィルム31が材料費を抑えた上で効率良く耐屈曲性及び耐衝撃性を発揮するためには、多層共押フィルム31に占めるポリアミド系樹脂層31bの厚みの割合は、51%以上であることが好ましい。この場合、多層共押フィルム31の厚みが10μm以上であると、多層共押フィルム31中のポリアミド系樹脂層31bの厚みが5μm以上となり、多層共押フィルム31が充分な耐屈曲性及び耐衝撃性を発揮することができる。また、多層共押フィルム31の厚みが10μm以上であると、多層共押フィルム31が基材としての安定性を発揮し、他のフィルムとラミネートする際の加工性を向上させることができる。
なお、接着層を設ける場合には、接着層の厚みは0.5〜5μm程度、好ましくは0.5〜2.5μm程度である。接着層の厚みが0.5μm以上であれば膜厚のコントロールがしやすく、5μm以下であれば充分な接着強度を付与しつつ、生産コストを抑えることができる。
このような多層共押フィルム31は、第1ポリエステル系樹脂層31aをなすようになるポリエステル系樹脂と、ポリアミド系樹脂層31bをなすようになるポリアミド系樹脂と、第2ポリエステル系樹脂層31cをなすようになるポリエステル系樹脂と、を共押し出し成形することにより成膜することができる。
また、図1に示すように、本実施の形態では、多層共押フィルム31の袋内方側となる面に、絵柄を含む絵柄層33が積層されている。ここで、絵柄とは、多層共押フィルム31に記録または印刷され得る種々の態様の記録対象のことであり、特に限定されることなく、図、文字、模様、パターン、記号、柄、マーク等を広く含む。とりわけ、食品を内包することが意図されたパウチ1に用いられる積層フィルム10では、絵柄として、内容物の図や、内容物の商品名、賞味期限、製造日、製造番号等の情報を示す文字が用いられる。もっとも、絵柄層33は、商品の仕様に応じて多層共押フィルム31に積層されるものであり、多層共押フィルム31に絵柄層33が設けられなくてもよい。
本実施の形態では、絵柄層33は、袋外方側となる多層共押フィルム31の外面ではなく、多層共押フィルム31の内面に施される。この場合、絵柄層33は、耐摩耗性に優れることから擦れ等による消失を効果的に防止することができ、且つ、絵柄の改ざんも効果的に防止することができる。また、製袋してパウチ1としたときに、多層共押フィルム31の内面に積層された絵柄層33を多層共押フィルム31を介して視認し得るよう、多層共押フィルム31は透明性を有していることが好ましい。なお、図5に示す例では、多層共押フィルム31の袋内方側となる面に、バリア層32を積層した後、絵柄層33をさらに積層している。
(シーラントフィルム)
シーラントフィルム36は、上述したように、2つの積層フィルム10同士を重ね合わせて対向する縁部12をヒートシールすることで、当該縁部12を貼り合わせて密封するために設けられている。また、本実施の形態では、シーラントフィルム36は、積層フィルム10のうち、製袋してパウチ1とするときの最も袋内方となる側に配置される。
このようなシーラントフィルム36としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体などのポリオレフィン系樹脂からなる耐熱性のあるフィルム及びイージーピールフィルムなどが採用できる。更に、これらの材料からなるフィルムによって単層としてシーラントフィルム36が構成されてもよいし、あるいは、複数の前記材料からなるフィルムによって多層としてシーラントフィルム36が構成されてもよい。
とりわけ、パウチ1が電子レンジでの加熱により高温となる食品、例えば油を多く含むカレーやパスタソースを収容する場合には、シーラントフィルム36として、耐熱性に優れた、無延伸ポリプロピレン(CPP)を主として含む無延伸ポリプロピレン層(CPP層)、または、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を主として含む直鎖状低密度ポリエチレン層(LLDPE層)を採用することが好ましい。
シーラントフィルム36の厚みは、40μm以上200μm以下の範囲にあるのが好ましい。この場合、パウチ1の流通過程において生じ得る落下に対する耐衝撃強度に優れると共に、内容物の充填し易さ、内容物の詰替え易さといった取扱性にも優れる。
(引裂性ポリエステル系樹脂フィルム)
しかしながら、パウチを電子レンジ内で温めると、加熱によってシーラントフィルム36は柔らかくなる。シーラントフィルム36が柔らかくなると、積層フィルム10を開封方向d2に沿って引き裂き難くなる。そこで、本実施の形態の積層フィルム10は、引き裂きに伴い積層フィルム10に形成される引裂線の経路を調整する引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35を含んでいる。
