以下に、本発明に係る作業車両の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
〔実施形態〕
図1は、実施形態に係るトラクタの概略図である。図2は、図1のA−A矢視図である。圃場等で作業を行う作業車両であり、本実施形態に係るトラクタ1は、操舵用の車輪として設けられる前輪4と、駆動用の車輪として設けられる後輪5とを有している。このうち、後輪5には、機体前部のボンネット7内に搭載されるエンジン8(図9参照)で発生した回転動力を、変速装置40で適宜減速して伝達可能になっており、後輪5は、この回転動力によって駆動力を発生する。また、この変速装置40は、エンジン8で発生した回転動力を、必要に応じて前輪4にも伝達可能になっており、この場合は、前輪4と後輪5との四輪で駆動力を発生する。即ち、変速装置40は、二輪駆動と四輪駆動との切り替えが可能になっている。また、トラクタ1の機体後部には、ロータリ(図示省略)等の作業機を装着可能な連結装置10が配設されている。
また、トラクタ1の運転者がトラクタ1を操縦する際に座る操縦席28の前方には、前輪4の操舵に用いるステアリングハンドル15が位置しており、ステアリングハンドル15は、当該ステアリングハンドル15を回転可能に指示するハンドルポスト16の上端側に配設されている。また、ハンドルポスト16の下方側、即ち、操縦席28に運転者が座った場合における運転者の足元付近には、クラッチペダル20、ブレーキペダル21、アクセルペダル22が設置されている。
このうち、ブレーキペダル21は、左側後輪5用のブレーキペダル21と右側後輪5用のブレーキペダル21との2つが設けられており、この2つのブレーキペダル21は、連結させることが可能になっている。このため、2つのブレーキペダル21を独立して操作した場合には、左右の後輪5に対して独立して制動力を発生させることが可能になっており、2つのブレーキペダル21を連結した状態で操作した場合には、左右の後輪5の双方に対して制動力を発生させることが可能になっている。
また、ハンドルポスト16には、エンジン回転数を調節すると共に、エンジン回転数を任意の回転数で維持させることができるアクセルレバー(図示省略)と、トラクタ1の走行時における進行方向を前進と後進とで切り替える前後進切替レバー24とが配設されている。
図3は、前後進切替レバーの詳細図である。前後進切替レバー24は、トラクタ1を前進させる場合には前側に倒し、トラクタ1を後進させる場合は後ろ側に倒すことにより、進行方向を切り替えることが可能になっている。また、この前後進切替レバー24は、当該前後進切替レバー24における前進位置と後進位置との間に中立位置を有しており、この中立位置は、トラクタ1が前方にも後方にも進まないようにすることができる位置になっている。
図4は、図2に示す操縦席の周囲の詳細図である。操縦席28の左右方向における両側には、トラクタ1の走行時における変速に関する操作を行う主変速レバー25と副変速レバー26とが配設されている。例えば、本実施形態に係るトラクタ1では、主変速レバー25は操縦席28の右側に配設されており、副変速レバー26は操縦席28の左側に配設されている。
図5は、図4に示す副変速レバーの操作範囲の説明図である。副変速レバー26は、圃場での作業時における速度領域である作業速と、路上走行時における速度領域である走行速とを切り替える副変速用の操作レバーになっており、作業速を選択した場合には、さらに、高速側と低速側とに切り替えることが可能になっている。即ち、副変速レバー26は、変速装置40での減速比により決定されるトラクタ1の走行時の速度領域を、走行速と作業速とで切り替え可能になっており、作業速に切り替えられた場合には、さらに、高速側と低速側とに切り替え可能になっている。
これらの切り替えが可能な副変速レバー26は、左右方向に移動させることにより、作業速と走行速とを切り替えることができ、前後方向に移動させることにより、作業速の高速側と低速側とを切り替えることが可能になっている。具体的には、副変速レバー26は、右前方に角部が位置するL字状に沿って移動操作が可能になっており、このため、操作範囲における前端に副変速レバー26を位置させた場合には、副変速レバー26は左右方向に移動させることができる。このように、副変速レバー26を操作範囲の前端に位置させた状態で、左側に移動させた場合には、走行速に切り替えることができ、右側に移動させた場合には、作業速に切り替えることができる。
また、副変速レバー26を右側に移動させることにより作業速に切り替えた状態で、前側に移動させた場合には、作業速における高速側に切り替えることができ、後ろ側に移動させた場合には、作業速における低速側に切り替えることができる。また、副変速レバー26は、中立位置を有しており、副変速レバー26を右側に移動させた状態、即ち、作業速に切り替えた状態における、高速側と低速側との間の位置である中立位置は、トラクタ1が走行しないようにすることができる位置になっている。
図6は、図4のB−B矢視図である。主変速レバー25は、変速装置40に設けられて複数の変速段を有する主変速機構50(図9参照)の変速である主変速の操作を行うことができ、副変速レバー26により切り替えることができるそれぞれの速度領域での主変速の操作を行う操作手段として設けられている。また、主変速レバー25は、主変速を自動的に行う自動変速と、運転者の任意で行う手動変速と、を切り替え可能になっている。本実施形態に係るトラクタ1に備えられる変速装置40の主変速機構50は、8段の変速段を有しており、即ち、主変速機構50は、8速の変速機構として構成されているため、手動変速を行う際には、8段の変速段のうちのいずれかを選択することが可能になっている。
詳しく、主変速レバー25は、前後方向に移動可能に構成されており、移動方向における後端側が自動変速の選択位置であるATポジションになっており、ATポジションの前方に、手動変速時に切り替える1〜8速の各ギヤポジションが位置している。また、この手動変速時に切り替えるギヤポジションとATポジションとの間には、エンジン8で発生する回転動力の後輪5側への伝達を遮断する位置であるNポジションになっている。
