JP6218121B2 - 塩化コバルト水溶液の精製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、塩化コバルト水溶液の精製方法に関する。
コバルトは、希少金属であり合金の材料として使用される貴重な金属である。また、合金以外の用途として、コバルトは電池の電極材料としても使用されている。例えば、近年開発が進んでいる車載用の非水系電解質二次電池であるリチウムイオン電池の正極材にも、コバルトは使用されている。
かかる非水系電解質二次電池であるリチウムイオン電池の正極材を製造する際には、一般的に、所定の比率で混合された金属塩の水溶液を中和して作成されたプリカーサと称される金属水酸化物を形成する。このプリカーサとリチウム化合物を混合して焼成すれば、正極材が製造される。そして、コバルトを含む正極材を製造する際には、上述した金属塩の水溶液を製造する際に、コバルトを含む塩(例えば、硫酸コバルトや塩化コバルトなどのコバルト塩)が使用される。
上述したコバルト塩は、ニッケル鉱石等を製錬する工程の副産物として得ることができる。具体的には、不純物の精製に湿式処理を採用しており、その際に生成されるコバルト塩溶液からコバルト塩が生成される。しかし、ニッケル鉱石等には、ニッケルやコバルト以外にも、マンガンや鉄、銅、クロムなど多種多様な不純物が含まれている。コバルト塩溶液にも不純物が含まれていれば、コバルト塩に不純物が混入する可能性がある。そして、不純物を含有するコバルト塩を正極材の製造に使用すれば、不純物が正極材に混入する可能性がある。
正極材中における不純物の存在は、正極材の性能、つまり、電池特性に大きく影響する。とくに、上述したようなリチウムイオン電池は、高容量かつ高電圧であるため、微量の不純物の存在が電池特性に大きく影響するので、コバルト塩などの原料の不純物のスペックが極めて厳しく管理されている。その中でも、銅は電池の性能に大きく影響を及ぼす重要な不純物であるので、コバルト塩などの原料に含まれる銅の量を厳密に管理することが求められる。
コバルト塩に含まれる銅などの不純物を減少させる方法として、溶媒抽出法や電解法などの方法が知られている。つまり、コバルト塩溶液から溶媒抽出法や電解法によって銅を除去すれば、コバルト塩溶液中の銅濃度、つまり、コバルト塩に含まれる銅の量を減少させることができる。しかしながらこれらの方法は、分離できる銅の下限濃度をそれほど低くできないまた、これらの方法は、ミキサセトラなどの溶媒抽出装置、電解槽や電源といった大規模な装置が必要となることから、設備投資が増加し処理コストが高くなる、などの問題がある。
溶媒抽出法や電解法に比べて簡便な方法としては、沈殿法がある。沈殿法は中和剤や硫化剤などを添加して沈殿物を生じさせて不純物を分離するもので、銅などの重金属の排水処理等に広く用いられている。
硫化剤を用いて銅を硫化物として沈殿除去する硫化法は、銅の硫化物の溶解度が非常に小さく(水溶解度:18℃、3.4×10-4 g/L)、溶液中の銅の濃度を非常に低減できるという利点がある。しかし、硫化剤として有害な硫化水素ガスを用いるため、作業者の安全確保や環境対策が必要となる。硫化水素を制御するために様々な工夫がされているが(例えば特許文献1)、装置構成が複雑となるため、付帯設備に対するコストが高くなるといった問題がある。
また、水酸化ナトリウムのようなアルカリを添加して、重金属の水酸化物沈殿を生成して除去する中和沈殿法を採用することも考えられる。銅を中和沈殿法で除去する場合、溶解度の観点から、溶液のpHを通常pH8から12の範囲に調整する(例えば非特許文献1)。しかし、コバルトも同じpH領域で沈殿するので、中和沈殿法をコバルト塩溶液に使用した場合、銅とともにコバルトも一緒に沈殿してしまい、コバルトをロスしてしまう。コバルトのロスを低減する上では、上記範囲よりも低いpH領域で銅を除去することが考えられる。水酸化銅は、pH8よりも低いpHでも沈殿させることは可能であるものの溶解度が増加する。このため、コバルト塩溶液中の銅の濃度をそれほど低くすることはできない。具体的には、コバルトロスを防ぐためにはコバルトの溶解度を100g-Co/L以上にする必要があり、コバルトの溶解度積が2.2×10-16であるのでpH6以下でなければならない。一方で銅の溶解度積は2.2×10-20であり、pH6では銅の溶解度は14mg-Cu/Lとなるので、銅の分離性が悪くなる。
