JP3764309B2 - ゼオライト膜製膜方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゼオライト膜の製膜方法に関し、より詳細には、ゼオライト膜を多孔質支持体に形成するゼオライト膜の製膜方法に関する。ゼオライト膜は、結晶中に数オングストロームの細孔を有しており、この細孔を利用した分子ふるいによるガス分離、パーベーパレーション等の分離膜やメンブレンリアクター、あるいはガスセンサー等への応用が考えられている。
【0002】
本発明のゼオライト膜製膜方法によれば、ゼオライト膜を多孔質支持体に形成することにより、上記用途に用いることのできるゼオライト膜エレメントを製造することができる。
【0003】
【従来の技術】
ゼオライトの膜化の技術としては各種の手法が検討されている。代表的な製膜方法として、特公平4−80726号公報に記載の様にゼオライト組成のゾルもしくはゲルを支持体で担持した後に水熱処理により結晶化させてゼオライト膜を製造する方法や、また特開平7−89714号公報に示すようにゼオライト組成のゲルを支持体で担持した後に水熱処理を蒸気中で行い結晶化させる方法や、特開平6−99044号公報に記載のようにゼオライトの合成原料を含むゾルあるいはゲルに支持体を浸漬した後、水熱処理を行い支持体上にゼオライト膜を合成する方法等がある。
【0004】
この中で現在、一般的に検討されている手法が、特開平6−99044号公報に記載のようにゼオライトの合成原料を含むゾルやゲルに支持体を浸漬した後、水熱処理を行い支持体上にゼオライト膜を合成する方法である。この方法では、ゾルあるいはゲル中からゼオライトを構成する原料が供給されて、支持体上にゼオライト膜が形成されるため、単に合成用ゾルに支持体を浸漬して水熱合成を行うだけで支持体表面に製膜できる。しかし、この方法ではゾルやゲル中でも結晶が発生し支持体表面に付着することにより膜欠陥が発生しやすく、高い分離性能が得られなかった。
【0005】
これを改良するために特開平9−202615号公報に記載のように膜を支持体の細孔内部に製膜する方法や、「ゼオライト膜による浸透気化分離」(喜多英敏、「膜」、20(3)、169−182(1995))のように種結晶を支持体上に担持した後で水熱処理により製膜する方法や、特開平7−109116号公報、あるいは特開平10−57784号公報に記載のように種結晶を担持した後で液中で結晶が成長しない条件で水熱合成を行い製膜する方法が前記それぞれの公報に示されており、それぞれで分離性能が向上することが確認されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の製膜方法では、複雑な形状の支持体や大面積の支持体に欠陥のない均一なゼオライト膜を効率よく製膜することは困難であった。本発明は、複雑な形状の支持体や大面積の支持体に欠陥のない厚さが均一なゼオライト膜を効率よく製膜することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、種結晶層の種結晶を成長させて多孔質支持体にゼオライト膜を密着して製膜する工程を含む方法であって、前記種結晶層は、種結晶を含有するスラリーを多孔質支持体で濾過して前記多孔質支持体で担持する厚みが実質的に均一な種結晶担持層であるゼオライト膜製膜方法により上記目的を達成することができる。このゼオライト膜製膜方法は、次のようにすることができる。
【0008】
前記種結晶担持層は、厚みが0.1〜20μmの範囲内で実質的に均一にすることができる。
前記種結晶層の種結晶を水熱合成により成長させることができる。
前記スラリーを前記多孔質支持体でクロスフロー濾過又は全濾過することができる。
クロスフロー濾過条件を、前記スラリーにおける種結晶濃度50〜5000ppm、流速0.1〜10l/分、差圧0.1〜10kgf/cm2にし、前記種結晶の平均粒子径Aと前記多孔質支持体の平均細孔径Bの比A/Bを0.01〜100にすることができる。
【0009】
全濾過条件を、前記スラリーにおける種結晶濃度0.1〜100ppm、差圧1〜50cmH2Oにし、前記種結晶の平均粒子径Aと前記多孔質支持体の平均細孔径Bの比A/Bを0.01〜100にすることができる。