ステアリングハンドル15の先方に位置するダッシュボード30には、メータパネル31が配設されている。図7は、メータパネルの詳細図である。図8は、図7に示すデータ表示部の詳細図である。メータパネル31は、トラクタ1の運転時に必要な各種情報を表示可能になっており、例えば、エンジン回転数を表示するエンジン回転計32が配置されており、エンジン回転計32の側方には、車速や現在のギヤポジション、燃料の残量等を表示するデータ表示部35が配置されている。このデータ表示部35は、液晶パネルを用いた表示部になっており、電子制御によって任意の情報を表示可能になっている。
図9は、図1に示す変速装置の構成図である。変速装置40は、メインクラッチ41を介してエンジン8に連結されており、エンジン8で発生した動力を、主変速機構50と前後進切替機構120と副変速機構140とを介して、後輪5に伝達可能に構成されている。詳しくは、主変速機構50は、Hi−Lo変速装置60と主変速装置90とにより構成されており、Hi−Lo変速装置60は、さらに第1Hi−Lo変速装置61と第2Hi−Lo変速装置71とを有しており、主変速装置90は、第1主変速装置91と第2主変速装置101とを有している。
このうち、第1Hi−Lo変速装置61は、歯数が異なる第1Hi−Lo変速Hi側ギヤ63と第1Hi−Lo変速Lo側ギヤ64とを有している。これらのギヤは、エンジン8から出力された動力が変速装置40に入力される際における入力軸である変速装置入力軸42に固着される変速装置入力軸第1ギヤ43と変速装置入力軸第2ギヤ44とに噛み合っている。即ち、第1Hi−Lo変速Hi側ギヤ63は変速装置入力軸第1ギヤ43に噛み合っており、第1Hi−Lo変速Lo側ギヤ64は変速装置入力軸第2ギヤ44に噛み合っている。
また、第1Hi−Lo変速装置61は、第1Hi−Lo変速クラッチ62と第1Hi−Lo変速出力ギヤ65とを有しており、さらに、第1Hi−Lo変速クラッチ62は、第1Hi−Lo変速Hi側ギヤ63と第1Hi−Lo変速出力ギヤ65との断続を切り替えるクラッチと、第1Hi−Lo変速Lo側ギヤ64と第1Hi−Lo変速出力ギヤ65との切り替えるクラッチとを有している。このため、第1Hi−Lo変速クラッチ62は、第1Hi−Lo変速Hi側ギヤ63と第1Hi−Lo変速Lo側ギヤ64とのうち、いずれか一方と第1Hi−Lo変速出力ギヤ65との間で、動力の伝達を可能にすることができる。さらに、第1Hi−Lo変速出力ギヤ65は、第1Hi−Lo変速装置61と第1主変速装置91との間で動力の伝達が可能な主変速機構第1中間軸81に固着される第1中間軸ギヤ82に噛み合っている。
同様に、第2Hi−Lo変速装置71は、歯数が異なる第2Hi−Lo変速Hi側ギヤ73と第2Hi−Lo変速Lo側ギヤ74とを有しており、第2Hi−Lo変速Hi側ギヤ73は変速装置入力軸第1ギヤ43に噛み合っており、第2Hi−Lo変速Lo側ギヤ74は変速装置入力軸第2ギヤ44に噛み合っている。
また、第2Hi−Lo変速装置71は、第2Hi−Lo変速クラッチ72と第2Hi−Lo変速出力ギヤ75とを有しており、さらに、第2Hi−Lo変速クラッチ72は、第2Hi−Lo変速Hi側ギヤ73と第2Hi−Lo変速出力ギヤ75との断続を切り替えるクラッチと、第2Hi−Lo変速Lo側ギヤ74と第2Hi−Lo変速出力ギヤ75との切り替えるクラッチとを有している。このため、第2Hi−Lo変速クラッチ72は、第2Hi−Lo変速Hi側ギヤ73と第2Hi−Lo変速Lo側ギヤ74とのうち、いずれか一方と第2Hi−Lo変速出力ギヤ75との間で、動力の伝達を可能にすることができる。さらに、第2Hi−Lo変速出力ギヤ75は、第2Hi−Lo変速装置71と第2主変速装置101との間で動力の伝達が可能な主変速機構第2中間軸85に固着される第2中間軸ギヤ86に噛み合っている。
ここで、第2Hi−Lo変速出力ギヤ75は、第1Hi−Lo変速出力ギヤ65とは歯数が異なっており、第2中間軸ギヤ86も、第1中間軸ギヤ82とは歯数が異なっている。このため、第2Hi−Lo変速出力ギヤ75と第2中間軸ギヤ86との間の変速比は、第1Hi−Lo変速出力ギヤ65と第1中間軸ギヤ82との間の変速比とは異なっている。
主変速装置90は、当該主変速装置90の出力軸である主変速装置出力軸110に主変速装置出力軸第1ギヤ111と主変速装置出力軸第2ギヤ112とが固着しており、第1主変速装置91は、このうちの主変速装置出力軸第1ギヤ111と噛み合う第1主変速第1ギヤ93と、主変速装置出力軸第2ギヤ112と噛み合う第1主変速第2ギヤ94とを有している。
さらに、第1主変速装置91は、主変速機構第1中間軸81から伝達された動力を、第1主変速第1ギヤ93と第1主変速第2ギヤ94とのうち、いずれか一方に伝達可能な第1主変速シフター92を有している。このため、主変速機構第1中間軸81から第1主変速装置91に伝達された動力は、第1主変速第1ギヤ93と主変速装置出力軸第1ギヤ111とを介する伝達経路、または、第1主変速第2ギヤ94と主変速装置出力軸第2ギヤ112とを介する伝達経路のいずれか一方から、主変速装置出力軸110に対して伝達することが可能になっている。
同様に、第2主変速装置101は、主変速装置出力軸第1ギヤ111と噛み合う第2主変速第1ギヤ103と、主変速装置出力軸第2ギヤ112と噛み合う第2主変速第2ギヤ104と、第2主変速シフター102を有している。このため、主変速機構第1中間軸81から第2主変速装置101に伝達された動力は、第2主変速第1ギヤ103と主変速装置出力軸第1ギヤ111とを介する伝達経路、または、第2主変速第2ギヤ104と主変速装置出力軸第2ギヤ112とを介する伝達経路のいずれか一方から、主変速装置出力軸110に対して伝達することが可能になっている。
なお、主変速装置90が有する各ギヤのうち、第1主変速第1ギヤ93と第1主変速第2ギヤ94、第2主変速第1ギヤ103と第2主変速第2ギヤ104、主変速装置出力軸第1ギヤ111と主変速装置出力軸第2ギヤ112は、それぞれ歯数が異なっている。このため、第1主変速第1ギヤ93と主変速装置出力軸第1ギヤ111との間の変速比と、第1主変速第2ギヤ94と主変速装置出力軸第2ギヤ112との間の変速比とは、異なっている。
