以下、本発明の油圧制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
(実施形態)
図1から図12を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、油圧で作動する油圧作動装置へ流出入する作動油の流量を制御する油圧制御弁を備え、作動油の粘度に基づいて油圧制御弁に対する制御指令値を設定する油圧制御装置に関する。
本実施形態の構成としては、以下の(1)から(5)の構成を備えていることが前提となる。
(1)可変バルブタイミング機構の作動を制御するための油圧制御弁(OCV:Oil Control Valve)
(2)不感帯(ドレンラップ)が設けられた油圧制御弁
(3)不感帯の上端および下端デューティを学習する手段
(4)不感帯上端および下端デューティのVVT変位速度より、オイル粘度を推定する手段
(5)エンジン回転、オイル粘度、不感帯幅に応じたOCV駆動デューティを算出する手段
図1は、本実施形態に係る装置の概略構成図、図2は、本実施形態に係る可変動弁制御装置の概略断面図、図3は、本実施形態に係る可変動弁機構の概略図を示す。
本実施形態に係る油圧制御装置は、エンジン(内燃機関)1において、クランクシャフト14に対する吸気カムシャフト21又は排気カムシャフト22の回転位相を変更することで、吸気弁19又は排気弁20の開閉時期(バルブタイミング)を可変とする可変動弁制御装置100の可変動弁機構(油圧作動装置)26に流出入する作動油の流量を制御する。エンジン1は、乗用車、トラックなどの車両に搭載されるエンジンであり、シリンダボア12内に往復運動可能に設けられるピストン13が2往復する間に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行う、いわゆる4サイクルエンジンであるが、可変動弁制御装置100は、この形式の内燃機関に限らず、種々の内燃機関に適用することができる。
本実施形態に係る可変動弁制御装置100が適用される内燃機関としてのエンジン1は、図1に示すように、シリンダブロック10上にシリンダヘッド11が締結されており、シリンダブロック10に形成された複数のシリンダボア12にピストン13がそれぞれ上下移動自在に嵌合している。シリンダブロック10の下部にクランクシャフト14が回転自在に支持されており、各ピストン13はコネクティングロッド15を介してこのクランクシャフト14にそれぞれ連結されている。
燃焼室16は、シリンダブロック10におけるシリンダボア12の壁面とシリンダヘッド11の下面とピストン13の頂面により構成されている。この燃焼室16は、上部(シリンダヘッド11の下面)の中央部が高くなるように傾斜したペントルーフ形状をなしている。この燃焼室16の上部、つまり、シリンダヘッド11の下面に吸気ポート17及び排気ポート18が対向して形成されており、この吸気ポート17及び排気ポート18に対して吸気弁19及び排気弁20の下端部がそれぞれ位置している。吸気弁19及び排気弁20は、シリンダヘッド11に軸方向に沿って移動自在に支持されると共に、吸気ポート17及び排気ポート18を閉止する方向(図1にて上方)に付勢支持されている。また、シリンダヘッド11には、吸気カムシャフト21及び排気カムシャフト22が回転自在に支持されており、図示しない吸気カム及び排気カムが吸気弁19及び排気弁20の上端部に接触している。
また、クランクシャフト14に固結されたクランクシャフトスプロケット14aと、吸気カムシャフト21及び排気カムシャフト22にそれぞれ装着された各カムシャフトスプロケット23,24とに、無端のタイミングチェーン25が掛け回されており、クランクシャフト14と吸気カムシャフト21、排気カムシャフト22とが連動可能となっている。
クランクシャフト14の駆動力がタイミングチェーン25を介して吸気カムシャフト21及び排気カムシャフト22に伝達されると、吸気カムシャフト21及び排気カムシャフト22がクランクシャフト14と同期して回転する。これにより、吸気カム及び排気カムが吸気弁19及び排気弁20をそれぞれ所定のタイミングで上下移動させることで、吸気ポート17及び排気ポート18を開閉し、吸気ポート17と燃焼室16、燃焼室16と排気ポート18とをそれぞれ連通することができる。この場合、この吸気カムシャフト21及び排気カムシャフト22は、クランクシャフト14が2回転(720度)する間にそれぞれ1回転(360度)するように設定されている。そのため、エンジン1は、クランクシャフト14が2回転する間に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の4行程を実行することとなり、このとき、吸気カムシャフト21及び排気カムシャフト22がそれぞれ1回転することとなる。
