以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、車両に搭載されるエンジン1を制御するECU100に本発明を適用した場合について説明する。
−エンジンの概略構成−
まず、図1を参照して、エンジン1の概略構成について説明する。なお、図1では、エンジン1の外形を仮想線で示した。
エンジン(内燃機関)1は、たとえば、クランクシャフト13の長手方向(以下、前後方向という)に4つのシリンダ(図示省略)が設けられた直列4気筒ガソリンエンジンである。それぞれのシリンダにはピストン12(図には1つのみ示す)が収容され、コネクティングロッド12aを介してクランクシャフト13に連結されている。クランクシャフト13は、複数のクランクジャーナル13aによってエンジン1の下部(クランクケース)に回転自在に支持されている。
また、エンジン1の上部には、各シリンダの吸気バルブ12bおよび排気バルブ12cを駆動する動弁系のカムシャフト14および15が配設されている。一例として動弁系は、DOHCタイプのものであり、吸気側のカムシャフト14が複数のカムジャーナル14aによって回転自在に支持され、排気側のカムシャフト15が複数のカムジャーナル15aによって回転自在に支持されている。カムシャフト14および15には、それぞれ、クランクシャフト13に対する回転位相を変更するための可変バルブタイミング機構70および80が設けられている。
可変バルブタイミング機構70および80には、それぞれカムスプロケット14bおよび15bが取り付けられ、クランクシャフト13の前端部には、クランクスプロケット(図示省略)が取り付けられている。そして、クランクスプロケット、カムスプロケット14bおよび15bには、タイミングチェーン3が巻き掛けられている。
クランクシャフト13には、クランクスプロケットの後側に隣接して、オイルポンプ5を駆動するためのスプロケット(図示省略)も取り付けられている。オイルポンプ5はクランクシャフト13の前端部の下方に配設され、その入力軸5aにはポンプスプロケット5bが取り付けられている。そして、そのポンプスプロケット5bとクランクシャフト13のスプロケットとの間にチェーン4が巻き掛けられている。
かかる構成により、クランクシャフト13の回転がチェーン4などを介して入力軸5aに伝達され、オイルポンプ5が動作するようになっている。このオイルポンプ5の動作によって、エンジン1の下部のオイルパン16内に貯留されているエンジンオイル(以下、単にオイルともいう)が、図示省略のオイルストレーナを介して吸い上げられ、そして、オイルポンプ5から吐出油路6aに吐出される。
こうしてオイルポンプ5から吐出されたオイルは、吐出油路6aを流通してオイルフィルタ6に至り、ここで異物や不純物などが濾過された後にオイル供給系2のメインギャラリ20に流入する。メインギャラリ20は、図1の例ではエンジン1の前後方向に延びていて、複数の分岐オイル通路21〜23にオイルを分配する。たとえば、メインギャラリ20から下方に延びる複数の分岐オイル通路21によって、クランクジャーナル13aにオイルが供給される。また、メインギャラリ20の両端からそれぞれ上方に延びる分岐オイル通路22および23によって、カムジャーナル14aおよび15aなどにオイルが供給される。
−オイルポンプ−
次に、図2および図3を参照して、オイルポンプ5について説明する。オイルポンプ5は、たとえば内接歯車型であり、入力軸5aにより回転される外歯車のドライブロータ51と、これに噛み合って回転される内歯車のドリブンロータ52とを備える。ドリブンロータ52の外周は調整リング53によって保持されている。
オイルポンプ5のハウジング50には、ドライブロータ51、ドリブンロータ52、調整リング53などを収容する収容部50aが設けられている。この収容部50aは、ハウジング50に形成された凹状部50bと、凹状部50bの開放端を塞ぐように設けられたカバー(図示省略)とにより構成されている。凹状部50bには貫通孔(図示省略)が形成され、その貫通孔に入力軸5aが挿通されている。この入力軸5aにはドライブロータ51が取り付けられている。
