本実施形態では、磁気抵抗効果膜の磁化固着層(ピン層)及び磁化自由層(フリー層)のうち少なくとも1層に、磁性化合物の新規材料を配置している。磁気抵抗効果膜のフリー層、ピン層に含まれる磁性化合物の新規材料として、M1aM2bXc で表され、M1は、Co,Fe,Niから選択される少なくとも一種の磁性3d遷移金属元素であり、M2は、Ti,V,Cr,Mnから選択される少なくとも一種の非磁性3d遷移金属元素であり、Xは、N,O,Cから選択される少なくとも一種の非金属元素であり、5≦a≦68かつ、10≦b≦73かつ、22≦c≦85である磁性化合物を用いる。上記磁性化合物は高いスピン分極率を有するために、スピン依存散乱効果が大きく、大きなMR比を得ることができる。
上記磁性化合物が高いスピン分極率を有する理由は下記のように考えられる。非磁性3d遷移金属は磁性3d遷移金属に近い電子構造を持っているため、弱い磁性を有しやすい。非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属が結合した場合、互いのバンド構造が変化して、非磁性3d遷移金属の磁性がより顕著に現れ、磁性3d遷移金属元素のみでなく、非磁性3d遷移金属もスピン依存伝導に寄与する。さらに、非金属元素が上記の金属元素と結合すると、非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属のバンド構造の変化を助長することができ、その結果、磁性3d金属元素および非磁性3d金属元素のフェルミ面近傍のバンド構造が変化し、高いスピン分極率が得られる。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の非磁性3d金属元素Ti,V,Cr,Mnの組成比bは、添加量が少なすぎると、非磁性3d金属元素のスピン依存伝導への寄与が少なくなるため、10≦bとすることが望ましい。ただし、添加量が多すぎると、相対的に磁性3d遷移金属元素が少なくなり、非磁性3d金属元素と磁性3d金属元素の結合が少なくなるため、非磁性3d遷移金属元素の磁性が弱まってしまう。そのため、10≦b≦73であることがより望ましい。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の非金属元素N,O,Cの組成比cは、非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属のバンド構造の変化を助長する効果を得るためには22≦cとすることが望ましい。ただし、添加量が多すぎると、相対的に非磁性3d遷移金属元素と磁性3d遷移金属元素が少なくなり、スピン依存伝導を担う元素が少なくなるため、22≦c≦85であることが望ましい。さらに、含有される非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属の大半の元素と結合して、大きいスピン分極率を得るためには、30≦c≦75であることがより望ましい。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の磁性3d金属元素Co,Fe,Niの組成比aは、添加量が少なすぎると、非磁性3d金属元素と磁性3d金属元素の結合が少なくなるため、非磁性3d遷移金属元素の磁性が弱まってしまう。ただし、添加量が多すぎると、相対的に非磁性3d金属元素の組成比b及び非金属元素の組成比cが少なくなり、既に示した非磁性3d金属元素と非金属元素の添加によるスピン分極率の増大効果が弱まってしまう。そのため、5≦a≦68であることが望ましい。
磁性化合物の結晶構造としては、式M1aM2bXcの組成範囲のなかで特にMRの高かった30≦c≦75の組成範囲では結晶構造がアモルファスとなっていることがある。結晶構造が微結晶やアモルファスとなったことにより、スピン依存散乱界面が平滑となることで、スピン依存散乱効果がさらに大きくなり、従ってさらに高いMR変化率を得ることができる。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物が含まれる層の膜厚としては、スピンバルブ膜のギャップ長を短くする観点と、必要以上に抵抗値を上げないといった観点から薄いほうが望ましく5nm以下が望ましい。一方、薄すぎると十分なスピン依存散乱効果が得られなくなるため、0.5nm以上が望ましい。上記より、磁性化合物層の膜厚は0.5nm以上5nm以下が望ましい。
磁性化合物層の作製方法としては、M1−M2の合金材料をスパッタ成膜し、その後、X元素雰囲気中で反応させることにより、M1−M2−X磁性化合物層を作製することができる。純M1材料と純M2材料をスパッタにより積層成膜し、その後、X元素雰囲気中で反応させることにより、M1−M2−X磁性化合物層を作製してもよい。X元素雰囲気中で反応させる場合は、同時にArなど希ガスのイオンビーム照射またはプラズマを照射しながら行ってもよい。この方法によれば、安定な磁性化合物を作製することができる。
また、M1−M2−Xターゲットを用いて、スパッタ成膜してもよい。
磁性化合物を含む磁性層は、磁性化合物の単層膜であっても、強磁性薄膜層との積層構造を有していてもよい。積層構造とする場合は、強磁性薄膜層として、従来の強磁性材料を用いることができる。フリー層に磁性化合物層を用いる場合は、磁性化合物層よりも軟磁気特性に優れる軟磁性膜と積層することにより、磁場応答性をよくすることができる。また、ピン層に磁性化合物層を用いる場合は、より一方向にピンされやすい材料との積層膜にすることにより、ピン特性をよくすることができる。
(実施例1)
以下、本発明の実施例につき図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施例の磁気抵抗効果素子の断面図である。
図1の磁気抵抗効果素子は,基板上に形成された,下電極21,下地層11,ピニング層12,ピン層13,スペーサ層14,フリー層15,キャップ層16,および上電極22を有する。この内,ピン層13,スペーサ層14,およびフリー層15が,2つの強磁性層の間に非磁性のスペーサ層14を挟んでなるスピンバルブ膜(スピン依存散乱ユニット)に対応する。
本実施例では、シンセティックスピンバルブ構造をとっており、ピン層13のスペーサ側の上部ピン層133、及びフリー層15に、式M1aM2bXcで表される、磁性化合物を採用する。本実施例では、磁性化合物層M1aM2bXcとして、組成比を変えたCo−Ti−Oを用いた。
以下,磁気抵抗効果素子の構成要素を説明する。
下電極21は、磁気抵抗効果膜の膜面垂直方向に通電するための電極である。下電極21と上電極22の間に電圧が印加されることで、磁気抵抗効果膜内部をその膜垂直方向に沿って電流が流れる。このセンス電流によって、磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することで、磁気が検知される。下電極21には、電流を磁気抵抗効果膜に通電するために、電気抵抗が比較的小さい金属層が用いられる。
この下電極21上に,下地層11としてTa[5nm]/Ru[2nm]を成膜する。Taは下電極の荒れを緩和するバッファ層11aである。Ruはその上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するシード層11bである。
バッファ層11aとして,Taの代わりに,Ti,Zr,Hf,V,Cr,Mo,Wやそれらの合金材料を用いてもよい。バッファ層11aの膜厚は1〜5nmが望ましい。バッファ層11aが薄すぎるとバッファ効果が失われる。一方,バッファ層12aが厚すぎると垂直方向にセンス電流を流した場合の直列抵抗増大を引き起こすため好ましくない。
シード層11bとしては,hcp構造(hexagonal close-packed structure:六方最密構造)あるいはfcc構造(face-centered cubic structure:面心立方構造)を持つ材料を用いるのが好ましい。
Ruをシード層11bとして用いると,その上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向とすることができ,PtMnの結晶配向をfct(111)配向,bcc構造の結晶配向をbcc(110)配向とすることができる。
シード層11bの膜厚は2〜6nmが好ましい。シード層11bの厚さが薄すぎると結晶配向の制御効果が失われる。バッファ層11bが厚すぎると垂直方向にセンス電流を流した場合の直列抵抗増大を引き起こすので好ましくない。
下地層11の上にピニング層12としてPt50Mn50[15nm]を成膜する。ピニング層12は,その上に成膜されるピン層13の磁化方向を固着する役割を持つ。ピニング層11の膜厚は,薄すぎるとピン固着機能を発現しないため好ましくなく,厚すぎると狭ギャップ化の観点から好ましくない。ピニング層12としてPt50Mn50 を用いる場合,Pt50Mn50 の膜厚は8〜20nm程度が好ましく,10〜15nmがより好ましい。
