以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、自動車用の多気筒(例えば直列4気筒)ガソリンエンジンに本発明を適用した場合について説明する。また、本発明に係る無端伝動帯として、エンジンの動弁系に動力を伝達するタイミングチェーンを採用した場合について説明する。
−エンジンの概略構成−
図1は、本実施形態に係るエンジン(内燃機関)1の動弁系およびその周辺の構成を示す断面図である。この図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、4気筒分(図1では1気筒分のみを示す)のシリンダボア21を有するシリンダブロック2と、シリンダヘッド3とを備えている。各シリンダボア21内には往復移動可能に設けられたピストン4が備えられ、このピストン4が、コンロッド(コネクティングロッド)41を介してエンジン1の出力軸であるクランクシャフト(図1では図示せず)に連結されている。そして、シリンダボア21の内部において、ピストン4とシリンダヘッド3とにより囲まれた空間によって燃焼室11が区画形成されている。
前記シリンダヘッド3には、各燃焼室11に対応して点火プラグ12が取り付けられている。この点火プラグ12は燃焼室11内に供給された混合気への点火を行うものである。
また、シリンダヘッド3には、各燃焼室11に通じる吸気ポート31および排気ポート32がそれぞれ設けられている。吸気ポート31および排気ポート32における燃焼室11に通じる各開口端には、吸気バルブ61および排気バルブ62がそれぞれ設けられている。吸気バルブ61および排気バルブ62は、クランクシャフトの動力によってそれぞれ回転する吸気カムシャフト63および排気カムシャフト64により、ロッカアーム65,66を介して開閉される。なお、図6に示すように、クランクシャフト13の動力は、タイミングチェーン69および各タイミングスプロケット67,68を介して、前記吸気カムシャフト63および排気カムシャフト64に伝達されている。この動力伝達機構については後述する。
また、図1に示すように、シリンダヘッド3には、吸気ポート31内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)7が設けられている。つまり、本実施形態に係るエンジン1は、吸気ポート31を介してシリンダボア21内に向けて吸入される空気中にインジェクタ7から燃料を噴射して混合気を生成し、これをピストン4によって圧縮し、これに対して点火プラグ12により着火させて燃焼を行わせるようになっている。
なお、図1における符号36はシリンダヘッドカバー(仮想線で示している)、37,37は各カムシャフト63,64のジャーナル部の上側部分を回転自在に支持するカムキャップ、81,82は前記ロッカアーム65,66を支持するラッシュアジャスタである。
−エンジン1のオイル供給経路の説明−
次に、本実施形態に係るエンジン1におけるオイル供給経路の概略構成について説明する。
図2に示すように、オイル供給経路は、オイルパン91からストレーナ92を介して汲み上げたオイルを、オイルポンプ5によって各摺動部に供給して潤滑油として利用したり、油圧作動機器に供給して作動油として利用したりするようになっている。
具体的に、オイルポンプ5から圧送されたオイルは、オイルフィルタ94を経て、気筒列方向に沿って延びるメインオイルホール(メインギャラリ)95に送り出される。このメインオイルホール95の一端側および他端側には、シリンダブロック2からシリンダヘッド3に亘って上方に延びるオイル通路96,97が連通されている。
メインオイルホール95の一端側(図2における左側)に連通されているオイル通路96は、さらに、チェーンテンショナ側通路96aと、VVT側通路96bとに分岐されている。
チェーンテンショナ側通路96aに供給されたオイルは、タイミングチェーン69(図6を参照)の張力を調整するためのチェーンテンショナ15の作動油として利用される。一方、VVT側通路96bに供給されたオイルは、OCV用オイルフィルタ96cを経て、VVT用OCV96dおよび可変バルブタイミング機構(以下、VVT機構という)100i,100eの作動油として利用される。このVVT機構100i,100eの詳細構成については後述する。
一方、メインオイルホール95の他端側(図2における右側)に連通されているオイル通路97は、ラッシュアジャスタ側通路(作動油供給路)97aとシャワーパイプ側通路97bとに分岐されている。
ラッシュアジャスタ側通路97aは、吸気側通路97a−iと排気側通路97a−eとに更に分岐されている。吸気側通路97a−iにあっては、各気筒の吸気バルブ61,61,…に対応して配設されたラッシュアジャスタ81,81,…の給油路(図示省略)に連通され、この給油路を経たオイルがラッシュアジャスタ81の作動油として利用されるようになっている。同様に、排気側通路97a−eにあっては、各気筒の排気バルブ62,62,…に対応して配設されたラッシュアジャスタ82,82,…の給油路に連通され、この給油路を経たオイルがラッシュアジャスタ82の作動油として利用されるようになっている。
シャワーパイプ側通路97bも、吸気側通路97b−iと排気側通路97b−eとに分岐されている。吸気側通路97b−iにあっては、吸気カムシャフト63のカムロブに対応してオイル散布孔が形成されており、この吸気側通路97b−iを流れるオイルがオイル散布孔から吸気カムシャフト63のカムロブとロッカアーム65との接触部分に向けて散布されるようになっている。同様に、排気側通路97b−eにあっては、排気カムシャフト64のカムロブに対応してオイル散布孔が形成されており、この排気側通路97b−eを流れるオイルがオイル散布孔から排気カムシャフト64のカムロブとロッカアーム66との接触部分に向けて散布されるようになっている。
−オイルポンプ−
次に、前記オイルポンプ5の構成について説明する。このオイルポンプ5は容量可変型のオイルポンプとして構成されている。
図3はオイルポンプ5の内部構成を示す断面図である。この図3に示すように、オイルポンプ5は、入力軸5aにより回転される外歯車のドライブロータ51と、これに噛み合って回転される内歯車のドリブンロータ52と、このドリブンロータ52を外周から回転自在に保持する調整リング53と、をハウジング50(ポンプハウジング)内に収容してなる。
