JP6186894B2 - 車両の前部構造 - Google Patents

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この発明は、エンジンを備えた車両の前部構造に関する。
燃料を使用するエンジンが搭載された車両の衝突を想定した場合、燃料系の損傷を最小限度に抑えることができるように、燃料系を保護する構造を採用することが望まれる。例えば衝突の際に車両前方から入力する荷重によりエンジンルームが変形すると、障害物がエンジンに向かって進入してくる。これにより、シリンダヘッドの吸気マニホールド付近に配置されている燃料系が障害物によって破損する可能性がある。あるいはオフセット衝突(ラップ衝突)を想定した場合も、車両前方から進入してくる障害物によってエンジンルームが変形することにより、吸気マニホールド付近に配置されている燃料分配管などの燃料系が破損することが考えられる。
燃料系を保護する手段として、例えば特許文献1に記載されているように、燃料噴射弁の近傍のエンジン本体側に突起等の保護部材を設けるとともに、この保護部材と対向する吸気マニホールド側に棒状部材を設けることにより、燃料分配管を障害物から保護することが提案されている。あるいは特許文献2に記載されているように、車両の正面衝突時に、ラジエータを駆動する電気モータをエンジン補機との干渉を避けることができる位置に設けることも提案されている。
特許第4001848号公報 特開2001−233066号公報
特許文献1に記載されているような衝突対策用の棒状部材を吸気マニホールドやエンジン本体に装着すると、その分、部品数が増えるとともに、構造も複雑となり、重量も大きくなる。特許文献2のように、ラジエータの電気モータをエンジン補機との干渉を避ける位置に設けたとしても、衝突時にエンジンに向かって移動してくるラジエータ等の前部構造物が吸気マニホールド付近の燃料系にぶつかることを避けることができないため、燃料系を保護することができない。
従って本発明の目的は、衝突時にエンジンの燃料系を保護することができる車両の前部構造を提供することにある。
本発明に係る車両の前部構造は、車両前部のエンジンルームに搭載されシリンダブロックとシリンダヘッドとを含むエンジン本体と、前記エンジン本体の車両前側に配置された吸気マニホールドと、前記吸気マニホールドの前端よりも車両後側に配置された燃料系と、前記エンジンルーム内に配置され少なくとも一部が前記燃料系よりも前記車両前側に位置し、前方から入力する衝突荷重に対して圧壊に耐える剛性を有したエンジン補機と、前記エンジン補機と前記エンジン本体との間に設けられた衝突対応凸部とを具備している。また前記シリンダブロックが、クランクケース部と該クランクケース部の上方に形成されたシリンダ部とを有し、前記クランクケース部の前記衝突対応凸部から上側の部分が、前記シリンダ部に近いほど車両後方となるよう湾曲した形状の湾曲部をなしている。
1つの実施形態では、前記エンジン補機がスタータであり、該スタータの車両後側に位置する前記シリンダブロックの前面壁に、前記スタータに向かって突出する前記衝突対応凸部を有している。また前記衝突対応凸部の一例は、前記シリンダブロックに形成された第1の受けリブと、この第1の受けリブの下側に形成された第2の受けリブとからなる。第1の受けリブと第2の受けリブとは、それぞれ車幅方向に延びる横リブである。
また前記第1の受けリブが前記スタータの回転中心から車両後側に延びる中心線の上側に形成され、前記第2の受けリブが前記中心線の下側に形成されていてもよい。さらに前記シリンダブロックが、前記第1の受けリブと第2の受けリブとに連なる縦リブを有していてもよい。
本発明の車両の前部構造によれば、車両の衝突時に車体前方からエンジンに向かって進入してくる障害物がエンジン補機に当って後方に移動すると、このエンジン補機が衝突対応凸部によって支持される。そして衝突荷重がエンジン補機と衝突対応凸部とを介してシリンダブロック側に伝達される。スタータ等のエンジン補機は車両前方から加わる圧縮の荷重に対して実質的に剛体であるため、このエンジン補機によって燃料系保護空間が確保され、吸気マニホールド付近に配置されている燃料系を保護することができる。