ドライブロータ51には、外周にトロコイド曲線またはトロコイド曲線に近似した曲線(たとえばインボリュート、サイクロイドなど)を有する外歯51aが複数形成されている。一方、ドリブンロータ52は、リング状に形成され、その内周にドライブロータ51の外歯51aと噛み合う内歯52aが複数形成されている。本実施形態では、外歯51aが11個設けられるとともに、内歯52aが外歯51aよりも1つ多い12個設けられている。
また、ドリブンロータ52の中心はドライブロータ51の中心に対して所定量偏心しており、それらの中心を結ぶ偏心方向における一方側(図2では左上側)においてドライブロータ51の外歯51aとドリブンロータ52の内歯52aとが噛み合っている。
そして、ドライブロータ51とドリブンロータ52との間の空間には、円周方向に並んで複数の作動室Rが形成され、これらの作動室Rが、ドライブロータ51およびドリブンロータ52の回転に連れて円周方向に移動しながら、その容積が増減するようになっている。
より詳しくは、ドライブロータ51およびドリブンロータ52が互いに噛み合う位置(図2では左上の位置)から、図2に矢印で示すロータ回転方向に約180度に亘る範囲(図2では左下側の範囲)において、徐々に作動室Rの容積が増大する。一方、残りの約180度に亘る範囲(図2では右上側の範囲)では、徐々に作動室Rの容積が減少する。
そして、作動室Rの容積が増大する範囲が、吸入ポート50cからオイルが吸入される吸入範囲であり、作動室Rの容積が減少する範囲が、オイルが加圧されながら吐出ポート50dに送り出される吐出範囲である。なお、吸入ポート50cおよび吐出ポート50dは、ハウジング50の凹状部50bに設けられており、吸入ポート50cが吸入範囲に対応するように配置され、吐出ポート50dが吐出範囲に対応するように配置されている。
吸入ポート50cは、油路(図示省略)を介してオイルストレーナに連通されている。なお、吸入ポート50cの一部は、調整リング53の外側においても開口しており、後述する低圧空間TLに連通している。一方、吐出ポート50dは、ハウジング50の内部に形成された油路50eを介して吐出油路6aに連通されている。
このように構成されたオイルポンプ5は、クランクシャフト13の回転力を受けて入力軸5aが回転することにより、ドライブロータ51およびドリブンロータ52が互いに噛み合いながら回転し、それらの間に形成される作動室Rに吸入ポート50cからオイルを吸い込んで、吐出ポート50dから吐出する。
−容量可変機構−
オイルポンプ5は、制御空間TCの容積を変更することで、入力軸5aの1回転あたりの吐出量、すなわちポンプ容量を変更可能な容量可変機構を備えている。この容量可変機構は、ハウジング50の収容部50a内に形成した制御空間TCの油圧によって調整リング53を変位させるものである。この調整リング53の変位によって、ドライブロータ51およびドリブンロータ52の吸入ポート50cおよび吐出ポート50dに対する相対的な位置が変化し、ポンプ容量が変更される。
詳しくは、調整リング53は、ドリブンロータ52を保持するリング状の本体部53aと、この本体部53aの外周から外方に張り出す張出部53bと、これよりも大きく外方に延びるアーム部53cとが一体に形成されたものである。そして、アーム部53cに作用するコイルバネ54の押圧力によって、調整リング53は、入力軸5aの周りを図2の時計回りに回動(変位)するように付勢されている。すなわち、コイルバネ54は、制御空間TCの容積が小さくなる向きに調整リング53を付勢している。
そのような調整リング53の変位の軌跡は、ハウジング50の凹状部50bに突設されたガイドピン55および56によって規定されている。すなわち、調整リング53の張出部53bには、入力軸5aの軸芯を中心とする円弧状の長穴53dおよび53eが形成されており、その内部にガイドピン55および56が遊嵌状態で収容されている。これにより、調整リング53が入力軸5aの周りを公転することが可能である。
また、調整リング53のアーム部53cは、ハウジング50の収容部50a内に周方向に並んで形成される制御空間TCと低圧空間TLとの間を仕切っている。このアーム部53cの先端側には第1のシール材57が配設され、その第1のシール材57が対向する凹状部50bの周壁と摺接するようになっている。この第1のシール材57によって、制御空間TCと低圧空間TLとの間のオイルの流通が制限されている。
