JP3547974B2 - 磁気素子とそれを用いた磁気ヘッドおよび磁気記憶装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トンネル電流を利用した磁気素子とそれを用いた磁気ヘッドおよび磁気記憶装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気抵抗効果は、ある種の磁性体に磁界を加えることにより電気抵抗が変化する現象である。このような磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗効果素子(以下、MR素子と記す)は、磁気ヘッド、磁気センサなどに使用されており、さらには磁気抵抗効果メモリなどが提案されている。このようなMR素子には、外部磁界に対する感度が大きいこと、応答速度が早いことなどが要求されている。
【0003】
強磁性体を用いたMR素子は、温度安定性に優れ、使用温度範囲が広いというような特徴を有しており、従来からNiFe合金などの強磁性合金の薄膜が使用されてきた。しかし、その磁気抵抗変化率は 2〜3%程度と小さいため、これを用いた磁気ヘッドでは十分な感度が得られないという問題があった。
【0004】
一方、近年、強磁性層と非磁性金属層とを数nmの周期で積層した積層膜が、スピンの方向に依存して巨大磁気抵抗効果を示す材料として注目されている。例えば、Fe/Cr人工格子膜(Phys. Rev. Lett.61, 2472(1988))、Co/Cu人工格子膜(J.Mag. Mag. Mater.94, L1(1991))などの強磁性層間の相互作用を反強磁性結合させたものが見出されている。しかし、強磁性層間の反強磁性結合を利用した金属人工格子膜は反強磁性交換結合定数が大きいため、飽和磁界が大きく、またヒステリシスも非常に大きいという問題を有している。
【0005】
飽和磁界を小さくする目的で、強磁性層/非磁性層/強磁性層のサンドイッチ積層膜の一方の強磁性層に交換バイアスを及ぼして磁化を固定し、他方の強磁性層を外部磁界により磁化反転させることによって、 2つの強磁性層の磁化方向の相対角度を変化させる、いわゆるスピンバルブ膜が開発されている。しかし、スピンバルブ膜は積層膜の抵抗が小さく出力電圧が小さいため、大きな出力電圧を得るためにはセンス電流を大きくする必要がある。このため、スピンバルブ膜を使用した磁気ヘッドでも、エレクトロマイグレーションなどの問題が存在する。MR素子を用いたメモリなどを考慮しても、非磁性金属を中間層とした場合には大きな出力電圧が得られないという同様の問題が存在する。
【0006】
また、上述したような多層膜(金属人工格子膜)に対して電流を膜面に垂直方向に流す、いわゆる垂直磁気抵抗効果を利用すると、非常に大きな磁気抵抗変化率が得られることが知られている(Phys. Rev. Lett.66, 3060(1991))。しかし、この場合には電流パスが小さく、また各層が金属であるために抵抗が小さいことから、サブミクロン以下に微細加工しないと室温での磁気抵抗効果を測定できないという問題がある。
【0007】
さらに、上述した多層膜構造とは異なり、非磁性金属マトリックス中に磁性超微粒子を分散させた、いわゆるグラニュラー磁性膜もスピンに依存した伝導に基ずく巨大磁気抵抗効果を示すことが見出されている(Phys. Rev. Lett.68, 3745(1992))。このようなグラニュラー磁性膜では、磁界を加えない状態では磁性超微粒子の性質により、各磁性超微粒子のスピンが互いに不規則な方向を向いているために電気抵抗が大きく、磁界を加えて各スピンを磁界の方向に揃えると抵抗が低下し、その結果スピンに依存した磁気抵抗効果が発現する。しかし、この場合の磁性超微粒子は超常磁性を示すため、飽和磁界が本質的に非常に大きいという問題を有している。
【0008】
一方、スピン依存散乱とはメカニズムを異にする、強磁性トンネル効果に基く巨大磁気抵抗効果が見出されている。これは 2つの強磁性金属層の間に絶縁層を挿入したサンドイッチ膜において、膜面に垂直に電流を流して絶縁層のトンネル電流を利用するものであり、例えば保磁力の小さい強磁性金属層のスピンのみを反転させると、 2つの強磁性金属層のスピンが互いに平行なときと反平行なときでトンネル電流が大きく異なるために巨大磁気抵抗効果が得られる。このような強磁性トンネル接合素子は構造が簡単であり、また比較的大きな磁気抵抗変化率が得られるものの、所望の出力電圧値を得るために強磁性トンネル接合素子に流す電流値を増やすと磁気抵抗変化率が大幅に減少するという問題を有している (Phys. Rev. Lett.74, 3273(1995))。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、スピン依存散乱を利用した磁気抵抗効果素子において、反強磁性結合を利用した金属人工格子膜は、飽和磁場やヒステリシスが非常に大きいという問題を有している。また、スピンバルプ膜では大きな出力電圧が大きなセンス電流を流さないと得られず、エレクトロマイグレーションが発生しやすいというような問題がある。さらに、グラニュラー磁性膜は磁性超微粒子が超常磁性を示すため、飽和磁界が本質的に大きいという問題を有している。
【0010】
一方、強磁性トンネル接合素子は、室温で比較的大きな磁気抵抗変化率が得られ、また飽和磁界が小さいというような特徴を有する反面、所望の出力電圧値を得るために、強磁性トンネル接合素子に流す電流値を増やすと磁気抵抗変化率が大幅に減少するという問題を有している。
【0011】