本発明の1つ実施形態に係る前部構造を備えた車両の斜視図。 図1に示された車両前部の一部の平面図。 図2に示されたエンジンの一部の縦断面図。 図2に示されたエンジンの一部の斜視図。 図2に示されたエンジンからスタータを取外した状態の斜視図。 車両前部に衝突荷重が加わった状態を模式的に示す断面図。
以下に本発明の1つの実施形態に係る車両の前部構造について、図1から図6を参照して説明する。
図1は、車両(自動車)10の一例を示す斜視図である。この車両10の前部に、エンジン11とトランスミッション12などを含むパワートレイン13が搭載されている。
図2は、車両10の前部の一部を示す平面図である。図2中の矢印Aが車両前方、矢印Bが車両の幅方向(車幅方向)を示している。図2に示されるように車両10は、車体骨格部材の一例である一対のサイドメンバ20,21を含んでいる。サイドメンバ20,21は車両10の前後方向に延びている。サイドメンバ20,21間にエンジンルーム22が形成されている。エンジンルーム22に、エンジン11とトランスミッション12を含むパワートレイン13が収容されている。
図2に示すエンジン11は、クランクシャフトが車両10の幅方向(車幅方向)に延びるいわゆる横置きエンジンである、エンジン11とトランスミッション12は互いに車幅方向に結合されている。エンジン11は、エンジンマウント25によって、一方のサイドメンバ20に支持されている。トランスミッション12は、トランスミッションマウント26によって、他方のサイドメンバ21に支持されている。
図3は、エンジン11の一部を示す縦断面図である。このエンジン11は、シリンダブロック31とシリンダヘッド32などを含むエンジン本体30を有している。シリンダブロック31とシリンダヘッド32は、それぞれアルミニウム合金等の金属からなる鋳造品であり、いずれも実質的に剛体である。
シリンダブロック31は、図3において下側に位置するクランクケース部31aと、上側に位置するシリンダ部31bとを有している。クランクケース部31aの下部にオイルパン33が設けられている。クランクケース部31aとオイルパン33とによって、クランク室34が形成されている。クランク室34には、クランクシャフト35やクランク等が収容されている。シリンダ部31bにピストン36が収容されている。
シリンダヘッド32の車両前側に、吸気系の一部をなす吸気マニホールド40が配置されている。吸気マニホールド40の近傍、具体的には吸気マニホールド40の前端40aとシリンダヘッド32との間(吸気マニホールド40の湾曲部分の内側)に、インジェクタ41と燃料分配管42が配置されている。インジェクタ41は、エンジン11の各気筒内に燃料を噴射する機能を有している。燃料分配管42は、インジェクタ41に燃料を供給する。インジェクタ41と燃料分配管42とは燃料系43の一部をなしている。
シリンダヘッド32の車両後側に、排気系の一部をなす排気マニホールド45が配置されている。またエンジンルーム22内には、エンジン11が作動するのに不可欠なエンジン補機(例えば図3に示すスタータ50やオルタネータ等の回転電機やポンプ類)も配置されている。スタータ50はエンジン本体30の車両前側に配置されている。
図4にエンジン本体30の一部とスタータ50が示されている。スタータ50は、金属からなる高剛性の円筒形のハウジング60を有したスタータ本体61と、ハウジング60の内部に配置されたアーマチュアやコンミテータ等を含む回転体62(図3に示す)と、スタータ本体61の外側に設けられたマグネチックスイッチ63などを備えている。ハウジング60の内側には、磁性金属からなるヨークが配置されている。
スタータ本体61のハウジング60の一部に、スタータフランジ60aが設けられている。エンジン本体30にはスタータ取付部65が設けられている。スタータフランジ60aをボルト66によってスタータ取付部65に固定することにより、スタータ50がエンジン11の車両前側の所定位置に取付けられている。ボルト66は、スタータ取付部65に形成された孔67(図5に示す)に挿入されている。
図3に示すようにスタータ50の回転軸70にピニオン71が設けられている。始動時にマグネチックスイッチ63が作動し、ピニオン71がフライホイールのリングギヤ72に向かって突出することにより、ピニオン71がリングギヤ72に噛合うとともに、ピニオン71とリングギヤ72との回転によってクランクシャフト35が回転することにより、エンジン11が始動する。
