実施形態の磁気抵抗効果素子によれば、磁化固着層の層中、磁化自由層の層中、磁化固着層及びスペーサ層の界面、並びに磁化自由層及びスペーサ層の界面の少なくとも一か所に、Si、Mg、B、Alを含む機能層を設けるようにしている。この機能層は、以下に詳述するように、磁気抵抗効果素子のスピン依存散乱ユニットに存在する余剰酸素を捕獲し、この余剰酸素が磁気固着層や磁気自由層中に拡散するのを抑制するように機能すると推定され、その結果、特に磁化自由層内部および界面に存在することによるスピン依存散乱の低下を抑制することができる。また、前記機能層は、Si、Mg、B、Alなどの原子番号の小さい元素から構成されているため、スピン分極した伝導電子が前記機能層中においてスピン分極を失ってしまうということがない。
また、前記機能層は、磁化固着層中に含まれるMnや磁化自由層中に含まれるNiなどの拡散を抑制するように機能し、前記Niなどの元素に起因したスピン依存界面散乱の低下を抑制することができる。さらに、前記磁化自由層が特にbcc構造を呈する場合は、上述した機能層の存在により、前記磁化自由層の構造安定化を図ることができる。結果として、上述した3つの作用によって、得られる磁気抵抗効果素子、すなわちCCP−CPP素子のMR変化率を増大させることができる。
なお、上述した3つの作用はあくまで本発明者らの考察によるものであり、本実施形態の成立性に何ら影響を及ぼすものではない。本実施形態では、いわゆるCCP−CPP素子において、上述したような要件を満足する機能層を設けることにより、そのMR変化率を向上させることが可能となることによって特徴づけられる。
また、本発明の他の態様によれば、前記スペーサ層は、前記電流狭窄層と、前記磁化固着層及び前記磁化自由層の少なくとも一方と隣接するようにして、例えばCu、Ag、Auのいずれかを含む金属層を形成することができる。前記金属層が、前記電流狭窄層と前記磁化固着層との間に形成される場合、前記金属層は、前記電流狭窄層の電流パスを構成する供給源として機能するとともに、前記磁化固着層の、前記電流狭窄層中に含まれる酸化物、窒化物、酸窒化物などに対する保護層として機能する。前記金属層が、前記電流狭窄層と前記磁化自由層との間に形成される場合、前記金属層は、前記磁化自由層の、前記電流狭窄層中に含まれる酸化物、窒化物、酸窒化物などに対する保護層として機能する。
以下、図面を参照しながら本発明のその他の特徴、並びに製造方法、及び磁気ヘッドなどへの応用例を説明する。
(磁気抵抗効果素子:CCP−CPP素子)
図1は、本発明の磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)の一例を表す斜視図である。なお、図1および以降の図は全て模式図であり、図上での膜厚同士の比率と、実際の膜厚同士の比率は必ずしも一致しない。
本図に示すように本実施の形態に係る磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果膜10、およびこれを上下から挟むようにして下電極11および上電極20を有し、図示しない基板上に構成される。
磁気抵抗効果膜10は、下地層12、ピニング層13、ピン層14、下部金属層15、電流狭窄層16(絶縁層161、電流パス162)、上部金属層17、フリー層18、キャップ層19が順に積層されて構成される。この内、下部金属層15、電流狭窄層16、および上部金属層17がスペーサ層を構成し、ピン層14、下部金属層15、電流狭窄層16、および上部金属層17、およびフリー層18が、2つの強磁性層の間に非磁性のスペーサ層を挟んでなる磁気抵抗効果を発現する基本膜構成、即ち、スピン依存散乱ユニット(スピンバルブ膜)に対応する。なお、見やすさのために、電流狭窄層16はその上下層(下部金属層15および上部金属層17)から切り離した状態で表している。
以下、磁気抵抗効果素子の構成要素を説明する。
<電極>
下電極11は、スピンバルブ膜の垂直方向に通電するための電極である。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、スピンバルブ膜内部を膜面垂直方向に沿って電流が流れるようになる。この電流によって、磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することで、磁気の検知が可能となる。下電極11には、電流を磁気抵抗効果素子に通電するために、電気抵抗が比較的小さい金属層が用いられる。
上電極20は、下電極同様に、スピンバルブ膜の垂直方向に通電するための電極である。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、スピンバルブ膜内部にその膜の垂直方向の電流が流れる。上電極20には、電気的に低抵抗な材料(例えば、Cu、Au)が用いられる。
<下地層>
下地層12は、例えば、バッファ層12a、シード層12bに区分することができる。
バッファ層12aは下電極11表面の荒れを緩和したりするための層である。シード層12bは、その上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するための層である。
バッファ層12aとしては、Ta、Ti、V、W、Zr、Hf、Crまたはこれらの合金を用いることができる。バッファ層12aの膜厚は1〜10nm程度が好ましく、2〜5nm程度がより好ましい。バッファ層12aの厚さが薄すぎるとバッファ効果が失われる。一方、バッファ層12aの厚さが厚すぎるとMR変化率に寄与しない直列抵抗を増大させることになる。なお、バッファ層12a上に成膜されるシード層12bがバッファ効果を有する場合には、バッファ層12aを必ずしも設ける必要はない。好ましい一例として、Ta[3nm]を用いることができる。
シード層12bは、その上に成膜される層の結晶配向を制御できる材料であればよい。
シード層12bとして、fcc構造(face-centered cubic structure:面心立方格子構造)またはhcp構造(hexagonal close-packed structure:六方最密格子構造)やbcc構造(body-centered cubic structure:体心立方格子構造)を有する金属層などが好ましい。
例えば、シード層12bとして、hcp構造を有するRuや、fcc構造を有するNiFeを用いることにより、その上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。また、ピニング層13がIrMnの場合には良好なfcc(111)配向が実現され、ピニング層13がPtMnの場合に規則化したfct(111)構造(face-centered tetragonal structure:面心正方構造)が得られる。また、磁性層としてfcc金属を用いたときには良好なfcc(111)配向を実現でき、磁性層としてbcc金属を用いたときには、良好なbcc(110)配向とすることができる。
結晶配向を向上させるシード層12bとしての機能を十分発揮するために、シード層12bの膜厚としては、1〜5nmが好ましく、より好ましくは、1.5〜3nmが好ましい。好ましい一例として、Ru[2nm]を用いることができる。
スピンバルブ膜やピニング層13の結晶配向性は、X線回折により測定できる。スピンバルブ膜のfcc(111)ピーク、ピニング層13(PtMn)のfct(111)ピークまたはbcc(110)ピークでのロッキングカーブの半値幅を3.5〜6度として、良好な配向性を得ることができる。なお、この配向の分散角は断面TEMを用いた回折スポットからも判別することができる。
シード層12bとして、Ruの代わりに、NiFeベースの合金(例えば、NixFe100−x(x=90〜50%、好ましくは75〜85%)や、NiFeに第3元素Xを添加して非磁性にした(NixFe100−x)100−yXy(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))を用いることもできる。NiFeベースのシード層12bでは、良好な結晶配向性を得るのが比較的容易であり、上記と同様に測定したロッキングカーブの半値幅を3〜5度とすることができる。
シード層12bには、結晶配向を向上させる機能だけでなく、スピンバルブ膜の結晶粒径を制御する機能もある。具体的には、スピンバルブ膜の結晶粒径を5〜20nmに制御することができ、磁気抵抗効果素子のサイズが小さくなっても、特性のばらつきを招くことなく高いMR変化率を実現できる。
スピンバルブ膜の結晶粒径は、シード層12bとスペーサ層16との間に配置された層の結晶粒の粒径によって判別できる(例えば、断面TEMなどによって決定できる)。例えば、ピン層14がスペーサ層16よりも下層に位置するボトム型スピンバルブ膜の場合には、シード層12bの上に形成される、ピニング層13(反強磁性層)や、ピン層14(磁化固着層)の結晶粒径によって判別することができる。
高密度記録に対応した再生ヘッドでは、素子サイズは確実に100nm以下の微細なサイズとなる。素子サイズに対する結晶粒径の比が大きいことは、素子の特性がばらつく原因となる為、スピンバルブ膜の結晶粒径が20nmよりも大きいことは好ましくない。
素子面積あたりの結晶粒の数が少なくなると、結晶数が少ないことに起因した特性のばらつきの原因となりうるため、結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。特に電流パスを形成しているCCP−CPP素子では結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。
一方、結晶粒径が大きいほうが結晶粒界による電子乱反射、非弾性散乱サイトが少なくなる。このため、大きなMR変化率を実現するためには、結晶粒径が大きいことが好ましく、少なくとも5nm以上であることが必要となる。このように、MR変化率の観点と素子ごとのばらつきをなくす観点それぞれでの結晶粒径への要求事項は、互いに矛盾し、トレードオフの関係にある。このトレードオフ関係を考慮した結晶粒径の好ましい範囲が、5〜20nmである。
上述した5〜20nmの結晶粒径を得るためには、シード層12bとして、Ruや、(NixFe100−x)100−yXy(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))層の場合には、第3元素Xの組成yを0〜30%程度とすることが好ましい(yが0%の場合も含む)。
前述のように、シード層12bの膜厚は1nm〜5nm程度が好ましく、1.5〜3nmがより好ましい。シード層12bの厚さが薄すぎると結晶配向制御などの効果が失われる。一方、シード層12bの厚さが厚すぎると、直列抵抗の増大を招き、さらにスピンバルブ膜の界面の凹凸の原因となることがある。
なお、微細な結晶粒径での良好なシード層12bを実現できるならば、シード層12bにここで挙げた材料以外を用いても構わない。
<ピニング層>
