JP3593463B2 - 強磁性トンネル効果素子およびそれを用いた磁気装置 - Google Patents

強磁性トンネル効果素子およびそれを用いた磁気装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、強磁性トンネル効果を利用した磁気素子と、それを用いた磁気ヘッドや磁気記憶素子などの磁気装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、金属人工格子における巨大磁気抵抗効果(GMR)が発見されて以来、スピンに依存した伝導現象が注目されている。金属人工格子は磁性金属層と非磁性金属層とを数オングストロームから数十オングストロームのオーダの周期で交互に積層した構造を有し、非磁性層を介して相対する磁性層の磁気モーメントが零磁場状態で反平行に結合したものである。このような金属人工格子膜は数 10%という、従来のパーマロイ合金膜などの数% よりも格段に大きな抵抗変化率を示し、高感度磁界センサや磁気ヘッドなどへの応用が期待されている。
【0003】
また、この原理を利用した他の磁気抵抗効果膜としてスピンバルブ膜が知られており、高感度磁気センサなどに使用されはじめている。スピンバルブ膜は、それぞれ金属からなる強磁性層/非磁性層/強磁性層/反強磁性層の 4層積層膜からなり、一方の強磁性層を反強磁性層と接触させることでスピンを固定し、他方のスピンのみを磁場で反転させ、非磁性層を介した 2つの強磁性層のスピンを互いに平行あるいは反平行に制御することによって、巨大磁気抵抗効果を得るものである。このような巨大磁気抵抗効果は伝導電子のスピン依存散乱に基づくことが判明している。
【0004】
さらに、上述したような金属人工格子膜とは異なり、非磁性金属マトリックス中に金属磁性超微粒子を分散させたいわゆる金属グラニュラー磁性膜も、同様なスピン依存散乱に基づくGMR効果を示すことが見出されている。
【0005】
一方、スピン依存散乱とはメカニズムを異にする、強磁性トンネル効果に基づく巨大磁気抵抗効果が見出されている。これは強磁性層/絶縁層/強磁性層の 3層積層膜からなる接合構造を有し、一方の強磁性層の保磁力が他方の強磁性層の保磁力よりも小さい構造において、両磁性層間に電圧を印加してトンネル電流を発生させるものである。このとき、保磁力の小さい磁性層のスピンのみを反転させると、 2つの強磁性層のスピンが互いに平行なときと反平行なときとでトンネル電流が大きく異なるため、巨大磁気抵抗効果が得られる。この原理は強磁性体のフェルミ面における状態密度のスピン非対称性にあることが分かっている。このような強磁性トンネル効果は、誘電体中に磁性超微粒子を分散させた、いわゆるグラニュラー膜においても見出されている。
【0006】
上述した強磁性トンネル接合素子は構造が簡単であり、しかも室温で 20%程度の大きな磁気抵抗変化率が得られるという特徴を有している。しかしながら、トンネル効果を発現させるためには絶縁層の厚さを数nm以下に薄くする必要があり、そのような薄い絶縁層を均質に、しかも安定して作製することは困難であるため、抵抗や抵抗変化率のバラツキが大きくなってしまうという問題を有している。また、一般に接合抵抗が大きいため、スピン依存伝導素子として用いた場合に、素子の高速動作が得られず、また雑音が増大してS/N比の大きい素子が得られないなどの問題がある。
【0007】