低圧空間TLは、図2においては収容部50a内の左側から下側にかけて、調整リング53の本体部53aの外周と凹状部50bの周壁とによって囲まれる領域に形成されている。そして、上述したように低圧空間TLに臨んで吸入ポート50cの一部が開口しており、低圧空間TLは吸入ポート50cと連通している。
一方、制御空間TCは、調整リング53の張出部53bの外周と凹状部50bの周壁とによって囲まれ、かつ、第1のシール材57と第2のシール材58とによってオイルの流れが制限される領域に形成されている。なお、第2のシール材58は、張出部53bの外周に配設され、対向する凹状部50bの周壁と摺接するようになっている。
また、凹状部50bの周壁と調整リング53との間には第3のシール材59が配設されている。これらのシール材57〜59は、たとえば、耐摩耗性に優れた樹脂材などによって形成されている。
そして、凹状部50bには制御空間TCに臨んで丸穴61aが形成され、その丸穴61aが制御油路61に連通されている。これにより、制御空間TCには、後述するOCV60から制御油圧が供給されるようになっている。この制御油圧によってアーム部53cには、調整リング53を反時計回りに回動させるような押圧力が作用し、この押圧力とコイルバネ54の押圧力(付勢力)との関係によって、調整リング53の位置が決まることになる。
そのような制御油圧の調整により、調整リング53を変位させて、オイルポンプ5の容量を制御することができる。すなわち、制御油圧が小さいときに調整リング53は、コイルバネ54の押圧力によって、図2に示す最大ポンプ容量位置に位置付けられる。制御油圧が大きくなると、これを受けた調整リング53は、コイルバネ54の押圧力に抗して反時計回りに回動(変位)する。これによりポンプ容量は小さくなってゆき、最終的には図3に示す最小ポンプ容量位置になる。
−OCV−
次に、図4および図5を参照して、制御油圧を調整するためのOCV(Oil Control Valve:油圧制御弁)60について説明する。
OCV60は、スリーブ62内を移動するスプール63と、スプール63を付勢するコイルバネ64と、コイルバネ64の付勢力に抗してスプール63を移動させるための電磁駆動部65とを備えている。
スリーブ62には、制御ポート62a、供給ポート62bおよび排出ポート62cが形成されている。制御ポート62aは、制御油路61を介して制御空間TC(図2および図3参照)に接続されている。供給ポート62bは、オイルポンプ5の吐出油路6aから分岐する供給油路6b(図2および図3参照)に接続されている。
スプール63は、スリーブ62内を移動可能に構成されており、制御ポート62aと排出ポート62cとを連通する状態(図4に示す状態)と、制御ポート62aと供給ポート62bとを連通する状態(図5に示す状態)とを切り換え可能になっている。また、スプール63は、コイルバネ64により付勢されており、後述するロッド65cに当接されている。
電磁駆動部65は、プランジャ65aと、プランジャ65aを移動させるためのソレノイド65bとを含んでいる。プランジャ65aにはロッド65cが連結されており、そのロッド65cにスプール63が当接されている。このため、プランジャ65aが移動されると、ロッド65cが一体的に移動され、そのロッド65cの移動に追従するようにスプール63が移動される。ソレノイド65bには、後述するECU100から出力されるDuty信号が供給され、その電流値に応じてプランジャ65aの位置が変化するようになっている。
そして、OCV60では、ソレノイド65bに供給される電流値が所定値よりも小さい場合には、コイルバネ64の付勢力によってスプール63が一方端部側(X1方向側)に配置されるので、制御ポート62aと排出ポート62cとが連通される。このため、制御空間TCから制御油路61を介して制御ポート62aまで還流してきたオイルが、図4に示すようにOCV60内の油路を流通して、排出ポート62cから排出(ドレン)されるようになる。
その一方、ソレノイド65bに供給される電流値が所定値よりも大きくなると、ソレノイド65bの発生する電磁力が大きくなり、コイルバネ64の付勢力に抗してスプール63が他方端部側(X2方向側)に移動されるので、制御ポート62aと供給ポート62bとが連通される。このため、オイルポンプ5から供給油路6bを介して供給ポート62bに供給されてきたオイルが、図5に示すようにOCV60内の油路を流通して、制御ポート62aから制御油路61へ送り出されるようになる。そして、制御ポート62aと供給ポート62bとが連通された状態でスプール63の位置が変化すると、油路の断面積が変化するため、制御ポート62aから送り出されるオイルの圧力、すなわち制御油圧が変化される。