これらのように、エンジン8側から入力された動力を、第1Hi−Lo変速クラッチ62や第1主変速シフター92によって変速比を異ならせて出力側に伝達可能な主変速機構50は、動力の伝達経路を切り替えて変速比を切り替えることにより、8速の変速段を有している。つまり、主変速機構50は、変速装置入力軸第1ギヤ43、または変速装置入力軸第2ギヤ44からの入力の切り替え(2速)、第1中間軸ギヤ82、または第2中間軸ギヤ86からの出力の切り替え(2速)、主変速装置出力軸第1ギヤ111、または主変速装置出力軸第2ギヤ112からの出力を切り替える(2速)ことができる。このため、主変速機構50は、2速×2速×2速=8速の変速段を有していることになる。この8速の変速段は、変速装置入力軸42から主変速装置出力軸110までの減速比が大きい変速段から減速比が小さい変速段に向かって、1速〜8速が割り振られている。
主変速機構50の出力軸である主変速装置出力軸110は、前後進切替機構120の入力軸である前後進入力軸121に連結している。また、前後進入力軸121には、前後進入力第1ギヤ122と前後進入力第2ギヤ123とが固着しており、このうち、前後進入力第2ギヤ123は、前後進切替機構120が有するカウンタシャフト133に固着しているカウンタギヤ134と噛み合っている。
また、前後進切替機構120は、前後進入力第1ギヤ122と噛み合う前後進出力第1ギヤ131と、カウンタギヤ134と噛み合う前後進出力第2ギヤ132とを有している。さらに、前後進切替機構120は、前後進出力第1ギヤ131や前後進出力第2ギヤ132に伝達された動力を、前後進出力第1ギヤ131、または前後進出力第2ギヤ132のいずれか一方から、前後進切替機構120の出力軸である前後進出力軸130に伝達可能な前後進クラッチ124を有している。この前後進クラッチ124は、前後進出力第1ギヤ131と前後進出力軸130との断続を切り替えるクラッチと、前後進出力第2ギヤ132と前後進出力軸130との切り替えるクラッチとを有しており、これにより、前後進出力軸130に接続するギヤを切り替えることが可能になっている。
ここで、前後進入力軸121から前後進出力軸130への動力の伝達経路では、前後進出力第1ギヤ131は、前後進入力第1ギヤ122と直接噛み合っているのに対し、前後進出力第2ギヤ132は、カウンタギヤ134を介して前後進入力第2ギヤ123と噛み合っている。このため、前後進出力第1ギヤ131と前後進出力第2ギヤ132では、回転方向が反対方向になる。これにより、前後進出力軸130への動力の伝達経路を、前後進クラッチ124で切り替える際には、前後進出力第1ギヤ131側に切り替えた場合と、前後進出力第2ギヤ132側に切り替えた場合とで、前後進出力軸130に伝達される動力の回転方向は、互いに反対方向になる。
この前後進切替機構120が有する前後進出力軸130は、副変速機構140の入力軸である副変速入力軸141に連結されており、副変速入力軸141には、互いに歯数が異なる副変速入力第1ギヤ142と副変速入力第2ギヤ143とが固着されている。
副変速機構140は、副変速入力第1ギヤ142と噛み合う副変速第1ギヤ145と、副変速入力第2ギヤ143と噛み合う副変速第2ギヤ146とを有している。さらに、副変速機構140は、副変速第1ギヤ145や副変速第2ギヤ146に伝達された動力を、副変速第1ギヤ145、または副変速第2ギヤ146のいずれか一方から、副変速機構140の出力軸である副変速出力軸150に伝達可能な副変速シフター144を有している。
ここで、副変速入力第1ギヤ142と副変速第1ギヤ145との間の変速比と、副変速入力第2ギヤ143と副変速第2ギヤ146との間の変速比は、互いに異なっている。このため、副変速出力軸150への動力の伝達経路を、副変速シフター144によって副変速第1ギヤ145側と副変速第2ギヤ146側とに切り替えた場合には、副変速入力軸141と副変速出力軸150との間の変速比が変化する。このように、副変速機構140は、変速比が異なる2速の変速段を有しており、高速側と低速側とに切り替え可能になっている。
副変速出力軸150には、副変速出力ギヤ151が固着しており、副変速出力ギヤ151は、後輪5用のデファレンシャルギヤである後輪デフ155と噛み合っている。この後輪デフ155は、後輪5に連結される後輪ドライブシャフト156に対して動力を伝達可能に構成されており、これにより、後輪5には、副変速機構140から出力された動力を伝達可能になっている。
また、変速装置40は、エンジン8で発生した動力をPTO(Power take−off)軸(図示省略)側に伝達するPTO出力機構160を有している。このPTO出力機構160は、変速装置入力軸42の変速装置入力軸第2ギヤ44から動力を受けることが可能になっており、PTO軸側への動力の伝達と遮断とを切り替えるPTOクラッチ161と、PTO軸側に動力を伝達する際に変速を行うPTO変速装置162と、を有している。
さらに、変速装置40は、エンジン8で発生した動力を前輪4側に伝達する前輪側動力伝達機構170を有している。この前輪側動力伝達機構170は、副変速機構140から動力を受けることが可能になっており、副変速機構140から受けた動力を前輪4側に伝達する際における回転速度の切り替えを行う前輪増速切替機構171と、前輪4側への動力の伝達と遮断とを切り替える四輪・二輪切替クラッチ172と、を有している。
即ち、前輪増速切替機構171は、前輪4側に動力を伝達する際に、増速するか否かの切り替えが可能になっており、四輪・二輪切替クラッチ172は、前輪4側への動力の伝達と遮断とを切り替えることにより、四輪駆動と二輪駆動との切り替えが可能になっている。
この前輪側動力伝達機構170の出力側に配設される前輪側動力伝達ギヤ180は、前輪4用のデファレンシャルギヤである前輪デフ181と噛み合っており、前輪デフ181は、前輪4に連結される前輪ドライブシャフト183に対して、垂直軸182等を介して動力を伝達可能に構成されている。これにより、前輪4には、前輪側動力伝達機構170から出力された動力の伝達が可能になっている。