ピニング層13は、その上に成膜されるピン層14となる強磁性層に一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固着する機能を有する。ピニング層13の材料としては、PtMn、PdPtMn、IrMn、RuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。この内、高記録密度対応のヘッドの材料として、IrMnが有利である。IrMnは、PtMnよりも薄い膜厚で一方向異方性を印加することができ、高密度記録の為に必要な狭ギャップ化に適している。
十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層13の膜厚を適切に設定する。ピニング層13の材料がPtMnやPdPtMnの場合には、膜厚として、8〜20nm程度が好ましく、10〜15nmがより好ましい。ピニング層13の材料がIrMnの場合には、PtMnなどより薄い膜厚でも一方向異方性を付与可能であり、4〜18nmが好ましく、5〜15nmがより好ましい。好ましい一例として、IrMn[7nm]を用いることができる。
ピニング層13として、反強磁性層の代わりに、ハード磁性層も用いることができる。
ハード磁性層として、例えば、CoPt(Co=50〜85%)、(CoxPt100−x)100−yCry(x=50〜85%、y=0〜40%)、FePt(Pt=40〜60%)を用いることができる。ハード磁性層(特に、CoPt)は比抵抗が比較的小さいため、直列抵抗および面積抵抗RAの増大を抑制できる。
<ピン層:磁化固着層>
ピン層14は、下部ピン層141(例えば、Co90Fe10 3.5nm)、磁気結合層142(例えば、Ru)、および上部ピン層143(例えば、Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm])からなるシンセティックピン層とすることが好ましい一例である。ピニング層13(例えば、IrMn)とその直上の下部ピン層141は一方向異方性(unidirectional anisotropy)をもつように交換磁気結合している。磁気結合層142の上下の下部ピン層141および上部ピン層143は、磁化の向きが互いに反平行になるように強く磁気結合している。
下部ピン層141の材料として、例えば、CoxFe100−x合金(x=0〜100%)、NixFe100−x合金(x=0〜100%)、またはこれらに非磁性元素を添加したものを用いることができる。また、下部ピン層141の材料として、Co、Fe、Niの単元素やこれらの合金を用いても良い。
下部ピン層141の磁気膜厚(飽和磁化Bs×膜厚t(Bs・t積))が、上部ピン層143の磁気膜厚とほぼ等しいことが好ましい。つまり、上部ピン層143の磁気膜厚と下部ピン層141の磁気膜厚とが対応することが好ましい。一例として、上部ピン層143が(Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]の場合、薄膜でのFe50Co50の飽和磁化が約2.2Tであるため、磁気膜厚は2.2T×3nm=6.6Tnmとなる。Co90Fe10の飽和磁化が約1.8Tなので、上記と等しい磁気膜厚を与える下部ピン層141の膜厚tは6.6Tnm/1.8T=3.66nmとなる。したがって、膜厚が約3.6nmのCo90Fe10を用いることが望ましい。また、Co75Fe25を用いる場合は、同様の計算から、膜厚が約3.3nmとすることが望ましい。
下部ピン層141に用いられる磁性層の膜厚は2〜5nm程度が好ましい。ピニング層13(例えば、IrMn)による一方向異方性磁界強度および磁気結合層142(例えば、Ru)を介した下部ピン層141と上部ピン層143との反強磁性結合磁界強度の観点に基づく。下部ピン層141が薄すぎると、MR変化率に影響を与える上部ピン層143も薄くしなければならなくなるため、MR変化率が小さくなる。一方、下部ピン層141が厚すぎるとデバイス動作に必要な十分な一方向性異方性磁界を得ることが困難になる。
好ましい一例として、膜厚3.3nmのCo75Fe25が挙げられる。
磁気結合層142(例えば、Ru)は、上下の磁性層(下部ピン層141および上部ピン層143)に反強磁性結合を生じさせてシンセティックピン構造を形成する機能を有する。磁気結合層142としてのRu層の膜厚は0.8〜1nmであることが好ましい。なお、上下の磁性層に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、Ru以外の材料を用いてもよい。RKKY(Ruderman-Kittel- Kasuya-Yosida)結合の2ndピークに対応する膜厚0.8〜1nmの換わりに、RKKY結合の1stピークに対応する膜厚0.3〜0.6nmを用いることもできる。ここでは、より高信頼性の結合を安定して特性が得られる、0.9nmのRuが一例として挙げられる。
前述のように、上部ピン層143の一例として、(Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]のような磁性層を用いることができる。上部ピン層143は、スピン依存散乱ユニットの一部をなす。上部ピン層143は、MR効果に直接的に寄与する磁性層であり、大きなMR変化率を得るために、この構成材料、膜厚の双方が重要である。特に、スペーサ層16との界面に位置する磁性材料は、スピン依存界面散乱に寄与する点で特に重要である。
上部ピン層143としてここで用いた、bcc構造をもつFe50Co50を用いる効果について述べる。上部ピン層143として、bcc構造をもつ磁性材料を用いた場合、スピン依存界面散乱効果が大きいため、大きなMR変化率を実現することができる。bcc構造をもつFeCo系合金として、FexCo100−x(x=30〜100%)や、FexCo100−xに添加元素を加えたものが挙げられる。そのなかでも、諸特性をすべて満たしたFe40Co60〜Fe80Co20が使いやすい材料の一例である。
上部ピン層143が、高MR変化率を実現しやすいbcc構造をもつ磁性層から形成されている場合には、この磁性層の全膜厚が1.5nm以上であることが好ましい。bcc構造を安定に保つためである。スピンバルブ膜に用いられる金属材料は、fcc構造またはfct構造であることが多いため、上部ピン層143のみがbcc構造を有することがあり得る。このため、上部ピン層143の膜厚が薄すぎると、bcc構造を安定に保つことが困難になり、高いMR変化率が得られなくなる。
ここでは、上部ピン層143として、極薄Cu積層を含むFe50Co50を用いている。ここで、上部ピン層143は、全膜厚が3nmのFeCoと、1nmのFeCo毎に積層された0.25nmのCuとからなり、トータル膜厚3.5nmである。
上部ピン層143の膜厚は、厚いほうが大きなMR変化率が得やすいが、大きなピン固着磁界を得るためには薄いほうが好ましく、トレードオフの関係が存在する。例えば、bcc構造をもつFeCo合金層を用いたときには、bcc構造を安定にする必要があるため、1.5nm以上の膜厚が好ましい。また、fcc構造のCoFe合金層を用いるときにも、大きなMR変化率を得るため、やはり1.5nm以上の膜厚が好ましい。一方、大きなピン固着磁界を得るためには、上部ピン層143の膜厚が最大でも、5nm以下であることが好ましく、4nm以下であることがより好ましい。以上のように、上部ピン層143の膜厚は、1.5nm〜5nmが好ましく、2.0nm〜4nm程度がより好ましい。
上部ピン層143には、bcc構造をもつ磁性材料の代わりに、従来の磁気抵抗効果素子で広く用いられているfcc構造を有するCo90Fe10合金や、hcp構造をもつCoや、コバルト合金を用いることができる。上部ピン層143として、Co、Fe、Niなどの単体金属、またはこれらのいずれか一つの元素を含む合金材料はすべて用いることができる。上部ピン層143の磁性材料として、大きなMR変化率を得るのに有利なものから並べると、bcc構造をもつFeCo合金材料、50%以上のコバルト組成をもつコバルト合金、50%以上のNi組成をもつニッケル合金の順になる。
また、上部ピン層143として、Co2MnGe、Co2MnSi、Co2MnAlなどのホイスラー磁性合金層を用いることも可能である。
ここでの一例として挙げたものは、上部ピン層143として、磁性層(FeCo層)と非磁性層(極薄Cu層)とを交互に積層したものを用いている。このような非磁性元素材料との積層構造を有する上部ピン層143では、極薄Cu層によって、スピン依存バルク散乱効果と呼ばれるスピン依存散乱効果を向上させることができる。
「スピン依存バルク散乱効果」は、スピン依存界面散乱効果と対の言葉として用いられる。スピン依存バルク散乱効果とは、磁性層内部でMR効果を発現する現象である。スピン依存界面散乱効果は、スペーサ層と磁性層の界面でMR効果を発現する現象である。
以下、磁性層と非磁性層の積層構造によるバルク散乱効果の向上につき説明する。
CCP−CPP素子においては、スペーサ層16の近傍で電流が狭窄されるため、スペーサ層16の界面近傍での抵抗の寄与が非常に大きい。つまり、スペーサ層16と磁性層(ピン層14、フリー層18)の界面での抵抗が、磁気抵抗効果素子全体の抵抗に占める割合が大きい。このことは、スピン依存界面散乱効果の寄与がCCP−CPP素子では非常に大きく、重要であることを示している。つまり、スペーサ層16の界面に位置する磁性材料の選択が従来のCPP素子の場合と比較して、非常に重要な意味をもつ。これが、上部ピン層143として、スピン依存界面散乱効果が大きいbcc構造をもつFeCo合金層を用いた理由であり、前述したとおりである。
しかしながら、スピン依存バルク散乱効果の大きい材料を用いることも無視できず、より高MR変化率を得るためにはやはり重要である。スピン依存バルク散乱効果を得るための極薄Cu層の膜厚は、0.1nm〜1nmが好ましく、0.2nm〜0.5nmがより好ましい。Cu層の膜厚が薄すぎると、スピン依存バルク散乱効果を向上させる効果が弱くなる。Cu層の膜厚が厚すぎると、スピン依存バルク散乱効果が減少することがあるうえに、非磁性のCu層を介した上下磁性層の磁気結合が弱くなり、ピン層14の特性が不十分となる。そこで、好ましい一例として挙げたものでは、0.4nmのCuを用いた。
磁性層間の非磁性層の材料として、Cuの換わりに、Hf、Zr、Tiなどを用いてもよい。一方、これら極薄の非磁性層を挿入した場合、FeCoなど磁性層の一層あたりの膜厚は0.5nm〜2nmが好ましく、1nm〜1.5nm程度がより好ましい。
上部ピン層143として、FeCo層とCu層との交互積層構造に換えて、FeCoとCuを合金化した層を用いてもよい。このようなFeCoCu合金として、例えば、(FexCo100−x)100−yCuy(x=30〜100%、y=3〜15%程度)が挙げられるが、これ以外の組成範囲を用いてもよい。ここで、FeCoに添加する元素として、Cuの代わりに、Hf、Zr、Tiなど他の元素を用いてもよい。
上部ピン層143には、Co、Fe、Niや、これらの合金材料からなる単層膜を用いてもよい。例えば、最も単純な構造の上部ピン層143として、従来から広く用いられている、2〜4nmのCo90Fe10単層を用いてもよい。この材料に他の元素を添加してもよい。
