図1は、この発明による針部材を用いた壁装着具の一実施例であって、特に針部材としての突き刺しピンを示す図であり、(a)はその片方のピン片の平面図、(b)はその側面図、(c)は(a)及び(b)に示すピン片を二つ組み合わせた状態にある突き刺しピンを示す平面図である。図1(c)は、ここでは図示していないヘッド部材と組み合わされて壁装着具となる突き刺しピン3を示している。突き刺しピン3は、図示しないヘッド部材に押し込まれて壁に突き刺されるときのように、壁装着具における二つのピン片の組合せ状態と同じ状態で示されている。
針部材としての突き刺しピン3は、図示しないヘッド部材に押し込まれたとき、図1(c)に示すように、先端部分が尖った二本の細長いピン片4,5を組み合わせた状態にある。ピン片4(又は5)は、図1(a)及び(b)に示すように、一本の細長い板状のピン片本体6(又は7)と、ピン片本体6(又は7)の先端側において一体的に接続して延びるように三角山状に尖る態様で形成された尖端部8(又は9)と、ピン片本体6(又は7)の先端部分とは反対側の基端部分側においてピン片本体6(又は7)から一体的に接続して延びるようにL字状に折れ曲がる態様で形成されたピン片頭部10(又は11)とを備えている。このように、突き刺しピン3は、壁装着具の使用状態では、二本の細長い板状のピンを連結した針部材ではなくまた径の太い断面円形のピンとも異なり、先端部分が尖った二本の細長い板状のピン片4,5がピン片頭部10,11を互いに突き合わせた状態に組み合わされて成っている。
尖端部8,9は、壁への突き刺しを容易にするため、幅方向にも厚さ方向にも先端8a,9aに向かうに従って、次第に寸法を減じて尖って形成されている。尖端部8,9の最も先端8a,9aは、可能な限り鋭角に形成されている。また、ピン片頭部10,11は、それぞれ、ピン片本体6,7の先端側とは反対側の基端部分において、ピン片本体6,7の細長い板状の板面と共通の板面内で、ピン片本体6,7から一体的に接続し且つピン幅方向に拡大して延びている。各角部において、ピン片本体6,7から最も遠い角部分10a,11a以外、適宜のアールが施されている。角部分10a,11aを挟むように延びる横端部分10b,11bと端面部分10c,11cとは、それぞれピン片本体6,7の長手方向とそれに交差する横方向とに平行に延びており、両部分の間に直角を成して交差している。
ピン片4及びピン片5は、一枚の金属板から打ち抜く等して寸法同じに製作されたものであり、尖端部8,9を除いて板厚tは一様である。図1(c)に示す組合せ状態は、二つのピン片4,5について、一方のピン片に対して他方のピン片を裏返して、ピン片本体6,7をその長手方向を揃えて互いに平行に延びるように置き、横端部分10b,11bを互いに僅かの隙間13を介して対向させて配置した状態である。この組合せ状態は、後述するヘッド部材に両方のピン片4,5を押し込んで貫通させた状態と同じ状態であるが、二本のピン片4とピン片5とは、互いに共通する平面内に置かれている。ピン片の大きさは、一例として、長さLが20mm〜26mm、本体の幅W1が2.5mm、厚さtが0.8mm、尖端部8,9の長さhが7mm、ピン片本体6,7間の空間12の間隔W2が4mmである。対向状態にある横端部分10b,11b間の隙間13の幅W3は、広くても0.2mm程度のものである。なお、これらの寸法はあくまでも一例であり、これに限られないことは明らかである。
図2には、壁装着具を構成する際に図1に示した突き刺しピン3と組み合わされるべき、ヘッド部材2が示されている。図2において、(a)はヘッド部材の正面図、(b)はヘッド部材の側面図、(c)はヘッド部材の裏面図、(d)はヘッド部材内の案内孔を含むスリットを説明する図、(e)は(a)のA−A断面図である。ヘッド部材2については、表側のヘッド端部分16が高さの低い円柱状であり、ヘッド端部分16の裏側に一体に成形される本体部分15がヘッド端部分16よりも背の高い円柱状である。針部材であるピン片4,5(図2(b)に仮想線で示す。)をヘッド部材2に押し込んで貫通させた部分で壁に突き刺し可能とするために、本体部分15とヘッド端部分16とを通して、スリット17が形成されている。スリット17は、ピン片4,5をヘッド部材2内に押し込む際にピン片4,5の動きを案内するとともに押し込みが完了したときのピン片4,5を保持する保持案内溝として設けられている。
スリット17は、突き刺しピン3の形状に合わせた孔形状に形成されている。スリット17は、ヘッド部材2を上方から下方へ傾斜して形成されており(本例では、図2(e)に示すように約15°傾斜しているがこれに限られない。)、ヘッド端部分16の表側では中央よりやや上方の位置でピン片頭部10,11を収容するピン片頭部収容溝19として水平に開口し、本体部分15の奥側では中央又はそれよりもやや下方の位置でピン片本体6,7がそれぞれ突き出ることができるようにピン片案内孔20,21として開口している。ピン片頭部収容溝19とピン片案内孔20,21とは、ヘッド部材2内において、連続して繋がっている。ヘッド部材2に形成されているピン片案内孔20,21は、ピン片4,5がヘッド部材2を貫通するときに、ピン片本体6,7の動きを案内する。また、ピン片頭部収容溝19は、ピン片4,5がヘッド部材2に貫通して装着された状態で、ピン片頭部10,11を収容する。