一方、誘電体中に磁性超微粒子を分散させたグラニュラー膜を有するトンネル効果素子の場合、強磁性トンネル接合よりも作製が容易であるという特徴を有する反面、磁性粒子が超微粒子であることから、非常に大きな磁場を印加しないとスピンが揃わず、このため大きな磁気抵抗を発現させるためには 10kOe 以上の非常に大きな磁場を印加する必要があり、実用性の点で問題がある。また、磁気抵抗変化率の大きさは、原理的に強磁性トンネル接合の値の 1/2にしかならないという問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来の強磁性トンネル効果素子は、絶縁層を介して 2つの強磁性層を配置したトンネル接合、あるいは誘電体マトリックス中に磁性超微粒子を分散させたグラニュラー膜を用いたものである。これらのうち、トンネル接合素子は数nm以下の薄い絶縁層を作製する必要があるため、絶縁層にバラツキやピンホールが発生しやすく、安定した抵抗や磁気抵抗効果を得ることが困難であると共に、接合抵抗が大きいという問題を有している。また、グラニュラー膜は大きな磁気抵抗を得るために、非常に大きな磁場を印加する必要があるため、実用的ではないという問題を有している。
【0009】
従来のトンネル効果素子が有する問題点に対して、本発明者らは先に、非磁性誘電体マトリックス中に保磁力をもつ強磁性微粒子を分散させたグラニュラー磁性膜と、このグラニュラー磁性膜に近接配置された少なくとも一方が強磁性体からなる 2つの電極とを具備する強磁性トンネル効果素子を提案している(特願平9−118991号)。
【0010】
このような強磁性トンネル効果磁気素子においては、グラニュラー磁性膜と強磁性電極との間にトンネル電流を流すことによって、安定してしかも小さい磁場で大きい磁気抵抗変化率を容易に得ることができる。すなわち、グラニュラー磁性膜の膜厚が数10nmと厚いため、従来のトンネル接合素子のように、絶縁層のバラツキやピンホールの発生による抵抗や磁気抵抗変化率のバラツキの問題が緩和され、かつ小さな磁場で大きな磁気抵抗変化率を生じさせることができる。
【0011】
しかし、 2つの電極とグラニュラー磁性膜中の粒子との間に 2つのトンネル障壁をもつ二重トンネル効果素子であるため、この 2つのトンネル障壁の互いの厚さの違いにより抵抗や磁界感度が異なるという問題が生じるおそれがある。また、トンネル障壁が 2つあるために、抵抗値を大きく低下させることが難しいという難点を有している。さらに、グラニュラー磁性膜中の強磁性粒子が小さい場合、その保磁力が小さいために、温度上昇や外部磁界によりスピンが反転しやすく、それによって磁気抵抗変化率が低下するという難点を有している。
【0012】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、小さい磁場で大きな磁気抵抗変化率を容易にかつ安定して得ることができ、また抵抗や磁界感度のバラツキを抑制することができると共に、抵抗を小さくすることが可能な強磁性トンネル効果素子、およびそれを用いた磁気ヘッドや磁気記憶素子などの磁気装置を提供することを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、誘電体と強磁性体との混合体からなるグラニュラー磁性膜と、このグラニュラー磁性膜に近接配置された少なくとも 1つが強磁性体からなる電極の間に、トンネル電流を流す磁気素子に関する研究を進めた結果、一方の強磁性体からなる電極を誘電体層を介してグラニュラー磁性膜と積層し、かつ他方の電極はグラニュラー磁性膜中の強磁性体と実質的に接触している構造をとることによって、より大きな磁気抵抗効果が得られ、かつ抵抗の小さい強磁性トンネル効果素子を実現できることを見出した。
【0014】
このような強磁性トンネル効果素子では、誘電体層を介した強磁性体電極とグラニュラー磁性膜との間のトンネル電流のみに基づいて、トンネル磁気抵抗が得られるため、 1層の誘電体層の膜厚のみを制御すればよいことになる。従って、トンネル障壁の厚さの違いによる抵抗や磁界感度のバラツキを抑制できることを見出した。さらに、電極の 1つがグラニュラー磁性膜中の強磁性体と実質的に接触しているため、グラニュラー磁性膜中の強磁性体のスピンが温度上昇や擾乱磁界などによって反転し難くなり、それだけ安定であるということを見出した。
【0015】
