JP6004770B2 - ポリアミド樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体 - Google Patents

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Description

本発明は、機械的特性に加えて、成形性を向上させたポリアミド樹脂組成物に関する。
ポリアミド6T、ポリアミド9Tに代表される半芳香族ポリアミドは、耐熱性、機械特性に加え、低吸水性に優れ、多くの電気・電子部品、自動車のエンジン周りの部品として使用されている。
一方、ポリイミド、液晶ポリエステルに代表される高耐熱材料は、電気、電子部品の基板材料として用いられている。しかしながら、このような材料は、性能面で非常に優れるものの、非常に高価であり加工適性に劣るため、前記半芳香族ポリアミドをこのような用途で用いることが検討されている。
ポリアミド6Tは、そのホモポリマーの融点が370℃と高すぎるため、溶融加工時のポリアミド6Tの熱分解を抑制することができなくなってしまう。そのため、ポリアミド6Tは、共重合成分を多く導入することにより、融点を十分に下げた状態で使用されている。しかし、このような共重合されたポリアミド6Tは、結晶性が損なわれ、結晶化を速めることはできなかった。
特許文献1には、ポリアミド9T、ガラス繊維を含有するポリアミド系成形材料の開示がある。しかしながらこのような材料では、機械特性は十分に向上させることはできるが、共重合成分の導入によりポリアミド9T本来の耐熱性を引き下げ、成形加工性の改善を行っている。このようなポリアミドはポリアミド9Tの有する結晶性が阻害され結晶化は遅くなっている。
一方、特許文献2には、ポリアミド9Tよりも成形加工性に優れるポリアミド10Tを用いたポリアミド成形体が開示されている。しかしながら、これら材料であっても、結晶化は遅く、射出成形を行う場合には短時間で金型からの取出し可能なまで、十分に結晶化を速め、成形サイクルを短縮したポリアミドは得られていなかった。
特開平7−228769号公報 特開平6−239990号公報
本発明のポリアミド樹脂組成物は、従来よりも、成形時の成形性、すなわち、成形サイクルの短縮と、連続生産性の向上を図ることを可能とするものである。
本発明は、機械的特性に加えて、成形性を向上させたポリアミド樹脂組成物、およびそれからなる成形体を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)ジカルボン酸成分とジアミン成分とからなるポリアミド100質量部、繊維状強化材5〜200質量部と、リン系酸化防止剤0.01〜5質量部とを含有してなるポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミドを構成するジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とし、ジアミン成分が1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかであり、用いるポリアミドのDSCを用いて測定される過冷却度△Tが40℃以下であって、
リン系酸化防止剤がテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニリレンジフォスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトまたはビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトであることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(2)ジアミン成分が、1,10−デカンジアミンであることを特徴とする(1)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(3)ポリアミド中のジアミン単位に対するトリアミン単位が0.3モル%以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)繊維状強化材がガラス繊維、炭素繊維、金属繊維から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(5)(1)〜()のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。
本発明によれば、機械的特性、成形性を向上させたポリアミド樹脂組成物が得られる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるポリアミド樹脂は、ジカルボン酸成分とジアミン成分とからなるポリアミドである。本発明においては、高結晶性の観点から、特定の化学構造を有するジカルボン酸成分とジアミン成分とを用いることが必要である。
ポリアミド樹脂を構成するジカルボン酸成分は、主成分としてテレフタル酸を用いる必要がある。その理由は、テレフタル酸は、芳香族ジカルボン酸の中でも化学構造の対称性が高く、高い結晶性を有するポリアミド樹脂を得る上で最も好ましいからである。
ポリアミド樹脂を構成するジアミン成分は、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかである直鎖脂肪族ジアミンである。直鎖脂肪族ジアミンは、化学構造の対称性が高いため、高い結晶性を有するポリアミド樹脂を得る上で好ましい。
用いられるジアミンの炭素数が、偶数であることが必要である理由について以下に述べる。一般的に、ポリアミドにおいてはいわゆる偶奇効果が発現する。すなわち、用いられるジアミン成分のモノマー単位の炭素数が偶数である場合には、奇数である場合と比較して、より安定な結晶構造をとるため、結晶性が向上するという効果が発現する。従って、高結晶性の観点から、直鎖脂肪族ジアミンの炭素数は偶数である必要がある。
ジアミンの炭素数が8未満の場合には、得られるポリアミド樹脂の融点が340℃を超えて分解温度を上回るため、好ましくない。一方、ジアミンの炭素数が12を超える場合には、得られるポリアミド樹脂の融点が280℃未満となり、実用に供する際に、耐熱性が不足してしまうため好ましくない。炭素数9、11のジアミンでは、ポリアミドの偶奇効果により、結晶性が不足する。