図1に示すように、本実施の形態の引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35は、当該引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35の流れ方向d3が易開封手段70が設けられる位置における縁部シール部40の延長方向d1と直交する方向となる開封方向d2に沿うように、配置されている。ここで流れ方向d3とは、周知の通り、原反にロール状に巻き取られるウェブの巻取り方向、すなわち、ウェブの長手方向をいう。原反にロール状に巻き取られたウェブから裁断された引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35は、流れ方向d3に沿って引き裂き易い特性をもつ。したがって、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35の流れ方向d3を、縁部シール部40の延長方向d1と直交する方向となる開封方向d2に沿わせることにより、積層フィルム10を開封方向d2に沿って引き裂き易くすることができる。
引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35をなす材料としては、例えば、ポリネオペンチレンイソフタレートを含むポリエステル系樹脂フィルムが挙げられる。
ところで、従来の積層フィルムとして、ポリエステル系樹脂層とポリアミド系樹脂層とシーラントフィルムとからなるものを使用していた。この従来の積層フィルムを用いて作製されたパウチを、電子レンジ内で温めるとポリアミド系樹脂層が溶け出す場合がある。この要因について調査したところ、従来の積層フィルムにおいて、収容空間に収容された内容物がシーラントフィルムに染み出すことが、ポリアミド系樹脂層の溶け出しに強く影響していることを本件発明者らが突き止めた。シーラントフィルムに内容物が染み出すと、加熱によりシーラントフィルムに染み出した内容物も高温となる。このため、シーラントフィルムに積層されたポリアミド系樹脂層に過度に熱が伝わり、当該ポリアミド系樹脂層を溶け出させていたと考えられる。本実施の形態の積層フィルム10において、多層共押フィルム31とシーラントフィルム36との間に引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35が配置されている。このため、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35のポリエステル系樹脂成分が、熱に対する優れた耐性を発揮するだけでなく、内容物の染み出しをも防止する。したがって、このような形態によれば、収容空間2に収容された内容物は、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35までは染み出さない。このため、パウチ1を電子レンジ内で加熱しても、高温となった内容物の熱は、耐熱性に優れる引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35に伝わってからポリアミド系樹脂層31bに伝わる。この結果、内容物から伝わる熱を引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35によって妨げ、当該内容物からの熱がポリアミド系樹脂層31bに過度に伝わることを妨げることができる。
とりわけ、加熱時に内容物からの熱がポリアミド系樹脂層31bに過度に伝わることを充分に妨げる観点から、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35の厚みは、7μm以上であることが好ましい。本実施の形態では、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35の厚みは、多層共押フィルム31に含まれる第1ポリエステル系樹脂層31a及び第2ポリエステル系樹脂層31cの総厚みよりも厚い。
(バリア層)
上述したように、パウチ1は、食品を内容物として内包することに適したパウチである。このため、内容物の酸化等の変質を防止しながら内容物を保存することができるように、図3に示す積層フィルム10は、バリア層32を備えている。バリア層32は、水蒸気の透過を防止する蒸気バリア性及び酸素ガス等のガスの透過を防止するガスバリア性を有している。バリア層32は、上記の機能を満たす層であれば特に限定されない。本実施の形態では、バリア層32は、多層共押フィルム31に無機物を蒸着させて形成した蒸着膜からなる。バリア層32が蒸着膜からなる場合、優れたガスバリア性及び蒸気バリア性をパウチ1をなす積層フィルム10に付与することができる。また、蒸着膜は金属箔を含まないため、パウチ1を焼却処分する際に、焼却炉にパウチ1に含まれる金属箔が残渣として残ってしまう、ということも起こり得ない。
多層共押フィルム31に無機物を蒸着させる方法として、減圧下において蒸発させた無機物を多層共押フィルム31に蒸着させる真空蒸着法(PVD法)や、減圧下において無機物を含む蒸着用ガスにプラズマを照射して当該無機物を多層共押フィルム31に蒸着させるプラズマ化学気相成長法(CVD法)が挙げられる。蒸着させる無機物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物を用いることができる。
