JP6092652B2 - 可変容量型オイルポンプの制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は可変容量型オイルポンプの制御装置に係る。特に本発明は、内燃機関における被潤滑部にオイルを供給するためのオイルポンプの制御の改良に関する。
従来、特許文献1および特許文献2に開示されているような可変容量型オイルポンプが知られている。この種のオイルポンプは例えば内燃機関からの動力を受けて作動すると共に、容量可変機構が備えられ、この容量可変機構によってポンプ容量が可変とされる。
例えば特許文献2に開示されている可変容量型オイルポンプは、インナロータおよびアウタロータをその外周側から回転自在に保持する調整リングを備えており、吐出ポートからハウジングの加圧空間に導入された油圧を利用して調整リングを回動させてインナロータおよびアウタロータをポンプ容量が減少する側に変位させる構成となっている。つまり、エンジン回転数が高くなるなどしてオイルポンプの吐出圧が高くなった場合にはポンプ容量が減少する側に調整リングを回動させ、逆に、エンジン回転数が低くなるなどしてオイルポンプの吐出圧が低くなった場合にはポンプ容量が増大する側に調整リングを回動させる構成となっている。
特開平10−281102号公報 特開2012−132356号公報
一般に、オイルポンプにあっては、オイルの吐出に必要な動力(エンジンから受ける動力)を必要最小限に抑えてエンジンの燃料消費率の改善を図ることが求められている。
また、オイルポンプに要求されるオイル吐出圧力(目標吐出圧)は、エンジン回転数によって異なっている。具体的には、エンジン回転数が高いほど、エンジン内部の各摺動部分に対する潤滑性能要求や冷却性能要求も高くなることから、このエンジン回転数が高いほど高いオイル吐出圧力が得られるようにポンプ容量を制御することが考えられる。
しかしながら、単にエンジン回転数(エンジン回転数の現在値)のみによってポンプ容量を制御した場合には、前記各摺動部分に対する潤滑性能や冷却性能が適切に確保できない可能性があることを本発明の発明者らは見出した。
つまり、エンジン回転数が急速に上昇する状況にあっては、各摺動部分に対する潤滑性能や冷却性能を十分に確保するだけのオイル吐出圧力が得られない期間が生じてしまう可能性があった。逆に、エンジン回転数が急速に下降する状況にあっては、必要以上にオイル吐出圧力が高くなってしまう期間が生じ、エンジンの動力がオイルポンプによって浪費されてしまって燃料消費率の悪化に繋がってしまう可能性があった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内燃機関の運転状態に応じ、オイルの吐出に必要な動力を必要最小限に抑えることが可能な可変容量型オイルポンプの制御装置を提供することにある。
−発明の解決原理−
前記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、内燃機関の回転数が上昇していく状況では、内燃機関の回転数が高いほど目標吐出圧に向けての油圧制御の応答性を高めて必要潤滑性能が早期に得られるようにする。一方、内燃機関の回転数が下降していく状況では、内燃機関の回転数が低いほど目標吐出圧に向けての油圧制御の応答性を高めてオイルポンプによる動力の浪費を早期に解消できるようにしている。
−解決手段−
具体的に、本発明は、内燃機関の動力を受けて作動すると共に容量可変機構を備えた回転式の可変容量型オイルポンプの制御装置を前提とする。この可変容量型オイルポンプの制御装置に対し、前記内燃機関の回転速度が高いほど前記可変容量型オイルポンプの目標吐出油圧を高く設定する。そして、前記内燃機関の回転速度が上昇している期間中にあっては、前記内燃機関の回転速度が高いほど、前記可変容量型オイルポンプの実吐出油圧の前記目標吐出油圧への追従性を高く設定する一方、前記内燃機関の回転速度が下降している期間中にあっては、前記内燃機関の回転速度が低いほど、前記可変容量型オイルポンプの実吐出油圧の前記目標吐出油圧への追従性を高く設定する構成としている。
この特定事項により、内燃機関の回転速度が上昇している期間中には、内燃機関の回転速度が高いほど、可変容量型オイルポンプの実吐出油圧が早期に目標吐出油圧に到達することになる。つまり、内燃機関の回転速度が上昇している場合、各摺動部分に対する潤滑性能や冷却性能を十分に確保するために必要となるオイル吐出圧力は高くなり、しかも、内燃機関の回転速度が高いほど、その要求されるオイル吐出圧力は高くなる。このような状況で、オイル吐出圧力が高くなる側への可変容量型オイルポンプの作動の追従性を高めることで、各摺動部分に要求される潤滑性能や冷却性能を早期に達成することが可能になる。一方、内燃機関の回転速度が下降している期間中には、内燃機関の回転速度が低いほど、可変容量型オイルポンプの実吐出油圧が早期に目標吐出油圧に到達することになる。つまり、内燃機関の回転速度が下降している場合、各摺動部分に対する潤滑性能や冷却性能を確保するために必要となるオイル吐出圧力は比較的低く、しかも、内燃機関の回転速度が低いほど、その要求されるオイル吐出圧力は低くなる。このような状況で、オイル吐出圧力が低くなる側への可変容量型オイルポンプの作動の追従性を高めることで、内燃機関の動力がオイルポンプによって浪費されてしまうことを早期に解消でき、燃料消費率の改善を図ることが可能になる。
前記実吐出油圧の前記目標吐出油圧への追従性を高く設定するための具体的な手段としては、前記可変容量型オイルポンプの実吐出油圧が前記目標吐出油圧に達するまでの時間である目標吐出油圧到達時間を短縮させるようにポンプ容量を制御することが挙げられる。
このように目標吐出油圧に達するまでの時間を短縮させるようにポンプ容量を制御することで、ポンプ容量の制御性を良好に確保することができ、適正なポンプ容量を精度良く得ることが可能になる。
また、前記目標吐出油圧を、油温が高いほど高く設定するようにしている。