図10は、図1に示すトラクタの要部構成図である。本実施形態に係るトラクタ1は、変速装置40の変速制御等を電子制御によって行うことが可能になっており、このため、トラクタ1には、各部を制御するコントローラ200がそなえられている。このコントローラ200は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部や、RAM(Random Access Memory)等の記憶部、さらに入出力部が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。記憶部には、トラクタ1を制御するコンピュータプログラムが格納されている。このコントローラ200は、各部の情報を取得するセンサ類やスイッチ類と、実際に動作をするソレノイド等のアクチュエータ類が接続されている。
詳しくは、コントローラ200には、主変速レバー25の位置を検出する主変速レバー位置センサ210と、副変速出力軸150の回転速度等を検出することを介して、トラクタ1の車速を検出する車速センサ211と、エンジン8の運転時におけるエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ212と、アクセルペダル22の開度を検出するアクセルセンサ213と、が接続されている。
また、コントローラ200には、現在の第1主変速装置91の切り替え状態、即ち、第1主変速シフター92の状態を検出する第1主変速位置センサ215と、同様に現在の第2主変速装置101の切り替え状態を検出する第2主変速位置センサ216と、が接続されている。
また、コントローラ200には、第1Hi−Lo変速クラッチ62における第1Hi−Lo変速Hi側ギヤ63側のクラッチの状態を検出する第1Hi側圧力スイッチ221と、第1Hi−Lo変速Lo側ギヤ64側のクラッチの状態を検出する第1Lo側圧力スイッチ222と、が接続されており、第2Hi−Lo変速クラッチ72における第2Hi−Lo変速Hi側ギヤ73側のクラッチの状態を検出する第2Hi側圧力スイッチ225と、第2Hi−Lo変速Lo側ギヤ74側のクラッチの状態を検出する第2Lo側圧力スイッチ226と、前後進クラッチ124における前後進出力第1ギヤ131側のクラッチの状態を検出する前進圧力センサ230と、が接続されている。
また、コントローラ200には、副変速レバー26の選択位置を検出する副変速位置センサ231と、前後進切替レバー24が前進側に切り替えられているか否かを検出する前進切替スイッチ234と、前後進切替レバー24が後進側に切り替えられているか否かを検出する後進切替スイッチ235と、クラッチペダル20の踏み込み状態を検出するクラッチペダルセンサ238と、が接続されている。
また、コントローラ200には、第1Hi−Lo変速クラッチ62における第1Hi−Lo変速Hi側ギヤ63側のクラッチを作動させる第1Hi側ソレノイド241と、第1Hi−Lo変速Lo側ギヤ64側のクラッチを作動させる第1Lo側ソレノイド242と、が接続されており、第2Hi−Lo変速クラッチ72における第2Hi−Lo変速Hi側ギヤ73側のクラッチを作動させる第2Hi側ソレノイド245と、第2Hi−Lo変速Lo側ギヤ74側のクラッチを作動させる第2Lo側ソレノイド246と、が接続されている。
また、コントローラ200には、第1主変速シフター92を、主変速機構第1中間軸81と第1主変速第1ギヤ93とが連結する側に作動させる第1主変速第1ソレノイド251と、主変速機構第1中間軸81と第1主変速第2ギヤ94とが連結する側に作動させる第1主変速第2ソレノイド252と、が接続されており、第2主変速シフター102を、主変速機構第2中間軸85と第2主変速第1ギヤ103とが連結する側に作動させる第2主変速第1ソレノイド255と、主変速機構第2中間軸85と第2主変速第2ギヤ104とが連結する側に作動させる第2主変速第2ソレノイド256と、が接続されている。
また、コントローラ200には、前後進クラッチ124における前後進入力第1ギヤ122側のクラッチを作動させる前進ソレノイド261と、前後進入力第2ギヤ123側のクラッチを作動させる後進ソレノイド262と、が接続されており、前進と後進との切り替え時のショックを軽減するために前後進クラッチ124の作動時における油圧を制御する前後進昇圧ソレノイド265と、が接続されている。
コントローラ200によってトラクタ1の制御を行う場合には、例えば、主変速レバー位置センサ210等の検出結果に基づいて、処理部が上記コンピュータプログラムを当該処理部に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じて第1Hi側ソレノイド241等のアクチュエータ類を制御することにより、トラクタ1の運転制御を行う。その際に処理部は、適宜記憶部へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。
本実施形態に係るトラクタ1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。トラクタ1の走行時には、主変速レバー25と副変速レバー26とによって主変速機構50と副変速機構140との変速指示を行い、アクセルペダル22やアクセルレバーでエンジン8の回転数を調節する。また、進行方向を切り替える場合には、前後進切替レバー24を操作することにより、前進と後進とを切り替える。これらの操作は、センサ類で検出してコントローラ200に伝達され、伝達された情報に基づいてコントローラ200でアクチュエータ類を作動させることにより、エンジン8の運転制御や変速装置40の変速制御を行い、任意の走行状態で走行する。
また、進路の調節はステアリングハンドル15を操作することにより行い、減速はブレーキペダル21を操作することにより行うが、ブレーキペダル21は減速時のみでなく、急旋回時にも使用する。即ち、急旋回する際には、旋回方向における内側の後輪5に対応するブレーキペダル21を操作して、この後輪5にのみ制動力を発生させることにより、前輪4を操舵することのみの旋回時によりも、小回りすることができる。
また、トラクタ1は、圃場で作業を行ったり、路上を走行したりすることが可能になっているが、圃場と路上とでは、走行時における適切な速度領域が異なっている。このため、トラクタ1の走行時には、走行する場所等の走行状態に応じて副変速レバー26を操作することにより、速度領域を切り替える。即ち、副変速レバー26を、操作することによって副変速を走行速と作業速とで切り替えることにより、走行時における速度領域を切り替える。