−可変バルブタイミング機構−
次に、図6を参照して、エンジン1に設けられた可変バルブタイミング機構70および80について説明する。可変バルブタイミング機構70および80は、それぞれ、クランクシャフト13(図1参照)に対するカムの位相を油圧で変更することにより、吸気バルブ12bおよび排気バルブ12c(図1参照)のバルブタイミング(開弁時期)を変更するように構成されている。
吸気側の可変バルブタイミング機構70は、ベーンロータ71と、ベーンロータ71を収容するハウジング72とを備えている。ベーンロータ71は、吸気側のカムシャフト14(図1参照)に連結されており、そのカムシャフト14と一体的に回転するように構成されている。ハウジング72は、カムスプロケット14b(図1参照)に連結されており、そのカムスプロケット14bと一体的に回転するように構成されている。そして、ベーンロータ71およびハウジング72は、同軸上に配置され、相対的に回動可能に設けられている。
ハウジング72の内部には、ベーンロータ71のベーンによって仕切られる進角室73aおよび遅角室73bが形成されている。進角室73aは、ベーンに対してベーンロータ71の回転方向とは反対側に配置され、遅角室73bは、ベーンに対してベーンロータ71の回転方向側に配置されている。
また、吸気側の可変バルブタイミング機構70には、ハウジング72に対するベーンロータ71の相対的な位置を調節するためのOCV74が設けられている。OCV74は、スリーブ75内を移動するスプール76と、スプール76を付勢するコイルバネ77と、コイルバネ77の付勢力に抗してスプール76を移動させるための電磁駆動部78とを含んでいる。
スリーブ75には、進角室73aに接続される進角ポート75aと、遅角室73bに接続される遅角ポート75bと、メインギャラリ20を介してオイルポンプ5に接続される供給ポート75cと、オイルパンに接続される排出ポート75dおよび75eとが形成されている。
スプール76は、スリーブ75内を移動可能であり、スリーブ75内における位置に応じて各ポートの接続状態を変化させるようになっている。電磁駆動部78は、後述するECU100からDuty信号が供給されるソレノイドなどを含み、ECU100からの電流値に応じてスプール76を移動させるように構成されている。
そして、可変バルブタイミング機構70では、進角ポート75aと供給ポート75cとが連通されるとともに、遅角ポート75bと排出ポート75eとが連通された場合には、オイルポンプ5からメインギャラリ20を介して進角室73aに油圧が供給されるとともに、遅角室73bの油圧がオイルパンにドレンされる。これにより、ベーンロータ71がハウジング72に対して進角側(ベーンロータ71の回転方向側)に回動される。すなわち、クランクシャフト13に対する吸気側のカムシャフト14の回転位相が進角され、吸気バルブ12bのバルブタイミングが進角される。
その一方、遅角ポート75bと供給ポート75cとが連通されるとともに、進角ポート75aと排出ポート75dとが連通された場合には、オイルポンプ5からメインギャラリ20を介して遅角室73bに油圧が供給されるとともに、進角室73aの油圧がオイルパンにドレンされる。これにより、ベーンロータ71がハウジング72に対して遅角側(ベーンロータ71の回転方向とは反対側)に回動される。すなわち、クランクシャフト13に対する吸気側のカムシャフト14の回転位相が遅角され、吸気バルブ12bのバルブタイミングが遅角される。
なお、スプール76により、進角ポート75aおよび遅角ポート75bが閉塞された場合には、進角室73aおよび遅角室73bに対するオイルの給排が停止されるので、ベーンロータ71のハウジング72に対する位置が維持される。
排気側の可変バルブタイミング機構80は、ベーンロータ81と、ベーンロータ81を収容するハウジング82と、ハウジング82に形成された進角室83aおよび遅角室83bと、ハウジング82に対するベーンロータ81の相対的な位置を調節するためのOCV84とを備えている。なお、可変バルブタイミング機構80は、上記した可変バルブタイミング機構70とほぼ同様に構成されているため、重複する説明を省略する。