本発明で用いるポリアミド樹脂には、主成分となるテレフタル酸成分以外のジカルボン酸成分、および/または炭素数が8、10または12である直鎖脂肪族ジアミン成分以外の種類のジアミン成分(以下、「共重合成分」と略称する。)が共重合されていてもよい。共重合成分は、原料モノマーの総モル数(100モル%)に対し、5モル%以下とすることが好ましく、実質的に共重合成分を含まないことがより好ましい。なぜなら、高結晶性の観点からは、化学構造の不規則な共重合体よりも、規則性の高いホモポリマーに近い構造を有することが好ましいからである。つまり、共重合成分が5モル%を超えると、結晶性が低下し、高結晶性を有するポリアミド樹脂を得ることができない場合がある。
ポリアミド樹脂の共重合成分として用いることが可能なテレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
ポリアミド樹脂の共重合成分として用いることが可能な他のジアミン成分としては、1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミン、キシリレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。なお、上記に列挙された1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−オクタンジアミンのいずれかは、本発明のポリアミド樹脂に必須のジアミン成分である。1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかを必須のジアミン成分として用いた場合には、それ以外のジアミン成分が共重合成分として用いられる。例えば、1,8−オクタンジアミンを必須のジアミン成分として用いる場合には、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンが共重合成分として用いられる。
ポリアミド樹脂には、必要に応じて、カプロラクタム等のラクタム類を共重合させてもよい。
ポリアミド樹脂の重量平均分子量は、15000〜50000であることが好ましく、20000〜50000であることがより好ましく、26000〜50000であることがさらに好ましい。ポリアミド樹脂の重量平均分子量が15000未満であると得られるポリアミド樹脂の結晶化は速くなるものの、剛性が低下する。ポリアミド樹脂の重量平均分子量が50000を超えると結晶化は遅くなり、射出成形時の流動性が低下する。
ポリアミド樹脂の相対粘度は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。例えば、成形加工が容易なポリアミド樹脂を得ようとすれば、96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定される相対粘度を2.0以上とすることが好ましい。
本発明で用いるポリアミド樹脂は、トリアミン量が十分に低減されていることが好ましい。ポリアミド樹脂は、重合時におけるジアミン同士の縮合反応により、トリアミン構造が副生し易い。トリアミン量が多いと、分子鎖中に架橋構造が生成し、その架橋構造は分子鎖の動きや配列を束縛するため、結晶性が低下する。また、トリアミン量が多いと、ゲルが多く発生するため、得られる成形体の表面にフィッシュアイやブツとして存在し、表面外観を損ねる原因となることがある。
そのため、ポリアミド樹脂中に含まれるトリアミン単位は、ジアミン単位の0.3モル%以下であることが必要であり、0.2モル%以下であることが好ましい。ポリアミド樹脂中のトリアミン構造がジアミン単位の0.3モル%を超える場合には、結晶性が低下したり、ゲルが発生して得られる成形体の表面平滑性を損ねたり、色調が低下するという問題が発現することがある。
上記のトリアミン単位をジアミン単位の0.3モル%以下とするためには、テレフタル酸成分とジアミン成分とから塩を生成するに際し、水や有機溶剤の合計の配合量を、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部以下とすることが必要である。
一般的に、ポリアミドの加熱重合反応を均一的に進行させるために、水の共存下、原料を混合し、加熱して脱水反応を進行させる方法が用いられている。しかしながら、このような方法においては、重合時の水と有機溶剤の合計量が、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部を超えて多くなると、重合度の上昇が抑制されるという問題がある。その場合、アミン末端が多い状態での重合装置中の滞留時間が長くなり、ジアミン同士の縮合反応により副生成するトリアミン量が増加する。その結果、ポリアミドの一部が架橋構造をとり、ゲル化が促進されたり、色調が低下したりする。ゲル化はポリアミドの結晶性の低下や、結晶化速度を遅延させる原因となる。そして、本発明のような半芳香族ポリアミドでは、トリアミンの生成が脂肪族ポリアミドより顕著である。従って、本発明のように、トリアミン単位がジアミン単位の0.3モル%以下であるポリアミド樹脂を得るためには、水や有機溶剤の配合量を、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部以下とすることが必要であり、実質的に水を配合させないことがより好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、結晶化を速め、成形性を向上させることを目的としているので、結晶化速度が特定の範囲に制御されている必要がある。本発明における結晶化速度は、示差走査熱量計(以下、「DSC」と略称する。)を用いて測定した過冷却度(以下、「ΔT」と略称する。)を指標とすることができる。本発明において、ΔTは40℃以下である必要があり、35℃以下であることが好ましい。ΔTが40℃を超えると、結晶性を十分に高めることができず、成形サイクルを短縮することができなかったり、金型からの離型が困難となるため、成形時の連続生産性が低下することがある。
なお、本発明においては、下記式のように、ΔTは、当該ポリアミドの融点(以下、「Tm」と略称する。)と降温結晶化温度(以下、「Tcc」と略称する。)との差と定義される。
ΔT=Tm−Tcc
上記式においては、DSCを用いて、不活性ガス雰囲気下、当該ポリアミドを溶融状態から20℃/分の降温速度で25℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度をTmと定義する。また、同様に溶融状態から20℃/分の降温速度で25℃まで降温した場合に現れる発熱ピークの温度をTccと定義する。このΔTが小さい程、ポリマー溶融状態からの結晶化が速いことを示す。