つまり、前記目標吐出油圧を、前記内燃機関の回転速度が高いほど高く設定し、油温が高いほど高く設定するようにしている。このように油温が高いほど目標吐出油圧を高く設定する理由は、油温が高いほどオイルの冷却能力が小さくなることを考慮し、油温が高くても被冷却部に対する冷却性能が高く確保できるようにするためである。
前記目標吐出油圧到達時間の変化として具体的には以下のものが挙げられる。
まず、前記内燃機関の回転速度の上昇期間を対象として、前記内燃機関の回転速度が所定値以下である低回転域と所定値を超えている高回転域とを予め規定しておく。そして、前記低回転域において前記内燃機関の回転速度が上昇していく場合における、前記内燃機関の回転速度の単位上昇量に対する前記目標吐出油圧到達時間の変化量に対して、前記低回転域から高回転域に移行する場合における、前記内燃機関の回転速度の単位上昇量に対する前記目標吐出油圧到達時間の変化量の方を大きく設定している。
また、前記内燃機関の回転速度の下降期間を対象として、前記内燃機関の回転速度が所定値以下である低回転域と所定値を超えている高回転域とを予め規定しておく。そして、前記高回転域において前記内燃機関の回転速度が下降していく場合における、前記内燃機関の回転速度の単位下降量に対する前記目標吐出油圧到達時間の変化量に対して、前記高回転域から低回転域に移行する場合における、前記内燃機関の回転速度の単位下降量に対する前記目標吐出油圧到達時間の変化量の方を大きく設定している。
これらの構成により、内燃機関の回転速度が上昇している期間中にあっては、その回転速度が低回転域から高回転域に移行する際に急速に実吐出油圧の追従性を高く設定することが可能になり、各摺動部分に要求される潤滑性能や冷却性能を早期に達成することが可能になる。また、内燃機関の回転速度が下降している期間中にあっては、その回転速度が高回転域から低回転域に移行する際に急速に実吐出油圧の追従性を高く設定することが可能になり、内燃機関の動力がオイルポンプによって浪費されてしまうことを早期に抑制でき、燃料消費率の改善を図ることが可能になる。
本発明では、内燃機関の回転数の変化状況に応じて目標吐出油圧への追従性を調整するようにしている。これにより、内燃機関の回転数が上昇する状況にあっては、各摺動部分に対する潤滑性能や冷却性能が早期に確保され、内燃機関の回転数が下降する状況にあっては、必要以上に吐出圧力が高くなってしまう期間を短縮化して燃料消費率の改善を図ることができる。
実施形態に係るエンジンのオイル供給系統の一例を示す全体構成図である。 オイルポンプの構造を示す断面図であって、ポンプ容量が最大の状態を示す図である。 オイルポンプの構造を示す断面図であって、ポンプ容量が最小の状態を示す図である。 制御系の概略構成を示すブロック図である。 目標吐出油圧設定マップの一例を示す図である。 図6(a)はエンジン回転数が6000rpmである場合のメインギャラリにおける油圧と油温との関係を実験により求めた図であり、図6(b)はエンジン回転数が4000rpmである場合のメインギャラリにおける油圧と油温との関係を実験により求めた図である。 ポンプ容量制御の手順を示すフローチャート図である。 図8(a)はエンジン回転数が上昇している場合におけるエンジン回転数と目標吐出油圧到達時間との関係を規定する回転上昇側マップを示す図であり、図8(b)はエンジン回転数が下降している場合におけるエンジン回転数と目標吐出油圧到達時間との関係を規定する回転下降側マップを示す図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、自動車用の4気筒ガソリンエンジン(内燃機関)に搭載されたオイルポンプに本発明を適用した場合について説明するが、これに限ることはない。本実施形態の記載はあくまで例示に過ぎず、本発明の構成や用途などについても限定するものではない。
(エンジンおよびオイル供給系統の概略)
まず、図1に仮想線で示すようにエンジン1は、シリンダブロック10の上部にシリンダヘッド11が組み付けられてなる。シリンダブロック10には4つのシリンダ(図示せず)が設けられ、それぞれに収容されているピストン12(図には1つのみ示す)は、コネクティングロッド12aを介してクランクシャフト13に連結されている。このクランクシャフト13は、図の例では5つのクランクジャーナル13aにおいてシリンダブロック10の下部(クランクケース)に回転自在に支持されている。
一方、シリンダヘッド11には、各シリンダ毎の吸気バルブ12bおよび排気バルブ12cを駆動する動弁系のカムシャフト14,15が配設されている。一例として動弁系は、吸気側および排気側の2本のカムシャフト14,15を備えたDOHCタイプのもので、これらのカムシャフト14,15は、それぞれ図の例では5つのカムジャーナル14a,15aにおいてシリンダヘッド11に回転自在に支持されている。
そして、それら2本のカムシャフト14,15がクランクシャフト13の回転に同期して回転され、吸気バルブ12bおよび排気バルブ12cを開閉させる。すなわち、クランクシャフト13の前端部(図1の左側の端部)にはクランクスプロケット(図示せず)が取り付けられる一方、2本のカムシャフト14,15の端部にはそれぞれカムスプロケット14b,15bが取り付けられ、それらに亘ってタイミングチェーン3が巻き掛けられている。これによりカムシャフト14,15は、クランクシャフト13の回転に同期して回転される。
また、前記クランクスプロケットの後側に隣接してオイルポンプ5を駆動するためのスプロケット(図示せず)も取り付けられている。すなわち、オイルポンプ5は、クランクシャフト13の前端部の下方に位置し、その入力軸5aにはポンプスプロケット5bが取り付けられていて、このポンプスプロケット5bと前記クランクシャフト13のスプロケットとの間にチェーン4が巻き掛けられている。
