JP4945606B2 - 磁気抵抗効果素子,および磁気抵抗効果素子の製造方法 - Google Patents

磁気抵抗効果素子,および磁気抵抗効果素子の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は,磁気抵抗効果膜にセンス電流を流して磁気を検知する磁気抵抗効果素子に関する。
巨大磁気抵抗効果(Giant Magneto-Resistive Effect:GMR)を用いることで,磁気デバイス,特に磁気ヘッドの性能が飛躍的に向上している。特に,スピンバルブ膜(Spin-Valve:SV膜)の磁気ヘッドやMRAM(Magnetic Random Access Memory)などへの適用は,磁気デバイス分野に大きな技術的進歩をもたらした。
「スピンバルブ膜」は,2つの強磁性層の間に非磁性のスペーサ層を挟んだ構造を有する積層膜であり,抵抗変化を生ずる積層膜構造部位はスピン依存散乱ユニットとも呼ばれる。この2つの強磁性層の1方(「ピン層」や「磁化固着層」などと称される)の磁化が反強磁性層などで固着され,他方(「フリー層」や「磁化自由層」などと称される)の磁化方向が外部磁界に応じて回転可能である。スピンバルブ膜では,ピン層とフリー層の磁化方向の相対角度が変化することで,巨大な磁気抵抗変化が得られる。ここで,スペーサ層は,ピン層とフリー層の間を磁気的に分断し,これらの磁化方向が独立に動くことを可能とする。
スピンバルブ膜を用いた磁気抵抗効果素子には,CIP(Current In Plane)−GMR素子,CPP(Current Perpendicular to Plane)−GMR素子,およびTMR(Tunneling MagnetoResistance)素子がある。CIP−GMR素子ではスピンバルブ膜の面に平行にセンス電流を通電し,CPP−GMR,およびTMR素子ではスピンバルブ膜の面にほぼ垂直方向にセンス電流を通電する。
膜面垂直に通電する方式においては,TMR素子ではスペーサ層として絶縁層を用い,通常のCPP−GMRではスペーサ層として金属層を用いる。また,CPP−GMR素子の発展形として,スペーサ層として厚み方向に貫通したナノサイズの金属電流パスを含んだ酸化物層[NOL(nano-oxide layer)]を用いたものも提案されている。このスペーサ層では,NOLの一部に金属伝導を生じさせるための狭窄された電流パス(CCP:Current-confined-path)を有している(特許文献1参照)。
特開2002−208744号
上述のいずれの場合でも従来の磁気抵抗効果素子では,ピン層,スペーサ層,フリー層を基本的な構成とし,ピン層,フリー層間での磁化方向の相対角度の変化によって,磁気を検知している。
本発明は,従来の磁気抵抗効果素子とは異なり,ピン層,スペーサ層,フリー層の積層構造を用いない磁気抵抗効果素子を提供することを目的とする。
本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子は、磁化方向が実質的に固着された第1の磁性層と,前記第1の磁性層下に配置され,この第1の磁性層の磁化方向を固着する第1のピニング層と,前記第1の磁性層上に接して配置され,かつTi酸化物のみからなり、膜厚が0.5nm以上3nm以下である薄膜層と,前記薄膜層上に接して配置され,かつ磁化方向が実質的に固着された第2の磁性層と,前記第2の磁性層上に配置され,この第2の磁性層の磁化方向を固着する第2のピニング層と,を具備する。
本発明によれば,ピン層,スペーサ層,フリー層の積層構造を用いない磁気抵抗効果素子を提供できる。
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を表す斜視図である。 実施形態に係る磁気抵抗効果膜の基本構成を表す斜視図である。 従来のスピンバルブ膜の基本構成を表す斜視図である。 磁気抵抗効果の発現メカニズムを表す模式図である。 磁気抵抗効果の発現メカニズムを表す模式図である。 磁気抵抗効果素子の製造手順の一例を表すフロー図である。 磁気抵抗効果素子の製造に用いられる成膜装置の概略を示す模式図である。 実施例に係る磁気抵抗効果膜の断面TEM写真である。 磁気抵抗効果膜の形成時の酸素フロー量と磁気抵抗変化率との関係を表すグラフである。 上下のピン層がともにシンセティックピン構造の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層がともにシンセティックピン構造の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層がともにシンセティックピン構造の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層がともにシンセティックピン構造の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層がともにシンセティックピン構造の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層がともにシンセティックピン構造の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層がともに単層ピン構造の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層がともに単層ピン構造の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層がともに単層ピン構造の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層がともに単層ピン構造の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層がともに単層ピン構造の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層がともに単層ピン構造の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層の一方がシンセティックピン構造で,他方が単層ピン層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層の一方がシンセティックピン構造で,他方が単層ピン層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層の一方がシンセティックピン構造で,他方が単層ピン層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層の一方がシンセティックピン構造で,他方が単層ピン層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層の一方がシンセティックピン構造で,他方が単層ピン層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層の一方がシンセティックピン構造で,他方が単層ピン層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層の一方がシンセティックピン構造で,他方が単層ピン層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層の一方がシンセティックピン構造で,他方が単層ピン層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層の一方がシンセティックピン構造で,他方が単層ピン層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 上下のピン層の一方がシンセティックピン構造で,他方が単層ピン層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 ピニング層が1層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 ピニング層が1層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 ピニング層が1層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 ピニング層が1層の磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 複数の外部磁界検知層を有する磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 複数の外部磁界検知層を有する磁気抵抗効果膜の構成例を示す斜視図である。 本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに組み込んだ状態を示す図である。 本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに組み込んだ状態を示す図である。 磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。 アクチュエータアームから先のヘッドジンバルアセンブリーをディスク側から眺めた拡大斜視図である。 本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の一例を示す図である。 本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の他の例を示す図である。 本発明の実施形態に係る磁気メモリの要部を示す断面図である。 図18のA−A’線に沿う断面図である。
以下,図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお,以下の実施の形態においては,合金の組成は原子%(atomic%)で表される。
図1は,本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を表す斜視図である。なお,図1および以降の図は全て模式図であり,図上での膜厚同士の比率と,実際の膜厚同士の比率は必ずしも一致しない。
図1に示すように本実施の形態に係る磁気抵抗効果素子は,磁気抵抗効果膜10,およびこれを上下から夾む下電極11および上電極20を有し,図示しない基板上に構成される。