本実施形態では、図1に示すように、下部ピン層141及び上部ピン層143に、Si、Mg、B、Alを含む機能層21を挿入(形成)する。この機能層は、例えば特許文献1及び2などに示したCuなどから構成される非磁性の挿入層によるスピン依存バルク散乱効果の向上とは異なる機能を有している。機能層21は本実施例に示すようなCCP−CPP素子のCCP−GMR膜に挿入した場合のみ大きなMR変化率の向上を図ることができる。機能層21の詳細については後述する。
なお、機能層21は、下部ピン層141及び上部ピン層143の内部に形成するようにしているが、双方に必ずしも形成することを要求するものではなく、いずれか一方に形成することもできる。また、下部ピン層141及び上部ピン層143の内部に形成することなく、その表面部分、例えば上部ピン層143と以下に説明するスペーサ層の下部金属層15との間に形成するようにすることもできる。さらに、機能層21は、ピン層に形成することなく、以下に説明するように、フリー層及び/又はキャップ層のみに形成するようにすることもできる。
<スペーサ層>
下部金属層15は、電流パス162の形成に用いられ、電流パス162の供給源である。下部金属層15は、その上部の絶縁層161を形成するときに、下部に位置する上部ピン層143の酸化を抑制するストッパ層としての機能も有する。
電流パス162の構成材料がCuの場合には、下部金属層15の構成材料も同一(Cu)であることが好ましい。電流パス162の構成材料を磁性材料とする場合には、この磁性材料はピン層14の磁性材料と同一、別種のいずれでも構わない。電流パス162の構成材料として、Cu以外に、Au、Agなどを用いても良い。
電流狭窄層16は、絶縁層161、電流パス162を有する。絶縁層161は、酸化物、窒化物、酸窒化物等から構成される。スペーサ層としての機能を発揮するために、絶縁層161の厚さは、1nm〜3nmが好ましく、1.5nm〜2.5nmの範囲がより好ましい。
電流パス162は、電流狭窄層16の膜面垂直に電流を流すパス(経路)であり、電流を狭窄するためのものである。絶縁層161の膜面垂直方向に電流を通過させる導電体として機能し、例えば、Cu等の金属層から構成できる。即ち、電流狭窄層16では、電流狭窄構造(CCP構造)を有し、電流狭窄効果によりMR変化率を増大可能である。電流パス162(CCP)を形成する材料は、Cu以外には、Au、Agや、Ni、Co、Fe、もしくはこれらの元素を少なくとも一つは含む合金層を挙げることができる。一例として、電流パス162を、Cuを含む合金層で形成することができる。CuNi、CuCo、CuFeなどの合金層も用いることができる。ここで、50%以上のCuを有する組成とすることが、高MR変化率と、ピン層14とフリー層18の層間結合磁界(interlayer coupling field、 Hin)を小さくするためには好ましい。
電流パス162は絶縁層161と比べて著しく酸素、窒素の含有量が少ない領域であり(少なくとも2倍以上の酸素や窒素の含有量の差がある)、結晶相である。結晶相は非結晶相よりも抵抗が小さいため、電流パス162として機能しやすい。
上部金属層17は、電流狭窄層16を構成する酸素・窒素がフリー層18中に拡散することを抑制するためのバリア層、およびフリー層18の良好な結晶成長を促進するためのシード層として機能する。具体的には、上部金属層17は、その上に成膜されるフリー層18が電流狭窄層16の酸化物・窒化物・酸窒化物に接して酸化や窒化されないように保護する。即ち、上部金属層17は、電流パス162の酸化物層中の酸素とフリー層18との直接的な接触を制限する。また、上部金属層17は、フリー層18の結晶性を良好にし、例えば、絶縁層161の材料がアモルファス(例えば、Al2O3)の場合には、その上に成膜される金属層の結晶性が悪くなるが、結晶性を良好にする極薄のシード層(例えば、Cu層)を配置することで、フリー層18の結晶性を著しく改善することが可能となる。
上部金属層17の材料は、電流狭窄層16の電流パス162の材料(例えば、Cu)と同一であることが好ましい。上部金属層17の材料が電流パス162の材料と異なる場合には界面抵抗の増大を招くが、両者が同一の材料であれば界面抵抗の増大は生じないためである。なお、電流パス162の構成材料を磁性材料とする場合には、この磁性材料はフリー層18の磁性材料と同一、別種のいずれでも構わない。上部金属層17の構成材料として、Cu以外に、Au、Agなどを用いることができる。
<フリー層:磁化自由層>
フリー層18は、磁化方向が外部磁界によって変化する強磁性体を有する層である。例えば、界面にCoFeを挿入してNiFeを用いたCo90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]という二層構成がフリー層18の一例として挙げられる。この場合、電流狭窄層16との界面には、NiFe合金よりもCoFe合金を設けることが大きなMR変化率を実現するために好ましい。高いMR変化率を得るためには、電流狭窄層16の界面に位置するフリー層18の磁性材料の選択が重要である。なお、NiFe層を用いない場合には、Co90Fe10[4nm]単層も用いることができる。また、CoFe/NiFe/CoFeなどの三層構成からなるフリー層18を用いても構わない。また、後述するように、フリー層18の一部にCoZrNbなどのアモルファス合金層を用いても構わない。
CoFe合金のなかでも、軟磁気特性が安定であることから、Co90Fe10が好ましい。Co90Fe10近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5nm〜4nmとすることが好ましい。その他、CoxFe100−x(x=70〜90)も用いることができる好ましい組成範囲である。
また、フリー層18として、1nm〜2nmのCoFe層またはFe層と、0.1nm〜0.8nm程度の極薄Cu層とを、複数層交互に積層したものを用いてもよい。
電流狭窄層16を形成する材料のうち、電流が流れる電流パス層162がCu層から形成される場合には、ピン層14と同様に、フリー層18でも、bccのFeCo層を電流狭窄層16との界面材料として用いると、MR変化率が大きくなる。電流狭窄層16との界面材料として、fccのCoFe合金に換えて、bccのFeCo合金を用いることもできる。この場合、bcc層が形成されやすい、FexCo100−x(x=30〜100)や、これに添加元素を加えた材料を用いることができる。例えば、Co50Fe50[1nm]/Ni85Fe15[3.5nm]を用いることができる。
また、フリー層18の一部として、CoZrNbなどのアモルファス磁性層を用いても構わない。ただし、アモルファス磁性層を用いる場合でも、MR変化率に大きな影響を与えるスペーサ層16と接する界面は結晶構造を有する磁性層を用いることが必要である。
フリー層18の構造としては、スペーサ層16側からみて、次のような構成が可能である。即ち、フリー層18の構造として、(1)結晶層のみ、(2)結晶層/アモルファス層の積層、(3)結晶層/アモルファス層/結晶層の積層、などが考えられる。ここで重要なことは、(1)〜(3)いずれでもスペーサ層16との界面は必ず結晶層が接するようにしていることである。
本実施形態では、フリー層18内に、図1に示すように、Si、Mg、B、Alを含む機能層21を挿入(形成)する。この機能層は、ピン層の場合に説明したように、例えば特許文献1及び2などに示したCuなどから構成される非磁性の挿入層によるスピン依存バルク散乱効果の向上とは異なる機能を有している。機能層21は本実施例に示すようなCCP−CPP素子のCCP−GMR膜に挿入した場合のみ大きなMR変化率の向上を図ることができる。機能層21の詳細については後述する。
なお、機能層21は、フリー層18の内部に形成するようにしているが、その表面部分、例えばフリー層18と以下に説明するスペーサ層の上部金属層17との間に形成するようにすることもできる。さらに、機能層21は、フリー層に形成することなく、以下に説明するようにキャップ層のみに形成するようにすることもでき、上述したようにピン層にのみ形成するようにすることができる。
<キャップ層>
キャップ層19は、スピンバルブ膜を保護する機能を有する。キャップ層19は、例えば、複数の金属層、例えば、Cu層とRu層の2層構造(Cu[1nm]/Ru[10nm])とすることができる。また、キャップ層19として、Ruをフリー層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合、Ruの膜厚は0.5〜2nm程度が好ましい。この構成のキャップ層19は、特に、フリー層18がNiFeからなる場合に望ましい。RuはNiと非固溶な関係にあるので、フリー層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できるからである。
キャップ層19が、Cu/Ru、Ru/Cu、いずれの場合も、Cu層の膜厚は0.5〜10nm程度が好ましく、Ru層の膜厚は0.5〜5nm程度とすることができる。Ruは比抵抗値が高いため、あまり厚いRu層を用いることは好ましくないため、このような膜厚範囲にしておくことが好ましい。
キャップ層19として、Cu層やRu層の代わりに他の金属層を設けてもよい。キャップ層19の構成は特に限定されず、キャップとしてスピンバルブ膜を保護可能なものであれば、他の材料を用いてもよい。但し、キャップ層の選択によってMR変化率や長期信頼性が変わる場合があるので、注意が必要である。CuやRuはこれらの観点からも望ましいキャップ層の材料の例である。
本実施形態では、キャップ層19内に、図1に示すように、Si、Mg、B、Alを含む機能層21を挿入(形成)する。この機能層は、ピン層の場合に説明したように、例えば特許文献1及び2などに示したCuなどから構成される非磁性の挿入層によるスピン依存バルク散乱効果の向上とは異なる機能を有している。機能層21は本実施例に示すようなCCP−CPP素子のCCP−GMR膜に挿入した場合のみ大きなMR変化率の向上を図ることができる。機能層21の詳細については後述する。
なお、機能層21は、キャップ層19の内部に形成するようにしているが、その表面部分、例えばフリー層18とキャップ層17との間に形成するようにすることもできる。さらに、機能層21は、キャップ層に形成することなく、上述したようにピン層及び/又はフリー層にのみ形成するようにすることができる。
本実施形態では、上述した下部ピン層141、上部ピン層143、フリー層18、及びキャップ層19の少なくとも一層に、Si、Mg、B、Alを含む機能層21を挿入することにより、図1に示す構成の磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)のMR変化率を増大させることができる。なお、上述したように、特許文献1及び2などに開示された技術は、上記機能層に類似した挿入層の形成によってスピン依存バルク散乱を向上させ、その結果、MR変化率を増大させているが、本実施形態(本発明)の機能層は、以下に説明するように、従来のようなスピン依存バルク散乱によってMR変化率が増大するものではない。
(機能層の詳細)