そうしてクランクシャフト13からの力によって入力軸5aが回転されると、オイルポンプ5から吐出されるエンジンオイル(以下、単にオイルともいう)がオイル供給系統2を介して、前記のピストン12やクランクジャーナル13a、カムジャーナル14a,15a、さらには、前記コネクティングロッド12aの軸受け部分などの被潤滑部に供給される。オイル供給系統2は、オイルポンプ5の動作によってオイルパン16から吸い上げたオイルを、オイルフィルタ6によって濾過した後にメインギャラリ20へと供給する。
すなわちオイルポンプ5は、オイルパン16内に貯留されているオイルを、図示しないオイルストレーナを介して吸い上げ、吐出ポート50e(図2を参照)から吐出して連通路6aによってオイルフィルタ6に送給する。オイルフィルタ6は、ハウジング内に収容されたフィルタエレメントによってオイル内の異物や不純物などを濾過するものであり、ここで濾過されたオイルがメインギャラリ20に送給される。
メインギャラリ20は、例えばシリンダブロック10の内部にシリンダ列方向に延びるように形成されて、オイルポンプ5から送られてくるオイルを複数の分岐オイル通路21〜23によって被潤滑部などに分配する。図の例ではメインギャラリ20の長手方向に等間隔で分岐しそれぞれ下方に延びる分岐オイル通路21によって、クランクジャーナル13a等にオイルが供給される。また、メインギャラリ20の両端からそれぞれ上方に延びる分岐オイル通路22,23によって、シリンダヘッド11のカムジャーナル14a,15aなどにオイルが供給される。
(オイルポンプの構造)
以下にオイルポンプ5の構造について図2を参照して詳細に説明する。オイルポンプ5は、入力軸5aにより回転される外歯車のドライブロータ51と、これに噛み合って回転される内歯車のドリブンロータ52と、そのドリブンロータ52を外周から回転自在に保持する調整リング53(保持部材)と、をハウジング50(ポンプハウジング)内に収容してなる。調整リング53は、後述するようにドライブロータ51およびドリブンロータ52を変位させることにより、ポンプ容量を変更する容量調整部材でもある。
ハウジング50は全体としては厚肉の板状であり、図2に示すようにエンジン後方から見た場合に左右に長い楕円形状とされ、図の右上部から右側に向かって突出部50aが、また、図の左下部からは下方に向かって突出部50bが、それぞれ形成されている。また、ハウジング50の全体に後方、すなわちエンジン1の内方(図の手前側)に向かって開放された凹部50cが形成されている。
この凹部50cは前記ドライブロータ51、ドリブンロータ52、調整リング53等を収容するものであり(以下、収容凹部50cという)、ハウジング50に後方から重ね合わされるカバー(図示せず)によって閉止される。また、収容凹部50cの中央よりもやや右側位置には円形断面の貫通孔(図には示さず)が形成され、ここに挿通された入力軸5aがハウジング50の前方に突出している。
そうしてハウジング50の前方に突出する入力軸5aの前端部に、前記チェーン4の巻き掛けられるポンプスプロケット5bが取り付けられている一方、入力軸5aの後端部は、ドライブロータ51の中央部を貫通し、例えばスプラインによって嵌合されている。このドライブロータ51には、外周にトロコイド曲線またはトロコイド曲線に近似した曲線(例えばインボリュート、サイクロイドなど)を有する外歯51aが複数(図の例では11個)、形成されている。
一方、ドリブンロータ52は円環状に形成され、その内周には前記ドライブロータ51の外歯51aと噛み合うよう、これより歯数が1歯大きい(図の例では12個の)内歯52aが形成されている。ドリブンロータ52の中心は、ドライブロータ51の中心に対して所定量、偏心しており、その偏心している側(図2の左上側)でドライブロータ51の外歯51aとドリブンロータ52の内歯52aとが噛み合っている。
また、ドリブンロータ52は、調整リング53の円環状の本体部53aによって摺動自在に嵌合支持されている。この例では調整リング53には、その本体部53aの外周から周方向に所定の角度範囲(図の例では約50°)に亘って径方向外方に張り出す2つの張出部53b,53cと、径方向外方に大きく延びるアーム部53dと、小さな突起部53eとが一体に形成されている。調整リング53について詳しくは後述する。
そのようにして調整リング53に保持されたドライブロータ51およびドリブンロータ52によって、本実施形態では11葉12節のトロコイドポンプが構成されており、2つのロータ51,52の間の環状の空間には、互いに噛合する歯と歯の間に円周方向に並んだ複数の作動室Rが形成される。これらの各作動室Rは2つのロータ51,52の回転に連れてドライブロータ51の外周に沿うように移動しながら、その容積が増減する。
すなわち、2つのロータ51,52の歯が互いに噛み合う位置から、図に矢印で示すロータ回転方向に約180度に亘る範囲(図2では左下側の範囲)では、2つのロータ51,52の回転に連れて徐々に作動室Rの容積が増大してゆき、オイルを吸入する吸入範囲となる。一方、残りの約180度に亘る範囲(図2では右上側の範囲)では、ロータ51,52の回転に連れて徐々に作動室Rの容積が減少してゆき、オイルを加圧しながら吐出する吐出範囲となる。
そして、それらの吸入範囲および吐出範囲にそれぞれ対応するように、ハウジング50およびカバーに吸入ポートおよび吐出ポートが形成されている。図2にはハウジング50の吸入ポート50dおよび吐出ポート50eのみを示すが、この吸入ポート50dは、ハウジング50の収容凹部50cの底面において前記の吸入領域に対応するように開口し、同じく吐出領域に対応するように吐出ポート50eが開口している。
吸入ポート50dは、図ではハウジング50の左下側に位置して、図示しないカバーの吸入ポートと連通しており、これを介してオイルストレーナの吸入管路に連通している。一方、吐出ポート50eはハウジング50の右上側に位置して、図示しないカバーの吐出ポートと連通するとともに、ハウジング50の突出部50aに対応するように図の右側に向かって延びていて、オイルフィルタ6に向かう連通路6aに至る。
かかる構成によりオイルポンプ5は、ポンプスプロケット5bに伝達されるクランクシャフト13からの力を受けて入力軸5aが回転すると、ドライブロータ51およびドリブンロータ52が互いに噛み合いながら回転し、それらの間に形成される作動室Rに吸入ポート50dからオイルが吸入され、加圧されて吐出ポート50eから吐出される。
