以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、自動車用の4気筒ガソリンエンジンに搭載されたオイルポンプに本発明を適用している。
−エンジン−
図1は、本発明を適用するエンジンの概略構成を示す図である。なお、図1にはエンジン1の1気筒の構成のみを示している。
エンジン1は、車両に搭載される筒内直噴型多気筒ガソリンエンジンであって、その各気筒を構成するシリンダブロック10内には上下方向に往復動するピストン12が設けられている。ピストン12はコネクティングロッド12aを介してクランクシャフト13に連結されており、ピストン12の往復運動がコネクティングロッド12aによってクランクシャフト13の回転へと変換される。
クランクシャフト13にはシグナルロータ17が取り付けられている。シグナルロータ17の外周面には複数の突起(歯)17a・・17aが等角度ごとに設けられている。シグナルロータ17の側方近傍にはクランクポジションセンサ(エンジン回転数センサ)116が配置されている。クランクポジションセンサ116は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト13が回転する際にシグナルロータ17の突起17aに対応するパルス状の信号(出力パルス)を発生する。
エンジン1のシリンダブロック10には冷却水温を検出する水温センサ110が配置されている。また、シリンダブロック10の上端にはシリンダヘッド11が設けられており、このシリンダヘッド11とピストン12との間に燃焼室18が形成されている。
エンジン1のシリンダブロック10の下側には、オイルを貯留するオイルパン16が設けられている。このオイルパン16に貯留されたオイルは、エンジン1の運転時に、異物を除去するオイルストレーナ28(図3参照)を介してオイルポンプ5(図2及び図3参照)によって汲み上げられて、ピストン12、クランクシャフト13、コネクティングロッド12aなどに供給され、各部の潤滑・冷却等に使用される。そして、このようにして供給されたオイルは、エンジン1の各部の潤滑・冷却等のために使用された後、オイルパン16に戻され、再びオイルポンプ5によって汲み上げられるまでオイルパン16内に貯留される。また、この例においては、オイルパン16に貯留されたオイルを、後述する可変バルブタイミング機構(以下、VVTという)30の作動油にも利用している。なお、オイルポンプ5は、エンジン1のクランクシャフト13の回転によって駆動される機械式ポンプであり、その詳細については後述する。
エンジン1の燃焼室18には吸気通路25と排気通路26が接続されている。吸気通路25には、エアクリーナ90、熱線式のエアフロメータ111、吸気温センサ112(エアフロメータ111に内蔵)、及び、エンジン1の吸入空気量を調整するための電子制御式のスロットルバルブ19などが配置されている。スロットルバルブ19はスロットルモータ9によって駆動される。スロットルバルブ19の開度はスロットルポジションセンサ115によって検出される。エンジン1の排気通路26には、排気ガス中の酸素濃度を検出するO2センサ113及び三元触媒91が配置されている。
吸気通路25と燃焼室18との間に吸気バルブ12bが設けられており、この吸気バルブ12bを開閉駆動することにより、吸気通路25と燃焼室18とが連通または遮断される。また、排気通路26と燃焼室18との間に排気バルブ12cが設けられており、この排気バルブ12cを開閉駆動することにより、排気通路26と燃焼室18とが連通または遮断される。これら吸気バルブ12bおよび排気バルブ12cの開閉駆動は、クランクシャフト13の回転がタイミングチェーン3(図2参照)を介して伝達される吸気カムシャフト14および排気カムシャフト15の各回転によって行われる。吸気カムシャフト14にはVVT30が設けられている。
また、吸気カムシャフト14の近傍にはカムポジションセンサ117が配置されている。カムポジションセンサ117は、例えば電磁ピックアップであって、吸気カムシャフト14に一体的に設けられたロータ外周面の1個の突起(図示せず)に対向するように配置されており、吸気カムシャフト14が回転する際にパルス状の信号を出力する。
エンジン1のシリンダヘッド11には、燃焼室18内に燃料を直接噴射するインジェクタ7と点火プラグ27とが気筒ごとに配置されている。各気筒のインジェクタ7には、燃料供給装置によって高圧燃料が供給され、その各インジェクタ7から燃料を燃焼室18内に直接噴射することにより、燃焼室18内で空気と燃料とが混合された混合気が形成され、その混合気が点火プラグ27にて点火され燃焼室18内で燃焼される。この混合気の燃焼室18内での燃焼によりピストン12が往復運動してクランクシャフト13が回転する。以上のエンジン1の運転状態は、後述するECU(電子コントロールユニット)100によって制御される。なお、点火プラグ27の点火タイミングはイグナイタ8によって調整される。
−オイル供給系統の概略−
図2は、エンジンのオイル供給系統の一例を示す全体構成図である。クランクシャフト13は、5つのクランクジャーナル13aにおいてシリンダブロック10の下部(クランクケース)に回転自在に支持されている一方、吸気および排気カムシャフト14,15は、それぞれ5つのカムジャーナル14a,15aにおいてシリンダヘッド11に回転自在に支持されている。また、クランクシャフト13の前端部(図2の左側の端部)にはクランクスプロケット(図示せず)が取り付けられる一方、吸気および排気カムシャフト14,15の端部にはそれぞれタイミングスプロケット29,39が取り付けられ、それらに亘ってタイミングチェーン3が巻き掛けられている。