磁気抵抗効果膜10は,下地層12,ピニング層13,ピン層14,外部磁界検知層15,ピン層16,ピニング層17,キャップ層18が順に積層されて構成される。この内,ピン層14,外部磁界検知層15,ピン層16が,磁気抵抗効果を発現する基本膜構成,即ち,スピン依存散乱ユニットに相当する。
(磁気抵抗効果膜10の基本構成)
図2,図3はそれぞれ,磁気抵抗効果膜10および従来のスピンバルブ膜90の基本構成を表す斜視図である。図2,図3からわかるように,磁気抵抗効果膜10は,スピンバルブ膜90と,構成が大きく異なる。
既述のように,磁気抵抗効果膜10はピニング層13,ピン層14,外部磁界検知層15,ピン層16,ピニング層17が積層される。一方,スピンバルブ膜90では,ピニング層93,ピン層94,スペーサ層95,フリー層96が積層される。
スピンバルブ膜90において,磁気抵抗効果を発現するスピン依存散乱ユニットは,ピン層94,スペーサ層95,フリー層96の3層構成である。ピン層94の磁化方向は固着され,フリー層96の磁化方向は外部磁界によって変化する。スペーサ層95によって,ピン層94とフリー層96間での磁気的な結合を分断し,これらの層間での磁化方向の独立性を確保している。外部磁界によって,ピン層94とフリー層96の磁化方向の相対的な角度が変化することで,磁気抵抗による磁気の検出が可能となる。
これに対して,磁気抵抗効果膜10において,磁気抵抗効果を発現するスピン依存散乱ユニットは,ピン層14,外部磁界検知層15,ピン層16の3層構成である。即ち,磁気抵抗効果膜10は,スペーサ層95のような磁気的な結合を積極的に分断する機構を有さず,ピン層16と外部磁界検知層15とが直接近接している。
従来のスピンバルブ膜90において,スペーサー層95は非磁性層である。しかしスペーサー層95中を伝導する電子は,磁性層(ピン層94,フリー層96)から流れてくるため,スピン情報を有する。より大きな抵抗変化量を実現するためには,スペーサー層95において,伝導電子のスピン情報が失われないようにすることが重要である。しかし,実際に作成したスペーサー層95では完全理想状態は実現であり,結晶欠陥,不純物元素などの影響によってスピン反転現象が生じてしまう。これは抵抗変化量の低下の原因となる。
それに対し,スピンバルブ膜10においてはスペーサー層を有しないため,このような伝導電子のスピン反転の影響を受けることがない。このため,より大きな抵抗変化量を実現できる。スピンバルブ膜10は,スペーサー層を用いなくても,スピンバルブ膜として機能できる。なお,磁気抵抗効果膜10の動作メカニズムは後述する。
磁気抵抗効果膜10のスピン依存散乱ユニットの層数は,スピンバルブ膜90と同じである。しかし,磁気抵抗効果膜10は,スペーサ層(磁気的な結合を積極的に分断する機構)を有しないので,ピン層14,16により,実質上デュアルスピンバルブ膜として機能し得る。
通常のデュアルスピンバルブ膜は,ピン層/スペーサ層/フリー層/スペーサ層/ピン層の5層で構成される。磁気抵抗効果膜10では,3層でデュアルスピンバルブ膜として機能し得ることから(膜厚が相対的に薄い),磁気抵抗変化率の上昇が容易である。
スペーサ層を有しない磁気抵抗効果膜10が磁気抵抗効果を発現するためには,外部磁界検知層15の材料選定が必要となる。外部磁界検知層15には,極薄の酸化物層・窒化物層・酸窒化物層,または金属層を用いる。酸化物層・窒化物層・酸窒化物層には,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Zr,Pd,Nb,W,Mo,Taなどを母材として用いる。金属層には,Ti,V,Cr,Mnなどの元素を含有する金属材料を用いる。
このとき,酸化物・窒化物・酸窒化物層などでは,0.5〜3nm程度の極薄の層(薄膜層)を用いる。抵抗の上昇を招くことなく,大きな磁気抵抗変化率を実現できる。金属材料を用いた場合には,3nmよりも厚い膜を用いても,抵抗を低い値に抑えられる。そのため,金属材料を用いる場合には,0.5〜3nmの膜厚だけでなく,5nm程度の膜厚まで利用できる。
(磁気抵抗効果素子の詳細)
以下,本発明の磁気抵抗効果素子の詳細を説明する。
下電極11は,スピンバルブ膜の膜面垂直方向に通電するための電極である。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで,スピンバルブ膜内部をその膜垂直方向に沿って電流が流れる。この電流によって,磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することで,磁気が検知される。下電極11には,電流を磁気抵抗効果素子に通電するために,電気抵抗が比較的小さい金属層が用いられる。
下地層12は,例えば,バッファ層12a,シード層12bに区分することができる。バッファ層12aは下電極11表面の荒れを緩和したりするための層である。シード層12bは,その上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するための層である。
バッファ層12aとしては,Ta,Ti,W,Zr,Hf,Crまたはこれらの合金を利用できる。バッファ層12aの膜厚は1〜10nm程度が好ましく,2〜5nm程度がより好ましい。バッファ層12aの厚さが薄すぎるとバッファ効果が失われる。一方,バッファ層12aの厚さが厚すぎると磁気抵抗変化率に寄与しない直列抵抗を増大させることになる。なお,バッファ層12a上に成膜されるシード層12bがバッファ効果を有する場合には,バッファ層12aを必ずしも設ける必要はない。上記のなかの好ましい一例として,Ta[3nm]をバッファ層12aとして利用できる。
シード層12bは,その上に成膜される層の結晶配向を制御できる材料であればよい。シード層12bとして,fcc構造(face-centered cubic structure:面心立方格子構造)またはhcp構造(hexagonal close-packed structure:六方最密格子構造)やbcc構造(body-centered cubic structure:体心立方格子構造)を有する金属層などが好ましい。
例えば,シード層12bとして,hcp構造を有するRuや,fcc構造を有するNiFeを用いることにより,その上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。また,ピニング層13(例えば,PtMn)の結晶配向を規則化したfct構造(face-centered tetragonal structure:面心正方構造),あるいはbcc(body-centered cubic structure:体心立方構造)(110)配向とすることができる。
結晶配向を向上させるシード層12bの機能を十分発揮するために,シード層12bの膜厚は,1〜5nmが好ましく,1.5〜3nmがより好ましい。上記のなかの好ましい一例として,Ru[2nm]をシード層12bとして利用できる。
スピンバルブ膜やピニング層13の結晶配向性は,X線回折により測定できる。スピンバルブ膜のfcc(111)ピーク,ピニング層13(PtMn)のfct(111)ピークまたはbcc(110)ピークでのロッキングカーブの半値幅を3.5〜6度として,良好な配向性を得ることができる。なお,この配向の分散角は断面TEMを用いた回折スポットからも判別することができる。
シード層12bとして,Ruの代わりに,NiFeベースの合金(例えば,NixFe100−x(x=90〜50%,好ましくは75〜85%)や,NiFeに第3元素Xを添加して非磁性にした(NixFe100−x)100−yXy(X=Cr,V,Nb,Hf,Zr,Mo))を用いることもできる。NiFeベースのシード層12bでは,良好な結晶配向性を得るのが比較的容易であり,上記と同様に測定したロッキングカーブの半値幅を3〜5度とすることができる。
シード層12bには,結晶配向を向上させる機能だけでなく,スピンバルブ膜の結晶粒径を制御する機能もある。具体的には,スピンバルブ膜の結晶粒径を5〜20nmに制御できる。この結果,磁気抵抗効果素子のサイズが小さい場合でも,特性のばらつきを防止できる。また,結晶粒を有するスピンバルブ膜だけでなく,アモルファス構造(結晶粒径が非常に小さい極限状態と考え得る)のスピンバルブ膜も利用可能である。
スピンバルブ膜の結晶粒径は,シード層12b上に形成されるピニング層13や,ピン層14での結晶粒の粒径によって判別できる。例えば,断面TEMなどによって粒径を測定できる。
高密度記録に対応した再生ヘッドでは,素子サイズが,例えば,50nm以下である。素子サイズに対する結晶粒径の比が大きいことは,素子の特性がばらつく原因となる。素子面積あたりの結晶粒の数が少なくなると,結晶数が少ないことに起因した特性のばらつきの原因となりうるため,結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。スピンバルブ膜の結晶粒径が20nmよりも大きいことは好ましくない。
一方,結晶粒径が小さくなりすぎても,良好な結晶配向を維持することが一般的には困難になる。
具体的には,3〜20nmの結晶粒径が好ましい範囲である。
上述した3〜20nmの結晶粒径を得るためには,シード層12bとして,Ru2nmや,(NixFe100−x)100−yXy(X=Cr,V,Nb,Hf,Zr,Mo))層の場合には,第3元素Xの組成yを0〜30%程度とすることが好ましい(yが0%の場合も含む)。
前述したように,シード層12bの膜厚は1nm〜5nm程度が好ましく,1.5〜3nmがより好ましい。シード層12bの厚さが薄すぎると結晶配向制御などの効果が失われる。一方,シード層12bの厚さが厚すぎると,直列抵抗の増大を招き,さらにスピンバルブ膜界面の凹凸の原因となることがある。
ピニング層13は,その上に成膜されるピン層14となる強磁性層に一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固着する機能を有する。ピニング層13の材料としては,IrMn,PtMn,PdPtMn,RuRhMnなどの反強磁性材料を利用できる。この内,高記録密度対応のヘッドの材料として,IrMnが有利である。IrMnは,PtMnよりも薄い膜厚で一方向異方性を印加することができ,高密度記録に必要な狭ギャップ化に適している。
十分な強さの一方向異方性を付与するために,ピニング層13の膜厚を適切に設定する。ピニング層13の材料がPtMnやPdPtMnの場合には,膜厚として,8〜20nm程度が好ましく,10〜15nmがより好ましい。ピニング層13の材料がIrMnの場合には,PtMnなどより薄い膜厚でも一方向異方性を付与可能であり,4〜18nmが好ましく,5〜15nmがより好ましい。上記のなかの好ましい一例として,IrMn[6nm]をピニング層13として利用できる。