なお、図3に示す例では、バリア層32を多層共押フィルム31に積層させた例を示したが、このような例に限定されない。バリア層32を引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35の容器内方となる側に積層させてもよい。
(接合層)
図3に示すように、本実施の形態では、バリア層32が積層された多層共押フィルム31と引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35との間、及び、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35とシーラントフィルム36との間に接合層37が介在されている。この接合層37としては、例えばそれ自体既知のドライラミネート法にて一般に用いられる接着剤を用いることができ、例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリアクリル酸エステル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレン共重合体系接着剤、セルロース系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、アミノ樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤等を用いることができる。
とりわけ、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35とシーラントフィルム36との間の接合層37は、当該引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35と当該シーラントフィルム36とに隣接し、当該引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35と当該シーラントフィルム36とを接合している。上述のように、パウチ1を電子レンジ内で温めると、加熱によってシーラントフィルム36が柔らかくなり、積層フィルム10を開封方向d2に沿って引き裂き難くなる。しかし、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35が接合層37を介してシーラントフィルム36に隣り合うため、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35がシーラントフィルム36による引裂性の低下を補償するように作用する。したがって、このような形態によれば、引き裂きに伴い積層フィルム10に形成される引裂線の経路が開封方向d2に沿うように効果的に調整することができるようになる。
(パウチの引裂性の評価)
上述のように、パウチ1内の収容空間2に内容物を充分に満たそうとすると、蒸気抜き機構6は、上縁13寄りに配置されることになり、易開封手段70も、上縁13寄りに配置されることになる。したがって、収容空間2内に内容物を充分に満たすことができるようにパウチ1を構成すると、易開封手段70と蒸気抜き機構6とは、開封方向d2に直交する方向、すなわち前記延長方向d1における間隔が狭くなる。本件発明者らが調査したところ、電子レンジ用のパウチ1において、積層フィルム10が以下の条件を満たす場合に、パウチ1に形成される引裂線の進行方向が蒸気抜き機構6に向かわないように制御されて、内容物を容易に取り出すことができることを見出した。図4は、パウチ1の引裂性を試験する方法を説明するための図である。先ず、パウチ1の収容空間2に100グラムの水を収容して5〜15秒間沸騰させる。続いて、図4に示すように、パウチ1をなす一対の積層フィルム10を、易開封手段70が設けられた位置から、易開封手段70が設けられた位置と開封方向d2において対向する縁部12まで、開封方向d2へ引き裂く。その後、引き裂きに伴い各積層フィルム10に形成される引裂線L3、L5の両端部A〜Dを結ぶ仮想直線L4、L6と、開封方向d2と、のなす角度θ1、θ2の大きさを計測する。このとき、引裂線L3、L5の両端部A〜Dを結ぶ仮想直線L4、L6と、開封方向d2と、のなす角度θ1、θ2の大きさが5°以内となる場合、パウチ1に形成される各引裂線L3、L4の経路が蒸気抜き機構6に到達しないように調整することができ、内容物を容易に取り出すことができることを見出した。なお、引裂線L3の端部A、Bとは、引き裂きに伴い表積層フィルム11aに形成された始点または終点を指し、引裂線L5の端部C、Dとは、引き裂きに伴い裏積層フィルム11bに形成された始点または終点を指す。したがって、図4に示すパウチ1では、引裂線L3の始点となる端部Aは、表積層フィルム11aに設けられたノッチ71の収容空間2側の先端と一致し、引裂線L3の終点となる端部Bは、表積層フィルム11aの縁部12上に位置する。引裂線L5の始点となる端部Cは、裏積層フィルム11bに設けられたノッチ71の収容空間2側の先端と一致し、引裂線L5の終点となる端部Dは、裏積層フィルム11bの縁部12上に位置する。また、試験の信頼性を向上させる観点から、3つのサンプルを準備し、3つのサンプルすべてにおいて、前記角度θ1、θ2の大きさが5°以内となった場合に、前記角度θ1、θ2の大きさが5°以内となるパウチ1であるとみなすことができる。