こうして吐出されるオイルの流量は、オイルポンプ5の回転数(入力軸5aの回転数)、すなわちエンジン回転数(エンジン回転速度)が高くなるほど多くなるので、エンジン1の高回転域においてクランクジャーナル13aなどの被潤滑部に供給されるオイルの量が多くなっても、メインギャラリ20の油圧は所定以上の大きさに維持して、被潤滑部に適正にオイルを分配することができる。
−容量可変機構−
本実施形態のオイルポンプ5は、ドライブロータ51の1回転につき吐出するオイルの量、すなわちポンプ容量を変更可能な容量可変機構を備えている。本実施形態では、主に吐出ポート50eから導かれた油圧(吐出圧)によって前記の調整リング53を変位させて、ドライブロータ51およびドリブンロータ52の吸入ポート50dおよび吐出ポート50eに対する相対的な位置を変更することにより、1回転当たりに吸入および吐出するオイルの流量を変更する。
詳しくは図2に表れているように、調整リング53の本体部53aから径方向外方に延びる前記アーム部53dには、圧縮コイルスプリング54からの押圧力が作用しており、これによって調整リング53が図の時計回り方向に回動しながら、少し上方に変位するように付勢されている。また、このような変位の際に調整リング53は、ガイドピン55,56によって案内される。
すなわち、調整リング53の張出部53b,53cはそれぞれ湾曲する楕円の枠状に形成されていて、ハウジング50の収容凹部50cの底面に突設されたガイドピン55,56を収容している。これらガイドピン55,56はそれぞれ枠状の張出部53b,53cの内周に接触して、その長手方向に摺動するようになっており、これにより調整リング53の変位の軌跡が規定される。
こうしてガイドピン55,56によって案内されて変位する調整リング53が、収容凹部50c内を図の右上側の高圧空間THと、左側から下側にかけての低圧空間TLとに仕切っており、高圧空間THの油圧を受けて動作される。すなわち、高圧空間THは、ハウジング50の収容凹部50c内において、調整リング53の張出部53cの外周とハウジング50の壁部とによって囲まれ、かつ、第1および第2のシール材57,58によってオイルの流れが制限される領域に形成される。
そして、この高圧空間THには吐出ポート50eの開口の一部が臨み、オイルポンプ5の吐出圧が高圧空間THに導かれて調整リング53の外周面に作用するようになる。これに対して、吸入ポート50dが連通する低圧空間TLには概ね大気圧が作用しているので、調整リング53は、高圧空間THからの油圧によって図の反時計回り方向に回動するように付勢されることになる。
一方で調整リング53は、前記したようにアーム部53dに作用するコイルスプリング54の弾発力を受けて時計回り方向に付勢されており、主にそれらの付勢力によって変位するようになる。
さらに、本実施形態では、図2および図3にそれぞれ示すように、ハウジング50内には高圧空間THに隣接するように制御空間TC(油圧室)を設けて、ここに電子制御式の制御弁60(Oil Control Vale:以下、OCVという)から制御油圧を供給し、前記のような調整リング53の変位を補助する力を発生させる。OCV60により制御油圧を高精度に調圧し、調整リング53の変位を補助する力の大きさを調整することで、前記のようなポンプ容量の制御性が高くなる。
具体的には、前記調整リング53の2つの張出部53b,53cのほぼ中間においてその外周には第2のシール材58が配設され、収容凹部50cを取り囲むハウジング50の壁部の内面と摺接するようになっている。この第2シール材58は、高圧空間THと制御空間TCとの間のシール部であって、前記のような調整リング53の変位に伴いハウジング50の壁部の内面に沿って移動することになる。
同様に調整リング53のアーム部53dの先端には第3のシール材59が配設されて、対向するハウジング50の壁部の内面と摺接するようになっている。なお、これら第2および第3のシール材58,59、および、前記した第1のシール材57は、いずれも調整リング53の厚み(図2および図3の紙面に直交する方向の寸法)と同程度の寸法を有し、耐摩耗性に優れた金属材や樹脂材にて形成されている。
こうして制御空間TCは、ハウジング50の収容凹部50c内において、調整リング53の外周(詳しくは張出部53bの外周)とアーム部53dと、それらに対向するハウジング50の壁部とによって囲まれ、かつ前記第2および第3のシール材58,59によってオイルの流れが制限される領域に形成される。そして、この制御空間TCにおいて収容凹部50cの底面に開口する制御油路61によって、OCV60から制御油圧が供給される。
すなわち、制御油路61はその一端部が前記のように制御空間TCに臨む丸孔61aとして開口する一方、他端部がOCV60の制御ポート60aに連通している。OCV60は、後述するECU100(図4を参照)からの信号を受けてスプールの位置が変更され、供給ポート60bからのオイルを制御ポート60aから制御油路61へ送り出す状態と、制御油路61から排出されてきたオイルを制御ポート60aに受け入れて、ドレンポート60cから排出する状態とに切り換えられる。
また、一例としてリニアソレノイドバルブであるOCV60は、ECU100からの信号(Duty信号)に応じてスプールの位置が連続的に変化し、前記のように制御ポート60aから制御油路61へ送り出すオイルの圧力をリニアに増大または減少させることができる。よって、例えば前記のようにエンジン回転数の上昇に伴い調整リング53が図2の反時計回り方向に変位する際に、制御空間TCに供給する制御油圧を増大させて、調整リング53の変位を補助することができる。
