以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体の製造方法は、Si元素源、Al元素源およびアルカリ源を含む水性反応混合物を用いて、水熱合成により、酸素8員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含むゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することにより多孔質支持体―ゼオライト膜複合体を製造する方法であって、水熱合成が、水性反応混合物を予め0〜120℃で2時間以上72時間以下保持した後に、種結晶を付着させた多孔質支持体を浸漬させて加熱することにより行われることに特徴を有するものである。
また、本発明の別の態様の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体の製造方法は、Si元素源、Al元素源およびアルカリ源を含む水性反応混合物を用いて、水熱合成により、酸素8員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含むゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することにより多孔質支持体―ゼオライト膜複合体を製造する方法であって、水熱合成が、種結晶を付着させた多孔質支持体を、水性反応混合物に浸漬させた状態で0〜120℃で0.5時間以上72時間以下保持した後に加熱することにより行われることに特徴を有するものである。
また、本発明の別の態様の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体の製造方法は、上記発明を組合せて行うことに特徴を有するものである。
以下に、先ず、これらの発明を特定するための事項についてさらに詳細に説明し、次に、これらの発明により得られる多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を膜分離手段として用いる分離または濃縮方法について説明する。なお、本明細書において、「多孔質支持体−ゼオライト膜複合体」を「ゼオライト膜複合体」または「膜複合体」と、また「無機多孔質支持体」を「多孔質支持体」または「支持体」と略称することがある。
(多孔質支持体)
本発明において、多孔質支持体としては、その表面などにゼオライトを膜状に固着、好ましくは結晶化できるような化学的安定性があり、多孔質であれば如何なるものであってもよい。例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体(セラミックス支持体)、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。
これら多孔質支持体の中でも、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したものを含む無機多孔質支持体(セラミックス支持体)は、その一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することで界面の密着性を高める効果があるために特に好ましい。
具体的には、例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体(セラミックス支持体)が挙げられる。その中でもアルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体は、多孔質支持体の部分的なゼオライト化が容易であるため、支持体とゼオライトの結合が強固になり緻密で分離性能の高い膜が形成されやすくなるのでより好ましい。
多孔質支持体の形状は、気体や液体の混合物を有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、管状のもの、または円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状のものやモノリスなどが挙げられる。
本発明において、多孔質支持体上、すなわち支持体の表面などにゼオライトを結晶化させるのが好ましい。支持体の表面は、支持体の形状に応じて、どの表面であってもよく、複数の面であってもよい。例えば、円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
多孔質支持体の表面が有する平均細孔径は特に制限されないが、細孔径が制御されているものが好ましく、支持体表面の平均細孔径は通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。
平均細孔径が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になることがあり、支持体表面の細孔の割合が増えて緻密なゼオライト膜が形成されにくくなることがある。
支持体の平均厚さ(肉厚)は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、通常7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。支持体はゼオライト膜に機械的強度を与える目的で使用しているが、支持体の平均厚さが薄すぎると、ゼオライト膜複合体が十分な強度を持たずゼオライト膜複合体が衝撃や振動等に弱くなる傾向がある。支持体の平均厚さが厚すぎると、透過した物質の拡散が悪くなり透過流束が低くなる傾向がある。
多孔質支持体の表面は滑らかであることが好ましく、必要に応じて表面をやすり等で研磨してもよい。なお、多孔質支持体の表面とはゼオライトを結晶化させる無機多孔質支持体の表面部分を意味し、表面であればそれぞれの形状のどこの表面であってもよく、複数の面であっても良い。例えば円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
多孔質支持体の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。支持体の気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、下限未満では透過物の拡散を阻害する傾向があり、上限を超えると支持体の強度が低下する傾向がある。
(ゼオライト膜)
本発明において、ゼオライト膜とは、後に詳述するとおり、多孔質支持体上に固着されている膜状のゼオライトを意味する。該ゼオライト膜は、支持体を有する(支持体上に固着される)ことによって機械的な強度が増し、取り扱いが容易になり、種々の装置設計が可能であるほか、全て無機物で構成されるため、耐熱性、耐薬品性に優れる。
ゼオライト膜は、一部アモルファス成分などが含有されていてもよいが、好ましくは実質的にゼオライトのみで構成されるゼオライト膜である。
ゼオライト膜の厚さは特に限定されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下である。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下する傾向がある。
ゼオライト膜を形成するゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。それ故、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合がより好ましい。ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じであるとき、ゼオライトの粒界が最も小さくなる。後に述べる水熱合成で得られたゼオライト膜は、ゼオライトの粒子径と膜の厚さが同じになる場合があるので特に好ましい。
ゼオライト膜複合体の形状は特に限定されず、管状、中空糸状、モノリス型、ハニカム型などあらゆる形状を採用できる。また大きさも特に限定されず、例えば、管状の場合は、通常長さ2cm以上200cm以下、内径0.05cm以上2cm以下、厚さ0.5mm以上4mm以下が実用的で好ましい。
ゼオライト膜の分離機能の一つは、分子ふるいとしての分離であり、用いるゼオライトの有効細孔径以上の大きさを有する気体分子または液体分子とそれ以下の気体または液体分子とを好適に分離することができる。なお分離に供される分子に上限はないが、分子の大きさは、通常100Å程度以下である。
(ゼオライト)
本発明において、ゼオライト膜を構成するゼオライトとしては、アルミノ珪酸塩であるものが好ましく、そのSiO2/Al2O3モル比は、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上である。また上限は、通常2000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、さらに好ましくは100以下である。
SiO2/Al2O3モル比が下限未満では耐久性が低下する傾向があり、上限を超過すると疎水性が強すぎるため、透過流束が小さくなる傾向がある。SiO2/Al2O3モル比は、後に述べる水熱合成の反応条件により調整することができる。
なお、SiO2/Al2O3モル比は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)により得られた数値である。数ミクロンの膜のみの情報を得るために通常はX線の加速電圧を10kVで測定する。
ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトは、酸素8員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含むものが好ましく、酸素6〜8員環の細孔構造を有するゼオライトを含むものがより好ましい。
ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素(骨格を構成する酸素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
酸素8員環以下の細孔構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、ANA、BRE、CAS、CDO、CHA、DDR、DOH、EAB、EPI、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、GIU、GOO、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MON、MSO、MTF、MTN、NON、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、TOL、TSC、UFI、VNI、YUGなどが挙げられる。
酸素6〜8員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、ANA、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、TOL、UFIなどが挙げられる。
なお、本明細書において、ゼオライトの構造は、上記のとおり、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードで示す。
酸素n員環構造はゼオライトの細孔のサイズを決定するものであり、酸素6員環よりも小さいゼオライトではH2O分子のKinetic直径半径よりも細孔径が小さくなるため透過流束が小さくなり実用的でない場合がある。また、酸素8員環構造よりも大きい場合は細孔径が大きくなり、サイズの小さな有機化合物では分離性能が低下することがあり、用途が限定的になる場合がある。
ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å3)は特に制限されないが、通常17以下、好ましくは16以下、より好ましくは15.5以下、特に好ましくは15以下であり、通常10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上である。
ここで、フレームワーク密度(T/1000Å3)とは、ゼオライトの1000Å3あたりの、骨格を構成する酸素以外の元素(T元素)の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まるものである。なお、フレームワーク密度とゼオライトの構造との関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition 2001 ELSEVIERに示されている。