本発明はこのような課題に対処するためになされたものであり、磁気抵抗変化率が大きいと共に飽和磁界が小さく、また所望の出力電圧(または電流)値を得るために、素子に流す電流(または電圧)値を増やしても磁気抵抗変化率の減少が少ない磁気素子を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明における第1の磁気素子は、トンネル電流を流し得る厚さを有する絶縁層と、前記絶縁層を挟持するように配置された第1の強磁性膜および第2の強磁性膜とを具備する磁気素子において、前記第1の強磁性膜および第2の強磁性膜の少なくとも一方は、前記強磁性膜の膜厚方向に配置された非磁性体、もしくは前記強磁性膜の結晶粒界に沿って配置された非磁性体で分断されていることを特徴としている。
【0013】
第2の磁気素子は、誘電体マトリックス中に分散させた強磁性微粒子を有し、かつ保磁力を持つグラニュラー磁性膜と、前記グラニュラー磁性膜と近接配置された強磁性膜とを具備し、前記グラニュラー磁性膜と前記強磁性膜との間にトンネル電流を流す磁気素子であって、前記強磁性膜はその膜厚方向に配置された非磁性体、もしくはその結晶粒界に沿って配置された非磁性体で分断されていることを特徴としている。
【0014】
本発明の第1の磁気素子は、例えば前記第1の強磁性膜および第2の強磁性膜の一方のスピンの方向を変化させることにより、磁気抵抗効果を発現させるものである。また、第2の磁気素子も同様に、前記グラニュラー磁性膜および前記強磁性膜の一方のスピンの方向を変化させることにより、磁気抵抗効果を発現させるものである。
【0015】
本発明の磁気ヘッドは、上述した本発明の磁気素子と、前記磁気素子にトンネル電流を流すようにセンス電流を供給する電極とを具備することを特徴としている。また、本発明の磁気記憶装置は、上述した本発明の磁気素子と、前記磁気素子に電流磁界を印加する電極とを具備することを特徴としている。
【0016】
強磁性トンネル接合素子では、所望の出力電圧(または電流)値を得るために、素子に流す電流(または電圧)値を増やした場合、長波長のスピン波(各格子点におけるスピンの傾いた状態が波のようにして伝わるもの:マグノン)が強磁性膜内および強磁性膜間を伝わることによって、磁気抵抗変化率が減少すると考えられる。そこで、本発明の磁気素子においては、トンネル絶縁層を挟持する強磁性膜、もしくはグラニュラー磁性膜と近接配置された強磁性膜を非磁性体で分断している。
【0017】
このように、強磁性トンネル接合素子の強磁性膜を非磁性体で分断することによって、マグノンの伝播を阻止することができるため、センス電流値を増やした場合においても磁気抵抗変化率の減少を抑制することができ、大きな出力電圧を得ることが可能となる。
【0018】
なお、本発明の第2の磁気素子において、グラニュラー磁性膜は誘電体マトリックス中に分散させた強磁性微粒子を有するものであり、超常磁性を示さず有限の保磁力を持つ強磁性体である。このような構造において、強磁性膜とグラニュラー磁性膜との間に電圧を印加すると、強磁性膜の伝導電子はグラニュラー層中の強磁性微粒子間をトンネル効果によって伝導し、トンネル電流が流れる。このとき、スピンの向きは一般に保存される。
【0019】
このような強磁性トンネル接合において、強磁性膜とグラニュラー磁性膜のスピンが同じ方向を向いている場合には、これら各磁性膜のスピンは保存されたままトンネル伝導するので、電子はトンネルしやすい。すなわち抵抗は小さい。これに対して、一方の磁性膜のスピンのみを反転させると、各磁性膜のいずれのスピンバンドも状態密度が小さいスピンバンドを経るので、電子はトンネルし難くなり、従って抵抗は大きくなる。このように、強磁性膜とグラニュラー磁性膜の一方のスピンのみを反転させることによって、巨大磁気抵抗が得られる。
【0020】
そして、第2の磁気素子におけるグラニュラー磁性膜は、超常磁性を示さず、有限の保磁力を有する強磁性体であるため、従来のグラニュラーGMR材料のような飽和磁界が大きいという問題はない。また、本発明の第2の磁気素子は、グラニュラー磁性膜の電流パス方向(膜厚方向あるいは膜面内方向)の長さ、あるいは強磁性微粒子の体積充填率、大きさ、分散状態などを制御することによって、電気抵抗を適当な値に制御することができるというような特徴も有している。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0022】
図1は本発明の第1の磁気素子の一実施形態の要部構造を模式的に示す断面図である。同図において、基板1上には第1の強磁性膜2が形成されており、この第1の強磁性膜2上にはトンネル絶縁層3を介して形成された第2の強磁性膜4が形成されている。トンネル絶縁層3は、第1の強磁性膜2と第2の強磁性膜4との間にトンネル電流を流し得る厚さ、具体的には30nm以下程度の厚さを有する絶縁層であり、これらにより本発明の磁気素子としての強磁性トンネル接合素子5が構成されている。
【0023】
第1および第2の強磁性膜2、4は、膜面方向に非磁性体6で分断されている。すなわち、第1および第2の強磁性膜2、4は図1に示したように、その膜厚方向に配置された非磁性体6で膜面方向に対して分断されている。この強磁性膜2、4を分断する非磁性体6には、Ag、Cu、Au、Ta、B、C、Pd、Pt、Zr、Ir、W、Mo、Nbなどの非磁性元素単体、もしくは非磁性合金、非磁性化合物、非磁性酸化物など、磁性体(磁性粒)同士の交換相互作用を弱めることが可能な種々の非磁性体を使用することができる。また、非磁性体6の厚さは同様に、磁性粒間の交換相互作用を弱めることが可能であればよく、例えば1nm程度の厚さを有していればよい。
【0024】
このように、非磁性体6は強磁性膜2、4内の磁性粒同士の交換相互作用を弱めるように配置されるものである。より具体的には、長波長のスピン波(マグノン)が強磁性膜2、4内を伝わることを防ぐように、非磁性体6は強磁性膜2、4内に配置される。なお、図1では第1および第2の強磁性膜2、4の双方を非磁性体6で分断した構造を示したが、本発明では一方の強磁性膜のみを非磁性体で分断した構造を採用することも可能である。
【0025】
ここで、低エネルギーのマグノンが励起するエネルギーは次式で与えられる。
E= 2J( 2π/N)2 …(1)