ピニング層12に用いる反強磁性材料としては,PtMnの他にPdPtMn,IrMnが挙げられる。IrMnはPtMnやPdPtMnよりも薄い膜厚でピン固着機能が発現するので狭ギャップの観点から望ましい。ピニング層12としてIrMnを用いる場合,IrMnの膜厚は4〜12nmが好ましく,5〜10nmがより好ましい。
ピニング層12の上にピン層13を成膜する。本実施例ではピン層13として,下部ピン層131(Co90Fe10 [1〜3nm]),磁気結合中間層132(Ru[0.9nm]),上部ピン層133(磁性化合物M1−M2−X)からなるシンセティックピン層を用いている。
下部ピン層131はピニング層13と交換磁気結合しており,一方向異方性をもつ。下部ピン層131と上部ピン層133は磁気結合中間層132を介して磁化の向きが互いに反平行を向くように磁気結合している。
本実施例では、上部ピン層133に用いている磁性化合物M1−M2−Xの材料として、磁性金属元素M1としてCo、非磁性金属元素M2としてTi、非金属元素XとしてOを用い、組成比を変えて作製を行った。
下部ピン層131は,磁気膜厚すなわち飽和磁化Bs×膜厚t(Bs・t積)が,上部ピン層133とほぼ等しくなるように設計することが好ましい。本実施例では,上部ピン層133に用いている磁性化合物(Co−Ti−O)の膜厚を3nmに固定し、下部ピン層131に用いているCo90Fe10 の飽和磁化が上部ピン層133の磁気膜厚と等しくなるように、下部ピン層131に用いているCo90Fe10の膜厚を1〜3nmで適宜調整して作製した。
ピニング層12(PtMn)による一方向異方性磁界強度およびRuを介した下部ピン層131と上部ピン層133との反強磁性結合磁界強度という観点から,下部ピン層131に用いられる磁性層の膜厚は0.5〜5nm程度が好ましい。膜厚が薄すぎるとMR変化率が小さくなる。膜厚が厚すぎるとデバイス動作に必要な十分な一方向性異方性磁界を得ることが困難になる。
下部ピン層131には,例えばCoXFe100-x合金(x=0〜100%),NixFe100-x 合金(x=0〜100%),またはこれらに非磁性元素を添加したものを用いることができる。
磁気結合中間層(Ru層)132は上下の磁性層に反強磁性結合を生じさせてシンセティックピン構造を形成する機能を有する。磁気結合中間層132の膜厚は0.8〜1nmであることが好ましい。上下の磁性層に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば,Ru以外の材料を用いてもよい。
上部ピン層133は,スピン依存散乱ユニットの一部をなす。特に,スペーサ層16との界面に位置する磁性材料は,スピン依存界面散乱に寄与する点で重要である。本実施例では、磁性化合物M1−M2−XとしてCo−Ti−O[3nm]を組成比を変えて作製した。このような磁性化合物Co−Ti−Oを主成分とする上部ピン層143は,高いスピン依存散乱効果を有する。
ピン層13上にスペーサ層14としてCu[5nm]を成膜する。スペーサ層14としては、Cuの代わりとして、Au,Agなどを用いてもよい。スペーサ層14の膜厚は、フリー層とピン層の磁気結合を切るために厚いほうが望ましく、スピン散乱長以下であることが望ましいため、0.5〜10nmが好ましく,15〜5nmがさらに好ましい。
スペーサ層14上に,フリー層15として磁性化合物Co−Ti−O[3nm]を組成比を変えて作製した。このような磁性化合物Co−Ti−Oを主成分とするフリー層15は,高いスピン依存散乱効果を有する。
フリー層15上に、キャップ層としてCu10/Ta50を成膜する。
本実施例では、上部ピン層133とフリー層15に磁性化合物Co−Ti−O[3nm]を用いて、Co−Ti−Oの組成比を変えて磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例として、上部ピン層133とフリー層15に従来材料Co90Fe10 [3nm]を用いた磁気抵抗素子も作製した。
本実施例の磁性化合物層の作製方法としては、M1−M2の合金材料をスパッタ成膜し、その後、X元素雰囲気中で反応させる方法を用いた。純M1材料と純M2材料をスパッタにより積層成膜し、その後、X元素雰囲気中で反応させることにより、M1−M2−X磁性化合物層を作製してもよい。X元素雰囲気中で反応させる場合は、同時にArなど希ガスのイオンビーム照射またはプラズマを照射しながら行ってもよい。この方法によれば、安定な磁性化合物を作製することができる。また、M1−M2−Xターゲットを用いて、スパッタ成膜してもよい。
本実施例では、式CoaTibOc で表される組成式において下記の表1に示す組成比の磁気抵抗効果素子を作製した。(ここでa、b、cは原子%[at.%]である。)表1には、各組成において比較例に対するMR比の向上の有無を合わせて示す。
本実施例の磁気抵抗効果素子を評価したところ、特定の範囲のCo−Ti−Oの組成比で作製した磁気抵抗効果素子において、比較例よりも大きなMR比が得られることを確認した。このようなMR比の増大は、適正な組成比を作製することで、磁性化合物が高いスピン分極率を有しているためと考えられる。
本発明の磁性化合物が高いスピン分極率を有する理由は下記のように考えられる。非磁性3d遷移金属は磁性3d遷移金属に近い電子構造を持っているため、弱い磁性を有しやすい。非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属が結合した場合、互いのバンド構造が変化して、非磁性3d遷移金属の磁性がより顕著に現れ、磁性3d遷移金属元素のみでなく、非磁性3d遷移金属もスピン依存伝導に寄与する。さらに、非金属元素が上記の金属元素と結合すると、非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属のバンド構造の変化を助長することができ、その結果、磁性3d金属元素および非磁性3d金属元素のフェルミ面近傍のバンド構造が変化し、高いスピン分極率が得られる。
比較例のA00のMR比は0.6%であった。5≦a≦68かつ、10≦b≦73かつ、22≦c≦85であるの範囲で作製した磁気抵抗効果素子が比較例を上回る1%以上のMR比を確認できた。また、前述した範囲の中でも、30≦c≦75の範囲で作製した磁気抵抗効果素子では15%を超える特に大きなMR比を確認でき、磁性化合物を用いたことによるMR比の向上が特に顕著に見られた。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の非磁性3d金属元素Ti,V,Cr,Mnの組成比bは、添加量が少なすぎると、非磁性3d金属元素のスピン依存伝導への寄与が少なくなるため、10≦bとすることが望ましい。ただし、添加量が多すぎると、非磁性3d金属元素と磁性3d金属元素の結合が少なくなるため、非磁性3d遷移金属元素の磁性が弱まってしまう。そのため、10≦b≦73であることがより望ましい。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の非金属元素N,O,Cの組成比cは、非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属のバンド構造の変化を助長する効果を得るためには22≦cとすることが望ましい。ただし、添加量が多すぎると、相対的に非磁性3d遷移金属元素と磁性3d遷移金属元素が少なくなり、スピン依存伝導を担う元素が少なくなるため、22≦c≦85であることが望ましい。さらに、含有される非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属の大半の元素と結合して、大きいスピン分極率を得るためには、30≦c≦75であると、特に大きいMR比を得ることができる。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の磁性3d金属元素Co,Fe,Niの組成比aは、添加量が少なすぎると、非磁性3d金属元素と磁性3d金属元素の結合が少なくなるため、非磁性3d遷移金属元素の磁性が弱まってしまう。ただし、添加量が多すぎると、相対的に非磁性3d金属元素の組成比b及び非金属元素の組成比cが少なくなり、既に示した非磁性3d金属元素と非金属元素の添加によるスピン分極率の増大効果が弱まってしまう。そのため、5≦a≦68であることが望ましい。
磁性化合物の結晶構造としては、式M1aM2bXcの組成範囲のなかで特にMRの高かった30≦c≦75の組成範囲では微結晶やアモルファスとなっていることがある。結晶構造が微結晶やアモルファスとなったことにより、スピン依存散乱界面が平滑となることで、さらに高いMR変化率を得ることができる。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物層の膜厚としては、スピンバルブ膜のギャップ長を短くする観点と、必要以上に抵抗値を上げないといった観点から薄いほうが望ましく5nm以下が望ましい。一方、薄すぎると十分なスピン依存散乱効果が得られなくなるため、0.5nm以上が望ましい。上記より、磁性化合物層の膜厚は0.5nm以上5nm以下が望ましい。本実施例では、磁性化合物層の膜厚は3nmとした。