また、このエンジン1の動弁機構は、運転状態に応じて吸気弁19及び排気弁20を最適な開閉タイミング(開閉時期)に制御する吸気可変動弁機構(VVT:Variable Valve Timing-intelligent)26A及び排気可変動弁機構26Bとなっている。可変動弁手段としての吸気可変動弁機構26A、排気可変動弁機構26Bは、可変動弁制御装置100の一部をなし、後述する進角室56(図3参照)及び遅角室57(図3参照)に導入される作動油の油圧に応じてクランクシャフト14と吸気カムシャフト21、排気カムシャフト22との回転位相(位相差)をそれぞれ変更することで吸気弁19、排気弁20の開閉時期(バルブタイミング)を可変とするものである。
なお、以下の説明では、吸気可変動弁機構26Aと排気可変動弁機構26Bとはほぼ同様な構成であることから、主として排気可変動弁機構26Bを説明し、吸気可変動弁機構26Aの説明はできるだけ省略する。また、吸気可変動弁機構26Aと排気可変動弁機構26Bとを特に区別する必要がない場合、単に「可変動弁機構26」と略記する。さらに、以下の説明では特に断りのない限り、排気カムシャフト22は、単に「カムシャフト22」と略記し、排気カムシャフトスプロケット24は、単に「カムシャフトスプロケット24」と略記する。
この可変動弁機構26は、カムシャフト22の軸端部にVVTコントローラ(装置本体)27が設けられて構成され、作動油の油圧(作動流体)をこのVVTコントローラ27の後述する進角室56及び遅角室57に作用させることによりカムシャフトスプロケット24に対するカムシャフト22の位相を変更し、排気弁20の開閉時期を進角または遅角することができるものである。この場合、可変動弁機構26は、排気弁20の作用角(開放期間)を一定としてその開閉時期を進角または遅角させる。カムシャフト22には、その回転位相を検出するカムポジションセンサ28が設けられている。
吸気ポート17には、吸気マニホールド29を介してサージタンク30が連結されている。サージタンク30には、吸気管31が連結されており、この吸気管31の空気取入口にはエアクリーナ32が取付けられている。そして、このエアクリーナ32の下流側にスロットル弁33を有する電子スロットル装置34が設けられている。また、シリンダヘッド11には、吸気ポート17に燃料を噴射するインジェクタ35が装着されている。このインジェクタ35は、吸気ポート17側に位置して上下方向に所定角度傾斜して配置されている。各気筒に装着されるインジェクタ35には、図示しないが、燃料供給管を介して燃料ポンプ及び燃料タンクが連結されている。更に、シリンダヘッド11には、燃焼室16の上方に位置して混合気に着火する点火プラグ36が装着されている。
一方、排気ポート18には、排気マニホールド37を介して排気管38が連結されている。排気管38には、排気ガス中に含まれるHC、CO、NOxなどの有害物質を浄化処理する三元触媒39,40が装着されている。
車両には、マイクロコンピュータを中心として構成されエンジン1の各部を制御可能な電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit、以下、特に断りのない限り「ECU110」と略記する。)110が搭載されている。このECU110は、インジェクタ35の燃料噴射タイミングや点火プラグ36の点火時期などを制御可能となっており、吸入空気量、スロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数、冷却水温などのエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量、噴射時期、点火時期などを決定している。本実施形態のECU110は、作動油の粘度を推定する推定手段、作動油の流量に対応する値としての可変動弁機構26の変位速度を検出する検出手段、および、推定された作動油の粘度に基づいて後述するOCV60に入力される制御指令値としてのOCV駆動デューティを設定する設定手段としての機能を有する。