本発明において、好ましいゼオライトの構造は、AEI、AFG、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、TOL、UFIであり、より好ましい構造は、AEI、CHA、ERI、KFI、LEV、PAU、RHO、RTH、UFIであり、さらに好ましい構造は、CHA、LEVであり、最も好ましい構造はCHAである。
ここで、本発明において、CHA型ゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものであり、天然に産出するチャバサイトと同等の結晶構造を有するゼオライトである。CHA型ゼオライトは3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
CHA型ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å3)は14.5である。また、SiO2/Al2O3モル比は上記と同様である。
(多孔質支持体−ゼオライト膜複合体)
本発明において、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体とは、多孔質支持体上にゼオライトが膜状に固着しているものである。ゼオライトは、支持体の表面のみならず、ゼオライトの一部が、多孔質支持体の内部にまで固着している状態のものが好ましい。
ゼオライト膜複合体としては、多孔質支持体上に酸素8員環以下の細孔構造を有するゼオライト、例えばCHA型ゼオライトを、水熱合成により膜状に結晶化させたものが特に好ましい。
ゼオライト膜の多孔質支持体上の位置は特に限定されず、管状の多孔質支持体を用いる場合、外表面にゼオライト膜をつけてもよいし、内表面につけてもよく、さらに適用する系によっては両面につけてもよい。また、多孔質支持体の表面に積層させてもよいし、多孔質支持体の細孔内を埋めるように結晶化させてもよい。この場合、結晶化した膜層の内部に亀裂や連続した微細孔が無いことが重要であり、いわゆる緻密膜を形成させることが分離性を向上することになる。
本発明において、ゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折パターンにおいて、2θ=17.9°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の0.5倍以上の大きさであることが好ましい。
ここで、ピークの強度とは、測定値からバックグラウンドの値を引いたものをさす。(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比A」ということがある。)でいえば、通常0.5以上、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3.0以上、特に好ましくは3.5以上、もっとも好ましくは4.0以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
また、ゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折パターンにおいて、2θ=9.6°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の2倍以上の大きさであることが好ましい。
(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比B」ということがある。)でいえば、通常2以上、好ましくは2.5以上、より好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上、特に好ましくは8以上、もっとも好ましくは10以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
ここでいうX線回折パターンとは、ゼオライトが主として付着している側の表面にCuKαを線源とするX線を照射して、走査軸をθ/2θとして得るものである。測定するサンプルの形状としては、膜複合体のゼオライトが主として付着している側の表面にX線が照射できるような形状なら何でもよく、膜複合体の特徴をよく表すものとして、作成した膜複合体そのままのもの、あるいは装置によって制約される適切な大きさに切断したものが好ましい。
ここでいうX線回折パターンは、ゼオライト膜複合体の表面が曲面である場合には自動可変スリットを用いて照射幅を固定して測定してもかまわない。自動可変スリットを用いた場合のX線回折パターンとは、可変→固定スリット補正を実施したパターンを指す。
ここで、2θ=17.9°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち17.9°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
2θ=20.8°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち20.8°±0.6°の範囲に存在するピークで最大のものを指す。
2θ=9.6°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち9.6°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
X線回折パターンで2θ=9.6°付近のピークはCOLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIER(以下これを、「非特許文献1」ということがある。)によればrhombohedral settingで空間群を
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである。
また、X線回折パターンで2θ=17.9°付近のピークは非特許文献1によればrhombohedral settingで空間群を
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1,1,1)の面に由来するピークである。
X線回折パターンで2θ=20.8°付近のピークは非特許文献1によればrhombohedral settingで空間群を
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(2,0,−1)の面に由来するピークである。
(1,0,0)面由来のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来のピーク強度の典型的な比(ピーク強度比B)は、Halil Kalipcilar et al., "Synthesis and Separation Performance of SSZ-13 Zeolite Membranes on Tubular Supports", Chem. Mater. 2002, 14, 3458-3464(以下これを、「非特許文献2」ということがある。)によれば2未満である。
そのため、この比が2以上であるということは、例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1,0,0)面が膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。ゼオライト膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは分離性能の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
(1,1,1)面由来のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来のピーク強度の典型的な比(ピーク強度比A)は、非特許文献2によれば0.5未満である。
そのため、この比が0.5以上であるということは、例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1,1,1)面が膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。ゼオライト膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは分離性能の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
このように、ピーク強度比A、Bのいずれかが、上記した特定の範囲の値であるということは、ゼオライト結晶が配向して成長し、分離性能の高い緻密なゼオライト膜が形成されていることを示すものである。
ピーク強度比A、Bはその値が大きいほど配向の程度が強いことを示し、一般的に配向の程度が強いほど緻密な膜が形成されていることを示す。一般的には配向が強いほど分離性能が高い傾向があるが、分離対象の混合物によっては分離性能が高くなる最適な配向の程度は異なるので分離対象の混合物によって適宜、配向の程度が最適なゼオライト膜複合体を選択して使用することが望ましい。
(多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法)
本発明において、多孔質支持体を、水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」ということがある。)中に入れて(浸漬して)直接水熱合成することで、支持体上にゼオライトを膜状に固着、好ましくは結晶化させることにより、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を製造する。
具体的には、例えば、ゼオライト膜複合体は、組成を調整して均一化した水性反応混合物を、多孔質支持体を内部に緩やかに固定した、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉して、一定時間加熱すればよい。
水性反応混合物としては、Si元素源、Al元素源、アルカリ源、および水を含み、さらに必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を含むものである。
水性反応混合物に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミのシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等を用いることができる。
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等を用いることができる。なお、Al元素源以外に他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を含んでいてもよい。
ゼオライトの結晶化において、必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を用いることができるが、有機テンプレートを用いて合成したものが好ましい。有機テンプレートを用いて合成することにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、耐酸性が向上する。
有機テンプレートとしては、CHA型ゼオライト膜を形成しうるものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
有機テンプレートとしては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩類が用いられる。例えば、米国特許第4544538号明細書、米国特許公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましいものとして挙げられる。
具体的には、例えば、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、3−キナクリジナールから誘導されるカチオン、3−exo−アミノノルボルネンから誘導されるカチオン等の脂環式アミンから誘導されるカチオンが挙げられる。これらの中で、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンがより好ましい。