ピニング層13として,反強磁性層の代わりに,ハード磁性(硬磁性)層を利用できる。ハード磁性層として,例えば,Co,Co合金,CoPt(Co=50〜85%),(CoxPt100−x)100−yCry(x=50〜85%,y=0〜40%),FePt(Pt=40〜60%)などを利用できる。ハード磁性層は反強磁性層に比べて比抵抗が比較的小さいため,直列抵抗および面積抵抗RAの増大を抑制できるメリットがある。
ピン層14は,ピン層141(例えば,Co90Fe102nm),磁気結合層142(例えば,Ru[0.9nm]),およびピン層143(例えば,Co90Fe10[2nm])からなるシンセティックピン層が好ましい一例である。ピニング層13(例えば,IrMn)とその直上のピン層141は一方向異方性(unidirectional anisotropy)をもつように交換磁気結合している。磁気結合層142の上下のピン層141,143は,磁化の向きが互いに反平行になるように強く磁気結合している。
ピン層141の材料として,例えば,CoxFe100−x合金(x=0〜100%),NixFe100−x合金(x=0〜100%),またはこれらに非磁性元素を添加したものを利用できる。また,ピン層141の材料として,Co,Fe,Niの単元素やこれらの合金を用いても良い。
ピン層141の磁気膜厚(飽和磁化Bs×膜厚t(Bs・t積))が,ピン層143の磁気膜厚とほぼ等しいことが好ましい。つまり,ピン層143の磁気膜厚とピン層141の磁気膜厚とが対応することが好ましい。例えば,ピン層141,143が同一材料の場合には,ピン層141,143がほぼ同じ膜厚であることが好ましい。また別の例として,ピン層143としてbcc構造を有するFe50Co50[2.5nm]を用いた場合には,薄膜でのFeCoの飽和磁化が約2.2Tであるため,磁気膜厚は2.2T×2.5nm=5.5Tnmとなる。Co90Fe10の飽和磁化が約1.8Tなので,上記と等しい磁気膜厚を与えるピン層141の膜厚tは5.5Tnm/1.8T=3.0nmとなる。したがって,膜厚が約3.0nmのCo90Fe10をピン層141として用いることが望ましい。
ピン層141に用いられる磁性層の膜厚は1.5〜5nm程度が好ましい。ピニング層13(例えば,IrMn)による一方向異方性磁界強度および磁気結合層142(例えば,Ru)を介したピン層141とピン層143との反強磁性結合磁界強度の観点に基づく。
ピニング層13としてハード磁性層を用いた場合には,ピン層141の機能も兼ねることも可能である。つまり,ピニング層13とピン層141を合わせて,CoPtなどのハード磁性層2〜5nm程度のものを用いることも可能である。
磁気結合層142(例えば,Ru)は,上下の磁性層(ピン層141,143)に反強磁性結合を生じさせてシンセティックピン構造を形成する機能を有する。磁気結合層142としてのRu層の膜厚は0.8〜1nmであることが好ましい。なお,上下の磁性層に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば,Ru以外の材料を用いてもよい。RKKY(Ruderman-Kittel- Kasuya-Yosida)結合の2ndピークに対応する膜厚0.8〜1nmの換わりに,RKKY結合の1stピークに対応する膜厚0.3〜0.6nmを用いることもできる。ここでは,高信頼性の結合を安定して得られる,0.9nmのRuが磁気結合層142の一例として挙げられる。
ピン層143の一例として,膜厚2nmのCo90Fe10のような磁性層を利用できる。ピン層143は,スピン依存散乱ユニットの一部をなす。ピン層143は,磁気抵抗効果に寄与する磁性層であり,大きな磁気抵抗変化率を得るために,この構成材料,膜厚の双方が重要である。特に,外部磁界検知層15との界面に位置する磁性材料は,スピン依存界面散乱に寄与する点で特に重要である。
ピン層143としてここで用いたfcc構造をもつ従来のCo90Fe10の換わりに,bcc構造をもつFeCoを用いることも可能である。bcc構造をもつFeCo系合金として,FexCo100−x(x=30〜100%)や,FexCo100−xに添加元素を加えたものが挙げられる。hcp構造をもつコバルト合金も利用できる。また,ピン層143として,Co,Fe,Niなどの単体金属,またはこれらのいずれか一つの元素を含む合金材料はすべて利用できる。
ピン層143の全膜厚が1.5nm以上であることが好ましい。ピン層143がbcc構造をもつ磁性層の場合には,スピンバルブ膜に用いられる金属材料は,fcc構造またはfct構造であることが多い。このため,ピン層143のみがbcc構造を有することがあり得る。この場合,ピン層143の膜厚が薄すぎると,bcc構造を安定に保つことが困難になり,特性の不安定性を引き起こす原因となり得る。このため,1.5nm以上が好ましい膜厚である。
但し,ピン層143が,Coやfcc構造を有するCoFe合金などの場合には,その膜厚を1nm程度まで薄くできる。この場合,スピンバルブ膜のトータル膜厚を薄くすることが可能となり,狭ギャップ化対応に有利となる。後述するように,磁気抵抗効果が生じる物理起源が従来のスピンバルブ膜で用いられたGMR効果(CIP−GMR,CPP−GMRともに含む, CIP: Current-in-plane, CPP: Current-perpendicular-to-plane, GMR: Giant magneto-resistance)や,TMR効果(TMR:tunneling magneto-resistance)とは異なる。このため,ピン層143の膜厚が1nmと極薄でも使用可能な場合がある。
ピン層143の膜厚は5nm以下であることが好ましい。大きなピン固着磁界を得るためである。
ピン層143として,磁性層(FeCo層)と非磁性層(極薄Cu層)とを交互に積層したものも利用できる。
極薄Cu層の膜厚は,0.1〜0.6nmが好ましく,0.2〜0.5nmがより好ましい。Cu層の膜厚が厚すぎると,バルク散乱効果が減少することがあるうえに,非磁性のCu層を介した上下磁性層の磁気結合が弱くなり,ピン層14の特性が不十分となる。極薄Cu層の好ましい膜厚として,0.25nmを挙げることができる。
磁性層内の非磁性層の材料として,Cuの換わりに,Hf,Zr,Tiなどを用いてもよい。一方,これら極薄の非磁性層を挿入した場合,FeCoなど磁性層の1層あたりの膜厚は0.5〜2nmが好ましく,1〜1.5nm程度がより好ましい。
ピン層143として,FeCo層とCu層との交互積層構造に換えて,FeCoとCuを合金化した層を用いてもよい。このようなFeCoCu合金として,例えば,(FexCo100-x)100-yCuy(x=30〜100%,y=3〜15%程度)が挙げられるが,これ以外の組成範囲を用いてもよい。ここで,FeCoに添加する元素として,Cuの代わりに,Hf,Zr,Tiなど他の元素を用いてもよい。
ピン層14として,結晶材料の換わりに,アモルファス金属層を用いても構わない。具体的には,CoFeB,CoZrNb,FeZrN,FeAlSiなどを用いることができる。アモルファス合金層を用いるメリットとして,次の(1),(2)の理由から,素子ごとの特性ばらつきが生じ難いことを挙げることができる。
(1)結晶粒の凹凸に起因した凹凸が発生しない。
(2)素子サイズが小さい場合においても,一つの素子内での結晶粒の数のばらつきを考慮しなくて良い。
ピニング層13としてハード磁性層を用いる場合,ハード磁性層がピニング層13/ピン層141/磁気結合層142/ピン層143の4層のすべてを兼ねられる場合もある。この場合にはピニング層13にCoPtなどのハード磁性層を用いた場合,これら4層を兼ねて2〜4nmで形成することができるため,トータル膜厚を非常に薄くできる。
ピン層14の上に,外部磁界検知層15が配置される。外部磁界検知層15がスピンバルブ膜90のフリー層96と対応する機能を有する。従来のスピンバルブ膜90では,スペーサ層95を介さずに,ピン層94とフリー層96が直接積層されることはあり得なかった。磁気抵抗効果膜10では,スペーサ層95を用いることなく磁気抵抗効果を発現することが可能となる。
スペーサー層を用いない構造のメリットとして,前述のようにスペーサー層での伝導電子のスピン反転の影響を受けなくなることが挙げられる。スピン反転現象を考慮しなくても良いため,抵抗変化量,MR変化率が大きな値が得られやすく,高密度化対応が容易となる。
また,スペーサ層95が不必要となったことで,磁気抵抗効果膜10のトータル膜厚を薄くすることが可能となる。狭ギャップ化対応の薄い膜厚で,磁気抵抗効果素子を形成できる。
外部磁界検知層15には,極薄の酸化物層,窒化物層,酸窒化物層等からなる構成が挙げられる。酸化物,窒化物,酸窒化物等を形成する母材としては,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,W,Taなどが挙げられる。
スペーサ層を介さずに,ピン層14上に外部磁界検知層15が直接形成されていることが磁気抵抗効果膜10の特徴である。後で詳細に述べるように,外部磁界を検知するため,外部磁界検知層15が外部磁界と相互作用(interaction)する必要がある(例えば,外部磁界検知層15が弱い磁性を有する)。そのため,Ti,V,Cr,Mnのような3d非磁性遷移金属元素やPdなどを主成分とする酸化物層,窒化物層,酸窒化物層が外部磁界検知層15として好ましい例である。また,これらの酸化物層,窒化物層,酸窒化物層に単元素で磁性を発現することができるFe,Co,Niなどの元素を含有するものも,外部磁界検知層15として好ましい。さらには,極薄のZr,Mo,Ru,Rh,W,Ta,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Pdの極薄酸化物層や窒化物層,酸窒化物層やそれらにFe,Co,Niを含有した材料を外部磁界検知層15として利用可能である。
外部磁界検知層15の厚さは,0.5〜3nmが好ましく,1〜2.5nmの範囲がより好ましい。外部磁界検知層15の膜厚が薄すぎると,外部磁界検知機能の発揮が困難となる。また,外部磁界検知層15の膜厚が厚すぎても,外部磁界検知機能が弱まることがあり,あまり好ましくない。