Nは単位体積中の原子数であり、Jは磁性体の交換エネルギーでキュリー点に比例する。従って、マグノンのエネルギーEが与えられたとき、 (1)式から決まるNよりも小さい粒子ではマグノンは励起しないことになる。例えば、E=0.01eVのとき、 (1)式から
N−2=( 2J/0.01)( 2π)−2 …(2)
J= 1500Kとすれば 1eV=104 K であるから、 (2)式から
N=16.8
となる。結晶の大きさは格子定数をa=0.25nmとして
Na=16.8×0.25nm= 4.2nm
すなわち、直径が 4.2nm以下の粒子では、E=0.01eV以下のエネルギーを持つマグノンは励起されないことを意味する。
【0026】
上述したように、強磁性膜2、4を非磁性体6でマグノンのエネルギーから導かれるある粒子以下の大ききに分断することによって、強磁性膜2、4内をマグノンが伝播することを防ぐことができる。ただし、非磁性体6で分断した後の粒子の大きさがあまり小さすぎると、スピンを維持することができなくなる。このため、強磁性膜2、4はスピンを保ち得る範囲内で、マグノンの伝播をより有効に防ぐことが可能なように、できるだけ小さく分断することが好ましい。
【0027】
強磁性膜2、4を非磁性体6で分断する、言い換えると強磁性膜2、4内に非磁性体6を配置する方法としては、例えば強磁性膜2、4の下地として非磁性体層(例えば非磁性金属層)を配置(図1では図示せず)し、この積層膜に熱処理を施すことによって、強磁性膜2、4の結晶粒界に沿って非磁性体6を配置することができる。すなわち、強磁性膜2、4はその結晶粒の大きさに応じて非磁性体6で分断される。この場合、強磁性膜2、4を構成する結晶粒の大きさを予め制御しておくことによって、強磁性膜2、4を所望の大きさを有する磁気粒に非磁性体6で分断することができる。
【0028】
第1の強磁性膜2および第2の強磁性膜4は、例えば外部磁界により一方の強磁性膜のスピンの方向のみを変化させることが可能とされており、これにより巨大磁気抵抗効果が発現する。第1および第2の強磁性膜2、4のスピンが同じ方向を向いている状態において、強磁性トンネル接合素子5の抵抗(膜面垂直方向へのトンネル電流の抵抗)は最小となり、この状態から一方の強磁性膜のスピン方向を外部磁界などにより反転させることによって、強磁性トンネル接合素子5の抵抗は最大となる。この際、他方の強磁性膜のスピンは外部磁界に対して実質的に固定されているようにする。
【0029】
第1および第2の強磁性膜2、4のうち、一方の強磁性膜のスピンの方向のみを変化させるためには、例えば強磁性体の保磁力の差を利用してもよいし、また図2に示すように、一方の強磁性膜(図2では第2の強磁性膜4)を反強磁性膜7と積層し、この反強磁性膜7との交換結合により磁化を固定するようにしてもよい。強磁性膜2、4の具体的な材質は特に限定されるものではなく、パーマロイに代表されるFe−Ni合金、強磁性を示すFe、Co、Niおよびそれらを含む合金、NiMnSb、PtMnSbなどのホイスラー合金、CrO2 、マグネタイト、LaSrMnO3 などの酸化物系磁性材料、アモルファス合金などの種々の軟磁性材料から、Co−Pt合金、Fe−Pt合金、遷移金属−希士類合金などの硬磁性材料まで、種々の強磁性材料を使用することができる。
【0030】
このような各層からなる強磁性トンネル接合素子5は典型的には薄膜状であり、分子線エピタキシー(ΜBE)法、各種スパッタ法、蒸着法などの通常の薄膜形成方法を適用して作製することができる。なお、本発明の強磁性トンネル接合素子5は、磁性材料または非磁性材料からなる下地層、または非磁性材料からなるオーバーコー卜層などを設けてもよい。
【0031】
上述した実施形態の強磁性トンネル接合素子5は、強磁性膜2、4を非磁性体6で分断しているため、マグノンの伝播を防ぐことができる。従って、所望の出力電圧値を得るために、強磁性トンネル接合素子5に流す電流値を増やしても、磁気抵抗変化率の減少を抑制することが可能となる。これによって、大きな出力電圧を良好に得ることができる。また、強磁性膜2、4を非磁性体6で分断することによって、強磁性膜2、4はより軟磁性化する。従って、MR素子としての強磁性トンネル接合素子5をより高感度化することができる。
【0032】
強磁性膜2、4を非磁性体6で分断する構造は、図1に示したような構造に限らず、例えば図3に示すように、強磁性層4aと非磁性層8とを交互に積層した構造を採用することもできる。例えば、比較的高いガス圧下で強磁性層4aと非磁性層8とを交互にスパッタ成膜することにより、強磁性層4aが非磁性層8、8aで分断された構造が得られる。このような多層構造の強磁性膜4に熱処理を施して、各強磁性層4aの結晶粒界に沿って非磁性体8aを配置する。このような多層構造の強磁性膜4は、各強磁性層4aと積層された非磁性層8と各強磁性層4a内に配置された非磁性体8aとにより分断される。なお、図3では一方の強磁性膜4のみを多層構造とした場合について示したが、両強磁性膜2、4に多層構造を採用することも可能である。
【0033】
また、非磁性体で分断された強磁性膜としては、数nm程度の磁性微粒子が非磁性体で分断されたナノ結晶材料を用いることも可能である。さらに、後述する第2の発明におけるグラニュラー磁性膜は、磁性微粒子が誘電体マトリックスで分断された構造を有しているため、これを第1の発明における非磁性体で分断された強磁性膜として使用することも可能である。
【0034】
上述した巨大磁気抵抗効果を示す強磁性トンネル接合素子5においては、その積層方向にセンス電流を流して、第1および第2の強磁性膜2、4間にトンネル電流を流す。このようなトンネル電流を含むセンス電流の電圧を測定することによって、信号磁界などの外部磁界を検出することができる。この外部磁界の検出機能は、従来のMR素子と同様に、磁気抵抗効果型の磁気ヘッドや磁界センサなどに利用することができる。また第1および第2の強磁性膜2、4のうち、保磁力が小さい一方の強磁性膜を記録層とし、他方をスピン固定層とし、同様なセンス電流で記録層の磁化方向を判定することにより、記録層に書き込まれたデータを読み取ることができる。これは磁気記憶装置として利用することができる。