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンを有機テンプレートとしたとき、緻密な膜を形成しうるCHA型ゼオライトが結晶化する。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成し得るほか、耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのうち、N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンがさらに好ましい。N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンの3つのアルキル基は、通常、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で最も好ましい化合物は、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンである。
このようなカチオンは、CHA型ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl−、Br−、I−などのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられる。
また、その他の有機テンプレートとしては、N,N,N−トリアルキルベンジルアンモニウムカチオンも用いることができる。この場合もアルキル基は、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で、最も好ましい化合物は、N,N,N−トリメチルベンジルアンモニウムカチオンである。
また、このカチオンが伴うアニオンは上記と同様である。
水性反応混合物に用いるアルカリ源は特に限定されず、有機テンプレートのカウンター
アニオンの水酸化物イオン、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)
2などのアルカリ土類金属水酸化物などを用いることができる。
アルカリの種類は特に限定されず、通常、Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Baなどが用いられる。これらの中で、Na、Kが好ましく、Kがより好ましい。また、アルカリは2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとKを併用するのが好ましい。
水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は、通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、すなわちSiO2/Al2O3モル比として表わす。
SiO2/Al2O3比は特に限定されないが、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上であり、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは300以下、特に好ましくは100以下である。
SiO2/Al2O3比がこの範囲にあるときゼオライト膜が緻密に生成し更に生成したゼオライトが強い親水性を示し、気体や液体の混合物、特に有機化合物を含有する混合物中から親水性の化合物、特に水を選択的に透過することができる。また耐酸性に強く脱Alしにくいゼオライト膜が得られる。
特に、SiO2/Al2O3比がこの範囲にあるとき、緻密な膜を形成しうるCHA型ゼオライトを結晶化させることができる。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成し得るほか、耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
水性反応混合物中のシリカ源と有機テンプレートの比は、SiO2に対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiO2比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、通常1以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下である。
有機テンプレート/SiO2比がこの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成しうることに加えて、生成したゼオライトが耐酸性に強くAlが脱離しにくい。また、この条件において、特に緻密で耐酸性のCHA型ゼオライトを形成させることができる。
Si元素源とアルカリ源の比は、M(2/n)O/SiO2(ここで、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nはその価数1または2を示す。)モル比で、通常0.02以上、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上であり、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。
CHA型ゼオライト膜を形成する場合、アルカリ金属の中でKを含む場合がより緻密で結晶性の高い膜を生成させるという点で好ましい。その場合のKと、Kを含むすべてのアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属とのモル比は、通常0.01以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上であり、通常1以下、好ましくは0.8以下である。
水性反応混合物中へのKの添加は、前記のとおり、rhombohedral settingで空間群を
(No.166)とした時に、CHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである2θ=9.6°付近のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピークの強度との比(ピーク強度比B)、または、(1,1,1)の面に由来するピークである2θ=17.9°付近のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピークの強度との比(ピーク強度比A)を大きくする傾向がある。
Si元素源と水の比は、SiO2に対する水のモル比(H2O/SiO2モル比)で、通常10以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、特に好ましくは50以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは150以下である。
水性反応混合物中の物質のモル比がこれらの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成しうる。水の量は緻密なゼオライト膜の生成においてとくに重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが緻密な膜ができやすい傾向にある。
一般的に、粉末のCHA型ゼオライトを合成する際の水の量は、H2O/SiO2モル比で15〜50程度である。H2O/SiO2モル比が高い(50以上1000以下)、すなわち水が多い条件にすることにより、支持体上にCHA型ゼオライトが緻密な膜状に結晶化した分離性能の高いゼオライト膜複合体を得ることができる。
さらに、ゼオライト膜複合体を製造する場合は、水熱合成に際し、支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで、支持体上でのゼオライトの結晶化を促進でき、緻密で分離性能良好なゼオライト膜が生成しやすくなる。
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには形成するゼオライト膜と同じ結晶型であることが好ましい。CHA型ゼオライト膜を形成する場合は、CHA型ゼオライトの種結晶を用いることが好ましい。
種結晶の粒子径は小さいほうが望ましく、必要に応じて粉砕して用いても良い。粒径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを支持体表面上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性良く膜複合体を製造するにはディップ法が望ましい。
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水が好ましい。分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下、とくに好ましくは3質量%以下である。
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体上に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。ディップ法によって支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
支持体にディップ法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させ、乾燥した後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。
支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、基材1m2あたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下である。
種結晶の量が下限未満の場合には、結晶ができにくくなり、膜の成長が不十分になる場合や、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、種結晶の量が上限を超える場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しやすくなって支持体上の膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
水熱合成により支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物を攪拌させてゼオライト膜を形成させてもよい。
本発明の製造方法においては、水熱合成によりゼオライト膜を形成させる前に、次の(a)法または(b)法のいずれかの方法もしくは両者を組み合わせた方法による処理が行われる。
(a)水性反応混合物を予め0〜120℃で2時間以上72時間以下保持した後に、種結晶を付着させた多孔質支持体を浸漬させる。
(b)種結晶を付着させた多孔質支持体を、水性反応混合物に浸漬させた状態で0〜120℃で0.5時間以上72時間以下保持する。
(a)法において、水性反応混合物の保持温度は特に制限されないが、通常0℃以上、好ましくは3℃以上、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは10℃以上であり、また、通常120℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
また、保持時間は、通常2時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは4時間以上であり、また、通常72時間以下、好ましくは48時間以下、より好ましくは36時間以下、さらに好ましくは24時間以下である。
なお、この保持時間は、水性反応混合物を調製する際の攪拌・混合を完了した後の時間である。
水性反応混合物を保持する際には、濃度分布や温度分布が大きくならないように必要に応じて、撹拌や反応液の循環などを行っても良いが、静置状態で保持しても良い。攪拌状態で保持する場合、その条件は特に制限されず、水性反応混合物の調製時における攪拌・混合と同様の条件であってもよい。
反応混合物を上記条件で予め保持することにより、例えばゼオライト結晶を構成するセカンダリービルディングユニットを反応混合物中に予め存在させることが出来ることなどによって、種結晶を付着させた多孔質支持体を浸漬させて加熱した後の結晶成長が速やかに行われ、欠陥の少ない緻密な膜が生成しやすくなると考えられる。
また、反応混合物を上記条件で予め保持することにより、前記のとおり、rhombohedral settingで空間群を