本発明者らは、図1に示す磁気抵抗効果素子の下部ピン層141、上部ピン層143、フリー層18、またはキャップ層19の少なくとも一層に、Siからなる機能層を挿入することにより、MR変化率が向上することを発見した。下記にMR変化率の向上を確認した磁気抵抗効果膜の膜構成を示す。Si機能層の挿入をしていない、CCP−GMR膜の膜構成を示す。
・下電極11
・下地層12:Ta[5nm]/Ru[2nm]
・ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
・ピン層14:Co75Fe25[3.3nm]/Ru[0.9nm]/(Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]
・金属層15:Cu[0.6nm]
・電流狭窄層16:Al2O3の絶縁層161およびCuの電流パス162
・金属層17:Cu[0.25nm]
・金属層17:Cu[0.4nm]
・フリー層18:Fe40Co60[2nm]/Si[0.25nm]/Ni83Fe17[3.5nm]
・キャップ層19:Cu[1nm]/Ta[2nm]/Ru[15nm]
・上電極20
上記の膜構成のCCP−GMR膜のMR変化率は11%であった。上記のCCP−GMR膜のフリー層18にSi機能層を挿入していないFe40Co60[2nm]/Ni83Fe17[3.5nm]を用いた場合のMR変化率は9.5%である。上記の結果より、CCP−GMR膜のフリー層18にSi層を挿入することにより、1.5%のMR変化率の向上を確認することができた。
上記の膜構成において、フリー層18へのSi挿入によりMR変化率の向上を確認したが、キャップ層19、ピン層14にSiを挿入しても同様にMR変化率の向上を確認した。それらの結果の詳細は実施例に示す。
以下、本実施形態の磁気抵抗効果膜の構造がMRに優れる理由について詳細に説明する。ただし、現時点では、MRが向上したメカニズムは完全に把握しきれていない部分もある。
A.機能層挿入によるMR向上および信頼性向上メカニズム考察
機能層挿入によるMR向上および信頼性向上の原因として、余剰酸素の捕獲効果が考えられる。図2(a)に機能層を挿入していない、従来のCCP−GMR膜の断面図を示す。図2の膜構成では、絶縁層161としてAl2O3を用いているため、Al2O3形成時に発生する余剰酸素が隣接する、ピン層14、およびフリー層18に拡散してしまう。
このような電流狭窄層16からピン層14およびフリー層18への余剰酸素の拡散は、ピン層およびフリー層に用いられている磁性材料Co、Fe、Niの酸化を引き起こす。
酸化によって生成されたCoO、FeO、NiOがピン層14およびフリー層18の内部に存在すると、スピン依存バルク散乱の低下を招く。また、CoO、FeO、NiOがピン層14と下部金属層15との界面、または上部金属層17とフリー層18との界面に存在すると、スピン依存界面散乱の低下を招く。これらの現象は、ともにMRの低下を招いてしまう。従来のCCP−GMR膜は、上記のような理由で、GMR効果のフルポテンシャルを発揮できておらず、今後さらに高い記録密度の磁気記録装置用の磁気ヘッドに搭載するためには、絶縁層162からの余剰酸素の拡散を防ぐことが有効な手段である。
図2(b)には、図2(a)に示したCCP-GMR膜に機能層を挿入した場合の断面図を示す。図2(b)では、上部ピン層143中に機能層21としてSiを、フリー層18中に機能層21としてSiを挿入している。表1にさまざまな元素の酸化物生成エネルギーの一覧を示す。表1において、酸化物生成エネルギーが低いほど、酸化されやすい元素である。表1より、Siはピン層14、およびフリー層18に用いられているCo、Fe、Niよりも酸化されやすい。そのため、フリー層、ピン層の酸素は、挿入されたSiに集まり、Co、Fe、Niの還元、およびSiの酸化が引き起こされる。Siからなる元素を機能層として、上部ピン層143、およびフリー層18に挿入することで、CoO、FeO、NiOの形成を抑制することができ、スピン依存バルク散乱、スピン依存界面散乱の低下を抑制できる。結果として、GMR効果のフルポテンシャルを発揮することにより高いMR変化率を得ることができる。
ここで、機能層に用いる元素は適切に選択しなくては、上記のMR変化率の向上効果を得ることができない。表1に示すようにSi以外にも、Co、Fe、Niよりも酸化されやすい元素は多数存在する。例えば、TaやHfなど原子番号の大きい元素をピン層、フリー層中に挿入した場合でも、上述したSi元素と同様に余剰酸素を捕獲する機能を発揮すると考えられる。しかし、TaやHfなど原子番号の大きい元素を機能層として用いた場合、スピン分極した伝導電子が、原子番号の大きいTa、Hf層を通過するときにスピン軌道相互作用により、スピンに依存しない散乱を引き起こしてしまう。つまり、Ta、Hf層の余剰酸素捕獲によりCo、Ni、Feなどの磁性元素がGMR効果のフルポテンシャルを発揮できる状態となっても、伝導電子がTa、Hf層においてスピン分極を失ってしまい、スピン分極した伝導電子が磁性元素に効率よく届かず、結果としてGMR効果を阻害してしまい、MR変化率の低下を招く。
一方、本発明でMRの向上を確認したSiは比較的原子番号の小さい元素であるため、スピンに依存しない電子の散乱はTaやHfほど顕著には起こらず、GMR効果を阻害することがない。すなわち、スピンに依存しない電子の散乱というデメリットは引き起こさずに、余剰酸素の捕獲効果というメリットのみ享受できるため、CCP−GMR膜のMR変化率の向上を起こせる。上記の理由から、Si以外にも比較的原子番号の小さい元素であり、かつCo、Fe、Niよりも酸化されやすい元素として、Mg、B、Alが挙げられる。これらの元素も、Siと同様に余剰酸素の捕獲によるCCP−GMR膜のMR変化率の向上を期待できる。
機能層の挿入によるMR変化率の向上には、挿入層による余剰酸素捕獲効果に加えて、拡散防止の効果も影響している可能性がある。ピニング膜13に含まれるMnや上部フリー層に含まれるNiが、電流狭窄層の近傍に拡散してくると、電流パスの比抵抗の増大、およびスピン依存界面散乱の低下を招く。これらの現象はともにMR変化率の低下を招いてしまう。例えば、図1の磁気抵抗効果膜において、上部ピン層143にSiからなる機能層を挿入することにより、ピニング層13に含まれるMnの電流狭窄層16近傍への拡散を抑制して、機能層の挿入によるMR変化率が向上していることが考えられる。また、例えば図1の磁気抵抗効果膜において、フリー層18として、Fe40Co60[2nm]/Ni83Fe17[35nm]を用いた場合、Fe40Co60[2nm]とNi83Fe17[35nm]との間に機能層としてSi[0.25nm]を設けた場合、フリー層18のNiの電流狭窄層16への拡散を抑制して、MR変化率の向上していることが考えられる。
しかしながら、後の実施例にも示すが、キャップ層19に機能層としてSiを挿入した場合でも、MR変化率の向上効果を確認できている。この場合の機能層は、ピニング層と電流狭窄層との間、またフリー層内部のNi含有層と電流狭窄層との間に配置されてはいないため、Mn、Niの拡散防止層の役割は果たしていない。この結果から、上述したMn、Niの拡散防止効果は、本発明の機能層挿入によるMR変化率向上の少なくとも主原因ではないと考えられる。
機能層の挿入によるMR変化率の向上のメカニズムのもうひとつとして、フリー層18のbcc構造安定化が考えられる。
フリー層18のスペーサ層界面側にbcc構造をもつ磁性材料を用いた場合、スピン依存界面散乱効果が大きいため、大きなMR変化率を実現することができる。しかし、フリー層18を、bcc構造を有する例えばFe50Co50の単層を用いると、軟磁気特性の観点から好ましくなく、実用上、Fe50Co50[2nm]/Ni90Fe10[3.5nm]のように、軟磁気特性に優れたNiFe合金との積層構造とすることが望ましい。しかし、このような積層構造にした場合、Fe50Co50層が1nmと薄いために、Fe50Co50の上部に設けられたNiFe合金のfcc構造に影響を受けて、Fe50Co50層のbcc構造が不安定となる。ここで、Fe50Co50[2nm]/Si[0.25nm]/Ni90Fe10[3.5nm]のようにbcc構造のFe50Co50とfcc構造のNiFe合金との間にSi層を挿入することにより、Fe50Co50とNiFe合金との格子整合を断ち切って、Fe50Co50層のbcc構造を安定化することが考えられる。
しかしながら、上述したように、キャップ層19にSi層を挿入した場合でもMR向上効果を確認できているため、上述したbcc構造安定化は少なくとも主原因ではないと考えられる。
上述したように、本発明で確認した機能層挿入によるMR変化率向上効果はCCP−NOLからの余剰酸素の捕獲が原因である可能性が高い。ただし、フリー層18にFe50Co50[2nm]/Si[0.25nm]/Ni90Fe10[3.5nm]となるようにSi機能層を挿入した場合などは、上述したNiの拡散防止効果やFe50Co50層のbcc安定効果も余剰酸素捕獲効果に加えて機能を果たしている可能性もある。上記の理由によって、CCP−GMR膜において、機能層21の挿入によって、MR変化率の向上をはかることができる。
B.機能層の構造
本実施形態の機能層21としては、Si以外にも、Mg、B、AlなどのCo、Ni、Feよりも酸化エネルギーが低く、原子番号の低い元素も用いることができる。機能層21として、非磁性材料であるSi、Mg、B、Alを挿入することで、ピン層14、またはフリー層18内(即ち、機能層21を介した上下の磁性層間)での磁気結合が分断される可能性がある。機能層21を介した磁気結合を十分大きな値として保つためには、機能層21の膜厚として、0.05nm〜1nm、さらに好ましくは0.1nm〜0.7nmが望ましい。
一方、機能層21をキャップ層19に用いる場合、磁気結合の分断などの問題は考えなくともよいため、ピン層14およびフリー層18内に用いる場合よりも、厚い膜厚まで用いることができる。ただし、厚すぎると、直列抵抗の増大を招くため、0.05nm〜3nm、さらに好ましくは0.1nm〜1nmが望ましい。
機能層21をピン層14およびフリー層18内に用いる場合、磁性元素Co、Ni、FeとSi、Mg、B、Alとの混合層を用いてもよい。例えば、Fe50Co50[2nm]/Ni90Fe10[3.5nm]なる構成のフリー層18に機能層を挿入する場合、Fe50Co50にSiを添加した合金層やNi90Fe10にSiを添加した合金層を機能層として挿入することができる。ここで、磁性元素との混合層を機能層とすることは、Si単層の機能層に比べてSi原子が膜厚方向に広がってしまうために、余剰酸素を局所的に捕獲する効果はSi単層に比べて弱まる。ただし、上記のように、Si単層よりも余剰酸素を一箇所に捕獲する能力が低くとも、機能層を挿入しない場合よりはMR変化率の向上を引き起こせる。また、磁性元素との混合層を機能層として用いた場合、Si単層で用いた場合よりも、機能層を介した上下の磁性層の磁気結合がとりやすいというメリットもあるため、Co、Ni、FeとSi、Mg、B、Alとの混合層を用いても良い。