ハウジング50は全体としては厚肉の板状であり、図3に示すようにエンジン後方から見た場合には左右に長い楕円形状とされ、図の右上部から右側に向かって突出部50aが、また、図の左下部からは下方に向かって突出部50bが、それぞれ形成されている。また、ハウジング50の全体に後方、即ちエンジン1の内方(図の手前側)に向かって開放された凹部50cが形成されている。
この凹部50cは前記ドライブロータ51、ドリブンロータ52、調整リング53等を収容するものであり(以下、収容凹部50cという)、ハウジング50に後方から重ね合わされるカバー(図示せず)によって閉止される。また、収容凹部50cの中央よりもやや右側位置には円形断面の貫通孔(図には示さず)が形成され、ここに挿通された入力軸5aがハウジング50の前方に突出している。
そうしてハウジング50の前方に突出する入力軸5aの前端部に、チェーン69の巻き掛けられるポンプスプロケット(図示省略)が取り付けられている一方、入力軸5aの後端部は、ドライブロータ51の中央部を貫通し、例えばスプラインによって嵌合されている。このドライブロータ51には、外周にトロコイド曲線またはトロコイド曲線に近似した曲線(例えばインボリュート、サイクロイドなど)を有する外歯51aが複数(図の例では11個)、形成されている。
一方、ドリブンロータ52は円環状に形成され、その内周には前記ドライブロータ51の外歯51aと噛み合うよう、これより歯数が1歯多い(図の例では12個の)内歯52aが形成されている。ドリブンロータ52の中心は、ドライブロータ51の中心に対して所定量、偏心しており、その偏心している側(図3の左上側)でドライブロータ51の外歯51aとドリブンロータ52の内歯52aとが噛み合っている。
また、ドリブンロータ52は、調整リング53の円環状の本体部53aによって摺動自在に嵌合支持されている。この例では調整リング53には、その本体部53aの外周から周方向に所定の角度範囲(図の例では約50°)に亘って径方向外方に張り出す2つの張出部53b,53cと、径方向外方に大きく延びるアーム部53dと、小さな突起部53eとが一体に形成されている。調整リング53について詳しくは後述する。
そのようにして調整リング53に保持されたドライブロータ51およびドリブンロータ52によって、本実施形態では11葉12節のトロコイドポンプが構成されており、2つのロータ51,52の間の環状の空間には、互いに噛合する歯と歯の間に円周方向に並んだ複数の作動室Rが形成される。これらの各作動室Rは2つのロータ51,52の回転に連れてドライブロータ51の外周に沿うように移動しながら、その容積が増減する。
即ち、2つのロータ51,52の歯が互いに噛み合う位置から、図に矢印で示すロータ回転方向に約180度に亘る範囲(図3では左下側の範囲)では、2つのロータ51,52の回転に連れて徐々に作動室Rの容積が増大してゆき、オイルを吸入する吸入範囲となる。一方、残りの約180度に亘る範囲(図3では右上側の範囲)では、ロータ51,52の回転に連れて徐々に作動室Rの容積が減少してゆき、オイルを加圧しながら吐出する吐出範囲となる。
そして、それらの吸入範囲および吐出範囲にそれぞれ対応するように、ハウジング50およびカバーに吸入ポートおよび吐出ポートが形成されている。図3にはハウジング50の吸入ポート50dおよび吐出ポート50eのみを示すが、この吸入ポート50dは、ハウジング50の収容凹部50cの底面において前記の吸入領域に対応するように開口し、同じく吐出領域に対応するように吐出ポート50eが開口している。
吸入ポート50dは、図ではハウジング50の左下側に位置して、図示しないカバーの吸入ポートと連通しており、これを介してオイルストレーナ92の吸入管路に連通している。一方、吐出ポート50eはハウジング50の右上側に位置して、図示しないカバーの吐出ポートと連通するとともに、ハウジング50の突出部50aに対応するように図の右側に向かって延びていて、オイルフィルタ94に向かう連通路に至る。
かかる構成によりオイルポンプ5は、ポンプスプロケットに伝達されるクランクシャフト13からの力を受けて入力軸5aが回転すると、ドライブロータ51およびドリブンロータ52が互いに噛み合いながら回転し、それらの間に形成される作動室Rに吸引ポート50dからオイルが吸入され、加圧されて吐出ポート50eから吐出される。
こうして吐出されるオイルの流量は、オイルポンプ5の回転数(入力軸5aの回転数)、即ちエンジン回転数が高くなるほど多くなるので、エンジン1の高回転域においてクランクジャーナルなどの被潤滑部に供給されるオイルの量が多くなっても、メインオイルホール95の油圧は所定以上の大きさに維持して、被潤滑部に適正にオイルを分配することができる。
次に、前記オイルポンプ5における容量可変機構について説明する。本実施形態のオイルポンプ5は、ドライブロータ51の1回転につき吐出するオイルの量、即ちポンプ容量を変更可能な容量可変機構を備えている。本実施形態では、主に吐出ポート50eから導かれた油圧(吐出圧)によって前記の調整リング53を変位させて、ドライブロータ51およびドリブンロータ52の吸入ポート50dおよび吐出ポート50eに対する相対的な位置を変更することにより、1回転あたりに吸入および吐出するオイルの流量を変更する。
詳しくは図3に表れているように、調整リング53の本体部53aから径方向外方に延びるアーム部53dには、圧縮コイルスプリング54からの押圧力が作用しており、これによって調整リング53が図の時計回り方向に回動しながら、少し上方に変位するように付勢されている。また、このような変位の際に調整リング53は、ガイドピン55,56によって案内される。
即ち、調整リング53の張出部53b,53cはそれぞれ湾曲する楕円の枠状に形成されていて、ハウジング50の収容凹部50cの底面に突設されたガイドピン55,56を収容している。これらガイドピン55,56はそれぞれ枠状の張出部53b,53cの内周に接触して、その長手方向に摺動するようになっており、これにより調整リング53の変位の軌跡が規定される。
こうしてガイドピン55,56によって案内されて変位する調整リング53が、収容凹部50c内を図の右上側の高圧空間THと、左側から下側にかけての低圧空間TLとに仕切っており、高圧空間THの油圧を受けて動作される。即ち、高圧空間THは、ハウジング50の収容凹部50c内において、調整リング53の張出部53cの外周とハウジング50の壁部とによって囲まれ、かつ、第1および第2のシール材57,58によってオイルの流れが制限される領域に形成される。
そして、この高圧空間THには吐出ポート50eの開口の一部が臨み、オイルポンプ5の吐出圧が高圧空間THに導かれて調整リング53外周面に作用するようになる。これに対して、吸入ポート50dの連通する低圧空間TLには概ね大気圧が作用しているので、調整リング53は、高圧空間THからの油圧によって図の反時計回り方向に回動するように付勢されることになる。