(No.166)とした時に、CHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである2θ=9.6°付近のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピークの強度との比(ピーク強度比B)、または、(1,1,1)の面に由来するピークである2θ=17.9°付近のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピークの強度との比(ピーク強度比A)を大きくする場合がある。
保持温度が上記範囲以下であるとき、および保持時間が上記範囲以下であるとき、セカンダリービルディングユニットの成長が不十分となるなどして、欠陥の少ない緻密な膜を生成しやすくする効果が少なくなることがある。また、保持温度が上記範囲以上であるとき、および、保持時間が上記範囲以上であるとき、セカンダリービルディングユニットの成長が進行しすぎて、種結晶を付着させた支持体浸漬後の加熱中に、種結晶からのゼオライト結晶の成長よりも水性反応混合物中での自発ゼオライト結晶の成長を促進することなどにより、かえって欠陥の多い膜が生成しやすくなることがある。
また、本発明の製造方法により、欠陥の少ない緻密な膜が生成しやすくなることで、水熱合成の加熱時間の短縮や、膜厚を薄くしてより高い透過流束などを実現することも可能になると考えられる。
また、(a)法においては、上記条件で保持した水性反応混合物に、種結晶を付着させた支持体を浸漬させて加熱することにより、ゼオライト膜を形成させることができる。
(b)法において、種結晶を付着させた支持体を浸漬させた水性反応混合物の温度は特に制限されないが、通常0℃以上、好ましくは3℃以上、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは10℃以上であり、また、通常120℃以下、好ましくは110℃以下、より好ましくは105℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
浸漬状態での保持時間(浸漬時間)は、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、さらに好ましくは4時間以上であり、また、通常72時間以下、好ましくは48時間以下、より好ましくは36時間以下、さらに好ましくは24時間以下である。
種結晶を付着させた支持体を浸漬させた水性反応混合物を保持する際には、濃度分布や温度分布が大きくならないように必要に応じて、撹拌や反応液の循環などを行っても良いが、静置状態で保持しても良い。
また、(b)法においては、種結晶を付着させた支持体を浸漬させた状態で、上記条件で保持した後に加熱することにより、ゼオライト膜を形成させることができる。その際、水性反応混合物は、そのまま用いても良いし、新しく調製したものと交換しても良い。
種結晶を付着させた支持体を反応混合物に浸漬し、上記条件で予め保持することにより、例えば種結晶と支持体の密着性が向上する、支持体上の種結晶の状態が例えば種結晶の分布が均一化する、種結晶の結晶配列が均一化する、などといったことによって最適化されることなどによって、欠陥の少ない緻密な膜が生成しやすくなると考えられる。
また、種結晶を付着させた支持体を反応混合物に浸漬し上記条件で予め保持することにより、前記のとおり、rhombohedral settingで空間群を
(No.166)とした時に、CHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである2θ=9.6°付近のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピークの強度との比(ピーク強度比B)、または、(1,1,1)の面に由来するピークである2θ=17.9°付近のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピークの強度との比(ピーク強度比A)を大きくする場合がある。
保持温度が上記範囲未満であるとき、および、保持時間が上記範囲未満であるとき、種結晶の状態の最適化が不十分となるなどして、欠陥の少ない緻密な膜を生成しやすくする効果が少なくなることがある。また、保持温度が上記範囲を超えるとき、および、保持時間が上記範囲を超えるとき、種結晶の反応混合物への溶解が進行し、種結晶を付着させた効果が少なくなり、かえって欠陥の多い膜が生成しやすくなることがある。
また、本発明の方法により欠陥の少ない緻密な膜が生成しやすくなることで、水熱合成の加熱時間の短縮や、膜厚を薄くしてより高い透過流束などを実現することも可能になると考えられる。
さらに、本発明の製造方法においては、(a)法と(b)法を組み合わせた方法、すなわち、(b)法の処理を行った多孔質支持体を、(a)法の処理を行った水性反応混合物に浸漬させる、さらに具体的には、例えば次の(c)法による処理を行うこと、あるいは(a)法の処理を行った水性反応混合物に種結晶を付着させた多孔質支持体を浸漬してさらに(b)法の処理を行う、さらに具体的には、例えば次の(d)法による処理を行うことができる。
(c)種結晶を付着させた多孔質支持体を、水性反応混合物に浸漬させた状態で0〜120℃で0.5時間以上72時間以下保持した後に種結晶を付着させた多孔質支持体を取り出して、予め0〜120℃で2時間以上72時間以下保持した水性反応混合物に浸漬させる。
(d)水性反応混合物を予め0〜120℃で2時間以上72時間以下保持した後に種結晶を付着させた多孔質支持体を浸漬させ、その状態でさらに0〜120℃で0.5時間以上72時間以下保持する。
(c)法および(d)法において、保持時間や温度などの条件は、(a)法や(b)法における条件と同様である。また、それにより奏する効果も上記と同様である。
この(c)法および(d)法による処理を行った後に加熱することにより、支持体上にゼオライト膜を形成させることができる。
本発明の製造方法においては、上記条件で処理した水性反応混合物や種結晶を付着させた多孔質支持体を用いて、水熱合成により、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成させる。
水熱合成によりゼオライト膜を形成させる際の加熱温度は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
上記(b)法または(c)法または(d)法において、種結晶を付着させた支持体を浸漬させた水性反応混合物を所定温度、所定時間保持する場合、好ましくは水熱合成時の加熱温度は通常予め保持した温度よりも高い温度である。水熱合成時の加熱温度は、予め保持した温度よりも通常5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上高い。水熱合成時の加熱温度と予め保持した温度の差の上限は特に限定されないが通常200℃以下である。
水熱合成によりゼオライト膜を形成させる際の加熱時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難くなることがある。反応時間が長すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
ゼオライト膜形成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥又はテンプレートを使用した場合にテンプレートを焼成することを意味する。
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合は、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。また、テンプレートの焼成を目的とする場合は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、さらに好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。
テンプレートの焼成を目的とする場合には、加熱処理の温度が低すぎると有機テンプレートが残っている割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なく、そのために分離、濃縮の際の透過流束が減少する可能性があり、加熱処理温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるため、ゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われ、分離性能が低くなることがある。
加熱時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥、またはテンプレートが焼成する時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。テンプレートの焼成を目的とする場合の加熱処理は空気雰囲気で行えばよいが、窒素などの不活性ガスや酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
テンプレートの焼成を目的とする加熱処理の際の昇温速度は、支持体とゼオライトの熱膨張率の差がゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
また、テンプレートの焼成を目的とする加熱処理においては加熱処理後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要があり、昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
ゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換しても良い。イオン交換は、テンプレートを用いて合成した場合は、通常、テンプレートを除去した後に行う。イオン交換するイオンとしては、プロトン、Na+、K+、Li+などのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などの第2族元素イオン、Fe、Cu、Znなどの遷移金属のイオンなどが挙げられる。これらの中で、プロトン、Na+、K+、Li+などのアルカリ金属イオンが好ましい。
イオン交換は、焼成後(テンプレートを使用した場合など)のゼオライト膜を、NH4NO3、NaNO3などアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む水溶液、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。さらに、必要に応じて200℃〜500℃で焼成してもよい。
加熱処理後のゼオライト膜複合体の空気透過量は、通常1400L/(m2・h)以下、好ましくは1000L/(m2・h)以下、より好ましくは700L/(m2・h)以下、より好ましくは600L/(m2・h)以下、さらに好ましくは500L/(m2・h)以下、特に好ましくは300L/(m2・h)以下、もっとも好ましくは200L/(m2・h)以下である。透過量の下限は特に限定されないが、通常0.01L/(m2・h)以上、好ましくは0.1L/(m2・h)以上、より好ましくは1L/(m2・h)以上である。
ここで、空気透過量とは、後に詳述するとおり、ゼオライト膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m2・h)]である。
かくして製造される本発明のゼオライト膜複合体は、優れた分離性能をもつものであり、本発明における膜分離手段として好適に用いることができる。
(分離または濃縮方法)
本発明の分離または濃縮方法は、上記ゼオライト膜複合体を膜分離手段として用いるものであり、さらに詳しくは、複数の成分からなる気体または液体の混合物を、上記多孔質支持体―ゼオライト膜複合体に接触させて、該混合物から、透過性の高い成分(物質)を透過させて分離する、または、透過性の高い物質を透過させて分離することにより透過性の低い物質を濃縮することに特徴をもつものである。この発明において、多孔質支持体―ゼオライト膜複合体は、上記と同様のものが用いられる。また、好ましいものも上記と同様である。