例えば、路上走行する場合には、副変速レバー26を走行速の選択位置に移動させる。また、作業速は、高速と低速との切り替えが可能になっているので、圃場で作業を行う場合には、作業時の速度に応じて、作業速における高速側の選択位置、または低速側の選択位置に、副変速レバー26を移動させる。この副変速レバー26の位置は、副変速位置センサ231で検出する。コントローラ200は、副変速位置センサ231での検出した副変速レバー26の位置に応じて副変速シフター144を作動させ、副変速機構140を、作業速における高速側、作業速における低速側、または走行速に切り替える。
また、主変速機構50は、切り替えられている速度領域に関わらず変速可能になっており、この変速は、主変速レバー25を操作することにより行う。この主変速レバー25で選択する各ポジションのうち、1〜8速のギヤポジションは、主変速を運転者の任意で行う手動変速のポジションになっており、各ギヤポジションは、主変速の変速段に対応している。このため、主変速レバー25を、1〜8速のいずれかのギヤポジションに切り替えた場合には、主変速機構50は、主変速レバー25で選択された変速段に変速する。
主変速レバー25の位置は、主変速レバー位置センサ210で検出可能になっているため、このように、主変速レバー25を1〜8速のいずれかのギヤポジションに切り替えた場合には、切り替えたギヤポジションを主変速レバー位置センサ210で検出する。コントローラ200は、主変速レバー位置センサ210で検出したギヤポジションに応じて、第1Hi側ソレノイド241、第1Lo側ソレノイド242、第2Hi側ソレノイド245、第2Lo側ソレノイド246、第1主変速第1ソレノイド251、第1主変速第2ソレノイド252、第2主変速第1ソレノイド255、第2主変速第2ソレノイド256を制御することにより、主変速機構50の変速段を、主変速レバー25で選択されている変速段に切り替える。
これに対し、主変速レバー25のATポジションは、主変速を自動的に行う自動変速のポジションになっている。このように、主変速レバー25がATポジションに切り替えられた場合には、副変速レバー26での切り替え状態に応じて、異なる手法による自動変速を行う。
まず、副変速レバー26によって副変速は走行速が選択されている場合には、アクセルペダル22に基づく主変速機構50の変速制御であるアクセル変速を行う。このアクセル変速は、アクセルセンサ213で検出するアクセルペダル22の踏込み量と、車速センサ211で検出する車速と、エンジン回転数センサ212で検出するエンジン回転数とに応じて、主変速機構50の変速段を切り替える。つまり、アクセルペダル22の踏込み量と車速とエンジン回転数とに対応する主変速機構50の変速段が予め設定されてコントローラ200の記憶部に記憶されており、コントローラ200は、これらの検出結果に応じた変速段を導出し、主変速機構50の変速段を、導出した変速段に切り替える。
これに対し、主変速レバー25がATポジションに切り替えられ、副変速レバー26は作業速が選択されている場合には、主変速機構50の変速段を、作業速において最も多く使用された変速段に変速するメモリ変速を行う。このメモリ変速では、作業速で走行状態の実績に基づいて変速制御を行う。つまり、作業速で走行をする際には、主変速機構50の変速段ごとに使用時間をコントローラ200で記憶し、副変速レバー26が作業速で、且つ、主変速レバー25がATポジションに切り替えられた場合には、主変速機構50の変速段を、最も長時間使用された変速段に変速する。なお、このメモリ変速では、記憶する主変速機構50の変速段は、副変速の作業速における高速側と低速側ごとに記憶し、切り替えられている副変速の作業速に応じて、高速側と低速側ごとに、最も長時間使用された変速段に変速する。
次に、この自動変速による変速制御の判断を行う際の処理手順について説明する。図11は、実施形態に係るトラクタの変速制御の判断時の処理手順を示すフロー図である。自動変速による変速制御の判断を行う場合は、まず、センサやスイッチ類による信号をコントローラ200で取得し、センサ、スイッチ類の読み込み処理を行う(ステップST101)。次に、この読み込んだ情報に基づいて、主変速レバー25=ATポジションであるか否かをコントローラ200で判定する(ステップST102)。この判定により、主変速レバー25はATポジションではないと判断した場合(ステップST102、No判定)には、この処理手順から抜け出て、手動変速による変速制御を行う。
これに対し、主変速レバー25=ATポジションであると判定した場合(ステップST102、Yes判定)には、次に、副変速レバー26=走行速であるか否かをコントローラ200で判定する(ステップST103)。この判定により、副変速レバー26は走行速であると判断した場合(ステップST103、Yes判定)には、自動変速の制御は、アクセル変速制御によって行う(ステップST104)。これに対し、副変速レバー26は走行速ではないと判断した場合(ステップST103、No判定)には、自動変速の制御は、メモリ変速制御によって行う(ステップST105)。
自動変速制御は、これらのように副変速レバー26の状態によって、アクセル変速とメモリ変速とに切り替えられるが、アクセル変速やメモリ変速の制御時に、これらの制御を切り替える入力操作が行われた場合には、所定の条件を満たしてから、実際の制御を切り替える。例えば、アクセル変速制御を行っている場合に、自動変速から抜け出る入力操作が行われた場合には、車速が低下してから実際の制御を切り替える。
次に、アクセル変速制御の解除の判断を行う際における処理手順について説明する。図12は、アクセル変速制御を解除する際の判断時の処理手順を示すフロー図である。自動変速制御時には、随時センサやスイッチ類による信号をコントローラ200で取得するため、アクセル変速制御時も、随時センサ、スイッチ類の読み込み処理を行う(ステップST111)。次に、この読み込んだ情報に基づいて、主変速レバー25がATポジションから、それ以外へ操作が有るか否かを、コントローラ200で判定する(ステップST112)。この判定により、主変速レバー25は、ATポジションからそれ以外への操作はないと判断した場合(ステップST112、No判定)には、この処理手順から抜け出て、アクセル変速制御を継続する。