本発明はこのような知見および検証結果に基づくものであり、本発明の強磁性トンネル効果素子は、請求項1に記載したように、誘電体と保磁力をもつ強磁性体との混合体からなるグラニュラー磁性膜と、前記グラニュラー磁性膜に近接配置され、少なくとも一方が強磁性体からなる一対の電極とを具備する強磁性トンネル効果素子において、前記一対の電極のうち、一方の強磁性体からなる電極は誘電体層を介して前記グラニュラー磁性膜と積層されており、かつ他方の電極は前記グラニュラー磁性膜中の強磁性体と実質的に接触していることを特徴としている。
【0016】
本発明の強磁性トンネル効果素子は、例えば請求項2に記載したように、強磁性体からなる電極を、グラニュラー磁性膜の膜面に沿って誘電体層上に配列された第1および第2の強磁性体電極で構成した構造、すなわちプラーナ型の強磁性トンネル効果素子に適用することができる。本発明の強磁性トンネル効果素子によれば、特にプラーナ型の素子の作製が容易になる。
【0017】
本発明の磁気装置は、請求項3に記載したように、上記した本発明の強磁性トンネル効果素子を具備することを特徴とするものである。なお、本発明における磁気装置とは、強磁性トンネル効果素子を使用した磁気ヘッド、磁界センサ、磁気記憶装置などを指すものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の強磁性トンネル効果素子を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明の強磁性トンネル効果素子の一実施形態の構造を模式的に示す図である。なお、図中矢印はスピン方向を示している。同図に示す強磁性トンネル効果素子1は、保磁力をもつ強磁性体2と誘電体3との混合体からなるグラニュラー磁性膜4と、このグラニュラー磁性膜1に近接配置された一対の電極5、6とを具備している。
【0020】
これら電極5、6のうち、一方の電極5は誘電体層7を介してグラニュラー磁性膜4と積層されている。他方の電極6はグラニュラー磁性膜4中の強磁性体2と実質的に接触している。誘電体層7によりグラニュラー磁性膜4と隔てられている電極5は、強磁性体により構成された強磁性体電極である。電極5を構成する強磁性体は、グラニュラー磁性膜4との間で保磁力差を有しているものであればよい。他方の電極6は強磁性金属で構成してもよいし、また非磁性金属で構成してもよい。
【0021】
また、図1ではグラニュラー磁性膜4が誘電体3からなるマトリックス中に強磁性体2を分散させた構造を示している。本発明におけるグラニュラー磁性膜4は、図2に示すように、強磁性体2からなるマトリックス中に誘電体3を分散させた構造であってもよい。いずれにしても、強磁性体2は超常磁性を示さず、有限の保磁力をもつものである。理想的にはそのスピンは一方向に揃って向いていることが望ましい。
【0022】
なお、上記した電極5、6の構成材料、およびグラニュラー磁性膜4の具体的な構成については、後に詳述する。
【0023】
以下に、図1および図2に示した強磁性トンネル効果素子1の原理について述べる。ここでは、電極6にも強磁性体を用い、かつ強磁性体電極5の保磁力が最も小さいものとして説明する。なお、電極6は非磁性体で構成してもよく、また保磁力の大小関係はこれに限定されるものではない。
【0024】
図1および図2に示した強磁性トンネル効果素子1において、 2つの電極5、6間に電圧を印加すると、誘電体層7の膜厚が適当に薄ければトンネル電流が流れる。この際、強磁性体電極5、6とグラニュラー磁性膜4の相対的なスピンのなす角度に応じてトンネル電流の大きさが異なり、トンネル磁気抵抗が生じる。これが強磁性トンネル効果である。
【0025】
今、大きな外部磁場を印加して、グラニュラー磁性膜4および強磁性体電極5、6の全ての磁性体のスピンを一方向に揃えた後、磁場の大きさを減少させ、さらにその符号を反転させると、保磁力が最小の強磁性体電極5の保磁力に相当した磁場で、強磁性体電極5のスピンのみが反転する。この強磁性体電極5のスピンの反転に伴ってトンネル電流が減少して抵抗が増大する。これによってトンネル磁気抵抗が得られる。なお、外部磁場でスピンを反転させる磁性層は強磁性体電極5に限られるものではなく、グラニュラー磁性膜4中の強磁性体2であってもよい。