クランクスプロケットの後側には、これに隣接してオイルポンプ5を駆動するためのスプロケット(図示せず)が取り付けられている。そうして、オイルポンプ5は、クランクシャフト13の前端部の下方に位置し、その入力軸5aにはポンプスプロケット5bが取り付けられていて、このポンプスプロケット5bとクランクシャフト13のスプロケットとの間にチェーン4が巻き掛けられている。
クランクシャフト13からの力によって入力軸5aが回転されると、オイルパン16内に貯留されているオイルを、オイルポンプ5がオイルストレーナ28(図3参照)を介して吸い上げ、吐出ポート50e(図5及び図6参照)から吐出して連通路6aによってオイルフィルタ6に送給する。オイルフィルタ6は、ハウジング内に収容されたフィルタエレメントによってオイル内の異物や不純物などを濾過するものであり、ここで濾過されたオイルが、オイル供給系統2を通ってメインギャラリ20に送給される。
メインギャラリ20は、例えばシリンダブロック10の内部にシリンダ列方向に延びるように形成されて、オイルポンプ5から送られてくるオイルを複数の分岐オイル通路21〜23によって被潤滑部などに分配する。図の例ではメインギャラリ20の長手方向に等間隔で分岐しそれぞれ下方に延びる分岐オイル通路21によって、クランクジャーナル13a等にオイルが供給される。また、メインギャラリ20の両端からそれぞれ上方に延びる分岐オイル通路22,23によって、シリンダヘッド11のカムジャーナル14a,15aやチェーンテンショナ(図示せず)などにオイルが供給される。
さらに、本実施形態においては、上述の如く、オイルパン16内に貯留されているオイルを、吸気カムシャフト14の端部に設けられたVVT30の作動油にも利用している。このため、メインギャラリ20は、分岐オイル通路21〜23とは別に、VVT30の制御に用いる制御油路24とも連通している。
−VVT−
VVT30は、図3及び図4に示すように、略中空円盤状のハウジング31と、このハウジング31内に回転自在に収容された内部ロータ34とを備えている。内部ロータ34には複数(この例では4枚)のベーン35が一体形成されている。内部ロータ34はセンタボルト36によって吸気カムシャフト14に固定されており、吸気カムシャフト14と一体となって回転する。
ハウジング31の前面側はカバー37によって覆われている。これらハウジング31、カバー37及び側板29aはボルト38にてタイミングスプロケット29に固定されており、ハウジング31、カバー37及び側板29aは、上述の如くタイミングチェーン3を介してクランクシャフト13に連結されているタイミングスプロケット29と一体となって回転する。
ハウジング31の内部には、内部ロータ34のベーン35と同数の凸部32が形成されており、その各凸部32間に形成された凹部33内に内部ロータ34の各ベーン35が収容されている。各ベーン35の先端面は凹部33の内周面に摺動可能に接触している。内部ロータ34は、作動油(オイル)の圧力をベーン35で受けることによりハウジング31に対して相対回転する。この相対回転により、クランクシャフト13に対する吸気カムシャフト14の回転位相が変化する。
ハウジング31の各凹部33には、内部ロータ34のベーン35によって区画された2つの空間が形成されている。これら2つの空間のうち、ベーン35に対してカムシャフト回転方向(図4の矢印の方向)の前側の空間が遅角側油圧室40を構成し、カムシャフト回転方向の後側の空間が進角側油圧室41を構成している。
内部ロータ34のベーン35の1つには、段差付きの貫通孔42が形成されている。この貫通孔42にはフランジ付きロックピン43が摺動可能に収容されている。ロックピン43は圧縮コイルばね44の弾性力によってタイミングスプロケット29側に付勢されている。一方、タイミングスプロケット29に固定された側板29aには、ロックピン43に対応する位置に係止孔45が形成されており、内部ロータ34の相対回転によりロックピン43が係止孔45に一致したときには、圧縮コイルばね44の弾性力によってロックピン43が突き出し、その先端が係止孔45に突入する。
このようなロックピン43の係止孔45への突入により、内部ロータ34のハウジング31に対する相対回転が規制され、その規制状態での相対回転位相を維持した状態で吸気カムシャフト14とタイミングスプロケット29とが一体に回転する。なお、ロックピン43と係止孔45とは、ロック位相つまり吸気カムシャフト14の回転位相が最遅角位相となったときに一致する。
ロックピン43のロックを解除するために、そのロックピン43を有するベーン35には油通路46が設けられている。この油通路46は進角側油圧室41及び貫通孔42に連通しており、進角側油圧室41に供給された油圧が貫通孔42に導入される。また、ロックピン43のフランジ部分と貫通孔42の段差部分との間には環状油空間47が形成されている。この環状油空間47は、油通路48を介して遅角側油圧室40と連通しており、遅角側油圧室40に供給された油圧が環状油空間47にも導入される。そして、環状油空間47の油圧が圧縮コイルばね44の付勢力に打ち勝つと、ロックピン43が係止孔45から外れ、ロックピン43の係止が解除される。このようなロックピン43の係止解除によって、ハウジング31及び内部ロータ34間の相対回転が許容され、進角側油圧室41及び遅角側油圧室40に供給される油圧に基づいて、ハウジング31に対する内部ロータ34の回転位相の調整が可能となる。なお、ロックピン43、圧縮コイルばね44、係止孔45、油通路46、環状油空間47、油通路48等が、本発明で言うところの、カムシャフト14の相対回転を規制する一方、供給される作動油の油圧に基づいて規制を解除するロック機構に相当する。