これに対し、主変速レバー25は、ATポジションからそれ以外への操作があったと判断した場合(ステップST112、Yes判定)には、次に、車速は所定の速度以下であるか否かを判定する(ステップST113)。この判定に用いる所定の速度は、アクセル変速制御の解除の判断時に用いる速度として予め設定され、コントローラ200の記憶部に記憶されている。コントローラ200は、このように記憶されている車速と、車速センサ211で検出した車速とを比較することにより、トラクタ1の現在の車速は、所定の速度以下であるか否かを判断する。この判定により、車速は所定の速度以下ではないと判定された場合(ステップST113、No判定)には、アクセル変速制御を継続する(ステップST114)。これに対し、車速は所定の速度以下であると判定された場合(ステップST113、Yes判定)には、アクセル変速制御を解除する(ステップST115)。
これにより、主変速レバー25がATポジションに位置することによりアクセル変速制御でトラクタ1が走行中に、主変速レバー25をATポジション以外に切り替えた場合には、トラクタ1の車速が所定の速度以下になるまで、アクセル変速を継続する。
次に、アクセル変速制御を開始する際における処理手順について説明する。図13は、アクセル変速制御を開始する際の処理手順を示すフロー図である。まず、自動変速制御を行っていない状態で、センサ、スイッチ類の読み込み処理を行い(ステップST201)、読み込んだ情報に基づいて、主変速レバー25がATポジション以外から、ATポジションへ操作が有るか否かを、コントローラ200で判定する(ステップST202)。この判定により、主変速レバー25は、ATポジション以外からATポジションへの操作はないと判断した場合(ステップST202、No判定)には、この処理手順から抜け出て、手動変速制御を継続するなど、自動変速制御以外の制御を継続する。
これに対し、主変速レバー25は、ATポジション以外からATポジションへ操作があったと判断した場合(ステップST202、Yes判定)には、次に、車速は所定の速度以上であるか否かを判定する(ステップST203)。この判定に用いる所定の速度は、アクセル変速制御の開始時の判断時に用いる速度として予め設定され、コントローラ200の記憶部に記憶されている。コントローラ200は、このように記憶されている車速と、車速センサ211で検出した車速とを比較することにより、トラクタ1の現在の車速は、所定の速度以上であるか否かを判断する。
この判定により、車速は所定の速度以上であると判定された場合(ステップST203、Yes判定)には、現在の主変速位置から、アクセル変速制御を継続する(ステップST204)。即ち、主変速機構50は、トラクタ1がアクセル変速制御で走行している以外の場合でも、走行時にはいずれかの変速段に切り替えられているため、この場合は、主変速機構50を、トラクタ1の発進時における変速段には変速せず、現在の変速段からアクセル変速制御を開始する。
これに対し、車速は所定の速度以上ではない判定された場合(ステップST203、No判定)には、発進変速位置へ主変速を変速する(ステップST205)。つまり、トラクタ1が停止しているか、極低速で走行をしている場合には、主変速機構50を、トラクタ1の発進時における変速段に変速してからアクセル変速制御を開始する。
また、本実施形態に係るトラクタ1は、変速装置40への変速指示は、主変速レバー25等の操作に応じた電気信号がコントローラ200に伝達されることにより行われるが、この信号が適切に伝達されない場合、変速制御を適切に行えなくなる場合がある。このため、本実施形態に係るトラクタ1では、不具合の発生を考慮した制御も行う。
図14は、主変速レバーの不具合の発生に対する処理手順を示すフロー図である。まず、他の制御時と同様に、センサ、スイッチ類の読み込み処理を行い(ステップST301)、読み込んだ情報に基づいて、主変速レバー25は断線しているか否かを判定する(ステップST302)。具体的には、主変速レバー位置センサ210からの信号をコントローラ200で検出できるか否かを判断し、適切に検出することができない場合は、主変速レバー25は断線していると判定する。この判定により、主変速レバー25は断線していないと判定した場合(ステップST302、No判定)には、通常の処理手順で変速制御を行う。
これに対し、主変速レバー25は断線していると判定した場合(ステップST302、Yes判定)には、主変速位置判定=1速として扱う(ステップST303)。つまり、主変速レバー25は断線していると判定し、主変速レバー25の状態を検出することができない場合は、主変速機構50は1速に切り替える。これにより、エンジン8から後輪5への動力の伝達経路を確保し、走行可能な状態を確保する。
これらのようにトラクタ1を運転する際には、メータパネル31で各種の情報を表示し、運転者は、この情報を視認しながら運転する。また、運転者に緊急に伝達する必要がある情報がある場合には、その情報をデータ表示部35で割り込み表示をする。また、データ表示部35で割り込み表示をする情報が複数ある場合には、危険度や重要度に応じて、割り込み方を異ならせる。
図15−1〜図15−6は、データ表示部で表示する割込表示の一例を示す説明図である。データ表示部35で割り込み表示をする情報としては、トラクタ1を走行させることができなくなる情報等があり、この場合、データ表示部35に割込表示38を行う。例えば、図15−1に示すように、エンジンオイルの圧力が低下した場合や、図15−2に示すように、冷却水が高くなることによりオーバーヒートの可能性がある場合、さらに、図15−3に示すように、バッテリ(図示省略)の充電量が少なくなったりした場合等には、データ表示部35の通常の表示に重ねて、通常の表示を覆うように割込表示38を行う。この場合において、割込表示38をする必要がある情報が複数ある場合には、危険度が高い情報を表示する。また、このように割込表示38をする場合には、同時にブザーを吹鳴する。