スタータ50は金属の塊に近い剛性の大きなヨークやアーマチュア等を内蔵しているため、車両前方から加わる圧縮の荷重(図6に矢印Fで示す方向の荷重)に対して圧壊に耐える剛性を有している。この明細書で言う「圧壊に耐える剛性」とは、前方から入力する衝突荷重によってスタータ50に径方向の圧縮の荷重が加わっても、変形の程度が小さいことにより、図6に示す燃料系保護空間Sを確保することができるような剛性を有していることを意味する。
図3に示すようにエンジンルーム22内のスタータ50の前側には、エンジン冷却液を冷却するためのラジエータ80や冷却ファン等を含む前部構造物81が配置されている。前部構造物81の前方にバンパビーム85やバンパフェース等を含むバンパ構成部材86が配置されている。
シリンダブロック31のクランクケース部31aの車両前側に位置する前面壁31cに衝突対応凸部90が形成されている。衝突対応凸部90の一例は、クランクケース部31aに一体に形成された第1の受けリブ91と第2の受けリブ92とからなる。これらの受けリブ91,92は、スタータ50の後側のクランクケース部31aの前面壁31cに形成され、スタータ50に向かって車両前方に延びている。またこれらの受けリブ91,92は、図5に示すように車幅方向に延びている。受けリブ91,92は、いわゆる横リブである。
図3に示されるように、第1の受けリブ91は、スタータ50の回転中心Cから車両後方に延びる中心線Lよりも上側に形成されている。第2の受けリブ92は、中心線Lの下側に形成されている。すなわちスタータ50の回転中心Cから後方に延びる中心線Lに対して上側と下側にそれぞれ受けリブ91,92が位置するよう、スタータ50と受けリブ91,92との位置関係が設定されている。
受けリブ91,92間と、受けリブ91,92の上方と下方に、それぞれ縦方向に延びる縦リブ93が形成されている。縦リブ93は受けリブ91,92に連なっている。またクランクケース部31aの上部すなわち第1の受けリブ91よりも上側の部分は、シリンダ部31bに近いほど車両後側となるよう湾曲した形状の湾曲部31dをなしている。
図4に示されるように、スタータ50はスタータフランジ60aを介してエンジン本体30のスタータ取付部65に固定されている。スタータフランジ60aとスタータ取付部65とは、スタータフランジ締結部をなしている。このようにスタータ50がエンジン本体30に取付けられた状態において、図3に示されるようにスタータ50の少なくとも一部(前端50a)は燃料系43よりも車両前方に位置している。言い換えると、スタータ50の前端50aの後側に燃料系43が配置されている。
車両の前方からエンジン11に向かって衝突相手物が移動してくる前面衝突あるいはオフセット衝突を想定した場合、バンパ構成部材86に衝突した衝突相手物等がエンジンルーム22に向かって移動してくるとともに、前部構造物81がエンジン本体30に向かってくる。
図6に模式的に示すように前方から入力する衝突の荷重Fによって前部構造物81がエンジン本体30に向かって移動し、前部構造物81などの障害物がスタータ50に衝突すると、スタータ50に入力した衝突荷重によってスタータ50が相対的に後退し、受けリブ91,92に接する。このためスタータ50に入力した衝突荷重が受けリブ91,92によって支持されるとともに、衝突荷重がシリンダブロック31に伝達される。
このように衝突によってエンジン本体30に向かって移動してくる前部構造物81等の障害物がスタータ50および周囲の部材によって受け止められるため、吸気マニホールド40が潰れることをある程度抑制できるとともに、吸気マニホールド40付近に設けられている燃料系43を保護するための燃料系保護空間Sが確保される。しかもインジェクタ41や燃料分配管42等の燃料系43が吸気マニホールド40の湾曲部分の内側に配置されているため、前方から移動してくる障害物に対し、燃料系43を吸気マニホールド40によって保護することができる。
図3に示すように、第1の受けリブ91は、スタータ50の回転中心Cを後方に延ばした中心線Lの上側に形成されている。第2の受けリブ92は、中心線Lの下側に形成されている。このため衝突によってスタータフランジ60aやスタータ取付部65が破損したとしても、スタータ本体61を受けリブ91,92によってエンジン本体30の前側の一定位置に保持することができることにより、スタータ50の前方から入力する衝突荷重を上下の受けリブ91,92によって確実に受け止めることができ、受けリブ91,92に入力した荷重をシリンダブロック31に伝達することができる。