一方で調整リング53は、前記したようにアーム部53dに作用するコイルスプリング54の弾発力を受けて時計回り方向に付勢されており、主にそれらの付勢力によって変位するようになる。例えばアイドリングのようにエンジン回転数が低いときに調整リング53は、コイルスプリング54の弾発力によって図3の最大容量位置に変位する。このとき、ドライブロータ51およびドリブンロータ52の1回転あたりに、吸入ポート50dから吸い込んで吐出ポート50eから吐出するオイルの量、即ちポンプ容量が最大になる。
この状態からエンジン回転数が上昇すると、オイルの吐出量の増大によって吐出圧も増大傾向となるので、高圧空間THの油圧を受けて調整リング53は、コイルスプリング54の弾発力に抗して反時計回り方向に変位する。これによりポンプ容量は減少し、回転数が高くても吐出量ひいては吐出圧の増大が抑制される。そして、調整リング53が最小容量位置に位置づけられると、1回転あたりの吐出量は最小になる。
さらに、本実施形態では、ハウジング50内には高圧空間THに隣接するように制御空間TC(油圧室)を設けて、ここに電子制御式の制御弁160(Oil Control Vale:以下、OCVという)から制御油圧を供給し、前記のような調整リング53の変位を補助する力を発生させる。OCV160により制御油圧を高精度に調圧し、調整リング53の変位を補助する力の大きさを調整することで、前記のようなポンプ容量の制御性が高くなる。
具体的には、前記調整リング53の2つの張出部53b,53cのほぼ中間においてその外周には第2のシール材58が配設され、収容凹部50cを取り囲むハウジング50の壁部の内面と摺接するようになっている。この第2シール材58は、高圧空間THと制御空間TCとの間のシール部であって、前記のような調整リング53の変位に伴いハウジング50の壁部の内面に沿って移動することになる。
同様に調整リング53のアーム部53dの先端には第3のシール材59が配設されて、対向するハウジング50の壁部の内面と摺接するようになっている。なお、これら第2および第3のシール材58,59、および、前記した第1のシール材57は、いずれも調整リング53の厚み(図3の紙面に直交する方向の寸法)と同程度の寸法を有し、耐摩耗性に優れた金属材や樹脂材にて形成されている。
こうして制御空間TCは、ハウジング50の収容凹部50c内において、調整リング53の外周(詳しくは張出部53bの外周)とアーム部53dと、それらに対向するハウジング50の壁部とによって囲まれ、かつ前記第2および第3のシール材58,59によってオイルの流れが制限される領域に形成される。そして、この制御空間TCには、制御油路161によってOCV160から制御油圧が供給されるようになっている。
即ち、制御油路161は、その一端部が、制御空間TCに臨む丸孔161aとして開口する一方、他端部がOCV160の制御ポート160aに連通している。OCV160は、後述するECU300(図7を参照)からの信号を受けてスプールの位置が変更され、供給ポート160bからのオイルを制御ポート160aから制御油路161へ送り出す状態と、制御油路161から排出されてきたオイルを制御ポート160aに受け入れて、ドレンポート160cから排出する状態とに切り換えられる。
また、一例としてリニアソレノイドバルブであるOCV160は、ECU300からの信号に応じてスプールの位置が連続的に変化し、前記のように制御ポート160aから制御油路161へ送り出すオイルの圧力をリニアに増大または減少させることができる。よって、例えば前記のようにエンジン回転数の上昇に伴い調整リング53が図3の反時計回り方向に変位する際に、制御空間TCに供給する制御油圧を増大させて、調整リング53の変位を補助することができる。
一方、OCV160の制御によって制御空間TCに供給する制御油圧を低下させれば、調整リング53の反時計回り方向の変位を抑えることができる。これによりポンプ容量の制御性が向上する。なお、図3に示すように本実施形態では、オイルポンプ5の吐出ポート50eからオイルフィルタ94への連通路16aの途中に分岐路16bを接続して、OCV160にオイルを供給するようにしているが、これに限らず、例えばオイルフィルタ94によって濾過されたオイルをOCV160に供給するようにしてもよい。
−VVT機構−
次に、VVT機構について説明する。なお、吸気側のVVT機構100iと排気側のVVT機構100eとは共に略同一構成であるので、ここでは吸気側のVVT機構100iについて主に説明する。
VVT機構100i(100e)は、図4および図5に示すように、略中空円盤状のハウジング101と、このハウジング101内に回転自在に収容された内部ロータ104とを備えている。内部ロータ104には複数(本実施形態では4枚)のベーン105が一体形成されている。内部ロータ104はセンタボルト106によって吸気カムシャフト63(または排気カムシャフト64)に固定されており、吸気カムシャフト63(または排気カムシャフト64)と一体となって回転する。
ハウジング101の前面側はカバー107によって、後面側は側板109aによってそれぞれ覆われている。これらハウジング101、カバー107および側板109aはボルト108にてタイミングスプロケット67(68)に固定されており、ハウジング101、カバー107および側板109aはタイミングスプロケット67(68)と一体となって回転する。タイミングスプロケット67(68)は、タイミングチェーン69(図6を参照)を介してクランクシャフト13に連係されている。
前記ハウジング101の内部には、内部ロータ104のベーン105と同数の凸部102が形成されており、その各凸部102間に形成された凹部103内に内部ロータ104の各ベーン105が収容されている。各ベーン105の先端面は凹部103の内周面に摺動可能に接触している。内部ロータ104は、作動油の圧力をベーン105で受けることによりハウジング101に対して相対回転する。この相対回転により、クランクシャフト13に対する吸気カムシャフト63(または排気カムシャフト64)の回転位相が変化する。
ハウジング101の各凹部103には、内部ロータ104のベーン105によって区画された2つの空間が形成されている。これら2つの空間のうち、ベーン105に対してカムシャフト回転方向(図5に矢印で示す方向)の前側の空間が遅角側油圧室110を構成し、カムシャフト回転方向の後側の空間が進角側油圧室111を構成している。