なお、本実施例では、上部ピン層133とフリー層15に磁性化合物Co−Ti−Oを用いたが、ピン層133、あるいはフリー層15のいずれか一方のみに磁性化合物Co−Ti−Oを用い、他方の層は従来材料を用いてもよい。片方のみに挿入した場合でも、挿入した層のスピン依存散乱を上げることができるため、MR比を向上することができる。
ピン層133に磁性化合物層Co−Ti−Oを用い、フリー層15に従来材料を用いる場合、フリー層15として、例えばCo90Fe10[1nm]/Ni83Fe17 [3.5nm]を用いることができる。従来材料を用いる場合で高いMR変化率を得るためには,スペーサ層16との界面に位置するフリー層18の磁性材料の選択が重要である。この場合,スペーサ層16との界面には,NiFe合金よりもCoFe合金を設けることが好ましい。Co90Fe10 近傍のCoFe合金を用いる場合には,膜厚を0.5〜4nmとすることが好ましい。他の組成(例えばピン層14に関連して説明した組成)のCoFe合金を用いる場合,膜厚を0.5〜2nmとすることが好ましい。例えば,スピン依存界面散乱効果を上昇させるために,フリー層18にもピン層14と同様にbcc構造を有するFe50Co50 (もしくは,FexCo100-x (x=45〜85))を用いることが考えられる。この場合,フリー層18は,軟磁性を維持するために,あまり厚い膜厚は使用できず,0.5〜1nmが好ましい膜厚範囲となる。
Coを含まないFeを用いる場合には,軟磁気特性が比較的良好なため,膜厚を0.5〜4nm程度とすることができる。
CoFe層の上に設けられるNiFe層は軟磁性特性が安定な材料である。CoFe合金の軟磁気特性はそれほど安定ではないが,その上にNiFe合金を設けることによって軟磁気特性を補完することができ,大きなMR変化率を得ることができる。
NiFe合金の組成は,NixFe100-x(x=78〜85%程度)が好ましい。NiFe層の膜厚は2〜5nm程度が好ましい。
NiFe層を用いない場合には,1〜2nmのCoFe層またはFe層と0.1〜0.8nm程度の極薄Cu層とを,複数層交互に積層したフリー層18を用いてもよい。
フリー層15に磁性化合物層Co−Ti−Oを用い、上部ピン層133に従来材料を用いる場合には、上部ピン層133として、例えば{(Fe50Co50[1nm]/Cu[2.5nm])×2/Fe50Co50 [1nm]}を用いることができる。従来材料のなかでも、スペーサ層16との界面にbcc構造をもつ磁性材料を用いた場合,スピン依存界面散乱効果が大きいため,大きなMR変化率を実現することができる。bcc構造をもつFeCo系合金としては,FexCo100-x(x=30〜100%)や,FexCo100-xに添加元素を加えたものが挙げられる。また,ピン層133が高いMR変化率を実現しやすいbcc構造をもつ磁性層から形成される場合には,bcc構造をより安定に保つために,
bcc構造をもつ層の膜厚は2nm以上であることが好ましい。大きなピン固着磁界を得るとともにbcc構造の安定性を保つために,bcc構造をもつピン層133の膜厚範囲は,2.5nm〜4nm程度が好ましい。
上部ピン層133として,磁性層(FeCo層)と非磁性層(極薄Cu層)とを交互に積層したものを用いることができる。このような構造を有する上部ピン層143では,バルク散乱効果と呼ばれるスピン依存散乱効果を向上させることができる。
上部ピン層133には,Co,Fe,Niや,これらの合金材料からなる単層膜を用いてもよい。例えば,最も単純な構造の上部ピン層143として,Co90Fe10 単層を用いてもよい。このような材料に元素を添加してもよい。
(変形例1:シングルピンスピンバルブの場合)
図2に、図1に示される実施例1の変形例として磁化固着層が3層構造(シンセティック構造)ではなく、単層である磁気抵抗効果素子を示す。
図2において、本変形例の磁気抵抗効果素子は,基板上に形成された,下電極21,下地層11,ピニング層12,ピン層13,スペーサ層14,フリー層15,キャップ層16,および上電極22を有する。
本変形例では、単層のピン層13とフリー層18に磁性化合物M1−M2−Xを採用している。
磁性化合物M1−M2−Xは、実施例1と同様にCo−Ti−Oを用いることができ、本変形例においても、実施例1と同様の効果が得られる。磁性化合物M1−M2−Xの組成としては、M1は、Co,Fe,Niから選択される少なくとも一種の磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。M2は、Ti,V,Cr,Mnから選択される少なくとも一種の非磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。Xは、N,O,Cから選択される少なくとも一種の非金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。
(変形例2:トップ型のスピンバルブの場合)
図3に、図1に示される実施例1の変形例としてスペーサ層を介して実施例1と磁化固着層、磁化自由層の位置が実施例1と逆になっている磁気抵抗効果素子を示す。
図3において、本変形例の磁気抵抗効果素子は、基板上に形成された,下電極21,下地層11,フリー層15,スペーサ層14,ピン層13,ピニング層12、キャップ層16,および上電極22を有する。
本変形例では、シンセティックスピンバルブ構造をとっており、ピン層13のスペーサ側の下部ピン層133、及びフリー層15に磁性化合物M1−M2−Xを採用している。
磁性化合物M1−M2−Xは、実施例1と同様にCo−Ti−Oを用いることができ、本変形例においても、実施例1と同様の効果が得られる。磁性化合物M1−M2−Xの組成としては、M1は、Co,Fe,Niから選択される少なくとも一種の磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。M2は、Ti,V,Cr,Mnから選択される少なくとも一種の非磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。Xは、N,O,Cから選択される少なくとも一種の非金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。
(変形例3:デュアルピン型のスピンバルブの場合)
図4に、図1に示される実施例1の変形例としてフリー層上下にスペーサ層及びピン層を二組有するデュアル型の磁気抵抗効果素子を示す。
図4において、本変形例の磁気抵抗効果素子は、基板上に形成された、下電極21、下地層11、ピニング層12、ピン層13、スペーサ層14、フリー層15、スペーサ層17、ピン層18、ピニング層19、キャップ層16、上電極22を有する。
本変形例では、ピン層13およびピン層18ともに、シンセティック構造をとっており、ピン層13のスペーサ側の上部ピン層133、ピン層18のスペーサ側の下部ピン層183及びフリー層15に磁性化合物M1−M2−Xを採用している。
磁性化合物M1−M2−Xは、実施例1と同様にCo−Ti−Oを用いることができ、本変形例においても、実施例1と同様の効果が得られる。磁性化合物M1−M2−Xの組成としては、M1は、Co,Fe,Niから選択される少なくとも一種の磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。M2は、Ti,V,Cr,Mnから選択される少なくとも一種の非磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。Xは、N,O,Cから選択される少なくとも一種の非金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。
(変形例4:フリー層を積層構造とした場合)
図5に、図1に示される実施例1の変形例としてフリー層を磁性化合物層と強磁性薄膜層との積層構造とした磁気抵抗効果素子を示す。
図5において、本変形例4の磁気抵抗効果素子は、基板上に形成された,下電極21,下地層11,ピニング層12,ピン層13,スペーサ層14,フリー層15,キャップ層16,および上電極22を有する。本変形例4では、フリー層15が下部フリー層151と上部フリー層152の積層膜となっている。また、本変形例4では、シンセティックスピンバルブ構造をとっており、ピン層13のスペーサ側の上部ピン層133、と下部フリー層151に磁性化合物層M1−M2−Xを採用している。
