JP5889945B2 - シールリング - Google Patents
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Description
また、特許文献2には、ポリエーテルケトン樹脂100重量部に対して、3,3,3−トリフルオロ−2−トリフルオロメチルプロペンと1,1−ジフルオロエチレンとの共重合体を10〜90重量部添加したポリエーテルケトン系樹脂組成物が開示されている。特許文献2の組成物は、ポリエーテルケトン樹脂本来の優れた機械的、熱的、電気的特性を損なうことなく、非粘着性に優れ、しかもきわめて好ましい摺動特性を発揮するので、高温下で使用される摺動部材として最適であることが記載されている。
一方、特許文献2のように低分子量のフッ素含有化合物を添加すれば、分散性が改善され材料物性が向上することが期待される。しかし、上記のような低分子量のフッ素含有化合物を用いると混合後に相分離が生じたり、耐熱性の低下が生じることが懸念され、過酷な条件下では十分な摺動特性を発揮し得ない可能性がある。
本発明の樹脂組成物では、硬質樹脂中にフッ素系樹脂が分散している。本発明において、硬質樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリプロピレン(PP)、シンジオタクティックポリスチレン樹脂、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルフォン(PSU)、ポリエーテルスルフォン、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フッ化ビニリデン(PVDF)、液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。これらの樹脂は、共重合体、変性体であってもよく、2種類以上を混合してもよい。耐熱性や成形性を考慮すると、上記硬質樹脂の中でもPBT、PA、PPS、PEEK、PVDF等が好ましい。硬質樹脂は、フッ素系樹脂と融点が近い材料であることが好ましく、両者の融点の差が好ましくは50℃以内、さらに好ましくは20℃以内であることが望ましい。フッ素系樹脂として、PTFE(融点:327℃)を用いた場合には、PEEK、PPS、PAI、LCP及びPAであるポリフタルアミド(PPA)、PA46等が好ましい。なお、PAIは融点はないが、成形温度が300〜370℃であるため好ましい。
また、本発明において、硬質樹脂中に分散させるフッ素系樹脂粉末としては、PTFEの他、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、及びポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等が挙げられる。硬質樹脂がPVDF以外の材料であれば、フッ素系樹脂として、PVDFを用いることもできる。また、フッ素系のエラストマーやフッ素ゴムを用いることもできる。フッ素系エラストマーの市販品としては、デュポン株式会社製「カルレッツ」、ダイキン工業株式会社製「ダイエルサーモプラスチック」等が挙げられ、フッ素ゴムの市販品としては、ダイキン工業株式会社製「ダイエル」等が挙げられる。
また、カーボンナノチューブは、補強機能を発揮する繊維状無機充填材として機能するのみならず、摺動特性を向上させるための充填材としても有効である。
本発明においては、上記繊維状無機充填材に代えて、又は上記繊維状無機充填材とともに、耐摩耗性や摺動特性等を向上させる目的で、その他の粒状充填材を添加することもできる。その他の充填材としては、耐熱性に優れた中性の材料が好ましく、具体的には、タルク、黒鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。
フッ素系樹脂の最大粒径及び平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて以下の方法により算出することができる。
樹脂組成物から得られた摺動部材のテストピースの観察部分を、ダイヤモンドナイフを用いて厚さ100nmの薄片状に加工する。23000倍のTEM観察視野30μm×100μmの範囲におけるフッ素系樹脂粒子の最大粒径(粒子の最大長さ)が950nm以下であることを確認した後、各フッ素系樹脂粒子の粒径(粒子の最大長さ)を測定する。ここで、1試料につき、3箇所観察を行い、大きい順から10個の平均値を求め、平均粒径とする。なお、各粒子がフッ素系樹脂粒子であるか否かは、エネルギー分散型元素分析(EDS)を用いて、フッ素のピーク強度を確認することにより判断できる。
フッ素系樹脂の粒径は、スクリューの形状や長さ、スクリュー回転速度や混合時間等により制御することができる。