内部ロータ104のベーン105の1つには、段差付きの貫通孔112が形成されている。この貫通孔112にはフランジ付きロックピン113が摺動可能に収容されている。ロックピン113は圧縮コイルばね114の弾性力によってタイミングスプロケット67(68)側に向けて付勢されている。一方、タイミングスプロケット67(68)に固定された側板109aには、ロックピン113に対応する位置に係止孔115が形成されており、内部ロータ104の相対回転によりロックピン113が係止孔115に一致したときには、圧縮コイルばね114の弾性力によってロックピン113が突き出し、その先端が係止孔115に突入する(図4に示す状態を参照)。
このようなロックピン113の係止孔115への突入により、内部ロータ104のハウジング101に対する相対回転が規制され、その規制状態での相対回転位相を維持した状態で吸気カムシャフト63(排気カムシャフト64)とタイミングスプロケット67(68)とが一体に回転する。なお、ロックピン113と係止孔115とは、ロック位相つまり吸気カムシャフト63(排気カムシャフト64)の回転位相が最遅角位相(または最進角位相)となったときに一致する。
ロックピン113のロックを解除するために、そのロックピン113を有するベーン105には油通路116が設けられている。この油通路116は進角側油圧室111および係止孔115に連通しており、進角側油圧室111に供給された油圧が係止孔115に導入される。また、ロックピン113のフランジ部分と貫通孔112の段差部分との間には環状油空間117が形成されている。この環状油空間117は、油通路118を介して遅角側油圧室110と連通しており、遅角側油圧室110に供給された油圧が環状油空間117にも導入される。そして、係止孔115の油圧または環状油空間117の油圧が圧縮コイルばね114の付勢力に打ち勝つと、ロックピン113が係止孔115から外れ、ロックピン113の係止が解除される。このようなロックピン113の係止解除によって、ハウジング101および内部ロータ104間の相対回転が許容され、進角側油圧室111および遅角側油圧室110に供給される油圧に基づいて、ハウジング101に対する内部ロータ104の回転位相の調整が可能となる。
以上の構造のVVT機構100i,100eでは、進角側油圧室111内と遅角側油圧室110内の各油圧によって内部ロータ104がハウジング101に対して相対回転する。即ち、進角側油圧室111内の油圧を遅角側油圧室110内の油圧よりも高くすると、内部ロータ104はハウジング101に対して吸気カムシャフト63(または排気カムシャフト64)の回転方向に相対回転する。このとき、吸気カムシャフト63(または排気カムシャフト64)の回転位相はクランクシャフト13の回転位相に対して進められる(進角)。これとは逆に、遅角側油圧室110内の油圧を進角側油圧室111の油圧よりも高くすると、内部ロータ104はハウジング101に対して吸気カムシャフト63(または排気カムシャフト64)の回転方向と逆方向に相対回転され、吸気カムシャフト63(または排気カムシャフト64)の回転位相はクランクシャフト13の回転位相に対して遅らされる(遅角)。そして、このような回転位相の調整によって吸気バルブ61(または排気バルブ62)のバルブタイミングを可変とすることができる。
次に、遅角側油圧室110と進角側油圧室111に供給する作動油の圧力を制御する油圧制御系の構成について説明する。
まず、シリンダヘッド3、吸気カムシャフト63、排気カムシャフト64、内部ロータ104等には、遅角側油圧室110に連通する遅角側通路119と進角側油圧室111に連通する進角側通路120とが形成されている。これら遅角側通路119と進角側通路120には、前記VVT用OCV96d−i(96d−e)が接続されている。このVVT用OCVとしては、吸気側のVVT用OCV96d−iと、排気側のVVT用OCV96d−eとがあるが、以下の説明では吸気側のVVT用OCV96d−iについて主に説明する。
このVVT用OCV96d−i(96d−e)には、前記したオイルポンプ5によってオイルパン91から汲み上げられた潤滑油(作動油)が前記メインオイルホール95およびVVT側通路96bを介して供給される。また、VVT用OCV96d−i(96d−e)には2つのオイル排出通路122,123が接続されている。VVT用OCV96d−i(96d−e)は電磁駆動式の流量制御弁であり、後述するECU300によって制御される。
また、VVT用OCV96d−i(96d−e)は、4ポート弁であって、ケーシング201の内部に往復移動可能に配設されたスプール202と、スプール202に弾性力を付勢する圧縮コイルばね203と、電磁ソレノイド204とを備えており、電磁ソレノイド204に電圧が印加されたときにスプール202が吸引されるようになっている。電磁ソレノイド204に印加する電圧は、後述するECU300によってデューティ制御される。電磁ソレノイド204の発生する吸引力は印加電圧のデューティ比に応じて変化する。この電磁ソレノイド204が発生する吸引力と圧縮コイルばね203の付勢力との釣り合いによってスプール202の位置が決定される。
そして、スプール202が移動することによって、遅角側通路119および進角側通路120と、VVT側通路96bおよびオイル排出通路122,123との連通量が変化し、遅角側通路119および進角側通路120に対して供給される作動油の量、あるいは、これら遅角側通路119および進角側通路120から排出される作動油の量が変化する。
例えば、吸気側のVVT用OCV96d−iは、電磁ソレノイド204に印加される電圧のデューティ比が大きいほど、進角側通路120に供給される作動油の供給量が多くなって吸気カムシャフト63の回転位相が進角される。一方、デューティ比が小さいほど、遅角側通路119に供給される作動油の供給量が多くなって吸気カムシャフト63の回転位相が遅角される。このようにして遅角側油圧室110および進角側油圧室111内の油圧を調整することにより、内部ロータ104の回転位相を最遅角位相から最進角位相までの範囲で任意に調整することができる。なお、排気側のVVT用OCV96d−eについても、吸気側と同様にデューティ制御される。ただし、遅角と進角との関係が吸気側のVVT用OCV96d−iの場合とは逆になる。
−タイミングチェーンおよびチェーンテンショナ−
次に、前記タイミングチェーン69およびチェーンテンショナ15について説明する。図6は、前記タイミングチェーン69およびチェーンテンショナ15を示すエンジン1の側面図である。