また、トラクタ1を走行させることができなくなる可能性はないが、トラクタ1の走行に支障がある情報がある場合も、割込表示38を行う。例えば、図15−4に示すように、左右のブレーキを独立して作動させる必要がない状態で、左右で独立して制動を行っている場合や、図15−5に示すように、パーキングレバー(図示省略)を使用した状態で走行したり、図15−6に示すように、クラッチペダル20に足を乗せて、メインクラッチ41が半係合の状態で走行したりしている場合にも、割込表示38を行う。この場合における割込表示38は、緊急性は低いため、トラクタ1を走行させることができなくなる情報と比較して、優先度を低くして割り込み表示を行い、ブザーは吹鳴しないか、吹鳴するとしても、時間を短くする。
また、データ表示部35には、メモリ変速制御時に変速をする変速段、即ち、作業速で最も長時間使用された変速段を表示する。また、PTO軸への出力も、PTO変速装置162で変速することができるが、このPTO変速装置162において、最も長く使用された変速段も、データ表示部35で表示する。また、コントローラ200は、トラクタ1の運転時の作業内容と、作業時の副変速、主変速、PTO変速装置162の変速段を記憶することができ、データ表示部35は、その記憶している情報を表示するか非表示にするかを選択することが可能になっている。
また、データ表示部35は、キースイッチをOFFにした時に表示する表示画面を、エンジン8を始動して連続して動いた時間に応じて、表示内容を異ならせる。例えば、トラクタ1の連続作業時間が1時間未満の場合には、通常の終了時のデモ画面を表示し、連続作業時間が1時間以上の場合には、「お疲れ様でした」等のメッセージを表示する。
以上の本実施形態に係るトラクタ1は、アクセル変速制御による走行中に、主変速レバー25をATポジションからそれ以外の位置に操作した場合には、車速が低下して所定の車速に到達してから、アクセル変速制御を解除して手動変速に切り替えている。これにより、急減速等の車速の急激な変化を抑制することができる。この結果、自動変速から手動変速への移行を円滑に行うことができる。
また、主変速レバー25をATポジション以外からATポジションに操作した場合には、主変速レバー25の位置の変更時における主変速機構50の変速段からアクセル変速制御を行うため、トラクタ1を停止させることなく、手動変速から自動変速に移行することができる。この結果、使い勝手を向上させることができる。
また、主変速レバー25の断線時は、主変速機構50の変速段は1速が選択されているものとして扱うので、トラクタ1が走行不可能になることを防止することができ、安全性を向上させることができる。
なお、上述したトラクタ1では、主変速レバー25をATポジションからそれ以外の位置に操作した場合には、車速が所定の車速以下になってからアクセル変速制御を解除しているが、アクセル変速制御の解除の条件は、車速以外を用いてもよい。図16は、実施形態に係るトラクタの変形例における制御手順を示すフロー図である。例えば、図16に示すように、主変速レバー25は、ATポジションからそれ以外への操作があったと判定された場合(ステップST112、Yes判定)には、次に、前後進切替レバー24の中立操作があったか否か(ステップST116)を、アクセル変速制御の解除の条件にしてもよい。この条件を用いる場合は、前後進切替レバー24の中立操作はないと判定された場合(ステップST116、No判定)には、アクセル変速制御を継続し、前後進切替レバー24の中立操作は有ると判定された場合(ステップST116、Yes判定)には、アクセル変速制御を解除する。これにより、自動変速から手動変速に移行した際に、急激に変速段が切り替わることにより、車速が急激に変化することを抑制することができる。この結果、自動変速から手動変速への移行を円滑に行うことができる。
図17は、実施形態に係るトラクタの変形例における制御手順を示すフロー図である。図18は、クラッチペダルの動作の説明図である。アクセル変速制御の解除の条件は、車速以外の条件を追加してもよく、例えば、図17に示すように、クラッチペダル20の状態を追加してもよい。即ち、クラッチペダル20は、足で踏み込まずに開放している場合にのみ、メインクラッチ41を係合させてエンジン8の動力を後輪5側に伝達し、クラッチペダル20を踏込んでいる場合には、メインクラッチ41を開放させて、エンジン8から後輪5側への動力の伝達を遮断している。アクセル変速制御の解除の条件としては、このクラッチペダル20の踏込み操作を用いてもよい。
つまり、主変速レバー25は、ATポジションからそれ以外への操作があったと判定された場合(ステップST112、Yes判定)には、次に、クラッチペダル20は踏込み操作が有るか否かを判定する(ステップST117)。この判定により、クラッチペダル20の踏込み操作はないと判定された場合(ステップST117、No判定)には、アクセル変速制御を継続する。これに対し、クラッチペダル20の踏込み操作は有ると判定された場合(ステップST117、Yes判定)には、車速は所定の速度以下であるか否かを判定して(ステップST113)、アクセル変速制御の継続(ステップST114)と、アクセル変速制御を解除(ステップST115)とを切り替える。
さらに、アクセル変速制御を解除(ステップST115)する際には、主変速レバー25の指示位置への主変速出力を行う(ステップST118)。即ち、主変速レバー25で手動変速を行う。このように、クラッチペダル20の踏込み操作を条件に追加することにより、クラッチペダル20が踏込まれて車速が低下してからアクセル変速制御を解除するため、自動変速から手動変速に移行した際に、車速が急激に変化することを抑制することができる。この結果、自動変速から手動変速への移行を円滑に行うことができる。
特に、メモリ変速では、速度に関わらず変速段が決められるため、メモリ変速を行う状態になっている場合に、主変速レバー25を自動変速から手動変速に変更した場合には、クラッチペダル20を踏み込むまでは、手動変速に変更しないことにより、車速の急激な変化を、より確実に防止することができる。