上部フリー層152に用いる強磁性薄膜層は、磁性化合物層よりも軟磁気特性に優れる軟磁性膜を用いることにより、磁場応答性をよくすることができる。上部フリー層152に用いる強磁性薄膜層の材料として、NiFe合金を用いることができる。NiFe合金の組成は、NixFe100-x (x=78〜85%程度)が好ましく、NiFe層の膜厚は2〜5nm程度が好ましい。NiFe層を用いない場合には、1〜2nmのCoFe層またはFe層と0.1〜0.8nm程度の極薄Cu層とを、複数層交互に積層したフリー層を用いてもよい。また、CoFe合金のなかでも特に軟磁気特性が安定なCo90Fe10を用いてもよい。Co90Fe10 近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5〜4nmとすることが好ましい。他の組成のCoFe合金を用いる場合、軟磁気特性を保つために、膜厚を0.5〜2nmとすることが好ましい。
磁性化合物M1−M2−Xは、実施例1と同様にCo−Ti−Oを用いることができ、本変形例においても、実施例1と同様に従来材料に比べて高いMR変化率を得られる。磁性化合物M1−M2−Xの組成としては、M1は、Co,Fe,Niから選択される少なくとも一種の磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。M2は、Ti,V,Cr,Mnから選択される少なくとも一種の非磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。Xは、N,O,Cから選択される少なくとも一種の非金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。
本変形例4では、下部フリー層151に磁性化合物層M1−M2−Xを用い、上部フリー層152に強磁性薄膜層を用いたが、下部フリー層151に強磁性薄膜層を用い、上部フリー層152に磁性化合物層M1−M2−Xを用いても良い。磁性化合物のスピン依存散乱をバルク散乱と界面散乱にわけて考えた場合、磁性化合物層M1−M2−Xの作製方法によっては、スピン依存バルク散乱は強磁性薄膜層に用いられる従来強磁性材料よりも高く、スピン依存界面散乱は強磁性薄膜層に用いられる従来強磁性材料よりも低くなる場合がある。このような場合は、スペーサ層界面には、強磁性薄膜層を配置して、磁性化合
物層のスピン依存バルク散乱効果のみを有効に用い、高いMR変化率を得ることができる。また、本変形例4では、磁性化合物層と強磁性薄膜層との2層積層としたが、強磁性薄膜層/磁性化合物層/強磁性薄膜層のような3層以上の積層構造としてもよい。
本変形例4では、ピン層は磁性化合物M1−M2−X単層としたが、従来材料を用いてもよい。また、後述する本変形例5と組み合わせて、フリー層およびピン層の両方の磁性層が積層タイプでもよい。
(変形例5:ピン層を積層構造とした場合)
図6に、図1に示される実施例1の変形例としてピン層を磁性化合物層と強磁性薄膜層との積層構造とした磁気抵抗効果素子を示す。
図6において、本変形例4の磁気抵抗効果素子は、基板上に形成された,下電極21,下地層11,ピニング層12,ピン層13,スペーサ層14,フリー層15,キャップ層16,および上電極22を有する。本変形例5では、シンセティックスピンバルブ構造をとっており、ピン層13のスペーサ側の上部ピン層133を上部ピン層下層1331と上部ピン層上層1332との積層膜としており、上部ピン層1332とフリー層15に、式M1a M2bXc で表される、磁性化合物を採用する。
本変形例のように、上部ピン層133を磁性化合物と強磁性層の積層構造を用いることにより、一方向にピンされやすいのでピン層のピン特性をよくすることができる。本変形例では、上部ピン層下層1331に強磁性層を用いた。上部ピン層下層1331に用いられる強磁性薄膜層の材料としては、Co、Fe、Niなどの単体金属、またはこれらのいずれか一つの元素を含む合金材料はすべて用いることができる。
磁性化合物M1−M2−Xは、実施例1と同様にCo−Ti−Oを用いることができ、本変形例においても、実施例1と同様に従来材料に比べて高いMR変化率を得られる。磁性化合物M1−M2−Xの組成としては、M1は、Co,Fe,Niから選択される少なくとも一種の磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。M2は、Ti,V,Cr,Mnから選択される少なくとも一種の非磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。Xは、N,O,Cから選択される少なくとも一種の非金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。
本変形例5では、上部ピン層上層1332に磁性化合物層M1−M2−Xを用い、上部ピン層下層1331に強磁性薄膜層を用いたが、上部ピン層上層1332に強磁性薄膜層を用い、上部ピン層下層1331に磁性化合物層に用いることも可能である。磁性化合物のスピン依存散乱をバルク散乱と界面散乱にわけて考えた場合、磁性化合物層M1−M2−Xの作製方法によっては、スピン依存バルク散乱は強磁性薄膜層に用いられる従来強磁性材料よりも高く、スピン依存界面散乱は強磁性薄膜層に用いられる従来強磁性材料よりも低くなる場合がある。このような場合は、スペーサ層界面には、強磁性薄膜層を配置して、磁性化合物層のスピン依存バルク散乱効果のみを有効に用い、高いMR変化率を得ることができる。また、本変形例5では、磁性化合物層と強磁性薄膜層との2層積層としたが、強磁性薄膜層/磁性化合物層/強磁性薄膜層のような3層積層としてもよい。
本変形例5では、フリー層は磁性化合物M1−M2−X単層としたが、従来材料を用いてもよい。また、本変形例4と組み合わせて、フリー層およびピン層の両方の磁性層が磁性化合物層と強磁性薄膜層との積層構造を有していたもよい。
(実施例2)
次に本発明の実施例2である磁気抵抗効果素子について説明する。本実施例では、磁性化合物の材料を変化させている点が実施例1と異なるため、実施例1と明らかに異なる部分について説明し、同様の部分については説明を省略する。
本実施例では、上部ピン層133とフリー層15に磁性化合物Co−V−O[3nm]を用いて、Co−V−Oの組成比を変えて磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例として、上部ピン層133とフリー層15に従来材料Co90Fe10[3nm]を用いた磁気抵抗素子も作製した。
本実施例の磁気抵抗効果素子を評価したところ、特定の範囲のCo−V−Oの組成比で作製した磁気抵抗効果素子において、比較例よりも大きなMR比が得られることを確認した。このようなMR比の増大は、適正な組成比を作製することで、磁性化合物が高いスピン分極率を有しているためと考えられる。
本実施例では、式CoaVbOc で表される組成式において下記の表2に示す組成比の磁気抵抗効果素子を作製した。(ここでa、b、cは原子%[at.%]である。)表2には、各組成において比較例に対するMR比の向上の有無を合わせて示す。
比較例のA00のMR比は0.6%であった。5≦a≦68かつ、10≦b≦73かつ、22≦c≦85であるの範囲で作製した磁気抵抗効果素子が比較例を上回る1%以上のMR比を確認できた。また、前述した範囲の中でも、30≦c≦75の範囲で作製した磁気抵抗効果素子では15%を超える特に大きなMR比を確認でき、磁性化合物を用いたことによるMR比の向上が特に顕著に見られた。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の非磁性3d金属元素Ti,V,Cr,Mnの組成比bは、添加量が少なすぎると、非磁性3d金属元素のスピン依存伝導への寄与が少なくなるため、10≦bとすることが望ましい。ただし、添加量が多すぎると、非磁性3d金属元素と磁性3d金属元素の結合が少なくなるため、非磁性3d遷移金属元素の磁性が弱まってしまう。そのため、10≦b≦73であることがより望ましい。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の非金属元素N,O,Cの組成比cは、非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属のバンド構造の変化を助長する効果を得るためには22≦cとすることが望ましい。ただし、添加量が多すぎると、相対的に非磁性3d遷移金属元素と磁性3d遷移金属元素が少なくなり、スピン依存伝導を担う元素が少なくなるため、22≦c≦85であることが望ましい。さらに、含有される非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属の大半の元素と結合して、大きいスピン分極率を得るためには、30≦c≦75であると、特に大きいMR比を得ることができる。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の磁性3d金属元素Co,Fe,Niの組成比aは、添加量が少なすぎると、非磁性3d金属元素と磁性3d金属元素の結合が少なくなるため、非磁性3d遷移金属元素の磁性が弱まってしまう。ただし、添加量が多すぎると、相対的に非磁性3d金属元素の組成比b及び非金属元素の組成比cが少なくなり、既に示した非磁性3d金属元素と非金属元素の添加によるスピン分極率の増大効果が弱まってしまう。そのため、5≦a≦68であることが望ましい。