ここで、ピン層14を構成する磁性層、およびフリー層18を構成する磁性層全体に添加した場合を考えてみると、例えば、フリー層18として用いる、FeCo/NiFeのような積層磁性層に、Siを全体的に添加すると、FeCoSi/NiFeSiのフリー層18となる。この場合では、余剰酸素を捕獲するSiがフリー層18の全体に存在するため、機能層として挿入した場合の一箇所に酸素を集める効果がなくなってしまう。つまり、本実施形態(本発明)のSiの挿入は、あくまで機能層として挿入することに意味があり、磁性層全体への添加元素として用いても本発明の効果を得ることができない。
機能層21の配置する位置としては、スペーサ層からあまり離れた位置に配置することは望ましくない。この理由は、スペーサ層からあまり離れた位置に配置すると、ピン層14、およびフリー層18のスペーサ層に近い部分の余剰酸素を捕獲することができず、電流狭窄が行われる電流狭窄層16の近傍の最もMRに寄与のある磁性層に余剰酸素が残ってしまうためである。機能層21を挿入する位置としては、ピン層14に挿入する場合は、ピン層14とスペーサ層との界面から膜面に対してピン層14の方向に10nm以内の領域、また、フリー層18、キャップ層19に挿入する場合は、スペーサ層とフリー層18の界面から膜面に対してフリー層18の方向に10nm以内の領域に配置することが望ましい。
機能層21は、ピン層14、フリー層18、キャップ層19といった層に複数層挿入しても構わない。このような場合には、例えば、フリー層18に複数層挿入する場合、Fe50Co50[1nm]/機能層第一層Si[0.25nm]/Ni90Fe10[1.5nm]/機能層第二層Si[0.25nm]/Ni90Fe10[1.0nm]/機能層第三層Si[0.25nm]/Ni90Fe10[1.0nm]のようにすることができる。これら第1層と第2層、もしくは第2層と第3層との間の距離は、1nmから2nm程度が望ましい範囲である。
機能層21を複数層用いるメリットとして、機能層の余剰酸素の捕獲効果を増強する点がある。機能層21を複数層挿入するのは、ピン層14の場合でも良いし、フリー層18、キャップ層19の場合でも良い。また、ピン層14、フリー層18の両方に複数層挿入してもよい。
複数層の機能層21を用いるデメリットとして、機能層21を介した磁性層間の磁気結合が弱まることで、磁気特性が悪くなる可能性がある。磁気特性の劣化を防止するためには、ピン層14、およびフリー層18内での機能層21の膜厚の総量が一層の場合と同等の膜厚範囲であることが好ましい。また、一つの磁性層内での複数の機能層21間の距離としては、上述したように、1〜2nmが好ましい範囲となる。
機能層21挿入によるMRの増大量は磁性層の材料によって異なり、Fe組成が高いときに大きい。例えば、以下の膜構成の場合、
・下電極11
・下地層12:Ta[5nm]/Ru[2nm]
・ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
・ピン層14:Co75Fe25[3.3nm]/Ru[0.9nm]/(Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]
・下部金属層15:Cu[0.6nm]
・電流狭窄層16:Al2O3の絶縁層161およびCuの電流パス162
・上部金属層17:Cu[0.4nm]
・フリー層18:後述
・キャップ層19:Cu[1nm]/Ta[2nm]/Ru[15nm]
・上電極20
フリー層18の構成がFe−Co[2nm]/Si[0.25nm]/Ni83Fe17[3.5nm](機能層21有)と、Fe−Co[2nm]/Ni83Fe17[3.5nm](機能層21無)とにおいて、フリー層18中のスペーサ層との界面におけるFe−Co合金の組成とSi挿入とによるMRの増大量を比較すると、Fe組成が10[at.%]で0.5%向上、Fe組成が40[at.%]で1.5%向上、Fe組成が50[at.%]で2.2%向上となった。
この結果から、フリー層18のスペーサ層界面側に配置されたFe−Co合金のFe組成が大きい場合に、Si挿入によるMRの向上が大きいことがわかる。したがって、機能層21を磁性層に挿入する場合、磁性層内部においてスペーサ層から1nm以内の領域のFe組成が10at%以上であることが、機能層21挿入によるMR向上効果を得る上で望ましく、40at%以上であることがさらに望ましい。
Fe組成の高い磁性層において、機能層21挿入によるMR増大量が大きい原因として、磁性元素の酸化エネルギーの違いが考えられる。Co、Fe、Niの中でもFeは最も酸化エネルギーが低く酸化しやすい。ピン層14やフリー層18には、Fe組成の高い磁性材料を用いている場合は、CCP−NOLからの余剰酸素による酸化が起こりやすく、余剰酸素のない場合のGMR効果のフルポテンシャルに対する余剰酸素の影響をうけたMRの劣化量が大きい。このような余剰酸素によるMR劣化量の大きかった磁性層では、Si挿入による余剰酸素の捕獲効果によるMRの回復量も大きいため、Si挿入によるMR増大量が大きい。Co、Fe、Niの中では、Fe、Ni、Coの順で酸化エネルギーが高くなっていくため、機能層21によるMR増大量もFe含有量の大きい磁性層が最も高く、次にNi、Coの順となる。
上記のような機能層が挿入された磁気抵抗効果膜10の構造は、3次元アトムプローブにより確認することができる。3次元アトムプローブとしては、例えばImago Scientific Instruments社のLocal Electrode Atom Probeを用いることができる。
3次元アトムプローブ顕微鏡は、材料の原子オーダーでの組成情報を3次元でマッピング可能な測定手法である。具体的には、先端の曲率半径30〜100nm、高さ100μm程度のニードル状のポストに加工された測定対象サンプルに高電圧を印加する。そして、測定対象サンプルの先端から電解蒸発された原子の位置を2次元ディテクターで検知する。2次元ディテクターで検知された(x、 y)2次元平面内での原子の位置情報の時間経過(時間軸)を追うことで、z方向の深さ情報を得て(x、y、z)3次元の構造が観察可能となる。
なお、Imago Scientific Instruments社の装置のほかに、Oxford Instruments社やCameca社、もしくは同等の機能を有する3次元アトムプローブを用いても分析することが可能である。また、一般には電圧パルスを印加して電解蒸発を生じさせるが、電圧パルスの換わりにレーザーパルスを用いても良い。どちらの場合にも、バイアス電界を付加するためにDC電圧を用いる。電圧パルスの場合、電圧によって、電界蒸発に必要な電界を引火する。レーザーパルスの場合、局所的に温度を上昇させ、電界蒸発を起こりやすい状態にすることで、電界蒸発を生じさせる。
また、上記のような機能層が挿入された磁気抵抗効果膜10の構造は、断面TEM像において、局所的にEDXによる元素分析をすることによっても、特定することが出来る。
なお、本実施形態では、図1には、ボトム型のCCP−GMR膜を示しているが、トップ型のCCP−GMR膜を形成し、これに対して上述のような方法(形態)に従って、適宜に機能層の挿入するようにすることもできる。図3に機能層21を設けたトップ型のCCP−GMR膜の断面図を示す。トップ型の場合、ボトム側でのキャップ層19への機能層21挿入の代わりに、下地層12に機能層21挿入を用いることができる。
次に、本実施形態のCCP−CPP素子を他の参考例と対比して説明する。
C.メタルCPP-GMR膜にSiを挿入した場合との比較
メタルCPP−GMR膜において、Cuを磁性層に挿入することにより、スピン依存バルク散乱が増強し、MR変化率が向上する技術が、非特許文献1に公開されている(非特許文献1:H. Yuasa et al.、 J. Appl. Phys. 92 (5)、 2646 (2002))。また、上述した特許文献1(特開2003−133614号)及び特許文献2(特開2003−60263号)では、Cuに加えて、B、Al、Siなどで形成された挿入層がメタルCPP−GMR膜の抵抗変化量を増強するのに有効であると示してある。以下、本発明のCCP−GMR膜にSiを挿入した場合とメタルCPP−GMR膜にSiを挿入した場合との違いを説明する。
メタルCPP−GMR膜において、挿入層を用いることにより、MR変化率が向上する原因はスピンバルク散乱効果の増強である。最もスピン依存バルク散乱の増強に効果のある元素はCuであり、本発明で挙げたSiやAlやBやMgはCuに比べてその増強効果は低く、メタルCPP−GMR膜では、Cuを挿入した場合が最もMR変化率を増強できる。具体的には、メタルCPP−GMR膜にSi、B、Alを挿入した場合のMRの増大量は、メタルCPP−GMR膜にCuを挿入した場合のMRの増大量の1/4以下である。
CCP−GMR膜においても、挿入層の挿入によるバルク散乱の増強効果は有効である。実際に本実施形態においても上部ピン層143にFe50Co50[1nm]/Cu[2.5nm]/Fe50Co50[1nm]/Cu[2.5nm]/Fe50Co50[1nm]のようにCuを挿入することにより、スピン依存バルク散乱の増強効果を利用している。しかしながら、Cu挿入によるCCP−GMR膜のMR増大量が約1%であるのに対し、Si挿入によるMRの増大量は1.5%以上であった。これは、メタルCPP−GMR膜に挿入した場合とは完全に逆転した関係である。したがって、CCP−GMR膜にSiを挿入した場合のMR向上の原因がメタルCPP−GMR膜に挿入した場合のMR向上の原因とは異なっていることを示しており、CCP−GMR膜へのSi挿入による大きなMR変化率の向上はCCP−GMR膜での特有の現象であることがわかる。
また、本発明のCCP−GMR膜へのSi挿入によるMR向上効果が、メタルCPP−GMR膜へのSi挿入によるMR向上効果とは異なる理由として、CCP−GMR膜のキャップ層19にSiを挿入した場合でもMR向上効果があることが挙げられる。メタルCPP−GMRのキャップ層にSiを挿入してもスピン依存バルク散乱の増強は起こらないため、MR変化率の向上はまったく起きない。
上述のように、メタルCPP−GMR膜の磁性層内にSiを挿入しても、CCP−GMR膜にSiを挿入した場合のような大きなMRの向上がみられない原因は、メタルCPP−GMR膜では、余剰酸素の供給源となるCCP−NOLがないため、磁性層内に余剰酸素がなく、バルクおよび界面のスピン依存散乱のフルポテンシャルをもともと発揮できているためであると考えられる。一方、CCP−GMR膜では、CCP−NOLからの余剰酸素により、バルクおよび界面のスピン依存散乱のフルポテンシャルが発揮できていないために、Si挿入による余剰酸素の捕獲によるスピン依存散乱を回復する効果を利用することができ、その結果、CCP−GMR膜へのSi機能層による余剰酸素の捕獲という特有の効果により、大きなMR向上がおきていると考えられる。
このように、CCP−GMR膜へのSi、Mg、B、Alからなる機能層挿入による余剰酸素の捕獲という特有の効果を利用することで、CCP−GMR膜のMR変化率に大きな効果を得ることができる。
D.TMR膜への機能層の適用
本発明の機能層は、TMR膜に適用しても、MRの向上効果が期待できる。