一方、OCV60の制御によって制御空間TCに供給する制御油圧を低下させれば、調整リング53の反時計回り方向の変位を抑えることができる。これによりポンプ容量の制御性が向上する。なお、図2および図3に示すように本実施形態では、オイルポンプ5の吐出ポート50eからオイルフィルタ6への連通路6aの途中に分岐路6bを接続して、OCV60にオイルを供給するようにしているが、これに限らず、例えばオイルフィルタ6によって濾過されたオイルをOCV60に供給するようにしてもよい。
(制御系)
図4は、エンジン1における制御系の概略構成を示すブロック図である。この図4に示すように、ECU100は、CPU101、ROM102、RAM103およびバックアップRAM104などを備えている。ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM103はCPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM104はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。これらROM102、CPU101、RAM103、および、バックアップRAM104はバス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105および出力インターフェース106と接続されている。
入力インターフェース105には、エンジン1の冷却水温度を検出する水温センサ110、吸入空気量を計測するエアフロメータ111、吸入空気温度を計測する吸気温センサ112、排気系に備えられたO2センサ113、アクセル開度を検出するアクセルポジションセンサ114、スロットルバルブの開度を検出するスロットルポジションセンサ115、クランクシャフト13の回転位置を検出するクランクポジションセンサ116、カムシャフト14の回転位置を検出するカムポジションセンサ117、前記メインギャラリ20に配設されてメインギャラリ20内の油圧を検出する油圧センサ118、および、前記メインギャラリ20に配設されてメインギャラリ20内の油温を検出する油温センサ119などの各種センサが接続されている。
出力インターフェース106には、インジェクタ7、点火プラグのイグナイタ8、スロットルバルブのスロットルモータ9、および、前記オイルポンプ5の吐出油圧を制御する前記OCV60などが接続されている。そして、ECU100は、前記した各種センサの検出信号に基づいて、インジェクタ7の燃料噴射制御、点火プラグの点火時期制御、および、スロットルバルブの開度制御などを含むエンジン1の各種制御を実行する。
そして、ECU100は、エンジン1の運転状態などに応じてオイルポンプ5のポンプ容量を調整し、これによってオイルポンプ5からの吐出油圧を制御する下記のポンプ容量制御を実行する。
(ポンプ容量制御)
以下、本実施形態において特徴とするポンプ容量制御について説明する。まず、このポンプ容量制御の概略について説明する。
前記クランクジャーナル13a、カムジャーナル14a,15a、コネクティングロッド12aの軸受け部分などの被潤滑部の潤滑性能や被冷却部の冷却性能を確保しながらもエンジン1の燃料消費率の改善を図るためには、前記オイルポンプ5の動力を略必要最小限に抑えることが有効である。
しかしながら、従来技術にあっては、単にエンジン回転数(エンジン回転数の現在値)よってポンプ容量を制御しているのみであるため、前記被潤滑部に対する潤滑性能や被冷却部に対する冷却性能が適切に確保できない可能性がある。つまり、エンジン回転数が急速に上昇する状況にあっては、被潤滑部に対する潤滑性能や被冷却部に対する冷却性能を十分に確保するだけのオイル吐出圧力が得られない期間が生じてしまう可能性があった。逆に、エンジン回転数が急速に下降する状況にあっては、オイルポンプ5のポンプ容量の応答遅れに起因して必要以上にオイル吐出圧力が高くなってしまう期間が生じ、エンジン1の動力がオイルポンプ5によって浪費されてしまって燃料消費率の悪化に繋がってしまう可能性があった。
本実施形態ではこの点に鑑み、まず、オイルポンプ5の目標吐出油圧として、エンジン回転数(エンジン回転数の現在値)が高いほど、この目標吐出油圧を高く設定する。そして、エンジン回転数が上昇している期間中にあっては、そのエンジン回転数(エンジン回転速度)が高いほど、オイルポンプ5の実吐出油圧の目標吐出油圧への追従性を高く設定するようにポンプ容量を調整する。一方、エンジン回転数が下降している期間中にあっては、そのエンジン回転数が低いほど、オイルポンプ5の実吐出油圧の目標吐出油圧への追従性を高く設定するようにポンプ容量を調整する。
具体的に、前述した如くエンジン回転数等に応じて目標吐出油圧(オイルポンプ5から吐出されるオイルの圧力(油圧)の目標値)を設定するために、本実施形態にあっては、エンジン回転数および油温をパラメータとして目標吐出油圧を求めるための目標吐出油圧設定マップが前記ROM102に記憶されている。図5は、この目標吐出油圧設定マップ(3次元マップ)の一例を示している。
この図5に示すように、目標吐出油圧設定マップでは、エンジン回転数が高いほど目標吐出油圧は高く設定され、かつ油温が高いほど目標吐出油圧は高く設定されるようになっている。これは、エンジン回転数が高いほど、被潤滑部に対する潤滑性能要求や被冷却部に対する冷却性能要求が高くなるので、これらの要求を満たすべく、エンジン回転数が高いほど目標吐出油圧を高く設定するものである。また、油温が高いほどオイルの冷却能力は小さくなるため、被冷却部に対する冷却性能が高く確保されるように、油温が高いほど目標吐出油圧を高く設定して被冷却部へのオイル供給量を増大させるものである。
なお、この目標吐出油圧設定マップにおける油温は前記メインギャラリ20の内部(前記油温センサ119の配設箇所の近傍)における油温を対象としている。
以下、この目標吐出油圧設定マップの作成手順について説明する。この目標吐出油圧設定マップは、エンジン1を所定回転数で運転させた状況においてメインギャラリ20における油圧と油温との関係を実験により求め、油温が許容範囲内に維持されるようにするとともに所定の安全率を考慮して油圧を求めることによって作成される。