仮に、前記角度θ1、θ2の大きさが5°を越えると、パウチ1を温めた後当該パウチ1を開封したときに、積層フィルム10を開封方向d2に沿って引き裂き難くなる。言い換えると、前記角度θ1、θ2の大きさが5°を越えると、各積層フィルム10に形成される引裂線L3、L5の開封方向d2への追従性が大きく低下する。開封方向d2への追従性が大きく低下した引裂線L3、L5が蒸気抜き機構6の周りを通ると、加熱に伴い蒸気抜き機構6の周りに位置するシーラントフィルム36の部分がかなり柔らかくなっているため、引裂線L3、L5の進行方向を制御することが困難となる。この結果、蒸気抜き機構6に向かってしまうおそれが極めて高くなる。一方、前記角度θ1、θ2の大きさが5°以内となる場合、パウチ1を温めた後当該パウチ1を開封したときに、積層フィルム10を開封方向d2に沿って引き裂き易くなる。言い換えると、前記角度θ1、θ2の大きさが5°以内となる場合、各積層フィルム10に形成される引裂線L3、L5の開封方向d2への追従性が良好となる。開封方向d2への追従性が良好な引裂線L3、L5が、加熱によりシーラントフィルム36の部分がかなり柔らかくなった蒸気抜き機構6の周りを通っても、その進行方向が制御された状態を維持され得る。このため、各積層フィルム10に形成される引裂線L3、L5は、蒸気抜き機構6に到達することなく積層フィルム10の縁部12まで到達することが可能となる。この結果、蒸気抜き機構6に阻害されることなくパウチ1を開封することができ、内容物を容易に取り出すことができる。
次に、以上のような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。
パウチ1を電子レンジ内に設置して温めると、電子レンジから照射される高周波によって内容物に含まれる水分が温められて蒸発し、パウチ内の圧力が高まっていく。上述のように、ポイントシール部50は、縁部シール部40から収容空間2側に向かって張り出し、且つ、縁部シール部40よりも巾が狭くなっている。従って、収容空間2内の圧力が高まると、ポイントシール部50から一対の積層フィルム10の剥離が開始される。ポイントシール部50からの剥離が進行しパウチ1内の収容空間2が通気室7に通じると、収容空間2から通気室7に高圧の蒸気が流入する。通気室7に流入した高圧の蒸気は、蒸気抜き手段80としての蒸気抜き孔81から外部へ逃げていく。
電子レンジ内での加熱を終えると、積層フィルム10のうち蒸気抜き機構6の周りとなる部分は高圧の蒸気からの熱が伝わり熱くなっている。このため、蒸気抜き機構6の周りに位置する積層フィルム10を構成するシーラントフィルム36がかなり柔らかくなっている。続いて、電子レンジ内からパウチ1を取出し、内容物を取り出すべく、易開封手段70を用いてパウチ1を開封する。具体的には、積層フィルム10を、易開封手段70が設けられた位置から開封方向d2に向かって引き裂いていく。引き裂きに伴い各積層フィルム10に引裂線L3、L5が形成されていく。引裂線L3、L5が、加熱によりシーラントフィルム36がかなり柔らかくなった蒸気抜き機構6の周りに到達すると、意図された方向に進行することが阻害されるおそれがある。しかしながら、上述のように、引き裂きに伴い各積層フィルム10に形成されるべき引裂線L3、L5の両端部A〜Dを結ぶ仮想直線L4、L6と、開封方向d2と、のなす角度θ1が5°以内となるようにパウチ1が構成されている。このため、引裂線L3、L5が、加熱によりシーラントフィルム36がかなり柔らかくなった蒸気抜き機構6の周りを通過するときでも、進行方向を制御された状態を維持されたままで開封方向d2に沿って進行していくことができる。その後、各引裂線L3、L5は、易開封手段70が設けられた位置と開封方向d2において対向する縁部12まで進行する。これにより、蒸気抜き機構6に阻害されることなくパウチ1を開封することができ、内容物を容易に取り出すことができる。
以上のように、本実施の形態によれば、積層フィルム10は、袋外方となる側から袋内方となる側に向けて、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35と、シーラントフィルム36とを、この順で含み、収容空間2に100グラムの水を収容して当該水を5〜15秒間沸騰させた後に、各積層フィルム10を、易開封手段70が設けられた位置から、当該易開封手段70が設けられた位置と開封方向d2において対向する当該積層フィルム10の縁部12上の位置まで、開封方向d2へ引き裂いたときに、当該積層フィルム10に形成される各引裂線L3、L5の両端部A〜Dを結ぶ仮想直線L4、L6と、開封方向d2と、のなす角度の大きさが5°以内となる。このような形態によれば、パウチ1を温めた後当該パウチ1を開封したときに、積層フィルム10を開封方向d2に沿って引き裂き易くなる。このため、加熱に伴い形成される引裂線L3、L5がシーラントフィルム36がかなり柔らかくなった蒸気抜き機構6の周りを通っても、進行方向を制御された状態を維持されたままで開封方向d2に沿って進行していくことができる。これにより、各積層フィルム10に形成される引裂線L3、L5が蒸気抜き機構6に到達することなくパウチ1を開封することができ、内容物を容易に取り出すことができる。
