以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に、シリンダの軸心を含む平面で切断したエンジン100の概略的な断面図を示す。本明細書では、説明の便宜上、シリンダの軸心方向を上下方向と称し、気筒列方向を前後方向と称する。さらに、気筒列方向においてエンジン100の反トランスミッション側を前側、トランスミッション側を後側と称する。
エンジン100は、4つの気筒が所定の気筒列方向に並んで配置された直列4気筒エンジンである。エンジン100は、シリンダヘッド1と、シリンダヘッド1に取り付けられるシリンダブロック2と、シリンダブロック2に取り付けられるオイルパン3とを備えている。
シリンダブロック2は、アッパブロック21と、ロアブロック22とを有している。ロアブロック22は、アッパブロック21の下面に取り付けられる。ロアブロック22の下面に、オイルパン3が取り付けられる。
アッパブロック21には、4つの気筒に対応する4つのシリンダボア23が気筒列方向に並んで形成されている(図1には1つのシリンダボア23だけ図示)。シリンダボア23は、アッパブロック21の上部に形成され、アッパブロック21の下部はクランク室の一部を区画する。シリンダボア23には、ピストン24が挿通されている。ピストン24は、コネクティングロッド25を介してクランクシャフト26に連結されている。シリンダボア23と、ピストン24と、シリンダヘッド1とによって燃焼室27が区画される。尚、4つのシリンダボア23は、前側から順に、第1気筒、第2気筒、第3気筒及び第4気筒に相当する。
シリンダヘッド1には、燃焼室27に開口する吸気ポート11と排気ポート12が設けられ、吸気ポート11には、吸気ポート11を開閉する吸気弁13が設けられている。排気ポート12には、排気ポート12を開閉する排気弁14が設けられている。吸気弁13及び排気弁14はそれぞれ、カムシャフト41,42に設けられたカム部41a,42aによって駆動される。
詳しくは、吸気弁13及び排気弁14は、バルブスプリング15,16により閉方向(図1では上方向)に付勢されている。吸気弁13及び排気弁14とカム部41a,42aとの間には、それぞれスイングアーム43,44が介設されている。スイングアーム43,44の一端部は、それぞれ油圧ラッシュアジャスタ(Hydraulic Lash Adjuster、以下、「HLA」と称する)45,46に支持されている。スイングアーム43,44は、その略中央部に設けられたカムフォロア43a,44aがそれぞれカム部41a,42aに押されることによって、HLA45,46に支持された一端部を支点として揺動する。スイングアーム43,44は、こうして揺動することによって、他端部でそれぞれ吸気弁13及び排気弁14をバルブスプリング15,16の付勢力に抗して開方向(図1では下方向)へ移動させる。HLA45,46は、油圧により自動的にバルブクリアランスをゼロに調整する。
尚、第1気筒及び第4気筒に設けられたHLA45,46は、それぞれ吸気弁13及び排気弁14の動作を停止させる弁停止機構を備えている。以下、弁停止機構の有無でHLAを区別する場合には、弁停止機構を備えているHLA45,46を、HLA45a,46aと称し、弁停止機構を備えていないHLA45,46を、HLA45b,46bと称する。エンジン100は、全気筒運転時には、第1〜第4気筒の全ての吸気弁13及び排気弁14を作動させる一方、減気筒運転時には、第1及び第4気筒の吸気弁13及び排気弁14の作動を停止させ、第2及び第3気筒の吸気弁13及び排気弁14を作動させる。
シリンダヘッド1の第1及び第4気筒に対応する部分には、HLA45a,46aを装着するための装着孔が形成されている。HLA45a,46aは、該装着孔に装着される。シリンダヘッド1には、装着孔に連通する給油路が形成されている。この給油路を介して、HLA45a,46aにオイルが供給される。
シリンダヘッド1の上部にはカムキャップ47が取り付けられている。カムシャフト41,42は、シリンダヘッド1及びカムキャップ47により回転可能に支持されている。
吸気側カムシャフト41の上方には、吸気側オイルシャワー48が設けられ、排気側カムシャフト42の上方には、排気側オイルシャワー49が設けられている。吸気側オイルシャワー48及び排気側オイルシャワー49は、カム部41a,42aと、スイングアーム43,44のカムフォロア43a,44aとの接触部にオイルを滴下するように構成されている。
また、エンジン100には、吸気弁13及び排気弁14のそれぞれの弁特性を変更する可変バルブタイミング機構(以下、「VVT」と称する)が設けられている。吸気側VVTは電動式であり,排気側VVT18は油圧式である。
アッパブロック21は、4つのシリンダボア23に対して吸気側に位置する第1側壁21aと、4つのシリンダボア23に対して排気側に位置する第2側壁21bと、最も前側のシリンダボア23よりも前側に位置する前壁(図示省略)と、最も後側のシリンダボア23よりも後側に位置する後壁(図示省略)と、隣り合う各2つのシリンダボア23の間の部分において上下方向に拡がる複数の縦壁21cとを有している。
ロアブロック22は、アッパブロック21の第1側壁21aに対応し、吸気側に位置する第1側壁22aと、アッパブロック21の第2側壁21bに対応し、排気側に位置する第2側壁22bと、アッパブロック21の前壁に対応し、前側に位置する前壁(図示省略)と、アッパブロック21の後壁に対応し、後側に位置する後壁(図示省略)と、アッパブロック21の縦壁21cに対応する複数の縦壁22cとを有している。アッパブロック21とロアブロック22とは、ボルト締結される。
アッパブロック21の前壁とロアブロック22の前壁との間、アッパブロック21の後壁とロアブロック22の後壁との間、縦壁21cと縦壁22cとの間には、クランクシャフト26を支持する軸受部28が設けられている。