前記クランクシャフト13、吸気カムシャフト63および排気カムシャフト64の軸心方向の一方側の軸端には、クランクスプロケット14、吸気カムスプロケット67、排気カムスプロケット67がそれぞれ固設されており、これらにタイミングチェーン69が巻き掛けられている。従って、エンジン1の運転に伴ってクランクシャフト13が回転駆動することにより吸気カムシャフト63および排気カムシャフト64が従動回転するようになっている。なお、これらのクランクスプロケット14、吸気カムスプロケット67、排気カムスプロケット68、タイミングチェーン69等からなるカムシャフト駆動機構は、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3の前面に取り付けられた図示しないカバーによって外方から覆われている。
クランクシャフト13およびクランクスプロケット14が図6の矢印Aで示す方向(時計回り方向)に回転駆動すると、タイミングチェーン69は矢印Bで示す方向(時計回り方向)に走行する。このとき、クランクスプロケット14と排気カムスプロケット68との間の張架部分69aは比較的弛みを生じやすく、吸気カムスプロケット67とクランクスプロケット14との間の張架部分69bは比較的張りを生じやすい。
タイミングチェーン69には、前記弛みを生じやすい張架部分69aにおいて適正な張力を付与するとともに、この張架部分69aにおいてタイミングチェーン69の振動を減衰させるために、前記チェーンテンショナ15および可動ガイド16が設けられている。
なお、前記張架部分69bには、タイミングチェーン69をガイドするチェーンガイド17が設けられている。
チェーンテンショナ15は、可動ガイド16を介してタイミングチェーン69を押圧可能に配置されている。可動ガイド16は、クランクスプロケット14側の端部(図6では下側の端部)がシリンダブロック2に回転自在に支持され、排気カムスプロケット68側の端部(図6では上側の端部)が自由端となっている。チェーンテンショナ15は、可動ガイド16の自由端部を外方から押し付けることで、タイミングチェーン69の張架部分69aに対して適度の張力を付与する。
前述したように、メインオイルホール95からオイル通路96およびチェーンテンショナ側通路96aを経たオイルはチェーンテンショナ15に供給される。このチェーンテンショナ15では、このオイルの油圧を受けてプランジャ15aが可動ガイド16に対して押圧力を付与し、これにより、可動ガイド16がタイミングチェーン69の張架部分69aに押圧力を与えることで、タイミングチェーン69に所定の張力を付与するようになっている。このチェーンテンショナ15の内部構成については公知であるため、ここでの説明は省略する。
そして、このチェーンテンショナ15のプランジャ15aがタイミングチェーン69の張架部分69aに付与する押圧力は、前記オイルポンプ5からの吐出油圧によって調整される。つまり、ECU300からの信号によって前記OCV160のスプール位置を変更し、供給ポート160bからのオイルを制御ポート160aを経て制御油路161へ送り出す状態とすることでオイルポンプ5からの吐出油量を減少させ、タイミングチェーン69の張架部分69aに付与する押圧力を減少させることができる。逆に、制御油路161のオイルを制御ポート160aを経てドレンポート160cから排出させる状態とすることでオイルポンプ5からの吐出油量を増加させ、タイミングチェーン69の張架部分69aに付与する押圧力を増加させることができる。このタイミングチェーン69の張架部分69aに付与する押圧力の調整制御については後述する。
なお、前記チェーンガイド17は、樹脂など可撓性のある材料で構成され、その両端部がボルトによってシリンダブロック2またはクランクケースに固定されている。
また、本実施形態では、タイミングチェーン69の張架部分69a,69cにおける振動振幅(タイミングチェーン69のばたつき量)を検出するためのチェーンばたつき検出センサ318a,318bが設けられている。具体的に、クランクスプロケット14と排気カムスプロケット68との間の張架部分69aにおけるタイミングチェーン69のばたつき量を検出する第1チェーンばたつき検出センサ318a、および、カムスプロケット67,68間の張架部分69cにおけるタイミングチェーン69のばたつき量を検出する第2チェーンばたつき検出センサ318bが設けられている。
これらチェーンばたつき検出センサ318a,318bは、公知の電磁ピックアップまたは加速度ピックアップにより構成されており、タイミングチェーン69の走行方向に対して直交する方向の振動幅(ばたつき量)を検出し、そのばたつき量に応じた出力信号を前記ECU300に向けて送信するようになっている(図7を参照)。
−制御系−
図7は制御系の概略構成を示すブロック図である。この図7に示すように、ECU300は、CPU301、ROM302、RAM303およびバックアップRAM304などを備えている。ROM302は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU301は、ROM302に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM303はCPU301での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM304はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。これらROM302、CPU301、RAM303、および、バックアップRAM304はバス307を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース305および出力インターフェース306と接続されている。
入力インターフェース305には、水温センサ310、エアフロメータ311、吸気温センサ312、O2センサ313、アクセル開度を検出するアクセルポジションセンサ314、スロットルポジションセンサ315、クランクポジションセンサ316、カムポジションセンサ317i,317e、前記チェーンばたつき検出センサ318a,318b、および、油温センサ319などの各種センサが接続されている。
出力インターフェース306には、インジェクタ7、点火プラグ12のイグナイタ18、スロットルバルブのスロットルモータ19、VVT用OCV96d−i,96d−e、および、前記オイルポンプ5の吐出油圧を制御する前記OCV160などが接続されている。そして、ECU300は、前記した各種センサの検出信号に基づいて、インジェクタ7の噴射時期制御、点火プラグ12の点火時期制御、および、バルブタイミング制御などを含むエンジン1の各種制御を実行する。さらにECU300は、オイルポンプ5の吐出油圧を制御する下記の油圧制御を実行する。