また、本実施の形態によれば、積層フィルム10は、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35よりも袋外方となる側に、多層共押フィルム31をさらに含み、多層共押フィルム31は、袋外方となる側から袋内方となる側に向けて、第1ポリエステル系樹脂層31aと、ポリアミド系樹脂層31bとを、この順で含んでいる。このような形態によれば、パウチ1をなす積層フィルム10の多層共押フィルム31がポリアミド系樹脂層31bを含むため、輸送時等に他のパウチの角から受ける突き刺し、パウチ1に伝わる衝撃あるいは当該衝撃に伴う屈曲に対して充分な耐性を発揮することができる。これにより、突き刺し、衝撃あるいは屈曲に起因したパウチ1へのピンホールの発生を効果的に防止することができる。加えて、多層共押フィルム31をなす第1ポリエステル系樹脂層31aとポリアミド系樹脂層31bとは、共押し出しにて成形されている。このため、パウチ1をなす積層フィルム10を作製するためにラミネートすべきフィルムの数を低減することができる。このため、ラミネート回数を低く抑えることができ、市場において競争力のある価格でパウチ1を提供することができる。
加えて、多層共押フィルム31に含まれる第1ポリエステル系樹脂層31aは、吸湿を妨げる機能をある程度もつ。したがって、袋外方となる側に配置された第1ポリエステル系樹脂層31aにより、袋外方からポリアミド系樹脂層31bに向かう蒸気を妨げることもできる。さらに、本実施の形態によれば、多層共押フィルム31は、ポリアミド系樹脂層31bよりも袋内方となる側に、第2ポリエステル系樹脂層31cをさらに含む。このような形態によれば、袋内方となる側に配置された第2ポリエステル系樹脂層31cにより、袋内方からポリアミド系樹脂層31bに向かう蒸気も妨げることもできる。加えて、多層共押フィルム31がポリアミド系樹脂層31bを基準にして概ね対称となる。そして、ポリアミド系樹脂層31bが第1ポリエステル系樹脂層31aと第2ポリエステル系樹脂層31cとの間でバランスよく保持されることにより、ポリアミド系樹脂層31bのカールを更に効果的に抑制することができる。
また、本実施の形態によれば、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35は、多層共押フィルム31とシーラントフィルム36との間に配置されている。このような形態によれば、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35が、積層フィルム10に耐熱性を付与する。このため、電子レンジでの加熱により内容物から伝わる熱を引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35によって妨げ、多層共押フィルム31のポリアミド系樹脂層31bに熱を伝わり難くすることができる。この結果、パウチ1が加熱時に高温となる食品を収容する場合であっても、加熱によりポリアミド系樹脂層31bが溶け出してしまうことを防止することができる。
また、本実施の形態によれば、積層フィルム10は、多層共押フィルム31とシーラントフィルム36との間に配置されたバリア層32をさらに含む。このような形態によれば、バリア層32が、優れた蒸気バリア性及びガスバリア性を発揮し、内容物の酸化等の変質を防止しながら内容物を保存することができる。とりわけ、本実施の形態のバリア層32は、無機物を含む蒸着膜からなる。蒸着膜は金属箔を含まないため、使用済みのパウチ1を焼却処分することができる。また、空港等のセキュリティゲートを通過する際に、セキュリティゲートの金属探知機がパウチ1の金属箔を検知してしまう、ということも起こり得ない。
また、本実施の形態によれば、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35とシーラントフィルム36とに隣接し、当該引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35と当該シーラントフィルム36とを接合する接合層37をさらに備え、シーラントフィルム36は、無延伸ポリプロピレン層を含む。シーラントフィルム36に含まれる無延伸ポリプロピレン層は、耐熱性に優れているものの、加熱によって柔らかくなり易い特性をもつ。このため、パウチ1を電子レンジ内で温めると、加熱によってシーラントフィルム36が柔らかくなり、積層フィルム10を開封方向d2に沿って引き裂き難くなり易い。この場合であっても、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35が接合層37を介してシーラントフィルム36に隣り合うため、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35がシーラントフィルム36による引裂性の低下を補償するように作用する。したがって、このような形態によれば、引き裂きに伴い積層フィルム10に形成される引裂線L3、L5の経路が開封方向d2に沿うように効果的に調整することが可能となり、蒸気抜き機構6に阻害されることなくパウチ1を開封し易くなる。
