実施の形態1.
以下、図1乃至図5を参照して、本発明の実施の形態1としての内燃機関(以下、エンジンという)のバルブタイミング制御装置について説明する。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、図1を用いてその構成の概略を説明することができる。図1は、吸気バルブに適用されるバルブタイミング制御装置の油圧回路を示している。この図に示すように、バルブタイミング制御装置は、油圧アクチュエータであるバルブタイミング可変機構(variable valve timing mechanism、以下、VVTという)20を備えている。VVT20は、クランク軸にベルト或いはチェーンによって連結されたハウジング22と、ハウジング22内に配置されカム軸と一体に回転するベーン体24とを備えている。
ハウジング22の内部にはベーン体24によって区画される2つの油室26,28が形成されている。VVT20によれば、これら2つの油室26,28間の容積比を変化させることでハウジング22に対してベーン体24を回転させ、クランク軸に対するカム軸の回転位相を変化させることができ、ひいては、バルブタイミングを変化させることができる。2つの油室26,28のうち、バルブタイミングの進角時に容積を拡大させる側の油室26を進角油室といい、容積を縮小させる側の油室28を遅角油室という。バルブタイミングの遅角時には、逆に遅角油室28の容積を拡大させ、進角油室26の容積を縮小させるようにする。
VVT20は、進角油室26と遅角油室28の何れ一方に選択的にオイル(作動油)を供給することで、それら油室26,28間の容積比を変化させることができる。進角油室26にオイルを供給する場合には、供給されたオイルの分だけ進角油室26が拡大するとともに、遅角油室28からは進角油室26の拡大に伴ってオイルが押し出される。逆に、遅角油室28にオイルを供給する場合には、供給されたオイルの分だけ遅角油室28が拡大し、進角油室26はオイルが押し出されることによって縮小する。
また、VVT20には、VVT20の動作をロックするためのロック機構が設けられている。そのロック機構は、VVT20のベーン体24に設けられたロックピン30と、ハウジング22に形成されたロック穴(図示略)とからなる。ロックピン30がロック穴に係合することでベーン体24はハウジング22に対して所定の回転角で固定されることとなる。ロック機構によるVVT20のロックはエンジン2の停止時に行われ、エンジン2の始動時に解除される。なお、本発明をバルブタイミング制御装置に適用する上でロック穴の位置には限定はないが、本実施の形態ではバルブタイミングを最遅角させる位置にロック穴が設けられているものとする。
このロック機構においてロックピン30を駆動する駆動力は、ベーン体24に内蔵されたスプリング(図示略)の付勢力と、VVT20に供給されるオイルの油圧である。スプリングの付勢力はロックピン30をロック穴に押し込む方向に作用し、オイルの油圧はロックピン30をロック穴から押し出す方向に作用する。このため、エンジン2の始動時、オイルポンプ4の回転によってオイルの油圧が立ち上るまでの間はロックピン30はロック穴に嵌り込んだままであり、VVT20はロック状態に保持される。そして、油圧がある程度まで立ち上がった時点でロックピン30がロック穴から押し出され、VVT20のロックは解除される。
VVT20に供給されるオイルは、VVTライン8によってメインオイルギャラリ6から取り出される。メインオイルギャラリ6はオイルポンプ4を起点として延びるオイルの主流路であり、そこを流れるオイルはVVT20以外の油圧アクチュエータにも供給されるほか、エンジン2内の各摺動部に潤滑油として供給されている。オイルポンプ4はエンジン2のクランク軸にギヤ、チェーン或いはベルトによって連結され、エンジン2の駆動力によって回転してメインオイルギャラリ6内のオイルに油圧を発生させている。メインオイルギャラリ6内の油圧は、メインオイルギャラリ6に取り付けられた油圧センサ42によって計測することができる。VVTライン8はメインオイルギャラリ6から分岐した枝流路であって、メインオイルギャラリ6とともにオイルの供給ラインを構成している。以下、メインオイルギャラリ6とVVTライン8とを合わせてオイル供給ライン6,8と表記することもある。
VVTライン8の先端部にはオイルコントロールバルブ(oil control valve、以下、OCVという)10が取り付けられている。OCV10とVVT20の進角油室26とは進角油室ライン34によって接続され、VVT20の遅角油室28とは遅角油室ライン32によって接続されている。OCV10は、オイルの供給先を進角油室ライン34と遅角油室ライン32とで切り換えるライン切換弁であると同時に、その開度の制御によってオイルの供給量を調整できる流量調整弁でもある。
詳しくは、OCV10は電磁駆動式のスプール弁であって、スリーブ内のスプールの位置によって進角油室ライン34及び遅角油室ライン32に対するオイルの給排を制御することができる。スプールは移動方向の一方の端部をスプリングによって支持され、他方の端部をソレノイドによって支持されている。スプールの位置はソレノイドに供給する駆動電流のデューティ比によって制御することができる。ソレノイドへの非通電時には、スプールはスプリングの付勢力によって所定の初期位置に置かれる。この初期位置では、VVTライン8は遅角油室ライン32に接続されるようになっている。
OCV10の制御は、エンジン2の全体を統合制御している電子制御ユニット(electronic control unit、以下、ECUという)40によって行われる。ECU40はOCV10に対し、ソレノイドを駆動するためのデューティ比信号を供給する。デューティ比は、例えば、バルブタイミングの目標値と実際値との偏差に基づいて決定する。ソレノイドは供給されたデューティ比信号によって駆動され、デューティ比によって決まる位置にスプールを移動させる。その結果、VVT20の2つの油室26,28のうち所望の側に所望量のオイルが供給されることとなって、目標とするバルブタイミングが実現されるようになる。ECU40はOCV10と共に、VVT20、オイルポンプ4及びオイルの供給ライン6,8からなる油圧システムの制御装置を構成している。
以上説明したように、本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、エンジン2によってオイルポンプ4を駆動し、オイルポンプ4によって油圧を高めたオイルをVVT20に供給することでVVT20を動作させる構成になっている。このような構成では、エンジン2が停止しているときにはオイルの供給ライン6,8に油圧が発生しないことから、VVT20の油室26,28からはオイルが徐々に抜け出ることになる。また、図1中に模式的に示すように、VVT20内の各部クリアランスからオイル(ドレン)が漏れ出ている場合もある。また、オイル供給ライン6,8の各部クリアランスからのオイル漏れも存在する。その結果、次回のエンジン2の始動時には、VVT20は油室26,28からオイルが抜け出た状態になっており、その状態からエンジン2を始動させることになる。
前述のように、エンジン2の停止中は、VVT20はロックピン30によってバルブタイミングを最遅角させる位置でロックされている。このため、エンジン2はバルブタイミングを最遅角させた状態から始動されることになる。しかし、バルブタイミングはエンジン2の出力や燃費或いは排気エミッションに大きく影響するので、可能な限りに早期にVVT20を動作させて最適なバルブタイミングに変更したい。
ロックピン30によるVVT20のロックは、エンジン2の始動後、VVT20に供給されるオイルの油圧が有る程度まで上昇することで解除される。ロック状態の解除後は自由にVVT20を動作させることが可能であり、バルブタイミングを進角側に制御することも可能になる。しかし、エンジン2の停止中に油室26,28内のオイルは抜け出てしまっているため、エンジン2の始動後直ぐにバルブタイミングを進角側に制御しようとすると、クッションとなるオイルの不足によってハウジング22とベーン体24とが衝突して打音が発生してしまう。
エンジン2の始動後は、オイルポンプ4の回転数の上昇に伴ってオイルの油圧も立ち上っていく。このとき、VVT20とVVTライン8とが連通していれば、立ち上った油圧によってVVT20にオイルが充填されていく。前述のように、ソレノイドへの非通電時にはOCV10内のスプールはVVTライン8を遅角油室ライン32に接続する位置にある。したがって、エンジン2の始動後もそのまま非通電状態を維持していれば、つまり、OCV10を制御せずVVT20を停止させていれば、空になっている遅角油室28にオイルを充填することができる。遅角油室28に十分にオイルが充填された後にVVT20を作動させることにすれば、ハウジング22とベーン体24との衝突によって打音が発生することもない。
そこで、本実施の形態のバルブタイミング制御装置では、エンジン2の始動直後におけるVVT20の作動を禁止し、遅角油室28内に十分にオイルが充填されるのを待ってから作動禁止を解除するようにした。この場合、問題となるのはVVT20の作動禁止時間をどれくらいの時間に設定するかである。適切なバルブタイミングをより早期に実現するためには、VVT20の作動禁止時間はできる限り短くしたい。
遅角油室28内にオイルが充填されるまでに要する時間はオイルの粘度によって左右される。オイルの粘度が高いほど充填に要する時間は長くなる。VVT20の作動を禁止する必要最小時間がオイルの充填完了時間であり、充填完了時間はオイルの粘度に左右されることから、作動禁止時間の最適値はオイルの粘度によって決まると言える。したがって、オイルの粘度が予め分かっているならば、粘度に応じた最適な作動禁止時間を設定することで、打音等の不具合を発生させない範囲内において最短の時間で適切なバルブタイミングを実現することが可能になる。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置のような油圧システムでは、オイルの粘度は油圧発生後の油圧の挙動、より詳しくは、油圧の立ち上りの緩急に具現化される。具体的には、油圧アクチュエータに対して高粘度のオイルが供給されるときには油圧の立ち上りは緩慢であり、低粘度のオイルが供給されるときには油圧の立ち上りは急になる。このようにオイルの粘度と油圧の立ち上りの緩急の程度とは対応関係にあることから、油圧の立ち上りの緩急の程度を何らかの物理量で表すことで、それを粘度の指標値として用いることができる。これによれば、オイルの粘度を判断するために実際に油圧アクチュエータを動作させる必要はない。つまり、油圧アクチュエータの作動に先立ってオイルの粘度を判断することができ、粘度が反映された制御パラメータを用いて油圧アクチュエータの動作を制御することができる。本実施の形態においては、油圧アクチュエータとはVVT20のことであり、制御パラメータとは作動禁止時間のことである。
以下、本実施の形態にて採られているオイル粘度の判定手法について具体的に説明する。まず、図2は、エンジン2の冷間始動時における油圧の挙動を高粘性オイルと低粘性オイルとで比較して示す図である。この図に示すように、エンジン2の始動後、エンジン回転数の上昇に比例してオイルポンプ4の回転数も上昇していく。そして、オイルポンプ回転数の上昇に伴ってメインオイルギャラリ6内のオイルの油圧も立ち上っていく。図2において実線で示す油圧の変化は低粘性オイルのものであり、破線で示す油圧の変化は高粘性オイルのものである。低粘性オイルにおける油圧の立ち上りは急であるのに対し、高粘性オイルにおける油圧の立ち上りは緩慢である。
本実施の形態では、油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値として、油圧の立ち上り遅れ時間を取得する。ここでは図2に示すように、エンジン回転数が所定の始動判定回転数に達してから、油圧センサ42による油圧計測値が所定の立ち上り判定油圧に達するまでの時間を油圧立ち上り遅れ時間(toil)と定義する。低粘性オイルと高粘性オイルとでは、高粘性オイルのほうが油圧立ち上り遅れ時間(toil)は長くなる。
図3は、予め粘度が既知のオイルを用いて実験し、オイル粘度毎に油圧立ち上り遅れ時間(toil)を調べた結果を示している。この図に示すように、オイル粘度と油圧立ち上り遅れ時間とは一対一に対応している。図3に示すオイル粘度と油圧立ち上り遅れ時間との関係をデータベースに記憶しておくことで、油圧立ち上り遅れ時間から間接的にオイル粘度を判断することが可能になる。
ECU40には、図4に示すようなマップが記憶されている。このマップは、油圧立ち上り遅れ時間(toil)からVVT作動禁止時間(tstop)を決定するためのマップであり、図3に示すオイル粘度と油圧立ち上り遅れ時間との関係に基づいて作成されている。このマップによれば、油圧立ち上り遅れ時間が長いほど、VVT作動禁止時間も長い時間に設定される。
図4に示すマップは、エンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御において利用される。このVVT作動禁止制御のルーチンをフローチャートで示したのが図5である。図5に示すルーチンは、エンジン2の始動直後からECU40によって一定の周期で実行される。
図5に示すルーチンの最初のステップS102では、エンジン始動直後のVVT作動禁止中か否かがフラグXVVTstartの値に基づいて判定される。フラグXVVTstartが0であればVVT作動禁止中であり、フラグXVVTstartが1であればVVT作動禁止は解除されている。フラグXVVTstartの初期値は0であり、後述するステップS108の条件が成立しなくなった場合に1にセットされるようになっている。フラグXVVTstartが1であれば、すなわち、VVT作動禁止が解除されたときには本ルーチンは完了となる。
ステップS102の判定の結果がVVT作動禁止中であれば、次に、ステップS104及びS106の処理が実行される。ステップS104では、エンジン始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)が取り込まれる。ステップS106では、図4に示すマップに基づいて油圧立ち上り遅れ時間(toil)に対応するVVT作動禁止時間(tstop)が取り込まれる。ただし、ステップS104及びS106の処理はそれぞれ一度だけ実行される処理であり(フローチャート中ではその旨の表現は省略している)、最初の実行時に取り込まれたVVT作動禁止時間(tstop)は本ルーチンが完了するまで保持される。
次のステップS108では、エンジン始動後時間がステップS106で取り込まれたVVT作動禁止時間(tstop)に達したか否か判定される。エンジン始動後時間とは、エンジン回転数がエンジン始動判定回転数に達してからの経過時間である。エンジン始動後時間がVVT作動禁止時間(tstop)に達していなければ、ステップS110の処理が選択される。ステップS110では、VVT20の作動禁止がそのまま継続される。一方、エンジン始動後時間がVVT作動禁止時間(tstop)に達したときには、ステップS112の処理が選択される。ステップS112では、VVT20の作動禁止が解除され、前述のフラグXVVTstartは1にセットされる。
以上のルーチンをエンジン2の始動直後に実行することで、油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値である油圧立ち上り遅れ時間(toil)を介して、オイルの正確な粘度をVVT作動禁止時間(tstop)の設定に反映させることができる。したがって、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によれば、オイル粘度に応じた最適な作動禁止時間を設定することが可能であり、エンジン2の始動後、打音等の不具合を発生させない範囲において、可能な限り早期にバルブタイミング制御を実施することができる。
なお、実施の形態1と第1の発明及びそれに従属する各発明との対応関係は次の通りである。まず、図1において、VVT20は第1の発明の「バルブタイミング可変機構」に相当し、メインオイルギャラリ6及びVVTライン8は第1の発明の「オイルの供給ライン」に相当し、オイルポンプ4は第1の発明の「オイルポンプ」に相当する。また、油圧センサ42は第1の発明の「油圧計測手段」に相当する。