−ECU−
次に、図7を参照して、エンジン1を制御するECU100について説明する。なお、ECU100は、本発明の「内燃機関の制御装置」の一例である。
本実施形態によるECU100は、CPU101と、ROM102と、RAM103と、バックアップRAM104と、入力インターフェース105と、出力インターフェース106と、これらを互いに接続するバス107とを備えている。
CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップなどに基づいて演算処理を実行する。ROM102には、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップなどが記憶されている。RAM103は、CPU101による演算結果や各種センサの検出結果などを一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM104は、イグニッションをオフする際に保存すべきデータなどを記憶する不揮発性のメモリである。
入力インターフェース105には、エンジン1の冷却水温度を検出する水温センサ110、吸入空気量を計測するエアフロメータ111、吸入空気温度を計測する吸気温センサ112、排気系に備えられたO2センサ113、アクセル開度を検出するアクセルポジションセンサ114、スロットルバルブの開度(スロットル開度)を検出するスロットルポジションセンサ115、クランクシャフト13の回転位置を検出するクランクポジションセンサ116、吸気側のカムシャフト14の回転位置を検出するカムポジションセンサ117a、排気側のカムシャフト15の回転位置を検出するカムポジションセンサ117b、メインギャラリ20内の油圧(実吐出油圧)を検出する油圧センサ118、および、メインギャラリ20内の油温を検出する油温センサ119などが接続されている。
出力インターフェース106には、インジェクタ7、点火プラグのイグナイタ8、スロットルバルブのスロットルモータ9、オイルポンプ5のOCV60、吸気側の可変バルブタイミング機構70のOCV74、および、排気側の可変バルブタイミング機構80のOCV84などが接続されている。そして、ECU100は、各種センサの検出結果などに基づいて、スロットル開度、燃料噴射量および点火時期などを制御することにより、エンジン1の運転状態を制御可能に構成されている。
具体的には、ECU100は、吸入空気量に応じて吸気側の可変バルブタイミング機構70の目標位相を設定して、その目標位相と実位相との偏差が無くなるようにOCV74を制御する。たとえば、図8に示すように、スロットル開度が大きくされると、そのスロットルの変化に遅れて吸入空気量が増加する。このとき、ECU100では、吸入空気量の増加に応じて可変バルブタイミング機構70の目標位相を遅角側から進角側にするとともに、その目標位相に実位相が追従するようにOCV74を制御する。なお、吸入空気量は、エアフロメータ111によって検出され、可変バルブタイミング機構70の実位相は、クランクポジションセンサ116およびカムポジションセンサ117aの検出結果に基づいて算出される。また、可変バルブタイミング機構70の目標位相は、たとえば、吸入空気量をパラメータとする第1のマップから導出される。
同様に、ECU100は、吸入空気量に応じて排気側の可変バルブタイミング機構80の目標位相を設定して、その目標位相と実位相との偏差が無くなるようにOCV84を制御する。なお、排気側の可変バルブタイミング機構80の実位相は、クランクポジションセンサ116およびカムポジションセンサ117bの検出結果に基づいて算出される。また、可変バルブタイミング機構80の目標位相は、たとえば、吸入空気量をパラメータとする第2のマップから導出される。なお、可変バルブタイミング機構80の目標位相を導出するための第2のマップと、可変バルブタイミング機構70の目標位相を導出するための第1のマップとは、異なるマップである。