また、本実施の形態によれば、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35の流れ方向d3は、開封方向d2に沿っている。原反にロール状に巻き取られたウェブから裁断された引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35は、流れ方向d3に沿って引き裂き易い特性をもつ。したがって、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム35の流れ方向d3を、開封方向d2に沿わせることにより、積層フィルム10を開封方向d2に沿って一層引き裂き易くすることができる。
≪変形例≫
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、図面を参照しながら、変形の一例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。
上述した実施の形態では、図3に示すように、多層共押出しフィルム31は、第1ポリエステル系樹脂層31aとポリアミド系樹脂層31bと第2ポリエステル系樹脂層31cとを含む例を示したが、多層共押出しフィルム31の層構成は、上述した層構成に限定されない。図5に、多層共押フィルム31の他の層構成を示す。図5に示す例では、多層共押フィルム31は、第1ポリエステル系樹脂層31a及びポリアミド系樹脂層31bのみからなる。このような形態によれば、積層フィルム10に耐熱性、耐突き刺し性、耐衝撃性及び耐屈曲性を付与しつつ、積層フィルム10を安価に作製することができる。
また、上述した実施の形態では、図1に示すように、易開封手段70は、積層フィルム10の側縁14に形成されたノッチ71からなる例を示したが、易開封手段70の形態は、上述した形態に限定されない。図6に、易開封手段70の他の形態を示す、図6に示す例では、易開封手段70は、積層フィルム10の側縁14及びその近傍に設けられた複数の微細な小孔72からなる。複数の小孔72は、縁部シール部40の側部シール領域42上に配置されている。各小孔72は、積層フィルム10を貫通していてもよい。図6に示す例では、小孔72は円形の形状を有しているが、このような例に限定されず、長細状であってもよいし、線状であってもよい。このような形態であっても、パウチ1を開封する際の起点となり得る。
また、上述した実施の形態では、図2に示すように、蒸気抜き手段80が、通気室7を形成する各積層フィルム10のポイントシール部50に囲まれる部分16に形成された蒸気抜き孔81からなる例を示したが、蒸気抜き手段80の形態は、上述した形態に限定されない。蒸気抜き手段80は、収容空間2内の蒸気を外部へ逃がすことができる形態であればよい。図7に、蒸気抜き手段80の他の形態を示す。図7に示す例では、蒸気抜き手段80が、通気室7を形成する各積層フィルム10のポイントシール部50に囲まれる部分16に形成された切込線82からなる。図7に示す例では、切込線82の延長方向d4は、縁部シール部40のうちの当該切込線82が最も近接する部分42aの延長方向d5、言い換えると、縁部シール部40のうちの当該切込線82が最も近接する部分42aの延びる方向と、交差、より詳細には、直交している。なお、図7に示す変形例では、通気室7を形成する表積層フィルム11a及び裏積層フィルム11bのポイントシール部50に囲まれる部分に、1つずつ切込線82が形成されている。しかしながら、切込線82の数は、図7に示す例に限定されず、通気室7を形成する表積層フィルム11a及び裏積層フィルム11bのポイントシール部50に囲まれる部分に、2つ以上の切込線82がそれぞれ形成されていてもよい。
また、上述した実施の形態では、図2に示すように、蒸気抜き機構6が、一対の積層フィルム10によって取り囲まれる領域内に位置し、内容物を収容しない通気室7と、通気室7を取り囲んで当該通気室7を収容空間2から隔離させるポイントシール部50と、通気室7を形成する各積層フィルム10のポイントシール部50に囲まれる部分16に形成された蒸気抜き手段80と、を含む例を示したが、蒸気抜き機構6の形態は、上述した形態に限定されない。図8に、蒸気抜き機構6の他の形態を示す。図8に示す例では、蒸気抜き機構6は、重ねられた積層フィルム10がヒートシールされた縁部シール部40によって収容空間2から隔離され、重ねられた積層フィルム10がヒートシールされていない第1未シール領域60を有している。この第1未シール領域60は、電子レンジによる加熱に伴って発生する蒸気によってパウチ内の圧力が高まった際に、収容空間2と連通してパウチ内の蒸気を外部へ逃がすために設けられている。第1未シール領域60は、パウチ1の外縁5から、収容空間2側に張り出している。第1未シール領域60の収容空間2側に張り出した部分の周りに位置する縁部シール部40の部分44は、他の部分よりも幅が狭くなっている。