以上の構造のVVT30では、進角側油圧室41内と遅角側油圧室40内の各油圧によって内部ロータ34がハウジング31に対して相対回転する。すなわち、進角側油圧室41内の油圧を遅角側油圧室40内の油圧よりも高くすると、内部ロータ34はハウジング31に対して吸気カムシャフト14の回転方向に相対回転する。このとき、吸気カムシャフト14の回転位相はクランクシャフト13の回転位相に対して進められる(進角)。これとは逆に、遅角側油圧室40内の油圧を進角側油圧室41の油圧よりも高くすると、内部ロータ34はハウジング31に対して吸気カムシャフト14の回転方向と逆方向に相対回転され、吸気カムシャフト14の回転位相はクランクシャフト13の回転位相に対して遅らされる(遅角)。そして、このような回転位相の調整によって吸気バルブ12bのバルブタイミングを可変とすることができる。
次に、遅角側油圧室40と進角側油圧室41に供給する作動油の圧力を制御する油圧制御系の構成について説明する。
まず、シリンダヘッド11、吸気カムシャフト14、内部ロータ34等には、遅角側油圧室40に連通する遅角側通路69と、進角側油圧室41に連通する進角側通路70とが形成されている。これら遅角側通路69と進角側通路70とには、オイルコントロールバルブ(Oil Control Vale:以下、第2OCVという)80が接続されている。第2OCV80には、オイルストレーナ28を介してオイルポンプ5によってオイルパン16から汲み上げられたオイル(作動油)が、連通路6a、オイルフィルタ6、メインギャラリ20、オイル供給通路71を介して供給される。また、第2OCV80には2つのオイル排出通路72,73が接続されている。これにより、遅角側通路69、進角側通路70、第2OCV80、オイル供給通路71、オイル排出通路72,73等が、VVT30の制御に用いる上記制御油路24を構成している。なお、メインギャラリ20には、オイルの油圧を検出する油圧センサ118、及び、オイルの油温を検出する油温センサ119が接続されている。
第2OCV80は電磁駆動式の流量制御弁であり、ECU100によって制御される。より詳しくは、第2OCV80は、4ポート弁であって、ケーシング81の内部に往復移動可能に配設されたスプール82と、スプール82に弾性力を付勢する圧縮コイルばね83と、電磁ソレノイド84とを備えており、電磁ソレノイド84に電圧が印加されたときにスプール82が吸引されるようになっている。電磁ソレノイド84に印加する電圧は、ECU100によってデューティ制御される。電磁ソレノイド84の発生する吸引力は印加電圧のデューティ比に応じて変化する。この電磁ソレノイド84が発生する吸引力と圧縮コイルばね83の付勢力との釣り合いによってスプール82の位置が決定される。
そして、スプール82が移動することによって、遅角側通路69および進角側通路70と、オイル供給通路71およびオイル排出通路72,73との連通量が変化し、遅角側通路69および進角側通路70に対して供給される作動油の量、あるいは、これら遅角側通路69および進角側通路70から排出される作動油の量が変化する。
第2OCV80は、電磁ソレノイド84に印加される電圧のデューティ比が大きいほど、進角側通路70に供給される作動油の供給量が多くなって吸気カムシャフト14の回転位相が進角される。一方、デューティ比が小さいほど、遅角側通路69に供給される作動油の供給量が多くなって吸気カムシャフト14の回転位相が遅角される。このようにして遅角側油圧室40及び進角側油圧室41内の油圧を調整することにより、内部ロータ34の回転位相を最遅角位相から最進角位相までの範囲で任意に調整することができる。
−オイルポンプ−
以下にオイルポンプ5の構造について図5及び図6を参照して詳細に説明する。なお、図5は、ポンプ容量が最大の状態を示す一方、図6はポンプ容量が最小の状態を示している。オイルポンプ5は、入力軸5aにより回転される外歯車のドライブロータ51と、これに噛み合って回転される内歯車のドリブンロータ52と、そのドリブンロータ52を外周から回転自在に保持する調整リング53と、をハウジング50(ポンプハウジング)内に収容してなるトロコイドタイプの可変容量型オイルポンプである。調整リング53は、後述するようにドライブロータ51およびドリブンロータ52を変位させることにより、ポンプ容量を変更する容量調整部材でもある。
ハウジング50は全体としては厚肉の板状であり、図5に示すようにエンジン後方から見た場合に左右に長い楕円形状とされ、図の右上部から右側に向かって突出部50aが、また、図の左下部からは下方に向かって突出部50bが、それぞれ形成されている。また、ハウジング50の全体に後方、すなわちエンジン1の内方(図の手前側)に向かって開放された凹部50cが形成されている。
この凹部50cはドライブロータ51、ドリブンロータ52、調整リング53等を収容するものであり(以下、収容凹部50cという)、ハウジング50に後方から重ね合わされるカバー(図示せず)によって閉止される。また、収容凹部50cの中央よりもやや右側位置には円形断面の貫通孔(図には示さず)が形成され、ここに挿通された入力軸5aがハウジング50の前方に突出している。
そうしてハウジング50の前方に突出する入力軸5aの前端部に、チェーン4の巻き掛けられるポンプスプロケット5bが取り付けられている一方、入力軸5aの後端部は、ドライブロータ51の中央部を貫通し、例えばスプラインによって嵌合されている。このドライブロータ51には、外周にトロコイド曲線またはトロコイド曲線に近似した曲線(例えばインボリュート、サイクロイドなど)を有する外歯51aが複数(図の例では11個)、形成されている。
一方、ドリブンロータ52は円環状に形成され、その内周にはドライブロータ51の外歯51aと噛み合うよう、これより歯数が1歯大きい(図の例では12個の)内歯52aが形成されている。ドリブンロータ52の中心は、ドライブロータ51の中心に対して所定量、偏心しており、その偏心している側(図5の左上側)でドライブロータ51の外歯51aとドリブンロータ52の内歯52aとが噛み合っている。