【0035】
次に、本発明の第2の磁気素子の実施形態について述べる。
【0036】
図4は本発明の第2の磁気素子の一実施形態の要部構造を模式的に示す断面図である。図4に示す磁気素子11は、基板12上に形成したグラニュラー磁性膜13と、このグラニュラー磁性膜13上に積層形成された強磁性膜14とを有している。グラニュラー磁性膜13は、誘電体マトリックス15中に磁性微粒子16を分散させた構造を有している。これらグラニュラー磁性膜13と強磁性膜14との積層膜17において、積層順は特に限定されるものではない。
【0037】
また、積層膜17の構成は例えば図5に示すように、 2層の強磁性膜14a、14bでグラニュラー磁性膜13を挟持した構造、すなわち第1および第2の強磁性膜14a、14bがグラニュラー磁性膜13を挟んで対向配置された構造であってもよい。これら積層膜17は強磁性トンネル接合を構成するものである。このような積層膜17において、グラニュラー磁性膜13と強磁性膜14との間に電圧を印加すると、強磁性膜14の伝導電子はグラニュラー磁性膜13中の磁性微粒子16へトンネル効果によって伝導する。この際、グラニュラー磁性膜13と強磁性膜14のうち、保磁力が小さい磁性膜のスピンの方向を外部磁界などで変化させることによって、巨大磁気抵抗効果が発現する。
【0038】
積層型の磁気素子11は、少なくとも 1層のグラニュラー磁性膜13と少なくとも 1層の強磁性膜14とを積層した積層膜17を有していればよく、例えばグラニュラー磁性膜13と強磁性膜14とをさらに多層積層した積層膜を適用することも可能である。また、グラニュラー磁性膜13の下地としてCrなどの非磁性金属膜を配置してもよい。なお、グラニュラー磁性膜13と強磁性膜14との間には、トンネル電流が流れる程度の厚さの絶縁膜を介在させてもよく、この絶縁膜により電気抵抗を制御することもできる。
【0039】
上記した磁気素子11において、強磁性膜14(14a、14b)は前述した第1の実施形態と同様に、図4および図5に示した非磁性体6、すなわち強磁性膜14の膜厚方向に配置された非磁性体6で分断されている。強磁性膜14を非磁性体6で分断する大きさ、非磁性体6の材質や厚さ、非磁性体6の強磁性膜14内への配置方法などは、前述した第1の実施形態と同様とする。この実施形態の磁気素子11においても、非磁性体6で分断された強磁性膜14はマグノンの伝播が抑制される。
【0040】
非磁性体6で分断されている強磁性膜14の構成材料としては、例えばパーマロイに代表されるFe−Ni合金、強磁性を示すFe、Co、Niおよびそれらを含む合金、NiMnSb、PtMnSbなどのホイスラー合金、CrO2 、マグネタイト、LaSrMnO3 などの酸化物系磁性材料などの軟磁性材料を使用することができる。これら強磁性材料は、Ag、Cu、Au、Ta、B、C、Pd、Pt、Zr、Ir、W、Mo、Nbなどの非磁性元素を多少含んでいても、強磁性を失わない限り特に問題はない。
【0041】
また、図5に示したように、 2層以上の強磁性膜14a、14bを使用する場合には、これらは必ずしも同じ材料で構成する必要はない。 2層の強磁性膜14a、14bの保磁力が異なる場合には、例えば多値メモリとして使用することができる。強磁性膜14は単層構造に限らず、非磁性層を介して配置した 2つの強磁性層を有し、これら強磁性層の磁化を互いに反平行となるように結合させた積層膜で、強磁性膜14を構成することもできる。このような反平行に結合させた積層膜によれば、強磁性膜14から磁束が外部に漏れることを防ぐことができる。 さらに、強磁性層と半導体層とを交互に積層した積層膜を、強磁性膜14として用いることもできる。この場合には、熱や光照射によりスピンを反転させることができるため、磁界が不要になるという特徴がある。このような積層膜に用いる半導体としては、B20構造のFeSi合金などが挙げられる。なお、上記した強磁性層と非磁性層とを交互に積層した積層膜や強磁性層と半導体層とを交互に積層した積層膜は、グラニュラー磁性膜13を介して配置した 2つの強磁性膜14a、14bのうちの一方に適用してもよい。
【0042】
一方、誘電体マトリックス15中に磁性微粒子16を分散させたグラニュラー磁性膜13のスピンは超常磁性を示さず、有限の保磁力を持つ強磁性体であり、理想的にはそのスピンは一方向に揃っていることが望ましい。グラニュラー磁性膜13のスピンを一方向に固着する方法としては、例えばグラニュラー磁性膜13に接してFeMn、PtMn、IrMn、CrPtMn、NiMn、NiO、Fe2 O3 などの反強磁性膜を配置し、バイアス磁界を印加するなどの方法を採用することができる。
【0043】
磁性微粒子16には種々の強磁性材料を使用することができる。例えば、グラニュラー磁性膜13を磁化固定層とする場合には、磁気異方性の大きいCo、 Co−Pt合金、Fe−Pt合金、遷移金属−希土類合金などを用いることが好ましい。グラニュラー磁性膜13を軟磁性層として用いる場合、特に磁性微粒子16の構成材料は限定されるものではなく、Fe、Co、Niおよびそれらを含む合金、スピン分極率の大きいマグネタイト、CrO2 、RXMnO3−y (Rは希土類金属、XはCa、BaおよびSrから選ばれる少なくとも 1種の元素、 yは 0に近い値)などの酸化物系磁性材料、NiMnSb、PtMnSbなどのホイスラー合金などを使用することができる。
【0044】
また、グラニュラー磁性膜13を磁化固定層とする場合においても、グラニュラー磁性膜13に接してFeMn、PtMn、IrMn、CrPtMn、NiMn、NiO、Fe2 O3 などの反強磁性膜を配置すれば、種々の強磁性材料を磁性微粒子16に適用することができる。さらに、グラニュラー磁性膜13の両端部に一対の硬磁性膜を隣接配置し、この硬磁性膜からグラニュラー磁性膜13にバイアス磁界を印加することによりスピンを固定するようにしてもよい。