前記種結晶の平均粒子径Aと前記多孔質支持体の平均細孔径Bの比A/Bを0.01〜1として、前記種結晶担持層を前記多孔質支持体の細孔内部にのみ形成し、前記多孔質支持体の外面に前記種結晶担持層を形成しないことができる。
【0010】
上記本発明のゼオライト膜製膜方法により、多孔質支持体にゼオライト膜を形成してゼオライト膜エレメントを得ることができる。
【0011】
[発明の着想]
上記従来の製膜方法の中で、大面積、複雑形状の支持体への製膜を考えた場合、種結晶を支持体で担持して、前記種結晶を成長させて膜化する手法が最も有効と考えられる。この場合に膜性能に影響を及ぼす重要な要因として、種結晶の担持状態と水熱合成時の条件があげられる。このうち水熱合成時の条件としては、前述のように液中で結晶化が起きない条件で製膜することで高い性能が得られることは明らかになっているが、種結晶の担持方法についてはあまり議論されていない。
【0012】
本発明者らは種結晶の担持状態の膜性能に対する影響について検討した結果、種結晶層が一定の厚さで均一に担持されていないとゼオライト膜化した場合に膜欠陥が生じやすいとの結論に至った。即ち、種結晶層が厚すぎる場合には層の一部に結晶化しない部分が残り、薄すぎ均一でない場合には支持体においてゼオライト膜を形成しようとした領域を十分に覆う膜が形成されない。しかし、従来検討されている種結晶の担持方法であるディップコートなどでは小さな支持体には対応できるが、大きな支持体やモノリス等の形状が複雑な支持体では担持層の厚みムラが大きくなるために再現性良く製膜を行うことはできなかった。
【0013】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、大きな支持体やモノリス等の形状が複雑な支持体であっても、種結晶を含有するスラリーを多孔質支持体で濾過することにより前記多孔質支持体で厚みが実質的に均一な種結晶層を担持することができる、ということを見出し本発明を完成するに至った。以下、まず、本発明の概要について説明する。
【0014】
[発明の概要]
ゼオライト膜の製膜過程を示した模式図が図1及び図2である。図2に示したのが種結晶を用いない場合の製膜過程で、液(結晶核を発生させることができる液)21の中で発生した結晶核22が支持体23の表面に付着しこれが成長して成長した結晶22’になり、さらに膜24となる。しかし、核発生、結晶成長は全くランダムに進行するために、図2で示すような膜欠陥25が生じやすい。
【0015】
このような問題点を解消する方法として、図1に示すように予め支持体3の表面で種結晶2を担持し、担持した種結晶のみが成長するような条件で液(種結晶を成長させることができる液)1の中で水熱合成を行えば、前記種結晶は、成長した結晶2’になり、さらには欠陥のないゼオライト膜4が製膜できると考えられ、結晶成長の条件については前述のような特許公報が公開されている。
【0016】
従来、種結晶の担持方法としては各種方法が検討されており、その中で支持体の形状による制限の少ない種結晶担持方法として、ゼオライト種結晶を溶媒中に分散したスラリーを作成し、これを用いて担持する方法が考えられる。最も単純な方法としては、ディップコートにより支持体表面で種結晶を担持する方法が考えられる。しかし、実際にこの方法による担持を行い、ゼオライト膜を製膜してみたところ、低い分離性能の膜しか得られなかった。
【0017】
この原因を検討したところ、種結晶担持層の厚みムラによることが明らかになった。場所によって層の厚みに差がある場合には、水熱合成による結晶成長後もこのムラはなくならず、厚みが均一な膜を製膜することは困難であり、種結晶担持層に厚い部分や薄い部分がある場合には、厚い部分と薄い部分で欠陥が生じやすいために高い性能のゼオライト膜は製膜できなかったことがわかった。
【0018】
これらの欠陥の発生を図で示したのが、図3であり、支持体に形成された種結晶担持層の厚さが厚すぎる場合には、厚すぎる部分の種結晶の全てが結晶化するのではなく支持体により近い側の種結晶は結晶化せず支持体とゼオライト膜との間に欠陥が生じやすい。この場合には、ゼオライト膜が支持体上に密着していないため、ゼオライト膜の剥離やクラックが生じやすい。
【0019】