その他にも、セメンテーション法(置換法)により銅を除去することが考えられる。セメンテーション法は、除去したい金属イオンを電気的に卑な金属によって還元し除去する方法である。このため、銅よりも卑な金属を使用すれば、銅を溶液から除去することができる。例えば、コバルトは銅より卑な金属であるため、コバルト金属を使用すれば、塩化コバルト溶液中の銅を沈澱除去することができる。
セメンテーション法では、使用した卑な金属はイオン化して溶液中に溶解するので、溶解しても問題がない金属を使用しなければならないが、上述したコバルト金属は正極材の材料となるので、コバルト塩溶液中に残留しても電極性能には影響を与えない。
国際公開第2003/20647号
吉村二三隆著、「これでわかる水処理技術」、技術評論社、2011年
しかし、コバルト金属は、通常、コバルト板として流通しており、反応性の良い粉末やブリケット状では入手することが困難である。つまり、コバルト金属を使用してコバルト塩溶液からセメンテーションによって銅を分離する場合には、反応性の低いコバルト板を用いるしかないので、銅を除去する効率が悪くなる。
反応性を向上させる上では、コバルト塩溶液の液温を高くする方法が考えられる。つまり、コバルト塩溶液を加温した状態でコバルト板によってセメンテーションを行えば、コバルト板と銅の反応性を高くできる可能性がある。しかし、コバルト塩溶液を加温するには、そのためのエネルギーや加温のための設備が必要でありコストアップにつながる。
しかも、セメンテーション反応が発熱反応であるので、反応に伴ってコバルト塩溶液の液温は上昇する。コバルト塩溶液を加温した状態で操業した場合、反応による発熱によって液温が過度に上昇する可能性がある。すると、セメンテーション反応がさらに加速されて、反応の際に発生する水素ガスへの対策が必要になるし、析出する銅が微粉となりやすくなる。微粉なった銅は、析出してもコバルト塩溶液に再溶解しやすくなり、コバルト塩溶液中の銅濃度を十分に低下できなくなる可能性がある。とくに、塩化コバルト溶液では、銅の微粉が再溶解する傾向は顕著であり、また、微粉の状態で析出した銅は酸化されやすく回収後に発熱し易いなどの課題がある。
したがって、現状では、コバルト塩溶液から銅を除去する場合、設備投資を増加させることなく安定して銅濃度を低下させるために、操業効率は低下するものの、反応性の低いコバルト板を用いたセメンテーション反応による銅の除去が行われている。
本発明は上記事情に鑑み、効率よくコバルト塩溶液から不純物を除去できる塩化コバルト水溶液の精製方法を提供することを目的とする。
第1発明の塩化コバルト水溶液の精製方法は、塩化コバルトを含有する水溶液に金属ニッケルを接触させてセメンテーション反応によって不純物を除去する方法であって、前記塩化コバルトを含有する水溶液のpHが1.5以上2.5以下であり、前記塩化コバルトを含有する水溶液に前記金属ニッケルを接触させる前に、該金属ニッケルをpH2.5以下の酸性液によって洗浄することを特徴とする。
第2発明の塩化コバルト水溶液の精製方法は、第1発明において、前記金属ニッケルに常温の前記塩化コバルトを含有する水溶液を接触させることを特徴とする。
第3発明の塩化コバルト水溶液の精製方法は、第1または第2発明において、前記不純物が銅であることを特徴とする
第4発明の塩化コバルト水溶液の精製方法は、第1、第2または第3発明において、前記不純物を除去した塩化コバルトを含有する水溶液が、非水系電解質二次電池におけるニッケルとコバルトを組成に含む正極材の原料として使用される溶液であることを特徴とする。
第5発明の塩化コバルト水溶液の精製方法は、第4発明において、前記塩化コバルトを含有する水溶液が、ニッケル製錬工程の工程液であり、前記不純物を除去した塩化コバルトを含有する水溶液を液体の状態で前記正極材の原料として使用することを特徴とする。
第6発明の塩化コバルト水溶液の精製方法は、第1発明において、前記金属ニッケルに液温が10〜40℃の前記塩化コバルトを含有する水溶液を接触させることを特徴とする。