また、ECU40が図5に示すルーチンのステップS108,S110及びS112を実行することで、第1の発明の「作動禁止手段」が実現される。また、ECU40が図5に示すルーチンのステップS104を実行することで、第1及び第2の発明の「指標値取得手段」が実現される。さらに、ECU40が図4に示すマップを利用して図5に示すルーチンのステップS106を実行することで、第1の発明の「作動禁止時間設定手段」が実現される。
ところで、実施の形態1では「油圧計測手段」として油圧センサを用いているが、油圧の計測位置はオイルの供給ライン上であればその位置には限定はない。例えば、図6に示すように、VVTライン8に油圧センサ44を配置し、VVTライン8内のオイルの油圧を計測するようにしてもよい。図6は、本発明の実施の形態1としてのバルブタイミング制御装置の構成の変形例を示す図である。図6において、図1に示す構成と共通する部位や部品には、図1にて使用するものと同一の符号を付している。
図7は、高粘性オイルと低粘性オイルのそれぞれについて、エンジン2の冷間始動時における油圧の挙動をVVTライン8とメインオイルギャラリ6とで比較して示す図である。図7において実線で示す油圧の変化は低粘性オイルのものであり、太線はVVTライン8内の油圧を示し、細線はメインオイルギャラリ6内の油圧を示している。破線で示す油圧の変化は高粘性オイルのものであり、太線はVVTライン8内の油圧を示し、細線はメインオイルギャラリ6内の油圧を示している。
図7から分かるように、低粘性オイルの場合には、VVTライン8の油圧とメインオイルギャラリ6の油圧とで、油圧立ち上りの緩急の程度に大きな差はない。これに対して高粘性オイルの場合には、VVTライン8の油圧の立ち上りはメインオイルギャラリ6の油圧の立ち上りに比較してさらに緩慢になる。VVTライン8はメインオイルギャラリ6よりも流路面積が小さく、その分、オイルの粘性の影響が大きくなるからである。
したがって、油圧立ち上りの緩急の程度によってオイル粘度を判定する上では、VVTライン8の油圧を計測するほうが判定精度において有利となる。具体的には、VVTライン8の油圧を計測するほうが、低粘性オイルと高粘性オイルとの間における油圧立ち上り遅れ時間(toil)の差を大きくすることができる。
なお、図6に示す油圧センサ44の位置では、図1に示す油圧センサ42の位置に比較してオイルポンプ4からの距離が長くなる分、各部クリアランスからのオイルの漏れが油圧計測値に与える影響も大きくなる。しかし、オイル漏れの影響が大きいのは油圧が立ち上った後の収束値であり、オイル漏れが油圧の立ち上りの緩急に与える影響は小さい。さらに、エンジン2の冷間始動時は、油温が低いためにオイル粘度が高く、オイルの漏れ量自体が少ない状況にある。したがって、各部クリアランスからのオイルの漏れによってオイル粘度の判定精度が低下してしまうようなことはない。
これから説明する実施の形態2乃至13では、実施の形態1と同じくメインオイルギャラリ6に油圧センサ42が設けられている構成を前提とする。しかし、後述する実施の形態2乃至13においても、上記変形例のようにVVTライン8に油圧センサ44を設ける構成を採ることは可能である(図示は省略する)。そのような構成を採ったとしても、各実施の形態に特有の効果が損なわれることはない。
実施の形態2.
次に、図1,図8乃至図11を参照して、本発明の実施の形態2としてのバルブタイミング制御装置について説明する。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、実施の形態1のものと同構成の油圧回路を備えている。したがって、以下の説明では、実施の形態1と同じく図1に示す構成を前提にして説明を行うものとする。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置と実施の形態1のものとは、VVT20の作動禁止時間の設定にオイル粘度を反映させる点において共通する。しかし、オイル粘度をどのようにして判定するかという点において、本実施の形態と実施の形態1との間には違いが有る。
以下、本実施の形態にて採られているオイル粘度の判定手法について具体的に説明する。まず、図8は、エンジン2の冷間始動時における油圧の挙動を高粘性オイルと低粘性オイルとで比較して示す図である。図8において実線で示す油圧の変化は低粘性オイルのものであり、破線で示す油圧の変化は高粘性オイルのものである。油圧の挙動自体は図2に示すものと同じである。
本実施の形態では、油圧の立ち上りの緩急の程度に基づいてオイル粘度を判断する。ただし、実施の形態1では油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値として油圧立ち上り遅れ時間を取得しているのに対し、本実施の形態では油圧の上昇時間を取得する。ここでは図8に示すように、油圧センサ42による油圧計測値が所定の立ち上り判定油圧1に達してから、立ち上り判定油圧1よりも高い所定の立ち上り判定油圧2に達するまでの時間を油圧上昇時間(soil)と定義する。この油圧上昇時間(soil)は、油圧の上昇速度とも言い換えることができる。低粘性オイルと高粘性オイルとでは、高粘性オイルのほうが油圧上昇時間(soil)は長くなる。
図9は、予め粘度が既知のオイルを用いて実験し、オイル粘度毎に油圧上昇時間(soil)を調べた結果を示している。この図に示すように、オイル粘度と油圧上昇時間とは一対一に対応している。図9に示すオイル粘度と油圧上昇時間との関係をデータベースに記憶しておくことで、油圧上昇時間から間接的にオイル粘度を判断することが可能になる。
ECU40には、図10に示すようなマップが記憶されている。このマップは、油圧上昇時間(soil)からVVT作動禁止時間(tstop)を決定するためのマップであり、図9に示すオイル粘度と油圧上昇時間との関係に基づいて作成されている。このマップによれば、油圧上昇時間が長いほど、VVT作動禁止時間も長い時間に設定される。
図10に示すマップは、エンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御において利用される。このVVT作動禁止制御のルーチンをフローチャートで示したのが図11である。図11に示すルーチンは、エンジン2の始動直後からECU40によって一定の周期で実行される。なお、図11において、実施の形態1にかかるVVT作動禁止制御ルーチンと共通する処理については、同一のステップ番号を付している。以下の説明では、それら実施の形態1と共通する処理については内容の説明を省略或いは簡略するものとする。
図11に示すルーチンの最初のステップS102では、エンジン始動直後のVVT作動禁止中か否かがフラグXVVTstartの値に基づいて判定される。フラグXVVTstartが1であれば、すなわち、VVT作動禁止が解除されたときには本ルーチンは完了となる。
ステップS102の判定の結果がVVT作動禁止中であれば、次に、ステップS120及びS122の処理が実行される。ステップS120では、エンジン始動後の油圧上昇時間(soil)が取り込まれる。ステップS122では、図10に示すマップに基づいて油圧上昇時間(soil)に対応するVVT作動禁止時間(tstop)が取り込まれる。ただし、ステップS120及びS122の処理はそれぞれ一度だけ実行される処理であり(フローチャート中ではその旨の表現は省略している)、最初の実行時に取り込まれたVVT作動禁止時間(tstop)は本ルーチンが完了するまで保持される。
次のステップS108では、エンジン始動後時間がステップS122で取り込まれたVVT作動禁止時間(tstop)に達したか否か判定される。エンジン始動後時間がVVT作動禁止時間(tstop)に達していなければ、ステップS110の処理が選択され、VVT20の作動禁止がそのまま継続される。一方、エンジン始動後時間がVVT作動禁止時間(tstop)に達したときには、ステップS112の処理が選択され、VVT20の作動禁止が解除されるとともにフラグXVVTstartは1にセットされる。
以上のルーチンをエンジン2の始動直後に実行することで、油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値である油圧上昇時間(soil)を介して、オイルの正確な粘度をVVT作動禁止時間(tstop)の設定に反映させることができる。したがって、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によっても、実施の形態1のものと同様、オイル粘度に応じた最適な作動禁止時間を設定することが可能であり、エンジン2の始動後、打音等の不具合を発生させない範囲において、可能な限り早期にバルブタイミング制御を実施することができる。
なお、実施の形態2と第1の発明及びそれに従属する各発明との対応関係は次の通りである。まず、図1に示す各部品或いは部位と第1の発明等の各要素との対応関係は実施の形態1と同様である。また、実施の形態2では、ECU40が図11に示すルーチンのステップS108,S110及びS112を実行することで、第1の発明の「作動禁止手段」が実現される。また、ECU40が図11に示すルーチンのステップS120を実行することで、第1及び第4の発明の「指標値取得手段」が実現される。さらに、ECU40が図10に示すマップを利用して図11に示すルーチンのステップS120を実行することで、第1の発明の「作動禁止時間設定手段」が実現される。
ところで、実施の形態2では、油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値として、立ち上り判定油圧1から立ち上り判定油圧2までの油圧の上昇時間を求めているが、これは、立ち上り判定油圧1から立ち上り判定油圧2までの平均油圧上昇速度を計算していることに等しい。しかし、このような油圧上昇速度の平均値ではなく、立ち上り判定油圧1から立ち上り判定油圧2までの間における最大油圧上昇速度を求め、最大油圧上昇速度に基づいて作動禁止時間を設定するようにしてもよい。
実施の形態3.
次に、図1,図12乃至図15を参照して、本発明の実施の形態3としてのバルブタイミング制御装置について説明する。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、実施の形態1のものと同構成の油圧回路を備えている。したがって、以下の説明では、実施の形態1と同じく図1に示す構成を前提にして説明を行うものとする。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置と実施の形態1のもの及び実施の形態2のものとは、VVT20の作動禁止時間の設定にオイル粘度を反映させる点において共通する。しかし、オイル粘度をどのようにして判定するかという点において、本実施の形態と実施の形態1,2との間には違いが有る。
以下、本実施の形態にて採られているオイル粘度の判定手法について具体的に説明する。まず、図12は、エンジン2の冷間始動時における油圧の挙動を高粘性オイルと低粘性オイルとで比較して示す図である。図12において実線で示す油圧の変化は低粘性オイルのものであり、破線で示す油圧の変化は高粘性オイルのものである。油圧の挙動自体は図2に示すものと同じである。
本実施の形態では、エンジン2の始動後、油圧センサ42による油圧計測値が立ち上りきったときの収束値に基づいてオイル粘度を判断する。VVT20に供給されるオイルの粘度は、油圧計測値の立ち上りの緩急のみならず、油圧計測値が立ち上りきったときの収束値にも具現化される。図12に示すように、低粘性オイルと高粘性オイルとでは、高粘性オイルのほうが油圧収束値(poil)は大きくなる。このような方法によれば、オイルの粘度を判断するために実際にVVT20を動作させる必要はない。つまり、VVT20の作動に先立ってオイルの粘度を判断することができ、粘度が反映されたVVT作動禁止時間に基づいてVVT20の動作を制御することができる。
図13は、予め粘度が既知のオイルを用いて実験し、オイル粘度毎に油圧収束値(poil)を調べた結果を示している。この図に示すように、油圧がリリーフ弁(図示略)のリリーフ圧に達するまでの範囲であれば、オイル粘度と油圧収束値とは一対一に対応している。図13に示すオイル粘度と油圧収束値との関係をデータベースに記憶しておくことで、油圧収束値から間接的にオイル粘度を判断することが可能になる。
ECU40には、図14に示すようなマップが記憶されている。このマップは、油圧収束値(poil)からVVT作動禁止時間(tstop)を決定するためのマップであり、図13に示すオイル粘度と油圧収束値との関係に基づいて作成されている。このマップによれば、油圧収束値が大きいほど、VVT作動禁止時間も長い時間に設定される。ただし、このマップの有効範囲は油圧収束値がリリーフ圧以下の範囲であり、油圧収束値がリリーフ圧を超える場合には精度が低下する。
図14に示すマップは、エンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御において利用される。このVVT作動禁止制御のルーチンをフローチャートで示したのが図15である。図15に示すルーチンは、エンジン2の始動直後からECU40によって一定の周期で実行される。なお、図15において、実施の形態1にかかるVVT作動禁止制御ルーチンと共通する処理については、同一のステップ番号を付している。以下の説明では、それら実施の形態1と共通する処理については内容の説明を省略或いは簡略するものとする。
図15に示すルーチンの最初のステップS102では、エンジン始動直後のVVT作動禁止中か否かがフラグXVVTstartの値に基づいて判定される。フラグXVVTstartが1であれば、すなわち、VVT作動禁止が解除されたときには本ルーチンは完了となる。
ステップS102の判定の結果がVVT作動禁止中であれば、次に、ステップS130及びS132の処理が実行される。ステップS130では、エンジン始動後の油圧収束値(poil)が取り込まれる。ステップS132では、図14に示すマップに基づいて油圧収束値(poil)に対応するVVT作動禁止時間(tstop)が取り込まれる。ただし、ステップS130及びS132の処理はそれぞれ一度だけ実行される処理であり(フローチャート中ではその旨の表現は省略している)、最初の実行時に取り込まれたVVT作動禁止時間(tstop)は本ルーチンが完了するまで保持される。
次のステップS108では、エンジン始動後時間がステップS132で取り込まれたVVT作動禁止時間(tstop)に達したか否か判定される。エンジン始動後時間がVVT作動禁止時間(tstop)に達していなければ、ステップS110の処理が選択され、VVT20の作動禁止がそのまま継続される。一方、エンジン始動後時間がVVT作動禁止時間(tstop)に達したときには、ステップS112の処理が選択され、VVT20の作動禁止が解除されるとともにフラグXVVTstartは1にセットされる。
以上のルーチンをエンジン2の始動直後に実行することで、エンジン2の始動後の油圧収束値(poil)を介して、オイルの正確な粘度をVVT作動禁止時間(tstop)の設定に反映させることができる。したがって、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によっても、オイル粘度に応じた最適な作動禁止時間を設定することが可能であり、エンジン2の始動後、打音等の不具合を発生させない範囲において、可能な限り早期にバルブタイミング制御を実施することができる。
実施の形態3と第9の発明との対応関係は次の通りである。まず、図1において、VVT20は第9の発明の「バルブタイミング可変機構」に相当し、メインオイルギャラリ6及びVVTライン8は第9の発明の「オイルの供給ライン」に相当し、オイルポンプ4は第9の発明の「オイルポンプ」に相当する。また、油圧センサ42は第9の発明の「油圧計測手段」に相当する。
また、ECU40が図15に示すルーチンのステップS108,S110及びS112を実行することで、第9の発明の「作動禁止手段」が実現される。また、ECU40が図15に示すルーチンのステップS130を実行することで、第9の発明の「油圧収束値取得手段」が実現される。さらに、ECU40が図14に示すマップを利用して図15に示すルーチンのステップS132を実行することで、第9の発明の「作動禁止時間設定手段」が実現される。
実施の形態4.