以下に、図2を参照しながら、縦壁21cと縦壁22cとの間の軸受部28に付いて説明する。図2は、気筒列方向の中央に位置するアッパブロック21の縦壁21c及びロアブロック22の縦壁22cの断面図である。尚、アッパブロック21の前壁とロアブロック22の前壁との間、アッパブロック21の後壁とロアブロック22の後壁との間にも同様の軸受部28が設けられている。それぞれの軸受部28を区別する場合には、前側から順に、第1軸受部28A、第2軸受部28B、第3軸受部28C、第4軸受部28D、第5軸受部28Eと称する。
軸受部28は、2つのボルト締結箇所の間に設けられている。詳しくは、軸受部28は、一対のネジ孔21f及びボルト挿通孔22fの間に配置されている。軸受部28は、円筒状の軸受メタル29を有している。縦壁21c及び縦壁22cのそれぞれの接合部には、半円状の切欠部が形成されている。軸受メタル29は、第1半円部29aと第2半円部29bとからなる分割構造をしており、第1半円部29aは、縦壁21cの切欠部に装着され、第2半円部29bは、縦壁22cの切欠部に装着される。縦壁21cと縦壁22cとが結合されることによって、第1半円部29aと第2半円部29bとが結合し、円筒状になる。第1半円部29aの内周面には、円周方向に延びる油溝29cが形成されている。それに加え、第1半円部29aには、一端が第1半円部29aの外周面に開口し、他端が油溝29cに開口する連絡路29dが貫通形成されている。アッパブロック21には、給油路が形成されており、該給油路を介して第1半円部29aの外周面にオイルが供給されている。連絡路29dは、該給油路と連通する位置に配置されている。これにより、給油路から供給されたオイルが連絡路29dを介して油溝29cに流入するようになっている。
尚、図示は省略するが、シリンダブロック2の前壁には、チェーンカバーが取り付けられている。チェーンカバーの内側には、クランクシャフト26に設けられた駆動スプロケット、該駆動スプロケットに巻回されたタイミングチェーン、該タイミングチェーンに張力を付与するチェーンテンショナ等が配置されている。
図3を参照しながら、弁停止機構を備えたHLA45a,46aについて詳しく説明する。尚、HLA45a,46aの構成は実質的に同じなので、以下では、HLA45aについてのみ説明する。
HLA45aは、ピボット機構45cと弁停止機構45dとを有している。
ピボット機構45cは、周知のHLAのピボット機構であり、油圧によりバルブクリアランスを自動的にゼロに調整する。尚、HLA45b,46bは、弁停止機構を有していないが、ピボット機構45cと実質的に同じピボット機構を有している。
弁停止機構45dは、対応する吸気弁13又は排気弁14の作動及び作動停止を切り替える機構である。弁停止機構45dは、一端が開口し、他端に底を有し、ピボット機構45cを軸方向に摺動可能に収容する外筒45eと、外筒45eの側周面に対向しても形成された2つの貫通孔45fに進退可能に挿通された一対のロックピン45gと、一つのロックピン45gを外筒45eの半径方向外側に付勢するロックスプリング45hと、外筒45eの底とピボット機構45cとの間に設けられ、ピボット機構45cを外筒45eの開口の方へ軸方向に付勢するロストモーションスプリング45iとを有している。ロックピン45gは、ピボット機構45cの下端に配置されている。ロックピン45gは、油圧によって駆動され、貫通孔45fに嵌合した状態と、外筒45eの半径方向内側へ移動して貫通孔45fとの嵌合が解除された状態との間で切り替えられる。
図3(A)に示すように、ロックピン45gが貫通孔45fに嵌合しているときには、ピボット機構45cは、外筒45eから比較的大きな突出量で突出し、ロックピン45gにより外筒45eの軸方向への移動が規制されている。つまり、ピボット機構45cは、ロック状態となっている。この状態において、ピボット機構45cの頂部は、スイングアーム43又はスイングアーム44の一端部に接触し、揺動の支点として機能する。これにより、スイングアーム43,44は、その他端部でそれぞれ吸気弁13及び排気弁14をバルブスプリング15,16の付勢力に抗して開方向へ移動させる。つまり、弁停止機構45dがロック状態のときには、対応する吸気弁13又は排気弁14を作動させる。
一方、ロックピン45gに半径方向外側から油圧が作用すると、図3(B)に示すように、ロックピン45gは、ロックスプリング45hの付勢力に抗して、外筒45eの半径方向内側へ移動し、貫通孔45fとの嵌合が解除される。これにより、ピボット機構45cのロックが解除される。
このロック解除状態においても、ロストモーションスプリング45iの付勢力により、ピボット機構45cは、外筒45eから比較的大きな突出量で突出した状態となっている。ただし、ピボット機構45cは、外筒45eの軸方向への移動が規制されておらず、移動可能となっている。また、ロストモーションスプリング45iの付勢力は、バルブスプリング15,16による、吸気弁13及び排気弁14を閉方向へ付勢する付勢力よりも小さく設定されている。そのため、ロック解除状態において、カムフォロア43a,44aがそれぞれカム部41a,42aに押されると、吸気弁13及び排気弁14の頂部がスイングアーム43,44の揺動の支点となり、スイングアーム43,44は、図3(C)に示すように、ピボット機構45cをロストモーションスプリング45iの付勢力に抗して外筒45eの底の方へ移動させる。つまり、弁停止機構45dがロック解除状態のときには、対応する吸気弁13又は排気弁14の作動を停止させる。
次に、図4を参照しながら、排気側VVT18について詳しく説明する。