本実施例では、磁性化合物式M1a M2bXcの組成として、M1としてCo,M2としてV,XとしてOを用いたが、M1は、Co,Fe,Niから選択される少なくとも一種の磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。M2は、Ti,V,Cr,Mnから選択される少なくとも一種の非磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。Xは、N,O,Cから選択される少なくとも一種の非金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。
なお、本実施例2においても、実施例1に対する変形例1〜5のような膜構造のバリエーションが適用可能である。
(実施例3)
次に本発明の実施例3である磁気抵抗効果素子について説明する。本実施例では、磁性化合物の材料を変化させている点が実施例1と異なるため、実施例1と明らかに異なる部分について説明し、同様の部分については説明を省略する。
本実施例では、上部ピン層133とフリー層15に磁性化合物Co−Cr−O[3nm]を用いて、Co−Cr−Oの組成比を変えて磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例として、上部ピン層133とフリー層15に従来材料Co90Fe10 [3nm]を用いた磁気抵抗素子も作製した。
本実施例の磁気抵抗効果素子を評価したところ、特定の範囲のCo−Cr−Oの組成比で作製した磁気抵抗効果素子において、比較例よりも大きなMR比が得られることを確認した。このようなMR比の増大は、適正な組成比を作製することで、磁性化合物が高いスピン分極率を有しているためと考えられる。
本実施例では、式CoaCrbOc で表される組成式において下記の表3に示す組成比の磁気抵抗効果素子を作製した。(ここでa、b、cは原子%[at.%]である。)表3には、各組成において比較例に対するMR比の向上の有無を合わせて示す。
比較例のA00のMR比は0.6%であった。5≦a≦68かつ、10≦b≦73かつ、22≦c≦85であるの範囲で作製した磁気抵抗効果素子が比較例を上回る1%以上のMR比を確認できた。また、前述した範囲の中でも、30≦c≦75の範囲で作製した磁気抵抗効果素子では15%を超える特に大きなMR比を確認でき、磁性化合物を用いたことによるMR比の向上が特に顕著に見られた。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の非磁性3d金属元素Ti,V,Cr,Mnの組成比bは、添加量が少なすぎると、非磁性3d金属元素のスピン依存伝導への寄与が少なくなるため、10≦bとすることが望ましい。ただし、添加量が多すぎると、非磁性3d金属元素と磁性3d金属元素の結合が少なくなるため、非磁性3d遷移金属元素の磁性が弱まってしまう。そのため、10≦b≦73であることがより望ましい。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の非金属元素N,O,Cの組成比cは、非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属のバンド構造の変化を助長する効果を得るためには22≦cとすることが望ましい。ただし、添加量が多すぎると、相対的に非磁性3d遷移金属元素と磁性3d遷移金属元素が少なくなり、スピン依存伝導を担う元素が少なくなるため、22≦c≦85であることが望ましい。さらに、含有される非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属の大半の元素と結合して、大きいスピン分極率を得るためには、30≦c≦75であると、特に大きいMR比を得ることができる。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の磁性3d金属元素Co,Fe,Niの組成比aは、添加量が少なすぎると、非磁性3d金属元素と磁性3d金属元素の結合が少なくなるため、非磁性3d遷移金属元素の磁性が弱まってしまう。ただし、添加量が多すぎると、相対的に非磁性3d金属元素の組成比b及び非金属元素の組成比cが少なくなり、既に示した非磁性3d金属元素と非金属元素の添加によるスピン分極率の増大効果が弱まってしまう。そのため、5≦a≦68であることが望ましい。
本実施例では、磁性化合物式M1a M2bXcの組成として、M1としてCo,M2としてCr,XとしてOを用いたが、M1は、Co,Fe,Niから選択される少なくとも一種の磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。M2は、Ti,V,Cr,Mnから選択される少なくとも一種の非磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。Xは、N,O,Cから選択される少なくとも一種の非金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。
なお、本実施例3においても、実施例1に対する変形例1〜5のような膜構造のバリエーションが適用可能である。
(実施例4)
次に本発明の実施例4である磁気抵抗効果素子について説明する。本実施例では、磁性化合物の材料を変化させている点が実施例1と異なるため、実施例1と明らかに異なる部分について説明し、同様の部分については説明を省略する。
本実施例では、上部ピン層133とフリー層15に磁性化合物Co−Mn−O[3nm]を用いて、Co−Mn−Oの組成比を変えて磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例として、上部ピン層133とフリー層15に従来材料Co90Fe10 [3nm]を用いた磁気抵抗素子も作製した。
本実施例の磁気抵抗効果素子を評価したところ、特定の範囲のCo−Mn−Oの組成比で作製した磁気抵抗効果素子において、比較例よりも大きなMR比が得られることを確認した。このようなMR比の増大は、適正な組成比を作製することで、磁性化合物が高いスピン分極率を有しているためと考えられる。
本実施例では、式CoaMnbOc で表される組成式において下記の表4に示す組成比の磁気抵抗効果素子を作製した。(ここでa、b、cは原子%[at.%]である。)表4には、各組成において比較例に対するMR比の向上の有無を合わせて示す。
比較例のA00のMR比は0.6%であった。5≦a≦68かつ、10≦b≦73かつ、22≦c≦85であるの範囲で作製した磁気抵抗効果素子が比較例を上回る1%以上のMR比を確認できた。また、前述した範囲の中でも、30≦c≦75の範囲で作製した磁気抵抗効果素子では15%を超える特に大きなMR比を確認でき、磁性化合物を用いたことによるMR比の向上が特に顕著に見られた。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の非磁性3d金属元素Ti,V,Cr,Mnの組成比bは、添加量が少なすぎると、非磁性3d金属元素のスピン依存伝導への寄与が少なくなるため、10≦bとすることが望ましい。ただし、添加量が多すぎると、非磁性3d金属元素と磁性3d金属元素の結合が少なくなるため、非磁性3d遷移金属元素の磁性が弱まってしまう。そのため、10≦b≦73であることがより望ましい。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の非金属元素N,O,Cの組成比cは、非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属のバンド構造の変化を助長する効果を得るためには22≦cとすることが望ましい。ただし、添加量が多すぎると、相対的に非磁性3d遷移金属元素と磁性3d遷移金属元素が少なくなり、スピン依存伝導を担う元素が少なくなるため、22≦c≦85であることが望ましい。さらに、含有される非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属の大半の元素と結合して、大きいスピン分極率を得るためには、30≦c≦75であると、特に大きいMR比を得ることができる。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の磁性3d金属元素Co,Fe,Niの組成比aは、添加量が少なすぎると、非磁性3d金属元素と磁性3d金属元素の結合が少なくなるため、非磁性3d遷移金属元素の磁性が弱まってしまう。ただし、添加量が多すぎると、相対的に非磁性3d金属元素の組成比b及び非金属元素の組成比cが少なくなり、既に示した非磁性3d金属元素と非金属元素の添加によるスピン分極率の増大効果が弱まってしまう。そのため、5≦a≦68であることが望ましい。