前記バルブタイミング制御では、ECU300は、クランクポジションセンサ316等の各種センサの検出結果から得られるエンジン1の運転状態に基づいて、VVT機構100i,100eの目標変位角evttを算出するとともに、クランクポジションセンサ316および各カムポジションセンサ317i,317eの検出信号からVVT機構100i,100eの実変位角(実回転位相)evtを採取し、その実変位角が目標変位角に収束するようにVVT用OCV96d−i,96d−eをPD制御することによって、VVT機構100i,100eのバルブタイミングを制御する。
−油圧制御−
以下、本実施形態において特徴とするオイルポンプ5の吐出油圧制御(以下、単に油圧制御という)について説明する。まず、この油圧制御の概略について説明する。
前記オイルポンプ5の動力を略必要最小限に抑えてエンジン1の燃料消費率の改善を図るためには、前記チェーンテンショナ15がタイミングチェーン69の張架部分69aを押圧する押圧力を略必要最小限に抑えることが有効である。
しかしながら、従来技術(前記特許文献2)にあっては、VVT機構の遅角速度のみによってタイミングチェーンに与える押圧力(目標油圧)を決定しているため、必要以上に大きな押圧力が生じている可能性があった。つまり、オイルポンプの動力が必要以上に大きくなってしまっているため、エンジンの燃料消費率を改善するには改良の余地があった。
本実施形態ではこの点に鑑み、前記タイミングチェーン69のばたつき量を考慮することによって、前記チェーンテンショナ15がタイミングチェーン69の張架部分69aを押圧する押圧力を略必要最小限に抑えるようにしている。具体的には、エンジン回転数、油温、VVT機構100i,100eにより設定されている各バルブ61,62の進角位置の情報に基づいてオイルポンプ5の吐出油圧の目標値(目標ベース油圧;本発明でいう基準押圧力を得るための油圧)を設定する。そして、前記チェーンばたつき検出センサ318a,318bによって検出されたタイミングチェーン69のばたつき量に応じて、前記目標ベース油圧に対する補正を行って最終目標制御油圧を得るようにしている。より具体的には、タイミングチェーン69のばたつき量が所定範囲(許容範囲)の上限値よりも大きい場合には油圧を高める補正を行って制御油圧を高く設定する。具体的にはオイルポンプ5からの吐出油圧を高く設定する。一方、タイミングチェーン69のばたつき量が所定範囲の下限値よりも小さい場合には油圧を低くする補正を行って制御油圧を低く設定する。具体的にはオイルポンプ5からの吐出油圧を低く設定する。
以下、この油圧制御について図8のフローチャートを用いて具体的に説明する。この図8に示すフローチャートは、エンジン1の運転中において数msec毎に実行される。以下の説明では、目標ベース油圧を求めるパラメータの一つとして吸気バルブ61の開閉タイミング(進角度)を採用した場合を例に挙げて説明する。なお、吸気バルブ61および排気バルブ62両方の開閉タイミング(進角度)をパラメータとして目標ベース油圧を求めるようにしてもよい。
まず、ステップST1において、各センサからの情報を取得する。具体的には、前記クランクポジションセンサ316からの入力信号に基づいてエンジン回転数を算出してエンジン回転数情報を得る。また、油温センサ319からの入力信号によってエンジンオイルの油温情報を得る。また、カムポジションセンサ317iからの入力信号に基づいてVVT機構100iにより設定されている吸気バルブ61の進角位置情報を得る。
これら情報を取得した後、ステップST2に移り、目標ベース油圧を算出する。この目標ベース油圧は、前記エンジン回転数、油温および吸気バルブ61の進角位置をパラメータとした目標ベース油圧設定マップに従って求められる。図9(a)は油温が80℃の場合における目標ベース油圧設定マップの一例を示し、図9(b)は油温が−10℃の場合における目標ベース油圧設定マップの一例を示している。これら目標ベース油圧設定マップは、予め実験やシミュレーションによって作成されて前記ECU300のROM302に記憶されている。
これら目標ベース油圧設定マップにあっては、吸気バルブ61の進角位置が進角側であるほど目標ベース油圧としては高く設定されるようになっている。これは、吸気バルブ61の進角位置が進角側であるほど吸気カムシャフト63におけるカムトルク変動が大きくなってタイミングチェーン69のばたつき量が大きくなりやすいことから、このばたつき量を低減させるべくタイミングチェーン69に対する押圧力を高めるためである。図10(a)はVVT機構100iの進角度が25°CAの場合におけるカムトルクおよびチェーンばたつき量の変動状態の一例を示し、図10(b)はVVT機構100iの進角度が40°CAの場合におけるカムトルクおよびチェーンばたつき量の変動状態の一例を示す図である。これらの図からも判るように、カムトルクが大きいほど、つまり、吸気バルブ61の進角度が大きくなるほどチェーンばたつき量も大きくなっている。このため、図9(a)および図9(b)の目標ベース油圧設定マップに示すように、吸気バルブ61の進角位置が進角側であるほど目標ベース油圧としては高く設定される。
また、油温が高いほど(図9(b)に比べて図9(a)の方が油温が高い)目標ベース油圧としては高く設定されるようになっている。これは、油温が高い場合には、オイルの粘性が低くなり、各所でのオイル漏れに起因して前記チェーンテンショナ15がタイミングチェーン69に与える押圧力が低くなりやすいことを考慮したものである。
また、タイミングチェーン69のばたつき量は、このタイミングチェーン69の共振点に対応したエンジン回転数で特に大きくなる。このため、この共振点付近のエンジン回転数以外の回転数領域では、エンジン回転数が高いほど目標ベース油圧としては高く設定されるようになっているのに対し、前記共振点付近のエンジン回転数領域では、特に目標ベース油圧としては高く設定されるようになっている。図11はエンジン回転数とチェーンばたつき量との関係の一例を示す図である。この図からも判るように、タイミングチェーン69の共振点付近におけるエンジン回転数領域(図中の回転数領域XおよびY)においてタイミングチェーン69のばたつき量は特に大きくなっている。このため、図9(a)および図9(b)の目標ベース油圧設定マップに示すように、前記共振点付近のエンジン回転数領域では、特に目標ベース油圧としては高く設定される。