排気側VVT18は、略円環状のハウジング18aと、該ハウジング18aの内部に収容SR得たロータ18bとを有している。ハウジング18aは、クランクシャフト26と同期して回転するカムプーリ18cと一体回転可能に連結されている。ロータ18bは、吸気弁13を開閉させるカムシャフト41と一体回転可能に連結されている。ロータ18bには、ハウジング18aの内周面と摺動するベーン18dが設けられている。ハウジング18aの内部には、ハウジング18aの内周面、ベーン18d及びロータ18bの本体によって区画される遅角油圧室18eと進角油圧室18fとが複数形成されている。これら遅角油圧室18e及び進角油圧室18fには、オイルが供給されている。遅角油圧室18eの油圧が高いと、ハウジング18aの回転方向に対してロータ18bが反対向きに回転する。すなわち、カムシャフト41が、カムプーリ18cに対して反対向きに回転し、吸気弁13の開弁時期が遅くなる。一方、進角油圧室18fの油圧が高いと、ハウジング18aの回転方向に対してロータ18bが同じ向きに回転する。すなわち、カムシャフト41が、カムプーリ18cに対して同じ向きに回転し、吸気弁13の開弁時期が早くなる。
次に、オイル供給装置200について図5を参照しながら説明する。図5に、オイル供給装置200の油圧回路図を示す。
オイル供給装置200は、クランクシャフト26によって回転駆動される可変容量型のオイルポンプ81と、オイルポンプ81に接続され、オイルが流通する給油路5とを有している。オイルポンプ81は、エンジン100による駆動される補機である。
オイルポンプ81は、公知の可変容量型のオイルポンプであり、クランクシャフト26により駆動される。オイルポンプ81は、ロアブロック22の下面に取り付けられ、オイルパン3内に収容された状態となっている。詳しくは、オイルポンプ81は、クランクシャフト26に回転駆動される駆動シャフト81aと、駆動シャフト81aに連結されたロータ81bと、ロータ81bから半径方向へ進退自在に設けられた複数のベーン81cと、前記ロータ81b及びベーン81cを収容し、ロータ81bの回転中心に対する偏心量が調整されるように構成されたカムリング81dと、ロータ81bの回転中心に対する偏心量が増大する方向へカムリング81dを付勢するスプリング81eと、ロータ81bの内側に配置されたリング部材81fと、ロータ81b、ベーン81c、カムリング81d、スプリング81e及びリング部材81fを収容するハウジング81gとを有している。
図示は省略するが、駆動シャフト81aの一端部は、ハウジング81gの外方へ突出し、該一端部には、従動スプロケットが連結されている。従動スプロケットには、タイミングチェーンが巻回されている。このタイミングチェーンは、クランクシャフト26の駆動スプロケットにも巻回されている。こうして、ロータ81bは、タイミングチェーンを介してクランクシャフト26に回転駆動される。
ロータ81bが回転する際に各ベーン81cは、カムリング81dの内周面上を摺動する。これにより、ロータ81b、隣り合う2つのベーン81c、カムリング81d及びハウジング81gによってポンプ室(作動油室)81iが区画される。
ハウジング81gには、ポンプ室81i内へオイルを吸入する吸入口81jが形成されると共に、ポンプ室81iからオイルが吐出される吐出口81kが形成されている。吸入口81jには、オイルストレーナ81lが接続されている。オイルストレーナ81lは、オイルパン3に貯留されたオイルに浸漬されている。つまり、オイルパン3に貯留されたオイルがオイルストレーナ81lを介して吸入口81jからポンプ室81i内へ吸入される。一方、吐出口81kには、給油路5が接続されている。つまり、オイルポンプ81により昇圧されたオイルは、吐出口81kから給油路5へ吐出される。
カムリング81dは、所定の支点回りに揺動するようにハウジング81gに支持されている。スプリング81eは、該支点回りの一方側へカムリング81dを付勢している。また、カムリング81dとハウジング81gとの間には圧力室81mが区画される。圧力室81mには、外部からオイルが供給されるように構成されている。カムリング81dには、圧力室81m内のオイルの油圧が作用している。そのため、カムリング81dは、スプリング81eの付勢力と圧力室81mの油圧とのバランスに応じて揺動し、ロータ81bの回転中心に対するカムリング81dの偏心量が決まる。カムリング81dの偏心量に応じて、オイルポンプ81の容量が変化し、オイルの吐出量が変化する。
給油路5は、パイプ並びに、シリンダヘッド1及びシリンダブロック2に穿設された流路で形成されている。給油路5は、シリンダブロック2において気筒列方向に延びるメインギャラリ50と、オイルポンプ81とメインギャラリ50とを接続する第1連通路51と、メインギャラリ50からシリンダヘッド1まで延びる第2連通路52と、シリンダヘッド1において吸気側と排気側との間を略水平方向に延びる第3連通路53と、第1連通路51から分岐する制御用給油路54と、第3連通路53から分岐する第1〜第5給油路55〜59とを有している。
第1連通路51は、オイルポンプ81の吐出口81kに接続されている。第1連通路51には、オイルフィルタ82及びオイルクーラ83がオイルポンプ81側から順に設けられている。つまり、オイルポンプ81から第1連通路51へ吐出されたオイルは、オイルフィルタ82で濾過され、オイルクーラ83で油温が調整された後、メインギャラリ50へ流入する。
メインギャラリ50には、4つのピストン24の背面側にオイルを噴射するオイルジェット71と、クランクシャフト26を回転自在に支持する5つの軸受部28の軸受メタル29と、4つのコネクティングロッド25が回転自在に連結されたクランクピンに配置された軸受メタル72と、油圧式チェーンテンショナへオイルを供給するオイル供給部73と、タイミングチェーンにオイルを噴射するオイルジェット74と、メインギャラリ50を流通するオイルの油圧を検出する油圧センサ50aが接続されている。油圧センサ50aは、油圧検出部の一例である。メインギャラリ50には、オイルが常時供給されている。オイルジェット71は、逆止弁とノズルとを有し、所定値以上の油圧が作用すると、逆止弁が開弁し、ノズルからオイルを噴射する。
