JP5912994B2 - マイクロ波吸収発熱体用NiCuZnフェライト粉の製造方法、およびその製造方法により製造された粉末を用いたマイクロ波吸収発熱体の製造方法 - Google Patents
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Description
そのため、調理器具本体の素材にマイクロ波吸収発熱粉を混合したり、表面にマイクロ波吸収発熱粉を含有する層を焼き付けたりして、マイクロ波吸収発熱性能を発現させている。
特許文献1に記載の技術は、優れた昇温特性を有すると共に、所望の温度でその昇温を止めることができるという優れた技術である。
しかしながら、上記のMgCuZnフェライト粉では、MgCuZnフェライト粉中のZnO比を小さくすると、その昇温停止温度を高温にできるものの、275℃程度が上限である。従って、275℃を超える高温域に昇温停止温度を設定したい場合などに、未だ課題を残していた。
実際に、フェライト粉を発熱体に使用する場合は、陶磁器の表面に釉薬と共に薄くコーティングしたり、耐熱樹脂に混練してシート状で使用したりすることが多い。このような場合は、上記の板状焼結体で測定した場合に比べると、発熱体の含有量が少ないために発熱量が低下する。また、陶磁器に添加した場合は、耐火物生地に熱を奪われ、樹脂シートの場合は、厚さが薄いために表面からの放熱の影響を受けやすくなる。
従って、上記板状焼結体で評価した昇温停止温度に比べると、実使用条件の昇温停止温度は低下しやすい傾向にあるという問題が明らかになった。
一方で、食材を蒸したり茹でたりするような調理器具には100℃程度が、また、携帯用カイロや温湿布等のように人体に直接触れる可能性のある保温材には50〜80℃程度が、と目的によって最適な昇温停止温度は異なってくる。
はじめに、MgCuZnフェライト粉を用いた発熱体で、昇温停止温度の上限が275℃程度である原因を考察した。その結果、発熱体が、高温域で放熱に打ち勝ってさらに昇温し続けるためには、ある程度の飽和磁化が必要であることが分かった。しかしながら、昇温停止温度が高くなる組成のMgCuZnフェライト粉では、キュリー温度Tcが高温化すると同時にフェライト粉の飽和磁化の値σsが低くなってしまう。このために、発熱体の放熱量がその発熱量を上回ることになり、発熱体は275℃以上に昇温し続けることができなくなることが分かった。
上記した知見から、放熱に打ち勝つために最低限必要な飽和磁化の値σsと、発熱体温度Tとの関係は、(T、σs)=(275、15)と(25、0)を結ぶ直線で表すことができることが明らかとなり、その式は、
X=0.06×T−1.38・・・(A)
となることが分かった。
そして、T=Tsにおいて、X値以上のσsを確保することができれば、発熱体は、自身の放熱に打ち勝ち、昇温可能であることを知得した。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
1.鉄酸化物がFe2O3換算で46〜51mol%、
銅酸化物がCuO換算で4〜8mol%および
亜鉛酸化物がZnO換算で0mol%超,23.0mol%以下を含み、残部はニッケル酸化物および不可避的不純物からなるNiCuZnフェライト粉の製造方法であって、
該NiCuZnフェライト粉の平均粒子サイズが2〜500μmの範囲で、該NiCuZnフェライト粉の焼成温度が850〜1200℃であり、かつ該NiCuZnフェライト粉の昇温停止温度Ts(℃)と昇温停止温度における飽和磁化の値σs1(emu/g)とが、下記(1)式を満足することを特徴とするマイクロ波吸収発熱体用NiCuZnフェライト粉の製造方法。
記
σs1≧0.06×Ts−1.38 ・・・(1)
まず、本発明のNiCuZnフェライト粉(以下、単にフェライト粉ともいう)の飽和磁化の値(以下、σsとも記す)について説明する。
本発明では、昇温停止温度(以下、Tsとも記す)におけるσsをσs1とすると、
σs1≧0.06×Ts−1.38 ・・・(1)
の関係を満足することが重要である。
すなわち、σs1がX値に満たない場合、そのマイクロ波吸収発熱体は、放熱量が発熱量より大きくなって昇温することができない。
また、飽和磁化の値σsとは、振動試料型磁束計(VSM)を用いて、測定対象となる温度で印加磁場強度を10(kOe)として測定して得られる値であり、本発明では、Tsで測定したときの飽和磁化の値をσs1とする。
鉄酸化物:Fe2O3換算で46〜51%
鉄は、フェライト相の安定性および比抵抗に影響を与え、マイクロ波印加による昇温速度に大きく作用する。鉄酸化物量がFe2O3換算で46%に満たないと、フェライト以外の相が生成してフェライト単相を得ることが難しくなり、発熱体の昇温速度が低下する。一方、鉄酸化物量がFe2O3換算で51%を超えると、発熱体の比抵抗が低下して金属のようにマイクロ波を反射して発熱性能が低下したり、マイクロ波を照射した時にスパークするおそれすら生じる。従って、鉄酸化物量はFe2O3換算で46〜51%の範囲に限定する。好ましくは48〜49.8%の範囲である。