ヘッド部材2においては、スリット17のピン片頭部収容溝19を定める溝壁面の一部として、ピン片頭部10,11が当接することにより、ピン片4,5の突き刺し方向の所定以上の移動を阻止するストッパ部18が設けられている。ストッパ部18の幅W4は、ピン片4,5のピン片本体6,7間の空間12の幅W2(図1(c)参照)に対応している。また、ストッパ部18の高さ及びピン片頭部10,11の高さは、それぞれ、図2(b)、(e)に示すように、ピン片4,5を壁Wに所定の深さ位置まで打ち込んだ状態で、ピン片頭部10,11がストッパ部18に丁度突き当たり、且つピン片頭部10,11の端面部分10c,11cがヘッド部材2のヘッド端部分16の端面と丁度面一となるように設定されている。即ち、ストッパ部18のストッパ面とヘッド端部分16の端面との間の長さSは、ピン片頭部10,11の高さH(図1(a)参照)に等しくなるように設定されている。
ストッパ部18に関して上記の寸法関係を有することにより、ピン片4,5をヘッド部材2に押し込み、その後、貫通したピン片4,5の先端側を壁に突き刺すときに、ピン片頭部10,11がストッパ部18に当接するまで押し込み量に気を取られることなくピン片4,5をヘッド部材2に押し込むことができる。また、ストッパ部18が設けられる深さ位置については、ピン片頭部10,11がストッパ部18に当接するときにヘッド部材2への押し込み完了(壁への突き刺し終了)に設定しておくことで、ピン片頭部10,11がストッパ部18に当接するときにピン片4,5の押し込み動作(壁への突き刺し動作)を停止させればよくなり、ピン片の壁への突き刺し作業を簡単化することができる。
スリット17の隙間寸法については、この例では、突き刺しピン3の板厚tと同じかそれよりも僅かに狭く形成されている。このようにすることで、突き刺しピン3はスリット17内に隙間なく差し込まれ、ガタつきがない。突き刺しピン3をスリット17に対して締まり嵌め状態にした場合には、ピン片4,5をヘッド部材2に対して押し込むときにピン片4,5はスリット17の隙間を広げながら進むことになり、ヘッド部材2はスリット17において突き刺しピン3の押し込みに対しては若干の抵抗増加となるが、この抵抗があることにより、突き刺しピン3がヘッド部材2内でガタつくことに起因して不安定になることがない。また、この抵抗により、ピン片4,5をヘッド部材2に一旦押し込んだ後では、ピン片4,5がスリット17から不用意に抜け出るのを防止することができ、ヘッド部材2に確実に保持することができる。
スリット17は、ストッパ部18によって分断されており、ストッパ部18の両側に、保持案内溝の一部として、ピン片4,5の移動をそれぞれ案内するピン片案内孔20,21が形成されている。ピン片4,5をそれぞれ案内するピン片案内孔20,21をヘッド部材2に予め形成しておくことにより、ピン片4,5をヘッド部材2に押し込む際には、ピン片4,5の動き、即ち、ピン片本体6,7の動きをピン片案内孔20,21で個別に案内させることができる。その結果、ピン片4,5の座屈を防止するとともに、ピン片4,5のヘッド部材2に対する姿勢を維持し、ヘッド部材2及び壁に対して方向を誤ることなく確実で且つスムーズな動きを確保し、壁に対して確実に突き刺すことができる。なお、ヘッド部材2のヘッド端部分16には、その表側の上方位置に円形凹部の形状として方向マーク28が形成されている。方向マーク28を上方位置に置いたとき、スリット17は傾斜の向きは奥に向かうほど下がる方向であることを示している。マーク28の形状は円形に限ることはなく、三角形や矢印等、適宜の形状・記号とすることができる。
図3には、図1に示した突き刺しピンを図2に示すヘッド部材に貫通させて壁に装着する様子が示されており、図3の(a)は補助当て具を用いてピン片をヘッド部材に突き刺そうとする様子を示す突き刺しの途中図であり、(b)はピン片を、ヘッド部材を通して壁に突き刺した突き刺し完了状態を示す図である。図3(a)に示すように、まず、壁装着具1を装着しようとする壁Wの所定位置に、例えば金属製又は樹脂製の板状の補助当て具25をあてがう。ヘッド部材2の本体部分15の端面にはその対角位置にボス22,23(図2(b)及び(c)も参照)が形成されており、補助当て具25には、ボス22,23に対応してボス孔26,27が形成されている。ピン片4,5が通過する位置には、予め孔等を開けておいても良い。したがって、壁装着具1のヘッド部材2は、当該ヘッド部材2に形成されたボス22,23を補助当て具25に形成されているボス孔26,27に嵌合させることで、補助当て具25に対して位置決めされる。
二本のピン片4,5は、ヘッド部材2及び壁Wに対して同時に押し込む或いは突き刺す必要はなく、個別に順次押し込む或いは突き刺すことができるものであり、したがって、一本ずつ別々にヘッド部材2を通して壁Wに突き刺される。その結果、ヘッド部材2を通してピン片4,5を壁Wに突き刺すのに必要な力が小さくなる。ピン片を壁Wに突き刺すときの突き刺し力は一本のピン片4(5)の尖端部8(9)の先端8a(9a)に集中し、且つピン片4,5は薄板状であり突き刺しの際の壁Wの変形や押し退けの程度が少なくて済むので、ピン片4,5を壁Wに容易に突き刺すことができる。また、ピン片4,5の突き刺しによる壁Wへのダメージを少なくすることもできる。突き刺し後は、壁Wが両ピン片4,5を板の両面側から挟み込むので、壁装着具1は壁Wに強固に保持される。