また、メインギャラリ50からは、オイル制御弁84を介してオイルポンプ81の圧力室81mに接続された制御用給油路54が分岐している。制御用給油路54には、オイルフィルタ54aが設けられている。メインギャラリ50のオイルは、制御用給油路54を通り、オイル制御弁84によって油圧が調整された後、オイルポンプ81の圧力室81mに流入する。つまり、オイル制御弁84によって圧力室81mの圧力が調整される。
オイル制御弁84は、リニアソレノイドバルブである。オイル制御弁84は、入力される制御信号のデューティ比に応じて、圧力室81mに供給するオイルの流量を調整する。
第2連通路52は、メインギャラリ50と第3連通路53とを連通させている。メインギャラリ50を流通するオイルは、第2連通路52を通って、第3連通路53へ流入する。第3連通路53へ流入したオイルは、第3連通路53を介して、シリンダヘッド1の吸気側と排気側へ分配される。
第1給油路55には、吸気側のカムシャフト41のカムジャーナルを支持する軸受メタルのオイル供給部91と、吸気側のカムシャフト41のスラスト軸受のオイル供給部92と、弁停止機構付きHLA45aのピボット機構45cと、弁停止機構無しHLA45bと、吸気側のオイルシャワー48と、吸気側VVTの摺動部のオイル供給部93とが接続されている。
第2給油路56には、排気側のカムシャフト42のカムジャーナルを支持する軸受メタルのオイル供給部94と、排気側のカムシャフト42のスラスト軸受のオイル供給部95と、弁停止機構付きHLA46aのピボット機構46cと、弁停止機構無しHLA46bと、排気側のオイルシャワー49とが接続されている。
第3給油路57は、第1方向切換弁96を介して、排気側VVT18の遅角油圧室18e及び進角油圧室18fに接続されている。また、第3給油路57には、排気側のカムシャフト42の軸受メタルのオイル供給部94のうち最前部に位置するオイル供給部94が接続されている。第3給油路57における第1方向切換弁96の上流側には、オイルフィルタ57aが接続されている。第1方向切換弁96によって、遅角油圧室18e及び進角油圧室18fへ供給されるオイル流量が調整される。
第4給油路58は、第2方向切換弁97を介して第1気筒の弁停止機構付きHLA45aの弁停止機構45d及び弁停止機構付きHLA46aの弁停止機構46dに接続されている。第4給油路58における第2方向切換弁97の上流側には、オイルフィルタ58aが接続されている。第2方向切換弁97によって、第1気筒の弁停止機構45d及び弁停止機構46dへのオイル供給が制御される。
第5給油路59は、第3方向切換弁98を介して第4気筒の弁停止機構付きHLA45aの弁停止機構45d及び弁停止機構付きHLA46aの弁停止機構46dに接続されている。第5給油路59における第3方向切換弁98の上流側には、オイルフィルタ59aが接続されている。第3方向切換弁98によって、第4気筒の弁停止機構45d及び弁停止機構46dへのオイル供給が制御される。
エンジン100の各部に供給されたオイルは、図示しないドレイン油路を通ってオイルパン3に滴下し、オイルポンプ81により再び還流される。
エンジン100は、コントローラ60によって制御される。コントローラ60は、プロセッサ及びメモリを有し、エンジン100の運転状態を検出する各種センサからの検出結果が入力される。例えば、コントローラ60には、油圧センサ50a、クランクシャフト26の回転角度を検出するクランク角センサ61、エンジン100が吸入する空気量を検出するエアフローセンサ62、油温センサ63、カムシャフト41,42の回転位相を検出するカム角センサ64及びエンジン100の冷却水の温度を検出する水温センサ65が接続されている。コントローラ60は、クランク角センサ61からの検出信号に基づいてエンジン回転速度を求め、エアフローセンサ62の検出信号に基づいてエンジン負荷を求め、カム角センサ64の検出信号に基づいて吸気側VVT及び排気側VVT18の作動角を求める。コントローラ60は、制御部の一例である。
コントローラ60は、各種検出結果に基づいてエンジン100の運転状態を判定し、判定した運転状態に応じてオイル制御弁84、第1方向切換弁96、第2方向切換弁97及び第3方向切換弁98を制御する。
コントローラ60の制御の1つに減気筒運転がある。コントローラ60は、全気筒で燃焼を実行する全気筒運転と、一部の気筒での燃焼を停止し、残りの気筒で燃焼を実行する減気筒運転とをエンジン100の運転状態に応じて切り替える。
詳しくは、エンジン100の運転状態が図6(A)に示す減気筒運転領域内にあるときには、減気筒運転が実行される。また、減気筒運転領域に隣接して減気筒運転準備領域が設けられており、エンジン100の運転状態が減気筒運転準備領域にあるときには、油圧を弁停止機構45dの要求油圧に向けて予め昇圧させておく。エンジン100の運転状態が減気筒運転領域及び減気筒運転準備領域の外側にあるときには、全気筒運転が実行される。
例えば、所定のエンジン負荷(L0以下)で加速してエンジン回転速度が上昇する場合、エンジン回転速度が所定回転速度V1未満では、全気筒運転が実行され、エンジン回転速度がV1以上且つV2(>V1)未満になると、減気筒運転の準備が行われ、エンジン回転速度がV2以上になると、減気筒運転が実行される。また、例えば、所定のエンジン負荷(L0以下)で減速して、エンジン回転速度が下降する場合、エンジン回転速度がV4以上では全気筒運転が実行され、エンジン回転速度がV3(<V4)以上且つV4未満になると、減気筒運転の準備が行われ、エンジン回転速度がV3以下になると、減気筒運転が実行される。
また、全気筒運転と減気筒運転とは水温に応じても切り替えられる。図6(B)に示すように、所定のエンジン回転速度(V2以上B3以下)、所定のエンジン負荷(L0以下)で走行し、エンジン100が暖機して水温が上昇する場合、水温がT0未満では、全気筒運転が行われ、水温がT0以上で且つT1未満になると減気筒運転の準備が行われ、水温がT1以上になると減気筒運転が実行される。