吸気管31の上流側にはエアフローセンサ41が装着され、計測した吸入空気量をECU110に出力している。また、電子スロットル装置34にはスロットルポジションセンサ42が設けられ、現在のスロットル開度をECU110に出力している。また、シリンダブロック10には水温センサ43が設けられており、検出したエンジン冷却水温をECU110に出力している。また、アクセルペダルにはアクセルポジションセンサ44が設けられており、現在のアクセル開度をECU110に出力している。
排気管38における三元触媒39,40よりも上流側には、O2(酸素)センサ45が設けられている。このO2センサ45は、排気空燃比が、理論空燃比を基準にしてリッチ側にある場合とリーン側にある場合とで出力が急変する出力特性を有する酸素センサである。O2センサ45は、燃焼室16から排気管38に排出された排気ガスのストイキ空燃比を検出し、ストイキ検出信号をECU110に出力している。ECU110は、このO2センサ45が検出したストイキ検出信号に基づいて空燃比フィードバック制御を実行している。
クランクシャフト14にはクランク角センサ46が設けられている。クランク角センサ46は、検出したクランク角度をECU110に出力し、ECU110はクランク角度に基づいてエンジン回転数を算出すると共に、各気筒における吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程を判別する。なお、ここで、エンジン回転数は、クランクシャフト14の回転速度に対応し、このクランクシャフト14の回転速度が高くなれば、クランクシャフト14の回転数、すなわち、エンジン1のエンジン回転数も高くなる。
さらに、このエンジン1は、油温センサ47と、油圧センサ48とを備える。油温センサ47は、後述する可変動弁機構26の進角室56(図3参照)及び遅角室57(図3参照)などのエンジン1の各部に供給される作動油の温度を検出し、油圧センサ48は、当該作動油の油圧を検出する。油温センサ47と、油圧センサ48は、ECU110に電気的に接続されており、それぞれ、検出した作動油油温、作動油油圧をECU110に出力している。
ECU110は、検出した吸入空気量、スロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数、エンジン冷却水温などのエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量(燃料噴射期間)、噴射時期、点火時期などを決定し、インジェクタ35及び点火プラグ36を駆動して燃料噴射及び点火を実行する。
また、ECU110は、エンジン運転状態に基づいて可変動弁機構26を制御可能となっている。即ち、低温時、エンジン始動時、アイドル運転時や軽負荷時には、ECU110は、可変動弁機構26を制御して排気弁20の開放時期と吸気弁19の開放時期とのオーバーラップをなくすことで、排気ガスが吸気ポート17または燃焼室16に吹き返す量を少なくし、燃焼安定及び燃費向上を可能とする。また、中負荷時には、ECU110は、可変動弁機構26によりこのオーバーラップを大きくすることで、内部EGR率を高めて排ガス浄化効率を向上させると共に、ポンピングロスを低減して燃費向上を可能とする。更に、高負荷低中回転時には、ECU110は、可変動弁機構26により吸気弁19の閉止時期を進角することで、吸気が吸気ポート17に吹き返す量を少なくして体積効率を向上させる。そして、高負荷高回転時には、ECU110は、可変動弁機構26により吸気弁19の閉止時期を回転数に合わせて遅角することで、吸入空気の慣性力に合わせたタイミングとして体積効率を向上させる。
ここで、可変動弁機構26について詳細に説明する。この可変動弁機構26において、図2に示すように、カムシャフト22は、そのジャーナル部22aがシリンダヘッド11の軸受部11aにより回転可能に支持されている。カムシャフト22の端部には、ロータ51が密着し、締結ボルト52により固定されており、カムシャフト22とロータ51は、一体に回転可能となっている。カムシャフト22の端部外周には、カムシャフトスプロケット24がカムシャフト22と相対回転自在に嵌合している。
このカムシャフトスプロケット24の端面に接し、かつ、ロータ51の外周部を囲うようにハウジング部としてのリングカバー53が設けられている。このリングカバー53の先端開口部がリング形状をなす閉塞板54によって塞がれ、カムシャフトスプロケット24、リングカバー53、閉塞板54は、締結ボルト55によって固定され、一体回転可能となっている。
したがって、カムシャフト22とロータ51とは、カムシャフト22の軸線Lを中心に一体回転可能となっており、このカムシャフト22及びロータ51に対して、カムシャフトスプロケット24とリングカバー53と閉塞板54は、同じ軸線Lを中心に相対回転可能となっている。