TMR膜は、図1に示すCCP−GMR膜のスペーサ層として用いられている、下部金属層15+電流狭窄層16+上部金属層17を、絶縁層に置き換えた構造を有する。TMR膜の絶縁層には、例えばMgOやAl2O3などの酸化物が用いられる。TMR膜では、ピン層14およびフリー層18のスピン分極率がMRを議論するのに用いられる。このスピン分極率は、MgOやAl2O3からピン層14およびフリー層18への余剰酸素の拡散により低下する。そのため、TMR膜においても、余剰酸素の拡散によるスピン分極率の低下を抑制することがMR変化率の向上に有効である。つまり、本発明の機能層をTMR膜のピン層14、フリー層18、およびキャップ層19に適用した場合でもMR変化率の向上が期待できる。
TMR膜に本発明の機能層を適用する例として、以下のような膜構成が挙げられる。
Ta[5nm]/Ru[2nm]/Ir22Mn78[7nm]/Co80Fe20[2nm]/Ru[0.9nm]/(Co80Fe20)80B20[2.4nm]/MgO[1.5nm]/Co80Fe20[1nm]/Si[0.25nm]/Ni85Fe15[3.5nm]/Cu[1nm]/Ta[2nm]/Ru[1nm]
上記の膜構成は、TMR膜のフリー層に機能層としてSi[0.25nm]を用いた場合の例である。
TMR膜に本発明の機能層を適用する例として、さらに以下のような膜構成が挙げられる。
Ta[5nm]/Ru[2nm]/Ir22Mn78[7nm]/Co80Fe20[2nm]/Ru[0.9nm]/(Co80Fe20)80B20[0.8nm]/Si[0.125nm]/(Co80Fe20)80B20[1.6nm]/MgO[1.5nm]/Co80Fe20[1nm]/Ni85Fe15[3.5nm]/Cu[1nm]/Ta[2nm]/Ru[1nm]
上記の膜構成は、TMR膜のピン層に機能層としてSi[0.125nm]を用いた場合の例である。
TMR膜に本発明の機能層を適用する例として、さらに以下のような膜構成が挙げられる。
Ta[5nm]/Ru[2nm]/Ir22Mn78[7nm]/Co80Fe20[2nm]/Ru[0.9nm]/(Co80Fe20)80B20[2.4nm]/MgO[1.5nm]/Co80Fe20[1nm]/Ni85Fe15[3.5nm]/Si[0.5nm]/Cu[0.5nm]/Ta[2nm]/Ru[1nm]
上記の膜構成は、TMR膜のキャップ層に機能層としてSi[0.5nm]を挿入した場合の例である。
以上、絶縁スペーサ層としてMgOを用いた場合の適用例を示した。絶縁スペーサ層に用いる材料が酸素を含有している材料ならば、機能層挿入によるMRの向上効果が期待できる。絶縁スペーサ層の具体的な材料としては、MgO、Al2O3、TiO2を用いることができる。
(磁気抵抗効果素子の製造に用いられる装置)
図4は、本実施形態の磁気抵抗効果素子の製造に用いられる成膜装置の一例の概略を示す模式図である。
図4に示すように、搬送チャンバー(TC)50を中心として、ロードロックチャンバー51、プレクリーニングチャンバー52、第1の金属成膜チャンバー(MC1)53、第2の金属成膜チャンバー(MC2)54、酸化物層・窒化物層形成チャンバー(OC)
60がそれぞれゲートバルブを介して設けられている。この成膜装置では、ゲートバルブを介して接続された各チャンバーの間で、真空中において基板を搬送することができるので、基板の表面は清浄に保たれる。
金属成膜チャンバー53、54は多元(5〜10元)のターゲットを有する。成膜方式は、DCマグネトロンスパッタ、RFマグネトロンスパッタ等のスパッタ法、イオンビームスパッタ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、およびMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などが挙げられる。
(磁気抵抗効果膜の製造方法)
次に、本実施形態における磁気抵抗効果素子の製造方法の一例について詳細に説明する。
図5に磁気抵抗効果素子の製造工程のフロー図を示す。基本的な製造プロセスは、基板(図示せず)上に、下電極11、下地層12、ピニング層13、ピン層14、下部金属層15、スペーサ層16、上部金属層17、フリー層18、キャップ層19、上電極20を順に形成する。この際、基板はロードロックチャンバー51にセットし、金属の成膜を金属成膜チャンバー53、54で、酸化を酸化物層・窒化物層形成チャンバー60でそれぞれ行う。金属成膜チャンバーの到達真空度は1×10−8Torr以下とすることが好ましく、5×10−10Torr〜5×10−9Torr程度が一般的である。搬送チャンバー50の到達真空度は10−9Torrオーダーである。酸化物層・窒化物層形成チャンバー60の到達真空度は8×10−8Torr以下である。
次に、各層の製造工程について説明する。
(1)下地層12の形成(ステップS11)
基板(図示せず)上に、下電極11を微細加工プロセスによって前もって形成しておく。
下電極11上に、下地層12として、例えば、Ta[5nm]/Ru[2nm]を成膜する。既述のように、Taは下電極の荒れを緩和したりするためのバッファ層12aである。Ruはその上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するシード層12bである。
(2)ピニング層13の形成(ステップS12)
下地層12上にピニング層13を成膜する。ピニング層13の材料としては、PtMn、PdPtMn、IrMn、RuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。
(3)ピン層14(および機能層21)の形成(ステップS13)
ピニング層13上にピン層14を形成する。ピン層14は、例えば、下部ピン層141(Co90Fe10)、磁気結合層142(Ru)、および上部ピン層143(Co90Fe10[4nm])からなるシンセティックピン層とすることができる。
ここで、例えば上部ピン層143の成膜の途中で、成膜する材料を換えることにより、機能層21を形成することができる。具体的には、成膜材料をCo90Fe10からSiに切り替え、再度Co90Fe10に戻すことで、上部ピン層143中にSiからなる機能層21が形成される。また、Co90Fe10からSiに切り替え、再度Co90Fe10に切り替えない場合は、上部ピン層143の表面上に機能層21が形成されることになる。
(4)スペーサ層15〜17の形成(ステップS14)
次に、電流狭窄構造(CCP構造)を有する電流狭窄層16を含む、スペーサ層15〜17を形成する。スペーサ層15〜17を形成するには、酸化物層・窒化物層形成チャンバー60を用いる。
電流狭窄層16を形成するには、以下のような方法を用いる。ここでは、アモルファス構造を有するAl2O3からなる絶縁層161中に金属結晶構造を有するCuからなる電流パス162を含む電流狭窄層を形成する場合を例に説明する。
1)上部ピン層143(あるいは機能層21)上に、電流パスの供給源となる下部金属層15(例えばCu)を成膜した後、下部金属層15上に絶縁層に変換される被酸化金属層(例えばAlCuやAl)を成膜する。次いで、前記被酸化金属層に希ガス(例えばAr)のイオンビームを照射して前処理を行う。この前処理をPIT(Pre-ion Treatment)という。このPITの結果、被酸化金属層中に下部金属層の一部が吸い上げられて侵入した状態になる。
2)酸化ガス(例えばO2)を供給して被酸化材料を酸化する。この酸化により、被酸化金属層をAl2O3からなる絶縁層161に変換するとともに、絶縁層161を貫通する電流パス162を形成して、電流狭窄層16を形成する。例えば、希ガス(Ar、Xe、Kr、Heなど)のイオンビームを照射しながら酸化ガス(例えば酸素)を供給して被酸化金属層を酸化することができる。この方法をIAO(Ion Assisted Oxidation)という。この酸化処理により、絶縁層161であるAl2O3と電流パス162であるCuとが分離した形態の電流狭窄層16が形成される。Alが酸化されやすく、Cuが酸化されにくいという、酸化エネルギーの差を利用した処理である。次いで、電流狭窄層16の上に、上部金属層17(たとえばCu)を成膜する。
(5)フリー層18(および機能層21)の形成(ステップS15)
上部金属層17の上に、フリー層18として、例えば、Co90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]を成膜する。ここで、フリー層18の成膜の途中で、成膜する材料を換えることにより、機能層21を形成することができる。具体的には、成膜材料をCo90Fe10からSiに切り替え、次いで、Ni83Fe17に切り替えることで、フリー層18中にSiからなる機能層21が形成される。また、Co90Fe10からSiに切り替え、Ni83Fe17に切り替えない場合は、フリー層18の表面上に機能層21が形成されることになる。
(6)キャップ層19(および機能層23)、および上電極20の形成(ステップS16)
フリー層18の上に、キャップ層19として例えば、Cu[1nm]/Ru[10nm]を積層する。ここで、キャップ層19の成膜の途中で、成膜する材料を換えることにより、機能層22を形成することができる。具体的には、成膜材料をCuからSiに切り替えて、次にCuに切り替えることで、キャップ層19中にSiからなる機能層21を形成することができる。
次いで、キャップ層19の上にスピンバルブ膜へ垂直通電するための上電極20を形成する。
(実施例1)
以下、本発明の実施例につき説明する。以下に本発明の実施例に係る磁気抵抗効果膜の基本膜構成を以下に示す。
・下電極11
・下地層12:Ta[5nm]/Ru[2nm]
・ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
・ピン層14:Co75Fe25[3.3nm]/Ru[0.9nm]/(Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]
・下部金属層15:Cu[0.6nm]
・電流狭窄層16:Al2O3の絶縁層161およびCuの電流パス162
・上部金属層17:Cu[0.4nm]
・フリー層18:後述
・キャップ層19:Cu[1nm]/Ta[2nm]/Ru[15nm]
・上電極20
本実施例では、フリー層18への機能層挿入の有無による磁気抵抗効果膜の特性の比較を行った。以下にフリー層18に機能層を設けた実施例1と機能層を設けていない比較例1のフリー層構成と、本実施例1と比較例1の磁気抵抗効果膜の特性を評価した結果を以下に示す。
実施例1の磁気抵抗効果膜は、比較例1に対して1.5%のMRの向上を確認できた。
このMRの向上は、CCP−NOLのAl2O3からフリー層18中に拡散した余剰酸素を、挿入したSi層が捕獲したためと考えられる。また、実施例1に係る磁気抵抗効果膜を3次元アトムプローブで観察したところ、フリー層18内部に機能層としてSiが層状に形成されているのを確認できた。
(実施例2)
本実施例では、機能層をフリー層18、キャップ層19の様々な箇所に挿入して比較を行った。以下に実施例2の基本膜構成を示す。