このように減気筒運転準備領域を設けることによって、全気筒運転と減気筒運転との切換を迅速に行うことができる。尚、図6(A)に示すように、減気筒運転領域の高負荷側に隣接する、一点鎖線で示された領域を減気筒運転準備領域としてもよい。これにより、例えば、所定のエンジン回転速度(V2以上V3以下)においてエンジン負荷が下降する場合、エンジン負荷がL1(>L0)以上では、全気筒運転が実行され、エンジン負荷がL0以上で且つL1未満になると、減気筒運転の準備が行われ、エンジン負荷がL0以下になると、減気筒運転が行われる。
また、コントローラ60は、エンジン100の運転状態に応じて、オイルポンプ81の吐出量制御を行う。具体的には、コントローラ60は、エンジン100の運転状態に応じた目標油圧を設定し、油圧センサ50aにより検出される油圧が目標油圧となるようにオイル制御弁84を制御する。
まず、目標油圧の設定について説明する。
オイル供給装置200では、1つのオイルポンプ81によって複数の油圧作動装置にオイルを供給している。各油圧作動装置が必要とする油圧は、エンジン100の運転状態に応じて変化する。そのため、エンジン100の全ての運転状態において全ての油圧作動装置が必要な油圧を得るためには、コントローラ60は、エンジン100の運転状態ごとに、各油圧作動装置の要求油圧のうち最大のもの以上の油圧を目標油圧として設定する必要がある。本実施形態では、排気側VVT18、弁停止機構45d,46d、オイルジェット71が要求油圧が比較的大きな油圧作動装置である。そのため、これらの要求油圧を満たすように目標油圧を設定すれば、要求油圧が比較的小さな油圧作動装置の要求油圧も当然に満たすことになる。
また、油圧作動装置に限らず、軸受メタル29等の潤滑部も必要な油圧があり、潤滑部の要求油圧もエンジン100の運転状態に応じて変化する。潤滑部の中では軸受メタル29の要求油圧が比較的高く、軸受メタル29の要求油圧が満たされていれば、他の潤滑部の要求油圧も当然に満たされる。本実施形態では、コントローラ60は、軸受メタル29の要求油圧よりも少し高い油圧を、油圧作動装置が作動していないときのエンジン100の基本的な運転時に必要なベース油圧として設定している。
コントローラ60は、ベース油圧と、各油圧作動装置が作動する際の要求油圧及び潤滑部の潤滑に必要な要求油圧とを比較し、その中で最大の油圧を目標油圧として設定する。
ベース油圧及び要求油圧は、エンジン運転状態、例えば、エンジン負荷、エンジン回転速度及び油温によって変化する。そのため、コントローラ60は、エンジン負荷、エンジン回転速度及び油温に対応するベース油圧のマップ、及び、エンジン負荷、エンジン回転速度及び油温に対応する要求油圧のマップをメモリに記憶している。
本実施形態では、図7〜図11に示すようなマップを有している。図7は、ベース油圧のマップである。図8は、潤滑改善時の要求油圧のマップである。図9は、弁停止機構45d,46dの要求油圧のマップであり、(A)は弁停止を実行するとき、(B)は弁停止を維持するときのものである。図10は、オイルジェットの要求油圧のマップである。図11は、排気側VVT18の要求油圧のマップである。各マップにおいて左から3列の「運転状態」、「回転速度」、「負荷」は、要求油圧が発せられる条件、即ち、各油圧作動装置が作動する条件や潤滑改善が必要となる条件を規定している。ベース油圧又は要求油圧が油温に応じて異なる場合に、「油温」の列に複数の油圧が規定され、油温ごとにベース油圧又は要求油圧が設定されている。また、第1行目の「油温」よりも右側のセルに規定された「500」等の数字は、エンジン回転速度を表しており、ベース油圧又は要求油圧がエンジン回転速度に応じて異なる場合に、エンジン回転速度に応じたベース油圧又は要求油圧が設定されている。エンジン回転速度の単位はrpmである。マップにおいて設定されたベース油圧又は要求油圧の単位はkPaである。
尚、図7〜図11は、マップの一部の抜粋であり、各油圧は、エンジン100の運転状態、エンジン回転速度、エンジン負荷、油温をさらに細分化して設定され得る。また、マップには油圧がエンジン回転速度等に応じて離散的に設定されているので、マップに設定されていないエンジン回転速度等における油圧は、マップに設定された油圧を線形補間して求められる。
ベース油圧は、油圧作動装置が作動していないときのエンジン100の基本的な運転に必要な油圧なので、図7に示すように、ベース油圧が発せられる特段の条件(運転状態、エンジン回転速度、エンジン負荷)は規定されていない。ベース油圧は、油温及びエンジン回転速度に応じて設定されている。エンジン回転速度が上昇するほど軸受メタル29等の潤滑部の潤滑が必要になるため、ベース油圧は、エンジン回転速度が上昇するにつれて大きくなるように設定されている。尚、エンジン回転速度が中回転領域にあるときには、ベース油圧は略一定の値となる。また、ベース油圧は、低回転領域においては、油温(Ta1<Ta2<Ta3)が高くなるほど、小さくなるように設定されている。
潤滑改善の要求は、主にアイドル運転時に発せられる場合がある。アイドル運転状態のときには、オイルミストの発生が減少する傾向にあり、コネクティングロッド25等のオイルミストによる潤滑が不十分となる場合がある。そこで、潤滑改善要求により油圧を高めて、オイルミストの発生を増加させる。つまり、図8に示すように、車速がS0以下であり且つアクセルが全閉時に潤滑改善要求が発せられる。また、そのようなエンジン100の運転状態において要求されるので、潤滑改善の要求油圧は、エンジン回転速度が比較的低いときにだけ設定されている。潤滑改善の要求油圧は、油温(Tb1>Tb2>Tb3>Tb4)が低くなるにつれて大きくなるように設定されている。油温が低いほど、オイルの粘度が増加し、オイルミストの発生が減少するためである。尚、図8では、エンジン回転速度が異なっても要求油圧が一定であるが、要求油圧がエンジン回転速度に応じて変化するようにしてもよい。例えば、エンジン回転速度が高くなるほど、要求油圧が高くなるように設定してもよい。