図3(a)に示す状態で、ユーザが手でピン片4,5を順次、ヘッド部材2に形成されているスリット17に通して案内させつつ押し込むことにより、ピン片4,5が壁Wに突き刺され、ヘッド部材2を壁Wの所定の装着位置に取り付けることができる。なお、補助当て具25を用いない場合には、ヘッド部材2の本体部分15にボス22,23を形成する必要はなく、ヘッド部材2を直接に壁Wに当ててその状態でピン片4,5を壁Wに突き刺すことができる。ヘッド部材22を直接、壁Wに当てて刺す場合は、ヘッド部材2の物体(壁W)側に当たる箇所に両面テープを貼ることによりヘッド部材2の位置決めをすることができる。両面テープを用いることで、ピン片4,5が壁Wに突き刺し易くなり、壁Wの破壊も防ぐことができ、ピン片4,5を抜いた後も壁Wに残る穴が小さくて済む。補助当て具25を使用する場合についても、壁Wに当て使用するときに両面テープを使用することで、補助当て具25を物体(壁W)に対して位置決めすることができる。両面テープを用いて位置決めすることで、ピン片4,5を壁Wに突き刺し易くすることができ、コンクリートの破壊も防いで、ピン片4,5を抜いた後に壁Wに残る穴も小さくて済む。
図3(b)に示すように両ピン片4,5が壁Wに突き刺された状態では、ピン片本体6,7は、ピン片頭部10,11側がヘッド部材2に形成されているピン片案内孔20,21内に嵌入されており、尖端部8,9側が壁W内に突き刺し状態にある。また、各ピン片4,5を組み合わせてヘッド部材2を貫通させて壁Wに突き刺した状態では、両ピン片4,5のピン片頭部10,11がヘッド部材2の表側に形成されているスリット17のピン片頭部収容溝19内に丁度嵌まっている。その結果、ピン片頭部10,11がヘッド部材2から表側に出ないようになっており、壁装着具1として見栄えや扱いが良好である。ピン片頭部10,11はピン片本体6,7からL字状に折り曲がってピン幅方向に拡大して延びているので、横寸法が広くなり、手でピン片4,5を押しやすくなっている。
ピン片頭部10,11については、互いに対向する端部、即ち横端部分10b,11b(図1参照)を、僅かの隙間を介して対向させる、若しくは互いに当接させることができる。このように配置することで、ピン片4,5をスリット17内で横方向にぐらつかせることなく、ヘッド部材2内にコンパクトに安定して収容し、ひいてはヘッド部材2を小型に構成することができる。また、横端部分10b,11bを互いに当接させる場合には、両ピン片4,5は、ヘッド部材2内で互いに拘束し合うことになり、ヘッド部材2内で更に強固に保持される。更に、ピン片頭部10,11はそれぞれがストッパ部18に当接することで両ピン片4,5がそれ以上の突き刺し方向に移動するのが阻止され、突き刺しが完了したことを知ることができる。なお、両ピン片4,5のピン片本体6,7が互いにストレートで平行に配置・構成され、それに応じてピン片案内孔20,21についても互いに平行に延びるように形成されるのは、壁への突き刺し状態で、両ピン片本体6,7間の壁部分がピン片本体6,7の差し込みに耐えられるときである。ピン片頭部10,11は、ピン片本体6,7から直角(L字状)を以てピン幅方向に拡大して延びている。
図4は、この発明による壁装着具に用いられる針部材(突き刺しピン)の別の例を示す図であり、図4(a)は二つのピン片を壁装着具における組合せ状態と同じ状態で示す平面図、図4(b)はその側面図である。図4に示す針部材としての突き刺しピン30のうち、図1に示す突き刺しピン3と同等の部位には、図1に示した符号を用いることで再度の説明を省略する。
図4に示す実施例では、ピン片34のピン片頭部10とピン片35のピン片頭部11は、単に対向する、或いは突き当たるだけではなく、互いに係合可能な形状に形成されている。即ち、一方のピン片34のピン片頭部10の先端部分は、外側を一部切除して二段の階段部分38を形成した係合部36となっており、他方のピン片35のピン片頭部11の先端部分は、内側を一部切除して二段の階段部分39を形成した係合部37となっており、係合部36,37は互いに相補的な形状を有している。係合部36,37においては有害なバリを発生させないために、凹状となる角部分は直角に切り欠いているが、凸状となる角部分にはアールを形成している。
ピン片34,35はヘッド部材2に対して順次個別に突き刺されるので、後から突き刺すピン片35の係合部37が先に突き刺されるピン片34の係合部36に係合する。係合状態にある係合部36,37は、階段の直交する2面のいずれの方向(図のX,Y方向)にも、互いに接近する方向には突き当たることになって相対移動しないので、両ピン片34,35はヘッド部材内において更に互いに拘束し合って確実に保持される。係合部37を係合部36に向かわせるピン片35の突き刺し方向の移動については、ヘッド部材2のストッパ部18に突き当たって拘束されるので、両ピン片34,35はヘッド部材2内において更に確実に保持される。ただし、後から突き刺したピン片35の係合部37は先に突き刺したピン片34の係合部36との係合状態から抜き出す方向にはフリーであるので、ピン片35をヘッド部材2から取り外すときの動作は係合部36,37によって阻害されることはない。なお、係合部36,37における係合形状は一例であって、これに限られるものではない。また、図4に示す実施例に示すピン片34,35と組み合わせられるヘッド部材については、図2に示したものと同じでよい。