・下電極11
・下地層12:Ta[5nm]/Ru[2nm]
・ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
・ピン層14:Co75Fe25[3.9nm]/Ru[0.9nm]/(Fe50Co50[1.8nm]/Cu[0.25nm]/Fe50Co50[1.8nm]
・金属層15:Cu[0.6nm]
・電流狭窄層16:Al2O3の絶縁層161およびCuの電流パス162
・金属層17:Cu[0.25nm]
・金属層17:Cu[0.4nm]
・フリー層18:後述
・キャップ層19:後述
・上電極20
実施例2の基本膜構成は実施例1の基本膜構成に比べてピン層14の膜厚が異なっている。ピン層14の膜厚を厚くすることにより、上部ピン層143の結晶性がよくなること、またスピン依存バルク散乱効果をより有効に使えるため、高いMR変化率を得ることができる。本実施例で作製したフリー層18とキャップ層19の構成を下記の表3に示す。
また、本実施例でも、比較例2として、機能層を挿入していない、素子も作製した。本実施例2A,2B,2Cと比較例2の磁気抵抗効果膜の特性を評価した結果を同じ表3に示す。
実施例2A、実施例2B、実施例2Cの磁気抵抗効果膜はいずれも、比較例2に対してそれぞれ、1.5%、1.3%、1.2%のMRの向上を確認できた。このMRの向上は、CCP−NOLのAl2O3からフリー層18中に拡散した余剰酸素を、挿入したSi層が捕獲したためと考えられる。また、比較例2が比較例1に対してMR変化率が高いのは、比較例1に比べてピン層14の膜厚を厚くしているためである。この結果から、CCP−GMR膜へのSiからなる機能層の挿入が、フリー層18、およびキャップ層19に挿入した場合において、MR向上効果があることを確認できた。実施例2Bおよび実施例2Cが、実施例2Aに比べて、MR向上量が少ない。この原因として、実施例2Bおよび実施例2Cは、実施例2Aに比べて、機能層の挿入位置がスペーサ層から離れた位置に配置されているために、フリー層18のスペーサ層に近い部分の余剰酸素の捕獲が、実施例2Aに比べて劣るためと考えられる。実施例2A、2B、2Cに係る磁気抵抗効果膜を3次元アトムプローブで観察したところ、フリー層18内部に機能層としてSiが層状に形成されているのを確認できた。
(実施例3)
本実施例では、実施例2のピン層14にさらに機能層を挿入した場合の比較を行った。
以下に実施例3の基本膜構成を示す。
・下電極11
・下地層12:Ta[5nm]/Ru[2nm]
・ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
・ピン層14:後述
・下部金属層15:Cu[0.6nm]
・電流狭窄層16:Al2O3の絶縁層161およびCuの電流パス162
・上部金属層17:Cu[0.4nm]
・フリー層18:後述
・キャップ層19:Cu[1nm]/Ta[2nm]/Ru[15nm]
・上電極20
実施例3のピン層14、フリー層18の構成を以下の表に示す。実施例3は実施例2Aに比べて上部ピン層143に機能層Siを挿入している点が異なっている。同じ表4に磁気抵抗効果膜の特性を評価した結果を同じ表4に示す。
実施例3の磁気抵抗効果膜は、比較例2に対して2.0%のMRの向上を確認できた。
また、実施例2Aに対して0.5%のMRの向上を確認できた。上記の結果より、CCP−GMR膜のピン層14にSiからなる機能層を挿入した場合にMR向上効果があることが確認できた。実施例3に係る磁気抵抗効果膜を3次元アトムプローブで観察したところ、フリー層18内部に機能層としてSiが層状に形成されているのを確認できた。
(実施例4)
本実施例では、機能層の膜厚を変えた場合の比較を行った。以下に実施例3の基本膜構成を示す。
・下電極11
・下地層12:Ta[5nm]/Ru[2nm]
・ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
・ピン層14:Co75Fe25[3.9nm]/Ru[0.9nm]/(Fe50Co50[1.8nm]/Cu[0.25nm]/Fe50Co50[1.8nm]
・下部金属層15:Cu[0.6nm]
・電流狭窄層16:Al2O3の絶縁層161およびCuの電流パス162
・上部金属層17:Cu[0.4nm]
・フリー層18:後述
・キャップ層19:Cu[1nm]/Ta[2nm]/Ru[15nm]
・上電極20
本実施例では、フリー層18に挿入するSi層の膜厚を変えた磁気抵抗効果膜の特性の比較を行った。
実施例4の磁気抵抗効果膜は、実施例1に比べて、機能層のSiの膜厚を厚くしている。実施例4の磁気抵抗効果膜は、比較例2に対して1.5%のMRの向上を確認できた。
このMRの増大量は、実施例1の比較例1に対するMRの増大量と同等であった。したがって、このMRの向上は、CCP−NOLのAl2O3からフリー層18中に拡散した余剰酸素を、挿入したSi層が捕獲したためと考えられる。実施例3に係る磁気抵抗効果膜を3次元アトムプローブで観察したところ、フリー層18内部に機能層としてSiが層状に形成されているのを確認できた。
(実施例5)
本実施例では、異なる構成のフリー層18にSiを挿入した場合の比較を行った。以下に実施例2の基本膜構成を示す。
・下電極11
・下地層12:Ta[5nm]/Ru[2nm]
・ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
・ピン層14:Co75Fe25[3.9nm]/Ru[0.9nm]/(Fe50Co50[1.8nm]/Cu[0.25nm]/Fe50Co50[1.8nm]
・下部金属層15:Cu[0.6nm]
・電流狭窄層16:Al2O3の絶縁層161およびCuの電流パス162
・金属層17:Cu[0.25nm]
・上部金属層17:Cu[0.4nm]
・フリー層18:後述
・キャップ層19:Cu[1nm]/Ta[2nm]/Ru[15nm]
・上電極20
本実施例で作製したフリー層18の構成を下記の表に示す。ここで、比較例3、2、4は、フリー層18中のスペーサ層界面のFe−Co合金の組成を変えており、それぞれFe組成が50[at.%]、40[at.%]、10[at.%]とした。実施例5A、2A、5Bは、それぞれ比較例3、2、4にSiを挿入した構造となっている。本実施例の磁気抵抗効果膜の特性を評価した結果を同じ表6に示す。以下の結果から、異なるフリー層構成にSiを挿入した場合の比較をすることができる。
実施例5Aの磁気抵抗効果膜は、比較例3に対して2.0%のMRの向上を確認できた。実施例5Bの磁気抵抗効果膜は、比較例4に対して0.5%のMRの向上を確認できた。このMRの向上は、CCP−NOLのAl2O3からフリー層18中に拡散した余剰酸素を挿入したSi層が捕獲したためと考えられる。ここで、フリー層18中のスペーサ層界面のFe−Co合金の組成とSi挿入によるMRの増大量とを比較すると、Fe組成が10[at.%]で0.5%向上、Fe組成が40[at.%]で1.5%向上、Fe組成が50[at.%]で2.2%向上である。この結果から、フリー層18のスペーサ層界面側に配置されたFe−Co合金のFe組成が大きい場合に、Si挿入によるMRの向上が大きいことがわかる。
この原因として、FeとCoの酸化エネルギーの違いが考えられる。表1よりFeはCoよりも酸化エネルギーが低く、酸化されやすいため、Fe組成の高いフリー層のほうが余剰酸素による酸化を起こしやすい。つまり、Siを挿入していいないときの余剰酸素によるMR劣化量がFe組成の高いフリー層のほうが大きい。このような、余剰酸素によるMR劣化量の大きかったフリー層では、Si挿入による余剰酸素の捕獲効果によるMRの回復量も大きいと考えられる。
なお、実施例5A、5Bに係る磁気抵抗効果膜を3次元アトムプローブで観察したところ、フリー層18内部に機能層としてSiが層状に形成されているのを確認できた。
(磁気抵抗効果素子の応用)
以下、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)の応用について説明する。
本発明の実施形態において、CPP素子の素子抵抗RAは、高密度対応の観点から、500mΩμm2以下が好ましく、300mΩμm2以下がより好ましい。素子抵抗RAを算出する場合には、CPP素子の抵抗Rにスピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aを掛け合わせる。ここで、素子抵抗Rは直接測定できる。一方、スピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aは素子構造に依存する値であるため、その決定には注意を要する。
例えば、スピンバルブ膜の全体を実効的にセンシングする領域としてパターニングしている場合には、スピンバルブ膜全体の面積が実効面積Aとなる。この場合、素子抵抗を適度に設定する観点から、スピンバルブ膜の面積を少なくとも0.04μm2以下にし、200Gbpsi以上の記録密度では0.02μm2以下にする。しかし、スピンバルブ膜に接してスピンバルブ膜より面積の小さい下電極11または上電極20を形成した場合には、下電極11または上電極20の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。下電極11または上電極20の面積が異なる場合には、小さい方の電極の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。この場合、素子抵抗を適度に設定する観点から、小さい方の電極の面積を少なくとも0.04μm2以下にする。
後に詳述する図6、図7の実施例の場合、図6でスピンバルブ膜10の面積が一番小さいところは上電極20と接触している部分なので、その幅をトラック幅Twとして考える。また、ハイト方向に関しては、図7においてやはり上電極20と接触している部分が一番小さいので、その幅をハイト長Dとして考える。スピンバルブ膜の実効面積Aは、A=Tw×Dとして考える。
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子では、電極間の抵抗Rを100Ω以下にすることができる。この抵抗Rは、例えばヘッドジンバルアセンブリー(HGA)の先端に装着した再生ヘッド部の2つの電極パッド間で測定される抵抗値である。
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子において、ピン層14またはフリー層18がfcc構造である場合には、fcc(111)配向性をもつことが望ましい。ピン層14またはフリー層18がbcc構造をもつ場合には、bcc(110)配向性をもつことが望ましい。ピン層14またはフリー層18がhcp構造をもつ場合には、hcp(001)配向またはhcp(110)配向性をもつことが望ましい。
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の結晶配向性は、配向のばらつき角度で4.0度以内が好ましく、3.5度以内がより好ましく、3.0度以内がさらに好ましい。これは、X線回折のθ−2θ測定により得られるピーク位置でのロッキングカーブの半値幅として求められる。また、素子断面からのナノディフラクションスポットでのスポットの分散角度として検知することができる。