外部磁界検知層15によって,数十〜百[Oe]程度の外部磁界を検知できる。即ち,外部磁界の向きによって,磁気抵抗効果膜10が高抵抗状態および低抵抗状態に変化する。外部磁界検知層15の望ましい実施例の一例として,TiOxを基本材料とし,Fe,Co元素を含有するTiOx−Co,Fe層を挙げることができる。後述のように,この構成の磁気抵抗効果膜10は,正方向の磁界を印加したときに低抵抗状態となり,100[Oe]程度の負方向の磁界を印加したときに高抵抗状態となる。
外部磁界検知層15に添加元素として,Fe,Co,Ni,Ti,Hf,Mg,Zr,V,Mo,Si,Cr,Nb,Ta,W,B,C,Vなどが含まれても構わない。これらの添加元素の添加量は0%〜50%程度の範囲で適宜に変更できる。
上記のような酸化物,窒化物,酸窒化物からなる外部磁界検知層15に加えて,Ti,V,Cr,Mn,Pdを主成分とする金属材料,またこれらの元素にFe,Co,Niなどの元素を含有する材料を用いても構わない。これらの材料は弱い磁性が発現しやすい。特に,本実施形態のように,極薄膜厚の上下が強磁性材料で挟まれた構成では,磁性が発現しやすくなる。このような金属材料の場合には,酸化物,窒化物,酸窒化物でなく,金属材料そのままでも良い。
外部磁界検知層15上に,ピン層16が配置される。ピン層16の磁化方向は,固定され,外部磁界によって実質上変化しない。磁化方向を固定するために,ピン層14と同様,ピン層16上にピニング層17を配置することが好ましい。
但し,ピン層16上にピニング層17を形成しなくても,磁気抵抗効果が発現する場合もある。例えば,外部磁界検知層15が1.5〜2nm程度以下と薄ければ,ピニング層17が無くても,ピン層16の磁化方向が固定される可能性がある。即ち,ピニング層13によって磁化固着されているピン層14が,外部磁界検知層15を介して,ピン層16と磁気結合して,ピン層16の磁化方向を固定する場合がある。外部磁界検知層15が外部磁界を検知するのに際し,その層を介してピン層14,16が強く磁気結合するメカニズムの詳細はまだ不明である。
ピン層16には,ピン層14と同様の材料,膜厚を利用できる。例えば,Co,Fe,Ni単元素や,CoFe合金,NiFe合金,NiCo合金や,Co,Fe,Niを含む合金材料を利用できる。fcc−CoFe合金や,bcc−FeCo合金などもピン層16として好ましい。ピン層16として,2nmのCo90Fe10層を利用できる。
また,ピン層16もピン層14と同様に,結晶材料の換わりに,アモルファス金属層を用いても構わない。具体的には,CoFeB,CoZrNb,FeZrN,FeAlSiなどを用いることができる。アモルファス合金層を用いるメリットとして,次の(1),(2)の理由から,素子ごとの特性ばらつきが生じ難いことを挙げることができる。
(1)結晶粒の凹凸に起因した凹凸が発生しない。
(2)素子サイズが小さい場合においても,一つの素子内における結晶粒の数のばらつきの問題を考慮しなくても良い。
上述のように,ピン層16上にピニング層17を追加し,ピニング機能を十分にすることが好ましい。その場合,ピン層16にピン層14の場合と同様の構成を採用できる。例えば,Ruなどを用いたシンセティックピン層構造のピン層16とすることができる。また,ピン層16のピニングにIrMn,PtMnなどの反強磁性層やCoPt,CoPtCrなどのハード層を利用可能である。具体的には,ピン層16の構成を次の(1),(2)とすることが可能である。
(1)CoFe[2nm]/Ru[0.9nm]/CoFe[2nm]/IrMn[6nm]
(2)bcc−FeCo[2.5nm]/Ru[0.9nm]/CoFe[3.0nm]/IrMn[6nm]。
ピン層14と同様に,ピン層16でも,ハード磁性層をピニング層17として利用可能である。この場合,ピン層161/磁気結合層162/ピン層163として,CoFe[2nm]/Ru[0.9nm]/CoPt[3.2nm]などの構成を採用できる。このとき,反強磁性層(ピニング層17)とこれに接する磁性層(ピン層163)に替えて,CoPtのハード磁性層を利用できる。さらには磁気結合層162(Ru[0.9nm])も省略して,CoFe[2nm]/Ru[0.9nm]/CoPt[3.2nm]の換わりに,CoPt[3nm]をピン層16として利用可能である。
ピニング層17上もしくはピン層16上に,キャップ層18を配置する。キャップ層18として,Cu/Ta層,Ru/Ta層,Ta層,などを利用できる。ピニング層17を設けず,ピン層16上に直接キャップ層18を設ける場合には,磁性層(ピン層16)上にCu層やRu層を設けることが好ましい。このときのCuやRuの膜厚としては,0〜2nm程度が好ましい。キャップ層18として,Ta,Ti,Zr,W,Nb,Cr,Mo,V,Hfやそれらの元素を含む合金材料,もしくはこれらの元素を含む導電性酸化物や窒化物層を利用できる。これらの膜厚は,1〜5nm程度が好ましい。
A.磁気抵抗効果の発生メカニズム(1)
磁気抵抗効果膜10で磁気抵抗効果が発現する物理メカニズムについて説明する。但し,現時点では,磁気抵抗効果が発現する物理メカニズムは完全に把握しきれていない部分もある。
R−H(抵抗−磁界)ループや,M−H(磁化−磁界)ループの測定によると,磁気抵抗効果が生じるとき,ピニング層17を有しない場合でも,ピン層16の磁化方向が実質上固着されている。つまり,ピニング層13,ピン層14,外部磁界検知層15を介して,上部磁性層(ピン層16)の磁化方向は固着される。
外部磁界検知層15は,例えば,TiOxのような一般的に非磁性とされる材料を用いている。しかしながら,次の理由1)〜3)により外部磁界検知層15に弱い磁性が発現される可能性がある。
1)外部磁界検知層15の膜厚は1.2nmと非常に薄く,かつ上下のピン層14,16が磁性層である。このため,交換相互作用長(exchange length)の関係で,ピン層14,16の影響を受け,外部磁界検知層15に磁性が発現する可能性がある。
2)外部磁界検知層15が含有するTi等の3d遷移金属元素により,外部磁界検知層15に磁性が発現する可能性がある。
3)ピン層14,16からの多少のCo,Feなどの磁性元素の拡散により,外部磁界検知層15に磁性元素が含まれる可能性がある。
外部磁界検知層15に磁化が発現している場合には,外部磁界に対して磁化方向が変化するフリー層として,外部磁界検知層15が機能する。この上下のピン層14,16と,外部磁界検知層15の磁化方向が平行のときには低抵抗,反平行のときには高抵抗になっていると考えられる。例えば,磁界の無印加時に外部磁界検知層15の磁化方向がピン層14,16の磁化方向と略直交する。
ただし,現在のVSM(vibrating sample magnetometer)測定による磁化測定精度では,TiOx層の磁化は観測されていない。この可能性があるとしても,TiOx層の磁化は非常に小さいと考えられる。
上記のような酸化物,窒化物,酸窒化物層だけではなく,弱い磁性が発現しやすい,Ti,V,Cr,Mn,Pdを主成分とする金属材料を用いても構わない。これらの元素を主成分とする金属材料であれば,他の元素を添加しても構わない。ここで主成分とは,50atomic%以上含む場合を主成分と呼ぶことにする。この定義は他の記述でも同様である。これらの元素を用いた場合でも,膜厚が1〜3nm程度と薄ければ,上下強磁性材料(ピン層14,16)からの影響によって,弱い磁性,即ち,磁化が生じうる。
B. 磁気抵抗効果の発生メカニズム(2)
磁気抵抗効果の発現メカニズム(2)として,外部磁界検知層15が磁化を全くもたず(従い,外部磁界に対する磁化の変化も存在しない),かつ外部磁界を検知することが考えられる。この場合の物理メカニズムについて説明する。
TiOx等を主成分とする,外部磁界検知層15が外部への磁化の発生をもたらすネットモーメント自体を有せず,外部磁界を検知することがあり得る。ピン層14,16間を伝導電子が流入,流出する。伝導電子が外部磁界検知層15を通過するときに,外部磁界によって伝導電子のスピンの反転が生じる場合,生じない場合が存在する。このときのスピンの向きによって,伝導電子の流入側のピン層14,16と外部磁界検知層15との界面において抵抗が変化する。
図4A,図4Bは,第2の磁気抵抗効果の発現メカニズムを表す模式図である。
ピン層16からピン層14に向かって伝導電子が流れている。図4Aではピン層14,16の磁化方向と平行の正方向の外部磁界H+が印加され,伝導電子のスピンが反転していない。この状態では磁気抵抗効果膜の抵抗は低抵抗状態となる。一方,図4Bではピン層14,16の磁化方向と反平行の負方向の外部磁界H−が印加され,外部磁界検知層15で伝導電子のスピンが反転する。この状態では磁気抵抗効果膜の抵抗は高抵抗状態となる。
ここでは,ピン層14,16の磁化方向と平行方向の磁界H+を印加したときに低抵抗となり,反平行方向の磁界H−を印加したときが高抵抗となっている。しかし,外部磁界検知層15,およびピン層の14,16の材料の選択によっては,この関係が逆になる可能性がある。すなわち,ピン層14,16の磁化方向と平行の磁界H+を印加したときに高抵抗となり,反平行の磁界H−を印加したときが低抵抗となる場合がある。
通常,外部磁界によって伝導電子のスピンが直接反転することはない。外部磁界検知層15内では,外部磁界によって伝導電子のスピンが直接反転しやすい状態になっていると考える。このミクロなメカニズムの詳細は明らかではないが,外部磁界検知層15がネットモーメントを有するか,有しないかのぎりぎりの状態が好ましいと考えられる。その観点からすると,外部磁界検知層15として,磁性を発現しやすい,3d遷移金属の酸化物,窒化物,酸窒化物層を用いることが好ましい。
また,外部磁界検知層15として,磁性が発現しやすい,単体金属であるTi,Cr,V,Mn,Pdを主成分として含有する金属材料を利用できる。
C. 磁気抵抗効果の発生メカニズム(3)
外部磁界検知層15自体が磁化を有しなかったとしても,外部磁界検知層15を介して上下磁性層(ピン層14,16)が磁気的に強く結合していることが考えられる(セルフカップリング)。局在した磁気結合に寄与する外部磁界検知層15内の電子と,外部磁界によってスピン反転を生じさせる伝導電子が別であることから,このような現象が生じる可能性がある。
この場合,ピン層14,16の一方にのみピニング層13,17が配置されれば良く,他方のピニング層13,17の省略が可能である。ピン層14,16の他方は,外部磁界検知層15を介した磁気結合によって,ピン層14,16の一方とセルフカップリングされる。
ピニング層13,17の一方が省略できることから,磁気抵抗効果膜10のトータル膜厚が薄くてすむ。