図5は、この発明による壁装着具に用いられる針部材(突き刺しピン)の更に別の例を示す図であり、図5において、(a)はその一方のピン片の平面図、(b)は他方のピン片の平面図、(c)は(b)に示すピン片の側面図、(d)は(a)及び(b)に示すそれぞれのピン片を組み合わせた状態で示す平面図である。図5の(d)は、図2に示したようなヘッド部材と組み合わされて壁装着具となる突き刺しピン43を示す図であって、ヘッド部材に突き刺されて壁に装着された壁装着具における組合せ状態と同じ状態で示している。図5に示す突き刺しピン43のうち、図1に示す突き刺しピン3と同等の部位には、図1に示した符号を用いることで再度の説明を省略する。
図5に示す実施例では、ピン片44のピン片頭部10とピン片45のピン片頭部11は、単に突き当たるのではないのは勿論、図4に示す係合部36,37よりもより互いの係合の度合いが深い形状に形成されている。即ち、一方のピン片44のピン片頭部10の先端部分は、内側を一部切除して、凹凸が混在した階段部分48を形成した係合部46となっており、他方のピン片45のピン片頭部11の先端部分は、外側を一部切除して、凹凸が混在した階段部分49を形成した係合部47となっている。係合部46,47においては有害なバリを発生させないためのアール処理等は、図4に示す場合と同じである。係合部46,47は互いに相補的で係合可能な形状であり、係合状態では、階段の直交する2面のうち、Y方向にはどちらの向きにも相対移動はせず、X方向には互いに接近する方向には突き当たることになって相対移動しないが、互いに離間する方向にはフリーである。なお、係合部46,47における係合形状は一例であって、これに限られるものではない。また、図5に示す実施例に示すピン片44,45と組み合わせられるヘッド部材についても、図2に示したものと同じでよい。この例では、ピン片45が先にヘッド部材に突き刺され、その後にピン片46がヘッド部材に対して突き刺される。
図6は、この発明による壁装着具に用いられる針部材(突き刺しピン)の更に別の例を示す図であり、図6において、(a)はその一方のピン片の平面図、(b)そのピン片の側面図、(c)は(a)に示すピン片を2本組み合わせる状態を示す平面図である。図6に示す突き刺しピン53のうち、図1に示す突き刺しピン3と同等の部位には、図1に示した符号を用いることで再度の説明を省略する。
突き刺しピンにおいてピン片本体6,7が平行に延びる形態のものでは、例えば壁Wが石膏ボードのような比較的低硬度で且つ厚さの薄い壁であって、尖端部8,9が壁Wを貫いて丁度或いは完全に突き出る状態になった場合には、ピン片本体6,7間に挟まれた壁部分(図3の壁部分Wfを参照)が当該ピン片の壁への突き刺しに起因して脆弱になり、壁Wが突き刺しピンやヘッド部分を保持する力が低下する虞がある。また、この状態で突き刺しピンを壁Wから抜くと、壁部分Wfやその周辺に亀裂や割れが生じ易くなるという不都合もある。
そこで、図6に示す実施例では、二つのピン片をヘッド部材と組み合わせたときに、ピン片本体が末広がりとなるようにピン片の形態に工夫を凝らすことで、こうした不都合の解消を図っている。即ち、突き刺しピン53を構成する二つのピン片54,55は、ピン片本体6,7及び尖端部8,9については図1に示す突き刺しピン3と同等であるが、ピン片頭部56,57がピン片本体6,7に対して鈍角(例えば、図示のように100°の角度)を以て折れ曲がっておりピン幅方向に延びて拡大した頭部の形状をしている。ピン片頭部56,57の先端は、図1に示した突き刺しピン3と同じく、ピン片頭部56,57が延びる方向に対して直交した端面58,59となっている。
突き刺しピン53と組み合わされるヘッド部材の概要が図6(c)に想像線で示されている。突き刺しピン53と組み合わされるヘッド部材の詳細については、図7及び図8に基づいて後述する。図6(c)に示すヘッド部材52には、突き刺しピン53が押し込まれるスリット61が形成されている。スリット61の形状は組み合わされたときの二つのピン片54,55の形態に倣っているが、手の力で押し込むことができる程度にピン片54,55に対して締まり嵌め状態となるように、スリット61の幅は突き刺しピン53の厚みと同じかそれよりも僅かに幅狭にされている。
スリット61は、ストッパ部63で深さが定められた入口部分であるピン片頭部収容溝62と、ピン片頭部収容溝62に繋がり且つ入口部分62の両端部から斜め外側に広がるピン片案内孔64,65とから形成されている。ピン片頭部収容溝62は、ピン片54,55を押し込み終わった状態でピン片頭部56,57を直線状に延びるように収容する。ピン片本体6,7を保持・案内するためのピン片案内孔64,65は、ピン片頭部収容溝62の両端から、ピン片頭部56,57がピン片本体6,7から延びる角度に対応して互いに次第に離間する態様で斜め方向に延びるように形成されている。これによって、両ピン片54,55をヘッド部材52に対して末広がりに押し込むことが可能になっており、ピン片54,55を個別にピン片頭部収容溝62からピン片案内孔64,65へと押し込むときには、ピン片本体6,7がピン片案内孔64,65によってそれぞれ案内されて、末広がりに延びるように移動する。ヘッド部材を貫通した両ピン片54,55は、壁の壁面に対して、そのまま斜め下方に突き刺すことができる。