反強磁性膜の材料にも依存するが、一般的に反強磁性膜とピン層14/スペーサ層16/フリー層18とでは格子間隔が異なるため、それぞれの層においての配向のばらつき角度を別々に算出することが可能である。例えば、白金マンガン(PtMn)とピン層14/スペーサ層16/フリー層18とでは、格子間隔が異なることが多い。白金マンガン(PtMn)は比較的厚い膜であるため、結晶配向のばらつきを測定するのには適した材料である。ピン層14/スペーサ層16/フリー層18については、ピン層14とフリー層18とで結晶構造がbcc構造とfcc構造というように異なる場合もある。この場合、ピン層14とフリー層18とはそれぞれ別の結晶配向の分散角をもつことになる。
(磁気ヘッド)
図6および図7は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに組み込んだ状態を示している。図6は、磁気記録媒体(図示せず)に対向する媒体対向面に対してほぼ平行な方向に磁気抵抗効果素子を切断した断面図である。図7は、この磁気抵抗効果素子を媒体対向面ABSに対して垂直な方向に切断した断面図である。
図6および図7に例示した磁気ヘッドは、いわゆるハード・アバッテッド(hard abutted)構造を有する。磁気抵抗効果膜10は上述したCCP−CPP膜である。磁気抵抗効果膜10の上下には、下電極11と上電極20とがそれぞれ設けられている。図6において、磁気抵抗効果膜10の両側面には、バイアス磁界印加膜41と絶縁膜42とが積層して設けられている。図7に示すように、磁気抵抗効果膜10の媒体対向面には保護層43が設けられている。
磁気抵抗効果膜10に対するセンス電流は、その上下に配置された下電極11、上電極20によって矢印Aで示したように、膜面に対してほぼ垂直方向に通電される。また、左右に設けられた一対のバイアス磁界印加膜41、41により、磁気抵抗効果膜10にはバイアス磁界が印加される。このバイアス磁界により、磁気抵抗効果膜10のフリー層18の磁気異方性を制御して単磁区化することによりその磁区構造が安定化し、磁壁の移動に伴うバルクハウゼンノイズ(Barkhausen noise)を抑制することができる。磁気抵抗効果膜10のS/N比が向上しているので、磁気ヘッドに応用した場合に高感度の磁気再生が可能となる。
(ハードディスクおよびヘッドジンバルアセンブリー)
図6および図7に示した磁気ヘッドは、記録再生一体型の磁気ヘッドアセンブリに組み込んで、磁気記録再生装置に搭載することができる。
図8は、このような磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。すなわち、本実施形態の磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、磁気ディスク200は、スピンドル152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。本実施形態の磁気記録再生装置150は、複数の磁気ディスク200を備えてもよい。
磁気ディスク200に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ153は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ヘッドスライダ153は、上述したいずれかの実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドをその先端付近に搭載している。
磁気ディスク200が回転すると、ヘッドスライダ153の媒体対向面(ABS)は磁気ディスク200の表面から所定の浮上量をもって保持される。あるいはスライダが磁気ディスク200と接触するいわゆる「接触走行型」でもよい。
サスペンション154はアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、ボビン部に巻かれた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
アクチュエータアーム155は、スピンドル157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
図9は、アクチュエータアーム155から先のヘッドジンバルアセンブリーをディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、アセンブリ160は、アクチュエータアーム155を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。サスペンション154の先端には、上述したいずれかの実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを具備するヘッドスライダ153が取り付けられている。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダ153に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中165はアセンブリ160の電極パッドである。
本実施形態によれば、上述の磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを具備することにより、高い記録密度で磁気ディスク200に磁気的に記録された情報を確実に読み取ることが可能となる。
(磁気メモリ)
次に、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリについて説明する。すなわち、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いて、例えばメモリセルがマトリクス状に配置されたランダムアクセス磁気メモリ(MRAM: magnetic random access memory)などの磁気メモリを実現できる。
図10は、本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の一例を示す図である。この図は、メモリセルをアレイ状に配置した場合の回路構成を示す。アレイ中の1ビットを選択するために、列デコーダ350、行デコーダ351が備えられており、ビット線334とワード線332によりスイッチングトランジスタ330がオンになり一意に選択され、センスアンプ352で検出することにより磁気抵抗効果膜10中の磁気記録層(フリー層)に記録されたビット情報を読み出すことができる。ビット情報を書き込むときは、特定の書き込みワード線332とビット線334に書き込み電流を流して発生する磁場を印加する。
図11は、本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の他の例を示す図である。この場合、マトリクス状に配線されたビット線322とワード線334とが、それぞれデコーダ360、361により選択されて、アレイ中の特定のメモリセルが選択される。それぞれのメモリセルは、磁気抵抗効果素子10とダイオードDとが直列に接続された構造を有する。ここで、ダイオードDは、選択された磁気抵抗効果素子10以外のメモリセルにおいてセンス電流が迂回することを防止する役割を有する。書き込みは、特定のビット線322と書き込みワード線323とにそれぞれに書き込み電流を流して発生する磁場により行われる。
図12は、本発明の実施形態に係る磁気メモリの要部を示す断面図である。図13は、図12のA−A’線に沿う断面図である。これらの図に示した構造は、図10または図11に示した磁気メモリに含まれる1ビット分のメモリセルに対応する。このメモリセルは、記憶素子部分311とアドレス選択用トランジスタ部分312とを有する。記憶素子部分311は、磁気抵抗効果素子10と、これに接続された一対の配線322、324とを有する。磁気抵抗効果素子10は、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)である。
一方、アドレス選択用トランジスタ部分312には、ビア326および埋め込み配線328を介して接続されたトランジスタ330が設けられている。このトランジスタ330は、ゲート332に印加される電圧に応じてスイッチング動作をし、磁気抵抗効果素子10と配線334との電流経路の開閉を制御する。また、磁気抵抗効果素子10の下方には、書き込み配線323が、配線322とほぼ直交する方向に設けられている。これら書き込み配線322、323は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、タンタル(Ta)あるいはこれらいずれかを含む合金により形成することができる。
このような構成のメモリセルにおいて、ビット情報を磁気抵抗効果素子10に書き込むときは、配線322、323に書き込みパルス電流を流し、それら電流により誘起される合成磁場を印加することにより磁気抵抗効果素子の記録層の磁化を適宜反転させる。また、ビット情報を読み出すときは、配線322と、磁気記録層を含む磁気抵抗効果素子10と、下電極324とを通してセンス電流を流し、磁気抵抗効果素子10の抵抗値または抵抗値の変化を測定する。
本発明の実施形態に係る磁気メモリは、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)を用いることにより、セルサイズを微細化しても、記録層の磁区を確実に制御して確実な書き込みを確保でき、且つ、読み出しも確実に行うことができる。
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張、変更可能であり、拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。磁気抵抗効果膜の具体的な構造や、その他、電極、バイアス印加膜、絶縁膜などの形状や材質に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる。
例えば、磁気抵抗効果素子を再生用磁気ヘッドに適用する際に、素子の上下に磁気シールドを付与することにより、磁気ヘッドの検出分解能を規定することができる。
また、本発明の実施形態は、長手磁気記録方式のみならず、垂直磁気記録方式の磁気ヘッドあるいは磁気再生装置についても適用できる。さらに、本発明の磁気再生装置は、特定の記録媒体を定常的に備えたいわゆる固定式のものでも良く、一方、記録媒体が差し替え可能ないわゆる「リムーバブル」方式のものでも良い。
その他、本発明の実施形態として上述した磁気ヘッドおよび磁気記憶再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうるすべての磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記憶再生装置および磁気メモリも同様に本発明の範囲に属する。