また、ドリブンロータ52は、調整リング53の円環状の本体部53aによって摺動自在に嵌合支持されている。この例では調整リング53には、その本体部53aの外周から周方向に所定の角度範囲(図の例では約50°)に亘って径方向外方に張り出す2つの張出部53b,53cと、径方向外方に大きく延びるアーム部53dと、小さな突起部53eとが一体に形成されている。調整リング53について詳しくは後述する。
そのようにして調整リング53に保持されたドライブロータ51およびドリブンロータ52によって、本実施形態では11葉12節のトロコイドポンプが構成されており、2つのロータ51,52の間の環状の空間には、互いに噛合する歯と歯の間に円周方向に並んだ複数の作動室Rが形成される。これらの各作動室Rは2つのロータ51,52の回転に連れてドライブロータ51の外周に沿うように移動しながら、その容積が増減する。
すなわち、2つのロータ51,52の歯が互いに噛み合う位置から、図に矢印で示すロータ回転方向に約180度に亘る範囲(図5では左下側の範囲)では、2つのロータ51,52の回転に連れて徐々に作動室Rの容積が増大してゆき、オイルを吸入する吸入範囲となる。一方、残りの約180度に亘る範囲(図5では右上側の範囲)では、ロータ51,52の回転に連れて徐々に作動室Rの容積が減少してゆき、オイルを加圧しながら吐出する吐出範囲となる。
そして、それらの吸入範囲および吐出範囲にそれぞれ対応するように、ハウジング50およびカバーに吸入ポートおよび吐出ポートが形成されている。図5にはハウジング50の吸入ポート50dおよび吐出ポート50eのみを示すが、この吸入ポート50dは、ハウジング50の収容凹部50cの底面において吸入領域に対応するように開口し、同じく吐出領域に対応するように吐出ポート50eが開口している。
吸入ポート50dは、図ではハウジング50の左下側に位置して、図示しないカバーの吸入ポートと連通しており、これを介してオイルストレーナ28の吸入管路に連通している。一方、吐出ポート50eはハウジング50の右上側に位置して、図示しないカバーの吐出ポートと連通するとともに、ハウジング50の突出部50aに対応するように図の右側に向かって延びていて、オイルフィルタ6に向かう連通路6aに至る。
かかる構成によりオイルポンプ5は、ポンプスプロケット5bに伝達されるクランクシャフト13からの力を受けて入力軸5aが回転すると、ドライブロータ51およびドリブンロータ52が互いに噛み合いながら回転し、それらの間に形成される作動室Rに吸入ポート50dからオイルが吸入され、加圧されて吐出ポート50eから吐出される。
こうして吐出されるオイルの流量は、オイルポンプ5の回転数(入力軸5aの回転数)、すなわちエンジン回転数Neが高くなるほど多くなるので、エンジン1の高回転域においてクランクジャーナル13aなどの被潤滑部に供給されるオイルの量が多くなっても、メインギャラリ20の油圧は所定以上の大きさに維持して、被潤滑部に適正にオイルを分配することができる。
−容量可変機構−
本実施形態のオイルポンプ5は、ドライブロータ51の1回転につき吐出するオイルの量、すなわちポンプ容量を変更可能な容量可変機構を備えている。本実施形態では、主に吐出ポート50eから導かれた油圧(吐出油圧)によって調整リング53を変位させて、ドライブロータ51およびドリブンロータ52の吸入ポート50dおよび吐出ポート50eに対する相対的な位置を変更することにより、1回転当たりに吸入および吐出するオイルの流量を変更する。
詳しくは図5に表れているように、調整リング53の本体部53aから径方向外方に延びるアーム部53dには、圧縮コイルスプリング54からの押圧力が作用しており、これによって調整リング53が図の時計回り方向に回動しながら、少し上方に変位するように付勢されている。また、このような変位の際に調整リング53は、ガイドピン55,56によって案内される。
すなわち、調整リング53の張出部53b,53cはそれぞれ湾曲する楕円の枠状に形成されていて、ハウジング50の収容凹部50cの底面に突設されたガイドピン55,56を収容している。これらガイドピン55,56はそれぞれ枠状の張出部53b,53cの内周に接触して、その長手方向に摺動するようになっており、これにより調整リング53の変位の軌跡が規定される。
こうしてガイドピン55,56によって案内されて変位する調整リング53が、収容凹部50c内を図の右上側の高圧空間THと、左側から下側にかけての低圧空間TLとに仕切っており、高圧空間THの油圧を受けて動作される。すなわち、高圧空間THは、ハウジング50の収容凹部50c内において、調整リング53の張出部53cの外周とハウジング50の壁部とによって囲まれ、かつ、第1および第2のシール材57,58によってオイルの流れが制限される領域に形成される。
そして、この高圧空間THには吐出ポート50eの開口の一部が臨み、オイルポンプ5の吐出油圧Pが高圧空間THに導かれて調整リング53の外周面に作用するようになる。これに対して、吸入ポート50dが連通する低圧空間TLには概ね大気圧が作用しているので、調整リング53は、高圧空間THからの油圧によって図の反時計回り方向に回動するように付勢されることになる。一方で調整リング53は、アーム部53dに作用する圧縮コイルスプリング54の弾発力を受けて時計回り方向に付勢されており、主にそれらの付勢力によって変位するようになる。
さらに、本実施形態では、図5及び図6にそれぞれ示すように、ハウジング50内には高圧空間THに隣接するように制御空間TC(油圧室)を設けて、ここに電子制御式の制御弁60(Oil Control Vale:以下、第1OCVという)から制御油圧を供給し、調整リング53の変位を補助する力を発生させる。第1OCV60により制御油圧を高精度に調圧し、調整リング53の変位を補助する力の大きさを調整することで、ポンプ容量の制御性が高くなる。