具体的に、図6(a)はエンジン回転数が6000rpmである場合のメインギャラリ20における油圧と油温との関係を実験(軸受限界油圧試験)により求めた図である。この図6(a)に示すように、エンジン回転数を6000rpmに維持した状態でポンプ容量を低下させて油圧が低下していった場合、この油圧の低下に伴って油温は徐々に上昇していくことになる。これは、前記油圧の低下に伴い、前記被冷却部に対する冷却性能が低下していくためである。そして、油圧が所定値まで低下した際(図中において油圧がP1となり油温がT1となった際)には、その後の油圧の低下量に対する油温の上昇勾配は急速に大きくなっていく。つまり、この油圧P1が油温変化の変曲点として現れる。これは、油圧の低下に伴って、被冷却部における発熱量とオイルによる冷却量とのバランスが崩れたためである。
このような油圧の変化に対する油温の変化(エンジン回転数が6000rpmである場合の変化)、および、油温を許容温度以下に抑えるための所定の安全率に基づき、エンジン回転数6000rpmを対象とした目標吐出油圧設定値(エンジン回転数6000rpmにおいて油温を許容温度以下に抑えるための目標吐出油圧)が求められる。
同様に、図6(b)はエンジン回転数が4000rpmである場合のメインギャラリ20における油圧と油温との関係を実験により求めた図である。この図6(b)に示すように、エンジン回転数を4000rpmに維持した状態でポンプ容量を低下させて油圧が低下していった場合、この油圧の低下に伴って油温は徐々に上昇していくことになる。そして、油圧が所定値まで低下した際(図中において油圧がP2となり油温がT2となった際)には、その後の油圧の低下量に対する油温の上昇勾配は急速に大きくなっていく。つまり、この油圧P2が油温変化の変曲点として現れる。これは、油圧の低下に伴って、被冷却部における発熱量とオイルによる冷却量とのバランスが崩れたためである。
このような油圧の変化に対する油温の変化(エンジン回転数が4000rpmである場合の変化)、および、油温を許容温度以下に抑えるための所定の安全率に基づき、エンジン回転数4000rpmを対象とした目標吐出油圧設定値(エンジン回転数4000rpmにおいて油温を許容温度以下に抑えるための目標吐出油圧)が求められる。
以上の実験がエンジン1の各回転数毎(600rpm、1000rpm、2000rpm…6000rpm毎)に行われ、各エンジン回転数を対象とした目標吐出油圧設定値が求められて、図5に示した目標吐出油圧設定マップが作成され、前記ROM102に記憶されている。
次に、前記目標吐出油圧設定マップを利用したポンプ容量制御について図7のフローチャートを用いて具体的に説明する。この図7に示すフローチャートは、エンジン1の運転中において数msec毎に実行される。
まず、ステップST1において、各センサからの情報を取得する。具体的には、前記クランクポジションセンサ116からのクランクシャフト13の回転位置情報、油温センサ119からのメインギャラリ20内の油温情報、油圧センサ118からのメインギャラリ20内の油圧情報等を取得する。
その後、ステップST2に移り、前記目標吐出油圧設定マップにより、現在のエンジン回転数および油温に応じた目標吐出油圧を決定する。つまり、前記クランクポジションセンサ116によって取得されたクランクシャフト13の回転位置情報に基づいて算出された現在のエンジン回転数、および、前記油温センサ119によって取得されたメインギャラリ20内の現在の油温を目標吐出油圧設定マップに当て嵌めることによって目標吐出油圧を決定する。
次に、ステップST3に移り、今回ルーチンにおいて算出されたエンジン回転数は、前回ルーチンにおいて算出されていたエンジン回転数から変化したか否かを判定する。つまり、前回ルーチンにおいて算出されていたエンジン回転数を前記RAM103に記憶させておき、今回ルーチンにおいて算出されたエンジン回転数と、RAM103に記憶されているエンジン回転数(前回ルーチンにおけるエンジン回転数)とを比較する。
これらエンジン回転数が同一である場合、つまり、エンジン回転数の変化がない場合には、ステップST3でNO判定されてステップST7に移る。このステップST7での動作については後述する。
一方、今回ルーチンにおいて算出されたエンジン回転数が、前回ルーチンにおいて算出されていたエンジン回転数から変化している場合にはステップST3でYES判定されてステップST4に移る。このステップST4では、エンジン回転数の今回値(今回ルーチンにおいて算出されたエンジン回転数)からエンジン回転数の前回値(前記RAM103に記憶されているエンジン回転数)を減算する。この場合、エンジン回転数が上昇傾向にある場合には算出値は正の値となる一方、エンジン回転数が下降傾向にある場合には算出値は負の値となる。
ステップST4での算出値が正の値、つまり、エンジン回転数が上昇傾向にある場合(本発明でいう「内燃機関の回転速度が上昇している期間中」)には、このステップST4でYES判定されてステップST5に移る。このステップST5では、前記ROM102に予め記憶されている回転上昇側マップ(図8(a))を参照して、前記目標吐出油圧に到達するまでの時間(目標吐出油圧到達時間)を設定する。
この回転上昇側マップは、エンジン回転数が上昇していく場合におけるエンジン回転数毎の目標吐出油圧到達時間を規定するマップであって、図8(a)からも明らかなように、エンジン回転数(エンジン回転数の上昇途中における現在のエンジン回転数)が高いほど、目標吐出油圧到達時間が短く設定されている。また、各エンジン回転数毎の目標吐出油圧到達時間はオイル等の熱容量に起因する応答遅れを考慮した値として設定されている。
また、この目標吐出油圧到達時間は、オイルポンプ5の目標吐出油圧を算出する演算式の時定数を決定するものである。この時定数は、前記回転上昇側マップより得られた目標吐出油圧到達時間に応じて決定されるものであって、この目標吐出油圧到達時間が短いほど時定数としては小さな値に設定される。
前記目標吐出油圧到達時間を設定して時定数を決定した後、ステップST7に移り、以下の式(1)によって、今回ルーチンにおけるオイルポンプ5の目標吐出油圧が算出される。