第1発明によれば、金属ニッケルをpH2.5以下の酸性液によって洗浄しているので、金属ニッケル表面の不動態膜が除去される。洗浄した金属ニッケルは不動態膜が除去されているので、pHが1.5以上2.5以下の塩化コバルトを含有する水溶液と洗浄した金属ニッケルとを接触させれば、セメンテーション反応によって金属ニッケルよりも貴な不純物を析出させることができる。しかも、金属ニッケルを酸で洗浄して塩化コバルトを含有する水溶液接触させるだけであるから、簡便に塩化コバルトを含有する水溶液から不純物を除去することができる。
第2発明によれば、塩化コバルトの水溶液を常温のままで接触させるので、塩化コバルトの水溶液を加温する必要が無い。したがって、加温のための設備が不要となるので、設備投資を増加させる必要がない。また、セメンテーション反応が生じても塩化コバルトの水溶液の液温が過度に上昇することが無いので、安定した操業を行うことができる。
第3発明によれば、銅が低濃度まで除去されるので、塩化コバルトの水溶液から製造されるコバルト塩に含まれる銅濃度を低下させることができる。したがって、精製された塩化コバルトの水溶液は、非水系電解質二次電池の材料のように、銅の存在が悪影響を与える物質を製造する原料に適したコバルト塩の製造に使用することできる。
第4発明によれば、塩化コバルトの水溶液中の不純物濃度を大幅に低下できる一方、塩化コバルトの水溶液をニッケルを含んだ水溶液とすることができる。したがって、精製された塩化コバルトの水溶液は、非水系電解質二次電池におけるニッケルとコバルトを組成に含む正極材の原料として使用することができる。
第5発明によれば、銅などの不純物を処理すれば、精製された塩化コバルトの水溶液を、液体のまま、非水系電解質二次電池におけるニッケルとコバルトを組成に含む正極材の原料として使用することができる。したがって、ニッケル製錬工程の工程液からコバルト塩を製造する必要がなくなるので、非水系電解質二次電池の正極材の製造が効率化できるという利点も得られる。
第6発明によれば、セメンテーション反応が生じても塩化コバルトの水溶液の液温が過度に上昇することが無いので、安定した操業を行うことができる。
本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法の概略フロー図である。 実施例の結果を示したグラフである。
本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法は、塩化コバルトを含有する水溶液に含まれる不純物を除去する方法であり、設備投資を増加させることなく安定して不純物濃度を低下させることができるようにしたことに特徴を有している。
本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法によって不純物を除去される水溶液(対象水溶液)は、塩化コバルトを含有する水溶液(以下、単に塩化コバルト水溶液という)であればよい。例えば、ニッケル鉱石等を製錬する工程において湿式処理によって不純物を精製した際に生成される水溶液(ニッケル製錬の中間工程液)や、使用済み電池等の二次原料、ニッケル製錬工程の排水処理から発生するスラッジ等からコバルトを回収するために湿式処理した際に発生する水溶液等を、対象水溶液とすることができる。
本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法によって生成された水溶液(生成水溶液)の用途もとくに限定されない。例えば、電気コバルトやコバルト塩を製造する原料として使用することができるし、非水系電解質二次電池においてコバルトを組成に含む正極材の原料として使用することもできる。後述するように、生成水溶液はニッケルを含んだ水溶液となるので、非水系電解質二次電池におけるニッケルとコバルトを組成に含む正極材の原料として使用することができる。例えば、生成水溶液は、三元系(NCM)やニッケル系(NCA)のリチウムイオン電池の正極材の原料として使用することができる。
とくに、対象水溶液としてニッケル製錬の中間工程液を採用し、生成水溶液を非水系電解質二次電池におけるコバルト(またはニッケルとコバルト)を組成に含む正極材の原料として使用すれば、非水系電解質二次電池の正極材の製造が効率化できるという利点も得られる。