【0026】
この様子を図3に示す。図3において、矢印はスピンの方向を示している。ここで、図1および図2に示した強磁性トンネル効果素子において、電極(ここでは強磁性体電極)6はグラニュラー磁性膜4中の強磁性体2と実質的に接触しているため、これらのスピンは互いに同じ方向を向いている。また、これらグラニュラー磁性膜4と電極6との間の抵抗は小さく、トンネル電流ではない通常の伝導による電流が流れる。
【0027】
従って、トンネル磁気抵抗は強磁性体電極5とグラニュラー磁性膜4との間でのみ生じるので、磁気抵抗を得るためには誘電体層7の膜厚のみを制御すればよい。すなわち、図1および図2に示した強磁性トンネル効果素子は、一重のトンネル接合によりトンネル磁気抵抗を制御しているため、 2つのトンネル障壁をもつ二重トンネル効果素子のように、 2つのトンネル障壁の互いの厚さの違いにより抵抗や磁界感度が異なるという問題が生じるおそれがない。
【0028】
言い換えると、図1および図2に示した強磁性トンネル効果素子1は、誘電体層7の膜厚のみを制御することによりトンネル磁気抵抗が得られるため、抵抗や磁界感度のバラツキを抑制することができる。さらに、トンネル障壁が 1つであるため、強磁性トンネル効果素子1の抵抗を大きく低下させることができる。電極6はグラニュラー磁性膜4中の強磁性体2と実質的に接触しているため、グラニュラー磁性膜4中の強磁性体2のスピンが温度上昇や擾乱磁界などによって反転し難くなり、より大きな磁気抵抗効果を安定して得ることができる。
【0029】
また、図1および図2に示した強磁性トンネル効果素子1において、グラニュラー磁性膜4中の強磁性体2は超常磁性を示さず、有限の保磁力を有するため、従来のグラニュラー型トンネル膜のように飽和磁界が大きいという問題はない。さらに、グラニュラー膜4は強磁性体2と誘電体3との混合体あるため、従来の強磁性トンネル接合のように絶縁層のバラツキやピンホールにより抵抗や磁気抵抗効果が不安定になるという問題を解消することができると共に、電気抵抗が小さいという利点を有する。
【0030】
加えて、グラニュラー磁性膜4を流れる電流パス方向(膜厚方向または膜面内方向)の長さ、あるいは強磁性体2の体積充填率、大きさ、分散状態などを制御することによって、電気抵抗を適当な値に制御することができる。そのため、各種磁気装置に応用する際に、強磁性トンネル効果素子1の電気抵抗を調整できるという大きな特徴を有している。
【0031】
上述したように、強磁性トンネル効果素子1によれば、より大きな磁気抵抗効果を小さい磁場で容易にかつ安定して得ることができる。その上で、抵抗や磁界感度の安定性を高めることができ、さらには抵抗の減少を図ることができると共に、抵抗値自体を適当な値に制御することができる。このように、本発明の強磁性トンネル効果素子1は、磁気ヘッド、磁界センサ、磁気記憶素子などに用いる磁気素子として実用性に優れるものである。
【0032】
なお、電極6がグラニュラー磁性膜4中の強磁性体2と実質的に接触している状態とは、この間の電流がトンネル電流ではなく、通常の伝導による電流を流すことが可能な状態を指すものである。また、上記では電極5、共に強磁性体で構成した場合について主として述べたが、その原理からも分かるように、グラニュラー磁性膜4中の強磁性体2と実質的に接触している電極は、非磁性体や反強磁性体であってもよいことが明らかである。
【0033】
次に、強磁性トンネル効果素子1の各構成要素について詳述する。グラニュラー磁性膜4は、前述したように、図1に示した誘電体3からなるマトリックス中に強磁性体2を分散させた構造、および図2に示した強磁性体2からなるマトリックス中に誘電体3を分散させた構造のいずれであってもよい。
【0034】