目標吐出油圧=目標吐出油圧の前回値+
{(目標吐出油圧マップ値−目標吐出油圧の前回値)/時定数} …(1)
ここで目標吐出油圧マップ値は、前記目標吐出油圧設定マップによって求められた目標吐出油圧の値に相当する。
上述した如く、時定数は、前記回転上昇側マップより得られた目標吐出油圧到達時間に応じて決定されるものであって、この目標吐出油圧到達時間が短いほど時定数としては小さな値に設定されるため、この目標吐出油圧到達時間が短いほど、上記式(1)で求められる目標吐出油圧の変化量が大きく得られることで吐出油圧の応答性が高められるようになっている。つまり、エンジン回転数が高いほど、オイルポンプ5の実吐出油圧の目標吐出油圧への追従性が高められることになる。逆に、前記回転上昇側マップより得られた目標吐出油圧到達時間が長いほど時定数としては大きな値に設定されるため、この目標吐出油圧到達時間が長いほど、上記式(1)で求められる目標吐出油圧の変化量が小さく得られることで吐出油圧の応答性が低くなるようになっている。つまり、エンジン回転数が低いほど、オイルポンプ5の実吐出油圧の目標吐出油圧への追従性が低くされることになる。
なお、前記回転上昇側マップの特徴の一つとして、エンジン回転数が所定値(図8(a)に示すものでは3000rpm)以下である低回転域とその所定値を超えている高回転域とが予め規定されており、前記低回転域においてエンジン回転数が上昇していく場合における、エンジン回転数の単位上昇量に対する前記目標吐出油圧到達時間の変化量(目標吐出油圧到達時間の短縮分)に対して、前記低回転域から高回転域に移行する場合(例えばエンジン回転数が3000rpmから4000rpmに移行する場合)における、エンジン回転数の単位上昇量に対する前記目標吐出油圧到達時間の変化量(目標吐出油圧到達時間の短縮分)の方が大きく設定されている。
このようにして目標吐出油圧到達時間に応じた時定数を利用して目標吐出油圧が求められ、ステップST8では、この目標吐出油圧が得られるように前記OCV60が制御されることになる。つまり、ECU100からの信号(Duty信号)に応じてスプールの位置が連続的に変化され、前記制御ポート60aから制御油路61へ送り出すオイルの圧力をリニアに増大または減少させることによって調整リング53を変位させて目標吐出油圧が得られるようにする。また、この目標吐出油圧を得るための具体的な制御としては、例えば、前記油圧センサ118によって検出される油圧に基づいたフィードバック制御が行われる。
一方、前記ステップST4での算出値が負の値、つまり、エンジン回転数が下降傾向にある場合(本発明でいう「内燃機関の回転速度が下降している期間中」)には、このステップST4でNO判定されてステップST6に移る。このステップST6では、前記ROM102に予め記憶されている回転下降側マップ(図8(b))を参照して、前記目標吐出油圧に到達するまでの時間(目標吐出油圧到達時間)を設定する。
この回転下降側マップは、エンジン回転数が下降していく場合におけるエンジン回転数毎の目標吐出油圧到達時間を規定するマップであって、図8(b)からも明らかなように、エンジン回転数が低いほど、目標吐出油圧到達時間が短く設定されている。
前述と同様に、この目標吐出油圧到達時間は、オイルポンプ5の目標吐出油圧を算出する演算式(前記式(1))の時定数を決定するものである。この時定数は、前記回転下降側マップより得られた目標吐出油圧到達時間に応じて決定されるものであって、この目標吐出油圧到達時間が短いほど時定数としては小さな値に設定される。
その後、ステップST7において、前記式(1)によって、今回ルーチンにおけるオイルポンプ5の目標吐出油圧が算出される。
上述した如く、時定数は、前記回転下降側マップより得られた目標吐出油圧到達時間に応じて決定されるものであって、この目標吐出油圧到達時間が短いほど時定数としては小さな値に設定されるため、この目標吐出油圧到達時間が短いほど、上記式(1)で求められる目標吐出油圧の変化量が大きく得られることで吐出油圧の応答性が高められるようになっている。つまり、エンジン回転数が低いほど、オイルポンプ5の実吐出油圧の目標吐出油圧への追従性が高められることになる。逆に、回転下降側マップより得られた目標吐出油圧到達時間が長いほど時定数としては大きな値に設定されるため、この目標吐出油圧到達時間が長いほど、上記式(1)で求められる目標吐出油圧の変化量が小さく得られることで吐出油圧の応答性が低くなるようになっている。つまり、エンジン回転数が高いほど、オイルポンプ5の実吐出油圧の目標吐出油圧への追従性が低くされることになる。
なお、前記回転下降側マップの特徴の一つとして、エンジン回転数が所定値(図8(b)に示すものでは3000rpm)以下である低回転域とその所定値を超えている高回転域とが予め規定されており、前記高回転域においてエンジン回転数が下降していく場合における、エンジン回転数の単位下降量に対する前記目標吐出油圧到達時間の変化量(目標吐出油圧到達時間の短縮分)に対して、前記高回転域から低回転域に移行する場合(例えばエンジン回転数が4000rpmから3000rpmに移行する場合)における、エンジン回転数の単位下降量に対する前記目標吐出油圧到達時間の変化量(目標吐出油圧到達時間の短縮分)の方が大きく設定されている。
このようにして目標吐出油圧到達時間に応じた時定数を利用して目標吐出油圧が求められ、ステップST8では、この目標吐出油圧が得られるように前記OCV60が制御されることになる。
なお、前記ステップST3でNO判定されて(エンジン回転数が変化しておらず)ステップST7に移った場合には、現在の目標吐出油圧(前回以前のルーチンにおいて設定された目標吐出油圧)に従って前記OCV60が制御されることになる。
以上の動作が繰り返され、エンジン回転数の変更状況に応じて吐出油圧の応答性が調整されることになる。