銅は、マイクロ波印加による昇温特性において、高温での昇温停止挙動に影響する。銅酸化物量がCuO換算で3%に満たないか、または14%を超えたときは、いずれの場合も、発熱体の昇温が停止せずに、マイクロ波照射と共に、発熱体の温度が上昇し続けてしまう。従って、銅酸化物量はCuO換算で3〜14%の範囲に限定する。好ましくは4〜10%、さらに好ましくは4〜8%の範囲である。
亜鉛は、マイクロ波印加による昇温特性において、Tsに影響する元素である。亜鉛酸化物量をZnO換算で0%超,38%以下に調整することで、50〜550℃の広い温度範囲にわたってTsを任意に設定することができる。
ここに、亜鉛酸化物量が多いほどTsが低下し、ZnO換算で38%を超えると、Tsが50℃未満になるため、加熱調理用用具として適さなくなる。一方、亜鉛酸化物がゼロの場合は、発熱体の温度が停止しない。また、亜鉛酸化物が少ないほどTsは上昇するものの、亜鉛酸化物量が少なすぎると、高温域におけるσsが低下し、上掲(1)式を満足することが難しくなる場合がある。
従って、亜鉛酸化物量はZnO換算で0%超,38%以下の範囲に限定する。好ましくは1〜38%、より好ましくは2〜38%、さらに好ましくは5〜38%の範囲であって、10〜35%の範囲がより望ましい。
残部の主成分であるニッケル酸化物の量は、NiO換算で0%超,46%以下が好ましい。というのは、NiOが46%を超えると、異相が析出しやすくなり、昇温特性が劣化するからである。なお、NiOが少ないと、σs1が(1)式を満足する範囲が狭くなり、他の成分や焼成温度を細かく設定する必要が生じる。従って、より好ましいニッケル酸化物量の範囲は、NiO換算で5〜40%であり、さらに好ましくは10〜35%の範囲である。
また、フェライト粉中には、原料成分や製造過程で、SiO2やMn,Ca,AlおよびPなどが不可避的不純物として混入する場合があるが、これらは、合計量が0.5%以下であれば特に問題はない。
フェライト粉の平均粒子サイズ:2〜500μm
フェライト粉の粒子サイズは、マイクロ波の吸収効率に大きく影響する。フェライト粉を樹脂と混練する際、所望する発熱量を得るために、樹脂との合計量に対して10〜80mass%程度のフェライト粉を添加することが望ましいが、粒子が2μmより細かいと、マイクロ波吸収発熱体のマイクロ波の吸収効率が低くなり、温度上昇速度および到達温度が低下するため、食品を均一かつ高速に加熱することができない。一方、粒子サイズが500μmを超えると、樹脂や釉薬に添加して使用した時に滑らかな表面が得られなくなる。なお、上記混練時の比率は、50〜75mass%程度がより望ましい。
従って、本発明に従うフェライト粉の平均粒子サイズは2〜500μmの範囲に限定する。好ましい平均粒子サイズは2〜250μm、より好ましくは5〜100μmの範囲である。なお、平均粒子サイズは、従来公知の粉末粒径測定法によって算出される平均粒径を用いることができるが、測定精度等を考慮すると、レーザー回折式粒度分布計で測定した時に得られる50%粒径値(D50)で評価することが好ましい。
また、本発明のNiCuZnフェライト粉は、混合焙焼法や共沈法など特殊なフェライト原料製造方法を用いることもできる。
〔実施例1〕
成分組成比が、Fe2O3:NiO:ZnO:CuO=49:残部:18:0〜15(%)となるように秤量し、ボールミルで湿式混合した後、1150℃で焼成し、ついで解砕、分級して、平均粒径D50=55μmのNiCuZnフェライト粉とした。ついで、得られたNiCuZnフェライト粉にポリビニルアルコール(PVA)を少量添加して混合した後、縦:40mm×横:40mm×厚さ:約5mm、質量:30gの板状に成形し、1100℃で熱処理してNiCuZnフェライト板を作製した。
得られたNiCuZnフェライト板を市販の電子レンジの中に置き、500Wのマイクロ波を10〜60秒間照射した時の成形体表面の温度を放射温度計で測定した。
さらに、昇温停止の確認できた発明例1〜3の粉末のσs1を測定したところ、Ts=325〜348℃に対して、σs1=22〜25(emu/g)であり、Ts=325〜348℃におけるX値(=0.06×Ts−1.38)をいずれも上回っていた。
成分組成比が、Fe2O3:NiO:ZnO:CuO=49.5:残部:2〜38:6(%)となるように秤量し、ボールミルで湿式混合した後、1100℃で焼成し、ついで粉砕、分級して、D50=35μmのNiCuZnフェライト粉を得た。ついで、得られたNiCuZnフェライト粉にポリビニルアルコール(PVA)を少量添加して混合した後、縦:40mm×横:40mm×厚さ:約5mm、質量:30gの板状に成形し、1075℃で熱処理してNiCuZnフェライト板を作製した。