さらに、ECU100は、エンジン1の運転状態などに応じてオイルポンプ5の吐出油圧を制御するとともに、その制御された吐出油圧となるようにOCV60によりポンプ容量を制御する。具体的には、ECU100では、オイルポンプ5の目標吐出油圧と、オイルポンプ5から実際に吐出された実吐出油圧との偏差に基づいてフィードバック制御を行うことにより、オイルポンプ5に要求する要求吐出油圧を算出し、その要求吐出油圧がオイルポンプ5から出力されるようなDuty信号が生成されてOCV60に供給される。これにより、オイルポンプ5がオイルを吐出するのに必要な動力(エンジン1から受ける動力)を必要最小限に抑えてエンジン1の燃費の改善を図ることが可能である。
ここで、オイルポンプ5からの油圧を動力源とする可変バルブタイミング機構70および80においては、動作の応答性を確保するために、その動作開始前までにある程度の油圧(非動作時よりも高い油圧)が必要になる。そこで、本実施形態のECU100では、可変バルブタイミング機構70および80の動作を予測し、可変バルブタイミング機構70および80が動作を開始する前にオイルポンプ5の目標吐出油圧を上げるように構成されている。そして、可変バルブタイミング機構70および80の動作が完了する(実位相が目標位相に収束する)まで、オイルポンプ5の目標吐出油圧を上げた状態で維持するようになっている。
なお、可変バルブタイミング機構70および80は吸入空気量に応じて動作するように構成されており、吸入空気はスロットルに遅れて変化するため、スロットル開度に基づいて将来の吸入空気量を先読みすることによって、可変バルブタイミング機構70および80の動作を予測することが可能である。また、目標吐出油圧を上げるとは、可変バルブタイミング機構70および80の動作が予測されておらず、かつ、可変バルブタイミング機構70および80が動作していない場合に比べて目標吐出油圧を上げることを意味する。
具体的には、ECU100は、スロットル開度に基づいて可変バルブタイミング機構70の将来の目標位相を予測する(先読みする)とともに、その将来の目標位相から将来の実位相を推定し、将来の目標位相と将来の実位相の推定値との偏差である先読み偏差を算出する。なお、将来の目標位相は、現在のスロットル開度から所定時間T(図8参照)が経過する時点で予測される吸入空気量に応じて設定され、所定時間Tは、スロットルに対する吸入空気の応答遅れを考慮して予め設定された時間である。このため、将来の目標位相は、たとえば、現在のスロットル開度から所定時間Tが経過する時点で予測される吸入空気量(将来の吸入空気量)を用いて、上記した第1のマップから導出される。すなわち、ECU100は、現時点に対して所定時間Tが経過した時点である将来の目標位相をスロットル開度から先読みする。
そして、本実施形態では、将来の実位相の推定値として、将来の目標位相をなましたなまし値を用いている。将来の目標位相のなまし値は、将来の目標位相に遅れて追従するようになっている。たとえば、将来の目標位相のなまし値は、将来の目標位相に対して一次遅れ処理を施すことによって算出される。なお、一次遅れの時定数は、吸入空気の応答遅れを考慮して予め設定された値である。将来の目標位相のなまし値の算出式の一例としては、以下の式(1)が挙げられる。
Phs(n)=Phs(n−1)+(Ph(n)−Phs(n−1))/K・・(1)
なお、式(1)において、Phs(n)は、今回の制御周期での将来の目標位相のなまし値であり、Phs(n−1)は、前回の制御周期での将来の目標位相のなまし値である。Ph(n)は、今回の制御周期での将来の目標位相である。Kは、なまし係数であり、時定数および制御周期によって定められる値である。
このため、たとえば、図9に示すように、スロットル開度が大きくされ、将来の目標位相が大きくなると、将来の目標位相からそのなまし値(将来の実位相の推定値)が乖離されて先読み偏差が発生する。ここで、将来の目標位相は、応答遅れを考慮して所定時間T分だけ目標位相を先読みしたものであり、スロットルが変化するとすぐに立ち上がるので、スロットルの変化直後に先読み偏差が発生する。なお、スロットル開度の変化度合いが大きくなるほど、将来の目標位相からのなまし値の乖離が大きくなることから、先読み偏差が大きくなる。
また、ECU100は、可変バルブタイミング機構70の現在の目標位相と現在の実位相との偏差である実偏差を算出する。なお、現在の目標位相は、現在の吸入空気量から第1のマップを用いて導出され、現在の実位相は、クランクポジションセンサ116およびカムポジションセンサ117aの検出結果に基づいて算出される。