以上説明したように、本実施形態では、エンジン回転数が上昇している期間中には、エンジン回転数が高いほど、オイルポンプ5の実吐出油圧が早期に目標吐出油圧に到達することになる。つまり、エンジン回転数が上昇している場合、各摺動部分に対する潤滑性能や冷却性能を十分に確保するために必要となるオイル吐出圧力は高くなり、しかも、エンジン回転数が高いほど、その要求されるオイル吐出圧力は高くなる。このような状況で、オイル吐出圧力が高くなる側へのオイルポンプ5の作動の追従性を高めることで、各摺動部分に要求される潤滑性能や冷却性能を早期に達成することが可能になる。また、エンジン回転数が上昇している期間中であっても、エンジン回転数が比較的低い場合には、実吐出油圧の目標吐出油圧への追従性を低く設定している。このため、必要以上に吐出油圧が高くなってしまうことを抑制でき、エンジン1の動力がオイルポンプ5によって浪費されてしまうことが抑制できて燃料消費率の改善を図ることが可能になる。
一方、エンジン回転数が下降している期間中には、エンジン回転数が低いほど、オイルポンプ5の実吐出油圧が早期に目標吐出油圧に到達することになる。つまり、エンジン回転数が下降している場合、各摺動部分に対する潤滑性能や冷却性能を確保するために必要となるオイル吐出圧力は比較的低く、しかも、エンジン回転数が低いほど、その要求されるオイル吐出圧力は低くなる。このような状況で、オイル吐出圧力が低くなる側へのオイルポンプ5の作動の追従性を高めることで、エンジン1の動力がオイルポンプ5によって浪費されてしまうことを抑制でき、燃料消費率の改善を図ることが可能になる。また、エンジン回転数が下降している期間中であっても、エンジン回転数が比較的高い場合には、実吐出油圧の目標吐出油圧への追従性を低く設定している。このため、高回転時に各摺動部分に要求される潤滑性能や冷却性能を継続して高く維持することが可能になる。
(他の実施形態)
以上説明した実施形態では、自動車用の多気筒ガソリンエンジン1に搭載されたオイルポンプ5に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、自動車用以外のエンジンに搭載されたオイルポンプに適用することも可能である。例えば、ディーゼルエンジンに搭載されたオイルポンプに適用することが可能である。
また、前記実施形態における回転上昇側マップ(図8(a))および回転下降側マップ(図8(b))にあっては、エンジン回転数の変化量に対する目標吐出油圧到達時間の変化量が、各エンジン回転数毎に異なるものとなっていた。本発明はこれに限らず、エンジン回転数の変化量に対する目標吐出油圧到達時間の変化量を均等にしてもよい。
また、前記実施形態では、容量可変機構を備えた可変容量型オイルポンプに本発明を適用した場合について説明したが、エンジン(内燃機関)の動力を受けて作動する吐出圧力可変機構(請求項でいう容量可変機構の概念に含まれるものであって、吐出油圧を可変とする機構)を備えたオイルポンプにも本発明は適用可能である。
本発明は、自動車用エンジンに搭載された可変容量型オイルポンプの目標吐出油圧の制御に適用可能である。
1 エンジン(内燃機関)
13 クランクシャフト
5 オイルポンプ(可変容量型オイルポンプ)
100 ECU
116 クランクポジションセンサ
118 油圧センサ
119 油温センサ

Claims (5)

  1. 内燃機関の動力を受けて作動すると共に容量可変機構を備えた回転式の可変容量型オイルポンプの制御装置において、
    前記内燃機関の回転速度が高いほど前記可変容量型オイルポンプの目標吐出油圧が高く設定され、
    前記内燃機関の回転速度が上昇している期間中にあっては、前記内燃機関の回転速度が高いほど、前記可変容量型オイルポンプの実吐出油圧の前記目標吐出油圧への追従性を高く設定する一方、
    前記内燃機関の回転速度が下降している期間中にあっては、前記内燃機関の回転速度が低いほど、前記可変容量型オイルポンプの実吐出油圧の前記目標吐出油圧への追従性を高く設定する構成とされていることを特徴とする可変容量型オイルポンプの制御装置。
  2. 請求項1記載の可変容量型オイルポンプの制御装置において、
    前記可変容量型オイルポンプの実吐出油圧が前記目標吐出油圧に達するまでの時間である目標吐出油圧到達時間を短縮させるようにポンプ容量を制御することによって、この実吐出油圧の前記目標吐出油圧への追従性を高く設定することを特徴とする可変容量型オイルポンプの制御装置。
  3. 請求項1または2記載の可変容量型オイルポンプの制御装置において、
    前記目標吐出油圧は、油温が高いほど高く設定されることを特徴とする可変容量型オイルポンプの制御装置。
  4. 請求項2記載の可変容量型オイルポンプの制御装置において、
    前記内燃機関の回転速度の上昇期間を対象として、前記内燃機関の回転速度が所定値以下である低回転域と所定値を超えている高回転域とが予め規定されており、
    前記低回転域において前記内燃機関の回転速度が上昇していく場合における、前記内燃機関の回転速度の単位上昇量に対する前記目標吐出油圧到達時間の変化量に対して、前記低回転域から高回転域に移行する場合における、前記内燃機関の回転速度の単位上昇量に対する前記目標吐出油圧到達時間の変化量の方が大きく設定されていることを特徴とする可変容量型オイルポンプの制御装置。
  5. 請求項2または4記載の可変容量型オイルポンプの制御装置において、
    前記内燃機関の回転速度の下降期間を対象として、前記内燃機関の回転速度が所定値以下である低回転域と所定値を超えている高回転域とが予め規定されており、
    前記高回転域において前記内燃機関の回転速度が下降していく場合における、前記内燃機関の回転速度の単位下降量に対する前記目標吐出油圧到達時間の変化量に対して、前記高回転域から低回転域に移行する場合における、前記内燃機関の回転速度の単位下降量に対する前記目標吐出油圧到達時間の変化量の方が大きく設定されていることを特徴とする可変容量型オイルポンプの制御装置。
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