本実施例では、磁性化合物式M1a M2bXcの組成として、M1としてCo,M2としてCr,XとしてOを用いたが、M1は、Co,Fe,Niから選択される少なくとも一種の磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。M2は、Ti,V,Cr,Mnから選択される少なくとも一種の非磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。Xは、N,O,Cから選択される少なくとも一種の非金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。
なお、本実施例4においても、実施例1に対する変形例1〜5のような膜構造のバリエーションが適用可能である。
(実施例5)
実施例1〜4に示した磁気抵抗効果素子においては、スペーサ層14がCuであったが、ここではスペーサ層14として抵抗調整層を有する磁気抵抗効果素子においても本発明の効果が得られるかどうかを検討した。ここで用いた抵抗調整層142は、Cuからなるメタルパスを持つAl−OからなるNOL(Nano Oxide Layer)である。Cuメタルパスは絶縁部分であるAl−Oを貫通しており、磁化自由層と磁化固着層をオーミックに接続している。
本実施例の磁気抵抗効果素子を図7に示す。基板上に形成された,下電極21,下地層11,ピニング層12,ピン層13,スペーサ層14,フリー層15,キャップ層16,および上電極22を有する。本実施例では、シンセティックスピンバルブ構造をとっており、ピン層13のスペーサ側の上部ピン層133、及びフリー層15に、式M1a M2bXc で表される、磁性化合物層を採用する。
スペーサ層14は、金属層141と抵抗調整層142と金属層143から構成される。抵抗調整層142はCuからなるメタルパス142aを持つAl−Oからなる絶縁層142bより構成されるNOL(Nano Oxide Layer)である。抵抗調整層142の絶縁層142bは、Al−O以外にSi,Mg,Ta,Ti,ZrおよびZnなどおよびそれらを主成分とする合金の酸化物でもよい。また,被酸化金属層から変換される絶縁層は酸化物に限らず,窒化物や酸窒化物でもよい。抵抗調整層142のメタルパス142aの材料としては、酸化されにくく,かつ比抵抗の低い材料が望ましく、Cu,Au,Agなどを用い
ることができる。
金属層141は、抵抗調整層142を作製する上で、メタルパス142aの供給源となったり、その下にあるピン層13がスペーサ層142の酸化物に接して余分に酸化されないようにするバリア層としての機能を有している。そのため、酸化されにくく,かつ比抵抗の低い材料が望ましく、Cu,Au,Agなどを用いることができる。
金属層143は,その上に成膜されるフリー層15がスペーサ層142の酸化物に接して余分に酸化されないようにするバリア層としての機能を有しており、Cu,Au,Agなどを用いることができる。
本実施例では、スペーサ層14以外の構成要素は実施例1と同じとし、上部ピン層133とフリー層15に磁性化合物Co−Ti−O[3nm]を用いて、Co−Ti−Oの組成比を変えて磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例として、上部ピン層133とフリー層15に従来材料Co90Fe10[3nm]を用いた磁気抵抗素子も作製した。
本実施例の磁気抵抗効果素子を評価したところ、特定の範囲のCo−Ti−Oの組成比で作製した磁気抵抗効果素子において、比較例よりも大きなMR比が得られることを確認した。このようなMR比の増大は、適正な組成比を作製することで、磁性化合物が高いスピン分極率を有しているためと考えられる。
本実施例では、式CoaTibOc で表される組成式において下記の表
5に示す組成比の磁気抵抗効果素子を作製した。(ここでa、b、cは原子%[at.%]である。)表
5には、各組成において比較例に対するMR比の向上の有無を合わせて示す。
比較例のE00のMR比は5%であった。5≦a≦68かつ、10≦b≦73かつ、22≦c≦85であるの範囲で作製した磁気抵抗効果素子が比較例を上回る6%以上のMR比を確認できた。また、前述した範囲の中でも、30≦c≦75の範囲で作製した磁気抵抗効果素子では20%を超える特に大きなMR比を確認でき、磁性化合物を用いたことによるMR比の向上が特に顕著に見られた。
以上により、Cuメタルパスを有するAl−O NOL構造のスペーサ層14を有する磁気抵抗効果素子においても、本発明の磁性化合物M1−M2−Xの採用によるMR比向上という効果をそのまま維持することができる。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の非磁性3d金属元素Ti,V,Cr,Mnの組成比bは、添加量が少なすぎると、非磁性3d金属元素のスピン依存伝導への寄与が少なくなるため、10≦bとすることが望ましい。ただし、添加量が多すぎると、非磁性3d金属元素と磁性3d金属元素の結合が少なくなるため、非磁性3d遷移金属元素の磁性が弱まってしまう。そのため、10≦b≦73であることがより望ましい。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の非金属元素N,O,Cの組成比cは、非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属のバンド構造の変化を助長する効果を得るためには22≦cとすることが望ましい。ただし、添加量が多すぎると、相対的に非磁性3d遷移金属元素と磁性3d遷移金属元素が少なくなり、スピン依存伝導を担う元素が少なくなるため、22≦c≦85であることが望ましい。さらに、含有される非磁性3d遷移金属と磁性3d遷移金属の大半の元素と結合して、大きいスピン分極率を得るためには、30≦c≦75であると、特に大きいMR比を得ることができる。
式M1a M2bXc で表される磁性化合物中の磁性3d金属元素Co,Fe,Niの組成比aは、添加量が少なすぎると、非磁性3d金属元素と磁性3d金属元素の結合が少なくなるため、非磁性3d遷移金属元素の磁性が弱まってしまう。ただし、添加量が多すぎると、相対的に非磁性3d金属元素の組成比b及び非金属元素の組成比cが少なくなり、既に示した非磁性3d金属元素と非金属元素の添加によるスピン分極率の増大効果が弱まってしまう。そのため、5≦a≦68であることが望ましい。
本実施例では、磁性化合物式M1a M2bXcの組成として、M1としてCo,M2としてTi,XとしてOを用いたが、M1は、Co,Fe,Niから選択される少なくとも一種の磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。M2は、Ti,V,Cr,Mnから選択される少なくとも一種の非磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。Xは、N,O,Cから選択される少なくとも一種の非金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。
(変形例6:スペーサ層がCCP−NOLかつフリー層が積層構造の場合)
図8に、図7に示される実施例5の変形例として、スペーサ層14に抵抗調整層142が用いられ、かつフリー層を磁性化合物層と強磁性薄膜層との積層構造とした磁気抵抗効果素子を示す。
図8において、本変形例4の磁気抵抗効果素子は、基板上に形成された,下電極21,下地層11,ピニング層12,ピン層13,スペーサ層14,フリー層15,キャップ層16,および上電極22を有する。本変形例4では、フリー層15が下部フリー層151と上部フリー層152の積層構造となっている。また、本変形例4では、シンセティックスピンバルブ構造をとっており、ピン層13のスペーサ側の上部ピン層133、と下部フリー層151に磁性化合物層M1−M2−Xを採用している。
上部フリー層152に用いる強磁性薄膜層は、磁性化合物層よりも軟磁気特性に優れる軟磁性膜を用いることにより、磁場応答性をよくすることができる。上部フリー層152に用いる強磁性薄膜層として、NiFe合金を用いることができる。NiFe合金の組成は、NixFe100-x (x=78〜85%程度)が好ましく、NiFe層の膜厚は2〜5nm程度が好ましい。NiFe層を用いない場合には、1〜2nmのCoFe層またはFe層と0.1〜0.8nm程度の極薄Cu層とを、複数層交互に積層したフリー層を用いてもよい。また、CoFe合金のなかでも特に軟磁気特性が安定なCo90Fe10 を用いてもよい。Co90Fe10 近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5〜4nmとすることが好ましい。他の組成のCoFe合金を用いる場合、軟磁気特性を保つために、膜厚を0.5〜2nmとすることが好ましい。
本変形例では、スペーサ層14に抵抗調整層142を用いており、メタルパス142a近傍で電流が狭窄されるため、フリー層15の中でも下部フリー層151が上部フリー層152よりもスピン依存散乱の効果が増大される。そのため、スペーサ層として、抵抗調整層を用い、かつフリー層を積層タイプとする場合は、下部フリー層151にスピン依存散乱の大きい材料である、磁性化合物M1−M2−Xを配置することが望ましい。