ΔTが40℃以下の範囲を満たすことで、繊維状強化材による成形体の補強効果と相まって、射出成形時の金型からの取出し時の成形体の剛性が高まるため、繊維状強化材を含有しないポリアミド樹脂成形体に比べ、冷却時間を短くしても金型内からの成形体の取出しが可能となる。したがって、射出成形によって成形体1個を成形するために要する時間(以下、「成形サイクル」と略称する。)を短縮することができる。このことは、成形体の生産効率を向上させるばかりでなく、特に連続して射出成形を行う場合、射出成形機のシリンダー内に滞留する樹脂の滞留時間の短縮も図れるため、樹脂の劣化、分解ガスの発生を抑制し、成形体への前記劣化物、分解ガスの混入、金型汚れを抑制し、成形体の品質向上を図ることができる。金型汚れの抑制は、金型からの取出し時の離型を良好にし、しかも良好な離型性能を継続して維持することができるため、生産ライン等で自動成形を行う場合の離型不良による運転停止を起こすことなく、長時間の連続成形が可能な連続生産性を向上させることができる。
また、本発明で用いるポリアミド樹脂のように、ポリアミド6、ポリアミド66に比べ融点が高く、成形体を得るための樹脂溶融温度が高く、樹脂が長時間にわたって成形機シリンダー内に滞留する場合には、前記樹脂の劣化、分解ガスの発生は著しくなるため、成形サイクルを短くし、溶融樹脂の成形機シリンダー内への滞留を極力抑制することは、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形して耐熱性に優れた成形体を得るための成形体品質面、成形ハンドリング面において好ましいことである。
なお、炭素数が偶数個であるジアミン成分が用いられたポリアミド樹脂は、そもそも高結晶性を有するものである。さらなる高結晶性を達成するために、上述のように、本発明のポリアミド樹脂中の共重合成分を0〜5モル%とすることができる。さらなる高結晶性を達成するためには、上述のように、ポリアミド樹脂中のジアミン単位に対するトリアミン単位を0.3モル%以下としてもよい。
本発明で用いるポリアミド樹脂は、ポリアミドを製造する方法として従来から知られている加熱重合法や溶液重合法等の方法を用いて製造することができる。中でも、工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。加熱重合法としては、溶融重合法、溶融押出法、固相重合法等が挙げられる。前記ポリアミド樹脂は融点が280〜340℃と高く、分解温度に近い。よって、生成ポリマーの融点以上の温度で反応させる溶融重合法や溶融押出法は、製品の品質が低下する場合があるため、不適当な場合がある。そのため、生成ポリマーの融点未満の温度での固相重合法が好ましい。
一般に、ポリアミド樹脂の製造は、モノマーから反応物を得る工程(i)と、このような反応物を重合する工程(ii)からなることが多いが、本発明においては、トリアミン単位がジアミン単位の0.3モル%以下であるポリアミドを得るために、工程(i)の段階を、重合系中の水分や溶媒が少ない条件、すなわち、ジカルボン酸とジアミンの合計100質量部に対して、水と有機溶剤の合計量が5質量部以下である水および/または有機溶剤の存在下で実施することが好ましい。
工程(i)の具体例としては、たとえば、溶融状態のジアミンと固体のジカルボン酸からなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得た後、最終的に生成するポリアミドの融点未満の温度で、ジカルボン酸とジアミンとの反応による塩の生成と、前記塩の重合による低重合体の生成反応とを行い、塩および低重合物の混合物を得る方法が挙げられる。このような反応物は通常塊状であるため、反応をさせながら破砕を行なうか、反応後に一旦取り出してから破砕を行うことで粉末状の反応物を得ることができる。
工程(ii)の具体例としては、たとえば、工程(i)で得られた反応物を、最終的に生成するポリアミド樹脂の融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、ポリアミド樹脂を得る工程である。固相重合は、重合温度180〜270℃、反応時間0.5〜10時間で窒素等の不活性ガス気流中で行うことが好ましい。
ポリアミド樹脂の製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いたり、重合度の調整、熱分解や着色を抑制するため末端封止剤を用いることができる。
重合触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩等が挙げられ、重合触媒の添加量としては、通常、ジカルボン酸とジアミンの総モルに対して、0〜2モル%で用いることが好ましい。
末端封鎖剤としては、酢酸、ラウリン酸、安息香酸等のモノカルボン酸、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン等のモノアミンが挙げられ、これらいずれか一種、あるいはこれらを組み合わせて用いられる。末端封鎖剤の添加量としては、通常、テレフタル酸とジアミンの総モルに対して0〜5モル%で用いることが好ましい。
本発明で用いる繊維状強化材としては、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維等が挙げられる。これらの繊維状強化材は二種以上組み合わせて用いてもよい。特に、本発明のポリアミド樹脂との溶融混練時の加熱温度に耐え得る耐熱性や入手しやすさからガラス繊維、炭素繊維および金属繊維が好適に用いられる。
ガラス繊維、炭素繊維を用いる場合、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。また、シランカップリング剤は、集束剤に分散され、ガラス繊維を束ねるための集束剤として表面処理されていてもよい。シランカップリング剤としては、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系等が挙げられるが、ポリアミド樹脂とガラス繊維または炭素繊維との密着効果を得やすい点で、アミノシラン系カップリング剤が特に好ましい。