本発明の分離または濃縮方法において、ゼオライト膜を備えた多孔質支持体を介し支持体側又はゼオライト膜側の一方の側に、気体または液体の混合物を接触させ、その逆側を混合物が接触している側よりも低い圧力とすることによって混合物から、ゼオライト膜に透過性が高い物質(透過性が相対的に高い混合物中の物質)を選択的に、すなわち透過物質の主成分として透過させる。これにより、混合物から透過性の高い物質を分離することができる。その結果、混合物中の特定の成分(透過性が相対的に低い混合物中の物質)の濃度を高めることで、特定の物質を分離回収、あるいは濃縮することができる。
分離または濃縮の対象となる混合物としては、本発明における多孔質支持体−ゼオライト膜複合体によって、分離または濃縮が可能な複数の成分からなる気体または液体の混合物であれば特に制限はなく、如何なる混合物であってもよい。
本発明の方法において、分離または濃縮の対象となる混合物が液体の混合物、例えば、水と有機化合物の混合物(以下これを、「含水有機化合物」ということがある。)の場合、通常水がゼオライト膜に対する透過性が高いので、混合物から水が分離され、有機化合物は元の混合物中で濃縮される。パーベーパレーション法(浸透気化法)、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)と呼ばれる分離・濃縮方法は、本発明の分離または濃縮方法におけるひとつの実施形態である。パーベーパレーション法は、液体の混合物をそのまま分離膜に導入する分離または濃縮方法であるため、分離または濃縮を含むプロセスを簡便なものにすることができる。
ベーパーパーミエーション法は、液体の混合物を気化させてから分離膜に導入する分離・濃縮方法であるため、蒸留装置と組み合わせて使用することや、より高温、高圧での分離に用いることができる。またベーパーパーミエーション法は、液体の混合物を気化させてから分離膜に導入することから、供給液中に含まれる不純物や、液体状態では会合体やオリゴマーを形成する物質が膜に与える影響を低減することができる。
本発明により得られる無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体はいずれの方法に対しても好適に用いることができる。
また、ベーパーパーミエーション法で高温での分離を行う場合、一般的に温度が高いほど、また混合物中の透過性の低い成分の濃度が高いほど、例えば有機化合物と水との混合物の場合、有機化合物の濃度が高いほど分離性能が低下するが、本発明により得られる無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、高温でも、混合物中の透過性の低い成分の濃度が高い場合でも高い分離性能を発現することができる。そして通常、ベーパーパーミエーション法は、液体混合物を気化させてから分離するため、通常はパーベーパレーション法よりも過酷な条件での分離となるため、膜複合体の耐久性も要求される。本発明により得られる無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、高温条件下でも分離が可能な耐久性を有しているのでベーパーパーミエーション法に好適である。
前記多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、含水率が20質量%以上の含水有機化合物を処理した場合でも、高い透過性能、選択性を発揮し、耐久性に優れた分離膜としての性能を持つ。
ここでいう高い透過性能とは、十分な処理量を示し、例えば、膜を透過する物質の透過流束が、例えば含水率30%の2−プロパノールと水の混合物を、70℃において、1気圧(1.01×105Pa)の圧力差で透過させた場合、通常1kg/(m2・h)以上、好ましくは3kg/(m2・h)以上、より好ましくは5kg/(m2・h)以上、特に好ましくは6kg/(m2・h)であることをいう。透過流束の上限は特に限定されず、通常20kg/(m2・h)以下、好ましくは15kg/(m2・h)以下である。
また、膜を透過する物質の透過流束が、例えば含水率10質量%の酢酸と水の混合物を、90℃において、1気圧(1.01×105Pa)の圧力差で透過させた場合、通常0.5kg/(m2・h)以上、好ましくは1kg/(m2・h)以上、より好ましくは1.5kg/(m2・h)以上、特に好ましくは2kg/(m2・h)以上であることをいう。透過流束の上限は特に限定されず、通常20kg/(m2・h)以下、好ましくは15kg/(m2・h)以下である。
また、高い透過性能をパーミエンスで表す事もできる。パーミエンスとは、透過する物質量を膜面積と時間と水の分圧差の積で割ったものである。パーミエンスの単位で表した場合、水のパーミエンスとしては、例えば含水率30%の2−プロパノールと水の混合物を、70℃において、1気圧(1.01×105Pa)の圧力差で透過させた場合、通常3×10−7mol/(m2・s・Pa)以上、好ましくは5×10−7mol/(m2・s・Pa)以上、より好ましくは1×10−6mol/(m2・s・Pa)以上、さらに好ましくは2×10−6mol/(m2・s・Pa)以上、特に好ましくは3.5×10−6mol/(m2・s・Pa)以上である。パーミエンスの上限は特に限定されず、通常1×10−4mol/(m2・s・Pa)以下、好ましくは5×10−5mol/(m2・s・Pa)以下である。
また、含水率10質量%の酢酸と水の混合物を、90℃において、1気圧(1.01×105Pa)の圧力差で透過させた場合、通常3×10−7mol/(m2・s・Pa)以上、好ましくは5×10−7mol/(m2・s・Pa)以上、より好ましくは1×10−6mol/(m2・s・Pa)以上、特に好ましくは1.5×10−6mol/(m2・s・Pa)以上である。パーミエンスの上限は特に限定されず、通常1×10−4mol/(m2・s・Pa)以下、好ましくは5×10−5mol/(m2・s・Pa)以下である。
選択性は分離係数により表される。分離係数は膜分離で一般的に用いられる選択性を表す以下の指標である。
分離係数=(Pα/Pβ)/(Fα/Fβ)
[ここで、Pαは透過液中の主成分の質量パーセント濃度、Pβは透過液中の副成分の質量パーセント濃度、Fαは透過液において主成分となる成分の被分離混合物中の質量パーセント濃度、Fβは透過液において副成分となる成分の被分離混合物中の質量パーセント濃度である。]
分離係数は、例えば含水率30%の2−プロパノールと水の混合物を、70℃において、1気圧(1.01×105Pa)の圧力差で透過させた場合、通常1000以上、好ましくは4000以上、より好ましくは10000以上、さらに好ましくは20000以上、特に好ましくは40000以上である。分離係数の上限は完全に水しか透過しない場合でありその場合は無限大となるが、好ましくは10000000以下、より好ましくは1000000以下である。
また、含水率10質量%の酢酸と水の混合物を、90℃において、1気圧(1.01×105Pa)の圧力差で透過させた場合、通常2000以上、好ましくは4000以上、より好ましくは6000以上、特に好ましくは7000以上である。分離係数の上限は完全に水しか透過しない場合でありその場合は無限大となるが、好ましくは10000000以下、より好ましくは1000000以下である。
含水有機化合物としては、適当な水分調節方法により、予め含水率を調節したものであってもよい。また、水分調節方法としては、それ自体既知の方法、例えば、蒸留、圧力スイング吸着(PSA)、温度スイング吸着(TSA)、デシカントシステムなどが挙げられる。
さらに、ゼオライト膜複合体によって水が分離された含水有機化合物から、さらに水を分離してもよい。これにより、より高度に水を分離し、含水有機化合物をさらに高度に濃縮することができる。
有機化合物としては、例えば、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸などのカルボン酸類や、スルフォン酸、スルフィン酸、ハビツル酸、尿酸、フェノール、エノール、ジケトン型化合物、チオフェノール、イミド、オキシム、芳香族スルフォンアミド、第1級および第2級ニトロ化合物などの有機酸類;メタノール、エタノール、イソプロパノール(2−プロパノール)などのアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミドなどの窒素を含む有機化合物(N含有有機化合物);酢酸エステル、アクリル酸エステル等のエステル類などが挙げられる。
これらの中から、分子ふるいと親水性の両方の特徴を生かすことのできる、例えば有機酸と水との混合物から有機酸を分離するときに、無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の効果が際立って発現する。好ましくはカルボン酸類と水との混合物、特に好ましくは酢酸と水の分離などがより好適な例である。
また、有機酸以外の有機化合物と水との混合物から、有機化合物と水を分離する場合の有機化合物は、特にアルコール、エーテル、ケトン、アルデヒド、アミドから選ばれる少なくとも一種を含有する有機化合物が望ましい。これら有機化合物の中で、炭素数が2から10のものが好ましく、炭素数が3から8のものがより好ましい。
また有機化合物としては、水と混合物(混合溶液)を形成し得る高分子化合物でもよい。かかる高分子化合物としては、分子内に極性基を有するもの、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのポリオール類;ポリアミン類;ポリスルホン酸類;ポリアクリル酸などのポリカルボン酸類;ポリアクリル酸エステルなどのポリカルボン酸エステル類;グラフト重合等によってポリマー類を変性させた変性高分子化合物類;オレフィンなどの非極性モノマーとカルボキシル基等の極性基を有する極性モノマーとの共重合によって得られる共重合高分子化合物類などが挙げられる。
前記含水有機化合物としては、水とフェノールの混合物のように、共沸混合物を形成する混合物でもよく、共沸混合物を形成する混合物の分離においては、水を選択的にかつ、蒸留による分離よりも効率よく分離可能な面で好ましい。具体的には、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類と水の混合物、酢酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等のエステル類と水の混合物;ギ酸、イソ酪酸、吉草酸等のカルボン酸類と水の混合物;フェノール、アニリン等の芳香族有機化合物と水の混合物;アセトニトリル、アクリロニトリル等の窒素含有化合物と水の混合物等が挙げられる。
さらに、含水有機化合物としては、水とポリマーエマルジョンとの混合物でもよい。ここで、ポリマーエマルジョンとは、接着剤や塗料等で通常使用される、界面活性剤とポリマーとの混合物である。ポリマーエマルジョンに用いられるポリマーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリオレフィン、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのオレフィン−極性モノマー共重合体、ポリスチレン、ポリビニルエーテル、ポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体等の熱可塑性樹脂;尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;天然ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン共重合体などのブタジエン共重合体等のゴム等が挙げられる。また界面活性剤としては、それ自体既知のものを用いればよい。
本発明のゼオライト膜複合体は、耐酸性を有するため、水と酢酸など有機酸の混合物からの水分離、エステル化反応促進のための水分離などにも有効に利用できる。
本発明において、分離または濃縮の対象となる混合物が気体の混合物である場合、該混合物としては、例えば、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1−ブテン、2-ブテン、イソブテン、六フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素、水などから選ばれる少なくとも1種の成分を含むものが挙げられる。前記ガスを含む気体混合物の成分のうち、パーミエンスの高い気体成分は、ゼオライト膜複合体を透過し分離され、パーミエンスの低い気体成分は供給ガス側に濃縮される。
さらに気体の混合物としては、上記成分の少なくとも2種の成分を含むものがより好ましい。この場合、2種の成分としては、パーミエンスの高い成分とパーミエンスの低い成分の組合せが好ましい。