しかもシリンダブロック31の前面壁31cの上部すなわち受けリブ91から上側の部分は、シリンダ部31bに近い位置ほど車両後方側となるような湾曲部31dをなしている。このため受けリブ91,92が設けられている部分は、前方からの荷重に対する強度が大きく、しかも受けリブ91,92に入力した荷重が湾曲部31dを介して高剛性のシリンダ部31bに伝達されやすい形状となっている。
このように本実施形態は、スタータ50と受けリブ91,92とを利用して、前面衝突時に燃料系保護空間Sを確保することができるとともに、吸気マニホールド40が潰れることを抑制することができる。スタータ50はエンジン補機の一種であるから、部品数が増加する原因とはならない。衝突対応凸部90は、シリンダブロック31を鋳造する際に受けリブ91,92を成形することで対応できるため、部品数の増加を伴わないし、構造が複雑化しないという利点もある。
なお本発明を実施するに当たり、エンジンの具体的な構造やエンジン補機および衝突対応凸部等の具体的な形状や配置を種々に変更して実施できることは言うまでもない。たとえばエンジン補機は、スタータやオルタネータ等の回転電機以外の機器であっても、例えばコンプレッサやポンプ類のように圧縮の荷重に対して大きな剛性を発揮できる金属等の剛体部品を内蔵する機器で、衝突荷重によって圧縮された状態において燃料系保護空間を確保できるものであれば利用することが可能である。また衝突対応凸部はエンジン補機側に設けられていてもよいし、衝突対応凸部が上下方向に延びる縦リブあるいはリブ以外の形状の凸部であってもよい。
10…車両、11…エンジン、22…エンジンルーム、30…エンジン本体、31…シリンダブロック、31a…クランクケース部、31b…シリンダ部、31c…前面壁、31d…湾曲部、32…シリンダヘッド、35…クランクシャフト、40…吸気マニホールド、41…インジェクタ、42…燃料分配管、43…燃料系、50…スタータ(エンジン補機)、50a…前端、60a…スタータフランジ、61…スタータ本体、65…スタータ取付部、90…衝突対応凸部、91…第1の受けリブ、92…第2の受けリブ、93…縦リブ、S…燃料系保護空間。

Claims (5)

  1. 車両前部のエンジンルームに搭載され、シリンダブロックとシリンダヘッドとを含むエンジン本体と、
    前記エンジン本体の車両前側に配置された吸気マニホールドと、
    前記吸気マニホールドの前端よりも車両後側に配置された燃料系と、
    前記エンジンルーム内に配置され、少なくとも一部が前記燃料系よりも前記車両前側に位置し、前方から入力する衝突荷重に対して圧壊に耐える剛性を有したエンジン補機と、
    前記エンジン補機と前記エンジン本体との間に設けられた衝突対応凸部と、
    を具備し、
    前記シリンダブロックが、クランクケース部と該クランクケース部の上方に形成されたシリンダ部とを有し、前記エンジン本体の縦断面において前記クランクケース部の前記衝突対応凸部から上側の部分が、前記シリンダ部に近いほど車両後方となるよう湾曲した形状の湾曲部をなしていることを特徴とする車両の前部構造。
  2. 前記エンジン補機がスタータであり、該スタータの車両後側に位置する前記シリンダブロックの前面壁に、前記スタータに向かって突出する前記衝突対応凸部を有したことを特徴とする請求項1に記載の車両の前部構造。
  3. 前記衝突対応凸部が、前記シリンダブロックに形成された第1の受けリブと、この第1の受けリブの下側に形成された第2の受けリブとからなることを特徴とする請求項2に記載の車両の前部構造。
  4. 前記第1の受けリブが前記スタータの回転中心から車両後側に延びる中心線の上側に形成され、前記第2の受けリブが前記中心線の下側に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の車両の前部構造。
  5. 前記シリンダブロックが、前記第1の受けリブと第2の受けリブとに連なる縦リブを有したことを特徴とする請求項3または4に記載の車両の前部構造。
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