次に、図4,図16乃至図18を参照して、本発明の実施の形態4としてのバルブタイミング制御装置について説明する。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、図16を用いてその構成の概略を説明することができる。図16は、本実施の形態のバルブタイミング制御装置の油圧回路を示している。図16において、図1に示す構成と共通する部位や部品には、図1にて使用するものと同一の符号を付している。図16に示す装置と図1に示す装置との違いは、図16に示す装置ではメインオイルギャラリ6に油温センサ46が取り付けられていることにある。他の構成は図1に示す装置と全く同構成になっている。なお、油圧センサ42がVVTライン8に取り付けられていてもよい(図6の油圧センサ44を参照)のと同様に、油温センサ46はVVTライン8に取り付けられていてもよい。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置と実施の形態1のものとは、エンジン始動直後にVVT作動禁止制御を実施する点において共通する。実施の形態1にかかるVVT作動禁止制御によれば、油圧の立ち上りの緩急の程度に基づいてオイル粘度を判断し、作動禁止時間の設定にオイル粘度を反映させることができる。
しかし、油圧の立ち上りの緩急の程度に基づく判定方法では、オイル粘度を誤判定してしまう可能性が全く無いとは言い切れない。例えば、油圧が立ち上る際の挙動が何らかの要因で変動した場合には、油圧立ち上り遅れ時間とオイル粘度との対応関係にずれが生じることになる。オイル粘度を実際よりも低く誤判定した場合には、作動禁止時間を必要時間よりも短く設定してしまい、結果、オイル充填が不十分なままVVT20を動作させてしまうことになる。この場合、VVT20の動作時のオイル充填量の不足の程度によっては打音等の不具合が発生してしまう可能性がある。逆に、オイル粘度を実際よりも高く誤判定した場合には、作動禁止時間を不必要に長く設定してしまい、結果、バルブタイミング制御の開始が遅れてしまうことになる。
そこで、本実施の形態のバルブタイミング制御装置では、オイル粘度の誤判定による影響を最小限に止めるため、VVT20の作動禁止時間の設定範囲を下限ガード値と上限ガード値とによって制限している。下限ガード値は最低粘度のオイルを使用する場合の作動禁止時間に相当し、上限ガード値は最高粘度のオイルを使用する場合の作動禁止時間に相当する。ここでいう最低粘度のオイルとは市販オイルのうち最も粘度が低い低粘性オイルの新品状態を指し、最高粘度のオイルとは市販オイルのうち最も粘度が高い高粘性オイルの劣化状態を指している。
ところで、オイル粘度には温度依存性が有る。低温域でのオイル粘度は高いが油温が高くなるにつれてオイル粘度は低くなっていく。VVT作動禁止時間はオイル粘度に対応しているので、新品の低粘性オイルの作動禁止時間に相当する下限ガード値も油温によって変化する。同様に、劣化した高粘性オイルの作動禁止時間に相当する上限ガード値も油温によって変化する。
ECU40には、図17に示すようなマップが記憶されている。このマップは、エンジン始動時の油温からVVT作動禁止時間の下限ガード値(tstopmin)と上限ガード値(tstopmax)を決定するためのマップである。このマップでは、新品低粘性オイルにおける作動禁止時間と油温との関係を示す特性線(実線で示す)と、劣化高粘性オイルにおける作動禁止時間と油温との関係を示す特性線(破線で示す)とが記憶されている。このマップによれば、エンジン始動時の油温を油温センサ46によって計測し、その油温計測値を各特性線に照合ことで下限ガード値(tstopmin)及び上限ガード値(tstopmax)を求めることができる。
図17に示すマップは、エンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御において利用される。このVVT作動禁止制御のルーチンをフローチャートで示したのが図18である。図18に示すルーチンは、エンジン2の始動直後からECU40によって一定の周期で実行される。なお、図18において、実施の形態1にかかるVVT作動禁止制御ルーチンと共通する処理については、同一のステップ番号を付している。以下の説明では、それら実施の形態1と共通する処理については内容の説明を省略或いは簡略するものとする。
図18に示すルーチンの最初のステップS102では、エンジン始動直後のVVT作動禁止中か否かがフラグXVVTstartの値に基づいて判定される。フラグXVVTstartが1であれば、すなわち、VVT作動禁止が解除されたときには本ルーチンは完了となる。
ステップS102の判定の結果がVVT作動禁止中であれば、ステップS140の処理が実行される。ステップS140では、図17に示すマップに基づいてエンジン始動時の油温計測値に対応する下限ガード値(tstopmin)と上限ガード値(tstopmax)が取り込まれる。続いて、ステップS104及びS106の処理が実行される。ステップS104では、エンジン始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)が取り込まれる。ステップS106では、図4に示すマップに基づいて油圧立ち上り遅れ時間(toil)に対応するVVT作動禁止時間(tstop)が取り込まれる。
次のステップS142では、VVT作動禁止時間(tstop)と上限ガード値(tstopmax)とが比較される。比較の結果、VVT作動禁止時間(tstop)のほうが大きければ、ステップS144の処理が実行される。ステップS144では、VVT作動禁止時間(tstop)の設定値は上限ガード値(tstopmax)に置き換えられる。
一方、VVT作動禁止時間(tstop)が上限ガード値(tstopmax)よりも小さい場合には、ステップS146の判定が行なわれる。ステップS146では、VVT作動禁止時間(tstop)と下限ガード値(tstopmin)とが比較される。比較の結果、VVT作動禁止時間(tstop)のほうが小さければ、ステップS148の処理が実行される。ステップS148では、VVT作動禁止時間(tstop)の設定値は下限ガード値(tstopmin)に置き換えられる。
VVT作動禁止時間(tstop)が下限ガード値(tstopmin)よりも大きい場合、つまり、下限ガード値(tstopmin)から上限ガード値(tstopmax)までの範囲内の場合には、ステップS106で取り込まれた値がそのままVVT作動禁止時間(tstop)として設定される。なお、ステップS140以降のVVT作動禁止時間(tstop)を決定するための一連の処理はそれぞれ一度だけ実行される処理であり(フローチャート中ではその旨の表現は省略している)、最初の実行時に決定されたVVT作動禁止時間(tstop)は本ルーチンが完了するまで保持される。
次のステップS108では、エンジン始動後時間がVVT作動禁止時間(tstop)に達したか否か判定される。エンジン始動後時間がVVT作動禁止時間(tstop)に達していなければ、ステップS110の処理が選択され、VVT20の作動禁止がそのまま継続される。エンジン始動後時間がVVT作動禁止時間(tstop)に達したときには、ステップS112の処理が選択され、VVT20の作動禁止が解除されるとともにフラグXVVTstartは1にセットされる。
以上のルーチンによれば、エンジン始動時の油温計測値から下限ガード値(tstopmin)と上限ガード値(tstopmax)とが決定され、VVT作動禁止時間(tstop)はそれら下限ガード値(tstopmin)から上限ガード値(tstopmax)までの制限された範囲内にて設定される。これにより、油圧の挙動異常の影響で油圧立ち上り遅れ時間(toil)が極端に短くなってしまったとしても、VVT作動禁止時間(tstop)が下限ガード値(tstopmin)よりも短くなることは防止される。逆に、油圧立ち上り遅れ時間(toil)が極端に長くなってしまったとしても、VVT作動禁止時間(tstop)が上限ガード値(tstopmin)よりも長くなることは防止される。
したがって、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によれば、エンジン始動直後の油圧の挙動に異常があり、その結果、オイル粘度を誤判定してしまったとしても、その誤判定がシステムの動作に与える悪影響を最小限に抑えることができる。具体的には、オイル充填が不十分なままでのVVT20の動作に伴う不具合、例えば打音の発生を抑えることができる。また、オイルが十分に充填されたにも関わらずVVT20の動作が禁止され続けることによる不具合、例えばバルブタイミング制御の開始の遅れも抑えることができる。
なお、実施の形態4では、油温センサ46が第6の発明の「始動油温計測手段」に相当している。また、実施の形態4では、ECU40が図17に示すマップを利用して図18に示すルーチンのステップS140を実行することで、第6の発明の「下限ガード値設定手段」と第7の発明の「上限ガード値設定手段」とが実現される。また、ECU40が図18に示すルーチンのステップS146及びS148を実行することで、第6の発明の「下限ガード手段」が実現される。さらに、ステップS142及びS144を実行することで、第7の発明の「上限ガード手段」が実現される。実施の形態4と他の発明との対応関係に関しては、実施の形態1と他の発明との対応関係に共通している。
ところで、実施の形態4では油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値として油圧立ち上り遅れ時間(toil)を用いているが、実施の形態2と同じく、油圧上昇時間(soil)を前記指標値として用いてもよい。その場合には、図18に示すルーチンのステップS104及びS106の処理を、図11に示すルーチンのステップS120及びS122の処理に置き換えればよい。
また、実施の形態4ではVVT作動禁止時間(tstop)に対する下限ガード値(tstopmin)と上限ガード値(tstopmax)とを設定しているが、下限ガード値(tstopmin)のみを設定するのでもよい。オイル粘度を低く誤判定した場合には打音等の物理的な不具合が発生するのに比べ、オイル粘度を高く誤判定した場合にはバルブタイミング制御の開始が遅れるのみで前者のような深刻な不具合の発生は無いためである。
実施の形態5.