弁停止機構45d,46dの要求油圧は、図9に示すように、弁停止を実行するときと、弁停止を維持するときとの2つのマップが設定されている。弁停止機構45d,46dが作動するのは、エンジン100の運転状態に応じて弁停止が必要であると判定されたときである。そのため、マップにおいては、特定のエンジン回転速度及びエンジン負荷が作動条件としては規定されていない。弁停止機構45d,46dは、前述の如く、ロックピン45gが油圧によりロックスプリング45hの付勢力に抗して押圧されることで、弁停止が可能な状態となる。弁停止が実行された後は、ロックピン45gは、外筒45e内に収納された状態となるので、ロックピン45gをロックスプリング45hの付勢力に抗して押圧するほどの油圧は必要ない。そのため、弁停止を実行するための要求油圧は、相対的に高く、弁停止を維持するための要求油圧は、相対的に低く設定されている。
オイルジェット71は、気筒休止(弁停止)の有無、エンジン回転速度及びエンジン負荷に応じて作動条件が規定されている。オイルジェット71は、逆止弁が油圧により開けられることによってオイルを噴射するので、要求油圧は、図10に示すように一定である。
排気側VVT18の要求油圧は、図11に示すように、油温及びエンジン回転速度に応じて設定されている。要求油圧は、エンジン回転速度が上昇するにつれて大きくなるように、且つ、油温(Tc1<Tc2<Tc3)が低くなるにつれて小さくなるように設定されている。
続いて、図12を参照しながら、オイルポンプ81の吐出量制御における信号の流れについて説明する。
コントローラ60は、各種センサより検出されたエンジン回転速度及び油温をベース油圧マップに照らし合わせ、ベース油圧を求める。それに加え、コントローラ60は、油圧作動装置からの要求油圧及び潤滑改善のための要求油圧を受け取り、ベース油圧及び要求油圧の中から最大の油圧を目標油圧として設定する。エンジン100の運転状態によって複数の要求油圧が存在する場合もある。尚、要求油圧が無い場合には、コントローラ60は、ベース油圧を目標油圧として設定する。
別の見方をすれば、ベース油圧は、暫定的な目標油圧であり、油圧作動装置からの要求油圧や潤滑改善の要求油圧があり且つその要求油圧がベース油圧よりも大きい場合には、要求油圧が目標油圧に設定される。
次に、コントローラ60は、オイルポンプ81から油圧センサ50aの位置までオイルが流通するときの油圧低下代に基づいて目標油圧を増大させ、修正目標油圧を算出する。油圧低下代は、予めメモリに記憶されている。コントローラ60は、修正目標油圧をオイルポンプ81の流量(吐出量)に変換して、目標流量(目標吐出量)を得る。
続いて、コントローラ60は、目標流量を補正する。具体的には、コントローラ60は、排気側VVT18を作動させる場合の排気側VVT18の予測作動量を流量変換して、排気側VVT18の作動時の消費流量を得る。排気側VVT18の予測作動量は、現在の作動角と目標の作動角との差及びエンジン回転速度から求めることができる。また、コントローラ60は、弁停止機構45d,46dを作動させる場合の弁停止機構45d,46dの予測作動量を流量変換して、弁停止機構45d,46dの作動時の消費流量を得る。さらに、コントローラ60は、オイルジェット71を作動させる場合の消費流量を求める。コントローラ60は、作動させる油圧作動装置に対応する消費流量を求めて、その消費流量を用いて前述の目標流量を補正する。
エンジン100の定常運転時には、各油圧作動装置の予測作動量は0であるので、該油圧作動装置の作動に応じた目標油圧の補正はなされない。これに対し、エンジン100の過渡運転時には、作動する油圧作動装置に応じて目標油圧の補正がなされる。つまり、オイルポンプ81の吐出量が補正制御される。
さらに、コントローラ60は、目標流量を油圧フィードバック量によって補正する。この油圧フィードバック量は、エンジン100の過渡運転時に、油圧センサ50aにより検出される油圧(実油圧)が目標油圧の変化に対してどのように変化するかを予測した予測油圧と該検出される実油圧との偏差に応じた値である。実油圧が予測油圧よりも高いときには、油圧フィードバック量が負の値となり、目標流量を減量する一方、実油圧が予測油圧よりも低いときには、油圧フィードバック量が正の値となり、目標流量を増量する。実油圧が予測油圧と同じであれば、油圧フィードバック量は0であり、すなわち、油圧フィードバック量による補正は行われない。
エンジン100の過渡運転時において目標油圧が例えば、ステップ状に変化したとき、オイルポンプ81の応答遅れや、油圧がオイルポンプ81から油圧センサ50aの位置に達するまでの応答遅れ等を含む、油圧の応答遅れによって、実油圧は目標油圧の変化に対して遅れて追従する。このような油圧の応答遅れによる実油圧の変化は、予め実験等によって決められたむだ時間や時定数によって予測することができ、こうして予測した予測油圧を設定する。ただし、オイルポンプ81の定常運転時には、予測油圧は目標油圧と同じになり、目標油圧と実油圧との偏差をフィードバックする油圧フィードバック制御と実質的に同じになる。
目標油圧と実油圧との偏差をフィードバックする場合には、油圧の応答遅れによって、目標油圧が変化した直後の、目標油圧と実油圧との偏差が大きくなり過ぎて、実油圧の目標油圧に対するオーバーシュートやアンダーシュートが生じ易くなる。特にオイルポンプ81が劣化すると、該偏差がより大きくなる。これに対し、予測油圧と実油圧との偏差は通常小さいので、予測油圧と実油圧を偏差をフィードバックすることによって、実油圧が予測油圧に略沿って変化するようになるので、実油圧の目標油圧に対するオーバーシュートやアンダーシュートが生じ難くなる。この結果、実油圧を目標油圧にスムーズに一致させるようにすることができる。また、オイルポンプ81が劣化することにより、目標油圧が変化した直後の、目標油圧と実油圧との偏差が或る程度大きくなったとしても、実油圧が予測油圧に略沿って変化するようになるので、実油圧の目標油圧に対するオーバーシュートやアンダーシュートは生じ難くなる。