また,セルフカップリング効果に起因して,ピニング層13,17の一方のみで複数の外部磁界検知層15を利用可能になる利点がある。つまり,複数の外部磁界検知層15を介して,複数の磁性層が磁気結合し,これらの磁性層の全体をピン層として利用できる。複数層の外部磁界検知層15を利用できることは,スピン依存散乱ユニットが複数になることを意味し,磁気抵抗変化率の上昇が期待できる。
(磁気抵抗効果素子の製造方法)
磁気抵抗効果素子の製造方法を説明する。
図5は,磁気抵抗効果素子の製造手順の一例を表すフロー図である。基板上に下地層12〜キャップ層18が順に積層される。積層後にピン層14,16の磁化方向が固着される。この固着は,例えば,熱処理時の磁界印加によって実行可能である。後述するように,ピニング層13,17としてハード磁性層を用いるときは,10〜15kOe程度の磁界を数十秒〜数分印加することで,ピン層14,16の磁化固着が可能である。
外部磁界検知層15の形成には,次の2種類の方法を適用可能である。
(1)酸化,窒化,酸窒化前の母材となる金属材料の成膜後に,この金属材料を表面酸化する。金属材料の成膜には,スパッタ,蒸着,MBE,イオンビームスパッタ,CVDなどを利用できる。
(2)酸化物層・窒化物層・酸窒化物層を直接形成する。この形成には,スパッタ,蒸着,MBE,イオンビームスパッタ,CVDなどを利用できる。
ここで,(1)の表面酸化には,自然酸化,エネルギーアシスト酸化を利用できる。
1)自然酸化では,母材金属の形成後に酸素または窒素を含むガスで膜表面を暴露する。酸素を含むガスには,酸素ガス,窒素ガス,酸素と窒素の混合ガス,酸素と希ガスの混合ガス,窒素と希ガスの混合ガス,酸素と窒素と希ガスの混合ガスなどが挙げられる。
2)エネルギーアシスト酸化では,イオンビームやプラズマなどを膜表面に照射しながら,酸素または窒素を含むガスで金属材料を酸化,窒化,または酸窒化する。また,基板の加熱による熱エネルギーを用いた加熱酸化方法もエネルギーアシスト酸化に含められる。また,イオンビームやプラズマと,熱の両者を組み合わせて,利用しても構わない。
図6は,磁気抵抗効果素子の製造に用いられる成膜装置の概略を示す模式図である。
図6に示すように,搬送チャンバー(TC)50を中心として,ロードロックチャンバー51,プレクリーニングチャンバー52,第1の金属成膜チャンバー(MC1)53,第2の金属成膜チャンバー(MC2)54,酸化物層・窒化物層形成チャンバー(OC)60がそれぞれゲートバルブを介して配置される。この成膜装置では,ゲートバルブを介して接続された各チャンバーの間で,真空中において基板を搬送することができるので,基板の表面は清浄に保たれる。各チャンバーの到達真空度は10−8Torr台〜10−10Torr台であることが望ましい。典型的な真空度としては,10−9Torr台が実用的にも好ましい。
金属成膜チャンバー53,54は多元(5〜10元)のターゲットを有する。成膜方式は,DCマグネトロンスパッタ,RFマグネトロンスパッタ等のスパッタ法,イオンビームスパッタリング法,蒸着法,CVD(Chemical Vapor Deposition)法,およびMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などが挙げられる。
外部磁界検知層15は,酸化物層,窒化物層,酸窒化物層のいずれかで形成されるため,酸化物層・窒化物層形成チャンバー60において形成する。前述のように,表面酸化法で形成しても良いし,酸化物・窒化物層・酸窒化物層を直接形成しても構わない。
(実施例)
以下,本発明の実施例につき説明する。以下に,本発明の実施例に係る磁気抵抗効果膜10の構成を表す。
・下電極11
・下地層12(バッファ層12a/シード層12b): Ta[5nm]/Ru[2nm]
・ピニング層13: PtMn[15nm]
・ピン層14(ピン層141/磁気結合層142/ピン層143): CoFe[3nm]/Ru[0.9nm]/CoFe[3nm]
・外部磁界検知層15: TiOx[2nm]
・ピン層16(ピン層161/磁気結合層162/ピン層163): CoFe[3nm]/Ru[0.9nm]/CoFe[3nm]
・ピニング層17: PtMn[15nm]
・キャップ層18: Ta[5nm]
スピンバルブ膜の成膜後,10kOeの磁場中において290度4時間の熱処理を行い,結晶性の向上,およびPtMnの規則化を行った。その後リソグラフィープロセスによってスピンバルブ膜の素子サイズを規定し,上電極20を作成した。
TiOx(外部磁界検知層15)に接している上下CoFe層(ピン層143,ピン層161)の磁化方向は同一方向に固着されている。また,これらCoFe層(ピン層143,ピン層161)は,Ru(磁気結合層142,162)を介して,これらの上下外側のCoFe層(ピン層141,ピン層163)と反強磁性的(反平行)に強く磁気結合している。
これらCoFe層(ピン層141,ピン層163)はその外側に配置されたPtMn層(ピニング層13,17)にピニングされる。このピニング方向は前述の磁場中熱処理時の印加磁場の値によって規定される。
ここでは,ピニング層13として反強磁性層を用いている。これに替えて,ピニング層13としてハード磁性層を利用できる。この場合,熱処理時の磁界印加ではなく,常温での10〜15[kOe]程度の強磁場印加によって,ピニング層13の着磁を行える。ハード磁性層によってピニングを行う場合においても,結晶性を向上させるためにスピンバルブ膜成膜後の熱処理を行うことが好ましい。
後述のように,反強磁性層とハード磁性層を2つ用いて,上下のピン層14,16を別々にピニングすることも可能である。この場合,反強磁性層とハード磁性層を別個に着磁できる。反強磁性層によるピニングでは,磁場中熱処理時の印加磁場の方向で磁化方向を規定する。一方,ハード磁性層によるピニングでは,磁場中熱処理後の10〜15kOeの着磁処理によって,反強磁性層による磁化固着方向とは全く無関係の方向にピン層を着磁できる。一例として,反強磁性層による磁化固着方向と反平行の方向にハード磁性層の磁化固着を行うことが可能である。
本実施例の磁気抵抗効果膜10は,正方向の磁界(ピン層161,143の磁化方向と平行の磁化方向)を印加したときに低抵抗状態となり,100[Oe]程度の負方向の磁界(ピン層161,143の磁化方向と反平行の磁化方向)を印加したときに高抵抗状態となった。本実施例の磁気抵抗効果膜10では,面積抵抗RAが4000[mΩμm2],磁気抵抗変化率MRが16%であった。この面積抵抗RAは大きめの値であるが,材料,プロセスの最適化によって,低減可能である。
図7は本実施例に係る磁気抵抗効果膜10の断面TEM写真である。本図に示すように,CoFe層(ピン層143)の結晶粒にそってTiOx層(外部磁界検知層15)が形成される。このTiOx層は,連続的であり,ピンホールがない。このように外部磁界検知層15が連続的なので,素子サイズが50nm以下と微細になっても,素子ごとのばらつきが低減される。
作成条件による磁気抵抗効果膜10の特性の相違を説明する。
図8は,磁気抵抗効果膜10でのTiOx層(外部磁界検知層15)形成時の酸素フロー量と磁気抵抗変化率MRとの関係を表すグラフである。このときの膜構成は,既述の実施例と同様である。
本図からわかるように,酸素の供給量が小さいとき(酸化が不十分),磁気抵抗変化率MRは全く上昇しない。酸素の供給量がある値に達すると,磁気抵抗変化率が急激に上昇する。さらに酸素の供給量が大きくなりすぎると,磁気抵抗変化率MRが急減に低下する。即ち,磁気抵抗効果膜10の特性を良好にするためには,外部磁界検知層15を形成するときの酸化条件を適切に選択する必要がある。
(磁気抵抗効果膜の積層構造)
以下では,磁気抵抗効果膜の積層構造について説明する。既述のように,磁気抵抗効果膜10の基本的な構成は,ピン層14/外部磁界検知層15/ピン層16の3層であるが,その積層構造にバリエーションがある。
積層膜構成A 上下のピン層14,16がシンセティックピン構造の場合
図9〜図14は,上下のピン層14,16がともにシンセティックピン構造の磁気抵抗効果膜10AA〜10AEの構成例を示す斜視図である。この構成は図2の構成と同様である。ピニング層13,17に反磁性層131,171,ハード磁性層132,172の何れを用いるかによって,構成の組み合わせが生じる。
磁気抵抗効果膜10AAでは,上下のピニング層13,17に反強磁性層131,171を用いている。このため,上下の反強磁性層(ピン層14,16)のピニングは磁場中アニールでの磁界印加方向で決定される。このため,ピン層141,163は同一の磁化方向を有する。外部磁界検知層15と接しているピン層143,161は,ピン層141,163と反平行で,互いにほぼ同一の磁化方向を有する。反強磁性層131,171として,IrMn,PtMn,PdPtMn,NiMn,RuMn,RhMn,RuRhMnなどの金属反強磁性層などを利用できる。
磁気抵抗効果膜10ABでは,上下のピン層14,16のピニングがともにハード磁性層132,172で行われる。ハード磁性層132,172としては,hcp−Coを主成分とするCo,もしくはCo合金,CoPt,CoPrCr合金,FePtなどやそれらに添加元素を加えた材料などを利用できる。
磁気抵抗効果膜10ACは,ピニング層13が反強磁性層131で,ピニング層17がハード磁性層172を用いた場合を示す。反強磁性層131,ハード磁性層172はそれぞれ前述のような材料を利用可能である。ここで,外部磁界検知層15に接したピン層143,161の磁化方向は磁気抵抗効果膜10ABと同様である。このような磁化配列状態になるように,ハード磁性層172が磁化固着される。ここで,ハード磁性層172とピン層163は別々の磁性層でも良いし,両者の機能を兼用して1層の材料で構成しても構わない。2層に分けると,磁気的にハードな特性をもつ磁性層(ハード磁性層172)と,磁気抵抗変化率を向上させるために有利な磁性層(ピン層163)それぞれを独立に設計できる。
磁気抵抗効果膜10ADは,磁気抵抗効果膜10ACとほぼ同様な膜構成であるが,ハード磁性層172の磁化固着方向の向きが磁気抵抗効果膜10ACと逆向きになっている。つまり,外部磁界検知層15に接するピン層143,161の磁化方向が互いに反平行の向きになるように磁化固着されている。磁気抵抗効果膜10AAのように,ピニング層13,17双方を反強磁性層131,171とすると,ピン層143,161の磁化方向は同じになる。これに対して,ハード磁性層172では磁場中熱処理後に大きな磁界を印加することで任意の方向に磁化固着可能である。このため,磁気抵抗効果膜10AC,10ADのような構成のバリエーションを実現できる。