本実施の形態の第1未シール領域60は、ヒートシールされない重ねられた積層フィルム10からなる。従って、第1未シール領域60には、重ねられた積層フィルム10の縁部12によって規定される開口61が形成されている。
このような蒸気抜き機構6によれば、電子レンジ内でパウチ1を温めて、第1未シール領域60の周りの縁部シール部40の部分44から積層フィルム10の剥離が開始される。積層フィルム10の剥離が進行して、収容空間2と第1未シール領域60とが繋がると、パウチ1内の蒸気を第1未シール領域60から外部へ逃がすことができる。
また、上述した実施の形態では、図1に示すように、パウチ1が、一対の表積層フィルム11aと裏積層フィルム11bとからなる平パウチ形式のパウチからなる例を示したが、パウチの形態は、このような例に限定されない。パウチは、スタンディング形式のパウチであってもよいし、三方シール形式、ピロー形式、あるいは、ガセット形式のパウチであってもよい。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。以下に説明するようにして、サンプル1〜3及び比較サンプル1に係る積層フィルムを作製し、各積層フィルムから得られるパウチの引裂性を評価した。
(サンプル1)
サンプル1に係る積層フィルムは、図3に示す層構成からなる積層フィルムに対応している。
第1ポリエステル系樹脂層、ポリアミド系樹脂層及び第2ポリエステル系樹脂層を共押し出し成形することにより、多層共押フィルムを作製した。この第1ポリエステル系樹脂層及び第2ポリエステル系樹脂層として、ポリエチレンテレフタレート層(PET)を採用し、ポリアミド系樹脂層として、ナイロン−6を90重量%とアモルファスナイロンを10重量%とを配合した層を採用した。また、第1ポリエステル系樹脂層の厚みを2μm、ポリアミド系樹脂層の厚みを11μm、第2ポリエステル系樹脂層の厚みを2μmとした。
次に、この多層共押フィルムの袋内方となる側に、バリア層として二酸化ケイ素(siO2)からなる蒸着膜を形成して、中間積層体を作製した。バリア層としての蒸着膜の厚みを0.05μmとした。得られた中間積層体と、引裂性ポリエステル系樹脂フィルムと、シーラントフィルムとを、ドライラミネート法を用いて貼り合わせて積層フィルムを作製した。シーラントフィルムとして、厚み60μmからなる無延伸ポリプロピレン(CPP)を用いた。
一方、ポリエステル系樹脂フィルムとして、厚み12μmからなり、引き裂き性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を用いた。この引裂性ポリエステル系樹脂フィルムは、所望の引き裂きに対する特性を示すものであった。具体的には、パウチをなす積層フィルムに含まれる引裂性ポリエステル系樹脂フィルムと同じ材料からなる3つの試験フィルムを準備して、引き裂きに対する特性を調査した。各試験フィルムは、流れ方向の寸法を100mmとし、流れ方向に直交する方向における寸法を50mmとした。常温で、引裂性ポリエステル系樹脂フィルムからなる各試験フィルムを、各試験フィルムを易開封手段が設けられるべき位置から開封方向へ引き裂いた。続いて、引き裂きに伴い当該試験フィルムに形成された引裂線の両端部を結ぶ仮想直線と、開封方向と、のなす角度θ3の大きさを計測したところ、当該角度θ3の大きさが3つの試験フィルムとも5°以内となった。3つの試験フィルムにおける前記角度θ3の大きさの平均値を算出し、得られた結果を、表1の「フィルムの引裂性の評価結果」の欄に示す。
(サンプル2)
サンプル2に係る積層フィルムは、サンプル1に係る積層フィルムからバリア層を省いた形態に対応している。すなわち、サンプル2に係る積層フィルムは、多層共押フィルムと、引裂性ポリエステル系樹脂フィルムと、シーラントフィルムとを、ドライラミネート法を用いて貼り合わせたものである。
また、サンプル2に係る積層フィルムで用いた多層共押フィルム、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム及びシーラントフィルムは、材料や厚み等において、サンプル1に係る積層フィルムの多層共押フィルム、引裂性ポリエステル系樹脂フィルム及びシーラントフィルムと、それぞれ同様にした。
(サンプル3)
サンプル3に係る積層フィルムは、サンプル2に係る積層フィルムの多層共押フィルムとは異なる多層フィルムを用い、その他の点ではサンプル2に係る積層フィルムと同一とした。すなわち、サンプル3に係る積層フィルムは、多層フィルムと、引裂性ポリエステル系樹脂フィルムと、シーラントフィルムとを、ドライラミネート法を用いて貼り合わせたものである。
サンプル3に係る積層フィルムの多層フィルムは、ポリエステル系フィルム及びポリアミド系フィルムをドライラミネート法を用いて貼り合わせたものである。このポリエステル系フィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を採用し、ポリアミド系フィルムとして、ナイロン−6を90重量%とアモルファスナイロンを10重量%とを配合した層を採用した。また、ポリエステル系フィルムの厚みを12μm、ポリアミド系フィルムの厚みを15μmとした。