【0045】
グラニュラー磁性膜13における磁性微粒子16の粒径は、超常磁性が発現せず、強磁性が維持される大きさ、例えば数nm以上とする必要がある。ただし、あまり磁性微粒子16が大きいと粒子間隔が増大するため、磁性微粒子16の粒径は 5〜10nm程度とすることが好ましい。また、グラニュラー磁性膜13中の磁性微粒子16は、それら微粒子間でトンネル電流が流れるように分散されている必要があり、粒子間隔は 3nm以下程度とすることが好ましい。
【0046】
誘電体マトリックス15としては、Al2 O3 、SiO2 、MgO、AlN、B2 O3 、ΜgF2 、CaF2 、SrTiO3 などの種々の誘電体材料を使用することができ、このような誘電体膜中に上記したような磁性微粒子16を分散させることでグラニュラー磁性膜13が得られる。なお、上記した酸化膜、窒化膜、フッ化膜などでは、それぞれの元素の欠損が一般的に存在するが、そのような誘電体膜であっても何等問題はない。
【0047】
上述したグラニュラー磁性膜13および強磁性膜14は、それぞれ膜面内に一軸磁気異方性を有することが望ましい。これによって、急峻な磁化反転を起こすことができると共に、磁化状態を安定して保持することができる。これらは特に磁気記憶装置に適用する場合に有効である。また、グラニュラー磁性膜13および強磁性膜14の膜厚は、 0.1〜 100nmの範囲とすることが好ましい。このうち、グラニュラー磁性膜13の膜厚はできるだけ薄い方が好ましいが、作製上均一な膜厚を維持することができ、またトンネル電流に対して悪影響を及ぼさない膜厚であればよく、例えば50nm以下であればよい。
【0048】
このような各層からなる磁気素子11は典型的には薄膜状であり、分子線エピタキシー(ΜBE)法、各種スパッタ法、蒸着法などの通常の薄膜形成方法を適用して作製することができる。なお、本発明の磁気素子では、積層膜15に磁性材料または非磁性材料からなる下地層、または非磁性材料からなるオーバーコー卜層などを設けてもよい。
【0049】
上述した磁気素子11においては、グラニュラー磁性膜13と強磁性膜14のうち保磁力が小さい磁性膜のスピンの方向を外部磁界などで変化させることによって、巨大磁気抵抗効果を発現させることができる。すなわち、グラニュラー磁性膜13と強磁性膜14のスピンが同じ方向を向いている状態において、積層膜17の抵抗は最小となり、この状態から保磁力が小さい一方の磁性膜のスピン方向のみを外部磁界などにより反転させることによって、積層膜17の抵抗は最大となる。この際、他方の磁性膜のスピンは外部磁界などに対して実質的に固定されているようにする。このように、一方の磁性膜のスピン反転によって、磁気抵抗変化率が例えば 20%以上というような巨大磁気抵抗効果が得られる。
【0050】
また、積層型の磁気素子においては、グラニュラー磁性膜13と強磁性膜14との積層領域は 1つに限られるものではなく、例えば図6に示すように、グラニュラー磁性膜13上に互いに分離された 2つの以上の強磁性膜14−1、14−2を並列配置するようにしてもよい。図6に示す構造では、グラニュラー磁性膜13と強磁性膜14との積層部分が 2つ形成されている。このような構造の磁気素子においては、グラニュラー磁性膜13と強磁性膜14との積層部分を複数利用することができるため、抵抗変化率の増大を図ることが可能となる。また、このような構造においては、グラニュラー磁性膜13の下側に、それより低抵抗の下地層(図示せず)を設けることが好ましい。この下地層は強磁性金属膜であっても、また非磁性金属膜であってもよく、これらによりグラニュラー磁性膜13の膜面内に沿って流れるトンネル電流を抑制することができる。
【0051】
この実施形態の磁気素子11においても、強磁性膜14を非磁性体6で分断しているため、マグノンの伝播を防ぐことができる。従って、所望の出力電圧値を得るために、強磁性トンネル接合素子としての磁気素子11に流す電流値を増やしても、磁気抵抗変化率の減少を抑制することが可能となる。これによって、大きな出力電圧を良好に得ることができる。また、強磁性膜14を非磁性体6で分断することによって、強磁性膜14はより軟磁性化する。従って、MR素子としての磁気素子11をより高感度化することが可能となる。
【0052】
また、磁気素子11において、グラニュラー磁性膜13は超常磁性ではなく強磁性体であるため、従来のグラニュラーGMR材料のような飽和磁界が大きいという問題を解消することができる。さらに、グラニュラー磁性膜13は誘電体マトリックス15中に磁性微粒子16を分散させているため、絶縁層を有する強磁性トンネル接合に比べて電気抵抗が小さい。さらに、グラニュラー磁性膜13の電流パス方向(膜厚方向)の長さ、あるいは磁性微粒子16の体積充填率、大きさ、分散状態などを制御することによって、電気抵抗を適当な値に制御することができる。これらによって、例えば記憶素子などに用いた場合、素子の高速動作やS/N比の増大などを図ることができる。
【0053】
加えて、磁気抵抗効果を発現させる強磁性トンネル接合(積層膜17)は、グラニュラー磁性膜13をトンネル障壁とし、この積層膜17のトンネル電流は有限の保磁力を有するグラニュラー磁性膜13中の強磁性微粒子16に基くものであるため、第1の実施形態で示した強磁性トンネル接合における絶縁層3ほどグラニュラー磁性膜13を薄くする必要はない。すなわち、グラニュラー磁性膜13の膜厚は、作製上均質な状態が得られる程度とすることができるため、バラツキが小さい安定した特性を再現性よく得ることができる。
【0054】