ピン片54,55をヘッド部材52内で組み合わせた状態では、両端面58,59は、僅かな隙間を介して対向する又は互いに突き当たる状態となる。なお、ピン片頭部56,57には、それぞれ図4又は図5に示したのと同様の係合部を形成してもよい。両ピン片54,55を末広がりに突き刺すことで、両尖端部8,9の間隔、及び両ピン片本体6,7の尖端部8,9寄りの部分の間隔が広くなり、これらの部分に対応した壁部分の損傷を少なくすることができる。また、両ピン片54,55を壁に対して末広がりに突き刺すことで、ピン片本体6,7の尖端部8,9が厚さの薄い壁の裏面に突き出る可能性を抑えることもできる。ピン片頭部56,57はピン片本体6,7から鈍角を以てピン幅方向に拡大して延びており、当該折れ曲がり角度をピン片頭部収容溝62に対するピン片案内孔64,65の斜め角度に対応させることで、両ピン片頭部56,57を、ストレートなピン片の場合と同様に、ヘッド部材52に形成されたスリット61のピン片頭部収容溝62内に真っ直ぐに収容することができる。
図7は、図6に示すピン片がヘッド部材に直角に突き刺される場合のヘッド部材の例を示す図である。図7において、(a)はヘッド部材の正面図、(b)はヘッド部材の側面図、(c)はヘッド部材の裏面図、そして(d)はヘッド部材内のスリットを説明する図であって(a)のB方向から見た端面図である。図7に示すヘッド部材72において、図6に示したヘッド部材52について説明した事項については、同じ符号を用いることで再度の説明を省略する。図7に示すヘッド部材72は、ピン片54,55が壁面に対して直角な方向に突き刺される型式のヘッド部材である。したがって、スリット61は、ピン片頭部収容溝62とそこから斜めに末広がり状に延びるピン片案内孔64,65とから成るが、(a)〜(c)に示されているように、ピン片頭部収容溝62とピン片案内孔64,65とは、本体部分15及びヘッド端部分16の高さ方向中央の位置に開口して、壁面(ヘッド端部分16の表面或いは本体部分15の裏面に平行)に対して直交して延びている。なお、この例ではピン案内孔64,65の開き角度は20°に設定されている。
図8は、図6に示すピン片がヘッド部材に斜めに突き刺される場合のヘッド部材の例を示す図である。図8において、(a)はヘッド部材の正面図、(b)はヘッド部材の側面図、(c)はヘッド部材の裏面図、そして(d)はヘッド部材内のスリットを説明する図であって(a)のC方向から見た端面図である。図8に示すヘッド部材82において、図6に示したヘッド部材52について説明した事項については、同じ符号を用いることで再度の説明を省略する。図8に示すヘッド部材82は、ピン片54,55が壁面に対して斜め下方に傾斜する方向に突き刺される型式のヘッド部材である。したがって、スリット61は、ピン片頭部収容溝62とそこから斜め下方に且つ末広がり状に延びるピン片案内孔64,65とから成るが、(a)〜(c)に示されているように、ピン片頭部収容溝62がヘッド端部分16の表面において高さ方向中央の位置よりも上方に開口し、ピン片案内孔64,65が本体部分15の裏面において高さ方向中央の位置(又はそれよりも下方位置)に開口している。なお、この例でもピン片案内孔64,65の開き角度は20°に設定されている。
図7等に示すように、突き刺しピン(ピン片54,55)を壁面に対して直角に突き刺すのは、通常の突き刺し態様である。図8等に示すように、突き刺しピン(ピン片54,55)を壁に対して斜め下方に突き刺す構造とする場合には、壁掛止め物品の壁装着具に掛かる荷重は両ピン片54,55を壁内方向に更に食い込ませる方向に作用するので、壁に対して直角に突き刺す場合よりも大きな荷重を両ピン片54,55で支持することができる。ピン片54,55を壁に突き刺す際にピン片54,55が進む方向はヘッド部材82に形成したピン片案内孔64,65の向きに倣うので、壁への突き刺し角度はヘッド部材82を製作するときに形成されるピン片案内孔64,65の向きによって定めることができる。
図9は、この発明による針部材を用いた壁装着具の別の実施例を示す図であって、その針部材であるピン片が一本であるときの突き刺しピンを示す図であり、(a)は一本の突き刺しピンの平面図、(b)はその側面図、(c)は突き刺しピンとヘッド部材との組み合わせ状態を説明する図である。壁装着具の壁への装着力、即ち、物品の壁への掛け止め力の大きさに応じて、ピン片の数を選択することができる。一本のピン片でも充分な掛け止め力を得られる場合には、一本のピン片で済ますことがコスト的にも有利である。図9に示す一本のピン片84の場合には、ピン片頭部86はピン片本体85の基端部からピン幅方向両側に拡大して延びていて、全体的には基端部を下方に置いたときに逆T字状の形状を呈している。尖端部等のその他の形状・構造は、例えば図1に示すピン片4,5等と同様であるので、詳細な説明を省略する。ピン片頭部86は、ピン幅方向両側の下縁部分86a,86bにおいて、ヘッド部材88に設けられるストッパ部87に当接しており、ピン片84がそれ以上の突き刺し方向に移動するのが阻止されている。ヘッド部材88内には、ピン片84の形状に対応して、ピン片頭部収容溝89とピン片案内孔90とが連続して形成されている。なお、図9に示す突き刺しピンに対しては、上記した二本のピン片を用いる場合に、各ピン片に具体化されている技術(板厚のスリットの幅との関係、ヘッド部材や壁への斜め方向の突き刺し等)を適用することができる。