また、支持体に形成された種結晶担持層が薄すぎる場合には、種結晶担持層の種結晶の塗布されていない部分(種結晶の存在率が小さい部分)にはゼオライト膜が形成されず支持体表面が露出したままになり、種結晶層の担持によりゼオライト膜を形成しようとした支持体領域の全体を覆うゼオライト膜が形成されないために、欠陥が生じてしまう。
【0020】
以上の結果をまとめると理想的な種結晶の担持状態は、種結晶は一定値以下の厚みで均一に支持体で担持していることであると考えられる。このような種結晶の担持層の厚みを検討した結果、少なくとも0.1〜20μmの範囲であれば前述のような欠陥が生じないことが明らかになった。なお、この0.1〜20μmの範囲は、実施例に用いた支持体の条件によって規定されるが、支持体としてさらに均一なものが得られればそれに依存する。
【0021】
また、種結晶担持層の厚みは、好ましくは0.1〜20μmの範囲内において、種結晶を欠陥の発生なしに成長させて欠陥のないゼオライト膜を製膜することができる程度に実質的に均一であればよく、例えば、1mm2における最大厚みLと最小厚みSと種結晶径rの関係(L−S)/rが5以下(好ましくは3以下、より好ましくは1以下)である程度に均一であればよい。
【0022】
次に、このような理想的な種結晶の担持状態を実現するために各種担持方法を検討した結果、簡便性等から、種結晶を分散したスラリーを用いて行う担持方法が最も効率が良いと判断した。しかし、通常のディップコートでは前述のように厚みムラが生じやすいため、均一に担持するための手法を検討した結果、スラリーを多孔質支持体で濾過することで多孔質支持体は種結晶層を均一な厚さで担持することができることが確認できた。
【0023】
種結晶を含有するスラリーを多孔質支持体で濾過して前記多孔質支持体で種結晶層を担持する際の濾過方法としては、図4のように、全濾過法とクロスフロー濾過法が考えられる。全濾過による種結晶層の担持は、ディップコートのように毛管凝縮による支持体内へのスラリー溶媒の浸透を利用した担持ではなく、図4の上段に示すように圧力をかけて強制的に種結晶担持層を支持体に形成するので、スラリー調製条件、濾過条件を適正化すれば、厚みが均一な種結晶層を支持体で担持することが可能になる。
【0024】
またクロスフロー濾過とは、図4の下段に示すように種結晶含有スラリーを支持体における種結晶を担持させたい面に流し、差圧により液(分散媒)が支持体の壁面を透過するように前記壁面に対して直角方向に流れて、粒子(分散質)、この場合はゼオライト種結晶の一部が支持体の表面に捕捉される。しかし、前記スラリーを流す速度が大きい場合には捕捉された粒子がかき取られ再び前記スラリー中へ分散していき支持体表面層の厚みは一定に保たれ、差圧と流速を制御することでゼオライト膜の厚さもコントロール(制御)できる。
【0025】
また上記の各方法では、粒子サイズ(寸法)によって種結晶は支持体の細孔内部にも入り込む場合がある。よって条件を更に絞り込めば、支持体の外側表面だけでなく支持体細孔内部の内壁面にのみ一定の厚みで支持体は種結晶層を担持することも可能になる。
【0026】
担持状態に影響を及ぼす主な要因としては、スラリーにおける種結晶の濃度、流速、差圧、ゼオライト種結晶の平均粒子径と支持体の平均細孔径の比があげられ、各種条件で試験を行った結果、以下の範囲が適正であることが明らかになった。
【0027】
スラリーにおけるゼオライト種結晶の濃度範囲は全濾過で0.1〜100ppm(好ましくは0.1〜50ppm、より好ましくは0.1〜10ppm)、クロスフロー濾過で50〜5000ppm(好ましくは100〜3000ppm、より好ましくは500〜1000ppm)が適切であり、それぞれの濾過における前記濃度範囲の最小値よりも濃度が薄い場合は種結晶の担持に要する時間が長くなり過ぎ実用的ではなく、それぞれの濾過における前記濃度範囲の最大値よりも濃度が濃い場合は他の条件を変えても厚すぎる膜しか担持できない。全濾過とクロスフロー濾過で前記濃度範囲が異なるのは、クロスフロー濾過では多孔質支持体の表面に担持された種結晶層をはがす力も加わるため、全濾過よりも高い濃度にする必要があるからである。
【0028】