図3に示すように、リングカバー53の内周面53aには、カムシャフト22の軸線L側へ向かって突出する四つの張出部71a,71b,71c,71dが、リングカバー53の周方向において所定間隔毎に形成されている。各張出部71a,71b,71c,71d間には、それぞれ溝部72a,72b,72c,72dがリングカバー53の周方向において所定間隔毎に形成されている。
また、ロータ51の外周面には、外周面から各溝部72a,72b,72c,72dに挿入されるように、カムシャフト22の軸線Lから遠ざかる方向へ突出する四つのベーン部としてのベーン部材73a,73b,73c,73dが形成されている。そして、各ベーン部材73a,73b,73c,73dが挿入された各溝部72a,72b,72c,72d内には、このベーン部材73a,73b,73c,73dにより進角室56及び遅角室57が区画されている。すなわち、進角室56及び遅角室57は、リングカバー53とベーン部材73a,73b,73c,73dとにより区画されている。これら進角室56及び遅角室57は、ベーン部材73a,73b,73c,73dをロータ51の周方向両側から挟むように位置している。
シリンダヘッド11およびカムシャフト22には、この進角室56及び遅角室57に選択的に油圧を供給する進角側油路(第一油路)58及び遅角側油路(第二油路)59が設けられている。進角側油路58及び遅角側油路59から進角室56及び遅角室57にそれぞれ作動油が供給され油圧が供給されることで、進角室56と遅角室57との間に差圧が生じる。その差圧に応じて各ベーン部材73a,73b,73c,73dがリングカバー53に対して図3の矢印A側又は矢印B側に相対回転することにより、ロータ51も相対回動する。これにより、カムシャフトスプロケット24、言い換えれば、クランクシャフト14に対するカムシャフト22の回転位相が変更される。この結果、クランクシャフト14に対するカムシャフト22の回転位相が進角側または遅角側に変更され、吸気弁19又は排気弁20の開閉時期を変更することができる。
図2に示すように、進角側油路58及び遅角側油路59は、油圧制御弁としてのオイルコントロールバルブ(OCV)60に接続されている。OCV60には、供給通路61及び排出通路62が接続されている。供給通路61は、クランクシャフト14の回転に伴って駆動されるオイルポンプ63を介してエンジン1の下部に設けられたオイルパン64に連結されている。排出通路62は、直接このオイルパン64に連結されている。オイルパン64は、エンジン1の各部に供給する作動油を貯留している。オイルポンプ63は、クランクシャフト14の回転に連動して作動し、オイルパン64に貯留されている作動油を吸引、加圧し、OCV60へ向けて吐出するものである。
OCV60は、進角側油路58、遅角側油路59を介して進角室56、遅角室57に作動油を供給、あるいは、進角室56、遅角室57から作動油を排出するものである。OCV60は、油路構成本体部(弁本体)65と、スプール弁子66と、付勢手段としてのコイルバネ67と、変位手段としての電磁ソレノイド68とを有する。OCV60は、ECU110から電磁ソレノイド68に入力される制御指令値としてのOCV駆動デューティに応じてスプール弁子66を変位させることで進角室56、遅角室57の油圧を制御する。
具体的には、油路構成本体部65は、油路を構成するものであり、構成された油路と連通する作動油供給ポート(供給ポート)65aと、作動油排出ポート(排出ポート)65b,65cと、進角室連通ポート(第一ポート)65dと、遅角室連通ポート(第二ポート)65eとが形成されている。油路構成本体部65に構成される油路には、スプール弁子66が挿入されている。
作動油供給ポート65aは、供給通路61を介してオイルポンプ63と接続されており、この作動油供給ポート65aにはオイルポンプ63により所定のライン圧に加圧された作動油が供給される。作動油排出ポート65b,65cは、排出通路62を介してオイルパン64と接続されている。進角室連通ポート65dは、進角側油路58を介して進角室56と接続される。遅角室連通ポート65eは、遅角側油路59を介して遅角室57と接続される。
スプール弁子66の一端側には、コイルバネ67が設けられ、スプール弁子66の他端側には、電磁ソレノイド68が設けられている。コイルバネ67は、スプール弁子66を電磁ソレノイド68側(図2における右側)に移動させる付勢力をスプール弁子66に作用させる。一方、電磁ソレノイド68は、入力される制御指令値としてのOCV駆動デューティに基づいて供給される駆動電流に応じて発生する電磁力により、コイルバネ67による付勢力に抵抗してスプール弁子66をコイルバネ67側(図2における左側)に移動させる押圧力を作用させる。