また、図9(a)および図9(b)における実線Z1,Z2は、エンジン回転数のみに応じて目標ベース油圧を設定するようにした目標ベース油圧設定マップをそれぞれ表している。つまり、吸気バルブ61の進角位置に応じて目標ベース油圧を設定していないことから、目標ベース油圧を必要以上に高く設定してしまっているものである。
なお、ここでは油温が異なる2種類の目標ベース油圧設定マップについてのみ説明したが、その他の油温に対応した目標ベース油圧設定マップをROM302に記憶させるようにしてもよい。また、各目標ベース油圧設定マップ上に設定されていない値(エンジン回転数、油温、進角位置の値)に応じた目標ベース油圧を算出する場合には、各目標ベース油圧設定マップから求められた目標ベース油圧を補間計算することになる。
また、目標ベース油圧を求める手法としては、前述した目標ベース油圧設定マップを利用するもの以外に、エンジン回転数、油温および吸気バルブ61の進角位置をパラメータとする演算式を利用するようにしてもよい。
前記目標ベース油圧設定マップに基づいて目標ベース油圧を求めた後、ステップST3に移り、チェーンばたつき量の情報を取得する。具体的には、前記各チェーンばたつき検出センサ318a,318bからの入力信号に基づいて現在のチェーンばたつき量を認識する。例えば、第1チェーンばたつき検出センサ318aによって検出された前記張架部分69aにおけるタイミングチェーン69のばたつき量と、第2チェーンばたつき検出センサ318bによって検出された前記張架部分69cにおけるタイミングチェーン69のばたつき量との平均値を算出してチェーンばたつき量の情報を取得する。なお、第1チェーンばたつき検出センサ318aによって検出された前記張架部分69aにおけるタイミングチェーン69のばたつき量、および、第2チェーンばたつき検出センサ318bによって検出された前記張架部分69cにおけるタイミングチェーン69のばたつき量それぞれに所定の係数(重み付け係数)を乗算した値の和をチェーンばたつき量の情報として取得したり、各チェーンばたつき量の加重平均をチェーンばたつき量情報として取得したりしてもよい。また各張架部分69a,69cのうち一方のばたつき量のみをチェーンばたつき量情報として取得するようにしてもよい。
このようにしてチェーンばたつき量の情報を取得した後、ステップST4に移り、このチェーンばたつき量が所定範囲内(A≦チェーンばたつき量≦B)であるか否かを判定する。ここで設定されているチェーンばたつき量の上限値Bは、タイミングチェーン69のばたつきによって発生する異音を許容範囲内とするものとして予め設定されている。また、チェーンばたつき量の下限値Aは、前記上限値Bを基準とし、この上限値Bから所定量だけ小さい値として予め設定されている。例えばチェーンばたつき量の下限値(前記値A)としては5mm、上限値(前記値B)としては15mm等が一例として挙げられる。これら値はこれに限定されるものではなく適宜設定される。
そして、チェーンばたつき量が前記所定範囲内となっており、ステップST4でYES判定された場合には、タイミングチェーン69に与える押圧力が適切に得られており、油圧(オイルポンプ5の吐出油圧)を補正する必要がないとして、そのままリターンされる。
一方、チェーンばたつき量が前記所定範囲内となっておらず、ステップST4でNO判定された場合には、ステップST5に移り、チェーンばたつき量が上限値を超えているか(チェーンばたつき量>B)否かを判定する。
チェーンばたつき量が上限値を超えており、ステップST5でYES判定された場合には、ステップST6に移り、前記ステップST2で算出した目標ベース油圧は、前回ルーチンにおける目標ベース油圧と同一であるか否かを判定する。エンジン回転数、油温、吸気バルブ61の進角位置が変化しておらず、または、変化量が僅かであって、目標ベース油圧が変化していない場合、つまり、今回ルーチンにおいてステップST2で算出した目標ベース油圧と前回ルーチンにおいてステップST2で算出した目標ベース油圧とが同一である場合には、ステップST6でYES判定されてステップST7に移る。
このステップST7では、前回ルーチンにおいて設定されていた目標油圧に対して所定量αだけ加算した値(前回目標油圧+α)を今回ルーチンにおける目標油圧として設定する。ここでいう前回ルーチンにおいて設定されていた目標油圧とは、前回ルーチンで、ステップST7、または、以下に述べるステップST8、10、11(前回ルーチンでのステップST8、10、11)の何れかによって設定された目標油圧である。
このようにして目標油圧を設定した後、ステップST12に移り、この目標油圧(最終目標油圧)が得られるように前記オイルポンプ5の吐出油圧を制御する。このオイルポンプ5における吐出油圧の調整動作については前述したので、ここでの説明は省略する。
一方、エンジン回転数の変化、油温の変化、吸気バルブ61の進角位置の変化等によって目標ベース油圧が変化した場合、つまり、今回ルーチンにおいてステップST2で算出した目標ベース油圧が前回ルーチンにおいてステップST2で算出した目標ベース油圧と同一でない場合には、ステップST6においてNO判定されてステップST8に移る。
このステップST8では、今回ルーチンにおいてステップST2で算出した目標ベース油圧(今回ルーチンで更新された目標ベース油圧)に対して所定量αだけ加算した値(目標ベース油圧+α)を今回ルーチンにおける目標油圧として設定する。このようにして目標油圧を設定した後、ステップST12に移り、この目標油圧(最終目標油圧)が得られるように前記オイルポンプ5の吐出油圧を制御する。
また、前記ステップST5の判定において、チェーンばたつき量が上限値を超えていない(チェーンばたつき量≦B)場合にはNO判定されてステップST9に移り、前記ステップST2で算出した目標ベース油圧は、前回ルーチンにおける目標ベース油圧と同一であるか否かを判定する。エンジン回転数、油温、吸気バルブ61の進角位置が変化しておらず、または、変化量が僅かであって、目標ベース油圧が変化していない場合、つまり、今回ルーチンにおいてステップST2で算出した目標ベース油圧と前回ルーチンにおいてステップST2で算出した目標ベース油圧とが同一である場合には、ステップST9でYES判定されてステップST10に移る。
このステップST10では、前回ルーチンにおいて設定されていた目標油圧に対して所定量βだけ減算した値(前回目標油圧−β)を今回ルーチンにおける目標油圧として設定する。