クロスフロー濾過の場合の流速は0.1〜10l/分(好ましくは1〜10l/分、より好ましくは1〜3l/分)が適切であり、0.1l/分よりも遅い場合は支持体表面に種結晶が厚く付着してしまい、10l/分よりも速い場合には細孔内部に捕捉される種結晶量が少なくなり効率が悪くなる傾向がある。差圧の適正範囲はクロスフロー濾過で0.1〜10kgf/cm2(好ましくは0.1〜1kgf/cm2、より好ましくは0.1〜0.5kgf/cm2)、全濾過で1〜50cmH2O(好ましくは1〜30cmH2O、より好ましくは5〜20cmH2O)であり、差圧がそれぞれの前記適正範囲の最大値よりも高い場合には支持体の表面に厚い層ができてしまい、それぞれの前記適正範囲の最小値よりも低い場合には種結晶層の厚みムラが大きくなってしまう。
【0029】
ゼオライト種結晶の平均粒子径Aと多孔質支持体の平均細孔径Bの比A/Bは、好ましくは、クロスフロー濾過の場合0.01〜100の範囲(好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.3〜5)であり、全濾過の場合0.01〜100の範囲(好ましくは0.01〜50、より好ましくは0.1〜10、さらに好ましくは0.3〜5)にあることが重要であり、それぞれの濾過についての前記範囲の最小値よりも小さい場合には種結晶が支持体細孔を透過してしまう傾向があり、それぞれの濾過についての前記範囲の最大値よりも大きい場合には細孔内部に種結晶が入り込まない傾向があるために種結晶を十分に担持できなくなってしまったり、あるいは担持されても種結晶層が厚くなってしまう。
【0030】
【好適な実施形態】
〔ゼオライト膜製膜方法〕
本発明のゼオライト膜製膜方法は、種結晶層の種結晶を成長させてゼオライト膜を製膜する工程の前に、種結晶を含有するスラリーを調整するスラリー調整工程、及び、種結晶を含有するスラリーを多孔質支持体で濾過して前記多孔質支持体で種結晶層を担持する種結晶層担持工程を設けることができる。
【0031】
種結晶層を成長させてゼオライト膜を製膜する方法としては、好ましくは水熱合成法を用いる。水熱合成法としては、各種手法が適用可能だが、例として特開平10−57784号公報に記載のような方法が可能である。出発原料として、好ましくは、ゼオライト骨格金属源、アルカリ金属源、水を用い、必要に応じて結晶化促進剤を添加することができる。
【0032】
ゼオライト骨格金属源としては、従来のゼオライト合成に用いられている各種の金属源、例えば、シリカやアルミナが適用可能である。シリカ源としてシリカコロイドゾル、水ガラス、アルミナ源として硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、ベーマイトゾル、シリカーアルミナ複合コロイドを用いる。またアルカリ金属源としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が用いられる。
【0033】
結晶化促進剤としても、従来のゼオライト製造に関して使用されているもの、例えば、テトラプロピルアンモニウムブロマイド(TPABr)、水酸化テトラブチルアンモニウム等を添加することができる。
【0034】
合成可能なゼオライトの結晶系としてはMFI、A型、Y型、X型等の各種ゼオライトがあり、また骨格金属源としては前記以外に鉄、クロム、チタン等各種金属源が適用可能である。
【0035】
混合の手法としては、撹拌混合のほかに一般的なボールミル、アトライター等の通常の粉砕混合の他に、ダイヤモンドファインミル(三菱重工株式会社製)のようなサブミクロンオーダーの粉砕・分散が可能な特殊なミルの適用も可能である。また、粉砕メディアである玉石の材質としては、好ましくは、水熱合成用溶液中に不純物が混入しにくい材質であり、例えばジルコニア等各種の材質が適用可能である。さらに凝集粒子を分散させるために超音波を利用することも可能である。
【0036】
使用する種結晶は、合成するゼオライト種によって各種のゼオライト結晶が使用可能である。種結晶としては市販のゼオライト結晶、あるいはこのゼオライト結晶を粉砕し微粒子化した結晶、この他に各種方法で合成したゼオライト結晶が使用可能である。また、本発明における「種結晶」は、ゼオライト種結晶に変化する前の段階のゼオライト種結晶の前駆体を包含するものとする。
【0037】
種結晶におけるゼオライトの結晶粒径は、例えば0.01〜10μmにすることができ、好ましくは0.01〜5μm(より好ましくは0.01〜1μm)である。