この実施形態の磁気素子11においては、巨大磁気抵抗効果を示す積層膜5に対して積層方向にセンス電流し、グラニュラー磁性膜13と強磁性膜14との間にトンネル電流を流す。 2層の強磁性膜を用いた場合には、第1の強磁性膜14a、グラニュラー磁性膜13および第2の強磁性膜14bの間にトンネル電流を流す。このようなトンネル電流を含むセンス電流の電圧を測定することによって、信号磁界などの外部磁界を検出することができる。この外部磁界の検出機能は、従来のMR素子と同様に、磁気抵抗効果型の磁気ヘッドや磁界センサなどに利用することができる。また、グラニュラー磁性膜13と強磁性膜14のうち保磁力が小さい磁性膜を記録層とし、他方をスピン固定層とし、同様なセンス電流で記録層の磁化方向を判定することによって、記録層に書き込まれたデータを読み取ることができる。これは磁気記憶装置として利用することができる。
【0055】
次に、本発明の第2の磁気素子の他の実施形態について説明する。
図7は基板面に沿って電流を流すプレーナ型構造を適用した磁気素子の基本構造の一例を模式的に示す図である。図7に示すプレーナ型磁気素子18において、基板12上にはグラニュラー磁性膜13とそれを挟持する 2つの強磁性膜14、14とが基板面に沿って配列されている。すなわち、グラニュラー磁性膜13を挟んで対向配置された 2つの強磁性膜14、14(第1および第2の強磁性膜)が基板面に沿って配列されている。この基板面と平行な方向に接続されたグラニュラー磁性膜13と強磁性膜14との接合部(平行配列型接合部)が強磁性トンネル接合を構成している。なお、一方の強磁性膜14に代えて、電極として利用し得る非磁性金属膜を配置してもよい。
【0056】
上記したプレーナ型の磁気素子18における各層の具体的な構成や付加的な構成などは、前述した積層型の磁気素子11と同様である。そして、プレーナ型の磁気素子18は、グラニュラー磁性膜13と強磁性膜14との間のトンネル電流を含むセンス電流を、基板面に沿って流す以外は前述した積層型の磁気素子11と同様に、グラニュラー磁性膜13と強磁性膜14のうち保磁力が小さい磁性膜のスピンの方向を外部磁界などで変化させることによって、巨大磁気抵抗効果が発現する。
【0057】
このようなプレーナ型の磁気素子18においても、強磁性膜14を非磁性体6で分断しているため、マグノンの伝播を防ぐことができる。従って、所望の出力電圧値を得るために、強磁性トンネル接合素子としての磁気素子11に流す電流値を増やしても、磁気抵抗変化率の減少を抑制することが可能となる。これによって、大きな出力電圧を良好に得ることができる。さらに、プレーナ型の磁気素子18は、微細加工技術を用いて容易に作製できるため、安定した特性が得られやすいと共に、素子の高密度化を容易に達成することが可能である。
【0058】
上述した各実施形態の磁気素子5、11、18は、それぞれ磁気抵抗効果型磁気ヘッド、磁界センサ、磁気記憶装置、などに適用することができる。
【0059】
各実施形態の磁気素子5、11、18を用いた磁気抵抗効果型磁気ヘッドは、従来の磁気抵抗効果ヘッドと同様に構成することができる。すなわち、磁気素子5、11、18にセンス電流を供給する電極を設置すると共に、一方の磁性膜(磁気素子5では第1および第2の強磁性膜2、4のいずれか、磁気素子11、18ではグラニュラー磁性膜13と強磁性膜14のいずれか)を感磁層として利用し、この感磁層の磁化方向を例えば信号磁界に応じて変化させる。その際の接合部の抵抗を測定することによって、信号磁界などを検出することができる。これは磁気記録装置などの再生ヘッドとして有効である。また、磁界センサなどとしても使用可能である。
【0060】
次に、各実施形態の磁気素子5、11、18を磁気メモリなどの磁気記憶装置に適用する場合について説明する。
【0061】
この場合、一方の磁性膜を記録層、他方をスピン固定層とする。例えば、磁気素子11、18において、強磁性膜14を記録層とした場合、再生は記録層である強磁性膜14とグラニュラー磁性膜13間の誘起電圧を測定することにより実施される。すなわち、記録層のスピンを反転させ、グラニュラー磁性膜13のスピンと平行あるいは反平行に対応して“1”、“0”を指定する。再生は記録層としての強磁性膜14とグラニュラー磁性膜13間の電圧を測定すれば、磁気抵抗効果のために“1”または“0”によって再生電圧が異なるので、それを識別できることになる。強磁性膜14への“1”または“0”の記録は、例えば強磁性膜4の上方にワード線(電流磁界を印加するための電極)を設け、それにパルス電流を流し、その向きをスイッチすることによって実施される。この動作において、グラニュラー磁性膜13のスピンは、そのより大きな保磁力のために向きを変えない。なお、グラニュラー磁性膜13を記録層に用い、強磁性膜14をスピン固定層としてもよい。
【0062】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0063】
実施例1
スパッタ装置を用いて、熱酸化Si基板上に厚さ 100nmのAg層を形成し、その上に厚さ 5nmのFe層を積層した後、このFe層上にグラニュラー磁性膜を形成した。グラニュラー磁性膜は、Co80Pt20合金とSiO2 をターゲットとし、Arガス圧 1×10−3Torr、基板バイアス300Wの条件下で同時スパッタを行って形成した。その結果、SiO2 中にCoPt合金粒子が分散した膜厚10nmのグラニュラー磁性膜が形成された。また、磁気測定の結果、保磁力は1.8kOe と大きく、明瞭なヒステリシス曲線が得られ、超常磁性的挙動は観測されなかった。
【0064】
上記したグラニュラー磁性膜上に、Ag(3nm)/Ni80Fe20(5nm)を積層した試料1と、(Ag(1nm)/Ni80Fe20(2nm))を10層積層した試料2を作製した後、Ag層を積層した。その後、試料1、2をそれぞれ 300℃の温度で磁場中熱処理して、一軸異方性を付与した。また、この磁場中熱処理によって、強磁性膜としてのFe層およびNi80Fe20層の粒界にAgを拡散させた。これら強磁性膜はAgで分断されていることが断面TEMの結果から明らかになった。
【0065】