次に、図1,図4,図19乃至図21を参照して、本発明の実施の形態5としてのバルブタイミング制御装置について説明する。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、実施の形態1のものと同構成の油圧回路を備えている。したがって、以下の説明では、実施の形態1と同じく図1に示す構成を前提にして説明を行うものとする。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置と実施の形態1のものとは、エンジン始動直後にVVT作動禁止制御を実施する点において共通する。実施の形態1に係るVVT作動禁止制御では、オイルの粘度は油圧の立ち上りの緩急に具現化されることに着目し、油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値として油圧立ち上り遅れ時間を求め、油圧立ち上り遅れ時間に基づいて作動禁止時間を設定している。
しかし、厳密には、エンジン始動時における油圧の挙動はオイル粘度だけでなくオイルポンプ4のオイル吐出量によっても左右される。エンジン始動時の油圧の立ち上がりは、オイル粘度が高いほど緩慢になり、オイル吐出量が多いほど急になる。オイル吐出量はオイルポンプ4の積算回転数によって決まるが、オイルポンプ4の回転数はエンジン2の回転数に比例しているので、オイル吐出量はエンジン2の積算回転数によって決まるとも言える。したがって、油圧立ち上り遅れ時間はオイル粘度に比例し、積算エンジン回転数には反比例するとも言うことができる。
実施の形態1では、始動時におけるエンジン回転数の上昇カーブは常に一定であって、油圧立ち上り遅れ時間と積算エンジン回転数とは一対一の対応関係にあるという前提に立っている。このため、エンジン回転数の上昇カーブにバラツキがあった場合には、油圧立ち上り遅れ時間とオイル粘度との関係にもずれが生じることとなり、実際のオイル粘度を作動禁止時間の設定に正確に反映させることができなくなってしまう。
そこで、本実施の形態のバルブタイミング制御装置では、油圧立ち上り遅れ時間だけでなく、エンジン始動からの実際の積算エンジン回転数も考慮してVVT20の作動禁止時間を設定する。このため、ECU40には、図19に示すマップと図20に示すマップとが記憶されている。図19に示すマップは、油圧立ち上り遅れ時間(toil)から基準積算エンジン回転数(tneb)を決定するためのマップである。図20に示すマップは、実際の積算エンジン回転数(Tne)と基準積算エンジン回転数(tneb)との比からVVT作動禁止時間の補正係数(kvvt)を決定するためのマップである。このマップによれば、実積算エンジン回転数(Tne)が基準積算エンジン回転数(tneb)に等しければ、補正係数(kvvt)は1に設定される。
図19に示すマップと図20に示すマップは、エンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御において利用される。このVVT作動禁止制御のルーチンをフローチャートで示したのが図21である。図21に示すルーチンは、エンジン2の始動直後からECU40によって一定の周期で実行される。なお、図21において、実施の形態1にかかるVVT作動禁止制御ルーチンと共通する処理については、同一のステップ番号を付している。以下の説明では、それら実施の形態1と共通する処理については内容の説明を省略或いは簡略するものとする。
図21に示すルーチンの最初のステップS102では、エンジン始動直後のVVT作動禁止中か否かがフラグXVVTstartの値に基づいて判定される。フラグXVVTstartが1であれば、すなわち、VVT作動禁止が解除されたときには本ルーチンは完了となる。
ステップS102の判定の結果がVVT作動禁止中であれば、まず、ステップS104及びS106の処理が実行される。ステップS104では、エンジン始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)が取り込まれる。ステップS106では、図4に示すマップに基づいて油圧立ち上り遅れ時間(toil)に対応するVVT作動禁止時間(tstop)が取り込まれる。
次に、ステップS150,S152及びS154の処理が実行される。ステップS150では、図19に示すマップに基づいて油圧立ち上り遅れ時間(toil)に対応する基準積算エンジン回転数(tneb)が取り込まれる。ステップS152では、エンジン2の始動から油圧計測値が立ち上り判定油圧に達するまでの積算エンジン回転数(Tne)が取り込まれる。次のステップS154では、図20に示すマップに基づいて実積算エンジン回転数(Tne)と基準積算エンジン回転数(tneb)との比に対応する補正係数(kvvt)が取り込まれる。
次のステップS156では、VVT作動禁止時間(tstop)に補正係数(kvvt)を乗算したものが、最終的なVVT作動禁止時間(Tstop)として算出される。なお、ステップS104以降の最終VVT作動禁止時間(Tstop)を決定するための一連の処理はそれぞれ一度だけ実行される処理であり(フローチャート中ではその旨の表現は省略している)、最初の実行時に決定された最終VVT作動禁止時間(Tstop)は本ルーチンが完了するまで保持される。
次のステップS158では、エンジン始動後時間が最終VVT作動禁止時間(Tstop)に達したか否か判定される。エンジン始動後時間が最終VVT作動禁止時間(Tstop)に達していなければ、ステップS110の処理が選択され、VVT20の作動禁止がそのまま継続される。エンジン始動後時間が最終VVT作動禁止時間(Tstop)に達したときには、ステップS112の処理が選択され、VVT20の作動禁止が解除されるとともにフラグXVVTstartは1にセットされる。
以上のルーチンにおいて、実積算エンジン回転数(Tne)と基準積算エンジン回転数(tneb)との比はオイルポンプ4の実際のオイル吐出量と設計吐出量との比に対応している。したがって、この比(Tne/tneb)に基づいてVVT作動禁止時間(tstop)を補正することで、オイルポンプ4の実際吐出量と設計吐出量とのずれの影響を作動禁止時間の設定値から排除することができる。したがって、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によれば、使用されているオイルのより正確な粘度を作動禁止時間の設定に反映させることができる。
なお、実施の形態5では、ECU40が図19に示すマップを記憶していることで、第5の発明の「基準積算回転数記憶手段」が実現されている。また、ECU40が図21に示すルーチンのステップS152を実行することで、第5の発明の「実際積算回転数計算手段」が実現される。さらに、ECU40が図19,図20に示す各マップを利用して図21に示すルーチンのステップS150,S154及びS156を実行することで、第5の発明の「作動禁止時間補正手段」が実現される。実施の形態5と他の発明との対応関係に関しては、実施の形態1と他の発明との対応関係に共通している。
ところで、実施の形態5では油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値として油圧立ち上り遅れ時間(toil)を用いているが、実施の形態2と同じく、油圧上昇時間(soil)を前記指標値として用いてもよい。その場合には、図21に示すルーチンのステップS104及びS106の処理を、図11に示すルーチンのステップS120及びS122の処理に置き換える。また、図19に示すマップに代えて、油圧上昇速度(soil)と基準積算エンジン回転数(tneb)との対応関係を定めたマップをECU40に記憶しておく。そして、図21に示すルーチンのステップS150の処理を、油圧上昇速度(soil)から基準積算エンジン回転数(tneb)を決定する処理に置き換える。
実施の形態6.
次に、図4,図16,図22乃至図24を参照して、本発明の実施の形態6としてのバルブタイミング制御装置について説明する。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、実施の形態4のものと同構成の油圧回路を備えている。したがって、以下の説明では、実施の形態4と同じく図16に示す構成を前提にして説明を行うものとする。ただし、本実施の形態においてエンジン始動直後に実施するVVT作動禁止制御に関しては、実施の形態1に係るVVT作動禁止制御を基礎にした内容になっている。
実施の形態1では、エンジン2の始動時にはエンジン回転数は速やかに上昇し、それに伴って油圧も上昇していくという前提の下、油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値として油圧立ち上り遅れ時間を求め、油圧立ち上り遅れ時間に基づいて作動禁止時間を設定している。ところが、始動時におけるエンジン2の運転状態は必ずしも安定しておらず、一部の気筒での失火によってエンジン回転数が一時的に低下する場合がある。
図22は、エンジン2の冷間始動時に一時的にエンジン2が失速した場合の油圧の挙動を示す図である。図22中には、失速後直ぐに再始動したときのエンジン回転数の変化とそれに対応する油圧の変化とを実線で示している。また、失速後しばらくたってから再始動したときのエンジン回転数の変化とそれに対応する油圧の変化とを破線で示している。これら2つのケースを比較することで、エンジン2の失速から再始動までの経過時間によって、再始動時の油圧には顕著な差が生じることがわかる。
本実施の形態では、図22に示すように、エンジン回転数が所定の始動判定回転数を超えた時点でエンジン2が始動したと判定するようになっている。逆に、エンジン回転数が始動判定回転数を下回った時点でエンジン2が失速したと判定するようになっている。したがって、エンジン2が失速した時点(図22中に示すNE低下判定時点)から再びエンジン2が始動した時点(図22中に示す再始動判定時点)までの経過時間(tenges)が、エンジン2の失速時間となる。
図22中に実線で示すケースの場合には失速時間(tenges)は短く、その間における油圧の低下は微小である。つまり、エンジン2の始動から失速までの間に立ち上がった油圧がそのまま維持されている。このため、エンジン2が再始動してから油圧センサ42による油圧計測値が所定の立ち上り判定油圧に達するまでの時間、すなわち、油圧立ち上り遅れ時間(toil)は、再始動時における油圧が高い分だけ短縮されることになる。
一方、図22中に破線で示すケースの場合には失速時間(tenges)は長く、その間に油圧は抜けてしまっている。このため、エンジン2の再始動時には油圧はゼロ若しくはそれに近い状態から立ち上ることとなり、その分、油圧立ち上り遅れ時間(toil)は実線で示すケースの場合よりも長くなる。ただし、このときの油圧立ち上り遅れ時間(toil)は、エンジン2の失速が無くエンジン回転数が滑らかに上昇した場合(例えば図2に示す場合)の油圧立ち上り遅れ時間(toil)に略等しい。
以上のように、始動の途中でエンジン2が失速した場合には、オイル粘度は等しいにもかかわらず、失速時間の長短によって油圧立ち上り遅れ時間(toil)に差が生じることになる。この場合、単純に油圧立ち上り遅れ時間(toil)からVVT20の作動禁止時間を決定してしまうと、作動禁止時間が短すぎてVVT20へのオイル充填が不十分なままVVT20を動作させることになる可能性がある。
そこで、本実施の形態のバルブタイミング制御装置では、エンジン2の失速時間(tenges)も考慮してVVT20の作動禁止時間を決定する。具体的には、失速時間(tenges)が判定時間αよりも短い場合には、最初の始動から失速までの時間(tenge)を油圧立ち上り遅れ時間(toil)に加算したものを、総合的な油圧立ち上り遅れ時間(Toil)として決定する。一方、失速時間(tenges)が判定時間αよりも長い場合には、エンジン2の再始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)のみを総合的な油圧立ち上り遅れ時間(Toil)として決定する。
図23は、エンジン始動時の油温から判定時間αを決定するためのマップである。失速時間(tenges)に対する油圧の変化は油温によって異なり、油温が低いほど油圧の抜けは遅くなる。オイル粘度は油温によって左右されるからである。したがって、エンジン始動時の油温を油温センサ46により計測し、その油温計測値に応じて判定時間αを決定することで、上記の総合油圧立ち上り遅れ時間(Toil)の精度を高めることができる。
図24は、本実施の形態においてエンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御のルーチンを示すフローチャートである。図24に示すルーチンは、エンジン2の始動直後からECU40によって一定の周期で実行される。なお、図21において、実施の形態1にかかるVVT作動禁止制御ルーチンと共通する処理については、同一のステップ番号を付している。以下の説明では、それら実施の形態1と共通する処理については内容の説明を省略或いは簡略するものとする。
ただし、図24に示すルーチンは、エンジン2の失速が有った場合のVVT作動禁止制御のルーチンであり、エンジン2の失速が無かった場合には、実施の形態1と同じく図5に示すルーチンによってVVT作動禁止制御が実施される。それについては説明を省略する。
図24に示すルーチンの最初のステップS102では、エンジン始動直後のVVT作動禁止中か否かがフラグXVVTstartの値に基づいて判定される。フラグXVVTstartが1であれば、すなわち、VVT作動禁止が解除されたときには本ルーチンは完了となる。
ステップS102の判定の結果がVVT作動禁止中であれば、まず、ステップS160の判定が実行される。ステップS160では、エンジン回転数(NE)の低下が発生したか否か、具体的には、エンジン回転数が始動判定回転数を下回ったか否かが判定される。エンジン回転数の低下が有った場合、すなわち、エンジン2の失速が有った場合には、ステップS170の処理が実行される。ステップS170では、最初の始動から失速までの時間(tenge)が記憶される。
ステップS160の判定の結果、エンジン回転数が再上昇して再び始動判定回転数を上回った場合には、ステップS162の処理が実行される。ステップS162では、失速時間(tenges)と判定時間αとが比較される。なお、判定時間αには、図23に示すマップに基づいてエンジン始動時の油温計測値に対応する値が取り込まれている。失速時間(tenges)が判定時間α以上であれば、ステップS172の処理が実行される。ステップS172では、ステップS170で記憶されたエンジン始動から失速までの時間(tenge)がゼロにリセットされる。
ステップS164では、総合的な油圧立ち上り遅れ時間(Toil)が取り込まれる。総合的な油圧立ち上り遅れ時間(Toil)は、エンジン再始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)に時間(tenge)を加算したものである。失速時間(tenges)が判定時間α以上である場合には、ステップS172で時間(tenge)がリセットされる結果、エンジン再始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)がそのまま総合的な油圧立ち上り遅れ時間(Toil)となる。
次のステップS166では、図4に示すマップに基づいて総合的な油圧立ち上り遅れ時間(Toil)に対応するVVT作動禁止時間(tstop)が取り込まれる。
次のステップS168では、エンジン再始動後時間(tengs)がVVT作動禁止時間(tstop)に達したか否か判定される。エンジン再始動後時間(tengs)とは、エンジン2の失速後、エンジン回転数が再びエンジン始動判定回転数に達してからの経過時間である。エンジン再始動後時間(tengs)がVVT作動禁止時間(tstop)に達していなければ、ステップS110の処理が選択され、VVT20の作動禁止がそのまま継続される。エンジン再始動後時間(tengs)がVVT作動禁止時間(tstop)に達したときには、ステップS112の処理が選択され、VVT20の作動禁止が解除されるとともにフラグXVVTstartは1にセットされる。
以上のルーチンによれば、エンジン2の失速後直ぐに再始動したときには、失速以前の計測時間(tenge)がエンジン再始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)に加算されるので、オイルの粘度に応じた作動禁止時間を算出することができ、オイルが十分に充填される前にVVT20が作動してしまうのを防止することができる。一方、エンジン2の失速後、ある程度の時間が経過してから再始動したときには、エンジン再始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)のみに基づいて作動禁止時間が設定されるので、VVT20の作動が不必要に禁止され続けることは防止される。つまり、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によれば、始動の途中にエンジン2が失速した場合であっても、オイルの正確な粘度を作動禁止時間の設定に反映してVVT20の動作を的確に制御することができる。
なお、実施の形態6では、ECU40が図24に示すルーチンのステップS160,S162,S164,S170及びS172を実行することで、第3の発明の「指標値取得手段」が実現される。実施の形態6と他の発明との対応関係に関しては、実施の形態1と他の発明との対応関係に共通している。
実施の形態7.