ただし、次のような場合は、下部フリー層151に強磁性薄膜層を用い、上部フリー層152に磁性化合物層M1−M2−Xを用いても良い。磁性化合物のスピン依存散乱をバルク散乱と界面散乱にわけて考えた場合、磁性化合物層M1−M2−Xの作製方法によっては、スピン依存バルク散乱は強磁性薄膜層に用いられる従来強磁性材料よりも高く、スピン依存界面散乱は強磁性薄膜層に用いられる従来強磁性材料よりも低くなる場合がある。このような場合は、下部フリー層151に強磁性薄膜層を用い、上部フリー層152に磁性化合物層M1−M2−Xを用いても良い。スペーサ層界面には、強磁性薄膜層を配置して、磁性化合物層のスピン依存バルク散乱効果のみを有効に用い、高いMR変化率を得ることができる。また、本変形例4では、磁性化合物層と強磁性薄膜層との2層積層としたが、強磁性薄膜層/磁性化合物層/強磁性薄膜層のような3層以上の積層構造としてもよい。
磁性化合物M1−M2−Xは、実施例1と同様にCo−Ti−Oを用いることができ、本変形例においても、実施例1と同様に従来材料に比べて高いMR変化率を得られる。磁性化合物M1−M2−Xの組成としては、M1は、Co,Fe,Niから選択される少なくとも一種の磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。M2は、Ti,V,Cr,Mnから選択される少なくとも一種の非磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。Xは、N,O,Cから選択される少なくとも一種の非金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。
本変形例6では、ピン層は磁性化合物M1−M2−X単層としたが、従来材料を用いてもよい。また、後述する本変形例7と組み合わせて、フリー層およびピン層の両方の磁性層が磁性化合物層と強磁性薄膜層との積層構造でもよい。
(変形例7:スペーサ層がCCP−NOLかつピン層が積層構造の場合)
図9に、図7に示される実施例5の変形例として、スペーサ層14に抵抗調整層142が用いられ、かつピン層を磁性化合物と強磁性薄膜層との積層構造とした磁気抵抗効果素子を示す。
図9において、本変形例4の磁気抵抗効果素子は、基板上に形成された,下電極21,下地層11,ピニング層12,ピン層13,スペーサ層14,フリー層15,キャップ層16,および上電極22を有する。本変形例5では、シンセティックスピンバルブ構造をとっており、ピン層13のスペーサ側の上部ピン層133を上部ピン層下層1331と上部ピン層上層1332との積層膜としており、上部ピン層1332とフリー層15に、式M1a M2bXc で表される、磁性化合物層を採用する。
上部ピン層下層1332に用いる強磁性薄膜層として、磁性化合物よりも一方向にピンされやすい材料を用いることにより、ピン特性をよくすることができる。上部ピン層下層1332に用いる強磁性薄膜層材料としては、Co、Fe、Niなどの単体金属、またはこれらのいずれか一つの元素を含む合金材料はすべて用いることができる。
本変形例では、スペーサ層14に抵抗調整層142を用いており、メタルパス142a近傍で電流が狭窄されるため、上部ピン層の中でも上部ピン層上層1332が上部ピン層下層1331よりもスピン依存散乱の効果が増大される。そのため、スペーサ層として、抵抗調整層を用い、かつフリー層を積層タイプとする場合は、上部ピン層上層1332にスピン依存散乱の大きい材料である、磁性化合物層M1−M2−Xを配置することが望ましい。
つまり、ピン特性の観点からも、MR変化率の観点からも、上部ピン層上層1332に磁性化合物M1−M2−Xを配置することが望ましい。
ただし、次のような場合は、強磁性薄膜層/磁性化合物層/強磁性薄膜層のような3層以上の積層構造としてもよい。磁性化合物のスピン依存散乱をバルク散乱と界面散乱にわけて考えた場合、磁性化合物層M1−M2−Xの作製方法によっては、スピン依存バルク散乱は強磁性薄膜層に用いられる従来強磁性材料よりも高く、スピン依存界面散乱は強磁性薄膜層に用いられる従来強磁性材料よりも低くなる場合がある。このような場合は、スペーサ層界面には、強磁性薄膜層を配置して、磁性化合物層のスピン依存バルク散乱効果のみを有効に用い、高いMR変化率を得ることができる。
磁性化合物M1−M2−Xは、実施例1と同様にCo−Ti−Oを用いることができ、本変形例においても、実施例1と同様に従来材料に比べて高いMR変化率を得られる。磁性化合物M1−M2−Xの組成としては、M1は、Co,Fe,Niから選択される少なくとも一種の磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。M2は、Ti,V,Cr,Mnから選択される少なくとも一種の非磁性3d遷移金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。Xは、N,O,Cから選択される少なくとも一種の非金属元素を用いても同様の効果を得ることができる。
本変形例7では、フリー層は磁性化合物M1−M2−X単層としたが、従来材料を用いてもよい。また、本変形例6と組み合わせて、フリー層およびピン層の両方の磁性層が積層タイプでもよい。
以下、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の応用について説明する。
本発明の実施形態において、磁気抵抗効果素子の素子抵抗RAは、高密度対応の観点から、500mΩ/μm2 以下が好ましく、300mΩ/μm2以下がより好ましい。素子抵抗RAを算出する場合には、CPP素子の抵抗Rにスピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aを掛け合わせる。ここで、素子抵抗Rは直接測定できる。一方、スピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aは素子構造に依存する値であるため、その決定には注意を要する。
例えば、スピンバルブ膜の全体を実効的にセンシングする領域としてパターニングしている場合には、スピンバルブ膜全体の面積が実効面積Aとなる。この場合、素子抵抗を適度に設定する観点から、スピンバルブ膜の面積を少なくとも0.04μm2 以下にし、200Gbpsi以上の記録密度では0.02μm2以下にする。
しかし、スピンバルブ膜に接してスピンバルブ膜より面積の小さい下電極11または上電極20を形成した場合には、下電極11または上電極20の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。下電極11または上電極20の面積が異なる場合には、小さい方の電極の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。この場合、素子抵抗を適度に設定する観点から、小さい方の電極の面積を少なくとも0.04μm2以下にする。
後に詳述する図10、図11の実施例の場合、図10でスピンバルブ膜10の面積が一番小さいところは上電極20と接触している部分なので、その幅をトラック幅Twとして考える。また、ハイト方向に関しては、図11においてやはり上電極20と接触している部分が一番小さいので、その幅をハイト長Dとして考える。スピンバルブ膜の実効面積Aは、A=Tw×Dとして考える。
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子では、電極間の抵抗Rを100Ω以下にすることができる。この抵抗Rは、例えばヘッドジンバルアセンブリー(HGA)の先端に装着した再生ヘッド部の2つの電極パッド間で測定される抵抗値である。
(磁気ヘッド)
図10および図11は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに組み込んだ状態を示している。図10は、磁気記録媒体(図示せず)に対向する媒体対向面に対してほぼ平行な方向に磁気抵抗効果素子を切断した断面図である。図11は、この磁気抵抗効果素子を媒体対向面ABSに対して垂直な方向に切断した断面図である。
図10および図11に例示した磁気ヘッドは、いわゆるハード・アバッテッド(hard abutted)構造を有する。磁気抵抗効果膜10は上述した磁気抵抗効果膜である。磁気抵抗効果膜10の上下には、下電極11と上電極20とがそれぞれ設けられている。図10において、磁気抵抗効果膜10の両側面には、バイアス磁界印加膜41と絶縁膜42とが積層して設けられている。図11に示すように、磁気抵抗効果膜10の媒体対向面には保護層43が設けられている。
磁気抵抗効果膜10に対するセンス電流は、その上下に配置された下電極11、上電極20によって矢印Aで示したように、膜面に対してほぼ垂直方向に通電される。また、左右に設けられた一対のバイアス磁界印加膜41、41により、磁気抵抗効果膜10にはバイアス磁界が印加される。このバイアス磁界により、磁気抵抗効果膜10のフリー層18の磁気異方性を制御して単磁区化することによりその磁区構造が安定化し、磁壁の移動に伴うバルクハウゼンノイズ(Barkhausen noise)を抑制することができる。