また、サンプル3に係る積層フィルムで用いた引裂性ポリエステル系樹脂フィルム及びシーラントフィルムは、材料や厚み等において、サンプル1に係る積層フィルムの引裂性ポリエステル系樹脂フィルム及びシーラントフィルムと、それぞれ同様にした。
(比較サンプル1)
比較サンプル1に係る積層フィルムは、サンプル1に係る積層フィルムの引裂性ポリエステル系樹脂フィルムの代わりに引裂性が意図されていないポリエステル系樹脂フィルムを用い、その他の点ではサンプル1に係る積層フィルムと同一とした。すなわち、比較サンプル1に係る積層フィルムは、蒸着膜が形成された多層共押フィルムと、ポリエステル系樹脂フィルムと、シーラントフィルムとを、ドライラミネート法を用いて貼り合わせたものである。
ポリエステル系樹脂フィルムとして、厚み12μmからなるポリエチレンテレフタレート層(PET)を採用した。このポリエステル系樹脂フィルムは、所望の引き裂きに対する特性を示すものではなかった。具体的には、パウチをなす積層フィルムに含まれるポリエステル系樹脂フィルムと同じ材料からなる3つの試験フィルムを準備して、引き裂きに対する特性を調査した。各試験フィルムは、流れ方向の寸法を100mmとし、流れ方向に直交する方向における寸法を50mmとした。常温で、ポリエステル系樹脂フィルムからなる各試験フィルムを、易開封手段が設けられるべき位置から開封方向へ引き裂いた。続いて、引き裂きに伴い当該試験フィルムに形成された引裂線の両端部を結ぶ仮想直線と、開封方向と、のなす角度θ3の大きさを計測したところ、当該角度θ3の大きさが5°を越える試験フィルムが2つ存在した。3つの試験フィルムにおける前記角度θ3の大きさの平均値を算出し、得られた結果を、表1の「フィルムの引裂性の評価結果」の欄に示す。
比較サンプル1に係る積層フィルムで用いた多層共押フィルム、蒸着膜及びシーラントフィルムは、材料や厚み等において、サンプル1に係る積層フィルムの蒸着膜、ポリエステル系樹脂フィルム及びシーラントフィルムと、それぞれ同様にした。
(評価結果)
各サンプルに係る積層フィルムを用いて、図1に示す形態に対応するパウチと、図8に示す形態に対応するパウチと、を3つずつ作製した。各パウチの大きさは、開封方向における長さが130mmであり、開封方向に直交する方向における長さが170mmとした。各パウチの易開封手段をなすノッチは、パウチの上縁から20mm離れた位置とし、ノッチの長さは、3mmとした。各パウチの蒸気抜き機構の上端位置は、パウチの上縁から40mm離れた位置とした。
得られた各パウチについて、パウチの引裂性について評価した結果を、表1の「パウチの引裂性の評価結果」の欄に示す。パウチの引裂性は、各サンプルにおける各形態毎に3つの試験パウチを準備した。各試験パウチに100グラムの水を収容した後、各試験パウチを市販の電子レンジに入れて600Wで10秒間水を沸騰させ、温め後直ぐに、易開封手段から開封方向へ試験パウチを引き裂いた。表1の「パウチの引裂性の評価結果」の欄において、引き裂きに伴い各積層フィルムに形成された引裂線の両端部を結ぶ仮想直線と、開封方向と、のなす角度θ1、θ2の大きさが、各形態における3つの試験パウチにおいて5°以内となった場合を○とし、少なくとも1つの試験パウチにおいて前記角度θ1、θ2の大きさが5°を越えた場合に×とした。また、各サンプルから作製された各試験パウチにおいて、表積層フィルムに形成された引裂線の両端部を結ぶ仮想直線と開封方向とのなす角度θ1の大きさと、裏積層フィルムに形成された引裂線の両端部を結ぶ仮想直線と開封方向とのなす角度θ2の大きさと、のうち、前記角度の大きさが大きい方の値を用いて、各サンプル毎に、図1に示す形態に対応するパウチの前記角度の平均値、及び、図8に示す形態に対応するパウチの前記角度の平均値を算出した。得られた結果を、「θ1、θ2」の欄に示す。
上述のように、引裂性ポリエステル系樹脂フィルムの引裂性の評価結果を、表1の「フィルムの引裂性の評価結果」の欄に示してある。なお、「フィルムの引裂性の評価結果」の欄における「評価」の欄において、角度θ3の大きさが、3つの試験フィルムにおいて5°以内となった場合を○とし、少なくとも1つの試験フィルムにおいて前記角度θ3の大きさが5°を越えた場合に×とした。
サンプル1〜3に係る積層フィルムから作製された各パウチは、パウチの引裂性において優れた特性を示した。実際、サンプル1〜3に係る積層フィルムから作製された各パウチは、蒸気抜き機構に阻害されることなくパウチを開封することができ、内容物を容易に取り出すことができた。
一方、比較サンプル1に係る積層フィルムから作製されたパウチは、パウチの引裂性の評価において、各形態毎に2つのパウチにおいて前記角度の大きさが5°を越えてしまった。実際、比較サンプル1に係る積層フィルムから作製された各パウチは、パウチに形成される引裂線の経路を調整することができず、当該引裂線が蒸気抜き機構に到達してしまい、内容物を容易に取り出すことができなかった。