【0038】
多孔質支持体の材質としては、例えば、単一元素の金属、合金、セラミック等が考えられる。形状に関しては、ゼオライトが成長し得る形状であればよく、膜状、板状、筒状、ペレット状、中空糸状、ハニカム状等の各種の形状が考えられる。製造方法としても押出成型、プレス成型、鋳込み成型等の製造方法が支持体形状に合わせて選択可能である。また支持体構造は、2層以上の層からなる構造でもよく、2層目以降はディップコートなどの手法が利用できる。
【0039】
多孔質支持体は、種結晶を含有するスラリーを濾過して種結晶を担持できるものであればよいが、多孔質支持体の気孔率は好ましくは10〜60%(より好ましくは20〜50%、さらに好ましくは30〜45%)である。
【0040】
水熱処理(水熱合成)は、好ましくは、圧力容器中で一般的に80〜250℃程度で1時間〜180時間程度行われる。水熱処理後、ゼオライト膜を担持した支持体は洗浄、乾燥した後、熱処理を行い、結晶化促進剤等の熱分解性成分を除去する。
【0041】
本発明のゼオライト膜製膜方法によれば、ゼオライト膜の厚みが0.1〜20μmの範囲内にあり厚みが均一で厚みばらつきが少なく欠陥のないゼオライト膜を多孔質支持体に形成することができる。例えば、1mm2における最大厚みLと最小厚みSと種結晶径rの関係(L−S)/rが5以下(さらには3以下、さらには1以下)のゼオライト膜を形成することができる。
【0042】
【実施例】
[実施例1]
平均細孔径1μmの管状のαアルミナ多孔質支持体(外径10mm×内径7mm、長さ150mm)に、粒径0.4μmのA型ゼオライト粉末を水に分散した懸濁液(スラリー)を用いてクロスフロー濾過方式により、前記支持体上に種結晶を担持した。
【0043】
クロスフロー濾過条件は、懸濁液の種結晶濃度4000ppm、流量(流速)5l/分、操作圧力(差圧)0.2kgf/cm2で行った。流量が大きいために支持体表面にゼオライト種結晶の堆積層は確認できなかったが、支持体の細孔内部には捕捉されたゼオライト種結晶層が厚さ5μmで確認できた。
【0044】
次に水熱合成によるゼオライト膜の製膜を行った。原料として、シリカ源にケイ酸ナトリウム、アルミナ源に水酸化アルミニウム、アルカリ源に水酸化ナトリウム、逆浸透水を用い、各成分のモル比がNa2O:Al2O3:SiO2:H2O=90:1:9:5760となるように前記原料を混合して、水熱合成用の溶液を調整した。この溶液中に前記種結晶を担持した支持体を浸漬し、80℃で水熱合成によりA型ゼオライト膜を製膜した。
【0045】
5時間水熱合成後、洗浄、乾燥したサンプル(ゼオライト膜を製膜した多孔質支持体)のゼオライト膜をSEM(走査型電子顕微鏡、以下同様)により500倍で観察した結果、立方晶が一面に繋がり多結晶膜を形成していることが確認でき、XRD(X線回折、以下同様)からこの結晶はA型ゼオライトであることが確認できた。また、水熱合成された膜の断面をSEM(1000倍)により観察した結果、厚さ約7μmの薄いゼオライト層がアルミナ支持体の細孔内に形成されていることが確認できた。
【0046】
[実施例2]
使用した種結晶を粒径3μmの種結晶とし、操作圧力を0.36kgf/cm2、流速を2.5l/分とした以外は実施例1と同じ手法でゼオライト膜を作製した。作製過程において種結晶担持後の支持体の断面をSEMにより観察した結果、厚さ14μmの薄いゼオライト種結晶担持層がアルミナ多孔質支持体表面に形成されていることが確認できた。また、水熱合成後のXRD測定からこの水熱合成された膜を形成している結晶はA型ゼオライトであることが確認できた。
【0047】
[実施例3]
スラリー濃度を2000ppmとした以外は実施例2と同じ手法でゼオライト膜を作製した。作製過程において種結晶担持後の支持体の断面をSEMにより観察した結果、厚さ9μmの薄いゼオライト種結晶担持層がアルミナ多孔質支持体の細孔内部に形成されていることが確認できた。また水熱合成後のXRD測定からこの水熱合成された膜を形成している結晶はA型ゼオライトであることが確認できた。
【0048】
[実施例4]