すなわち、本発明に用いるグラニュラー磁性膜4は、グラニュラー磁性膜4をある断面で見たときに強磁性体2と誘電体3とが互いに分断された構造を有していればよい。さらに、強磁性体2と誘電体3との混合割合は特に限定されるものではない。グラニュラー磁性膜4中の強磁性体2が保磁力を有していると共に、グラニュラー磁性膜2中の強磁性体2を介してトンネル電流を流すことが可能であれば、種々のグラニュラー磁性膜2を使用することができる。
【0035】
グラニュラー磁性膜4中の強磁性体2には、種々の強磁性材料を使用することができる。例えば、パーマロイに代表されるFe−Ni合金、アモルファス合金、強磁性を示すFe、Co、Niおよびそれらを含む合金、NiMnSbやPtMnSbのようなホイスラー合金などのハーフメタル、CrO、マグネタイト、Mnペロブスカイトなどの酸化物系のハーフメタルなどの軟磁性材料から、Co−Pt合金、Fe−Pt合金、遷移金属−希士類合金などの硬磁性材料まで、種々の強磁性材料を使用することができる。
【0036】
また、誘電体3としては、Al、SiO、MgO、MgF、Bi、AlN、CaFなどの種々の誘電体材料を使用することができ、このような誘電体で上記したような強磁性体2を分断することによって、本発明のグラニュラー磁性膜4が得られる。なお、上記した酸化物、窒化物、フッ化物などではそれぞれの元素の欠損が一般的に存在するが、そのような誘電体であっても何等問題はない。
【0037】
一方、強磁性体電極5はグラニュラー磁性膜4との間で保磁力に大小関係を有していればよく、グラニュラー磁性膜4中の強磁性体2と同様に、種々の軟磁性材料から硬磁性材料まで各種の強磁性材料で構成することができる。例えば、ハーフメタルは一方のスピンバンドにエネルギーギャップが存在するので、一方向のスピンを持つ電子しか伝導に寄与しないため、より大きな磁気抵抗効果を得ることができる。
【0038】
誘電体層7としては、グラニュラー磁性膜4中の誘電体3と同様に、種々の誘電体材料を使用することができ、誘電体3と同一材料であってもよいし、また異なる材料であってもよい。誘電体層7はそれを介して強磁性体電極5とグラニュラー磁性膜4との間にトンネル電流が流れるものであればよい。
【0039】
グラニュラー磁性膜4中の強磁性体2と実質的に接触している電極6は、前述したように強磁性体に限られるものではなく、グラニュラー磁性膜4と電極6との間にはトンネル電流は実質的に流れないため、非磁性体や反強磁性体で構成することも可能である。電極6を強磁性体や反強磁性体で構成した場合、グラニュラー磁性膜4中の強磁性体2と電極6とが互いに接触して交換結合するため、スピンの向きが安定してより大きな磁気抵抗を得ることができると共に、温度上昇や擾乱磁界によるスピンの乱れを抑制することができる。このようなことから、電極6は強磁性体や反強磁性体で構成することが好ましい。なお、電極6に強磁性体を使用する場合、強磁性体電極5と必ずしも同じ材料である必要はなく、異なる強磁性体を使用することも可能である。
【0040】
また、電極6は強磁性体と非磁性体との積層膜で構成してもよい。この場合、非磁性体を介して隣り合う強磁性体のスピンが反平行に結合していると、電極6がグラニュラー磁性膜4中の強磁性体2のスピンの向きを安定化させるため、より大きな磁気抵抗効果を得ることができる。また、この場合には磁性膜から磁束が外部に漏れることを防ぐことができるという利点もある。
【0041】
電極6を強磁性体で構成する場合、例えば図4に示すように、強磁性体電極6を反強磁性体8と接触させた構造を適用することもできる。このような構造によれば、強磁性体電極6のスピンが反強磁性体8により安定化され、それと接したグラニュラー磁性膜4中の強磁性体2のスピンの向きが安定するため、より大きな磁気抵抗効果を得ることができる。なお、外部磁場でグラニュラー磁性膜4中の強磁性体2のスピンを反転させる場合には、強磁性体電極5を反強磁性体と接触させた構造としてもよい。
【0042】