つまり、電磁ソレノイド68は、入力される制御指令値としてのOCV駆動デューティに応じてスプール弁子66を変位させるものである。電磁ソレノイド68は、ECU110と電気的に接続されており、ECU110により駆動制御されている。ECU110は、電磁ソレノイド68をデューティ制御する。
したがって、ECU110から電磁ソレノイド68に制御指令値としてのOCV駆動デューティが入力されることで、電磁ソレノイド68がOCV駆動デューティに応じた押圧力をスプール弁子66に作用させることができる。これにより、OCV60は、ECU110が電磁ソレノイド68に供給する駆動電流のデューティ(OCV駆動デューティ)によってスプール弁子66の位置を制御することができる。
スプール弁子66には、四つの弁部66a,66b,66c,66dが設けられている。スプール弁子66の位置が変位されることで、これら四つの弁部66a,66b,66c,66dと、作動油供給ポート65a、作動油排出ポート65b,65c、進角室連通ポート65d、遅角室連通ポート65eとの相対位置が変化し、各ポート65a,65b,65c,65d,65eの連通状態の切り替え、および、各ポート65a,65b,65c,65d,65eの開度の調節がなされる。
より具体的には、スプール弁子66の位置(変位量)により、作動油供給ポート65aが、進角室連通ポート65dと連通した状態、遅角室連通ポート65eと連通した状態、および、いずれの連通ポート65d,65eとも連通していない状態が選択的に切り替えられる。また、スプール弁子66の変位量により、作動油排出ポート65bが、進角室連通ポート65dと連通した状態と、進角室連通ポート65dと連通していない状態とが選択的に切り替えられる。また、スプール弁子66の変位量により、作動油排出ポート65cが、遅角室連通ポート65eと連通した状態と、遅角室連通ポート65eと連通していない状態とが選択的に切り替えられる。
さらに、スプール弁子66の変位量により、進角室連通ポート65dや遅角室連通ポート65eが作動油供給ポート65a、作動油排出ポート65b,65cと連通される場合の連通ポート65d,65eの開度が調節される。
スプール弁子66を変位させて各ポートの連通状態およびそれぞれの開度を調節し、進角室56、および遅角室57内の作動油の圧力を調節することにより、進角室56と遅角室57との間に差圧を生じさせることができる。その結果、可変動弁機構26において、進角室56と遅角室57との間の圧力差によって、リングカバー53に対してベーン部材73a,73b,73c,73dが相対的に回転する。これにより、クランクシャフト14とカムシャフト22との回転位相を進角側または遅角側に変更し、吸気弁19又は排気弁20の開閉時期(バルブタイミング)を可変とすることができる。
本実施形態のOCV60では、以下に図4から図6を参照して説明するように、OCV駆動デューティに応じて変位するスプール弁子66により、各ポートの連通状態を以下の5つの状態(図4のR1からR5参照)に変化させることができる。
図4は、スプール弁子66の変位量と各ポートの連通状態(作動油の供給状態)との関係を示す図、図5は、スプール弁子66が後述する遅角域にある状態を示す拡大図、図6は、スプール弁子66が後述する中立域にある状態を示す拡大図である。
図4において、横軸は、スプール弁子66の変位量(ストローク量)を示す。スプール弁子66の変位量は、OCV駆動デューティが0である場合の値を最小としている。図4において、縦軸は、開口長さを示す。ここで、開口長さとは、進角室連通ポート65dや遅角室連通ポート65eにおける開口長さである。例えば、図5に符号Wで示すように、遅角室連通ポート65eと作動油供給ポート65aとが連通している状態における、遅角室連通ポート65eの軸方向の開口長さ、言い換えると、弁部66bの電磁ソレノイド68側の端部と遅角室連通ポート65eの電磁ソレノイド68側の端部との間の距離が開口長さWとなる。
図4において、符号W1は、遅角室連通ポート65eと作動油排出ポート65cとが連通して遅角室57から作動油が排出される場合の遅角室連通ポート65eの開口長さを示す。符号W2は、進角室連通ポート65dと作動油供給ポート65aとが連通して進角室56に作動油が供給される場合の進角室連通ポート65dの開口長さを示す。符号W3は、遅角室連通ポート65eと作動油供給ポート65aとが連通して遅角室57に作動油が供給される場合の遅角室連通ポート65eの開口長さを示す。符号W4は、進角室連通ポート65dと作動油排出ポート65bとが連通して進角室56から作動油が排出される場合の進角室連通ポート65dの開口長さを示す。