具体的には、調整リング53の2つの張出部53b,53cのほぼ中間においてその外周には第2のシール材58が配設され、収容凹部50cを取り囲むハウジング50の壁部の内面と摺接するようになっている。この第2のシール材58は、高圧空間THと制御空間TCとの間のシール部であって、調整リング53の変位に伴いハウジング50の壁部の内面に沿って移動することになる。
同様に調整リング53のアーム部53dの先端には第3のシール材59が配設されて、対向するハウジング50の壁部の内面と摺接するようになっている。なお、これら第2および第3のシール材58,59、および、第1のシール材57は、いずれも調整リング53の厚み(図5および図6の紙面に直交する方向の寸法)と同程度の寸法を有し、耐摩耗性に優れた金属材や樹脂材にて形成されている。
こうして制御空間TCは、ハウジング50の収容凹部50c内において、調整リング53の外周(詳しくは張出部53bの外周)とアーム部53dと、それらに対向するハウジング50の壁部とによって囲まれ、かつ第2および第3のシール材58,59によってオイルの流れが制限される領域に形成される。そして、この制御空間TCにおいて収容凹部50cの底面に開口する制御油路61によって、第1OCV60から制御油圧が供給される。
すなわち、制御油路61はその一端部が制御空間TCに臨む丸孔61aとして開口する一方、他端部が第1OCV60の制御ポート60aに連通している。第1OCV60は、ECU100からの信号を受けてスプールの位置が変更され、供給ポート60bからのオイルを制御ポート60aから制御油路61へ送り出す状態と、制御油路61から排出されてきたオイルを制御ポート60aに受け入れて、ドレンポート60cから排出する状態とに切り換えられる。
また、一例としてリニアソレノイドバルブである第1OCV60は、ECU100からの信号に応じてスプールの位置が連続的に変化し、制御ポート60aから制御油路61へ送り出すオイルの圧力をリニアに増大または減少させることができる。よって、例えばエンジン回転数Neの上昇に伴い調整リング53が図5の反時計回り方向に変位する際に、制御空間TCに供給する制御油圧を増大させて、調整リング53の変位を補助することができる。一方、第1OCV60の制御によって制御空間TCに供給する制御油圧を低下させれば、調整リング53の反時計回り方向の変位を抑えることができる。なお、図5および図6に示すように本実施形態では、オイルポンプ5の吐出ポート50eからオイルフィルタ6への連通路6aの途中に分岐路6bを接続して、第1OCV60にオイルを供給するようにしているが、これに限らず、例えばオイルフィルタ6によって濾過されたオイルを第1OCV60に供給するようにしてもよい。
このように、制御油圧の調整によって調整リング53を変位させることで、オイルポンプ5の容量を調整することが可能となり、これにより、オイルポンプ5の吐出油圧Pを、延いてはメインギャラリ20の油圧を、エンジン1の運転状態などに応じて制御することができる。
例えば、エンジン1の燃料消費率の改善を図るべく、オイルポンプ5の動力を略必要最小限に抑えたい場合には、第1OCV60からの制御油圧を増大させることによって、制御空間TCに供給する制御油圧を増大させる。このようにすれば、調整リング53が、図5の反時計回りに変位して、図6に示す状態となり、ポンプ容量が減少することから、オイルポンプ5の吐出量が減少傾向となるので、オイルポンプ5の吐出油圧Pを低下させることができる。これに対し、例えば、VVT30の応答性を高めるべく、高い油圧が必要な場合には、第1OCV60からの制御油圧を低下させることによって、制御空間TCに供給する制御油圧を低下させる。このようにすれば、調整リング53が、図5の時計回りに変位して、ポンプ容量が増大することから、オイルポンプ5の吐出量が増大するので、オイルポンプ5の吐出油圧Pを高めることができる。
そうして、かかるオイルポンプ5の吐出油圧Pの調整は以下のようにして実行される。図7は、OCV指令電流値と、オイルポンプの吐出油圧との関係を模式的に示す図である。図7に示すように、ECU100から第1OCV60への指令信号、すなわち、第1OCV60への指令電流値を大きくすれば、ポンプ回転数(エンジン回転数Ne)が高くなっても、オイルポンプ5の吐出油圧Pを低下させることができる一方、第1OCV60への指令電流値を小さくすれば、オイルポンプ5の吐出油圧Pを高めることができることが分かる。すなわち、オイルポンプ5の吐出油圧Pの調整は、エンジン回転数Neに応じて、第1OCV60への指令電流値の大きさを調整することによって実行することができる。
−ECU−
図8は、エンジン1における制御系の概略構成を示すブロック図である。この図8に示すように、ECU100は、CPU101、ROM102、RAM103およびバックアップRAM104などを備えている。ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM103はCPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM104はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。これらROM102、CPU101、RAM103、および、バックアップRAM104はバス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105および出力インターフェース106と接続されている。
入力インターフェース105には、エンジン1の冷却水温度を検出する水温センサ110、吸入空気量を計測するエアフロメータ111、吸入空気温度を計測する吸気温センサ112、排気系に備えられたO2センサ113、アクセル開度を検出するアクセルポジションセンサ114、スロットルバルブ19の開度を検出するスロットルポジションセンサ115、クランクシャフト13の回転位置を検出するクランクポジションセンサ116、吸気カムシャフト14の回転位置を検出するカムポジションセンサ117、メインギャラリ20内の油圧を検出する油圧センサ118、および、メインギャラリ20内の油温を検出する油温センサ119などの各種センサが接続されている。