グラニュラー磁性膜4および強磁性体電極5(強磁性体で構成した場合の電極6を含む)は、それぞれ膜面内に一軸磁気異方性を有することが望ましい。これによって、急峻な磁化反転を起こすことができると共に、磁化状態を安定して保持することができる。これらは磁気ヘッドや磁気記憶素子に適用する場合に有効である。また、電極5、6の膜厚は特に制限はないが、あまり厚いと素子として大きくなるので 0.1〜 100nm程度とすることが好ましい。グラニュラー磁性膜4の膜厚はある程度薄い方が好ましいが、作製上 100nm以下であればよい。
【0043】
図1および図2では、本発明の強磁性トンネル効果素子1の各構成層を基板面に対して垂直方向に積層した構造を示したが、例えば図5に示すように、グラニュラー磁性膜4の膜面に沿って誘電体層7上に互いに分離された 2つの強磁性体電極5a、5bを並列配置した素子構造、すなわちプラーナ型素子に適用することも可能である。
【0044】
図5に示すプラーナ型の強磁性トンネル効果素子1において、互いに分離された 2つの強磁性体電極5a、5b間に電圧を印加すると、一方の強磁性体電極5aからグラニュラー磁性膜4にトンネル電流が流れ、それがグラニュラー磁性膜4中の強磁性体2と接触している電極6を経て他方の強磁性体電極5bに流れ込む。すなわち、電極6がグラニュラー磁性膜4中の強磁性体2と実質的に接触しており、この間の抵抗が小さいことから、グラニュラー磁性膜4中を基板面に沿って流れる電流を抑制することができる。このように、本発明の強磁性トンネル効果素子1によれば、特にプラーナ型素子の作製が容易になると共に、その特性の向上を図ることができる。
【0045】
また、図5に示すプラーナ型の強磁性トンネル効果素子1では、グラニュラー磁性膜4と強磁性体電極5との積層部分を複数利用することができるため、抵抗変化率の増大を図ることが可能となる。またこの場合、電流は主として電極6を流れるが、この部分の抵抗は小さく、素子面積を微細化すればグラニュラー磁性膜4を横切る抵抗に比べて無視できるため、グラニュラー磁性膜4を横切る電流パスが 2倍になる分だけ電気抵抗が増大するなど、各種特性を調整することができる。
【0046】
図1、図2および図5では、本発明の強磁性トンネル効果素子1を 2端子素子として利用する場合について説明したが、本発明の強磁性トンネル効果素子1は 3端子素子として使用することもできる。例えば、グラニュラー磁性膜4に第3の電極としてゲート電極を形成し、このゲート電極でグラニュラー磁性膜4中を流れるトンネル電流やスピンの向きなどを制御することによって、 3端子素子として機能させることができる。このような 3端子素子を作製する上で、図5に示したプラーナ型の強磁性トンネル効果素子1は好ましい構造である。
【0047】
上述したような本発明の強磁性トンネル効果素子1は、典型的には薄膜状であり、分子線エピタキシー(MBE)法、各種スパッタ法、蒸着法、メッキ法など通常の薄膜形成装置を用いて作製することができる。また、グラニュラー磁性膜4の作製法としては、それを構成する強磁性体2と誘電体4とを同時に堆積してもよいし、また交互に積層してもよい。
【0048】
また、強磁性トンネル効果素子1を構成する積層膜を成膜するための基板は、ガラス、セラミック、金属などの単結晶および多結晶体など、任意のものを用いることができる。特に、Si基板を用いれば、例えばゲート電極を形成しやすいなど、従来の半導体技術を利用することができるので望ましい。なお、本発明の強磁性トンネル効果素子では、磁性材料または非磁性材料からなる下地層、または非磁性体のオーバーコートなどを設けてもよい。
【0049】