符号R5は、スプール弁子66の変位量における遅角域を示す。スプール弁子66の変位量が最も大きい(OCV駆動デューティが最も大きい)側の領域である遅角域R5では、図5に示すように、遅角室連通ポート65eと作動油供給ポート65aとが連通されて遅角室57に作動油が供給される一方、進角室連通ポート65dと作動油排出ポート65bとが連通されて進角室56から作動油が排出(ドレン)される。この場合、クランクシャフト14に対するカムシャフト22の回転位相が遅角側に変更される。
符号R4は、進角室連通ポート65dが作動油供給ポート65aおよび作動油排出ポート65bのいずれとも連通されておらず、かつ、遅角室連通ポート65eと作動油供給ポート65aとが連通されるスプール弁子66の変位量の領域を示す。この領域R4では、クランクシャフト14に対するカムシャフト22の回転位相がほとんど変化しないかわずかに遅角側に変化する。
符号R3は、スプール弁子66の変位量における中立域を示す。中立域R3では、図6に示すように、進角室連通ポート65dが作動油供給ポート65aおよび作動油排出ポート65bのいずれとも連通されておらず、かつ、遅角室連通ポート65eが作動油供給ポート65aおよび作動油排出ポート65cのいずれとも連通されない状態となる。この中立域R3では、クランクシャフト14に対するカムシャフト22の回転位相が全く、もしくはほとんど変化しない。従って、スプール弁子66の変位量を中立域R3の値とすることにより、クランクシャフト14とカムシャフト22との回転位相(位相差)を保持し、吸気弁19又は排気弁20の開閉時期(バルブタイミング)を保持することができる。
符号R2は、進角室連通ポート65dが作動油供給ポート65aと連通され、かつ、遅角室連通ポート65eが作動油供給ポート65aおよび作動油排出ポート65cのいずれとも連通されないスプール弁子66の変位量の領域を示す。この領域R2では、クランクシャフト14に対するカムシャフト22の回転位相がほとんど変化しないかわずかに進角側に変化する。
符号R1は、スプール弁子66の変位量における進角域を示す。進角域R1では、進角室連通ポート65dと作動油供給ポート65aとが連通され、かつ、遅角室連通ポート65eと作動油排出ポート65cとが連通される。この領域R1では、クランクシャフト14に対するカムシャフト22の回転位相が進角側に変更される。
以上説明したように、スプール弁子66の変位量が領域R2から領域R4までの間(符号R6で示す領域)にある場合には、作動油排出ポート65b,65cが、進角室連通ポート65dおよび遅角室連通ポート65eのいずれとも連通しておらず、クランクシャフト14に対するカムシャフト22の回転位相が全く変化しないか、わずかに変化する程度となる。これにより、以下に図7を参照して説明するように、OCV駆動デューティの変動に対する可変動弁機構26の応答性が低いOCV駆動デューティの領域である不感帯が存在することとなる。
図7は、OCV60の電磁ソレノイド68に入力されるOCV駆動デューティ[%]と、可変動弁機構26の変位速度[CA/sec]、すなわち、クランクシャフト14に対するカムシャフト22の回転位相(位相差)の変化速度との関係の一例を示す特性図である。可変動弁機構26の変位速度は、OCV60から可変動弁機構26に流出入する作動油の流量に対応している。図7に示すように、OCV駆動デューティには、OCV駆動デューティの変動に対して可変動弁機構26の変位速度がわずかである(応答性が低い)不感帯が存在する。この不感帯は、図4の符号R6で示す領域、すなわち、進角室連通ポート65dおよび遅角室連通ポート65eのいずれも作動油排出ポート65b,65cと連通されない領域に対応している。
符号D1は、不感帯におけるOCV駆動デューティの最小値(所定指令値、以下、「不感帯下端デューティ」と略記する)を示す。不感帯下端デューティD1では、進角室連通ポート65dが作動油供給ポート65aと連通し、かつ、遅角室連通ポート65eにおいて作動油排出ポート65cと連通された状態と連通されていない状態とが切り替わる。