繊維状強化材の繊維長は、0.1〜7mmのものが好ましく、0.5〜6mmのものがさらに好ましい。繊維状強化材の繊維長が0.1mm未満であると、補強効果に劣る場合があり、一方、7mmを超えると、成形性に悪影響を及ぼす場合がある。また、繊維径は3〜20μmのものが好ましく、5〜13μmのものがさらに好ましい。繊維径が3μm未満であると、溶融混練時に折損しやすく、一方、20μmを超えると、補強効果に劣る場合がある。また、断面形状として、円形断面である繊維状強化材を好ましく用いることができるが、必要に応じて、長方形、楕円、それ以外の異形断面である繊維状強化材を用いることができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、繊維状強化材5〜200質量部含有させる必要があり、10〜180質量部であることが好ましく、20〜150質量部であることがより好ましく、30〜130質量部であることが最も好ましい。繊維状強化材の配合量が5質量部未満では、機械強度の向上が少なく、200質量部を超える場合には、機械強度の補強効率が低下するばかりでなく、溶融混練時の作業性が低下し、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得ることが難しくなる。
繊維状強化材の配合方法は、その補強効果が損なわれなければ特に制限はないが、二軸混練機を用いた溶融混練が好適に用いられる。混練温度はTm以上とする必要があり、(Tm+100℃)未満とすることが好ましい。混練温度がTm未満では混練機が過負荷となり、ベントアップ等の不具合が生じる場合がある。また混練温度が高すぎると、ポリアミド樹脂の分解、黄変が起こる場合がある。得られたポリアミド樹脂組成物の採取方法は特に限定されるものではないが、その後の成形を考慮すると、ストランドを作製し、ペレット化することが好ましい。
本発明の樹脂組成物には、酸化防止剤を含有させることが好ましい。
繊維状強化材を含有するポリアミド樹脂組成物は、高温のシリンダー内に長時間滞留した場合、繊維状強化材の表面処理剤が熱分解し、機械的強度の低下を引き起こす場合がある。しかしながら、本発明においては、シリンダー内で長時間樹脂組成物を滞溜させた場合、すなわち、射出成形時において成形サイクルが長い場合や射出量が少なくシリンダー内に樹脂が長く滞留する場合でも、酸化防止剤を含有することにより、前記樹脂組成物の引張強度の低下を抑制することができる。なお、酸化防止剤は、通常、ポリアミドの分子量低下や色の退化を目的に含有させるものである。本発明においては、これらの効果に加えて、樹脂組成物の滞留安定性を向上させることができる。酸化防止剤としては、例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤が挙げられる。中でも、リン系酸化防止剤を用いることにより、樹脂組成物の滞留安定性を飛躍的に向上させることができる。
リン系酸化防止剤は、無機化合物でもよいし有機化合物でもよく、特に制限はないが、例えば、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マンガン等の無機リン酸塩、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名「アデカスタブPEP−36」)、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(商品名「アデカスタブPEP−8」)、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名「アデカスタブPEP−4C」)、テトラキス(2,4−ジt−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニリレンジフォスファイト(商品名「ホスタノックスP−EPQ」)が挙げられる。中でも、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトおよびテトラキス(2,4−ジt−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニリレンジフォスファイトが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、併用してもよい。リン系酸化防止剤の含有量は、ポリアミド100質量部に対し、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.1〜0.5質量部であることがさらに好ましい。
ポリアミド樹脂組成物の溶融時の粘度特性としては、340℃、1.20kgにおけるメルトフローレート(以下、「MFR」と略称する。)が、0.1〜50g/10分であることが好ましく、1〜40g/10分であることがより好ましく、10〜30g/10分であることがさらに好ましい。MFRを0.1〜50g/10分の範囲とすることで、ポリアミド樹脂組成物の射出性成形時の流動性と得られる成形体の機械強度のバランスを図ることができる。さらに、ポリアミド樹脂組成物の結晶化を速くすることができるため好ましい。MFRが0.1g/10分未満であると流動性が不足し溶融混練や射出成形が困難となる傾向があり、MFRが50g/10分を超えると得られる成形体の機械強度を向上させることが難しくなる。
ポリアミド樹脂組成物を用いて成形を行う方法としては、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法等が挙げられるが、本発明で用いるポリアミド樹脂の機械特性、成形性を十分に向上させることができる点で、射出成形法を好ましく用いることができる。射出成形機としては、特に限定されるものではないが、たとえばスクリューインライン式射出成形機またはプランジャ式射出成形機等が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、Tm以上で加熱溶融する必要があり、(Tm+100℃)未満とすることが好ましい。なお、ポリアミド樹脂組成物の加熱溶融時には、用いるポリアミド樹脂組成物ペレットは十分に乾燥されたものを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いるポリアミド樹脂組成物ペレットの水分率は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中、好ましくは0.3質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満である。
本発明で用いるポリアミド樹脂組成物を射出成形する場合、金型温度はポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度(以下、「Tg」と略称する。)未満に保持する必要があり、(Tg−30℃)未満であることが好ましく、(Tg−50℃)未満であることがより好ましい。金型温度がポリアミド樹脂組成物のTgを超えると、ポリアミド樹脂の繊維状強化材配合による機械特性向上の効果を十分に引き出すことができない。なお、金型温度とは、金型分割表面の実温であり、この部位が上記温度範囲内になるよう、金型温度調節機を用いて調節する。必要に応じて、金型内に冷媒を循環してもよい。