磁気抵抗効果膜10AE,10AFの構成はそれぞれ,磁気抵抗効果膜10AC,10ADの構成を上下逆転させたものであり,ハード磁性層132が外部磁界検知層15よりも下層側に配置されている。磁気抵抗効果膜10AC,10ADと同様に,磁気抵抗効果膜10AE,10AFでは,ハード磁性層132の磁化固着の方向が互いに逆向きとなっている。
磁気抵抗効果膜10AE,10AFの構造と磁気抵抗効果膜10AC,10ADの構造は次の点で相違する。即ち,磁気抵抗効果膜10AE,10AFの構造においては,ハード磁性層132が下地層側に配置されている。このため,ハード磁性層132下の下地層12に,ハード磁性を強くするような下地材料を選択可能となる。例えば,下地層12として,ハード磁性層の磁化方向を面内にするために,bcc構造を有するCr,W,Vなどを含有する金属層を選択できる。また,下地層12として,ハード磁性層132の磁化方向を膜面垂直に磁化した垂直磁化膜にするために適した材料などを利用可能である。垂直磁化膜としては,Coを含む合金,具体的にはCoCrやCoCrPtやそれらに添加元素を加えたものや,FePtなどが挙げられる。
積層膜構成B 上下のピン層14,16が単層ピン構造の場合
図15〜図20は,上下のピン層14,16がともに単層ピン構造の磁気抵抗効果膜10BA〜10BFの構成例を示す斜視図である。他の点は磁気抵抗効果膜10AA〜10AFと同様である。
シンセティックピン構造の換わりに単層ピン構造を用いることで,スピンバルブ膜のトータル膜厚を薄くできる。但し,シンセティック構造を用いないことで,ピン固着磁界の大きさがシンセティックピン構造よりも弱くなる可能性がある。必要なスペックに応じて,磁気抵抗効果膜10AA〜10AFの構成,磁気抵抗効果膜10BA〜10BFの構成を選択できる。
磁気抵抗効果膜10BAは上下のピニング層13,17がともに反強磁性層131,171を用いた場合である。上下の反強磁性層131,171のピニングは磁場中アニールでの磁界印加方向で決定される。このため,ピン層14,16は同一の方向を向いている。ここで反強磁性層131,171としては,IrMn,PtMn,PdPtMn,NiMn,RuMn,RhMn,RuRhMnなどの金属反強磁性層などを利用できる。
磁気抵抗効果膜10BBは上下のピン層14,16のピニングがともにハード磁性層132,172で行われた場合を示す。このとき,ハード磁性層132,172はピン層としても機能しうる。ハード磁性層132,172としては,hcp−Coを主成分とするCo,もしくはCo合金,CoPt,CoPrCr合金,FePtなどやそれらに添加元素を加えた材料などを利用できる。
磁気抵抗効果膜10BCは,ピニング層13が反強磁性層131で,ピニング層17がハード磁性層172を用いた場合を示す。反強磁性層131,ハード磁性層172はそれぞれ前述の材料を利用可能である。ここで,外部磁界検知層15に接したピン層143,161の磁化方向は磁気抵抗効果膜10BBの場合と同様である。このような磁化配列状態になるように,ハード磁性層172が磁化固着される。ここで,ハード磁性層172とピン層161は別々の磁性層でも良いし,両者の機能を兼用して1層の材料で構成しても構わない。2層に分けると,磁気的にハードな特性をもつ磁性層(ハード磁性層172)と,磁気抵抗変化率を向上させるために有利な磁性層(ピン層163)それぞれを独立に設計できる。
磁気抵抗効果膜10BDは,磁気抵抗効果膜10BCとほぼ同様の膜構成であるが,ハード磁性層172の磁化固着方向の向きが磁気抵抗効果膜10BCと逆向きになっている。つまり,外部磁界検知層15に接するピン層143,161の磁化方向が互いに反平行の向きになるように磁化固着されている。磁気抵抗効果膜10BAのようにピニング層13,17の双方を反強磁性層131,171によるシンセティックピン構造とすると,ピン層143,161の磁化方向は同じになる。これに対して,ハード磁性層172では磁場中熱処理後に大きな磁界を印加することで任意の方向に磁化固着可能である。このため,磁気抵抗効果膜10BCや磁気抵抗効果膜10BDのような構成のバリエーションを実現できる。
磁気抵抗効果膜10BE,10BFの構成はそれぞれ,磁気抵抗効果膜10BC,10BDの構成を上下逆転させたものであり,ハード磁性層132が外部磁界検知層15よりも下層側に配置されている。磁気抵抗効果膜10BC,10BDと同様に,磁気抵抗効果膜10BE,10BFでは,ハード磁性層132の磁化固着の方向が互いに逆向きとなっている。
磁気抵抗効果膜10BE,10BFと磁気抵抗効果膜10BC,10BDは次の点で相違する。即ち,磁気抵抗効果膜10BE,10BFにおいては,ハード磁性層132が下地層12側に配置されている。このため,ハード磁性層132下の下地層12に,ハード磁性を強くするような下地材料を選択可能となる。例えば,下地層12として,ハード磁性層132の磁化方向を面内にするために,bcc構造を有するCr,W,Vなどを含有する金属層を選択できる。また,下地層12として,ハード磁性層132の磁化方向を膜面垂直に磁化した垂直磁化膜にするために適した材料などを利用可能である。前述の場合と同様に,垂直磁化膜としては,Coを含む合金,具体的にはCoCrやCoCrPtやそれらに添加元素を加えたものや,FePtなどが挙げられる。
積層膜構成C ピン層14がシンセティックピン構造で,ピン層16が単層ピン層構造の場合
図21〜図25は,ピン層14がシンセティックピン構造で,ピン層16が単層ピン層構造の磁気抵抗効果膜10CA〜10CEの構成例を示す斜視図である。
磁気抵抗効果膜10CAでは上下のピニング層13,17に反強磁性層131,171を用いている。上下の反強磁性層131,171によるピニング方向は磁場中アニールでの磁界印加方向で決定される。このため,ピン層141,161は同一の磁化方向を有する。
しかし磁気抵抗効果膜10AA〜10AFの場合とは異なり,ピン層16にシンセティックピン構造を用いていない。このため,反強磁性層131,171による磁化固着方向が同一であったとしても,外部磁界検知層15と接しているピン層143,161の磁化方向は,互いに反平行である。反強磁性層131,171として,IrMn,PtMn,PdPtMn,NiMn,RuMn,RhMn,RuRhMnなどの金属反強磁性層などを利用できる。
磁気抵抗効果膜10CBでは,ピニング層13に反強磁性層131を用い,ピニング層17にハード磁性層172を用いている。ハード磁性層172として,hcp−Coを主成分とするCo,もしくはCo合金,CoPt,CoPrCr合金,FePtなどやそれらに添加元素を加えた材料などを利用できる。
磁気抵抗効果膜10CCは,磁気抵抗効果膜10CBと同様に,ピニング層13が反強磁性層131で,ピニング層17がハード磁性層172を用いた場合を示す。反強磁性層131,ハード磁性層172はそれぞれ前述の材料を利用可能である。ここで,外部磁界検知層15に接したピン層143,161はともに磁気抵抗効果膜10CBの場合と同様の磁化配列状態になるように,ハード磁性層172により磁化固着される。ここで,ハード磁性層172とピン層161は別々の磁性層でも良いし,両者の機能を兼用して1層の材料で構成しても構わない。2層に分けると,磁気的にハードな特性をもつ磁性層(ハード磁性層172)と,磁気抵抗変化率を向上させるために有利な磁性層(ピン層161)それぞれを独立に設計できる。
磁気抵抗効果膜10CDは,磁気抵抗効果膜10CBの構成を上下逆転させた構造となっている。すなわち,ピニング層13としてハード磁性層132を用い,ピニング層17として反強磁性層171を用いている。ハード磁性層132が下地層12側に配置されているため,ハード磁性層132下の下地層12にハード磁性を強くするような下地材料を選択可能となる。ハード磁性層132の磁化方向を面内にするために,下地層12として,例えば,bcc構造を有するCr,W,Vなどを含有する金属層を利用可能である。また,ハード磁性層132の磁化方向を垂直磁化方向にするために適した材料を下地層12として利用可能である。
磁気抵抗効果膜10CEは,磁気抵抗効果膜10CDに対し,ハード磁性層132による磁化固着の向きを逆向きにしたものである。磁気抵抗効果膜10CEは,外部磁界検知層15上下のピン層143,161の磁化固着方向が磁気抵抗効果膜10CDと異なる。
積層膜構成D ピン層14が単層ピン構造で,ピン層16がシンセティックピン層構造の場合
図26〜図30は,磁気抵抗効果膜10CA〜10CEの膜構成の換わりに,ピン層14に単層ピン構造を用い,ピン層16にシンセティックピン構造を用いた実施例を示す。それ以外は,磁気抵抗効果膜10CA〜10CEと全く同様の説明が可能である。
積層膜構成E ピニング層が1層の場合
図31〜図34は,メカニズム(3)で磁気抵抗効果が発生している場合の磁気抵抗効果膜10EA〜10EDの例を示す図である。磁気抵抗効果膜10EA〜10EDにおいては,外部磁界検知層15の上下の磁性層(ピン層143,161)が,外部磁界検知層15を介して磁気的に強く結合している。この場合,外部磁界検知層15を介したピン層143,161の磁気結合が大きいので,ピニング層13,17のいずれか一方を省略可能である。
磁気抵抗効果膜10EA,10EBにおいては,ピン層14側にのみピニング層13が配置され,ピン層14が磁気的に固着されている。磁気抵抗効果膜10EAはピニング層13が反強磁性層131からなり,シンセティックピン構造を有する。磁気抵抗効果膜10Bはピニング層13がハード磁性層132からなり,シンセティックピン構造を有する。ピン層161は,ピン層143からの磁気結合によって磁化固着される。結果として,ピニング層13をピン層14,16で共用したことになる。
磁気抵抗効果膜10EC,10EDにおいては,ピン層16側にのみピニング層17が配置され,ピン層16が磁気的に固着される。磁気抵抗効果膜10ECはピニング層17が反強磁性層171からなり,シンセティックピン構造を有する。磁気抵抗効果膜10EDは,ピニング層17がハード磁性層172からなり,シンセティックピン構造を有する。
磁気抵抗効果膜10EA〜10EDはすべてシンセティックピン構造を有する実施例であった。シンセティックピン構造の換わりに,単層ピン構造を用いることも可能である。
積層膜構成F 複数の外部磁界検知層15を有する場合
図35,図36は,複数の外部磁界検知層15を有する磁気抵抗効果膜10FA,10FBの構成例を示す斜視図である。