流速を0.5l/分、濃度を500ppm、操作圧力を0.1kgf/cm2とした以外は実施例1と同じ手法でゼオライト膜を作製した。作製過程において種結晶担持後の支持体の断面をSEMにより観察した結果、厚さ8μmの薄いゼオライト種結晶担持層がアルミナ多孔質支持体の外表面および細孔内部に形成されていることが確認できた。また水熱合成後のXRD測定からこの水熱合成された膜を形成している結晶はA型ゼオライトであることが確認できた。
【0049】
[実施例5]
多孔質支持体の細孔径を0.2μm、種結晶の粒径を0.1μmとした以外は実施例1と同じ手法でゼオライト膜を作製した。作製過程において種結晶担持後の支持体の断面をSEMにより観察した結果、厚さ1μmの薄いゼオライト種結晶担持層がアルミナ多孔質支持体の外表面および細孔内部に形成されていることが確認できた。また水熱合成後のXRD測定からこの水熱合成された膜を形成している結晶はA型ゼオライトであることが確認できた。
【0050】
[実施例6]
スラリーにおける種結晶濃度を50ppm、差圧を20cmH2Oとして全濾過で種結晶を多孔質支持体に担持させた以外は、実施例1と同じ手法でゼオライト膜を製膜した。製膜過程において種結晶担持後の支持体の断面をSEMにより観察した結果、厚さ7μmの薄いゼオライト種結晶担持層がアルミナ多孔質支持体の外表面及び細孔内部に形成されていることが確認できた。また水熱合成後のXRD測定からこの水熱合成された膜を形成している結晶はA型ゼオライトであることが確認できた。
【0051】
[実施例7]
種結晶としてY型ゼオライトの種結晶を用いる以外は実施例1と同じ手法でゼオライト膜を作製した。作製過程において種結晶担持後の支持体の断面をSEMにより観察した結果、厚さ5μmの薄いゼオライト種結晶担持層がアルミナ多孔質支持体の細孔内部に形成されていることが確認できた。また水熱合成後のXRD測定からこの水熱合成された膜を形成している結晶はFAVゼオライトであることが確認できた。
【0052】
[比較例1]
スラリーにおける種結晶濃度を10000ppmとした以外は、実施例1と同じ手法でゼオライト膜を作製した。作製過程において種結晶担持後の支持体の断面をSEMにより観察したところ、種結晶は厚さ250μmで支持体に担持されており、水熱合成後の支持体の破断面の観察でもゼオライト膜が製膜されていない欠陥部分が確認できた。
【0053】
[比較例2]
流速を30l/分とした以外は、実施例1と同じ手法によりゼオライト膜を作製した。作製過程において種結晶担持後に支持体の破断面の観察をしたところ、種結晶担持層の厚さは1μm以下で、部分的に種結晶が担持されていない部分も確認できた。水熱合成後に支持体の破断面を観察しても、ゼオライト膜が製膜されていない欠陥部分が確認できた。
【0054】
[比較例3]
種結晶の担持をディップコート法により行う以外は、実施例1と同じ方法でゼオライト膜の製膜を行った。種結晶担持後に支持体の破断面の観察をしたところ、種結晶担持層の厚さは7μm以下で、膜厚にはバラツキが大きかった。水熱合成後に支持体の破断面を観察しても、ゼオライト膜が製膜されていない欠陥部分が確認できた。
【0055】
[実施例8]
浸透気化(PV)法により、エタノール水溶液系での実施例1〜7および比較例1〜3の各々で得られたゼオライト膜の分離性能の評価を行った。図5に示すようなPV装置を用いて、供給液に10重量%エタノール水溶液を用いて、30℃で行った。供給液および透過液の濃度はガスクロマトグラフにより測定した。分離係数αは次の式より計算して求めた。
【0056】
【数1】
【0057】
ここで、X1はエタノールの供給側モル濃度(mol%)、X2は水の供給側モル濃度(mol%)、Y1はエタノールの透過側モル濃度(mol%)、Y2は水の透過側モル濃度(mol%)をそれぞれ示す。
【0058】
分離試験結果(ゼオライト膜のPV特性評価結果)を表1に示す。この結果から分かるように種結晶の担持層を制御したA型ゼオライト膜は全て10000以上の高い分離性能を示した。Y型についても100程度の分離性能を示す膜が得られた。しかし比較例に示したように、種結晶の担持層が厚い場合や薄い場合は、膜欠陥が生じやすく、PV性能が低くなってしまった。またディップコートによる担持では、濾過法に比べ厚みムラが大きく製膜後の膜に欠陥が生じやすいために、PV性能が低くなってしまった。
【0059】
【表1】
【0060】