図10に、本発明による針部材を用いる壁装着具(例えば、図1に示す突き刺しピン3を用いる壁装着具。ただし本体部分15は断面角形を備える)の一適用例を示す。図10においては、三つの壁装着具95,95,95が、壁Wに引っ掛け金具100を固定するのに用いられている。この適用例は、各壁装着具95は、ヘッド部材に係止される引っ掛け金具100を介して壁掛止め物品を間接的に係合しようとするものである。引っ掛け金具100は、本体101と、本体101の下端から折り返して形成したフック部102と、本体101から延びる3本のアーム部103,103,103とを備えている。各アーム部103の先端部分には、ヘッド部材の本体部分15を通すための四角形の孔104が形成されている。各壁装着具95のピン片4,5を、孔104を通して壁Wに突き刺すことにより、突き刺しピンによって各壁装着具95を壁Wに装着する際に各壁装着具95のヘッド部材に引っ掛け金具100を係止させることで、壁装着具95を介して引っ掛け金具100を壁Wに固定することができる。そして、引っ掛け金具100のフック部102にハンガや手提げ等の物品を掛けることで、引っ掛け金具100を介して物品を壁Wに吊り下げることができる。図12に示した壁Wに固定するための金具はあくまで例示であり、図示以外の適宜の形状・形態のものを採用することができる。壁装着具についても、既に示した各実施例のものを種々の態様で用いることができる。更に、本発明による壁装着具は、引っ掛けに供する以外に、支えや、或いは別の製品を取り付けるためのアダプタを壁Wに固定するのにも使用することができる。また、壁装着具95は、ヘッド部材に壁掛止め物品が直接に係合されるように使用することもできる。
図11及び図12はこの発明による針部材を用いた壁装着具の別の実施例を示す図であって、図11は針部材が三本のピン片であるときの当該ピン片と組み合わされるべきヘッド部材の外観斜視図であり、図12はそのヘッド部材の三面図((a)は正面図、(b)は側面図、(c)は端面図)である。この実施例においては、一つのヘッド部材152に組み合わせて用いられる針部材は、ヘッド部材152に貫通して装着された状態では、互いに共通の平面内に置かれる二本のピン片156,157と、当該二本のピン片156,157と隔置して置かれる一本のピン片155とから成る三本のピン片である。当該二本のピン片156,157は、当該装着状態では、針部材が二本のピン片から成る実施例として既に説明した場合と同様に、互いに裏返した鏡像関係に置かれ、ピン片頭部が対向、係合又は突き合わされている。針部材は図12(b)及び(c)に想像線で示す以外、記載を省略しているが、一本のピン片については例えば図9に示す態様のものを、また二本のピン片については例えば図1〜図5に示す態様のものを用いることができるので、ピン片の構造自身については再度の説明を省略し、説明に必要な場合にはそれらのピン片に用いられている符号と同じ符号を用いる。
この実施例においては、一本のピン片155のためのスリット158が形成される側を上側として説明する。本実施例に用いられるヘッド部材152は、全体としては柱状体であって、表側のヘッド端部分154が高さの低い柱状体と、ヘッド端部分154の裏側に一体に成形される本体部分153がヘッド端部分154よりも背の高い柱状体とから成っている。ヘッド部材152の正面で見た輪郭は、円形の上下中央部を縦方向に引き延ばした全体として小判状の形状を有している。針部材である三本のピン片155,156,157(図12(b)(c)に仮想線で示す。)をヘッド部材152に押し込んで貫通させて壁に突き刺し可能とするために、本体部分153とヘッド端部分154とを通して、一本のピン片155のためのスリット158と、二本のピン片156,157のためのスリット159が形成されている。
一本のピン片155のためのスリット158は、ヘッド部材152の上側の左右中央領域において、ヘッド端部分154と本体部分153とを貫通して真っ直ぐに延びるスリットとして形成されている。スリット158は、当該スリット158に交差する横断面で見て、一本のピン片155のピン片本体(図9に示す態様では85)の断面に対応して、左右方向に細長く延びる一様な輪郭を有しており、ヘッド部材152の正面及び裏面において左右方向に細長く開口している。スリット158は、ヘッド部材152に対して直角に形成されているので、一本のピン片155は装着すべき壁W(図12(b)参照)の壁面に対して垂直に突き刺される。一本のピン片155をスリット158を通して突き刺す際に、スリット158は、そのピン片本体85を通過し保持する保持案内孔として機能する。なお、ヘッド部材152にはピン片頭部(図9に示す態様では86)を収容するピン片頭部収容溝が形成されていないので、一本のピン片155を突き刺した状態でそのピン片頭部86は図12(c)に想像線で示すようにヘッド部材152の表面に当接した状態で飛び出ている。
二本のピン片156,157のためのスリット159は、一本のピン片155のためのスリット158とは上下方向に隔置して、ヘッド部材152の上下中間部分の領域を中心として、ヘッド端部分154と本体部分153とを斜め下方に真っ直ぐに貫通して延びるスリットとして形成されている。スリット159は、互いに共通の平面内に鏡像状態に置かれる二本のピン片156,157に合わせた左右対称の孔構造を有する。即ち、スリット159は、ヘッド端部分154の表側では、略中央の領域でピン片156,157の両ピン片頭部(図1に示す態様では、10,11)を収容することができるように横長に開口する一つのピン片頭部収容溝160と、本体部分153の内部において当該ピン片頭部収容溝160からその両端部で分岐し且つ連続して繋がっており本体部分153の奥側で中央又はそのやや下方の位置で開口しているピン片案内孔161,162とを備えている。ピン片頭部収容溝160とピン片案内孔161,162とは、ヘッド部材152内をヘッド端部分154側から本体部分153側へと下方に同じ角度で傾斜して形成されており(本例では図12(b)に示すように約15°傾斜しているがこれに限られない)、ピン片案内孔161,162はスリット159の傾斜方向に沿って互いに平行に延びる態様に形成されている。ピン片頭部収容溝160はヘッド端部分154の表側において、またピン片案内孔161,162は本体部分153の奥側において、それぞれスリット158の横長な開口と平行に開口している。