出力インターフェース106には、インジェクタ7、点火プラグ27のイグナイタ8、スロットルバルブ19のスロットルモータ9、オイルポンプ5の吐出油圧Pを制御する第1OCV60、および、第2OCV80などが接続されている。そして、ECU100は、各種センサの検出信号に基づいて、インジェクタ7の燃料噴射制御、点火プラグ27の点火時期制御、および、スロットルバルブ19の開度制御などを含むエンジン1の各種制御を実行する。
また、ECU100は、VVT30における内部ロータ34の回転位相を最遅角位相から最進角位相までの範囲で調整するバルブタイミング制御を実行する。より詳しくは、ECU100は、クランクポジションセンサ116等の各種センサの検出結果から得られるエンジン1の運転状態に基づいて、VVT30の目標変位角を算出するとともに、クランクポジションセンサ116及びカムポジションセンサ117の検出信号からVVT30の実変位角(実回転位相)を取得し、その実変位角が目標変位角に収束するように第2OCV80を制御する。
さらに、ECU100は、VVT30の応答性を高めるべく、オイルポンプ5からの吐出油圧Pを制御する下記の吐出油圧制御を実行する。
−吐出油圧制御−
本実施形態では、上述の如く、進角側通路70または遅角側通路69に供給される作動油の供給量を調整することで、吸気カムシャフト14の回転位相を進角または遅角させるが、エンジンオイルは、温度によってその粘度が変化することから、油温によってはVVT30へ供給される作動油の供給速度が低下し、VVT30の作動応答性や作動安定性に影響を及ぼすことが想定される。
そこで、本発明者等は、SAE粘度グレード5W−30のエンジンオイル(以下、単に5W−30ともいう)を用いて作動油(オイル)の油温が、VVT30の作動応答性および作動安定性へ及ぼす影響について検討を行った。その結果を表1に示す。
なお、本実施形態のエンジン1で5W−30を用いた場合、油温が40℃未満のときは、油温が低くなるほどオイルの粘度が高くなり流動速度が低下する一方、油温が40℃を超えるときは、油温が高くなるほどオイルの粘度が低くなり機関の内部リークが増える傾向にあることが実験等により知得されている。
また、表1において「相対回転位相の保持安定性」とは、進角側油圧室41または遅角側油圧室40のうち、一方の油圧室内の油圧を他方の油室内の油圧よりも高くすることで、相対回転位相を変更したときに、一方の油圧室内の油圧を高い状態で維持することの容易さを意味する。さらに、VVT30では、環状油空間47の油圧が圧縮コイルばね44の付勢力に打ち勝ってロックピン43が係止孔45から外れなければ、ハウジング31及び内部ロータ34間の相対回転が許容されないところ、表1における「ピン抜け性」とは、かかるロックピン43の係止孔45からの抜け易さを意味する。
先ず、VVT30の作動応答性については、低油温時(油温が40℃未満のとき)は、油温が低くなるほどオイルの粘度が高くなり、オイルの流動速度が低下することから、油温が40℃のときよりも不利である。また、高油温時(油温が40℃を超えるとき)は、油温が高くなるほどオイルの粘度が低くなるので、オイルの流動速度は低下しないものの、機関の内部リークが増えてオイルポンプ5の吐出効率が低下することから、油温が40℃のときよりも不利である。
次に、VVT30の作動安定性のうち相対回転位相の保持安定性については、低油温時は、オイルの流動速度が低下することから、換言すると、進角側油圧室41または遅角側油圧室40内の油圧が変化し難くなることから、VVT30によって変更された相対回転位相は変化し難く(安定し易く)なり、油温が40℃のときよりも有利である。一方、高油温時は、機関の内部リークが増えてオイルポンプ5の吐出効率が低下することから、VVT30によって変更された相対回転位相は変化し易くなり、油温が40℃のときよりも不利である。
また、VVT30の作動安定性のうちピン抜け性については、油温とは無関係に、環状油空間47の油圧に依存する。
これらを踏まえて、本実施形態では、以下のようにして、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptを設定し、かかる目標吐出油圧Ptに基づいて、第1OCV60への指令電流値の大きさを調整する。
図9は、VVTの作動応答速度を維持するのに必要な吐出油圧と油温との関係を模式的に示す図である。より詳しくは、図9は、エンジンオイルとして5W−30を用いた場合における、油温が40℃の場合におけるVVT30の作動応答速度を基準とし、各油温において、油温が40℃の場合と同じ作動応答速度を維持するのに必要なオイルポンプ5からの吐出油圧Pを示したものである。図9に示すように、油温が40℃を超える場合には、油温が高いほど高い吐出油圧Pが要求され、40℃未満の場合には、油温が低いほど高い吐出油圧Pが要求される。また、エンジン回転数Neが1000(rpm)の場合よりも2000(rpm)の場合の方が、すなわち、エンジン回転数Neが高いほど、高い吐出油圧Pが要求される。それ故、ECU100は、VVT30の作動応答性を確保すべく、原則として、エンジン回転数Neが高いほどオイルポンプ5の目標吐出油圧Ptが高くなるように設定するとともに、作動油の油温が40℃以上の場合には、油温が高いほど吐出油圧Pが高くなるように、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptを設定し、作動油の油温が40℃未満の場合には、油温が低いほど吐出油圧Pが高くなるように、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptを設定する。