つまり、非水系電解質二次電池の正極材は、所定の比率で混合された金属塩の水溶液を中和して作成されたプリカーサと称される金属水酸化物の前駆体を焼成して製造される。この際、金属塩の水溶液は、固形物(ニッケル塩やコバルト塩等)を溶解して、水溶液を調整している。一方、固形物は、ニッケル塩やコバルト塩等を含むニッケル製錬の中間工程液から製造されている。すると、ニッケル塩やコバルト塩等が水溶液になっている状態から、一旦固形物とした後、再度、溶解してニッケル塩やコバルト塩の水溶液(原料水溶液)を調整している。原料水溶液はニッケル製錬の中間工程液に対して不純物が少なくなっていると考えられるが、固形物の生成と固形物を溶解するという余分な手間とコストがかかっていると考えることができる。
しかし、ニッケル製錬の中間工程液を対象水溶液として、本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法によって不純物を除去した生成水溶液を形成すれば、この生成水溶液をそのまま正極材の原料として使用できる。すると、固形物の生成と固形物溶解という工程を省くことができるから、非水系電解質二次電池の正極材の製造が効率化できる。
さらに、本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法では、ニッケルやコバルトよりも貴な金属であれば不純物として除去することができる。例えば、銅や銀等を不純物として水溶液から除去することが可能である。とくに、塩化コバルト水溶液から銅を除去するために本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法を採用すれば、銅を低濃度(例えば0.5〜1.0mg/L程度)まで除去することが可能である。すると、塩化コバルト水溶液から製造されるコバルト塩の銅濃度を低下させることができるので、非水系電解質二次電池の材料のように、銅の存在が悪影響を与える物質を製造する原料に適したコバルト塩を製造することできる。また、上述したように、生成水溶液をそのまま正極材の原料として使用する場合には、電池の性能に大きく影響を及ぼす重要な不純物である銅低濃度まで除去されているので、製造される正極材の品質が向上する。
以下では、塩化コバルト水溶液から、不純物として銅を除去する場合を代表として説明する。もちろん、同様の方法で、他の不純物も除去できる。
(本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法)
本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法は、塩化コバルトを含有する水溶液(塩化コバルト水溶液)に含まれる不純物をセメンテーション反応によって除去する方法である。
図1に本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法の概略フロー図を示している。図1に示すように、本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法では、対象水溶液となる銅を含む塩化コバルト水溶液に対して、金属ニッケルを接触させて、セメンテーション反応によって銅を除去する。このセメンテーション反応の化学式を式1に示す。式1から分かるように、セメンテーション反応によって、金属ニッケルが溶解してニッケルイオンとなり、銅イオンが金属銅として析出する。

Ni+Cu2+ → Ni2+ + Cu (式1)
一方、金属ニッケルは、通常、その表面に酸化物である不動態膜を有しており、この不動態膜の存在により、金属ニッケルの溶解が阻害される。このため、本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法では、塩化コバルト水溶液を金属ニッケルに接触させる前に、酸による洗浄処理を行う。具体的には、pH2.5以下の酸性液により洗浄処理を行う。かかる酸による洗浄処理を行えば、式2に示す反応によって、金属ニッケル表面の不動態膜が除去されて、金属ニッケル表面にニッケル原子が露出する。

NiO+2H+ → Ni + HO (式2)
上記のように、不動態膜を除去してニッケル原子が露出すれば、この金属ニッケルに塩化コバルト水溶液を接触させることで、上述したセメンテーション反応を容易に生じさせることができる。つまり、塩化コバルト水溶液にニッケルが溶解する代わりに、銅を析出させることができるので、塩化コバルト水溶液中の銅濃度(銅イオン濃度)を低下させることができる。
(塩化コバルト水溶液の温度について)