次に、図16,図25乃至図27を参照して、本発明の実施の形態7としてのバルブタイミング制御装置について説明する。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、実施の形態4のものと同構成の油圧回路を備えている。したがって、以下の説明では、実施の形態4と同じく図16に示す構成を前提にして説明を行うものとする。ただし、本実施の形態においてエンジン始動直後に実施するVVT作動禁止制御に関しては、実施の形態1に係るVVT作動禁止制御を基礎にした内容になっている。
実施の形態1では、エンジン2の始動時にはVVT20の油室26,28は空になっているという前提の下、VVT20のオイル充填に必要な時間だけVVT20の作動を禁止している。ところが、実際にはVVT20内にオイルが残存している場合もあり、必ずしも油室26,28が空の状態からオイル充填が開始されるとは限らない。VVT20の遅角油室28にオイルが残存している場合には、その残存量に応じて必要なオイル充填時間は短くなる。つまり、エンジン始動時において遅角油室28に残存しているオイル量が多いほどVVT20の作動禁止時間は短くて良くなる。
エンジン始動時における遅角油室28のオイル残存量は、遅角油室28の容量からエンジン2の停止中に漏れ出たオイル量を引いた量に相当する。オイルの漏れ量は、エンジン2の停止に伴ってオイルポンプ4の回転が停止してからの経過時間によって左右される。エンジン停止からの経過時間が長いほど、トータルでのオイル漏れ量は多くなる。ただし、単位時間当たりのオイル漏れ量、すなわち、オイル漏れ速度は常に一定ではなく、オイルの温度(油温)によって左右される。
図25には1時間当たりのオイル漏れ量(coilleak)と油温(tho)との関係が示されている。オイル漏れ量(coilleak)と油温(tho)との関係は実験によって求めることができる。この図に示すように、オイル漏れ量(coilleak)は油温(tho)が低くなるにつれてゼロ近くまで減少する。オイル粘度が高いほどクリアランスからオイルが漏れ難くなるが、オイル粘度は油温(tho)が低いほど高くなるからである。
図25に示すオイル漏れ量(coilleak)と油温(tho)との関係はマップデータとしてECU40に記憶されている。ECU40は、このマップを利用してエンジン2の停止中におけるオイル漏れ量を予測する。図26は、本実施の形態においてエンジン2の停止中に実行されるオイル漏れ量予測制御のルーチンを示すフローチャートである。図26に示すルーチンは、エンジン2の停止中にECU40によって一定の周期で実行される。
図26に示すルーチンの最初のステップS202では、オイル漏れ量の予測中か否かがフラグXOILの値に基づいて判定される。フラグXOILが1であればオイル漏れ量の予測中であり、フラグXOILが0であればオイル漏れ量の予測は終了している。フラグXOILの初期値は1であり、エンジン2が始動した場合にゼロに設定されるようになっている。フラグXOILがゼロであれば、すなわち、エンジン2が始動したときには本ルーチンは完了となる。
次のステップS204では、エンジン2の停止から1時間、若しくは、前回のオイル漏れ量の計算から1時間が経過したか否か判定される。本実施の形態では1時間毎に油温を計測し、その油温計測値(tho)に対応するオイル漏れ量(coilleak)を積算していくことで、エンジン停止からのトータルのオイル漏れ量(Coilleak)を予測する。判定の結果、未だ計測周期の1時間が経過していないのであれば、それ以降の処理はスキップされ、再び本ルーチンが繰り返される。
一方、ステップS204の判定の結果、計測周期の1時間が経過している場合にはステップS206の処理が実行される。ステップS206では、まず、油温センサ46によって油温が計測される。そして、図25に示すマップに基づいて油温計測値(tho)に対応する1時間当たりオイル漏れ量(coilleak)が計算される。
次のステップS208では、ステップS206で計算した1時間当たりオイル漏れ量(coilleak)を用いて、エンジン停止からの積算オイル漏れ量(Coilleak)が計算される。前回実行時の積算オイル漏れ量(Coilleak(i-1))に今回実行時のオイル漏れ量(coilleak)を積算したものが、現時点における積算オイル漏れ量(Coilleak(i))となる。
図26に示すルーチンで計算された積算オイル漏れ量(Coilleak)は、エンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御において利用される。このVVT作動禁止制御のルーチンをフローチャートで示したのが図27である。図27に示すルーチンは、エンジン2の始動直後からECU40によって一定の周期で実行される。なお、図27において、実施の形態1にかかるVVT作動禁止制御ルーチンと共通する処理については、同一のステップ番号を付している。以下の説明では、それら実施の形態1と共通する処理については内容の説明を省略或いは簡略するものとする。
図27に示すルーチンの最初のステップS102では、エンジン始動直後のVVT作動禁止中か否かがフラグXVVTstartの値に基づいて判定される。フラグXVVTstartが1であれば、すなわち、VVT作動禁止が解除されたときには本ルーチンは完了となる。
ステップS102の判定の結果がVVT作動禁止中であれば、まず、ステップS180の処理が実行される。ステップS180では、図26に示すルーチンで計算された積算オイル漏れ量(Coilleak)を用いてVVT20のオイル充填率(oilp)が計算される。オイル充填率(oilp)は、遅角油室28の容量(olib)から積算オイル漏れ量(Coilleak)を差し引いて得られるオイル残存量の遅角油室28の容量(olib)に対する比である。
次のステップS182では、油温センサ46によって油温が計測され、その油温計測値(tho)に対応するVVT作動許可オイル充填率(oilpk)が求められる。VVT作動許可オイル充填率(oilpk)とは、打音等を発生させることなくVVT20を作動させるのに必要なオイル充填率であり、必ずしも100%でなくてもよい。油温が低くてオイル粘度が高いほど、VVT作動許可オイル充填率(oilpk)は小さい値でよい。オイル粘度が高ければ、その分、オイルのクッション効果も高くなるからである。温計測値(tho)とVVT作動許可オイル充填率(oilpk)との関係はマップデータとしてECU40に記憶されている。
次のステップS184では、エンジン始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)が取り込まれる。そして、図示省略のマップに基づいて油圧立ち上り遅れ時間(toil)とVVT作動許可オイル充填率(oilpk)とに対応するVVT作動禁止時間(tstop)が取り込まれる。本実施の形態においては、VVT作動禁止時間(tstop)はオイル充填率0%の状態からVVT作動許可オイル充填率(oilpk)までオイルを充填するのに要する時間として定義される。
次のステップS186では、ステップS180で求めたオイル充填率(oilp)のVVT作動許可オイル充填率(oilpk)に対する比が計算され、VVT作動禁止時間の補正係数(kstop)として算出される。続くステップS188では、補正係数(kstop)が1以下か否か判定される。補正係数(kstop)が1よりも大きい場合には、ステップS192の処理が実行されて補正係数(kstop)は1に変更される。前回のエンジン停止からの経過時間が短くてオイル漏れ量が少ない場合には、オイル充填率(oilp)がVVT作動許可オイル充填率(oilpk)よりも大きくて補正係数(kstop)が1を超える場合がある。
次のステップS190では、ステップS186で求められた補正係数(kstop)、若しくは、ステップS192で1に変更された補正係数(kstop)を用いてVVT作動禁止時間(tstop)が補正される。補正後のVVT作動禁止時間は、tstop×(1−kstop)+βで表される。βは最小VVT作動禁止時間であり、図示省略のマップに基づいてエンジン始動時の油温計測値(tho)に応じた値が取得される。油温が低くてオイル粘度が高いほど、最小VVT作動禁止時間(β)は大きい値に設定される。
そして、ステップS190では、エンジン始動後時間が補正後のVVT作動禁止時間(tstop×(1−kstop)+β)に達したか否か判定される。エンジン始動後時間が補正後のVVT作動禁止時間(tstop×(1−kstop)+β)に達していなければ、ステップS110の処理が選択され、VVT20の作動禁止がそのまま継続される。エンジン始動後時間が補正後のVVT作動禁止時間(tstop×(1−kstop)+β)に達したときには、ステップS112の処理が選択され、VVT20の作動禁止が解除されるとともにフラグXVVTstartは1にセットされる。
以上のルーチンによれば、エンジン始動時のオイル粘度に加えて、エンジン停止中の積算オイル漏れ量もVVT20の作動禁止時間の設定に反映させることができる。しかも、何れの情報もVVT20の動作に先立って取得することができる。また、積算オイル漏れ量の計算には、エンジン2の停止時間のみならず停止時間内での油温の変化が考慮されているので、エンジン始動時点での積算オイル漏れ量を正確に判断することができる。したがって、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によれば、エンジン始動時にVVT20内に残っているオイルの残存量に応じた最適な作動禁止時間を設定することが可能であり、エンジン2の始動後、打音等の不具合を発生させない範囲において、可能な限り早期にバルブタイミング制御を実施することができる。
ところで、実施の形態7では油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値として油圧立ち上り遅れ時間(toil)を用いているが、実施の形態2と同じく、油圧上昇時間(soil)を前記指標値として用いてもよい。その場合には、図27に示すルーチンのステップS184の処理を、油圧上昇時間(soil)とVVT作動許可オイル充填率(oilpk)とに対応するVVT作動禁止時間(tstop)を求める処理に置き換えればよい。
実施の形態8.
次に、図3,図16,図27乃至図32を参照して、本発明の実施の形態8としてのバルブタイミング制御装置について説明する。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、実施の形態4のものと同構成の油圧回路を備えている。したがって、以下の説明では、実施の形態4と同じく図16に示す構成を前提にして説明を行うものとする。ただし、本実施の形態においてエンジン始動直後に実施するVVT作動禁止制御に関しては、実施の形態7に係るVVT作動禁止制御を基礎にした内容になっている。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置と実施の形態7のものとは、VVT20の作動禁止時間の設定にエンジン停止中の積算オイル漏れ量を反映させる点において共通する。しかし、エンジン停止中の積算オイル漏れ量をどのようにして計算するかという点において、本実施の形態と実施の形態7との間には違いが有る。
以下、本実施の形態にて採られている積算オイル漏れ量の計算法について具体的に説明する。本実施の形態では、まず、現在使用しているオイルの粘度の温度依存特性について判定する。図28は、オイル粘度と油温との関係を示す図である。この図に示すように、オイルの粘度は油温が低いときには高く、油温が高くなるほど低くなるという温度依存特性を有している。また、オイル粘度の温度依存特性(以下、オイル粘性特性という)は、オイルの組成や劣化状況によって異なっている。図28中には異なる4つのオイル粘性特性を例示している。このようなオイル粘性特性は実験によって求めることができる。本実施の形態では、組成や劣化度の異なる種々のオイルについて実験を行い、それらの粘性特性を調べた結果を図28に示すようなマップにしてECU40に記憶している。
現在使用しているオイルの粘性特性は、エンジン始動時における油温とオイル粘度とを取得し、それらを図28に示すマップに当てはめることで判定することができる。その具体的な手順をフローチャートで示したのが図29である。図29のフローチャートに示すルーチンは、本実施の形態において実行されるオイル粘性特性判定制御のルーチンであり、エンジン2の始動時にECU40によって一定の周期で実行される。
図29に示すルーチンの最初のステップS302では、オイル粘性特性が既に判定済みか否か確認される。オイル粘性特性が未判定であれば、次のステップS304はスキップされてステップS306の処理が実行される。
一方、オイル粘性特性が既に判定されている場合には、ステップS304の確認処理が行われる。ステップS304ではオイル粘性特性の再判定を行うか否か確認される。前回のオイル粘性特性の判定時点から所定時間が経過した場合、若しくは、所定距離走行した場合には再判定が行われる。オイル交換の実施された場合にも再判定が行われる。再判定を行わない場合には以降の処理はスキップされて本ルーチンは完了となる。再判定を行う場合には、次のステップS306の処理が実行される。
ステップS306では、油温センサ46によってエンジン始動時の油温(stho)が取り込まれる。
次のステップS308では、エンジン始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)が取り込まれる。そして、続くステップS310では、図3に示すマップに基づいて油圧立ち上り遅れ時間(toil)に対応するオイル粘度(γ)が取り込まれる。
最後のステップS312では、ステップS306で取得された始動時油温(stho)とステップS310で取得されたオイル粘度(γ)とが、図28に示すオイル粘性特性マップに当てはめられる。ECU40は、マップに示す複数の粘性特性1〜4のうち、始動時油温(stho)とオイル粘度(γ)とで特定される粘性特性2を、現在使用しているオイルの粘性特性として学習し、所定のメモリ領域に記憶する。
ECU40は、学習したオイル粘性特性に基づいてエンジン停止中におけるオイル漏れ量を計算する。オイル漏れ量の計算には、図30に示すマップと図31に示すマップとが用いられる。図30に示すマップは、油温(tho)とオイル粘性特性とからオイル粘度(γ)を特定するためのマップである。このマップには、複数のオイル粘性特性が油温(tho)とオイル粘度(γ)とを関連付ける特性線の形で設定されている。学習したオイル粘性特性に対応する特性線を読み出し、その特性線に油温(tho)を当てはめることで、油温(tho)に対応するオイル粘度(γ)を特定することができる。
図31に示すマップは、オイル粘度(γ)から単位時間当たりオイル漏れ量(coilleak)を特定するためのマップである。このマップには、1時間当たりのオイル漏れ量(coilleak)とオイル粘度(γ)との関係が示されている。オイル漏れ量(coilleak)とオイル粘度(γ)との関係は実験によって求めることができる。この図に示すように、オイル漏れ量(coilleak)はオイル粘度(γ)が高くなるにつれてゼロ近くまで減少する。オイル粘度が高いほどクリアランスからオイルが漏れ難くなるからである。
ECU40は、図30に示すマップと図31に示すマップとを利用してエンジン2の停止中におけるオイル漏れ量を予測する。図32は、本実施の形態においてエンジン2の停止中に実行されるオイル漏れ量予測制御のルーチンを示すフローチャートである。図32に示すルーチンは、エンジン2の停止中にECU40によって一定の周期で実行される。なお、図32において、実施の形態7にかかるオイル漏れ量予測制御ルーチンと共通する処理については、同一のステップ番号を付している。以下の説明では、それら実施の形態7と共通する処理については内容の説明を省略或いは簡略するものとする。
図32に示すルーチンの最初のステップS202では、オイル漏れ量の予測中か否かがフラグXOILの値に基づいて判定される。フラグXOILがゼロであれば、すなわち、エンジン2が始動したときには本ルーチンは完了となる。
次のステップS204では、エンジン2の停止から1時間、若しくは、前回のオイル漏れ量の計算から1時間が経過したか否か判定される。判定の結果、未だ計測周期の1時間が経過していないのであれば、それ以降の処理はスキップされ、再び本ルーチンが繰り返される。
ステップS204の判定の結果、計測周期の1時間が経過している場合にはステップS210の処理が実行される。ステップS210では、学習したオイル粘性特性がメモリから取り込まれ、図30に示すマップで使用する特性線(図中に太線で示す)が特定される。なお、ステップS210の処理は一度だけ実行される処理であり(フローチャート中ではその旨の表現は省略している)、最初の実行時に特定された特性線に基づいて以後の処理が行われる。
次のステップS212では、まず、油温センサ46によって油温が計測される。そして、ステップS210で特定された特性線に基づいて油温計測値(tho)に対応するオイル粘度(γ)が取得される。
そして、ステップS214では、図31に示すマップに基づいてステップS212で取得されたオイル粘度(γ)に対応する1時間当たりオイル漏れ量(coilleak)が計算される。図30及び図31中には、ステップS212及びS214の処理の具体例を示している。例えば、油温計測値(tho1)が得られたときには、それに対応するオイル粘度(γA)が図30によって得られ、さらに、それに対応するオイル漏れ量(coilleakA)が図31によって得られる。
次のステップS208では、ステップS214で計算した1時間当たりオイル漏れ量(coilleak)を用いて、エンジン停止からの積算オイル漏れ量(Coilleak)が計算される。
計算された積算オイル漏れ量(Coilleak)は、エンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御において利用される。本実施の形態では、実施の形態7と同じく図27に示すVVT作動禁止制御ルーチンが用いられる。積算オイル漏れ量(Coilleak)は、図27に示すルーチンのステップS180の処理においてオイル充填率(oilp)の計算に使用される。VVT作動禁止制御ルーチンの内容については、実施の形態7にて説明した通りなので、ここではその説明は省略する。
以上のルーチンによれば、単に停止時間内での油温の変化を考慮するのではなく、オイル粘度の温度依存特性に基づいてオイル粘度の推移が計算され、このオイル粘度の推移を考慮して積算オイル漏れ量が計算されるので、エンジン始動時点での積算オイル漏れ量をより正確に判断することができる。したがって、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によれば、実施の形態7よりもさらに正確に推定したオイル残存量に基づいてVVT20の作動禁止時間を設定することが可能になる。
また、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によれば、オイルの粘性特性をエンジン始動時の油温計測値とオイル粘度とに基づいて学習しているので、その後に油温が変化したとしても、学習したオイル粘性特性に油温計測値を当てはめることで、そのときのオイルの粘度を正確に判断することができる。つまり、任意の時点においてオイル粘度を正確に判断することができ、その正確な判断に基づいて的確にVVT20の動作を制御することができる。
実施の形態8には第8の発明が適用されている。ECU40が図31に示すマップを記憶していることで、第8の発明の「記憶手段」が実現される。また、ECU40が図32に示すルーチンのステップS212において油温センサ46による油温計測値を取得することで、第8の発明の「停止油温計測手段」が実現される。また、ECU40が図30,図31に示す各マップを用いて図32に示すルーチンを実行することで、第8の発明の「オイル漏れ量計算手段」が実現される。さらに、ECU40が図27に示すルーチンのステップS180,S182,S184,S186,S188,S190及びS92を実行することで、第8の発明の「補正手段」が実現される。
実施の形態8と他の発明との対応関係に関しては、実施の形態7と他の発明との対応関係に共通している。
実施の形態9.