気体(ガス)分離の条件は、対象とするガス種や組成、膜の性能により異なるが、温度は、通常0〜300℃、好ましくは室温〜200℃、より好ましくは室温〜150℃である。
供給ガスの圧力は、分離対象のガスが高圧であればそのままの圧力でもよく、適宜圧力を減圧調整して所望の圧力にして用いても良い。分離対象のガスが、分離に用いる圧力より低い場合は、圧縮機などで増圧して用いることができる。
供給ガスの圧力は特に制限されないが、通常大気圧若しくは大気圧より大きく、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは、0.11MPa以上である。また、通常上限値は20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは1MPa以下である。
供給側のガスと透過側のガスの差圧は特に制限されないが、通常20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下、更に好ましくは1MPa以下である。また、通常0.001MPa以上、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.02MPa以上である。
ここで、差圧とは、当該ガスの供給側の分圧と透過側の分圧の差をいう。また、圧力[Pa]は、特に断りのない限り、絶対圧を指す。
供給ガスの流速は、透過するガスの減少を補うことが可能である程度の流速で、また供給ガスにおいて透過性の小さなガスの膜のごく近傍における濃度とガス全体における濃度が一致するように、ガスを混合できるだけの流速であればよく、分離ユニットの管径、膜の分離性能にもよるが、通常0.5mm/sec以上、好ましくは1mm/sec以上であり、上限は特に制限なく、通常、1m/sec以下、好ましくは0.5m/sec以下である。
気体の混合物の分離または濃縮方法において、スイープガスを用いてもよい。スイープガスを用いた方法とは、透過側に供給ガスとは異なる種類のガスを流し、膜を透過したガスを回収するものである。
スイープガスの圧力は、通常大気圧であるが特に制限はなく、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下、更に好ましくは1MPa以下であり、下限は、好ましくは0.09MPa以上、より好ましくは、0.1MPa以上である。また、場合によっては、減圧にして用いても良い。
スイープガスの流速は、特に制限はないが、通常10−7mol/(m2・s)以上104mol/(m2・s)以下である。
本発明の分離または濃縮方法は、前記ゼオライト膜複合体を用いて、適当な分離装置を作製し、それに気体または液体の混合物を導入することにより行えばよい。これら分離装置は、それ自体既知の部材により作製することができる。
以下、実験例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実験例により限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は、前記上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
<物性及び分離性能の測定>
以下の実験例において、物性や分離性能等の測定は、特に明記しない限り次のとおり行った。
(1)X線回折(XRD)測定
ゼオライト膜のXRD測定を、以下の条件で行った。
・装置名:オランダPANalytical社製X’PertPro MPD
・光学系仕様 入射側:封入式X線管球(CuKα)
Soller Slit (0.04rad)
Divergence Slit (Valiable Slit)
試料台:XYZステージ
受光側:半導体アレイ検出器(X’ Celerator)
Ni−filter
Soller Slit (0.04rad)
ゴニオメーター半径:240mm
・測定条件 X線出力(CuKα):45kV、40mA
走査軸:θ/2θ
走査範囲(2θ):5.0−70.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.05°
計数時間:99.7sec
自動可変スリット(Automatic−DS):1mm(照射幅)
横発散マスク:10mm(照射幅)
なお、X線は円筒管の軸方向に対して垂直な方向に照射した。またX線は、できるだけノイズ等がはいらないように、試料台においた円筒管状の膜複合体と、試料台表面と平行な面とが接する2つのラインのうち、試料台表面ではなく、試料台表面より上部にあるもう一方のライン上に主にあたるようにした。
また、照射幅を自動可変スリットによって1mmに固定して測定し、Materials Data, Inc.のXRD解析ソフトJADE 7.5.2(日本語版)を用いて可変スリット→固定スリット変換を行ってXRDパターンを得た。
(2)空気透過量
ゼオライト膜複合体の一端を封止し、他端を、密閉状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインとゼオライト膜複合体の間に設置したマスフローメーターで空気の流量を測定し、空気透過量[L/(m2・h)]とした。マスフローメーターとしてはKOFLOC社製8300、N2ガス用、最大流量500ml/min(20℃、1気圧換算)を用いた。KOFLOC社製8300においてマスフローメーターの表示が10ml/min(20℃、1気圧換算)以下であるときはLintec社製MM−2100M、Airガス用、最大流量20ml/min(0℃、1気圧換算)を用いて測定した。
(3)SEM測定
SEM測定は以下の条件に基づき行った。
・装置名:SEM:FE−SEM Hitachi:S−4100
・加速電圧:10kV
(4)SEM−EDX測定
ゼオライト膜のSEM−EDX測定を、以下の条件で行った。
・装置名:SEM:FE−SEM Hitachi:S−4800
EDX:EDAX Genesis
・加速電圧:10kV
倍率5000倍での視野全面(25μm×18μm)を走査し、X線定量分析を行った。
(5)パーベーパレーション法
パーベーパレーション法に用いた装置の概略図を図1に示す。図1においてゼオライト膜複合体5は真空ポンプ9によって内側が減圧され、被分離液4が接触している外側と圧力差が約1気圧になっている。この圧力差によって被分離液4中、透過物質の水がゼオライト膜複合体5に浸透気化して透過する。透過した物質はトラップ7で捕集される。一方、被分離液4中の有機化合物は、ゼオライト膜複合体5の外側に滞留する。
一定時間ごとに、トラップ7に捕集した透過液の質量測定および組成分析、被分離液4の組成分析を行い、それらの値を用いて各時間の分離係数、透過流束、水のパーミエンスなどを前記のとおり算出した。なお、組成分析はガスクロマトグラフにより行った。
(6)ベーパーパーミエーション法
ベーパーパーミエーション法に用いた装置の概略図を図2に示す。図2において、被分離液10は送液ポンプ11によって気化器12に所定流量で送られ、気化器12での加熱により全量が気化され、被分離ガスとなる。被分離ガスは恒温槽13内のゼオライト膜複合体モジュール14に導入され、ゼオライト膜複合体の外側に供給される。ゼオライト膜複合体モジュール14は、ゼオライト膜複合体を筐体中に納めたものである。ゼオライト膜複合体は真空ポンプ18によって内側が減圧され、被分離ガスとの圧力差が約1気圧になっている。内側の圧力は、図示はしないがピラニーゲージで測定することができる。この圧力差によって被分離ガス中、透過物質の水がゼオライト膜複合体を透過する。透過した物質は透過液捕集用トラップ16で捕集される。一方、被分離ガス中の透過しなかった成分は、被分離液回収用トラップ15で液化、捕集される。
一定時間ごとに、透過液捕集用トラップ16に捕集した透過液の質量測定および組成分析を行い、それらの値を用いて各時間の分離係数、透過流束、水のパーミエンスなどを前記の通り算出した。なお、組成分析はガスクロマトグラフにより行った。
(比較例1)
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体は、CHA型ゼオライトを無機多孔質支持体上に直接水熱合成することで次のとおり作製した。
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液10.5gと1mol/L−KOH水溶液7.0gと水100.5gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al2O3 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.88gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」という。)水溶液(TMADAOH 25質量%含有、セイケム社製)2.36gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)10.5gを加えて2時間撹拌し、反応混合物とした。
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/KOH/H2O/TMADAOH=1/0.066/0.15/0.1/100/0.04、SiO2/Al2O3=15である。
無機多孔質支持体として、ニッカトー社製のムライトチューブPM(外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断し、超音波洗浄機で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
種結晶として、SiO2/Al2O3/NaOH/KOH/H2O/TMADAOH=1/0.033/0.1/0.06/40/0.07のゲル組成(モル比)で160℃、2日間水熱合成して結晶化させたCHA型ゼオライトを用いた。この種結晶の粒径は1μm程度であった。
この種結晶を1質量%水中に分散させた分散液に、上記支持体を所定時間浸漬した後、100℃で5時間乾燥させて、種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は0.7g/m2であった。
この種結晶を付着させた支持体を、上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、静置状態で、160℃48時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後にゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後100℃で5時間以上乾燥させた。
テンプレート焼成前のゼオライトの膜複合体を電気炉で500℃、5時間焼成した。焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は140g/m2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は70L/(m2・h)であった。
生成した膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=3.5であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比は17であった。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いてパーベーパレーション法により90℃の水/酢酸混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
5時間後の透過成績は、透過流束:1.83kg/(m2・h)、分離係数:1900、透過液中の水の濃度:99.49質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、1.3×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
(比較例2)
比較例1と同じ条件で無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、70℃の水/イソプロパノール(IPA)混合溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