このようにして目標油圧を設定した後、ステップST12に移り、この目標油圧(最終目標油圧)が得られるように前記オイルポンプ5の吐出油圧を制御する。
一方、エンジン回転数の変化、油温の変化、吸気バルブ61の進角位置の変化等によって目標ベース油圧が変化した場合、つまり、今回ルーチンにおいてステップST2で算出した目標ベース油圧が前回ルーチンにおいてステップST2で算出した目標ベース油圧と同一でない場合には、ステップST9においてNO判定されてステップST11に移る。
このステップST11では、今回ルーチンにおいてステップST2で算出した目標ベース油圧(今回ルーチンで更新された目標ベース油圧)に対して所定量βだけ減算した値(目標ベース油圧−β)を今回ルーチンにおける目標油圧として設定する。このようにして目標油圧を設定した後、ステップST12に移り、この目標油圧(最終目標油圧)が得られるように前記オイルポンプ5の吐出油圧を制御する。
以上の動作が繰り返され、タイミングチェーン69のばたつき量が許容範囲内に抑えられるように前記目標ベース油圧が補正されながらタイミングチェーン69に与えられる押圧力が調整されていくことになる。
以上説明したように、本実施形態では、前記目標ベース油圧に対して、チェーンばたつき量に応じた補正量だけ補正を行って最終目標油圧を設定し、この最終目標油圧が得られるようにオイルポンプ5の吐出油圧を制御するようにしている。このため、タイミングチェーン69に対するチェーンテンショナ15からの押圧力を過不足の無い値に設定してタイミングチェーン69のばたつき量を所定の範囲内に調整することが可能になる。その結果、このタイミングチェーン69に対するチェーンテンショナ15からの押圧力を略必要最小限の値に調整することができ、オイルポンプ5の動力を略必要最小限に抑えることができて、エンジン1の燃料消費率の改善を図りながら、タイミングチェーン69のばたつき量を所定範囲内に抑えることができる。
また、本実施形態では、2箇所の張架部分69a,69cでのばたつき量に基づいてタイミングチェーン69のばたつき量を認識するようにしているため、チェーンばたつき量の認識精度の向上を図ることができ、その結果、タイミングチェーン69に対するチェーンテンショナ15からの押圧力の調整を高い精度で適正化することが可能である。
(変形例1)
前記実施形態では、タイミングチェーン69の張架部分69a,69cのばたつき量をチェーンばたつき検出センサ318a,318bによって検出するようにしていた。本変形例では、これに代えて、前記カムポジションセンサ317iからの出力に基づいてタイミングチェーン69のばたつき量を認識するようにしたものである。
つまり、タイミングチェーン69のばたつき量が大きくなるに従って吸気カムシャフト63におけるカムトルクの変動が大きくなるので、これをカムポジションセンサ317iからの出力に基づいて認識する。そして、このカムトルクの変動が所定量未満である場合にはタイミングチェーン69のばたつき量は前記所定範囲よりも小さいと判断して前記目標油圧を小さくするように補正する(前記ステップST10またはステップST11の動作)。一方、このカムトルクの変動が所定量を超えた場合にはタイミングチェーン69のばたつき量も前記所定範囲を超えたと判断して前記目標油圧を大きく設定するようにしている(前記ステップST7またはステップST8の動作)。
図12(a)はチェーンばたつき量が前記所定範囲よりも小さい場合のカムポジションセンサ317iの出力の変化を示し、図12(b)はチェーンばたつき量が前記所定範囲よりも大きい場合のカムポジションセンサ317iの出力の変化を示している。
本変形例においても前記実施形態の場合と同様の効果を奏することができる。また、本変形例では、既存のカムポジションセンサ317iを利用してタイミングチェーン69のばたつき量を認識することができる。つまり、前記チェーンばたつき検出センサ318a,318bを不要とすることができ、構成の簡素化および製造コストの低廉化を図ることができる。なお、排気側のカムポジションセンサ317eからの出力に基づいてタイミングチェーン69のばたつき量を認識するようにしてもよい。
(変形例2)
本変形例は、前記メインオイルホール95等に配設された油圧センサ(図示省略)によって検出された油圧値の変化に基づいてタイミングチェーン69のばたつき量を認識するようにしたものである。
つまり、タイミングチェーン69のばたつき量が大きくなるに従ってメインオイルホール95等の油路における油圧の変動が大きくなるので、これを油圧センサからの出力に基づいて認識する。そして、この油圧の変動が所定量未満である場合にはタイミングチェーン69のばたつき量は前記所定範囲よりも小さいと判断して前記目標油圧を小さくするように補正する。一方、この油圧の変動が所定量を超えた場合にはタイミングチェーン69のばたつき量も前記所定範囲を超えたと判断して前記目標油圧を大きく設定するようにしている。
図13(a)はチェーンばたつき量が前記所定範囲よりも小さい場合の油圧センサの出力の変化を示し、図13(b)はチェーンばたつき量が前記所定範囲よりも大きい場合の油圧センサの出力の変化を示している。
本変形例においても前記実施形態の場合と同様の効果を奏することができる。また、本変形例では、既存の油圧センサを利用してタイミングチェーン69のばたつき量を認識することができる。このため、前記変形例1の場合と同様に、前記チェーンばたつき検出センサ318a,318bを不要とすることができ、構成の簡素化および製造コストの低廉化を図ることができる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態および各変形例では、自動車用の多気筒ガソリンエンジン1に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、自動車以外に搭載されるエンジンに適用することも可能である。また、ディーゼルエンジンに適用することも可能である。
また、前記実施形態および各変形例では、無端伝動帯として、エンジン1の動弁系に動力を伝達するタイミングチェーン69を採用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、エンジンの動弁系に動力を伝達するタイミングベルトを採用したものに対しても適用可能である。
また、前記実施形態および各変形例では、吸気側および排気側それぞれにVVT機構100i,100eを備えたエンジン1に本発明を適用した場合について説明したが、吸気側のみにVVT機構100iを備えたエンジン1に対しても本発明は適用可能である。