スリット159は、押し込まれる二本のピン片156,157を案内し保持する保持案内孔として機能する。二本のピン片156,157をヘッド部材152のスリット159内に個別に押し込んで壁に突き刺す際に、ピン片頭部収容溝160及びピン片案内孔161,162は、ピン片本体(図1に示す態様では、6,7)の押し込まれる動きを個別に案内する。スリット159は、二本のピン片156,157がヘッド部材152に対して押し込むときに方向を誤ることなく確実で且つスムーズな動きを確保し、壁Wに対する確実な突き刺し動作をさせることができる。このように、二本のピン片156,157は、スリット159を通して、ヘッド部材152を斜め下方に真っ直ぐに押し込まれ壁Wに突き刺される。また、スリット159は、ピン片156,157の押し込みが完了したときに、ピン片156,157を保持する機能を奏する。ピン片頭部収容溝160がピン片頭部10,11を、またピン片案内孔161,162はピン片本体6,7をそれぞれ収容状態で保持する。ピン片案内孔161,162は、ピン片本体6,7の座屈を防止するとともに、ピン片156,157のヘッド部材152に対する姿勢を維持する。
この実施例では、針部材は、共通の平面内に置かれる二本のピン片156,157と一本のピン片155との組合せから成る三本のピン片であるので、壁装着具151は、壁Wに対して一層大きな荷重をより安定した態様で伝えることができ、結果として、より重量のある物品を壁Wに支持させることができる。また、二本のピン片156,157についての共通の平面については、壁Wに対して斜め下方であるので、荷重が掛かると、壁Wに対してより深く突き刺さる方向に作用し、壁Wへの装着力が大きくなる。三本のピン片から成る上記の壁装着具151の好ましい態様として、図12(a)(b)に示すように、二本のピン片156,157についての共通の平面は壁Wとの交線L2が水平に延びる線となって壁Wに対して下方に傾斜しており、一本のピン片155についての細長い板状の板面は壁Wとの交線L1が水平に延びる線となって壁Wに対して垂直である。このような壁装着具151によれば、各ピン片155〜157の壁Wに対する姿勢は共通の平面及び板面と壁Wの表面との交線が水平に延びる線となるような姿勢であるので、針のレイアウト構造が簡素であるとともに、壁装着具151に掛かる荷重が各ピン片155〜157の板面で効率良く壁Wに伝達され、壁Wに対する壁装着具150の支持力が効果的に得られる。そして、主力の二本のピン片156,157が下方に傾斜して壁Wに突き刺されることで大きな荷重を支えることに加えて、垂直な一本のピン片155を付加的な位置に備えるという簡素な追加構造で以て、支持荷重を更に増加させると共に壁Wへの支持領域を立体的に増加させるので、壁Wへの装着を更に安定化させることができる。
ヘッド部材152においては、スリット159のピン片頭部収容溝160を定める溝壁面の一部として、ピン片頭部収容溝160からピン片案内孔161,162を分岐させ、且つ二本のピン片156,157のピン片頭部10,11が当接することにより、ピン片4,5の突き刺し方向の所定以上の移動を阻止するストッパ部168が設けられている。ストッパ部168の構造及び作用の詳細については、図2に示す壁装着具のヘッド部材2に設けられるストッパ部18と同等であるので、ここでは再度の説明を省略する。
図13及び図14は、この発明による針部材を用いた壁装着具の更に別の実施例を示す図であって、図13は針部材が三本のピン片であるときの当該ピン片と組み合わされるべきヘッド部材の外観斜視図であり、図14はそのヘッド部材の三面図((a)は正面図、(b)は側面図、(c)は端面図)である。この実施例においても、針部材は図14(b)に示す以外、記載を省略しているが、一本のピン片としては、図11及び図12に示す実施例の場合と同様に、図9に示すピン片を同図に図示されている態様で用いる点に変わりはないので、ここでは再度の説明を省略する。また、二本のピン片としては、例えば図6に示すような形状のピン片を、同図に図示されているヘッド部材に対する組合せ態様で用いることができる。二本のピン片については、共通の平面内に末広がり状態に置かれること以外、図11及び図12に示す実施例の場合と同様であるので、ピン片の構造自身については再度の説明を省略し、説明に必要な場合にはそれらのピン片に用いられている符号と同じ符号を用いる。即ち、一つのヘッド部材172(本体部分173とヘッド端部分174を備える)に組み合わせて用いられる針部材は、ヘッド部材172に貫通して装着された状態では、互いに共通の平面内に末広がり状態に置かれる二本のピン片176,177と、当該二本のピン片176,177と隔置して置かれる一本のピン片175(ピン片本体85がスリット178に押し込められる)とから成る三本のピン片である。