本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて他の充填材、安定剤等の添加剤を加えてもよい。添加の方法は、ポリアミドの重合時に添加する、または得られたポリアミド樹脂に溶融混練することが挙げられる。添加剤としては、タルク、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、グラファイトのような充填材、酸化チタン、カーボンブラック等のような顔料、そのほか、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤等周知の添加剤が挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形用途において特に好ましく用いられ、成形体とされることができる。本発明のポリアミド樹脂組成物から成形体を製造するには、通常の成形加工方法が用いられる。成形加工方法としては、例えば、射出成形、押出成形、吹き込み成形、焼結成形等の熱溶融成形法が挙げられる。このような方法により、各種の成形体が得られる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、DSCを用いて測定したΔTが40℃以下の範囲を満たし、結晶化速度が速いため、成形体の加工時、特に射出成形において成形サイクルを短縮することができ、成形コストの低減に寄与することができる。
成形サイクルとは、同じ射出条件で連続して成形した際、1ショット目の成形体の射出が開始してから、2ショット目の成形体の射出が開始するまでの時間をいう。すなわち、一つの成形体を成形するのに要する時間(射出時間+冷却時間+取出し時間の合計)をいう。成形サイクルの短縮とは、上記一つの成形体を成形するのに要する時間中、特に冷却時間の短縮を意味する。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、従来から有する機械強度に加えて、成形性に優れているため、自動車部品、電気電子部品、雑貨部品、土木建築用品等の広範な用途に使用できる。
中でも、繊維状強化材による補強効果を生かして、耐久消費財用途で用いることが可能であり、自動車部品、電気電子部品に好適に用いることができる。
自動車部品用途においては、エンジンカバー、エアインテークマニホールド、スロットルボディ、エアインテークパイプ、ラジエタータンク、ラジエターサポート、ラジエターホース、ラジエターグリル、タイミングベルトカバー、ウォーターポンプレンレット、ウォーターポンプアウトレット、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンマウント等のエンジン周辺部品、プロペラシャフト、スタビライザーバーリンケージロッド、アクセルペダル、ペダルモジュール、シールリング、ベアリングリテーナー、ギア、ドリブンギア、電動パワステアリングギア等の機構部品、オイルパン、オイルフィルターハウジング、オイルフィルターキャップ、オイルレベルゲージ、燃料タンク、燃料チューブ、フューエルカットオフバルブ、キャニスター、フューエルデリバリーパイプ、フューエルフィラーネック、フューエルセンダーモジュール、燃料配管用継手等の燃料・配管系部品、ワイヤーハーネス、リレーブロック、センサーハウジング、エンキャプシュレーション、イグニッションコイル、ディストリビューター、サーモスタットハウジング、クイックコネクター、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ランプエクステンション、ランプソケット、ホーン用ボビン等の電装系部品、マフラーカバー、吸気ダクト、リアスポイラー、ホイールカバー、ホイールキャップ、カウルベントグリル、エアアウトレットルーバー、エアスクープ、フードバルジ、フェンダー、バックドア、シフトレバーハウジング、ウインドーレギュレータ、ドアロック、ドアハンドル、アウトサイドドアミラーステー等の各種内外装部品等で好適に用いることができる。
電気電子部品用途においては、コネクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、抵抗器、IC、LEDのハウジング、各種筐体等が挙げられる。
雑貨部品用途においては、樹脂ネジ、時計枠、ファスナー等が挙げられる。
これら自動車部品、電気電子部品、雑貨部品は、主に射出成形、ブロー成形により成形されるため、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いた場合には、成形サイクルを短縮し、樹脂劣化物、分解ガスの混入を抑制し、外観に優れた成形体を得ることができる。また、成形サイクルを短縮しているため、量産性に優れ、品質を均一にして大量に生産を行うような部品の成形においては、顕著に優れた成形性を有する。
1.測定方法
以下のような方法にしたがって、樹脂特性の測定、成形体の性能評価を行った。
(1)ポリアミド樹脂の相対粘度
96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定した。
(2)ポリアミド樹脂の重量平均分子量
東ソー社製ゲル浸透クロマトグラフィ装置を用い、下記条件で調整した試料溶液にてGPC分析を行った後、ポリメチルメタクリレート(ポリマーラボラトリーズ社製)を標準試料として作成した検量線を用いて、重量平均分子量を求めた。
<試料調整>
ポリアミド樹脂5mgに10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール2mLを加えて溶解後、ディスクフィルターで濾過した。
<条件>
・検出器:示差屈折率検出器RI−8010(東ソー社製)
・溶離液:10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール
・流速:0.4mL/分
・温度:40℃
(3)ポリアミド樹脂の降温結晶化温度、融点、ΔT