次に、図16,図27,図33及び図34を参照して、本発明の実施の形態9としてのバルブタイミング制御装置について説明する。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、実施の形態4のものと同構成の油圧回路を備えている。したがって、以下の説明では、実施の形態4と同じく図16に示す構成を前提にして説明を行うものとする。ただし、本実施の形態においてエンジン始動直後に実施するVVT作動禁止制御に関しては、実施の形態7に係るVVT作動禁止制御を基礎にした内容になっている。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置と実施の形態7のものとは、VVT20の作動禁止時間の設定にエンジン停止中の積算オイル漏れ量を反映させる点において共通する。しかし、エンジン停止中の積算オイル漏れ量をどのようにして計算するかという点において、本実施の形態と実施の形態7との間には違いが有る。
実施の形態7では、オイル漏れ速度が油温によって左右されることに鑑み、エンジン停止後は油温を周期的に計測し、油温から決まる単位時間当たりオイル漏れ量を積算していくことで積算オイル漏れ量を計算している。この場合、油温の計測周期によって積算オイル漏れ量の予測精度には差が生じる。当然のことながら、計測周期を短くすれば予測精度は向上するが、その反面、積算漏れ量の計算に消費する電力量は増大してしまう。
そこで、本実施の形態では、エンジン停止後の油温の推移に着目した。図33は、エンジン停止後の油温の変化の一例を示す図である。この図に示すように、エンジン停止後、油温は急速に低下していく。そして、エンジン停止から時間が経過して外気温近くまで低下した後は、外気温の変化に追従して油温も変化する。このような油温の推移を考慮すると、エンジン停止後間もない期間は油温の変化が急速なため計測周期を短くするのが好ましい。しかし、ある程度の時間が経過した後は油温の変化が僅かになるため計測周期を長くとることが可能と考えられる。
図34は、本実施の形態においてエンジン2の停止中に実行されるオイル漏れ量予測制御のルーチンを示すフローチャートである。図34に示すルーチンは、エンジン2の停止中にECU40によって一定の周期で実行される。なお、図34において、実施の形態7にかかるオイル漏れ量予測制御ルーチンと共通する処理については、同一のステップ番号を付している。
図34に示すルーチンの最初のステップS202では、オイル漏れ量の予測中か否かがフラグXOILの値に基づいて判定される。フラグXOILがゼロであれば、すなわち、エンジン2が始動したときには本ルーチンは完了となる。
次のステップS220では、エンジン2の停止から2時間が経過したか否か判定される。ここでは、エンジン停止後の2時間を油温の変化が急速な期間としている。判定の結果、未だ2時間が経過していないのであれば、ステップS232の判定が実行される。一方、2時間が経過したときには、次のステップS222でフラグX2rが1にセットされ、続いてステップS224の判定が実行される。
まず、エンジン停止後2時間未満の場合の処理について説明する。この場合は、ステップS232にて、前回のオイル漏れ量の計算から10分が経過したか否か判定される。本実施の形態では、エンジン停止後2時間未満における油温の計測周期を10分とし、エンジン停止後2時間を経過した後の油温の計測周期は2時間としている。判定の結果、未だ10分が経過していないのであれば、それ以降の処理はスキップされ、再び本ルーチンが繰り返される。
ステップS232の判定の結果、計測周期の10分が経過している場合にはステップS226の処理が実行される。ステップS226では、まず、油温センサ46によって油温が計測される。そして、図示省略のマップに基づいて油温計測値(tho)に対応する2時間当たりオイル漏れ量(coilleak)が計算される。このマップは図25に示すマップに類似したマップであり、2時間当たりのオイル漏れ量(coilleak)と油温(tho)との関係が示されている。
次のステップS228では、フラグX2rが1か否か判定される。フラグX2rがゼロであればステップS234の処理の実行後、ステップS230の処理が実行される。エンジン停止後2時間未満の場合にはフラグX2rはゼロであるから、ステップS234の処理が実行される。ステップS234では、ステップS226で求められた2時間当たりオイル漏れ量(coilleak)が10分当たりのオイル漏れ量に変換される。具体的には、オイル漏れ量(coilleak)を12で除算され、その計算値が新たにオイル漏れ量(coilleak)として算出される。
次のステップS230では、ステップS234で計算した10分当たりオイル漏れ量(coilleak)を用いて、エンジン停止からの積算オイル漏れ量(Coilleak)が計算される。前回実行時の積算オイル漏れ量(Coilleak(i-1))に今回実行時のオイル漏れ量(coilleak)を積算したものが、現時点における積算オイル漏れ量(Coilleak(i))となる。
次に、エンジン停止後2時間を経過した場合の処理について説明する。この場合は、ステップS224にて、前回のオイル漏れ量の計算から2時間が経過したか否か判定される。判定の結果、未だ計測周期の2時間が経過していないのであれば、それ以降の処理はスキップされ、再び本ルーチンが繰り返される。
ステップS224の判定の結果、計測周期の2時間が経過している場合にはステップS226の処理が実行される。ステップS226では、油温センサ46によって油温が計測され、前述のマップに基づいて油温計測値(tho)に対応する2時間当たりオイル漏れ量(coilleak)が計算される。
次のステップS228では、フラグX2rが1か否か判定される。エンジン停止後2時間が経過した場合にはフラグX2rは1であるから、次はステップS230の処理が実行される。
次のステップS230では、ステップS226で計算した2時間当たりオイル漏れ量(coilleak)を用いて、エンジン停止からの積算オイル漏れ量(Coilleak)が計算される。
計算された積算オイル漏れ量(Coilleak)は、エンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御において利用される。本実施の形態では、実施の形態7と同じく図27に示すVVT作動禁止制御ルーチンが用いられる。積算オイル漏れ量(Coilleak)は、図27に示すルーチンのステップS180の処理においてオイル充填率(oilp)の計算に使用される。VVT作動禁止制御ルーチンの内容については、実施の形態7にて説明した通りなので、ここではその説明は省略する。
以上のルーチンによれば、エンジン停止からの経過時間が短いときには、オイルの油温が高く粘度が低いためにオイルの単位時間当たりの漏れ量は多いが、このときの計測周期を短く設定することで積算オイル漏れ量の予測精度を高めることができる。一方、エンジン停止からの経過時間が長いときには、オイルの油温が低下して粘度が高くなるためにオイルの単位時間当たりの漏れ量は少なくなるが、このときは計測周期を長く設定することで積算オイル漏れ量の計算に消費する電力量を抑えることができる。したがって、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によれば、積算オイル漏れ量の予測精度の向上とエンジン停止時の消費電力量の抑制とを両立させることができる。
ところで、実施の形態9では油温計測値(tho)から単位時間当たりのオイル漏れ量(coilleak)を求めているが、実施の形態8と同じく、オイル粘性特性と油温計測値(tho)とからオイル粘度を求め、オイル粘度から単位時間当たりのオイル漏れ量(coilleak)を求めてもよい。その場合には、図34に示すルーチンのステップS226の処理を、図32に示すルーチンのステップS210,S212及びS214の処理に置き換える。
実施の形態10.