(参考例1)
硬質樹脂としてPEEK、フッ素系樹脂としてPTFEを用い、リードとニーディングディスクを組み合わせたφ92mmのスクリューが設置された2軸押出機で混合した。ここで、PEEK及びPTFEを、それぞれサイドフィーダーにて供給し、温度370℃、スクリュー回転数320rpmの高せん断条件下で混合してペレットを得た。得られたペレットの径は約3mmで、長さは3〜4mmであった。なお、PEEKとPTFEは、後述する市販品を用い、質量比(PEEK:PTFE)は90:10とした。
得られたペレットを射出成型し、各種測定試料を作製した。曲げ弾性率測定用には、短冊試験片(ISO178、179、80×10×4mm)を作製した。また、油中での摩擦係数μ及び摩耗量測定用には、呼径(外径)50.0mm、幅2.0mm、厚さ2.0mmの特殊ステップ合口を有するリング状テストピースを作製した。射出成形時の金型温度は180℃、成型温度は390〜420℃、射出速度は20mm/secとした。また、成形圧力はリング状テストピースでは、140MPa、短冊試験片では、170MPaとした。得られたリング状テストピースを用いて上述の方法により、PTFE粒子の平均粒径を測定し、以下の方法に従い、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した。結果を表1及び図3(摩擦係数μ)に示す。なお、曲げ弾性率、摩擦係数μ、及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、後述する比較例3の値を100として相対値で表した。
(参考例2、実施例3,4、参考例5)
2軸押出機のスクリュー回転速度を、それぞれ300rpm(参考例2)、280rpm(実施例3)、240rpm(実施例4)、及び200rpm(参考例5)とした他は参考例1と同様に、測定試料を作製した。それぞれの試料のPTFE粒子の平均粒径、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した。結果を表1及び図3(摩擦係数μ)に示す。なお、曲げ弾性率、摩擦係数μ、及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、後述する比較例3の値を100として相対値で表した。
2軸押出機のスクリュー回転速度を、それぞれ350rpm(比較例1)、180rpm(比較例2)、及び160rpm(比較例3)とした他は参考例1と同様に、測定試料を作製した。それぞれの試料のPTFE粒子の平均粒径、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した。結果を表1及び図3(摩擦係数μ)に示す。なお、曲げ弾性率、摩擦係数μ、及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、比較例3の値を100として相対値で表した。
A−1.ポリエーテルエーテルケトン:Victrex 150PF(ビクトレックス社製)
B.フッ素系樹脂
B−1.ポリテトラフルオロエチレン:ポリフロンPTFE M-18F(ダイキン工業株式会社製)
C.充填材
C−1.炭素繊維:HT C413(東邦テナックス株式会社製)
JIS K7171に基づき、曲げ強さ及び曲げ歪を測定し、曲げ弾性率を算出した。
参考例1,2、実施例3,4、参考例5及び比較例1〜3のリング状テストピースを、図1に示すように、油圧回路を設けたシャフト(S45C製)の外周面に形成された軸溝に装着し、試験装置に設置した。次に、ハウジング(S45C製)を装着し、回転数1340rpm(3.5m/s)で回転させ、試験装置に取付けたトルク検出器から検出した回転トルク・ロスから油中での摩擦係数μを算出した。なお、ここで、油はATFを用い、面圧2.0MPaで計測した。
参考例1,2、実施例3,4、参考例5及び比較例1〜3のリング状テストピースを、図1に示す試験装置に装着した。回転速度を0から1340rpm(3.5m/s)、油圧を0から2.0MPaに上げ、1340rpm、2.0MPaで2時間運転度後、15分間停止するパターンを200時間繰り返した。試験後、リング及び軸・ハウジングの摩耗量を測定した。
PTFE粒子の平均粒径が800nmの比較例3に比べ、平均粒径120〜440nmの参考例1,2、実施例3,4、参考例5では、曲げ弾性率が10%程度向上していることがわかった。この原因としては、PTFE粒子の平均粒径が小さくなり、比表面積が増加したことにより、マトリックス樹脂であるPEEKとの接触面積が大きくなり、材料が一体化したこと及びPTFE粒子が小型化したため、破壊等の起点となりにくくなったことが考えられる。しかし、さらにPTFE粒子の平均粒径を小さくして100nm未満とすると微細分散による効果は認められなくなった(比較例1)。なお、本発明の参考例及び実施例では、数10μm程度のPTFE凝集粒が認められる従来の摺動部材に比べて曲げ弾性率が15〜20%向上した。