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7を用い、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温した際の発熱ピークのトップを与える温度をTcc、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップをTmとした。融点と降温結晶化温度の差(Tm−Tcc)をΔTとした。
(4)ポリアミド樹脂中のトリアミンの定量
ポリアミド樹脂10mgに47%臭化水素酸を3mL加え、130℃で20時間加熱後、蒸発乾固し、さらに80℃2時間減圧乾燥する。これにピリジン2mL、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド1mLを加え、90℃で30分加熱する。冷却後、メンブランフィルターでろ過した溶液を、質量分析計を備えたガスクロマトグラフィー装置で分析した。別に測定した標準物質のジアミンとトリアミンにより得た検量線を用いてポリアミド樹脂中のジアミンとトリアミンを定量し、ジアミンに対するトリアミンのモル比を算出した。トリアミンの標準物質は、酸化パラジウムを触媒として用いて、オートクレーブ中にてジアミンを240℃で3時間加熱撹拌して反応させて得たトリアミン化合物を用いた。
(5)ポリアミド樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)
JIS K7210に従い、ポリアミド樹脂組成物ペレットを用い、340℃、1.2kgfの荷重で測定した。単位はg/10分である。
(6)ポリアミド樹脂組成物の曲げ強度、曲げ弾性率
ASTM D790に準拠して測定した。
(7)成形性
東芝機械社製射出成形機EC−100を用いて、シリンダー温度を(融点+25℃)、金型温度を(融点−185℃)で設定した後、射出圧力100MPa、射出時間10秒、取出し時間5秒で、試験片(127mm×12.7mm×10mm)を射出成形した。
(7−1)成形サイクル
前記射出成形に際し、突出ピンで試験片に対し変形を与えないで容易に取出しが可能な最短の冷却時間を計測した。ここで成形サイクルとは、同じ射出条件で連続して成形した際、1ショット目の試験片の射出を開始してから、2ショット目の試験片の射出を開始するまでの時間をいう。すなわち、一つの試験片を成形するのに要する時間(射出時間+冷却時間+取出し時間の合計)をいう。成形サイクルは、30秒以下が好ましく、25秒以下がより好ましい。
(7−2)連続生産性
(7−1)で得られた成形サイクルにしたがって連続して射出成形を行った(最大で100個)。金型からの試験片取出し時、突出ピンによる試験片の変形を伴わないような円滑な取出しが連続何回までできるかを取出せた試験片の個数で評価した。90個以上が好ましく、95個以上がより好ましい。
(8)流動長
ファナック社製射出成形機S2000i−100Bを用いて、シリンダー温度を(融点+25℃)℃、金型温度を(融点−185℃)で設定した後、型締力100トン、射出圧力100MPa、射出速度50mm/秒、射出時間5秒で、シリンダー先端に片側1点ゲートの専用金型を取り付けて成形を行った。専用金型は、厚さ0.4mm、幅20mmのL字状の成形品が採取できる形状で、渦巻の中心にゲートを有するものであって、流動長は最大150mmである。
流動長が長いほど、流動性に優れていることを意味する。
(9)滞留安定性
ファナック社製射出成形機S2000i−100B型を用いて、シリンダー温度340℃、金型温度130℃で設定した後、型締力100トン、射出圧力100MPa、射出速度50mm/秒、成形サイクル20秒で試験片(127mm×12.7mm×3.2mm)を成形した。得られた試験片について、ASTM D790に準拠して引張強度を測定した。この引張強度を、「通常引張強度」とする。
また、射出成形機のシリンダー内に樹脂を10分間滞留させて、同様に射出成形を行い、試験片を得た。この試験片の引張強度を「滞留後引張強度」とする。以下の式を用いて、引張強度保持率を求め、滞留安定性の指標とした。
引張強度保持率(%)=滞留後引張強度/通常引張強度×100
強度保持率は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
(1)ジカルボン酸成分
・テレフタル酸
・イソフタル酸
(2)ジアミン成分
・1,8−オクタンジアミン
・1,9−ノナンジアミン
・1,10−デカンジアミン
・1,12−ドデカンジアミン
(3)強化材
・GF−1:ガラス繊維(旭ファイバーグラス社製、商品名「03JAFT692」)、平均繊維径10μm、平均繊維長3mm
・GF−2:ガラス繊維(日東紡社製、商品名「CS3G225S」)、平均繊維径9.5μm、平均繊維長3mm
・偏平GF:偏平ガラス繊維(日東紡社製、商品名「CSG3PA820S」)、長径28μm×短径7μm、平均繊維長3mm
・CF:炭素繊維(東邦テナックス社製、商品名「HTA−C6−NR」)、平均繊維径7μm、平均繊維長6mm
・MF:ステンレス繊維(日本精線社製、商品名「ナスロンSUS304」)、平均繊維径8μm、平均繊維長6mm
・GB:ガラスビーズ(ポッターズ・バロティーニ社製、商品名「EGB731」)、平均
粒径20μm
(4)酸化防止剤
・PA−1:リン系酸化防止剤、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニリレンジフォスファイト(クラリアントジャパン社製、商品名「ホスタノックスP−EPQ」)
・PA−2:リン系酸化防止剤、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(アデカ社製、商品名「アデカスタブPEP−36」)
・PA−3:リン系酸化防止剤、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(アデカ社製、商品名「アデカスタブPEP−4C」)
・HPA:ヒンダードフェノール系酸化防止剤、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド](チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「Irganox1098」)
製造例1
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、平均粒径80μmの粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、その後230℃で3時間加熱した。塩と低重合体の生成反応と破砕を同時に行った。反応により生じた水蒸気を放圧後、得られた反応物を取り出した。