これら試料1、2のトンネル磁気抵抗変化率の印加電圧依存性を測定した。測定結果を図8に示す。図8から明らかなように、素子に印加する電圧値を増やしても磁気抵抗変化率の減少が少ないことが分かる。これにより、大きな出力電圧が得られる磁気素子を提供することができる。また、Ag分断Ni80Fe20は約4Oe という小さな磁場で急峻に磁気抵抗が変化し、磁気抵抗効果型ヘッド、磁気センサ、磁気記憶装置として良好な特性を示した。
【0066】
実施例2
スパッタ装置を用いて、ガラス基板上にCo80Fe20とCuをターゲットとして、Arガス圧 1×10−3Torrの条件下で同時スパッタを行った。その後、 300℃で30分間アニールを行った。その結果、Cu中にCo80Fe20粒子が分散した膜厚 100nmのグラニュラー磁性膜が得られた。磁気測定の結果、保磁力は0.3kOe と大きく、明瞭なヒステリシス曲線が得られ、超常磁性的挙動は観測されなかった。
【0067】
上記したグラニュラー磁性膜上に、厚さ 1nmのAl膜を成膜した後、チャンバ内にAr+O2 ガスを導入してプラズマ酸化を行い、Al2 O3 膜を形成した。この上にAg(3nm)/Ni80Fe20(5nm) を積層した試料1と、(Ag(1nm)/Ni80Fe20(2nm))を10層積層した試料2を作製した後、CAP層としてAg層を 100nm成膜した。その後、試料1、2をそれぞれ 300℃の温度で磁場中熱処理し、一軸異方性を付与した。また、この磁場中熱処理によって、強磁性膜としてNi80Fe20中にAgを拡散させた。Ni80Fe20強磁性膜はAgで分断されていることが断面TEMの結果から明らかになった。
【0068】
これら試料1、2のトンネル磁気抵抗変化率の印加電圧衣存性を測定した。それらの結果を図9に示す。なお、図9には強磁性膜を非磁性体で分断していない、Co80Fe20/Al2 O3 /NiFeトンネル接合(比較例)の測定結果を併せて示す。比較例としてのCo80Fe20/Al2 O3 /NiFeトンネル接合では、素子に印加した電圧値を増やすと磁気抵抗変化率が急速に減少するのに対して、非磁性元素Cu、Agで分断された強磁性膜を有する実施例2の各素子は、印加電圧値を増やしても磁気抵抗変化率の減少が少なく、大きな出力電圧が得られることが分かった。また、Ag分断Ni80Fe20は約 4Oe という小さな磁場で急峻に磁気抵抗が変化し、磁気抵抗効果型ヘッド、磁気センサ、磁気記憶装置として良好な特性を示した。
【0069】
実施例3
スパッタ装置を用いて、熱酸化Si基板上にCr下地膜を形成し、このCr下地膜上にグラニュラー磁性膜を形成した。グラニュラー磁性膜は、Co80Pt20合金とAl2 O3 をターゲットとし、Arガス圧 1×10−3Torr、基板バイアス 300Wの条件下で同時スパッタを行って形成した。その結果、Al2 O3 中にCoPt合金粒子が分散した膜厚10nmのグラニュラー磁性膜が得られた。また、磁気測定の結果、保磁力は2kOe と大きく、明瞭なヒステリシス曲線が得られ、超常磁性的挙動は観測されなかった。
【0070】
このグラニュラー磁性膜上に、 5層の(Mo(1nm)/Co50Fe30Ni20(2nm))をArガス圧 1×10−2Torrの条件下で成膜して試料とした。この際、Arガス圧を高くすると積層が平坦でなくなり、例えば図3に示したように、強磁性層が非磁性層で分断された構造が得られる。このような強磁性膜にミリングにより微細加工を行って、図6に構造を示したような素子を作製した。その後、磁場中熱処理を行って一軸異方性を付与した。
【0071】
この試料のトンネル磁気抵抗変化率の印加電圧依存性を測定した。その結果を図10に示す。非磁性元素Moで分断された強磁性膜を有する素子は、印加した電圧値を増やしても磁気抵抗変化率の減少が少なく、大きな出力電圧が得られることが分かった。また、Mo分断Co50Fe30Ni20は約15Oe という小さな磁場で急峻に磁気抵抗が変化し、磁気抵抗効果型ヘッド、磁気センサ、磁気記憶装置として良好な特性を示した。
【0072】
実施例4
スパッタ装置を用いて、ガラス基板上にCo−Fe−Nb−Si−Bをターゲットとし、Arガス圧 1×10−3Torrの条件下でスパッタを行った。その後、 500℃で30分間アニールを行って、膜厚 100nmのナノ結晶層を作製した。その上に、Alを 1nm成膜した後、チャンバ内にAr+O2 ガスを導入してプラズマ酸化を行い、Al2 O3 膜を作製した。
【0073】
このAl2 O3 膜上にAg(3nm)/Co(5nm) を積層した試料を作製した。さらにその上に、Ag(3nm)/Co(5nm) 層の磁化を固着するために、厚さ 7nmのFeMn膜を成膜した後、CAP層としてAg層を 100nm成膜した。その後、試料を300℃にて磁場中熱処理を行って一軸異方性を付与し、FeMnのブロッキング温度直上で磁場の方向を90度回転し、室温まで温度を下げた。また、この磁場中熱処理によって、強磁性膜としてのCo中にAgを拡散させた。これによって、一方の強磁性膜がナノ結晶層で、他方の強磁性膜がAgで分断された構造が得られていることが、断面TEMの結果から明らかになった。
【0074】
この試料のトンネル磁気抵抗変化率の印加電圧依存性を測定した。その結果を図11に示す。図11から明らかなように、この実施例の素子は印加する電圧値を増やしても磁気抵抗変化率の減少が少なく、大きな出力電圧が得られることが分かる。また、ナノ結晶層は約 3Oe という小さな磁場で急峻に磁気抵抗が変化し、磁気抵抗効果型ヘッド、磁気センサ、磁気記憶装置として良好な特性を示した。
【0075】
実施例5
スパッタ装置を用いて、SiO2 基板上に厚さ 100nmのCrを形成し、その上にグラニュラー磁性膜を作製した。グラニュラー磁性膜は、Co90Fe10合金とAl2 O3 をタ一ゲットとし、Arガス圧 1×10−3Torr、基板バイアス400Wの条件下で同時スパッタを行った。その結果、Al2 O3 中にCoFe合金粒子が分散した膜厚15nmのグラニュラー磁性膜が得られた。また、磁気測定の結果、保磁力は約30Oe と小さいが、明瞭な角形をもった強磁性的なヒステリシス曲線が得られ、超常磁性的挙動は観測されなかった。