磁気抵抗効果膜10のS/N比が向上しているので、磁気ヘッドに応用した場合に高感度の磁気再生が可能となる。
(ハードディスクおよびヘッドジンバルアセンブリー)
図10および図11に示した磁気ヘッドは、記録再生一体型の磁気ヘッドアセンブリに組み込んで、磁気記録再生装置に搭載することができる。
図12は、このような磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。すなわち、本実施形態の磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、磁気ディスク200は、スピンドル152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。本実施形態の磁気記録再生装置150は、複数の磁気ディスク200を備えてもよい。
磁気ディスク200に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ153は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ヘッドスライダ153は、上述したいずれかの実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドをその先端付近に搭載している。
磁気ディスク200が回転すると、ヘッドスライダ153の媒体対向面(ABS)は磁気ディスク200の表面から所定の浮上量をもって保持される。あるいはスライダが磁気ディスク200と接触するいわゆる「接触走行型」でもよい。
サスペンション154はアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、ボビン部に巻かれた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
アクチュエータアーム155は、スピンドル157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
図13は、アクチュエータアーム155から先のヘッドジンバルアセンブリーをディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、アセンブリ160は、アクチュエータアーム155を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。サスペンション154の先端には、上述したいずれかの実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを具備するヘッドスライダ153が取り付けられている。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダ153に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接
続されている。図中165はアセンブリ160の電極パッドである。
本実施形態によれば、上述の磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを具備することにより、高い記録密度で磁気ディスク200に磁気的に記録された情報を確実に読み取ることが可能となる。
(磁気メモリ)
次に、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリについて説明する。すなわち、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いて、例えばメモリセルがマトリクス状に配置されたランダムアクセス磁気メモリ(MRAM: magnetic random access memory)などの磁気メモリを実現できる。
図14は、本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の一例を示す図である。この図は、メモリセルをアレイ状に配置した場合の回路構成を示す。アレイ中の1ビットを選択するために、列デコーダ350、行デコーダ351が備えられており、ビット線334とワード線332によりスイッチングトランジスタ330がオンになり一意に選択され、センスアンプ352で検出することにより磁気抵抗効果膜10中の磁気記録層(フリー層)に記録されたビット情報を読み出すことができる。ビット情報を書き込むときは、特定の書き込みワード線323とビット線322に書き込み電流を流して発生する磁場
を印加する。
図15は、本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の他の例を示す図である。この場合、マトリクス状に配線されたビット線322とワード線334とが、それぞれデコーダ360、361により選択されて、アレイ中の特定のメモリセルが選択される。それぞれのメモリセルは、磁気抵抗効果素子10とダイオードDとが直列に接続された構造を有する。ここで、ダイオードDは、選択された磁気抵抗効果素子10以外のメモリセルにおいてセンス電流が迂回することを防止する役割を有する。書き込みは、特定のビット線322と書き込みワード線323とにそれぞれに書き込み電流を流して発生する磁
場により行われる。
図16は、本発明の実施形態に係る磁気メモリの要部を示す断面図である。図17は、図16のA−A’線に沿う断面図である。これらの図に示した構造は、図14または図15に示した磁気メモリに含まれる1ビット分のメモリセルに対応する。このメモリセルは、記憶素子部分311とアドレス選択用トランジスタ部分312とを有する。
記憶素子部分311は、磁気抵抗効果素子10と、これに接続された一対の配線322、324とを有する。磁気抵抗効果素子10は、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子である。
一方、アドレス選択用トランジスタ部分312には、ビア326および埋め込み配線328を介して接続されたトランジスタ330が設けられている。このトランジスタ330は、ゲート332に印加される電圧に応じてスイッチング動作をし、磁気抵抗効果素子10と配線334との電流経路の開閉を制御する。
また、磁気抵抗効果素子10の下方には、書き込み配線323が、配線322とほぼ直交する方向に設けられている。これら書き込み配線322、323は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、タンタル(Ta)あるいはこれらいずれかを含む合金により形成することができる。
このような構成のメモリセルにおいて、ビット情報を磁気抵抗効果素子10に書き込むときは、配線322、323に書き込みパルス電流を流し、それら電流により誘起される合成磁場を印加することにより磁気抵抗効果素子の記録層の磁化を適宜反転させる。
また、ビット情報を読み出すときは、配線322と、磁気記録層を含む磁気抵抗効果素子10と、下電極324とを通してセンス電流を流し、磁気抵抗効果素子10の抵抗値または抵抗値の変化を測定する。
本発明の実施形態に係る磁気メモリは、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いることにより、セルサイズを微細化しても、記録層の磁区を確実に制御して確実な書き込みを確保でき、且つ、読み出しも確実に行うことができる。
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張、変更可能であり、拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
磁気抵抗効果膜の具体的な構造や、その他、電極、バイアス印加膜、絶縁膜などの形状や材質に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる。
例えば、磁気抵抗効果素子を再生用磁気ヘッドに適用する際に、素子の上下に磁気シールドを付与することにより、磁気ヘッドの検出分解能を規定することができる。また、本発明の実施形態は、長手磁気記録方式のみならず、垂直磁気記録方式の磁気ヘッドあるいは磁気再生装置についても適用できる。さらに、本発明の磁気再生装置は、特定の記録媒体を定常的に備えたいわゆる固定式のものでも良く、一方、記録媒体が差し替え可能ないわゆる「リムーバブル」方式のものでも良い。
その他、本発明の実施形態として上述した磁気ヘッドおよび磁気記憶再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうるすべての磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記憶再生装置および磁気メモリも同様に本発明の範囲に属する。