一方、符号D2は、不感帯におけるOCV駆動デューティの最大値(所定指令値、以下、「不感帯上端デューティ」と略記する)を示す。不感帯上端デューティD2では、遅角室連通ポート65eが作動油供給ポート65aと連通し、かつ、進角室連通ポート65dにおいて作動油排出ポート65bと連通された状態と連通されていない状態とが切り替わる。
ここで、可変動弁機構26の変位速度、すなわち、OCV60から可変動弁機構26に流出入する作動油の流量は、OCV60の各ポートの開口長さWだけではなく、作動油の粘度によっても変動する。このため、本実施形態では、ECU110は、作動油の粘度を推定し、推定された粘度に基づいて制御指令値としてのOCV駆動デューティを設定する。この場合、クランクシャフト14に対するカムシャフト21の回転位相を精度よく制御するためには、作動油の粘度を精度よく推定する必要がある。
図8は、本実施形態の作動油の粘度の推定方法について説明するための図である。
作動油の粘度を推定するために、可変動弁機構26の応答速度に基づいて作動油の粘度を推定する方法が検討されている。ここで、可変動弁機構26の応答速度とは、例えば、図8に符号aで示すように、OCV駆動デューティを所定量変化させた場合の可変動弁機構26の変位速度の変化量で表される。応答速度の検出は、例えば、クランクシャフト14に対するカムシャフト22の回転位相を大きな変位速度で遅角側に変化させている状態(図8の符号200参照)、または、大きな変位速度で進角側に変化させている状態(図8の符号201参照)においてなされる。言い換えると、OCV60の進角室連通ポート65dや遅角室連通ポート65eが大きく開口している状態において、可変動弁機構26の応答速度が検出される。しかしながら、この場合、以下に図9を参照して説明するように、可変動弁機構26の応答速度から作動油の粘度を一意的に求めることが困難な場合がある。
図9は、作動油の粘度(オイル粘度)と可変動弁機構26の応答速度との関係の一例を示す図である。図9に示すように、可変動弁機構26の応答速度の特性を示す曲線は、上に凸な形状、すなわち、低粘度から中間粘度までは粘度が増加するに連れて応答速度が上昇するものの、中間粘度を過ぎると、粘度が増加するに連れて応答速度が下降する形状となっている。よって、検出された可変動弁機構26の応答速度に対して解が二つ存在し、作動油の粘度を一意的に決定することが困難な場合がある。
また、上記のように可変動弁機構26の応答速度から作動油の粘度を推定する場合、OCV60の製造上のばらつきに起因して十分に精度よく作動油の粘度を推定できない場合がある。OCV60において、不感帯の幅等には、製造上のばらつきが存在する。このため、OCV駆動デューティに対する可変動弁機構26の応答速度に、製造上のばらつきが影響してしまい、十分に精度よく作動油の粘度を推定できないことがある。
本実施形態では、図8に符号bで示す変位速度の幅、すなわち、不感帯上端デューティD2に対応する可変動弁機構26の変位速度(以下、単に「不感帯上端変位速度」と略記する)V2と、不感帯下端デューティD1に対応する可変動弁機構26の変位速度(以下、単に「不感帯下端変位速度」と略記する)V1との差分(以下、「不感帯変位速度幅」と略記する)に基づいて、作動油の粘度を推定する。これにより、以下に説明するように、OCV60の製造上のばらつきの影響を抑制し、かつ、一意的に作動油の粘度を推定することが可能となる。
図10は、不感帯上端デューティD2がOCV60に入力された場合のOCV60の様子を示す拡大図である。不感帯上端デューティD2がOCV60に入力された場合、遅角室連通ポート65eが作動油供給ポート65aと連通され、遅角室57に作動油が供給される。一方、符号Fで示すように、進角室連通ポート65dがわずかに開口し、進角室56の作動油が作動油排出ポート65bを介して排出される。この場合、進角室連通ポート65dの開口長さが小さい、すなわち、作動油のドレン路が非常に狭い状態である。従って、このときに進角室連通ポート65dを流れる作動油の流量、つまり、可変動弁機構26に流出入する作動油の流量は、少量である。従って、このときの作動油の流量は、作動油の粘度と圧力により決定する。
同様に、図示しないが、不感帯下端デューティD1がOCV60に入力された場合には、進角室連通ポート65dが作動油供給ポート65aと連通され、かつ、遅角室連通ポート65eがわずかに開口して作動油排出ポート65cと連通した状態となるため、可変動弁機構26に少量の作動油が流出入する状態となる。従って、このときの作動油の流量は、作動油の粘度と圧力により決定する。