3時間後の透過成績は、透過流束:5.88kg/(m2・h)、分離係数:28600、透過液中の水の濃度:99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.4×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
(比較例3)
無機多孔質支持体として多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断し、超音波洗浄機で洗浄したのち乾燥させたものを用いたことと、種結晶として、SiO2/Al2O3/NaOH/KOH/H2O/TMADAOH=1/0.033/0.1/0.06/20/0.07のゲル組成(モル比)で160℃、2日間水熱合成して結晶化させたCHA型ゼオライトを用い、支持体に種結晶を付着させる際の種結晶が分散した水の種結晶の濃度を0.3質量%にしたこと以外は比較例1と同様に無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
用いた種結晶の粒径は0.5μm程度であった。また、支持体に付着した種結晶の質量は0.6g/m2であった。
焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は120g/m2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は20L/(m2・h)であった。
生成した膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=4.9であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比は17であった。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いてベーパーパーミエーション法により、水/イソプロパノール(IPA)混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体は120℃の恒温槽内に設置し、水/IPA混合溶液を1.2cm3/minの流量で気化器に送液し、全量を気化させて無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体に供給した。
4時間後の透過成績は、透過流束:2.50kg/(m2・h)、分離係数:800、透過液中の水の濃度:98.85質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、1.4×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
(比較例4)
比較例3と同じ条件で無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、90℃の水/フェノール(PhOH)混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
5時間後の透過成績は、透過流束:7.52kg/(m2・h)、分離係数:1600
0、透過液中の水の濃度:99.91質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、
2.5×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
(実施例1)
混合後2時間撹拌して作製した水熱合成用の反応混合物を、さらに室温で一晩(17時間)撹拌してから用いた以外は、比較例1と同様に無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は120g/m2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は50L/(m2・h)であった。
生成した膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=3.7であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比を測定した結果、生成した膜のSiO2/Al2O3モル比は17であった。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いてパーベーパレーション法により90℃の水/酢酸混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を比較例1と同様に行った。
5時間後の透過成績は、透過流束:2.57kg/(m2・h)、分離係数:7900、透過液中の水の濃度:99.88質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、1.9×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
比較例1と実施例1の比較から、水熱合成用の反応混合物を室温で一晩撹拌してから用いることで、透過流束が1.4倍に、分離係数が4倍に向上したことが分かる。
(実施例2)
混合後2時間撹拌して作製した水熱合成用の反応混合物を、50℃で4時間加熱してから用いた以外は、比較例1と同様に無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は140g/m2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は20L/(m2・h)であった。
生成した膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=3.7であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比を測定した結果、生成した膜のSiO2/Al2O3モル比は17であった。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、90℃の水/酢酸混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を比較例1と同様に行った。
5時間後の透過成績は、透過流束:2.59kg/(m2・h)、分離係数:10100、透過液中の水の濃度:99.90質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、2.0×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
比較例1と実施例2の比較から、水熱合成用の反応混合物を、50℃で4時間加熱してから用いることで透過流束が1.4倍に、分離係数が5倍に向上したことが分かる。
(実施例3)
混合後2時間撹拌して作製した水熱合成用の反応混合物を、70℃で4時間加熱してから用いた以外は、比較例1と同様に無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は130g/m2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は110L/(m2・h)であった。
生成した膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=4.3であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比を測定した結果、生成した膜のSiO2/Al2O3モル比は17であった。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、90℃の水/酢酸混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を比較例1と同様に行った。
5時間後の透過成績は、透過流束:2.57kg/(m2・h)、分離係数:95100、透過液中の水の濃度:99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、1.9×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
比較例1と実施例3の比較から、水熱合成用の反応混合物を70℃で4時間加熱してから用いることで、透過流束が1.4倍に、分離係数が50倍に向上したことが分かる。
(実施例4)
混合後2時間撹拌して作製した水熱合成用の反応混合物を、100℃で4時間加熱してから用いた以外は、比較例1と同様に無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は150g/m2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は10L/(m2・h)であった。
生成した膜のXRDを測定したところCHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=4.2であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比を測定した結果、生成した膜のSiO2/Al2O3モル比は17であった。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、70℃の水/イソプロパノール混合溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を比較例2と同様に行った。
3時間後の透過成績は、透過流束:6.66kg/(m2・h)、分離係数:60800、透過液中の水の濃度:99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.8×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
比較例2と実施例4の比較から、水熱合成用の反応混合物を100℃で4時間加熱してから用いることで、透過流束が1.1倍に、分離係数が2倍に向上したことが分かる。
(実施例5)
種結晶を付着させた支持体を、水熱合成用の反応混合物に浸漬した後、室温で4時間保持した後に160℃48時間、自生圧力下で加熱した以外は、比較例1と同様に無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は140g/m2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は10L/(m2・h)であった。
生成した膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=2.9であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比を測定した結果、
生成した膜のSiO2/Al2O3モル比は17であった。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、90℃の水/酢酸混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を比較例1と同様に行った。
5時間後の透過成績は、透過流束:2.19kg/(m2・h)、分離係数:9330
0、透過液中の水の濃度:99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、
1.6×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
比較例1と実施例5の比較から、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用の反応混合物に室温で4時間浸漬してから水熱合成を行うことで、透過流束が1.2倍に、分離係数が49倍に向上したことが分かる。
(実施例6)
種結晶を付着させた支持体を水熱合成用の反応混合物に浸漬した後、室温で一晩(17時間)保持した後に160℃48時間、自生圧力下で加熱した以外は、比較例1と同様に無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は140g/m2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は80L/(m2・h)であった。