次に、図3,図16,図35乃至図37を参照して、本発明の実施の形態10としてのバルブタイミング制御装置について説明する。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、実施の形態4のものと同構成の油圧回路を備えている。したがって、以下の説明では、実施の形態4と同じく図16に示す構成を前提にして説明を行うものとする。ただし、図16を本実施の形態の説明に使用する上では、図16に示す油圧回路は排気バルブに適用されるバルブタイミング制御装置のものであるとする。
図16に示す構成では、エンジン停止中はVVT20はロックピン30によってロックされるようになっている。ただし、本実施の形態に係るVVT20は排気バルブ用であるため、VVT20はバルブタイミングを最進角させる位置でロックされているものとする。また、非通電時におけるOCV10のスプールの位置はVVTライン8を進角油室26に接続する位置になっているものとする。
ロックピン30によるVVT20のロックは、エンジン2の始動後、VVT20に供給されるオイルの油圧が有る程度まで上昇することで自動的に解除される。ロック状態の解除後は自由にVVT20を動作させることが可能であり、バルブタイミングを遅角側に制御することも可能になる。
しかし、前述の実施の形態1乃至9のバルブタイミング制御装置は、ロック状態の解除後直ぐにVVT20を作動させるのではなく、十分な量のオイルが充填されるまでVVT20の作動を禁止している。本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、ロック状態の解除後も直ぐにはVVT20を作動させない点においては前述の実施の形態1乃至9のものと共通する。ただし、VVT20の作動禁止を解除する条件に関しては、本実施の形態のものと実施の形態1乃至9のものとの間には違いがある。
本実施の形態では、エンジン2の停止時におけるロックピン30のロック穴への確実な係合という観点で前記の解除条件が決められている。エンジン始動時には油室26,28内のオイルが抜け出ているため、VVT20が確実にロックしていない場合にはカムの反力によってVVT20が動いてしまう。この場合、VVT20は排気バルブのバルブタイミングを遅角させる方向に動くため、バルブオーバーラップは拡大することなり、始動時の燃焼悪化を招いてしまう。このような事態を防止するためには、エンジン2の停止時に確実にVVT20をロックしておくことが求められる。
エンジン2の運転停止時には、エンジン2によって駆動されているオイルポンプ4の回転も停止する。オイルの供給ライン6,8は末端が完全には閉じておらず、また、各所にクリアランスが存在しているため、オイルポンプ4の運転停止に伴って油圧回路内のオイルの油圧は低下する。しかし、オイルポンプ4の運転停止から油圧が下がりきるまでには時間遅れがあり、暫くの間は油圧回路内に残油圧が存在している。バルブタイミング制御装置は、エンジン2の停止時、その残油圧を利用してVVT20を最進角位置まで動作させ、ベーン体24に設けられたロックピン30をハウジング22に形成されたロック穴に係合させている。以下、ロックピン30がロック穴に係合することをロックピン入りという。
エンジン停止時におけるロックピン入りが確実か否かは、次の3つの要素の関係によって決まる。1つ目の要素はエンジン停止時における残油圧である。残油圧が高いほど、VVT20を遅角側へ動作させる駆動力が大きくなってロックピン入りし易くなる。2つ目の要素はエンジン停止時におけるバルブタイミングである。バルブタイミングが進角側にあるほど、ロックピン入りのために必要なVVT20の動作量は大きくなってロックピン入りは難しくなる。そして、3つ目の要素はエンジン停止時におけるオイル粘度である。オイル粘度が高いほど、VVT20を遅角側へ動作させる際の抵抗力が大きくなってロックピン入りは難しくなる。
上記3つの要素のうち、エンジン停止時の残油圧は油圧回路のリリーフ圧によって決まるものであって、エンジン停止時の条件によらず略一定と考えてよい。これに対し、エンジン停止時のバルブタイミングは停止直前におけるエンジン2の運転状態によって決まるものであるから毎回ばらつきがある。確実なロックピン入りを目指すためには、最悪の条件、つまり、バルブタイミングが最遅角位置にある場合を想定する必要が有る。エンジン停止時の残油圧が既知であるならば、エンジン停止時のバルブタイミングを最遅角位置と仮定することで、ロックピン入りが保証できる最大オイル粘度(以下、ロックピン入保証粘度という)は実験若しくは計算によって求めることができる。
図35は、エンジン2の停止時におけるVVT20の動作をオイル粘度で比較して示す図である。この図に示すように、エンジン2の始動後、エンジン回転数の低下に伴ってメインオイルギャラリ6内のオイルの油圧も低下していく。VVT20はその残油圧を利用して進角側に動作するが、オイル粘度によってその動作には違いが生じる。オイル粘度がロックピン入保証粘度(α)であれば、図中に実線で示すようにVVT20は油圧が無くなる前にロック位置である最進角位置まで動くことができる。オイル粘度がロックピン入保証粘度(α)より低い場合には、一点鎖線で示すようにVVT20は油圧が無くなる前に余裕を持って最進角位置まで動くことができる。これらの場合であれば確実にロックピン入りを実現することができる。しかし、オイル粘度がロックピン入保証粘度(α)よりも高い場合には、破線で示すようにVVT20が最進角位置に達する前に油圧が無くなってしまい、ロックピン入りを実現することができない。
エンジン停止時におけるオイル粘度が前記のロックピン入保証粘度以下であるならば、エンジン停止時のバルブタイミングに関係なく確実なロックピン入りが実現される。しかし、エンジン2の停止操作は運転者に委ねられており、オイル粘度がどのような状態のときに停止するかは予想することができない。また、エンジン2の停止時期をバルブタイミング制御装置からの要求によって制御することは可能であるが、運転者の停止要求と実際の停止時期との乖離が大きくなった場合には運転者に違和感を与えてしまう。
そこで、本実施の形態のバルブタイミング制御装置では、何時エンジン2が停止しても確実なロックピン入りが保証できるように、エンジン始動時、オイル粘度が前記のロックピン入保証粘度以下になるまではVVT20の作動を禁止するようにした。言い換えれば、オイル粘度がロックピン入保証粘度以下になって初めてVVT20の作動を許可するようにした。
ただし、図16に示す構成において取得できるのは、油圧の立ち上り時にその緩急の程度から求まるオイル粘度のみである。粘度センサを使用しない構成であるため、任意のタイミングにおいてオイル粘度を計測することはできない。しかし、油温に関しては油温センサ46によって任意のタイミングで計測することができ、エンジン始動後の油温の変化を継続的にウォッチすることも可能である。
図36のマップには、オイル粘度と油温との関係を示している。この図に示すように、オイル粘度と油温との関係はオイルの粘性特性によって決まり、逆に、ある時点でのオイル粘度と油温とが分かれば、使用されているオイルの粘性特性を特定することは可能である。本実施の形態では、エンジン始動時の油圧立ち上り遅れ時間(toil)を求め、図3に示すマップに基づいて油圧立ち上り遅れ時間(toil)に対応するオイル粘度(γ)を取得する。そして、図36に示すマップに基づき、エンジン始動時の油温計測値(stho)とオイル粘度(γ)とに対応するオイル粘性特性を特定する。
使用されているオイルの粘性特性が特定できれば、ロックピン入保証粘度(α)に対応する油温(B)も求めることができる。以下、この油温(B)をロックピン入保証油温(B)という。本実施の形態では、油温センサ46による油温計測値(tho)がロックピン入保証油温(B)に達するまで、VVT20の作動を禁止するようにした。
図37は、本実施の形態においてエンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御のルーチンを示すフローチャートである。図37に示すルーチンは、エンジン2の始動直後からECU40によって一定の周期で実行される。
図37に示すルーチンの最初のステップS402では、エンジン始動直後のVVT作動禁止中か否かがフラグXVVTstartの値に基づいて判定される。フラグXVVTstartが0であればVVT作動禁止中であり、フラグXVVTstartが1であればVVT作動禁止は解除されている。フラグXVVTstartの初期値は0であり、後述するステップS416の条件が成立しなくなった場合に1にセットされるようになっている。フラグXVVTstartが1であれば、すなわち、VVT作動禁止が解除されたときには本ルーチンは完了となる。
ステップS402の判定の結果がVVT作動禁止中であれば、次に、ステップS404以降の処理が実行される。ステップS404では、油温センサ46によってエンジン始動時の油温(stho)が取り込まれる。
次のステップS406では、エンジン始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)が取り込まれる。そして、続くステップS408では、図3に示すマップに基づいて油圧立ち上り遅れ時間(toil)に対応するオイル粘度(γ)が取り込まれる。
そして、ステップS410では、ステップS404で取得された始動時油温(stho)とステップS408で取得されたオイル粘度(γ)とが、図36に示すマップに当てはめられ、現在使用しているオイルの粘性特性が判定される。
次のステップS412では、図36に示すマップからステップS410で判定されたオイル粘性特性の特性線が読み出される。そして、その特性線に予め設定されているロックピン入保証粘度(α)を当てはめることで、現在使用されているオイルにおけるロックピン入保証温度(B)が求められる。ロックピン入保証粘度(α)はオイルに因らず一定であるのに対し、ロックピン入保証油温(B)はオイルが劣化した場合等、使用されているオイルの粘性特性に応じて変化する。
なお、上述のステップS404乃至S412の処理はそれぞれ一度だけ実行される処理であり(フローチャート中ではその旨の表現は省略している)、最初の実行時に取り込まれたロックピン入保証油温(B)は本ルーチンが完了するまで保持される。また、ステップS412で使用するオイル粘性特性に関しては、本ルーチンの実行の度に判定する(ステップS404乃至S408の処理によって判定する)のではなく、別ルーチン(図29に示すオイル粘性特性判定制御ルーチン)によって学習したものをメモリから読み出すようにしてもよい。
次のステップS414では、油温センサ46によって現在の油温(tho)が取り込まれる。そして、ステップS416では、現在の油温(tho)がステップS412で取り込まれたロックピン入保証油温(B)に達したか否か判定される。現在の油温(tho)がロックピン入保証油温(B)に達していなければ、ステップS418の処理が選択される。ステップS418では、VVT20の作動禁止がそのまま継続される。一方、現在の油温(tho)がロックピン入保証油温(B)に達したときには、ステップS420の処理が選択される。ステップS420では、VVT20の作動禁止が解除され、前述のフラグXVVTstartは1にセットされる。
以上のルーチンによれば、油圧立ち上り遅れ時間(toil)から得られたオイル粘度(γ)と始動時油温(stho)とよってオイルの粘性特性(温度依存特性)が判定され、判定したオイル粘性特性とロックピン入保証粘度(α)とに基づいてロックピン入保証油温(B)が算出される。これによれば、現在使用されているオイルの粘性特性をロックピン入保証油温(B)の設定に的確に反映させることができる。
このように、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によれば、オイル粘性特性が的確に反映されたロックピン入保証油温(B)を基準にしてVVT20の作動禁止制御を行うことが可能であり、エンジン2の運転に伴ってオイルの油温が上昇し、エンジン2の停止時における確実なロックピン入りが保証される程度にオイル粘度が低下するまでは、VVT20の作動を確実に禁止することができる。したがって、次回の始動時にはロックピン30がロック穴に確実に係合している状態でVVT20に油圧を作用させることができ、ハウジング22とベーン体24との衝突による打音の発生等、ロックピン入りが確実でないことによる不具合の発生を防ぐことができる。
ところで、実施の形態10では油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値として油圧立ち上り遅れ時間(toil)を用いているが、実施の形態2と同じく、油圧上昇時間(soil)を前記指標値として用いてもよい。その場合には、図37に示すルーチンのステップS406の処理を油圧上昇時間(soil)を取り込む処理に置き換え、ステップS408の処理を図9に示すマップに基づいて油圧上昇時間(soil)に対応するオイル粘度(γ)を取り込む処理に置き換えればよい。
実施の形態11.
次に、図3,図16,図38乃至図42を参照して、本発明の実施の形態11としてのバルブタイミング制御装置について説明する。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、実施の形態4のものと同構成の油圧回路を備えている。したがって、以下の説明では、実施の形態4と同じく図16に示す構成を前提にして説明を行うものとする。ただし、図16を本実施の形態の説明に使用する上では、図16に示す油圧回路は排気バルブに適用されるバルブタイミング制御装置のものであるとする。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、エンジン2の停止時におけるロックピン入りを確実にならしめることを目的とする点においては実施の形態10のものと共通している。しかし、その目的を達成するための手段において本実施の形態のものと実施の形態10のものとの間には違いがある。
実施の形態10では、何時エンジン2が停止しても確実なロックピン入りが保証できるように、エンジン始動時、オイル粘度がロックピン入保証粘度以下になるまではVVT20の作動を禁止している。これによれば、エンジン停止時の確実なロックピン入りが保証される反面、エンジン始動後の油温の上昇具合によってはバルブタイミング制御の開始が遅れてしまう可能性がある。
そこで、本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、エンジン2の始動後、油温がロックピン入保証温度に達する前にVVT20の作動を許可することにした。そして、運転者からエンジン2の停止要求があった場合にはその時点における油温を計測し、油温が未だロックピン入保証温度に達していないのであれば、エンジン2の停止を遅延させることにした。ただし、VVT20のロック位置への戻し動作は、エンジン2の停止要求があった時点から開始する。エンジン2の停止を遅延させることで、その遅延時間においてVVT20のロック位置への戻しを進めることができ、エンジン2の停止時におけるロックピン入りを確実ならしめることができる。以下、本実施の形態においてエンジン停止を遅延させるための制御をエンジン停止ディレイ制御といい、エンジン停止ディレイ制御において設定されるエンジン停止の遅延時間をディレイ時間という。
図38は、エンジン2の停止時におけるVVT20の動作をディレイ時間の有無で比較して示す図である。実線で示すエンジン回転数、油圧及びバルブタイミングの各変化はディレイ時間を設けた場合の変化であり、二点鎖線で示すエンジン回転数、油圧及びバルブタイミングの各変化はディレイ時間を設けていない場合の変化である。図38では、エンジンの停止要求があった時点では油温がロックピン入保証温度に達していない場合を想定している。この場合、ディレイ時間が設定されていなければ、二点鎖線で示すようにVVT20がロック位置である最進角位置に達する前に油圧が無くなってしまい、ロックピン入りは実現することができない。これに対し、ディレイ時間が設定されていれば、実線で示すようにVVT20は油圧が無くなる前に最進角位置まで動くことができる。つまり、確実にロックピン入りを実現することができる。
以上のように、停止要求があった時点での油温とロックピン入保証温度との間に差があったとしても、ディレイ時間をとることでロックピン入りを確実ならしめることは可能である。ただし、ディレイ時間をあまりにも長く取り過ぎると運転者に違和感を与えてしまうことになって好ましくない。そこで、本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、エンジン2の始動後無条件にVVT20の作動を許可するのではなく、VVT20の作動を許可する下限油温を設けることとした。