この構成はメカニズム(3)で磁気抵抗効果が発現する場合に有効である。外部磁界検知層15が複数ある場合,積層膜構造上,ピン層のうち一部がピニング層13に直接接しなくなる。しかし,メカニズム(3)により磁気抵抗効果が発現する場合には,外部磁界検知層15を介して上下磁性層(ピン層)が磁気的に結合する。このため,このような構造も可能となる。この構成では,磁気抵抗変化率を生じる重要な層である外部磁界検知層15が複数層となることで,磁気抵抗変化率を層数に応じて増やすことが可能になる。
磁気抵抗効果膜10FAは,ピニング層13として反強磁性層131を用いたシンセティックピン構造を有する。但し,反強磁性層131の換わりに,ピニング層13としてハード磁性層132を用いても構わない。
シンセティックピン構造のピン層14上に外部磁界検知層15aが設けられ,その上に,ピン層161aが設けられる。ピン層143とピン層161aは外部磁界検知層15aを介して強く磁気結合をしている。
ピン層161a上に外部磁界検知層15bおよびピン層161bが設けられる。ピン層161a,161bは外部磁界検知層15bを介し,ピニング層13によりピニングされる。
つまり,ピニング層13が1層だけの場合でも,複数の外部磁界検知層15a,15bを介し,複数のピン層161a,161bの磁化固着が可能となる。外部磁界検知層15a,15bが複数層であることから,その数に比例する磁気抵抗変化率の上昇が可能となる。
磁気抵抗効果膜10FBにおいては,磁気抵抗効果膜10FAと同様に,ピニング層13が下層側に1層設けられ,シンセティックピン構造を有する。磁気抵抗効果膜10FBは,ピニング層13として反強磁性層131が用いられている。但し,反強磁性層131の換わりにハード磁性層132を用いても構わない。
磁気抵抗効果膜10FBでは,磁気抵抗効果膜10FAと比べて,外部磁界検知層15の数がさらに1層増え,3層となっている。外部磁界検知層15の数が多くなったことに伴い,磁気抵抗変化率の値を上昇させることが可能となる。複数層の外部磁界検知層15a,15b,15cを介して,ピニング層13によってピン層161a〜161cがピニングされる。
(磁気抵抗効果素子の応用)
以下,本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子(スペーサ層レススピンバルブ素子)の応用について説明する。
本発明の実施形態において,スペーサ層レススピンバルブ素子の素子抵抗RAは,高密度対応の観点から,2000mΩμm2以下が好ましく,1000mΩμm2以下がより好ましい。素子抵抗RAを算出する場合には,CPP素子の抵抗Rにスピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aを掛け合わせる。ここで,素子抵抗Rは直接測定できる。一方,スピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aは素子構造に依存する値であるため,その決定には注意を要する。
例えば,スピンバルブ膜の全体を実効的にセンシングする領域としてパターニングしている場合には,スピンバルブ膜全体の面積が実効面積Aとなる。この場合,素子抵抗を適度に設定する観点から,スピンバルブ膜の面積を少なくとも0.04μm2以下にし,200Gbpsi以上の記録密度では0.02μm2以下にする。
しかし,スピンバルブ膜に接してスピンバルブ膜より面積の小さい下電極11または上電極20を形成した場合には,下電極11または上電極20の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。下電極11または上電極20の面積が異なる場合には,小さい方の電極の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。この場合,素子抵抗を適度に設定する観点から,小さい方の電極の面積を少なくとも0.04μm2以下にする。
後に詳述する図37,図38の実施例の場合,図37でスピンバルブ膜の面積が一番小さいところは上電極20と接触している部分なので,その幅をトラック幅Twとして考える。また,ハイト方向に関しては,図38においてやはり上電極20と接触している部分が一番小さいので,その幅をハイト長Dとして考える。スピンバルブ膜の実効面積Aは,A=Tw×Dとして考える。
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子では,電極間の抵抗Rを100Ω以下にすることができる。この抵抗Rは,例えばヘッドジンバルアセンブリー(HGA)の先端に装着した再生ヘッド部の2つの電極パッド間で測定される抵抗値である。
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子において,ピン層14,16がfcc構造である場合には,fcc(111)配向性をもつことが望ましい。ピン層14,16がbcc構造をもつ場合には,bcc(110)配向性をもつことが望ましい。ピン層14,16がhcp構造をもつ場合には,hcp(001)配向またはhcp(110)配向性をもつことが望ましい。
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の結晶配向性は,配向のばらつき角度で5.0度以内が好ましく,3.5度以内がより好ましく,3.0度以内がさらに好ましい。これは,X線回折のθ−2θ測定により得られるピーク位置でのロッキングカーブの半値幅として求められる。また,素子断面からのナノディフラクションスポットでのスポットの分散角度として検知することができる。
ピニング層13として反強磁性層を用いた場合には,反強磁性膜の材料にも依存するが,一般的に反強磁性膜とピン層では格子間隔が異なるため,それぞれの層においての配向分散角度を別々に算出することが可能である。例えば,イリジウムマンガン(IrMn)とピン層では,格子間隔が異なることが多い。イリジウムマンガン(IrMn)は比較的厚い膜であるため,結晶配向の分散角度測定するのには適した材料である。
(磁気ヘッド)
図37および図38は,本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに組み込んだ状態を示している。図37は,磁気記録媒体(図示せず)に対向する媒体対向面に対してほぼ平行な方向に磁気抵抗効果素子を切断した断面図である。図38は,この磁気抵抗効果素子を媒体対向面ABSに対して垂直な方向に切断した断面図である。
図37および図38に例示した磁気ヘッドは,いわゆるハード・アバッテッド(hard abutted)構造を有する。磁気抵抗効果膜10は上述したスペーサ層レススピンバルブ膜である。磁気抵抗効果膜10の上下には,下電極11と上電極20とがそれぞれ設けられている。図37において,磁気抵抗効果膜10の両側面には,バイアス磁界印加膜41と絶縁膜42とが積層して設けられている。図38に示すように,磁気抵抗効果膜10の媒体対向面には保護層43が設けられている。
磁気抵抗効果膜10に対するセンス電流は,その上下に配置された下電極11,上電極20によって矢印Aで示したように,膜面に対してほぼ垂直方向に通電される。また,左右に設けられた一対のバイアス磁界印加膜41,41により,磁気抵抗効果膜10にはバイアス磁界が印加するのも好ましい例である。このバイアス磁界により,磁気抵抗効果膜10の外部磁界検知層15を単磁区化する。この結果,外部磁界検知層15の磁区構造が安定化し,磁壁の移動に伴うバルクハウゼンノイズ(Barkhausen noise)を抑制できる。ただし,外部磁界検知層15が磁化を有しない場合(磁気抵抗効果のメカニズム(1),(2)の場合)では,バイアス磁界印加膜を用いなくても良い場合もある。
磁気抵抗効果膜10のS/N比が向上しているので,磁気ヘッドに応用した場合に高感度の磁気再生が可能となる。
(ハードディスクおよびヘッドジンバルアセンブリー)
図37および図38に示した磁気ヘッドは,記録再生一体型の磁気ヘッドアセンブリに組み込んで,磁気記録再生装置に搭載することができる。
図39は,このような磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。すなわち,本実施形態の磁気記録再生装置150は,ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において,磁気ディスク200は,スピンドル152に装着され,図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。本実施形態の磁気記録再生装置150は,複数の磁気ディスク200を備えてもよい。
磁気ディスク200に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ153は,薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ヘッドスライダ153は,上述したいずれかの実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドをその先端付近に搭載している。
磁気ディスク200が回転すると,ヘッドスライダ153の媒体対向面(ABS)は磁気ディスク200の表面から所定の浮上量をもって保持される。あるいはスライダが磁気ディスク200と接触するいわゆる「接触走行型」でもよい。
サスペンション154はアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には,リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は,ボビン部に巻かれた図示しない駆動コイルと,このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
アクチュエータアーム155は,スピンドル157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され,ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