同様に、ECU100は、スロットル開度に基づいて可変バルブタイミング機構80の将来の目標位相を予測する(先読みする)とともに、その将来の目標位相から将来の実位相を推定し、将来の目標位相と将来の実位相の推定値との偏差である先読み偏差を算出する。なお、将来の目標位相は、たとえば、現在のスロットル開度から所定時間Tが経過する時点で予測される吸入空気量(将来の吸入空気量)を用いて、上記した第2のマップから導出される。また、将来の実位相の推定値は、たとえば、将来の目標位相のなまし値であり、将来の目標位相に対して一次遅れ処理を施すことによって算出される。
また、ECU100は、可変バルブタイミング機構80の現在の目標位相と現在の実位相との偏差である実偏差を算出する。なお、現在の目標位相は、現在の吸入空気量から第2のマップを用いて導出され、現在の実位相は、クランクポジションセンサ116およびカムポジションセンサ117bの検出結果に基づいて算出される。
そして、ECU100は、吸気側の可変バルブタイミング機構70の先読み偏差および実偏差と、排気側の可変バルブタイミング機構80の先読み偏差および実偏差との中から最も大きいものを選択し、その選択された偏差に応じてオイルポンプ5の目標吐出油圧を設定するように構成されている。なお、選択された偏差の値が大きくなるほど、目標吐出油圧が高くなるように構成されている。
これにより、図10に示すように、スロットル開度が大きくされ、吸気側の可変バルブタイミング機構70が進角されるとともに、排気側の可変バルブタイミング機構80が動作しない場合(可変バルブタイミング機構70の先読み偏差および実偏差が発生し、可変バルブタイミング機構80の先読み偏差および実偏差が発生しない場合)を一例として説明すると、可変バルブタイミング機構70が動き出す前に先読み偏差が発生して、オイルポンプ5の目標吐出油圧が予め高く設定される。このため、可変バルブタイミング機構70が動作を開始する前に、メインギャラリ20の油圧、すなわちOCV74に供給される油圧を予め高くしておくことができる。そして、可変バルブタイミング機構70が動き始めて実偏差が発生すると、先読み偏差が無くなったとしても、実偏差が無くなるまで、目標吐出油圧を高くしておくことができる。すなわち、実位相が目標位相に収束して、可変バルブタイミング機構70の動作が完了されるまで、油圧を確保するとともに、適切なタイミングで油圧を下げることができる。なお、図10では説明を簡略化するために可変バルブタイミング機構70の先読み偏差および実偏差のみを示したが、実際には、動作しない場合にはゼロのままであるが可変バルブタイミング機構80の先読み偏差および実偏差も算出され、4つの偏差のうち最も大きい偏差に応じて目標吐出油圧が設定されるようになっている。
−オイルポンプの油圧制御−
次に、図11を参照して、ECU100により実行されるオイルポンプ5の油圧制御について説明する。なお、以下のフローは、ECU100により所定の時間間隔毎に繰り返し実行される。
まず、ステップS1において、オイルポンプ5から実際に吐出された実吐出油圧が算出される。この実吐出油圧は、たとえば、油圧センサ118によって検出されるメインギャラリ20内の油圧である。
次に、ステップS2において、エンジン1の回転数および負荷率や可変バルブタイミング機構70および80の状態などに基づいて目標吐出油圧が算出される。なお、この目標吐出油圧の算出については、後で詳細に説明する。
次に、ステップS3において、目標吐出油圧と実吐出油圧とに基づいてフィードバック制御を行うことにより、オイルポンプ5に要求する要求吐出油圧が算出される。
次に、ステップS4において、オイルポンプ5が要求吐出油圧を出力するようにOCV60が制御される。すなわち、オイルポンプ5が要求吐出油圧を出力するようなポンプ容量になるように、Duty信号が算出されてOCV60に供給される。その後、リターンに移る。
[目標吐出油圧の算出]
次に、図12を参照して、上記したステップS2における目標吐出油圧の算出について詳細に説明する。