[実施例9]
平均細孔径1μmの図6に示すような直径が30mmでその中に直径2mmのチャンネルを91有するαアルミナ支持体に、粒径0.5μmのMFIゼオライト粉末を水に分散した懸濁液を用いてクロスフロー濾過方式により、前記支持体上に種結晶を担持した。クロスフロー濾過条件は、スラリーにおける種結晶濃度4000ppm、流量5l/分、操作圧力(差圧)0.2kgf/cm2で行った。流量が大きいために支持体表面にゼオライト種結晶の堆積層は確認できなかったが、前記支持体の細孔内部には捕捉されたゼオライト種結晶が確認でき、その厚みは6μmであった。
【0061】
水熱合成は出発原料として、水酸化ナトリウム、TPABr(テトラプロピルアンモニウムブロマイド)、蒸留水、シリカゾル(触媒化成工業製:SI−30)を用いた。これら原料を、TPABr:Na2O:SiO2:H2O=0.1:0.05:0.1:80の比になるように混合し、ゼオライト合成用のゾルとした。このゾルはマグネティックスターラーで撹拌混合した後、ダイヤモンドファインミル(三菱重工株式会社製)を用いて、ジルコニア製玉石(径0.3mm)により粉砕混合した。このゾルと種結晶を担持した支持体をオートクレーブに設置して、オートクレーブ内を真空に引き、支持体細孔内の気泡を除去し細孔内を合成用のゾルで満たした後、170℃で72時間水熱合成を行った。
【0062】
水熱合成終了後、支持体は80℃の温水で洗浄し、さらに超音波洗浄し、蒸留水置換した後、100℃で24時間乾燥した。その後600℃で2時間焼成し、結晶中のTPABrを除去した。ゼオライト膜はXRDの結果より、MFIであることが確認できた。またXRDの結果から細孔径は約0.6nmと考えられ、これは一般的なMFIの細孔径に一致した。
【0063】
[比較例4]
スラリーにおける種結晶濃度を10000ppmとした以外は、実施例9と同じ方法でゼオライト膜の製膜を行った。製膜の過程において種結晶担持層の断面をSEMにより観察したところ、種結晶層は厚さ50μmで支持体に担持されており、水熱合成後の支持体の破断面の観察でも製膜されていない部分が確認できた。
【0064】
[比較例5]
種結晶を用いずに、実施例9と同様の方法で水熱合成を行いゼオライト膜を製膜した。
【0065】
[実施例10]
実施例7、9、比較例4、5で製膜したゼオライト膜についてガス分離試験を行った結果(透過率、透過係数比)を表2に示す。ガス分離試験は以下の方法により行った。まず、モノリスサンプルは図7のようにサンプルの両端をサンプル固定治具を介して被験ガスの流路に連結する。次に、被験ガスとして二酸化炭素10容量%、窒素90容量%の混合気体をサンプルの内面側から供給し、ゼオライト膜を透過し支持体の外に出た気体を集めて、ガスクロマトグラフで分析し、次式により透過率および分離係数を算出した。
【0066】
【数2】
【0067】
上記式において、Qは透過率(mol/m2・s・Pa)、Aは透過量(mol)、Prは供給側圧力(Pa)、Ppは透過側圧力(Pa)、Sは膜面積(m2)、Tは時間(s)を表す。
【0068】
また分離係数は次式より算出した。なお、次式のガス種1は二酸化炭素、ガス種2は窒素である。
【0069】
【数3】
【0070】
上記式において、Prは供給側ガスの全圧(Pa)、Ppは透過側ガスの全圧(Pa)、Rpは透過側流量(mol/分)、Paは開放圧(Pa)、Tは温度(
K)、Toは標準温度(K)、Poは標準圧(Pa)、Cp1は透過側ガス(1)の濃度(%)、Cr1は供給側ガス(1)の濃度(%)、Cp2は透過側ガス(2)の濃度(%)、Cr2は供給側ガス(2)の濃度(%)、Q1はガス(1)の透過率(mol/m2・s・Pa)、Q2はガス(2)の透過率(mol/m2・s・Pa)、α*は分離係数(透過係数比)である。
【0071】
表2のゼオライト膜のガス分離性能の結果からわかるように、本発明で作製したサンプルは、比較例で示した種結晶層の厚みが適正でなかったサンプルや合成時に種結晶を用いていないサンプルよりも高い分離性能を示すことが確認できた。
【0072】
先のPV試験及びガス分離試験の結果より、濾過方式で担持厚みを制御しながら種結晶を担持して作製したサンプルは、担持層の厚みが適正でない場合や他の担持方法、あるいは種結晶を用いない場合に比べて、高い性能を示し、サンプルの用途が異なっても高い性能を示すことが確認できた。