生成した膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=3.3であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比を測定した結果、生成した膜のSiO2/Al2O3モル比は17であった。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、70℃の水/イソプロパノール混合溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を比較例2と同様に行った。
3時間後の透過成績は、透過流束:6.90kg/(m2・h)、分離係数:59300、透過液中の水の濃度:99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.9×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
比較例2と実施例6の比較から、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用の反応混合物に室温で一晩浸漬してから水熱合成を行うことで、透過流束が1.2倍に、分離係数が2倍に向上したことが分かる。
(実施例7)
種結晶を付着させた支持体を水熱合成用の反応混合物に浸漬して室温で4時間保持した後に、この種結晶を付着させた支持体を水熱合成用の反応混合物から取り出し、あらかじめ50℃で4時間加熱しておいた同じ組成、同じ量の水熱合成用反応混合物に浸漬させて160℃48時間、自生圧力下で加熱した以外は、比較例1と同様に無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は150g/m2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は10L/(m2・h)であった。
生成した膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=4.2であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比を測定した結果、生成した膜のSiO2/Al2O3モル比は17であった。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、90℃の水/酢酸混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を比較例1と同様に行った。
5時間後の透過成績は、透過流束:2.39kg/(m2・h)、分離係数:97800、透過液中の水の濃度:99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、1.7×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
比較例1と実施例7の比較から、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用の反応混合物に室温で4時間浸漬してから取り出して、予め50℃で4時間加熱しておいた水熱合成用反応混合物に浸漬させて水熱合成を行うことで、透過流束が1.3倍に、分離係数が51倍に向上したことが分かる。
(実施例8)
実施例7と同じ条件で作製した無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、70℃の水/イソプロパノール混合溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を比較例2と同様に行った。
3時間後の透過成績は、透過流束:6.34kg/(m2・h)、分離係数:59300、透過液中の水の濃度:99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.6×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
比較例2と実施例8の比較から、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用の反応混合物に室温で4時間浸漬してから取り出して、予め50℃で4時間加熱しておいた水熱合成用反応混合物に浸漬させて水熱合成を行うことで、透過流束が1.1倍に、分離係数が2倍に向上したことが分かる。
(実施例9)
種結晶を付着させる際に、種結晶を1質量%水中に分散させた分散液を用いたことと種結晶を付着させた支持体を、水熱合成用の反応混合物に浸漬した後、オートクレーブを密閉して、静置状態で、50℃4時間保持した後に160℃48時間、自生圧力下で加熱した以外は、比較例3と同様に無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。付着した種結晶の質量は1.4g/m2であった。
焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は120g/m2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は70L/(m2・h)であった。
生成した膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=17.2であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比を測定した結果、
生成した膜のSiO2/Al2O3モル比は19であった。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、ベーパーパーミエーション法により、水/IPA混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を比較例3と同様に行った。
4時間後の透過成績は、透過流束:2.28kg/(m2・h)、分離係数:23800、透過液中の水の濃度:99.96質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、1.3×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
比較例3と実施例9の比較から、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用の反応混合物に50℃で4時間、浸漬してから水熱合成を行うことで、分離係数が30倍に向上したことが分かる。
(実施例10)
実施例9と同じ条件で無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、90℃の水/PhOH混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を比較例4と同様に行った。
5時間後の透過成績は、透過流束:7.58kg/(m2・h)、分離係数:41800、透過液中の水の濃度:99.96質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、
2.6×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
比較例4と実施例10の比較から、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用の反応混合物に50℃で4時間、浸漬してから水熱合成を行うことで、分離係数が2.6倍に向上したことが分かる。
(実施例11)
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液13.2gと1mol/L−KOH水溶液8.8gと水94.57gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al2O3 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)1.11gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、TMADAOH水溶液(TMADAOH 25質量%含有、セイケム社製)2.97gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)13.2gを加えて2時間撹拌し、反応混合物とした。
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/KOH/H2O/TMADAOH=1/0.066/0.15/0.1/80/0.04、SiO2/Al2O3=15である。
実施例9と同じ条件で種結晶を付着させた無機多孔質支持体を、上記水熱合成用の反応混合物に浸漬した後、オートクレーブを密閉して、静置状態で、50℃で4時間保持した後に160℃24時間、自生圧力下で加熱した以外は、実施例9と同様に無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。無機多孔質支持体としては多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断し、超音波洗浄機で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は120g/m2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は20L/(m2・h)であった。
生成した膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=2.7であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比を測定した結果、
生成した膜のSiO2/Al2O3モル比は17であった。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、70℃の水/イソプロパノール混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
3時間後の透過成績は、透過流束:5.26kg/(m2・h)、分離係数:20900、透過液中の水の濃度:99.96質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、4.4×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
(実施例12)
無機多孔質支持体として多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断し、超音波洗浄機で洗浄したのち乾燥させたものを用いたことと、種結晶を付着させた無機多孔質支持体を、予め50℃で4時間加熱した反応混合物に浸漬した後、オートクレーブを密閉して、静置状態で、180℃12時間、自生圧力下で加熱した以外は実施例2と同様に無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は76g/m2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は110L/(m2・h)であった。
生成した膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=1.1であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比を測定した結果、生成した膜のSiO2/Al2O3モル比は22であった。
得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、70℃の水/イソプロパノール混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を同様に行った。
3時間後の透過成績は、透過流束:5.27kg/(m2・h)、分離係数:28000、透過液中の水の濃度:99.97質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、4.3×10−6mol/(m2・s・Pa)であった。
種結晶を付着させた支持体を、水熱合成用の反応混合物に浸漬して50℃で4時間保持してから水熱合成を行う、あるいは、予め50℃で4時間加熱しておいた水熱合成用の反応混合物に浸漬してから水熱合成を行うことで合成時間が短い場合にも高い透過流束、高い分離係数を達成できる。
上記比較例1〜4、実施例1〜12の結果を表1に示す。