得られたNiCuZnフェライト板を市販の電子レンジの中に置き、500Wのマイクロ波を10〜90秒間照射した時の成形体表面の温度を放射温度計で測定し、60〜90秒の飽和温度からTsを見積もった。
図2に、得られた結果を示す。
さらに、上記フェライト粉のσs1を測定した。図3に示すように、本発明の範囲でZnOを配合したNiCuZnフェライト板は、そのいずれもが前掲(1)式を満足することが確認された。
成分組成比が、Fe2O3:NiO:ZnO:CuO=48.5:27.5:18:6(%)となるように秤量し、ボールミルで湿式混合した後、大気中、800〜1250℃の温度で2時間焼成し、粉砕、分級してD50が約20μmのNiCuZnフェライト粉を得た。上掲図2に示したとおり、ZnO=18(%)の時は、Tsが343℃となるため、得られたNiCuZnフェライト粉の343℃におけるσs1をVSMを用いて測定した。
ついで、これらのフェライト粉をシリコン樹脂と混練して、フェライト粉:樹脂=70:30(mass%)のシートを成形し、縦:40mm×横:40mm×厚さ:約1mmのシート状に切り出して、焼成温度の異なる種々のNiCuZnフェライトシートを作製した。得られたNiCuZnフェライトシートを市販の電子レンジの中に置き、500Wのマイクロ波を10〜90秒間照射した時の成形体表面の温度を放射温度計で測定し、昇温特性を調べた。
なお、昇温特性の昇温停止有無の評価は、
○:明瞭に停止(60秒後と90秒後の成形体表面の温度差が10℃未満)
△:不明瞭(60秒後と90秒後の成形体表面の温度差が10℃以上,30℃未満)
×:昇温し続ける(60秒後と90秒後の成形体表面の温度差が30℃以上)
とした。
昇温特性の測定結果を、表1および図4にそれぞれ示す。
成分組成比が、Fe2O3:NiO:ZnO:CuO=48.5:27.5:18:6(%)となるように秤量し、ボールミルで湿式混合した後、大気中1100℃で2時間焼成し、粉砕、分級して、D50=1〜600μmのNiCuZnフェライト粉を得た。
ついで、これらのNiCuZnフェライト粉をシリコン樹脂と混練して、フェライト粉:樹脂=70:30(mass%)のシートを成形し、縦:40mm×横:40mm×厚さ:約1mmのシート状に切り出して、焼成温度の異なる種々のNiCuZnフェライトシートを作製した。得られたシートの表面状態を目視観察した。さらに、市販の電子レンジの中に置き、500Wのマイクロ波を10〜90秒間照射した時の成形体表面の温度を放射温度計で測定し、昇温特性を調べた。
昇温特性の測定結果を、表2および図5にそれぞれ示す。なお、昇温停止有無の評価基準は、実施例3と同じである。
市販の陶磁器用耐熱粘土を用いて、直径:80mm、厚さ:5mmの皿型試験片を成形し、900℃で1時間、焼成して素焼きとした。
ついで、市販の耐熱粘土用釉薬に、実施例3における試料No.3のフェライト粉を添加し、イオン交換水で粘度調整してフェライト粉含有釉薬を作製した。フェライト粉の添加比率は、耐熱釉薬の固形分質量:100に対して、フェライト粉を30の配合とした。その後、素焼きの片面にフェライト含有釉薬を塗布し、乾燥した後、1100℃で2時間、焼成して、表面にフェライト発熱体層を有する試験片を作製した。かかる試験片の破断面をSEM観察することより、試験片の表面に、厚さ:約150μmのフェライト含有層が形成されていることを確認した。
一方、比較のために、フェライト粉を添加しない釉薬を用いて、同様の方法で試験片を作製した。
Claims (3)
- 鉄酸化物がFe2O3換算で46〜51mol%、
銅酸化物がCuO換算で4〜8mol%および
亜鉛酸化物がZnO換算で0mol%超,23.0mol%以下を含み、残部はニッケル酸化物および不可避的不純物からなるNiCuZnフェライト粉の製造方法であって、
該NiCuZnフェライト粉の平均粒子サイズが2〜500μmの範囲で、該NiCuZnフェライト粉の焼成温度が850〜1200℃であり、かつ該NiCuZnフェライト粉の昇温停止温度Ts(℃)と昇温停止温度における飽和磁化の値σs1(emu/g)とが、下記(1)式を満足することを特徴とするマイクロ波吸収発熱体用NiCuZnフェライト粉の製造方法。
記
σs1≧0.06×Ts−1.38 ・・・(1) - 請求項1に記載の製造方法により製造されたNiCuZnフェライト粉を、少なくとも一部に含有するマイクロ波吸収発熱体を製造することを特徴とするマイクロ波吸収発熱体の製造方法。
- 請求項1に記載の製造方法により製造されたNiCuZnフェライト粉を、少なくとも表面に有するマイクロ波吸収発熱体を製造することを特徴とするマイクロ波吸収発熱体の製造方法。
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