【0076】
このグラニュラー磁性膜上に、Ag(3nm)/Co80Pt20(5nm) を積層し、さらにCAP層としてAg層を 100nm成膜して試料とした。その後、この試料を 300℃にて磁場中熱処理を行って一軸異方性を付与した。また、この磁場中熱処理によって、強磁性膜としてのCo80Pt20の粒界にAgを拡散させた。この強磁性膜がAgで分断されていることは断面TEMの結果から明らかになった。
【0077】
この試料のトンネル磁気抵抗変化率の印加電圧依存性を測定した。その結果を図12に示す。図12から明らかなように、素子に印加した電圧値を増やしても磁気抵抗変化率の減少が少なく、大きな出力電圧が得られることが分かる。また、グラニュラー磁性膜は約30Oe という小さな磁場で急峻に磁気抵抗が変化し、磁気抵抗効果型ヘッド、磁気センサ、磁気記憶装置として良好な特性を示した。
【0078】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の磁気素子によれば、強磁性トンネル接合に流すセンス電流値を増やしても磁気抵抗変化率の減少が少ないため、大きな出力電圧を安定して得ることができる。このような磁気素子は磁気抵抗効果型ヘッド、磁界センサ、磁気記憶装置などに好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の磁気素子の一実施形態の要部構造を模式的に示す断面図である。
【図2】図1に示す磁気素子に反強磁性膜を付加した状態を模式的に示す断面図である。
【図3】図1に示す磁気素子の変形例の要部構造を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の第2の磁気素子の一実施形態の要部構造を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の第2の磁気素子の他の実施形態の要部構造を模式的に示す断面図である。
【図6】図4に示す磁気素子の変形例の要部構造を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の第2の磁気素子のさらに他の実施形態の要部構造を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施例1による磁気素子のトンネル磁気抵抗変化率の印加電圧依存性の測定結果を示す図である。
【図9】本発明の実施例2によるトンネル磁気抵抗変化率の印加電圧依存性の測定結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例3によるトンネル磁気抵抗変化率の印加電圧依存性の測定結果を示す図である。
【図11】本発明の実施例4によるトンネル磁気抵抗変化率の印加電圧依存性の測定結果を示す図である。
【図12】本発明の実施例5によるトンネル磁気抵抗変化率の印加電圧依存性の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
2、4、14……強磁性膜
3……トンネル絶縁層
5、11、18……磁気素子
6……非磁性体
13……グラニュラー磁性膜
15……誘電体マトリックス
16……強磁性微粒子
Claims (8)
- トンネル電流を流し得る厚さを有する絶縁層と、前記絶縁層を挟持するように配置された第1の強磁性膜および第2の強磁性膜とを具備する磁気素子において、前記第1の強磁性膜および第2の強磁性膜の少なくとも一方は前記強磁性膜の膜厚方向に配置された非磁性体で分断されていることを特徴とする磁気素子。
- トンネル電流を流し得る厚さを有する絶縁層と、前記絶縁層を挟持するように配置された第1の強磁性膜および第2の強磁性膜とを具備する磁気素子において、前記第1の強磁性膜および第2の強磁性膜の少なくとも一方は前記強磁性膜の結晶粒界に沿って配置された非磁性体で分断されていることを特徴とする磁気素子。
- 請求項1または請求項2記載の磁気素子において、
前記第1の強磁性膜および第2の強磁性膜の一方のスピンの方向を変化させることにより、磁気抵抗効果を発現させることを特徴とする磁気素子。 - 誘電体マトリックス中に分散させた強磁性微粒子を有し、かつ保磁力を持つグラニュラー磁性膜と、前記グラニュラー磁性膜と近接配置された強磁性膜とを具備し、前記グラニュラー磁性膜と前記強磁性膜との間にトンネル電流を流す磁気素子であって、前記強磁性膜はその膜厚方向に配置された非磁性体で分断されていることを特徴とする磁気素子。
- 誘電体マトリックス中に分散させた強磁性微粒子を有し、かつ保磁力を持つグラニュラー磁性膜と、前記グラニュラー磁性膜と近接配置された強磁性膜とを具備し、前記グラニュラー磁性膜と前記強磁性膜との間にトンネル電流を流す磁気素子であって、前記強磁性膜はその結晶粒界に沿って配置された非磁性体で分断されていることを特徴とする磁気素子。
- 請求項4または請求項5記載の磁気素子において、
前記グラニュラー磁性膜および前記強磁性膜の一方のスピンの方向を変化させることにより、磁気抵抗効果を発現させることを特徴とする磁気素子。 - 請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の磁気素子と、前記磁気素子にトンネル電流を流すようにセンス電流を供給する電極とを具備することを特徴とする磁気ヘッド。
- 請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の磁気素子と、前記磁気素子に電流磁界を印加する電極とを具備することを特徴とする磁気記憶装置。
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