本実施の形態では、前記の下限油温をディレイ時間の上限値に基づいて設定する。図39は、エンジン2の停止要求があった時点でのオイル粘度と必要なディレイ時間との関係を示す図である。この図に示すように、停止要求時オイル粘度がロックピン入保証粘度(α)以下であるならば、ディレイ時間はゼロでよい。停止要求時オイル粘度がロックピン入保証粘度(α)を超える場合には、必要なディレイ時間も長くなっていく。図36に示す関係を用いれば、運転者に与える違和感を考慮してディレイ時間に上限値(dmax)を設定すると、それに対応するオイル粘度(β)が一意に決定される。上限値(dmax)は例えば2秒ほどである。このオイル粘度(β)は、ディレイ制御を実施することを条件にロックピン入りが保証されるオイル粘度であるので、以下、オイル粘度(β)を条件付ロックピン入保証粘度という。
前記の下限油温は条件付ロックピン入保証粘度(β)に対応する油温である。図40に示すように、使用されているオイルの粘性特性が特定できれば、条件付ロックピン入保証粘度(β)に対応する油温(C)も求めることができる。以下、この油温(C)を条件付ロックピン入保証油温(C)という。本実施の形態では、油温センサ46による油温計測値(tho)が条件付ロックピン入保証油温(C)に達するまで、VVT20の作動を禁止するようにした。なお、オイル粘性特性を特定する方法については実施の形態10で既に述べた通りであるので、ここではその説明は省略する。
図41は、本実施の形態においてエンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御のルーチンを示すフローチャートである。図41に示すルーチンは、エンジン2の始動直後からECU40によって一定の周期で実行される。なお、図41において、実施の形態10にかかるVVT作動禁止制御ルーチンと共通する処理については、同一のステップ番号を付している。以下の説明では、それら実施の形態10と共通する処理については内容の説明を省略或いは簡略するものとする。
図41に示すルーチンの最初のステップS402では、エンジン始動直後のVVT作動禁止中か否かがフラグXVVTstartの値に基づいて判定される。フラグXVVTstartが1であれば、すなわち、VVT作動禁止が解除されたときには本ルーチンは完了となる。
ステップS402の判定の結果がVVT作動禁止中であれば、次に、ステップS404,S406,S408,S410及びS412の処理が実行される。ステップS404では、油温センサ46によってエンジン始動時の油温(stho)が取り込まれ、ステップS406では、エンジン始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)が取り込まれる。続くステップS408では、図3に示すマップに基づいて油圧立ち上り遅れ時間(toil)に対応するオイル粘度(γ)が取り込まれ、ステップS410では、図40に示すマップに基づいて始動時油温(stho)とオイル粘度(γ)とに対応するオイル粘性特性が判定される。そして、ステップS412では、判定されたオイル粘性特性の特性線にロックピン入保証粘度(α)を当てはめることでロックピン入保証温度(B)が求められる。
次のステップS430では、ステップS410で判定されたオイル粘性特性の特性線に予め設定されている条件付ロックピン入保証粘度(β)を当てはめることで、現在使用されているオイルにおける条件付ロックピン入保証温度(C)が求められる。条件付ロックピン入保証温度(C)は、ロックピン入保証温度(B)と同じく、使用されているオイルの粘性特性に応じて変化する。なお、上述のステップS404乃至S412及びS430の処理はそれぞれ一度だけ実行される処理であり(フローチャート中ではその旨の表現は省略している)、最初の実行時に取り込まれたロックピン入保証油温(B)及び条件付ロックピン入保証温度(C)は本ルーチンが完了するまで保持される。
次のステップS414では、油温センサ46によって現在の油温(tho)が取り込まれる。そして、ステップS416では、現在の油温(tho)がロックピン入保証油温(B)に達したか否か判定される。現在の油温(tho)がロックピン入保証油温(B)に達していれば、ステップS420の処理が選択され、VVT20の作動禁止が解除されるとともにフラグXVVTstartは1にセットされる。
一方、現在の油温(tho)が未だロックピン入保証油温(B)に達していない場合には、ステップS432の判定が行われる。ステップS432では、現在の油温(tho)が条件付ロックピン入保証油温(C)に達したか否か判定される。現在の油温(tho)が条件付ロックピン入保証油温(C)に達していなければ、ステップS418の処理が選択され、VVT20の作動禁止がそのまま継続される。
ステップS432の判定の結果、現在の油温(tho)が条件付ロックピン入保証油温(C)に達しているときには、ステップS434の処理が選択される。ステップS434では、エンジン停止ディレイ制御フラグがセットされる。エンジン停止ディレイ制御フラグの初期値はゼロであり、ステップS434の処理が選択された場合のみ1にセットされる。続いてステップS420の処理が選択され、VVT20の作動禁止が解除されるとともにフラグXVVTstartは1にセットされる。
以上のルーチンによれば、油圧立ち上り遅れ時間(toil)から得られたオイル粘度(γ)と始動時油温(stho)とよってオイルの粘性特性(温度依存特性)が判定され、判定したオイル粘性特性とロックピン入保証粘度(α)とに基づいてロックピン入保証油温(B)と条件付ロックピン入保証油温(C)とが算出される。これによれば、現在使用されているオイルの粘性特性をロックピン入保証油温(B)及び条件付ロックピン入保証油温(Cの設定に的確に反映させることができる。そして、以上のルーチンがエンジン2の始動直後に実行されることで、エンジン停止時におけるロックピン入りを確実に保証することができる範囲において、可能な限り早期にバルブタイミング制御を実施することが可能になる。
次に、エンジン2の停止要求があったときに実行されるエンジン停止ディレイ制御の詳細について説明する。図42は、本実施の形態において実行されるエンジン停止ディレイ制御を示すフローチャートである。ECU40は、エンジン停止ディレイ制御フラグがセットされていることを条件にして図42に示すルーチンを実行する。
図42に示すルーチンの最初のステップS502では、運転者からのエンジン停止要求の有無が判定される。図示しないエンジン2の停止スイッチ(例えば、イグニッションスイッチ)がオフにされた場合、停止要求が有ったものと判断される。エンジン停止要求が検出されるまでは以降の処理はスキップされる。
エンジン停止要求が有った場合には、次に、ステップS504以降の処理が実行される。ステップS504では、油温センサ46によって現在の油温が取り込まれる。
次のステップS506では、図40に示すマップから現在使用しているオイルの粘性特性の特性線が読み出される。オイル粘性特性はVVT作動禁止制御ルーチンの実行時に判定されたものを使用する。そして、その特性線にエンジン停止要求時の油温を当てはめることで、現在のオイル粘度が求められる。
次のステップS508では、図39に示すマップに基づいてエンジン停止要求時のオイル粘度に対応するディレイ時間が取得される。このとき取得されるディレイ時間は必ず前述の上限値(dmax)以下となっている。前述のVVT作動禁止制御ルーチンでは、オイル粘度が条件付ロックピン入保証粘度(β)以下になっていることがVVT20の作動禁止が解除される条件になっているからである。
次のステップS510では、ステップS508で取得されたディレイ時間が経過したか否か判定される。ディレイ時間が経過するまではエンジン2の停止は遅延され続ける。そして、ディレイ時間が経過した時点でステップS512の処理が実行され、エンジン2が停止される。なお、VVT20を作動させた後に油温が大きく上昇した場合には、エンジン停止要求時のオイル粘度がロックピン入保証粘度(α)よりも低くなっている場合もある。その場合には、ディレイ時間はゼロに設定され、速やかにエンジン2が停止されることになる。
以上のルーチンによれば、エンジン2の停止要求が有った場合、その時点におけるオイルの油温がロックピン入保証温度(B)よりも低いときにはエンジンの停止が遅延されるので、その遅延時間の分だけVVT20のロック位置への移動を促すことができる。これにより、高粘度のオイルの影響でロックピン入りが妨げられるのを防止することができる。したがって、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によれば、次回の始動時にはロックピン30がロック穴に確実に係合している状態でVVT20に油圧を作用させることが可能であり、ハウジング22とベーン体24との衝突による打音の発生等、ロックピン入りが確実でないことによる不具合の発生を防ぐことができる。
ところで、実施の形態11では油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値として油圧立ち上り遅れ時間(toil)を用いているが、実施の形態2と同じく、油圧上昇時間(soil)を前記指標値として用いてもよい。その場合には、図41に示すルーチンのステップS406の処理を油圧上昇時間(soil)を取り込む処理に置き換え、ステップS408の処理を図9に示すマップに基づいて油圧上昇時間(soil)に対応するオイル粘度(γ)を取り込む処理に置き換えればよい。
実施の形態12.
最後に、図3,図4,図16,図36及び図43を参照して、本発明の実施の形態12としてのバルブタイミング制御装置について説明する。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、実施の形態4のものと同構成の油圧回路を備えている。したがって、以下の説明では、実施の形態4と同じく図16に示す構成を前提にして説明を行うものとする。ただし、図16を本実施の形態の説明に使用する上では、図16に示す油圧回路は排気バルブに適用されるバルブタイミング制御装置のものであるとする。
本実施の形態のバルブタイミング制御装置は、エンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御に特徴があり、その内容は実施の形態10のものに実施の形態1のものを組み合わせたものに相当する。つまり、本実施の形態では、エンジン2の始動後、オイル粘度がロックピン入保証粘度以下になり、且つ、VVT20に十分な量のオイルが充填されるまではVVT20の作動を禁止するようにした。
図43は、本実施の形態においてエンジン2の始動直後に実行されるVVT作動禁止制御のルーチンを示すフローチャートである。図43に示すルーチンは、エンジン2の始動直後からECU40によって一定の周期で実行される。なお、図43において、実施の形態10にかかるVVT作動禁止制御ルーチンと共通する処理については、同一のステップ番号を付している。以下の説明では、それら実施の形態10と共通する処理については内容の説明を省略或いは簡略するものとする。
図43に示すルーチンの最初のステップS402では、エンジン始動直後のVVT作動禁止中か否かがフラグXVVTstartの値に基づいて判定される。フラグXVVTstartが1であれば、すなわち、VVT作動禁止が解除されたときには本ルーチンは完了となる。
ステップS402の判定の結果がVVT作動禁止中であれば、次に、ステップS404乃至S412の処理が実行される。ステップS404では、油温センサ46によってエンジン始動時の油温(stho)が取り込まれ、ステップS406では、エンジン始動後の油圧立ち上り遅れ時間(toil)が取り込まれる。続くステップS408では、図3に示すマップに基づいて油圧立ち上り遅れ時間(toil)に対応するオイル粘度(γ)が取り込まれ、ステップS410では、図37に示すマップに基づいて始動時油温(stho)とオイル粘度(γ)とに対応するオイル粘性特性が判定される。そして、ステップS412では、判定されたオイル粘性特性の特性線にロックピン入保証粘度(α)を当てはめることでロックピン入保証温度(B)が求められる。
次のステップS440では、図4に示すマップに基づいて油圧立ち上り遅れ時間(toil)に対応するVVT作動禁止時間(tstop)が取り込まれる。なお、ステップS404乃至S412及びS440の処理はそれぞれ一度だけ実行される処理であり(フローチャート中ではその旨の表現は省略している)、最初の実行時に取り込まれたロックピン入保証温度(B)とVVT作動禁止時間(tstop)は本ルーチンが完了するまで保持される。
次のステップS414では、油温センサ46によって現在の油温(tho)が取り込まれる。
次のステップS442では、エンジン始動後時間がステップS440で取り込まれたVVT作動禁止時間(tstop)に達したか否か判定される。エンジン始動後時間がVVT作動禁止時間(tstop)に達していなければ、ステップS418の処理が選択され、VVT20の作動禁止がそのまま継続される。
エンジン始動後時間がVVT作動禁止時間(tstop)に達している場合には、ステップS416の判定が行われる。ステップS416では、現在の油温(tho)がロックピン入保証油温(B)に達したか否か判定される。現在の油温(tho)がロックピン入保証油温(B)に達していなければ、ステップS418の処理が選択され、VVT20の作動禁止がそのまま継続される。一方、現在の油温(tho)がロックピン入保証油温(B)に達していれば、ステップS420の処理が選択され、VVT20の作動禁止が解除されるとともにフラグXVVTstartは1にセットされる。
以上のルーチンによれば、エンジン始動後時間がVVT作動禁止時間(tstop)に達し、且つ、油温(tho)がロックピン入保証油温(B)に達して初めてVVT20の作動禁止が解除されることになる。これにより、本実施の形態のバルブタイミング制御装置によれば、エンジン停止時のロックピン入りを確実にし、且つ、エンジン2の始動後に打音等の不具合を発生させない範囲において、可能な限り早期にバルブタイミング制御を実施することができる。
なお、実施の形態12と各発明との対応関係は、実施の形態1,10と各発明との対応関係に共通している。
ところで、実施の形態12では油圧の立ち上りの緩急の程度を示す指標値として油圧立ち上り遅れ時間(toil)を用いているが、実施の形態2と同じく、油圧上昇時間(soil)を前記指標値として用いてもよい。その場合には、図43に示すルーチンのステップS406の処理を油圧上昇時間(soil)を取り込む処理に置き換え、ステップS408の処理を図9に示すマップに基づいて油圧上昇時間(soil)に対応するオイル粘度(γ)を取り込む処理に置き換えればよい。
その他.
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、次のように変形して実施してもよい。
上述の実施の形態では、本発明をバルブタイミング制御装置に適用しているが、本発明は油圧アクチュエータを用いる油圧システムであれば広く適用することができる。その場合の油圧発生源は、電動式のポンプであってもよい。また、回転式ポンプやプランジャポンプ等その構造には限定はない。
また、上述の実施の形態では油温を油温センサによって直接計測しているが、水温センサによって間接的に計測するのでもよい。エンジン2内のオイルの油温と冷却水の水温との間には相関があるからである。その場合、水温センサが「油温計測手段」となる。
また、油圧の立ち上りの緩急から推定できるオイル粘度は、OCV10によってVVT20の動作を制御するときの制御量(制御デューティ)にも反映させることができる。オイル粘度が変わればOCV10の制御量に対するVVT20の応答性も変化する。オイル粘度を制御量の設定に反映させることで、VVT20の応答性にばらつきが生じるのを防止することができる。
さらに、実施の形態8で学習したオイル粘性特性(オイル粘度の温度依存特性)を用いれば、油温を計測することで任意の時点におけるオイル粘度を取得することもできる。これによれば、常に現時点でのオイル粘度を考慮して油圧アクチュエータの動作を制御することも可能になる。
実施の形態12の内容は、実施の形態10の内容に実施の形態1の内容を組み合わせたものとなっているが、実施の形態11の内容に実施の形態1の内容を組み合わせることも可能である。また、その他の実施の形態の内容をさたに組み合わせることも可能である。