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−1)を得た。得られたポリアミド(P−1)について、相対粘度、重量平均分子量、融点、降温結晶化温度、△T、トリアミン量の測定を行った。その結果を表1に示す。
製造例2
[工程(i)]
体積平均粒径80μmのテレフタル酸粉末(4870質量部)、重合触媒としての次亜リン酸ナトリウム(6質量部)、末端封鎖剤としての安息香酸(72質量部)からなる混合物を、リボンブレンダー式の反応装置に供給し、窒素密閉下、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、100℃に加温したデカンジアミン(5050質量部、100質量%)を、28質量部/分の速度で、3時間かけて連続的(連続液注方式)にテレフタル酸粉末に添加し反応物を得た。
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、引き続き工程(i)で用いたリボンブレンダー式の反応装置内で、窒素気流下、230℃に昇温し、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−2)を得た。得られたポリアミド(P−2)について、相対粘度、重量平均分子量、融点、降温結晶化温度、△T、トリアミン量の測定を行った。その結果を表1に示す。
製造例3〜5および7
使用するモノマーの種類、製造条件を表1のように変更する以外は、実施例2と同様にしてポリアミド(P−3)〜(P−5)および(P−7)を得、各特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
製造例6
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、平均粒径80μmの粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)、蒸留水400質量部(原料モノマーの合計量100質量部に対して、4質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、その後230℃で3時間加熱した。塩と低重合体の生成反応を行ないながら、得られた固形物を破砕した。水蒸気を放圧後、得られた反応物を取り出した。
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−6)を得た。得られたポリアミド(P−6)について、相対粘度、重量平均分子量、融点、降温結晶化温度、△T、トリアミン量の測定を行った。その結果を表1に示す。なお、ポリアミド(P−6)を得るにあたり、原料モノマーの合計量100質量部に対して、蒸留水を4質量部用いて重合を行ったため、蒸留水の添加の有無以外が同条件である製造例1に比べ、重量平均分子量はやや低めであり、トリアミン量は多かった。
製造例8
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、平均粒径80μmの粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)、蒸留水9200質量部(原料モノマーの合計量100質量部に対して、92質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、その後230℃で3時間加熱した。塩と低重合体の生成反応を行ないながら、得られた固形物を破砕した。水蒸気を放圧後、得られた反応物を取り出した。
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−8)を得た。得られたポリアミド(P−8)について、相対粘度、重量平均分子量、融点、降温結晶化温度、△T、トリアミン量の測定を行った。その結果を表1に示す。なお、ポリアミド(P−8)を得るにあたり、原料モノマーの合計量100質量部に対して、蒸留水を92質量部用いて重合を行ったため、蒸留水の添加の有無以外が同条件である製造例1に比べ、重量平均分子量は顕著に低めであり、トリアミン量は顕著に多かった。
製造例9
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、平均粒径80μmの粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)、蒸留水600質量部(原料モノマーの合計量100質量部に対して、6質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、その後230℃で3時間加熱した。塩と低重合体の生成反応を行ないながら、得られた固形物を破砕した。水蒸気を放圧後、得られた反応物を取り出した。
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−9)を得た。得られたポリアミド(P−9)について、相対粘度、重量平均分子量、融点、降温結晶化温度、△T、トリアミン量の測定を行った。その結果を表1に示す。なお、ポリアミド(P−9)を得るにあたり、原料モノマーの合計量100質量部に対して、蒸留水を6質量部用いて重合を行ったため、蒸留水の添加の有無以外が同条件である製造例1に比べ、重量平均分子量はやや低めであり、トリアミン量は多かった。
製造例10、11
用いる末端封鎖剤の配合量を変更する以外は、実施例1と同様にしてポリアミド(P−10)、(P−11)を得、各特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
参考例1
製造例1で得たポリアミド(P−1)100質量部をクボタ製ロスインウェイト式連続定量供給装置CE−W−1を用いて計量し、スクリュー径37mm、L/D40の同方向二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS)の主供給口に供給した。押出機のバレル温度設定は、320℃〜340℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量35kg/時間として溶融混練を行い、サイドフィーダーより(GF−1)を30質量部供給しさらに混練を行った。最後にダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