本発明の強磁性トンネル効果素子1は、磁気抵抗効果型磁気ヘッド、磁界センサ、磁気記憶素子などの磁気装置に適用することができる。この場合、特に磁気ヘッドや磁気記憶素子では膜面内に磁気異方性が付与されていることが望ましい。 上述した実施形態の強磁性トンネル効果素子1を用いた磁気抵抗効果型磁気ヘッドは、従来の磁気抵抗効果ヘッドと同様に構成することができる。すなわち、グラニュラー磁性膜4と強磁性体電極5のうち保磁力が小さい磁性膜を感磁層として利用し、この感磁層の磁化方向を例えば信号磁界に応じて変化させる。その際のトンネル電流を含むセンス電流の電圧を測定することによって、信号磁界などを検出することができる。これは磁気記録装置などの再生ヘッドとして有効である。また、磁界センサなどとしても使用可能である。
【0050】
本発明の強磁性トンネル効果素子1を磁気記憶素子に適用する場合には、強磁性体電極5(あるいはグラニュラー磁性膜4)に書き込みを行う。信号の書き込みは、例えば図6に示すように、強磁性体電極5(あるいはグラニュラー磁性膜4)に対して絶縁層11を介して導体層12を配置し、この導体層12に流す電流の向きによりスピンの向きを制御することによって、そのスピンの向きを1、0として書き込む。読み出しは保磁力の小さい方のスピンのみを反転させ、磁気抵抗効果を利用する。なお、図6はグラニュラー磁性膜4をメモリ層として用い、強磁性体電極5を再生層として用いた場合である。
【0051】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0052】
実施例1
図7に示した構造の強磁性トンネル効果素子をスパッタ法を用いて作製した。まず、メタルマスクを使用してMgO(110) 基板上に 6nmFe/ 3nmCo80Pt20構造の幅 0.1mmの短冊状の強磁性積層膜Aを形成した。
【0053】
その上に、円形のマスクとCo80Pt20合金およびAlターゲットを用いて、Al膜/グラニュラー磁性膜Bを作製した。この積層膜Bの作製にあたっては、まず厚さ 1.5nm、直径 2mmのAl膜を形成し、その上に基板バイアス400Wの条件下でCo80Pt20合金を 2.8nmの厚さで形成し、さらにその上に厚さ 1.5nmのAl膜を形成した。
【0054】
この後、マスクを代えて積層膜B上に、厚さ20nmの短冊状のCoFe膜Cを強磁性積層膜Aと十字をなす形に形成した。このようにして、図7に示した強磁性トンネル効果素子を得た。
【0055】
得られたグラニュラー磁性膜の断面構造を透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果、図1に模式的に示したように、Co80Pt20合金とAlの混合膜からなり、互いに分断された構造を有していることを確認した。また、グラニュラー磁性膜中のAl膜は薄く、グラニュラー磁性膜中のCo80Pt20磁性合金とCoFe膜は互いに接触していた。
【0056】
上記した強磁性積層膜AとCoFe膜Cの上にそれぞれAuをスパッタし、それらを電極として両者の間に電圧を印加して磁場中で磁気抵抗を測定した。そのときの磁場に対する抵抗変化を図8に示す。強磁性積層膜A( 6nmFe/ 3nmCo80Pt20)の保磁力に対応した約30Oe で抵抗が急峻に変化しており、抵抗変化率は 22%であった。また、抵抗のピーク値は約 2.9Ωであった。
【0057】
比較例1
上部電極となるCoFe膜を厚さ 2.5nmのAl膜を介してグラニュラー磁性膜上に作製する以外は、上記した実施例1と同様にしてトンネル接合を作製した。得られたグラニュラー磁性膜の断面構造を透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果、CoFe膜とグラニュラー磁性膜の間に 2.5nmのAl膜が介在していた。
【0058】
このトンネル接合の磁場中での磁気抵抗を、実施例1と同様にして測定した。そのときの磁場に対する抵抗変化を図9に示す。 6nmFe/ 3nmCo80Pt20の保磁力に対応した約30Oe と、CoFe膜の保磁力に対応した約 100Oe の磁場で抵抗が階段上に変化しており、抵抗変化率は約15%であった。また、抵抗のピーク値は 9.8Ωであった。
【0059】