そして、本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法の場合、不動態膜の除去とセメンテーション反応を別々な工程で行っている。このため、不動態膜の除去とセメンテーション反応を同時に生じさせる場合に比べて、セメンテーション反応の際の塩化コバルト水溶液の温度を低くできる。
不動態膜の除去とセメンテーション反応を同時に生じさせる場合には、水溶液と不動態膜の反応を生じさせるために、水溶液の温度を60℃以上に保たなければならない。
しかし、本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法の場合、金属ニッケルと塩化コバルト水溶液を接触させる前(セメンテーション反応を生じさせる前)に不働態膜が除去されている。このため、塩化コバルト水溶液は、セメンテーション反応が生じる温度程度に維持することが可能となった。つまり、塩化コバルト水溶液を常温(10〜30℃程度)としたままで、セメンテーション反応によって銅を析出除去することが可能となった。すると、塩化コバルトの水溶液を加温する必要が無いので、加温のための設備が不要となり、設備投資を増加させる必要がなくなるという利点が得られる。しかも、塩化コバルトの水溶液が常温であるので、セメンテーション反応により塩化コバルトの水溶液の液温が上昇しても、液温が過度に高い温度(耐熱設備が必要となる60度以上)とはならないので、安定した操業を行うことができる。
もちろん、セメンテーション反応を促進するために、塩化コバルトの水溶液を加温してもよいが、その場合には、塩化コバルト水溶液の液温を30〜40度程度に加温することが望ましい。かかる温度であれば、セメンテーション反応が生じても、塩化コバルトの水溶液の液温が過度に高い温度(耐熱設備が必要となる60度以上)となることは防ぐことができる。
(金属ニッケルについて)
塩化コバルト水溶液と接触させる金属ニッケルは、どのような形状のものを使用してもよい。例えば、板状や粉末、ブリケットの粉砕物等の金属ニッケルを使用することができる。とくに、セメンテーション反応の効率を高くする上では、比表面積が大きい粉末やブリケットの粉砕物が好ましい。
(塩化コバルト水溶液と金属ニッケルの接触について)
塩化コバルト水溶液と金属ニッケルとを接触させる方法はとくに限定されず、両者が接触している界面でセメンテーション反応が生じる程度に、両者が接触するようになっていればよい。例えば、塩化コバルト水溶液中に金属ニッケルを浸漬させてもよいし、金属ニッケル中(粉末やブリケットの粉砕物の場合)に塩化コバルト水溶液を通してもよい。また、金属ニッケルの表面(板状の場合)に沿って塩化コバルト水溶液を流してもよい。なお、セメンテーション反応を効率よく生じさせる上では、塩化コバルト水溶液に金属ニッケルを浸漬させることが望ましい。
(酸性液について)
酸性液は、金属ニッケルの不動態膜を除去できるものであれば、とくに限定されない。例えば、塩酸や硫酸、硝酸等の酸性液を使用することができる。なお、酸性液とともに金属ニッケルを塩化コバルト水溶液に供給してセメンテーション反応を生じさせる場合であれば、酸性液は塩酸が好ましい。
また、酸性液のpHもとくに限定されず、金属ニッケルの不動態膜を除去できるpHであればよい。例えば、酸性液が塩酸や硫酸の場合であれば、pH2.5以下とすれば金属ニッケルの不動態膜を除去できる。
なお、pHが低くなりすぎると、不動態膜下の金属ニッケルまで溶解してしまうので、セメンテーションに寄与する金属ニッケルが減少し効率が悪くなる。また、単位時間あたりに発生する水素の量が多くなるので、安全装置が別途必要となり、設備コストが増加してしまう。したがって、酸性液のpHは、1.5以上2.5以下となるよう調整するのが好ましく、1.7以上2.3以下となるのがより好ましい。
(塩化コバルト水溶液のpH)
塩化コバルト水溶液のpHは、セメンテーション反応が生じる程度であればよく、とくに限定されない。例えば、pHが低くなりすぎると、セメンテーション反応を関係なく金属ニッケルが溶解してしまう。すると、セメンテーションに寄与する金属ニッケルが減少し効率が悪くなる。また、単位時間あたりに発生する水素の量が多くなるので、安全装置が別途必要となり、設備コストが増加してしまう。
したがって、塩化コバルト水溶液のpHは、1.5以上2.5以下となるよう調整するのが好ましく、1.7以上2.3以下となるのがより好ましい。