図40は,アクチュエータアーム155から先のヘッドジンバルアセンブリーをディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち,アセンブリ160は,アクチュエータアーム155を有し,アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。サスペンション154の先端には,上述したいずれかの実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを具備するヘッドスライダ153が取り付けられている。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し,このリード線164とヘッドスライダ153に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中165はアセンブリ160の電極パッドである。
本実施形態によれば,上述の磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを具備することにより,高い記録密度で磁気ディスク200に磁気的に記録された情報を確実に読み取ることが可能となる。
(磁気メモリ)
次に,本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリについて説明する。すなわち,本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いて,例えばメモリセルがマトリクス状に配置されたランダムアクセス磁気メモリ(MRAM: magnetic random access memory)などの磁気メモリを実現できる。
図41は,本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の一例を示す図である。この図は,メモリセルをアレイ状に配置した場合の回路構成を示す。アレイ中の1ビットを選択するために,列デコーダ350,行デコーダ351が備えられており,ビット線334とワード線332によりスイッチングトランジスタ330がオンになり一意に選択され,センスアンプ352で検出することにより磁気抵抗効果膜10中の磁気記録層(フリー層)に記録されたビット情報を読み出すことができる。ビット情報を書き込むときは,特定の書き込みワード線323とビット線322に書き込み電流を流して発生する磁場を印加する。
図42は,本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の他の例を示す図である。この場合,マトリクス状に配線されたビット線322とワード線334とが,それぞれデコーダ360,361により選択されて,アレイ中の特定のメモリセルが選択される。それぞれのメモリセルは,磁気抵抗効果素子10とダイオードDとが直列に接続された構造を有する。ここで,ダイオードDは,選択された磁気抵抗効果素子10以外のメモリセルにおいてセンス電流が迂回することを防止する役割を有する。書き込みは,特定のビット線322と書き込みワード線323とにそれぞれに書き込み電流を流して発生する磁場により行われる。
図43は,本発明の実施形態に係る磁気メモリの要部を示す断面図である。図44は,図43のA−A’線に沿う断面図である。これらの図に示した構造は,図41または図42に示した磁気メモリに含まれる1ビット分のメモリセルに対応する。このメモリセルは,記憶素子部分311とアドレス選択用トランジスタ部分312とを有する。
記憶素子部分311は,磁気抵抗効果素子10と,これに接続された一対の配線322,324とを有する。磁気抵抗効果素子10は,上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子である。
一方,アドレス選択用トランジスタ部分312には,ビア326および埋め込み配線328を介して接続されたトランジスタ330が設けられている。このトランジスタ330は,ゲート332に印加される電圧に応じてスイッチング動作をし,磁気抵抗効果素子10と配線334との電流経路の開閉を制御する。
また,磁気抵抗効果素子10の下方には,書き込み配線323が,配線322とほぼ直交する方向に設けられている。これら書き込み配線322,323は,例えばアルミニウム(Al),銅(Cu),タングステン(W),タンタル(Ta)あるいはこれらいずれかを含む合金により形成することができる。
このような構成のメモリセルにおいて,ビット情報を磁気抵抗効果素子10に書き込むときは,配線322,323に書き込みパルス電流を流し,それら電流により誘起される合成磁場を印加することにより磁気抵抗効果素子の記録層の磁化を適宜反転させる。
また,ビット情報を読み出すときは,配線322と,磁気記録層を含む磁気抵抗効果素子10と,下電極324とを通してセンス電流を流し,磁気抵抗効果素子10の抵抗値または抵抗値の変化を測定する。
本発明の実施形態に係る磁気メモリは,上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いることにより,セルサイズを微細化しても,記録層の磁区を確実に制御して確実な書き込みを確保でき,且つ,読み出しも確実に行うことができる。
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張,変更可能であり,拡張,変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
磁気抵抗効果膜の具体的な構造や,その他,電極,バイアス印加膜,絶縁膜などの形状や材質に関しては,当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し,同様の効果を得ることができる。
例えば,磁気抵抗効果素子を再生用磁気ヘッドに適用する際に,素子の上下に磁気シールドを付与することにより,磁気ヘッドの検出分解能を規定することができる。
また,本発明の実施形態は,長手磁気記録方式のみならず,垂直磁気記録方式の磁気ヘッドあるいは磁気再生装置についても適用できる。
さらに,本発明の磁気再生装置は,特定の記録媒体を定常的に備えたいわゆる固定式のものでも良く,一方,記録媒体が差し替え可能ないわゆる「リムーバブル」方式のものでも良い。
その他,本発明の実施形態として上述した磁気ヘッドおよび磁気記憶再生装置を基にして,当業者が適宜設計変更して実施しうるすべての磁気抵抗効果素子,磁気ヘッド,磁気記憶再生装置および磁気メモリも同様に本発明の範囲に属する。
10…磁気抵抗効果膜、
11…下電極、
12…下地層、
13、17…ピニング層、
131、171…反強磁性層、
132、172…ハード磁性層、
14(141、142、143)、
16(161、162、163)…ピン層、
15…外部磁界検知層、
18…キャップ層、
20…上電極。

Claims (16)

  1. 磁化方向が実質的に固着された第1の磁性層と,
    前記第1の磁性層下に配置され,この第1の磁性層の磁化方向を固着する第1のピニング層と,
    前記第1の磁性層上に接して配置され,かつTi酸化物のみからなり、膜厚が0.5nm以上3nm以下である薄膜層と,
    前記薄膜層上に接して配置され,かつ磁化方向が実質的に固着された第2の磁性層と,
    前記第2の磁性層上に配置され,この第2の磁性層の磁化方向を固着する第2のピニング層と,
    を具備することを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  2. 前記第1,第2の磁性層の少なくとも一方が,Fe,Co,Niから選択される少なくとも1つの元素を主成分として含有することを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
  3. 前記第1,第2の磁性層の少なくとも一方が,fcc−CoFe合金,bcc−FeCo,fcc−NiFe,hcp−Coから選択される少なくとも1つの合金を含有することを特徴とする請求項記載の磁気抵抗効果素子。
  4. 前記第1,第2の磁性層の少なくとも一方が,アモルファス合金材料からなることを特徴とする請求項記載の磁気抵抗効果素子。
  5. 前記アモルファス合金材料が,CoFeB,CoZrNb,FeZrN,FeAlSiから選択される1つの合金を主成分として含むことを特徴とする請求項記載の磁気抵抗効果素子。
  6. 前記第1,第2のピニング層が,反強磁性層または硬磁性層を含むことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
  7. 前記反強磁性層が,Mn合金からなることを特徴とする請求項記載の磁気抵抗効果素子。
  8. 前記Mn合金が,IrMn,またはPtMnを主成分として含有することを特徴とする請求項記載の磁気抵抗効果素子。
  9. 前記硬磁性層が,Co,CoPt,CoCrPt,FePtから選択される少なくとも1つの金属を主成分として含有することを特徴とする請求項記載の磁気抵抗効果素子。
  10. 前記第1,第2の磁性層の膜面垂直方向に電流を通電する手段をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
  11. 前記電流を通電する手段が,1対の電極を有することを特徴とする請求項10記載の磁気抵抗効果素子。
  12. 請求項1乃至11のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子を具備する磁気ヘッド。
  13. 請求項12記載の磁気ヘッドを具備する磁気記憶装置。
  14. 請求項1記載の磁気抵抗効果素子を具備する磁気メモリ。
  15. 第1のピニング層を形成するステップと,
    前記第1のピニング層上に,第1の磁性層を形成するステップと,
    前記第1の磁性層上に接してTiからなる金属層を形成するステップと,
    前記金属層を酸化してTi酸化物のみからなる薄膜層を形成するステップと,
    前記薄膜層上に接して,第2の磁性層を形成するステップと,
    前記第2の磁性層上に,第2のピニング層を形成するステップと,
    前記第1,第2のピニング層を用いて,前記第1,第2の磁性層の磁化方向を固着するステップと,
    を具備することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
  16. 前記薄膜層を形成するステップが,酸素,窒素,または酸素窒素ガス雰囲気中で,前記金属層にイオンまたはプラズマを照射するステップを有することを特徴とする請求項15記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
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