このように、両電極とグラニニュラー磁性膜との間にそれぞれ誘電体層を介在させることによって、抵抗が増大すると共に、磁気抵抗変化率が減少した。
【0060】
実施例2
下側の強磁性体電極として 6nmFe/ 3nmCo80Pt20に代えて、 6nmFe/ 3nmCoFeの積層膜を用いる以外は、実施例1と同様の方法を用いてトンネル接合を作製した。そのときの磁場に対する抵抗変化を図10に示す。 6nmFe/ 3nmCoFeの保磁力に対応した約20Oe の磁場で抵抗が急峻に変化しており、抵抗変化率は 28%であった。また、抵抗のピーク値は 2.1Ωであった。
【0061】
実施例3
実施例1および比較例1で示した磁気抵抗効果素子の温度変化を測定した。その結果、 100℃で比較例1の磁気抵抗は 15%から9%まで低下したが、実施例1の磁気抵抗は 22%から 20%と低下率が少なかった。このように、本発明の磁気抵抗効果素子は温度安定性に優れていることが分かる。
【0062】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の強磁性トンネル効果素子は、小さな磁場で大きな抵抗変化率を容易に得ることができると共に、接合抵抗を小さくすることができ、その上で各種特性の再現性を高めることが可能となる。また、温度上昇や外部擾乱磁界などに対する磁気抵抗の変化を抑制することができる。このような本発明の強磁性トンネル効果素子を用いることによって、出力電圧の大きい高感度の磁気ヘッドや磁界センサなどを構成することが可能になる。また、磁気記億装置に利用すれば、高速で出力の大きい不揮発性の固体磁気メモリを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の強磁性トンネル効果素子の一実施形態の構成を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す強磁性トンネル効果素子の変形例を示す図である。
【図3】本発明の強磁性トンネル効果素子の磁気抵抗変化を示す模式図である。
【図4】本発明の強磁性トンネル効果素子の他の構成例を模式的に示す図である。
【図5】本発明の強磁性トンネル効果素子をプラーナ型素子に適用した実施形態の構成を模式的に示す図である。
【図6】本発明の強磁性トンネル効果素子を適用した磁気記憶素子の構成例を模式的に示す図である。
【図7】本発明の実施例で用いた強磁性トンネル効果素子の構造を模式的に示す図である。
【図8】本発明の実施例1による強磁性トンネル効果素子の磁場に対する抵抗変化を示す図である。
【図9】比較例1による強磁性トンネル効果素子の磁場に対する抵抗変化を示す図である。
【図10】本発明の実施例2による強磁性トンネル効果素子の磁場に対する抵抗変化を示す図である。
【符号の説明】
1……強磁性トンネル効果素子
2……強磁性体
3……誘電体
4……グラニュラー磁性膜
5、5a、5b……強磁性体電極
6……電極
7……誘電体層

Claims (3)

  1. 誘電体と保磁力をもつ強磁性体との混合体からなるグラニュラー磁性膜と、前記グラニュラー磁性膜に近接配置され、少なくとも一方が強磁性体からなる一対の電極とを具備する強磁性トンネル効果素子において、
    前記一対の電極のうち、一方の強磁性体からなる電極は誘電体層を介して前記グラニュラー磁性膜と積層されており、かつ他方の電極は前記グラニュラー磁性膜中の強磁性体と実質的に接触していることを特徴とする強磁性トンネル効果素子。
  2. 請求項1記載の強磁性トンネル効果素子において、
    前記強磁性体からなる電極は、前記グラニュラー磁性膜の膜面に沿って前記誘電体層上に配列された第1および第2の強磁性体電極を有することを特徴とする強磁性トンネル効果素子。
  3. 請求項1または請求項2記載の強磁性トンネル効果素子を具備することを特徴とする磁気装置。
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