【0073】
【表2】
【0074】
【発明の効果】
請求項1〜7のゼオライト膜製膜方法は、種結晶層の種結晶を成長させて多孔質支持体にゼオライト膜を密着して製膜する工程を含む方法であって、前記種結晶層は、種結晶を含有するスラリーを多孔質支持体で濾過して前記多孔質支持体で担持する厚みが実質的に均一な種結晶担持層であるので、次の基本的な効果を奏することができる。
【0075】
支持体に欠陥のない厚みが均一なゼオライト膜を効率よく製膜することができる。特に、複雑な形状の支持体、あるいは大面積の支持体であっても、欠陥のない厚みが均一なゼオライト膜を効率よく製膜することができる。
【0076】
請求項2〜7のゼオライト膜製膜方法は、前記それぞれの構成をさらに具備するので、上記基本的な効果が顕著である。
【0077】
本発明のゼオライト膜製膜方法により、多孔質支持体にゼオライト膜を形成して得られたゼオライト膜エレメントは、ゼオライト膜に欠陥がなく厚みが均一である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のゼオライト膜製膜方法における種結晶を用いる製膜過程を示した模式図である。
【図2】図2は、従来のゼオライト膜製膜方法における種結晶を用いない製膜過程を示した模式図である。
【図3】図3は、ゼオライト膜における欠陥の発生を示す図である。
【図4】図4は、本発明のゼオライト膜製膜方法において、種結晶を含有するスラリーを支持体で濾過することにより種結晶を支持体で担持する方法を示す図であって、上段が全濾過の場合であり、下段がクロスフロー濾過の場合である。
【図5】図5は、ゼオライト膜の分離性能を評価するためのPV(浸透気化)装置の概略を示す図である。
【図6】図6は、略円柱形状のαアルミナ支持体であってその長手方向に91の略円柱形状の穴を有するもの(91穴モノリス基材)の端面を示す図である。
【図7】図7は、ガスが流れる方向のガス分離試験サンプルの概略断面図である。
【符号の説明】
1、21…液
2…種結晶
22…結晶核
2’、22’…成長した結晶
3、23…支持体
4、24…ゼオライト膜
25…膜欠陥
Claims (7)
- 種結晶層の種結晶を成長させて多孔質支持体にゼオライト膜を密着して製膜する工程を含む方法であって、前記種結晶層は、種結晶を含有するスラリーを多孔質支持体で濾過して前記多孔質支持体で担持する厚みが実質的に均一な種結晶担持層であることを特徴とするゼオライト膜製膜方法。
- 前記種結晶担持層は、厚みが0.1〜20μmの範囲内で実質的に均一であることを特徴とする請求項1に記載のゼオライト膜製膜方法。
- 前記種結晶層の種結晶を水熱合成により成長させることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のゼオライト膜製膜方法。
- 前記スラリーを前記多孔質支持体でクロスフロー濾過又は全濾過することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゼオライト膜製膜方法。
- クロスフロー濾過条件は、前記スラリーにおける種結晶濃度50〜5000ppm、流速0.1〜10l/分、差圧0.1〜10kgf/cm2であり、
前記種結晶の平均粒子径Aと前記多孔質支持体の平均細孔径Bの比A/Bは0.01〜100であることを特徴とする請求項4に記載のゼオライト膜製膜方法。 - 全濾過条件は、前記スラリーにおける種結晶濃度0.1〜100ppm、差圧1〜50cmH2Oであり、
前記種結晶の平均粒子径Aと前記多孔質支持体の平均細孔径Bの比A/Bは0.01〜100であることを特徴とする請求項4に記載のゼオライト膜製膜方法。 - 前記種結晶の平均粒子径Aと前記多孔質支持体の平均細孔径Bの比A/Bを0.01〜1として、前記種結晶担持層を前記多孔質支持体の細孔内部にのみ形成し、前記多孔質支持体の外面に前記種結晶担持層を形成しないことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のゼオライト膜製膜方法。
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