図11は、不感帯変位速度幅と作動油の粘度との関係を示す図である。不感帯上端デューティD2と不感帯下端デューティD1においては、作動油の流路が非常に狭い状態となるため、作動油の粘度が増加するほど可変動弁機構26の変位速度が低速となる。すなわち、図11に示すように、不感帯変位速度幅は、作動油の粘度の増加に連れて減少する傾向を示す。このように、不感帯変位速度幅が、作動油の粘度と一対一に対応しているため、不感帯変位速度幅に基づいて作動油の粘度を一意的に推定することができる。本実施形態では、作動油の油圧が一定の状態における不感帯変位速度幅に基づいて、作動油の粘度を推定する。
また、不感帯上端デューティD2および不感帯下端デューティD1においては、OCV60の製造上のばらつきの影響をほとんど受けない。OCV60の製造上のばらつき、例えば不感帯の幅のばらつき等があったとしても、作動油が排出される側のポート(進角室連通ポート65dあるいは遅角室連通ポート65e)の開口長さが非常に狭い状態における作動油の流量は、そのばらつきの影響をほとんど受けない。よって、本実施形態によれば、作動油の粘度の推定において、OCV60の製造上のばらつきの影響を抑制することができる。
図12は、本実施形態の作動油の粘度の算出手順を示すフローチャートである。なお、本フローチャートは、エンジン回転数が一定、もしくは、エンジン回転数の変動が小さい運転状態、言い換えると、OCV60に供給される作動油の油圧の変動が小さい状態において実行されることが望ましい。
まず、ステップS10では、ECU110により、OCV60の電磁ソレノイド68に対して不感帯上端デューティD2が出力される。ここで出力される不感帯上端デューティD2は、ECU110により予め学習された学習値である。ECU110は、従来公知の学習方法により、不感帯上端デューティD2および不感帯下端デューティD1を学習する。ECU110は、例えば、出力したOCV駆動デューティと可変動弁機構26の変位速度の検出値との関係に基づいて、不感帯上端デューティD2および不感帯下端デューティD1を学習する。ステップS10が実行されると、ステップS20に進む。
ステップS20では、ECU110により、不感帯上端変位速度V2が検出される。ECU110は、クランク角センサ46およびカムポジションセンサ28の検出結果に基づいて、不感帯上端変位速度V2を検出する。
次に、ステップS30では、ECU110により、OCV60の電磁ソレノイド68に対して不感帯下端デューティD1が出力される。ECU110は、学習により予め算出した不感帯下端デューティD1を出力する。
次に、ステップS40では、ECU110により、不感帯下端変位速度V1が検出される。ECU110は、クランク角センサ46およびカムポジションセンサ28の検出結果に基づいて、不感帯下端変位速度V1を検出する。
次に、ステップS50では、ECU110により、不感帯上端変位速度V2と不感帯下端変位速度V1との差(不感帯変位速度幅)が算出される。
次に、ステップS60では、ECU110により、現在の作動油の粘度が推定される。ECU110は、ステップS50で算出した不感帯変位速度幅、およびエンジン回転数をパラメータとするマップデータを参照して、作動油の粘度を推定する。なお、エンジン回転数は、オイルポンプ63によりOCV60へ向けて圧送される作動油の油圧に対応している。作動油の粘度が推定されると、本フローはリターンされる。
本実施形態によれば、OCV駆動デューティの不感帯の上端における可変動弁機構26の変位速度である不感帯上端変位速度V2と、不感帯の下端における変位速度である不感帯下端変位速度V1とに基づいて作動油の粘度が推定される。これにより、作動油の流路を非常に狭い状態とした条件下における作動油の流量に基づいて作動油の粘度を推定することができる。その結果、OCV60の製造上のばらつきの影響を抑制し、かつ、一意的に作動油の粘度を推定することができる。
特に、本実施形態では、不感帯下端変位速度V1および不感帯上端変位速度V2の検出に際してOCV60に対して出力される不感帯下端デューティD1、および不感帯上端デューティD2が、学習結果に基づいて設定される。よって、より精度よく作動油の粘度を推定することができる。
(実施形態の変形例)
実施形態の変形例について説明する。
上記実施形態では、不感帯上端変位速度V2と不感帯下端変位速度V1との差分(不感帯変位速度幅)に基づいて作動油の粘度が推定されたが、これに代えて、不感帯上端変位速度V2あるいは不感帯下端変位速度V1のいずれか一方に基づいて作動油の粘度が推定されてもよい。この場合であっても、OCV60の製造上のばらつきの影響を抑制し、かつ、一意的に作動油の粘度を推定することができる。