図3に、参考例1,2、実施例3,4、参考例5及び比較例1〜3の試料のPTFE粒子の平均粒径と油中での摩擦係数μをプロットした結果を示す。ここで、縦軸の摩擦係数μの値は、比較例3の摩擦係数μを100として相対値で表した。図3より、PTFE粒子の平均粒径を800nm以下にすることにより、油中での摩擦係数μが低減する傾向が認められた。しかし、PTFE粒子の平均粒径が100nm未満となると油中での摩擦係数μは急激に上昇した。油中での摩擦係数μは、PTFE粒子の平均粒径が100〜450nmの範囲で低い値を示し、150nm〜350nmの範囲でさらに低い値を示した。
表1より、PTFE粒子の平均粒径が800nmの比較例3に比べ、PTFE粒子の平均粒径が120〜440nmの参考例1,2、実施例3,4、参考例5では、200時間摺動試験後の自己摩耗量が15〜25%減少することがわかった。この原因としては、PTFE粒子の平均粒径が800nmの比較例3では、摺動部材表面に分散しているPTFE粒子が摺動熱で膨張することにより、相手材との摺動潤滑が阻害されることと、マトリックス樹脂であるPEEKとPTFEとの熱膨張差により、PTFE粒子がマトリックス樹脂から脱落し、潤滑効果が低減することが考えられる。これに対して、本発明の参考例及び実施例では、相手材との対向面に分散しているPTFE粒子が微細で均一であるため、摺動熱による熱膨張の影響を殆ど受けることなく、相手材との摺動潤滑を維持でき、且つ微細であるためマトリックス樹脂との熱膨張差による脱落が生じにくいため優れた摺動特性を維持できると考えられる。ここで、摺動試験後の参考例1,2、実施例3,4、参考例5の試料の表面を再度TEMで観察したところ、PTFE粒子に凝集等は認められず、摺動試験前の粒径及び粒子形状がほぼ維持されていることがわかった。このことから、本発明の樹脂組成物を用いた摺動部材では、長時間の運転においても優れた摺動特性及び機械特性が維持できると考えられる。PTFE粒子の平均粒径が100nm未満となると自己摩耗量は増加する傾向があり、良好な潤滑効果は認められなくなった。
PEEK及びPTFEに加えて、炭素繊維(CF)をサイドフィーダーから供給した他は、実施例4と同様に測定試料を作製した。得られた試料のPTFE粒子の平均粒径、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した結果を表2に示す。PEEK、PTFE、及びCFは上述の市販品を用い、それぞれの質量比(PEEK:PTFE:CF)は70:10:20とした。なお、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、後述する比較例5の値を100として相対値で表した。(比較例4及び5)
PEEK及びPTFEに加えて、炭素繊維(CF)をサイドフィーダーから供給した他は、それぞれ比較例1及び比較例3と同様に測定試料を作製した(比較例4及び5)。それぞれの試料のPTFE粒子の平均粒径、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量を測定した結果を表2に示す。ここで、PEEKとPTFEとCFの質量比(PEEK:PTFE:CF)は70:10:20とした。また、曲げ弾性率、油中での摩擦係数μ及び摺動試験後の自己摩耗量と相手材摩耗量は、比較例5の値を100として相対値で表した。
Claims (3)
- 硬質樹脂中にフッ素系樹脂が分散した樹脂組成物からなる摺動部分を有するシールリングであって、
前記硬質樹脂がポリエーテルエーテルケトンであり、
前記フッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレンであり、
前記フッ素系樹脂の最大粒径が950nm以下であり、且つ前記フッ素系樹脂の平均粒径が240nm〜350nmであることを特徴とする、シールリング。 - 前記フッ素系樹脂は、アスペクト比が1.0以上1.1未満の第1粒子及びアスペクト比が1.1以上3.5以下の第2粒子を含み、前記樹脂組成物中の前記フッ素系樹脂が占める面積を100として、前記第1粒子の占める面積が10〜90であることを特徴とする請求項1に記載のシールリング。
- 自動車のオートマチックトランスミッションに装着される、請求項1又は2に記載のシールリング。
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