次いで射出成形機(東芝機械社製EC100)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃条件下、得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを射出成形して試験片を得た。得られた試験片を用い各種評価試験を行った。その結果を表2に示す。
参考例2〜4
含有する(GF−1)の配合量を変更した以外は、参考例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表2に示す。
参考例5〜8
繊維状強化材をそれぞれ(GF−2)、偏平GF、CF、MFに変更した以外は、参考例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表2に示す。
参考例9、11〜14、17、18
用いるポリアミド樹脂を(P−2)〜(P−6)、(P−10)、(P−11)のそれぞれに変更した以外は参考例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表2に示す。
参考例10
(GF−1)の配合量を変更した以外は、参考例8と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表2に示す。
参考例15、16
用いるポリアミド樹脂を(P−8)、(P−9)のそれぞれに変更した以外は参考例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表2に示す。ポリアミド樹脂(P−8)、(P−9)は、実用的には問題はないが、成形サイクルがやや長かった。
実施例
さらに(PA−1)を0.1質量部加える以外は、参考例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表3に示す。
実施例
(PA−1)の配合量を1.0質量部に変更した以外は、実施例と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表3に示す。
実施例
さらに(PA−1)を1.0質量部加える以外は、参考例5と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表3に示す。
実施例4、5、参考例19
酸化防止剤を(PA−2)、(PA−3)、HPAのそれぞれに変更した以外は、実施例と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表3に示す。
実施例6、7
繊維状強化材を(GF−2)、扁平GFのそれぞれに変更した以外は、実施例と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表3に示す。
比較例1〜11
繊維状強化材の配合を行わず、ポリアミド樹脂(P−1)〜(P−11)を射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表3に示す。
比較例12
参考例1と同様の操作を行って、ポリアミド樹脂(P−1)100質量部、(GF−2)50質量部の溶融混練を行ったが、ガラス繊維の配合が過剰でストランドの切断を伴い、ポリアミド樹脂ペレットを得ることができなかった。
比較例13
用いるポリアミド樹脂を(P−7)に変更した以外は参考例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表4に示す。
比較例14
繊維状強化材に代えてGBを用いる以外は参考例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表4に示す。
実施例1〜では、所定のポリアミド樹脂を用いたため、曲げ強度、曲げ弾性率に優れた成形体を得ることができた。また、△Tが40℃以下であったため、射出成形時の成形性は良好であった。
実施例1〜7は、リン系酸化防止剤を用いたため、特に滞留安定性の向上効果が顕著であった。
比較例1〜6、8〜11は繊維状強化材の配合を行わなかったため曲げ強度、曲げ弾性率が劣った。また成形サイクルは長かった。
比較例7は所定のポリアミド樹脂を用いず、また繊維状強化材の配合を行わなかったため曲げ強度、曲げ弾性率が劣った。加えて、成形時の連続生産性は不十分であり、成形性を有さなかった。
比較例13は所定のポリアミドを用いなかったため、成形時の連続生産性は不十分であり、成形性を有さなかった。
比較例14は繊維状強化材以外の強化材を用いたため、曲げ強度、曲げ弾性率が劣り、成形サイクルはやや長かった。

Claims (5)

  1. ジカルボン酸成分とジアミン成分とからなるポリアミド100質量部、繊維状強化材5〜200質量部と、リン系酸化防止剤0.01〜5質量部とを含有してなるポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミドを構成するジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とし、ジアミン成分が1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかであり、用いるポリアミドのDSCを用いて測定される過冷却度△Tが40℃以下であって、
    リン系酸化防止剤がテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニリレンジフォスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトまたはビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトであることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
  2. ジアミン成分が、1,10−デカンジアミンであることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
  3. ポリアミド中のジアミン単位に対するトリアミン単位が0.3モル%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
  4. 繊維状強化材がガラス繊維、炭素繊維、金属繊維から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  5. 請求項1〜のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。
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