まず、ステップS11において、吸気側の可変バルブタイミング機構70の先読み偏差が算出される。具体的には、現在のスロットル開度に基づいて可変バルブタイミング機構70の将来の目標位相を予測(算出)し、その将来の目標位相に基づいて先読み偏差が算出される。なお、この先読み偏差は、可変バルブタイミング機構70の将来の目標位相と、その将来の目標位相のなまし値(将来の目標位相から算出される将来の実位相の推定値)との偏差である。
次に、ステップS12において、排気側の可変バルブタイミング機構80の先読み偏差が算出される。具体的には、現在のスロットル開度に基づいて可変バルブタイミング機構80の将来の目標位相を予測(算出)し、その将来の目標位相に基づいて先読み偏差が算出される。なお、この先読み偏差は、可変バルブタイミング機構80の将来の目標位相と、その将来の目標位相のなまし値(将来の目標位相から算出される将来の実位相の推定値)との偏差である。
次に、ステップS13において、吸気側の可変バルブタイミング機構70の実偏差が算出される。なお、この実偏差は、可変バルブタイミング機構70の現在の目標位相と現在の実位相との偏差である。
次に、ステップS14において、排気側の可変バルブタイミング機構80の実偏差が算出される。なお、この実偏差は、可変バルブタイミング機構80の現在の目標位相と現在の実位相との偏差である。
次に、ステップS15において、吸気側の可変バルブタイミング機構70の先読み偏差、吸気側の可変バルブタイミング機構70の実偏差、排気側の可変バルブタイミング機構80の先読み偏差、および、排気側の可変バルブタイミング機構80の実偏差の4つの中から最大のものが選択される。
次に、ステップS16において、選択された偏差に応じてオイルポンプ5の目標吐出油圧が算出される。なお、偏差の値が大きくなるほど、目標吐出油圧が高くされる。その後、エンドに移る。
−効果−
本実施形態では、上記のように、スロットル開度から可変バルブタイミング機構70および80の動作を予測し、可変バルブタイミング機構70および80が動作を開始する前にオイルポンプ5の目標吐出油圧を高くすることによって、可変バルブタイミング機構70および80が動作を開始する直前の適切なタイミングで、OCV74および84に供給される油圧を高くすることができる。さらに、偏差が大きいほどオイルポンプ5の目標吐出油圧を高くすることによって、偏差が小さい場合には油圧の上げ幅を小さくするとともに、偏差が大きい場合には油圧の上げ幅を大きくすることができるので、必要以上に油圧が上がるのを抑制することができる。したがって、燃費の改善を図りながら、可変バルブタイミング機構70および80の応答性を確保することができる。
また、本実施形態では、可変バルブタイミング機構70および80の先読み偏差および実偏差の中から最大のものを選択し、選択された偏差に応じて目標吐出油圧を設定することによって、先読み偏差が収束しても実偏差が収束するまで、油圧を高くすることができる。これにより、現在の目標位相に実位相が収束するまで、油圧を確保し続けることができるとともに、適切なタイミングで油圧を下げることができる。
−他の実施形態−
なお、今回開示した実施形態は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、本実施形態では、吸気側の可変バルブタイミング機構70と排気側の可変バルブタイミング機構80とが設けられる例を示したが、これに限らず、吸気側または排気側のいずれか一方のみに可変バルブタイミング機構が設けられていてもよい。
また、本実施形態では、将来の実位相の推定値として将来の目標位相のなまし値を示したが、これに限らず、将来の実位相がその他の手段によって推定されるようにしてもよい。
また、本実施形態において、所定時間Tは、固定値(たとえば、300ms)であってもよいし、運転状態などに応じて設定される値であってもよい。
また、本実施形態では、バルブタイミングが可変である例を示したが、これに限らず、バルブタイミングに加えてリフト量が可変であってもよい。
また、本実施形態では、エンジン1が直列4気筒ガソリンエンジンである例を示したが、これに限らず、エンジンがディーゼルエンジンなどであってもよいし、エンジンの気筒数や形式(V型や水平対向型等)はどのようなものであってもよい。
また、本実施形態では、オイルポンプ5が内接歯車型である例を示したが、これに限らず、オイルポンプがベーンポンプやピストンポンプなどであってもよい。