本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法による不純物の除去効果を確認した。
実験では、金属ニッケルを塩化コバルト水溶液に浸漬して、塩化コバルト水溶液中の銅濃度がどのように変化するかを確認した。
実験では、塩化コバルト水溶液は、pHが0.3、銅濃度45mg/L、コバルト濃度67g/Lの塩化コバルト水溶液400mLに、濃度2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを2.0に調整したものを使用した。
金属ニッケルとして、ニッケルブリケットの粉砕物40gを使用した。
(実施例1)
ニッケルブリケットの粉砕物40gを3mol/Lの塩酸40mlに5分浸漬させて、酸による洗浄処理(酸洗処理)を行った。
このニッケルブリケットの粉砕物を、常温(20℃)の塩化コバルト水溶液に添加して、8時間撹拌混合した。
(比較例1)
酸洗処理を行っていないニッケルブリケットの粉砕物40gを、常温(20℃)の塩化コバルト水溶液に添加して、7時間撹拌混合した。
(比較例2)
酸洗処理を行っていないニッケルブリケットの粉砕物40gを、ウォーターバスにて80℃に昇温した塩化コバルト水溶液に添加して、3時間撹拌混合した。
上記実施例1〜比較例2の各実験における撹拌混合中において、1時間毎に上澄み液をサンプリングし、ICP発光分析法(測定装置セイコーインスツル株式会社製:型番SPS3000)を用いて塩化コバルト水溶液中の銅濃度を確認した。
結果を図2に示す。
図2に示すように、ニッケルブリケットの粉砕物に酸洗処理を実施せず、常温(20℃)で反応させた比較例1では、銅濃度が3mg/L程度に減少するまでに3〜4時間が必要であった。
一方、ニッケルブリケットの粉砕物に酸洗処理を実施せず、80℃でセメンテーション反応させた比較例2では、1時間で銅濃度を3mg/L程度に低下することができた。
実施例1では、常温(20℃)で反応させたにもかかわらず、比較例2と同等の時間(1時間)で銅濃度を3mg/L程度に低下することができた。つまり、実施例1では、塩化コバルト水溶液を加温した場合と同様の反応速度が得られており、加温しなくても十分な銅除去効果が得られることが確認された。
以上の結果より、セメンテーション工程の前工程として酸洗工程を導入することで、反応温度を低減させても、塩化コバルト水溶液から銅を除去する時間(反応時間)を短くできることが確認された。
本発明の塩化コバルト水溶液の精製方法は、非水系電解質二次電池の原料として使用される塩化コバルト水溶液から不純物を除去する方法に適している。

Claims (6)

  1. 塩化コバルトを含有する水溶液に金属ニッケルを接触させてセメンテーション反応によって不純物を除去する方法であって、
    前記塩化コバルトを含有する水溶液のpHが1.5以上2.5以下であり、
    前記塩化コバルトを含有する水溶液に前記金属ニッケルを接触させる前に、該金属ニッケルをpH2.5以下の酸性液によって洗浄する
    ことを特徴とする塩化コバルト水溶液の精製方法。
  2. 前記金属ニッケルに常温の前記塩化コバルトを含有する水溶液を接触させる
    ことを特徴とする請求項1記載の塩化コバルト水溶液の精製方法。
  3. 前記不純物が銅である
    ことを特徴とする請求項1または2記載の塩化コバルト水溶液の精製方法。
  4. 前記不純物を除去した塩化コバルトを含有する水溶液を、
    非水系電解質二次電池におけるニッケルとコバルトを組成に含む正極材の原料として使用する
    ことを特徴とする請求項1、2または3記載の塩化コバルト水溶液の精製方法。
  5. 前記塩化コバルトを含有する水溶液が、ニッケル製錬工程の工程液であり、
    前記不純物を除去した塩化コバルトを含有する水溶液を液体の状態で前記正極材の原料として使用する
    ことを特徴とする請求項4記載の塩化コバルト水溶液の精製方法。
  6. 前記金属ニッケルに液温が10〜40℃の前記塩化コバルトを含有する水溶液を接触させる
    ことを特徴とする請求項1記載の塩化コバルト水溶液の精製方法。
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