もっとも、作動応答速度が早くても、変更された相対回転位相を保持できなければ、また、ロックピン43の係止解除ができなければ、バルブタイミング制御が困難となることから、VVT30の作動応答性の前提となる作動安定性を確保する必要がある。それ故、本実施形態では、以下のように油圧の下限値を設定し、かかる下限値によって目標吐出油圧Ptの下限を制限することでオイルポンプの作動安定性を確保するようにしている。
図10は、VVTの相対回転位相を保持するのに必要な吐出油圧と油温との関係を模式的に示す図であり、また、図11は、ロック機構による規制を解除するのに必要な吐出油圧と油温との関係を模式的に示す図である。図10に示すように、極低油温時には、オイルの流動速度が低下し、進角側油圧室41または遅角側油圧室40内の油圧が変化し難くなることから、相対回転位相を保持するのに高い吐出油圧Pは要求されない。しかし、油温が高くなるに連れて、オイルの流動速度が高くなるとともに機関の内部リークが増えてオイルポンプ5の吐出効率が低下することから、相対回転位相を保持するのに高い吐出油圧Pが必要となる。また、図11に示すように、ピン抜け性を確保するには、油温とは無関係に所定の吐出油圧が必要となる。それ故、ECU100は、VVT30の作動安定性を確保すべく、VVT30によって変更された相対回転位相を保持するのに必要な吐出油圧に対応する第1下限値、及び、ロック機構による規制を解除するのに必要な吐出油圧に対応する第2下限値のうち、大きい方の下限値によって目標吐出油圧Ptの下限を制限するように構成されている。
すなわち、ECU100は、エンジン回転数Neが1000(rpm)の場合には、図12の太線で示すように、また、エンジン回転数Neが2000(rpm)の場合には、図13の太線で示すように、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptを設定する。より詳しくは、下記(1)〜(4)のように、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptを設定する。
(1)油温がt1(t1’)(<40℃)未満の場合には、VVT30の作動応答速度を維持するのに必要な吐出油圧が第1下限値および第2下限値を超えているので、かかる必要吐出油圧を基準として、油温が低いほど吐出油圧Pが高くなるように、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptを設定する。
(2)一方、油温がt1(t1’)以上t2(t2’)(>40℃)未満の場合には、VVT30の作動応答速度を維持するのに必要な吐出油圧が、第2下限値を下回っており、且つ、第2下限値が第1下限値を上回っていることから、第2下限値をオイルポンプ5の目標吐出油圧Ptとする。
(3)また、油温がt2(t2’)以上t3(t3’)(>40℃)未満の場合には、VVT30の作動応答速度を維持するのに必要な吐出油圧Pが、第1下限値を下回っているとともに、第1下限値が第2下限値を上回っていることから、第1下限値をオイルポンプ5の目標吐出油圧Ptとする。なお、図12および図13に示すように、第1下限値は油温が高いほど大きな値となることから、油温がt2(t2’)以上t3(t3’)未満の場合には、油温が高いほど吐出油圧Pが高くなるように、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptが設定されていることになる。
(4)さらに、油温がt3(t3’)以上の場合には、VVT30の作動応答速度を維持するのに必要な吐出油圧が第1下限値および第2下限値を超えているので、かかる必要吐出油圧を基準として、油温が高いほど吐出油圧Pが高くなるように、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptを設定する。
なお、図12及び図13に示す、目標吐出油圧Ptと油温との関係は、マップ化され、又は、パラメータの対応関係を設定した計算式にされてROM102に記憶されている。また、エンジン回転数Neが1000(rpm)および2000(rpm)は例示であり、1000(rpm)未満、1000(rpm)を超え2000(rpm)未満、及び、2000(rpm)を超えるエンジン回転数Neについてのマップ等もROM102に記憶されている。
さらに、上記の例では、t1(t1’)以上t3(t3’)未満の場合には、第1下限値および第2下限値のうち大きい方の下限値によって目標吐出油圧Ptの下限を制限するようにしたが、例えば第1又は第2下限値が低いため、VVT30の作動応答速度を維持するのに必要な吐出油圧がこれらを下回らないような場合には、下限値を設定することなく、図9に示す必要な吐出圧をそのまま目標吐出油圧Ptとするような制御を行ってもよい。
−具体的な制御動作−
以下、図14に示すフローチャートを参照して、ECU100によって実行される、オイルポンプ5の吐出油圧制御について具体的に説明する。なお、図示の制御ルーチンは、エンジン1の運転中に一定周期(例えば数msec〜数十msec程度)毎に実行される。
図14(a)は、吐出油圧制御の全体的な制御フローの一例を示す図である。先ず、スタート後のステップST1では、ECU100が、エンジン1の運転状態に関する所定の情報を取得する。例えば、ECU100は、クランクポジションセンサ116からの信号によってエンジン回転数Neを算出するとともに、油温センサ119からの信号によってメインギャラリ20内の油温Tを算出する。