図19は、実施形態に係るトラクタの変形例における制御手順を示すフロー図である。また、アクセル変速制御を解除する際には、主変速機構50を段階的に変速してもよい。つまり、主変速レバー25は、ATポジションからそれ以外への操作があったと判定され(ステップST112、Yes判定)、車速は所定の速度以下であると判定された場合(ステップST113、Yes判定)には、段階的に主変速を変速する(ステップST120)。これに対し、車速は所定の速度以下ではないと判定された場合(ステップST113、No判定)には、主変速をレバー指示位置へ出力する(ステップST119)。これにより、アクセル変速から手動変速への移行時に、主変速機構50の変速段が徐々に切り替わるので、自動変速から手動変速への移行を、より円滑に行うことができる。
図20は、実施形態に係るトラクタの変形例における制御手順を示すフロー図である。また、アクセル変速制御の解除の条件に車速以外の条件を追加する場合には、図20に示すように、前後進切替レバー24の中立操作が有るか否かの判定(ステップST121)を用いてもよい。この場合、前後進切替レバー24の中立操作はないと判定した場合(ステップST121、No判定)には、アクセル変速制御を継続し、前後進切替レバー24の中立操作は有ると判定した場合(ステップST121、Yes判定)には、車速が所定の速度以下であるか否かに応じて、アクセル変速制御を継続するか否かを決定する(ステップST113〜ST115)。この場合も、前後進切替レバー24が中立になって、車速が低下してからアクセル変速制御を解除するため、自動変速から手動変速に移行した際に、車速が急激に変化することを抑制することができ、自動変速から手動変速への移行を円滑に行うことができる。
また、メモリ変速制御を行って走行している場合に、主変速レバー25をATポジション以外の位置に操作した場合には、車速が所定の車速以下になるまで、またはトラクタ1が停止するまで、主変速レバー25で指示した変速位置には変更しないようにするのが好ましい。図21は、実施形態に係るトラクタの変形例における制御手順を示すフロー図である。つまり、メモリ変速制御を行って走行している最中に、主変速レバー25は、ATポジションからそれ以外への操作があったと判定され(ステップST112、Yes判定)、車速は所定の速度以下ではないと判定された場合(ステップST113、No判定)には、主変速は、そのままの位置を出力する(ステップST122)。これにより、メモリ変速から手動変速に切り替えられた場合でも、トラクタ1が停止しているか、または車速が極低速になるまでは、主変速機構50の変速は行わない。
一方、車速は所定の速度以下であると判定された場合(ステップST113、Yes判定)には、主変速をレバー指示位置へ出力する(ステップST119)。これにより、メモリ変速から手動変速への移行する際に、トラクタ1が停車するか、極低速になってから手動変速の変速段に切り替わるので、車速が急激に変化することを防止することができ、安全性の向上を図ることができる。
図22、図23は、実施形態に係るトラクタの変形例における制御手順を示すフロー図である。同様に、メモリ変速制御を行って走行している場合に、主変速レバー25をATポジション以外の位置に操作した場合には(ステップST112、Yes判定)、クラッチペダル20は踏込み操作が有るか否かの判定(図22、ステップST117)や、前後進切替レバー24の中立操作が有るか否かの判定(図23、ステップST121)を用いてもよい。これらを判定することによっても、トラクタ1の速度が低下したか否かを判定することができるので、メモリ変速から手動変速への移行時に、車速が急激に変化することを防止することができる。
また、主変速レバー25をATポジション以外からATポジションに操作した場合には、トラクタ1の車速が一定以下になるまで、メモリ変速を行わないようにするのが好ましい。図24は、実施形態に係るトラクタの変形例における制御手順を示すフロー図である。例えば、図24に示すように、主変速レバー25がATポジション以外から、ATポジションへの操作が有ると判定された場合(ステップST202、Yes判定)には、前後進切替レバー24の中立操作が有るか否かを判定する(ステップST206)。この判定により、前後進切替レバー24の中立操作は無いと判定された場合(ステップST206、No判定)には、主変速は、そのままの位置を出力する(ステップST207)。
これに対し、前後進切替レバー24の中立操作が有ると判定された場合(ステップST206、Yes判定)には、主変速をメモリ変速位置へ出力する(ステップST208)。これにより、主変速レバー25をATポジション以外からATポジションに操作した場合には、車速が低下するまでメモリ変速を行わず、車速が低下してから、メモリ変速の変速段に切り替えるので、手動変速からメモリ変速に切り替える際に、車速が急激に変化することを防止できる。この結果、安全性を向上させることができる。
また、上述したトラクタ1では、自動変速時には、運転者の意思に関わらず、コントローラ200によって主変速を行うのみであるが、主変速を自動変速で行う場合における最高速度は、任意の速度で規制可能であることが好ましい。この場合における最高速度は、メータパネル31等に入力部を設置し、この入力部での入力操作によって設定する。これにより、自動変速時に運転者の意思に関わらず速度が高くなり過ぎることを防止でき、安全性の向上を図ることができる。
また、上述したトラクタ1では、メモリ変速は、作業速において最も多く使用された主変速機構50の変速段に変速するが、メモリ変速で用いる変速段は、任意で設定可能にしてもよい。例えば、副変速が高速以外の場合には、手動によって任意で設定したメモリ変速位置を用いて、メモリ変速を行ってもよい。これにより、自動変速時に任意の走行をすることができ、汎用性を向上させることができる。
また、上述したトラクタ1では、主変速を行う操作手段として主変速レバー25を用いているが、操作手段は主変速レバー25以外のものを用いてもよく、例えばスイッチを用いてもよい。また、上述したトラクタ1では、主変速機構50は、Hi−Lo変速装置60と主変速装置90とが組み合わされ、8速の変速段で構成されているが、主変速機構50は、これ以外の構成や変速段で設けられていてもよい。