図13及び図14に示す実施例では、二つのピン片176,177をヘッド部材172と組み合わせたときに、ピン片本体6,7が末広がりに延びる構造となっている。二つのピン片176,177は、ピン片本体6,7及び尖端部8,9については図11及び図12に示す実施例の場合と同等であるが、ピン片頭部56,57がピン片本体6,7に対して鈍角(例えば、図示のように100°の角度)を以て折れ曲がっている。二つのピン片176,177とヘッド部材172との組合せ状態では、ピン片頭部56,57の先端同士は、互いに対向、係合又は当接するものとなっている。
ヘッド部材172には、二つのピン片176,177が押し込まれるスリット179が形成されている。スリット179の形状は組み合わされたときの二つのピン片176,177の形態に倣っている。スリット179は、ストッパ部183で深さが定められた入口部分であるピン片頭部収容溝180と、ピン片頭部収容溝180に繋がり且つピン片頭部収容溝180の両端部から斜め外側に広がるピン片案内孔181,182とから形成されている。ピン片頭部収容溝180は、ピン片176,177の押し込み状態でピン片頭部56,57を収容する。ピン片案内孔181,182は、ピン片頭部56,57がピン片本体6,7から延びる角度に対応して、ピン片頭部収容溝180から互いに次第に離間する態様で斜め方向に延びるように形成されている。これによって、両ピン片176,177をヘッド部材172に対して末広がりに押し込むことが可能になっており、ピン片176,177を個別にスリット179に押し込むときには、ピン片本体6,7がピン片案内孔181,182によってそれぞれ案内されて、末広がりに延びるように移動する。ヘッド部材を貫通した両ピン片176,177は、壁Wの壁面に対して、そのまま斜め下方に突き刺される。
両ピン片176,177を末広がりに突き刺すことで、両ピン片本体6,7間の間隔は尖端部8,9側ほど広くなるので、例えば壁Wが石膏ボードのような比較的低硬度で且つ厚さの薄い壁であって、平行に延びるピン片の場合に壁Wへの突き刺しに起因してピン片本体6,7間に挟まれた壁部分が脆弱になり、突き刺しピンやヘッド部分を保持する壁Wの力が低下する虞があるときでも、壁Wの脆弱化や損傷を少なくし、突き刺しピンを壁Wから抜くときに壁Wに亀裂や割れが生じ易くなることを回避することができる。
針部材が三本のピン片から成る場合において、上記実施例として説明した事項の他に、詳細については、図1〜図10に示す構造を採用することができる。例えば、スリット158,159;178,179の隙間寸法については、突き刺しピンを構成する各ピン片の板厚tと同じかそれよりも僅かに幅狭に形成し、幅狭に形成する場合には押し込みに対して抵抗感を与えることができる。また、三本のピン片のうち互いに共通の平面内に置かれる二本のピン片は、針部材が二本のピン片のみから成っているとした場合の当該二本のピン片の構造を備えるものとすることができる。また、図3に示すように、補助当て具を用いることもでき、また、図4、図5に示すように、ピン片頭部の係合構造を適用することもできる。更に、針部材を、ヘッド部材に対して、その先端が出ないような突き刺し状態に予めインサート成形しておくこともできる。インサート成形されたピン片を叩くことで、ピン片のヘッド部材へのおしこみと壁への突き刺しを行うことができる。
針部材が三本のピン片から成る場合の各ピン片とスリットに関して、上記実施例として説明したものについて種々の変更を施すことができる。例えば、二本のピン片156,157についての共通の平面については、壁に対して斜め下方としたが、壁に対して垂直とすることもできる。また、一本のピン片155又は175については、図9に示す実施例の場合と同様に、ヘッド部材152,172にストッパ部を備えたピン片頭部収容溝を形成し、ピン片155又は175をストッパ部に当接するまで突き刺した状態でピン片頭部86を当該ピン片頭部収容溝内に完全に収容して、ヘッド部材152,172の表面から飛び出さないようにすることもできる。一本のピン片155についての細長い板状の板面は壁に対して垂直であるとして説明したが下方に傾斜しているとすることもできる。このように、二本のピン片156,157についての共通の平面と一本のピン片155についての細長い板状の板面とは、壁に対して、共に垂直としてもよく、一方のみを垂直とし他方を下方に傾斜させてもよく、更に共に下方に傾斜させてもよい。ただし、二本のピン片156,157の先端部と一本のピン片155の先端部とが壁中において互いに接近する場合には、そのことで壁の強度が低下する可能性があるので、接近の程度を勘案して傾斜角度等を定めるのが好ましい。更に、針部材が二本のピン片から成る場合の当該二本のピン片、及び針部材が三本のピン片から成る場合の二本のピン片については、ピン片頭部がピン片本体6,7から片側にのみL字状に延びるピン片に代えて、図9に一本のピン片84として示すようなピン片本体6,7から両側にT字状に延びるピン片(図6に示すようにピン片頭部56,57がピン片本体6,7に対して一側に鈍角を以て折れ曲がっている場合には、反対側に補角を以て折れ曲がって全体として真っ直ぐに細長く延びる拡大したピン片頭部を備えるピン片を含む)を用いることができる。ヘッド部材には、二つの細長いピン片頭部を収容するピン片頭部収容溝を形成して、これに対応することができる。