コントローラ60は、このように補正した目標流量とエンジン回転速度をディーティ比マップに照らし合わせて目標デューティ比を設定し、目標デューティ比を有する制御信号をオイル制御弁84に送信する。
続いて、コントローラ60によるオイルポンプ81の吐出量制御について図13のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1において、コントローラ60は、エンジン負荷、エンジン回転速度、油温及び水温を読み込む。コントローラ60は、ステップS2において、エンジン負荷及びエンジン回転速度等に基づいて、油圧作動装置の作動条件又は潤滑改善の条件を満たしているか否かを判定する。
油圧作動装置の作動条件及び潤滑改善の条件を満たしていない場合には、コントローラ60は、ステップS4において、ベース油圧マップから、エンジン回転速度及び油温に応じたベース油圧を求める。
一方、油圧作動装置の作動条件又は潤滑改善の条件を満たしている場合には、コントローラ60は、条件を満たしている油圧作動装置に対応する要求油圧又は潤滑改善の要求油圧をマップから読み込む(ステップS3)。その後、コントローラ60は、ステップS4へ進み、前述のようにベース油圧を求める。
そして、コントローラ60は、ベース油圧と要求油圧とを比較し、最も高い油圧を目標油圧として設定する(ステップS5)。尚、要求油圧が存在しない場合には、コントローラ60は、ベース油圧を目標油圧に設定する。
続いて、コントローラ60は、目標油圧に油圧低下代を加算して、修正目標油圧を算出し(ステップS6)、修正目標油圧を流量に変換して目標流量(目標吐出量)を求める(ステップS7)。さらに、コントローラ60は、作動する油圧作動装置に応じて目標流量を補正する(ステップS8)。例えば、コントローラ60は、目標流量に、VVTの作動時の消費流量、弁停止機構の作動時の消費流量、及び/又は、オイルジェットの作動時の消費流量を加算する。
そして、ステップS9において、コントローラ60は、目標流量をディーティ比マップに照らし合わせて目標デューティ比を設定する。コントローラ60は、現在の制御信号のデューティ比(以下、「現在デューティ比」という)を読み込むと共に、現在デューティ比が目標デューティ比と一致するか否かを判定する(ステップS10)。現在デューティ比が目標デューティ比と一致しない場合には、コントローラ60は、制御信号のデューティ比を目標デューティ比に変更し、該制御信号をオイル制御弁84へ出力する(ステップS11)。その後、コントローラ60は、ステップS12へ進む。一方、現在デューティ比が目標デューティ比と一致する場合には、コントローラ60は、ステップS11を経ることなく、ステップS12へ進む。
ステップS12では、コントローラ60は、油圧センサ50aの油圧(以下、「実油圧」という)を読み込む。そして、コントローラ60は、実油圧がステップS5の目標油圧と一致するか否かを判定する(ステップS13)。
実油圧と目標油圧とが一致しない場合には、コントローラ60は、実油圧と目標油圧との偏差に基づいて制御信号のデューティ比を調整し、その制御信号をオイル制御弁84へ出力する(ステップS14)。そして、コントローラ60は、油圧センサ50aの実油圧を読み込み(ステップS15)、該実油圧がステップS6の目標油圧と一致するか否かを判定する(ステップS16)。実油圧が目標油圧と一致する場合には、コントローラ60は、ステップS18へ進む。一方、実油圧が目標油圧と一致しない場合には、コントローラ60は、実油圧がステップS4のベース油圧以上となっているか否かを判定する(ステップS17)。実油圧がベース油圧以上の場合には、コントローラ60は、ステップS14に戻って、再度、デューティ比の調整を行う。コントローラ60は、ステップS14〜S17を繰り返すことによって実油圧を目標油圧に一致させる。
尚、ステップS13において実油圧と目標油圧とが一致する場合には、コントローラ60は、ステップS14〜S16を経ることなく、ステップS18へ進む。
ステップS18では、コントローラ60は、エンジン負荷、エンジン回転速度及び油温を読み込む。そして、コントローラ60は、エンジン負荷、エンジン回転速度又は油温がステップS1で読み込んだ値と変わっていないかを判定する(ステップS19)。エンジン負荷、エンジン回転速度及び油温が変わっていない場合には、コントローラ60は、ステップS12に戻り、実油圧の読み込みからの処理を繰り返す。つまり、エンジン負荷、エンジン回転速度及び油温が変わらない場合には目標油圧も一定なので、コントローラ60は、実油圧が目標油圧と一致するかの監視を続け、実油圧が目標油圧からずれるとステップS14〜S17を行うことによって実油圧を目標油圧に一致させる。
一方、エンジン負荷、エンジン回転速度及び油温の何れかが変わっている場合には、コントローラ60は、ステップS2に戻り、ステップS2以降の処理を繰り返す。つまり、コントローラ60は、目標油圧の設定からやり直す。
一方、ステップS17において、実油圧がベース油圧未満の場合には、コントローラ60は、油圧作動装置を含むオイル供給装置200の故障と判定し(ステップS20)、フェイルセーフモードへ移行する(ステップS21)。フェイルセーフモードでは、コントローラ60は、警報を出し、エンジン100の運転状態を制限すると共に、オイルポンプ81の吐出量が最大となるように制御信号を変更する。
目標油圧は、前述のように、ベース油圧及び要求油圧のうち最大のものに設定されるので、目標油圧は常にベース油圧以上である。つまり、吐出量制御においては、目標油圧はベース油圧以上に設定される。そのため、流量制御が適切に行われている場合には、実油圧がベース油圧以上となる。実油圧がベース油圧未満になる場合は、例えば、リーク量が多く、実油圧を適切に上昇させることができない等、吐出量制御が適切に行われていない場合である。そこで、コントローラ60は、実油圧がベース油圧未満の場合には、フェイルセーフモードに移行する。このように、ベース油圧は、目標油圧の設定に用いられるだけでなく、故障判定にも用いられる。