次のステップST2では、ステップST1で算出したエンジン回転数Neおよび油温Tに基づいて、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptを設定する。ここで、図14(b)は、目標吐出油圧の設定ルーチンの一例を示す図であり、ECU100がこの設定ルーチンを実行することによって、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptが設定される。
図14(b)におけるスタート後のステップST21では、ステップST1で算出したエンジン回転数Neを取得し、次のステップST22では、ステップST1で算出したメインギャラリ20内の油温Tを取得する。そうして、次のステップST23では、ECU100が、ROM102に予め記憶されている、目標吐出油圧Ptと油温Tとの関係についてのマップを参照して、ステップST21およびステップST22で取得したエンジン回転数Neおよび油温Tに基づいて、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptを設定する。例えば、ステップST21で取得したエンジン回転数Neが1000(rpm)の場合には、図12に示す関係のマップを参照し、油温Tがt1未満の場合またはt3以上の場合には、VVT30の作動応答速度を維持するのに必要な吐出油圧に基づいて、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptを設定する。また、油温Tがt1以上t2未満の場合には、第2下限値を目標吐出油圧Ptとする。さらに、油温Tがt2以上t3未満の場合には、第1下限値をオイルポンプ5の目標吐出油圧Ptとする。このようにして、オイルポンプ5の目標吐出油圧Ptが設定されると、再び図14(a)に示す制御フローに戻る。
次のステップST3およびステップST4では、ECU100が、それぞれ油温センサ119および油圧センサ118の信号によって、メインギャラリ20内の油温Tおよび油圧を算出(取得)する。
そして、ECU100は、オイルポンプ5の実際の吐出油圧Pが目標吐出油圧Ptになるようにフィードバック制御を行う。すなわち、ステップST5では、例えばステップST4で取得したメインギャラリ20内の油圧から、実際の吐出油圧Pと目標吐出油圧Ptとの偏差を算出し、この偏差に応じてPID則などにより、実際の吐出油圧Pを目標吐出油圧Ptに収束させるようなポンプ容量の目標値を算出する(油圧フィードバック制御演算)。このとき、ステップST3で取得したメインギャラリ20内の油温Tから、オイルの流動速度の低下や内部リークによる吐出効率が低下を取得し、これらを加味してポンプ容量の目標値が算出される。
次のステップST6では、ステップST5で算出されたポンプ容量の目標値となるように、オイルポンプ5の制御空間TCに供給する制御油圧を算出し、この制御油圧を第1OCV60が出力するようなOCV指令電流値(制御デューティー)を算出し、これを第1OCV60に出力した後、リターンする。これにより、オイルポンプ5の吐出油圧Pが、ステップST2で設定された目標吐出油圧Ptに収束し、油温が40℃の場合と同等のVVT30の作動応答性が確保される。
なお、ポンプ容量、制御油圧、OCV指令電流値などのパラメータの対応関係は、予め実験やシミュレーション等によって適合されてマップとしてROM102に記憶されており、ステップST6では、そのようなマップを参照して、目標とするポンプ容量を実現するためのOCV指令電流値を算出する。また、マップの代わりにパラメータの対応関係を計算式として設定することもできる。
以上により、本実施形態によれば、VVT30の相対回転位相の保持安定性やピン抜け性に基づいて、目標吐出油圧Ptの下限を制限することから、VVT30の作動安定性を確保することができる。
また、油温が40℃以上の場合には、油温が高いほど吐出油圧Pが高くなるように目標吐出油圧Ptを設定するので、内部リークの増大による吐出効率の低下を補うことができる一方、油温が40℃未満の場合には、油温が低いほど吐出油圧Pが高くなるように目標吐出油圧Ptを設定するので、オイルの流動速度の低下を補うことができ、これらにより、高油温時および低油温時におけるVVT30の作動応答性を向上させることができる。
加えて、高い吐出油圧が要求されない40℃近傍では目標吐出油圧Ptが低くなることから、余剰の油圧を抑えて、燃費を向上させることができる。
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
上記実施形態では、吸気カムシャフト14にVVT30が設けられたエンジン1に本発明を適用したが、これに限らず、吸気カムシャフト14と共に、又は、吸気カムシャフト14に代えて、排気カムシャフト15にVVT30が設けられたエンジンに本発明を適用してもよい。
また、上記実施形態では、トロコイドタイプの可変容量型オイルポンプ5に本発明を適用したが、これに限らず、複数のベーンがオイルポンプのロータに進退自在に摺動保持される、所謂ベーンタイプの可変容量型オイルポンプに本発明を適用してもよい。
さらに、上記実施形態では、SAE粘度グレード5W−30のエンジンオイルを用い、所定温度を40℃としたが、これに限らず、例えば、SAE粘度グレード10W−40や15W−40といった他の粘度規格のエンジンオイルを用いてもよいし、所定温度も用いるエンジンオイルに応じて適宜変更してもよい。
また、上記実施形態では、第1下限値および第2下限値のうち、大きい方の下限値によって目標吐出油圧Ptの下限を制限するようにしたが、これに限らず、例えば圧縮コイルばね44の付勢力が弱く第2下限値が極めて低いような場合等には、第1下限値のみで目標吐出油圧Ptの下限を制限するようにしてもよい。さらに、これとは逆に、例えば圧縮コイルばね44の付勢力が強く第2下限値が極めて高いような場合等には、第2下限値のみで目標吐出油圧Ptの下限を制限するようにしてもよい。
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。