フェイルセーフモードにおいては、コントローラ60は、例えば、警報ランプを点灯させたり、警報音を鳴らしたりする。また、コントローラ60は、油圧作動装置からの要求油圧が高くなる運転状態とならないように、エンジン100の運転状態を制限する。それに加えて、コントローラ60は、オイルポンプ81の最大容量にし、オイルによる潤滑及び冷却並びに油圧作動装置の作動をできる限り確保する。
このように構成されたオイル供給装置200におけるオイルポンプ81の吐出量制御は、オイルのリークの影響を受ける。前述のように、リーク量が過大になると故障判定がなされるのはもちろんのこと、リーク量が増えると、オイルポンプ81の仕事量が増加し、燃料消費量が増加してしまう。
詳しくは、コントローラ60は、油圧センサ50aにより検出される実油圧が目標油圧となるようにオイルポンプ81の吐出量を制御している。リーク量が増加すると、目標油圧が同じであっても、オイルポンプ81の必要な吐出量が増加し、オイルポンプ81の仕事量が増加してしまう。特に、エンジン回転速度が低い低回転領域においては、オイルポンプ81の吐出量が小さいため、リークの影響が大きくなる。そして、オイルのリーク量は、油温が高くなるほど増加してしまう。それは、油温が高くなるほどオイル粘度が低下するためである。
そこで、オイル供給装置200においては、目標油圧が、油温が高いほど低くなるように設定されている。詳しくは、図7のベース油圧マップに示すように、エンジン回転速度が所定の回転速度以下の低回転領域においては、ベース油圧は、油温が高くなるほど低くなるように設定されている。前述の如く、リークの影響が大きくなるのはエンジン回転速度が低い運転領域であり、さらに、エンジン回転速度が低い運転領域においては、油圧作動装置からの要求油圧や潤滑改善の要求油圧が存在しないか又は小さいので、ベース油圧が目標油圧に設定される傾向にある。そのため、ベース油圧を油温が高くなるほど低くなるように設定することは、低回転領域における目標油圧を油温が高くなるほど低くすることに等しい。
図7のベース油圧マップに設定された油圧をグラフに示すと、図14のようになる。オイルポンプ81はクランクシャフト26により駆動されているので、低回転領域においては、オイルポンプ81の吐出量は小さく、エンジン回転速度の増大につれてオイルポンプ81の吐出量が増加するようにベース油圧が設定されている。そして、エンジン回転速度に対するベース油圧の傾きが、油温が高くなるほど小さくなるようにベース油圧が設定されている。ただし、ベース油圧は、軸受メタル29等の潤滑部の潤滑に必要な油圧よりは大きな値に設定されている。
これによれば、油温が高くなりリーク量が増加したとしても、ベース油圧、即ち、目標油圧が小さくなるので、オイルポンプ81の仕事量の増加が抑制される。前述の如く、エンジン回転速度が高くなると、オイルの流量も増大し、リークの影響が小さくなるので、少なくとも低回転領域においてこのような制御を行うことによって、燃費の向上を図ることができる。特に、エンジン100が長期に運転されると、エンジン100の各部のクリアランスが大きくなり、リークの影響が大きくなる。そのため、エンジン100の長期運転により各部のクリアランスが大きくなったときに、この制御が特に有効となる。
尚、このように油温が高い場合には、油圧が低く制御されるものの、油温が高いことにより粘度が低くなる。そのため、オイル自体は流れ易くなる。その結果、油圧を低くしても、エンジンの潤滑部や油圧作動装置に与える影響は、それほど大きくない。
ただし、このように油圧を低く制御する結果、エンジンの潤滑部の潤滑は確保できるものの、要求油圧の大きな油圧作動装置を適切に作動させることができない虞がある。
そこで、低回転領域においては、少なくとも一部の油圧作動装置の作動を禁止している。具体的には、図11に示すように、エンジン回転速度が1000rpm以下であって、油温がTc2以上の運転領域においては、排気側VVT18の作動を禁止している。こうすることによって、油圧が低い運転領域において、排気側VVT18の動作が不安定になることを防止することができる。
また、オイル供給装置200においては、前記ステップS17のように、ベース油圧を異常判定の判定値として用いている。具体的には、コントローラ60は、実油圧が目標油圧となるように制御しても実油圧が目標油圧にならないときに実油圧がベース油圧未満である場合には、オイル供給装置200が故障していると判定する。
しかしながら、低回転領域では、エンジン回転速度が小さく、オイルポンプ81の最大吐出量も小さい。そのため、ベース油圧は、オイルポンプ81が最大容積のときに達成できる油圧(以下、「油圧上限値」という)よりも小さいものの、油圧上限値から大幅に小さいわけではない。前述の如く、油温が上昇することによってリーク量が増えるので、油圧上限値も油温の上昇に伴って低下する。それにもかかわらず、ベース油圧が一定であると、油圧上限値がベース油圧を下回る場合がある。例えば、図14に、油温がTa1のときの油圧上限値を破線L1で示している。油温がTa1のときのベース油圧は、油圧上限値L1よりも低い値に設定されている。しかしながら、油温がTa1からTa2に上昇すると、油圧上限値は破線L2まで低下する場合もある。このような場合には、もはやベース油圧を達成することはできない。そのため、ベース油圧を異常判定の判定値に用いている場合には、オイル供給装置200の故障と判定されてしまう。
それに対し、本実施形態では、ベース油圧は油温Ta1が上昇するほど低くなるように設定されている。つまり、油温がTa1からTa2に上昇するときには、ベース油圧も、油温Ta1のときのベース油圧から油温Ta2のときのベース油圧に変更されている。このように油温に応じて変更されるベース油圧は、その油温に対応する油圧上限値よりも低い値であるので、油圧上限値がベース油圧を下回ることはない。その結果、油温の上昇に起因するリーク量の増加を故障であると判定してしまうことを防止することができ、ひいては、異常判定を適切に行うことができる。